(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記昇降圧チョッパの入力電流に関し、入力電流が0より大きい電流連続モードの場合のデューティ制御のフィードフォワード項として用いる第1の変数と、入力電流が0になることがある電流不連続モードの場合の前記フィードフォワード項として用いる第2の変数とを用意し、常時、2つの変数のいずれか小さい方を採用する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態の要旨]
本発明の実施形態の要旨としては、少なくとも以下のものが含まれる。
【0013】
(1)これは、太陽光発電パネルの出力を、2線の一方が正の電位、他方が負の電位であるDCバスに導く電力変換装置であって、前記太陽光発電パネルの出力2線をP線、N線とすると、前記N線が非接地で0又は正の電位であり、かつ、前記P線が前記N線より高電位な正の電位である状態で、入力電圧を受け取る入力端と、前記P線の側にスイッチング素子及びダイオードがあるように接続され、前記入力端における高電位側の電位を負の電位に変えて自己の出力側2線の一方の電位とし、当該出力側2線の他方の電位との間で所望の電圧を生成する昇降圧チョッパと、を備えている。
【0014】
このように構成された電力変換装置では、太陽光発電パネルから入力電圧を取り込む際、入力端において、N線が0又は正の電位であり、かつ、P線がN線より高電位な正の電位である。そして、昇降圧チョッパは、入力端における高電位側の電位を負の電位に変えて自己の出力側2線の一方の電位とし、当該出力側2線の他方の電位との間で所望の電圧を生成する。逆に言えば、このような電圧入出力のあり方を可能にする昇降圧チョッパの存在により、太陽光発電パネルのN線が負の電位にならないようにすることができる。これにより、既に現場に設置されている太陽光発電パネルにも有効なPID対策を提供することができる。もちろん、このようなPID対策は、新規に設置される太陽光発電パネルにも有効である。
【0015】
(2)また、(1)の電力変換装置において、前記昇降圧チョッパは、具体的には、両端に前記入力電圧が印加される第1コンデンサと、前記第1コンデンサの高電位側に一端が接続された前記スイッチング素子と、前記第1コンデンサの低電位側と前記スイッチング素子の他端との間に接続されたリアクトルと、前記リアクトルの一端と前記スイッチング素子との相互接続点に、カソードが接続された前記ダイオードと、前記リアクトルの他端と前記ダイオードのアノードとの間に接続され、両端に前記出力側2線の線間の電圧が現れる第2コンデンサと、前記スイッチング素子の制御を行う制御部と、を備えている。
このような昇降圧チョッパによれば、スイッチング素子のデューティ制御によりダイオードのアノード側の電位を出力の一方の負の電位にしつつ、他方との間で所望の電圧を生成することができる。第1コンデンサは、スイッチング動作により入力電流が不連続になることを防止する。
【0016】
(3)また、(2)の電力変換装置は、前記第1コンデンサの高電位側と前記P線との間、又は、前記第1コンデンサの低電位側と前記N線との間に流れる電流を検出する電流センサと、前記入力電圧を検出する電圧センサと、前記出力電圧を検出する電圧センサと、を備えていてもよい。
この場合、各センサの検出出力に基づいて、制御部は、スイッチング素子のデューティ制御を行うことができる。また、電流センサをこの位置に設けることで、電流連続モードのみならず、電流不連続モードでも、リアクトル電流ではなく入力電流を検出することができる。
【0017】
(4)また、(1)〜(3)のいずれかの電力変換装置において、前記昇降圧チョッパの入力電流に関し、入力電流が0より大きい電流連続モードの場合のデューティ制御のフィードフォワード項として用いる第1の変数と、入力電流が0になることがある電流不連続モードの場合の前記フィードフォワード項として用いる第2の変数とを用意し、常時、2つの変数のいずれか小さい方を採用するようにしてもよい。
この場合、太陽光発電パネルからの入力電流がどのように変化しても、昇降圧チョッパを制御することができる。
【0018】
(5)一方、太陽光発電装置としての観点からは、太陽光発電パネルと、前記太陽光発電パネルの出力2線をP線、N線とすると、前記N線が非接地で0又は正の電位であり、かつ、前記P線が前記N線より高電位な正の電位である状態で、入力電圧を受け取る入力端と、前記P線の側にスイッチング素子及びダイオードがあるように接続され、前記入力端における高電位側の電位を負の電位に変えて自己の出力側2線の一方の電位とし、当該出力側2線の他方の電位との間で所望の電圧を生成する昇降圧チョッパと、2線の一方が正の電位、他方が負の電位であり、前記昇降圧チョッパを介して、DCバス電圧を受けるDCバスと、を備えている。
【0019】
このように構成された太陽光発電装置では、太陽光発電パネルから入力電圧を取り込む際、入力端において、N線が0又は正の電位であり、かつ、P線がN線より高電位な正の電位である。そして、昇降圧チョッパは、入力端における高電位側の電位を負の電位に変えて自己の出力側2線の一方の電位とし、当該出力側2線の他方の電位との間で所望の電圧を生成する。逆に言えば、このような電圧入出力のあり方を可能にする昇降圧チョッパの存在により、太陽光発電パネルのN線が負の電位にならないようにすることができる。これにより、既に現場に設置されている太陽光発電パネルにも有効なPID対策を提供することができる。
【0020】
[実施形態の詳細]
以下、本発明の一実施形態に係る電力変換装置及びこれを含む太陽光発電装置について、図面を参照して説明する。
【0021】
《解決策への着眼》
PIDにより太陽光発電パネルが劣化しても、通常とは逆極性の対地電位をセルに加えた場合や、高温の環境に放置した場合に、劣化が回復したことがあるという報告もある。前述のように、カバーガラスの表面が濡れて接地された金属フレームと等電位となった状態でセルの電位が低下すると、Naイオンがセル内に拡散し、最終的にpn接合部を貫通した欠陥に入り込む、という発生メカニズムのとおりであれば、PIDはセルの対地電位の極性がマイナスで、かつ絶対値が最大となる電路近くのパネルで最も速く進行すると考えられる。
【0022】
一般に太陽光発電装置の直流電路は、その中性点の対地電位が0Vとなっている。例えばPN間に1000Vが印加されているメガソーラーのN線側セルの対地電位は−500Vとなる。単相200Vの低圧系統に連系された住宅用システムではパワーコンディショナでは昇圧チョッパと系統連系インバータを接続するDCバスの電圧が340Vとすると、N線側セルの対地電位は−170Vである。
【0023】
そこで、セルがガラスに対して負電位にならないように、直流電路のN線を接地することが考えられる。このN線接地は、パワーコンディショナの交流側に絶縁トランスを置いて、交流系統と絶縁しているメガソーラーや産業用システムについては、可能である。しかし、N線を接地すると、一般的に非接地直流電路に用いられる中性点を高抵抗で接地した地絡検出回路は使えなくなり、地絡検出が困難になる。また、住宅用のシステムではトランスレス型パワーコンディショナが主流であり、直流側の電路を接地すると商用電力系統の接地線を経由して地絡電流が流れるので、そもそもN線を接地することができない。
【0024】
そこで、太陽光発電パネルのN線を接地することなく、しかも、対地電位を0V又は正の電圧にしてPIDを防止する技術を以下に説明する。N線を接地しないのであれば、N線の正の電位をもたせることで、直流側の地絡検出も可能である。
【0025】
《電力変換装置及び太陽光発電装置の例示:第1例》
図1は、非絶縁型の電力変換装置(以下、電力変換装置をパワーコンディショナとも言う。)2を、太陽光発電パネル1に接続した太陽光発電装置100の一例を示す回路図である。この例は、昇圧チョッパ23と単相フルブリッジの系統連系インバータ24で構成される一般的なトランスレス型パワーコンディショナの基本構成における直流入力側に、昇降圧チョッパ22を追加したものである。このようなパワーコンディショナ2は、中性相を接地した単相3線式低圧配電線路に系統連系する住宅用の太陽光発電システムに用いることができる。
【0026】
すなわち、
図1において、パワーコンディショナ2は、太陽光発電パネル1から直流出力を受ける。パワーコンディショナ2の入力端21は、太陽光発電パネル1の出力2線をP線、N線とすると、N線が非接地で0又は正の電位であり、かつ、P線がN線より高電位な正の電位である状態で、入力電圧を受け取る。
【0027】
パワーコンディショナ2は、直流入力側から順に、昇降圧チョッパ22、昇圧チョッパ23、系統連系インバータ24と、コンデンサC5,C6と、ZCT(Zero-phase Current Transformer)26と、制御部27とを備えている。制御部27は例えば、コンピュータを含み、ソフトウェア(コンピュータプログラム)をコンピュータが実行することで、必要な制御機能を実現する。ソフトウェアは、制御部の記憶装置(図示せず。)に格納される。
【0028】
昇降圧チョッパ22は、両端に入力電圧が印加される第1コンデンサC1と、第1コンデンサの高電位側に一端が接続されたスイッチング素子Qxと、第1コンデンサC1の低電位側とスイッチング素子Qxの他端との間に接続された直流リアクトルLxと、リアクトルLxの一端とスイッチング素子Qxとの相互接続点に、カソードが接続されたダイオードDxと、リアクトルLxの他端とダイオードDxのアノードとの間に接続され、両端に出力電圧が現れる第2コンデンサC2と、を備えている。また、スイッチング素子Qxの制御を行う制御部27も、昇降圧チョッパ22の一部である。
【0029】
このような昇降圧チョッパ22によれば、スイッチング素子Qxのデューティ制御によりダイオードDxのアノード側の電位を出力の一方の負の電位にしつつ、他方との間で所望の電圧(この例では第2コンデンサC2の両端電圧)を生成することができる。第1コンデンサC1は、スイッチング素子Qxのスイッチング動作により入力電流が不連続になることを防止している。
【0030】
なお、スイッチング素子Qxとしては、ここでは逆並列ダイオードを有するIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いているが、その他の電力用半導体(例えばMOS−FET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)であってもよい(以下同様。)。また、素子としては、例えば、SiC素子又はGaN素子が、スイッチング性能や耐圧の面で好適である。
【0031】
昇圧チョッパ23は、直流リアクトルLyと、スイッチング素子Qyと、ダイオードDyとを備えている。昇圧チョッパ23の出力側のDCバス25の2線間には、平滑用の中間コンデンサC3が接続されている。さらに、DCバス25には、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4による単相フルブリッジ回路、交流リアクトルL3、交流側コンデンサC4を有する系統連系インバータ24が接続されている。昇圧チョッパ23のスイッチング素子Qy及び、系統連系インバータ24のスイッチング素子Q1〜Q4は、制御部27により制御される。
【0032】
交流側コンデンサC4の両端には、コンデンサC5,C6の直列体が接続されている。この直列体の両端は、中性相が接地された単相3線式のトランス3のU相、W相に接続され、直列体の相互接続点が、接地されたO相に接続されている。パワーコンディショナ2は、トランス3を介して、商用電力系統4と接続されている。ZCT26は、地絡発生時に生じる零相電流を検出することができる。
【0033】
このパワーコンディショナ2において注目すべきは、昇降圧チョッパ22の存在であり、また、昇降圧チョッパ22の対地高電位側の電路が太陽光発電パネルのN線の電位となることである。昇降圧チョッパ22は入力電圧を自在に変換させることができるほか、入力電圧に対する出力電圧の極性を反転させる。例えば太陽光発電パネル1のP線の電位が+170Vで、N線が0Vであるとすると、昇降圧チョッパが例えば昇圧比1でDC/DC変換を行うと、第2コンデンサC2の図の上側の電路は0V、下側の電路は−170Vとなる。
【0034】
昇圧チョッパ23は、スイッチング素子Qyのオン時間率(デューティ)によってN線の対地電位を自在に変化(但し0又は正の値)させることができる。例えばオン時間率を0.5とすれば、N線の対地電位はDCバス25の中性線(図示せず。)と一致するので概ね0Vとなる。すなわち、例えばDCバス電圧340Vの場合のDCバス25の2線の一方の対地電位は+170V、他方の対地電位は−170Vであり、その中間電位が0Vである。言い換えれば、接地によってN線の電位を0にするのではなく、制御によってN線を0Vにするのである。
【0035】
N線の対地電位を正バイアスにして、PIDが発現したパネルの回復を目指すのであれば、昇圧チョッパ23のオン時間率を0.5よりも小さくして、昇圧チョッパ23の入力電圧がDCバス電圧の1/2よりも大きくなるように前段の昇降圧チョッパ22のオン時間率を調整すればよい。
【0036】
系統連系インバータ24はDCバス25の線間電圧が常に一定になるように系統側に流す電流をフィードバック制御する。例えば、住宅用パワーコンディショナの場合には単相200Vの交流系統と連系するため、DCバス電圧は340Vに制御する。このとき、昇圧チョッパ23のオン時間率を0.5にすれば、昇圧チョッパ23の入力側電圧はDCバス電圧の1/2の170V、N線の対地電位は0Vに固定される。オン時間率を0.2にすれば、入力側電圧は272V、N線の対地電位は+102Vに固定される。
【0037】
昇圧チョッパ23のオン時間率を固定したときには、太陽光発電パネルの出力を最大化するMPPT(Maximum Power Point Tracking)は、昇降圧チョッパ22のオン時間率を山登り法で調整することによって行うことができる。昇降圧チョッパ22のオン時間率を固定するときには、逆に、昇圧チョッパ23でMPPTを行う。
【0038】
太陽光発電パネル1のMPP(Maximum Power Point)電圧が300Vのときに、入力電圧と出力電圧が等しくなるオン時間率0.5で昇降圧チョッパ22のスイッチングを固定したときには、昇圧チョッパ23のオン時間率が0.117のときにDCバス電圧は340Vとなる。このとき、N線の対地電位は+130Vである。同じく太陽光発電パネル1のMPP電圧が300Vのときに、N線の対地電位を0Vに固定するのであれば、昇降圧チョッパ22のオン時間率を0.362にする。このとき、昇圧チョッパ23の入力電圧はDCバス電圧の1/2の170Vとなるので、N線の対地電位は0Vとなる。
【0039】
直流電路の地絡は交流出力側の零相電流によってZCT26により、検出することができる。但し、N線の対地電位を0Vにして運用すると、N線が地絡してもこれを検出することはできない。地絡を検出するにはN線の対地電位の絶対値が一定値以上になるように設定しなければならない。例えば、零相電流の検出閾値を10mAとして、絶縁抵抗が10kΩ以下の地絡を検出するのであれば、N線の対地電位の絶対値は100V以上でなければならない。
【0040】
このように、
図1のパワーコンディショナは昇降圧チョッパ22又は昇圧チョッパ23のオン時間率を調整することによって、N線の対地電位を任意の値に設定することができる。従って、N線を接地することなく対地電位を0Vからプラス側に設定することによってPIDの発生を防止することができる。N線対地電位の絶対値を一定値以上にすれば、N線を含めた直流地絡も検出することができる。
【0041】
《電力変換装置及び太陽光発電装置の例示:第2例》
図2は、低周波絶縁型のパワーコンディショナ2を、太陽光発電パネル1に接続した太陽光発電装置100の一例を示す回路図である。この例では三相の商用電力系統4に接続する電力変換装置2を示している。このような電力変換装置2及び太陽光発電装置100は、いわゆるメガソーラーその他の、産業用太陽光発電システムに用いることができる。
【0042】
図2において、太陽光発電パネル1から、入力端21、昇降圧チョッパ22、昇圧チョッパ23、DCバス25の2線間に接続された中間コンデンサC3までの構成は
図1と同様である。中間コンデンサC3から右側の回路構成は
図1とは異なる。
【0043】
まず、DCバス25の2線間には、地絡検出回路28が設けられている。地絡検出回路28は、DCバス25の2線間に接続される抵抗R1,R2の直列体と、その直列体の相互接続点を接地する接地抵抗Rgとによって構成されている。
また、DCバス25には、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6による三相フルブリッジ回路が設けられ、その三相交流出力は、三相分の交流リアクトルL3を介して、低周波(商用周波)用の絶縁トランス29に接続される。この絶縁トランス29を介して、パワーコンディショナ2は、三相の商用電力系統4に接続されている。制御部27は、スイッチング素子Qx,Qyの他、Q1〜Q6も制御する。
【0044】
図2の場合、系統連系インバータ24から見て絶縁トランス29の1次側は非接地である。そのため、DCバス25の中性点(抵抗R1,R2の相互接続点)を高抵抗接地した回路で直流地絡を検出する。N線側の直流地絡を検出するには、N線対地電位の絶対値を一定値以上としなければならないのは、非絶縁型と同じである。
【0045】
以上に述べたパワーコンディショナ2(
図1,
図2)は、通常の低周波絶縁型パワーコンディショナと比べると、昇降圧チョッパ22を設けることにより部品数が増え、また、効率の低下も懸念される。そこで、DC/DC変換回路数を減らす観点から、その他の例について説明する。
【0046】
《電力変換装置及び太陽光発電装置の例示:第3例》
図3は、
図1から昇圧チョッパ23を除いたパワーコンディショナ2及び、これを用いた太陽光発電装置100を示す回路図である。
図1の中間コンデンサC3の役目は、
図3では第2コンデンサC2が行う。
このパワーコンディショナ2では、太陽光発電パネル1のN線の電位がDCバス25の高電圧側(上側)と同じになる。従って、DCバス25の線間電圧が340V(上側:+170V、下側:−170V)のときには、N線の対地電位は+170Vとなる。このとき、太陽光発電パネル1の発電電圧が300Vであれば、P線の対地電位は+470Vである。
【0047】
《電力変換装置及び太陽光発電装置の例示:第4例》
図4は、
図2から昇圧チョッパ23を除いたパワーコンディショナ2及び、これを用いた太陽光発電装置100を示す回路図である。
図2の中間コンデンサC3の役目は、
図4では第2コンデンサC2が行う。
このパワーコンディショナ2は太陽光発電パネル1のN線の電位がDCバス25の高電圧側(上側)と同じになる。
【0048】
図4では、昇降圧チョッパ22を用いているため、太陽光発電パネル1の発電電圧が高いときでもDCバス25の電圧を系統連系インバータ24の効率が最も高くなる最適値に昇圧又は降圧することができる。例えば、太陽光発電パネル1の電圧が800Vのときには、昇降圧チョッパ22のオン時間率を0.298にすればDCバス電圧は340Vとなり、系統連系インバータ24が交流200Vを出力するのに最適な電圧となる。このとき、N線の対地電位は+170V、P線の対地電位は+970Vとなる。
【0049】
また、系統連系インバータ24が交流400Vを出力する場合には、昇降圧チョッパ22のオン時間率が0.459のときに、DCバス電圧は最適値680Vとなる。但し、このときN線の対地電位は+340V、P線の対地電位は+1140Vとなり、1000Vを超えてしまう。そこで地絡検出回路28の高抵抗分圧比を変えて、接地をDCバス25の中性点から高電位側に移動する。例えば、分圧比を1:3にすれば、DCバス25の高電位側、すなわち太陽光発電パネル1のN線の対地電位は+170V、P線の対地電位は+970Vとなり、1000V以内に収めることができる。
【0050】
《各例のまとめ》
以上の各例で述べたパワーコンディショナ(電力変換装置)2の特徴的部分についてまとめると、まず、これは、太陽光発電パネル1の出力を、2線の一方が正の電位、他方が負の電位であるDCバス25に導く電力変換装置2である。電力変換装置2は、太陽光発電パネル1のN線が非接地で0又は正の電位であり、かつ、P線がN線より高電位な正の電位である状態で、入力電圧を受け取る入力端21を有している。また、電力変換装置2の昇降圧チョッパ22は、P線の側にスイッチング素子Qx及びダイオードDxがあるように接続され、入力端21における高電位側の電位を負の電位に変えて自己の出力側2線の一方の電位とし、当該出力側2線の他方の電位との間で所望の電圧を生成する。
【0051】
また、以上の各例は、太陽光発電装置100でもあり、その特徴的部分についてまとめると、太陽光発電装置100は、太陽光発電パネル1と、電力変換装置2とによって構成されている。電力変換装置2は、N線が非接地で0又は正の電位であり、かつ、P線がN線より高電位な正の電位である状態で、入力電圧を受け取る入力端21と、P線の側にスイッチング素子Qx及びダイオードDxがあるように接続され、入力端21における高電位側の電位を負の電位に変えて自己の出力側2線の一方の電位とし、当該出力側2線の他方の電位との間で所望の電圧を生成する昇降圧チョッパ22と、2線の一方が正の電位、他方が負の電位であり、昇降圧チョッパ22を介して、DCバス電圧を受けるDCバス25と、を備えている。
【0052】
このように構成された電力変換装置2又はこれを含む太陽光発電装置100では、太陽光発電パネル1から入力電圧を取り込む際、入力端21において、N線が0又は正の電位であり、かつ、P線がN線より高電位な正の電位である。そして、昇降圧チョッパ22は、入力端21における高電位側の電位を負の電位に変えて自己の出力側2線の一方の電位とし、当該出力側2線の他方の電位との間で所望の電圧を生成する。逆に言えば、このような電圧入出力のあり方を可能にする昇降圧チョッパ22の存在により、太陽光発電パネル1のN線が負の電位にならないようにすることができる。これにより、既に現場に設置されている太陽光発電パネル1にも有効なPID対策を提供することができる。
【0053】
《昇降圧チョッパの制御の概要》
次に、昇降圧チョッパ22の制御に関してさらに説明する。
図1〜4において、相互に異なるのは昇降圧チョッパ22以外の部分であり、昇降圧チョッパ22自体は同じ構成である。
なお、系統連系インバータ24の制御に関しては既知であり、ここでは詳細な説明は省略する。
【0054】
図5は、例えば
図3の回路における昇降圧チョッパ22の制御に関する計測要素を追記した図である。但し、系統連系インバータ24より交流側の回路は図示を省略している。なお、太陽光発電パネル1の表記は、
図1〜4と比べると、極性が上下逆になっており、従って、パワーコンディショナ2内部で直流2線が、上下入れ替わる。但し、実質的な回路としては同じである。
【0055】
図5において、電圧センサ2v1は、第1コンデンサC1の両端電圧すなわち、昇降圧チョッパ22への入力電圧を検出してその検出出力を制御部27に送る。電圧センサ2v2は、第2コンデンサC2の両端電圧すなわち昇降圧チョッパ22の出力電圧であり、かつ、DCバス25の2線間電圧を検出してその検出出力を制御部27に送る。また、電流センサ2aは、第1コンデンサC1の低電位側(図の下側)と、N線との間に流れる電流を検出し、その検出出力を制御部27に送る。制御部27は、各センサの検出出力に基づいて、スイッチング素子Qxのデューティ制御を行うことができる。なお、電流センサ2aは、第1コンデンサC1の高電位側(図の上側)と、P線との間に流れる電流を検出するように設けることもできるが、ノイズの影響を受けにくいという点ではN線側に設ける方が、より好ましい。
【0056】
なお、昇降圧チョッパ22の性質として、流れる電流が相対的に大電流(高出力)である場合と小電流(低出力)である場合とを考えると、大電流の場合は、スイッチング素子Qxのオン・オフに伴う脈動があっても電流値は0にならない電流連続モードとなる。これに対し、小電流の場合は、脈動によって電流が周期的に0になる電流不連続モードが存在する。
【0057】
電流センサ2aを
図5の位置に設けることで、電流連続モードのみならず、電流不連続モードでも、リアクトル電流ではなく入力電流を検出することができる。すなわち、昇降圧チョッパ22のフィードバック制御に用いる電流センサ2aはリアクトル電流ではなく、第1コンデンサC1と太陽光発電パネル1のN線との間に流れる入力電流を直接検出する位置に配置されている。これにより、昇降圧チョッパ22の動作が電流不連続モードとなる低出力での制御が簡単になる。リアクトル電流を検出する場合、電流不連続モードでは正しい平均電流を検出するのが難しいが、太陽光発電パネル1からの入力電流であれば昇降圧チョッパ22が電流不連続モードで動作している状態でも概ね直流に平滑化されるため問題はない。
【0058】
《電流連続モードでの昇降圧チョッパの制御》
昇降圧チョッパ22の制御は、小電流の場合の電流不連続モードにも対応する必要があるが、まず簡単な理論で制御設計が可能な電流連続モードについて考える。
【0059】
図6は、電流連続モードにおける昇降圧チョッパ22の制御ブロック図である。図において、直流入力電流の指令値Ig
*(B1)は、本来はMPPTで決定するが、ここでは最適動作電流に固定した値を用いるものとする。直流入力電流の検出値Ig(B2)は、指令値Ig
*(B1)と比較され(B3)、その比例積分制御(B4)にフィードフォワード項(B5)を加算して(B6)、リミッタを通し(B7)、参照波Vref_ddを得る(B8)。
【0060】
ここで、フィードフォワード項は電流連続モードにおいて成立する昇降圧チョッパ22のオン時間率Dである。オン時間率Dは、入力電圧をVi、出力電圧をVoとすると、
V
o=V
i・{D/(1−D)}
である。これをDについて解くと、
D=V
o/(V
i+V
o)
=(V
o/V
i)/{1+(V
o/V
i)} ・・・(1)
となる。なお、V
o,V
iとしては、一定期間の平均値を用いることができる。
【0061】
図7は、電流連続モードにおける昇降圧チョッパ22の動作を示す波形図である。入力電流指令値は16.37A、直流リアクトルLxのインダクタンスは500μH、スイッチング周波数は20kHzである。図において、(a)はパワーコンディショナ2からの交流出力電流、(b)は上の帯状に見える部分がリアクトル電流(直流リアクトルLxに流れる電流)、下の細い線は直流入力電流である。(c)は電圧の高い方から(上から)順に、DCバス電圧、昇降圧チョッパ22への直流入力電圧、及び、太陽光発電パネル1のN線の対地電位である。(d)は、太陽光発電パネル1から出力されている電力である。
【0062】
図8は、同様に、電流連続モードにおける昇降圧チョッパ22の動作を示す波形図である。
図8の(a)〜(d)はそれぞれ、
図7の(a)〜(d)に対応し、
図7よりも横軸の時間が短い時間(すなわち、時間軸を拡大した図)になっている。
図8の(e)は、昇降圧チョッパ22のゲート駆動パルスである。
【0063】
図7,
図8において、直流入力電流、直流入力電圧、DCバス電圧の平均値はそれぞれ、16.44A、245.9V、339.9Vであり、目標値と一致していると言える値である。太陽光発電パネル1のN線の対地電位は+170Vである。太陽光発電パネル1の出力電力の平均値は4043Wで、最適値と一致している。昇降圧チョッパ22の直流リアクトルLxに流れる電流は、最大値35.9A、リプル振幅20.1Aとなった。チョッパの入出力電圧比は、1.38(=339.9/245.9)である。
【0064】
通常のパワーコンディショナに用いる昇圧チョッパであればリアクトル電流の平均値と直流入力電流とは互いに一致するが、昇降圧チョッパではリアクトル電流の平均値にオン時間率を乗じた値が直流入力電流となる。このため、リアクトル電流の平均値は入力電流指令値の約1.7倍の28.2Aとなっている。さらに、オン時間率も昇圧チョッパであれば0.276だが、昇降圧チョッパではその2倍強の0.580となるためリプルの振幅も大きい。このためリアクトル電流のピーク値は大きくなってしまう。
【0065】
昇降圧チョッパに用いるパワートランジスタ、パワーダイオードはこのピーク電流に耐えるものでなければならない。また、トランジスタ、ダイオードのオフ期間には入力電圧とDCバス電圧を合わせた電圧が加わる。このシミュレーションの条件では最大約600Vとなったが、更にサージ電圧が加算されることを考慮するとトランジスタ、ダイオードの耐圧は1200V程度のものを選択しなければならない。
【0066】
リプルの振幅はリアクトルのインダクタンスを大きくすれば小さくできるが、リアクトルの巻き数を増やさなければならないため大きくなる。コストを下げるため、むしろインダクタンス値は小さくしたいので、昇降圧チョッパのスイッチング周波数を20kHzから50kHzに上げ、リアクトルのインダクタンスは200μHに下げた。この場合の動作波形を
図9,
図10に示す。
【0067】
図9,
図10は、それぞれ、
図7,
図8に対応する図であるが、直流リアクトルLxのインダクタンスを200μH、スイッチング周波数を50kHzとした場合の波形図である。直流リアクトルの波形に関しては
図7,
図8とほぼ同じである。同様に、スイッチング周波数を100kHzにすれば直流リアクトルのインダクタンスは100μHにまで下げることができる。耐圧1200Vで、この様な高周波スイッチングが可能なデバイスとしては、SiC−MOSFETが有望である。さらに、スイッチング素子QxだけでなくダイオードDxをSiC−MOSFETに置き換えれば、環流期間の導通損失を低減することができる。
【0068】
電流連続モードではトランジスタのターンオン時にダイオードの逆回復が起こるが、臨界モードあるいは不連続モードでは、トランジスタのターンオン時にはダイオードには電流は流れていないので逆回復は起こらない。
【0069】
《電流不連続モードでの昇降圧チョッパの制御》
太陽光発電パネル1からの入力電力が小さいときには、昇降圧チョッパ22は電流不連続モードとなる。このとき、
図6に示した昇降圧チョッパ22の制御で、Vref_ddの演算に含まれるフィードフォワード項は成立しない。確認のため本来は電流不連続モードとなるはずの低出力条件で
図6の制御を用いた場合の動作波形を計算した。
【0070】
図11,
図12は、電流不連続モードにおける昇降圧チョッパ22の動作を示す波形図である。直流リアクトルLxのインダクタンスは200μH、スイッチング周波数は50kHzである。また、太陽光発電パネルの短絡電流を2A、昇降圧チョッパの入力電流指令値を最適値の1.867Aとした場合の動作波形である。
図12の(b)に示すように、昇降圧チョッパ22のリアクトル電流は0Aで折り返しており、不連続モードではなく臨界モードで動作している。直流入力電流は2A、直流入力電圧は54.3Aであり、最適動作点を超えてほぼ短絡電流に近いところで制御が収束している。このため、入力電力は108Wで、本来の最適動作点で得られる461Wの2割ほどしか得られていない。
【0071】
次にフィードフォワード項の演算を置き換える。臨界モードと電流不連続モードでは以下の式(2)、式(3)が成立する。
V
i=L・f・I
peak/D ・・・(2)
I
g=D・I
peak/2 ・・・(3)
ここでL、f、I
peakはそれぞれ、昇降圧チョッパ22の直流リアクトルLxのインダクタンス、スイッチング周波数、リアクトル電流のピーク値である。これらから以下の式(4)が得られる。
【0072】
D=(2L・f・I
g/V
i)
1/2
=(2L・f・I
*g/<V
i>)
1/2 ・・・(4)
ここで、直流入力電流I
gは指令値I
g*で代用した。また、直流入力電圧V
iは一定時間で平均した平均値<V
i>に置き換えた。
【0073】
図13,
図14は、
図11,
図12と同様に、太陽光発電パネルの短絡電流を2A、昇降圧チョッパの電流指令値を最適値の1.867Aとして、但し、フィードフォワード項を式(4)に置き換えた場合の波形図である。直流リアクトルLxのインダクタンスは200μH、スイッチング周波数は50kHzである。昇降圧チョッパのリアクトル電流は
図14における(b)より明らかなように周期的に0になる不連続モードとなっている。直流入力電流は1.867Aで指令値と一致しており、入力電力は最適動作点の461Wとなった。
すなわち、昇降圧チョッパ22はフィードフォワード項を変更すれば不連続モードでも制御できることがわかる。
【0074】
《電流連続モード/電流不連続モードの選択》
さて、昇降圧チョッパ22はフィードフォワード項を変更すれば、連続モードでも不連続モードでも制御できることがわかったが、モードを選択する基準を決めなければならない。
【0075】
図15は、直流入力電流とオン時間率Dの、フィードフォワード項の関係を示すグラフである。電流連続モードではDは式(1)式によって決まるため、入出力電圧の比が一定であれば電流によらず一定となる。一方、電流不連続モードではリアクトルのインダクタンス、スイッチング周波数、入力電圧が一定であれば、式(4)より、オン時間率Dは直流入力電流の平方根に比例して変化する。
【0076】
図15では、直流入力電流が約4.1のときに連続モードのD(これをDcとする。)と不連続モードのD(これをDdとする。)が互いに一致しており、この点が臨界モードとなる。この点を境にしてDcとDdの大小関係が入れ替わるので、両方を計算して、いずれか小さい方を選択してフィードフォワード項に用いればよい。
そこで、臨界値4.1Aよりも少し小さい4.0Aと、少し大きい4.2Aで波形を確認した。
【0077】
図16は、入力電流指令値4.0Aの、いわば「ぎりぎり」電流不連続モードにおける昇降圧チョッパ22の動作を示す波形図である。直流リアクトルLxのインダクタンスは200μH、スイッチング周波数は50kHzである。図において、(a)はパワーコンディショナ2からの交流出力電流、(b)は帯状に見える部分がリアクトル電流、白抜きに見える細い線は直流入力電流である。(c)は電圧の高い方から(上から)順に、DCバス電圧、昇降圧チョッパ22への直流入力電圧、及び、太陽光発電パネル1のN線の対地電位である。(e)は、上がフィードフォワード項Dc、下がフィードフォワード項Ddである。
【0078】
図17は、
図16の時間軸を拡大した図である。
図16,
図17において、フィードフォワード項はDdの方がDcよりも小さく、電流不連続モード用のDdが選択される。リアクトル電流は僅かだが0Aの期間があり、電流不連続モードとなっている。入力電流は4.0Aで指令値と一致している。
【0079】
図18は、入力電流指令値4.2Aの、いわば「ぎりぎり」電流連続モードにおける昇降圧チョッパ22の動作を示す波形図である。直流リアクトルLxのインダクタンスは200μH、スイッチング周波数は50kHzである。図において、(a)はパワーコンディショナ2からの交流出力電流、(b)は帯状に見える部分がリアクトル電流、白抜きに見える細い線は直流入力電流である。(c)は電圧の高い方から(上から)順に、DCバス電圧、昇降圧チョッパ22への直流入力電圧、及び、太陽光発電パネル1のN線の対地電位である。(e)は、上がフィードフォワード項Dc、下がフィードフォワード項Ddである。
【0080】
図19は、
図18の時間軸を拡大した図である。
図18,
図19においては、DdよりもDcが小さく、電流連続モード用のDcが選択される。リアクトル電流の最低値は0.04Aで電流連続モードになっている。入力電流は4.2Aで指令値と一致している。
【0081】
以上のように、昇降圧チョッパ22の入力電流に関し、入力電流が0より大きい電流連続モードの場合のデューティ制御のフィードフォワード項として用いる第1の変数(Dc)と、入力電流が0になることがある電流不連続モードの場合のフィードフォワード項として用いる第2の変数(Dd)とを用意し、常時、2つの変数のいずれか小さい方を採用すればよい。
これによって、太陽光発電パネルからの入力電流がどのように変化しても、昇降圧チョッパ22を制御することができる。
【0082】
《補記》
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。