(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電圧指令生成手段で生成された、前記偏差に応じた電圧指令に、FFT(Fast Fourier Transform)解析により求めた同期パルス数およびパルス幅で決まる波形率を補正操作量として乗算し、補正後の電圧指令を生成して前記同期パルス幅変調信号生成手段に出力する同期パルス幅変調用電圧補正手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の回転機の制御装置。
前記電流位相指令出力手段は、前記トルク指令および回転機の回転速度から求められたd軸電流指令とq軸電流指令の比率から算出される電流位相指令を、トルク指令および回転機の回転速度に対応して格納した位相指令テーブルを備え、
前記位相指令テーブルを参照してトルク指令および回転機の回転速度に対応する電流位相指令を出力することを特徴とする請求項1又は2に記載の回転機の制御装置。
同期パルス幅変調用電圧補正手段が、前記電圧指令生成手段で生成された、前記偏差に応じた電圧指令に、FFT解析により求めた同期パルス数およびパルス幅で決まる波形率を補正操作量として乗算し、補正後の電圧指令を生成して前記同期パルス幅変調信号生成手段に出力する同期パルス幅変調用電圧補正ステップを備えたことを特徴とする請求項4に記載の回転機の制御方法。
前記電流位相指令出力ステップは、前記トルク指令および回転機の回転速度から求められたd軸電流指令とq軸電流指令の比率から算出される電流位相指令を、トルク指令および回転機の回転速度に対応して格納した位相指令テーブルを参照して、トルク指令および回転機の回転速度に対応する電流位相指令を出力することを特徴とする請求項4又は5に記載の回転機の制御方法。
【背景技術】
【0002】
インバータによって回転機、例えば交流電動機の印加電圧を制御する装置として、従来、特許文献1に記載の制御装置が提案されていた。この特許文献1には、インバータ14の入力電圧VH、電圧指令生成部240によって生成された電圧指令値Vd#,Vq#からFM=(Vd#
2+Vq#
2)
1/2/VHで示す変調率FMを求めて、変調率FMによって正弦波PWM制御、過変調PWM制御、または矩形波電圧制御に切り替えて制御を行うことが記載されている(特許文献1の段落0067〜0076)。
【0003】
変調領域毎の出力電圧波形を示す
図5(特許文献1の
図2)に示す線形領域(正弦波PWM制御)→過変調領域(過変調PWM制御)→1パルス領域(矩形波電圧制御)へ遷移するに従い、電圧制御を行うスイッチング動作の回数が減ることでインバータの出力電圧は正弦波からかけ離れ、実電流の高調波成分が多くなることが知られている。
【0004】
このため、従来の瞬時電流を用いた電流制御では、検出されたモータ電流から歪成分を除去するための電流フィルタによるフィルタ処理が実行されている(特許文献1の段落0083、0086〜0088)。
【0005】
しかし、このフィルタ処理は、モータ電流に重畳された高調波成分を除去できるが、制御モードの切替時や電流指令の急変時などのd,q軸の電流指令の変化が大きい時には実電流(検出電流)IdとIqと、電流指令値Idcom,Iqcomとの大小関係が逆転し、制御が発散し不安定になる(特許文献1の段落0099,0100)虞があった。
【0006】
そこで特許文献1では、以下の(1)〜(3)の対策を講じることで制御の不安定化を防止している。
【0007】
(1)電流フィルタ230によるフィルタ処理の時定数τcより大きな時定数τvを持つ電圧指令値Vd#,Vq#を平滑化するフィルタ処理を行う(特許文献1の段落0103〜0125)。
【0008】
(2)電圧指令値Vd#,Vq#の振幅|V|および電圧位相Vφを平滑化するフィルタ処理を行う(特許文献1の段落0127〜0137)。
【0009】
(3)モータ電圧方程式に基づくフィードフォワード制御による補正演算によって、電流指令値Idcom,Iqcomから電圧指令値Vd#,Vq#を算出する(特許文献1の段落0147〜0153)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載されるフィルタ処理や補正演算を用いる事による電流制御の応答性の遅れや複雑な制御ループによる処理速度の低下で、電流指令と実電流(電流検出)との間に誤差が生じ、制御しようとしている制御操作量が本来制御しなければならない真値とかけ離れる問題がある。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、電流変化中や高調波を含んでいる電流制御であっても、制御しようとしている制御操作量と本来制御しなければならない真値の誤差を抑制することができる回転機の制御装置、方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための請求項1に記載の回転機の制御装置は、直流電圧を交流電圧に変換するインバータによって回転機の印加電圧を制御する回転機の制御装置であって、
同期パルス幅変調による過変調制御時に、設定周期毎に前記回転機の磁極位置を検出して得た設定個数の磁極位相値と同期させて、前記インバータの3相交流電流を設定回数検出し、該検出された設定回数の3相交流電流値を前記設定個数の磁極位相値に基づいて3相/2相座標変換して設定個数のd軸電流値および設定個数のq軸電流値を得る多点電流サンプル取得手段と、
前記得られた設定個数のd軸電流値の加算平均値および設定個数のq軸電流値の加算平均値を求め、それら各加算平均値から電流検出実効値を演算する電流検出実効値演算手段と、
要求されたトルク指令と、前記回転機の磁極位置を検出した磁極位相値から算出した回転機の回転速度とに基づいて、電流指令実効値を演算する電流指令実効値演算手段と、
前記トルク指令および回転機の回転速度に対応する電流位相指令を出力する電流位相指令出力手段と、
前記電流検出実効値演算手段で演算された電流検出実効値と、前記電流指令実効値演算手段で演算された電流指令実効値との偏差に対して、PI(比例積分)制御を施して前記偏差に応じた電圧指令を生成する電圧指令生成手段と、
前記電圧指令生成手段で生成された電圧指令に基づくフーリエ級数展開式を演算してパルス列位相を求め、前記電圧指令と設定した同期パルス数からパルス列の幅を算出し、該パルス列の幅と前記パルス列位相から3相各相のパルス列の立上り位相、立下がり位相を決定し、これらのパルス列情報と前記電流位相指令出力手段から出力された電流位相指令に基づいて、3相の相電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*を生成する同期パルス幅変調信号生成手段と、を備え、
前記同期パルス幅変調信号生成手段で生成された3相の相電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*によって前記インバータのスイッチング素子をオン、オフ制御することを特徴としている。
【0014】
請求項2に記載の回転機の制御装置は、請求項1において、
前記電圧指令生成手段で生成された、前記偏差に応じた電圧指令に、FFT(Fast Fourier Transform)解析により求めた同期パルス数およびパルス幅で決まる波形率を補正操作量として乗算し、補正後の電圧指令を生成して前記同期パルス幅変調信号生成手段に出力する同期パルス幅変調用電圧補正手段を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の回転機の制御装置は、請求項1又は2において、前記電流位相指令出力手段は、前記トルク指令および回転機の回転速度から求められたd軸電流指令とq軸電流指令の比率から算出される電流位相指令を、トルク指令および回転機の回転速度に対応して格納した位相指令テーブルを備え、
前記位相指令テーブルを参照してトルク指令および回転機の回転速度に対応する電流位相指令を出力することを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の回転機の制御方法は、直流電圧を交流電圧に変換するインバータによって回転機の印加電圧を制御する回転機の制御方法であって、
多点電流サンプル取得手段が、同期パルス幅変調による過変調制御時に、設定周期毎に前記回転機の磁極位置を検出して得た設定個数の磁極位相値と同期させて、前記インバータの3相交流電流を設定回数検出し、該検出された設定回数の3相交流電流値を前記設定個数の磁極位相値に基づいて3相/2相座標変換して設定個数のd軸電流値および設定個数のq軸電流値を得る多点電流サンプル取得ステップと、
電流検出実効値演算手段が、前記得られた設定個数のd軸電流値の加算平均値および設定個数のq軸電流値の加算平均値を求め、それら各加算平均値から電流検出実効値を演算する電流検出実効値演算ステップと、
電流指令実効値演算手段が、要求されたトルク指令と、前記回転機の磁極位置を検出した磁極位相値から算出した回転機の回転速度とに基づいて、電流指令実効値を演算する電流指令実効値演算ステップと、
電流位相指令出力手段が、前記トルク指令および回転機の回転速度に対応する電流位相指令を出力する電流位相指令出力ステップと、
電圧指令生成手段が、前記電流検出実効値演算手段で演算された電流検出実効値と、前記電流指令実効値演算手段で演算された電流指令実効値との偏差に対して、PI(比例積分)制御を施して前記偏差に応じた電圧指令を生成する電圧指令生成ステップと、
同期パルス幅変調信号生成手段が、前記電圧指令生成手段で生成された電圧指令に基づくフーリエ級数展開式を演算してパルス列位相を求め、前記電圧指令と設定した同期パルス数からパルス列の幅を算出し、該パルス列の幅と前記パルス列位相から3相各相のパルス列の立上り位相、立下がり位相を決定し、これらのパルス列情報と前記電流位相指令出力手段から出力された電流位相指令に基づいて、3相の相電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*を生成する同期パルス幅変調信号生成ステップと、を備え、
前記同期パルス幅変調信号生成ステップで生成された3相の相電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*によって前記インバータのスイッチング素子をオン、オフ制御することを特徴としている。
【0017】
請求項5に記載の回転機の制御方法は、請求項4において、
同期パルス幅変調用電圧補正手段が、前記電圧指令生成手段で生成された、前記偏差に応じた電圧指令に、FFT解析により求めた同期パルス数およびパルス幅で決まる波形率を補正操作量として乗算し、補正後の電圧指令を生成して前記同期パルス幅変調信号生成手段に出力する同期パルス幅変調用電圧補正ステップを備えたことを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の回転機の制御方法は、請求項4又は5において、
前記電流位相指令出力ステップは、前記トルク指令および回転機の回転速度から求められたd軸電流指令とq軸電流指令の比率から算出される電流位相指令を、トルク指令および回転機の回転速度に対応して格納した位相指令テーブルを参照して、トルク指令および回転機の回転速度に対応する電流位相指令を出力することを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
(1)請求項1〜6に記載の発明によれば、同期パルス幅変調による過変調制御時に、制御しようとしている制御操作量と本来制御しなければならない真値の誤差を抑制することができ、安定した制御が行える。
【0020】
特許文献1などの先行技術では、瞬時電流をフィルタ検出しているので、実際の検出電流値から乖離が大きく、また制御周期性が無い。しかし、本発明の多点電流サンプルの平均値を用いる方式では、検出可能な分解能(N回)の範囲内であれば検出精度を上げる事が出来、60°周期性の電流制御を守る事が出来る。よって、先行技術より安定な電流制御を構築することができる。
(2)請求項2、4に記載の発明によれば、FFT解析により求めた周期パルス数およびパルス幅で決まる波形率を補正操作量として電圧指令を補正しているので、過変調領域において、高調波成分の増加による制御操作量と制御真値の差分を補正することができる。
(3)請求項3、6に記載の発明によれば、電流位相指令は、位相指令テーブルを参照して出力するように構成しているので、制御処理の簡易化および処理速度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
【0023】
図1は、本実施形態例のモータ制御装置の構成を示している。
図1において、50はモータ制御装置であり、インバータ50aと制御部50bとを有している。モータ制御装置50の直流側には蓄電池51が接続され、交流側にはモータ52(例えば、PMモータ(Permenent Magnet Motor))が接続されている。
【0024】
また、インバータ50aの直流母線には直流電圧検出値を検出する直流電圧検出センサ53、インバータ50aの交流母線のU相およびW相には交流電流検出値を検出する交流電流検出センサ54a,54c、モータ52にはモータ52の回転速度検出値を検出する磁極位置センサ55(例えばレゾルバ)が設けられている。
【0025】
制御部50bは、装置外部からトルク指令値、直流電圧検出センサ53から直流電圧検出値、交流電流検出センサ54a,54cから交流電流検出値、磁極位置センサ55から回転角度検出値を各々入力する。
【0026】
制御部50bは、これらトルク指令値と各種センサ(直流電圧検出センサ53と交流電流検出センサ54a,54cと磁極位置センサ55)からの検出値に基づいたベクトル制御によって所望の電圧指令値を図示しないゲート駆動回路に出力している。
【0027】
ゲート駆動回路では、入力した電圧指令値に基づいたゲート信号をインバータ50aに出力してスイッチング素子(
図1の例ではIGBT)をオン、オフ制御する。
【0028】
そして、モータ制御装置50は、スイッチング素子を有するインバータ50aにより、蓄電池51の直流電圧を所望の交流電圧に変換しモータ52に出力することでモータ制御を行っている。
【0029】
なお、
図1では、モータ制御装置50の直流側に蓄電池51が接続されているが、交流電源から整流器による順変換で直流電力を得る構成でもよい。また、交流電流検出センサ54a,54cはU相とW相の2相から演算によって3相の交流電流を得ているが、V相にも交流電流検出センサ54bを設け、U相、V相およびW相の各相の電流検出を行う構成でもよい。
【0030】
制御部50bは、
図2の検出ブロックおよび指令ブロックを備えた制御ブロックで構成されている。
図2において、検出ブロックは次の(1)〜(8)の各部を備えている。
【0031】
(1)U相電流検出部(Iudet(N回分))
モータ制御装置50の交流出力側のU相電流検出センサ54aの検出電流(例えば、変流器CTで検出した電流)から、後述の(3)磁極位相検出部によりサンプルした磁極位相θdetと同期させてN回分サンプルした結果A(Iu
1det、Iu
2det、Iu
3det、…Iu
Ndet)をメモリに格納する。
【0032】
この結果Aは、設定した周期毎に検出した1〜N回目迄のU相電流(Iu
1det、Iu
2det、Iu
3det、…Iu
Ndet)を各々保有している。
【0033】
(2)V相電流検出部(Ivdet(N回分))
モータ制御装置50の交流出力側のV相電流検出センサ54bの検出電流(例えば、変流器CTで検出した電流)、又はU相とW相の各検出電流から演算により求めたV相電流から、後述の(3)磁極位相検出部によりサンプルした磁極位相θdetと同期させてN回分サンプルした結果B(Iv
1det、Iv
2det、Iv
3det、…Iv
Ndet)をメモリに格納する。
【0034】
この結果Bは、設定した周期毎に検出した1〜N回目迄のV相電流(Iv
1det、Iv
2det、Iv
3det、…Iv
Ndet)を各々保有している。
【0035】
(3)磁極位相検出部(θdet(N回分))
レゾルバ(
図1に示す磁極位置センサ55)から磁極位相検出θdetを、設定した周期毎にN回分サンプルした結果C(θ
1det、θ
2det、θ
3det、…θ
Ndet)をメモリに格納する。
【0036】
この結果Cは、設定した周期毎に検出した1〜N回目迄の磁極位相検出(θ
1det、θ
2det、θ
3det、…θ
Ndet)を各々保有している。
【0037】
(4)3相/2相変換部(N回実行)
前記結果A〜Cを用いて3相/2相変換回路がN回分の3相/2相座標変換を行い、N回分の結果D(d軸電流検出Id
1det、Id
2det、Id
3det、…Id
Ndetとq軸電流検出Iq
1det、Iq
2det、Iq
3det、…Iq
Ndet)を各々出力する。
【0038】
(5)d軸電流検出部(Id_det(N回分))
前記結果Dのうちd軸の座標変換結果を加算したd軸電流値Id
1det+Id
2det+Id
3det+…Id
Ndetをメモリに格納する。
【0039】
(6)q軸電流検出部(Iq_det(N回分))
前記結果Dのうちq軸の座標変換結果を加算したq軸電流値Iq
1det+Iq
2det+Iq
3det+…Iq
Ndetをメモリに格納する。
【0040】
(7)平均化処理部
前記(5)d軸電流検出部で格納したId
1det+Id
2det+Id
3det+…Id
Ndetをサンプル回数Nで割った
(ΣId
1det〜Ndet)/N=Id
avedet
を算出し、N回分の加算平均Id
avedetとしてメモリに格納する。
【0041】
また、前記(6)q軸電流検出部で格納したIq
1det+Iq
2det+Iq
3det+…Iq
Ndetをサンプル回数Nで割った
(ΣIq
1det〜Ndet)/N=Iq
avedet
を算出し、N回分の加算平均Iq
avedetとしてメモリに格納する。
【0042】
(8)電流検出部(I1det)
前記(7)平均化処理部で格納したd軸およびq軸の加算平均Id
avedetとIq
avedetから
(Idavedet
2+Iqavedet
2)
1/2=I1det(電流検出実効値)を算出し、メモリに格納する。
【0043】
また
図2において、指令ブロックは次の(9)〜(21)の各部を備えている。
【0044】
(9)トルク指令出力部
上位装置もしくは外部から与えられる要求トルクに基づくトルク指令τrefを、後述する(11)電流指令テーブル、(12)位相指令テーブルに出力する。
【0045】
(10)回転速度算出部(v)
モータ52の回転角度(磁極位相)を検出するレゾルバ(
図1に示す磁極位置センサ55)の出力信号θdetから算出されたモータ52の回転速度vを、後述する(11)電流指令テーブル、(12)位相指令テーブルに出力する。
【0046】
(11)電流指令テーブル
前記(9)トルク指令出力部および(10)回転速度算出部のトルク指令τrefおよび回転速度vに対応するモータ52の電機子巻線に流れるd軸電流(磁束電流)指令Id1refとq軸電流(トルク電流)指令Iq1refが記憶されている電流指令テーブルを備えている。
【0047】
(13)電流指令出力部(I1ref)
前記(11)電流指令テーブルを参照し、前記(9)トルク指令τrefと(10)回転速度vより選定された(に対応する)、d軸電流指令Id1refとq軸電流指令Iq1refから、電流指令実効値I1ref=(Id1ref
2+Iq1ref
2)
1/2を演算して出力する。
【0048】
ここで、d軸電流Idは電機子巻線に誘起される電圧に対して同位相の電流成分、q軸電流Iqは電機子巻線に誘起される電圧に対して直交する電流成分である。
【0049】
(12)位相指令テーブル
前記(9)トルク指令τrefと(10)回転速度vからモータ52の電機子巻線に流れるd軸電流指令Id1refとq軸電流指令Iq1refを求め、電流位相指令φrefはd軸電流指令Id1refとq軸電流指令Iq1refの比率から式(1)
φref=tan
-1(Iq1ref/Id1ref)…(1)
によって求められ、これに基づく(9)トルク指令τrefと(10)回転速度vに対応する電流位相指令φrefが記憶された位相指令テーブルを備えている。
【0050】
(14)電流位相指令出力部(φref)
前記(12)位相指令テーブルを参照し、d軸電流指令Id1refとq軸電流指令Iq1refから選定された、すなわちトルク指令τrefおよび回転速度vに対応する電流位相指令φrefを出力する。
【0051】
(15)PI(比例積分)制御部
前記(13)電流指令出力部より出力された電流指令実効値I1refと、(8)電流検出部により算出された電流検出実効値I1detとの偏差を減算器61でとり、該偏差を比例・積分演算制御器(PI制御器)に入力し、比例・積分演算により電圧指令V1_refを得る。
【0052】
(16)電圧指令出力部(V1ref)
前記(15)PI制御部で得られた電圧指令V1_ref=(Vd_ref
2+Vq_ref
2)
1/2を出力する。
【0053】
(17)同期PWM用電圧補正演算部
後述する(18)同期PWM生成回路では、電流制御によって電流基本波成分が連続となるよう、前記(16)の電圧指令V1refからフーリエ方程式を展開して同期パルスを都度計算する。しかし、過変調領域では高調波成分が増える為、操作量(制御しようとしている値)と真値(本来、制御しなければならない値)との差分が検出として影響してしまう。
【0054】
このため、(17)同期PWM用電圧補正演算部では、同期パルス数とパルス幅で決まる波形率をFFT解析で求めた補正操作量αを格納し、乗算器62において、(16)電圧指令出力部からの電圧指令V1refに補正操作量αを掛け合わせた補正後の電圧指令V1ref´を(18)同期PWM生成回路に出力する。
【0055】
(18)同期PWM生成回路
前記(16)電圧指令V1refに(17)同期PWM用電圧補正演算部で算出された補正操作量αを乗算した補正後の電圧指令V1ref´と、(14)電流位相指令出力部からの電流位相指令φrefとに基づいて、3相の相電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*を生成する。
【0056】
電流基本波成分が連続(基本波成分でトルクの連続性を成立させる)となるように、パルス列の作成は、事前に同期パルス数を決めた上(例えば3パルス)で、補正後の電圧指令V1ref´に基づくフーリエ級数展開式を都度S/W(CPUのソフトウェア)側で演算しパルス列位相β(βはθdetに基づいたレゾルバ磁極位相を指す)を求める。
【0057】
3パルスの場合の基本波式は式(2)で表せる。
【0058】
V=(4/π){cosβ−cos30°+cos(60°−β)}…(2)
この場合、パルス対称性からUVW相の電圧指令V1ref´は、
初回パルス立上り位相:β°
初回パルス立下り位相:30°
二回目パルス立上り位相:60−β°
二回目パルス立下り位相:180+β°
三回目パルス立上り位相:210°
三回目パルス立下り位相:210+β°
となる。
【0059】
ここで、(18)同期PWM生成回路で生成されるパルス列の一例を
図3に示す。
図3は、パルス列位相βが30°であるときのU相、V相、W相の各パルス列と、U−V相間、V−W相間、W−U相間の各信号を表している。
【0060】
U相では、1回目のパルス列が0°で立上り、30°で立下り、2回目のパルス列が60°で立上り、180°で立下り、3回目のパルス列が210°で立上り、240°で立下っている。
【0061】
この関係はV相、W相も同様であり、3相のパルス列は、120°で左右対称(対称性の確保)となっている。
【0062】
以上より、電圧指令V1ref´と同期パルス数から各相のパルス列位相βが求まり、それぞれのパルス列の立上り位相と立下り位相を決定し、電流位相指令φrefを各相にオフセットしたパルス列情報を3相の相電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*として出力する。
【0063】
(19)U相PWM指令出力部
前記(18)同期PWM生成回路で生成されたU相電圧指令Vu
*を図示しないゲート駆動回路に出力する。
【0064】
(20)V相PWM指令出力部
前記(18)同期PWM生成回路で生成されたV相電圧指令Vv
*を図示しないゲート駆動回路に出力する。
【0065】
(21)W相PWM指令出力部
前記(18)同期PWM生成回路で生成されたW相電圧指令Vw
*を図示しないゲート駆動回路に出力する。
【0066】
そして、図示しないゲート駆動回路では、入力した3相の相電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*に基づいたゲート信号をインバータ50aに出力してスイッチング素子をオン、オフ制御することでモータ制御を行っている。
【0067】
尚、
図2の各部(1)〜(21)を備えた制御部50bは、例えばコンピュータにより構成され、通常のコンピュータのハードウェアリソース、例えばROM、RAM、CPU、入力装置、出力装置、通信インターフェース、ハードディスク、記録媒体およびその駆動装置を備えている。このハードウェアとソフトウェアリソース(OS、アプリケーションなど)との協働の結果、制御部50bは
図2の各部(1)〜(21)を実装する。
【0068】
図2の(1)U相電流検出部、(2)V相電流検出部、(3)磁極位相検出部、(4)3相/2相変換部、(5)d軸電流検出部、(6)q軸電流検出部、(7)平均化処理部および(8)電流検出部によって、本発明の電流検出実効値演算手段を構成している。
【0069】
図2の(9)トルク指令出力部、(10)回転速度算出部、(11)電流指令テーブルおよび(13)電流指令出力部によって、本発明の電流指令実効値演算手段を構成している。
【0070】
図2の(9)トルク指令出力部、(10)回転速度算出部、(12)位相指令テーブルおよび(14)電流位相指令出力部によって、本発明の電流位相指令出力手段を構成している。
【0071】
図2の減算器61、(15)PI制御部および(16)電圧指令出力部によって、本発明の電圧指令生成手段を構成している。
【0072】
図2の(17)同期PWM用電圧補正演算部および乗算器62によって、本発明の同期パルス幅変調用電圧補正手段を構成している。
【0073】
図2の(18)同期PWM生成回路によって、本発明の同期パルス幅変調信号生成手段を構成している。
【0074】
次に、上記のように構成されたモータ制御装置の作用、動作を説明する。
【0075】
正弦波PWM制御におけるキャリア周波数と同期した電流制御では、正弦波PWM制御における電流検出および電流制御のタイミングを示す
図6のように、キャリアの上側頂点(トップ)と下側頂点(ボトム)となるゼロベクトル(1.1.1)及び(0.0.0)が必ず発生し、このキャリアの上側頂点(トップ)と下側頂点(ボトム)で電流検出と電流制御を同時に行っていた。このような電流変動の無いゼロベクトル(1.1.1)及び(0.0.0)のポイントで電流検出を行うことにより、検出誤差の少ない制御が可能であった。
【0076】
尚、3相の電圧ベクトル(U、V、W)は、PWMのスイッチングパターンにおける1をON、0をOFFとした場合(1.0.0)、(0.1.0)、(0.0.1)、(0.1.1)、(1.0.1)、(1.1.0)、(0.0.0)、(1.1.1)が存在する。
【0077】
しかし、同期PWM(基本波とキャリアが同期したPWM制御)による過変調制御の場合、電圧制御率が過変調領域であるために1周期間でゼロベクトルが存在せず、電流変化中の電流検出となることや高調波等の電流波形率の異なる電流検出となり、基本波成分に対する検出誤差が大きくなる。
【0078】
そこで本発明では、上記のとおりに、同期PWMによる過変調制御の場合には、検出誤差が大きくなるために瞬時電流による電流検出を電流制御に使えない場合において、3相交流に60°周期性がある事に着目し、その電流検出方式を構築した。
【0079】
高調波を含んだ交流電流であっても60°周期毎に電流波形には周期性が有る。そこで、
図2の(1)〜(7)の各部によって、マイコン処理可能な分解能の範囲で離散化したサンプル数N回を多点サンプルし3相/2相変換をして平均電流Id
avedet、Iq
avedetを得る。
【0080】
例えば60°周期性の中でN回電流検出し、N=4回であれば15°毎に電流検出することになる。
【0081】
このような電流検出によって、電流変化中や高調波を含んでいる電流制御であっても、検出誤差を抑制でき、加えて前記(17)同期PWM用電圧補正演算部および乗算器62によって電圧指令を補正することで、操作量(制御しようとしている値)と真値(本来、制御しなければならない値)との誤差を抑制した制御が可能となる。
【0082】
図4は、電流波形と、電流検出および電流制御のタイミングを表した図であり、(a)は電流検出と電流制御タイミングが同一の場合を示し、(b)は本発明のように電流検出および3相/2相変換を多点において実施した後のタイミングで電流制御を行った場合を示している。
【0083】
以上のように検出段における特許文献1などの先行技術は瞬時電流をフィルタ検出しているので、実際の検出電流値から乖離が大きく、また制御周期性が無い。しかし、本実施形態例の多点平均電流検出方式では、検出可能な分解能(N回)の範囲内であれば検出精度を上げることができ、60°周期性の電流制御を守ることができる。よって、先行技術よりも安定な電流制御を構築できる。
【0084】
また、指令段における特許文献1などの先行技術は、一般的なdq軸の電流制御を用いている為、処理としては2本分の制御を動かす必要があった。しかし本実施形態例では、位相(φ)を予め(12)位相指令テーブルにてマップ化することで、電流情報を(8)電流検出部の出力と(13)電流指令出力部の出力の偏差のみに一本化したので、処理の簡易化、処理速度の向上が達成できた。