(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第3半導体領域の不純物濃度の前記第3最大値は、複数の前記第1半導体領域のうちの最も前記第3半導体層側の前記第1半導体領域の不純物濃度の前記ピークよりも高いことを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。
前記第3半導体領域の不純物濃度の前記第3最大値は、前記第2半導体領域と、複数の前記第1半導体領域のうちの最も前記第3半導体層側の前記第1半導体領域と、の界面で、前記第2半導体領域の不純物濃度の最低値よりも高いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の半導体装置。
前記所定の深さから前記第3半導体領域と当該第1半導体領域との界面までの距離は、前記第3半導体領域の厚さの2倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
前記所定の深さから前記第3半導体領域と当該第1半導体領域との界面までの距離は、前記第3半導体領域の厚さ以上10μm以下であることを特徴とする請求項5に記載の半導体装置。
前記第1半導体領域の不純物濃度のピーク濃度は、前記第2半導体領域の不純物濃度のピーク濃度よりも低いことを特徴とする請求項12または13に記載の半導体装置。
前記第3半導体層から前記第1半導体領域にわたって、前記第1半導体層の前記第2主面で水素濃度がピーク濃度となり、かつ前記第1主面側へ向かうにしたがって水素濃度が減少する水素濃度分布を有し、
前記第1半導体層の前記第2主面から前記水素濃度分布よりも前記第1主面側に深い位置まで再結合中心が分布していることを特徴とする請求項12〜14のいずれか一つに記載の半導体装置。
前記第1半導体層の前記第2主面での再結合中心濃度は、前記第1半導体領域の不純物濃度がピーク濃度となる深さでの再結合中心濃度よりも小さいことを特徴とする請求項15に記載の半導体装置。
前記第1半導体層の内部の、前記第1半導体領域よりも前記第1主面側に、前記第1半導体領域と離して設けられた、前記第1半導体層よりも不純物濃度の高い第1導電型の第4半導体領域をさらに備えることを特徴とする請求項15または16に記載の半導体装置。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、特に言及がなければ、不純物濃度とは、ドナー濃度、アクセプタ濃度、またはこれらの正味のネットドーピング濃度である。
【0039】
(実施の形態1)
実施の形態1にかかる半導体装置の構造について、ダイオードを例に説明する。
図1は、実施の形態1にかかる半導体装置の構造を示す断面図である。
図1に示す実施の形態1にかかる半導体装置は、n
-型ドリフト層(第1半導体層)1の内部に深さ方向に不純物濃度のピークを複数有するn型フィールドストップ層(複数のn型FS層(第1半導体領域)7)を備えたダイオードである。深さ方向とは、n
-型の半導体基板(半導体チップ)10の裏面(第2主面)10aからおもて面(第1主面)10bへ向かう方向である。
【0040】
具体的には、半導体基板10のおもて面10bの表面層には、p型アノード層(第2半導体層)2が設けられている。p型アノード層2は、例えばボロン(B)等のp型不純物のイオン注入により形成された拡散領域である。半導体基板10のおもて面10b上には、アノード電極(第1電極)3が設けられている。アノード電極3は、p型アノード層2に接する。半導体基板10の裏面10aの表面層には、半導体基板10の裏面10aに平行な方向に隣接して、n
+型領域(n
+型カソード領域:第2半導体領域)4およびp型領域(p型カソード領域:第3半導体領域)5がそれぞれ選択的に設けられている。
【0041】
n
+型カソード領域4およびp型カソード領域5は、例えば半導体基板10の裏面10aに平行な方向に交互に繰り返し配置されている。n
+型カソード領域4は、例えばリン(P)等のn型不純物のイオン注入により形成された拡散領域である。p型カソード領域5は、例えばボロン等のp型不純物のイオン注入により形成された拡散領域である。このn
+型カソード領域4およびp型カソード領域5でカソード層(第3半導体層)6が構成されている。n
+型カソード領域4およびp型カソード領域5の詳細な構成については、後述する。
【0042】
半導体基板10の、p型アノード層2、n
+型カソード領域4およびp型カソード領域5以外の部分がn
-型ドリフト層1である。n
-型ドリフト層1の内部には、半導体基板10の裏面10aからカソード層6よりも深い位置に、n型FS層7が設けられている。n型FS層7は、半導体基板10の裏面10aから異なる深さに、深さ方向に対向するように複数配置されている。n型FS層7は、逆回復時に、p型アノード層2とn
-型ドリフト層1との間のpn接合から伸びる空乏層がn
+型カソード領域4に達することを抑制する機能を有する。
【0043】
具体的には、n型FS層7は、プロトン(H
+)注入により半導体基板10の内部に導入された水素原子をイオン化(ドナー化)して形成された水素原子を含む水素ドナー層である。n型FS層7は、プロトン注入の飛程Rpの深さ位置で不純物濃度のピーク値(最大値(第1最大値):ピーク濃度)を示し、そのピーク値は半導体基板10の不純物濃度よりも高い。各n型FS層7の不純物濃度のピークは、他のn型FS層7から離れた深さ位置(以下、ピーク位置とする)にある。最もカソード側のn型FS層7(7a)の不純物濃度のピークP
1のピーク位置X
P1は、カソード層6よりも半導体基板10の裏面10aから深い位置にある(
図2参照)。
【0044】
図1には、4つのn型FS層7を配置し、半導体基板10の裏面10a側から順に符号7a〜7dを付す。各n型FS層7a〜7dは、プロトン注入の飛程Rpを中心に飛程Rpのストラグリング(プロトン注入時のエネルギー損失等の確率的過程による飛程Rpのばらつき(分散))ΔRpの幅で最大濃度の半値以上の不純物濃度となる部分をハッチングで示す。各n型FS層7a〜7dのハッチング部分に挟まれた部分、および、n型FS層7aのハッチング部分とカソード層6とに挟まれた部分は、例えば上記特許文献2のようにディスオーダーを少なくした部分である。
【0045】
半導体基板10の裏面10a上には、カソード電極(第2電極)8が設けられている。カソード電極8は、n
+型カソード領域4およびp型カソード領域5に接する。n
-型ドリフト層1の内部に結晶欠陥を導入し、結晶欠陥を導入した部分のキャリアライフタイムを短くしていてもよい。例えば、電子線照射により半導体基板10全体に結晶欠陥が導入されていてもよいし、ヘリウム(He)照射によりn
-型ドリフト層1のカソード側の部分(n型FS層7aの内部)に結晶欠陥9(
図1に×印で示す)が導入されていてもよい。
図1には、例えば、n型FS層7aの不純物濃度のピークP
1(
図2参照)と、カソード層6と、に挟まれた部分に結晶欠陥9を導入した場合を示す。
【0046】
次に、n
+型カソード領域4およびp型カソード領域5の構成について説明する。
図2は、
図1の切断線A1−A2および切断線B1−B2における不純物濃度分布を示す特性図である。
図2には、切断線A1−A2における不純物濃度分布11を実線で示し、切断線B1−B2における不純物濃度分布12を破線で示す。切断線B1−B2における不純物濃度分布12は、深さX
1よりも半導体基板10の裏面10aから深い位置で、切断線A1−A2における不純物濃度分布11に接している。この両不純物濃度分布11,12が接する部分からアノード側(p型アノード層2側)に深い部分の不純物濃度分布は両不純物濃度分布11,12ともに同じであるため、実線でのみ示す。
【0047】
切断線A1−A2における不純物濃度分布11は、半導体基板10の裏面10aから深さ方向にn
+型カソード領域4およびn型FS層7a,7bを通る部分の不純物濃度分布である。切断線B1−B2における不純物濃度分布12は、半導体基板10の裏面10aから深さ方向にp型カソード領域5およびn型FS層7a,7bを通る部分の不純物濃度分布である。
図2は、横軸に半導体基板10の裏面10a(深さ=0μm)からの深さを通常の目盛(不図示)で示し、縦軸に不純物濃度を対数目盛(不図示)で示す(
図11,18,19(b),20(a),21,22(a)においても同様)。
【0048】
n
+型カソード領域4は、例えば、ドーパントをリン(P)とし、半導体基板10の裏面10aから加速エネルギー110keV程度で、ドーズ量3×10
15/cm
2程度としたイオン注入により形成される。p型カソード領域5は、例えば、ドーパントをボロン(B)とし、半導体基板10の裏面10aから加速エネルギー110keV程度で、ドーズ量1×10
14/cm
2程度としたイオン注入により形成される。本例の構造のダイオードでは、逆回復時にp型カソード領域5からn型FS層7(n
-型ドリフト層1)にホールが注入されるように、p型カソード領域5の不純物濃度はある程度高めに設定される。p型カソード領域5の不純物濃度のピーク値(第3最大値)C
1は、n
+型カソード領域4の不純物濃度のピーク値(第2最大値)C
2よりも低く、かつ最もカソード側のn型FS層7(7a)の不純物濃度のピークP
1よりも高い。
【0049】
また、n
+型カソード領域4およびp型カソード領域5は、半導体基板10の裏面10aから同じ深さX
2,X
1に達している(X
2=X
1)。すなわち、半導体基板10の裏面10aから同じ深さX
2,X
1に、n
+型カソード領域4とn型FS層7aとの界面、および、p型カソード領域5とn型FS層7aとの界面が位置する。n
+型カソード領域4およびp型カソード領域5の不純物濃度C
2’,C
1’は、n型FS層7aとの界面で最低値を示す。p型カソード領域5の不純物濃度のピーク値C
1は、n
+型カソード領域4と最もカソード側のn型FS層7(7a)との界面でn
+型カソード領域4の不純物濃度の最低値C
2’より高くてもよい。また、p型カソード領域5の、n型FS層7aとの界面での不純物濃度C
1’は、n
+型カソード領域4の、n型FS層7aとの界面での不純物濃度C
2’よりも1桁程度低い(C
1’<C
2’)。
【0050】
n
+型カソード領域4とp型カソード領域5とで、n型FS層7aとの界面での不純物濃度C
1’,C
2’が異なるのは、プロトン注入によりn型FS層7が形成されるからである。具体的には、n
+型カソード領域4は上述したようにリン等のn型不純物のイオン注入により形成され、その不純物濃度はプロトン注入により形成されるn型FS層7の不純物濃度よりも1桁程度高くなる。このため、n
+型カソード領域4の、n型FS層7aとの界面での不純物濃度C
2’は、リン等のイオン注入により形成されるn
+型カソード領域4の不純物濃度に律速される。具体的には、n
+型カソード領域4の、n型FS層7aとの界面での不純物濃度C
2’は、最もカソード側のn型FS層7aの不純物濃度のピーク値C
P1未満であり、好ましくは例えば1×10
14/cm
3以上3×10
15/cm
3以下程度であることがよい。
【0051】
一方、切断線B1−B2における不純物濃度分布12において、半導体基板10の裏面10aから深さX
1までの部分はp型カソード領域5のp型不純物濃度分布であり、半導体基板10の裏面10aから深さX
1より深い部分はn型FS層7のn型不純物濃度分布である。切断線B1−B2における不純物濃度分布12は、p型カソード領域5とn型FS層7aで形成されるpn接合の深さX
1において、低不純物濃度側に凸状に急峻に突出した不純物濃度分布となっている。すなわち、p型カソード領域5の、n型FS層7aとの界面での不純物濃度C
1’は、プロトン注入により形成されたn型FS層7aのカソード側の不純物濃度で決まるため、リン等のn型不純物のイオン注入に律速されるn
+型カソード領域4の、n型FS層7aとの界面での不純物濃度C
2’よりも1桁程度低くすることができる。
【0052】
このように、プロトン注入によりn型FS層7を形成することで、p型カソード領域5との界面においてn型FS層7aの不純物濃度を、リン等のn型不純物のイオン注入によるP−n型FS層107を備えた従来構造(
図17参照)よりも1桁程度低くすることができる。これにより、n型FS層7aの、p型カソード領域5との界面付近を高抵抗にすることができるため、P−n型FS層107を備えた従来構造よりもp型カソード領域5の幅(半導体基板10の裏面10aに平行な方向の幅)を狭くすることができる。
【0053】
p型カソード領域5の幅を狭くすることで、n
+型カソード領域4の占有面積(半導体基板10の裏面10aから見た表面積)を増やすことができる。このため、半導体基板10内でのpin(p−intrinsic−n)ダイオードの占有面積を確保しやすい。また、p型カソード領域5の幅を狭くすることで、定常状態での順バイアス時にアノード電極3からp型アノード層2に供給されカソード側に移動するホールがp型カソード領域5に入りにくくなる。このため、順方向電圧Vfが高くなることを防止することができる。
【0054】
各n型FS層7a〜7dの不純物濃度は、n
-型ドリフト層1よりも高い。また、各n型FS層7a〜7dの不純物濃度のピーク値は、p型アノード層2の不純物濃度のピーク値(不図示)、p型カソード領域5の不純物濃度のピーク値C
1、およびn
+型カソード領域4の不純物濃度のピーク値C
2よりも低い。また、各n型FS層7a〜7dは、半導体基板10の裏面10aから深い位置に配置されるほど、その不純物濃度のピーク値が低くなっている。各n型FS層7a〜7dの不純物濃度のピーク間の距離は、設計条件に合わせて種々変更可能である。また、各n型FS層7a〜7dは、それぞれ不純物濃度のピークを頂点とし、アノード側およびカソード側へ向かって不純物濃度が減少する山型の不純物濃度分布を有する。
【0055】
各n型FS層7a〜7dは、例えば、カソード側に隣接する領域との界面での不純物濃度よりもアノード側に隣接する領域との界面での不純物濃度が低くなっている。各n型FS層7a〜7dのカソード側に隣接する領域とは、n型FS層7aの場合はカソード層6であり、n型FS層7b〜7dの場合はそれぞれカソード側に隣接するn型FS層7a〜7cである。各n型FS層7a〜7dのアノード側に隣接する領域とは、n型FS層7a〜7cの場合はそれぞれアノード側に隣接するn型FS層7b〜7dであり、n型FS層7dの場合はn
-型ドリフト層1である。また、各n型FS層7a〜7dにおいて、不純物濃度のピーク(頂点)からカソード側へ向かって減少する不純物濃度勾配は、当該ピークからアノード側へ向かって減少する不純物濃度勾配よりも緩やかであってもよい。このような各n型FS層7a〜7dの不純物濃度分布は、例えば特許文献2のように、プロトン注入で残されたディスオーダーによる移動度低下を補償するように次回のプロトン注入を行うことで形成可能である。
【0056】
最もカソード側のn型FS層7aは、p型カソード領域5との界面での不純物濃度(=p型カソード領域5の、n型FS層7aとの界面での不純物濃度C
1’)よりもn
+型カソード領域4との界面での不純物濃度(=n
+型カソード領域4の、n型FS層7aとの界面での不純物濃度C
2’)が高くなっている。また、最もカソード側のn型FS層7aの不純物濃度のピーク値C
P1は、p型カソード領域5の、n型FS層7aとの界面での不純物濃度C
1’およびn
+型カソード領域4の、n型FS層7aとの界面での不純物濃度C
2’よりも高く(C
P1>C
1’、C
P1>C
2’)、例えば1×10
16/cm
3程度である。
【0057】
最もカソード側のn型FS層7aの不純物濃度のピーク位置X
P1からp型カソード領域5とn型FS層7aとの境界までの距離X
10(=X
P1−X
1)は、例えば1μm以上10μm以下程度であることがよい。これによって、逆バイアス時にn型FS層7による空乏層抑制効果が得られる。好適には、n型FS層7aの不純物濃度のピーク位置X
P1からp型カソード領域5とn型FS層7aとの境界までの距離X
10は、例えば2μm以上7μm以下程度であることがよく、より好ましくは例えば3μm以上5μm以下程度であることがよい。その理由は、逆回復時におけるp型カソード領域5からの正孔の注入を担保するためである。
【0058】
n型FS層7aの不純物濃度のピークP
1よりもカソード側の部分のうち、n型FS層7aの不純物濃度のピーク値C
P1の0.5倍以下程度(好ましくは0.3倍以下程度、より好ましくは0.1倍以下程度)の不純物濃度C
3(≦0.5・C
P1(好ましくはC
3≦0.3・C
P1))である部分は、n型FS層7aの不純物濃度のピーク位置X
P1に達しない範囲で、p型カソード領域5とn型FS層7aとの境界から所定の深さX
3まで達している。この所定の深さX
3からp型カソード領域5とn型FS層7aとの境界までの距離X
12(=X
3−X
1)は、p型カソード領域5の厚さX
11(=X
1)よりも長く(X
11<X
12<X
10)、好ましくはp型カソード領域5の厚さX
11の2倍以上程度であることがよい(2・X
11≦X
12)。また、当該所定の深さX
3からp型カソード領域5とn型FS層7aとの境界までの距離X
12は、p型カソード領域5の厚さX
11よりも長く10μm以下(X
11<X
12≦10μm)、好適には5μm以下、さらに好ましくは3μm以下であることがよい。その理由は、逆回復時におけるp型カソード領域5からの正孔の注入を担保するためである。
【0059】
X
11<X
12となるようにp型カソード領域5およびn型FS層7aを設けることで、逆回復時に、p型カソード領域5からn型FS層7aにホール(正孔)が注入されやすくなり、カソード側のホール濃度を高めることができる。このため、逆回復時(バイアス変化の過渡期)、アノード・カソード間電流I
AKが小さく、各領域内のキャリア濃度が低い状態においても、カソード・アノード間電圧V
KAの波形およびアノード・カソード間電流I
AKの波形が発振しにくくなる。この逆回復時における電圧・電流波形の振動開始電圧Vをシミュレーションした結果を
図3に示す。
【0060】
図3は、逆回復時における電圧・電流波形の振動開始電圧を示す特性図である。
図3の横軸は、p型カソード領域5の厚さX
11に対する、深さX
3からp型カソード領域5とn型FS層7aとの境界までの距離X
12の比率(=X
12/X
11)である。
図3の縦軸は、定格電圧V
rateに対する電圧・電流波形の振動開始電圧Vの比率(=V/V
rate)である。振動開始電圧とは、以下の通りである。所定の電源電圧V
busでダイオードを逆回復させたときに、ダイオードの電圧V
AKの波形またはダイオードの電流I
AKの波形が振動をしないときのV
busから、V
busの値を徐々に増加させて再度逆回復させていき、V
AKまたはI
AKの波形が振動を開始したときのV
busの値を振動開始電圧とする。
【0061】
図3において、X
12/X
11>1となる構成が本発明(以下、実施例とする)に相当する。一方、X
12/X
11≦1となる構成は、例えば上記特許文献1に開示されたダイオードに相当する(以下、従来例とする)。
図3に示すように、実施例は、従来例よりも電圧・電流波形の振動開始電圧Vを高くすることができることがわかる。電圧・電流波形の振動開始電圧Vが高いほど発振しにくいことをあらわしている。
【0062】
実施例が従来例に比べて、電圧・電流波形の振動開始電圧Vを高くすることができる理由は、以下のように推測される。逆回復時にn
-型ドリフト層1に蓄積された電子は、カソード電極8側(p型カソード領域5側)に向かって流れる。このp型カソード領域5に向かう電子は、p型カソード領域5の基板おもて面10b側手前で、p型カソード領域5に基板おもて面10bに平行する方向(水平方向)に隣接するn
+型カソード領域4に向かって進路を変えて進行し、n
+型カソード領域4に達する。このとき電子は、p型カソード領域5の基板おもて面10b側手前で、水平方向に進行するので、電圧降下が生じる。電圧降下は、上記距離X
12の領域の抵抗すなわちn型ドーパントの濃度が低く、かつ上記距離X
12の領域が深さ方向に広いほど生じやすい。電圧降下が、p型カソード領域5と上記距離X
12の領域とのpn接合のビルトイン電位(約0.7V)を超えれば、p型カソード領域5から正孔が注入される。また、実施例は、X
12/X
11≧2とすることで、電圧・電流波形の振動開始電圧Vを定格電圧V
rate以上にすることができる(V/V
rate≧1)。
【0063】
また、実施例は、X
12/X
11≧2とすることで、定格電圧V
rateに対する電圧・電流波形の振動開始電圧Vの比率は、ダイオードのアバランシェ耐圧V
B程度かそれ以下の一定値となる。
図2において、符号C
P2は、最もカソード側のn型FS層7aのアノード側に隣接するn型FS層7bの不純物濃度のピーク値である。符号X
P2は、n型FS層7bの不純物濃度のピークP
2の、半導体基板10の裏面10aからの深さ位置である。図示省略するが、半導体基板10の厚さおよび比抵抗ρは、例えば、それぞれ117μm程度および70Ωcmである。p型アノード層2の不純物濃度は、例えば1×10
13/cm
3である。
【0064】
図3のシミュレーションに用いた一般的なチョーパー回路の等価回路を
図4に示す。
図4は、
図3のシミュレーションに用いたチョーパー回路の回路構成を示す回路図である。
図4のチョーパー回路は、例えばインバータの1相分に相当する。IGBT31のコレクタは、誘導負荷32を介して電源33の正極に接続される。IGBT31のエミッタは、電源33の負極に接続される。ダイオード34は、アノードがIGBT31のコレクタに接続され、カソードが電源33の正極に接続されることにより、誘導負荷32に並列に接続される。コンデンサ35は、IGBT31のオン・オフにより充放電される。ダイオード34は、上述した実施例または従来例に相当する。誘導負荷32は、配線等の負荷に相当する。
【0065】
この
図4のチョーパー回路では、IGBT31のコレクタ・エミッタ間と、ダイオード34のカソード・アノード間と、に交互に電源33から一定の電源電圧V
busが供給される。ダイオード34は、カソード・アノード間に電源電圧V
busが供給されたときに、逆バイアスから順バイアスに変化する。この逆バイアスから順バイアスに変化する過渡期(逆回復時)に、ダイオード34のカソード・アノード間に、誘導負荷32のインダクタンスLに起因して、電源電圧V
busよりも大きなサージ電圧(=L(dI/dt))が印加される。ダイオード34のカソード・アノード間電圧V
KAの波形は、このサージ電圧が所定の電圧値であるときに発振して電源電圧V
busよりも高い最大電圧V
KA#peakとなり、その後、電源電圧V
busにおちつく(
図14参照)。この発振開始電圧を測定した結果が
図3に示されている。
【0066】
次に、実施の形態1にかかる半導体装置の動作について説明する。アノード電極3に正電圧が印加され、カソード電極8に負電圧が印加される順バイアス時、カソード電極8からn
+型カソード領域4に電子が供給され、アノード電極3からp型アノード層2にホールが供給される。これらのキャリア(電子、ホール)は、内部電位(例えばシリコン(Si)の場合は0.7V程度)の順バイアスによりダイオード内部に生じる電界によって、極性の異なる電極側へ移動する。具体的には、n
+型カソード領域4内の電子はp型アノード層2へ移動し、p型アノード層2内のホールはn
+型カソード領域4へ移動する。これによって電極間が導通する。
【0067】
一方、アノード電極3に負電圧が印加され、カソード電極8に正電圧が印加される逆バイアス時、キャリア(電子、ホール)は順バイアス時とは逆方向へ移動する。一定時間が経過すると、p型アノード層2とn
-型ドリフト層1との間のpn接合付近に空乏層が形成され、電極間が導通しない状態となる。この逆バイアス時、カソード電極8からp型カソード領域5にホールが供給され、カソード側のホール濃度が高くなる。その結果、逆バイアスから順バイアスへ変化するまでの過渡期(逆回復時)に、カソード側の電界強度が緩和され、逆回復時における電圧・電流波形の発振が抑制される。
【0068】
次に、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法について説明する。
図5〜9は、実施の形態1にかかる半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。まず、
図5に示すように、n
-型ドリフト層1となるn
-型の半導体基板(半導体ウエハ)10を用意する。次に、p型不純物のイオン注入により、半導体基板10のおもて面10bの表面層にp型アノード層2を形成する。
【0069】
次に、半導体基板10の裏面10aから研削し、半導体基板10の厚さを半導体装置(ダイオード)として用いる所定の製品厚さに減厚後、裏面10aから異なる加速エネルギーでの複数回のプロトン注入21により、半導体基板10の裏面10aから異なる深さに複数のn型FS層7を形成する。
図5には、複数のn型FS層7をまとめて1層で示しているが、
図1に示すように、半導体基板10の裏面10aから異なる深さに不純物濃度のピークを有するn型FS層7a〜7dが形成される。
【0070】
次に、
図6に示すように、半導体基板10の裏面10aの全面に例えばボロンなどのp型不純物をイオン注入22し、半導体基板10の裏面10aの表面層にp型カソード領域5を形成する。p型カソード領域5の不純物濃度のピーク値C
1は、例えば1×10
16/cm
3以上1×10
21/cm
3以下程度であってもよい。
【0071】
次に、
図7に示すように、半導体基板10の裏面10aに、n
+型カソード領域4の形成領域に対応する部分が開口されたイオン注入用マスク23を形成する。次に、イオン注入用マスク23をマスクとして、リンなどのn型不純物をイオン注入24してp型カソード領域5をn型にすることで、半導体基板10の裏面10aの表面層にn
+型カソード領域4を選択的に形成する。n
+型カソード領域4の不純物濃度のピーク値C
2は、例えば、1×10
17/cm
3以上1×10
21/cm
3以下程度であってもよい。
【0072】
次に、イオン注入用マスク23を除去した後、
図8に示すように、アニール処理により、n
+型カソード領域4、p型カソード領域5およびn型FS層7を活性化させる。次に、
図9に示すように、半導体基板10のおもて面10bにアノード電極3を形成し、裏面10aにカソード電極8を形成する。その後、半導体ウエハをチップ状に切断(ダイシング)して個片化することで、
図1に示すダイオードが完成する。
【0073】
以上、説明したように、実施の形態1によれば、半導体基板の裏面に平行な方向にn
+型カソード領域に隣接してp型カソード領域を設けることで、ダイオードの逆回復時に、カソード電極からp型カソード領域にホールが注入され、カソード側のホール濃度が高くなる。これにより、カソード側の電界が緩和され、逆回復時における電圧・電流波形の発振が抑制されるため、逆回復損失を低減させることができる。また、最もカソード側のn型FS層の不純物濃度のピーク位置からp型カソード領域とn型FS層との境界までの距離および不純物濃度分布を上記条件の範囲内に設定して正孔の注入効率を調整することで、定常状態での順バイアス時に、n
-型ドリフト層のアノード層側のホール濃度が低く、その分、カソード側のホール濃度が高くなる。このため、順方向電圧Vfが高くなることを防止することができる。したがって、順方向電圧の低減と逆回復損失の低減とのトレードオフ関係を改善させることができる。
【0074】
また、実施の形態1によれば、深さ方向に不純物濃度のピーク位置の異なる複数のn型FS層を備えることで、逆回復時に、p型アノード層とn
-型ドリフト層との間のpn接合から伸びる空乏層が広がりにくくなり、p型カソード領域にリーチスルーしにくくなる。このため、逆回復時に、p型アノード層、n
-型ドリフト層およびp型カソード領域からなる寄生のpnpトランジスタが動作してダイオードが破壊に至ることを防止することができる。また、逆回復時、p型アノード層とn
-型ドリフト層との間のpn接合から伸びる空乏層が広がりにくいことで、カソード・アノード間電圧を低く抑えることができるため、逆回復時における電圧・電流波形の発振が抑制される。
【0075】
また、実施の形態1によれば、半導体基板の裏面の全面にp型カソード領域を形成し、p型カソード領域の一部をn型にしてn
+型カソード領域を形成することで、イオン注入のばらつきやマスクずれ等によらず、p型カソード領域とn
+型カソード領域とを確実に接触させることができる。
【0076】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2にかかる半導体装置の構造について説明する。
図10は、実施の形態2にかかる半導体装置の要部の構造を示す断面図である。
図10には、半導体基板10の裏面10aの構成を示し、おもて面10bの構成を図示省略する。また、n型FS層7については、n型FS層7a、7b(
図1,2参照)の不純物濃度のピークP
1,P
2のみを図示する。実施の形態2にかかる半導体装置が実施の形態1にかかる半導体装置と異なる点は、カソード層6を構成するn
+型カソード領域4およびp型カソード領域41において、p型カソード領域41の厚さX
11をn
+型カソード領域4の厚さX
13よりも薄くした点である。
【0077】
n型FS層7aの、深さ方向にp型カソード領域41に対向する部分52は、n
+型カソード領域4とn型FS層7aとの界面よりも半導体基板10の裏面10a側に厚さX
14(=X
13−X
11)で突出している。逆回復時、アノード電極3から供給された電子51がn
+型カソード領域4へ移動する際に、n型FS層7aの、深さ方向にp型カソード領域41に対向する部分52で形成される抵抗(拡散層抵抗)53での0.7Vの電圧降下により、この部分52にp型カソード領域41からホールが供給される。これにより、逆回復時における電圧・電流波形の発振がさらに抑制される。
【0078】
図11は、
図10の切断線A1−A2および切断線D1−D2における不純物濃度分布を示す特性図である。
図11には、切断線A1−A2における不純物濃度分布11を実線で示し、切断線D1−D2における不純物濃度分布13を破線で示す。切断線A1−A2における不純物濃度分布11は、実施の形態1と同様である。切断線D1−D2における不純物濃度分布13は、深さX
2よりも深い位置で、切断線A1−A2における不純物濃度分布11に接している。この両不純物濃度分布11,13が接する部分から深い部分の不純物濃度分布は両不純物濃度分布11,13ともに同じであるため、実線でのみ示す。
【0079】
切断線D1−D2における不純物濃度分布13は、半導体基板10の裏面10aから深さ方向にp型カソード領域41およびn型FS層7a,7bを通る部分の不純物濃度分布である。切断線D1−D2における不純物濃度分布13において、半導体基板10の裏面10aから深さX
1までの部分はp型カソード領域41のp型不純物濃度分布であり、半導体基板10の裏面10aから深さX
1より深い部分はn型FS層7のn型不純物濃度分布である。p型カソード領域41とn型FS層7aとの界面の深さX
1は、n
+型カソード領域4とn型FS層7aとの界面の深さX
2よりも半導体基板10の裏面10aから浅い深さに位置する(X
1<X
2)。
【0080】
実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法は、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法において、p型カソード領域5を形成するためのイオン注入22の加速エネルギーを、n
+型カソード領域4を形成するためのイオン注入24の加速エネルギーよりも小さくすればよい。具体的には、p型カソード領域5は、例えば、ドーパントをボロンとし、半導体基板10の裏面10aから加速エネルギー45keV程度で、ドーズ量1×10
14/cm
2程度としたイオン注入により形成されてもよい。n
+型カソード領域4を形成するためのイオン注入24の条件は、実施の形態1と同様である。
【0081】
以上、説明したように、実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態2によれば、p型カソード領域の厚さをn
+型カソード領域の厚さよりも薄くすることで、逆回復時における電圧・電流波形の発振をさらに抑制することができる。
【0082】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3にかかる半導体装置の構造について説明する。
図12は、実施の形態3にかかる半導体装置の要部の構造を示す断面図である。実施の形態3にかかる半導体装置が実施の形態1にかかる半導体装置と異なる点は、同一の半導体基板10にIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)とダイオードとを形成した点である。
【0083】
すなわち、実施の形態3にかかる半導体装置は、実施の形態1を適用したFS構造のRC−IGBT(Reverse Conducting−IGBT:逆導通型IGBT)である。具体的には、n
-型ドリフト層1となる同一の半導体基板10上に、IGBTを配置したIGBT部61と、FWD(Free Wheeling Diode:フリーホイールダイオード)を配置したFWD部62と、が設けられている。FWD部62のFWDは、実施の形態1にかかる半導体装置(
図1,2参照)であり、IGBT部61のIGBTに逆並列に接続されている。
【0084】
より具体的には、IGBT部61において、半導体基板10のおもて面10bの表面層には、p型ベース領域71が設けられている。トレンチ72は、半導体基板10のおもて面10bから深さ方向にp型ベース領域71を貫通してn
-型ドリフト層1に達する。また、トレンチ72は、例えば、半導体基板10のおもて面10bから見て平面的に、IGBT部61とFWD部62とが並ぶ方向(
図12では紙面横方向)と直交する方向(
図12では紙面奥行き方向)に延びるストライプ状のレイアウトで配置されている。
【0085】
p型ベース領域71は、複数のトレンチ72によって複数の領域(メサ部)に分離されている。トレンチ72の内部には、ゲート絶縁膜73を介してゲート電極74が設けられている。p型ベース領域71の、隣り合うトレンチ72に挟まれたメサ部には、n
+型エミッタ領域75およびp
+型コンタクト領域76(IGBT部61には不図示)がそれぞれ選択的に設けられている。n
+型エミッタ領域75は、トレンチ72の側壁のゲート絶縁膜73を挟んでゲート電極74に対向する。
【0086】
p
+型コンタクト領域76は、n
+型エミッタ領域75よりもメサ部の中央部側に配置され、かつn
+型エミッタ領域75に接する。これらp型ベース領域71、トレンチ72、ゲート絶縁膜73、ゲート電極74、n
+型エミッタ領域75およびp
+型コンタクト領域76によってトレンチゲート構造のMOSゲートが構成されている。隣り合うメサ部の中心間に挟まれた部分で1つの単位セル(素子の構成単位)が構成される。半導体基板10のおもて面10b上には、ゲート電極74を覆うように層間絶縁膜77が設けられている。
【0087】
エミッタ電極78は、層間絶縁膜77を貫通するコンタクトホールを介してn
+型エミッタ領域75およびp
+型コンタクト領域76に接し、p型ベース領域71、n
+型エミッタ領域75およびp
+型コンタクト領域76に電気的に接続されている。また、エミッタ電極78は、層間絶縁膜77によりゲート電極74と電気的に接続されている。半導体基板10の裏面10aの表面層には、p型コレクタ層79が選択的に設けられている。p型コレクタ層79は、後述する中間領域63およびFWD部62に延在している。コレクタ電極80は、p型コレクタ層79に接する。
【0088】
FWD部62において、半導体基板10のおもて面10b側には、IGBT部61と同様に、p型ベース領域71、トレンチ72(トレンチ3内部のゲート絶縁膜73およびゲート電極74も含む)、層間絶縁膜77、エミッタ電極78およびコレクタ電極80が設けられている。p型ベース領域71、エミッタ電極78およびコレクタ電極80は、FWD部62において、それぞれFWDのp型アノード領域、アノード電極およびカソード電極を兼ねており、実施の形態1のp型アノード層2、アノード電極3およびカソード電極8に相当する。FWD部62には、n
+型エミッタ領域75およびp
+型コンタクト領域76は設けられていない。
【0089】
半導体基板10の裏面10aの表面層には、実施の形態1と同様に、カソード層6(n
+型カソード領域4およびp型カソード領域5)が選択的に設けられている。n
+型カソード領域4は、p型コレクタ層79に接する。すなわち、n
+型カソード領域4は、FWD部62の最もIGBT部61側に設けられ、n
+型カソード領域4に対して、p型コレクタ層79と反対側にp型カソード領域5が設けられている。n
+型カソード領域4およびp型カソード領域5は、FWD部62において半導体基板10の裏面10aに平行な方向に交互に繰り返し設けられていてもよい。
【0090】
p型カソード領域5の不純物濃度は、本発明をRFC構造のダイオードに適用する場合(実施の形態1,2に相当)に比べて低めに設定される。具体的には、p型カソード領域5は、例えば、ドーパントをボロンとし、半導体基板10の裏面10aから加速エネルギー45keV程度で、ドーズ量2×10
13/cm
2程度としたイオン注入により形成される。特に限定しないが、p型コレクタ層79の幅(半導体基板10の裏面10aに平行な方向の幅)w1は、例えば500μm以下程度である。カソード層6の幅w2は、例えば200μm以下程度である。n
+型カソード領域4およびp型カソード領域5の幅w11,w12は、例えば50μm以下程度である。
【0091】
n
-型ドリフト層1の内部には、半導体基板10の裏面10aからカソード層6よりも深い部分に、n型FS層81が設けられている。n型FS層81は、実施の形態1のn型FS層7に相当する。n型FS層81は、実施の形態1と同様に複数(ここでは4つ)配置されている。
図12には、複数のn型FS層81の不純物濃度のピークP
1〜P
4のみを図示する。n型FS層81は、IGBT部61からFWD部62にわたって設けられている。
【0092】
また、n
-型ドリフト層1の内部には、FWD部62において、p型アノード領域(p型ベース領域71)との境界付近およびカソード層6との境界付近にそれぞれ、例えばヘリウム照射によりライフタイムキラーとなる結晶欠陥82,83が導入されていてもよい。結晶欠陥82,83は、IGBT部61の、中間領域63との境界付近にまで延在させてもよい。カソード層6との境界付近に導入された結晶欠陥83は、実施の形態1の結晶欠陥9に相当する。
【0093】
IGBT部61とFWD部62との間には、中間領域63が設けられている。中間領域63には、n
+型エミッタ領域75が設けられていない。中間領域63は、FWD部62のFWDが動作するときに、FWD部62よりもキャリア濃度を低くし、IGBT部61のIGBTへの動作の干渉を減らす機能を有する。半導体基板10の、p型ベース領域71、p型コレクタ層79およびカソード層6以外の部分がn
-型ドリフト層1となる。
【0094】
また、FWD部62のFWDとして、実施の形態2にかかる半導体装置(
図10,11)を適用してもよい。
【0095】
以上、説明したように、実施の形態2によれば、RC−IGBTに適用した場合においても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0096】
(実施例1)
次に、上述した実施例(
図1に示す複数回のプロトン注入による複数のn型FS層7を備えたRFC構造のダイオード)のカソード・アノード間電圧V
KAの波形についてシミュレーションにより検証した。
図13は、ダイオードの逆回復時におけるカソード・アノード間電圧を示す特性図である。
図14は、ダイオードの逆回復時におけるカソード・アノード間電圧の波形の一例を示す特性図である。
図13の横軸は、電源電圧V
busである。
図13の縦軸は、カソード・アノード間電圧V
KAの発振時の最大電圧V
KA#peakから電源電圧V
busを減算した値(=V
KA#peak−V
bus)である。
【0097】
図13には、比較として、上述した従来例(リン等のイオン注入による1つのn型FS層を備えたRFC構造のダイオード)のカソード・アノード間電圧V
KAの特性図も示す。カソード・アノード間電圧V
KAの発振時の最大電圧V
KA#peakとは、逆回復時に発振して電源電圧V
busよりも高くなり、その後、電源電圧V
busにおちつくまでの期間内におけるカソード・アノード間電圧V
KAの最大電圧である。具体的には、実施例のカソード・アノード間電圧V
KAの発振時の最大電圧V
KA#peakは、
図14に示すように、カソード・アノード間電圧V
KAが電源電圧V
busにおちつく前の、電源電圧V
busよりも高い最大電圧V
1に相当する。従来例のカソード・アノード間電圧V
KAの発振時の最大電圧V
KA#peakは、
図14に示すように、カソード・アノード間電圧V
KAが電源電圧V
busにおちつく前の、電源電圧V
busよりも高い最大電圧V
2に相当する。
【0098】
図13に示す結果より、実施例は、従来例よりもカソード・アノード間電圧V
KAの発振時の最大電圧V
KA#peakを低減させることができることが確認された。
【0099】
(実施例2)
次に、上述した実施例について、順方向電圧Vfの低減と逆回復損失Errの低減とのトレードオフ関係についてシミュレーションにより検証した。
図15は、ダイオードの順方向電圧と逆回復損失との関係を示す特性図である。
図16は、ダイオードの順バイアス時のホール濃度分布を示す特性図である。
図16には、
図15の円形枠E1で囲んだ順方向電圧条件でのホール濃度分布を示す。
図16の横軸は半導体基板10の裏面10a(深さ=0μm)から深さ方向への深さであり、縦軸は半導体基板10内のホール濃度である。
【0100】
図15に示す結果より、実施例は、順方向電圧Vfを同じ条件とした従来例と比較して、逆回復損失Errを低減させることができることが確認された。また、
図16に示すように、実施例は、定常状態での順バイアス時にn
-型ドリフト層1(バルク基板(半導体基板10)の不純物濃度のままの部分:円形枠E2で囲む部分)のホール濃度が従来例よりも小さくなることが確認された。図示省略するが、他の順方向電圧条件時においても同様の結果となった。
図16に示す結果からも、実施例は、従来例よりも逆回復損失Errを低減させることができることが確認された。
【0101】
図示省略するが、実施の形態2,3にかかる半導体装置においても実施例と同様の結果となる。
【0102】
(実施の形態4)
次に、実施の形態4にかかる半導体装置の構造について説明する。
図18は、実施の形態4にかかる半導体装置のネットドーピング濃度分布を示す特性図である。実施の形態4にかかる半導体装置が実施の形態1にかかる半導体装置と異なる点は、複数のn型FS層に代えて、n
-型ドリフト層1の内部に、プロトンによる水素ドナーにより形成された所定のネットドーピング濃度分布203を有する1つのn型バッファ層211が選択的に設けられている点である。n型バッファ層211は、実施の形態1と同様に、水素ドナー層である。
【0103】
n型バッファ層211は、上凸部212と、下凸状部213と、からなるネットドーピング濃度分布203を有する。n型バッファ層211のネットドーピング濃度分布203の上凸部212は、n型バッファ層211のネットドーピング濃度がピーク値C
P11となる深さX
P11からアノード側(p型アノード層2側)に向かって上に凸か略線形に減少する部分である。n型バッファ層211のネットドーピング濃度がピーク値C
P11となる深さX
P11は、水素ドナー以外のドナー濃度(リン、砒素など)がn型バッファ層211の水素ドナー濃度と略同じとなる位置であってもよい。
【0104】
n型バッファ層211のネットドーピング濃度分布203の下凸状部213は、上凸部212のアノード側に上凸部212に連続して形成され、アノード側に深くなるにしたがってネットドーピング濃度が低濃度側に凸状(
図18の下に凸)に湾曲して徐々に減少する部分である。なお、濃度を示す縦軸は対数スケールであり、深さを示す横軸はリニアスケールである。縦軸の単位は、例えば(/cm
3)である。
【0105】
縦軸が対数スケールで、n型バッファ層211のネットドーピング濃度分布203が下に凸(下凸状部213の分布)であると、p型アノード層2とn
-型ドリフト層1とのpn接合から伸びる空乏層がn型バッファ層211に達した後、電圧増加に対して最初は当該空乏層が極めて徐々に伸長しなくなり、さらに電圧増加に対して少しずつ伸長の抑制度合が高くなる。濃度を示す軸が対数スケールにおいてn型バッファ層211のネットドーピング濃度分布203が下に凸である限り、当該空乏層の伸長の抑制度合は極めて低く維持できる。これにより、電圧波形では変化率dV/dtを十分低くでき、いわゆるソフトな波形となる。
【0106】
一方、n型バッファ層211のネットドーピング濃度分布203が対数スケールで上に凸(上凸部212の分布)に変化すると、p型アノード層2とn
-型ドリフト層1とのpn接合から伸びる空乏層の伸長は急激に抑制されるようになる。このため、当該空乏層がn型バッファ層211に達すると、電圧波形の変化率dV/dtは急激に増加し、いわゆるハードな波形となる。このため、n型バッファ層211のネットドーピング濃度分布203において上凸部212が分布する長さX
31を下凸状部213が分布する長さX
33よりも短くすると、p型アノード層2とn
-型ドリフト層1とのpn接合から空乏層の伸長のソフトな抑制効果に対して有効である。
【0107】
対数スケールで、n型バッファ層211のネットドーピング濃度分布203が上に凸から下に凸に変化する位置は、例えばn型バッファ層211のネットドーピング濃度が、半導体基板10のベースドーピング濃度N
0の7倍から10倍の範囲となる位置である。n型バッファ層211のネットドーピング濃度分布203が上に凸から下に凸に変化する位置は特に半導体基板10(バルク基板)のベースドーピング濃度(n
-型不純物濃度)N
0の8倍に一致する位置でもよく、この位置を上凸部212と下凸状部213との境界の深さX
21としてよい。
【0108】
n型バッファ層211のネットドーピング濃度が半導体基板10のベースドーピング濃度N
0の2倍となる深さX
25は、n型バッファ層211を構成する水素ドナー濃度(水素ドナー濃度分布223のドナー濃度)が半導体基板10のベースドーピング濃度N
0と一致する位置である。n型バッファ層211のネットドーピング濃度は、水素ドナー濃度と半導体基板10のベースドーピング濃度N
0との和であるからである。n型バッファ層211のネットドーピング濃度分布203の下凸状部213は、n型バッファ層211のネットドーピング濃度が半導体基板10のベースドーピング濃度N
0の8倍(=8N
0)となる深さX
21から半導体基板10のベースドーピング濃度N
0と略一致する深さX
22の範囲であってよい。
【0109】
図18には、半導体基板10の裏面10aから深さ方向にn
+型カソード領域4およびn型バッファ層211を通る部分(
図1において、複数のn型FS層に代えて1つのn型バッファ層211を設けた構造とした場合における切断線A1−A2に相当する部分)における不純物濃度分布201を実線で示す。かつ、半導体基板10の裏面10aから深さ方向にp型カソード領域5およびn型バッファ層211を通る部分(
図1において、複数のn型FS層に代えて1つのn型バッファ層211を設けた構造とした場合における切断線B1−B2に相当する部分)における不純物濃度分布202を破線で示す。
【0110】
不純物濃度分布201,202は、一部にn型バッファ層211のネットドーピング濃度分布203を含む。また、不純物濃度分布202は、p型カソード領域5とn型バッファ層211とのpn接合の深さX
20よりも半導体基板10の裏面10aから深い位置(深さX
P12)で、不純物濃度分布201(n型バッファ層211のネットドーピング濃度分布203の上凸部212)に接している。この両不純物濃度分布201,202が接する深さX
P12よりもアノード側に深い部分の不純物濃度分布は両不純物濃度分布201,202ともに同じであるため、実線でのみ示す。
【0111】
不純物濃度分布201(すなわち半導体基板10の裏面10a側がn
+型カソード領域4である部分)におけるn型バッファ層211のネットドーピング濃度のピーク値C
P11は、n
+型カソード領域4の不純物濃度のピーク値C
2よりも低い。不純物濃度分布202(すなわち半導体基板10の裏面10a側がp型カソード領域5である部分)におけるn型バッファ層211のネットドーピング濃度のピーク値C
P12は、p型カソード領域5の不純物濃度のピーク値C
1よりも低く、かつ不純物濃度分布201におけるn型バッファ層211のネットドーピング濃度のピーク値C
P11よりも低い。
【0112】
不純物濃度分布201のn型バッファ層211のネットドーピング濃度分布203において、下凸状部213が分布する長さX
33は、上凸部212が分布する長さX
31よりも長くてもよい。不純物濃度分布201において、下凸状部213が分布する長さX
33とは、上凸部212と下凸状部213との境界の深さX
21から半導体基板10のベースドーピング濃度N
0と一致する深さX
22までの距離である。上凸部212が分布する長さX
31とは、n型バッファ層211のネットドーピング濃度がピーク値C
P11となる深さX
P11から上凸部212と下凸状部213との境界の深さX
21までの距離である。
【0113】
不純物濃度分布201において、n型バッファ層211のネットドーピング濃度がピーク値C
P11となる深さX
P11とは、n
+型カソード領域4とn型バッファ層211との界面であり、n
+型カソード領域4のn型不純物とn型バッファ層211の水素ドナーと濃度の大小関係が逆転する深さ位置である。すなわち、n型バッファ層211のネットドーピング濃度がピーク値C
P11となる深さX
P11を境に、n型の不純物濃度分布201に対する寄与度が半導体基板10の裏面10a側でn
+型カソード領域4のn型不純物が高く、当該ピーク値C
P11となる深さX
P11よりも半導体基板10の裏面10aから深い部分でn型バッファ層211の水素ドナーが高くなっている。
【0114】
不純物濃度分布202のn型バッファ層211のネットドーピング濃度分布203において、下凸状部213が分布する長さX
33は、上凸部212’が分布する長さX
32よりも長くてもよい。不純物濃度分布202において、下凸状部213の長さX
33とは、上凸部212’と下凸状部213との境界の深さX
21から半導体基板10のベースドーピング濃度N
0と一致する深さX
22までの距離である。上凸部212’の長さX
32とは、n型バッファ層211のネットドーピング濃度がピーク値C
P12となる深さX
P12から上凸部212’と下凸状部213との境界の深さX
21までの距離である。
【0115】
不純物濃度分布202において、n型バッファ層211のネットドーピング濃度は、p型カソード領域5とn型バッファ層211とのpn接合の深さX
20からアノード側へ向かうにしたがって山状に高くなってピーク値を示す山状部214を有し、当該山状部214に連続してアノード側に上凸部212’を有し、かつ当該上凸部212’に連続してアノード側に下凸状部213を有する。不純物濃度分布202においてn型バッファ層211のネットドーピング濃度がピーク値C
P12となる深さX
P12とは、n型バッファ層211のネットドーピング濃度の山状部214のピーク値の深さである。
【0116】
実施の形態4を実施の形態2,3に適用してもよい。
【0117】
実施の形態4においては、逆回復時に、p型アノード層2とn
-型ドリフト層1との間のpn接合から伸びる空乏層を、n型バッファ層211のネットドーピング濃度分布203が下凸状部213となっている部分で、当該下凸状部213の存在しないネットドーピング濃度分布のn型バッファ層を設けた場合を比べてゆっくり止めることができる。このn型バッファ層211による効果は、特に、実施の形態4を実施の形態3に適用(すなわち実施の形態4をRC−IGBTに適用)した場合に有用である。
【0118】
RC−IGBTにおいて、FWD部のFWDの逆回復時に、IGBT部のIGBTのn
+型エミッタ領域とn
-型ドリフト領域(n
-型ドリフト層)とが短絡して、n
+型エミッタ領域をエミッタとし、p型ベース領域をベースとし、n
-型ドリフト領域をコレクタとする寄生npnバイポーラトランジスタが動作したとする。このとき、n型バッファ層211により、ネットドーピング濃度分布203が下凸状部213となっている部分で、n
-型ドリフト領域のドナー濃度がp型ベース領域とのホール濃度よりも低い状態を維持することができる。これによって、ベース広がり効果(Kirk効果:n
-型ドリフト領域が実質的にベース領域になること)を抑制して、半導体基板10の裏面10a側に最大電界強度が移動することを抑制することができる。
【0119】
次に、実施の形態4にかかる半導体装置の製造方法について説明する。
図19は、実施の形態4にかかる半導体装置の製造途中の状態を示す説明図である。
図19(a)は、
図18のn型バッファ層211を形成するためのプロトン注入221時の状態を模式的に示す断面図である。
図19(b)は、
図19(a)のプロトン注入221による水素ドナーのネットドーピング濃度分布203’である。
図19(a),19(b)の横軸は、
図18の半導体基板10の裏面10a(深さ=0μm)からの深さに対応している(
図20(a),20(b)の横軸も同様)。なお、
図19では、n
+型カソード領域4とp型カソード領域5(
図1参照)を図示省略している。
【0120】
まず、実施の形態1と同様に、n
-型の半導体基板10を用意し、p型アノード層2の形成から半導体基板10の裏面10aの研削までの工程を順に行う。次に、半導体基板10の研削後の裏面10aから1つの加速エネルギーで一回のプロトン注入221か、あるいは異なる加速エネルギーでの複数回(複数段)のプロトン注入221を行い合わせるかによって、半導体基板10の裏面10aから所定の深さX
22に達する1つのn型バッファ層211を形成する。
【0121】
図19(b)に示すプロトン注入221による水素ドナーのネットドーピング濃度分布203’は、n
+型カソード領域4およびp型カソード領域5の形成前におけるn型バッファ層211のネットドーピング濃度分布である。n型バッファ層211のネットドーピング濃度分布は、後述するように後の工程でn型バッファ層211の表面層にn
+型カソード領域4およびp型カソード領域5が形成されることで、
図18に示すネットドーピング濃度分布203となる。n
+型カソード領域4のドナーは例えばリンや砒素であり、p型カソード領域5のアクセプタは例えばボロンである。
【0122】
この1回または複数回のプロトン注入221は、半導体基板10の裏面10a側に半導体基板10と所定間隔dをあけて配置したアブソーバー222を介して半導体基板10の裏面10aの全面に行う。半導体基板10の裏面10aからのプロトンの飛程Rpは、所定の厚さtに設定したアブソーバー222にプロトンの運動エネルギーを吸収させることで調整する。アブソーバー222は、例えばアルミニウムなどでできた板状部材である。
【0123】
また、半導体基板10の裏面10aからのプロトンの飛程Rp(すなわちプロトン注入221による水素ドナーのネットドーピング濃度分布203’のピーク値の深さ位置)は、半導体基板10の裏面10aよりもアブソーバー222側(すなわち半導体基板10の外側)に設定する。また、複数回のプロトン注入221の場合は、それぞれ異なる加速エネルギーで行い、すべてのプロトン注入221でプロトンの飛程Rpを同じにする。プロトン注入221でプロトンの飛程Rpは、半導体基板10(シリコン基板)の裏面10aの表層面よりも、アブソーバー222側に位置するように設定してもよい。
【0124】
具体的には、アブソーバー222を介して例えば3回のプロトン注入221を行うとする。この場合、当該3回のプロトン注入221の加速エネルギーは、例えば2MeV以上程度であり、それぞれ4MeV程度、8MeV程度および16MeV程度であってもよい。プロトン注入221によるプロトンの飛程Rpは、半導体基板10の裏面10aからアブソーバー222側に、加速エネルギーで決まる半値半幅の0.5倍から半値半幅の3.0倍の範囲の値の位置であってもよい。半値半幅とは、半導体基板10に注入されるプロトンの濃度分布において、プロトン濃度がピークとなる位置から、プロトン濃度がピークの半値となる深さ方向のアブソーバー222側またはアブソーバー222側に対して反対側の位置までの長さである。
【0125】
例えば、半導体基板10がシリコン基板であるとすると、プロトンの加速エネルギーが2MeVである場合、半値半幅は約1μmである。このため、プロトン注入221によるプロトンの飛程Rpは、半導体基板10の裏面10aからアブソーバー222側に、0.5μm以上3.0μm以下程度であってもよい。プロトンの加速エネルギーが4MeVである場合、半値半幅は約3μmである。このため、プロトン注入221によるプロトンの飛程Rpは、半導体基板10の裏面10aからアブソーバー222側に、1.5μm以上9.0μm以下程度であってもよい。プロトンの加速エネルギーが8MeVである場合、半値半幅は約10μmである。このため、プロトン注入221によるプロトンの飛程Rpは、半導体基板10の裏面10aからアブソーバー222側に、5.0μm以上30μm以下程度であってもよい。プロトンの加速エネルギーが16MeVである場合、半値半幅は約30μmである。このため、プロトン注入221によるプロトンの飛程Rpは、半導体基板10の裏面10aからアブソーバー222側に、15μm以上90μm以下程度であってもよい。また、複数回のプロトン注入221の場合、プロトン注入221によるプロトンの飛程Rpは、半導体基板10の裏面10aからアブソーバー222側に、複数回のプロトン注入221の中で最も低い加速エネルギーにおける半値半幅の0.5倍から半値半幅の3.0倍の範囲の値であってもよい。
【0126】
また、半導体基板がシリコンカーバイド(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンド、酸化ガリウム(Ga
2O
3)であっても、それぞれの場合で、プロトン注入221によるプロトンの飛程Rpは、半導体基板10の裏面10aからアブソーバー222側に、加速エネルギーで決まる半値半幅の0.5倍から半値半幅の3.0倍の範囲の値の位置であってもよい。
【0127】
このようにアブソーバー222を所定の厚さtに設定することで、プロトン注入221におけるプロトンの飛程Rpを調整する。当該プロトン注入221による水素ドナーのネットドーピング濃度分布203’にn
+型カソード領域4およびp型カソード領域5の各ネットドーピング濃度分布が重なって、n型バッファ層211のネットドーピング濃度分布203に上述した上凸部212および下凸状部213が形成される(
図8参照)。
【0128】
プロトン注入221による水素ドナーのネットドーピング濃度分布203’において、半導体基板10の裏面10a(深さ=0[μm])におけるネットドーピング濃度は、プロトン注入221によるプロトンの飛程Rp(深さ=−Rp[μm])の位置におけるネットドーピング濃度の10%以下であってもよい。
【0129】
図19(b)の水素ドナー濃度分布223および水素化学濃度分布224の、半導体基板10の外側(横軸の深さが0μm未満の部分)に図示された部分は、プロトン注入221のプロトンの飛程Rpの位置が明確になるように、プロトンの飛程Rpからのプロトンの拡がりを示すガウス分布を半導体基板10の外側にも仮想的に図示した仮想線である。
【0130】
すなわち、
図19(b)の水素ドナー濃度分布223および水素化学濃度分布224の、半導体基板10の外側に図示された部分は、プロトン注入221のエネルギーがアブソーバー222に吸収されることで、実際には半導体基板10にプロトン注入221されない部分である。このため、
図19(b)において横軸の深さが0μm未満の部分には、部材や物質、不純物濃度分布は存在しない。
【0131】
水素ドナー濃度が半導体基板10のベースドーピング濃度N
0以上となる領域(すなわち半導体基板10の裏面10aから水素ドナー濃度が半導体基板10のベースドーピング濃度N
0と一致する深さX
22までの領域)が、プロトン注入221により水素ドナーがネットドーピングされた領域である。この領域において、n
+型カソード領域4およびp型カソード領域5のネットドーピング濃度よりも水素ドナー濃度が低い深さでの水素ドナー濃度は、例えば次のように算出される。
【0132】
水素ドナー濃度が半導体基板10のベースドーピング濃度N
0以上となる領域において、水素ドナー濃度を水素化学濃度で除算して、水素ドナーのドナー化率を予め算出する(水素ドナーのドナー化率=水素ドナー濃度/水素化学濃度)。ドナー化率は深さに依存する場合もあるが、その平均値であってもよい。
図19(b)には、水素ドナー濃度分布、水素化学濃度分布、および、半導体基板10のベースドーピング濃度分布は、それぞれ符号223〜225を付した破線で示す(
図20,22においても同様)。
【0133】
この水素ドナーのドナー化率を、n
+型カソード領域4のn型不純物のネットドーピング濃度およびp型カソード領域5のp型不純物のネットドーピング濃度よりもn型バッファ層211のネットドーピング濃度が低い深さでの水素化学濃度に乗算する。これによって、n
+型カソード領域4およびp型カソード領域5のネットドーピング濃度よりもn型バッファ層211のネットドーピング濃度が低い深さでの水素ドナー濃度が容易に算出可能である。
【0134】
水素化学濃度とは、プロトン注入221により半導体基板10に導入されたプロトン(水素(ドナー化されていない水素を含む))の濃度である。半導体基板10の内部の水素化学濃度は、例えば、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)で測定可能である。
【0135】
水素ドナー濃度とは、半導体基板10に導入されたプロトン(水素)のうち、ドナー化された水素(水素ドナー)のみの濃度である。半導体基板10の内部の水素ドナー濃度は、拡がり抵抗(SR:Spreading Resistance)測定、容量−電圧(CV:Capacitance−Voltage)測定および深い準位過渡分光(DLTS:Deep Level Transient Spectroscopy)測定で測定可能である。
【0136】
なお、SR測定においては、プロトン注入221後の半導体基板10のキャリア移動度がプロトン注入221前の半導体基板10のキャリア移動度よりも低下している場合、CV測定と比べて水素ドナー濃度が低くなる。プロトン注入221のプロトンの飛程Rpの位置における水素ドナー濃度は、例えば、水素ドナー濃度分布223をガウス分布と仮定することで、プロトン注入221によるプロトンのドーズ量および加速エネルギーに基づいて算出可能である。
【0137】
次に、実施の形態1と同様に、p型カソード領域5およびn
+型カソード領域4を形成した後、活性化のためのアニール処理を行う。活性化のためのアニール処理の温度は、例えば、330℃以上程度、好ましくは350℃以上程度、より好ましくは380℃以上程度とすることがよい。その理由は、半導体基板10の内部にプロトンが拡散して、n型バッファ層211のネットドーピング濃度分布203の下凸状部213がより形成されやすくなるからである。なお、実施の形態1と同様に、p型カソード領域5およびn
+型カソード領域4を形成した後、活性化のためのアニール処理は、それぞれプロトン注入および注入したプロトンの活性化アニール処理よりも前に行っても良い。
【0138】
n型バッファ層211、p型カソード領域5およびn
+型カソード領域4を一括して活性化させることに代えて、n型バッファ層211、p型カソード領域5およびn
+型カソード領域4を形成するごとに活性化のためのアニール処理を行ってもよい。その後、実施の形態1と同様に、アノード電極3またはカソード電極8の形成以降の工程を行うことによって、
図18に示すネットドーピング濃度分布203を有するn型バッファ層211を備えたダイオードが完成する。
【0139】
次に、プロトン注入221による水素ドナーのネットドーピング濃度分布203’と、キャリアライフタイムおよび再結合中心濃度と、の関係について説明する。
図20は、
図18のネットドーピング濃度分布に対するキャリアライフタイム分布および再結合中心濃度分布の関係を示す特性図である。
図20(a)には、
図19(b)に示すプロトン注入221による水素ドナーのネットドーピング濃度分布203’を示す。
図20(b)には、
図20(a)のネットドーピング濃度分布203’に対応するキャリアライフタイム分布および再結合中心濃度分布を示す。なお、
図20では、n
+型カソード領域4とp型カソード領域5(
図1参照)を図示省略している。
【0140】
図20(b)に示すように、半導体基板10の内部において、半導体基板10のキャリアライフタイム(以下、バルクキャリアライフタイムとする)τ0のままの第1領域231と、当該第1領域231よりも半導体基板10の裏面10a側で、かつバルクキャリアライフタイムτ0よりもキャリアライフタイムの短い第2領域232と、の境界233の深さX
23は、n型バッファ層211のネットドーピング濃度分布203(水素ドナーのネットドーピング濃度分布203’)の下凸状部213のネットドーピング濃度が半導体基板10のベースドーピング濃度N
0と一致する深さX
22よりも、半導体基板10のおもて面10b側に位置していてもよい。この深さX
23に当該境界233を位置させるには、半導体基板10の内部において、半導体基板10の裏面10aから水素化学濃度分布(水素原子の分布)224が半導体基板10のベースドーピング濃度N
0と一致する深さX
24よりも半導体基板10のおもて面10b側に深い位置(深さX
23)まで再結合中心を分布させればよい。
【0141】
半導体基板10の裏面10aから水素化学濃度分布224が半導体基板10のベースドーピング濃度N
0と一致する深さX
24の位置は、n型バッファ層211のネットドーピング濃度分布203の上凸部212,212’と下凸状部213との境界の深さX
21よりも半導体基板10のおもて面10b側に位置してよい。さらに、半導体基板10の裏面10aから水素化学濃度分布224が半導体基板10のベースドーピング濃度N
0と一致する深さX
24の位置は、n型バッファ層211のネットドーピング濃度が半導体基板のベースドーピング濃度N
0の2倍となる深さX
25よりも半導体基板10のおもて面10b側に位置してよい。
【0142】
半導体基板10の裏面10aから水素化学濃度分布224が半導体基板10のベースドーピング濃度N
0と一致する深さX
24よりも半導体基板10のおもて面10b側に深い位置まで再結合中心を分布させるには、n型バッファ層211を形成するためのプロトン注入221においては、加速エネルギーを過剰に高くして過剰な運動エネルギーをプロトンに与え、プロトンに与えた過剰な運動エネルギーを上述したようにアブソーバー222で吸収させてから当該プロトンを半導体基板10に注入する。加速エネルギーを過剰に高くするとは、すなわちアブソーバーで運動エネルギーを吸収させなければ、半導体基板10の所定の深さよりもプロトンの飛程Rpがさらに深くなる程度、あるいは、プロトンが半導体基板10を突き抜ける程度に、加速エネルギーを高くすることであってもよい。
【0143】
このようにプロトン注入221を行うことで、プロトン注入221により半導体基板10に大きな注入ダメージを与えることができ、点欠陥や転位、格子間原子、さらにこれらの度合が強いディスオーダーにより、再結合中心が多量に形成される。これにより、半導体基板10の裏面10aから水素化学濃度分布224が半導体基板10のベースドーピング濃度N
0と一致する深さX
24よりも半導体基板10のおもて面10b側に深い位置(深さX
23)まで再結合中心を分布させることができる。さらに、半導体基板10の裏面10aから水素化学濃度分布224が半導体基板10のベースドーピング濃度N
0と一致する深さX
24よりも半導体基板10のおもて面10b側に深い位置(深さX
23)まで再結合中心を分布させることで、n型バッファ層211のネットドーピング濃度が半導体基板10のベースドーピング濃度N
0と一致する深さX
22におけるライフタイムτbをτ0より低くすることができる。
【0144】
第1領域231には、再結合中心は形成されていない。このため、第1領域231のキャリアライフタイムは、バルクキャリアライフタイムτ0となる。このように半導体基板10の内部に再結合中心を分布させることで、n型バッファ層211のキャリアライフタイムは、バルクキャリアライフタイムτ0、または、半導体基板10の内部で最も長いキャリアライフタイム(不図示)よりも短くなる。これにより、IGBTのオン電圧低減とターンオフ損失低減とのトレードオフ関係を改善させることができる。また、ダイオードのターンオフ時に少数キャリアを蓄積するために逆回復特性により一時的に流れる電流(テール電流)を小さくすることができ、スイッチング損失を低減させることができる。
【0145】
半導体基板10の内部のキャリアライフタイムは、例えば、半導体基板10の裏面10aから水素化学濃度分布224が半導体基板10のベースドーピング濃度N
0と一致する深さX
24で最も短い値τm1となる。半導体基板10の内部の最短キャリアライフタイムτm1は、半導体基板10の裏面10a付近のキャリアライフタイムτsよりも短くてもよい。最短キャリアライフタイムτm1は、半導体基板10の裏面10a付近のキャリアライフタイムτsよりも短くすることができる。その理由は、次の通りである。
【0146】
半導体基板10には、プロトン注入221により、半導体基板10の裏面10a付近で水素化学濃度が最も高く、かつ半導体基板10の裏面10aから離れるほど水素化学濃度が低くなる水素化学濃度分布224で水素原子が導入される。半導体基板10の水素原子は、点欠陥のダングリングボンド(未結合手)を終端する。このため、n型バッファ層211のネットドーピング濃度がピーク値C
P11となる深さX
P11付近の領域と比べて、半導体基板10の裏面10a付近で多く点欠陥のダングリングボンドが水素原子で終端される。これによって、半導体基板10の裏面10a付近での再結合中心濃度は、n型バッファ層211のネットドーピング濃度がピーク値C
P11となる深さX
P11での再結合中心濃度よりも小さくなるからである。
【0147】
n型バッファ層211のネットドーピング濃度が半導体基板10のベースドーピング濃度N
0と一致する深さX
22でのキャリアライフタイムτbは、半導体基板10の裏面10a付近のキャリアライフタイムτsよりも長くてもよい。
【0148】
図21は、実施の形態4にかかる半導体装置の別の一例のネットドーピング濃度分布を示す特性図である。
図21に示す実施の形態4にかかる半導体装置の別の一例が
図18に示す実施の形態4にかかる半導体装置と異なる点は、n
-型ドリフト層1の内部においてn型バッファ層211よりも半導体基板10の裏面10aから深い部分に、n型バッファ層211と離して、プロトン注入による1つ以上のn型FS層215が選択的に設けられている点である。
図21には、n型FS層215を1つ備える場合を示す。
【0149】
n型FS層215の厚さX
42は、半導体基板10の裏面10a側がn
+型カソード領域4である部分のn型バッファ層211の厚さX
41よりも厚くてもよい。この場合、複数回のプロトン注入221(
図19(a)参照)のうち、n型バッファ層211を形成するためのプロトン注入221の加速エネルギーよりも、n型FS層215を形成するためのプロトン注入221の加速エネルギーを高くする。
【0150】
または、n型FS層215の厚さX
42は、半導体基板10の裏面10a側がp型カソード領域5である部分のn型バッファ層211の厚さX
41’よりも薄くてもよい。この場合、n型FS層215を形成するためのプロトン注入は、n型バッファ層211を形成するためのプロトン注入221よりも加速エネルギーを低くし、アブソーバー222を用いずに行えばよい。
【0151】
半導体基板10の裏面10a側がp型カソード領域5である部分のn型バッファ層211の厚さX
41’は、半導体基板10の裏面10a側がn
+型カソード領域4である部分のn型バッファ層211の厚さX
41よりも薄い。n型FS層215の不純物濃度のピーク値C
P13は、n型バッファ層211のネットドーピング濃度のピーク値C
P11,C
P12よりも低くてもよい。
【0152】
n型FS層215は、実施の形態1と同様に、水素ドナー層である。n型FS層215を2つ以上設ける場合、実施の形態1のn型FS層と同様に、当該2つ以上のn型FS層215は、半導体基板10の裏面10aから異なる深さに、深さ方向に対向するように配置される。
【0153】
このようにn型バッファ層211よりも半導体基板10の裏面10aから深い部分に、プロトン注入による1つ以上のn型FS層215を設けることで、サージ電圧によりIGBTが自己クランプしてターンオフしアバランシェ状態が続く期間における破壊耐量を向上させることができる。また、ダイオードの逆回復時の電圧・電流波形の発振を抑制することができる。
【0154】
次に、
図21に示す実施の形態4にかかる半導体装置の別の一例において、
図21のn型バッファ層211およびn型FS層215を形成するためのプロトン注入による水素ドナーのネットドーピング濃度分布203’,204’と、キャリアライフタイムおよび再結合中心濃度と、の関係について説明する。
図22は、
図21のネットドーピング濃度分布に対するキャリアライフタイム分布および再結合中心濃度分布の関係を示す特性図である。
【0155】
図22(a)には、
図21のn型バッファ層211およびn型FS層215を形成するためのプロトン注入による水素ドナーのネットドーピング濃度分布203’,204’を示す。
図22(b)には、
図22(a)のネットドーピング濃度分布203’,204’に対応するキャリアライフタイム分布および再結合中心濃度分布を示す。
図22(a),22(b)の横軸は、
図21の半導体基板10の裏面10a(深さ=0μm)からの深さに対応している。
【0156】
図21に示す実施の形態4にかかる半導体装置の別の一例の再結合中心濃度分布が
図18に示す実施の形態4にかかる半導体装置の再結合中心濃度分布と異なる点は、n型FS層215付近で再結合中心濃度が高くなっている点である。この再結合中心濃度分布は、n型FS層215を、n型バッファ層211と同様にアブソーバー222を用いてプロトン注入221によって形成することで実現可能である。n型FS層215を設けることで、n型FS層215を設けない場合と比べて、第1領域231と第2領域232との境界233の深さX
23’を半導体基板10のおもて面10b側に近づけることができる。
【0157】
また、n型FS層215付近の水素化学濃度は、n型バッファ層211付近の水素化学濃度よりも低い。このため、n型FS層215付近においては、n型バッファ層211付近と比べて、点欠陥のダングリングボンドが水素原子で十分に終端されない。したがって、n型FS層215付近の再結合中心濃度は、n型バッファ層211のネットドーピング濃度が半導体基板10のベースドーピング濃度N
0と一致する深さX
22での再結合中心濃度よりも高くなっている。これによって、n型FS層215付近のキャリアライフタイムτm2を、n型バッファ層211のネットドーピング濃度が半導体基板10のベースドーピング濃度N
0と一致する深さX
22でのキャリアライフタイムτbよりも短くすることができる。
【0158】
以上、説明したように、実施の形態4によれば、複数のn型FS層に代えて、プロトンによる水素ドナーにより形成された1つのn型バッファ層を設けた場合においても、実施の形態1〜3と同様の効果を得ることができる。
【0159】
以上において本発明は、上述した各実施の形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上述した各実施の形態では、4つのn型FS層を配置した場合を例に説明しているが、n型FS層の個数は設計条件に合わせて種々変更可能である。また、各電極は、1つの金属膜からなる単層構造であってもよいし、複数の金属膜を積層した積層構造であってもよい。また、本発明は、導電型(n型、p型)を反転させても同様に成り立つ。