特許第6757232号(P6757232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6757232防爆ロボットのメンテナンス設備及びメンテナンス方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6757232
(24)【登録日】2020年9月1日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】防爆ロボットのメンテナンス設備及びメンテナンス方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/00 20060101AFI20200907BHJP
   B25J 21/02 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   B25J19/00 H
   B25J21/02
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-211593(P2016-211593)
(22)【出願日】2016年10月28日
(65)【公開番号】特開2018-69372(P2018-69372A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大西 献
(72)【発明者】
【氏名】宿谷 光司
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 弘祥
(72)【発明者】
【氏名】小堀 周平
(72)【発明者】
【氏名】神吉 厚之
(72)【発明者】
【氏名】久川 恭平
【審査官】 中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−060299(JP,A)
【文献】 実開昭63−109440(JP,U)
【文献】 実開平04−019792(JP,U)
【文献】 特開2001−074286(JP,A)
【文献】 米国特許第05440916(US,A)
【文献】 特開2014−023397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J1/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防爆ロボットを収容するためのチャンバと、
前記チャンバの内部に非引火性ガスを導入可能なガス導入部と、
前記防爆ロボットが前記チャンバに収容されたことを検出可能なセンサと、
前記チャンバに前記防爆ロボットが出入りする際に開閉可能な開閉部を駆動する開閉駆動部と、
前記センサの検出結果に基づいて前記開閉駆動部を制御する開閉制御部と、
を備えることを特徴とする防爆ロボットのメンテナンス設備。
【請求項2】
前記開閉駆動部は、
前記開閉部を駆動するためのエアシリンダと、
圧縮気体を内蔵するガスボンベと、
前記エアシリンダと前記ガスボンベとの間に設けられた気体給排路と、
前記チャンバの防爆構造を有する室内に設けられ、前記気体給排路に介装された流路切替弁と、
を含むことを特徴とする請求項に記載の防爆ロボットのメンテナンス設備。
【請求項3】
前記圧縮気体は非引火性ガスであり、
前記ガス導入部は、前記気体給排路から分岐し、前記チャンバに導設されたガス導入路を含み、
前記開閉部の閉鎖動作と共に、前記ガス導入路を介して前記チャンバに前記非引火性ガスが導入されるように構成したことを特徴とする請求項に記載の防爆ロボットのメンテナンス設備。
【請求項4】
前記防爆ロボットが前記チャンバに収容された際に、前記防爆ロボットの防爆ケーシングの外表面に設けられ、前記防爆ケーシング内に収容された充電器に第1スイッチを介して接続された第1給電端子に対面するように、前記チャンバ内に設けられた第2給電端子と、
前記第2給電端子と電力供給源とに接続された第2給電路と、
前記チャンバの防爆構造を有する室内に設けられ、前記第2給電路に介装された第2スイッチと、
前記センサの検出結果に基づいて前記第2スイッチを開閉する給電制御部と、
を備えることを特徴とする請求項乃至の何れか1項に記載の防爆ロボットのメンテナンス設備。
【請求項5】
前記給電制御部は、
前記センサが前記防爆ロボットの前記チャンバ内への収容を検出した時から所定時間遅れて前記スイッチを閉じるように制御することを特徴とする請求項に記載の防爆ロボットのメンテナンス設備。
【請求項6】
前記チャンバは少なくとも一側壁が透明な側壁で構成され、
前記側壁にグローブボックスを備えることを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載の防爆ロボットのメンテナンス設備。
【請求項7】
非引火性ガスを内部に導入可能なチャンバを用いて防爆ロボットのメンテナンス作業を実施する防爆ロボットのメンテナンス方法であって、
前記チャンバに設けられた開閉部を開いて、前記チャンバ内に前記防爆ロボットを収容する収容ステップと、
前記収容ステップの後で、前記開閉部を閉じることにより前記チャンバ内外を隔離する隔離ステップと、
前記チャンバ内に前記非引火性ガスを導入するガス導入ステップと、
前記非引火性ガスの導入が完了した後、前記チャンバ内で前記メンテナンス作業を実施する作業実施ステップと、
を含み、
前記収容ステップでは、前記防爆ロボットが有する第1給電端子が前記チャンバが有する第2給電端子に接触するように、前記防爆ロボットが収容され、
前記作業実施ステップでは、互いに接触する前記第1給電端子及び前記第2給電端子を介して前記チャンバ側から前記防爆ロボットに給電する給電作業が実施される
ことを特徴とする防爆ロボットのメンテナンス方法。
【請求項8】
前記作業実施ステップは、前記ガス導入ステップの完了後、所定時間遅れて実行されることを特徴とする請求項に記載の防爆ロボットのメンテナンス方法。
【請求項9】
前記ガス導入ステップでは、
前記チャンバの内部が前記チャンバの外圧に比べて高くなるように前記非引火性ガスの導入が行われることを特徴とする請求項7又は8に記載の防爆ロボットのメンテナンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、爆発性雰囲気で使用可能な防爆ロボットのメンテナンス設備及びメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
爆発性雰囲気における防災支援作業や建築物保全作業では、産業保安の観点から防爆対策が施された防爆機器が使用される。防爆機器では、使用される電気部品の電気火花や高温部が爆発性雰囲気に対して点火源とならないよう防爆対策が施されている。
防爆機器を実際の作業で使用するためには、実務上、型式検定機関による検定が必要とされている。このような検定は、例えば国際規格である国際整合防爆指針2008Exに基づいて実施される(具体的な規格運用に関しては、例えば非特許文献1を参照)。
【0003】
この種の防爆機器の幾つかの例として、特許文献1及び2には、爆発性雰囲気に侵入して作業を行う産業用ロボットに用いられる防爆構造が開示されている。特許文献1には、外部に設けられたエア供給源からエアパイプを介してロボットのケーシング内にエアを供給することにより、ケーシング内の圧力を周囲の爆発性雰囲気の圧力より高く保持することで、電気部品のあるケーシング内に爆発性気体が流入することを防止する防爆構造が開示されている。特許文献2では、特に、ケーシング内の圧力が低下することでケーシング内への爆発性気体が流入するおそれがある場合に、ケーシング内の電気部品への通電を遮断する保護監視装置を備えることが記載されている。
また特許文献2には、ケーシング内にエアを供給するためのエアタンクをケーシングの外側に搭載した防爆構造が開示されており、特許文献1と同様に、ケーシング内の圧力が低下した場合に、ケーシング内の電気部品への通電を遮断することが記載されている。
【0004】
特許文献3には、防爆区域における防爆ロボットのメンテナンス方式として、内圧加圧方式の防爆構造を有する電源供給ダクトから移動ロボットへ給電する給電方式が開示されている。
特許文献4には、防爆ロボットに対し、外部との信号のやり取りを無線で行い、給電を非接触式給電で行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2796482号公報
【特許文献2】特開2015−36172号公報
【特許文献3】特開平06−196240号公報
【特許文献4】特開平11−234156号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】一般社団法人 日本電気制御機器工業会 防爆委員会「防爆安全ガイドブック(設備安全のための防爆電気機器点検ガイド)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
引火性ガス雰囲気の危険場所で、防爆ロボットのメンテナンスや充電等の作業をする場合、裸端子やコネクタの使用は許容されない。そのため、防爆要件(例えば、耐圧防爆容器内部へ電気要素を収容した後、通電するなどの措置)を満たす必要がある。
特許文献3に開示された方式は、給電のみ可能であり、分解、点検等、他のメンテナンスを行うことはできない。
特許文献4に開示された方法は、防爆ロボットに対し、外部から非接触で信号のやり取りや給電を行うため、装置が高価になるという問題がある。
【0008】
少なくとも一実施形態は、上述の問題点に鑑みなされてものであり、簡易かつ低コストで防爆区域又はその近くで防爆ロボットのメンテナンスを可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)少なくとも一実施形態に係る防爆ロボットは、
防爆ロボットを収容するためのチャンバと、
前記チャンバの内部に非引火性ガスを導入可能なガス導入部と、
を備える。
なお、ここで、「防爆ロボット」とは、防爆構造を有するロボットであり、「防爆構造」とは、前述の国際整合防爆指針2008Exに規定された構造である。例えば、特許文献1に開示されているように、ケーシング内の圧力を周囲の爆発性雰囲気より高く保持することで、電気部品のあるケーシング内に爆発性気体が流入することを防止する防爆構造であり、又は、耐圧容器に電気要素を収容し、耐圧容器の内部で引火性ガス爆発があっても、耐圧容器の周囲に影響を及ぼさない防爆構造等である。
【0010】
上記(1)の構成によれば、チャンバ内に防爆ロボットを収容した後、チャンバの内部に非引火性ガスを導入し、チャンバ内雰囲気を非引火性ガスで置換することで、引火性ガス爆発のおそれなく、分解、点検、給電等のメンテナンスが可能になる。
また、チャンバを防爆区域又はその近くに設置することで、防爆区域又はその近傍で防爆ロボットのメンテナンスが可能になる。
【0011】
(2)一実施形態では、前記(1)の構成において、
前記防爆ロボットが前記チャンバに収容されたことを検出可能なセンサと、
前記チャンバに前記防爆ロボットが出入りする際に開閉可能な開閉部を駆動する開閉駆動部と、
前記センサの検出結果に基づいて前記開閉駆動部を制御する開閉制御部と、
を備える。
上記(2)の構成によれば、上記センサで防爆ロボットがチャンバ内に収容されたことを検出し、上記開閉制御部によって上記開閉部を閉じることで、防爆ロボットのチャンバへの収容を自動化できる。従って、作業員が防爆区域に立ち入る必要がなくなり、作業員の安全を確保できる。
【0012】
(3)一実施形態では、前記(2)の構成において、
前記開閉駆動部は、
前記チャンバの前記開閉部を駆動するためのエアシリンダと、
圧縮気体を内蔵するガスボンベと、
前記エアシリンダと前記ガスボンベとの間に設けられた気体給排路と、
前記チャンバの防爆構造を有する室内に設けられ、前記気体給排路に介装された流路切替弁と、
を含む。
上記(3)の構成において、ガスボンベ内の圧縮気体は上記気体給排路を介してエアシリンダに給排され、上記開閉部を開閉する。上記流路切替弁によってエアシリンダのシリンダ室への圧縮気体の給排が切り替えられ、上記開閉部の開閉動作が切り替えられる。
【0013】
上記(3)の構成によれば、ガスボンベ内の圧縮気体を用いた機械的な駆動手段でチャンバの開閉部を駆動するので、電気部品によるスパークの発生を避けることができる。従って、引火性ガス爆発のおそれなく防爆ロボットのメンテナンスが可能になる。
なお、上記流路切替弁は防爆構造を有する室内に設けられるので、流路切替弁の動作に起因して引火性ガス爆発が起こっても室外への影響はない。
【0014】
(4)一実施形態では、前記(3)の構成において、
前記圧縮気体は非引火性ガスであり、
前記ガス導入部は、前記気体給排路から分岐し、前記チャンバに導設されたガス導入路を含み、
前記開閉部の閉鎖動作と共に、前記ガス導入路を介して前記チャンバに前記非引火性ガスが導入されるように構成する。
上記(4)の構成によれば、上記開閉駆動部で用いられる非引火性ガスを上記ガス導入路からチャンバへ導入するようにしたので、ガス導入部の構成を簡易かつ低コスト化できる。
【0015】
(5)一実施形態では、前記(2)〜(4)の何れかの構成において、
前記防爆ロボットが前記チャンバに収容された際に、前記防爆ロボットの防爆ケーシングの外表面に設けられ、前記防爆ケーシング内に収容された充電器にコンタクタを介して接続された第1給電端子に対面するように、前記チャンバ内に設けられた第2給電端子と、
前記第2給電端子と電力供給源とに接続された第2給電路と、
前記チャンバの防爆構造を有する室内に設けられ、前記第2給電路に介装されたスイッチと、
前記センサの検出結果に基づいて前記スイッチを開閉する給電制御部と、
を備え、
前記コンタクタは、前記第1給電路に設けられ、前記第1給電端子と前記第2給電端子とが接触し、前記第1給電路に電圧が付加されたときのみ前記第1給電路を閉じるものである。
【0016】
上記(5)の構成において、防爆ロボットがチャンバ内に進入することで、上記第1給電端子と上記第2給電端子とが自動的に接触する。第1給電端子と第2給電端子とが接触すると、上記給電制御部は上記スイッチを閉じる。これによって、第2給電路から第1給電路を介して充電器に給電される。
このように、防爆ロボットがチャンバ内に収容された後、充電器に自動的に給電されるため、作業員がチャンバに立ち入らなくても給電が可能になり、そのため、作業員の安全を確保できる。
なお、上記コンタクタは、第1給電端子と第2給電端子とが接触し、第1給電路に電圧が付加されたときのみ第1給電路を閉じるように作動するので、防爆ロボットの給電時以外は、第1給電端子と充電器とは電気的に遮断される。従って、給電時以外に、第1給電端子からスパークなどが発生するのを防止できる。
【0017】
(6)一実施形態では、前記(5)の構成において、
前記給電制御部は、
前記センサが前記防爆ロボットの前記チャンバ内への収容を検出した時から所定時間遅れて前記スイッチを閉じるように制御する。
上記(6)の構成によれば、上記センサが防爆ロボットの収容を検出した時から給電開始までの間に所定時間遅れを持たせることで、防爆ロボットの収容後から給電までの間、周囲の安全確認を行う時間を確保できる。
【0018】
(7)一実施形態では、前記(1)〜(6)の何れかの構成において、
前記チャンバは少なくとも一側壁が透明な側壁で構成され、
前記側壁にグローブボックスを備える。
上記(8)の構成によれば、透明な側壁にグローブボックスを備えることで、チャンバに収納された防爆ロボットの分解、点検等のメンテナンスをチャンバの外側から行うことができる。
【0019】
(8)少なくとも一実施形態に係る防爆ロボットのメンテナンス方法は、
非引火性ガスを内部に導入可能なチャンバを用いて防爆ロボットのメンテナンス作業を実施する防爆ロボットのメンテナンス方法であって、
前記チャンバに設けられた開閉部を開いて、前記チャンバ内に前記防爆ロボットを収容する収容ステップと、
前記収容ステップの後で、前記開閉部を閉じることにより前記チャンバ内外を隔離する隔離ステップと、
前記チャンバ内に前記非引火性ガスを導入するガス導入ステップと、
前記非引火性ガスの導入が完了した後、前記チャンバ内で前記メンテナンス作業を実施する作業実施ステップと、
を含む。
【0020】
上記(8)の方法によれば、防爆ロボットをチャンバ内に収容した後、チャンバ内外を隔離した状態で、チャンバの内部に非引火性ガスを導入し、チャンバ内の引火性ガスを非引火性ガスで置換することで、引火性ガス爆発のおそれなく、分解、点検、給電等のメンテナンスが可能になる。
また、チャンバを防爆区域又はその近くに設置することで、防爆区域又はその近傍で防爆ロボットのメンテナンスが可能になる。
【0021】
(9)一実施形態では、前記(8)の方法において、
前記収容ステップでは、前記防爆ロボットが有する第1給電端子が前記チャンバが有する第2給電端子に接触するように、前記防爆ロボットが収容され、
前記作業実施ステップでは、互いに接触する前記第1給電端子及び前記第2給電端子を介して前記チャンバ側から前記防爆ロボットに給電する給電作業が実施される。
上記(9)の方法によれば、防爆ロボットがチャンバに収容されると、第1給電端子が第2給電端子に接触するようにしたので、チャンバ内で防爆ロボットへの給電を自動的に行うことができる。
【0022】
(10)一実施形態では、前記(8)又は(9)の方法において、
前記作業実施ステップは、前記ガス導入ステップの完了後、所定時間遅れて実行される。
上記(10)の方法によれば、チャンバ内雰囲気を非引火性ガスで置換した後、作業実施ステップの開始を所定時間だけ遅らせることで、防爆ロボットの収容後から作業開始までの間、周囲の安全確認を行う時間を確保できる。
【0023】
(11)一実施形態では、前記(8)〜(10)の何れかの方法において、
前記ガス導入ステップでは、
前記チャンバの内部が前記チャンバの外圧に比べて高くなるように前記非引火性ガスの導入が行われる。
上記(11)の方法によれば、チャンバの内部を前記チャンバの外部より加圧された状態とすることで、チャンバ外の引火性ガスを含む雰囲気がチャンバ内に侵入するのを防止でき、チャンバ内を防爆状態に維持できる。
【発明の効果】
【0024】
少なくとも一実施形態によれば、防爆ロボットを爆発性雰囲気中又はその近くで簡易かつ低コストでメンテナンスが可能になる。
従って、防爆ロボットのメンテナンスが容易になるため、防爆ロボットの活動範囲を広げることができる。これによって、防爆ロボットによる災害時の状況確認が迅速かつ確実になり、人名救助や施設保全のレベルアップが可能になる。また、石油化学プラントの巡回などを防爆ロボットで行うことで、人件費を削減できると共に、点検頻度が上がり安全性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】一実施形態に係るメンテナンス設備の断面図である。
図2】一実施形態に係るメンテナンス設備の断面図である。
図3】一実施形態に係るメンテナンス設備の斜視図である。
図4】一実施形態に係るメンテナンス方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
また例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0027】
幾つかの実施形態に係る防爆ロボットのメンテナンス設備10(10A、10B)を図1及び図2に示す。
図1及び図2において、メンテナンス設備10(10A、10B)は、チャンバ12を備える。チャンバ12は、例えば、爆発性雰囲気を有する防爆区域又はその近傍に設けることができる。また、チャンバ12は開閉部22を備え、防爆ロボット16をチャンバ12の内部に収容可能であり、かつチャンバ内に非引火性ガスを導入するガス導入部14を備える。
防爆ロボット16は防爆構造を有して自走可能な作業用ロボットである。ここで、「防爆構造」とは、前述の国際整合防爆指針2008Exに規定された構造である。
一実施形態では、防爆ロボット16は走行するための車輪20を備える。あるいは、図3に示すように、防爆ロボット16は走行するための無限軌道72を備える。
【0028】
防爆ロボット16のメンテナンスを行うとき、開閉部22を開けチャンバ12の内部に防爆ロボット16を収容する。そして、開閉部22を閉じチャンバ12内の収容空間Sを密閉状態とする。その後、収容空間Sに非引火性ガスを導入して該収容空間の雰囲気を非引火性ガスと置換する。
これによって、収容空間Sで引火性ガス爆発のおそれなく、防爆ロボット16の分解、点検、給電等のメンテナンスが可能になる。
また、チャンバ12を防爆区域又はその近くに設置することで、防爆ロボット16をメンテナンスのために遠方まで移動させる必要がなく、防爆区域又はその近傍で防爆ロボット16のメンテナンスが可能になる。
【0029】
一実施形態では、チャンバ12の内部に仕切壁25が立設され、開閉部22と仕切壁25との間に収容空間Sが形成される。この実施形態では、防爆ロボット16は収容空間Sに収容される。開閉部22が閉じられ、収容空間Sの雰囲気が非引火性ガスと置換された後、収容空間Sを非引火性ガスによってチャンバ外より加圧状態にすると、チャンバ外の引火性ガスが収容空間Sに侵入するのを抑制でき、防爆条件を満たす防爆構造とすることができる。
別の防爆構造として、開閉部22を閉じたとき、収容空間Sを形成するチャンバ12の隔壁、仕切壁25及び開閉部22を耐圧性の密閉可能な構造とすることで、防爆構造とすることができる。これによって、防爆ロボット16のメンテナンス中に、防爆ロボット16が搭載するバッテリなどの電気要素が点火源となって爆発が生じたときでも、周囲への影響を抑制できる。
【0030】
一実施形態では、図1及び図2に示すように、チャンバ12は、防爆ロボット16がチャンバ内に収容されたことを検出するセンサ24を備える。また、チャンバ12は防爆ロボット16がチャンバ12を出入りする際に開閉部22を開閉する開閉駆動部26と、センサ24の検出結果に基づいて開閉駆動部26を制御する制御部28(開閉制御部)と、を備える。
防爆ロボット16がチャンバ内に収容され、センサ24がそれを検出すると、制御部28によって開閉駆動部26が作動し、開閉部22が閉じると収容空間Sが密閉される。
これによって、防爆ロボット16のチャンバ12への収容を自動化できる。従って、作業員が引火性ガス雰囲気に立ち入って防爆ロボット16の収容作業を行う必要がないので、作業員の安全を確保できる。
さらに、制御部28は、開閉部22の閉動作を確認してガス導入部14を作動させ、収容空間Sに非引火性ガスを導入するように制御する構成としてもよい。
【0031】
一実施形態では、センサ24はリミットスイッチである。このリミットスイッチは仕切壁25に収容空間Sに面して設けられる。一方、防爆ロボット16の外壁18の一端に接触端27が設けられる。接触端27は該リミットスイッチに対面する位置に設けられ、接触端27が該リミットスイッチに接触すると、該リミットスイッチから制御部28に信号が送られ、制御部28は開閉駆動部26を作動させ収容空間Sを閉じる。
一実施形態では、開閉部22は上下方向に移動可能なシャッタであり、該シャッタを上下方向へ移動させるエアシリンダ30がチャンバ12の上壁面に設けられる。エアシリンダ30のピストン38cは上下方向に動くように配置される。該シャッタはピストン38cと一体に設けられ、エアシリンダ30によって上下方向に移動することで、収容空間Sを開閉する。
【0032】
一実施形態では、開閉駆動部26は、エアシリンダ30と、ガスボンベ32と、気体給排路34と、気体給排路34に介装された流路切替弁36と、を含む。
エアシリンダ30は、前述のように開閉部22を開閉動作させる。ガスボンベ32には圧縮気体が内蔵されている。気体給排路34はエアシリンダ30とガスボンベ32との間に設けられる。
ガスボンベ32内の圧縮気体は気体給排路34を介してエアシリンダ30に給排される。流路切替弁36によってエアシリンダ30のシリンダ室38a及び38bへの圧縮気体の給排が切り替えられ、これによって、開閉部22の開閉動作が切り替えられる。
【0033】
上記構成の開閉駆動部26によれば、ガスボンベ32内の圧縮気体を用いた機械的な駆動手段で開閉部22を駆動するので、開閉駆動部26で電気的スパークは発生しない。従って、開閉駆動部26の動作に起因する引火性ガス爆発のおそれをなくすことができる。
【0034】
一実施形態では、仕切壁25とチャンバ12の外壁12aで密閉空間Sが形成され、密閉空間Sを形成する壁面は上記防爆指針を満たす耐圧防爆容器を形成する。流路切替弁36は密閉空間Sに配置される。
これによって、流路切替弁36の作動が点火源となって引火性ガス爆発が生じた場合であっても、密閉空間Sの周囲への影響を抑制できる。
【0035】
一実施形態では、ガスボンベ32内の圧縮気体は非引火性ガスであり、ガス導入部14は、気体給排路34から分岐し、収容空間Sに導設されたガス導入路40を含む。この実施形態では、開閉部22が閉鎖動作を行うと共に、ガス導入路40を介して収容空間Sに非引火性ガスが導入される。
これによって、開閉駆動部26にガス導入路40を加えただけの構成で、開閉部22の開閉と、チャンバ12内への非引火性ガスの導入とを行うことができるので、ガス導入路40の構成を簡易かつ低コスト化できる。
【0036】
一実施形態では、図2に示すように、防爆ロボット16の外壁に第1給電端子42が設けられ、防爆ロボット16に充電器44が搭載される。第1給電端子42と充電器44とは第1給電路46で接続される。
他方、チャンバ12には、チャンバ12の内部で第1給電端子42と対面する位置に第2給電端子52が設けられ、第2給電端子52は第2給電路54を介して電力供給源(不図示)に接続される。
スイッチ56は第2給電路54に介装され、防爆構造を形成する密閉空間Sに設けられる。即ち、密閉空間Sを囲む仕切壁25とチャンバ12の外壁とで耐圧容器が形成される。制御部28(給電制御部)は、センサ24の検出結果に基づいてスイッチ56を開閉する。
【0037】
上記構成において、防爆ロボット16がチャンバ12内に進入し、第1給電端子42と第2給電端子52とが接触すると、制御部28はスイッチ56を閉じる。これによって、第2給電端子52と電力供給源とが接続され、第2給電路54から第1給電路46を介して充電器44に給電される。
一実施形態では、防爆ロボット16には、バッテリ48が搭載され、充電器44を介してバッテリ48に蓄電される。防爆ロボット16に充電器44及びバッテリ48等の動作を制御するバッテリ制御部50が搭載される。
【0038】
これによって、防爆ロボット16がチャンバ12内に進入し、第1給電端子42と第2給電端子52とが接触すると、充電器44に自動的に給電されるため、作業員がチャンバ12に立ち入らなくても給電が可能になる。そのため、作業員の安全を確保できる。
この実施形態では、制御部28は、開閉部22の開閉制御と防爆ロボット16への給電時の給電制御とを兼用する。他方、開閉部22の開閉制御と給電制御とを別な制御部で行うようにしてもよい。
【0039】
一実施形態では、図2に示すように、制御部28の給電制御は、センサ24が防爆ロボット16のチャンバ内への収容を検出した時から所定時間の遅れをもってスイッチ56を閉じるようにする。
このように、センサ24が防爆ロボット16の収容を検出した時から給電開始までの間に遅れを持たせることで、安全を確認する時間を確保できる。
【0040】
一実施形態では、上記遅れ動作は、センサ24が防爆ロボット16の収容を検出した時から設定されたカウント数を経た後、スイッチ56を閉じるようにする。
一実施形態では、上記遅れ動作は、制御部28にタイマを内蔵させ、該タイマによってセンサ24が防爆ロボット16の収容を検出した時から所定時間の遅れをもってスイッチ56を閉じるようにしてもよい。
【0041】
一実施形態では、図2に示すように、仕切壁25に引火性ガスを検出するガスセンサ58を設ける。そして、センサ24が防爆ロボット16の収容を検出した後、チャンバ12の内部に非引火性ガスの導入を開始する。その後、ガスセンサ58がチャンバ内の引火性ガス量が許容値を下回ったことを検出した後、防爆ロボット16への給電を開始する。
これによって、チャンバ12の内部が確実に防爆条件を満たしたことを確認して、給電を開始できる。
【0042】
一実施形態では、コンタクタ60を第1給電路46に設ける。コンタクタ60は、第1給電端子42と第2給電端子52とが接触し、第1給電路46に電圧が付加されたときのみ第1給電路46を閉じる。
これによって、防爆ロボット16への給電時以外は、第1給電端子42と充電器44とは電気的に遮断されているので、第1給電端子42からスパークなどが発生するおそれはなく、引火性ガス爆発を防止できる。
【0043】
図3は、チャンバ12の一実施形態を示す。
図3に示すように、一実施形態では、チャンバ12は少なくとも一側壁が透明な側壁62で構成される。また、透明な側壁62の一部にグローブボックス64を備える。
これによって、作業員は、チャンバ12に収容された防爆ロボット16をチャンバ12の外から目視しながら、グローブボックス64を用いて、防爆ロボット16の分解、点検等を行うことができる。
【0044】
一実施形態では、図3に示すように、チャンバ12の上面に非引火性ガスを導入するガス導入ダクト66が接続され、ガス導入ダクト66の流路を開閉するダンパ68が設けられる。開閉制御部70は、チャンバ12の開閉部(不図示)が閉じられたことを検出した後、ダンパ68を開方向へ動作させ、非引火性ガスをチャンバ12の内部へ導入する。
一実施形態では、図3に示すように、防爆ロボット16は、走行部として無限軌道72を備える。
【0045】
少なくとも一実施形態に係る防爆ロボットのメンテナンス方法は、非引火性ガスを内部に導入可能なチャンバ12を用い、防爆ロボット16のメンテナンス作業を実施するものである。
即ち、図4に示すように、まず、チャンバ12に設けられた開閉部22を開いて、チャンバ12内に防爆ロボット16を収容する(収容ステップS10)。
収容ステップS10の後で、開閉部22を閉じることでチャンバ内外を隔離する(隔離ステップS12)。
次に、チャンバ内に非引火性ガスを導入し、チャンバ内の引火性ガス雰囲気を非引火性ガスと置換する(ガス導入ステップS14)。
非引火性ガスの導入が完了した後で、チャンバ内でメンテナンス作業を実施する(作業実施ステップS16)。
【0046】
上記方法によれば、防爆構造を有するチャンバ12の内部で引火性ガス爆発のおそれなく、防爆ロボット16の分解、点検等のメンテナンスが可能になる。
また、チャンバ12を防爆区域又はその近くに設置することで、防爆ロボット16を防爆区域から離れた位置まで移動させることなく、防爆区域又はその近傍でメンテナンスが可能になる。
【0047】
一実施形態では、収容ステップS10において、防爆ロボット16が有する第1給電端子42がチャンバ12が有する第2給電端子52に接触するように、防爆ロボット16が収容される。
一実施形態では、作業実施ステップS16において、互いに接触する第1給電端子42及び第2給電端子52を介してチャンバ側から防爆ロボット16に給電する給電作業が実施される。
上記方法によれば、防爆ロボット16がチャンバ12に収容されると、第1給電端子42が第2給電端子52に接触するようにしたので、チャンバ内で防爆ロボット16への給電を自動的に行うことができる。
【0048】
一実施形態では、第1給電端子42と第2給電端子52とを互いに対面する位置に配置する。例えば、第1給電端子42は防爆ロボット16の外壁18の一端に設けられる。
【0049】
一実施形態では、作業実施ステップS16は、ガス導入ステップS14の完了後所定時間遅れて実行される。
これによって、チャンバ内雰囲気を非引火性ガスに置換した後、作業実施ステップS16を所定時間遅らせることで、防爆ロボット16の収容後から作業開始までの間、周囲の安全確認を行う時間を確保できる。
【0050】
一実施形態では、ガス導入ステップS14において、チャンバ12の内部をチャンバ12の外部より高圧となるように非引火性ガスの導入を行う。
これによって、チャンバ外の引火性ガスを含む雰囲気がチャンバ内に侵入するのを防止でき、チャンバ内を防爆状態に維持できる。
一実施形態では、チャンバ12を耐圧防爆容器とし、チャンバ12の内部に電気要素を収容することで、該電気要素又は防爆ロボット16に搭載されたバッテリなどの電気要素が点火源となって爆発が生じても、チャンバ12の周囲への影響を抑制できる。
【0051】
上記実施形態の各々に係るメンテナンス設備10は、爆発性雰囲気中又はその近くに設けることで、防爆ロボット16を爆発性雰囲気中又はその近くで簡易にメンテナンスすることが可能になる。
従って、防爆ロボット16のメンテナンス作業が容易になるため、防爆ロボット16の活動範囲を広げることができる。従って、災害時の状況確認が迅速かつ確実になり、人名救助や施設保全のレベルアップが可能になる。また、石油化学プラントの巡回などを産業用ロボットで行うことで、人件費を削減できると共に、点検頻度が上がり安全性を向上できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
幾つかの実施形態によれば、爆発性雰囲気中又はその近くで簡易かつ低コストで防爆ロボットのメンテナンスが可能になり、これによって、防爆ロボットの活動範囲を広げることができる。
【符号の説明】
【0053】
10(10A、10B) メンテナンス設備
12 チャンバ
14 ガス導入部
16 防爆ロボット
12a、18 外壁
20 車輪
22 開閉部
24 センサ
25 仕切壁
26 開閉駆動部
27 接触端
28 制御部(開閉制御部、給電制御部)
30 エアシリンダ
32 ガスボンベ
34 気体給排路
36 流路切替弁
38a、38b シリンダ室
38c ピストン
40 ガス導入路
42 第1給電端子
44 充電器
46 第1給電路
48 バッテリ
50 バッテリ制御部
52 第2給電端子
54 第2給電路
56 スイッチ
58 ガスセンサ
60 コンタクタ
62 側壁
64 グローブボックス
66 ガス導入ダクト
68 ダンパ
70 開閉制御部
72 無限軌道
収容空間
密閉空間
図1
図2
図3
図4