(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
図1に、本発明の第1実施形態に係る船舶1Aを示す。この船舶1Aは、液化天然ガス(以下、LNGという)を貯留するタンク11と、推進用のガス消費器である主ガスエンジン13と、船内電源用の副ガスエンジン16を含む。ただし、推進用のガス消費器は、例えばガス焚きボイラであってもよい。
【0020】
図例では、タンク11が1つだけ設けられているが、タンク11は複数設けられていてもよい。また、図例では、主ガスエンジン13および副ガスエンジン16が1つずつ設けられているが、主ガスエンジン13が複数設けられていてもよいし、副ガスエンジン16が複数設けられていてもよい。
【0021】
主ガスエンジン13は、スクリュープロペラ(図示せず)を直接的に回転駆動してもよいし(機械推進)、スクリュープロペラを発電機およびモータを介して回転駆動してもよい(電気推進)。
【0022】
本実施形態では、主ガスエンジン13が、燃料ガス噴射圧が中圧または高圧のレシプロエンジンである。主ガスエンジン13は、燃料ガスのみを燃焼させるガス専焼エンジンであってもよいし、燃料ガスと燃料油の一方または双方を燃焼させる二元燃料エンジンであってもよい。ただし、主ガスエンジン13は、ガスタービンエンジンであってもよい。
【0023】
副ガスエンジン16は、燃料ガス噴射圧が低圧のレシプロエンジンであり、発電機(図示せず)と連結されている。副ガスエンジン16は、燃料ガスのみを燃焼させるガス専焼エンジンであってもよいし、燃料ガスと燃料油の一方または双方を燃焼させる二元燃料エンジンであってもよい。
【0024】
主ガスエンジン13へは、燃料ガスとして、自然入熱によりタンク11内で発生するボイルオフガス(以下、BOGという)が供給され、副ガスエンジン16へは、燃料ガスとして、LNGが強制的に気化された気化ガス(以下、VGという)が供給される。
【0025】
具体的に、タンク11は、送気ライン21により圧縮機12と接続されており、圧縮機12は、第1供給ライン22により主ガスエンジン13と接続されている。また、タンク11内には、ポンプ14が配置されており、ポンプ14は、送液ライン31により強制気化器15と接続されている。強制気化器15は、第2供給ライン32により副ガスエンジン16と接続されている。
【0026】
送気ライン21は、タンク11内で発生するBOGを圧縮機12へ導く。圧縮機12は、BOGを中圧または高圧に圧縮する。第1供給ライン22は、圧縮機12から吐出されるBOGを主ガスエンジン13へ導く。ただし、圧縮機12は、例えば主ガスエンジン13の燃料ガス噴射圧が低圧の場合は、低圧圧縮機であってもよい。
【0027】
第1供給ライン22からは返送ライン41が分岐しており、この返送ライン41がタンク11へつながっている。返送ライン41は、BOGのうちの主ガスエンジン13で消費し切れなかった分である余剰ガスを第1供給ライン22からタンク11へ戻す役割を果たす。返送ライン41には、上流側から順に、開閉弁42および膨張装置43が設けられている。開閉弁42は、図略の制御装置により、余剰ガスが発生したときに開かれ、余剰ガスが発生していないときに閉じられる。膨張装置43は、例えば、膨張弁、膨張タービン、エゼクターなどである。
【0028】
送液ライン31は、ポンプ14から吐出されるLNGを強制気化器15へ導く。強制気化器15は、LNGを強制的に気化し、VGを生成する。第2供給ライン32は、強制気化器15にて生成されるVGを副ガスエンジン16へ導く。ポンプ14は、強制気化器15にて生成されるVGの圧力(つまり、強制気化器15の出口圧力)が副ガスエンジン16の燃料ガス噴射圧よりも高くなるように、LNGを吐出する。
【0029】
第2供給ライン32には、上流側から順に、冷却器33、気液分離器34および加熱器35が設けられている。VG中の重質分の多く(例えば、エタン、プロパン、ブタンなど)は、冷却器33で冷却されて液体となり、気液分離器34で除去されてタンク11へ戻される。これにより、メタン価の高いVGが副ガスエンジン16へ供給される。加熱器35は、気液分離器34を通過したVGを副ガスエンジン16への供給に適した温度に加熱する。
【0030】
さらに、本実施形態では、返送ライン41に流れる余剰ガスを冷却するための4つの熱交換器(第1熱交換器51、第2熱交換器52、第3熱交換器53および非常用熱交換器61)が設けられている。返送ライン41は、開閉弁42と膨張装置43の間で、第3熱交換器53、第1熱交換器51、第2熱交換器52および非常用熱交換器61をこの順に通過する。また、送気ライン21は第1熱交換器51を通過し、送液ライン31は非常用熱交換器61および第2熱交換器52をこの順に通過し、第2供給ライン32は気液分離器34と加熱器35の間で第3熱交換器53を通過する。
【0031】
第1〜第3熱交換器51〜53は、例えば、プレートとコルゲートフィンが交互に積層されたプレートフィンタイプの熱交換器である。図例では、第1〜第3熱交換器51〜53が別体になっているが、第1〜第3熱交換器51〜53のうちのいずれか2つまたは全てが一体になっていてもよい。
【0032】
第3熱交換器53は、開閉弁42と第1熱交換器51の間で返送ライン41に流れる余剰ガスと、気液分離器34と加熱器35の間で第2供給ライン32に流れるVG(つまり、冷却器33で冷却されたVG)との間で熱交換を行う。
【0033】
第1熱交換器51は、第3熱交換器53と第2熱交換器52の間で返送ライン41に流れる余剰ガス(つまり、第3熱交換器53で冷却された余剰ガス)と、送気ライン21に流れるBOGとの間で熱交換を行う。
【0034】
第2熱交換器52は、第1熱交換器51と非常用熱交換器61との間で返送ライン41に流れる余剰ガス(つまり、第1熱交換器51で冷却された余剰ガス)と、非常用熱交換器61の下流側で送液ライン31に流れるLNGとの間で熱交換を行う。本実施形態では、第2熱交換器52が本発明の常用熱交換器に相当する。
【0035】
非常用熱交換器61は、第2熱交換器52と膨張装置43の間で返送ライン41に流れる余剰ガス(つまり、第2熱交換器52で冷却された余剰ガス)と、第2熱交換器52とポンプ14の間で送液ライン31に流れるLNGとの間で潜熱蓄熱材62を介して熱交換を行う。
【0036】
具体的に、非常用熱交換器61は、容器6a内に充填された潜熱蓄熱材62と、容器6aを貫通するとともに容器6a内で互いに離間する一対の配管6bを含む。一方の配管6bは返送ライン41の一部を構成し、他方の配管6bは送液ライン31の一部を構成する。一対の配管6bは、容器6a内で螺旋状になっていてもよい。あるいは、一対の配管6bは、容器6a内で蛇行しており、一対の配管6bに、潜熱蓄熱材62との接触面積を確保するための伝熱板またはフィンが設けられていてもよい。
【0037】
非常用熱交換器61内の潜熱蓄熱材62は、タンク11内のLNGの温度(約−160℃)よりもある程度高い凝固点を有する。例えば、潜熱蓄熱材62の凝固点は、−150〜−120℃である。このような潜熱蓄熱材62としては、例えば、n−ペンタン、1−プロパノール、アリルアルコール、メチルシクロヘキサンなどを用いることができる。このため、潜熱蓄熱材62は、非常用熱交換器61に流入するLNGにより冷却されて凝固する。一方、非常用熱交換器61に流入する余剰ガスの温度が潜熱蓄熱材62の凝固点よりも低い場合は潜熱蓄熱材62が融解しないが、非常用熱交換器61に流入する余剰ガスの温度が潜熱蓄熱材62の凝固点よりも高くなると潜熱蓄熱材62が融解する。つまり、潜熱蓄熱材62は、当該潜熱蓄熱材62の凝固点と等しい所定温度TA以上の余剰ガスにより加熱されて融解する。
【0038】
以上説明した本実施形態の船舶1Aでは、非常用熱交換器61の潜熱蓄熱材62が凝固することによって、LNGの冷熱を潜熱蓄熱材62の潜熱として蓄積することができる。余剰ガスが少ない場合には、第2熱交換器52で余剰ガスが十分に冷却されて、非常用熱交換器61に流入する余剰ガスの温度が所定温度TAよりも低くなるか同程度となる。このため、非常用熱交換器61はあまり機能しない。一方、余剰ガスが多い場合には、第2熱交換器52での余剰ガスの冷却が不十分となって、非常用熱交換器61に流入する余剰ガスの温度が所定温度TAよりも高くなる。このため、非常用熱交換器61の潜熱蓄熱材62が融解する。つまり、余剰ガスが多い場合には、潜熱蓄熱材62に蓄積したLNGの冷熱によって、余剰ガスを冷却することができる。従って、余剰ガスが多い場合でも余剰ガスを十分に冷却することができ、余剰ガスの再液化率を向上させることができる。
【0039】
また、本実施形態では、返送ライン41上および送液ライン31上で第2熱交換器52と非常用熱交換器61とが直列に並んでいる。このため、第2熱交換器52で余剰ガスを冷却するのに余分なLNGの冷熱を非常用熱交換器61に蓄積することが可能である。特に、本実施形態のように第2供給ライン32が船内電源用の副ガスエンジン16へVGを導くものであれば、送液ライン31には常にLNGが流れる。従って、常に流れるLNGの冷熱を合理的に蓄積することができる。
【0040】
<変形例>
第1熱交換器51と第3熱交換器53のどちらか一方または双方は設けられなくてもよい。この点は、後述する第2実施形態でも同様である。ただし、前記実施形態のように第2熱交換器52(常用熱交換器)に加えて、第1熱交換器51が設けられていれば、送気ライン21に流れるBOGを利用して余剰ガスを冷却することができ、余剰ガスの再液化率をさらに向上させることができる。
【0041】
また、第2熱交換器52が設けられず、返送ライン41における非常用熱交換器61の上流側には第1熱交換器51または第3熱交換器53のみが存してもよい。この場合、第1熱交換器51または第3熱交換器53が本発明の常用熱交換器に相当する。
【0042】
(第2実施形態)
図2に、本発明の第2実施形態に係る船舶1Bを示す。なお、本実施形態および後述する実施形態において、先に説明した実施形態と同一構成要素には同一符号を付し、重複した説明は省略する。
【0043】
本実施形態の船舶1Bが第1実施形態の船舶1Aと異なる点は、返送ライン41に第1バイパスライン71が接続されているとともに、送液ライン31に第2バイパスライン73が接続されている点である。本実施形態では、非常用熱交換器61での余剰ガスとLNGとの不必要な熱交換を回避することが可能である。
【0044】
具体的に、第1バイパスライン71は、第2熱交換器52(常用熱交換器)と非常用熱交換器61の間で返送ライン41から分岐して、非常用熱交換器61と膨張装置43の間で返送ライン41につながっている。一方、第2バイパスライン73は、ポンプ14と非常用熱交換器61の間で送液ライン31から分岐して、非常用熱交換器61と第2熱交換器52の間で送液ライン31につながっている。
【0045】
非常用熱交換器61および第1バイパスライン71に対する余剰ガスの分配率は、第1調整弁72により調整され、非常用熱交換器61および第2バイパスライン73に対するLNGの分配率は、第2調整弁74により調整される。本実施形態では、第1調整弁72が、返送ライン41における第1バイパスライン71の分岐点に配置された三方弁であり、第2調整弁74が、送液ライン31における第2バイパスライン73の分岐点に配置された分配弁である。三方弁は、上流側流路を2つの下流側流路の一方に選択的に切り換える弁であり、分配弁は、2つの下流側流路に対する上流側流路の連通度合を任意に変更できる弁である。ただし、第1調整弁72が第2調整弁74と同じ分配弁であってもよいし、第2調整弁74が第1調整弁72と同じ三方弁であってもよい。また、第1調整弁72は、第1バイパスライン71および返送ライン41に設けられた一対の流量制御弁で構成されてもよいし、第2調整弁74は、第2バイパスライン73および送液ライン31に設けられた一対の流量制御弁で構成されてもよい。
【0046】
第1調整弁72および第2調整弁74は、制御装置8により制御される。制御装置8は、例えば、ROMやRAMなどのメモリとCPUを有する。制御装置8は、第1温度センサ81および第2温度センサ82と接続されている。なお、
図2では、図面の簡略化のために一部の信号線のみを描いている。第1温度センサ81は、第2熱交換器52で冷却された余剰ガスの温度T1を検出し、第2温度センサ82は、非常用熱交換器61内の潜熱蓄熱材62の温度T2を検出する。なお、温度T2の計測位置は、非常用熱交換器61内部の適切な位置で行う。測定点は1点でもよいし、複数点でもよい。複数点の場合は、そのうち1点を代表温度としてもよいし、その平均温度を代表温度としてもよい。
【0047】
余剰ガスが発生する場合(つまり、開閉弁42が開かれる場合)、制御装置8は
図3に示すフローチャートに従った制御を行う。なお、余剰ガスが発生しない場合(開閉弁42が閉じられる場合)は、制御装置8は、ポンプ14から吐出されるLNGの全量が非常用熱交換器61に導かれるように第2調整弁74を制御する。
【0048】
まず、制御装置8は、第1温度センサ81で検出される余剰ガスの温度T1を、上述した所定温度TA以上の設定温度Tiと比較する(ステップS1)。設定温度Tiは、膨張装置43に導入するのに適した温度として適宜設定される温度(例えば、−130℃)である。余剰ガスの検出温度T1が設定温度Tiよりも低い場合(ステップS1でYES)、制御装置8は、ポンプ14から吐出されるLNGの少なくとも一部が非常用熱交換器61に導かれるように第2調整弁74を制御するとともに(ステップS2)、第2熱交換器52で冷却された余剰ガスの全量が第1バイパスライン71に流れるように第1調整弁72を制御する(ステップS3)。ステップS2では、余剰ガスの検出温度T1が設定温度Tiよりも低く保たれるように、換言すれば第2熱交換器52に流入するLNGの温度が高くなりすぎないように、第2調整弁74が制御される。
【0049】
一方、余剰ガスの検出温度T1が設定温度Tiよりも高い場合(ステップS1でNO)、制御装置8は、ポンプ14から吐出されるLNGの全量が第2バイパスライン73に流れるように、第2調整弁74を制御する(ステップS4)。第1調整弁72の制御に関しては、制御装置8は、余剰ガスの検出温度T1を、第2温度センサ82で検出される潜熱蓄熱材62の温度T2とさらに比較する(ステップS5)。
【0050】
余剰ガスの検出温度T1が潜熱蓄熱材62の検出温度T2よりも低い場合(ステップS5でYES)、制御装置8は、第2熱交換器52で冷却された余剰ガスの全量が第1バイパスライン71に流れるように第1調整弁72を制御する(ステップS3)。逆に、余剰ガスの検出温度T1が潜熱蓄熱材62の検出温度T2よりも高い場合(ステップS5でNO)、制御装置8は、第2熱交換器52で冷却された余剰ガスの全量が非常用熱交換器61に導かれるように、第1調整弁72を制御する(ステップS6)。
【0051】
本実施形態のように、第2熱交換器52で冷却された余剰ガスの温度T1を設定温度Tiと比較することにより、LNGの冷熱が第2熱交換器52で余剰ガスを冷却するのに有り余る否かを判定することができる。そして、第2熱交換器52で冷却された余剰ガスの温度T1が設定温度Tiよりも低いとき、換言すればLNGの冷熱が第2熱交換器52で余剰ガスを冷却するのに有り余るときに、LNGの少なくとも一部が非常用熱交換器61に導かれるため、余分な冷熱を蓄積することができる。
【0052】
また、本実施形態では、第2熱交換器52で冷却された余剰ガスが非常用熱交換器61に導かれるのは、第2熱交換器52で冷却された余剰ガスの温度T1が設定温度Tiよりも高く、かつ、潜熱蓄熱材62の温度T2よりも高いときのみである。従って、余剰ガスの冷却が不十分であり、かつ、余剰ガスのさらなる冷却が可能なときにのみ、余剰ガスを非常用熱交換器61で冷却することができる。
【0053】
(第3実施形態)
図4に、本発明の第3実施形態に係る船舶1Cを示す。本実施形態の船舶1Cは、第1実施形態の船舶1Aと2つの点で異なっている。第1の点は、副ガスエンジン16が設けられておらず、第2供給ライン32がVGを圧縮機12の上流側で送気ライン21へ導いている点である。
【0054】
本実施形態の船舶1Cが第1実施形態の船舶1Aと異なる第2の点は、第2熱交換器52および第3熱交換器53が設けられていない点である。すなわち、本実施形態では、第1熱交換器51が本発明の常用熱交換器に相当する。
【0055】
本実施形態では、余剰ガスが多く、第1熱交換器51での余剰ガスの冷却が不十分となった場合には、潜熱蓄熱材62に蓄積したLNGの冷熱によって、余剰ガスを冷却することができる。従って、余剰ガスが多い場合でも余剰ガスを十分に冷却することができ、余剰ガスの再液化率を向上させることができる。
【0056】
(第4実施形態)
図5に、本発明の第4実施形態に係る船舶1Dを示す。本実施形態の船舶1Dが第2実施形態の船舶1Bと異なる点は、送気ライン21に、当該送気ライン21の一部をバイパスするようにバイパスライン24が接続されている点である。このバイパスライン24は、非常用熱交換器61を通過している。さらに、本実施形態では、送気ライン21におけるバイパスライン24の分岐点に調整弁23が設けられている。調整弁23は、三方弁であってもよいし分配弁であってもよい。
【0057】
本実施形態のような構成であれば、非常用熱交換器61内の潜熱蓄熱材62の温度T2がBOGの温度よりも高い場合には、BOGを利用して潜熱蓄熱材62を冷却することができる。
【0058】
(第5実施形態)
図6に、本発明の第5実施形態に係る船舶1Eを示す。本実施形態の船舶1Eが第1実施形態の船舶1Aと異なる点は、返送ライン41において第2熱交換器52の下流側に位置する非常用熱交換器61の代わりに、返送ライン41において第1熱交換器51と第2熱交換器52の間に位置する非常用熱交換器63が採用されている点である。つまり、本実施形態では、第1熱交換器51が本発明の常用熱交換器に相当する。
【0059】
非常用熱交換器63は、第1熱交換器51と第2熱交換器52の間で返送ライン41に流れる余剰ガス(つまり、第1熱交換器51で冷却された余剰ガス)と、第1熱交換器51の上流側で送気ライン21に流れるBOGとの間で潜熱蓄熱材64を介して熱交換を行う。
【0060】
具体的に、非常用熱交換器63は、容器6a内に充填された潜熱蓄熱材64と、容器6aを貫通するとともに容器6a内で互いに離間する一対の配管6bを含む。配管6bは、第1実施形態で説明した非常用熱交換器61の配管6bと同じである。
【0061】
非常用熱交換器63内の潜熱蓄熱材64は、タンク11内で発生するBOGの温度(約−90℃)よりもある程度高い凝固点を有する。例えば、潜熱蓄熱材64の凝固点は、−80〜−50℃である。このような潜熱蓄熱材64としては、例えば、メチルエチルケトン、2−プロパノール、n−ブタノール、アクリロニトリルなどを用いることができる。このため、潜熱蓄熱材64は、非常用熱交換器63に流入するBOGにより冷却されて凝固する。一方、非常用熱交換器63に流入する余剰ガスの温度が潜熱蓄熱材64の凝固点よりも低い場合は潜熱蓄熱材64が融解しないが、非常用熱交換器63に流入する余剰ガスの温度が潜熱蓄熱材64の凝固点よりも高くなると潜熱蓄熱材64が融解する。つまり、潜熱蓄熱材64は、当該潜熱蓄熱材64の凝固点と等しい所定温度TB以上の余剰ガスにより加熱されて融解する。
【0062】
以上説明した本実施形態の船舶1Eでは、非常用熱交換器63の潜熱蓄熱材64が凝固することによって、BOGの冷熱を潜熱蓄熱材64の潜熱として蓄積することができる。余剰ガスが少ない場合には、第1熱交換器51で余剰ガスが十分に冷却されて、非常用熱交換器63に流入する余剰ガスの温度が所定温度TBよりも低くなるか同程度となる。このため、非常用熱交換器63はあまり機能しない。一方、余剰ガスが多い場合には、第1熱交換器51での余剰ガスの冷却が不十分となって、非常用熱交換器63に流入する余剰ガスの温度が所定温度TBよりも高くなる。このため、非常用熱交換器63の潜熱蓄熱材64が融解する。つまり、余剰ガスが多い場合には、潜熱蓄熱材64に蓄積したBOGの冷熱によって、余剰ガスを冷却することができる。従って、余剰ガスが多い場合でも余剰ガスを十分に冷却することができ、余剰ガスの再液化率を向上させることができる。
【0063】
また、本実施形態では、返送ライン41上および送気ライン21上で第1熱交換器51と非常用熱交換器63とが直列に並んでいる。このため、第1熱交換器51で余剰ガスを冷却するのに余分なBOGの冷熱を非常用熱交換器63に蓄積することが可能である。
【0064】
<変形例>
第2熱交換器52と第3熱交換器53のどちらか一方または双方は設けられなくてもよい。この点は、後述する第6実施形態でも同様である。ただし、前記実施形態のように第1熱交換器51(常用熱交換器)に加えて、第2熱交換器52が設けられていれば、送液ライン31に流れるLNGを利用して余剰ガスを冷却することができ、余剰ガスの再液化率をさらに向上させることができる。
【0065】
また、第1熱交換器51が設けられず、返送ライン41における非常用熱交換器63の上流側には第3熱交換器53のみが存してもよい。この場合、第3熱交換器53が本発明の常用熱交換器に相当する。
【0066】
(第6実施形態)
図7に、本発明の第6実施形態に係る船舶1Fを示す。本実施形態の船舶1Fが第5実施形態の船舶1Eと異なる点は、返送ライン41に第1バイパスライン75が接続されているとともに、送気ライン21に第2バイパスライン77が接続されている点である。本実施形態では、非常用熱交換器63での余剰ガスとBOGとの不必要な熱交換を回避することが可能である。
【0067】
具体的に、第1バイパスライン75は、第1熱交換器51(常用熱交換器)と非常用熱交換器63の間で返送ライン41から分岐して、非常用熱交換器63と第2熱交換器52の間で返送ライン41につながっている。一方、第2バイパスライン77は、非常用熱交換器63の上流側で送気ライン21から分岐して、非常用熱交換器63と第1熱交換器51の間で送気ライン21につながっている。
【0068】
非常用熱交換器63および第1バイパスライン75に対する余剰ガスの分配率は、第1調整弁76により調整され、非常用熱交換器63および第2バイパスライン77に対するBOGの分配率は、第2調整弁78により調整される。本実施形態では、第1調整弁76が、返送ライン41における第1バイパスライン75の分岐点に配置された三方弁であり、第2調整弁78が、送気ライン21における第2バイパスライン77の分岐点に配置された分配弁である。ただし、第1調整弁76が第2調整弁78と同じ分配弁であってもよいし、第2調整弁78が第1調整弁76と同じ三方弁であってもよい。また、第1調整弁76は、第1バイパスライン75および返送ライン41に設けられた一対の流量制御弁で構成されてもよいし、第2調整弁78は、第2バイパスライン77および送気ライン21に設けられた一対の流量制御弁で構成されてもよい。
【0069】
第1調整弁76および第2調整弁78は、制御装置8により制御される。制御装置8は、第1温度センサ83および第2温度センサ84と接続されている。なお、
図7では、図面の簡略化のために一部の信号線のみを描いている。第1温度センサ83は、第1熱交換器51で冷却された余剰ガスの温度T3を検出し、第2温度センサ84は、非常用熱交換器63内の潜熱蓄熱材64の温度T4を検出する。
【0070】
余剰ガスが発生する場合、制御装置8は
図8に示すフローチャートに従った制御を行う。まず、制御装置8は、第1温度センサ83で検出される余剰ガスの温度T3を、上述した所定温度TB以上の設定温度Tiと比較する(ステップS11)。設定温度Tiは、第2熱交換器52を介して膨張装置43に導入するのに適した温度として(つまり、第2熱交換器52で余剰ガスの更なる冷却を考慮して)適宜設定される温度である。余剰ガスの検出温度T3が設定温度Tiよりも低い場合(ステップS11でYES)、制御装置8は、タンク11から抜き出されるBOGの少なくとも一部が非常用熱交換器63に導かれるように第2調整弁78を制御するとともに(ステップS12)、第1熱交換器51で冷却された余剰ガスの全量が第1バイパスライン75に流れるように第1調整弁76を制御する(ステップS13)。ステップS12では、余剰ガスの検出温度T3が設定温度Tiよりも低く保たれるように、換言すれば第1熱交換器51に流入するBOGの温度が高くなりすぎないように、第2調整弁78が制御される。
【0071】
一方、余剰ガスの検出温度T3が設定温度Tiよりも高い場合(ステップS11でNO)、制御装置8は、タンク11から抜き出されるBOGの全量が第2バイパスライン77に流れるように、第2調整弁78を制御する(ステップS14)。第1調整弁76の制御に関しては、制御装置8は、余剰ガスの検出温度T3を、第2温度センサ84で検出される潜熱蓄熱材64の温度T4とさらに比較する(ステップS15)。
【0072】
余剰ガスの検出温度T3が潜熱蓄熱材62の検出温度T4よりも低い場合(ステップS
15でYES)、制御装置8は、第1熱交換器51で冷却された余剰ガスの全量が第1バイパスライン75に流れるように第1調整弁76を制御する(ステップS13)。逆に、余剰ガスの検出温度T3が潜熱蓄熱材64の検出温度T4よりも高い場合(ステップS15でNO)、制御装置8は、第1熱交換器51で冷却された余剰ガスの全量が非常用熱交換器63に導かれるように、第1調整弁76を制御する(ステップS16)。
【0073】
本実施形態のように、第1熱交換器51で冷却された余剰ガスの温度T3を設定温度Tiと比較することにより、BOGの冷熱が第1熱交換器51で余剰ガスを冷却するのに有り余る否かを判定することができる。そして、第1熱交換器51で冷却された余剰ガスの温度T3が設定温度Tiよりも低いとき、換言すればBOGの冷熱が第1熱交換器51で余剰ガスを冷却するのに有り余るときに、BOGの少なくとも一部が非常用熱交換器63に導かれるため、余分な冷熱を蓄積することができる。
【0074】
また、本実施形態では、第1熱交換器51で冷却された余剰ガスが非常用熱交換器63に導かれるのは、第1熱交換器51で冷却された余剰ガスの温度T3が設定温度Tiよりも高く、かつ、潜熱蓄熱材64の温度T4よりも高いときのみである。従って、余剰ガスの冷却が不十分であり、かつ、余剰ガスのさらなる冷却が可能なときにのみ、余剰ガスを非常用熱交換器63で冷却することができる。
【0075】
(第7実施形態)
図9に、本発明の第7実施形態に係る船舶1Gを示す。本実施形態の船舶1Gが第5実施形態の船舶1Eと異なる点は、ポンプ14から副ガスエンジン16までの構成が全て設けられていない点である。
【0076】
本実施形態でも、第5実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0077】
(第8実施形態)
図10に、本発明の第8実施形態に係る船舶1Hを示す。本実施形態の船舶1Hが第5実施形態の船舶1Eと異なる点は、返送ライン41において第1熱交換器51と第2熱交換器52の間に位置する非常用熱交換器63の代わりに、返送ライン41において第3熱交換器53と第1熱交換器51の間に位置する非常用熱交換器65が採用されている点である。つまり、本実施形態では、第3熱交換器53が本発明の常用熱交換器に相当する。
【0078】
非常用熱交換器65は、第3熱交換器53と第1熱交換器51の間で返送ライン41に流れる余剰ガス(つまり、第3熱交換器53で冷却された余剰ガス)と、気液分離器34と第3熱交換器53の間で第2供給ライン32に流れるVG(つまり、冷却器33で冷却されたVG)との間で潜熱蓄熱材66を介して熱交換を行う。
【0079】
具体的に、非常用熱交換器65は、容器6a内に充填された潜熱蓄熱材66と、容器6aを貫通するとともに容器6a内で互いに離間する一対の配管6bを含む。配管6bは、第1実施形態で説明した非常用熱交換器61の配管6bと同じである。
【0080】
非常用熱交換器65内の潜熱蓄熱材66は、冷却器33で冷却されたVGの温度(約−140〜−100℃)よりもある程度高い凝固点を有する。例えば、潜熱蓄熱材66の凝固点は、−130〜−60℃である。このような潜熱蓄熱材64としては、例えば、メタノール、エタノール、2−ブタノール、2,2−ジメチルブタンなどを用いることができる。このため、潜熱蓄熱材66は、非常用熱交換器65に流入するVG(つまり、冷却器33で冷却されたVG)により冷却されて凝固する。一方、非常用熱交換器65に流入する余剰ガスの温度が潜熱蓄熱材66の凝固点よりも低い場合は潜熱蓄熱材66が融解しないが、非常用熱交換器65に流入する余剰ガスの温度が潜熱蓄熱材66の凝固点よりも高
くなると潜熱蓄熱材66が融解する。つまり、潜熱蓄熱材66は、当該潜熱蓄熱材66の凝固点と等しい所定温度TC以上の余剰ガスにより加熱されて融解する。
【0081】
以上説明した本実施形態の船舶1Hでは、非常用熱交換器65の潜熱蓄熱材66が凝固することによって、VGの冷熱を潜熱蓄熱材66の潜熱として蓄積することができる。余剰ガスが少ない場合には、第3熱交換器53で余剰ガスが十分に冷却されて、非常用熱交換器65に流入する余剰ガスの温度が所定温度TCよりも低くなるか同程度となる。このため、非常用熱交換器65はあまり機能しない。一方、余剰ガスが多い場合には、第3熱交換器53での余剰ガスの冷却が不十分となって、非常用熱交換器65に流入する余剰ガスの温度が所定温度TCよりも高くなる。このため、非常用熱交換器65の潜熱蓄熱材66が融解する。つまり、余剰ガスが多い場合には、潜熱蓄熱材66に蓄積したVGの冷熱によって、余剰ガスを冷却することができる。従って、余剰ガスが多い場合でも余剰ガスを十分に冷却することができ、余剰ガスの再液化率を向上させることができる。
【0082】
また、本実施形態では、返送ライン41上および第2供給ライン32上で第3熱交換器53と非常用熱交換器65とが直列に並んでいる。このため、第3熱交換器53で余剰ガスを冷却するのに余分なVGの冷熱を非常用熱交換器65に蓄積することが可能である。
【0083】
<変形例>
第1熱交換器51と第2熱交換器52のどちらか一方または双方は設けられなくてもよい。
【0084】
また、第3熱交換器53が設けられない代わりに、第1熱交換器51が返送ライン41において非常用熱交換器65の上流側に配置され、非常用熱交換器65が、第1熱交換器51で冷却された余剰ガスをさらに冷却してもよい。この場合、第1熱交換器51が本発明の常用熱交換器に相当する。
【0085】
また、第2および第6実施形態と同様に、返送ライン41に非常用熱交換器63をバイパスする第1バイパスラインが設けられ、第2供給ライン32に非常用熱交換器63をバイパスする第2バイパスラインが設けられてもよい。
【0086】
(その他の実施形態)
本発明は上述した第1〜第9実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0087】
例えば、
図11に示す船舶1Iのように、非常用熱交換器61,63,65の全てが併用されてもよい。あるいは、図示は省略するが、非常用熱交換器61,63,65のうちのいずれか2つが併用されてもよい。また、
図11に示す構成に、
図2に示す構成(第1および第2バイパスライン71,73ならびに第1および第2調整弁72,74)と
図7に示す構成(第1および第2バイパスライン75,77ならびに第1および第2調整弁76,78)の一方または双方が組み合わされてもよい。