(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を適宜図面を参照しつつ詳説する。
【0024】
[薄膜トランジスタ]
図1に示す当該薄膜トランジスタは、例えば次世代の大型ディスプレイや可撓性ディスプレイ等の表示装置の製造に用いることができる。当該薄膜トランジスタは、基板Xの表面に形成されたボトムゲート型のトランジスタである。当該薄膜トランジスタは、ゲート電極1、ゲート絶縁膜2、酸化物半導体薄膜3、ESL(Etch Stop Layer)保護膜4、ソース及びドレイン電極5、パッシベーション絶縁膜6、並びに導電膜7を有する。
【0025】
(基板)
基板Xとしては、特に限定されないが、例えば表示装置に用いられる基板を挙げることができる。このような基板Xとしては、ガラス基板やシリコーン樹脂基板等の透明基板を挙げることができる。上記ガラス基板に用いられるガラスとしては、特に限定されず、例えば無アルカリガラス、高歪点ガラス、ソーダライムガラス等を挙げることができる。また、基板Xとしてステンレス薄膜等の金属基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の樹脂基板を用いることもできる。
【0026】
基板Xの平均厚さは、加工性の観点から0.3mm以上1.0mm以下が好ましい。また、基板Xの大きさ及び形状は、使用される表示装置等の大きさや形状に応じて適宜決定される。
【0027】
(ゲート電極)
ゲート電極1は、基板Xの表面に形成され、導電性を有する。ゲート電極1を構成する薄膜としては、特に限定されないが、Al合金やAl合金の表面にMo、Cu、Tiなどの薄膜や合金膜を積層したものを用いることができる。
【0028】
ゲート電極1の形状としては、特に限定されないが、チャネル長及びチャネル幅の制御性の観点から、当該薄膜トランジスタのチャネル長方向及びチャネル幅方向を縦横とする平面視方形状が好ましい。ゲート電極1の大きさとしては、当該薄膜トランジスタのチャネル長及びチャネル幅を確保できる大きさであればよい。ここで、薄膜トランジスタのチャネル長方向とは、当該薄膜トランジスタのソース電極5a及びドレイン電極5bの対向方向である。また、当該薄膜トランジスタのチャネル幅方向とは、当該薄膜トランジスタのチャネル長方向に直交し、かつ基板Xの表面に平行な方向である。
【0029】
ゲート電極1の平均厚さの下限としては、50nmが好ましく、170nmがより好ましい。一方、ゲート電極1の平均厚さの上限としては、500nmが好ましく、400nmがより好ましい。ゲート電極1の平均厚さが上記下限未満であると、ゲート電極1の抵抗が大きいため、ゲート電極1での電力消費が増大するおそれや断線が発生し易くなるおそれがある。逆に、ゲート電極1の平均厚さが上記上限を超えると、ゲート電極1の表面側に積層されるゲート絶縁膜2等の平坦化が困難となり、当該薄膜トランジスタの特性が悪化するおそれがある。ここで、「平均厚さ」とは、任意の10点の厚さを測定し、それらから算出される平均値を指す。
【0030】
なお、ゲート絶縁膜2のカバレッジをよくするため、ゲート電極1の厚さ方向の断面は、基板Xに向かって拡張するテーパー状とするとよい。ゲート電極1をテーパー状とする場合のテーパー角度としては、30°以上40°以下が好ましい。
【0031】
(ゲート絶縁膜)
ゲート絶縁膜2は、ゲート電極1を覆うように基板Xの表面側に積層される。ゲート絶縁膜2を構成する薄膜としては、特に限定されないが、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜、Al
2O
3やY
2O
3等の金属酸化物膜などが挙げられる。また、ゲート絶縁膜2は、これら薄膜の単層構造であってもよく、2種以上の薄膜を積層した多層構造であってもよい。
【0032】
ゲート絶縁膜2の形状はゲート電極1が被覆される限り限定されず、例えばゲート絶縁膜2が基板X全面を覆ってもよい。
【0033】
ゲート絶縁膜2の平均厚さの下限としては、50nmが好ましく、100nmがより好ましい。また、ゲート絶縁膜2の平均厚さの上限としては、300nmが好ましく、250nmがより好ましい。ゲート絶縁膜2の平均厚さが上記下限未満であると、ゲート絶縁膜2の耐圧が不足し、ゲート電圧の印加によりゲート絶縁膜2がブレークダウンするおそれがある。逆に、ゲート絶縁膜2の平均厚さが上記上限を超えると、ゲート電極1と当該酸化物半導体薄膜3との間に形成されるキャパシタの容量が不足し、ドレイン電流が不十分となるおそれがある。なお、ゲート絶縁膜2が多層構造である場合、「ゲート絶縁膜の平均厚さ」とは、その合計の平均厚さを指す。
【0034】
(酸化物半導体薄膜)
当該酸化物半導体薄膜3は、それ自体が本発明の別の実施形態である。当該酸化物半導体薄膜3は、金属元素を含む。当該酸化物半導体薄膜3では、上記金属元素がIn、Zn、Fe及び不可避的不純物からなる。すなわち、当該酸化物半導体薄膜3は、実質的にIn、Zn、Fe以外の金属元素を含まない。
【0035】
In、Zn及びFeの合計原子数に対するInの原子数の下限としては、58atm%であり、60atm%がより好ましく、65atm%がさらに好ましい。一方、上記Inの原子数の上限としては、80atm%であり、75atm%がより好ましく、69atm%がさらに好ましい。上記Inの原子数が上記下限未満であると、当該薄膜トランジスタのキャリア移動度が低下するおそれがある。逆に、上記Inの原子数が上記上限を超えると、当該酸化物半導体薄膜3のリーク電流が増大したり、閾値電圧が負側へシフトしたりするため、当該酸化物半導体薄膜3が導体化するおそれがある。
【0036】
In、Zn及びFeの合計原子数に対するZnの原子数の下限としては、19atm%であり、24atm%がより好ましく、30atm%がさらに好ましい。一方、上記Znの原子数の上限としては、41atm%であり、39atm%がより好ましく、34atm%がさらに好ましい。上記Znの原子数が上記下限未満であると、他の金属原子数が相対的に多くなるため、導体化するおそれがある。逆に、上記Znの原子数が上記上限を超えると、キャリア濃度が抑制され、当該薄膜トランジスタのキャリア移動度が低下するおそれがある。
【0037】
In、Zn及びFeの合計原子数に対するFeの原子数の下限としては、0.6atm%であり、0.8atm%がより好ましく、0.9atm%がさらに好ましい。一方、上記Feの原子数の上限としては、3atm%であり、2atm%がより好ましく、1.5atm%がさらに好ましい。上記Feの原子数が上記下限未満であると、光照射による閾値電圧シフトが大きくなるおそれがある。逆に、上記Feの原子数が上記上限を超えると、キャリア濃度が抑制され、当該薄膜トランジスタのキャリア移動度が低下するおそれがある。
【0038】
Feの原子数に対するInの原子数の比(In/Fe)の下限としては、25が好ましく、50がより好ましく、55がさらに好ましい。一方、In/Feの上限としては、100が好ましく、80がより好ましく、60がさらに好ましい。In/Feが上記下限未満であると、キャリア移動度が低下する場合がある。逆に、In/Feが上記上限を超えると、当該薄膜トランジスタのS値(Subthreshold Swing値、後述)が大きくなる場合がある。
【0039】
当該酸化物半導体薄膜3の平面視形状としては、特に限定されないが、当該薄膜トランジスタのチャネル長及びチャネル幅の制御性の観点から、ゲート電極1と同様の形状が好ましい。当該酸化物半導体薄膜3の平面視の大きさとしては、当該薄膜トランジスタのチャネル長及びチャネル幅を確保できる大きさであればよい。
【0040】
また、当該酸化物半導体薄膜3の平面視の大きさは、当該酸化物半導体薄膜3をゲート電極1の直上に確実に配設させるため、ゲート電極1の平面視の大きさより小さいことが好ましい。当該酸化物半導体薄膜3とゲート電極1とのチャネル方向及びチャネル幅方向の辺の長さの差の下限としては、2nmが好ましく、4nmがより好ましい。一方、上記辺の長さの差の上限としては、10nmが好ましく、8nmがより好ましい。上記辺の長さの差が上記下限未満であると、パターニングのずれ等により当該酸化物半導体薄膜3の一部がゲート電極1の直上から外れ、その結果当該酸化物半導体薄膜3の平坦性が悪化し、当該薄膜トランジスタの特性が悪化するおそれがある。逆に、上記辺の長さの差が上記上限を超えると、当該薄膜トランジスタが不要に大きくなるおそれがある。
【0041】
当該酸化物半導体薄膜3の平均厚さは、スイッチング素子として用いる場合にドレイン電流をオフ状態とできる条件から決めることができる。具体的には、ゲート電圧を印加することで当該酸化物半導体薄膜3の内部が完全に空乏化されるとよい。このためには、絶縁膜の誘電率をε
OX、半導体の誘電率をε
AOS、半導体のフェルミ準位をφ
f[eV]、電子電荷をq[C]とするとき、当該酸化物半導体薄膜3の平均厚さt
ch[m]は、キャリア濃度N
C[m
−3]に対して、以下に示す式(2)の関係を満たすとよい。下記式(2)と後述するキャリア濃度との関係、及び当該酸化物半導体薄膜3を製造する際の膜厚分布の制御精度の観点から、当該酸化物半導体薄膜3の平均厚さは、例えば20nm以上60nm以下とできる。
【数2】
【0042】
なお、ソース及びドレイン電極5のカバレッジをよくするため、当該酸化物半導体薄膜3の厚さ方向の断面は、基板Xに向かって拡張するテーパー状とするとよい。当該酸化物半導体薄膜3をテーパー状とする場合のテーパー角度としては、30°以上40°以下が好ましい。
【0043】
当該酸化物半導体薄膜3のキャリア濃度の下限としては、1×10
12cm
−3が好ましく、1×10
13cm
−3がより好ましく、1×10
14cm
−3がさらに好ましい。一方、当該酸化物半導体薄膜3のキャリア濃度の上限としては、1×10
20cm
−3が好ましく、1×10
19cm
−3がより好ましく、1×10
18cm
−3がさらに好ましい。当該酸化物半導体薄膜3のキャリア濃度が上記下限未満であると、当該薄膜トランジスタのドレイン電流が不足するおそれがある。逆に、当該酸化物半導体薄膜3のキャリア濃度が上記上限を超えると、当該酸化物半導体薄膜3の内部を完全に空乏化することが困難となるため、閾値電圧がマイナス側にシフトしてしまい、スイッチング素子として機能しないおそれがある。
【0044】
当該酸化物半導体薄膜3のホール移動度の下限としては、32cm
2/Vsが好ましく、35cm
2/Vsがより好ましく、38cm
2/Vsがより好ましい。当該酸化物半導体薄膜3のホール移動度が上記下限未満であると、当該薄膜トランジスタのスイッチング特性が低下するおそれがある。一方、当該酸化物半導体薄膜3のホール移動度の上限は、特に限定されないが、通常当該酸化物半導体薄膜3のホール移動度は100cm
2/Vs以下である。「ホール移動度」とは、ホール効果測定により得られるキャリア移動度を指す。
【0045】
(ESL保護膜)
ESL保護膜4は、ソース及びドレイン電極5をエッチングにより形成する際に当該酸化物半導体薄膜3が損傷を受けて当該薄膜トランジスタの特性が低下することを抑止する保護膜である。ESL保護膜4を構成する薄膜としては、特に限定されないが、シリコン酸化膜が好適に用いられる。
【0046】
ESL保護膜4の平均厚さの下限としては、50nmが好ましく、80nmがより好ましい。一方、ESL保護膜4の平均厚さの上限としては、250nmが好ましく、200nmがより好ましい。ESL保護膜4の平均厚さが上記下限未満であると、ESL保護膜4の当該酸化物半導体薄膜3の保護効果が不足するおそれがある。逆に、ESL保護膜4の平均厚さが上記上限を超えると、パッシベーション絶縁膜6の平坦化が困難となるおそれや、ソース及びドレイン電極5からの配線が断線し易くなるおそれがある。
【0047】
(ソース及びドレイン電極)
ソース及びドレイン電極5は、ゲート絶縁膜2及びESL保護膜4の一部を覆うと共に、当該薄膜トランジスタのチャネルの両端で当該酸化物半導体薄膜3と電気的に接続する。このソース電極5a及びドレイン電極5bの間には、ゲート電極1及びソース電極5a間の電圧並びにソース電極5a及びドレイン電極5b間の電圧に応じて、当該薄膜トランジスタのドレイン電流が流れる。
【0048】
ソース及びドレイン電極5を構成する薄膜としては、導電性を有する限り特に限定されず、例えばゲート電極1と同様の薄膜を用いることができる。
【0049】
ソース及びドレイン電極5の平均厚さの下限としては、100nmが好ましく、150nmがより好ましい。一方、ソース及びドレイン電極5の平均厚さの上限としては、400nmが好ましく、300nmがより好ましい。ソース及びドレイン電極5の平均厚さが上記下限未満であると、ソース及びドレイン電極5の抵抗が大きいため、ソース及びドレイン電極5での電力消費が増大するおそれや断線が発生し易くなるおそれがある。逆に、ソース及びドレイン電極5の平均厚さが上記上限を超えると、パッシベーション絶縁膜6の平坦化が困難となり、導電膜7による配線が困難となるおそれがある。
【0050】
ソース電極5a及びドレイン電極5bの対向距離、すなわち当該薄膜トランジスタのチャネル長の下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、当該薄膜トランジスタのチャネル長の上限としては、50μmが好ましく、30μmがより好ましい。当該薄膜トランジスタのチャネル長が上記下限未満であると、精度の高い加工が必要となり、製造歩留まりが低下するおそれがある。逆に、当該薄膜トランジスタのチャネル長が上記上限を超えると、当該薄膜トランジスタのスイッチング時間が長くなるおそれがある。
【0051】
ソース電極5a及びドレイン電極5bのチャネル幅方向の長さ、すなわち当該薄膜トランジスタのチャネル幅の下限としては、100μmが好ましく、150μmがより好ましい。一方、当該薄膜トランジスタのチャネル幅の上限としては、300μmが好ましく、250μmがより好ましい。当該薄膜トランジスタのチャネル幅が上記下限未満であると、ドレイン電流が不足するおそれがある。逆に、当該薄膜トランジスタのチャネル幅が上記上限を超えると、ドレイン電流が過剰となり、当該薄膜トランジスタの消費電力が不要に増大するおそれがある。
【0052】
(パッシベーション絶縁膜)
パッシベーション絶縁膜6は、ゲート電極1、ゲート絶縁膜2、当該酸化物半導体薄膜3、ESL保護膜4、ソース電極5a及びドレイン電極5bを覆い、当該薄膜トランジスタの特性が劣化することを防ぐ。パッシベーション絶縁膜6を構成する薄膜としては、特に限定されないが、水素の含有量により比較的シート抵抗の制御が容易であるシリコン窒化膜が好適に用いられる。また、シート抵抗の制御性をさらに高めるためにパッシベーション絶縁膜6は、例えばシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との2層構造としてもよい。
【0053】
パッシベーション絶縁膜6の平均厚さの下限としては、100nmが好ましく、250nmがより好ましい。一方、パッシベーション絶縁膜6の平均厚さの上限としては、500nmが好ましく、300nmがより好ましい。パッシベーション絶縁膜6の平均厚さが上記下限未満であると、当該薄膜トランジスタの特性の劣化防止効果が不足するおそれがある。逆に、パッシベーション絶縁膜6の平均厚さが上記上限を超えると、パッシベーション絶縁膜6が不要に厚くなり、当該薄膜トランジスタの製造コストの上昇や生産効率の低下が発生するおそれがある。なお、パッシベーション絶縁膜6が多層構造である場合、「パッシベーション絶縁膜の平均厚さ」とは、その合計の平均厚さを指す。
【0054】
また、パッシベーション絶縁膜6には、ドレイン電極5bと電気的に接続できるようにコンタクトホール8が開けられている。コンタクトホール8の平面視形状及び大きさはドレイン電極5bとの電気的な接続が確保される限り特に限定されないが、例えば平面視で1辺10μm以上30μm以下の方形状とすることができる。
【0055】
(導電膜)
導電膜7は、パッシベーション絶縁膜6に開けられたコンタクトホール8を介してドレイン電極5bに接続される。この導電膜7により当該薄膜トランジスタからドレイン電流を取得する配線が構成される。
【0056】
導電膜7としては、特に限定されず、ゲート電極1と同様の薄膜を用いることができる。中でもディスプレイへの応用に好適な透明導電膜が好ましい。このような透明導電膜としてはITO膜、ZnO膜等を挙げることができる。
【0057】
導電膜7がドレイン電極5bと接続する位置としては、ドレイン電極5bがゲート絶縁膜2と接する位置であって、ゲート電極1の直上ではない位置が好ましい。導電膜7をこのような位置でドレイン電極5bと接続することで、導電膜7とドレイン電極5bとの接続部分の平坦性が高まるため、接触抵抗の増大を抑止できる。
【0058】
導電膜7の平均配線幅の下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、導電膜7の平均配線幅の上限としては、50μmが好ましく、30μmがより好ましい。導電膜7の平均配線幅が上記下限未満であると、導電膜7による配線が高抵抗となり、導電膜7による配線での消費電力や電圧降下が増大するおそれがある。逆に、導電膜7の平均配線幅が上記上限を超えると、当該薄膜トランジスタの集積度が低下するおそれがある。ここで、「導電膜の平均配線幅」とは、導電膜7のうちパッシベーション絶縁膜6の表面に配設され、当該薄膜トランジスタからドレイン電流を取得する配線部分の平均幅を意味する。
【0059】
導電膜7の平均厚さの下限としては、50nmが好ましく、80nmがより好ましい。一方、導電膜7の平均厚さの上限としては、200nmが好ましく、150nmがより好ましい。導電膜7の平均厚さが上記下限未満であると、導電膜7による配線が高抵抗となり、導電膜7による配線での消費電力や電圧降下が増大するおそれがある。逆に、導電膜7の平均厚さが上記上限を超えると、導電膜7による配線の平均配線幅に対して導電膜7の平均厚さが大きくなり過ぎるため、配線が傾き易く、配線自身の断線や隣接する配線との短絡が発生し易くなるおそれがある。ここで、「導電膜の平均厚さ」とは、導電膜7のうちパッシベーション絶縁膜6の表面に配設され、当該薄膜トランジスタからドレイン電流を取得する配線部分の平均厚さを意味する。
【0060】
(薄膜トランジスタの特性)
当該薄膜トランジスタのキャリア移動度(電子移動度)の下限としては、32cm
2/Vsが好ましく、35cm
2/Vsがより好ましく、38cm
2/Vsがさらに好ましい。当該薄膜トランジスタのキャリア移動度が上記下限未満であると、当該薄膜トランジスタのスイッチング特性が低下するおそれがある。一方、当該薄膜トランジスタのキャリア移動度の上限としては、特に限定されないが、通常当該薄膜トランジスタのキャリア移動度は100cm
2/Vs以下である。
【0061】
当該薄膜トランジスタの閾値電圧の下限としては、−1Vが好ましく、0Vがより好ましい。一方、当該薄膜トランジスタの閾値電圧の上限としては、3Vが好ましく、2Vがより好ましい。当該薄膜トランジスタの閾値電圧が上記下限未満であると、ゲート電極1に電圧を印加しないスイッチング素子としてのオフ状態におけるリーク電流が大きくなり、当該薄膜トランジスタの待機電力が大きくなり過ぎるおそれがある。逆に、当該薄膜トランジスタの閾値電圧が上記上限を超えると、ゲート電極1に電圧を印加したスイッチング素子としてのオン状態におけるドレイン電流が不足するおそれがある。
【0062】
当該薄膜トランジスタの光照射による閾値電圧シフトの上限としては、5Vが好ましく、3Vがより好ましく、2Vがさらに好ましい。上記閾値電圧シフトが上記上限を超えると、当該薄膜トランジスタを表示装置に用いた場合、当該薄膜トランジスタの性能が安定せず、必要なスイッチング特性が得られないおそれがある。上記閾値電圧シフトの下限としては、0V、すなわち上記閾値電圧シフトが発生しないことが好ましい。
【0063】
当該薄膜トランジスタのS値(Subthreshold Swing値)の上限としては、0.7Vが好ましく、0.5Vがより好ましい。当該薄膜トランジスタのS値が上記上限を超える場合、当該薄膜トランジスタのスイッチングに時間を要するおそれがある。一方、当該薄膜トランジスタのS値の下限としては、特に限定されないが、通常当該薄膜トランジスタのS値は0.2V以上である。ここで、薄膜トランジスタの「S値」とは、ドレイン電流を1桁上昇させるのに必要なゲート電圧の変化量の最小値を指す。
【0064】
[薄膜トランジスタの製造方法]
当該薄膜トランジスタは、例えばゲート電極成膜工程、ゲート絶縁膜成膜工程、酸化物半導体薄膜成膜工程、ESL保護膜成膜工程、ソース及びドレイン電極成膜工程、パッシベーション絶縁膜成膜工程、導電膜成膜工程及びポストアニール処理工程を備える製造方法により製造することができる。
【0065】
<ゲート電極成膜工程>
ゲート電極成膜工程では、基板Xの表面にゲート電極1を成膜する。
【0066】
具体的には、まず基板Xの表面に公知の方法、例えばスパッタリング法により導電膜を所望の膜厚となるように積層する。スパッタリング法により導電膜を積層する際の条件としては、特に限定されないが、例えば基板温度20℃以上50℃以下、成膜パワー密度3W/cm
2以上4W/cm
2以下、圧力0.1Pa以上0.4Pa以下、キャリアガスArの条件とすることができる。
【0067】
次に、この導電膜をパターニングすることにより、ゲート電極1を形成する。パターニングの方法としては、特に限定されないが、例えばフォトリソグラフィを行った後に、ウエットエッチングを行う方法を用いることができる。このとき、ゲート絶縁膜2のカバレッジがよくなるように、ゲート電極1の断面を基板Xに向かって拡張するテーパー状にエッチングするとよい。
【0068】
<ゲート絶縁膜成膜工程>
ゲート絶縁膜成膜工程では、ゲート電極1を覆うように基板Xの表面側にゲート絶縁膜2を成膜する。
【0069】
具体的には、まず基板Xの表面側に公知の方法、例えば各種CVD法により絶縁膜を所望の膜厚となるように積層する。例えばプラズマCVD法によりシリコン酸化膜を積層する場合であれば、基板温度300℃以上400℃以下、成膜パワー密度0.7W/cm
2以上1.3W/cm
2以下、圧力100Pa以上300Pa以下の条件とし、原料ガスとしてN
2OとSiH
4との混合ガスを用いて行うことができる。
【0070】
<酸化物半導体薄膜成膜工程>
酸化物半導体薄膜成膜工程では、ゲート絶縁膜2の表面で、かつゲート電極1の直上に当該酸化物半導体薄膜3を成膜する。具体的には、基板Xの表面に酸化物半導体層を積層した後、この酸化物半導体層をパターニングすることにより、当該酸化物半導体薄膜3を形成する。
【0071】
(酸化物半導体層の積層)
具体的には、まず例えば公知のスパッタリング装置を用いて、スパッタリング法により基板Xの表面に酸化物半導体層を積層する。スパッタリング法を用いることで、その成分や膜厚の面内均一性に優れた酸化物半導体層を容易に形成することができる。
【0072】
スパッタリング法に用いるスパッタリングターゲットは、それ自体が本発明の別の実施形態である。すなわち、上記スパッタリングターゲットは、当該酸化物半導体薄膜3の形成に用いられるスパッタリングターゲットであって、上記金属元素がIn、Zn、Fe及び不可避的不純物からなる。当該スパッタリングターゲットとしては、具体的には、In、Zn及びFeを含む酸化物ターゲット(IZFOターゲット)を挙げることができる。
【0073】
当該スパッタリングターゲットのIn、Zn及びFeの合計原子数に対するInの原子数の下限としては、58atm%であり、60atm%がより好ましく、65atm%がさらに好ましい。一方、上記Inの原子数の上限としては、80atm%であり、75atm%がより好ましく、69atm%がさらに好ましい。また、In、Zn及びFeの合計原子数に対するZnの原子数の下限としては、19atm%であり、24atm%がより好ましく、30atm%がさらに好ましい。一方、上記Znの原子数の上限としては、41atm%であり、39atm%がより好ましく、34atm%がさらに好ましい。また、In、Zn及びFeの合計原子数に対するFeの原子数の下限としては、0.6atm%であり、0.8atm%がより好ましく、0.9atm%がさらに好ましい。一方、上記Feの原子数の上限としては、3atm%であり、2atm%がより好ましく、1.5atm%がさらに好ましい。当該スパッタリングターゲットを用いて当該酸化物半導体薄膜3を成膜することで、製造コストが比較的低く、キャリア移動度及び光ストレス耐性が高い当該薄膜トランジスタを製造することができる。
【0074】
当該スパッタリングターゲットは、所望の酸化物半導体層と同一組成とすることが好ましい。このように当該スパッタリングターゲットの組成を所望の酸化物半導体層と同一とすることで、形成される酸化物半導体層の組成ずれを抑止できるので、所望の組成を有する酸化物半導体層を得易い。
【0075】
当該スパッタリングターゲットは、例えば粉末焼結法により製造することができる。
【0076】
なお、酸化物半導体層を積層するためのスパッタリングターゲットは、上述のIn、Zn及びFeを含むターゲットに限定されるものではなく、組成の異なる複数のターゲットを用いてもよい。この場合、上記複数のターゲットは全体でIn、Zn及びFeを含むように構成される。また、各ターゲットはIn、Zn及びFeのうち複数の元素を含んでもよい。上記複数のターゲットは、In、Zn及びFeのうち1又は複数の元素を含む酸化物ターゲットとすることもできる。上記複数のターゲットについても、例えば粉末焼結法により製造することができる。上記複数のターゲットを用いる場合、スパッタリング法としては、上記複数のターゲットを同時放電するコスパッタ法(Co−sputter法)を用いることができる。
【0077】
スパッタリング法により酸化物半導体層を積層する際の条件としては、特に限定されないが、例えば基板温度20℃以上50℃以下、成膜パワー密度2W/cm
2以上3W/cm
2以下、圧力0.1Pa以上0.3Pa以下、キャリアガスArの条件とすることができる。また、酸素源として、雰囲気中に酸素を含有させるとよい。雰囲気中の酸素の含有量としては、3体積%以上5体積%以下とできる。
【0078】
なお、酸化物半導体層の積層する方法は、スパッタリング法に限定されるものではなく、塗布法などの化学的成膜法を用いてもよい。
【0079】
(パターニング)
次に、この酸化物半導体層をパターニングすることにより、当該酸化物半導体薄膜3を形成する。酸化物半導体薄層のパターニングの方法としては、特に限定されないが、例えばフォトリソグラフィを行った後に、ウエットエッチングを行う方法を用いることができる。
【0080】
なお、パターニング後にプレアニール処理を行い当該酸化物半導体薄膜3のトラップ準位の密度を低減してもよい。これにより製造される薄膜トランジスタの光照射による閾値電圧シフトを低減できる。
【0081】
プレアニール処理の温度の下限としては、300℃が好ましく、350℃がより好ましい。一方、アニール処理の温度の上限としては、450℃が好ましく、400℃がより好ましい。プレアニール処理の温度が上記下限未満であると、当該薄膜トランジスタの電気的な特性向上効果が不十分となるおそれがある。逆に、プレアニール処理の温度が上記上限を超えると、当該酸化物半導体薄膜3が熱によるダメージを受けるおそれがある。
【0082】
アニール処理の圧力及び時間の条件は特に限定されないが、例えば大気圧(0.9気圧以上1.1気圧以下)のN
2雰囲気中で、10分以上60分以下の時間の条件を用いることができる。
【0083】
<ESL保護膜成膜工程>
ESL保護膜成膜工程では、当該酸化物半導体薄膜3の表面でソース及びドレイン電極5が形成されない部分にESL保護膜4を成膜する。
【0084】
具体的には、まず基板Xの表面側に公知の方法、例えば各種CVD法により絶縁膜を所望の膜厚となるように積層する。例えばプラズマCVD法によりシリコン酸化膜を積層する場合であれば、基板温度100℃以上300℃以下、成膜パワー密度0.2W/cm
2以上0.5W/cm
2以下、圧力100Pa以上300Pa以下の条件とし、原料ガスとしてN
2OとSiH
4との混合ガスを用いて行うことができる。
【0085】
<ソース及びドレイン電極成膜工程>
ソース及びドレイン電極成膜工程では、当該薄膜トランジスタのチャネル両端で当該酸化物半導体薄膜3と電気的に接続するソース電極5a及びドレイン電極5bを成膜する。
【0086】
具体的には、まず基板Xの表面に公知の方法、例えばスパッタリング法により導電膜を所望の膜厚となるように積層する。スパッタリング法により導電膜を積層する際の条件としては、特に限定されないが、例えば基板温度20℃以上50℃以下、成膜パワー密度3W/cm
2以上4W/cm
2以下、圧力0.1Pa以上0.4Pa以下、キャリアガスArの条件とすることができる。
【0087】
次に、この導電膜をパターニングすることにより、ソース電極5a及びドレイン電極5bを形成する。パターニングの方法としては、特に限定されないが、例えばフォトリソグラフィを行った後に、ウエットエッチングを行う方法を用いることができる。
【0088】
<パッシベーション絶縁膜成膜工程>
パッシベーション絶縁膜成膜工程では、当該薄膜トランジスタを覆うパッシベーション絶縁膜6を成膜する。
【0089】
具体的には、基板Xの表面側に公知の方法、例えば各種CVD法により絶縁膜を所望の膜厚となるように積層する。例えばプラズマCVD法によりシリコン窒化膜を積層する場合の条件としては、基板温度100℃以上200℃以下、成膜パワー密度0.2W/cm
2以上0.5W/cm
2以下、圧力100Pa以上300Pa以下の条件とし、原料ガスとしてNH
3とSiH
4との混合ガスを用いて行うことができる。
【0090】
<導電膜成膜工程>
導電膜成膜工程では、コンタクトホール8を介してドレイン電極5bに電気的に接続する導電膜7を成膜する。
【0091】
具体的には、まず公知の方法、例えばフォトリソグラフィによってドレイン電極5bとのコンタクト部分のパターニングを行った後にドライエッチングを行う方法によってコンタクトホール8を形成する。次に公知の方法、例えばスパッタリング法によりコンタクトホール8を介してドレイン電極5bに電気的に接続する導電膜7を成膜する。スパッタリング法により導電膜7を積層する際の条件としては、特に限定されないが、例えば基板温度20℃以上50℃以下、成膜パワー密度3W/cm
2以上4W/cm
2以下、圧力0.1Pa以上0.4Pa以下、キャリアガスArの条件とすることができる。
【0092】
<ポストアニール処理工程>
ポストアニール処理工程は、最終の熱処理を行う工程である。この熱処理により当該酸化物半導体薄膜3とゲート絶縁膜2との界面や、当該酸化物半導体薄膜3とESL保護膜4との界面に形成されたトラップ準位の密度を低減できる。これにより当該薄膜トランジスタの光照射による閾値電圧シフトを低減できる。
【0093】
ポストアニール処理の温度の下限としては、200℃が好ましく、250℃がより好ましい。一方、ポストアニール処理の温度の上限としては、400℃が好ましく、350℃がより好ましい。ポストアニール処理の温度が上記下限未満であると、当該薄膜トランジスタの電気的な特性向上効果が不十分となるおそれがある。逆に、ポストアニール処理の温度が上記上限を超えると、当該薄膜トランジスタが熱によるダメージを受けるおそれがある。
【0094】
ポストアニール処理の圧力及び時間の条件は特に限定されないが、例えば大気圧(0.9気圧以上1.1気圧以下)で、10分以上60分以下の時間の条件を用いることができる。また、ポストアニール処理の雰囲気としては、大気雰囲気下で行ってもよいが、窒素等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。このように不活性ガスの雰囲気下で行うことで、ポストアニール処理中に雰囲気中に含まれる分子等の当該薄膜トランジスタへの結合による当該薄膜トランジスタの品質のばらつきを抑止できる。
【0095】
当該酸化物半導体薄膜3は、In、Zn及びFeの合計原子数に対し、Inの原子数を58atm%以上80atm%以下、Znの原子数を19atm%以上41atm%以下とし、Feの原子数を0.6atm%以上とするので、高い光ストレス耐性を有する。また、当該酸化物半導体薄膜3は、Feの原子数が3atm%以下とするので、当該酸化物半導体薄膜3を用いて薄膜トランジスタを形成した際のキャリア移動度が高い。さらに、当該酸化物半導体薄膜3は、Gaを含む必要がないので、製造コストを低減できる。
【0096】
従って、当該酸化物半導体薄膜3を用いた当該薄膜トランジスタは、製造コストが比較的低く、キャリア移動度及び光ストレス耐性が高い。
【0097】
[その他の実施形態]
本発明の酸化物半導体薄膜、薄膜トランジスタ及びスパッタリングターゲットは、上記実施形態に限定されるものではない。
【0098】
上記実施形態では、薄膜トランジスタとしてボトムゲート型のトランジスタの場合を説明したが、トップゲート型のトランジスタであってもよい。
【0099】
上記実施形態では、薄膜トランジスタがESL保護膜を有する場合を説明したが、ESL保護膜は必須の構成要件ではない。例えばマスク蒸着やリフトオフによりソース及びドレイン電極を成膜する場合は、酸化物半導体薄膜がダメージを受け難いため、ESL保護膜を省略することができる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0101】
[実施例1]
ガラス基板(コーニング社製の「EagleXG」、直径6インチ、厚さ0.7mm)を用意し、まずこのガラス基板の表面にMo薄膜を平均厚さが100nmとなるように成膜した。成膜条件は基板温度25℃(室温)、成膜パワー密度3.8W/cm
2、圧力0.266Pa、及びキャリアガスArとした。Mo薄膜を成膜後、パターニングによりゲート電極を形成した。
【0102】
次に、ゲート絶縁膜として、平均厚さ250nmのシリコン酸化膜をCVD法により上記ゲート電極を覆うように成膜した。原料ガスとしては、N
2OとSiH
4との混合ガスを用いた。成膜条件は基板温度320℃、成膜パワー密度0.96W/cm
2、及び圧力133Paとした。
【0103】
次に、ガラス基板の表面側に酸化物半導体層として、平均厚さ40nmの実質的にIn、Zn、Feのみを金属元素として含む酸化物半導体層をスパッタリング法により形成した。
【0104】
スパッタリング法には、従来から最適な組成比を調べる手法として確立されている手法を用いた。具体的には、In
2O
3と、ZnOと、Feチップを装着したIn
2O
3との3つのターゲットを上記ガラス基板の周囲の異なる位置に配置し、静止している上記ガラス基板に対してスパッタリングを行うことで、酸化物半導体層を成膜した。このような方法によれば、構成元素の異なる3つのターゲットをガラス基板の周囲の異なる位置に配置しているので、ガラス基板上の位置により各ターゲットからの距離が異なる。スパッタリングターゲットから遠ざかるに従ってそのターゲットから供給される元素が減少するから、例えばZnOターゲットに近くIn
2O
3ターゲットから遠い位置ではInに対しZnが多くなり、逆にIn
2O
3ターゲットに近くZnOターゲットから遠い位置ではZnに対しInが多くなる。つまり、ガラス基板上の位置によって組成比の異なる酸化物半導体層を得ることができる。
【0105】
スパッタリング装置(株式会社アルバック製の「CS200」)を用い、成膜条件は基板温度25℃(室温)、成膜パワー密度2.55W/cm
2、圧力0.133Pa、及びキャリアガスArとした。また、雰囲気の酸素含有量は4体積%とした。
【0106】
得られた酸化物半導体層をフォトリソグラフィ及びウエットエッチングによりパターニングを行い、ガラス基板上の位置により組成の異なる酸化物半導体薄膜を形成した。なお、ウエットエッチャントには、関東化学株式会社製の「ITO−07N」を用いた。
【0107】
ここで、この酸化物半導体薄膜の膜質改善のためプレアニール処理を行った。なお、プレアニール処理の条件は、大気雰囲気(大気圧)で350℃の環境下60分間とした。
【0108】
次に、ガラス基板の表面側にシリコン酸化膜をCVD法により平均厚さが100nmとなるように成膜した。原料ガスとしては、N
2OとSiH
4との混合ガスを用いた。成膜条件は基板温度230℃、成膜パワー密度0.32W/cm
2、及び圧力133Paとした。シリコン酸化膜を成膜後、パターニングによりESL保護膜を形成した。
【0109】
次に、ガラス基板の表面側にMo薄膜を平均厚さが200nmとなるように成膜した。成膜条件は基板温度25℃(室温)、成膜パワー密度3.8W/cm
2、圧力0.266Pa、及びキャリアガスArとした。Mo薄膜を成膜後、パターニングにより、ソース電極及びドレイン電極を形成した。
【0110】
次に、ガラス基板の表面側にシリコン酸化膜(平均厚さ100nm)とシリコン窒化膜(平均厚さ150nm)との2層構造のパッシベーション絶縁膜をCVD法により形成した。原料ガスとしては、シリコン酸化膜の形成にはN
2OとSiH
4との混合ガスを用い、シリコン窒化膜の形成には、NH
3とSiH
4との混合ガスを用いた。成膜条件は基板温度150℃、成膜パワー密度0.32W/cm
2、及び圧力133Paとした。
【0111】
次に、フォトリソグラフィ及びドライエッチングによりコンタクトホールを形成し、ドレイン電極に電気的に接続するためのパッドを設けた。このパッドにプローブを当てることで薄膜トランジスタの電気的な測定が行える。
【0112】
最後に、ポストアニール処理を行った。なお、ポストアニール処理の条件は、大気圧のN
2雰囲気で250℃の環境下30分間とした。
【0113】
このようにして実施例1の薄膜トランジスタを得た。なお、この薄膜トランジスタのチャネル長は20μm、チャネル幅は200μmとした。また、実施例1の薄膜トランジスタでの酸化物半導体薄膜の組成は表1に示すとおりであった。
【0114】
[実施例2〜4、比較例1〜5]
用いるスパッタリングターゲットのIn、Zn及びFeの合計原子数に対するIn、Zn及びFeの原子数、すなわち形成される酸化物半導体薄膜のIn、Zn及びFeの合計原子数に対するIn、Zn及びFeの原子数を表1のように変化させた以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜4及び比較例1〜5の薄膜トランジスタを得た。
【0115】
[測定方法]
実施例1〜4及び比較例1〜5の薄膜トランジスタに対して、キャリア移動度、閾値電圧、閾値電圧シフト及びS値の測定を行った。
【0116】
これらの測定のうち、キャリア移動度、閾値電圧及びS値の測定は、いずれもトランジスタの薄膜トランジスタの静特性(Id−Vg特性)から算出した。上記静特性の測定は、半導体パラメータアナライザ(Agilent Technology社製の「HP4156C」)を用いて行った。測定条件としては、ソース電圧を0V、ドレイン電圧を10Vに固定し、ゲート電圧を−30Vから30Vまで0.25V刻みで変化させる条件とした。なお、測定は室温(25℃)で行った。以下に測定方法を記す。
【0117】
<キャリア移動度>
キャリア移動度は、上記静特性の飽和領域での電界効果移動度μ
FE[m
2/Vs]とした。この電界効果移動度μ
FE[m
2/Vs]は、ゲート電圧Vg[V]、閾値電圧Vth[V]、ドレイン電流Id[A]、チャネル長L[m]、チャネル幅W[m]、ゲート絶縁膜の容量C
ox[F]とするとき、上記静特性の飽和領域(Vg>Vd−Vth)において、以下の式(3)に示すμ
FE[m
2/Vs]により算出した。結果を表1に示す。
【数3】
【0118】
<閾値電圧>
閾値電圧は、トランジスタのドレイン電流が10
−9Aとなるゲート電圧を上記薄膜トランジスタの静特性から算出した値とした。結果を表1に示す。
【0119】
<S値>
S値は、上記静特性からドレイン電流を1桁上昇させるのに必要なゲート電圧の変化量を算出し、その最小値とした。結果を表1に示す。
【0120】
<閾値電圧シフト>
閾値電圧シフトは、基板温度60℃で、薄膜トランジスタのソース電圧を0V、ドレイン電圧を10V、ゲート電圧を−10Vに固定し、薄膜トランジスタに白色LED(PHILIPTS社製の「LXHL−PW01」)を2時間照射し、照射前後の閾値電圧の差の絶対値として算出した。この数値が小さいほど光ストレス耐性が高いと言える。結果を表1に示す。
【0121】
[判定]
上述の測定結果をもとに、以下の判定基準で総合判定を行った。結果を表1に示す。
A:キャリア移動度が32m
2/Vs以上、かつ閾値電圧シフトが5V以下であり、次世代大型ディスプレイや可撓性ディスプレイに好適である。
B:キャリア移動度が32m
2/Vs未満、又は閾値電圧シフトが5V超であり、次世代大型ディスプレイや可撓性ディスプレイに用いることができない。
【0122】
【表1】
【0123】
表1より、実施例1〜4の薄膜トランジスタは、キャリア移動度が高く、閾値電圧シフトが小さい。これに対し、比較例1の薄膜トランジスタは、酸化物半導体薄膜のIn、Zn及びFeの合計原子数に対するInの原子数が少ないため、キャリア移動度が低いと考えられ、スイッチング動作に劣る。また、比較例2、3の薄膜トランジスタは、酸化物半導体薄膜がFeを含まないため、閾値電圧シフトが大きいと考えられ、光ストレス耐性に劣る。比較例4の薄膜トランジスタは、酸化物半導体薄膜のIn、Zn及びFeの合計原子数に対するFeの原子数が少ないため、閾値電圧シフトが大きいと考えられ、光ストレス耐性に劣る。比較例5の薄膜トランジスタは、Feの原子数が多いため、キャリア移動度が低いと考えられ、スイッチング動作に劣る。
【0124】
以上から、酸化物半導体薄膜のIn、Zn及びFeの合計原子数に対し、Inの原子数を58atm%以上80atm%以下、Znの原子数を19atm%以上41atm%以下、Feの原子数を0.6atm%以上3atm%以下とすることで、キャリア移動度及び光ストレス耐性を高められることが分かる。
【解決手段】本発明は、金属元素を含む酸化物半導体薄膜であって、上記金属元素がIn、Zn、Fe及び不可避的不純物からなり、In、Zn及びFeの合計原子数に対し、Inの原子数が58atm%以上80atm%以下、Znの原子数が19atm%以上41atm%以下、Feの原子数が0.6atm%以上3atm%以下である。