特許第6757025号(P6757025)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エコマス株式会社の特許一覧 ▶ 日進工業株式会社の特許一覧 ▶ 山口県の特許一覧

特許6757025潅水施肥システムとそれを用いた柑橘類の栽培方法
<>
  • 特許6757025-潅水施肥システムとそれを用いた柑橘類の栽培方法 図000005
  • 特許6757025-潅水施肥システムとそれを用いた柑橘類の栽培方法 図000006
  • 特許6757025-潅水施肥システムとそれを用いた柑橘類の栽培方法 図000007
  • 特許6757025-潅水施肥システムとそれを用いた柑橘類の栽培方法 図000008
  • 特許6757025-潅水施肥システムとそれを用いた柑橘類の栽培方法 図000009
  • 特許6757025-潅水施肥システムとそれを用いた柑橘類の栽培方法 図000010
  • 特許6757025-潅水施肥システムとそれを用いた柑橘類の栽培方法 図000011
  • 特許6757025-潅水施肥システムとそれを用いた柑橘類の栽培方法 図000012
  • 特許6757025-潅水施肥システムとそれを用いた柑橘類の栽培方法 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6757025
(24)【登録日】2020年9月1日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】潅水施肥システムとそれを用いた柑橘類の栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 27/00 20060101AFI20200907BHJP
   A01G 25/02 20060101ALI20200907BHJP
   A01G 17/00 20060101ALI20200907BHJP
   A01C 15/00 20060101ALI20200907BHJP
   A01C 23/00 20060101ALI20200907BHJP
   A01C 23/04 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   A01G27/00
   A01G25/02 602A
   A01G25/02 605
   A01G17/00
   A01C15/00 A
   A01C23/00 K
   A01C23/04 B
   A01C23/04 C
   A01C23/04 D
   A01C23/04 E
   A01C23/04 F
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-8806(P2020-8806)
(22)【出願日】2020年1月23日
【審査請求日】2020年1月23日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505351681
【氏名又は名称】エコマス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593036888
【氏名又は名称】日進工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391016082
【氏名又は名称】山口県
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】安藤 竜馬
(72)【発明者】
【氏名】弘中 美光
(72)【発明者】
【氏名】中光 眞史
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 芳夫
(72)【発明者】
【氏名】中島 勘太
【審査官】 大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−281842(JP,A)
【文献】 特開2018−014902(JP,A)
【文献】 特開2013−051887(JP,A)
【文献】 特開2017−217013(JP,A)
【文献】 特開2014−57569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 25/00−25/16
A01G 27/00−27/06
A01G 31/00−31/06
A01C 23/00−23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水源に接続された第1の導水管と、
この第1の導水管の末端に接続された状態で第1の園地に設置された第1の点滴チューブと、
前記第1の導水管に設置された第1の電磁弁と、
この第1の電磁弁の下流において前記第1の導水管に液肥供給管を介して接続された液肥タンクと、
前記第1の電磁弁の動作を制御するメインコントローラと、
このメインコントローラに対して通信可能にそれぞれ接続される入力装置及び記憶装置と、を備え、
前記メインコントローラは、
前記入力装置及び前記記憶装置に対して通信を行うための第1の通信部と、
前記入力装置から入力された情報や前記記憶装置から読み出した情報に基づいて演算を行う演算部と、
前記第1の電磁弁を開閉する第1の制御部と、を備え、
前記記憶装置には、
第1の単位期間当たりの推奨潅水量が果樹の品種及び潅水の実施期間と関連付けられた状態で格納されるとともに、
園地情報として前記入力装置から入力された前記「果樹の品種」が「園地の名称」と関連付けられた状態で格納されており、
前記演算部は、
前記入力装置からチューブ情報として入力された前記第1の点滴チューブの全長及び単位長さ・時間当たりの最大吐出量に基づいて単位時間当たりの第1の潅水量を算出するとともに、
前記入力装置から入力された前記第1の園地における前記果樹の品種」に対応するものとして前記記憶装置から読み出された前記第1の園地に対応する前記第1の単位期間当たりの推奨潅水量を前記「単位時間当たりの第1の潅水量」で割って第1の潅水時間を前記「潅水の実施期間」ごとに算出し、
前記第1の制御部は、
前記第1の潅水時間に従って、前記第1の電磁弁を開閉することを特徴とする潅水施肥システム。
【請求項2】
前記記憶装置には、
第2の単位期間当たりの推奨潅水量が前記果樹の品種及び前記潅水の実施期間と関連付けられた状態で格納されており、
前記演算部は
前記入力装置から入力された前記第1の園地における前記「果樹の品種」に対応するものとして前記記憶装置から読み出された前記第1の園地に対応する前記第2の単位期間当たりの推奨潅水量を、前記「単位時間当たりの第1の潅水量」と前記第1の潅水時間の積で割って前記第1の園地における第1の潅水回数を前記「潅水の実施期間」ごとに算出し、
前記第1の制御部は、
前記演算部によって算出された前記第1の園地における前記第1の潅水回数に従って、前記第1の電磁弁を開閉することを特徴とする請求項1に記載の潅水施肥システム。
【請求項3】
前記第1の導水管の途中から分岐する第2の導水管と、
この第2の導水管の末端に接続された状態で第2の園地に設置された第2の点滴チューブと、
前記第2の導水管に設置された第2の電磁弁と、
この第2の電磁弁の動作を制御するサブコントローラと、を備え、
前記サブコントローラは、
前記第1の通信部と通信を行うための第2の通信部と、
前記第1の制御部から送られてくる稼働開始信号に従って前記第2の電磁弁を開閉する第2の制御部と、を備え、
前記メインコントローラの前記演算部は、
前記入力装置から前記チューブ情報として入力された前記第2の点滴チューブの全長及び単位長さ・時間当たりの最大吐出量に基づいて前記第2の園地における単位時間当たりの第2の潅水量を算出するとともに、
前記入力装置から入力された前記第2の園地における前記果樹の品種」に対応するものとして前記記憶装置から読み出された前記第2の園地に対応する前記第1の単位期間当たりの推奨潅水量を前記「単位時間当たりの第2の潅水量」で割って第2の潅水時間を前記「潅水の実施期間」ごとに算出し、
前記第1の制御部は、
前記第2の潅水時間に従って、前記第2の制御部に前記第2の電磁弁を開閉させることを特徴とする請求項2に記載の水施肥システム。
【請求項4】
前記演算部は
前記入力装置から入力された前記第2の園地における前記「果樹の品種」に対応するものとして前記記憶装置から読み出された前記第2の園地に対応する前記第2の単位期間当たりの推奨潅水量を前記「単位時間当たりの第2の潅水量」と前記第2の潅水時間の積で割って前記第2の園地における第2の潅水回数を前記「潅水の実施期間」ごとに算出し、
前記第1の制御部は、
前記第2の潅水回数に従って、前記第2の制御部に前記第2の電磁弁を開閉させることを特徴とする請求項3に記載の潅水施肥システム。
【請求項5】
前記液肥供給管に設置されて前記メインコントローラによって動作を制御される定量ポンプを備え、
前記記憶装置には、
第3の単位期間当たりの推奨液肥量が前記果樹の品種液肥の種類及び施肥の実施期間と関連付けられた状態で格納されるとともに、
前記園地情報として前記入力装置から入力された前記「液肥の種類」が前記「園地の名称」と関連付けられた状態で格納されており、
前記演算部は、
前記入力装置から入力された前記第1の園地における前記液肥の種類」に対応するものとして前記記憶装置から読み出された前記第1の園地における前記第3の単位期間当たりの推奨液肥量に基づいて液肥濃度を前記「施肥の実施期間」ごとに算出し、
前記第1の制御部は、
前記演算部によって算出された前記液肥濃度に従って、前記定量ポンプの回転数を制御することで液肥の吐出量を調節することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の潅水施肥システム。
【請求項6】
請求項1に記載された水施肥システムを用いた柑橘類の栽培方法であって、
前記水施肥システムの前記演算部によって前記柑橘類の種類ごとに前記第1の潅水時間を算出する工程と、
前記演算部で算出された前記第1の潅水時間に基づいて前記柑橘類に対して潅水を行う工程と、
を備えたことを特徴とする柑橘類の栽培方法。
【請求項7】
請求項5に記載された潅水施肥システムを用いた柑橘類の栽培方法であって、
前記水施肥システムの前記演算部によって前記柑橘類の種類及び前記柑橘類に供給される前記「液肥の種類ごとに液肥濃度を算出する工程と、
前記演算部で算出された前記液肥濃度に基づいて前記柑橘類に対して施肥を行うことを特徴とする柑橘類の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点滴チューブを用いて作物に潅水と施肥を行う潅水施肥システムに係り、特に、品種に応じて計画的に適切な潅水と施肥を行うことが可能な潅水施肥システムとそれを用いた柑橘類の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
柑橘類の栽培では、果樹に供給する水分を制限することによって果実の糖度が上がることが知られている。しかしながら、地中に含まれる水分量は日射や降雨の影響を受け易いため、広大な園地で栽培される多数の果樹に対して供給される水分の量を適切に管理することは容易でない。そのため、近年では、マルドリ方式と呼ばれる潅水施肥システムの導入が進められている。
マルドリ方式とは、園地に敷設された不織布等からなるシート(マルチシート)の下に点滴チューブを設置し、この点滴チューブを用いて潅水や施肥を行うものである。なお、点滴チューブとは、側面に複数の小孔が所定の割合で設けられたポリエチレン製の筒体からなり、この点滴チューブが接続される配管には、潅水作業や施肥作業が自動的に行われるように、通常、手動で潅水時間を設定する電磁弁が設置されている。そして、このような構成によって、多数の果樹に対して適切な量の肥料や水分を計画的に供給することを可能にしている。
【0003】
点滴チューブを用いて潅水や施肥を行う技術については、既に幾つかの発明や考案が開示されている。例えば、特許文献1には、「養液土耕システム及び養液土耕制御サーバ」という名称で、肥料を適切な量の水で薄めて作った培養液を、土壌で栽培する作物に対して潅水チューブを用いて与えるシステムとそれに用いられるサーバに関する発明が開示されている。
【0004】
特許文献1に開示された養液土耕システムは、水供給弁から吐出される水と、培養原液供給弁から吐出される培養原液が混合された培養液を作物が植栽される土壌に供給する吐出弁と、この吐出弁に接続されて土壌に培養液を供給する潅水チューブと、水供給弁及び培養原液供給弁並びに吐出弁の開閉を制御するコントローラと、潅水チューブの単位長さ辺りの培養液供給能力と潅水チューブの長さに基づいて算出した培養液の供給量に基づいて吐出弁を開閉制御するための情報をコントローラに提供する制御データ作成部を備えたことを特徴としている。
このような構成によれば、単一の設備で複数種類の作物や作付時期をずらした作物を栽培することが可能である。
【0005】
また、特許文献2には、「潅水監視装置」という名称で、潅水チューブによる植物への潅水状況を監視する装置に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された発明は、潅水チューブに供給される水又は液肥の流量を検出する流量センサーと、この流量センサーから出力された流量信号が潅水正常時における所定流量に対して所定の割合以上に変動したときを異常として検出する異常判定手段と、この異常判定手段によって検出された異常を所定の通報先へ通報する通報手段を備えたことを特徴としている。
このような構成によれば、潅水チューブの一部の潅水孔が塞がってしまうことにより流量が所定の割合以上に減少したり、潅水チューブに小さな破れや亀裂が生じて水漏れすることにより流量が所定の割合以上に増加したりする異常を検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017−217013号公報
【特許文献2】特開2013−215115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された発明では、センサによって土壌水分量や土壌ECを検出し、その結果に基づいて作物に供給する水の量や肥料の濃度が調節される構成となっているものの、供給する水の量や肥料の濃度が作物の品種に従って調節される構成となっていないため、例えば、園地ごとに品種の異なる果樹を栽培するような場合には、各園地に対して適切な潅水や施肥を行うことができないという課題があった。
【0008】
また、特許文献2に開示された発明は、潅水チューブの不具合を早期に発見できるという効果を有するものの、作物に供給する水の量や肥料の濃度を適正化することを目的とするものではないため、園地ごとに品種の異なる果樹が栽培されている場合に、果樹の品種に応じて各園地に供給する水の量や肥料の濃度を調節することができないという課題があった。
【0009】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、園地ごとに品種の異なる果樹が栽培されている場合でも、各園地に対して果樹の品種に応じた適切な潅水と施肥を行うことが可能な潅水施肥システムとそれを用いた柑橘類の栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、潅水施肥システムに係る第1の発明は、水源に接続された第1の導水管と、この第1の導水管の末端に接続された状態で第1の園地に設置された第1の点滴チューブと、第1の導水管に設置された第1の電磁弁と、この第1の電磁弁の下流において第1の導水管に液肥供給管を介して接続された液肥タンクと、第1の電磁弁の動作を制御するメインコントローラと、このメインコントローラに対して通信可能にそれぞれ接続される入力装置及び記憶装置と、を備え、メインコントローラは、入力装置及び記憶装置に対して通信を行うための第1の通信部と、入力装置から入力された情報や記憶装置から読み出した情報に基づいて演算を行う演算部と、第1の電磁弁を開閉する第1の制御部と、を備え、記憶装置には、第1の単位期間当たりの推奨潅水量が果樹の品種及び潅水の実施期間と関連付けられた状態で格納されており、演算部は、入力装置からチューブ情報として入力された第1の点滴チューブの全長及び単位長さ当たりの最大吐出量に基づいて単位時間当たりの第1の潅水量を算出するとともに、入力装置から園地情報として入力された第1の園地における果樹の品種と園地情報に従って記憶装置から読み出された第1の園地に対応する第1の単位期間当たりの推奨潅水量に基づいて第1の潅水時間を算出し、第1の制御部は、第1の潅水時間に従って、第1の電磁弁を開閉することを特徴とするものである。
【0011】
このような構成の水施肥システムによれば、メインコントローラの演算部において、第1の点滴チューブの単位長さ当たりの最大吐出量と第1の点滴チューブの全長の積として単位時間当たりの第1の潅水量が算出され、第1の単位期間当たりの推奨水量を単位時間当たりの第1の潅水量で割った値(商)として第1の潅水時間が算出される。このとき、第1の単位期間当たりの推奨潅水量は果樹の品種と潅水の実施期間によって予め定められた値であることから、演算部によって算出された上記第1の水時間は、第1の園地で栽培されている果樹の品種と潅水の実施期間に対応するものである。
そして、第1の電磁弁は上記第1の水時間に従って開閉されるため、第1の発明においては、第1の園地に対し、果樹の品種と潅水の実施期間に対応した量の水が第1の単位期間ごとに正確に供給されるという作用を有する。
【0012】
また、第2の発明は、第1の発明において、記憶装置には、第2の単位期間当たりの推奨潅水量が果樹の品種及び潅水の実施期間と関連付けられた状態で格納されており、演算部は、第1の水時間と、園地情報に従って記憶装置から読み出された第1の園地に対応する第2の単位期間当たりの推奨潅水量に基づいて第1の園地における第1の潅水回数を算出し、第1の制御部は、演算部によって算出された第1の園地における第1の潅水回数に従って、第1の電磁弁を開閉することを特徴とするものである。
【0013】
このような構成の水施肥システムによれば、メインコントローラの演算部において、第1の園地に対応する第2の単位期間当たりの推奨潅水量を第1の園地に対応する第1の単位期間当たりの推奨潅水量で割った値(商)として第1の潅水回数が算出される。このとき、上述の第1の単位期間当たりの推奨潅水量及び第2の単位期間当たりの推奨潅水量は果樹の品種と潅水の実施期間によって予め定められた値であることから、演算部によって算出された上記第1の水回数は、第1の園地で栽培されている果樹の品種と潅水の実施期間に対応している。
したがって、上記第1の潅水回数に従って第1の電磁弁を開閉させるように構成された第2の発明においては、第1の発明の作用に加え、第1の園地に対し、果樹の品種に対応した量の水が第2の単位期間ごとに正確に供給されるという作用を有する。
【0014】
第3の発明は、第2の発明において、第1の導水管の途中から分岐する第2の導水管と、この第2の導水管の末端に接続された状態で第2の園地に設置された第2の点滴チューブと、第2の導水管に設置された第2の電磁弁と、この第2の電磁弁の動作を制御するサブコントローラと、を備え、サブコントローラは、第1の通信部と通信を行うための第2の通信部と、第1の制御部から送られてくる稼働開始信号に従って第2の電磁弁を開閉する第2の制御部と、を備え、メインコントローラの演算部は、入力装置からチューブ情報として入力された第2の点滴チューブの全長及び単位長さ当たりの最大吐出量に基づいて第2の園地における単位時間当たりの第2の潅水量を算出するとともに、入力装置から園地情報として入力された第2の園地における果樹の品種と、園地情報に従って記憶装置から読み出された第2の園地に対応する第1の単位期間当たりの推奨潅水量に基づいて第2の潅水時間を算出し、第1の制御部は、第2の潅水時間に従って、第2の制御部に第2の電磁弁を開閉させることを特徴とするものである。
【0015】
このような構成の水施肥システムによれば、メインコントローラの演算部において、第2の点滴チューブの単位長さ当たりの最大吐出量と第2の点滴チューブの全長の積として単位時間当たりの第2の潅水量が算出され、第2の園地に対応する第1の単位期間当たりの推奨水量を単位時間当たりの第2の潅水量で割った値(商)として第2の潅水時間が算出される。このとき、上述の第1の単位期間当たりの推奨潅水量は果樹の品種と潅水の実施期間によって予め定められた値であることから、演算部によって算出された上記第2の水時間は、第2の園地で栽培されている果樹の品種と潅水の実施期間に対応するものである。
そして、第2の電磁弁は上記第2の水時間に従って開閉されるため、第3の発明においては、第2の発明の作用に加え、第2の園地に対し、果樹の品種と潅水の実施期間に対応した量の水が第1の単位期間ごとに正確に供給されるという作用を有する。
【0016】
第4の発明は、第3の発明において、演算部は、第2の水時間と、園地情報に従って記憶装置から読み出された第2の園地に対応する第2の単位期間当たりの推奨潅水量に基づいて第2の園地における第2の潅水回数を算出し、第1の制御部は、第2の潅水回数に従って、第2の制御部に第2の電磁弁を開閉させることを特徴とするものである。
【0017】
このような構成の水施肥システムによれば、メインコントローラの演算部において、第2の園地に対応する第2の単位期間当たりの推奨潅水量を第2の園地に対応する第1の単位期間当たりの推奨潅水量で割った値(商)として第2の潅水回数が算出される。このとき、上述の第1の単位期間当たりの推奨潅水量及び第2の単位期間当たりの推奨潅水量は果樹の品種と潅水の実施期間によって予め定められた値であることから、演算部によって算出された上記第2の水回数は、第2の園地で栽培されている果樹の品種と潅水の実施期間に対応している。
したがって、上記第2の潅水回数に従って第2の電磁弁を開閉させるように構成された第4の発明においては、第3の発明の作用に加え、第2の園地に対し、果樹の品種と潅水の実施期間に対応した量の水が第2の単位期間ごとに正確に供給されるという作用を有する。
【0018】
第5の発明は、第1の発明乃至第4の発明のいずれかにおいて、液肥供給管に設置されてメインコントローラによって動作を制御される定量ポンプを備え、記憶装置には、第3の単位期間当たりの推奨液肥量が果樹の品種、液肥の種類及び施肥の実施期間と関連付けられた状態で格納されており、演算部は、入力装置から園地情報として入力された液肥の種類と、園地情報に従って記憶装置から読み出された第1の園地における第3の単位期間当たりの推奨液肥量に基づいて液肥濃度を算出し、第1の制御部は、演算部によって算出された液肥濃度に従って、定量ポンプの回転数を制御することで液肥の吐出量を調節することを特徴とするものである。
【0019】
このような構成の水施肥システムにメインコントローラの演算部において、入力装置から園地情報として入力された液肥の種類に対応する第3の単位期間当たりの推奨液肥量を単位時間当たりの第1の潅水量と第1の潅水時間の積で割った値(商)として液肥濃度が算出される。このとき、上述の第3の単位期間当たりの推奨液肥量は果樹の品種、液肥の種類及び施肥の実施期間によって予め定められた値であることから、演算部によって算出された上記液肥濃度は、液肥の種類及び施肥の実施期間に対応している。
したがって、上記液肥濃度に従って定量ポンプの回転数を制御することで液肥の吐出量を調節するように構成された第5の発明においては、第1の発明乃至第4の発明のいずれかの作用に加え、第1の園地や第2の園地に対して液肥の種類に対応した濃度の液肥が第3の単位期間ごとに正確に供給されるという作用を有する。
【0020】
第6の発明は、第1の発明に係る水施肥システムを用いた柑橘類の栽培方法であって、水施肥システムの演算部によって柑橘類の種類ごとに潅水時間を算出する工程と、演算部で算出された水時間に基づいて柑橘類に対して潅水を行う工程と、を備えたことを特徴とするものである。
第6の発明においては、柑橘類を栽培する際に、第1の発明と同様の作用が発揮される。
【0021】
第7の発明は、第6の発明において、水施肥システムの演算部によって柑橘類の種類及び柑橘類に供給される液肥の種類ごとに濃度を算出する工程と、演算部で算出された液肥の濃度に基づいて柑橘類に対して施肥を行うことを特徴とするものである。
第7の発明においては、柑橘類を栽培する際に、第6の発明の作用に加えて第5の発明と同様の作用が発揮される。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、第1の発明によれば、第1の園地で栽培されている果樹の品種と潅水の実施期間に対応した量の水が供給されるように第1の電磁弁が開閉されることから、潅水の実施期間において、第1の単位期間ごとに、第1の園地に対して適切な潅水を行うことができる。
【0023】
第2の発明によれば、第1の園地で栽培されている果樹の品種に対応した量の水が第2の単位期間ごとに正確に供給されるように第1の電磁弁が開閉されることから、第1の発明の効果に加え、第1の園地に対し、1年を通して適切な潅水を行うことができるという効果を奏する。
【0024】
第3の発明によれば、第2の園地で栽培されている果樹の品種と潅水の実施期間に対応した量の水が供給されるように第2の電磁弁が開閉されることから、第2の発明の効果に加え、潅水の実施期間において、第1の単位期間ごとに、第2の園地に対して適切な潅水を行うことができるという効果を奏する。
【0025】
第4の発明によれば、第2の園地で栽培されている果樹の品種に対応した量の水が第2の単位期間ごとに正確に供給されるように第2の電磁弁が開閉されることから、第3の発明の効果に加え、第2の園地に対し、1年を通して適切な潅水を行うことができるという効果を奏する。
【0026】
第5の発明によれば、液肥の種類ごとに推奨される濃度の液肥が供給されるように定量ポンプの吐出量が調節されることから、第1の発明乃至第4の発明のいずれかの効果に加え、第1の園地や第2の園地に対して、適切な濃度の液肥を供給することができるという効果を奏する。
【0027】
第6の発明によれば、柑橘類の栽培において、第1の発明と同様の効果が発揮される。
【0028】
第7の発明によれば、柑橘類の栽培において、第6の発明の効果に加えて第5の発明と同様の効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施の形態に係る潅水施肥システムの構成を示した模式図である。
図2図1に示したメインコントローラの機能を説明するためのブロック図である。
図3】記憶装置に格納される情報の一例を示した図である。
図4】(a)及び(b)は図1に示した2つのサブコントローラの機能を説明するためのブロック図である。
図5】(a)は果樹の品種ごとの収穫時期を示した表であり、(b)乃至(e)は樹齢、土壌の種類、栽培方法及び生育ステージごとに潅水や施肥の方法が異なることを示した表である。
図6】月ごとの潅水量と液肥量の推奨値を示した表である。
図7】本発明の実施の形態に係る水施肥システムの動作手順を示したフローチャートである。
図8図2に示したメインコントローラの演算部において行われる演算の流れを示したフローチャートである。
図9図2に示したメインコントローラの演算部において行われた演算結果の一例を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の潅水施肥システムについて、図1乃至図9を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施例では、マルチシートに関する説明を省略しているが、本発明の水施肥システムは、各園地において土壌の表面を覆うように設置されたマルチシートの下に点滴チューブが設置された構造であっても良い。また、園地の数や園地に設置される点滴チューブの数は、以下の実施例に示されたものに限らず、適宜変更可能である。
さらに、以下の実施例では、特許請求の範囲に記載された「第1の単位期間」を「1日」とし、「第2の単位期間」を「1ヶ月」としているが、「第1の単位期間」及び「第2の単位期間」は、「1日」や「1ヶ月」に限らない。ただし、「第1の単位期間」と「第2の単位期間」は異なるものとする。また、以下の実施例では、1日当たりの推奨潅水量や推奨液肥量等が記憶装置に潅水や施肥の実施月に関連付けられた状態で記憶されているが、これらは潅水や施肥の「実施月」に限らず、潅水や施肥の「実施期間」に関連付けられた状態で記憶装置に格納されていても良い。
【実施例】
【0031】
図1は本発明に係る潅水施肥システムの構成の一例を模式的に示した図である。
図1に示すように、潅水施肥システム1は、園地2a,2bで栽培されている果樹に点滴チューブ3a〜3cを介して水と肥料を供給するものである。点滴チューブ3aは土壌水分計4aとともに園地2aに設置されており、点滴チューブ3b,3cはそれぞれ土壌水分計4b,4cとともに園地2bに設置されている。
点滴チューブ3aは導水管5aを介して水源6に接続されており、導水管5aは、途中で導水管5bに分岐している。そして、点滴チューブ3bは、導水管5a,5bを介して水源6に接続されている。
また、導水管5bは、さらに途中で導水管5cに分岐しており、点滴チューブ3cは、導水管5a〜5cを介して水源6に接続されている。
【0032】
導水管5bに分岐する箇所よりも上流側の導水管5aには、液状の肥料(以下、液肥という。)が貯留された液肥タンク7が液肥供給管8を介して接続されており、液肥供給管8が接続された箇所の上流側と下流側には、電磁弁9a並びに流量計10a及びEC計11aがそれぞれ設置されている。液肥タンク7には、液位計7aが設置され、液肥供給管8には、定量ポンプ12が設置されており、液位計7a、電磁弁9a、流量計10a、EC計11a及び定量ポンプ12は、信号線13aを介してメインコントローラ14にそれぞれ接続されている。
【0033】
導水管5bに分岐する箇所よりも下流側の導水管5aには、電磁弁9b、流量計10b及びEC計11bがそれぞれ設置されており、電磁弁9b、流量計10b及びEC計11bは、信号線13bを介してサブコントローラ15にそれぞれ接続されている。一方、導水管5bには、電磁弁9c、流量計10c及びEC計11cがそれぞれ設置されており、電磁弁9c、流量計10c及びEC計11cは、信号線13cを介してサブコントローラ16にそれぞれ接続されている。
そして、メインコントローラ14には、記憶装置が内蔵された営農サーバ17と携帯端末などの入力装置18がインターネット19を介して3G回線で接続されている。
【0034】
図2図1に示したメインコントローラ14の機能を説明するためのブロック図であり、図3図2における記憶装置20に格納される情報の一例を示した図である。
図2に示すように、メインコントローラ14は、インターネット19を介して入力装置18から入力された情報等の受信と営農サーバ17に内蔵された記憶装置20に対する情報等の送受信を行うとともにサブコントローラ15,16に対して無線通信を行うための通信部14aと、入力装置18から入力された情報と記憶装置20に格納されている情報に基づいて各種の演算を行う演算部14bと、液位計7a、流量計10a及びEC計11aによる検出結果を受信するとともに、電磁弁9aと定量ポンプ12の動作を制御する制御部14cを備えている。
【0035】
図3に示すように、記憶装置20には、1本の果樹に対する1日当たりの推奨潅水量Wd及び1ヶ月当たりの推奨潅水量Wmが果樹の品種及び樹齢並びに潅水の実施月と関連付けられた状態で格納され、1本の果樹に対する1日当たりの推奨液肥量Fd及び1ヶ月当たりの上限液肥量Fuが果樹の品種及び樹齢並びに液肥の種類及び施肥の実施月と関連付けられた状態で格納されている。
【0036】
記憶装置20には、予め格納されている上述のマスター情報の他に、生産者等によって入力装置18から入力された園地情報(潅水や施肥の対象となる園地の名称、果樹の品種、樹齢、樹体本数T、土壌の種類、栽培方法、液肥の種類)が園地の名称と関連付けられた状態でそれぞれ格納されている。点滴チューブは、型式によって、チューブの材質や内径、あるいはチューブに設けられる孔の大きさや個数が異なるため、それらの値の代わりに単位時間及び単位長さ当たりの点滴チューブの最大吐出量Wが点滴チューブの全長Lとともに入力装置18から生産者等によって入力される。そして、これらの値はチューブ情報として記憶装置20に格納されている。なお、同一の園地内に点滴チューブの最大吐出量Wが同じ複数の点滴チューブが設置されている場合、全ての点滴チューブの長さを合計した値が点滴チューブの全長Lとなる。
また、生産者等によって入力装置18から入力された潅水補正係数K,K及び液肥補正係数K,Kが補正情報として潅水の実施月及び施肥の実施月ごとにそれぞれ格納される。さらに、水源の流量Frの他、貯水槽が設けられている場合には、その貯水量Wsと、単位時間当たりの貯水槽への流入量Fiが記憶装置20に水源情報として格納される。
【0037】
図4(a)及び図4(b)はそれぞれ図1に示したサブコントローラ15,16の機能を説明するためのブロック図である。
図4(a)に示すように、サブコントローラ15は、メインコントローラ14の通信部14aに対して無線通信を行うための通信部15aと、土壌水分計4a、流量計10b及びEC計11bによる検出結果を受信するとともに、電磁弁9bの動作を制御する制御部15bを備えている。
また、図4(b)に示すように、サブコントローラ16は、メインコントローラ14の通信部14aに対して無線通信を行うための通信部16aと、土壌水分計4b,4c、流量計10c及びEC計11cによる検出結果を受信するとともに、電磁弁9cの動作を制御する制御部16bを備えている。
【0038】
図5(a)は果樹の品種ごとの収穫時期を示しており、図5(b)は樹齢ごとに潅水量と液肥量が異なることを示している。図5(c)は土壌の種類ごとに潅水量と潅水の回数が異なり、図5(d)は栽培方法ごとに潅水量が異なり、図5(e)は生育ステージごとに潅水や施肥の方法が異なることを示している。また、図6は月ごとの潅水量と液肥量の推奨値を示している。
図5(a)に示すように、温州ミカンは収穫時期の異なる4つの種類に分けられる。一方、中晩柑は8つの種類に分けられるが、それらの収穫時期は5つに大別される。
【0039】
図5(b)に示すように、潅水と施肥の方法は樹齢によって異なる。具体的に説明すると、潅水量と液肥量は、苗木から幼木、さらに若木から成木へと樹齢が増すにつれて、多くなるように設定することが望ましい。
図5(c)に示すように、潅水の量と回数は土壌の種類によって異なる。例えば、花崗岩土壌では水が狭い範囲で深く染み込むため、潅水の回数は多くして、1回当たりの潅水量は少なくすることが望ましい。また、安山岩土壌では、水が広い範囲で浅く染み込むため、潅水の回数は少なくして、1回当たりの潅水量は多くすることが望ましい。
図5(d)に示すように、潅水量は栽培方法によっても異なる。例えば、ハウス栽培は降雨の影響を受けないため、果樹がビニルで被覆される11月以降は露地栽培に比べて潅水量を多くすることが望ましい。
【0040】
図5(e)に示すように、潅水と施肥の方法は果樹の品種の他、生育ステージによっても異なる。例えば、「はれひめ」以外の中晩柑については、発芽分化期(3月)から成熟期(10月〜11月)にかけて一定の周期で潅水と施肥を同時に行うが、地温が8度以下になると根の活動が鈍くなることから、12月から2月の間は、潅水と施肥を停止する。ただし、ハウス栽培の場合には、この時期も定期的に潅水を行う。
これに対し、中晩柑の「はれひめ」と温州ミカンは、乾燥ストレスを与えると糖度が増すことから、液胞発達期(8月)から花芽分化期(1月〜2月)にかけて潅水制限をする。ただし、それ以外の時期は、一定の周期で潅水と施肥を同時に行う。
【0041】
1本の果樹に対して1日に供給可能な潅水量や液肥量には上限があり、1か月間に供給可能な潅水量や液肥量にも上限がある。それらは果樹の種類や時期によって異なるが、本発明の水施肥システム1では、種々の果樹に対して、潅水や施肥が適切に行われるように、図5(a)乃至図5(e)に示した指針に基づいて潅水量と液肥量の推奨値が設定され、それらのデータが果樹の品種及び樹齢並びに潅水の実施月と関連付けられた状態で記憶装置20に予め格納されている。例えば、花崗岩土壌の園地で露地栽培される樹齢10年の温州ミカン(極早生)については、図6に示すように月ごとの1日当たりの推奨潅水量Wd、1ヶ月当たりの推奨潅水量Wm、1日当たりの推奨液肥量Fd及び1ヶ月当たりの上限液肥量Fuが記憶装置20に格納されている。
【0042】
ここで、潅水施肥システム1の動作について、図2図6を適宜参照しながら、図7乃至図9を用いて説明する。
図7水施肥システム1の動作手順を示したフローチャートであり、図8はメインコントローラ14の演算部14bにおいて行われる演算の流れを示したフローチャートであり、図9はその演算結果の一例を示した表である。
図7及び図8に示すように、ステップS1において、生産者等により入力装置18から園地情報、チューブ情報及び補正情報が入力されると、メインコントローラ14の通信部14aは、その情報を受信して、制御部14cに送る(図2の矢印A)。
通信部14aから送られてきた園地情報、チューブ情報及び補正情報を受信した制御部14cは、記憶装置20からマスター情報と水源情報を読み出すための読み出し信号を通信部14aに送り(図2の矢印B)、通信部14aはインターネット19を経由して制御部14cの読み出し信号を記憶装置20に送る。
制御部14cの読み出し信号を受信した記憶装置20はインターネット19を経由してマスター情報と水源情報をメインコントローラ14の通信部14aに送り、通信部14aは記憶装置20に格納されていたマスター情報と水源情報を制御部14cに送る(図2の矢印A)。そして、制御部14cは、通信部14aから受信した園地情報、チューブ情報、補正情報、マスター情報及び水源情報とともに、演算開始信号を演算部14bに送る(図2の矢印C)。
【0043】
ステップS2において、園地情報、チューブ情報、補正情報、マスター情報及び水源情報とともに制御部14cから送られてきた演算開始信号を受信した演算部14bは各種の演算を行う。
具体的に説明すると、まず、演算部14bは、園地2aの点滴チューブ3aと園地2bの点滴チューブ3b,3cに関する単位長さ当たりの最大吐出量Wと全長Lの積を園地ごとに単位時間当たりの潅水量Wとする(図8のステップS2−1)。
ただし、園地2a〜2cに対し、水源流量Frを超える水を供給することはできないため、WとLの積と水源流量Frを比較し(図8のステップS2−2)、WとLの積が水源流量Frを超えている場合には、水源流量FrをWとLの積の代わりに単位時間当たりの潅水量Wとする(図8のステップS2−3)。
【0044】
ステップS3において、演算部14bでは、園地2a,2bについてそれぞれ1日当たりの潅水時間tと1ヶ月当たりの潅水回数Tmが算出される。
具体的には、演算部14bにおいて、1本の果樹に対する1日当たりの推奨潅水量Wd及び1ヶ月当たりの推奨潅水量Wm並びに潅水補正係数K,Kから1日当たりの潅水時間tと1ヶ月当たりの潅水回数Tmが次の式(1)及び式(2)に従って園地ごとに算出される(図8のステップS3−1及びステップS3−2)。なお、潅水補正係数K,Kは、生産者が1日当たりの推奨潅水量Wd及び1ヶ月当たりの推奨潅水量Wmの値について調整を希望するときに用いられるものであり、通常はそれぞれ1に設定されている。
【0045】
【数1】
【0046】
【数2】
【0047】
ステップS4では、生産者等が園地情報として入力装置18から入力した液肥の種類に対応する1日当たりの推奨液肥量Fd、上限液肥量Fu及び液肥補正係数Kに基づいて月ごとの液肥濃度Fmと1ヶ月当たりの施肥回数Tが算出される。具体的に説明すると、演算部14bでは、1本の果樹に対する1日当たりの推奨液肥量Fd、液肥補正係数K、単位時間当たりの潅水量W及び1日当たりの潅水時間tから液肥濃度Fmが次の式(3)に従って園地ごとに算出される(図8のステップS4−1)。なお、液肥補正係数K,Kは、生産者が1日当たりの推奨液肥量Fd及び1ヶ月当たりの上限液肥量Fuの値について調整を希望するときに用いられるものであり、通常はそれぞれ1に設定されている。
【0048】
【数3】
【0049】
潅水と施肥を同時に行う場合、施肥回数Tは1ヶ月当たりの潅水回数Tmと等しいため、TmをTとする(図8のステップS4−2)。ただし、1日当たりの推奨液肥量Fdと施肥回数Tの積と上限液肥量Fuと液肥補正係数Kの積を比較し(図8のステップS4−3)、Fdの積がFuとKの積よりも大きい場合には、FuとKの積を1日当たりの推奨液肥量Fdで割った値を超えない範囲で最も大きい整数値nをTmの代わりに施肥回数TFとする(図8のステップS4−4)。
このようにして演算部14bによって行われた各種の演算の結果は、制御部14cに送られる(図2の矢印D)。制御部14cは演算部14bの演算結果とともに書き込み信号を通信部14aに送り(図2の矢印B)、通信部14aは演算部14bの演算結果と制御部14cの書き込み信号を記憶装置20にインターネット19を経由して送る。これにより、記憶装置20には、1日当たりの潅水時間td及び1ヶ月当たりの潅水回数Tm並びに液肥濃度Fm及び1ヶ月当たりの施肥回数TFが演算部14bによる演算結果として園地2a,2bにそれぞれ対応付けられた状態で実施月ごとに格納される。
【0050】
ステップS5において、潅水と施肥を開始させるためのコマンドを生産者等が入力装置18に入力すると、入力装置18は、潅水開始信号と施肥開始信号をメインコントローラ14の通信部14aに送信し、通信部14aは、これらの信号を制御部14cに送信する(図2の矢印A)。
潅水開始信号と施肥開始信号を受信した制御部14cは、記憶装置20から演算結果を読み出すための読み出し信号を通信部14aに送り(図2の矢印B)、通信部14aはインターネット19を経由して制御部14cの読み出し信号を記憶装置20に送る。
制御部14cの読み出し信号を受信した記憶装置20はインターネット19を経由して演算部14bの演算結果をメインコントローラ14の通信部14aに送り、通信部14aは記憶装置20に格納されていた演算部14bの演算結果を制御部14cに送る(図2の矢印A)。
【0051】
ステップS6において、制御部14cは、通信部14aから受信した演算部14bの演算結果に基づいて電磁弁9aと定量ポンプ12にそれぞれ制御信号を送って(図2の矢印E及び矢印F)、それらの動作を制御する。
具体的には、図2の矢印Gで示すように流量計10aから送られてくる導水管5aの流量(導水管5aの内部を1分間に流れる水の量)の検出値が園地2a,2bのうち潅水の対象となる園地における単位時間当たりの潅水量Wに一致するように、電磁弁9aの開度が制御部14cによって調整される。なお、電磁弁9aを開く時間は、当該園地における1日当たりの潅水時間tと同じであり、1ヶ月に電磁弁9aを開く回数は、当該園地における1ヶ月当たりの潅水回数Tmと同じである。また、園地2a,2bに対して同時に潅水を行う場合には、流量計10aによって検出される導水管5aの流量が園地2a,2bにおけるそれぞれの単位時間当たりの潅水量Wの合計値に一致するように、制御部14cによって電磁弁9aの開度が調整される。
【0052】
さらに、液肥供給管8を介して液肥タンク7から導水管5aに供給される液肥の濃度が園地2a,2bのうち施肥の対象となる園地における液肥濃度Fmに一致するように、定量ポンプ12の回転数が制御部14cによって調整される。ただし、定量ポンプ12によって液肥タンク7から導水管5aに液肥を供給するタイミング及び回数は、電磁弁9aを開くタイミング及び回数と一致させるものとする。また、導水管5aの内部を流れる液肥の濃度は、EC計11aによって検出された後、制御部14cに送られ(図2の矢印H)、液肥タンク7に貯留される液肥の量は、液位計7aによって検出された後、制御部14cに送られる(図2の矢印I)。
【0053】
ステップS7において、サブコントローラ15,16は、メインコントローラ14から送られる稼働開始信号に従って稼働を開始する。
具体的には、メインコントローラ14の制御部14cから通信部14aを経由してサブコントローラ15に送信された稼働開始信号は、通信部15aで受信された後、制御部15bに送られる(図4(a)の矢印A)。
制御部15bは、上記稼働開始信号に従って、図4(a)の矢印Bで示すように流量計10bから送られてくる「導水管5bに分岐する箇所よりも下流における導水管5aの流量(導水管5aの内部を1分間に流れる水の量)」の検出値が園地2aにおける単位時間当たりの潅水量Wに一致するように、電磁弁9bに制御信号を送って、その開度を調整する(図4(a)の矢印C)。なお、電磁弁9bを開く時間は、園地2aにおける1日当たりの潅水時間tと同じであり、1ヶ月に電磁弁9bを開く回数は、園地2aにおける1ヶ月当たりの潅水回数Tmと同じである。
【0054】
電磁弁9bを全開にしても、導水管5bに分岐する箇所よりも下流における導水管5aの流量が目標値に達しない場合、あるいは土壌水分計4aから土壌に含まれる水分量が十分でないことを示す検出結果が送られてきた場合(図4(a)の矢印D)、制御部15bは電磁弁9aの開度を大きくするための開度調整信号を通信部15aに送り(図4(a)の矢印E)、通信部15aは、この開度調整信号をメインコントローラ14の通信部14aに送る。そして、制御部14cは、通信部14aから受け取った開度調整信号に従って電磁弁9aの開度を大きくする。
【0055】
一方、導水管5bに分岐する箇所よりも下流における導水管5aの内部を流れる液肥の濃度が園地2aにおける液肥濃度Fmと一致していないことを示す検出結果がEC計11bから送られてきた場合(図4(a)の矢印F)、制御部15bは定量ポンプ12の回転数を調整するための回転数調整信号を通信部15aに送り(図4(a)の矢印E)、通信部15aは、この回転数調整信号をメインコントローラ14の通信部14aに送る。そして、制御部14cは、通信部14aから受け取った回転数調整信号に従って定量ポンプ12の回転数を調整する。
【0056】
メインコントローラ14の制御部14cから通信部14aを経由してサブコントローラ16に送信された稼働開始信号は、通信部16aで受信された後、制御部16bに送られる(図4(b)の矢印A)。
制御部16bは、上記稼働開始信号に従って、図4(b)の矢印Bで示すように流量計10cから送られてくる「導水管5bの流量(導水管5cの内部を1分間に流れる水の量)」の検出値が園地2bにおける単位時間当たりの潅水量Wに一致するように、電磁弁9cに制御信号を送って、その開度を調整する(図4(b)の矢印C)。なお、電磁弁9cを開く時間は、園地2bにおける1日当たりの潅水時間tと同じであり、1ヶ月に電磁弁9cを開く回数は、園地2bにおける1ヶ月当たりの潅水回数Tmと同じである。
【0057】
電磁弁9cを全開にしても、導水管5bの流量が目標値に達しない場合、あるいは土壌水分計4b,4cから土壌に含まれる水分量が十分でないことを示す検出結果が送られてきた場合(図4(b)の矢印D)、制御部16bは電磁弁9aの開度を大きくするための開度調整信号を通信部16aに送り(図4(b)の矢印E)、通信部16aは、この開度調整信号をメインコントローラ14の通信部14aに送る。そして、制御部14cは、通信部14aから受け取った開度調整信号に従って電磁弁9aの開度を大きくする。
【0058】
一方、導水管5bの内部を流れる液肥の濃度が園地2b,2cにおける液肥濃度Fmと一致していないことを示す検出結果がEC計11cから送られてきた場合(図4(b)の矢印F)、制御部16bは定量ポンプ12の回転数を調整するための回転数調整信号を通信部16aに送り(図4(b)の矢印E)、通信部16aは、この回転数調整信号をメインコントローラ14の通信部14aに送る。そして、制御部14cは、通信部14aから受け取った回転数調整信号に従って定量ポンプ12の回転数を調整する。
【0059】
ステップS8において、潅水と施肥を停止させるためのコマンドを生産者等が入力装置18に入力すると、入力装置18は、潅水停止信号と施肥停止信号をメインコントローラ14の通信部14aに送信し、通信部14aは、これらの信号を制御部14cに送信する(図2の矢印A)。
潅水停止信号と施肥停止信号を受信した制御部14cは、電磁弁9aと定量ポンプ12にそれぞれ停止信号を送って(図2の矢印E及び矢印F)、それらの動作を停止させる。
【0060】
以上説明したように、水施肥システム1においては、園地2a,2bで栽培されている果樹の品種と潅水の実施月に対応した量の水が月ごとに供給されるように電磁弁9a〜9cが開閉されることから、1年を通して園地2a,2bに対して計画的に適切な潅水を行うことができる。
また、潅水施肥システム1によれば、液肥の種類ごとに推奨される濃度の液肥が園地2a,2bに供給されるように定量ポンプ12の吐出量が調節されることから、1年を通して園地2a,2bに対して計画的に適切な施肥を行うことが可能である。
なお、潅水施肥システム1を柑橘類の栽培に用いた場合、上述の水施肥システム1の作用及び効果が同様に発揮される。
【0061】
本発明の水施肥システム1は、上記実施例に示した構造に限定されるものではない。例えば、営農サーバ17及び入力装置18がメインコントローラ14に対して無線通信可能に接続される代わりに、メインコントローラ14に対して営農サーバ17及び入力装置18がケーブル等を介して接続された構造であっても良い。また、メインコントローラ14とサブコントローラ15,16もケーブル等によって接続されていても良い。
【産業上の利用可能性】
【0062】
請求項1乃至請求項7に記載された発明は、広大な園地で栽培される多数の果樹に対して潅水と施肥を計画的に行う必要がある場合に特に有用である。
【符号の説明】
【0063】
1…潅水施肥システム 2a,2b…園地 3a〜3c…点滴チューブ 4a〜4c…土壌水分計 5a〜5c…導水管 6…水源 7…液肥タンク 7a…液位計 8…液肥供給管 9a〜9c…電磁弁 10a〜10c…流量計 11a〜11c…EC計 12…定量ポンプ 13a〜13c…信号線 14…メインコントローラ 14a…通信部 14b…演算部 14c…制御部 15,16…サブコントローラ 15a,16a…通信部 15b,16b…制御部 17…営農サーバ 18…入力装置 19…インターネット 20…記憶装置
【要約】
【課題】果樹の品種に応じた適切な潅水と施肥を行うことが可能な潅水施肥システムを提供する。
【解決手段】潅水施肥システム1は、水源6に接続され導水管5bに分岐する導水管5aと、導水管5bとそれから分岐する導水管5cにそれぞれ接続され園地2bに設置される点滴チューブ3b,3cと、導水管5aに接続され園地2aに設置される点滴チューブ3aと、導水管5bの分岐箇所の上流と下流で導水管5aにそれぞれ設置される電磁弁9a,9bと、導水管5bの分岐箇所の上流で導水管5aに、定量ポンプ12が設置された液肥供給管8を介して接続された液肥タンク7と、インターネット19を介して営農サーバ17及び入力装置18に接続されるとともに電磁弁9aと定量ポンプ12の動作を制御するメインコントローラ14と、電磁弁9b及び導水管5bに設置された電磁弁9cの動作をそれぞれ制御するサブコントローラ15,16を備えている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9