(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1〜
図12を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る音響処理装置は、主として弦に垂直な方向の弦振動によって楽音を発するギターや三味線、ピアノなどの撥弦楽器や打弦楽器(楽器)に適用することができる。以下では、本実施形態に係る音響処理装置をアコースティックギターに適用した例について説明する。
図1は、本実施形態に係る音響処理装置が適用されるアコースティックギター1(以下、単に楽器と称する場合もある)の正面図であり、
図2は、本発明の実施形態に係る音響処理装置の構成を概略的に示す図、
図3は、
図1の側面図である。
【0009】
図1に示すように、楽器1には複数(例えば6本)の弦2が備えられ、弦2が演奏者によって弾かれて振動するとき、弦振動によって楽音を発する。楽器1は、ヘッド1Aと、ボディ1Bと、ヘッド1Aとボディ1Bとを接続するネック1Cとを有する。弦2は、長さ方向一端部がヘッド1Aとネック1Cとの境界部に設けられたナット3で、長さ方向他端部がボディ1Bに設けられたサドル4で支承される。ナット3とサドル4との間のネック1Cの上面には、複数のフレット5が設けられる。ナット3、サドル4、フレット5は、弦2の長さ方向に対して垂直な方向に延在し、互いに平行に突設される。
【0010】
弦2は、演奏者によって弾かれるとき、ナット3とサドル4との間、または演奏者によって押さえられたフレット5とサドル4との間で振動して楽音を発する。弦2の張力やフレット5の間隔は、適宜な音高の楽音に対応した振動を生じるように、楽器製作者によって予め設定される。弦2の張力は、演奏者がペグ6によって微調整することができる。アコースティックギターの楽音には、弦2の振動(弦振動)によって空気が振動することで発せられる音(便宜上、第1音と称する)と、弦振動がボディ1Bの表面に伝播して振動することで発せられる音(便宜上、第2音と称する)と、ボディ1Bのサウンドホール7を通じて発せられる音(便宜上、第3音と称する)とが含まれる。
【0011】
図2に示すように、音響処理装置10は、撮影部11と、制御部12とを備える。撮影部11は、動画撮影可能なデジタルカメラなどにより構成される。本実施形態では、一対の撮影部11(第1撮影部11A、第2撮影部11B)を有する。以下、まず撮影部11の構成について説明する。なお、第1撮影部11Aと第2撮影部11Bの構成は互いに同一である。撮影部11は、撮像素子としてCMOS画像センサを有する。
【0012】
図4は、撮影部11に含まれるCMOS画像センサの構成を示す図である。
図4に示すように、CMOS画像センサ110は、2次元に配列された複数の画素111と、読み出し回路112とを有する。各画素111には、光を受光して電荷に変換(光電変換)するフォトダイオード(光電変換部)1111と、フォトダイオード1111によって光電変換された電荷を電圧に変換して増幅する増幅器1112とが設けられる。
【0013】
読み出し回路(読み出し部)112は、各増幅器1112に接続された選択スイッチ1121と、同一列に配置された増幅器1112に選択スイッチ1121を介して接続された信号線1122とを備える。読み出し回路112は、同一列上に配置された隣接する選択スイッチ1121を順次オンさせ
ることにより、増幅器1112によって増幅された電圧を2次元に配列された画素111のライン(行)ごとに順次読み出す。
【0014】
CMOS画像センサ110は、上述したようにCCD画像センサのようにCCD転送路を必要としないため、システム構成全体を1つの半導体チップ上に搭載することができる(システムオンチップ)。したがって、画像センサ自体の小型軽量化を容易に実現可能となる。また、本実施形態では、撮影部11にCMOS画像センサを用いるため、画像センサ自体を安価に構成することができる。
【0015】
ところで、CMOS画像センサを使用した撮影では、上述したように選択スイッチのオンオフにより、画像データがラインごとに時間差をもって順次読み出される。このため、高速で運動中の被写体の撮影画像が歪む。この現象をローリングシャッタと呼ぶ。
【0016】
図5は、楽器1が発する楽音の音高(周波数、単位:Hz)を示す図である。より具体的には、音名ごとの周波数を示している。オクターブの違いを表すために、MIDIノート番号も示している。本実施形態では、楽器1の基準音として、例えばMIDIノート番号69の、音名Aの音を用いる。このとき、基準音の周波数は440Hzとなる。すなわち、基準音を発するとき、弦2は1秒間に440回振動する。
【0017】
ところで、一般的なビデオカメラが1秒間に撮影する画像の枚数は例えば30枚である(フレームレート:30fps)。このため、1秒間に440回振動する弦2を一般的なビデオカメラを用いて撮影し、その画像から振動の状態を特定することは難しい。これに対し、1秒間に数百〜数万枚の画像を撮影可能なハイスピードカメラ(フレームレート:数百〜数万fps)を用いて1秒間に440回振動する弦2を撮影し、その画像から振動の状態を特定することは可能である。しかしながら、ハイスピードカメラは大型で重量が大きく、しかも高価である。
【0018】
一方、CMOS画像センサを使用した撮影では、ローリングシャッタの現象により、30fpsなどの比較的低いフレームレートでも、高速で振動中の弦の波形を明瞭に視覚化することができる。例えば、CMOS画像センサを用いて演奏中のギターの弦を撮影すると、撮影画像は、発している楽音に対応した波形となる。すなわち、演奏中の弦の波形は、楽音の音高が低いほど波長が長く、高いほど波長が短くなり、音量の大小によって振幅の大小も変化する。
【0019】
なお、
図5に示すように、楽器1が発する楽音の周波数は、いずれも30(フレームレートに相当)の公倍数ではないので、カメラの撮影周期と重なることがない。このため、カメラの撮影周期と振幅ゼロのタイミングとが仮に重なったとしてもその重なりは連続することはない。よって、本実施形態の音響処理装置10によれば、撮影部11で弦2の振動波形を確実に撮影することができる。
【0020】
図6は、本実施形態に係る音響処理装置10に含まれる撮影部11による、弦2の撮影画像の一例を示す図である。この図は、振動中の弦2を、弦2の長さ方向に垂直な方向から、CMOS画像センサ110を使用した撮影部11によって撮影したときの波形に相当する。図中、振動中の弦2を実線で、参考までに非振動時の弦2を破線でそれぞれ示す。楽器1の演奏中における弦2の振動は、発する楽音の音高PITに対応した波長λおよび音量VOLに対応した振幅Aの正弦波として撮影される。
【0021】
図7は、撮影部11による撮影方向を示す、最大振幅状態にある弦2を、弦2の長さ方向(z軸)に垂直な平面xyで切断したときの断面図である。なお、図には非振動時の弦2を仮想線(二点鎖線)で示す。弦2の振動方向は、演奏者が弦2を弾く方向に応じて変化する。
図7に示すように、非振動時の弦2の座標をP
0(0,0)、振動中のある時点での弦2の座標をP
1(x,y)とすると、弦2の振幅Aは、x軸方向(第1撮影方向)から見たときの見かけの振幅A
1(第1振幅成分)と、y軸方向(第2撮影方向)から見たときの見かけの振幅A
2(第2振幅成分)とを合成して算出することができる。具体的には、
図7に示すようにx=見かけの振幅A
2、y=見かけの振幅A
1であるから、振幅Aは、見かけの振幅A
1の二乗と見かけの振幅A
2の二乗との和の平方根として算出することができる。
【0022】
図8は、撮影部11による異なる撮影方向を示す、
図7と同様の弦2の断面図である。
図8に示すように、振幅Aは、x軸方向(第1撮影方向)から見たときの見かけの振幅A
1と、x軸とのなす角がα(0<α<π/2)の方向(第2撮影方向)から見たときの見かけの振幅A
2とに基づいて算出することもできる。具体的には、
図8に示すように点P
1を通り第2撮影方向に平行な直線と、点P
0を通り第2撮影方向に垂直な直線との交点の座標は、(A
2sinα,−A
2cosα)で表される。よって、点P
1を通り第2撮影方向に平行な直線の式は、y−(−A
2cosα)=tanα(x−A
2sinα)で表される。y=見かけの振幅A
1であるから、x=(A
1cosα+A
2)/sinαとなる。従って、振幅Aは、見かけの振幅A
1の二乗と{(A
1cosα+A
2)/sinα}の二乗との和の平方根として算出することができる。
【0023】
図
2に示すように、本実施形態に係る音響処理装置10の制御部12は、機能的構成として、画像処理部121と、音高/音量算出部122と、音色設定部123と、音響データ生成部124とを有する。制御部12は、パーソナルコンピュータや携帯電話端末等により構成することができる。
【0024】
図
2において、撮影部11と制御部12との間は、有線または無線で接続されて、撮影部11で撮影された画像データを含む信号を制御部12に送信することができる。撮影部11にデータ格納部を設けて画像データを格納し、メモリカードなどを介して制御部12に入力するようにしてもよい。
【0025】
制御部12は、有線または無線で音響再生装置13に接続可能に構成され、音響処理装置10で処理された音響データを含む信号を音響再生装置13に送信することができる。制御部12にデータ格納部を設けて音響データを格納し、メモリカードなどを介して音響再生装置13に入力するようにしてもよい。
【0026】
音響再生装置13としては、例えば、MIDI音源モジュールなどの音源モジュールと、スピーカやヘッドホンなどの音響出力部とを組み合わせて使用し、音響処理装置10で処理された音響データを音響として再生することができる。尚、音響再生装置13に代えて、楽譜作成ソフトウェアをインストールしたコンピュータなどを使用すれば、音響処理装置10で処理された音響データに基づく記譜データを作成することもできる。
【0027】
図9に、撮影部11の一例を示す。撮影部11は、CMOS画像センサ110を使用したフレームレート30fpsの小型カメラで、レンズ部113を備える。なお、第1撮影部11Aのレンズ部を第1レンズ部113Aと、第2撮影部11Bのレンズ部を第2レンズ部113Bとの構成は互いに同一である。第1、第2撮影部11A,11Bは、固定具114によってボディ1Bの内部に固定される。
【0028】
第1レンズ部113Aと第2レンズ部113Bとは、第1撮影部11Aの撮影方向(第1撮影方向)と第2撮影部11Bの撮影方向(第2撮影方向)とが弦2の長さ方向に直交し、かつ、第1撮影方向と第2撮影方向とが互いにほぼ直交するように配置される。第1レンズ部113Aは、第1撮影方向から見た弦2の光学像を画素111上に結像する。第2レンズ部113Bは、第2撮影方向から見た弦2の光学像を画素111上に結像する。
【0029】
図10は、
図9の変形例を示す図である。
図10に示すように、撮影部11は、第2撮影部11Bに代えて、鏡などの反射部115を設け、1つの撮影部11によって異なる2つの撮影方向から弦2を撮影可能なように構成してもよい。具体的には、反射部115は第2撮影方向から見た弦2の光学像をレンズ部113に反射させるように配置され、サウンドホール7を横断するアタッチメント116によって楽器1に着脱可能に取り付けられる。アタッチメント116は、サウンドホール7の端部を挟持可能なクリップ形状を有する。
【0030】
レンズ部113は、第1撮影方向から直接見た弦2の光学像と、反射部115によって反射された、第2撮影方向から見た弦2の反射像とを、CMOS画像センサ110の画素111上に結像する。
【0031】
図11は、画像処理部121による画像処理を説明するための図である。画像処理部121は、撮影部11で撮影された画像データに基づいて、弦2の振動波形の波長λと振幅Aとを特定する。
図11(a)は、ある時刻に撮影部11によって第1撮影方向から撮影された画像データの一例、
図11(b)は、同じ時刻に撮影部11によって第2撮影方向から撮影された画像データの一例である。画像処理部121は、画像データを画像処理し、弦2の振動波形の波長λと振幅Aとを画素単位で特定する。
【0032】
図11(a)に示すように、見かけの振幅A
1は6.5、波長λは14.5と特定される。
図11(b)に示すように、見かけの振幅A
2は3.5、波長λは14.5と特定される。波長λは、z軸に直交するいずれの方向から撮影しても異ならない。
【0033】
上述したように、第1撮影方向と第2撮影方向とが直交する場合、振幅Aは、見かけの振幅A
1の二乗と、見かけの振幅A
2の二乗との和の平方根として算出することができる。第1撮影方向と第2撮影方向とが直交しない場合、振幅Aは、第1撮影方向と第2撮影方向とのなす角をαとして、見かけの振幅A
1の二乗と{(A
1cosα+A
2)/sinα}の二乗との和の平方根として算出することができる。
【0034】
なお、波長λの特定は、画像データに基づくパターンマッチングにより行ってもよい。すなわち、画像処理部121は、予め定められた弦2の振動波形を表す画像パターンと、撮影部11で撮影された画像データとを比較し、画像データ内に弦2の振動波形を認識するように構成してもよい。
【0035】
図12は、制御部12で実行される処理のうち、較正モードの処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、較正モードの実行中、所定時間毎に繰り返し実行される。
【0036】
音響処理装置10は、演奏中の楽音の記録を行う前に、較正モードを実行する必要がある。弦2が音高(基準音高)PIT
0の基準音を発しているときに、制御部12で較正モードを実行する。基準音高PIT
0はチューナなどを使用して確認してもよい。例えば、基準音として音名A(MIDIノート番号69)の音を発する場合、基準音高PIT
0は440Hzなどとなる。
【0037】
図12フローチャートでは、まず、ステップS1で、撮影部11で撮影された基準音発生時の弦2の画像データを読み込む。次いで、ステップS2で、画像処理部121での処理により、読み込まれた画像データに基づいて弦2の振動波形の波長(基準波長)λ
0を画素単位で特定する。
【0038】
次いで、ステップS3で、音高/音量算出部122での処理により、画像処理部121で特定された画素単位の波長λ
0を、基準音高PIT
0(例えば、440Hz)として較正する。基準音高PIT
0は、ユーザインタフェースを介してユーザによって入力可能なようにしてもよい。
【0039】
図13は、制御部12で実行される処理のうち、記録モードの処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、記録モードの実行中、所定時間毎に繰り返し実行される。
【0040】
図13フローチャートでは、まず、ステップS10で、撮影部11で撮影された弦2の画像データを読み込む。次いで、ステップS11で、画像処理部121での処理により、読み込まれた画像データに基づいて弦2の振動波形の波長λと、振幅Aとを画素単位で特定する。振幅Aは、上述した方法により、見かけの振幅A
1,A
2に基づいて算出する。
【0041】
次いで、ステップS12で、音高/音量算出部122での処理により、画像処理部121で特定された画素単位の波長λおよび振幅Aに基づいて、音高PITと音量VOLとを算出する。音高PITは、基準音高PIT
0×(基準波長λ
0/波長λ)として算出する。音量VOLは、振幅Aに適宜な係数F(例えば、1)を積算して算出する。なお、音響再生装置13で再生するときの音量は音響再生装置13で調整される。
【0042】
次いで、ステップS13で、音色設定部123での処理により、音響再生装置13で再生するときの音色TONを設定する。音色TONは、ユーザインタフェースを介してユーザによって入力可能なようにしてもよい。音色TONは、音響再生装置13として使用する音源モジュールに対応した値、例えば、GM(General MIDI)規格の音色番号として設定する。
【0043】
次いで、ステップS14で、音響データ生成部124での処理により、音高/音量算出部122で算出された音高PITと音量VOLと、音色設定部123で設定された音色TONとを含む音響データを生成する。
【0044】
以上のように音響処理装置10で処理された音響データを含む信号を、音響処理装置10に有線または無線で接続された音響再生装置13に送信する場合は、楽器1がアコースティック楽器であっても電子楽器として利用することができる。例えば、音響再生装置13として音源モジュール、アンプ、スピーカを使用すれば、楽器1をエレキギターのように大音量で演奏可能なエレクトリック・アコースティックギターとして利用することができる。楽器1にミュートなどを装着して演奏音を消音し、音響再生装置13としてヘッドホンを使用すれば、楽器1をサイレント楽器として利用することができる。
【0045】
音響再生装置13に代えて、楽譜作成ソフトウェアをインストールしたコンピュータなどを使用すれば、音響処理装置10で処理された音響データに基づく記譜データを作成することもできる。音響処理装置10は、制御部12にデータ格納部を設けて音響データを格納するようにして、単なるレコーダとして利用することもできる。
【0046】
いずれの場合も、音響処理装置10は、第1音に対応する弦2の振動のみに基づいて音響データを生成するため、弦振動に直接的な影響を与えるものでなければ、いかなるノイズにも影響されることがない。よって、屋外などの騒音環境下であっても、弦振動による楽音のみを音響データとして処理することができる。
【0047】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態に係る音響処理装置10は、楽器1の弦2が振動によって発する楽音を処理する装置であり、振動中の弦2を撮影し、弦2の振動の画像データを生成する撮影部11と、画像データに基づいて弦2の振動の波長λと振幅Aとを特定する処理を行う画像処理部121とを備える(
図2)。撮影部11は、光学像を結像するレンズ部113と、2次元に配列された複数の画素111ごとに区画され、レンズ部113によって結像された光学像の光量に応じた電荷を生成するフォトダイオード1111と、フォトダイオード1111によって生成された電荷を画素の行(ライン)ごとに順次読み出す読み出し回路112とを有する(
図4)。
【0048】
すなわち、撮影部11は、電荷転送用のCCD転送路が不要で小型軽量化が可能なCMOS画像センサを使用したカメラなどにより構成できるため、小型軽量化が可能である。よって、弦2の振動波形を撮影可能な位置である楽器1上に搭載したとしても、楽器1の演奏を妨げることがない。また、CMOS画像センサに特有のローリングシャッタを利用するため、30fpsという低いフレームレートで波形の撮影が可能となり、装置全体を低コストにすることができる。
【0049】
(2)レンズ部113は、弦2の長さ方向(z軸方向)に直交する第1撮影方向(x軸方向)から見た振動中の弦2の光学像を結像する第1レンズ部113Aと、第1撮影方向と異なる、弦2の長さ方向に直交する第2撮影方向から見た振動中の弦2の光学像を結像する第2レンズ部113Bとを有する(
図9)。したがって、あらゆる振動方向の波形を撮影することが可能となり、演奏者が弦2を弾く方向に応じて弦2の振動方向が変化する場合であっても、確実に波形を撮影することができる。
【0050】
(3)レンズ部113は、弦2の長さ方向(z軸方向)に直交する第1撮影方向(x軸方向)から見た振動中の弦2の光学像を結像し、撮影部11は、第1撮影方向とは異なる、弦2の長さ方向に直交する第2撮影方向から見た振動中の弦2の光学像を第1撮影方向に反射させる反射部(鏡など)115をさらに有する。レンズ部113は、反射部115によって反射された反射像を介して、第2撮影方向から見た振動中の弦2の光学像をさらに結像する(
図10)。したがって、1つのレンズ部113によって異なる2つの方向から弦2を撮影できるため、より簡易な構成であらゆる振動方向の波形を撮影することができる。
【0051】
(4)画像処理部121は、第1撮影方向から撮影された画像データに基づいて弦2の振動の見かけの振幅A
1を特定し、第2撮影方向から撮影された画像データに基づいて弦2の振動の見かけの振幅A
2を特定し、見かけの振幅A
1,A
2に基づいて振幅Aを算出する(
図7,8,11)。したがって、演奏者が弦2を弾く方向に応じて弦2の振動方向が変化する場合であっても、正確な振幅Aを算出することができる。
【0052】
(5)第2撮影方向(y軸方向)は、第1撮影方向(x軸方向)に直交する(
図7)。したがって、直交2方向から見た見かけの振幅の二乗の和の平方根として、より簡易な計算で正確な振幅Aを算出することができる。
【0053】
(6)制御部12は、画像処理部121によって特定された波長λと振幅Aとに基づいて楽音の音高PITと音量VOLとを算出する音高/音量算出部122と、楽音を再生するときの音色TONを設定する音色設定部123と、音高/音量算出部122によって算出された音高PITおよび音量VOLと、音色設定部123によって設定された音色TONとを含む音響データを生成する音響データ生成部124とをさらに備える(
図2)。したがって、音響処理装置10を、音源モジュールやスピーカなどを組み合わせた音響再生装置13に接続すれば、電子楽器として利用することができる。この場合、楽器1はアコースティック楽器でもよい。
【0054】
音響再生装置13として、スピーカに代えてヘッドホンを使用し、楽器1の楽音をミュートなどで消音すれば、楽器1をサイレント楽器として利用することもできる。音響再生装置13に代えて、楽譜作成ソフトウェアをインストールしたコンピュータなどを使用すれば、音響処理装置10で処理された音響データに基づく記譜データを作成することもできる。音響処理装置10は、制御部12にデータ格納部を設けて音響データを格納するようにして、単なるレコーダとして利用してもよい。音響データは、メモリカードなどを介して音響再生装置13に入力するようにしてもよい。
【0055】
いずれの場合も、音響処理装置10は、第1音に対応する弦2の振動のみに基づいて音響データを生成するため、弦振動に直接的な影響を与えるものでなければ、いかなるノイズにも影響されない。よって、屋外などの騒音環境下であっても、弦振動による楽音のみを音響データとして処理することができる。
【0056】
音響処理装置10を適用して楽器1を上述したように電子楽器などとして利用する場合、第2音、第3音を生じるボディ1B、サウンドホール7は不要となるため、楽器1はボディ1Bを有しなくてもよい。あるいは、ボディ1Bをプラスチックなどの軽量素材としたり、所望の形状としたりしてもよい。この場合、楽器1のネック1Cは、弦2の張力に耐えられものであれば素材、形状を問わない。また、弦2は、適宜な周波数の振動を生じるものであれば素材を問わないため、例えばナイロンなどの軽量素材であってもよい。このような楽器1に本実施形態に係る音響処理装置10を適用すれば、子どもやお年寄りでも軽い力で容易に演奏可能な電子楽器などとして利用することができる。
【0057】
(7)音高/音量算出部122は、弦2が楽音を発するときの波長λと、基準音高PIT
0と、弦2が基準音高PIT
0の基準音を発するときの基準波長λ
0とに基づいて、楽音の音高を算出する。したがって、実際に演奏された楽音の音高PITを正確に再現することができる。逆に、基準音高PIT
0を所望の音高にオフセットさせて使用することもできるため、例えば、手持ちの楽器と異なる調の楽器用に記載された譜面であっても、そのまま演奏することが可能となる。また、音域の異なる楽器として演奏することも可能となる。
【0058】
(8)楽器1に撮影部11を着脱可能に取り付けると共に、取り付け時の位置を規制するアタッチメント116をさらに有するため、楽器1に加工することなく、撮影部11を取り付けることができる。
【0059】
なお、上記実施形態(
図9,10)では、撮影手段として1台のデジタルカメラなどにより構成される撮影部11を示したが、これは撮影手段を楽器1上に搭載するために小型軽量化する場合の一例に過ぎない。すなわち、撮影手段は、光学像を結像するレンズ部113と、2次元に配列された複数の画素111ごとに区画され、レンズ部113によって結像された光学像の光量に応じた電荷を生成する光電変換部1111と、光電変換部1111によって生成された電荷を画素111の行ごとに順次読み出す読み出し回路(読み出し部)112とを個別に有するものであってもよい。
【0060】
例えば、撮影手段を、レンズ部113と光電変換部1111とを備える複数の撮影部11と、読み出し回路(読み出し部)112とで構成し、読み出し回路(読み出し部)112が、各撮影部11の画像データをラインごとに時間差をもって順次読み出すようにしてもよい。すなわち、撮影手段として、複数のデジタルカメラなどの撮影部11を設け、それとは別に、読み出し回路112を設けるようにしてもよい。
【0061】
上記実施形態(
図9)では、第1撮影部11Aが第1レンズ部113Aを有し、第2撮影部11Bが第2レンズ部113Bを有するようにしたが、1つの撮影部11が第1レンズ部113Aと第2レンズ部113Bとを有するようにしてもよい。
【0062】
上記実施形態(
図9,10)では、撮影部11を楽器1に固定し、反射部115をアタッチメント116に固定するようにしたが、撮影部11をアタッチメント116に固定し、反射部115を楽器1に固定するようにしてもよい。また、撮影部11と反射部115とを共にアタッチメント116に固定するようにしてもよい。
【0063】
上記実施形態では、撮影部11が振動中の弦2を撮影し、弦2の振動の画像データを生成するようにしたが、撮影手段の構成はこれに限定されない。上記実施形態では、画像処理部121が画像データに基づいて弦2の振動の波長λと振幅Aとを特定する処理を行うようにしたが、画像処理手段の構成はこれに限定されない。上記実施形態では、音高/音量算出部122が波長λと振幅Aとに基づいて楽音の音高PITと音量VOLとを算出するようにしたが、音高音量算出手段の構成はこれに限定されない。上記実施形態では、音色設定部123が楽音を再生するときの音色TONを設定するようにしたが、音色設定手段の構成はこれに限定されない。上記実施形態では、音響データ生成部124が音高PITおよび音量VOLと、音色TONとを含む音響データを生成するようにしたが、音響データ生成手段の構成はこれに限定されない。
【0064】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態および変形例の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。すなわち、本発明の技術的思想の範囲内で考えられる他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。また、上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能である。