(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6756983
(24)【登録日】2020年9月1日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】撹拌スターラー及びガラス板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 5/187 20060101AFI20200907BHJP
【FI】
C03B5/187
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-249762(P2016-249762)
(22)【出願日】2016年12月22日
(65)【公開番号】特開2018-104212(P2018-104212A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年6月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】西村 康宏
(72)【発明者】
【氏名】玉村 周作
【審査官】
有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3206061(JP,U)
【文献】
国際公開第2015/128924(WO,A1)
【文献】
特表2010−513211(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第104526877(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第104827571(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/00−5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と、該軸の長手方向に沿って取り付けられた複数の撹拌翼とを備え、
前記軸の回転に伴って前記複数の撹拌翼を該軸周りで旋回させて撹拌槽内の溶融ガラスを撹拌するための撹拌スターラーであって、
前記撹拌翼における先端部が前記軸の長手方向に沿って延び、
前記軸周りの旋回時に、該軸の一端側の前記撹拌翼ほど、他端側の前記撹拌翼に対して、該軸周りでの位相が遅れるように前記複数の撹拌翼が取り付けられ、
隣り合う両撹拌翼を一組とした複数組のうち、少なくとも一組について、隣り合う両撹拌翼の相互間に介在部を介在させ、
前記先端部における前記軸の長手方向に沿った長さが、前記軸の径よりも長いことを特徴とする撹拌スターラー。
【請求項2】
前記複数組の全てについて、隣り合う両撹拌翼の相互間に前記介在部を介在させたことを特徴とする請求項1に記載の撹拌スターラー。
【請求項3】
前記介在部が、隣り合う両撹拌翼を連結する連結部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の撹拌スターラー。
【請求項4】
前記連結部が、隣り合う両撹拌翼の前記先端部同士を連結していることを特徴とする請求項3に記載の撹拌スターラー。
【請求項5】
前記連結部が、前記軸周りで相対的に位相が進む側の前記撹拌翼の前記先端部における一端と、相対的に位相が遅れる側の前記撹拌翼の前記先端部における他端とを連結していることを特徴とする請求項4に記載の撹拌スターラー。
【請求項6】
前記撹拌翼が貫通開口部を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の撹拌スターラー。
【請求項7】
前記貫通開口部が、前記撹拌翼の旋回方向に沿って該撹拌翼を貫通していることを特徴とする請求項6に記載の撹拌スターラー。
【請求項8】
前記撹拌翼が、前記軸を基準として対称に配置された一対の翼体を備え、
該一対の翼体のそれぞれが、前記貫通開口部および前記先端部を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の撹拌スターラー。
【請求項9】
軸と、該軸の長手方向に沿って取り付けられた複数の撹拌翼とを備え、
前記軸の回転に伴って前記複数の撹拌翼を該軸周りで旋回させて撹拌槽内の溶融ガラスを撹拌するための撹拌スターラーであって、
前記撹拌翼における先端部が前記軸の長手方向に沿って延び、
前記軸周りの旋回時に、該軸の一端側の前記撹拌翼ほど、他端側の前記撹拌翼に対して、該軸周りでの位相が遅れるように前記複数の撹拌翼が取り付けられ、
隣り合う両撹拌翼を一組とした複数組のうち、少なくとも一組について、隣り合う両撹拌翼の相互間に介在部を介在させ、
前記撹拌翼が貫通開口部を有することを特徴とする撹拌スターラー。
【請求項10】
前記貫通開口部が、前記撹拌翼の旋回方向に沿って該撹拌翼を貫通していることを特徴とする請求項9に記載の撹拌スターラー。
【請求項11】
前記撹拌翼が、前記軸を基準として対称に配置された一対の翼体を備え、
該一対の翼体のそれぞれが、前記貫通開口部および前記先端部を有することを特徴とする請求項9又は10に記載の撹拌スターラー。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の撹拌スターラーを用いてガラス板を製造することを特徴とするガラス板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撹拌槽内で溶融ガラスを撹拌するための撹拌スターラーと、当該撹拌スターラーを用いたガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガラス板の製造工程においては、ガラス板の元となる溶融ガラスを円筒状に形成された撹拌槽内で撹拌して均質化させる撹拌工程が実行される。撹拌工程の実行には、軸と、当該軸の回転に伴って軸周りを旋回する撹拌翼とを備えた撹拌スターラーが使用される。この撹拌スターラーにより、溶融ガラスは撹拌槽内を軸の長手方向に沿って流れながら撹拌されていく。
【0003】
ここで、特許文献1には、撹拌スターラーの具体的な構成の一例が開示されている。同文献に開示された撹拌スターラーは、軸と、当該軸周りで螺旋状に形成された撹拌翼とを備え、撹拌翼が当該翼を貫通した貫通開口部を有している。
【0004】
この撹拌スターラーでは、撹拌槽内での本来的な溶融ガラスの流れ(同文献では、上方から下方に向かう流れ)に加え、当該流れとは逆向きとなる撹拌翼で形成した溶融ガラスの流れ(同文献では、下方から上方に向かう流れであり、渦巻流と呼称される)を形成することで、撹拌槽内で溶融ガラスを循環させて撹拌を促進させている。また、溶融ガラスに貫通開口部を通過させることで、溶融ガラスにせん断力(撹拌翼の旋回方向に沿って作用するせん断力であり、以下において「せん断力」とは同方向に沿って作用するせん断力を意味する)を作用させて撹拌を促進させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−120630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の撹拌スターラーには、下記のとおり、溶融ガラスの撹拌性能が未だ十分でないという問題があった。
【0007】
すなわち、上記の撹拌スターラーによって溶融ガラスを撹拌する場合には、撹拌槽の内周壁付近において、撹拌翼から溶融ガラスに作用させ得るせん断力が極めて小さいという難点がある。そのため、溶融ガラスを循環させたり、溶融ガラスに貫通開口部を通過させたりしても、内周壁付近の溶融ガラスを十分に撹拌することが不可能であった。
【0008】
このような事情に鑑みなされた本発明は、撹拌スターラーを改良して溶融ガラスの撹拌性能の向上を図ることを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、軸と、軸の長手方向に沿って取り付けられた複数の撹拌翼とを備え、軸の回転に伴って複数の撹拌翼を軸周りで旋回させて撹拌槽内の溶融ガラスを撹拌するための撹拌スターラーであって、撹拌翼における先端部が軸の長手方向に沿って延び、軸周りの旋回時に、軸の一端側の撹拌翼ほど、他端側の撹拌翼に対して、軸周りでの位相が遅れるように複数の撹拌翼が取り付けられ、隣り合う両撹拌翼を一組とした複数組のうち、少なくとも一組について、隣り合う両撹拌翼の相互間に介在部を介在させたことに特徴付けられる。
【0010】
本発明に係る撹拌スターラーを、軸の一端側から他端側に向かって溶融ガラスが流れる撹拌槽に使用すれば、下記のような効果が得られる。すなわち、この撹拌スターラーでは、軸周りの旋回時に、軸の一端側の撹拌翼ほど、他端側の撹拌翼に対して、軸周りでの位相が遅れるように複数の撹拌翼が取り付けられている。そのため、これらの撹拌翼が軸周りを旋回するのに伴い、軸近傍において他端側から一端側に向かう溶融ガラスの流れを形成できる。そして、当該流れが、撹拌槽内での本来的な流れである軸の一端側から他端側に向かう溶融ガラスの流れと、撹拌翼が旋回することにより生じる円周方向の旋回流れと合わさることで、軸の半径方向に沿った流れが生じる。この半径方向に沿った流れにより、軸近傍の溶融ガラスと内周壁際の溶融ガラスとが置換される。それゆえ本発明に係るスターラーを使用すれば、溶融ガラスがせん断力を受ける機会が増すことから、溶融ガラスの撹拌を促進することができる。加えて、この撹拌スターラーでは、撹拌翼における先端部が軸の長手方向に沿って延びていることから、撹拌槽の内周壁付近において、撹拌翼から溶融ガラスにせん断力を好適に作用させることができる。これらのことから、撹拌槽内で溶融ガラスを循環させつつ、内周壁付近の溶融ガラスを効果的に撹拌することが可能となる。さらに、この撹拌スターラーでは、隣り合う両撹拌翼を一組とした複数組のうち、少なくとも一組について、隣り合う両撹拌翼の相互間に介在部を介在させている。そのため、介在部が溶融ガラスを撹拌する効果により、溶融ガラスの撹拌をより促進させることが可能となる。以上のように、本発明に係る撹拌スターラーによれば、溶融ガラスの撹拌性能を向上させることができる。
【0011】
なお、本発明に係る撹拌スターラーによれば、副次的に下記のような効果も得ることが可能である。つまり、この撹拌スターラーでは、溶融ガラスの撹拌性能が向上しているので、軸の回転数を減少させたとしても十分に溶融ガラスを撹拌することができる。これにより、回転数を減少させることで、白金や白金合金で構成される撹拌翼の表面から白金、或いは、白金合金が剥離する虞を低減させることが可能である。
【0012】
上記の構成において、複数組の全てについて、隣り合う両撹拌翼の相互間に介在部を介在させることが好ましい。
【0013】
このようにすれば、介在部が溶融ガラスを撹拌する効果をより高めることが可能となる。
【0014】
上記の構成において、介在部が、隣り合う両撹拌翼を連結する連結部であることが好ましい。
【0015】
このようにすれば、連結部により隣り合う両撹拌翼が連結されたことで、撹拌スターラー全体の強度を向上させることができる。これにより、強度が向上した分だけ、溶融ガラスを撹拌するにあたり、撹拌スターラーに備わった軸の回転数を増加させたとしても、撹拌スターラーの破損や変形を回避することが可能となる。
【0016】
上記の構成において、連結部が、隣り合う両撹拌翼の先端部同士を連結していることが好ましい。
【0017】
このようにすれば、連結部により撹拌槽の内周壁付近の溶融ガラスにせん断力を作用させることができるので、内周壁付近の溶融ガラスを更に効果的に撹拌することが可能となる。
【0018】
上記の構成において、連結部が、軸周りで相対的に位相が進む側の撹拌翼の先端部における一端と、相対的に位相が遅れる側の撹拌翼の先端部における他端とを連結していることが好ましい。
【0019】
このようにすれば、撹拌翼の先端部同士を可及的に短い連結部で連結できると共に、撹拌翼の先端部によるせん断力を受けずに撹拌翼をすり抜けようとする溶融ガラスに対し、せん断力を作用させることができる。
【0020】
上記の構成において、先端部における軸の長手方向に沿った長さが、軸の径よりも長いことが好ましい。
【0021】
このようにすれば、撹拌槽の内周壁付近の溶融ガラスにせん断力を作用させる上で、より有利となる。
【0022】
上記の構成において、撹拌翼が貫通開口部を有することが好ましい。
【0023】
このようにすれば、溶融ガラスが旋回中の撹拌翼の貫通開口部を通過することが可能となるため、撹拌槽内で溶融ガラスと撹拌翼とが同じ方向に旋回してしまい、撹拌翼から溶融ガラスにせん断力が作用し難くなるような虞を的確に排除できる。その上、貫通開口部の通過に伴って溶融ガラスにせん断力を作用させることも可能となり、溶融ガラスを撹拌する効果を更に高めることができる。また、撹拌翼が軸周りを旋回する際に溶融ガラスから受ける抵抗を抑制することが可能となるので、撹拌翼の破損や変形等を回避するために必要な撹拌翼の強度を低くできる。これに伴って、撹拌翼の軽量化を図ることが可能となり、軸を回転させるため(撹拌翼を旋回させるため)に要するトルクを小さくできる。
【0024】
上記の構成において、貫通開口部が、撹拌翼の旋回方向に沿って撹拌翼を貫通していることが好ましい。
【0025】
このようにすれば、溶融ガラスが貫通開口部を通過しやすくなることから、撹拌翼が溶融ガラスから受ける抵抗を更に抑制することが可能となる。従って、撹拌翼に必要な強度をより低くでき、撹拌翼の更なる軽量化を図ることが可能となるので、軸を回転させるために要するトルクをより小さくできる。
【0026】
上記の構成において、撹拌翼が、軸を基準として対称に配置された一対の翼体を備え、一対の翼体のそれぞれが、貫通開口部および先端部を有することが好ましい。
【0027】
このようにすれば、一対の翼体が軸を基準として対称に配置されているので、撹拌スターラー全体の重心を軸上に位置させることができる。これにより、回転中の軸に偏心が生じる等の不具合が発生し、撹拌翼の先端部と撹拌槽の内周壁とが衝突するような虞を的確に排除することが可能となる。
【0028】
また、上記の撹拌スターラーを用いてガラス板を製造するガラス板の製造方法によれば、液晶ディスプレイ基板等に使用可能な高品質なガラス板を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る撹拌スターラーによれば、溶融ガラスの撹拌性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る撹拌スターラーが組み込まれたガラス板の製造装置の概略を示す図である。
【
図2】ガラス板の製造装置における撹拌槽を示す断面図である。
【
図3】本発明の第一実施形態に係る撹拌スターラーを示す斜視図である。
【
図4】(a)は、本発明の第二実施形態に係る撹拌スターラーを示す正面図である。(b)は、本発明の第二実施形態に係る撹拌スターラーを示す斜視図である。
【
図5】(a)は、本発明の第三実施形態に係る撹拌スターラーを示す正面図である。(b)は、本発明の第三実施形態に係る撹拌スターラーを示す斜視図である。
【
図6】(a)は、本発明の第四実施形態に係る撹拌スターラーを示す正面図である。(b)は、本発明の第四実施形態に係る撹拌スターラーを示す斜視図である。
【
図7】(a)は、本発明の第五実施形態に係る撹拌スターラーを示す正面図である。(b)は、本発明の第五実施形態に係る撹拌スターラーを示す斜視図である。
【
図8】(a)は、本発明の第六実施形態に係る撹拌スターラーを示す正面図である。(b)は、本発明の第六実施形態に係る撹拌スターラーを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態に係る撹拌スターラーについて、添付の図面を参照しながら説明する。なお、以下に挙げる各実施形態では、上方から下方に向かって溶融ガラスが流れる撹拌槽で使用される撹拌スターラーを例示して説明する。
【0032】
<第一実施形態>
本発明の第一実施形態に係る撹拌スターラーは、ガラス板の製造装置に組み込まれている。はじめに、ガラス板の製造装置、及び、当該製造装置を用いたガラス板の製造方法の概略について説明する。
【0033】
図1に示すように、ガラス板の製造装置1は、上流端に配置された溶融窯2及びその下流側に連なった清澄室3から、下流端に配置された成形装置4に溶融ガラスを供給する供給経路5を備えている。
【0034】
供給経路5は、清澄室3から流出した溶融ガラスを撹拌する撹拌槽6と、その下流側に連なり、主として溶融ガラスの粘度調整を行うポット7とを備え、更にポット7の下流側には、小径管8、及び、成形装置4と連結された大径管9を備えている。清澄室3と撹拌槽6、及び、撹拌槽6とポット7は、それぞれ溶融ガラスを流通させる流通管10および流通管11により接続されている。なお、本実施形態では、単一の撹拌槽6が配置されているが、複数が配置される場合もある。
【0035】
成形装置4は、溶融ガラスからガラス板(ガラスリボン)を連続的に成形する装置であり、例えば、オーバーフローダウンドロー法を実行する成形装置、スロットダウンドロー法を実行する成形装置等が例示される。なかでも表面品位がよく、無研磨でガラスを使用可能なオーバーフローダウンドロー法を実行する成形装置を採用することが好ましい。なお、成形装置4は、ガラス板以外のガラス製品を成形する装置であってもよく、一例として、ダンナー法によって溶融ガラスからガラス管、或いは、ガラス棒を連続的に成形する装置であってもよい。この場合には、ガラス板の製造装置1において、ポット7よりも下流側の構成が図示した構成とは相違することになるが、この場合の構成は既に公知となっているので説明は省略する。
【0036】
上記の製造装置1を用いてガラス板を製造するにあたっては、まずガラス原料を溶融窯2に投入して溶融ガラスとする。次いで溶融ガラスを清澄室3で清澄し、続いて撹拌槽6内で、後述する撹拌スターラー12により溶融ガラスを撹拌する。その後、溶融ガラスを、ポット7、小径管8、大径管9を経て成形装置4に供給し、溶融ガラスからガラス板を連続的に成形する。このようにしてガラス板を製造する。
【0037】
次に、供給経路5に備わった撹拌槽6、及び、撹拌槽6内の溶融ガラスを撹拌する撹拌スターラー12の詳細について説明する。
【0038】
図2に示すように、撹拌槽6は、円筒中心線が上下方向に延びた円筒状に形成されると共に、その内周壁6aの表面は、白金又は白金合金で構成されている。この撹拌槽6内に撹拌スターラー12が配置されている。撹拌槽6の上部には、同図に白抜き矢印で示すように溶融ガラスを撹拌槽6内に流入させる流入口6bが形成されている。一方、撹拌槽6の下部には、同図に白抜き矢印で示すように撹拌スターラー12で撹拌された溶融ガラスを撹拌槽6外に流出させる流出口6cが形成されている。
【0039】
図2及び
図3に示すように、撹拌スターラー12は、軸13と、軸13の長手方向(上下方向)に沿って取り付けられた複数の撹拌翼14とを備えている。軸13及び各撹拌翼14の表面は、白金又は白金合金で構成されている。この撹拌スターラー12は、軸13の回転に伴って複数の撹拌翼14を軸13周りで旋回させて撹拌槽6内の溶融ガラスを撹拌する構成となっている。なお、本実施形態では、軸13に対して五枚の撹拌翼14が取り付けられる形態となっているが、撹拌翼14の枚数は適宜増減させてよい。
【0040】
軸13は、上下方向に延びた丸棒として形成されると共に、その上端部が図示省略の駆動源(例えば、モーター)と接続されている。この駆動源の稼働に伴って、軸13が
図2及び
図3に矢印Rで示す方向に回転する。なお、軸13の下端部は、上端部とは異なり自由端となっている。
【0041】
複数の撹拌翼14は、軸13の長手方向に沿って等間隔で取り付けられている。また、軸13周りの旋回時に、軸13の上端側の撹拌翼14ほど、下端側の撹拌翼14に対して、軸13周りでの位相が遅れるように取り付けられている。詳述すると、上下で隣り合う両撹拌翼14,14の間で、相対的に上方側の撹拌翼14は、相対的に下方側の撹拌翼14に対して、角度θの分だけ軸13周りでの位相が遅れるようになっている。なお、最も位相が進む最下段の撹拌翼14から最も位相が遅れる最上段の撹拌翼14まで、同じ角度θの分ずつ順次に位相が遅れていく。
【0042】
上記の位相の関係により、複数の撹拌翼14が軸13周りを旋回するのに伴い、軸13近傍で下方から上方に向かう溶融ガラスの上昇流れが形成される。そして、当該上昇流れが、撹拌槽6内での本来的な流れである上方から下方に向かう溶融ガラスの下降流れと、撹拌翼14の旋回に伴って生じる円周方向の旋回流れと合わさることで、軸13の半径方向に沿った流れが生じる。これにより、
図2に黒矢印で示すように、軸13近傍の溶融ガラスと内周壁6a際の溶融ガラスとが置換される。
【0043】
ここで、溶融ガラスの上昇流れを好適に形成するため、上記の角度θの値は、10°〜80°の範囲内とすることが好ましい。なお、本実施形態では、角度θの値を45°としている。
【0044】
複数の撹拌翼14の各々は、軸13を基準として対称(軸13の中心軸線を基準として軸対称)に配置された一対の翼体14aを備えている。一対の翼体14aの各々は、縦置き姿勢とされた矩形の板状体に二つの貫通開口部14aaが形成されてなる。各貫通開口部14aaは、相互に同一な矩形に形成されると共に、翼体14aの旋回方向(本実施形態では、翼体14aの厚み方向に等しい)に沿って翼体14aを貫通している。各翼体14aの先端部14abは、軸13の長手方向に沿って延びている。先端部14abにおける軸13の長手方向に沿った長さLは、軸13の径Dよりも長くなっている。なお、撹拌槽6の内周壁6aと各翼体14aの先端部14abとの間には、隙間が形成される。
【0045】
上記の先端部14abおよび貫通開口部14aaの形態により、複数の撹拌翼14が軸13周りを旋回するのに伴い、撹拌槽6の内周壁6a付近において、各翼体14aの先端部14abにより溶融ガラスにせん断力を作用させる。また、旋回中の翼体14aの貫通開口部14aaを溶融ガラスに通過させることで、撹拌槽6内で溶融ガラスと翼体14aとが同じ方向に旋回することを回避しつつ、貫通開口部14aaの通過に伴って溶融ガラスにせん断力を作用させる。
【0046】
ここで、貫通開口部14aaを溶融ガラスに通過させやすくするため、各翼体14aにおける貫通開口部14aaの開口率は、30%以上とすることが好ましい。ここで、「開口率」とは、翼体14aの元となる矩形の板状体(貫通開口部14aaが未形成の状態の板状体)の面積に対し、貫通開口部14aaの開口面積が占める割合を意味する。また、翼体14aの先端部14abにより溶融ガラスに対して好適にせん断力を作用させるため、上下で隣り合う両撹拌翼14,14の軸13の長手方向に沿った相互間の間隔Sを基準として、先端部14abの長さLが50%〜150%の長さを有することが好ましい。
【0047】
上下で隣り合う両撹拌翼14,14について、これらが備える翼体14aの先端部14ab同士は、当該先端部14ab同士の相互間に介在した連結部15(介在部)により連結されている。この連結部15は、一直線に延びた角棒として形成されると共に、相対的に下方側(位相が進む側)の翼体14aの背面A1と、相対的に上方側(位相が遅れる側)の翼体14aの正面A2とを結ぶように架け渡されている。また、連結部15は、相対的に下方側の翼体14aにおける先端部14abの上端14abaと、相対的に上方側の翼体14aにおける先端部14abの下端14abbとを連結している。
【0048】
連結部15は、一対の翼体14aの一方側と他方側との各々について設けられている。そして、一方側の連結部15と他方側の連結部15とは、軸13を基準として対称(軸13の長手方向に沿う方向から視て、軸13の中心軸線を基準として軸対称)に配置されている。このような連結部15の配置に加えて、上記のように、一対の翼体14aが軸13を基準として対称に配置されていることから、本実施形態に係る撹拌スターラー12においては、その全体の重心が軸13上に位置している。
【0049】
上記の連結部15の形態により、複数の撹拌翼14が軸13周りを旋回するのに伴い、連結部15が溶融ガラスを撹拌する。
【0050】
ここで、連結部15は、翼体14aの先端部14ab同士を連結する連結部15に加えて、先端部14ab以外の箇所同士を連結する連結部15を別途に設けてもよい。また、先端部14ab同士を連結する連結部15を設けることなく、先端部14ab以外の箇所同士を連結する連結部15のみを設けてもよい。さらに、連結部15は、角棒ではなく丸棒として形成されていてもよい。
【0051】
また、翼体14aの先端部14ab同士は、撹拌スターラー12の強度の観点から連結されていることが好ましいが、必ずしもこの限りではなく、連結されていない形態としてもよい。例えば、連結部15の代わりに、先端部14ab同士を連結することなく単に先端部14ab同士の相互間に介在する部材(介在部)を設ける形態としてもよい。一例としては、本実施形態における連結部15をその中間地点で分断し、分断後の両部位の間に隙間が存在する形態としてもよい。
【0052】
次に、上記の撹拌スターラー12による主たる作用・効果について説明する。
【0053】
この撹拌スターラー12によれば、撹拌翼14(翼体14a)の先端部14abにより撹拌槽6の内周壁6a付近の溶融ガラスを効果的に撹拌することが可能となる。また、連結部15が溶融ガラスを撹拌する効果を得られることから、溶融ガラスの撹拌をより促進させることができる。その結果、溶融ガラスの撹拌性能を向上させることが可能となる。
【0054】
以下、本発明の他の実施形態に係る撹拌スターラーについて、添付の図面を参照しながら説明する。なお、他の実施形態の説明において、上記の第一実施形態で既に説明済みの要素については、他の実施形態についての説明文、又は、他の実施形態の説明で参照する図面に同一の符号を付すことで重複する説明を省略する。
【0055】
<第二実施形態〜第四実施形態>
図4〜
図6は、それぞれ本発明の第二〜第四実施形態に係る撹拌スターラー12を示している。これら各実施形態に係る撹拌スターラー12が、上記の第一実施形態に係る撹拌スターラー12と相違している点は、翼体14aに形成された貫通開口部14aaの数や形状が異なる点である。
【0056】
図4に示すように、第二実施形態に係る撹拌スターラー12では、翼体14aの一枚あたりに単一の貫通開口部14aaが形成されている。
図5に示すように、第三実施形態に係る撹拌スターラー12では、翼体14aの一枚あたりに形成された貫通開口部14aaの数が四つとなっている。四つの貫通開口部14aaは、相互に同一な形状に形成されている。
図6に示すように、第四実施形態に係る撹拌スターラー12では、翼体14aの一枚あたりに単一の貫通開口部14aaが形成されると共に、貫通開口部14aaが矩形ではなく楕円形に形成されている。
【0057】
<第五実施形態>
図7は、本発明の第五実施形態に係る撹拌スターラー12を示している。第五実施形態に係る撹拌スターラー12が、上記の第一実施形態に係る撹拌スターラー12と相違している点は、翼体14aに貫通開口部14aaが形成されておらず、翼体14aが単に矩形の板状体で構成されている点である。
【0058】
<第六実施形態>
図8は、本発明の第六実施形態に係る撹拌スターラー12を示している。第六実施形態に係る撹拌スターラー12が、上記の第一実施形態に係る撹拌スターラー12と相違している点は、翼体14aの先端部14ab同士を連結する連結部15の形状が異なる点である。本実施形態に係る撹拌スターラー12では、連結部15が湾曲するように形成されており、連結部15は、軸13の長手方向に沿う方向から視て、軸13を中心とする円弧状に形成されている。
【0059】
ここで、本発明に係る撹拌スターラーは、上記の各実施形態で説明した構成に限定されるものではない。例えば、上記の各実施形態に係る撹拌スターラーは、上方から下方に向かって溶融ガラスが流れる撹拌槽で使用される形態となっている。しかしながら、本発明に係る撹拌スターラーは、下方から上方に向かって溶融ガラスが流れる撹拌槽での使用にも適用が可能である。この場合、複数の撹拌翼は、軸周りの旋回時に、軸の下端側の撹拌翼ほど、上端側の撹拌翼に対して、軸周りでの位相が遅れるように軸に取り付けられる。
【0060】
また、上記の各実施形態に係る撹拌スターラーでは、各撹拌翼において、軸を挟んで一方側と他方側との各々に翼体が配置されているが、この限りではなく、一方側のみに翼体が配置されていてもよい。一方で、各撹拌翼が三枚以上の翼体を備える形態としてもよい。この場合においては、複数枚の翼体が軸周りで均等に配置されていることが好ましい。例えば、各撹拌翼が三枚の翼体を備えている場合には、軸周りで120°おきに翼体が配置されていることが好ましい。
【0061】
また、上記の第五実施形態に係る撹拌スターラーを除き、他の全ての実施形態に係る撹拌スターラーにおいては、撹拌翼に備わった翼体が、縦置き姿勢とされた矩形の板状体に貫通開口部が形成されてなる構成とされているが、これに限定されるものではない。例えば、上記の第一〜第三、及び、第六実施形態に係る撹拌スターラーでは、複数の角棒、或いは、丸棒等の棒体を縦横に連結して矩形の枠体を作製し、当該枠体を翼体として採用しても構わない。
【0062】
また、上記の各実施形態に係る撹拌スターラーでは、全ての撹拌翼(翼体)が相互に同一の数及び形状の貫通開口部を有しているが、少なくとも一つの撹拌翼の貫通開口部の数や形状が、その他の撹拌翼と異なるものであっても構わない。
【0063】
また、上記の各実施形態に係る撹拌スターラーに代えて、撹拌槽内での回転(旋回)方向が逆向きとなる撹拌スターラーを採用してもよい。なお、このような撹拌スターラーを採用する場合においても、相対的に上方側の撹拌翼は、相対的に下方側の撹拌翼に対して、軸周りでの位相が遅れるようにする必要がある。そのため、上記の各実施形態から各撹拌翼(各翼体)の配置を変更し、各実施形態とは位相の遅れが逆向きに生じるようにする。
【0064】
また、上記の各実施形態に係る撹拌スターラーでは、複数枚の撹拌翼について、最も位相が進む撹拌翼から最も位相が遅れる撹拌翼まで、同じ分ずつ順次に位相が遅れていく形態となっているが、この限りではない。位相の遅れの量にバラつきがある形態としても構わない。
【符号の説明】
【0065】
6 撹拌槽
12 撹拌スターラー
13 軸
14 撹拌翼
14a 翼体
14aa 貫通開口部
14ab 先端部
14aba 上端
14abb 下端
15 連結部(介在部)
D 径
L 長さ
θ 角度