【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の構成によって上記課題を解決したセメントクリンカーとそのセメント組成物に関する。
〔1〕
クリンカー中のC3A量が10.5〜13.0質量%、全アルカリ量(R2O)が0.46〜0.55質量%、SO3量が1.8〜2.5質量%であって、全アルカリ量(R2O)に対するSO3量の比(SO3/R2O)が4.3〜5.5であることを特徴とするセメントクリンカー。
〔2〕
クリンカー中のC3S量が30〜70質量%、C2S量が5〜55質量%、C4AF量が7〜15質量%であり、C3A量/C4AF量が1.07〜1.27、および遊離石灰量が0.4以上である上記[1]に記載するセメントクリンカー。
〔3〕上記[1]または上記[2]の何れかに記載するセメントクリンカーの粉砕物および石膏粉末を含有するセメント組成物。
〔4〕上記[3]に記載するセメント組成物であって、石膏添加量がSO
3換算で1.2質量%以下において、該セメント組成物を用いて調製したモルタルの材齢28日の乾燥収縮率が、650×10
−6以下であるセメント組成物。
〔5〕上記[4]に記載するセメント組成物であって、セメント組成物に含まれるセメントクリンカーの不溶残分が0.08〜0.25質量%であり、セメント組成物におけるセメントクリンカーと石膏との粉砕物中の不溶残分が0.10質量%〜0.25質量%であるセメント組成物。
〔6〕上記[3]〜上記[5]の何れかに記載するセメント組成物であって、フライアッシュ、石灰石粉末、または高炉スラグ粉末を含有する混合セメントのセメント組成物。
【0012】
〔具体的な説明〕
以下、本発明を具体的に説明する。C
2S(2CaO・SiO
2)、C
3S(3CaO・SiO
2)、C
3A(3CaO・Al
2O
3)、C
4AF(4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3)はボーグ式による鉱物組成である。
【0013】
本発明のセメントクリンカーは、アルミネート相(C
3A)の含有量が10.5〜13.0質量%であり、
全アルカリ量(R2O)が0.46〜0.55質量%、SO3量が1.8〜2.5質量%であって、全アルカリ量(R2O)に対するSO3量の比(SO3/R2O)が4.3〜5.5であることを特徴とする普通ポルトランドセメントクリンカーである。なお、この全アルカリ量(R
2O)は、ナトリウム酸化物量とカリウム酸化物量の合計をNa
2Oに換算した量であり、R
2O=Na
2O+0.658K
2Oの式により示される。
【0014】
一般的な普通ポルトランドセメントクリンカーのアルミネート相(C
3A)含有量は9質量%程度であるが、本発明のセメントクリンカーは、アルミネート相(C
3A)含有量が10.5〜13.0質量%であり、一般的な普通ポルトランドセメントクリンカーよりかなり多い。本発明のセメントクリンカーにおいて、アルミネート相(C
3A)の含有量が10.5質量%より少ないとクリンカー原料に使用する廃棄物量を高める効果に乏しい。一方、アルミネート相(C
3A)の含有量が13.0質量%を上回ると、該クリンカーを用いたセメント組成物による硬化体の乾燥収縮率が大きくなり過ぎるので好ましくない。
【0015】
本発明のセメントクリンカーは、クリンカー中の全アルカリ量(R
2O)に対するSO
3量の比(SO
3/R
2O比)が
4.3〜5.5である。一般的な普通ポルトランドセメントクリンカーのSO
3/R
2O比は概ね2.5未満であり、本発明のセメントクリンカーは、上記SO
3/R
2O比を従来よりも高くすることによって、クリンカー中のアルミネート相(C
3A)量が10.5質量%以上でも、該クリンカーを用いたセメント硬化体の乾燥収縮率が増大し難くした
【0016】
上記SO
3/R
2O比が2.5未満ではセメント硬化体の乾燥収縮率の増大を抑制する効果が乏しい。上記SO
3/R
2O比は
4.3〜5.5が好ましい。なお、上記SO
3/R
2O比が5.5を上回ると、相対的にSO
3量が多くなり、クリンカーの被粉砕性が低下し、セメントの強度低下を招くので好ましくない。
【0017】
本発明のセメントクリンカーに含まれるSO
3量は1.0〜2.5質量%、全アルカリ量(R
2O)は
0.46〜0.55質量%が好ましい。SO
3量が1.0質量%より少なく、全アルカリ量(R
2O)が0.55質量%よりも多いと上記SO
3/R
2O比を
4.3〜5.5にすることが難しい。SO
3量が2.5質量%より多く、全アルカリ量(R
2O)が0.3質量%より少ないと上記SO
3/R
2O比が過剰に高くなるので好ましくない。
【0018】
本発明のセメントクリンカーにおいて、遊離石灰量は0.4質量%以上が好ましい。一般に、C
3A量およびSO
3量が増加すると、焼成クリンカー中の液相が増加して遊離石灰(f.CaO)が減少する。遊離石灰は乾燥収縮を抑制する効果があるので、クリンカー中の遊離石灰量を一定量以上に維持することが好ましい。具体的には、クリンカー中の遊離石灰量は0.4質量%以上が好ましく、0.4〜1.6質量%がより好ましい。クリンカーの焼成工程において、焼成温度を下げ、あるいは投入原料の粒度を粗くするなどによって、クリンカー中の遊離石灰量を高めることができる。
【0019】
本発明のセメントクリンカーは、C
3A量およびSO
3/R
2O比以外の基本的な鉱物組成は一般的なポルトランドセメントクリンカーの範囲であり、具体的には、例えば、C
3S量30〜70質量%、C
2S量5〜55質量%、C
4AF量7〜15質量%、SO
3量1.5〜2.3質量%であり、好ましくは、C
3S量40〜60質量%、C
2S量10〜30質量%、C
4AF量7〜15質量%である。
【0020】
本発明のセメントクリンカーにおいて、C
3A量/C
4AF量は1.07〜1.27の範囲が好ましい。C
3A量/C
4AF量が1.07未満ではC
3A量を10.5質量%以上にすることが難しく、一方、C
3A量/C
4AF量が1.27を超えるとC
3A量が過剰になるので好ましくない。
【0021】
本発明のセメント組成物は上記セメントクリンカーの粉砕物に石膏粉末を配合してなるものである。セメント組成物のクリンカー粉末含有量は90質量%以上であって、石膏の添加量はSO
3換算で1.2質量%以下が好ましい。本発明のセメント組成物はクリンカー粉末および石膏と共にフライアッシュ、石灰石粉末、または高炉スラグ粉末などの混合材料を含むことができる。これらの混合材料を含む場合にはクリンカー粉末含有量は85質量%以上が好ましい。
【0022】
本発明のセメント組成物に含まれる不溶残分は0.12〜0.25質量%が好ましい。セメント組成物の材料であるセメントクリンカー、石膏、混合材料に含まれる不溶残分は、アルカリと反応してアルカリシリカゲルなどを生成し、若干であるが初期の膨張に寄与し、同時期に生じる自己収縮を相殺する効果がある。不溶残分による収縮抑制効果は、上記混合材料のシリカ質微粉末などの不溶残分よりもクリンカーに残留した不溶残分の効果が顕著なので、クリンカー中に一定量以上の不溶残分が含まれていることが望ましい。具体的には、クリンカー中の不溶残分量は0.08質量%以上が好ましく、0.08〜0.25質量%がより好ましい。
【0023】
本発明のセメント組成物は、クリンカー粉末量90質量%以上および添加石膏量がSO3換算で1.2質量%以下において、オーストラリア規格AS2350.13に従って調製したモルタルの材齢28日の乾燥収縮率は
650×10−6以下である。
【0024】
本発明のセメント組成物に用いられるセメントクリンカーは、クリンカー中のC
3A含有量が一般的な普通ポルトランドセメントクリンカーより多く、10.5〜13.0質量%であり、該C
3A量に応じて、SO
3/R
2O比が
4.3〜5.5に調整されている。このC
3A量に対応したSO
3/R
2O比の調整によってセメント硬化体の乾燥収縮率の増大が抑制されている。
【0025】
一般に、セメントクリンカー中のC
3A量が多くなると、セメント硬化体の乾燥収縮率が大きくなり、例えば、クリンカー粉末量90質量%以上および石膏の添加量がSO
3換算で1.2質量%以下のセメント組成物において、SO
3/R
2O比が2.2程度のとき、オーストラリア規格AS2350.13に従って測定した材齢28日の乾燥収縮率は、クリンカー中のC
3A量が10.5〜11.0質量%の範囲で、概ね653×10
−6〜655×10
−6であり、クリンカー中のC
3A量が11〜12質量%の範囲で655×10
−6〜710×10
−6である(後述の比較例1〜4参照)。
【0026】
一方、本発明のセメント組成物は、
SO3/R2O比が4.3〜5.5に調整されていることによって、同様の試験条件において、クリンカー中のC
3A量が10.5質量%〜11.5質量%の範囲で、モルタルの乾燥収縮率は650×10
−6以下に抑制されている。