(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
120℃でのTD方向の熱収縮率が7.5%以下であり、そして130℃でのTD方向の熱収縮率が、前記120℃でのTD方向の熱収縮率の3倍以上4.8倍以下であり、かつ前記120℃でのTD方向の熱収縮率より12%以上大きいポリオレフィン微多孔膜であって、前記ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンが、ポリエチレン100質量%であるポリオレフィン微多孔膜。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定において、分子量50,000以下の分子を15%以上含み、かつ分子量500,000以上の分子を15%以上含む、請求項1又は2に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0018】
<微多孔膜>
本発明の一態様は、ポリオレフィン微多孔膜である。ポリオレフィン微多孔膜は、電子伝導性が小さく、イオン伝導性を有し、有機溶媒に対する耐性が高く、かつ孔径の微細なものが好ましい。また、ポリオレフィン微多孔膜は、2次電池用セパレータとして利用されることができる。
【0019】
第一の実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜は、120℃でのTD方向の熱収縮率が8.0%以下であり、かつ130℃でのTD方向の熱収縮率が、120℃でのTD方向の熱収縮率の3倍以上5倍以下であって、120℃でのTD方向の熱収縮率より12.0%以上大きい。
【0020】
本明細書では、MD方向とは、微多孔膜連続成形の機械方向を意味し、かつTD方向とは、微多孔膜のMD方向を90°の角度で横切る方向を意味する。
【0021】
理論に拘束されることを望まないが、ポリオレフィン微多孔膜の120℃でのTD方向の熱収縮率が8.0%以下の範囲内にあると、外部温度又は2次電池の内部温度が、100℃から120℃までの範囲内の高温になっても、ポリオレフィン微多孔膜が寸法安定性を有することが考えられる。同様の観点から、120℃でのTD方向の熱収縮率は、好ましくは3.0%〜7.5%、より好ましくは3.5%〜7.0%、さらに好ましくは4.0%〜6.0%の範囲内である。
【0022】
ポリオレフィン微多孔膜の130℃でのTD方向の熱収縮率が、120℃でのTD方向の熱収縮率の3倍以上5倍以下の範囲内にあると、ポリオレフィン微多孔膜は、良好な耐熱性と良好なシャットダウン特性を備える傾向にある。また、130℃でのTD方向の熱収縮率が、120℃でのTD方向の熱収縮率の5倍以下の範囲内にあると、電池の温度が130℃まで上昇した際に微多孔膜の過度の収縮が抑制されることができる。同様の観点から、130℃でのTD方向の熱収縮率は、120℃でのTD方向の熱収縮率に対して、好ましくは3.1倍以上5.0倍以下、より好ましくは3.3倍以上5.0倍以下、よりさらに好ましくは3.5倍以上4.5倍以下、特に好ましくは3.7倍以上4.3倍以下の範囲内である。
【0023】
130℃でのTD方向の熱収縮率が120℃でのTD方向の熱収縮率より12.0%以上大きいポリオレフィン微多孔膜は、加熱時に、例えばポリオレフィン樹脂の融点を超える温度で、瞬時に閉孔してシャットダウンする傾向にある。融点とは、ポリオレフィン樹脂又は微多孔膜の溶融する温度を意味し、例えば示差走査熱力計の昇温測定において極大点を取る温度から読み取ることができる。シャットダウン特性の観点では、130℃でのTD方向の熱収縮率(%)から120℃でのTD方向の熱収縮率(%)を引いた値(%)は、好ましくは12%超32%以下、より好ましくは13.0%以上31.0%以下、さらに好ましくは14.0%以上20.0%以下の範囲内である。電池捲回方向と垂直なTD方向は端部が拘束されておらず、セパレータの熱収縮の挙動に影響され易いため、TD方向の熱収縮率(%)が上記の範囲内にあることで、100℃から120℃までの範囲内の外部温度ではセパレータの収縮を抑え、130℃付近では速やかにセパレータをシャットダウンさせることができる。
【0024】
120℃及び130℃でのTD方向の熱収縮率は、例えば、ポリオレフィン原料合成時の触媒の選定、ポリオレフィン組成物の押出及び延伸時の歪み速度の制御、微多孔膜の熱固定時の緩和速度の制御などにより、上記で説明されたとおりに調整されることができる。
【0025】
第二の実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜は、動摩擦係数が0.10以上0.35以下である。理論に拘束されることを望まないが、ポリオレフィン微多孔膜の動摩擦係数が0.10以上であると、ポリオレフィン微多孔膜に対する搬送ロールのグリップ力が高まるので2次電池作製時のウェブ搬送を容易にすることができると考えられる。理論に拘束されることを望まないが、動摩擦係数が0.35以下であると、ポリオレフィン微多孔膜をセパレータとして含む2次電池に衝撃が加わった際に、複数の電極の間でセパレータを僅かに又は敢えて滑らせることによって、セパレータ自体の歪みを低減し、2次電池の耐衝撃性を改良し得ることが考えられる。このような観点から、動摩擦係数は、好ましくは0.13以上0.30以下、より好ましくは0.15以上0.25以下である。
【0026】
ポリオレフィン微多孔膜の動摩擦係数は、例えば、ポリオレフィン原料合成時の触媒の選定などにより、0.10以上0.35以下の範囲内に調整されることができる。
【0027】
第三の実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜は、TD方向の熱収縮率に対するMD方向の熱収縮率の比(MD/TDの熱収縮比率)が、120℃では1.0を超え、かつ130℃では1.0未満である。
【0028】
電池の温度が上がった際に、130℃付近では、端部が拘束されていないTD方向へ収縮し、速やかに閉孔してシャットダウンするが、100℃から120℃までの範囲内の温度では過度に収縮しないというポリオレフィン微多孔膜の構造は、MD/TDの熱収縮比率が120℃では1.0を超え、かつ130℃では1.0未満であることにより特定される。MD/TDの熱収縮比率は、好ましくは120℃で1.05超かつ130℃で0.95未満であり、より好ましくは120℃で1.10超かつ130℃で0.90未満である。
【0029】
MD/TDの熱収縮比率は、例えば、ポリオレフィン組成物の押出及び延伸時のMD/TDの歪み速度比を適切に制御することにより、上記で説明されたとおりに調整されることができる。
【0030】
第四の実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜は、上記で説明されたポリオレフィン微多孔膜の熱収縮率と動摩擦係数について任意の組み合わせを有するものである。
【0031】
ポリオレフィン微多孔膜の構成要素及び好ましい実施形態について以下に説明する。
【0032】
[構成要素]
ポリオレフィン微多孔膜としては、例えば、ポリオレフィン樹脂を含む多孔膜、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルフォン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂を含む多孔膜、ポリオレフィン系の繊維の織物(織布)、ポリオレフィン系の繊維の不織布、紙、並びに、絶縁性物質粒子の集合体が挙げられる。これらの中でも、塗工工程を経て多層多孔膜、すなわち2次電池用セパレータを得る場合に塗工液の塗工性に優れ、セパレータの膜厚を従来のセパレータより薄くして、2次電池等の蓄電デバイス内の活物質比率を高めて体積当たりの容量を増大させる観点から、ポリオレフィン樹脂を含む多孔膜(以下、「ポリオレフィン樹脂多孔膜」ともいう。)が好ましい。
【0033】
ポリオレフィン樹脂多孔膜について説明する。
ポリオレフィン樹脂多孔膜は、2次電池用セパレータとして使用された時のシャットダウン性能等を向上させる観点から、多孔膜を構成する樹脂成分の50質量%以上100質量%以下をポリオレフィン樹脂が占めるポリオレフィン樹脂組成物により形成される多孔膜であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂組成物におけるポリオレフィン樹脂が占める割合は、60質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。
【0034】
ポリオレフィン樹脂組成物に含有されるポリオレフィン樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等をモノマーとして用いて得られるホモ重合体、共重合体、又は多段重合体等が挙げられる。また、これらのポリオレフィン樹脂は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
中でも、ポリオレフィン樹脂多孔膜が2次電池用セパレータとして使用された時のシャットダウン特性の観点から、ポリオレフィン樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、及びこれらの共重合体、並びにこれらの混合物が好ましい。
ポリエチレンの具体例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等が挙げられる。
ポリプロピレンの具体例としては、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン等が挙げられる。
共重合体の具体例としては、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンラバー等が挙げられる。
【0035】
また、ポリオレフィン樹脂は、電池の熱暴走を初期段階で止めるという観点から、130℃から140℃までの範囲内に融点を持つポリエチレンであることが好ましい。ポリオレフィン樹脂におけるポリエチレンの割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0036】
中でも、ポリオレフィン樹脂多孔膜が2次電池用セパレータとして使用された時に低融点かつ高強度の要求性能を満たす観点から、ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン、特に高密度ポリエチレンを用いることが好ましい。さらに、速やかなヒューズ挙動を発現する観点から、ポリオレフィン樹脂多孔膜の主成分がポリエチレンであることが好ましい。なお、本発明において、高密度ポリエチレンとは密度0.942〜0.970g/cm
3のポリエチレンをいう。なお、本発明においてポリエチレンの密度とは、JIS K7112(1999)に記載のD)密度勾配管法に従って測定した値をいう。
【0037】
耐衝撃性の観点から、チーグラー・ナッタ触媒によって合成された高密度ポリエチレンの割合が70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。チーグラー・ナッタ触媒によって合成されたポリエチレンの分子鎖は、適度な直線性を持ち、かつ嵩高い側鎖を有さないため、得られる微多孔膜の動摩擦係数は小さくなる。したがって、ポリオレフィン微多孔膜をセパレータとして含む2次電池に衝撃が加わった際に、電極の間でセパレータを僅かに又は敢えて滑らせることによって、セパレータ自体の歪みを低減して破膜に至らせないことが可能である。
【0038】
また、多孔膜の耐熱性を向上させる観点から、ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン及びポリプロピレンの混合物を用いてもよい。この場合、ポリオレフィン樹脂組成物中の、総ポリオレフィン樹脂に対するポリプロピレンの割合は、耐熱性と良好なシャットダウン機能を両立させる観点から、1〜35質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜20質量%、さらに好ましくは4〜10質量%である。
【0039】
ポリオレフィン樹脂組成物には、任意の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、ポリオレフィン樹脂以外の重合体;無機フィラー;フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料等が挙げられる。これらの添加剤の総添加量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、20質量部以下であることが、シャットダウン性能等を向上させる観点から好ましく、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。
【0040】
[微多孔膜の詳細]
ポリオレフィン微多孔膜は、非常に小さな孔が多数集まって緻密な連通孔を形成した多孔構造を有しているため、イオン伝導性に非常に優れると同時に耐電圧特性も良好であり、しかも高強度であるという特徴を有する。
また、上述したポリオレフィン微多孔膜のいずれか一方又は両方の面上に、一つ又は複数の異なる機能層が形成されていてもよい。機能層としては、例えば、無機粒子又は架橋性高分子などの耐熱樹脂を含む耐熱層、接着性高分子を含む接着層等が挙げられる。
積層化方法は、グラビアコーター若しくはダイコーターによりポリオレフィン微多孔膜に機能層をコーティングする方法、又は共押出による積層化などが挙げられる。
【0041】
微多孔膜の膜厚は、0.1μm以上100μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上50μm以下、さらに好ましくは3μm以上25μm以下である。微多孔膜の膜厚は、機械的強度の観点から0.1μm以上が好ましく、2次電池の高容量化の観点から100μm以下が好ましい。微多孔膜の膜厚は、ダイリップ間隔、延伸工程における延伸倍率等を制御すること等によって調整することができる。
【0042】
微多孔膜の平均孔径は、0.03μm以上0.70μm以下が好ましく、より好ましくは0.04μm以上0.20μm以下、さらに好ましくは0.05μm以上0.10μm以下、よりさらに好ましくは0.06μm以上0.09μm以下である。高いイオン伝導性と耐電圧の観点から、微多孔膜の平均孔径は、0.03μm以上0.70μm以下が好ましい。微多孔膜の平均孔径は、例えば特開2017−27945号公報に記載の測定法で測定することができる。
平均孔径は、組成比、押出シートの冷却速度、延伸温度、延伸倍率、熱固定温度、熱固定時の延伸倍率、熱固定時の緩和率を制御すること、又はこれらを組み合わせることにより調整することができる。
【0043】
微多孔膜の気孔率は、好ましくは25%以上95%以下、より好ましく30%以上65%以下、さらに好ましくは35%以上55%以下である。気孔率は、イオン伝導性向上の観点から25%以上が好ましく、耐電圧特性の観点から95%以下が好ましい。
微多孔膜の気孔率は、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の混合比率、延伸温度、延伸倍率、熱固定温度、熱固定時の延伸倍率、熱固定時の緩和率を制御すること、又はこれらを組み合わせることによって調整することができる。
【0044】
微多孔膜のメルトダウン温度は、好ましくは150℃以上200℃以下、より好ましくは160℃以上190℃以下、さらに好ましくは170℃以上180℃以下である。150℃以上のメルトダウン温度は、150℃までは微多孔膜の破膜が起こらないことを意味するので、2次電池の安全性を確保することができる。また、150℃超かつ200℃以下のメルトダウン温度とは、微多孔膜の破膜が起きても2次電池を徐々に放電させることを意味するので、2次電池が過度に高いエネルギーを持たないようにして、安全性を担保することができる。メルトダウン温度は、ポリオレフィンの分子量、延伸および熱固定条件によって150℃以上200℃以下の範囲内に調整されることができる。
【0045】
微多孔膜がポリオレフィン樹脂多孔膜である場合、原料として用いるポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、30,000以上12,000,000以下であることが好ましく、より好ましくは50,000以上5,000,000未満、さらに好ましくは100,000以上2,000,000未満である。粘度平均分子量が30,000以上であると、溶融成形の際の成形性が良好になると共に、重合体同士の絡み合いにより高強度となる傾向にあるため好ましい。一方、粘度平均分子量が12,000,000以下であると、均一に溶融混練をすることが容易となり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れる傾向にあるため好ましい。さらに、ポリオレフィン樹脂多孔膜が2次電池用セパレータとして使用された時に、粘度平均分子量が1,000,000未満であると、温度上昇時に孔を閉塞し易く、良好なシャットダウン機能が得られる傾向にあるため好ましい。
【0046】
ポリオレフィン樹脂多孔膜の物性又は原料特性の観点から、ポリオレフィン樹脂多孔膜は、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(分散度:Mw/Mn)が3.0以上10.0以下であることが好ましく、5.0以上9.0以下であることがより好ましい。分散度(Mw/Mn)が3.0以上であることで、膜には高分子量成分と低分子量成分がそれぞれ一定量存在し、高分子量成分が適度な耐熱性と強度を担保し、低分子量成分の存在により130℃付近で良好なシャットダウン性能を示すことができる。分散度(Mw/Mn)が10.0以下であることで、低分子量成分のブリードアウトによるコンタミネーションを防ぐことができるため好ましい。
【0047】
微多孔膜のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定において、微多孔膜は、分子量50,000以下の分子を15%以上含み、かつ分子量500,000以上の分子を15%以上含むことが好ましい。微多孔膜は、分子量50,000以下と500,000以上の分子を含むことによって、耐摩擦性に優れ、融点以下では寸法変化が少なく、かつ微多孔膜の融点付近(例えば、130℃)では両方の分子が溶融して、急速に収縮することができる。また、微多孔膜において、分子量50,000以下の低分子量成分が良好な混練性を担保し、かつ分子量500,000以上の高分子量成分が強度と伸度を担保する。なお、GPC測定により得られる分子量は、標準ポリマーとしてのポリスチレン(PS)換算分子量である。求められた各試料のポリスチレン換算の分子量分布データに、0.43(ポリエチレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=17.7/41.3)を乗じることにより、本発明のポリオレフィン樹脂多孔膜の分子量分布データを取得した。微多孔膜は、GPC測定において、分子量50,000以下の分子を17%以上含み、かつ分子量500,000以上の分子を17%以上含むことがより好ましく、分子量50,000以下の分子を19%以上含み、かつ分子量500,000以上の分子を19%以上含むことがさらに好ましい。
【0048】
微多孔膜は、TD方向の弾性率に対するMD方向の弾性率の比(MD/TDの弾性率比率)が、1.7以上3.0以下であることが好ましい。MD/TDの弾性率比率が1.7以上であると、微多孔膜をセパレータとして含む2次電池に衝撃が加わった時に、端部が拘束されておらず破断し難いセパレータのTD方向に変形が集中し、破断に至らない傾向がある。一般に、セパレータをMD方向に捲回することにより得られるロールは、巻回固定のためにMD方向の移動が制限されており、MD方向に裂け易い。しかしながら、MD/TDの弾性率比率が3.0以下であると、微多孔膜の縦裂け(MD方向の裂け)が容易に起こらない傾向にある。これらの傾向は、特定のMD/TDの熱収縮比率を有する第三の実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜において顕著である。このような観点から、MD/TDの弾性率比率は、より好ましくは1.9以上2.8以下、さらに好ましくは2.1以上2.5以下である。
【0049】
<微多孔膜の製造方法>
本発明の別の態様は、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法である。
【0050】
第五の実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、以下の工程:
(A)モノマー及びチーグラー・ナッタ触媒を用いてポリエチレン又はエチレン構成単位含有コポリマーを合成して、ポリエチレン原料を得る工程;
(B)ポリエチレン原料を含むポリオレフィン組成物をシートに成形して、シートを延伸する工程;並びに
(C)シートを抽出し、熱固定して、120℃でのTD方向の熱収縮率が8.0%以下であり、そして130℃でのTD方向の熱収縮率が、120℃でのTD方向の熱収縮率の3倍以上5倍以下であり、かつ120℃でのTD方向の熱収縮率より12.0%以上大きいポリオレフィン微多孔膜を形成する工程;
を含む。
【0051】
第六の実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、以下の工程:
(B−1)ポリオレフィン組成物から成る成形シートの同時二軸又は逐次二軸延伸工程であって、TD方向の歪み速度に対するMD方向の歪み速度の比(MD/TDの歪み速度比)が1.2以上1.8以下である工程;
を含む。
【0052】
第七の実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、以下の工程:
(C−1)延伸されたシートを抽出し、20%/秒以上の横(TD)方向の歪み速度でシートをTD延伸に供する工程;及び
(C−2)TD延伸されたシートを10%/秒以下の緩和速度で緩和する工程;
を含む。
工程(C−1)及び(C−2)によって、ポリオレフィン組成物から成る成形シート又は微多孔膜を急速に延伸した後に緩やかに緩和することが可能である。
【0053】
第八の実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、上記で説明された全ての工程について、任意の組み合わせを含むものである。
【0054】
ポリオレフィン微多孔膜の製造工程及び好ましい実施形態について以下に説明する。
【0055】
[樹脂原料の合成工程]
ポリエチレン原料の合成工程では、モノマーを重合してポリエチレン又はエチレン構成単位含有コポリマーを合成する。この工程は、工程(A)を含むことが好ましい。
【0056】
ポリエチレン原料の合成時にチーグラー・ナッタ触媒を用いると、適度な直線性を持つポリマーを得ることにより分極を減少させて、ポリエチレン原料の摩擦を下げ、結果として2次電池の耐衝撃性を向上させることができる。また、チーグラー・ナッタ触媒により合成されたポリエチレンは、適度な分子量分布を持つため、ポリエチレン原料の融点以下では、ポリエチレン原料を含む微多孔膜の寸法変化を抑え、融点付近では(例えば130℃)微多孔膜を急速に収縮させることができる。また、チーグラー・ナッタ触媒を用いると、得られたポリマーの低分子量成分が、ポリエチレン原料の混練性を良好にし、得られたポリマーの高分子量成分が強度と伸度を担保する。
【0057】
[成形・延伸工程]
成形・延伸工程では、ポリオレフィン組成物の成形と延伸を行う。この工程は、工程(B)又は(B−1)を含むことが好ましい。ポリオレフィン組成物は、例えばシート状に成形されることができる。
【0058】
(成形)
ポリオレフィン組成物の成形は、例えば、
(1)ポリオレフィン組成物と孔形成材を溶融混練してシート状に成形する方法、
(2)ポリオレフィン組成物を溶融混練して高ドロー比で押し出す方法、
(3)ポリオレフィン組成物と無機充填材を溶融混練してシート上に成形する方法、
により行なわれることができる。一例として上記(1)及び(3)の方法を以下に説明する。
【0059】
まず、ポリオレフィン樹脂組成物と孔形成材を溶融混練する。溶融混練方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂及び必要によりその他の添加剤を押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入することで、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で孔形成材を導入して混練する方法が挙げられる。
【0060】
孔形成材としては、可塑剤、無機材又はそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0061】
可塑剤としては、特に限定されないが、ポリオレフィンの融点以上において均一溶液を形成し得る不揮発性溶媒を用いることが好ましい。このような不揮発性溶媒の具体例としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。なお、これらの可塑剤は、抽出後、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。さらに、好ましくは、樹脂混練装置に投入する前に、ポリオレフィン樹脂、その他の添加剤及び可塑剤を、予めヘンシェルミキサー等を用いて所定の割合で事前混練する。より好ましくは、事前混練においては、使用される可塑剤の一部分を投入し、残りの可塑剤は、樹脂混練装置に適宜加温しサイドフィードしながら混練する。このような混練方法を用いることにより、可塑剤の分散性が高まり、後の工程で樹脂組成物と可塑剤の溶融混練物のシート状成形体を延伸する際に、破膜することなく高倍率で延伸することができる傾向にある。
【0062】
可塑剤の中でも、流動パラフィンは、ポリオレフィン樹脂がポリエチレン又はポリプロピレンの場合に、これらとの相溶性が高く、溶融混練物を延伸しても樹脂と可塑剤の界面剥離が起こり難く、均一な延伸が実施し易くなる傾向にあるため好ましい。
【0063】
ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の比率は、これらを均一に溶融混練して、シート状に成形できる範囲であれば特に限定はない。例えば、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とから成る組成物中に占める可塑剤の質量分率は、好ましくは20〜90質量%、より好ましくは30〜80質量%である。可塑剤の質量分率が90質量%以下であると、溶融成形時のメルトテンションが、成形性向上のために十分になる傾向にある。一方、可塑剤の質量分率が20質量%以上であると、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤との混合物を高倍率で延伸した場合でもポリオレフィン分子鎖の切断が起こらず、均一かつ微細な孔構造を形成し易く、強度も増加し易い。
【0064】
無機材としては、特に限定されず、例えば、アルミナ、シリカ(珪素酸化物)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;及びガラス繊維が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でも、電気化学的安定性の観点から、シリカ、アルミナ及びチタニアが好ましく、シート状成形体からの抽出が容易である点から、シリカがより好ましい。
【0065】
ポリオレフィン樹脂組成物に対する無機材の比率は、良好な隔離性を得る観点から、これらの合計質量に対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、高い強度を確保する観点から、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
【0066】
押出機により溶融混練を行う場合には、ポリオレフィン組成物の押出速度(すなわち、押出機の吐出量Q:kg/時間)と押出機のスクリュー回転数N(rpm)との比(Q/N、単位:kg/(h・rpm))が、好ましくは2.0以上7.0以下、より好ましくは3.0以上6.0以下、さらに好ましくは4.0以上5.0以下である。2.0以上7.0未満のQ/Nの条件下で溶融混練を行うと、流動パラフィン等の可塑剤のブリードの態様を制御することにより溶融混練物の表面に適度な凹凸ができるため、ポリオレフィン微多孔膜の摩擦が適切に調整され易くなる。
【0067】
次に、溶融混練物をシート状に成形する。シート状成形体を製造する方法としては、例えば、溶融混練物を、Tダイ等を介してシート状に押出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、可塑剤等が挙げられる。これらの中でも、熱伝導の効率が高いため、金属製のロールを用いることが好ましい。また、押出した混練物を金属製のロールに接触させる際に、少なくとも一対のロールで挟み込むことは、熱伝導の効率がさらに高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上する傾向にあるため、より好ましい。溶融混練物をTダイからシート状に押出す際のダイリップ間隔は、200μm以上3,000μm以下であることが好ましく、500μm以上2,500μm以下であることがより好ましい。ダイリップ間隔が200μm以上であると、メヤニ等が低減され、スジ又は欠点などの膜品位への影響が少なく、その後の延伸工程において、膜破断などのリスクを低減することができる。一方、ダイリップ間隔が3,000μm以下であると、冷却速度が速く、冷却ムラを防げると共に、シートの厚み安定性を維持できる。
【0068】
また、シート状成形体を圧延してもよい。圧延は、例えば、ダブルベルトプレス機等を使用したプレス法により実施することができる。シート状成形体に圧延を施すことにより、特に表層部分の配向を増すことができる。圧延面倍率は1倍を超えて3倍以下であることが好ましく、1倍を超えて2倍以下であることがより好ましい。圧延倍率が1倍を超えると、面配向が増加し、最終的に得られる多孔膜の膜強度が増加する傾向にある。一方、圧延倍率が3倍以下であると、表層部分と中心内部の配向差が小さく、膜の厚さ方向に均一な多孔構造を形成することができる傾向にある。
【0069】
(延伸)
シート状成形体又は多孔膜が延伸される延伸工程は、シート状成形体から孔形成材を抽出する工程(孔形成工程)の前に行ってよいし、シート状成形体から孔形成材を抽出した多孔膜に対して行ってもよい。さらに、延伸工程は、シート状成形体からの孔形成材の抽出の前と後に行ってもよい。
【0070】
延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも好適に用いることができるが、得られる多孔膜の強度等を向上させる観点から二軸延伸が好ましい。また、得られた多孔膜の熱収縮性の観点から、少なくとも2回の延伸工程を行うことが好ましい。
シート状成形体を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終的に得られる多孔膜が裂け難くなり、高い突刺強度を有するものとなる。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、多段延伸、多数回延伸等の方法を挙げることができる。突刺強度の向上、延伸の均一性、シャットダウン性の観点からは、同時二軸延伸が好ましい。また、面配向の制御容易性の観点からは遂次二軸延伸が好ましい。
【0071】
ここで、同時二軸延伸とは、MD(微多孔膜連続成形の機械方向)の延伸とTD(微多孔膜のMDを90°の角度で横切る方向)の延伸が同時に施される延伸方法をいい、各方向の延伸倍率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD及びTDの延伸が独立して施される延伸方法をいい、MD又はTDに延伸がなされているときは、他方向は非拘束状態又は定長に固定されている状態とする。
【0072】
延伸倍率は、面倍率で20倍以上100倍以下の範囲であることが好ましく、25倍以上70倍以下の範囲であることがより好ましい。各軸方向の延伸倍率は、MDに4倍以上10倍以下、かつTDに4倍以上10倍以下の範囲内であることが好ましく、MDに5倍以上8倍以下、かつTDに5倍以上8倍以下の範囲内であることがより好ましい。総面積倍率が20倍以上であると、得られる多孔膜に十分な強度を付与できる傾向にある。一方、総面積倍率が100倍以下であると、延伸工程における膜破断を防ぎ、高い生産性が得られる傾向にある。
【0073】
シート状成形体又は多孔膜の同時二軸又は逐次二軸延伸においては、TD方向の歪み速度に対するMD方向の歪み速度の比(MD/TDの歪み速度比)が、好ましくは1.2以上1.8以下、より好ましくは1.3以上1.7以下、さらに好ましくは1.4以上1.6以下である。1.2以上1.8以下のMD/TDの歪み速度比で同時二軸又は逐次二軸延伸を行うと、熱収縮性に優れた微多孔膜、例えば、120℃でのTD方向の熱収縮率が8.0%以下であり、そして130℃でのTD方向の熱収縮率が、120℃でのTD方向の熱収縮率の3倍以上5倍以下であり、かつ120℃でのTD方向の熱収縮率より12.0%以上大きいポリオレフィン微多孔膜が得られる傾向にある。この傾向は、第五及び第六の実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜の製造方法において顕著である。
【0074】
[孔形成(抽出)工程]
孔形成(抽出)工程では、シート状成形体から孔形成材を除去して多孔膜を形成する。この工程は、延伸工程の前及び/又は後に行われることができ、工程(C)に含まれることができる。
【0075】
孔形成材を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤にシート状成形体を浸漬して孔形成材を抽出し、充分に乾燥させる方法が挙げられる。シート状成形体から孔形成材を抽出する方法は、バッチ式と連続式のいずれであってもよい。多孔膜の収縮を抑えるために、浸漬及び乾燥の一連の工程中に、シート状成形体の端部を拘束することが好ましい。また、多孔膜中の孔形成材残存量は、多孔膜全体の質量に対して1質量%未満に調整することが好ましい。
【0076】
シート状成形体から孔形成材を抽出する際に用いられる抽出溶剤は、ポリオレフィン樹脂に対して貧溶媒であり、かつ孔形成材に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン樹脂の融点より低いことが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。また、孔形成材として無機材を用いる場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液を抽出溶剤として用いることができる。
【0077】
[熱固定工程]
熱固定工程では、多孔膜の収縮を抑制するために、延伸工程後、又は、多孔膜形成後に熱固定を目的として熱処理を行う。この工程は、工程(C)、(C−1)又は(C−2)に含まれることができる。また、多孔膜に、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理等の後処理を行ってもよい。
【0078】
多孔膜には、収縮を抑制する観点から熱固定を目的として熱処理を施すことが好ましい。熱処理の方法としては、物性の調整を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の延伸率で行う延伸操作、及び/又は、延伸応力の低減を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の緩和率で行う緩和操作が挙げられる。延伸操作を行った後に緩和操作を行ってもよい。これらの熱処理は、テンター又はロール延伸機を用いて行うことができる。
【0079】
延伸操作は、膜のMD及び/又はTDに1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上の延伸を施すことが、さらなる高強度かつ高気孔率な多孔膜が得られる観点から好ましい。
緩和操作は、膜のMD及び/又はTDへの縮小操作のことである。緩和率とは、緩和操作後の膜の寸法を緩和操作前の膜の寸法で除した値のことである。なお、MDとTDの双方を緩和した場合は、MDの緩和率とTDの緩和率を乗じた値のことである。緩和率は、1.0以下であることが好ましく、0.97以下であることがより好ましく、0.95以下であることがさらに好ましい。緩和率は、膜品位の観点から0.5以上であることが好ましい。緩和操作は、MDとTDの両方向で行ってもよいが、MDとTDのうち片方だけ行ってもよい。
この可塑剤抽出後の延伸及び緩和操作は、好ましくはTDに行う。延伸及び緩和操作における温度は、ポリオレフィン樹脂の融点より低いことが好ましく、ポリオレフィン樹脂の融点より1℃から25℃低い範囲内にあることがより好ましい。延伸及び緩和操作における温度が上記範囲内であると、熱収縮率低減と気孔率とのバランスの観点から好ましい。
【0080】
延伸後に抽出したシートの熱固定工程においてTD延伸を行う際には、TD延伸工程の歪み速度が20%/秒以上であることが好ましく、25%/秒以上であることがより好ましく、30%/秒以上であることがさらに好ましい。熱固定工程におけるTD延伸を20%/秒以上の歪み速度で行うと、熱収縮性に優れた微多孔膜、例えば、120℃でのTD方向の熱収縮率が8.0%以下であり、そして130℃でのTD方向の熱収縮率が、120℃でのTD方向の熱収縮率の3倍以上5倍以下であり、かつ120℃でのTD方向の熱収縮率より12.0%以上大きいポリオレフィン微多孔膜が得られる傾向にある。この傾向は、第五及び第七の実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜の製造方法において顕著である。
【0081】
延伸工程の後にTD方向への緩和操作を行う場合には、緩和速度が10%/秒以下であることが好ましく、8%/秒以下であることがより好ましく、6%/秒以下であることがさらに好ましい。10%/秒以下の緩和速度で緩和操作を行うと、熱収縮性に優れた微多孔膜、例えば、120℃でのTD方向の熱収縮率が8.0%以下であり、そして130℃でのTD方向の熱収縮率が、120℃でのTD方向の熱収縮率の3倍以上5倍以下であり、かつ120℃でのTD方向の熱収縮率より12.0%以上大きいポリオレフィン微多孔膜が得られる傾向にある。この傾向は、第五及び第七の実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜の製造方法において顕著である。
【0082】
<2次電池用セパレータ>
本実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜は、2次電池用セパレータとして利用されることができる。本実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜を含むセパレータは、120℃付近の外部温度までは収縮を抑え、より高温の外部温度では速やかにシャットダウンするため、2次電池の安全性を改良することができる。
【0083】
なお、上述した各種物性の測定値は、特に断りの無い限り、後述する実施例における測定法に準じて測定される値である。
【実施例】
【0084】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。
【0085】
(1)粘度平均分子量
ASTM−D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を求めた。
ポリエチレンについては、次式により算出した。
[η]=6.77×10
−4Mv
0.67【0086】
(2)GPC測定
GPC装置として、Waters社製のALC/GPC−150−C−plus型(商標)を用い、東ソー(株)製のGMH6−HT(商標)の30cmのカラム2本とGMH6−HTL(商標)の30cmのカラム2本を直列接続して使用し、オルトジクロロベンゼンを移動相溶媒として使用し、試料濃度0.05wt%で140℃にてGPC測定を行った。
なお、標準物質として市販の分子量が既知の単分散ポリスチレンを用いて検量線を作成し、求められた各試料のポリスチレン換算の分子量分布データに、0.43(ポリエチレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=17.7/41.3)を乗じることにより、ポリエチレン換算の分子量分布データを取得した。これにより、各試料の重量平均分子量(Mw)、及び数平均分子量(Mn)を算出することで、分子量分布指標(Mw/Mn)も得た。
【0087】
(3)膜厚(μm)
微小測厚器(東洋精機製 タイプKBM)を用いて、室温23℃で膜厚を測定した。
【0088】
(4)気孔率(%)
10cm×10cm角の試料を微多孔膜から切り取り、その体積(cm
3)と質量(g)を求め、それらと膜密度(g/cm
3)より、次式を用いて気孔率を計算した。
気孔率(%)=(体積−質量/膜密度)/体積×100
【0089】
(5)透気度(sec)
JIS P−8117に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計、G−B2(商標)を用いてポリオレフィン微多孔膜の透気抵抗度を測定し、透気度として示した。
【0090】
(6)突刺強度(gf)
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES−G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで微多孔膜を固定した。次に固定された微多孔膜の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、25℃雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として生の突刺強度(gf)を得た。
【0091】
(7)熱収縮率(%)
サンプルをMD/TD方向にそれぞれ100mmの正方形に切り出し、120℃、または130℃に加熱してある熱風乾燥機にサンプルを入れ、1時間後の寸法収縮率を求めた。サンプルは、乾燥機の内壁等に付着しないように、かつサンプル同士が融着しないように、コピー紙等の上に乗せた。MD方向熱収縮率とTD方向熱収縮率は、それぞれ下記数式により算出される。
MD方向熱収縮率(%)=(100−加熱後のMD方向寸法)/100×100(%)
TD方向熱収縮率(%)=(100−加熱後のTD方向寸法)/100×100(%)
得られた熱収縮値から、TD方向の熱収縮率に対するMD方向の熱収縮率の比(MD/TDの熱収縮比率)を算出した。
また、ポリオレフィン微多孔膜上に無機粒子、耐熱樹脂又は接着性高分子などを含む塗工層が形成されている場合は、塗工層を溶解することができる有機溶媒に、塗工層が形成されたポリオレフィン微多孔膜を浸漬させ、塗工層を除去することで、ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮率を測定することができる。
【0092】
(8)動摩擦係数
カトーテック株式会社製、KES−SE摩擦試験機を用い、荷重50g、接触子面積10×10=100mm
2(0.5mmφの硬質ステンレス線(SUS304製ピアノ線)を隙間なく、かつ、重ならないように20本巻きつけたもの)、接触子送りスピード1mm/秒、張力6kPa、温度25℃、及び湿度50%の条件下で幅50mm×測定方向200mmのサンプルサイズについてMD、TD方向に各3回ずつ動摩擦係数を測定し、その平均を求めた。
【0093】
(9)MD(長手)方向及びTD(幅)方向の引張弾性率(MPa)
MD方向及びTD方向の測定について、MD方向サンプル(MD方向120mm×TD方向10mm)及びTD方向サンプル(MD方向10mm×TD方向120mm)を切り出した。雰囲気温度23±2℃、湿度40±2%の状況下でJIS K7127に準拠し、島津製作所製の引張試験機、オートグラフAG−A型(商標)を用いて、サンプルのMD方向及びTD方向の引張弾性率を測定した。サンプルをチャック間距離が50mmとなるようにセットし、引張速度200mm/分でチャック間が60mm、すなわち歪みが20.0%に達するまでサンプルを伸張した。引張弾性率(MPa)は、得られる応力−歪曲線における歪み1.0%から4.0%の傾きから求めた。得られた弾性率から、TD方向の弾性率に対するMD方向の弾性率の比(MD/TDの弾性率比率)を算出した。
【0094】
(10)メルトダウン温度(℃)
図1(A)にメルトダウン温度の測定装置の概略図を示す。1は微多孔膜であり、2A及び2Bは厚さ10μmのニッケル箔、3A及び3Bはガラス板である。4は電気抵抗測定装置(安藤電気製LCRメーター「AG−4311」(商標))でありニッケル箔2A、2Bと接続されている。5は熱電対であり温度計6と接続されている。7はデータコレクターであり、電気抵抗装置4及び温度計6と接続されている。8はオーブンであり、微多孔膜を加熱する。
さらに詳細に説明すると、
図1(B)に示すようにニッケル箔2A上に微多孔膜1を重ねて、縦方向に「テフロン」(登録商標)テープ(図の斜線部)でニッケル箔2Aに固定する。微多孔膜1には電解液として1mol/リットルのホウフッ化リチウム溶液(溶媒:プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート/γ−ブチルラクトン=1/1/2)が含浸されている。ニッケル箔2B上には
図1(C)に示すように「テフロン」(登録商標)テープ(図の斜線部)を貼り合わせ、箔2Bの中央部分に15mm×10mmの窓の部分を残してマスキングしてある。
ニッケル箔2Aとニッケル箔2Bを微多孔膜1をはさむような形で重ね合わせ、さらにその両側からガラス板3A、3Bによって2枚のニッケル箔をはさみこむ。このとき、箔2Bの窓の部分と、多孔膜1が相対する位置に来るようになっている。
2枚のガラス板は市販のダブルクリップではさむことにより固定する。熱電対5は「テフロン」(登録商標)テープでガラス板に固定する。
このような装置で連続的に温度と電気抵抗を測定する。なお、温度は25℃から200℃まで2℃/minの速度にて昇温させ、電気抵抗値は1kHzの交流にて測定する。電気抵抗値が10
3Ωを上回った後に、再び10
3Ωを下回るときの温度をメルトダウン温度とした。
【0095】
(11)オーブン試験・衝突試験
a.正極の作製
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoO
2、並びに導電材としてグラファイト及びアセチレンブラックを、バインダーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びN−メチルピロリドン(NMP)に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ15μmのアルミニウム箔にダイコーターで塗布し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。得られた成形体を57.0mm幅にスリットして正極を得た。
【0096】
b.負極の作製
負極活物質として人造グラファイト、及びバインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスとを、精製水に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる銅箔にダイコーターで塗布し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。得られた成形体を58.5mm幅にスリットして負極を得た。
【0097】
c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF
6を濃度1mol/Lとなるように溶解させて、非水電解液を調製した。
【0098】
d.電池組立
正極、実施例又は比較例で得られた多孔膜及び負極を積層した後、常法により巻回電極体を作製した。なお、PO微多孔膜の厚みによって巻回数を調整した。得られた巻回電極体の最外周端部を絶縁テープの貼付により固定した。負極リードを電池缶に、正極リードを安全弁にそれぞれ溶接して、巻回電極体を電池缶の内部に挿入した。その後、非水電解液を電池缶内に5g注入し、ガスケットを介して蓋を電池缶にかしめることにより、外径18mm、高さ65mmの円筒型2次電池を得た。この円筒型2次電池を25℃雰囲気下、0.2C(定格電気容量の1時間率(1C)の0.2倍の電流)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を絞り始めるという方法で、合計3時間充電を行った。続いて0.2Cの電流値で電池電圧3.0Vまで放電した。0%以上の容量を維持していたセルの割合(%)を、自己放電特性として算出した。
【0099】
e.オーブン試験
dで組み立てた2次電池を用いて、充電後の2次電池を室温から120℃まで5℃/分で昇温させ、その状態で30分保持した。その後、2次電池を30℃/分でさらに150℃まで昇温させ、発火までの時間を計測し、下記基準により評価した。本評価項目については、A(良好)とB(許容)を合格の基準とした。
A(良好):150℃保持で45分以上発火しなかったもの。
B(許容):150℃保持で30分以上45分未満で発火したもの。
C(不可):150℃保持で30分未満で発火したもの、又は150℃に達する前に発火したもの。
【0100】
f.衝突試験
図2は、衝突試験の概略図である。
衝突試験では、試験台上に配置された試料の上に、試料と丸棒(φ=15.8mm)が概ね直交するように、丸棒を置いて、丸棒から61cmの高さの位置から、丸棒の上面へ18.2kgの錘を落すことにより、試料に対する衝撃の影響を観察する。
図2を参照して、実施例及び比較例における衝突試験の手順を以下に説明する。
25℃の環境下で、上記項目dで得た2次電池を1Cの定電流で充電し、4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電した。
次に、25℃の環境下で、2次電池を平坦な面に横向きに置き、2次電池の中央部を横切るように、直径15.8mmのステンレスの丸棒を配置した。丸棒は、その長軸がセパレータの長手方向と平行となるように配置した。2次電池の中央部に配置した丸棒から2次電池の縦軸方向に対して、直角に衝撃が加わるように、18.2kgの錘を61cmの高さから落下させた。衝突後、2次電池の表面温度を測定した。5セルずつ試験を行い、下記基準に即して評価した。本評価項目については、A(良好)とB(許容)を合格の基準とした。なお、2次電池の表面温度とは、2次電池の外装体の底側から1cmの位置を熱電対(K型シールタイプ)で測定した温度である。
A(良好):全てのセルにおいて、表面温度上昇が30℃以下。
B(許容):表面温度が30℃超過100℃以下のセルがあるが、全てのセルにおいて表面温度が100℃以下。
C(不可):1個以上のセルで表面温度が100℃を超過、又は発火。
【0101】
(12)搬送性
長さ1000mのフィルムを巻取機で巻き取り、巻取後の端面のずれを測定し、下記基準に即して評価した。本評価項目については、A(良好)とB(許容)を合格の基準とした。
A(良好):巻き取り時の端面のずれが1mm以下。
B(許容):巻き取り時の端面のずれが1mmより大きく5mm以下。
C(不可):巻き取り時の端面のずれが5mmより大きい。
【0102】
[実施例1〜23
(但し、実施例11、13、14、及び21〜23は参考例である。)、及び比較例1〜12]
表1〜4のいずれかに示されるポリエチレン合成用触媒(表中では「合成触媒」として表す)とエチレンモノマーを用いてポリエチレンを合成した。なお、表1〜4に示されるように各実施例では2種類のポリエチレンを混合して用いているため、片方のポリエチレン種をPE1、もう片方のPE種をPE2と記載し、PE1とPE2それぞれの合成触媒、粘度平均分子量、重量分率を表1〜4に示した。
【0103】
得られたポリエチレンと、可塑剤を配合して、ヘンシェルミキサーで攪拌して、樹脂組成物を調製した。表1〜4のいずれかに示される条件下で、樹脂組成物を押し出し、シート状に成形し、延伸し、塩化メチレンに浸漬して孔を形成し、熱固定して、ポリオレフィン多孔膜を得た。
【0104】
得られたポリオレフィン多孔膜を上記の評価方法に従って評価した。
実施例1〜23で得られた微多孔膜の物性及びそれらを2次電池に組み込んだときの評価結果を表1〜3に示す。
比較例1〜12で得られた多孔膜の物性及びそれらを2次電池に組み込んだときの評価結果を表4に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】