特許第6756502号(P6756502)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6756502
(24)【登録日】2020年8月31日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】細胞培養物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20200907BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20200907BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20200907BHJP
   C12M 3/04 20060101ALI20200907BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20200907BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20200907BHJP
【FI】
   C12Q1/02
   C12N5/07
   C12M3/00 A
   C12M3/04 Z
   A61L27/38
   A61K35/12
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-66806(P2016-66806)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-176005(P2017-176005A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】頼 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】野口 枝莉
【審査官】 北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2004/0023317(US,A1)
【文献】 特開2014−113132(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/021329(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0105357(US,A1)
【文献】 特開2010−099068(JP,A)
【文献】 特開2011−155869(JP,A)
【文献】 特許第6706948(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
C12M 1/00−3/10
C12N 5/00−5/28
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)個別の識別情報を記憶している複数のセンサチップと細胞懸濁液とを混合し、複数のセンサチップを含む細胞懸濁液を調製する工程、
(2)細胞懸濁液に含まれる細胞を複数のセンサチップと共に培養基材上でシート化して、複数のセンサチップを含むシート状細胞培養物を形成する工程、
(3)シート状細胞培養物の培養基材からの剥離を複数のセンサチップからの情報に基づき検知する工程、
を含む、シート状細胞培養物の培養基材からの剥離を検知する方法。
【請求項2】
(1)個別の識別情報を記憶している複数のセンサチップと細胞懸濁液とを混合し、複数のセンサチップを含む細胞懸濁液を調製する工程、
(2)細胞懸濁液に含まれる細胞を複数のセンサチップと共に培養基材上でシート化して、複数のセンサチップを含むシート状細胞培養物を形成する工程、
(3)シート状細胞培養物の培養基材からの剥離を複数のセンサチップからの情報に基づき検知する工程、
(4)培養基材からの剥離が検知されたシート状細胞培養物を回収する工程
を含む、シート状細胞培養物の製造方法。
【請求項3】
複数のセンサチップが通信機能を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
複数のセンサチップが、張力、圧力、変位、イオン濃度および生理活性物質濃度からなる群から選択される項目を測定可能である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
シート状細胞培養物に埋め込まれた剥離検知のための個別の識別情報を記憶している複数のセンサチップと、前記複数のセンサチップからの情報を読み取る読取装置とを備えた、シート状細胞培養物の基材からの剥離を検知するためのシステム。
【請求項6】
剥離検知のための個別の識別情報を記憶している複数のセンサチップを含む、シート状細胞培養物。
【請求項7】
複数のセンサチップが通信機能を有する、請求項に記載のシート状細胞培養物。
【請求項8】
複数のセンサチップが、張力、圧力、変位、イオン濃度および生理活性物質濃度からなる群から選択される項目を測定可能である、請求項またはに記載のシート状細胞培養物。
【請求項9】
組織の異常に関連する疾患を処置するための、請求項6〜8のいずれか一項に記載のシート状細胞培養物。
【請求項10】
剥離検知のための個別の識別情報を記憶している複数のセンサチップを含む細胞懸濁液と、シート状細胞培養物の製造に用いる要素とを含む、複数のセンサチップを含むシート状細胞培養物を製造するためのキット。
【請求項11】
対象に適用された請求項7〜9のいずれか一項に記載のシート状細胞培養物に含まれる複数のセンサチップから送信される情報を読み取る工程を含む、前記シート状細胞培養物の状態を検査する方法。
【請求項12】
対象に適用された請求項に記載のシート状細胞培養物に含まれる複数のセンサチップから送信される情報を読み取る工程を含む、前記シート状細胞培養物による疾患の処置の効果を検査する方法。
【請求項13】
請求項6〜9のいずれか一項に記載のシート状細胞培養物または請求項10に記載のキットに含まれる複数のセンサチップに記憶された識別情報を読み取る工程を含む、シート状細胞培養物が適用される対象を特定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養物、その製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、損傷した組織等の修復のために、種々の細胞を移植する試みが行われている。例えば、狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患により損傷した心筋組織の修復のために、胎児心筋細胞、骨格筋芽細胞、間葉系幹細胞、心臓幹細胞、ES細胞、iPS細胞等の利用が試みられている(非特許文献1〜4)。
【0003】
このような試みの一環として、スキャフォールドを利用して形成した細胞構造物や、細胞をシート状に形成したシート状細胞培養物が開発されてきた(特許文献1)。
シート状細胞培養物の治療への応用については、火傷などによる皮膚損傷に対する培養表皮シートの利用、角膜損傷に対する角膜上皮シート状細胞培養物の利用、食道ガン内視鏡的切除に対する口腔粘膜シート状細胞培養物の利用などの検討が進められており、その一部は臨床応用の段階に入っている。
【0004】
このような細胞培養物を臨床応用する場合には、細胞培養物の数量や品質が治療の正否を左右するため、その製造工程および品質を適正に管理する必要がある。そのためには、製造過程での細胞培養物の変化や異常をいち早く検知し、必要な措置を取ることが重要となる。また、細胞培養物が対象に適用された後適切に機能しているかをモニターすることができれば、機能不全の兆候が認められた場合に速やかに対応し、有害事象の発生を未然に防ぐことが可能となる。しかしながら、細胞培養物の臨床応用に係る上記課題を解決し得る技術は未だ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−528755号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Haraguchi et al., Stem Cells Transl Med. 2012;1(2):136-41
【非特許文献2】Sawa et al., Surg Today. 2012;42(2):181-4
【非特許文献3】Matsuura et al., Biomaterials. 2011;32(30):7355-62
【非特許文献4】Kawamura et al., Circulation. 2012;126(11 Suppl 1):S29-37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、製造工程および品質の適正な管理、および/または、対象に適用された後のモニタリングが可能な細胞培養物、その製造方法等の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、シート状細胞培養物を研究する中で、シート化培養期間中にシート状細胞培養物が培養基材から自発的に剥離するケースがあることに気付いた。このようなケースにおいて、シート状細胞培養物の培養基材からの剥離に気付かず、そのまま放置しておくと、シート状細胞培養物が変形し、臨床での使用に適さない状態となる。かかる早期剥離の発生は、シート状細胞培養物における細胞同士の結合が強いことが一因と考えられるが、細胞間結合が強いことは、シート状細胞培養物による治療においてむしろ好ましい特性であり、かかるシート状細胞培養物を廃棄してしまうのは望ましくない。そこで、本発明者は、上記のような早期剥離をいち早く検知できれば、剥離したシート状細胞培養物を回収し、使用するまで支持体に載せて変形を防止するなどの措置をとることができるため、かかるシート状細胞培養物の有効利用につながると考え、さらに研究を進めたところ、シート化培養時に細胞培養物にセンサチップを混合することで、シート状細胞培養物の培養基材からの剥離を早期に検知できることを見出した。また、上記のようにシート化培養時に細胞培養物にセンサチップを混合し、シート状細胞培養物にセンサチップ埋め込むことで、対象に適用したシート状細胞培養物の状態をモニタリングできることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の一側面は以下に関する。
<1>(1)センサチップと細胞懸濁液とを混合し、センサチップを含む細胞懸濁液を調製する工程、
(2)細胞懸濁液に含まれる細胞をセンサチップと共に培養基材上でシート化して、センサチップを含むシート状細胞培養物を形成する工程、
(3)シート状細胞培養物の培養基材からの剥離をセンサチップからの情報に基づき検知する工程、
を含む、シート状細胞培養物の培養基材からの剥離を検知する方法。
<2>(1)センサチップと細胞懸濁液とを混合し、センサチップを含む細胞懸濁液を調製する工程、
(2)細胞懸濁液に含まれる細胞をセンサチップと共に培養基材上でシート化して、センサチップを含むシート状細胞培養物を形成する工程、
(3)シート状細胞培養物の培養基材からの剥離をセンサチップからの情報に基づき検知する工程、
(4)培養基材からの剥離が検知されたシート状細胞培養物を回収する工程
を含む、シート状細胞培養物の製造方法。
【0010】
<3>センサチップが通信機能を有する、上記<1>または<2>に記載の方法。
<4>センサチップが、張力、圧力、変位、イオン濃度および生理活性物質濃度からなる群から選択される項目を測定可能である、上記<1>〜<3>のいずれか一項に記載の方法。
<5>センサチップが、個別の識別情報を記憶している、上記<1>〜<4>のいずれか一項に記載の方法。
<6>シート状細胞培養物に埋め込まれたセンサチップと、前記センサチップからの情報を読み取る読取装置とを備えた、シート状細胞培養物の基材からの剥離を検知するためのシステム。
【0011】
<7>センサチップを含む、シート状細胞培養物。
<8>センサチップが通信機能を有する、上記<7>に記載のシート状細胞培養物。
<9>センサチップが、張力、圧力、変位、イオン濃度および生理活性物質濃度からなる群から選択される項目を測定可能である、上記<7>または<8>に記載のシート状細胞培養物。
<10>センサチップが、個別の識別情報を記憶している、上記<7>〜<9>のいずれか一項に記載のシート状細胞培養物。
<11>組織の異常に関連する疾患を処置するための、上記<7>〜<10>のいずれか一項に記載の細胞培養物。
<12>センサチップを含む細胞懸濁液と、シート状細胞培養物の製造に用いる要素とを含む、センサチップを含むシート状細胞培養物を製造するためのキット。
<13>センサチップが、個別の識別情報を記憶している、上記<12>に記載のキット。
【0012】
<14>対象に適用された上記<8>〜<11>のいずれか一項に記載のシート状細胞培養物に含まれるセンサチップから送信される情報を読み取る工程を含む、前記シート状細胞培養物の状態を検査する方法。
<15>対象に適用された上記<11>に記載のシート状細胞培養物に含まれるセンサチップから送信される情報を読み取る工程を含む、前記シート状細胞培養物による疾患の処置の効果を検査する方法。
<16>上記<7>〜<11>のいずれか一項に記載のシート状細胞培養物または請求項12もしくは13に記載のキットに含まれるセンサチップに記憶された識別情報を読み取る工程を含む、シート状細胞培養物が適用される対象を特定する方法。
<17>対象における組織の異常に関連する疾患を処置する方法であって、有効量の上記<7>〜<11>のいずれか一項に記載のシート状細胞培養物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、前記方法。
【0013】
<18>センサチップを含む心筋細胞培養物。
<19>センサチップが通信機能を有する、上記<18>に記載の細胞培養物。
<20>シート状である、上記<18>または<19>に記載の細胞培養物。
<21>心筋細胞がiPS細胞に由来する、上記<18>〜<20>のいずれか一項に記載の細胞培養物。
<22>センサチップが、細胞培養物の拍動、活動電位、イオン濃度および生理活性物質濃度からなる群から選択される項目を測定可能である、上記<18>〜<21>のいずれか一項に記載の細胞培養物。
<23>センサチップが、個別の識別情報を記憶している、上記<18>〜<22>のいずれか一項に記載の細胞培養物。
<24>心疾患を処置するための、上記<18>〜<23>のいずれか一項に記載の細胞培養物。
【0014】
<25>心筋細胞を含む細胞懸濁液とセンサチップとを混合する工程を含む、上記<18>〜<24>のいずれか一項に記載の細胞培養物の製造方法。
<26>センサチップを含む心筋細胞懸濁液を含む、上記<18>〜<24>のいずれか一項に記載の細胞培養物を製造するためのキット。
<27>細胞培養物がシート状であり、シート状細胞培養物の製造に用いる要素をさらに含む、上記<26>に記載のキット。
<28>センサチップが、個別の識別情報を記憶している、上記<26>または<27>に記載のキット。
【0015】
<29>対象に適用された上記<19>〜<24>のいずれか一項に記載の細胞培養物に含まれるセンサチップから送信される情報を読み取る工程を含む、前記細胞培養物の状態を検査する方法。
<30>対象に適用された上記<24>に記載の細胞培養物に含まれるセンサチップから送信される情報を読み取る工程を含む、前記細胞培養物による心疾患の処置の効果を検査する方法。
<31>上記<23>もしくは<24>に記載の細胞培養物または上記<28>に記載のキットに含まれるセンサチップに記憶された識別情報を読み取る工程を含む、心筋細胞培養物が適用される対象を特定する方法。
<32>対象における心疾患を処置する方法であって、有効量の上記<18>〜<24>のいずれか一項に記載の細胞培養物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、シート状細胞培養物の培養基材からの剥離を早期に検知でき、シート状細胞培養物の望まない変形を未然に防ぐことができるとともに、シート状細胞培養物の製造の効率化が可能となる。また、本発明により、対象に適用後の細胞培養物をモニタリングすることが可能となり、治療効果の評価や、補助的治療の要否の判断のために有用な情報を得ることができる。さらに、本発明により、細胞培養物の製造工程の初期段階から、対象への適用に至る一連の作業工程にわたり、細胞培養物と対象との対応関係を追跡することができ、細胞培養物を適用する対象の取り違え等を効果的に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、センサチップを含むシート状細胞培養物の断面を示した図である。
図2図2は、センサチップを含むシート状細胞培養物の底面を示した図である。
図3図3は、センサチップを、シート状細胞培養物に埋め込む方法の一例を示した図である。
図4図4は、対象の心臓に適用されたシート状細胞培養物を体外から検査する方法の一例を示した図である。
図5図5は、シート状細胞培養物の培養基材からの剥離を検知するシステムの一例を示した図である。
図6図6は、シート状細胞培養物が培養基材から剥離する前および剥離した後のセンサチップの位置の変化を示した図である。
図7図7は、シート状細胞培養物の一部が培養基材から剥離した後のセンサチップの位置の変化を示した図である。
図8図8は、シート状細胞培養物全体が培養基材から剥離した後のセンサチップの位置の変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願および他の出版物や情報は、その全体を参照により本明細書に援用する。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、以下で説明する実施形態は本発明を例示することを意図したものであり、本発明を限定するためのものではない。
【0019】
<センサチップを含む細胞培養物>
図1は、本発明に係るセンサチップを含むシート状細胞培養物の断面図である。センサチップ1は、シート状細胞培養物2の下部に、シート状細胞培養物2が産生する細胞外マトリックス層21に埋め込まれる形で存在している。図2は、前記シート状細胞培養物2の底面を示す概念図である。
【0020】
センサチップは、センサ機能を備えたチップである。チップは、典型的には半導体基板(例えば、シリコンウェハ)または非半導体基板(例えば、セルロースナノファイバなどで構成された生分解性基板)上に形成された集積回路(IC)で構成される。センサチップは、細胞培養物よりサイズが小さいことが好ましい。ICチップは小型化が進んでおり、マイクロメーターサイズのICチップが数多く開発されている(Burke and Rutherglen, Biomed Microdevices. 2010;12(4):589-96)。また、センサも小型化が進んでおり、カーボンナノチューブを利用したナノサイズのものも開発されている(Tilmaciu and Morris, Front Chem. 2015;3:59、Lerner et al., ACS Nano. 2012;6(6):5143-9)。
【0021】
図1〜2に示したセンサチップ1はシート状細胞培養物2の形状に合わせ、薄く平坦な形状であるが、細胞培養物の形状によっては、柱状、球状、サイコロ状など種々の形状であってよい。センサチップは細胞培養物に完全に内包されていても、その一部が細胞培養物外に露出していてもよい。ここで、完全に内包されるとは、センサチップが、細胞培養物含まれる成分(細胞、細胞外マトリックスなど)により覆われ、外部に露出していないことを意味する。センサチップが細胞培養物に完全に内包されていると、センサチップの細胞培養物からの脱落のリスクを最小化することができる。一方、細胞培養物外の情報を得る場合、センサの一部、例えば、測定用の電極等が細胞培養物外に露出していることが好ましい場合もある。したがって、センサチップは、センサの機能を妨げない範囲で、脱落を防止するため、細胞培養物に内包されていることが好ましい。これによりセンサチップが細胞培養物と一体化され、対象に適用された場合、細胞培養物の存在部位をより確実に検知できるとともに、細胞培養物の機能を直接モニタリングすることが可能となる。また、シート状細胞培養物の培養基材からの剥離時にも、センサチップはシート状細胞培養物と共に培養基材から遊離し、また、剥離に伴うシート状細胞培養物の収縮に合わせて、その位置を変えるため、シート状細胞培養物の剥離の早期検出にも有用である。センサチップは、細胞との接着性を高め、脱落のリスクを低減するため、表面に親水処理を施したり、細胞外マトリックスや細胞接着因子、フィブリンなどでコーティングされていてもよい。
【0022】
センサチップは、好ましくは通信機能を有している。通信機能を有するチップとしてはRFIDタグがよく知られており、この技術を応用したワイヤレスセンサも開発されている(Dai et al., Sensors (Basel). 2009;9(11):8748-60、Deng et al., Sensors (Basel). 2015;15(3):6872-84)。センサチップは、バッテリを内蔵したアクティブ型であっても、バッテリを有しないパッシブ型であってもよいが、パッシブ型の方がサイズを小型化できるため好ましい。パッシブ型は、典型的には受電用のアンテナを備えており、外部の給電装置から送信された電波を電力に変換し、これを種々の処理に利用する。
【0023】
センサは、センサチップの目的に応じて種々の項目を測定できるよう構成することが可能である。かかる項目としては、限定されずに、例えば、細胞培養物の拍動、活動電位、張力、圧力、変位、イオン濃度、生理活性物質濃度等が挙げられる。細胞培養物の拍動および/または活動電位の測定は、例えば、細胞培養物が心筋細胞培養物である場合に、その機能をモニタリングするのに有用である。張力、圧力および/または変位の測定は、例えば、細胞培養物がシート状細胞培養物である場合に、その剥離の兆候または発生を検出するのに有用である。イオン濃度の測定は、例えば、細胞培養物が心筋細胞培養物である場合には、活動電位の発生を検出し、当該心筋細胞培養物の機能をモニタリングするのに有用であり、細胞培養物がシート状細胞培養物である場合には、シート状細胞培養物の剥離時に生じる培養基材とシート状細胞培養物との間への培地などの媒体の進入を検出し、シート状細胞培養物の剥離をいち早く検知するのに有用である。生理活性物質濃度の測定は、心筋細胞培養物や筋芽細胞培養物等の心疾患に対する治療機序の1つとして、VEGF、bFGF、HGFなどのサイトカインの産生または産生誘導が示唆されているため(非特許文献2、4)、心筋細胞培養物や筋芽細胞培養物による治療効果を評価もしくは予測するために有用である。
【0024】
センサチップは、好ましくは、個別の識別情報を記憶していてもよい。かかる識別情報は、例えば、細胞培養物を適用する対象の特定や、細胞培養物の追跡、また、細胞培養物が複数のセンサチップを含む場合に、各センサチップの特定に有用である。識別情報は、書き換え可能であっても、書き換えできないものであってもよい。
【0025】
図1〜2に示されているセンサチップ1の数はシート状細胞培養物1枚当たり2〜3個だが、これに限定されず、1つの細胞培養物が1個または複数個のセンサチップを含んでいてもよい。センサチップの予期せぬ剥落、破損または故障に備えるため、また、シート状細胞培養物の培養基材からの剥離の程度を検出するため、さらには、1つの細胞培養物に含まれるセンサチップ間の相対的な位置関係に係る情報を、例えば、剥離に伴うシート状細胞培養物の収縮の検出に用いるため、細胞培養物はセンサチップを2個以上含んでいることが好ましい。
【0026】
シート状細胞培養物は、細胞が互いに連結してシート状になったものをいう。細胞同士は、直接(接着分子などの細胞要素を介するものを含む)および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。シート状細胞培養物は、1の細胞層から構成されるもの(単層)であっても、2以上の細胞層から構成されるもの(積層(多層)、例えば、2層、3層、4層、5層、6層など)であってもよい。シート状細胞培養物は、培養基材に付着していても遊離(剥離)していてもよいが、典型的には、培養基材からシート形状を維持したまま遊離しているもの(単離シート状細胞培養物または遊離シート状細胞培養物と称する場合もある)を指す。
【0027】
なお、図1〜2に示されているのはシート状細胞培養物2であるが、本発明はシート状細胞培養物以外の細胞培養物にも適用できる。細胞培養物は、細胞を培養して得られる培養物を意味し、細胞懸濁液や、所定の形状や構造を有する細胞構造体などの種々の形態をとることができる。細胞構造体は、シート状以外にも、柱状、塊状、栓状などの種々の形状とすることができる。これらのうち、治療効果の高さなどの観点から、シート状細胞培養物が好ましい。
【0028】
細胞培養物はスキャフォールド(支持体)を含んでも含まなくてもよいが、生体適合性や治療効果の高さなどの観点から、スキャフォールド(支持体)を含まないことが好ましい。スキャフォールドは、その表面上および/またはその内部に細胞を付着させ、細胞培養物の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがあり、例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製の膜等が知られているが、好ましい細胞培養物は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができるものである。また、細胞培養物は、好ましくは、細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
【0029】
細胞培養物に含まれる細胞は、任意の種類のものを包含するが、医療用途に使用される細胞が好ましい。かかる細胞としては、限定されずに、例えば、血液疾患などの治療に用いる造血幹細胞、免疫療法などに用いるリンパ球、樹状細胞などの免疫細胞、シート状細胞培養物を形成し得る細胞などが挙げられる。シート状細胞培養物を形成し得る細胞は、限定されずに、例えば、接着細胞(付着性細胞)を含む。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞(例えば、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞など)および幹細胞(例えば、筋芽細胞、心臓幹細胞、脂肪幹細胞、肝幹細胞などの組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞などの多能性幹細胞、間葉系幹細胞等)などを含む。体細胞は、幹細胞、特にiPS細胞から分化させたものであってもよい。シート状細胞培養物を形成し得る細胞の非限定例としては、例えば、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞など)、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のものなど)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞、脂肪幹細胞、肝幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞など)、肝細胞(例えば、肝実質細胞など)、膵細胞(例えば、膵島細胞など)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。
【0030】
好ましい細胞の例としては、心筋細胞、特に多能性幹細胞由来の心筋細胞(すなわち、多能性幹細胞に由来する心筋細胞の特徴を有する細胞)が挙げられる。多能性幹細胞は、当該技術分野で周知の用語であり、生体の様々な組織に分化する能力を有する細胞を意味する。多能性幹細胞の非限定例としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、核移植胚性幹細胞(ntES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などが挙げられる。これらのうち、倫理的問題の少ないiPS細胞が好ましい。心筋細胞の特徴としては、限定されずに、例えば、心筋細胞マーカーの発現、自律的拍動の存在などが挙げられる。心筋細胞マーカーの非限定例としては、例えば、c−TNT(cardiac troponin T)、CD172a(別名SIRPAまたはSHPS−1)、KDR(別名CD309、FLK1またはVEGFR2)、PDGFRA、EMILIN2、VCAMなどが挙げられる。
【0031】
多能性幹細胞由来の心筋細胞は、多能性幹細胞から心筋細胞を誘導すること、すなわち、多能性幹細胞を心筋細胞誘導処理に供することによって得ることができる。多能性幹細胞から心筋細胞を誘導する様々な手法が知られている(例えば、非特許文献3〜4、Burridge et al., Cell Stem Cell. 2012 Jan 6;10(1):16-28)。かかる誘導法の非限定例としては、例えば、胚様体形成による方法、単層分化培養による方法、強制凝集による方法などが挙げられる。多能性幹細胞由来の心筋細胞は、誘導後に精製し、純度を高めることができる。精製方法としては、心筋細胞に特異的なマーカー(例えば、細胞表面マーカーなど)を用いた種々の分離法、例えば、磁気細胞分離法(MACS)、フローサイトメトリー法、アフィニティ分離法や、特異的プロモーターにより選択マーカー(例えば、抗生物質耐性遺伝子など)を発現させる方法、さらにはこれらの方法の組合せなどが挙げられる(例えば、上記Burridge et al.など参照)。心筋細胞に特異的な細胞表面マーカーとしては、例えば、CD172a、KDR、PDGFRA、EMILIN2、VCAMなどが挙げられる。また、心筋細胞に特異的なプロモーターとしては、例えば、NKX2−5、MYH6、MLC2V、ISL1などが挙げられる。
【0032】
細胞は、細胞培養物による治療が可能な任意の多細胞生物(例えば動物など)に由来し得る。かかる生物には、限定されずに、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、げっ歯目動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモットなど)、ウサギなどの哺乳動物が含まれる。また、細胞培養物の形成に用いる細胞は1種類のみであってもよいが、2種類以上の細胞を用いることもできる。好ましい態様において、細胞培養物を形成する細胞が2種類以上ある場合、最も多い細胞の比率(純度)は、細胞培養物製造終了時において、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。
【0033】
細胞は異種由来細胞であっても同種由来細胞であってもよい。ここで「異種由来細胞」は、細胞培養物が移植に用いられる場合、そのレシピエントとは異なる種の生物に由来する細胞を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、サルやブタに由来する細胞などが異種由来細胞に該当する。また、「同種由来細胞」は、レシピエントと同一の種の生物に由来する細胞を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ヒト細胞が同種由来細胞に該当する。同種由来細胞は、自己由来細胞(自己細胞または自家細胞ともいう)、すなわち、レシピエントに由来する細胞と、同種非自己由来細胞(他家細胞ともいう)を含む。自己由来細胞は、移植しても拒絶反応が生じないため、臨床応用の観点から好ましい。しかしながら、異種由来細胞や同種非自己由来細胞を利用することも可能である。異種由来細胞や同種非自己由来細胞を利用する場合は、拒絶反応を抑制するため、免疫抑制処置が必要となることがある。なお、本明細書中で、自己由来細胞以外の細胞、すなわち、異種由来細胞と同種非自己由来細胞を非自己由来細胞と総称することもある。一態様において、細胞は自家細胞または他家細胞である。一態様において、細胞は自家細胞である。別の態様において、細胞は他家細胞である。
【0034】
細胞培養物は、種々の疾患、特に組織の異常に関連する疾患の処置に有用である。したがって、一態様において、細胞培養物は、組織の異常に関連する疾患の処置に用いるためのものである。処置の対象となる組織としては、限定されずに、例えば、心筋、角膜、網膜、食道、皮膚、関節、軟骨、肝臓、膵臓、歯肉、腎臓、甲状腺、骨格筋、中耳、骨髄などが挙げられる。また、処置の対象となる疾患としては、限定されずに、例えば、心疾患(例えば、心筋傷害(心筋梗塞、心外傷)、心筋症など)、角膜疾患(例えば、角膜上皮幹細胞疲弊症、角膜損傷(熱・化学腐食)、角膜潰瘍、角膜混濁、角膜穿孔、角膜瘢痕、スティーブンス・ジョンソン症候群、眼類天疱瘡など)、網膜疾患(例えば、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症など)、食道疾患(例えば、食道手術(食道ガン除去)後の食道の炎症・狭窄の予防など)、皮膚疾患(例えば、皮膚損傷(外傷、熱傷)など)、関節疾患(例えば、変形性関節炎など)、軟骨疾患(例えば、軟骨の損傷など)、肝疾患(例えば、慢性肝疾患など)、膵臓疾患(例えば、糖尿病など)、歯科疾患(例えば、歯周病など)、腎臓疾患(例えば、腎不全、腎性貧血、腎性骨異栄養症など)、甲状腺疾患(例えば、甲状腺機能低下症など)、筋疾患(例えば、筋損傷、筋炎など)、中耳疾患(例えば、中耳炎など)、骨髄疾患(例えば、白血病、再生不良性貧血、免疫不全疾患など)が挙げられる。
【0035】
細胞培養物が上記疾患に有用であることは、例えば、特許文献1、非特許文献1〜4、Arauchi et al., Tissue Eng Part A. 2009;15(12):3943-9、Ito et al., Tissue Eng. 2005;11(3-4):489-96、Yaji et al., Biomaterials. 2009;30(5):797-803、Yaguchi et al., Acta Otolaryngol. 2007;127(10):1038-44、Watanabe et al., Transplantation. 2011;91(7):700-6、Shimizu et al., Biomaterials. 2009;30(30):5943-9、Ebihara et al., Biomaterials. 2012;33(15):3846-51、Takagi et al., World J Gastroenterol. 2012;18(37):5145-50などに記載されている。
【0036】
細胞培養物は、処置の対象となる組織に適用し、これを修復、再生するために使用することもできるが、ホルモンなどの生理活性物質の給源として、処置の対象となる組織以外の部位(例えば、皮下組織など)に移植することもできる(例えば、上記Arauchi et al.、上記Shimizu et al.など)。
【0037】
細胞培養物は、種々の追加成分、例えば、薬学的に許容し得る担体や、細胞培養物の生存性、生着性および/または機能などを高める成分、対象疾患の処置に有用な他の有効成分などをさらに含んでいてもよい。かかる追加成分としては、既知の任意のものを使用することができ、当業者はこれらの追加成分について精通している。また、細胞培養物は、細胞培養物の生存性、生着性および/または機能などを高める成分や、対象とする疾患の処置に有用な他の有効成分などと併用することができる。
【0038】
センサチップを含む細胞培養物は、センサチップと、細胞培養物を形成するための細胞懸濁液とを混合する工程を含む方法により製造することができる。細胞培養物を、細胞懸濁液を培養基材に播種して形成する場合、センサチップと細胞懸濁液とを混合した混合液を培養基材に播種してもよいし、細胞懸濁液を、センサチップが置かれた培養基材に播種してもよいし、細胞懸濁液を培養基材に播種した後に、センサチップを培養基材上の細胞懸濁液に加えてもよい。センサチップを、細胞懸濁液の播種前、播種と同時、または、播種後早期に細胞懸濁液と混合し、培養することで、センサチップが細胞の産生する細胞外マトリックスに包み込まれやすくなり、効率的な埋め込みが可能となる。
【0039】
細胞培養物が複数の細胞層を重層して製造される場合、図3に示すように、センサチップ1を、下層となる細胞層22の上に配置し、これに上層となる細胞層23を重層することによっても、細胞培養物にセンサチップを埋め込むことができる。また、細胞培養物が支持体を含む場合は、センサチップを支持体に付着させるか、支持体上にセンサチップを配置し、その上に細胞を播種することによっても、細胞培養物にセンサチップを埋め込むことができる。さらに、センサチップを細胞培養物上にのせ、フィブリン糊などの接着性の成分で被覆することにより細胞培養物にセンサチップを埋め込むことも可能である。
【0040】
細胞の培養は、当該技術分野で通常なされている条件で行うことができる。例えば、典型的な培養条件としては、37℃、5%COでの培養が挙げられる。培養に用いる細胞培養液(単に「培養液」もしくは「培地」と呼ぶ場合もある)は、細胞の生存を維持できるものであれば特に限定されないが、典型的には、アミノ酸、ビタミン類、電解質を主成分としたものが利用できる。一態様において、培養液は、細胞培養用の基礎培地をベースにしたものである。かかる基礎培地には、限定されずに、例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、120、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80−7などが含まれる。これらの基礎培地の多くは市販されており、その組成も公知となっている。
基礎培地は、標準的な組成のまま(例えば、市販されたままの状態で)用いてもよいし、細胞種や培養条件に応じてその組成を適宜変更してもよい。したがって、基礎培地は、公知の組成のものに限定されず、1または2以上の成分が追加、除去、増量もしくは減量されたものを含む。
【0041】
培養基材は、細胞がその上で細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、種々の材質の容器、容器中の固形もしくは半固形の表面などを含む。容器は、培養液などの液体を透過させない構造・材料が好ましい。かかる材料としては、限定することなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられる。また、容器は、少なくとも1つの平坦な面を有することが好ましい。かかる容器の例としては、限定することなく、例えば、細胞培養皿、細胞培養ボトルなどが挙げられる。また、容器は、その内部に固形もしくは半固形の表面を有してもよい。固形の表面としては、上記のごとき種々の材料のプレートや容器などが、半固形の表面としては、ゲル、軟質のポリマーマトリックスなどが挙げられる。培養基材は、上記材料を用いて作製してもよいし、市販のものを利用してもよい。好ましい培養基材としては、限定することなく、例えば、シート状細胞培養物の形成に適した、接着性の表面を有する基材が挙げられる。具体的には、親水性の表面を有する基材、例えば、コロナ放電処理したポリスチレン、コラーゲンゲルや親水性ポリマーなどの親水性化合物を該表面にコーティングした基材、さらには、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカンなどの細胞外マトリックスや、カドヘリンファミリー、セレクチンファミリー、インテグリンファミリーなどの細胞接着因子などを表面にコーティングした基材などが挙げられる。また、かかる基材は市販されている(例えば、Corning(R) TC-Treated Culture Dish、Corningなど)。
【0042】
培養基材は、刺激、例えば、温度や光に応答して物性が変化する材料で表面が被覆されていてもよい。かかる材料としては、限定されずに、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N−エチルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、N−エトキシエチルアクリルアミド、N−エトキシエチルメタクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等)、N,N−ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−エチルメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等)、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−プロペニル)−モルホリン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−モルホリン等)、またはビニルエーテル誘導体(例えば、メチルビニルエーテル)のホモポリマーまたはコポリマーからなる温度応答性材料、アゾベンゼン基を有する光吸収性高分子、トリフェニルメタンロイコハイドロオキシドのビニル誘導体とアクリルアミド系単量体との共重合体、および、スピロベンゾピランを含むN−イソプロピルアクリルアミドゲル等の光応答性材料などの公知のものを用いることができる(例えば、特開平2-211865、特開2003-33177参照)。これらの材料に所定の刺激を与えることによりその物性、例えば、親水性や疎水性を変化させ、同材料上に付着した細胞培養物の剥離を促進することができる。温度応答性材料で被覆された培養皿は市販されており(例えば、CellSeed Inc.のUpCell(R))、これらを使用することができる。
【0043】
シート状細胞培養物は、センサチップを含む細胞懸濁液を培養基材上でシート化培養することで形成することができる。「シート化培養」は、培養基材に播種した細胞を、シート状細胞培養物を形成する(すなわち、シート化する)ように培養することを意味する。シート化培養は、典型的には、培養基材にシート状細胞培養物を形成し得る細胞を播種し、所定の期間(例えば、8〜48時間、10〜36時間、11〜30時間、12〜26時間など)、細胞間接着を形成する条件下で培養して細胞同士を相互作用させ、細胞同士を連結させることにより行う。細胞間接着を形成する条件は、細胞間接着を形成することができる任意の条件を含み、これには、限定されずに、例えば、一般的な細胞培養条件が含まれる。かかる条件としては、例えば、37℃、5%COでの培養が挙げられる。また、当業者であれば、播種する細胞の種類に応じて最適な条件を選択することができる。シート化培養の非限定例は、例えば、特許文献1、特開2010-081829、特開2010-226991、特開2011-110368、特開2011-172925、WO 2014/185517などに記載されている。
【0044】
細胞の播種密度は特に限定されないが、シート化培養においては、例えば、細胞が実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度であってもよい。「細胞が実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度」とは、成長因子を実質的に含まない非増殖系の培養液で培養した場合に、シート状細胞培養物を形成することができる細胞密度を意味する。この播種密度は、成長因子を含む培養液を用いる手法におけるものよりも高いものであり、細胞がコンフルエントに達する密度以上であってもよい。かかる密度の非限定例は、例えば、1.0×10個/cm以上である。播種密度の上限は、細胞培養物の形成が損なわれず、細胞が分化に移行しなければ特に制限されないが、例えば、3.4×10個/cm未満であってもよい。
【0045】
「細胞が実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度」は、ある態様では1.0×10〜3.4×10個/cm、別の態様では3.0×10〜3.4×10個/cm、さらに別の態様では3.5×10〜3.4×10個/cm、さらに別の態様では1.0×10〜3.4×10個/cm、さらに別の態様では3.0×10〜1.7×10個/cm、別の態様では3.5×10〜1.7×10個/cm、さらに別の態様では1.0×10〜1.7×10個/cmである。上記範囲は、上限が3.4×10個/cm未満である限り、上限および下限の両方、または、そのいずれか一方を含んでもよい。したがって、上記密度は、例えば、3.0×10個/cm以上3.4×10個/cm未満(下限を含み、上限は含まない)、3.5×10個/cm以上3.4×10個/cm未満(下限を含み、上限は含まない)、1.0×10個/cm以上3.4×10個/cm未満(下限を含み、上限は含まない)、1.0×10個/cm超3.4×10個/cm未満(下限も上限も含まない)、1.0×10個/cm超1.7×10個/cm以下(下限は含まないが、上限は含む)であってもよい。
【0046】
シート化に用いるシート化媒体としては、細胞のシート化を誘導し得るものであれば特に限定されず、例えば、生理食塩水、種々の生理緩衝液(例えば、PBS、HBSS等)、種々の細胞培養用の基礎培地をベースにしたものなどを使用することができる。かかる基礎培地には、限定されずに、例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、120、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80−7、DMEM/F12などが含まれる。これらの基礎培地の多くは市販されており、その組成も公知となっている。基礎培地は、標準的な組成のまま(例えば、市販されたままの状態で)用いてもよいし、細胞種や培養条件に応じてその組成を適宜変更してもよい。したがって、基礎培地は、公知の組成のものに限定されず、1または2以上の成分が追加、除去、増量もしくは減量されたものを含む。シート化媒体は、血清(例えば、ウシ胎仔血清などのウシ血清、ウマ血清、ヒト血清等)、種々の成長因子(例えば、FGF、EGF、VEGF、HGF等)などの添加物を含んでもよい。
【0047】
細胞培養物は、細胞培養物を含む医薬組成物の製造に使用することができる。かかる医薬組成物は、種々の追加成分、例えば、薬学的に許容し得る担体や、細胞培養物の生存性、生着性および/または機能などを高める成分、対象疾患の処置に有用な他の有効成分などを含んでいてもよい。かかる追加成分としては、既知の任意のものを使用することができ、当業者はこれらの追加成分について精通している。また、医薬組成物は、細胞培養物の生存性、生着性および/または機能などを高める成分や、対象疾患の処置に有用な他の有効成分などと併用することができる。一態様において、医薬組成物は、組織の異常に関連する疾患の処置に用いるためのものである。処置の対象となる組織や疾患は、細胞培養物について上記したとおりである。
【0048】
前記細胞培養物および医薬組成物は、キットとして提供されてもよい。かかるキットは、細胞培養物または医薬組成物の製造に用いる一部またはすべての要素を含む。キットは、限定されずに、例えば、細胞培養物の製造に用いる細胞、センサチップ、培養液、培養皿、器具類(例えば、ピペット、スポイト、ピンセット等)、細胞培養物の製造方法や使用方法に関する指示(例えば、使用説明書、製造方法や使用方法に関する情報を記録した媒体、例えば、フレキシブルディスク、CD、DVD、ブルーレイディスク、メモリーカード、USBメモリー等)などを含んでいてもよい。
【0049】
前記キットにおいて、細胞は、チューブ、バイアル、フラスコなど、細胞の保管に適した容器に収容された細胞懸濁液として提供することができる。細胞懸濁液は、液体の状態であっても、凍結されていてもよい。細胞を凍結状態で提供する場合、細胞懸濁液は凍結保護剤を含んでいることが好ましい。センサチップは細胞懸濁液に含まれる形で提供されても、細胞懸濁液とは別の構成要素として提供されてもよい。例えば、細胞の由来に関する情報が記憶されたセンサチップを細胞懸濁液に含めて提供することにより、センサチップは細胞とともに移動することとなり、細胞培養物や医薬組成物の製造工程から、細胞培養物や医薬組成物の使用に至る各段階で、細胞の由来を特定することが可能となる。したがって、細胞の取り違えなどのミスを効果的に防止することができる。
【0050】
細胞の由来に関する情報が記憶されたセンサチップ(または細胞の由来に関する情報が記憶されたセンサ機能を有しないチップ)をキットに含まれる他の要素(一部または全部)に付すことで、特定の対象に使用されることが想定されるキットに含まれる要素が、誤って他の対象に使用されるリスクを低減することもできる。これにより、他の対象の細胞やその他の成分によるコンタミネーションを回避することが可能となる。なお、「細胞の由来に関する情報」は、個々のセンサチップが識別できる識別番号などでもよい。この場合、かかる識別番号をデータベースなどにおいて細胞の由来に関する情報と対応付けることにより、センサチップから細胞の由来を特定することができる。
【0051】
前記細胞培養物または医薬組成物は、対象において疾患を処置する方法に用いることができる。かかる処置方法は、細胞培養物または医薬組成物の有効量をそれ必要とする対象に投与するステップを含む。処置方法の対象となる組織や疾患は、細胞培養物について上記したとおりである。また、かかる処置方法においては、細胞培養物の生存性、生着性および/または機能などを高める成分や、対象疾患の処置に有用な他の有効成分などを、細胞培養物と併用することができる。
【0052】
前記処置方法は、細胞培養物を製造するステップをさらに含んでもよい。かかる処置方法は、細胞培養物を製造するステップの前に、対象から細胞培養物を製造するための細胞または細胞の給源となる組織を採取するステップをさらに含んでもよい。一態様において、細胞または細胞の給源となる組織を採取する対象は、細胞培養物の投与を処置を受ける対象と同一の個体である。別の態様において、細胞または細胞の給源となる組織を採取する対象は、細胞培養物の投与を処置を受ける対象とは同種の別個体である。別の態様において、細胞または細胞の給源となる組織を採取する対象は、細胞培養物の投与を処置を受ける対象とは異種の個体である。
【0053】
本明細書において、用語「対象」は、任意の生物個体、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体を意味する。対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、疾患の処置が企図される場合には、典型的には当該疾患に罹患しているか、罹患するリスクを有する対象を意味する。
【0054】
また、用語「処置」は、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全ての種類の予防的および/または治療的介入を包含するものとする。例えば、「処置」の用語は、疾患の進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、当該疾患発症の予防または再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
【0055】
前記処置方法における有効量とは、例えば、疾患の発症や再発を抑制し、症状を軽減し、または進行を遅延もしくは停止し得る量(例えば、細胞培養物に含まれる細胞数、細胞培養物のサイズ、重量など)であり、好ましくは、当該疾患の発症および再発を予防し、または当該疾患を治癒する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、例えば、マウス、ラット、イヌまたはブタなどの実験動物や疾患モデル動物における試験などにより適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。また、処置の対象となる組織病変の大きさは、有効量決定のための重要な指標となり得る。
【0056】
細胞培養物および医薬組成物は、静脈内、筋肉内、皮下、局所、動脈内、門脈内、心室内、腹腔内等の種々の経路から投与することができる。シート状細胞培養物の場合は、投与方法として、典型的には組織への直接的な適用が挙げられるが、シート状細胞培養物の断片を用いる場合には、注射による投与が可能な種々の経路、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、局所、動脈内、門脈内、心室内、腹腔内等の経路から投与してもよい。
投与頻度は、典型的には1回の処置につき1回であるが、所望の効果が得られない場合には、複数回投与することも可能である。
【0057】
<対象に適用された細胞培養物の検査方法>
図4に、対象に適用された細胞培養物の検査方法の一態様を示す。図4には、対象3の心臓31に適用されたシート状心筋細胞培養物24に埋め込まれたセンサチップ1からの情報を、読取装置4で読み取る工程が示されている。シート状心筋細胞培養物24を構成する心筋細胞は、iPS細胞から誘導されたものである。センサチップ1はパッシブ型であり、読取装置4から送信される電波を電力に変換し、これにより所定の項目の測定および測定値の送信を実行する。パッシブ型のチップおよびかかるチップの読取装置は、RFID技術の分野において周知である。測定される項目としては、細胞培養物の状態や、疾患の処置に係る細胞培養物の機能などに関するものが挙げられる。より具体的には、限定されずに、例えば、細胞培養物の拍動、活動電位、イオン濃度、生理活性物質濃度等が挙げられる。イオンの種類としては、活動電位に関連するもの、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。測定される生理活性物質は、心筋細胞自体が産生するもののみならず、心筋細胞が対象の体内の他の細胞に作用して産生を誘導するものを含み、非限定例としては、例えば、VEGFやbFGF等の血管新生サイトカイン、HGF等の細胞死抑制サイトカイン、SDF−1等の幹細胞ホーミングサイトカインなどが挙げられる。また、センサチップからの情報にはセンサチップの位置に関する情報も含まれる。センサチップの位置の変化は、細胞培養物の適用位置からのずれや脱落、センサチップの脱落などの指標となる。
【0058】
センサチップ1は、測定値とともに、各センサチップに固有の識別情報を送信するよう構成することもできる。これにより、対象3に適用された細胞培養物24の由来を確認することができる。また、センサチップを生分解性材料で構成することで、対象3への影響を最小化できるとともに、センサチップ1の回収が不要となる。
【0059】
図4にはシート状心筋細胞培養物24を対象3の心臓31に使用した場合の検査方法を示したが、当該検査方法は、他の細胞培養物に対しても、また、他の組織に使用した場合にも適用できることはいうまでもない。例えば、前記検査方法は、シート状骨格筋芽細胞培養物を心臓に使用した場合や、膵島細胞培養物を膵臓に使用した場合、シート状上皮細胞を皮膚に使用した場合、シート状口腔粘膜上皮幹細胞を食道に使用した場合、シート状角膜上皮幹細胞培養物を目に使用した場合、シート状歯根膜細胞培養物を歯に使用した場合、軟骨細胞培養物を骨関節部に使用した場合などにも適用できる。また、センサチップは、それぞれの場合に適した項目を測定するように構成することができる。例えば、膵島細胞培養物の場合には、インスリンやグルカゴンなどのホルモンの濃度を測定するように構成することができる。
【0060】
上記検査により、対象に適用された細胞培養物の状態をリアルタイムで把握することができ、かかる情報を基に、細胞培養物による処置の正否を予測または評価したり、補助療法の要否を判断したりすることが可能となる。例えば、上記検査によりシート状心筋細胞培養物の機能不全(例えば、拍動の消失、活動電位の異常、サイトカイン濃度の低値)が確認された場合、シート状心筋細胞培養物の機能を改善するための補助療法(例えば、サイトカイン等の投与)や、追加のシート状心筋細胞培養物の適用等を行うことが可能である。
【0061】
<シート状細胞培養物の剥離を検知するシステム>
図5に、シート状細胞培養物の培養基材からの剥離を検知するシステム(以下、剥離検知システムと略す場合がある)の一態様を示す。この態様における剥離検知システム5は、シート状細胞培養物2に埋め込まれたセンサチップ1と、前記センサチップ1からの情報を読み取る読取装置40とを含む。センサチップ1はパッシブ型であり、読取装置40に備えられた通信装置41が発する電波を電力に変換し、種々の処理、例えば、所定の項目の測定や、測定値の送信などを行う。通信装置41は、センサチップ1が送信した情報を受信し、読取装置本体42のプロセッサ421に送る。プロセッサ421は通信装置41から送られたデータを解析し、ディスプレイ422やスピーカ423を介して解析結果を出力する。読取装置40は、読取装置40を制御するためのユーザインターフェイス424、および、読取装置40に電力を供給する電源425を備えている。
【0062】
なお、通信装置41は、必ずしも図5のように培養基材6の下部に設置する必要はなく、培養基材6の上部など、センサチップ1との通信を行うことができる任意の位置に設置することができる。また、図5では、読取装置本体42と通信装置41とが分離しており、ケーブル43で接続されているが、読取装置42と通信装置41とは必ずしも分離している必要はなく、一体となっていてもよい。
【0063】
センサチップ1は、培地7中のシート状細胞培養物2の培養基材6からの剥離に伴って変化する1または2以上の項目を検知できるよう構成される。例えば、シート状細胞培養物2は培養基材6から剥離する際に収縮するが、収縮に伴う張力や、細胞培養物2内に生じる圧力の増大、センサチップ1周囲の細胞培養物構成成分の変位などを検出することで、かかる収縮を検知することができる。また、シート状細胞培養物2の収縮に伴い、図6に示すようにセンサチップ1の位置が剥離前の位置8から変化し得るため、かかる位置の変化に基づいてシート状細胞培養物1の培養基材6からの剥離を検知することもできる。センサチップ1から送信される電波は距離に応じて減衰するため、センサチップ1の位置の変化は、例えば、複数の通信装置41を異なる位置に配置し、各通信装置42が受信するセンサチップ1からの電波の強度を解析すること等により検出することができる。
【0064】
シート状細胞培養物2が培養基材6から剥離し始めると、図7に示すように、それまで接着していたシート状細胞培養物2の底面と培養基材6との間に培地の流入11が生じ、シート状細胞培養物2の底面における物理化学的環境が変化する。したがって、細胞培養物2内と培地7との間で濃度に差がある物質、例えば、イオンの濃度を検出することで、かかる培地の流入11をいち早く検知することができる。さらに、センサチップ1と通信装置41との距離がシート状細胞培養物2の培養基材6からの剥離と共に変化すると、通信装置41が受信するセンサチップ1からの電波強度も変化することになる。したがって、かかる電波強度自体に基づいて、シート状細胞培養物2の培養基材6からの剥離を検知することができる。センサチップ1からの電波強度自体を利用する場合、センサチップ1は必ずしもそれ自体センサ機能を有する必要はなく、センサチップ1と読取装置40とが協働してセンサ機能を担ってもよい。
【0065】
細胞培養物2が複数のセンサチップ1を含んでいると、各センサチップ1からの情報を比較することで、剥離状態のより精密な解析が可能となる。例えば、読取装置40のプロセッサ421は、複数のセンサチップ1の一部から剥離を示す情報を受信した場合に(例えば図7)、シート状細胞培養物2の一部が剥離し、一部は剥離していないと判断することができ、一方、全てのセンサチップ1から剥離を示す情報を受信した場合には(例えば図8)、シート状細胞培養物2が完全に剥離したと判断することができる。そして、これらの解析結果をディスプレイ422やスピーカ423を介してユーザに報知することができる。また、細胞培養物に含まれる全センサチップに対する、剥離を示す情報を送信したセンサチップの割合に基づいて、剥離の程度を、例えば、剥離のパーセンテージとして、報知することもできる。
【0066】
剥離検知システムは、細胞培養装置などのシート状細胞培養物の製造に係る装置に組み込み、これに剥離検知機能を付与することができる。剥離検知機能を付与することで、培養基材から剥離したシート状細胞培養物を速やかに回収することが可能となり、早期に培養基材から剥離したシート状細胞培養物を放置してしまうリスクや、シート状細胞培養物の状態をこまめに確認する手間などを軽減することができる。
【0067】
同様に、シート状細胞培養物に埋め込まれたセンサチップを利用したシート状細胞培養物の培養基材からの剥離を検知する工程を、シート状細胞培養物の製造工程に組み込むことができる。剥離検知工程を組み込むことで、培養基材から剥離したシート状細胞培養物を速やかに回収することが可能となり、早期に培養基材から剥離したシート状細胞培養物を放置してしまうリスクや、シート状細胞培養物の状態をこまめに確認する手間などを軽減することができる。
【0068】
本明細書に記載された種々の特徴は様々に組み合わせることができ、そのような組合せにより得られる態様は、本明細書に具体的に記載されていない組合せも含め、すべて本発明の範囲内である。また、当業者は、本発明の精神から逸脱しない多数の様々な改変が可能であることを理解しており、かかる改変を含む均等物も本発明の範囲に含まれる。したがって、本明細書に記載された態様は例示にすぎず、これらが本発明の範囲を制限する意図をもって記載されたものではないことを理解すべきである。
【符号の説明】
【0069】
1 センサチップ
2 シート状細胞培養物
21 細胞外マトリックス層
22 細胞層(下層)
23 細胞層(上層)
24 シート状心筋細胞培養物
3 対象
31 心臓
4、40 読取装置
41 通信装置
42 読取装置本体
421 プロセッサ
422 ディスプレイ
423 スピーカ
424 ユーザインターフェイス
425 電源
43 ケーブル
5 剥離検知システム
6 培養基材
7 培地
8 剥離前のセンサチップの位置
9 剥離前の状態
10 剥離後の状態
11 培地の流入
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8