特許第6756721号(P6756721)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6756721ヘリアンサス属植物種子抽出物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6756721
(24)【登録日】2020年8月31日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】ヘリアンサス属植物種子抽出物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/00 20160101AFI20200907BHJP
   A23L 5/41 20160101ALI20200907BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20200907BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20200907BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20200907BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20200907BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20200907BHJP
【FI】
   A23L29/00
   A23L5/41
   C11B9/00 Z
   A61Q13/00 102
   A61K8/9789
   A61K47/46
   A23K10/30
【請求項の数】15
【全頁数】53
(21)【出願番号】特願2017-540031(P2017-540031)
(86)(22)【出願日】2016年9月16日
(86)【国際出願番号】JP2016077559
(87)【国際公開番号】WO2017047794
(87)【国際公開日】20170323
【審査請求日】2019年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-183988(P2015-183988)
(32)【優先日】2015年9月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100189094
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 陽一
(72)【発明者】
【氏名】内田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】阪谷 圭祐
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−137536(JP,A)
【文献】 特開平07−132072(JP,A)
【文献】 特開平07−132073(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/060244(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第1740137(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/00−29/30
FSTA/CAplus/WPIDS/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)に記載の特徴を有するヘリアンサス属植物種子抽出物:
(A)ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0075質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、当該酸糖液を、白色蛍光灯10000ルクス及び30℃にて7日間保管して測定した場合に、1−オクテン−3−オン含量が0.1ppb以下である。
【請求項2】
更に下記(B)に記載の特徴を有する、請求項1に記載のヘリアンサス属植物種子抽出物:
(B)ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0075質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製した場合において、
(b−1)当該酸糖液のメチオナール含量が0.025ppb以下であり、
(b−2)当該酸糖液を、白色蛍光灯10000ルクス及び30℃にて7日間保管した後のメチオナール含量が0.03ppb以下である。
【請求項3】
更に下記(C)に記載の特徴を有する、請求項1又は2のいずれかに記載のヘリアンサス属植物種子抽出物:
(C)色価E10%1cm値80換算0.03質量%となる紫イモ色素を含み、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0041質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、当該酸糖液を、暗所及び50℃にて10日間保管した場合において、アントシアニン系色素残存率が保管前の60%以上である。
【請求項4】
更に下記(D)に記載の特徴を有する、請求項1〜3のいずれかに記載のヘリアンサス属植物種子抽出物:
(D)色価E10%1cm値80換算0.03質量%となる紫イモ色素を含み、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0041質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を、白色LED照射10000ルクス及び10℃にて14日間保管した場合において、アントシアニン系色素残存率が保管前の60%以上である。
【請求項5】
更に下記(E)に記載の特徴を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のヘリアンサス属植物種子抽出物:
(E)シトラールを0.01質量%含み、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0075質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、当該酸糖液を、暗所及び50℃にて7日間保管した場合において、p−クレゾール含量が20ppb以下である。
【請求項6】
更に下記(F)に記載の特徴を有する、請求項1〜5のいずれかに記載のヘリアンサス属植物種子抽出物:
(F)pH3.0のMcIlvaine緩衝液を用いて、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.75質量%含有する水溶液を調製した場合において、当該水溶液の濁度(O.D700値)が0.2以下である。
【請求項7】
前記(A)〜(F)に記載の特徴を有する請求項6に記載のヘリアンサス属植物種子抽出物。
【請求項8】
ヘリアンサス属植物種子からの抽出物の製造方法であって、
(工程1)ヘリアンサス属植物種子に対して水又は含水アルコール抽出を行い、(工程2)前記抽出の後、固液分離を行って抽出液を回収し、(工程3)酸性条件下にて60℃以上で加熱処理を行う、ことを特徴とするヘリアンサス属植物種子抽出物の製造方法。
【請求項9】
前記水又は含水アルコール抽出後の抽出液の水素イオン濃度が3.16×10−8〜1×10−6mоl/Lであって、前記(工程3)に記載の加熱処理が、水又は含水アルコール抽出後の抽出液の水素イオン濃度を1とした場合における水素イオン濃度比で、1×10〜3.16×10の値になるようにして行うものである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ヘリアンサス属植物種子が、種子殻含有率20%以下のHelianthus annuusに属する植物の種子である、請求項8又は9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
ヘリアンサス属植物種子からの抽出物の製造工程において、請求項8〜10のいずれかに記載の前記(工程1)〜(工程3)を行うことを特徴とする、製造されるヘリアンサス属植物種子抽出物における劣化臭を低減する方法。
【請求項12】
請求項1〜7いずれかに記載のヘリアンサス属植物種子抽出物を含有してなる天然系色素退色防止剤、香料化合物劣化臭抑制剤、色素製剤、香料製剤、飲食品、香粧品、医薬品、医薬部外品、衛生用日用品、又は飼料。
【請求項13】
請求項1〜7いずれかに記載のヘリアンサス属植物種子抽出物、又は、請求項8〜10のいずれかに記載の製造方法によって得られたヘリアンサス属植物種子抽出物、を含有させる工程を含むことを特徴とする、天然系色素の退色防止方法。
【請求項14】
請求項1〜7いずれかに記載のヘリアンサス属植物種子抽出物、又は、請求項8〜10のいずれかに記載の製造方法によって得られたヘリアンサス属植物種子抽出物、を含有させる工程を含むことを特徴とする、香料化合物の劣化臭抑制方法。
【請求項15】
請求項8〜10のいずれかに記載の製造方法によって得られたヘリアンサス属植物種子抽出物を含有させる工程を含むことを特徴とする、天然系色素退色防止剤、香料化合物劣化臭抑制剤、色素製剤、香料製剤、飲食品、香粧品、医薬品、医薬部外品、衛生用日用品、又は飼料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、本出願人により日本国に出願された特願2015−183988に基づく優先権主張を伴う出願であり、その全内容は参照により本出願に組み込まれる。
本発明は、天然系色素及び香料化合物に対する安定性付与機能を有し、且つ、劣化臭発生が顕著に抑制されたヘリアンサス属植物種子抽出物に係る発明に関する。
【背景技術】
【0002】
1.天然系色素退色
天然系色素は、空気中で酸化を受けて急速に退色する性質がある。従来、酸化防止剤としては、L−アスコルビン酸、α−トコフェノール、ルチン等が知られているが、L−アスコルビン酸はその効果は十分とはいえず、α−トコフェノールやルチン等は水に溶けにくく飲食品等での色素安定の使用に適したものではない。
【0003】
天然系色素の安定用途に利用可能な酸化防止剤としては、クロロゲン酸類を主成分として含有するヒマワリ種子抽出物が報告されている(特許文献1)。しかし、ヒマワリ種子抽出物は、原料由来の臭い成分が強く、酸化防止剤としての使用は非常に限定的である。また、ヒマワリ種子抽出物は、原料由来の臭い成分が強いことに加えて、時間経過に伴いさらに異臭が強くなる劣化臭の問題がある。特に光照射に伴う「光劣化臭」の問題は深刻で、製造時には匂いが皆無である場合であっても、保管等の間に光に晒されることにより、異臭が発生し増強されることになる。
また、更にヒマワリ種子抽出物における劣化臭発生のメカニズムは解明されておらず、前駆物質からの臭気発生を抑制することができないため、飲食品分野等においてヒマワリ種子抽出物が天然系色素の安定剤として幅広く使用されることはなかった。更に、天然系色素の熱による退色、変色に対して、ヒマワリ種子抽出物が極めて優れた安定性付与効果を奏することは、従来知られていない。
【0004】
ところで、特許文献2にはヒマワリ種子抽出物からクロロゲン酸を高収率で得る方法として、ヒマワリ種子の抽出液とアルミニウム塩を接触させて生成した固形物から、クロロゲン酸を回収する技術が提案されている。しかしながら、特許文献2に開示された技術では、ヒマワリ種子抽出物の臭い成分を低減又は除去すること、及び光劣化臭を抑制することはできない。
また、特許文献3には、ヒマワリ種子の搾油残渣に由来するクロロゲン酸及び糖質と、酵母と、溶媒とを接触させ、カロリーの低減されたクロロゲン酸含有組成物を製造する技術が提案されている。しかしながら、特許文献3に開示された技術は酵母特有の臭気や発酵臭が残存し、ヒマワリ種子抽出物の臭い成分を低減又は除去すること、及び光劣化臭を抑制することはできない。
【0005】
2.天然及び合成香料化合物劣化
天然系色素と同様に、天然及び合成香料化合物についても、加熱や時間経過による分解や構造変化により香味消失や劣化臭発生の問題が発生する。特に、レモン香料であるシトラールは、レモン様のフレッシュな風味及び芳香を有することから多くの分野での需要があるところ、シトラールの分解反応に由来する香味消失及び劣化臭発生が課題となる。
従来技術におけるシトラールの分解抑制剤としては、発酵茶葉を水、エタノール又はこれらの混合物で抽出して得られた抽出物にシトラールからの劣化臭生成抑制作用が報告されているが(特許文献4)、シトラール劣化臭の主要原因成分であるp−クレゾールの生成抑制について十分な効果があるとまでは認められない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3247990号公報
【特許文献2】特開2015−51932号公報
【特許文献3】特開2015−91223号公報
【特許文献4】特許第4185317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の事情に鑑みてなされたものでありその課題とする処は、天然系色素及び香料化合物に対する安定性を付与する機能を有し、且つ、劣化臭の発生が抑制された組成物、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来技術の状況において、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、(工程1)ヘリアンサス属植物種子に対して水又は含水アルコール抽出を行い、(工程2)前記抽出の後、固液分離を行って抽出液を回収し、(工程3)酸性条件下にて60℃以上で加熱処理を行う、ことを特徴とするヘリアンサス属植物種子抽出物の製造方法を着想した。
【0009】
本発明者らは、当該製法により得られたヘリアンサス属植物種子抽出物の性質を試験したところ、劣化臭が顕著に低減された組成物、更には、劣化臭の原因物質のみならずその前駆物質についても低減、除去、又は不活性化された組成物となることを見出した。
加えて、本組成物について、従来、ヒマワリ種子抽出物が使用されてこなかった天然系色素安定性に関する可視光域における耐光性及び耐熱性を試験したところ、極めて優れた耐光性及び耐熱性を有することを見出した。更に、当該製法により得られる組成物では、従来法である特許文献1に係るヒマワリ種子抽出物に比べて、少ない力価にて天然系色素に対して安定性を付与できることも確認された。
また、本発明者らは、当該製法により得られたヘリアンサス属植物種子抽出物には、香料化合物に対して安定性を付与する機能があることを見出した。特に、レモン香料化合物であるシトラールに対して優れた耐熱性を付与し、シトラール劣化臭の主要原因成分であるp−クレゾールの発生を著しく抑制することができることを見出した。
【0010】
本発明は、具体的には以下に記載の発明に関する。
[項1]
下記(A)に記載の特徴を有するヘリアンサス属植物種子抽出物;
(A)ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0075質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、当該酸糖液を、白色蛍光灯10000ルクス及び30℃にて7日間保管した後の1−オクテン−3−オン含量が0.1ppb以下である。
[項2]
更に下記(B)に記載の特徴を有する、項1に記載のヘリアンサス属植物種子抽出物;
(B)ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0075質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製した場合において、
(b−1)当該酸糖液のメチオナール含量が0.025ppb以下であり、
(b−2)当該酸糖液を、白色蛍光灯10000ルクス及び30℃にて7日間保管した後のメチオナール含量が0.03ppb以下である。
[項3]
更に下記(C)に記載の特徴を有する、項1又は2のいずれかに記載のヘリアンサス属植物種子抽出物;
(C)色価E10%1cm値80換算0.03質量%となる紫イモ色素を含み、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0041質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、当該酸糖液を、暗所及び50℃にて10日間保管した場合において、アントシアニン系色素残存率が保管前の60%以上である。
[項4]
更に下記(D)に記載の特徴を有する、項1〜3のいずれかに記載のヘリアンサス属植物種子抽出物;
(D)色価E10%1cm値80換算0.03質量%となる紫イモ色素を含み、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0041質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を、白色LED照射10000ルクス及び10℃にて14日間保管した場合において、アントシアニン系色素残存率が保管前の60%以上である。
[項5]
更に下記(E)に記載の特徴を有する、項1〜4のいずれかに記載のヘリアンサス属植物種子抽出物;
(E)シトラールを0.01質量%含み、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0075質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、当該酸糖液を、暗所及び50℃にて7日間保管した場合において、p−クレゾール含量が20ppb以下である。
[項6]
更に下記(F)に記載の特徴を有する、項1〜5のいずれかに記載のヘリアンサス属植物種子抽出物;
(F)pH3.0のMcIlvaine緩衝液を用いて、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.75質量%含有する水溶液を調製した場合において、当該水溶液の濁度(O.D700値)が0.2以下である。
[項7]
前記(A)〜(F)に記載の特徴を有する項6に記載のヘリアンサス属植物種子抽出物。
[項8]
ヘリアンサス属植物種子からの抽出物の製造方法であって、
(工程1)ヘリアンサス属植物種子に対して水又は含水アルコール抽出を行い、(工程2)前記抽出の後、固液分離を行って抽出液を回収し、(工程3)酸性条件下にて60℃以上で加熱処理を行う、ことを特徴とするヘリアンサス属植物種子抽出物の製造方法。
[項9]
前記水又は含水アルコール抽出後の抽出液の水素イオン濃度が3.16×10−8〜1×10−6mоl/Lであって、前記(工程3)に記載の加熱処理が、水又は含水アルコール抽出後の抽出液の水素イオン濃度を1とした場合における水素イオン濃度比で、1×10〜3.16×10の値になるようにして行うものである、項8に記載の製造方法。
[項10]
前記ヘリアンサス属植物種子が、種子殻含有率20%以下のHelianthus annuusに属する植物の種子である、項8又は9のいずれかに記載の製造方法。
[項11]
項8〜10のいずれかに記載の製造方法によって得られたヘリアンサス属植物種子抽出物。
[項12]
ヘリアンサス属植物種子からの抽出物の製造工程において、項8〜10のいずれかに記載の前記(工程1)〜(工程3)を行うことを特徴とする、製造されるヘリアンサス属植物種子抽出物における劣化臭を低減する方法。
[項13]
項1〜7及び11のいずれかに記載のヘリアンサス属植物種子抽出物を含有してなる天然系色素退色防止剤。
[項14]
項1〜7及び11のいずれかに記載のヘリアンサス属植物種子抽出物を含有してなる色素製剤。
[項15]
項1〜7及び11のいずれかに記載のヘリアンサス属植物種子抽出物を含有してなる香料化合物劣化臭抑制剤。
[項16]
項1〜7及び11のいずれかに記載のヘリアンサス属植物種子抽出物を含有してなる香料製剤。
[項17]
項1〜7及び11のいずれかに記載のヘリアンサス属植物種子抽出物を含有してなる飲食品、香粧品、医薬品、医薬部外品、衛生用日用品、又は飼料。
[項18]
項1〜7及び11のいずれかに記載のヘリアンサス属植物種子抽出物を含有させる工程を含むことを特徴とする、天然系色素の退色防止方法。
[項19]
項1〜7及び11のいずれかに記載のヘリアンサス属植物種子抽出物を含有させる工程を含むことを特徴とする、香料化合物の劣化臭抑制方法。
[項20]
項8〜10のいずれかに記載の製造方法によって得られたヘリアンサス属植物種子抽出物を含有させる工程を含むことを特徴とする、天然系色素退色防止剤、香料化合物劣化臭抑制剤、色素製剤、香料製剤、飲食品、香粧品、医薬品、医薬部外品、衛生用日用品、又は飼料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、天然系色素及び香料化合物に対する安定性を付与する機能を有し、且つ、劣化臭の発生が抑制された組成物、を提供することが可能となる。これにより、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、従来技術に係るヒマワリ種子抽出物ではその利用が困難であった用途についての幅広い分野での利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例2に係るヒマワリ種子抽出物の安定性試験において、GC/MS分析による1−オクテン−3−オン含量の測定結果を示した図である。
【0013】
図2】実施例2に係るヒマワリ種子抽出物の安定性試験において、GC/MS分析によるメチオナール含量の測定結果を示した図である。
【0014】
図3】実施例5に係る天然系色素への安定性付与試験において、耐光性試験での色素残存率の測定結果を示した図である。
【0015】
図4】実施例5に係る天然系色素への安定性付与試験において、耐熱性試験での色素残存率の測定結果を示した図である。
【0016】
図5】実施例6に係る天然系色素への安定性付与試験において、耐光性試験での色差(ΔE値)の測定結果を示した図である。
【0017】
図6】実施例6に係る天然系色素への安定性付与試験において、耐熱性試験での色差(ΔE値)の測定結果を示した図である。
【0018】
図7】実施例7に係るLED照射下での天然系色素への安定性付与試験において、耐光性試験での色素残存率の測定結果を示した図である。
【0019】
図8】実施例7に係るLED照射下での天然系色素への安定性付与試験において、耐光性試験での色差(ΔE値)の測定結果を示した図である。
【0020】
図9】実施例8に係る炭酸飲料での天然系色素への安定性付与試験において、耐光性試験及び耐熱性試験での色素残存率の測定結果を示した図である。
【0021】
図10】実施例8に係る炭酸飲料での天然系色素への安定性付与試験において、耐光性試験及び耐熱性試験での色差(ΔE値)の測定結果を示した図である。
【0022】
図11】実施例9に係るアルコール飲料での天然系色素への安定性付与試験において、耐光性試験及び耐熱性試験での色素残存率の測定結果を示した図である。
【0023】
図12】実施例9に係るアルコール飲料での天然系色素への安定性付与試験において、耐光性試験及び耐熱性試験での色差(ΔE値)の測定結果を示した図である。
【0024】
図13】実施例10に係る天然系色素への安定性付与試験において、耐光性試験及び耐熱性試験での色素残存率の測定結果を示した図である。
【0025】
図14】実施例10に係る天然系色素への安定性付与試験において、耐光性試験及び耐熱性試験での色差(ΔE値)の測定結果を示した図である。
【0026】
図15】実施例11に係る香料化合物への安定性付与試験において、GC/MS分析によるp−クレゾール含量の測定結果を示した図である。
【0027】
図16】実施例11に係る香料化合物への安定性付与試験において、GC/MS分析によるp−メチルアセトフェノン含量の測定結果を示した図である。
【0028】
図17】実施例14に係るヒマワリ種子抽出物の安定性試験において、耐光性試験による臭気特性に関する官能評価の結果を示した図である。
【0029】
図18】実施例15に係る天然系色素への安定性付与試験において、耐光性試験での色素残存率の測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0031】
[安定性試験における光条件及び温度条件の説明]
本明細書中、耐光性に関する安定性試験で採用している「10000ルクス」という光強度は、通常の小売店等が使用する蛍光灯又はLED照射における照度の5〜10倍の光強度である。
また、本明細書中、耐熱性に関する安定性試験で採用している「50℃」という温度は一般的な室温である20℃で保管した場合に比べて、約8倍速く化学反応が進行する温度である。
【0032】
1.ヘリアンサス属植物種子抽出物
本発明は、天然系色素及び香料化合物に対する安定性付与機能を有し、且つ、劣化臭発生が顕著に抑制されたヘリアンサス属植物種子抽出物に係る発明に関する。
これにより、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、従来技術に係るヒマワリ種子抽出物ではその利用が困難であった用途についての幅広い分野での利用が可能となる。なお、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物としては、本発明に係る技術的特徴が奏する作用効果を実質的に妨げるものでなければ、下記に記載した特徴以外の他の特徴を含むことを除外するものではない。また、本発明に係る技術的範囲は必須の技術的特徴以外については下記特徴を全て含む態様に限定されるものではない。
【0033】
[ヘリアンサス属植物種子抽出物の品質に関する特徴]
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、その組成的特徴により優れた特性を発揮する抽出物であり、特には従来技術では克服されていなかった経時的な劣化臭の発生が大幅に低減された組成物である。
【0034】
劣化臭抑制能
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、従来技術に係る製造方法や粗抽出のみにより得られたヒマワリ種子抽出に比べて、劣化臭が大幅に低減された組成物である。ここで、「劣化臭」とは、組成成分の経時変化に伴い発生する光劣化臭及び熱劣化臭を指す。ヒマワリ種子抽出物で特に問題となる現象は光劣化臭である。
「光劣化臭」とは、ヒマワリ種子抽出物が光照射に晒されることに起因して異臭が発生し、時間経過とともに当該臭気が増強される現象を指す。また、ヒマワリ種子抽出物においては、製造時には匂いが皆無である場合でも、時間経過と伴に異臭が発生し増強される傾向がある。ヒマワリ種子抽出物中に含まれている成分が光によって分解又は反応し、異臭成分が生成される現象と推測される。
また、「熱劣化臭」とは、高温に晒されることでヒマワリ種子抽出物中に含まれている成分の分解又は反応が促進され、異臭が発生し増強される現象を指す。
【0035】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、熱劣化臭の発生が抑制されていることに加えて特に光劣化臭の発生が大幅に低減された組成物である。
当該劣化臭抑制能は、以下に示す本発明に係る製造方法によって達成されるものである。即ち、劣化臭の原因物質のみならず、劣化臭の原因となる物質の前駆物質についても除去又は不活性化することにより奏させるものである。
一方、一般的な吸着樹脂等の精製を行った場合、異臭や劣化臭の低減効果を得ることができたとしても、時間経過に伴う劣化臭の発生が低減できる組成物となるとは限らない。
【0036】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物の劣化臭抑制能は、抽出物中に含まれる1−オクテン−3−オンの含量を指標として評価し特定することが可能である。
ここで、「1−オクテン−3−オン(1−octen−3−one)」は、キノコ様又はマッシュルーム様の臭気を有する化合物である。当該化合物は、従来技術や粗抽出におけるヘリアンサス属植物種子抽出物においては、時間経過に伴って生成され増加する主要な異臭成分である。特に光照射により生成量が増加する異臭成分である。
本発明においては、劣化臭の主要成分である1−オクテン−3−オンの生成量を指標とすることによって、他の劣化臭成分の生成量を相対的に評価することが可能となる。従って、本発明においては、当該化合物の生成量を測定することによって、劣化臭の発生、特に光劣化臭の発生が抑制されている組成物であるか否かを判断することが可能となる。
【0037】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物では、具体的には、下記(A)に記載の方法に従って測定した場合に、1−オクテン−3−オン含量が一定以下になるものである。
即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、以下の特徴を有する;
(A)ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0075質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、当該酸糖液を、白色蛍光灯10000ルクス及び30℃にて7日間保管した後の1−オクテン−3−オン含量が0.1ppb以下、好ましくは0.05ppb以下、より好ましくは0.005ppb以下である。
当該指標値の数値条件は、天然系色素や香料化合物への安定性付与機能を担保する有効成分を維持した上で、組成物から劣化臭の原因物質が除去された成分組成となっていなければ達成できない値である。
なお、当該値が0.1ppbを超える場合、人間の知覚閾値を超えて官能評価によっても確認されるようになり好適でない。
【0038】
更に、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物の劣化臭抑制能は、上記1−オクテン−3−オン含量の評価に加えて、組成物中に含まれるメチオナールの含量を指標として評価し特定することがより好適である。
ここで、「メチオナール(Methional)」は、イモ様の臭気を有する化合物である。従来技術や粗抽出におけるヒマワリ種子抽出物においては、時間経過に伴って生成され増加する異臭成分の1つである。特に光照射により生成増加する異臭成分である。
従って、本発明においては、上記1−オクテン−3−オン含量の評価に加えて、当該化合物の生成量を測定することによって、劣化臭の発生、特に光劣化臭の発生が抑制されている組成物であるか否かを判断することが好適である。
【0039】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物では、具体的には、下記(B)及び(b−2)に記載の方法に従って測定した場合に、メチオナール含量が一定以下になるものである。
即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、以下の特徴を有する;
(B)ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0075質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、(b−2)当該酸糖液を、白色蛍光灯10000ルクス及び30℃にて7日間保管した後のメチオナール含量が0.03ppb以下、好ましくは0.02ppb以下、より好ましくは0.01ppb以下、さらに好ましくは0.008ppb以下、特に好ましくは0.007ppb以下である。
当該指標値の数値条件は、天然系色素や香料化合物への安定性付与機能を担保する有効成分を維持した上で、組成物から劣化臭の原因物質が除去された成分組成となっていなければ達成できない値である。
【0040】
原料由来の異臭抑制作用
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、従来技術に係る製造方法や粗抽出のみにより得られたヘリアンサス属植物種子抽出物に比べて、原料由来の異臭が大幅に低減された組成物である。
当該異臭抑制能は、以下に示す本発明に係る製造方法によって達成されるものである。即ち、異臭の原因物質の除去又は不活性化することにより奏させるものである。
【0041】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物においては、原料由来の異臭(即ち、製造直後から備わっている異臭)が抑制された特徴は、メチオナール含量を指標として評価し特定することが可能である。
本発明においては、原料由来の異臭主要成分であるメチオナール含量を指標とすることによって、他の異臭成分含量を相対的に評価することが可能となる。従って、本発明においては、当該化合物の含量を測定することによって、原料由来の異臭が抑制されている組成物であるか否かを判断することが可能となる。
【0042】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物では、具体的には、下記(B)及び(b−1)に記載の方法に従って測定した場合に、メチオナール含量が一定以下になるものである。
即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、以下の特徴を有する;
(B)ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0075質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製した場合において、(b−1)当該酸糖液のメチオナール含量が0.025ppb以下、好ましくは0.02ppb以下、より好ましくは0.01ppb以下、さらに好ましくは0.008ppb以下、特に好ましくは0.006ppb以下である。
当該指標値の数値条件は、天然系色素や香料化合物への安定性付与機能を担保する有効成分を維持した上で、組成物から異臭の原因物質が除去された成分組成となっていなければ達成できない値である。
【0043】
濁り抑制作用
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、従来技術に係る製造方法や粗抽出のみにより得られたヒマワリ種子抽出物に比べて、濁りの発生が大幅に低減された組成物である。即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、従来技術に係る製造方法等でのヒマワリ種子抽出物では利用が困難であった飲料や、酸性の飲食品等の新たな用途において、有用な利用が可能な組成物となることが期待される。
【0044】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物が有する濁り抑制作用は、中性溶液においても十分な効果が発揮されるものであるが、特には酸性溶液において顕著に発揮される作用である。なお、従来技術に係る製造方法や粗抽出のみにより得られたヒマワリ種子抽出物では、特に酸性溶液での濁り発生が著しいものとなる。
ここで、酸性溶液としては、pH7未満を指すものであるが、好ましくはpH6以下、より好ましくはpH5以下を指すものである。下限は特に制限はないが、pH1以上、好ましくはpH2以上を挙げることができる。
【0045】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物が有する濁りの発生が抑制された特徴は、濁度(O.D700値)を指標として評価し特定することが可能である。
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物では、具体的には、下記(F)に記載の方法に従って測定した場合に、濁度(O.D700値)が一定以下になるものである。
即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、以下の特徴を有する;
(F)pH3.0のMcIlvaine緩衝液を用いて、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.75質量%含有する水溶液を調製した場合において、当該水溶液の濁度(O.D700値)が0.2以下、好ましくは0.18以下、より好ましくは0.16以下、さらに好ましくは0.15以下、特に好ましくは0.14以下である。
なお、当該値が一定より高い場合、特に濁度(O.D700値)が0.2を超えた場合、濁りが品質の点で許容範囲外となり好適でない。
【0046】
本明細書中、「McIlvaine(マッキルベイン)緩衝液」とは、クエン酸及びリン酸塩(NaHPO)を用いて調製される緩衝液であり、クエン酸緩衝液としても知られている。
【0047】
[天然系色素への安定性付与機能]
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、その組成的特徴により天然系色素に対する安定性付与機能を有する組成物である。
ここで、本明細書中「天然系色素への安定性付与機能」とは、天然系色素の化合物構造を安定化させて分解や構造変化を抑制し、退色や色調変化を防止する機能を指す。
具体的には、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物及び天然系色素を含む組成物を調製した際に、色素残存率の向上、色調変化の防止等の機能が発揮される。
例えば、加熱処理(例えば、製造、加工、調理等)や時間経過(例えば、保存等)を経た後であっても、発色特性が失われにくい色素組成物を調製することが可能となる。
【0048】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、天然系色素の安定性に関して、耐光性付与及び耐熱性付与の両方の点で幅広く且つ長期間の安定性付与機能を有する組成物である。
ここで、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物が有する耐光性付与機能とは、紫外光域から可視光全域の幅広い波長域において長期間照射された場合でも、天然系色素を安定して維持する機能を指す。
また、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物が有する耐熱性付与機能とは、50℃付近の高温状態に長期間保管された場合においても、天然系色素を安定して維持する機能を指す。なお、ヘリアンサス属植物種子抽出物が天然系色素に対する耐熱性付与機能を有することは本発明者らが初めて明らかにした事実であり、当該技術分野において知られていなかった知見である。
【0049】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物が安定性付与機能を好適に発揮する天然系色素としては、アントシアニン系色素及び/又はクチナシ系色素を挙げることができる。即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、アントシアニン系色素及びクチナシ系色素の分子構造の安定化に好適に関与する組成物である。アントシアニン系色素においては、特には、アシル化アントシアニンの構造安定化に好適に関与する組成物である。
【0050】
アントシアニン系色素
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物が安定性付与機能を好適に発揮する天然原料由来の色素としては、アントシアニン系色素を色素成分とする色素組成物を挙げることができる。例えば、赤ダイコン色素、赤キャベツ色素、紫イモ色素、ブドウ果汁色素、ブドウ果皮色素、有色ジャガイモ色素、紫トウモロコシ色素、チョウマメ色素、黒豆色素、エルダーベリー色素、クランベリー色素、グースベリー色素、サーモンベリー色素、ストロベリー色素、チェリー色素、ダークスイートチェリー色素、チンブルベリー色素、デュベリー色素、ハイビスカス色素、ハクルベリー色素、ブラックカーラント色素、ブラックベリー色素、レッドカーラント色素、ローガンベリー色素、プラム色素、ブルーベリー色素、ボイセンベリー色素、ホワートルベリー色素、マルベリー色素、モレロチェリー色素、ラズベリー色素、シソ色素、赤米色素、紫ニンジン色素等を挙げることができる。
より好ましくは、アシル化アントシアニンを主な色素成分とする色素組成物である赤ダイコン色素、赤キャベツ色素、紫イモ色素、紫ニンジン色素等を挙げることができる。
【0051】
本明細書中「アントシアニン系色素」とは、アントシアニンを主な色素成分とする色素組成物を指す。なお、本発明においては、アントシアニン以外の色素や他の化合物等が混入している色素組成物についても、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物が有する天然系色素安定性付与機能が担保される限りは許容されるものである。
なお、ここでアントシアニン系色素の形態としては、具体的には色素製剤や色素抽出物等の色素組成物の形態を挙げることができるが、果汁や野菜汁等の色素組成物もここに含まれる。
【0052】
本明細書中、「アントシアニン」とは、赤〜紫〜青色を呈する色素化合物で、アントシアニジンに糖鎖(例えば、グルコース、ガラクトース、ラムノース等)が結合した配糖体である。糖鎖の他に、有機酸(例えば、シナピン酸、カフェ酸、コハク酸、マロン酸等)が結合してアシル化アントシアニンとなることもある。
「アントシアニジン」はA環、B環、C環の3つの環構造からなり、B環に付加する水酸基(−OH)やメトキシル基(−OCH)の数により、主に6種類のアントシアニジン(ペラルゴニジン、シアニジン、デルフィニジン、ペオニジン、ペチュニジン、マルビジン)に分類される。これらは、水酸基の数が多いほど青味を増す傾向にあり、水酸基が1つのペラルゴニジンは橙赤色、2つのシアニジンは赤紫〜紫色、3つのデルフィニジンは青紫色を呈する。B環の水酸基がメトキシル基に置き換わると赤みを帯びる。
【0053】
クチナシ系色素
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物が安定性付与機能を好適に発揮する天然原料由来の色素としては、クチナシ系色素を色素成分とする色素組成物を挙げることができる。
本明細書中「クチナシ系色素」とは、クチナシ(Gardenia augusta又はGardenia jasminoides)の果実から得られる色素成分を主成分とする色素組成物を指す。具体的には、クチナシ赤色素、クチナシ青色素、クチナシ黄色素等を挙げることができる。
ここでクチナシ赤色素としては、一般的には、クチナシの果実から得られるイリドイド配糖体のエステル加水分解物とタンパク質分解物の混合物にβ−グルコシダーゼを添加して得られる色素と説明される。本明細書におけるクチナシ赤色素としては、当該定義に係る色素に限定されるものでなく、クチナシ果実に由来するイリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有するイリドイド化合物のアグリコンとアミノ基含有組成物との作用を伴って生成される色素化合物を含む色素組成物が広く含まれる。
また、クチナシ青色素としては、一般的には、クチナシの果実から得られるイリドイド配糖体とタンパク質分解物の混合物にβ−グルコシダーゼを添加して得られる色素と説明される。本明細書におけるクチナシ青色素としては、当該定義に係る色素に限定されるものでなく、クチナシ果実に由来するイリドイド骨格の4位にメチルエステル基を有するイリドイド化合物のアグリコンとアミノ基含有組成物との作用を伴って生成される色素化合物を含む色素組成物が広く含まれる。
また、クチナシ黄色素としては、一般的には、クチナシの果実から得られるカロテノイド系のクロシン及びクロセチンを主成分とする色素と説明される。本明細書におけるクチナシ黄色素としても当該色素化合物を含む色素組成物が広く含まれる。
なお、本発明においては、クチナシ系色素以外の色素や他の化合物等が混入している色素組成物についても、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物が有する天然系色素安定性付与機能が担保される限りは許容されるものである。
また、ここでクチナシ系色素の形態としては、具体的には色素製剤や色素抽出物、等の色素組成物の形態を挙げることができる。
【0054】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物が安定性付与機能を好適に発揮できる天然原料由来の色素組成物としては、クチナシ赤色素、クチナシ青色素、及びクチナシ黄色素を挙げることができる。より好ましくは、クチナシ赤色素、クチナシ青色を挙げることができる。特に好ましくは、クチナシ赤色素を挙げることができる。
【0055】
安定性付与機能の指標
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物の天然系色素への安定性付与機能は、紫イモ由来のアントシアニン系色素への耐熱性に関する安定性試験を行った後、色素残存率や色調変化に関する測定値を指標として評価し特定することが可能である。
ここで、紫イモ由来のアントシアニン系色素は、品種によって収穫時期もほぼ同一時期であり組成が比較的均一であることから、評価基準として採用したものである。
【0056】
耐熱性付与機能
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、具体的には、下記(C)(c−1)に記載の方法に従って測定した場合に、耐熱性試験後の色素残存率が一定以上になるものである。
即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、以下の特徴を有する;
(C)(c−1)色価E10%1cm値80換算0.03質量%となる紫イモ色素を含み、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0041質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、当該酸糖液を、暗所及び50℃にて10日間保管した場合において、アントシアニン系色素残存率が保管前の60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である。なお、当該値が一定より低い場合、安定性付与機能が不十分であり好適でない。
【0057】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、下記(C)(c−2)に記載のように、ヘリアンサス属植物種子抽出物添加の有無の違いによる色素残存率の差が、一定以上となるものであることが好適である。
即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、以下の特徴を有する;
(C)(c−2)色価E10%1cm値80換算0.03質量%となる紫イモ色素を含み、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0041質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、当該酸糖液を、暗所及び50℃にて10日間保管した場合において、以下の式(1)を満たす;
式(1):X−X≧10
ここで、Xはヘリアンサス属植物種子抽出物添加区の保管後の酸糖液における色素残存率(%)を示し、Xはヘリアンサス属植物種子抽出物無添加区の保管後の酸糖液における色素残存率(%)を示す。
なお、当該式(1)における右辺の値としては10を挙げることができるが、好ましくは13、より好ましくは15、さらに好ましくは20、さらにより好ましくは25、特に好ましくは30を挙げることが好適である。
【0058】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、下記(C)(c−3)に記載の方法に従って測定した場合に、耐熱性試験前と試験後の色差ΔE値(色調変化)が一定以下になるものであることが好適である。
即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、以下の特徴を有する;
(C)(c−3)色価E10%1cm値80換算0.03質量%となる紫イモ色素を含み、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0041質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、当該酸糖液を、暗所及び50℃にて10日間保管した場合において、保管前の酸糖液と保管後の酸糖液との色差ΔE値が8以下、好ましくは6以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは4以下、さらにより好ましくは3.5以下、特に好ましくは3以下である。なお、当該値が一定より高い場合、安定性付与機能が不十分であり好適でない。
【0059】
耐光性付与機能
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物の天然系色素への安定性付与機能は、耐光性に関する安定性試験を行った後の色素残存率や色調変化に関する測定値を指標として評価し特定することも可能である。
【0060】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、具体的には、下記(D)(d−1)に記載の方法に従って測定した場合に、耐光性試験後の色素残存率が一定以上になるものであることが好適である。
即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、以下の特徴を有する;
(D)(d−1)色価E10%1cm値80換算0.03質量%となる紫イモ色素を含み、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0041質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、当該酸糖液を、白色蛍光灯照射10000ルクス及び30℃にて10日間保管した場合において、アントシアニン系色素残存率が保管前の50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらにより好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。なお、当該値が一定より低い場合、安定性付与機能が不十分であり好適でない。
【0061】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、下記(D)(d−2)に記載のように、ヘリアンサス属植物種子抽出物添加の有無の違いによる色素残存率の差が、一定以上となるものであることが好適である。
即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、以下の特徴を有する;
(D)(d−2)色価E10%1cm値80換算0.03質量%となる紫イモ色素を含み、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0041質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、当該酸糖液を、白色蛍光灯照射10000ルクス及び30℃にて10日間保管した場合において、以下の式(2)を満たす;
式(2):Y−Y≧10
ここで、Yはヘリアンサス属植物種子抽出物添加区の保管後の酸糖液における色素残存率(%)を示し、Yは、ヘリアンサス属植物種子抽出物無添加区の保管後の酸糖液における色素残存率(%)を示す。
なお、当該式(2)における右辺の値としては10を挙げることができるが、好ましくは15、より好ましくは20、さらに好ましくは25、さらにより好ましくは30、特に好ましくは35、一層好ましくは40を挙げることが好適である。
【0062】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、下記(D)(d−3)に記載の方法に従って測定した場合に、耐光性試験前と試験後の色差ΔE値(色調変化)が一定以下になるものであることが好適である。
即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、以下の特徴を有する;
(D)(d−3)色価E10%1cm値80換算0.03質量%となる紫イモ色素を含み、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0041質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、当該酸糖液を、白色蛍光灯照射10000ルクス及び30℃にて10日間保管した場合において、保管前の酸糖液と保管後の酸糖液との色差ΔE値が10以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは5以下、さらにより好ましくは4以下、特に好ましくは3以下である。なお、当該値が一定より高い場合、安定性付与機能が不十分であり好適でない。
【0063】
白色LED照射に対する耐性付与機能
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、天然系色素に対する劣化作用が強い白色LED照射に対しても、天然系色素に十分な耐光性を付与し良好な色調の維持を可能とする組成物である。
ここで、「LED」とは、発光ダイオードを利用した照明器具を指し、消費電力が小さく寿命が長い性質を有し、照明器具としては白色LEDなどがある。しかし、白色LED光には、同照度の白色蛍光灯の光と比べて、その波長特性が天然系色素を劣化させやすいという傾向がある。
【0064】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物の天然系色素への安定性付与機能は、白色LED照射での耐光性試験を行った後、色素残存率や色調変化に関する測定値を指標として評価し特定することが可能である。
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、具体的には、下記(D)(d−4)に記載の方法に従って測定した場合に、耐光性試験後の色素残存率が一定以上になるものであることが好適である。
即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、以下の特徴を有する;
(D)(d−4)色価E10%1cm値80換算0.03質量%となる紫イモ色素を含み、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0041質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、当該酸糖液を、白色LED照射10000ルクス及び10℃にて14日間保管した場合において、アントシアニン系色素残存率が保管前の60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上である。なお、当該値が一定より低い場合、安定性付与機能が不十分であり好適でない。
【0065】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、下記(D)(d−5)に記載のように、ヘリアンサス属植物種子抽出物添加の有無の違いによる色素残存率の差が、一定以上となるものであることが好適である。
即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、以下の特徴を有する;
(D)(d−5)色価E10%1cm値80換算0.03質量%となる紫イモ色素を含み、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0041質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、当該酸糖液を、白色LED照射10000ルクス及び10℃にて14日間保管した場合において、以下の式(3)を満たす;
式(3):Z−Z≧10
ここで、Zはヘリアンサス属植物種子抽出物添加区の保管後の酸糖液における色素残存率(%)を示し、Zは、ヘリアンサス属植物種子抽出物無添加区の保管後の酸糖液における色素残存率(%)を示す。
なお、当該式(3)における右辺の値としては10を挙げることができるが、好ましくは13、より好ましくは15、さらに好ましくは17を挙げることが好適である。
【0066】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、下記(D)(d−6)に記載の方法に従って測定した場合に、耐光性試験前と試験後の色差ΔE値(色調変化)が一定以下になるものであることが好適である。
即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、以下の特徴を有する;
(D)(d−6)色価E10%1cm値80換算0.03質量%となる紫イモ色素を含み、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0041質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、当該酸糖液を、白色LED照射10000ルクス及び10℃にて14日間保管した場合において、保管前の酸糖液と保管後の酸糖液との色差ΔE値が10以下、好ましくは9以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは7以下である。なお、当該値が一定より高い場合、安定性付与機能が不十分であり好適でない。
【0067】
色素に関する用語
本明細書中、「紫イモ色素」とは、サツマイモ(Ipomoea batatas)から抽出して得られたアントシアニン系色素組成物を指す。シアニジンアシルグルコシド及びペオニジンアシルグルコシドを主成分とし、クエン酸緩衝液(pH3.0)での極大吸収波長が515〜535nmである色素組成物である。
【0068】
本明細書中、「色素残存率」とは、安定性試験前及び試験後に測定した各色素の極大吸収波長の吸光度を基にして、下記式(4)によって算出される値である。
【0069】
【数1】
【0070】
本明細書中、色素の「極大吸収波長」(λmax)とは、可視光領域における吸収度が極大となる光波長(nm)を示すものである。また、本明細書中、「吸光度」とは、物質が光を吸収する度合を表す値である。例えば、極大吸収波長(λmax)の吸光度(Aλ)は、下記式(5)にて求めることができる。当該式中、Aは吸光度を、λは極大吸収波長を、Aλは極大吸収波長における吸光度を、Iは入射光強度を、Iは透過光強度を意味する。
【0071】
【数2】
【0072】
本明細書中、「色価」とは、「色価E10%1cm」を意味し、「色価E10%1cm」とは、10質量%の色素組成物含有溶液を調製した場合において、光路長が1cmの測定セルを用いて、可視光領域における極大吸収波長(λmax)の吸光度(A:Absorbance)を測定することで、算出される値である。「色価(10%E)」と表記する場合もある。詳細には、第8版食品添加物公定書(厚生労働省)に記載の方法に従って算出できる。
【0073】
本明細書中、「色価換算」とは、色素(色素組成物)を色価当たりの数値に換算することをいう。例えば、色価60換算とは、色素(色素組成物)を色価60当たりの数値に換算することをいう。
【0074】
本明細書中、「Hunter Lab表色系(Lab系)」とは、色度を示すa、b軸よりなる直交座標と、これに垂直なL軸とから構成される色立体を成す表色系である。ここで、「L値」とは、明度を数値で表した値である。L値=100の時は白色となり、L値=0の時は黒色となる。「a値」とは赤色と緑色の色調を数値で表現した値である。a値の+の値が大きい程、赤色が強くなり、a値の−の値が大きい程、緑色が強くなる。「b値」とは黄色と青色の色調を数値で表現した値である。b値の+の値が大きいほど黄色が強くなり、b値の−の値が大きいほど青色が強くなることを示す。
【0075】
本明細書中、「色差(ΔE)」とは、2色の隔たりの距離を下記式(6)によって算出した値である。当該式中のL、a、及びbは、Hunter Lab表色系におけるL値、a値、及びb値をそれぞれ示す。
【0076】
【数3】
【0077】
本明細書中、「HUE値」とは、色相を記号及び数値で表した値である。具体的には、Hunter Lab表色系におけるa軸b軸の直行座標上のプロット(a値、b値)と原点とを結んだ直線の形成角度を、マンセル色相環における色相表記に変換して表現した色相を表す値である。
【0078】
[香料化合物への安定性付与機能]
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、その組成的特徴により香料化合物に対する安定性付与機能を有する組成物である。
ここで、本明細書中「香料化合物への安定性付与機能」とは、香料の化合物構造を安定化させて分解や構造変化を抑制し、香味消失や異臭発生を防止する機能を指す。
具体的には、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物及び香料化合物を含む組成物を調製した際に、香料化合物残存率の向上、臭気化合物生成の防止等の機能が発揮される。例えば、加熱処理(例えば、製造、加工、調理等)や時間経過(例えば、保存等)を経た後であっても、香料に由来する風味特性が失われにくく異臭発生が抑制された香料組成物を調製することが可能となる。
【0079】
当該技術分野における従来技術としては、香料化合物の一種であるシトラールの分解抑制剤として「発酵茶葉の水及び/又はエタノール抽出物」が有効成分として報告されている(特許文献4)。しかし、当該抽出物の作用効果は、シトラール劣化臭の主要原因成分であるp−クレゾールの生成抑制について十分な効果があるとまでは認められない。
【0080】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、香料化合物の安定性に関して、耐熱性付与の点で幅広く且つ長期間の安定性付与機能を有する組成物である。ここで、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物が有する耐熱性付与機能とは、50℃付近の高温状態に長期間保管された場合においても、香料化合物を安定して維持する機能を指す。
【0081】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物が、安定性付与機能を発揮できる香料化合物の種類は特に制限されず、天然香料及び合成香料の区別なく適用可能である。好適な香料化合物としてはモノテルペン類に属する香料化合物を挙げることができる。即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、モノテルペン類分子構造の安定化に好適に関与する組成物である。
ここで、モノテルペン類としては、具体的には、シトラール(ゲラニアール及びネラールの総称)、リモネン、ピネン、サビネン、ミルセン等を挙げることができる。特には、シトラールが好適である。
【0082】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物が安定性付与機能を好適に発揮できる香料組成物としては、シトラールを香料成分とする香料組成物を挙げることができる。例えば、レモン香料、オレンジ香料、ライム香料、ジンジャー香料、柚子香料、グレープフルーツ香料等を挙げることができる。
【0083】
安定性付与機能の指標
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物の香料化合物への安定性付与機能は、耐熱性に関する安定性試験を行った後の異臭成分に関する測定値を指標として評価し特定することが可能である。
【0084】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物では、具体的には、下記(E)(e−1)に記載の方法に従って測定した場合に、耐熱性試験後のp−クレゾールの含量を指標として評価し特定することが可能である。ここで、「p−クレゾール(p−cresol)」は、消毒臭様の臭気を有する化合物である。当該化合物は、シトラールの分解等により時間経過に伴って生成され増加する主要な異臭成分である。特に高温保管により生成増加する異臭成分である。
従って、本発明においては、p−クレゾール含量を測定することによって、香料化合物の安定性付与機能を有するか否かを判断することが可能となる。
【0085】
即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、以下の特徴を有する;
(E)(e−1)シトラールを0.01質量%含み、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0075質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、当該酸糖液を、暗所及び50℃にて7日間保管した場合において、p−クレゾール含量が20ppb以下、好ましくは17.5ppb以下、より好ましくは15ppb以下である。
なお、当該値が一定より高い場合、安定性付与機能が不十分であり好適でない。なお、当該優れたp−クレゾール生成量の低減効果は、発酵茶葉の水及び/又はエタノール抽出物を有効成分とする従来技術(特許文献4)では達成することができない。
【0086】
また、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物の劣化臭抑制能は、上記p−クレゾール含量の評価に加えて、耐熱性試験後のp−メチルアセトフェノンの含量を指標として評価し特定することがより好適である。具体的には、下記(E)(e−2)に記載の方法に従って測定した場合に、耐熱性試験後のp−メチルアセトフェノンの含量を指標として評価し特定することが可能である。
ここで、「p−メチルアセトフェノン(p−methylacetophenone)」は、アーモンド様の臭気を有する化合物である。当該化合物も、p−クレゾールと同様に、シトラールの分解等により時間経過に伴って生成され増加する主要な異臭成分である。特に高温保管により生成増加する異臭成分である。
従って、本発明においては、上記p−クレゾール含量の評価に加えて、当該化合物の生成量を測定することによって、香料化合物の安定性付与機能を有するか否かを判断することが好適である。
【0087】
即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、以下の特徴を有する;
(E)(e−2)シトラールを0.01質量%含み、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算で0.0075質量%含み、果糖ブドウ糖液糖にてBrix10°に調整され、且つpH3.0に調整された酸糖液を調製し、当該酸糖液を、暗所及び50℃にて7日間保管した場合において、p−メチルアセトフェノン含量が1600ppb以下、好ましくは1500ppb以下、より好ましくは1350ppb以下、さらに好ましくは1200ppb以下である。なお、当該値が一定より高い場合、安定性付与機能が不十分であり好適でない。
【0088】
上記(A)〜(F)に記載の特徴は、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物を構成する化合物の組成的特徴によって発揮される性質であり、その組成的特徴を表現した性質である。
本発明に係る好適な態様としては、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物が上記(A)〜(F)に記載の特徴を有する組成物であることが特に好適である。ここで、本発明において上記(A)〜(F)に記載の特徴を有する組成物とは、上記(A)〜(F)に記載の特徴を全て備えた組成物と表現することが可能であるが、その意味するところは、上記(A)〜(F)の各特徴のそれぞれごとに、その一部の特徴を必須に備えている組成物を指すものである。この点、当該組成物が上記(A)〜(F)に記載の特徴の全てを、各特徴のベストモードとして全て備えている組成物に限定されることを意味するものではない。
【0089】
2.ヘリアンサス属植物種子抽出物の製造方法
上記段落1.に記載の特徴を有する本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、以下の工程により調製することができる。なお、本発明に係る製造方法においては、本発明に係る技術的特徴が奏する作用効果を実質的に妨げるものでなければ、下記に記載した工程以外の他の工程を含むことを除外するものではない。また、本発明に係る技術的範囲は必須工程以外については下記工程を全て含む態様に限定されるものではない。
【0090】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子からの抽出物の製造方法は、(工程1)ヘリアンサス属植物種子に対して水又は含水アルコール抽出を行う工程、(工程2)前記抽出の後、固液分離を行って抽出液を回収する工程、(工程3)酸性条件下にて60℃以上で加熱処理を行う工程、を含むことを特徴とする方法に関するものである。本発明に係る製造方法においては、(工程1)、(工程2)、及び(工程3)は当該順番に行われるものである。また、本発明に係る製造方法においては、各工程間、各工程前、及び/又は各工程後に他の工程が行われることを除外するものではない。
【0091】
原料
本発明に係る製造方法で用いる原料である「ヘリアンサス属植物種子」とは、キク科のヘリアンサス属(Helianthus属)に属する植物の種子を指すものである。本発明において、特に好ましくは、Helianthus annuusに属する植物の種子を用いることが好適である。ここで、Helianthus annuusとは「ヒマワリ」を指す種の学名である。本発明においては、Helianthus annuusに属する如何なる品種系統の植物の種子を原料とすることができる。
本発明に利用可能なヘリアンサス属植物種子としては、種子をそのまま用いることもできるが、種皮を破砕、粉砕、磨砕、擂潰、又は粉末化したものが好適である。即ち、前記種子の加工物を用いることが好適である。好ましくは、搾油残渣である搾油粕を用いることが好適である。
【0092】
また、本発明で用いる原料として特に好ましくは種子殻を除いたものが好適である。より好ましくは種子殻含有率が20%以下、さらに好ましくは10%以下のものが好適である。即ち、本発明で用いる原料としては、種子殻を除去する処理を行った種子の加工物であって、好ましくは種子殻含有率が20%以下、さらに好ましくは10%以下の状態にある種子の加工物であるものが好適である。
本発明においては、原料であるヘリアンサス属植物種子は、種子殻含有率が少ない程、天然系色素及び香料化合物への安定性付与機能が向上する傾向があり好適である。この点、特許文献1に係る従来技術のヒマワリ種子抽出においては、種子殻を好適に用いる技術的思想が開示されているのみである。
【0093】
抽出工程
本発明に係る製造方法では、上記ヘリアンサス属植物種子に対して、安定性付与機能成分を多く含み且つ異臭及び劣化臭の原因成分が低減できるような抽出を行うことが好適である。具体的には、本発明に係る製造方法では、上記ヘリアンサス属植物種子に対して水又は含水アルコール抽出を行う。
原料の植物体から抽出操作を行う場合、原料の形状は問わず、原料そのものを溶媒抽出に用いることができる。表面積を大きくし、抽出効率を上昇させる観点からは、原料を加工(例えば、破砕等)することが好適である。なお、当該抽出工程は、所望に応じて本工程の抽出後に得られる残渣、好ましくは抽出1回目の残渣に対して行うことも可能である。
【0094】
抽出溶媒としては、水又は含水アルコールを用いることが好適である。含水アルコールに用いるアルコールの種類としては、炭素数1〜4の低級アルコールを挙げることができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等を挙げることができる。好ましくはエタノールである。
特に好ましい溶媒は、水又は含水アルコールである。含水アルコールとしては、アルコール含有率が50%(v/v)以下のもの、好ましくは40%(v/v)以下、より好ましくは30%(v/v)以下、更に好ましくは20%(v/v)以下のものが好適である。アルコール含有率の下限としては、特に制限はないが1%(v/v)以上を挙げることができる。
原料に対する溶媒の使用量としては、特に制限はないが、例えば原料1質量部に対して、溶媒0.1〜1000質量部を挙げることができる。特には、原料1質量部に対して0.5〜100質量部、より好ましくは1〜50質量部の溶媒を使用すると好適である。
【0095】
抽出操作としては、常法により行えば良く、特に制限はない。浸漬や静置により行えば良いが、例えば、撹拌、懸濁、振盪、振動処理、超音波処理等の操作を行って抽出効率を向上させることが可能である。
【0096】
本発明に係る抽出時の温度条件は、80℃未満で行うことが好適である。好ましくは75℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは65℃以下、特に好ましくは60℃以下である。本発明においては、当該抽出温度を一定以下にすることによって安定性付与機能成分を多く含み且つ異臭及び劣化臭の原因成分を低減させることが可能となる。当該抽出温度が高すぎる場合、得られる抽出物に異臭及び劣化臭が付与されてしまい好適でない。
抽出温度の下限については、抽出可能な温度であれば特に制限はないが、抽出効率を考慮すると10℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上、さらに好ましくは30℃以上、さらにより好ましくは35℃以上が好適である。
なお、抽出時間については特に制限されないが、例えば1分〜72時間が挙げることができる。好ましくは10分〜48時間、より好ましくは30分〜24時間を挙げることができる。
【0097】
固液分離工程
本発明に係る製造方法では、上記抽出液を加熱処理する前に固液分離により原料残渣を除去し抽出液を回収する。本発明においては、当該固液分離工程を行わない場合、次工程の加熱処理の際に得られる抽出物に異臭及び劣化臭が付与されてしまい好適でない。
固液分離の手段は、常法の手段を用いて行うことが可能である。例えば、濾過、吸引濾過、共沈、遠心分離等を行い、固形物や不溶物等を取り除くことが可能である。また、濾過を行う場合は、濾過助剤(例えば、珪藻土等)を用いることも好適である。なお、当該固液分離工程は、所望に応じて複数回行うことも可能である。
【0098】
加熱工程
本発明に係る製造方法では、上記固液分離後の抽出液に対して加熱処理を行う。本発明においては、原料残渣を取り除いた状態にて加熱処理を行うことで、異臭及び劣化臭の原因成分を大幅に低減又は除去することが可能となる。また、当該加熱処理を行った場合でも安定性付与機能成分はほとんど減少せず抽出物の安定性機能は保持される。なお、当該加熱工程は、所望に応じて複数回行うことも可能である。
また、本発明に係る製造方法の一態様としては、当該加熱工程を殺菌処理の一部又は代替として行うことが可能である。また、本発明に係る製造方法の別態様としては、当該加熱工程を濃縮処理の一部又は代替として行うことも可能である。
【0099】
本発明においては、当該加熱処理の温度条件を60℃以上で行うことが必要である。好ましくは65℃以上、より好ましくは70℃以上、さらに好ましくは75℃以上、さらにより好ましくは80℃以上である。上限は水溶液の沸点を挙げることができるが、常圧での水溶液の場合100℃以下、加圧条件下の水溶液では150℃以下、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下、さらに好ましくは120℃以下が好適である。
具体的には、60〜150℃、好ましくは65〜140℃、より好ましくは70〜130℃、さらに好ましくは75〜100℃、特に好ましくは80〜95℃が好適である。
当該温度が一定より低すぎる場合、抽出物の異臭及び劣化臭の原因成分の除去又は失活が十分でなく好適でない。また、当該温度が一定より高すぎる場合、安定性機能付与成分への影響が懸念され好適でない。
【0100】
加熱時間については、温度条件に応じて決定される要素でもあり適宜決定すれば良いが、例えば1分〜72時間が挙げることができる。好ましくは10分〜48時間、より好ましくは30分〜24時間を挙げることができる。
当該時間が一定より短すぎる場合、抽出物の異臭及び劣化臭の原因成分の除去又は失活が十分でなく好適でない。また、当該温度が一定より長すぎる場合、安定性付与機能成分への影響が懸念され好適でない。
【0101】
本発明における当該加熱処理は、酸性条件下にて行うことが好適である。当該加熱処理においては、上記固液分離後の抽出液を酸性条件に調整して行うことで異臭及び劣化臭の原因成分を大幅に低減又は除去することが可能となる。
ここで、酸性条件への調整手段としては、例えば、無機酸及び/又は有機酸を配合する手段が挙げられる。無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等が挙げられ、有機酸としては、例えば、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸等が挙げられる。
当該抽出溶媒に配合する無機酸や有機酸の量としては、特に制限はないが、抽出溶媒に対して0.001〜10質量%、好ましくは0.01〜7.5質量%、より好ましくは0.025〜5質量%程度の範囲で適宜調整することが好ましい。酸性条件への調整は、加熱処理前に予め行っておくことが好適であるが、加熱処理中に行うことも可能である。
【0102】
本発明における当該加熱処理の酸性条件への調整は、上記固液分離後の抽出液の水素イオン濃度について、水素イオン濃度比を所定の比率に調整して行うことが好適である。本明細書中、「水素イオン濃度比」とは、上記水又は含水アルコール抽出後の抽出液の水素イオン濃度に対して、当該加熱処理を行う溶液の水素イオン濃度を比率で表した値である。
ここで、抽出工程を上記段落に記載のように行って得られた抽出液においては、水素イオン濃度が3.16×10−8〜1×10−6mоl/Lの溶液となる。
本発明において当該加熱処理に適した水素イオン濃度は、水又は含水アルコール抽出後の抽出液の水素イオン濃度を1とした場合における水素イオン濃度比で、1×10〜3.16×10、好ましくは3.16×10〜1×10、より好ましくは1×10〜3.16×10となる値であることが好適である。
【0103】
また、本発明において当該加熱処理に適した水素イオン濃度は、水又は含水アルコール抽出後の抽出液の平均的な水素イオン濃度である4.47×10−7mоl/Lを1とした場合において、水素イオン濃度比で2.24×10〜2.24×10、好ましくは7.08×10〜7.08×10、より好ましくは2.24×10〜2.24×10となる値であることが好適である。
【0104】
本発明においては、上記水素イオン濃度比が所定範囲を外れる場合、異臭及び劣化臭の原因成分を低減又は除去しにくくなり好ましくない。
【0105】
なお、水素イオン濃度比を調整した後の抽出液の水素イオン濃度は、1×10−5〜1×10−2mоl/L、好ましくは3.16×10−5〜3.16×10−3mоl/L、より好ましくは1×10−4〜1×10−3mоl/Lであることが好適である。
【0106】
固液分離・精製工程
本発明に係る製造方法では、上記加熱処理を行った後、固液分離により残渣を除去し抽出液を回収することが望ましい。本発明においては加熱処理後に当該固液分離を行うことで、得られた抽出物の濁りを更に低減することができ好適である。
固液分離の手段は、常法の手段を用いて行うことが可能である。例えば、濾過、吸引濾過、共沈、遠心分離等を行い、固形物や不溶物等を取り除くことが可能である。また、濾過を行う場合は、濾過助剤(例えば、珪藻土等)を用いることも好適である。なお、当該固液分離工程は、所望に応じて複数回行うことも可能である。
【0107】
また、本発明に係る製造方法では、上記加熱処理又は加熱処理後の固液分離を行った後、精製により抽出液の不純物を除去することも好適である。当該精製処理としては、安定性付与機能成分の消失を伴わない限りは、常法の技術を用いて行うことができる。
例えば、シリカゲル、多孔性セラミック、スチレン系又は芳香族系の合成樹脂等を用いた吸着処理により行うことができる。また、カチオン性樹脂又はアニオン性樹脂を用いた、イオン交換処理により行うこともできる。また、メンブレンフィルター膜、限外濾過膜、逆浸透膜、電気透析膜、機能性高分子膜等を用いた、膜分離処理により行うこともできる。
【0108】
その他の工程
本発明に係る製造工程においては、上記得られた抽出液に対して、使用用途に応じて更なる精製処理、濃縮処理、pH調整、希釈処理、乾燥処理、殺菌処理等を行って所望の品質及び/又は形態となるヘリアンサス属植物種子抽出物(組成物)とすることができる。また、使用用途に応じて、プロテアーゼ等の酵素処理、微生物処理等を行うこともできる。これらの工程は、pH調整工程後の最終段階だけでなく、上記各工程後に適宜行うことも可能である。また、所望の工程を組み合わせて行うことも可能である。また、所望の工程を複数回行うことも可能である。
【0109】
本発明に係る製造工程においては、希釈、濃縮、乾燥等の処理の操作は、常法により行うことができる。また、精製処理は上記段落と同様に行うことができる。
【0110】
本発明に係る製造工程においては、pH調整の操作を常法により行うことが可能である。本発明においては、得られた抽出液のpH値が中性付近にない場合には、中性付近に調整することが好適である。
【0111】
本発明に係る製造工程においては、殺菌処理も常法により行うことが可能である。殺菌処理の手段としては、加熱処理、高圧処理、高圧加熱処理、滅菌フィルター処理、紫外線照射処理、殺菌剤での薬品処理等を挙げることができる。好ましくは、加熱処理又は高圧加熱処理にて殺菌を行うことが好適である。
殺菌加熱を行う際の温度条件としては、例えば60℃以上、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上を挙げることができる。上限温度は、安定性付与機能成分に悪影響がない限り特に制限はないが、加圧条件であれば140℃以下、常圧であれば100℃以下、好ましくは95℃以下を挙げることができる。
【0112】
[製造物]
本発明においては、上記した製造方法により得られたヘリアンサス属植物種子抽出物が含まれる。即ち、本発明においては、本発明に係る上記(工程1)〜(工程3)を必須の工程として行って製造されたヘリアンサス属植物種子抽出物が含まれる。なお、当該ヘリアンサス属植物種子抽出物としては、上記に記載した工程以外の他の工程を含む方法にて製造されたものを除外するものではない。また上記必須工程以外については、上記工程を全て含む態様に限定されるものではない。
【0113】
[ヘリアンサス属植物種子抽出物の劣化臭低減方法]
本発明では、ヘリアンサス属植物種子抽出物の製造工程において上記(工程1)〜(工程3)を行うことによって、製造されたヘリアンサス属植物種子抽出物の異臭の発生を低減し、更には経時変化に伴う劣化臭の発生を低減することが可能となる。
即ち、本発明においては、ヘリアンサス属植物種子からの抽出物の製造工程において、前記(工程1)〜(工程3)を行うことを特徴とする、製造されるヘリアンサス属植物種子抽出物における劣化臭を低減する方法、を提供することが可能となる。
当該方法における(工程1)〜(工程3)としては、上記したヘリアンサス属植物種子抽出物の製造工程と同様の(工程1)〜(工程3)を採用することが可能である。また、これらの工程以外の工程についても、上記したヘリアンサス属植物種子抽出物の製造工程と同様の工程を採用することが可能である。
【0114】
3.用途
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、臭気特性に関する性質が極めて良好な組成物である。即ち、原料由来の異臭及び時間経過に伴う劣化臭の発生が顕著に抑制された組成物である。また、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、天然系色素への安定性付与機能及び香料化合物への安定性付与機能に優れた作用を発揮する組成物である。
そのため、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、従来技術に係るヘリアンサス属植物種子抽出物ではその利用が困難であった用途についての幅広い分野での利用が可能となる。
【0115】
[天然系色素退色防止用途]
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、天然系色素退色防止剤、天然系色素退色抑制剤、天然系色素安定化剤、天然系色素保護剤、天然系色素耐熱性付与剤、又は天然系色素耐光性付与剤、等として利用することが可能である。また、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、これらの用途を実現するための方法に使用することも可能である。本発明にはこれらの剤の製造方法も含まれる。
ここで、天然系色素としては、上記段落1.にて記載した天然系色素であるアントシアニン系色素及びクチナシ系色素を挙げることができる。好ましくは、アントシアニン系色素及びクチナシ赤色素、より好ましくはアントシアニン系色素、さらに好ましくはアシル化アントシアニン系色素を挙げることができる。
【0116】
本発明に係る天然系色素退色防止剤等においては、剤型に特に限定はないが、例えば、液体状、ペースト状、ゲル状、半固体状、又は固体状(例えば、粉末状、顆粒状等)が挙げられる。特に好ましくは粉末状の剤型である。
また、本発明に係る天然系色素退色防止剤等におけるヘリアンサス属植物種子抽出物の配合割合としても使用形態における最終濃度を考慮した配合であれば特に制限はないが、例えば、ヘリアンサス属植物種子抽出物の固形分換算にて1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上を挙げることができる。本発明に係る天然系色素退色防止剤等におけるヘリアンサス属植物種子抽出物の配合割合の上限も特に制限はないが、例えば、ヘリアンサス属植物種子抽出物の固形分換算にて100質量%以下、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下を挙げることができる。
また、当該天然系色素退色防止剤等においては、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出が有する天然系色素への安定性付与機能を損なわない限り、他の成分の配合を許容するものである。
【0117】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、予め天然系色素と一緒に配合することで色素製剤の形態にして利用することが可能である。当該色素製剤は配合した天然系色素の退色が防止又は抑制された色素製剤となる。
色素製剤としては、アントシアニン系色素製剤を挙げることができる。具体的には、赤ダイコン色素、赤キャベツ色素、紫イモ色素、ブドウ果汁色素、ブドウ果皮色素、有色ジャガイモ色素、紫トウモロコシ色素、チョウマメ色素、黒豆色素、エルダーベリー色素、クランベリー色素、グースベリー色素、サーモンベリー色素、ストロベリー色素、チェリー色素、ダークスイートチェリー色素、チンブルベリー色素、デュベリー色素、ハイビスカス色素、ハクルベリー色素、ブラックカーラント色素、ブラックベリー色素、レッドカーラント色素、ローガンベリー色素、プラム色素、ブルーベリー色素、ボイセンベリー色素、ホワートルベリー色素、マルベリー色素、モレロチェリー色素、ラズベリー色素、シソ色素、赤米色素、紫ニンジン色素等の製剤を挙げることができる。
また、色素製剤としては、クチナシ系色素製剤を挙げることができる。具体的には、クチナシ赤色素、クチナシ青色素、クチナシ黄色素等の製剤を挙げることができる。
【0118】
本発明に係る色素製剤におけるヘリアンサス属植物種子抽出物の配合割合は、天然系色素への安定性付与機能が発揮される限り、色素製剤の種類や目的に応じて適宜調整することが可能であり、特に制限はないが、例えば、色価60換算の色素製剤に対して、ヘリアンサス属植物種子抽出物の固形分換算にて1〜95質量%、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜85質量%を配合することが可能である。
【0119】
本発明に係る色素製剤は、従来の色素を用いた着色料としての用途に使用可能であることに加えて、色素の耐光性及び耐熱性の点が向上し且つ臭気発生が抑制されている点で、従来の天然系色素の使用が不可能であった用途についても幅広い分野で利用可能である。具体的に、本発明に係る色素製剤(即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物を含む色素製剤)は、飲食品、医薬部外品、医薬品、香粧品、衛生用日用品、飼料等の製品に使用する天然着色料として、好適に使用することが可能である。
【0120】
飲食品等の各種製品に対する本発明に係るヘリアンサス属植物種子の配合割合は、天然系色素への安定性付与機能が発揮される限り、製品の種類や目的に応じて適宜調整することが可能である。
例えば、各種製品に対して、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算にて0.001〜10質量%、好ましくは0.003〜1質量%、より好ましくは0.005〜0.1質量%を配合することが可能である。
【0121】
天然系色素の退色防止方法
本発明においては、天然系色素への安定性付与用途を実現するための各種方法が含まれる。詳しくは、上記ヘリアンサス属植物種子抽出物を含有させる工程を含むことを特徴とする、天然系色素の退色防止方法、天然系色素の退色抑制方法、天然系色素の安定化方法、天然系色素の保護方法、天然系色素の耐熱性付与方法、又は天然系色素の耐光性付与方法、などの各種方法が本発明には含まれる。
これらの各種方法における上記ヘリアンサス属植物種子抽出物の配合量等としては、上記段落の記載を参照することが可能である。
【0122】
[香料化合物の劣化臭抑制用途]
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、香料化合物劣化臭抑制剤、香料化合物劣化臭防止剤、香料化合物安定化剤、香料化合物保護剤、香料化合物耐熱性付与剤、又は香料化合物耐光性付与剤等として利用することが可能である。当該用途においては、特には耐熱性付与に関する用途において好適に利用することが可能である。
また、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、これらの用途を実現するための方法に使用することも可能である。本発明にはこれらの剤の製造方法も含まれる。
ここで、香料化合物としては、上記段落1.にて記載した香料化合物であるモノテルペン類を挙げることができる。具体的には、シトラール(ゲラニアール及びネラールの総称)、リモネン、ピネン、サビネン、ミルセン等を挙げることができる。
【0123】
本発明に係る香料化合物劣化臭抑制剤等においては、剤型に特に限定はないが、例えば、液体状、ペースト状、ゲル状、半固体状、固体状(例えば、粉末状、顆粒状)等が挙げられる。
また、本発明に係る香料化合物劣化臭抑制剤等におけるヘリアンサス属植物種子抽出物の配合割合としても使用形態における最終濃度を考慮した配合であれば特に制限はないが、例えば、ヘリアンサス属植物種子抽出物の固形分換算にて1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上を挙げることができる。本発明に係る香料化合物劣化臭抑制剤等におけるヘリアンサス属植物種子抽出物の配合割合の上限も特に制限はないが、例えば、ヘリアンサス属植物種子抽出物の固形分換算にて100質量%以下、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下を挙げることができる。
また、当該香料化合物劣化臭抑制剤等においては、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出が有する香料化合物への安定性付与機能を損なわない限り、他の成分の配合を許容するものである。
【0124】
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、予め香料と一緒に配合することで香料製剤の形態にして利用することが可能である。当該香料製剤は配合した香料化合物の劣化が防止又は抑制された香料製剤となる。
香料製剤としては、カンキツ系やジンジャー系の香料製剤を挙げることができる。具体的には、レモン香料、オレンジ香料、ライム香料、ジンジャー香料、柚子香料、グレープフルーツ香料等の製剤を挙げることができる。
【0125】
本発明に係る香料製剤におけるヘリアンサス属植物種子抽出物の配合割合は、香料化合物への安定性付与機能が発揮される限り、香料製剤の種類や目的に応じて適宜調整することが可能であり、特に制限はないが、例えば、香料製剤に対して、ヘリアンサス属植物種子抽出物の固形分換算にて1〜95質量%、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜85質量%を配合することが可能である。
【0126】
本発明に係る香料製剤は、従来の香料としての用途に使用可能であることに加えて、香料化合物の耐熱性が向上し且つ臭気発生が抑制されている点で、従来の香料の使用が不可能であった用途についても幅広い分野で利用可能である。具体的に、本発明に係る香料製剤(即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物を含む香料製剤)は、飲食品、医薬部外品、医薬品、香粧品、衛生用日用品、飼料等の製品に使用する香料として、好適に使用することが可能である。
【0127】
飲食品等の各種製品に対する本発明に係るヘリアンサス属植物種子の配合割合は、香料化合物への安定性付与機能が発揮される限り、製品の種類や目的に応じて適宜調整することが可能である。例えば、各種製品に対して、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算にて0.001〜10質量%、好ましくは0.003〜1質量%、より好ましくは0.005〜0.1質量%を配合することが可能である。
【0128】
香料化合物の劣化臭抑制方法
本発明においては、香料化合物への安定性付与用途を実現するための各種方法が含まれる。詳しくは、上記ヘリアンサス属植物種子抽出物を含有させる工程を含むことを特徴とする、香料化合物の劣化臭抑制方法、香料化合物の劣化臭防止方法、香料化合物の安定化方法、香料化合物の保護方法、香料化合物の耐熱性付与方法、又は香料化合物の耐光性付与方法、などの各種方法が含まれる。
これらの各種方法における上記ヘリアンサス属植物種子抽出物の配合量等としては、上記段落の記載を参照することが可能である。
【0129】
[香料製剤用途]
本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、臭気特性に関する性質が極めて良好の組成物である。また、ヘリアンサス属植物種子抽出物は、香料起源物質であるヒマワリ由来の抽出物であるため、他の香料化合物と配合しない場合であっても、香料製剤として利用することが可能である。即ち、ヘリアンサス属植物種子抽出自体を香料成分とする香料製剤として利用することができる。
当該香料製剤の剤型は、上記香料を配合する場合と同様の剤型を採用することができる。
【0130】
本発明に係る香料製剤は、異臭及び劣化臭発生が抑制されている点で、従来のヘリアンサス属植物種子抽出物の香料としての使用が不可能であった用途についても幅広い分野で利用可能である。具体的に、本発明に係る香料製剤(即ち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物を香料成分として含む香料製剤)は、飲食品、医薬部外品、医薬品、香粧品、衛生用日用品、飼料等の製品に使用する香料として、好適に使用することが可能である。
【0131】
本発明に係る香料製剤におけるヘリアンサス属植物種子抽出物の配合割合は、当該香料製剤の利用用途により適宜調整することが可能であり、特に制限はないが、例えば、ヘリアンサス属植物種子抽出物の固形分換算にて1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上を挙げることができる。本発明に係る香料製剤におけるヘリアンサス属植物種子抽出物の配合割合の上限も特に制限はないが、例えば、ヘリアンサス属植物種子抽出物の固形分換算にて100質量%以下、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下を挙げることができる。
また、当該香料製剤においては、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出が有する風味や芳香を損なわない限り、他の成分の配合を許容するものである。
【0132】
飲食品等の各種製品に対する本発明に係るヘリアンサス属植物種子の配合割合は、製品の種類や目的に応じて適宜調整することが可能である。例えば、各種製品に対して、ヘリアンサス属植物種子抽出物を固形分換算にて0.001〜10質量%、好ましくは0.003〜1質量%、より好ましくは0.005〜0.1質量%を配合することが可能である。
【0133】
[製品例]
以下、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物の利用が可能な製品例を例示するが、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物が利用可能な製品は、これらに限定されるものではない。
【0134】
「飲食品」の例としては、飲料、冷菓、デザート、砂糖菓子(例えば、キャンディ、グミ、マシュマロ)、ガム、チョコレート、製菓(例えば、クッキー等)、製パン、農産加工品(例えば、漬物等)、畜肉加工品、水産加工品、酪農製品、麺類、調味料、ジャム、ソース、酒類などを挙げることができる。
【0135】
「香粧品」としては、スキンローション、口紅、日焼け止め化粧品、メークアップ化粧品、などを挙げることができる。
「医薬品」としては、各種錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、トローチ剤、うがい薬、などを挙げることができる。
「医薬部外品」としては、栄養助剤、各種サプリメント、歯磨き剤、口中清涼剤、臭予防剤、養毛剤、育毛剤、皮膚用保湿剤、などを挙げることができる。
「衛生用日用品」としては、石鹸、洗剤、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント、歯磨き剤、入浴剤、などを挙げることができる。
「飼料」としては、キャットフード、ドッグフード等の各種ペットフード、;観賞魚用や養殖魚用の餌、;などを挙げることができる。
【0136】
上記のうち、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物の利用製品として特に好ましくは、店頭陳列や高温保管に晒されることが想定される製品である。例えば、清涼飲料水(果汁飲料、無果汁飲料、炭酸飲料、酸性乳飲料、ノンアルコール飲料等)、アルコール飲料、キャンディー、ガム、ゼリー、シロップ、ジャム、漬物等に好適に利用することができる。
なお、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、炭酸飲料やアルコール飲料等の天然系色素の退色が速く且つ臭気の影響が問題となりやすい製品に対しても、好適に利用可能である。
【0137】
[各種製造方法]
本発明においては、各種製剤や製品等の製造方法が含まれる。詳しくは、上記ヘリアンサス属植物種子抽出物を含有させる工程を含むことを特徴とする、天然系色素退色防止剤、香料化合物劣化臭抑制剤、色素製剤、香料製剤、飲食品、香粧品、医薬品、医薬部外品、衛生用日用品、又は飼料、等の製造方法が本発明に含まれる。ここで当該製造方法においては、上記製造方法によって得られたヘリアンサス属植物種子抽出物を含有させる工程が含まれる。
これらの各製造方法における上記ヘリアンサス属植物種子抽出物の配合量等としては、各種製剤や製品に関する上記段落の記載を参照することが可能である。また、各製造方法における製造工程としては、上記ヘリアンサス属植物種子抽出物を配合することを除いては、各種製剤や製品の常法を採用することが可能である。
【実施例】
【0138】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0139】
[実施例1]『ヘリアンサス属植物種子抽出物の製造』
ヒマワリ種子の搾油粕を原料として、ヘリアンサス属植物種子抽出物であるヒマワリ種子抽出物の調製を行った。
【0140】
ヒマワリ種子搾油粕(種子殻含有率10%未満)を粉砕し、原料重量の20倍量の含水アルコール(20%エタノール水溶液)を用いて抽出を行った。抽出操作は、60℃にて5時間の撹拌処理を行うことで行った。抽出操作後、濾過助剤である珪藻土を液量に対して1質量部添加し混合した。当該混合液について、前記珪藻土を予め層形成させておいた濾紙(NO.2フィルター、φ150mm、アドバンテック東洋(株)製)を用いて吸引濾過を行い、濾液を回収した。
得られた濾液について、抽出直後の水素イオン濃度(4.47×10−7mоl/L)を1とした場合の水素イオン濃度比で2.24×10となるように、当該濾液に硫酸を加えて水素イオン濃度を調整し、80℃30分間の加熱処理を行った。その後、上記と同様の濾過助剤を用いて吸引濾過を行って濾液を回収しpHを中性に調整した。
エバポレーターで減圧濃縮して濃縮溶液を調製した後、80℃にて10分間の加熱処理による殺菌を行い、固形分含量15質量%に濃縮されたヒマワリ種子抽出物(本発明実施品1)を得た。
【0141】
また、抽出条件として原料重量の10倍量の水を用いて60℃にて5時間の抽出を行ったことを除いては、上記と同様してヒマワリ種子抽出物(本発明実施品2)を調製した。
【0142】
また、従来技術である比較製造品として、特許文献1に記載の方法に準じたヒマワリ種子抽出物を調製した。当該方法では、ヒマワリ種子破砕物(殻をそのまま含む)に対して7倍量の水を用いて80〜85℃で5時間抽出した。吸引濾過した後、エバポレーターで濃縮液を調製し、固形分含量15質量%に濃縮されたヒマワリ種子抽出物(比較製造品1)を得た。
【0143】
[実施例2]『ヘリアンサス属植物種子抽出物の安定性試験(臭気分析)』
上記実施例にて調製したヘリアンサス属植物種子抽出物であるヒマワリ種子抽出物について、経時変化に伴う劣化臭発生に関する評価を行った。評価手法は劣化臭化合物に関するGC/MS分析により行った。
【0144】
(1)「飲料の調製」
ヒマワリ種子抽出物が固形分換算で0.0075質量%、Brixが10°(果糖ブドウ糖液糖 Brix75°:13.3質量%)、及びpHが3.0(クエン酸無水:0.2質量%、クエン酸三ナトリウムにてpH3.0に調整)となるよう酸糖液を調製した。93℃達温殺菌して200mLペットボトルにホットパック充填し、得られたペットボトル飲料を検液とした。
ヒマワリ種子抽出物としては本発明実施品2又は比較製造品1を用いた。また、対照としてヒマワリ種子抽出物無添加の検液も調製した。
【0145】
(2)「安定性試験」
i)耐光性試験
各ペットボトル検液に対して、蛍光灯照射機を用いて白色蛍光灯10000Luxを30℃にて7日間照射した。蛍光灯照射機としては、Cultivation chamber CLH-301((株)トミー精工社製)を用いた。
ii)耐熱性試験
各ペットボトル検液を、50℃の高温条件の暗所に7日間保管した。
iii)GC/MS分析
1−オクテン−3−オン含量及びメチオナール含量をGS/MS分析することで、光劣化臭の発生度合いを評価した。GC/MS分析は、ガスクロマトグラフ質量分析計(Agilent社製 5975 inert GC/MS)を用いて行った。結果を表1、2及び図1、2に示した。
【0146】
その結果、比較製造品に係るヒマワリ種子抽出物を添加した飲料(試料2−1)では、光照射条件下での保管によりヒマワリ種子抽出物由来のキノコ臭様の異臭成分である1−オクテン−3−オン含量が0.75ppbにまで大幅に増加することが示された。1−オクテン−3−オンは光照射前には検出限界以下であったことから、光照射によって経時的に生成された化合物であることが示された。
また、当該飲料では、試験前の段階から既にイモ臭様の異臭成分であるメチオナール含量が0.031ppb検出され、光照射によってその含量が増加することが示された。
【0147】
それに対して、本発明実施品に係るヒマワリ種子抽出物を添加した飲料(試料2−2)では、上記条件による強い光照射を行った場合であっても1−オクテン−3−オン含量は検出限界以下でありその発生が確認されなかった。また、高温保管による1−オクテン−3−オンの生成も検出限界以下であり確認されなかった。また、試験前(製造直後)での1−オクテン−3−オンの存在も確認されなかった。
また、当該飲料(試料2−2)のメチオナール含量は、飲料調製直後(試験前)においても比較製造品を添加した場合(試料2−1)に比べて約1/15以下と大幅に低減されたものとなることが示された。また、上記条件による強い光照射を行った場合であってもメチオナール含量の上昇は僅かであった。
【0148】
以上の結果が示すように、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、従来技術により調製したヒマワリ種子抽出物に比べて、光劣化臭の発生が大幅に抑制された性質を有する組成物であることが示された。また、原料由来である製造直後の異臭も大幅に低減された組成物であることが示された。
【0149】
【表1】
【0150】
【表2】
【0151】
[実施例3]『ヘリアンサス属植物種子抽出物の安定性試験(官能評価)』
上記実施例にて調製したヘリアンサス属植物種子抽出物であるヒマワリ種子抽出物について、経時変化に伴う風味に関する評価を行った。評価手法はパネラーによる官能評価により行った。
【0152】
(1)「飲料の調製」
実施例2(1)に記載の方法と同様にして、検液であるペットボトル飲料を調製した。
【0153】
(2)「安定性試験」
i)耐光性試験
各ペットボトル検液に対して、蛍光灯照射機を用いて白色蛍光灯10000Luxを30℃にて14日間照射した。蛍光灯照射機としては、Cultivation chamber CLH-301((株)トミー精工社製)を用いた。
ii)官能評価
飲料について、フレーバーの香味判定を日常的に行っているパネラー5名により、ブラインドによる香味の官能評価を行った。飲料の臭いの強さ(強度)については、無臭のものを「0」とし、臭いが強いものを「5」とし、臭いの強さに応じて0<1<2<3<4<5の6段階で評価した。結果を表3に示した。
【0154】
その結果、比較製造品に係るヒマワリ種子抽出物を添加した飲料(試料3−1)では、飲料調製時の殺菌直後から異臭の発生が確認され、光照射保管によりキノコ様の異臭が増加した。それに対して、本発明実施品に係るヒマワリ種子抽出物を添加した飲料(試料3−2)では、上記条件による強い光照射を行った場合であっても、異臭発生は確認されなかった。また、試験前(製造直後)の異臭の発生も確認されなかった。
【0155】
以上の結果が示すように、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、従来技術により調製したヒマワリ種子抽出物に比べて、光劣化臭の発生が大幅に抑制された性質を有する組成物であることが官能評価によっても実証された。また、製造直後の異臭も大幅に低減された組成物であることが示された。
【0156】
【表3】
【0157】
[実施例4]『ヘリアンサス属植物種子抽出物の品質試験(濁度測定)』
上記実施例にて調製したヘリアンサス属植物種子抽出物であるヒマワリ種子抽出物について、濁りに関する品質評価を行った。評価手法は固定波長700nmのOD値の測定により行った。
【0158】
pH3.0又はpH7.0のMcIlvaine緩衝液を用いて、ヒマワリ種子抽出物を固形分換算で0.75質量%を含む水溶液を調製した。ヒマワリ種子抽出物としては本発明実施品2又は比較製造品1を用いた。
調製した各検液について、分光光度計(V-560、日本分光(株)社製、測定セルの光路長1cm)を用いて、固定波長700nmにおけるOD値測定を行った。結果を表4に示した。
【0159】
その結果、本発明実施品に係るヒマワリ種子抽出物溶液を添加した検液(試料4−2、試料4−4)では、比較製造品を添加した検液(試料4−1、試料4−3)に比べて濁度が大幅に低減されることが示された。当該効果は、中性溶液(pH7.0)においても十分な効果が確認されたが、酸性溶液(pH3.0)において特に顕著であることが示された。
具体的には、pH3.0での実施試料(試料4−4)における濁度(O.D700値)は、0.1167(試料4−3の45%程度)にまで低減されていることが示された。当該値は本測定系における濁り発生の1つの基準となる濁度(O.D700値)=0.2を大きく下回る値であった。
【0160】
以上の結果が示すように、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、従来技術により調製したヒマワリ種子抽出物に比べて濁りの発生が低減された組成物であることが示された。
特に、従来技術により調製したヒマワリ種子抽出物では酸性条件下での濁り発生が顕著であるところ、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物では、酸性条件下での濁り発生が大幅に低減された組成物であることが示された。
【0161】
【表4】
【0162】
[実施例5]『天然系色素への安定性付与試験(色素残存率)』
上記実施例にて調製したヘリアンサス属植物種子抽出物であるヒマワリ種子抽出物について、天然系色素への安定性付与機能に関する評価を行った。評価手法は、天然系色素であるアントシアニン系色素の残存率を測定することにより行った。
【0163】
(1)「飲料の調製」
ヒマワリ種子抽出物が固形分換算で0.0041質量%、Brixが10°(果糖ブドウ糖液糖 Brix75°:13.3質量%)、pHが3.0(クエン酸無水:0.2質量%、クエン酸三ナトリウムにてpH3.0に調整)、及び、表5に示す各アントシアニン系色素が色価E10%1cm値80換算で0.03質量%となるように酸糖液を調製した。93℃達温殺菌して200mLペットボトルにホットパック充填し、得られたペットボトル飲料を検液とした。
ヒマワリ種子抽出物としては本発明実施品1を用いた。各アントシアニン系色素としては三栄源エフ・エフ・アイ(株)社製の色素製剤又は色素組成物を用いた。また、対照としてヒマワリ種子抽出物無添加の検液も調製した。
【0164】
【表5】
【0165】
(2)「安定性試験」
i)耐光性試験
各ペットボトル検液に対して、蛍光灯照射機を用いて白色蛍光灯10000Luxを30℃にて10日間照射した。蛍光灯照射機としては、Cultivation chamber CLH-301((株)トミー精工社製)を用いた。
ii)耐熱性試験
各ペットボトル検液を、50℃の高温条件の暗所に10日間保管した。
iii)色素残存率の算出
安定性試験前及び試験後の試料について、分光光度計(V−560、日本分光(株)社製、測定セルの光路長1cm)を用いて、測定波長380〜780nmにおける透過光測色を行い、上記式(4)にてアントシアニン系色素の残存率を算出した。結果を表6、7及び図3、4に示した。
【0166】
その結果、対照であるヒマワリ種子抽出物を添加しない飲料(試料5−1、試料5−3、試料5−5、試料5−7)では、光照射条件下での保管又は高温条件下での保管により、色素残存率が大幅に低下することが示された。
それに対して、本発明実施品に係るヒマワリ種子抽出物を添加した飲料(試料5−2、試料5−4、試料5−6、試料5−8)では、上記条件による強い光照射又は高温保管を行った場合であっても、色素残存率は高い値を示した。
【0167】
以上の結果が示すように、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、天然系色素の安定性に関して、耐光性付与機能及び耐熱性付与機能の両方の機能を有する組成物であることが示された。ここで、ヒマワリ種子抽出物が有する天然系色素への耐熱性付与機能については、本実施例で初めて明らかになった知見である。
【0168】
【表6】
【0169】
【表7】
【0170】
[実施例6]『天然系色素への安定性付与試験(色調変化)』
上記実施例にて調製したヘリアンサス属植物種子抽出物であるヒマワリ種子抽出物について、天然系色素への安定性付与機能に関する評価を行った。評価手法は、天然系色素であるアントシアニン系色素の色調変化を評価することにより行った。
【0171】
(1)「飲料の調製」
実施例5(1)に記載の方法と同様にして、検液であるペットボトル飲料を調製した。
【0172】
(2)「安定性試験」
i)耐光性試験
各ペットボトル検液に対して、蛍光灯照射機を用いて白色蛍光灯10000Luxを30℃にて10日間照射した。蛍光灯照射機としては、Cultivation chamber CLH-301((株)トミー精工社製)を用いた。
ii)耐熱性試験
各ペットボトル検液を、50℃の高温条件の暗所に10日間保管した。
iii)色調の評価
調製した各検液について、分光光度計(V-560、日本分光(株)社製、測定セルの光路長1cm)を用いて、測定波長380〜780nmにおける透過光測色を行い、Hunter Lab表色系の3刺激値(L値、a値及びb値)を計測した。得られた値と基に、安定性試験後の検液を試験前の検液とを比較した時の「色差」について、ΔE値(上記式(6))を算出した。結果を表8、9及び図5、6に示した。
【0173】
その結果、対照であるヒマワリ種子抽出物を添加しない飲料(試料6−1、試料6−3、試料6−5、試料6−7)では、光照射条件下での保管又は高温条件下での保管により、ΔE値が高い値を示し色調が大きく変化することが示された。
それに対して、本発明実施品に係るヒマワリ種子抽出物を添加した飲料(試料6−2、試料6−4、試料6−6、試料6−8)では、上記条件による強い光照射又は高温保管を行った場合であっても、ΔE値は低い値を示し対照と比べて色調変化の度合いが低減されていることが示された。
【0174】
以上の結果が示すように、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物における天然系色素安定性付与機能について、色調変化の点からも確認された。
【0175】
【表8】
【0176】
【表9】
【0177】
[実施例7]『LED照射に対する天然系色素への安定性付与機能の評価』
上記実施例にて調製したヘリアンサス属植物種子抽出物であるヒマワリ種子抽出物について、LED照射に対する天然系色素への安定性付与機能を評価した。評価手法は、色素残存率及び色調変化を測定することにより行った。
【0178】
(1)「飲料の調製」
ヒマワリ種子抽出物が固形分換算で0.0041質量%、Brixが10°(果糖ブドウ糖液糖 Brix75°:13.3質量%)、pHが3.0(クエン酸無水:0.2質量%、クエン酸三ナトリウムにてpH3.0に調整)、及び、紫イモ色素の含量が色価E10%1cm値80換算で0.03質量%となるように酸糖液を調製した。93℃達温殺菌して200mLペットボトルにホットパック充填し、得られたペットボトル飲料を検液とした。
ヒマワリ種子抽出物としては本発明実施品2を用いた。紫イモ色素としては三栄源エフ・エフ・アイ(株)社製の色素製剤を用いた。また、対照としてヒマワリ種子抽出物無添加の検液も調製した。
【0179】
(2)「安定性試験」
i)耐光性試験
各ペットボトル検液に対して、LED照射機を用いて白色LED10000Luxを10℃にて14日間照射した。LED照射機としては、グロースチャンバーMLR−351H(三洋電機(株)社製)を用いた。
ii)色素残存率の算出
安定性試験前及び試験後の試料について、実施例5(2)に記載の方法と同様にして色素残存率を算出した。結果を表10及び図7に示した。
iii)色調の評価
調製した各検液について、実施例6(2)に記載の方法と同様にしてLab表色系の3刺激値(L値、a値及びb値)を計測し、安定性試験後の検液を試験前の検液とを比較した時の色差であるΔE値を算出した。結果を表11及び図8に示した。
【0180】
その結果、対照であるヒマワリ種子抽出物を添加しない飲料(試料7−1)では、LEDによる光照射条件下での保管により、色素残存率が大幅に低下することが示された。また、ΔE値も高い値を示し色調が大きく変化することが示された。
それに対して、本発明実施品に係るヒマワリ種子抽出物を添加した飲料(試料7−2)では、上記条件によるLEDによる強い光照射を行った場合であっても、色素残存率は高い値を示した。また、ΔE値も低い値を示し対照と比べて色調変化の度合いが低減されていることが示された。
【0181】
以上の結果が示すように、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、白色LEDを長期間照射した場合であっても、天然系色素に十分な耐光性を付与して良好な色調の維持を可能とする組成物であることが示された。
【0182】
ここで、上記した実施例5及び6では、ヘリアンサス属植物種子抽出物を製造する際の抽出溶媒として含水エタノールを用いた抽出物(本発明実施品1)の天然系色素への安定性付与機能が示されていたところ、本実施例の結果からは、抽出溶媒として水を用いて得た抽出物(本発明実施品2)にも当該安定性付与機能があることが確認された。
【0183】
【表10】
【0184】
【表11】
【0185】
[実施例8]『炭酸飲料における天然系色素への安定性付与機能の評価』
上記実施例にて調製したヘリアンサス属植物種子抽出物であるヒマワリ種子抽出物について、炭酸飲料に配合した際の天然系色素への安定性付与機能を評価した。評価手法は、色素残存率及び色調変化を測定することにより行った。
【0186】
(1)「飲料の調製」
炭酸飲料の最終濃度及び性質として以下の数値となるようにシロップ部を調製した。即ち、炭酸飲料全量に対して、ヒマワリ種子抽出物が固形分換算で0.0075質量%、Brixが10°(果糖ブドウ糖液糖 Brix75°:13.3質量%)、及びpHが3.0(クエン酸無水:0.2質量%、クエン酸三ナトリウムにてpH3.0に調整)となるように各成分を添加し、且つ、紫イモ色素の含量が色価E10%1cm値80換算で0.03質量%となるようにシロップ液を調製した。得られたシロップ液を93℃達温殺菌した後、シロップ液40部と炭酸水60部を混合し280mLペットボトルに充填し、得られたペットボトル飲料を検液とした。
ヒマワリ種子抽出物としては本発明実施品2を用いた。紫イモ色素としては三栄源エフ・エフ・アイ(株)社製の色素製剤を用いた。また、対照としてヒマワリ種子抽出物無添加の検液も調製した。
【0187】
(2)「安定性試験」
i)耐光性試験
各ペットボトル検液に対して、蛍光灯照射機を用いて白色蛍光灯10000Luxを10℃にて14日間照射した。蛍光灯照射機としては、Cultivation chamber CLH-301((株)トミー精工社製)を用いた。
ii)耐熱性試験
各ペットボトル検液を、50℃の高温条件の暗所に14日間保管した。
iii)色素残存率の算出
安定性試験前及び試験後の試料について、実施例5(2)に記載の方法と同様にして色素の残存率を算出した。結果を表12、13及び図9示した。
iv)色調の評価
調製した各検液について、実施例6(2)に記載の方法と同様にしてLab表色系の3刺激値(L値、a値及びb値)を計測し、安定性試験後の検液を試験前の検液とを比較した時の色差であるΔE値を算出した。結果を表14、15及び図10に示した。
【0188】
その結果、対照であるヒマワリ種子抽出物を添加しない炭酸飲料(試料8−1)では、光照射条件下での保管又は高温条件下での保管により、色素残存率が大幅に低下することが示された。また、ΔE値も高い値を示し色調が大きく変化することが示された。
それに対して、本発明実施品に係るヒマワリ種子抽出物を添加した炭酸飲料(試料8−2)では、上記条件による強い光照射又は高温保管を行った場合であっても、色素残存率は高い値を示した。また、ΔE値も低い値を示し対照と比べて色調変化の度合いが低減されていることが示された。
【0189】
以上の結果が示すように、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、天然系色素が退色しやすい炭酸飲料に配合した場合であっても、天然系色素に十分な安定性を付与して良好な色調維持を可能とする組成物であることが示された。
【0190】
【表12】
【0191】
【表13】
【0192】
【表14】
【0193】
【表15】
【0194】
[実施例9]『アルコール飲料における天然系色素への安定性付与機能の評価』
上記実施例にて調製したヘリアンサス属植物種子抽出物であるヒマワリ種子抽出物について、アルコール飲料に配合した際の天然系色素への安定性付与機能を評価した。評価手法は、色素残存率及び色調変化を測定することにより行った。
【0195】
(1)「飲料の調製」
ヒマワリ種子抽出物が固形分換算で0.0041質量%、Brixが10°(果糖ブドウ糖液糖 Brix75°:13.3質量%)、pHが3.0(クエン酸無水:0.2質量%、クエン酸三ナトリウムにてpH3.0に調整)、エタノールが5%(v/v)、及び、紫イモ色素の含量が色価E10%1cm値80換算で0.03質量%となるようにアルコール溶液を調製した。これを200mLガラス瓶に充填し、70℃10分間の加熱殺菌を行い、得られたガラス瓶飲料を検液とした。
ヒマワリ種子抽出物としては本発明実施品2を用いた。紫イモ色素としては三栄源エフ・エフ・アイ(株)社製の色素製剤を用いた。また、対照としてヒマワリ種子抽出物無添加の検液も調製した。
【0196】
(2)「安定性試験」
i)耐光性試験
各ガラス瓶検液に対して、蛍光灯照射機を用いて白色蛍光灯10000Luxを10℃にて10日間照射した。蛍光灯照射機としては、Cultivation chamber CLH-301((株)トミー精工社製)を用いた。
ii)耐熱性試験
各ガラス瓶検液を、50℃の高温条件の暗所に10日間保管した。
iii)色素残存率の算出
安定性試験前及び試験後の試料について、実施例5(2)に記載の方法と同様にして色素の残存率を算出した。結果を表16、17及び図11示した。
iv)色調の評価
調製した各検液について、実施例6(2)に記載の方法と同様にしてLab表色系の3刺激値(L値、a値及びb値)を計測し、安定性試験後の検液を試験前の検液とを比較した時の色差であるΔE値を算出した。結果を表18、19及び図12に示した。
【0197】
その結果、対照であるヒマワリ種子抽出物を添加しないアルコール飲料(試料9−1)では、光照射条件下での保管又は高温条件下での保管により、色素残存率が大幅に低下することが示された。また、ΔE値も高い値を示し色調が大きく変化することが示された。
それに対して、本発明実施品に係るヒマワリ種子抽出物を添加した炭酸飲料(試料9−2)では、上記条件による強い光照射又は高温保管を行った場合であっても、色素残存率は高い値を示した。また、ΔE値も低い値を示し対照と比べて色調変化の度合いが低減されていることが示された。
【0198】
以上の結果が示すように、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、天然系色素が退色しやすいアルコール飲料に配合した場合であっても、天然系色素に十分な安定性を付与して良好な色調維持を可能とする組成物であることが示された。
【0199】
【表16】
【0200】
【表17】
【0201】
【表18】
【0202】
【表19】
【0203】
[実施例10]『天然系色素(クチナシ系色素)への安定性付与試験』
上記実施例にて調製したヘリアンサス属植物種子抽出物であるヒマワリ種子抽出物について、天然系色素であるクチナシ系色素への安定性付与機能に関する評価を行った。評価手法は、色素残存率及び色調変化を測定することにより行った。
【0204】
(1)「飲料の調製」
ヒマワリ種子抽出物が固形分換算で0.0041質量%、Brixが10°(果糖ブドウ糖液糖 Brix75°:13.3質量%)、pHが3.5(クエン酸無水:0.2質量%、クエン酸三ナトリウムにてpH3.5に調整)、及び、クチナシ系色素の含量が色価E10%1cm値50.5換算で0.045質量%となるように酸糖液を調製した。93℃達温殺菌をして200mLペットボトルにホットパック充填し、得られたペットボトル飲料を検液とした。
ヒマワリ種子抽出物としては本発明実施品2を用いた。クチナシ系色素としては三栄源エフ・エフ・アイ(株)社製の色素製剤を用いた。また、対照としてヒマワリ種子抽出物無添加の検液も調製した。
【0205】
(2)「安定性試験」
i)耐光性試験
各ペットボトル検液に対して、蛍光灯照射機を用いて白色蛍光灯10000Luxを30℃にて6日間照射した。蛍光灯照射機としては、Cultivation chamber CLH-301((株)トミー精工社製)を用いた。
ii)耐熱性試験
各ペットボトル検液を、50℃の高温条件の暗所に10日間保管した。
iii)色素残存率の算出
安定性試験前及び試験後の試料について、実施例5(2)に記載の方法と同様にして色素の残存率を算出した。結果を表20、21及び図13に示した。
iv)色調の評価
調製した各検液について、実施例6(2)に記載の方法と同様にしてLab表色系の3刺激値(L値、a値及びb値)を計測し、安定性試験後の検液を試験前の検液とを比較した時の色差であるΔE値を算出した。結果を表22、23及び図14に示した。
【0206】
その結果、対照であるヒマワリ種子抽出物を添加しない飲料(試料10−1)では、光照射条件下での保管又は高温条件下での保管により、色素残存率が大幅に低下することが示された。また、ΔE値も高い値を示し色調が大きく変化することが示された。
それに対して、本発明実施品に係るヒマワリ種子抽出物を添加した飲料(試料10−2)では、上記条件による強い光照射又は高温保管を行った場合であっても、色素残存率は高い値を示した。また、ΔE値も低い値を示し対照と比べて色調変化の度合いが低減されていることが示された。
【0207】
以上の結果が示すように、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、天然系色素であるクチナシ系色素の安定性に関して、耐光性付与機能及び耐熱性付与機能の両方の機能を有する組成物であることが示された。特に熱に対する安定性付与について顕著な効果が認められた。
【0208】
【表20】
【0209】
【表21】
【0210】
【表22】
【0211】
【表23】
【0212】
[実施例11]『香料化合物への安定性付与試験(臭気分析)』
上記実施例にて調製したヘリアンサス属植物種子抽出物であるヒマワリ種子抽出物について、香料化合物への安定性付与機能に関する評価を行った。評価手法は香料化合物であるシトラールの劣化臭化合物をGC/MS分析することにより行った。
【0213】
(1)「飲料の調製」
ヒマワリ種子抽出物が固形分換算で0.0075質量%、Brixが10°(果糖ブドウ糖液糖 Brix75°:13.3質量%)、pHが3.0(クエン酸無水:0.2質量%、クエン酸三ナトリウムにてpH3.0に調整)、及びシトラールが0.01質量%となるように酸糖液を調製した。93℃達温殺菌して200mLペットボトルにホットパック充填し、得られたペットボトル飲料を検液とした。
ヒマワリ種子抽出物としては本発明実施品2を用いた。また、対照としてヒマワリ種子抽出物無添加の検液も調製した。
【0214】
(2)「安定性試験」
i)耐光性試験
各ペットボトル検液に対して、蛍光灯照射機を用いて白色蛍光灯10000Luxを10℃にて10日間照射した。蛍光灯照射機としては、Cultivation chamber CLH-301((株)トミー精工社製)を用いた。
ii)耐熱性試験
各ペットボトル検液を、50℃の高温条件の暗所に7日間保管した。
iii)GC/MS分析
p−クレゾール含量及びp−メチルアセトフェノン含量をGS/MS分析することで、シトラール劣化臭の発生抑制度合いを評価した。GC/MS分析は、ガスクロマトグラフ質量分析計(Agilent社製 5975 inert GC/MS)を用いて行った。結果を表24、25及び図15、16に示した。
【0215】
その結果、対照であるヒマワリ種子抽出物を添加しない飲料(試料11−1)では、高温条件下での保管によりシトラール由来の消毒臭様の異臭成分であるp−クレゾール含量が95.4ppbにまで大幅に増加することが示された。また、アーモンド様の異臭成分であるp−メチルアセトフェノン含量も1900ppbにまで大幅に増加することが示された。p−クレゾール及びp−メチルアセトフェノンの両化合物は、高温保管前には極微量であったことから、高温保管によって経時的に生成された化合物であることが示された。
【0216】
それに対して、本発明実施品に係るヒマワリ種子抽出物を添加した飲料(試料11−2)では、上記条件による高温保管を行った場合であってもp−クレゾール含量は僅か7.4ppbであり、対照と比べて約7.75%の生成量にまで大幅に低減されていることが示された。
ここで、当該試料11−2における高温保管後のp−クレゾール含量は、従来技術である特許文献4に係る試験例1(本実施例と同様に50℃7日間の耐熱性試験)と比較可能な値に換算すると7.75という値になる。特許文献4に記載の従来技術品を添加した場合の高温保管後のp−クレゾール生成量の最小値が17.1であることから、本発明実施品を添加した飲料のp−クレゾール生成量は、特許文献4に係る従来技術品よりも大幅に低減されていると認められた。
また、本発明実施品に係るヒマワリ種子抽出物を添加した飲料(試料11−2)では、p−メチルアセトフェノン含量も627ppbであった。p−メチルアセトフェノンの生成に関しても、対照(試料11−1)と比べて約33.0%の生成量にまで低減されたことが示された。
【0217】
以上の結果が示すように、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、香料化合物であるシトラールに対して化合物としての安定性を付与する機能を有する組成物であることが示された。特に、従来技術である特許文献4に係るシトラール由来劣化臭の生成抑制技術においては、p−クレゾールの生成抑制能が十分とは言えないところ、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物では、p−クレゾールの生成を大幅に低減可能な組成物であることが示された。
【0218】
【表24】
【0219】
【表25】
【0220】
[実施例12]『香料化合物への安定性付与試験(官能評価)』
上記実施例にて調製したヘリアンサス属植物種子抽出物であるヒマワリ種子抽出物について、香料化合物への安定性付与機能に関する評価を行った。評価手法はパネラーによる官能評価により行った。
【0221】
(1)「飲料の調製」
実施例11(1)に記載の方法と同様にして、検液であるペットボトル飲料を調製した。
【0222】
(2)「安定性試験」
i)耐熱性試験
各ペットボトル検液を、50℃の高温条件の暗所に6日間保管した。
ii)官能評価
飲料について、フレーバーの香味判定を日常的に行っているパネラー8名により、ブラインドによる香味の官能評価を行った。飲料の風味については、ヒマワリ種子抽出物を添加しない飲料の製造直後の良好な風味を「5」とし、風味の良好度合に応じて5>4>3>2>1>0の6段階で評価した。具体的な評価基準は次のとおりである。「5」:無添加(試料12−1)の製造直後と同じ。「4」:わずかに差がある。「3」:差がある。「2」:相当差がある。「1」:無添加(試料12−1)の耐熱性試験後と同等である。「0」:無添加(試料12−1)の耐熱性試験後より悪化している。結果を表26に示した。
【0223】
対照であるヒマワリ種子抽出物を添加しない飲料(試料12−1)では、高温保管により消毒臭様の異臭が増加した。それに対して、本発明実施品に係るヒマワリ種子抽出物を添加した飲料(試料12−2)では、上記条件による高温保管を行った場合であっても、異臭の発生が大幅に低減されていた。
【0224】
以上の結果が示すように、本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、香料化合物であるシトラールに対して化合物としての安定性を付与する機能を有する組成物であることが官能評価によっても実証された。
【0225】
【表26】
【0226】
[実施例13]『炭酸飲料における香料化合物への安定性付与試験(官能評価)』
上記実施例にて調製したヘリアンサス属植物種子抽出物であるヒマワリ種子抽出物について、炭酸飲料に配合した際の香料化合物への安定性付与機能を評価した。評価手法は官能評価により行った。
【0227】
(1)「レモン風味炭酸飲料の調製」
炭酸飲料の最終濃度及び性質として以下の数値となるようにシロップ部を調製した。即ち、炭酸飲料全量に対して、ヒマワリ種子抽出物が固形分換算で0.0075質量%、Brixが10°(果糖ブドウ糖液糖 Brix75°:13.3質量%)、pHが3.0(クエン酸無水:0.2質量%、クエン酸三ナトリウムにてpH3.0に調整)、乳化香料が0.02質量%、カロテン色素製剤がβ−カロテン換算で0.00012質量%、及びレモンフレーバーがシトラール換算で0.002質量%となるようにシロップ液を調製した。得られたシロップ液を93℃達温殺菌した後、シロップ液40部と炭酸水60部を混合し280mLペットボトルに充填し、得られたペットボトル飲料を検液とした。
ヒマワリ種子抽出物としては本発明実施品1を用いた。乳化香料、カロテン色素製剤、及びレモンフレーバーとしては三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のものを用いた。また、対照としてヒマワリ種子抽出物無添加の検液も調製した。
【0228】
(2)「安定性試験」
i)耐光性試験
各ペットボトル検液に対して、蛍光灯照射機を用いて白色蛍光灯10000Luxを10℃にて10日間照射した。蛍光灯照射機としては、Cultivation chamber CLH-301((株)トミー精工社製)を用いた。
ii)耐熱性試験
各ペットボトル検液を、50℃の高温条件の暗所に14日間保管した。
iii)官能評価
各レモン風味炭酸飲料について、フレーバーの香味判定を日常的に行っているパネラー8名により、ブラインドによる香味の官能評価を行った。飲料の風味については、ヒマワリ種子抽出物を添加しない飲料の製造直後の良好な風味を「5」とし、風味の良好度合に応じて5>4>3>2>1の5段階で評価した。具体的な評価基準は次のとおりである。「5」:無添加(試料13−1)の製造直後と同等である。「4」:わずかに差がある。「3」:差がある。「2」:相当差がある。「1」:無添加(試料13−1)の安定試験(耐光性試験又は耐熱性試験)後と同等である。結果を表27及び28に示した。
【0229】
その結果、対照であるヒマワリ種子抽出物を添加しないレモン風味炭酸飲料(試料13−1)では、光照射条件又は高温条件での保管により消毒臭様の異臭が付与され著しい香味劣化が確認された。それに対して、本発明実施品に係るヒマワリ種子抽出物を添加した炭酸飲料(試料13−2)では、上記条件による光照射保管又は高温保管を行った場合でも異臭の発生が大幅に低減され、シトラールに由来する爽やかな香味も十分に保持されていた。
【0230】
以上の結果により本発明に係るヘリアンサス属植物種子抽出物は、炭酸飲料に配合した場合であっても香料化合物への高い安定性の付与が可能であることが確認された。
ここで、上記した実施例11及び12では、ヘリアンサス属植物種子抽出物を製造する際の抽出溶媒として水を用いた抽出物(本発明実施品2)の香料化合物への安定性付与機能が示されていたところ、本実施例の結果からは、抽出溶媒として含水エタノールを用いて得た抽出物(本発明実施品1)にも当該安定性付与機能があることが確認された。
【0231】
【表27】
【0232】
【表28】
【0233】
[実施例14]『抽出濾過後の加熱処理がヘリアンサス属植物種子抽出物の臭気特性に与える影響(官能評価)』
製造工程における抽出濾過後の加熱処理条件を変化させた場合において、製造したヘリアンサス属植物種子抽出物の経時変化に伴う風味に関する評価を行った。
【0234】
(1)「ヘリアンサス属植物種子抽出物の製造」
ヒマワリ種子搾油粕(種子殻含有率10%未満)を粉砕し、原料重量の20倍量の表29及び表30に記載の抽出溶媒を用いて抽出を行った。抽出操作は60℃にて5時間の撹拌処理を行うことにより行った。抽出操作後、実施例1に記載の方法と同様にして吸引濾過を行い、濾液を回収した。
得られた濾液について、抽出直後の水素イオン濃度(3.16×10−7mоl/L)を1とした場合の水素イオン濃度比で表29及び表30に示す値となるように当該濾液の水素イオン濃度を調整し、表29及び表30に記載の温度で30分間の加熱処理を行った。ここで水素イオン濃度の調整には硫酸を用いた。その後、実施例1に記載の方法と同様の処理を行って、固形分含量15質量%に濃縮されたヒマワリ種子抽出物を得た。
【0235】
(2)「飲料の調製」
ヒマワリ種子抽出物が固形分換算で0.0075質量%、Brixが10°(果糖ブドウ糖液糖 Brix75°:13.3質量%)、pHが3.0(クエン酸無水:0.2質量%、クエン酸三ナトリウムにてpH3.0に調整)、及び、紫イモ色素の含量が色価E10%1cm値80換算で0.03質量%となるように酸糖液を調製した。93℃達温殺菌して200mLペットボトルにホットパック充填し、得られたペットボトル飲料を検液とした。
ヒマワリ種子抽出物としては上記(1)にて調製した各濃縮抽出物、又は、実施例1にて調製した比較製造品1を用いた。紫イモ色素としては三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の色素製剤を用いた。また、対照としてヒマワリ種子抽出物無添加の検液も調製した。
【0236】
(3)「安定性試験」
i)耐光性試験
各ペットボトル検液に対して、蛍光灯照射機を用いて白色蛍光灯10000Luxを30℃にて14日間照射した。蛍光灯照射機としては、Cultivation chamber CLH-301((株)トミー精工社製)を用いた。
ii)官能評価
飲料について、フレーバーの香味判定を日常的に行っているパネラー5名により、ブラインドによる香味の官能評価を行った。飲料の臭いの強さ(強度)については、無臭のものを「0」とし、臭いが強いものを「5」とし、臭いの強さに応じて0<1<2<3<4<5の6段階で評価した。結果を表29、表30、及び図17に示した。
【0237】
その結果、従来技術であるヒマワリ種子抽出物(試料14−c1:比較製造品)を添加した飲料では、光照射保管によってキノコ様の異臭が増加し、著しい劣化臭の発生が確認された。
それに対して、抽出濾過後に加熱処理を行って得たヒマワリ種子抽出物を添加した飲料(試料14−1〜試料14−6)では、光照射保管後の劣化臭の低減が認められた。これらのうち特には、抽出後に水素イオン濃度を増加させて加熱処理を行って得たヒマワリ種子抽出物を添加した飲料(試料14−2、試料14−3、試料14−5、試料14−6)では、大幅に劣化臭が低減されることが示された。また更に特には、抽出直後の水素イオン濃度(3.16×10−7mоl/L)を1とした場合の水素イオン濃度比で3.16×10倍の水素イオン濃度になるようにして加熱処理し、当該処理により得たヒマワリ種子抽出物を添加した飲料(試料14−3、試料14−6)では、更に顕著な劣化臭の低減が認められ、ヒマワリ種子抽出物を添加しなかった飲料(試料14−c2:対照)と比較しても遜色の無い程度にまで劣化臭の発生が抑制されたものとなった。
【0238】
以上の結果から、ヘリアンサス属植物種子抽出物の製造工程においては、抽出操作及び濾過処理を行った後に更に加熱処理を行うことによって、経時変化に伴う劣化臭の発生を低減できることが示された。当該劣化臭の低減効果は、加熱処理時における水素イオン濃度の増加と相関して大幅に増強される傾向があることが示された。特に抽出液に対して3160倍程度に水素イオン濃度を大幅に増加して得られたヘリアンサス属植物種子抽出物では、光照射保管の虐待試験後であっても、劣化臭の発生が顕著に抑制されることが示された。
【0239】
これらのことから、ヘリアンサス属植物種子抽出物の製造工程において、抽出操作及び濾過処理後に加熱処理を行うことによって、ヘリアンサス属植物種子抽出物を構成する組成物の臭気特性を向上できることが示された。特には、当該加熱処理時における水素イオン濃度の増加により、当該特性を顕著に向上できることが示された。
また、当該臭気特性の向上作用は、抽出溶媒として水及び含水エタノールのいずれを用いた場合においても発揮される作用効果であることが示された。
【0240】
【表29】
【0241】
【表30】
【0242】
[実施例15]『抽出及び濾過後の加熱処理が天然系色素への安定性付与機能に与える影響(官能評価)』
製造工程における抽出及び濾過後の加熱処理条件を変化させた場合において、製造したヘリアンサス属植物種子抽出物の天然系色素への安定性付与機能を評価した。評価手法は、天然系色素であるアントシアニン系色素の残存率を測定することにより行った。
【0243】
(1)「飲料の調製」
実施例14で好適な評価であった抽出濾過後に水素イオン濃度を増加させて加熱を行って得たヒマワリ種子抽出物について、実施例14(2)に記載の方法と同様にして検液であるペットボトル飲料を調製した。
【0244】
(2)「安定性試験」
i)耐光性試験
各ペットボトル検液に対して、蛍光灯照射機を用いて白色蛍光灯10000Luxを30℃にて14日間照射した。蛍光灯照射機としては、Cultivation chamber CLH-301((株)トミー精工社製)を用いた。
ii)色素残存率の算出
安定性試験前及び試験後の試料について、実施例5(2)に記載の方法と同様にして色素の残存率を算出した。結果を表31、表32、及び図18に示した。
【0245】
その結果、対照であるヒマワリ種子抽出物を添加しない飲料(試料15−c1)では、光照射保管によって色素残存率が大幅に低下することが確認された。それに対して、抽出後に水素イオン濃度を増加させて加熱処理を行って得たヒマワリ種子抽出物を添加した飲料(試料15−1〜試料15−4)では、上記条件による強い光照射を行った場合であっても高い色素残存率を示した。
また、当該天然系色素への安定性付与作用は、抽出溶媒として水及び含水エタノールのいずれを用いた場合においても発揮される作用であることが示された。
【0246】
以上の結果から、ヘリアンサス属植物種子抽出物の製造工程において、抽出操作及び濾過処理後に加熱処理を行って得たヘリアンサス属植物種子抽出物は、天然系色素への安定性付与機能を備えた組成物となることが確認された。当該作用は、抽出液に対して水素イオン濃度を316〜3160倍程度に増加させた場合で好適に発揮されることが示された。
【0247】
【表31】
【0248】
【表32】
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