(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリマーがポリヌクレオチドであり、選択する前記ステップが、前記ナノポアアレイを横切る電場強度を変化させることによって配列決定スループットを最大にするように前記ポリマー流束を調節することを含む、請求項9に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発明の詳細な説明)
本発明は、様々な修正および代替形態を受け得るが、それらの詳細を図面に例として示しており、これより詳細に記述する。しかし、本発明を、記述される特定の実施形態に限定しようとするものではないことを理解すべきである。それどころか、本発明の精神および範囲内に入る全ての修正例、均等物、および代替例を包含するものである。例えば、本発明の特定のナノポアのタイプおよび数、特定の標識、FRET対、検出スキーム、製作手法は、例示の目的で示される。しかし本開示は、その他のタイプのナノポア、ナノポアのアレイ、およびその他の製作技術を利用して本明細書で論ずるシステムの様々な態様を実現することができるので、この点に限定するものではないことを理解すべきである。本発明の態様に関する指針は、その関連ある部分が参照により本明細書に組み込まれる、例えば、Cao,Nanostructures&Nanomaterials(Imperial College Press,2004);Levinson,Principles of Lithography,Second Edition(SPIE Press,2005);Doering and Nishi, Editors,Handbook of Semiconductor Manufacturing Technology,Second Edition(CRC Press,2007);Sawyer et al,Electrochemistry for Chemists,2
nd edition(Wiley Interscience,1995);Bard and Faulkner,Electrochemical Methods:Fundamentals and Applications,2
nd edition(Wiley,2000);Lakowicz,Principles of Fluorescence Spectroscopy,3
rd edition(Springer,2006);Hermanson,Bioconjugate Techniques,Second Edition(Academic Press,2008);などを含む、当業者に周知の多くの入手可能な参考文献および論文に見出される。
【0017】
本発明は、光学検出システムにカップリングされた、ナノポア、ナノウェル、またはナノ粒子などのナノスケール構造の稠密アレイを使用した、効率的なポリマー分析のための方法およびデバイスを対象とする。一部の実施形態では、目的のポリマーは、直鎖状の鎖に連結された少なくとも2つの異なる種類のモノマーの配列を含む直鎖状ポリマーであって、少なくとも1つの種類のモノマーの実質的にそれぞれ全ては、標識が取着されるモノマーを示す光学シグナルを発生させることが可能な光学標識で標識されている、直鎖状ポリマーである。他の実施形態では、目的のポリマーは、直鎖状の鎖に連結された少なくとも2つの異なる種類のモノマーの配列を含む直鎖状ポリマーであって、各種類の実質的に全てのモノマーは、標識が取着されるモノマーを示す光学シグナルを発生させることが可能な光学標識で標識されている、直鎖状ポリマーである。さらに他の実施形態では、目的のポリマーは、そのようなポリヌクレオチドのヌクレオチド配列に関する情報を含有する光学シグナルの配列を発生させる反応に、関与することが可能なポリヌクレオチドである。特定の目的のポリマーは、ポリヌクレオチド、特に一本鎖DNAである。そのヌクレオチドが、相互に消光する組から得た蛍光色素などの蛍光色素で標識された、DNAポリマーも特定の目的のものである。一態様では、本発明は、試料中の完全または部分ポリマーのモノマー配列を決定する方法およびデバイスを提供する。別の態様では、本発明は、試料中のポリマーまたはポリヌクレオチドの光学シグネチャーまたはフィンガープリントを決定する方法を提供する。本発明の方法およびデバイスは、光学検出の分解能限界に鑑み、高容量ナノポアまたはナノウェルアレイの効率的な使用の問題に対処する。本発明の方法およびデバイスは、製作誤差からの膜不全または欠陥、不活性なまたは誤取着のポリメラーゼなどの不活性酵素、さらにタンパク質ナノポアが用いられるときには、タンパク質のミスフォールディング、サブユニット誤凝集、および膜内でのタンパク質ナノポアの動作不能な配向などを含むがこれらに限定されない様々な条件によって引き起こされる可能性のある、非機能的ナノポアまたはナノウェルによって引き起こされるデータ獲得能の損失の問題にも対処する。
【0018】
本明細書で使用される、「分解能限界区域」は、ナノポアまたはナノウェルアレイの表面の区域であり、その区域内では、光学シグナル検出システムによって個々の特徴または発光源を区別することができない区域である。理論により限定されるものではないが、そのような分解能限界区域は、光学システムの分解能限界(場合によっては、「回折限界」または「回折障壁」とも呼ぶ)によって決定される。そのような限界は、放出源の波長および光学部品によって決定され、d=λ/NA(式中、dは、分解することができる最小特徴であり、λは光の波長であり、NAは、光を集束するのに使用される対物レンズの開口数である)によって定義することができる。このように、2つまたはそれ超のナノポアが分解能限界区域内にあり、かつ2つまたはそれ超の光学シグナルがそれぞれのナノポアで発生する場合にはいつでも、光学検出システムは、どの光学シグナルがどのナノポアから来たのかを区別または決定することができない。本発明によれば、ナノポアアレイの表面は、分解能限界区域に対応して非オーバーラップ領域または実質的に非オーバーラップ領域に、仕切られまたは細分され得る。分解能限界区域に対応するそのような細分のサイズは、用いられる特定の光学検出システムに依存し得る。一部の実施形態では、発光源が可視スペクトル内にあるときにはいつでも、分解能限界区域は300nm
2から3.0μm
2の範囲にあり;他の実施形態では、分解能限界区域は1200nm
2から0.7μm
2の範囲にあり;他の実施形態では、分解能限界区域は3×10
4nm
2から0.7μm
2の範囲にあり、区域の前述の範囲はナノポアまたはナノウェルアレイの表面に関するものである。一部の実施形態では、可視スペクトルは、約380nmから約700nmの範囲の波長を意味する。
【0019】
ナノポアアレイにおける活性ナノポアの平均数は、下記の通り推定することができる。αを、機能的なナノポアの割合とし;tを、ナノポアを通るポリマーの平均移行時間とし;wを、次のポリマーまたはポリマー断片までの平均待機時間とする。ナノポアが「活性」と定義される場合、それが目下ポリマーを移行させているときにはいつでも、ナノポアの活性割合uに関する式は、下記の通り表すことができる:
u=αt/(w+t)
この式は、uが、αもしくはtを増大させることによって、またはwを低減させることによって、増大できることを示唆する。例えば、αは、ナノポアアレイの製造を改善することによって増大させることができ、tは、分析されるポリマーの長さを延ばすことによって増大させることができ、wは、ナノポアアレイを横断するポリマーの流束を増大させることによって、例えば、DNAの場合には、ポリマーの濃度を増加させることによって、かつ/またはポリマー推進力、例えば、アレイを横切る電位を増大させることによって、低減させることができる。上述のように、ナノポアアレイの効率を増大させるこれらの手法は限られており、それはこれらの手法が大量の数または密度の活性ナノポアがもたらし得るとはいえ、2つまたはそれ超のナノポアが分解能限界区域内にあるときにはいつでも、得られるシグナルが有用な情報を提供しないからである。したがって、一態様では、本発明の方法は、分解能の限界によって課された拘束に鑑み、有用な情報を提供するナノポアの数を最大にするuの値を提供する。一態様では、有用な配列情報を提供することが可能なナノポアは、本明細書では「配列決定可能なナノポア」と呼ばれる分解能限界区域内の活性ナノポアのみである。即ち、配列決定可能なナノポアは、同時に同じ分解能限界区域内にその他の活性ナノポアを持たないものである。四角形のアレイとして間隔を空けて配置されたナノポアの場合、配列決定可能なナノポアの数は、下記の通り推定され得る。
【0020】
クラスター間の距離d(dは、分解能限界区域を画定する回折限界である)である面積Aのナノポアのクラスターが四角形に配置された一実施形態を仮定する。このときは、クラスターの数は、A/d
2=4270クラスターである。厳密に1つの活性ナノポア(即ち、厳密に1つの配列決定可能なナノポア)を有するクラスターの割合p1は、p1=ku(1−u)
k−1によって与えられ、式中、やはりuはナノポアの活性割合である。配列決定可能なポアの総数は、平均してAp1/d
2、またはkAu(1−u)
k−1/d
2である。例えば、uが、u=0.2に固定される場合、p1に関する前述の式は、k=4およびk=5で最大になる。例示のため、uがu=0.2に固定され、クラスターの数が1000である場合、p1の値はk=4またはk=5のときに最大になる。k=4とすると、ポアの総数は4000になり、配列決定可能なポアの数は、平均して410になる。比較のため、同じ間隔dを有する単一ポアの格子は、ちょうど1000のポアを有することになり、配列決定可能なポアの数は平均してわずか200になる。このように、この例において、本発明は、通常の格子のスループットの2倍超を実現する。
【0021】
図1Aは、ナノポアアレイに隣接する実際の物理的または化学的状態を表すことを意図するではなく、2つの固相膜:分解能限界区域(101)内に単一ナノポアを有する膜(100)、および分解能限界区域(103)内に複数の、K個のナノポアを有する膜(102)を示す。膜(100)および(102)の下には、2種の異なって標識されたモノマー(連結された黒および白の円として表される)からなるポリマー(108)が示される。ポリマー(108)は、平均的な長さ、濃度、ならびに膜(100)および(102)を横断する流束を有する。ポリマー(108)の流束は、様々な方法によって生成されてもよく、例えばポリマーがポリヌクレオチドである場合には、流束は電場によって生成されてもよい。ポリマー(108)のモノマー上の光学標識は励起されて、各モノマーが膜(100)および(102)のナノポアから出て行くときに光学シグナルを発生させる。例えば、光学標識がFRETアクセプターなどの蛍光標識である場合、そのような励起は、(114)によって図式的に示されるように、検出システムとして全内部反射蛍光(TIRF)顕微鏡システムを使用して実現されてもよい。蛍光標識は、FRETドナー−アクセプター対を使用して直接または間接的に励起されてもよい。各分解能限界区域ごとに、検出器(115)および(116)は、光学シグナルを収集し、それらを、分解能限界区域X(111)からの光学シグナルを表す曲線および分解能限界区域Y(113)からの光学シグナルを表す曲線など、表示できる値に変換する。一部の実施形態では、
図1Aに示される分析システムの目標は、ポリマー(108)の中のモノマーの配列を識別するために、光学標識により発生した光学シグナルを使用することである。これは単一の動作可能なナノポアが、(101)によって示されるように分解能限界区域内にある場合、容易に実現され得る。しかし、複数のナノポアが分解能限界区域内にあり、複数のポリマーがそのようなナノポアを移行することにより多数の光学シグナルを発生させる場合、(113)などの記録されたシグナルは、そこからモノマー配列を決定することができる情報を失う。このように、例えば単一ナノポアの場合、ベース(またはモノマー)コールを、2標識系で;即ちA、B(即ち「非A」)、B、およびA(110)で、首尾良く行うことができ;それに対して多数のナノポアの場合、ベースコールを首尾良く行うことができず;即ち、コールは、A、N、B、およびNになり、2つの「N」コールは、分解能限界区域(103)内の特定のナノポアに成分を割り当てることができない混合型光学シグナルに対応する。
【0022】
上述のように、分解能限界領域内の多数のナノポアの問題は、
図1Bに示されるように、ナノポアの密度を十分低くして各分解能限界区域内に最大の単一のナノポアがあるようにナノポアアレイを製作することによって、対処することができる。ナノポアアレイ(130)の一部のナノポア(131)は、ただ1つのナノポアが直径(139)を有する分解能限界区域(134)内にあるように、間隔(136)を空けて配置されている。残念ながら、そのような手法は効率的ではなく、多数のナノポアが分解能限界区域(134)内にあるようにナノポアアレイ(132)の一部のナノポア(131)が間隔(137)を空けて配置されている
図1Cに示されるように、ナノポアのさらに高い密度を可能にする製作能を利用することができない。効率の不足は、例えば参照により本明細書に組み込まれるHuberらの、米国特許出願公開第2013/0203050号に記載されるように、その内部に固定化されたタンパク質ナノポアを含有する、製作されたアパーチャーを有する固相膜を含む、ハイブリッドナノポアが用いられるときに特に悪化する。ハイブリッドナノポアは、固定化されたタンパク質の高度に規則的なボアまたは管腔によって非常に有用であるが、固定化されたタンパク質ナノポアの一部分しか機能的にまたは動作可能にすることができず;即ち、ごく一部分にしか、固相膜によって分離される2つのチャンバー間の流体連通経路をもたらしている(本明細書では、「動作可能な部分」または「機能的な部分」と呼ぶ)、妨害されていないボアがない。典型的には、ハイブリッドナノポアのアレイのタンパク質ナノポアは、10〜50パーセントの範囲の動作可能な部分を有し、しばしば約25パーセントの動作可能な部分を有する。そのようなナノポアアレイの場合、
図1Bに示される配置構成の非効率は、容易に明らかであり:アレイのかなりの部分は、動作不能になると考えられ、したがって無駄である。
【0023】
この問題は、
図1D(クラスターの直線的アレイを示す)および1E(クラスターの六角形アレイを示す)に示されるように、ナノポアのクラスターのアレイを提供することによって対処することができる。一部において本発明は、各クラスターが複数のナノポアを含有し、かつクラスター間の距離が回折限界距離にほぼ等しいナノポアのクラスターのアレイである、ナノポアアレイを採用することによって、ナノポアアレイの単位面積当たりの配列決定スループットが増大し得るという認識および理解に基づく。言い換えれば、異なるクラスター内のナノポアは、異なる分解能限界区域内にある。当業者なら、この原理は、光学シグナルの配列を発生させるのに使用される、ナノウェルまたはナノ粒子などのナノ構造の任意のアレイに適用し得ることが理解されよう。
図1Dおよび1Eに戻ると、ナノポアアレイ(140)の一部は、複数のナノポア(またはアパーチャー)(131)のクラスター(141)を示し、クラスター(141)は、各クラスターが個別の分解能限界区域(144)内にあり、かつ異なるクラスターのナノポアが分解能限界区域を共有しないように、十分大きいクラスター間距離(142)の間隔を空けて配置されている。一実施形態では、複数のナノポアは、動作可能なナノポアの平均の数が1から2個の間であるように選択される。別の実施形態では、クラスター内の複数のナノポアは、2から9個の範囲にあり;さらに別の実施形態では、クラスター内の複数のハイブリッドナノポアは2から6個の範囲にある。同様に、ナノポアのクラスターは、
図1Eに示されるように六角形のアレイ(140)に配置構成されてもよい。そのようなアレイでは、例えば固相膜の表面(195)は、分解能限界区域(192)に実質的に等しい面積を有し、かつそれぞれがナノポアのクラスター(194)を含有している、六角形の領域(例えば、190)に仕切られている。一部の実施形態において、ナノ構造のクラスターのアレイでは、クラスター内のナノ構造間距離は、10〜200nmの範囲にあってもよく、クラスター間距離(例えば、中心間距離)は少なくとも500nm、または少なくとも1μmであってもよい。他の実施形態では、クラスター間距離は、500nmから10μm、または1μmから10μmの範囲にあってもよい。
【0024】
一部の実施形態では、クラスターは、例えば
図4Fに示されるように、アパーチャーのアレイ(4000)を含有する固相膜によって支持された脂質二重層内に、タンパク質ナノポアを配置することによって形成されてもよい。例えば、アレイ(4000)は、固相支持体(
図4Fの4100および
図4Aの4102)に製作された(例えば、穴を開けられ、またはエッチングされるなど)アパーチャーを含んでいてもよい。そのようなアパーチャーの幾何形状は、用いられる製作技法に応じて変わってもよい。例えば、
図4Fにおけるそのようなアパーチャー(4202)は円形として示され、
図4Eにおけるアパーチャー(4202)は四角形として示される。一部の実施形態では、そのようなアパーチャーのそれぞれは、
図4Fに示されるように、個別の分解能限界区域(4244)に関連付けられ、または包含され;しかし他の実施形態では、多数のアパーチャーが同じ分解能限界区域内にあってもよい。アパーチャーの断面積は、広く様々であってもよく、異なるクラスター間と同じでもそうでなくてもよいが、そのような面積は通常、従来の製作手法の結果と実質的に同じである。一部の実施形態では、アパーチャーは、10から200nmの範囲の最小線寸法(4103)(例えば、円形アパーチャーの場合には直径)を有し、または約100から3×10
4nm
2の範囲の面積を有する。アパーチャーを横切って、
図4A〜4Dに断面で示されるように、脂質二重層が配置されている。一部の実施形態では、そのような脂質二重層(4120)は、固相膜(4100)の一方の表面上に配置される。一部の実施形態では、タンパク質ナノポア(
図4A〜4Fの4104)は、アパーチャーを跨ぐ脂質二重層(4120)の一部に挿入され、一部の実施形態では、示されたもののように、タンパク質ナノポアを例えばFRETドナーで直接標識(4127)してもよい。一部の実施形態では、そのようなタンパク質ナノポアは、固相膜(4100)の一方の側にチャンバーの溶液から挿入され、その結果、アパーチャーが、タンパク質ナノポアが全くないもの、1、2、または3個ある状態で示されている、
図4A〜4Dに示されるように、アパーチャーへのタンパク質ナノポアのランダムな配置になって、異なるアパーチャーが異なる数のタンパク質ナノポアを受容し得るようになる。アパーチャー当たりのタンパク質ナノポアの分布は、例えば挿入ステップ中にタンパク質ナノポアの濃度を制御することによって、様々にしてもよい。
図4Fに示されるように、そのような実施形態では、ナノポアのクラスターは、例えば代表的なクラスター(1から4まで)によって示されるように、ランダムな数のナノポアを含んでいてもよく、このクラスター1は単一のタンパク質ナノポア(4104)を含有し、クラスター2はタンパク質ナノポアを含有せず、クラスター3は2個のタンパク質ナノポアを含有し、クラスター4は4個のタンパク質ナノポアを含有している。タンパク質ナノポアがアパーチャーにランダムに挿入される一部の実施形態では、平均して1つまたは複数のアパーチャーを含有するクラスターは、ゼロよりも大きい所定の数のタンパク質ナノポアを有し;他の実施形態では、そのようなクラスターは、0.25よりも大きい所定の数のタンパク質ナノポアを有し;他の実施形態では、そのようなクラスターは、0.5よりも大きい所定の数のタンパク質ナノポアを有し;他の実施形態では、そのようなクラスターは、0.75よりも大きい所定の数のタンパク質ナノポアを有し;他の実施形態では、そのようなクラスターは、1.0よりも大きい所定の数のタンパク質ナノポアを有する。
【0025】
クラスターのアレイを使用する効果は、4個のナノポアを含有しそれぞれが分解能限界区域内にある
図1Bの区域(133)など、単位面積当たりの動作可能なナノポアの予測される数を考慮することによって、示すことができる。この構成では、動作可能なナノポアの割合が0.25である場合、区域(133)内の動作可能なナノポアの予測される数は、単純にE=4×(0.25)=1である。2個のナノポアのクラスターでは、クラスター当たりの動作可能なナノポアの予測される数は、以下の二項分布に従う:E=0×P[n=0]+1×P[n=1]+2×P[n=2](式中、P[n=i]は、クラスターがi個の動作可能なナノポアを有する確率である)。このように、2個のナノポアのクラスターでは、動作可能率(operability rate)が0.25であるとき、動作可能なナノポアの予測される数は0.5である。
【0026】
図1Fは、分解能限界区域(154)内に単一のナノポアしかないように間隔を空けて配置された、ナノポア(152)のアレイを有する固相膜(150)を示す(
図1Aの(100)の場合に類似した構成)。任意の所与のナノポアの入口で、ポリマー(153)はランダムな時間で捕獲される(155)ことになる。例えば、そのようなポリマー(155)の到達は、Poisson計数プロセスとしてモデル化されてもよく、このモデルでは到着間隔時間のシーケンスが指数関数的に分布しており、これはポリマーの濃度および流束が大きくなるほど到着間隔時間が短くなることを凡そ意味する。
図1Gでは(ナノポアにより処理され捕獲されたポリマーの配列によって発生したシグナル(181a、181b、181c)を示し、各ポリマーが同じ長さを有すると想定した場合、ポリマー処理時間(または同様に、ナノポア占有時間)は、一定の長さのセグメント(182)として表され得る。ポリマー(183)間の時間は、その間にナノポアが不活性になり光学シグナルを発生させない待機時間である。ポリマーがナノポアのその移行を終了した後、ナノポアは、次のポリマーが到達するまでの時間、光学シグナルを発生させるのを中止する。分解能限界区域当たりの単一ナノポアのデューティーサイクルは、濃度および/または流束を上昇させることによって、100パーセントに近付けてもよく、それによって待機時間を強制的にゼロに近付けるが、分解能限界区域当たりただ1つのナノポアがあることにより、ナノポアアレイの単位面積当たりに得られる情報速度は限定される。同じ区域において、ポリマー濃度、固相膜へのポリマー流束の大きさ、および平均ポリマー長を調節することにより、分解能限界区域当たり多数のナノポアを使用することによってより高い情報獲得速度が可能である。
【0027】
一部の実施形態では、本発明は、少なくとも1つのポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を決定する方法を対象とし、この方法は、下記のステップ:(a)所定の濃度および流束でナノポアアレイを通って一本鎖ポリヌクレオチドを移行させるステップであって、各一本鎖ポリヌクレオチドの実質的に全てのヌクレオチドは、光学標識が取着されるヌクレオチドを示す光学シグナルを発生させることが可能な上記光学標識で標識されており、ナノポアアレイはナノポアのクラスターを含み、各クラスターは、異なるクラスターのナノポアが異なる分解能限界区域内にあるように分解能限界区域内に複数のナノポアを含むステップと;(b)各ヌクレオチドの光学標識を、ナノポアから出る際に励起放射線に曝露するステップと;(c)ナノポアアレイ上の各分解能限界領域で、ナノポアから出て行く光学標識により発生した光学シグナルを測定して、そのような光学シグナルが単一光学標識からのものであるときにはいつでも、光学標識が取着されるヌクレオチドを識別するステップと;(d)単一光学標識からの光学シグナルの配列からポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を決定するステップとを含む。さらなる実施形態では、分解能限界区域内の複数のナノポアの密度または大きさ、標的ポリヌクレオチド濃度、および/またはナノポアアレイを通る標的ポリヌクレオチドの流束は、アレイ内の配列決定可能なナノポアの数が最大になるよう選択される。
ナノポアおよびナノポア配列決定
【0028】
本発明と共に使用されるナノポアは、固体状態のナノポア、タンパク質ナノポア、またはハイブリッドナノポアであって、タンパク質ナノポアまたは有機ナノチューブ、例えばカーボンナノチューブを含み、固体状態の膜または同様のフレームワーク内に構成されたものであってもよい。ナノポアの重要な特色には、(i)分析物、特にポリマー分析物を拘束して、検出ゾーン内を順に通らせること、または言い換えれば、モノマーを1つずつまたは1列縦隊で検出ゾーンに通るようにすること、(ii)移行手段(使用される場合)との適合性、即ち、分析物をナノポア内へと推進させるのに電場などのどのような方法を使用するにしても適合性があること、および任意選択で(iii)ナノポアの管腔またはボア内での蛍光シグナルの抑制が含まれる。一部の実施形態では、本発明の方法およびデバイスと併せて使用されるナノポアは、平面上に規則的に配置され得るナノポアのクラスターのアレイのような、アレイの形態で提供される。一部の実施形態では、異なるクラスターのナノポアからの光学シグナルが、用いられる光学検出システムによって区別可能であるように、クラスターはそれぞれ個別の分解能限界区域内にあるが、同じクラスター内のナノポアからの光学シグナルは、用いられる光学システムによって、そのようなクラスター内の特定のナノポアに必ずしも割り当てることができる必要はない。
【0029】
ナノポアは、窒化ケイ素(Si
3N
4)および二酸化ケイ素(SiO
2)などを含むがこれらに限定されない様々な材料において製作されてもよい。DNA配列決定などの分析の適用例に関するナノポアの製作および動作は、参照により組み込まれる以下の例示的な参考文献に開示されている:Russell,米国特許第6,528,258号;Feier,米国特許4,161,690号;Ling,米国特許第7,678,562号;Hu et al,米国特許第7,397,232号;Golovchenko et al,米国特許第6,464,842号;Chu et al,米国特許第5,798,042号;Sauer et al,米国特許第7,001,792号;Su et al,米国特許第7,744,816号;Church et al,米国特許第5,795,782号;Bayley et al,米国特許第6,426,231号;Akeson et al,米国特許第7,189,503号;Bayley et al,米国特許第6,916,665号;Akeson et al,米国特許第6,267,872号;Meller et al,米国特許公開第2009/0029477号;Howorka et al,国際特許公開WO2009/007743;Brown et al,国際特許公開WO2011/067559;Meller et al,国際特許公開WO2009/020682;Polonsky et al,国際特許公開WO2008/092760;Van der Zaag et al,国際特許公開WO2010/007537;Yan et al,Nano Letters,5(6):1129−1134(2005);Iqbal et al,NatureNanotechnology,2:243−248(2007);Wanunu et al,Nano Letters,7(6):1580−1585(2007);Dekker, Nature Nanotechnology,2:209−215(2007);Storm et al,Nature Materials,2:537−540(2003);Wu et al,Electrophoresis,29(13):2754−2759(2008);Nakane et al,Electrophoresis,23:2592−2601(2002);Zhe et al,J.Micromech.Microeng.,17:304−313(2007);Henriquez et al,The Analyst,129:478−482(2004);Jagtiani et al,J.Micromech.Microeng.,16:1530−1539(2006);Nakane et al,J.Phys.Condens.Matter,15 R1365−R1393(2003);DeBlois et al,Rev.Sci.Instruments,41(7):909−916(1970);Clarke et al,Nature Nanotechnology,4(4):265−270(2009);Bayley et al,米国特許公開第2003/0215881号;など。
【0030】
簡単に言うと、一部の実施形態では、1〜50nmのチャネルまたはアパーチャーが基材、通常は平面基材、例えば、膜を通って形成され、一本鎖DNAなどの分析物がそこを通って移行するように誘発される。ナノポアを生成する固体状態の手法は、堅牢で耐久性を提供すると同時にナノポアのサイズおよび形状を調整する能力、ウェハー規模でナノポアの高密度アレイを製作する能力、脂質ベースの系に比べて優れた機械的、化学的および熱的特性、ならびに電子または光学的読出し技法と一体化する可能性を提供する。一方、生物学的ナノポアは、再現性のある狭いボアまたは管腔、特に1〜10ナノメートルの範囲にあるもの、ならびに従来のタンパク質を設計製作する方法によって、ナノポアの物理的および/または化学的性質を調整するための、かつFRETドナーまたはアクセプターであってもよい蛍光標識などの基または要素を直接または間接的に取着するための技法を提供する。タンパク質ナノポアは、典型的には、機械的支持体に関する繊細な脂質二重層に依拠し、精密な寸法を持つ固体状態のナノポアの製作は、依然として難しいままである。一部の実施形態では、固体状態のナノポアは生物学的ナノポアと組み合わされて、これらの欠点のいくつかを克服するいわゆる「ハイブリッド」ナノポアを形成してよく、それによって、生物学的ポアタンパク質の精密さと固体状態のナノポアの安定性とを提供する。光学的読出し技法では、ハイブリッドナノポアが、ナノポアの精密な場所を提供し、このことがデータ獲得を大幅に単純化する。
【0031】
一部の実施形態では、本発明のナノポアのクラスターのアレイは、1つまたは複数のポリマー分析物を分析するための方法とともに使用されてもよく、方法は、以下のステップ:(a)モノマーの配列を含むポリマー分析物を、ボアおよび出口を有するナノポアを通って移行させるステップであって、隣接するモノマーの蛍光標識が、ナノポアの外側では互いに自己消光することによって消光状態にあるように、実質的に各モノマーが蛍光標識で標識され、かつ蛍光標識が、ナノポアの内側では立体拘束状態にあり検出可能な蛍光シグナルを発生させることが不可能であるステップと;(b)蛍光標識が取着されるモノマーを示す蛍光シグナルが発生するように、立体的に拘束された状態から消光状態に遷移するときに、ナノポアの出口で、各蛍光標識を励起するステップと;(c)蛍光シグナルを検出してモノマーを識別するステップとを含む。本明細書で使用されるように、「実質的にあらゆる」、「実質的に全ての」、または同様の用語は、モノマー、特にヌクレオチドを標識することについて言及する場合、化学的標識手順は、あらゆるモノマーの完全な標識をもたらさなくてもよいと理解され;実施可能な程度まで、これらの用語は、本発明に関連した標識反応が終了するまで継続されると理解され;一部の実施形態では、そのような完全な標識反応は、モノマーの少なくとも50パーセントを標識することを含み;他の実施形態では、そのような標識反応は、モノマーの少なくとも80パーセントを標識することを含み;他の実施形態では、そのような標識反応は、モノマーの少なくとも95パーセントを標識することを含み;他の実施形態では、そのような標識反応は、モノマーの少なくとも99パーセントを標識することを含む。
【0032】
別の実施形態では、本発明のナノポアのクラスターのアレイは、1つまたは複数のポリマー分析物を分析するための方法とともに使用されてもよく、方法は、以下のステップ:(a)隣接するモノマーの蛍光標識が消光状態にあるように、蛍光標識を、1つまたは複数のポリマー分析物の実質的にあらゆるモノマーに取着するステップと、(b)各ポリマー分析物のモノマーが1列縦隊でナノポアを横断するように、ナノポアを通ってポリマー分析物を移行させるステップであって、各ナノポアがボアおよび出口を有し、ボアの内部でそこから蛍光標識から蛍光シグナルが発生しないように、ボアが蛍光標識を拘束状態に立体的に拘束するステップと;(c)各蛍光標識が立体的に拘束された状態から消光状態に遷移するときに、ナノポアの出口で、各蛍光標識を遷移インターバルの間に励起し、それによって、蛍光標識が取着されるモノマーを示す蛍光シグナルを発生させるステップと;(c)蛍光シグナルを検出してモノマーを識別するステップとを含む。
【0033】
別の実施形態では、本発明のナノポアのクラスターのアレイは、1つまたは複数の標識されたポリマー分析物を分析するためのデバイス、例えば1つまたは複数の標識されたポリヌクレオチド分析物のヌクレオチド配列を決定するためのデバイスとともに使用されてもよく、そのようなデバイスは、以下の要素:(a)第1のチャンバーと第2のチャンバーとを分離する固相膜であって、第1のチャンバーと第2のチャンバーとをボアまたは管腔を通して流体接続する少なくとも1つのナノポアを有し、ボアまたは管腔は、そこを通って移行する標識されたポリマーの標識が立体的に拘束されて、検出可能なシグナルが発生しないように、かつ標識されたポリマーの隣接するモノマーの標識が自己消光するような断面寸法を有する固相膜と;(b)標識が取着されるモノマーを示すシグナルが発生するように、ナノポアから出て行き第2のチャンバーに進入するときに各標識を励起するための励起源と;(c)各励起標識によって発生したシグナルの少なくとも一部を収集するための検出器と;(d)収集されたシグナルによって、励起した標識が取着されるモノマーを識別することを含む。
【0034】
一部の実施形態では、本発明の方法およびデバイスは、SiN膜などの固相膜を含み、それを通るアパーチャーのアレイを有して、第1のチャンバーと第2のチャンバー(場合によっては、「シスチャンバー」および「トランスチャンバー」とも呼ぶ)との間に連通を設け、第2のまたはトランスチャンバーに面する表面に脂質二重層を支持する。一部の実施形態では、そのような固相膜内のアパーチャーの直径は、10から200nmの範囲または20から100nmの範囲にあってもよい。一部の実施形態では、そのような固相膜は、そのような二重層がトランスチャンバーに面する表面のアパーチャーに跨る領域で、脂質二重層に挿入されたタンパク質ナノポアをさらに含む。一部の実施形態では、そのようなタンパク質ナノポアは、本明細書に記述される技法を使用して、固相膜のシス側から挿入される。一部の実施形態では、そのようなタンパク質ナノポアは、軸に沿ってバレルまたはボアを含み、かつ一端に「キャップ」構造を有し他端に「ステム」構造をするという点で(Songら、Science、274巻:1859〜1866頁(1996年)からの専門用語を使用する)、α−溶血素と同一のまたは類似の構造を有する。そのようなタンパク質ナノポアを使用する一部の実施形態では、脂質二重層への挿入は、そのキャップ構造がシスチャンバーに向けて露出し、かつそのステム構造がトランスチャンバーに向けて露出するように配向するタンパク質ナノポアをもたらす。
【0035】
一部の実施形態では、本発明の方法およびデバイスは、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Bayleyら、米国特許公開第2014/0356289号;Huangら、Nature Nanotechnology、10.1038/nnano.2015.189.[Epub ahead of print];または同様の参考文献に開示されるように、単一の液滴または液滴のアレイのいずれかとして液滴界面二重層を含む。簡単に言うと、タンパク質ナノポア(1.2nM)を、200〜350nlの液滴(例えば、1.32M KCl、8.8mM HEPES、0.4mM EDTA、pH7.0(αHL)、または8.0(MspA))中に置き、例えばヘキサデカン中3mMの1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPhPC)中でインキュベートして、脂質単層コーティングを形成する。次いで液滴をピペット分取して測定チャンバー内のカバーガラス上に移し、これにより分析物を移動させるための電圧の印加および例えばTIRFによる光学検出が可能になる。カバーガラスに、アガロース(0.66M CaCl
2、8.8mM HEPES、pH7.0(αHL)/8.0(MspA))の薄層(約200nm)をスピンコート(3,000r.p.m、30秒)し、その後、ヘキサデカン中3mMのDPhPCと共にインキュベートしてもよい。アガロース上の単層に接触すると、脂質でコーティングされた液滴は自発的に液滴界面二重層を形成する。接地電極(Ag/AgCl)を、対応する活性電極(Ag/AgCl)が基材アガロース中にある状態で、液滴中に挿入してもよい。電圧プロトコールを、パッチクランプ増幅器(例えば、Axopatch 200B、Molecular Devices)で適用してもよい。液滴中に存在するナノポアは、液滴界面二重層に自発的に挿入され、イオン束が、電気的にもおよび/または光学的にも検出され得る(例えば、Fluo−8などのイオン感受性色素を用いて)。
【0036】
一部の実施形態では、固相膜は、参照により本明細書に組み込まれる、例えばHuberら、米国特許公開第2013/0203050号に記載されるように、その自動蛍光を退色させるために低エネルギーイオンビームで処理されてもよい。
【0037】
図2A〜2Cは、ハイブリッドバイオセンサーの実施形態の図である。ナノメートルサイズのホール(2102)を、2つのチャンバーまたは区画シス(2101)およびトランス(2107)を分離する固体状態の基材または固相膜(2103)に開ける。一本鎖DNAなどの帯電したポリマー(2105)に取着されたタンパク質バイオセンサー(例えば、タンパク質ナノポア)(2104)を、電気泳動輸送によって固体状態のナノホールに埋め込む。
図1Cでは、タンパク質バイオセンサーが挿入される。ナノメートルサイズのホールでは、その表面が疎水性コーティング(2106)およびそこに取着された脂質層(2109)を有する。ナノポアは、2つの側またはオリフィスを有していてもよい。一方の側を「シス」側と呼び、(−)負電極または負に帯電した緩衝/イオン区画もしくは溶液に面する。他方の側を「トランス」側と呼び、(+)電極または正に帯電した緩衝/イオン区画もしくは溶液に面する。標識された核酸分子またはポリマーなどの生物学的ポリマーは、ナノポアを通して印加された電場によって、ポアを通して引っ張られるか、または推進されることができ、例えば、ナノポアのシス側に進入してナノポアのトランス側に出て行くことができる。本発明によれば、そのようなナノポアは、そのようなナノポアのクラスターのアレイに配置されてもよい。
【0038】
図2Dは、ハイブリッドナノポアの実施形態を示し、ここで、タンパク質ナノポア(2104)は、固体状態の膜(2103)に開けられたアパーチャーに挿入されている。タンパク質ナノポア(2104)にはオリゴヌクレオチド(2108)が取着され、そこに、相補的二次オリゴヌクレオチド(2111)がハイブリダイズされている。一部の実施形態では、二次オリゴヌクレオチド(2111)は、そこに取着されたFRET対(2110)の1つまたは複数の第2のメンバーを有する。あるいは、FRET対の膜は、タンパク質ナノポアのアミノ酸に直接取着されてもよい、例えば、
図2Eの標識(2123)。例えば、溶血素サブユニットは、ナノポアの出口に隣接して適切に位置付けられたアミノ酸、例えばトレオニン129をシステインで置換して、従来の遺伝子工学技法によって修飾されていてもよい。オリゴヌクレオチドまたはFRET対のメンバーは、従来のリンカー化学、例えばHermanson(前掲)を使用して、システインのチオ基を介して取着されてもよい。
【0039】
一部の実施形態では、本発明は、特にポリヌクレオチドの光学ベースのナノポア配列決定をするために、クラスターにおいてハイブリッドナノポアを用いてもよい。そのようなナノポアは、固体状態のオリフィスまたはアパーチャーを含み、その中に、タンパク質ナノポアなどのタンパク質バイオセンサーを安定して挿入する。タンパク質ナノポア(例えば、アルファ溶血素)は、帯電したポリマー(例えば、二本鎖DNA)に取着されてもよく、印加電場において、タンパク質ナノポアを固体状態の膜のアパーチャー内に案内するのに使用されてもよい。一部の実施形態では、固体状態の基材におけるアパーチャーは、タンパク質よりも僅かに小さくなるように選択され、これによってタンパク質がアパーチャーを移行するのを妨げる。代わりに、タンパク質は、固体状態のオリフィスに埋め込まれることになる。固体状態の基材は、表面に活性部位を発生させるように修飾することができ、差込み式タンパク質バイオセンサーの共有結合による取着が可能になって、安定したハイブリッドバイオセンサーが得られる。
【0040】
タンパク質ナノポアにおけるポリマー取着部位は、タンパク質工学によって発生させることができ、例えば、ポリマーの特異的結合を可能にする変異タンパク質を構築することができる。例として、システイン残基を、タンパク質の所望の位置で挿入してもよい。システインは、天然に存在するアミノ酸と置き換えることができ、または付加アミノ酸として組み込むことができる。タンパク質の生物学的機能を破壊しないように、注意を払わなければならない。次いでポリマー(即ち、DNA)の末端一次アミン基を、ヘテロ二官能性架橋剤(例えば、SMCC)を使用して活性化させる。その後、活性化ポリマーを、タンパク質バイオセンサーのシスイテイン残基に共有結合によって取着する。一部の実施形態では、バイオセンサーへのポリマーの取着は、可逆的である。切断可能な架橋剤を実現することにより、容易に破断可能な化学結合(例えば、S−S結合)が導入され、帯電したポリマーは、バイオセンサーを固体状態のアパーチャーに挿入した後に除去してもよい。
【0041】
当業者には、帯電したポリマーとタンパク質ナノポアとの、共有結合または非共有結合による取着方法に関する広く様々な異なる手法が可能であり、上述の手法は単なる例としての役割をすることが、明らかである。当業者には、一本鎖または二本鎖DNA、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ−L−リシン、直鎖状多糖などを含むがこれらに限定されない、様々な異なるポリマーを、抵抗力として使用してもよいことも、理解されよう。これらのポリマーは、所与のpHで負(−)または正(+)電荷のいずれかを示し得ること、および電場の極性は、ポリマー−バイオセンサー複合体を固体状態のアパーチャーに引き込むのに応じて調節し得ることも明らかである。
【0042】
一部の実施形態では、ドナーフルオロフォアをタンパク質ナノポアに取着する。次いでこの複合体を、タンパク質ナノポアが固体状態のナノホールに輸送されてハイブリッドナノポアを形成するまで、固体状態のナノホールの両端間に電場を印加することによって、固体状態のアパーチャーまたはナノホール(例えば、直径3〜10nm)に挿入する。ハイブリッドナノポアの形成は、(a)固体状態のナノホール、またはアパーチャー、の部分遮断に基づく電流の降下を引き起こす、挿入されたタンパク質ナノポアによって、および(b)ドナーフルオロフォアの光学検出によって検証することができる。
【0043】
安定なハイブリッドナノポアが形成されたら、一本鎖の蛍光標識された(またはアクセプターで標識された)DNAを、シスチャンバー((+)電極を持つチャンバー)に添加する。印加電場によって、負に帯電したssDNAは、ハイブリッドナノポアを強制的に移行し、その最中に、標識されたヌクレオチドはドナーフルオロフォアに近接した状態になる。
【0044】
固体状態または合成によるナノポアは、上記引用した参考文献に例示されるような様々な方法で調製され得る。一部の実施形態では、例えば参照により本明細書に組み込まれるYangら、Nanotechnolgy、22巻:285310頁(2011年)に開示されるように、ヘリウムイオン顕微鏡を使用して様々な材料に合成ナノポアを開けてもよい。自立型膜に加工された薄膜材料、例えば窒化ケイ素の1つまたは複数の領域を支持するチップを、ヘリウムイオン顕微鏡(HIM)チャンバーに導入する。顕微鏡を低倍率に設定しながら、HIMモーター制御を使用して自立型膜をイオンビームの経路に導く。焦点および非点補正を含むビームパラメーターを、自立型膜に隣接するが固体基材上にある領域で調節する。パラメーターを適正に固定したら、自立型膜領域がイオンビームスキャン領域の中心になるようにかつビームがブランクされるように、チップ位置を移動させる。HIMの視野を、予想されるナノポアパターン全体を含有するのに十分な、かつ将来の光学読出しに役立てるのに十分な(即ち、光学倍率、カメラ解像度などに依存する)寸法(単位μm)に設定する。次いでイオンビームを、画素ドウェル時間で全視野を通して1回ラスター処理し、その結果、膜自動蛍光の全てまたはほとんどを除去するのに十分な全イオン線量が得られる。次いで視野を、適正な値(上記にて使用された場合よりも小さい)に設定して、単一ナノポアまたはナノポアのアレイのいずれかの、リソグラフィーにより画定されたミリングを行う。パターンの画素ドウェル時間は、試料加工前に較正試料の使用を通して決定された、1つまたは複数の所定の直径のナノポアをもたらすように設定する。この全プロセスを、単一チップ上でそれぞれ所望の領域で、および/またはHIMチャンバーに導入された各チップごとに、繰り返す。
【0045】
一部の実施形態では、固体状態の基材を修飾して、その表面に活性部位を発生させることにより差込み式タンパク質バイオセンサーの共有結合による取着を可能にしてもよく、または所与の適用例に関してより適切になるように表面特性を修飾してもよい。そのような修飾は、共有結合または非共有結合の性質のものであってもよい。共有結合による表面修飾は、オルガノシラン化合物を固体表面のシラノール基に結合させるシラン化ステップを含む。例えば、アルコキシシランのアルコキシ基は、加水分解してシラノール含有種を形成する。これらのシランの反応は、4つのステップを伴う。最初に、不安定な基の加水分解が起こる。オリゴマーへの縮合が続く。次いでオリゴマーを、基材のヒドロキシル基と水素結合する。最後に、乾燥または硬化中に、水の損失を伴いつつ、共有結合による基材との連結を形成する。共有結合による取着では、活性側基を持つオルガノシランを用いてもよい。そのような側基は、いくつか挙げると、エポキシ側鎖、アルデヒド、イソシアネート、イソチオシアネート、アジド、またはアルキン(クリックケミストリー)からなるが、これらに限定されない。当業者には、タンパク質を表面に共有結合により取着する多数の方法が可能であることは、明らかである。例えば、オルガノシラン上のある特定の側基は、タンパク質を結合可能にする前に、活性化させる必要があると考えられる(例えば、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルで活性化された第1級アミンまたはカルボキシル側基)。
【0046】
タンパク質を固体表面に取着する別の方法は、タンパク質に取着された1つの親和性パートナーと、固体表面に位置付けられた第2の親和性パートナーとを有することにより、親和性結合を通して実現されてもよい。そのような親和性の対は、ビオチン−ストレプトアビジン、抗原−抗体、およびアプタマー、および対応する標的分子の群からなるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、固体状態のナノポアの表面修飾は、表面を疎水性にするオルガノシランによる処理を含む。そのようなオルガノシランには、アルカンシラン(例えば、オクタデシルジメチルクロロシラン)、または修飾されたアルカンシラン、例えばアルカン鎖長が5から30個の炭素であるフッ素化アルカンシランが含まれるが、これらに限定されない。次いで疎水性表面を、脂質をペンタンに溶かした希薄溶液で処理してもよい。溶媒を乾燥し、表面を水溶液に浸漬した後、脂質は表面に自発的に層を形成することになる。
【0047】
一部の実施形態では、固体表面の脂質の層は、ハイブリッドナノポアの形成に有益であり得る。固相上の脂質層は、タンパク質と固体状態のナノポアとの間の漏れ電流を低減させることができ、挿入されるタンパク質ポアの安定性を増大させることができる。低キャパシタンス固体基材ならびに前記基材の脂質コーティングの組合せは、ハイブリッドナノポア系を、DNAがハイブリッドナノポアを通って移行することによって発生する電流変動に基づいて電気読出し可能にすることができる。そのような系で電気読出しを実現するには、非修飾DNAの移行速度を低下させる手段を、脂質コーティングされたハイブリッドナノポアと組み合わせなければならない。ポリメラーゼまたはヘリカーゼなどの分子モーターを、ハイブリッドナノポアと組み合わせ、ハイブリッドナノポアを通したDNAの移行速度を効果的に低減させてもよい。表面をコーティングするのに使用される脂質は、スフィンゴ脂質、リン脂質、またはステロールの群からである。生物学的ポリマーまたは分子(例えば、核酸)を配列決定するための方法および/またはシステムは、ポアまたはナノポアに取着される1つまたは複数のドナー標識を励起させることを含んでいてもよい。生物学的ポリマーは、ポアまたはナノポアを通って移行してもよく、この場合、生物学的ポリマーのモノマーは、1つまたは複数のアクセプター標識で標識されている。エネルギーは、標識されたモノマーが通った後、ポアまたはナノポアから出て行きまたは進入するときに、励起したドナー標識からモノマーのアクセプター標識に伝達されてもよい。エネルギー伝達の結果、アクセプター標識により放出されたエネルギーを、検出することができ、このアクセプター標識により放出されたエネルギーは、生物学的ポリマーの単一または特定のモノマー(例えば、ヌクレオチド)に対応しまたは関連付けられていてもよい。次いで生物学的ポリマーの配列を、標識されたモノマーの識別を可能にするモノマーアクセプター標識から放出されたエネルギーの検出に基づいて、推論しまたは配列決定してもよい。ポア、ナノポア、チャネル、または通路、例えばイオン透過性のポア、ナノポア、チャネル、または通路は、本明細書に記述されるシステムおよび方法に利用されてもよい。
【0048】
一部の実施形態では、ナノポアには、1つまたは複数の標識が取着されている。一部の実施形態では、標識は、Forster共鳴エネルギー伝達(FRET)対のメンバーである。そのような標識は、有機フルオロフォア、化学ルミネセンス標識、量子ドット、金属ナノ粒子、および/または蛍光タンパク質を含んでいてもよい。核酸は、ヌクレオチド当たり1つの全く異なる標識を有していてもよい。ヌクレオチドに取着される標識は、有機フルオロフォア、化学ルミネセンス標識、量子ドット、金属ナノ粒子、および蛍光タンパク質からなる群から選択されてもよい。ポアタンパク質中の標識取着部位は、タンパク質工学によって発生させることができ、例えば、標識の特異的な結合が可能になる変異タンパク質を構築することができる。例としてシステイン残基を、標識を取着するのに使用することができるチオール(SH)基を挿入する、タンパク質の所望の位置に挿入してもよい。システインは、天然に存在するアミノ酸と置き換えることができ、または付加アミノ酸として組み込むことができる。次いでマレイミド活性化標識を、タンパク質ナノポアのチオール残基に共有結合に取着する。好ましい実施形態では、タンパク質ナノポアへの標識または核酸上の標識の取着は、可逆的である。切断可能な架橋剤を実現することによって、容易に破断可能な化学結合(例えば、S−S結合またはpHにより変化し易い結合)が導入され、標識は、該当する条件が満たされたときに除去されてもよい。
【0049】
ナノポアまたはポアは、1つまたは複数のドナー標識で標識されてもよい。例えば、ナノポアのシス側もしくは表面および/またはトランス側もしくは表面を、1つまたは複数のドナー標識で標識してもよい。標識は、ポアもしくはナノポアのベースに、またはナノポアもしくはポアを構成する別の部分もしくはモノマーに取着されてもよい。標識は、ナノポアが拡がる膜もしくは基材の一部に、または膜、基材、もしくはナノポアに取着されたリンカーもしくはその他の分子に取着されてもよい。ナノポアまたはポア標識は、ポア標識が、ポアを移行する生物学的ポリマー、例えば核酸の、アクセプター標識の近傍に来ることができるように、ナノポア、基材、または膜上に位置決めされまたは取着されてもよい。ドナー標識は、同じまたは異なる放出または吸収スペクトルを有していてもよい。ポア構造の標識は、共有結合または非共有結合による相互作用を介して実現されてもよい。
【0050】
ドナー標識(本明細書において、場合によっては「ポア標識」とも呼ぶ)は、アパーチャーの可能な限り近くに(例えばナノポアの出口に)核酸がナノポアを通って移行するのを損なう閉塞を引き起こすことなく、配置されてもよい。ポア標識は、様々な適切な性質および/または特性を有していてもよい。例えば、ポア標識は、特定の要件を満たすエネルギー吸収特性を有していてもよい。ポア標識は、例えば約0から1000nmまたは約200か500nmに及ぶ、大きい放射線エネルギー吸収断面を有していてもよい。ポア標識は、アクセプター標識など、核酸標識のエネルギー吸収よりも高い、特定のエネルギー範囲内の放射線を吸収してもよい。ポア標識の吸収エネルギーは、エネルギー伝達が2つの標識間で生じ得る距離を制御するために、核酸標識の吸収エネルギーに対して調整されてもよい。ポア標識は、少なくとも10
6から10
9回の励起およびエネルギー伝達サイクルにわたり、安定かつ機能的であってもよい。
【0051】
一部の実施形態では、モノマーの配列に取着された光学標識をそれぞれが有するポリマーを分析するためのデバイスは、以下の要素:(a)第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを分離する固相膜内のナノポアアレイであって、ナノポアアレイのナノポアがそれぞれ第1のチャンバーと第2のチャンバーとの間に流体連通を提供し、かつナノポアの異なるクラスターのそれぞれが異なる分解能限界区域内に配置されるように、および各クラスターが、1よりも大きいか、またはゼロよりも大きい平均値を有するランダムな変数で所定の数のナノポアを含むように、クラスターに配置されているナノポアアレイと、(b)ナノポアアレイのナノポアを通して、第2のチャンバーに第1のチャンバー内でポリマーを移動させるための、ポリマー移行システムと、(c)光学標識が分解能限界区域内でナノポアから出て行くときにはいつでも、ポリマーに取着された光学標識によって発生した光学シグナルを収集するための、検出システムとを含む。
ナノポアおよび分析物に関する標識
【0052】
一部の実施形態では、ナノポアは、1つまたは複数の量子ドットで標識され得る。特に、一部の実施形態では、1つまたは複数の量子ドットは、ナノポアに取着されてもよく、または隣接する(ナノポアの入口および出口からのFRET距離内にある)固相支持体に取着されてもよく、分析物上のアクセプターとのFRET反応におけるドナーとして用いられてもよい。量子ドットのそのような使用は周知であり、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,252,303号;第6,855,551号;第7,235,361号;などの、科学および特許文献に広く記載されている。
【0053】
ポア標識として利用され得る量子ドットの一例は、水溶液中で合成することができるCdTe量子ドットである。CdTe量子ドットは、求核基、例えば第1級アミン、チオール、またはカルボン酸などの官能基などで機能化されてもよい。CdTe量子ドットは、量子ドットをタンパク質ポアの外側の第1級アミンに共有結合により連結するのに利用することができるカルボン酸官能基を有する、メルカプトプロピオン酸キャッピングリガンドを含んでいてもよい。架橋反応は、生体共役反応の当業者に公知である標準的な架橋試薬(ホモ二官能性ならびにヘテロ二官能性)を使用して、実現されてもよい。修飾が、核酸がナノポアを通って移行するのを損なわないまたは実質的に損なわないことを確実にするのに、注意を払ってもよい。これはドナー標識をナノポアに取着するのに使用される、用いられる架橋剤分子の長さを様々にすることによって、実現されてもよい。
【0054】
例えば、天然アルファ溶血素タンパク質のリシン残基131の第1級アミン(Song,L.ら、Science 274巻(1996年):1859〜1866頁)を使用して、カルボキシ修飾されたCdTe量子ドットを、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩/N−ヒドロキシスルホスクシンイミド(EDC/NHS)カップリング化学を介して共有結合してもよい。あるいは、アミノ酸129(トレオニン)をシステインに交換してもよい。天然アルファ溶血素タンパク質には他のシステイン残基がないので、新たに挿入されたシステインのチオール側基を使用して、他の化学的部分を共有結合により取着してもよい。
【0055】
1つまたは複数のポア標識をポアタンパク質に取着するための様々な方法、メカニズム、および/または経路を利用してもよい。ポアタンパク質は、公知の性質または様々な官能基を持つアミノ酸を天然タンパク質配列に導入するように、遺伝子操作してもよい。天然に生ずるタンパク質配列のそのような修飾は、ポアタンパク質に対する量子ドットの生体共役に有利であると考えられる。例えば、システイン残基の導入は、CdTe量子ドットなどの量子ドットとポアタンパク質との直接結合を可能にすると考えられる、チオール基を導入すると考えられる。また、リシン残基の導入は、量子ドットに結合するための第1級アミンを導入すると考えられる。グルタミン酸またはアスパラギン酸の導入は、量子ドットに結合するためのカルボン酸部分を導入すると考えられる。これらの基は、ホモまたはヘテロ二官能性架橋剤分子のいずれかを使用する量子ドットとの生体共役を受け易い。生体共役のための官能基の導入を目標としたポアタンパク質に対するそのような修飾は、当業者に公知である。修飾が、核酸がナノポアを通って移行するのを損なわないようにまたは実質的に損なわないようにすることを確実にするのに、注意を払うべきである。
【0056】
ナノポア標識は、前記ナノポアを脂質二重層に挿入する前または後に、タンパク質ナノポアに取着することができる。標識が、脂質二重層に挿入する前に取着される場合、ナノポアのベースを標識しかつポアタンパク質のランダム標識を回避することに注意を払ってもよい。これは、以下に論ずるように、ポア標識の部位特異的取着を可能にするポアタンパク質の遺伝子操作によって実現することができる。この手法の利点は、標識されたナノポアの大量生成である。あるいは、挿入前のナノポアの標識反応は、ポアタンパク質を遺伝子操作することなく、ナノポアのベース(トランス側)に対する標識の部位特異的取着を確実にすることができる。
【0057】
生物学的ポリマー、例えば核酸分子またはポリマーは、1つまたは複数のアクセプター標識で標識されてもよい。核酸分子の場合、4種のヌクレオチドのそれぞれまたは核酸分子のビルディングブロックをアクセプター標識で標識してもよく、それによって、天然に生ずるヌクレオチドのそれぞれに対する標識された(例えば、蛍光)対応物が創出される。アクセプター標識は、変換された核酸の一部または鎖全体にある1つまたは複数のヌクレオチドに取着することができる、エネルギー受容分子の形をとってもよい。
【0058】
核酸分子またはポリマーのモノマーまたはヌクレオチドを標識するのに、様々な方法を利用してもよい。標識されたヌクレオチドは、鋳型として当初の試料を使用して、新しい核酸の合成中に、核酸に組み込まれてもよい(「合成による標識」)。例えば核酸の標識は、PCR、全ゲノム増幅、ローリングサークル増幅、もしくはプライマー伸長などを介して、または当業者に公知の上記方法の様々な組合せおよび拡張を介して実現されてもよい。
【0059】
核酸の標識は、標識を有する修飾されたヌクレオチド類似体の存在下、核酸を複製することによって実現されてもよく、その標識の、新たに発生した核酸への組込みがなされる。標識プロセスは、ヌクレオチド類似体に、二次標識ステップでエネルギー受容部分を共有結合で取着するのに使用することができる官能基を組み込むことによって、実現することもできる。そのような複製は、全ゲノム増幅(Zhang,L.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA89巻(1992年):5847頁)または鎖置換増幅、例えばローリングサークル増幅、ニックトランスレーション、転写、逆転写、プライマー伸長、およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、変性オリゴヌクレオチドプライマーPCR(DOP−PCR)(Telenius,H.ら、Genomics13巻(1992年):718〜725頁)、または上記方法の組合せによって実現することができる。
【0060】
標識は、求核試薬など(アミン、チオールなど)の反応性基を含んでいてもよい。次いで、天然の核酸中に存在しない、そのような求核試薬は、NHSエステル、マレイミド、エポキシ環、イソシアネートなどのアミンまたはチオール反応性化学を介して蛍光標識を取着するのに使用することができる。そのような求核性の反応性蛍光色素(即ち、NHS−色素)は、異なる供給元から容易に購入可能である。小さい求核試薬で核酸を標識する利点は、「合成による標識」手法が使用されるときに、そのような標識されたヌクレオチドの組込みが高い効率でなされることにある。大量に蛍光標識された核酸ビルディングブロックは、新たに合成されたDNAに、重合プロセス中の標識の立体障害に起因してポリメラーゼにより不十分に組み込まれる可能性がある。
【0061】
一部の実施形態では、DNAは、標識されたヌクレオチドの、ポリメラーゼで媒介される組込みなしで、直接化学的に修飾することができる。修飾の一例には、そのN7位でグアニン塩基を修飾するシス−白金含有色素が含まれる(Hoevel,T.ら、Bio Techniques27巻(1999年):1064〜1067頁)。別の例には、6−ヒドロキシルアミノ誘導体をもたらすC6位でのヒドロキシルアミンによるピリミジンの修飾が含まれる。得られたアミン基は、アミン反応性色素(例えば、NHS−Cy5)でさらに修飾することができる。さらに別の例は、ポリメラーゼによって容易に組み込まれる、アジドまたはアルキンで修飾されたヌクレオチドである(Gierlichら、Chem.Eur.J.、2007年、13巻、9486〜0404頁)。アルキンまたはアジドで修飾されたポリヌクレオチドを、その後、十分に確立されたクリックケミストリーのプロトコールに従って、アジドまたはアルキンで修飾されたフルオロフォアで標識する。
【0062】
上述のように、一部の実施形態では、「クリックケミストリー」を使用して、例えば市販のキット(例えば、「Click−It」、Life Technologies、Carlsbad、CA製)を使用して、DNAを標識してもよい。クリックケミストリーは、一般に、本質的に不可逆的である非常に高い効率の化学反応によって2つの分子が一緒に連結される合成プロセスを指し、その収率はほぼ100%であり、反応副生成物はほとんどまたは全く生成しない。より最近では、その意味は、2個の置換基を保持する1,2,3−トリアゾールを形成するための、置換されたアルキンと置換されたアジドとの環化反応を指すようになった。室温で銅によって触媒される場合、反応は、Huisgen環状付加として公知であり、2個の分子上の化学官能性は、反応中に影響を受けるものが他にはないという点で、クリックケミストリーの要件を完全に満たす。このように、カップリング反応には、生体共役化学において、例えば多くのアミン、ヒドロキシ、またはチオール基を見出すことができる、DNAまたはタンパク質の色素標識で、広範な適用例があることがわかった。重要な要件は、アルキン基およびアジドを、カップリングされる分子に容易に導入できることである。例えば、DNAオリゴヌクレオチドへの蛍光色素のカップリングでは、アジド基が、色素内に合成によって典型的には導入され、一方でアルキン基は、オリゴヌクレオチドの合成中にDNAに組み込まれる。Cu
+の存在下で混合することにより、2成分を迅速に連結させてトリアゾールを形成し、この場合、オリゴヌクレオチドが1つの置換基として保持され、色素はその他の置換基として保持される。別の、より最近の進歩は、歪んだ環構造内にアルキン成分を提供する。この場合、アジドとの反応は、銅触媒を必要とせず、トリアゾールが形成されるときの環歪みエネルギーの放出によって推進される。これは銅フリークリック反応として、より良く知られている。本発明の方法にクリックケミストリーを適用するための指針は、参照により組み込まれる以下の参考文献に見出すことができる:Rostovtsev VV、Green LG;Fokin,Valery V、Sharpless KB(2002年)「A Stepwise Huisgen Cycloaddition Process:Copper(I)−Catalyzed Regioselective ”Ligation” of Azides and Terminal Alkynes」Angewandte Chemie International Edition 41巻(14号):2596〜2599頁、Moses JEおよびMoorhouse AD(2007年)「The growing applications of click chemistry」Chem.Soc.Rev.36巻(8号):1249〜1262頁。
【0063】
2つまたはそれ超の互いに消光する色素が使用されるときにはいつでも、そのような色素を、直交付着化学を使用してDNAに取着してもよい。例えば、NHSエステルは、第1級アミンと非常に特異的に反応するように使用することができ、またはマレイミドは、チオール基と反応することになる。第1級アミン(NH
2)またはチオール(SH)で修飾されたヌクレオチドは、市販されている。これらの比較的小さい修飾は、ポリメラーゼ媒介型DNA合成に容易に組み込まれ、NHSまたはマレイミドで修飾された色素のいずれかを使用する後続の標識反応に使用することができる。そのような直交リンカー化学を選択し使用するための指針は、Hermanson(前掲)に見出すことができる。
【0064】
典型的な取着位置のための追加の直交取着化学として、銅触媒された反応および非触媒反応に関するHuisgen型環状付加;例えばGutsmiedlら、Org.Lett.、11巻:2405〜2408頁(2009年)に開示されるような、アルケンおよび酸化ニトリル環状付加;例えばSeeligら、Tetrahedron Lett.、38巻:7729〜7732頁(1997年)に開示されるような、Diels−Alder環状付加;例えばCasiら、J.Am.Chem.Soc.、134巻:5887〜5892頁(2012年);Shaoら、J.Am.Chem.Soc.、117巻:3893〜3899頁(1995年);Rideout、Science、233巻:561〜563頁(1986年)に開示されるような、カルボニルライゲーション;例えばBrinkley、Bioconjugate Chemistry、3巻:2〜13頁(1992年)に開示されるような、Michael付加例えば;Schulerら、Bioconjugate Chemistry、13巻:1039〜1043頁(2002年);Dawsonら、Science、266巻:776〜779頁(1994年)に開示されるような、本来の化学的ライゲーション;または例えばHermanson(前掲)に開示されるような、活性エステルを介したアミド形成が挙げられる。
【0065】
核酸分子は、核酸と反応すると5−ブロモシステイン、8−ブロモアデニン、および8−ブロモグアニンをもたらすことになる、N−ブロモスクシンイミドで直接修飾されてもよい。修飾されたヌクレオチドは、ジアミン求核試薬とさらに反応することができる。次いで残りの求核試薬を、アミン反応性色素(例えば、NHS−色素)と反応させることができる(Hermanson G.、Bioconjugate Techniques、前掲)。
【0066】
核酸鎖における1、2、3、または4つのヌクレオチドの組合せは、それらの標識された対応物と交換されてもよい。標識されたヌクレオチドの様々な組合せは、並行して配列決定することができ、例えば供給源である核酸またはDNAを、4つの単一標識された試料に加えて2つの標識されたヌクレオチドの組合せで標識し、その結果、合計で10個の異なる状態で標識された試料の核酸分子またはDNA(G、A、T、C、GA、GT、GC、AT、AC、TC)が得られることになる。得られた配列パターンは、冗長配列読出しにおけるヌクレオチドの位置の重なり合いに起因して、より正確な配列アライメントを可能にすることができる。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドまたはペプチドなどのポリマーを、単一の種類のモノマーに取着された単一蛍光標識で標識し、例えば、ポリヌクレオチドの全てのT(または実質的に全てのT)が、蛍光標識、例えばシアニン色素で標識される。そのような実施形態では、ポリマーからの蛍光シグナルの収集または配列が、特定のポリマーに関するシグネチャーまたはフィンガープリントを形成し得る。一部のそのような実施形態では、そのようなフィンガープリントは、決定されるべきモノマーの配列に関する十分な情報を提供してもしなくてもよい。
【0067】
一部の実施形態では、本発明の特徴は、互いに消光する組のメンバーである蛍光色素または標識による、ポリマー分析物の実質的に全てのモノマーの標識付けである。ポリマー分析物の標識付けに関連する「実質的に全ての」という用語の使用は、化学的および酵素標識技法が典型的には100パーセント未満で効率的であることを認めることである。一部の実施形態では、「実質的に全ての」は、全てのモノマーの少なくとも80パーセントに蛍光標識が取着されていることを意味する。他の実施形態では、「実質的に全ての」は、全てのモノマーの少なくとも90パーセントに蛍光標識が取着されていることを意味する。他の実施形態では、「実質的に全ての」は、全てのモノマーの少なくとも95パーセントに蛍光標識が取着されていることを意味する。
【0068】
核酸分子などのポリマーを配列決定するための方法は、膜または膜様構造またはその他の基材に挿入されたナノポアまたはポアタンパク質(または合成ポア)を設けるステップを含む。ポアのベースまたはその他の部分は、1つまたは複数のポア標識で修飾されてもよい。ベースは、ポアのトランス側を指してもよい。任意選択で、ポアのシスおよび/またはトランス側を、1つまたは複数のポア標識で修飾してもよい。分析されまたは配列決定される核酸ポリマーは、標識されたタイプの核酸ポリマーであって、得られたポリマー中の4つのヌクレオチドの1つまたは最大で4つ全てのヌクレオチドがヌクレオチドの標識された類似体(複数可)で置き換えられた核酸ポリマーを、生成するための鋳型として使用されてもよい。電場をナノポアに印加して、標識された核酸ポリマーをナノポア内に強制的に通し、一方、外部単色またはその他の光源を使用してナノポアを照明し、それによってポア標識を励起してもよい。核酸の標識されたヌクレオチドがナノポアを通り、ナノポアから出て行き、またはナノポアに進入するにつれ、またはその後にもしくは前に、エネルギーはポア標識からヌクレオチド標識に伝達され、その結果、より低いエネルギー放射線の放出が生じる。次いでヌクレオチド標識放射線を、当業者に公知の単一分子検出が可能な、共焦点顕微鏡装置またはその他の光学検出システムまたは光顕微鏡法システムにより検出する。そのような検出システムの例には、共焦点顕微鏡法、落射蛍光顕微鏡法、および全内部反射蛍光(TIRF)顕微鏡法が含まれるが、これらに限定されない。標識されたモノマーを有するその他のポリマー(例えば、核酸以外のタンパク質およびポリマー)を、本明細書に記述される方法に従って配列決定してもよい。一部の実施形態では、蛍光標識またはドナー分子を、エバネッセント波によりTIRFシステム内で励起し、場合によっては本明細書では「エバネッセント波励起」と呼ぶ。
【0069】
エネルギーは、標識されたモノマーがナノポアから出て行き、ナノポアに進入し、またはナノポアを通るにつれ、またはその後もしくは前に、ポリマーのアクセプター標識モノマー(例えば、ヌクレオチド)のアクセプター標識がドナー標識と相互作用するとき、ポアまたはナノポアドナー標識(例えば、量子ドット)からポリマー(例えば、核酸)上のアクセプター標識に伝達されてもよい。例えば、ドナー標識は、標識されたモノマーがナノポアから出て行きかつナノポアのチャネルまたは開口の外側のドナー標識の付近または近傍に来るまで、ドナー標識とアクセプター標識との間の相互作用またはエネルギー伝達が生じないように、ナノポアのシスもしくはトランス側または表面のナノポアに位置決めされまたは取着されてもよい。その結果、標識間の相互作用、ドナー標識からアクセプター標識へのエネルギー伝達、アクセプター標識からのエネルギーの放出、および/またはアクセプター標識からのエネルギーの放出の測定もしくは検出を、ナノポア内、例えばナノポアのシスまたはトランス側のシスまたはトランスチャンバー内を走る通路、チャネル、または開口の外側で行ってもよい。モノマーのアクセプター標識から放出されるエネルギーの測定または検出は、モノマーを識別するのに利用されてもよい。
【0070】
ナノポア標識は、標識が目に見えまたは露出して、標識の励起または照明が容易になるように、ナノポアの通路、チャネル、または開口の外側に位置決めされてもよい。ドナー標識とアクセプター標識との間の相互作用およびエネルギー伝達、ならびにエネルギー伝達の結果としてのアクセプター標識からのエネルギーの放出は、ナノポアの通路、チャネル、または開口の外側で生じ得る。これは例えば光学検出または測定デバイスを介した、アクセプター標識からのエネルギーまたは光放出の検出または測定の容易さおよび正確さを促進させると考えられる。
【0071】
ドナー標識は、様々な手法および/またはナノポア上の様々な部位で、取着されてもよい。例えば、ドナー標識は、ナノポアの一部または単位に、直接または間接的に取着されまたは接続されてもよい。あるいは、ドナー標識は、ナノポアに隣接して位置決めされてもよい。
【0072】
ポリマー(例えば、核酸)の、アクセプターで標識されたモノマー(例えば、ヌクレオチド)のそれぞれは、ポリマーが通過するナノポアまたはチャネルの出口の上にもしくは隣りに位置決めされまたは直接もしくは間接的に取着されたドナー標識と順次、互いに作用することができる。ドナーおよびアクセプター標識の間の相互作用は、例えばアクセプターで標識されたモノマーがナノポアから出て行った後にまたはモノマーがナノポアに進入する前に、ナノポアチャネルまたは開口の外側で生じ得る。相互作用は、例えばアクセプターで標識されたモノマーがナノポアを通り、ナノポアに進入し、またはナノポアから出て行く間に、ナノポアチャネルまたは開口の内部でまたは部分的に内部で生じ得る。
【0073】
核酸の4つのヌクレオチドの1つが標識される場合、単一ヌクレオチド標識放出から生ずる時間依存性シグナルは、核酸配列中の標識されたヌクレオチドの位置に対応する配列に変換される。次いでプロセスを、個別の試料中の4つのヌクレオチドのそれぞれに関して繰り返し、次いで4つの部分配列を整列させて全核酸配列を組み立てる。
【0074】
多色標識された核酸(DNA)配列について分析する場合、1つまたは複数のドナー標識から、核酸分子上に存在し得る4つの全く異なるアクセプター標識のそれぞれへのエネルギー伝達は、4つの全く異なる波長または色(それぞれ、4つのヌクレオチドの1つに関連付けられる)で発光をもたらすことができ、直接配列読出しが可能になる。
移行速度
【0075】
ナノポアをベースにした配列決定手法に関連する主な障害は、核酸がナノポアを通って移行するする速度が速いことであり(約500,000〜1,000,000ヌクレオチド/秒)、記録設備の限られた帯域幅により、直接配列読出しが不可能である。2つの異なるナノポアタンパク質による核酸移行を減速させる方法は、最近になって、Cherfら(Nat Biotechnol.2012年2月14日;30巻(4号):344〜8頁)およびManraoら(Nat Biotechnol.2012年3月25日;30巻(4号):349〜53頁)により示され、これらは参照により本明細書に組み込まれている。両グループは、標的鋳型から相補鎖を合成するのにDNAポリメラーゼを使用し、その結果、ナノポアを通した鋳型DNAの段階的移行がもたらされた。したがって、核酸ポリメラーゼの合成速度(10〜500ヌクレオチド/秒)はDNAの移行速度を決定し、直接核酸移行よりも3〜4桁ほど遅いので、単一ヌクレオチドの分析が実現可能になる。しかし、ポリメラーゼで支援される移行は、ポリメラーゼの結合部位を発生させるのに相当な試料調製を必要とし、核酸合成は、バルク状態で遮断しなければならず、核酸−ポリメラーゼ複合体がナノポアタンパク質に捕捉されたときのみ開始することができる。この結果、商用の設定で実現するのを妨げる可能性のある、非常に複雑な装置になる。さらに、失速した重合などのポリメラーゼ合成反応の変動ならびに核酸からのポリメラーゼの解離は、配列読出しを妨害する可能性があり、その結果、高い誤り率および削減された読取り長をそれぞれもたらす。一部の実施形態では、標的核酸を、蛍光修飾されたヌクレオチドを組み込むことによって、酵素によりコピーする。得られた標識済み核酸は、大きい公称直径を有し、その結果、ナノポアを通して引っ張られたときに低下した移行速度をもたらす。光学配列決定に好ましい移行率は、1秒当たり1〜1000ヌクレオチドの範囲にあり、より好ましい範囲は1秒当たり200〜800ヌクレオチドであり、最も好ましい移行率は1秒当たり200〜600ヌクレオチドである。
【0076】
あるいは、ポリヌクレオチド、特に一本鎖ポリヌクレオチドの移行速度は、ナノポアを用いることによって制御することができ、このナノポアは、付加物および/または標識、例えば塩基に取着された有機色素が、ポリヌクレオチドの移行を阻止するようなしかし移行を防止するものではない寸法にされている。移行速度は、所定の密度で標識および/または付加物を取着することによって、選択されてもよい。そのような標識および/または付加物は、規則的に間隔を空けて配置された、例えばヌクレオチド3つごとなどの取着部を有してもよく、またはランダムなもしくは擬似ランダムな取着部を有してもよく、例えば全てのCが標識されていてもよい。一部の実施形態では、選択された数の異なるヌクレオチド、例えば全てのAおよびC、または全てのAおよびG、または全てのAおよびT、または全てのCなどを標識してもよく、その結果、平均移行速度が得られる。そのような平均速度は、非標識ヌクレオチドに付加物を取着することによって低下させてもよい。付加物は、任意の分子、通常は有機分子であって、従来の化学を使用してヌクレオチドに取着され得る分子を含む。典型的には、付加物は、一般的な有機色素、例えばフルオレセインまたはCy3などと同じ範囲の分子量を有する。付加物は、シグナルを発生させること、即ち標識としての役割をすることが、可能であってもそうでなくてもよい。一部の実施形態では、付加物および/または標識は、ヌクレオチドの塩基に取着される。他の実施形態では、標識および/または付加物を、ポリヌクレオチドのヌクレオシド間の連結部に取着してもよい。一態様では、ナノポアを通る一本鎖ポリヌクレオチドの移行速度を制御する方法は、ある密度で付加物をポリヌクレオチドに取着するステップを含み、一本鎖ポリヌクレオチドの移行速度は、取着される付加物の数が多くなるにつれてまたは取着される付加物の密度と共に、単調減少する。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドの全ての種類のヌクレオチドが標識されるとは限らない。例えば、ポリヌクレオチドの4つの異なる組は、各組のヌクレオチドが同じ分子で、例えば蛍光有機色素アクセプターで標識されるが、各組においては異なる種類のヌクレオチドが標識されることになる、上記組が生成されてもよい。このように、組1では、Aのみが標識されてもよく;組2では、Cのみが標識されてもよく;組3では、Gのみが標識されてもよく;以下同様である。次いでそのような標識後、4組のポリヌクレオチドを、本発明により個別に分析してもよく、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が、4つの分析で発生したデータから決定される。そのような実施形態および類似の実施形態では、例えば2つの標識が使用され、ポリヌクレオチドのヌクレオチドのいくつかは標識されず、ナノポアを通る移行速度は、ポリヌクレオチドに沿った標識の分布により影響を受けることになる。移行速度のそのようなばらつきを防止するために、一部の実施形態では、ヌクレオチド配列が決定されるようシグナルを発生させるためにアクセプターまたはドナーで標識されていないヌクレオチドは、シグナル生成標識として移行速度に対して実質的に同じ効果を有する非シグナル生成付加物を取着することによって修飾してもよい。
【0077】
相互に消光する蛍光標識でのナノポア配列決定
本発明は、ポリマー分析物のモノマーを逐次識別するための、ナノポアおよび蛍光消光の使用に関する。ポリマー分析物のそのような分析は、単一のポリマー分析物で、または複数のポリマー分析物で同時に並行して実施されてもよい。一部の実施形態では、モノマーは、標的ポリマーに取着しながら少なくとも3つの状態が可能な蛍光標識で標識される:(i)取着した蛍光標識の蛍光が、すぐ隣りに隣接するモノマー上の蛍光標識によって消光される、消光状態;例えば、本発明によるポリマーに取着された蛍光標識は、標識されたポリマーが水溶液中で遊離したときに消光される。(ii)自由溶液の動き、または取着された蛍光標識のアライメントが崩壊し、または限定されることにより蛍光標識から発生した検出可能なシグナルがほとんどまたは全くないように、標識されたポリマーがナノポアを移行する、立体的に拘束された状態。(iii)ポリマーがナノポアを移行しながら、蛍光標識がナノポアから出て行くときに(「遷移インターバル」の間)、ポリマーに取着された蛍光標識が、立体的に拘束された状態から消光状態へと遷移する遷移状態。一部では、本発明は、遷移インターバル中に、通常は蛍光標識が検出可能な蛍光シグナルを発生することが可能であるという発見の適用である。この発見を裏付けるいかなる理論にも限定するものではないが、遷移インターバルの間に発生した蛍光シグナルは、自由に回転可能な双極子起因すると考えられる。立体的拘束された状態ならびに消光状態では、共に、双極子はその回転自由度が限定され、それによって、放出される光子の数が低減しまたは限定される。一部の実施形態では、ポリマーがポリヌクレオチドであり、通常は一本鎖ポリヌクレオチド、例えばDNAまたはRNAであるが、特にDNAである。一部の実施形態では、本発明は、ポリヌクレオチドがナノポアを移行するときに、取着された蛍光標識が1つずつナノポアから出て行くとき、その蛍光標識により発生したシグナルを記録することによって、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を決定するための方法を含む。出る際に、取着された蛍光標識のそれぞれは、ナノポアにおける拘束状態から、自由溶液中のポリヌクレオチドでの消光状態へと、遷移インターバルの間に遷移する。上述のように、この遷移インターバルまたは期間の間に、蛍光標識は、それが取着されるヌクレオチドを示す、検出可能な蛍光シグナルを放出することが可能である。
【0078】
一部の実施形態では、標的ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は、4つの個別の反応を実施することによって決定され、これらの反応では、標的ポリヌクレオチドのコピーが、単一蛍光標識で標識された、その4つの異なる種類のヌクレオチド(A、C、G、およびT)のそれぞれを有する。そのような実施形態の変形例では、標的ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は、4つの個別の反応を実施することによって決定され、これらの反応では、標的ポリヌクレオチドのコピーが、1つの蛍光標識で標識されたその4つの異なる種類のヌクレオチド(A、C、G、およびT)のそれぞれを有し、それと同時に、同じ標的ポリヌクレオチドのその他のヌクレオチドは第2の蛍光標識で標識される。例えば、第1の蛍光標識が、第1の反応で標的ポリヌクレオチドのAに取着される場合、第2の蛍光標識は、第1の反応において標的ポリヌクレオチドのC、G、およびT(即ち、「非A」ヌクレオチド)に取着される。同様に、この例の続きとして、第2の反応では、第1の標識は、標的ポリヌクレオチドのCに取着され、第2の蛍光標識は、標的ポリヌクレオチドのA、G、およびT(即ち、「非C」ヌクレオチド)に取着される。以下、ヌクレオチドGおよびTについても同様である。
【0079】
同じ標識スキームは、ヌクレオチド型のサブセットに関する従来の専門用語の観点から表すことができ;したがって上記例において、第1の反応では、第1の蛍光標識がAに取着され、第2の蛍光標識がBに取着され;第2の反応では、第1の蛍光標識がCに取着され、第2の蛍光標識がDに取着され;第3の反応では、第1の蛍光標識がGに取着され、第2の蛍光標識がHに取着され;第4の反応では、第1の蛍光標識がTに取着され、第2の蛍光標識がVに取着される。
【0080】
一部の実施形態では、本発明の特徴は、相互に消光する組のメンバーである蛍光色素または標識を備えた、ポリマー分析物の実質的に全てのモノマーの、標識付けである。そのような組の蛍光色素には、以下の性質がある:(i)各メンバーは、全てのメンバーの蛍光を消光し(例えば、FRETによってまたは静止もしくは接触機構によって)、(ii)各メンバーは、励起したとき、および非消光状態にあるときに、明確な蛍光シグナルを発生する。即ち、互いに消光する組が2種の色素、D1およびD2からなる場合、(i)D1は自己消光し(例えば、別のD1分子と接触消光することによって)、またD2によって消光し(例えば、接触消光によって)、(ii)D2は自己消光し(例えば、別のD2分子との接触消光によって)、またD1によって消光する(例えば、接触消光によって)。互いに消光する組に関して蛍光色素または標識を選択するための指針は、参照により本明細書に組み込まれる以下の参考文献に見出すことができる:Johansson、Methods in Molecular Biology、335巻:17〜29頁(2006年);およびMarrasら、Nucleic Acids Research、30巻:e122(2002年)など。例示的な互いに消光する組の蛍光色素または標識は、ローダミン色素、フルオレセイン色素、およびシアニン色素から選択され得る。一実施形態では、互いに消光する組は、ローダミン色素、TAMRA、およびフルオレセイン色素、FAMを含んでいてもよい。別の実施形態では、互いに消光する組の蛍光色素は、Oregon Green 488、Fluorescein−EX、フルオレセインイソチオシアネート、Rhodamine Red−X、LissamineローダミンB、Calcein、Fluorescein、Rhodamine、1つまたは複数のBODIPY色素、Texas Red、Oregon Green 514、および1つまたは複数のAlexa Fluorからなる群から2種またはそれ超の色素を選択することによって形成されてもよい。代表的なBODIPY色素には、BODIPY FL、BODIPY R6G、BODIPY TMR、BODIPY 581/591、BODIPY TR、BODIPY 630/650、およびBODIPY 650/665が含まれる。代表的なAlexa Fluorには、Alexa Fluor 350、405、430、488、500、514、532、546、555、568、594、610、633、635、647、660、680、700、750、および790が含まれる。
【0081】
一部の実施形態では、蛍光標識は、FRET対のメンバーである。FRET対は一般に、1つまたは複数のFRETドナーおよび1つまたは複数のFRETアクセプターであり、各ドナーは各アクセプターとFRET反応することが可能である。一態様において、上記内容は、FRET対のドナーが、アクセプターの吸収スペクトルに実質的に重なる放出スペクトルを有することを意味する。別の態様では、ドナーおよびアクセプターの遷移双極子は、効率的なエネルギー伝達が可能になるように整列されなければならない。一部の態様において、本発明は部分的には、ナノポアの蛍光、特にFRET抑制特性の発見および理解と、この特性を、ナノポアを通って移行するする標識ポリマーの検出が可能になるように適用することに基づく。ナノポアは、ナノポアを通って移行する間にFRET対標識がFRET相互作用に関与するよう配向することができないように寸法決めされた、ボアを持つものが選択されてもよいと考えられるが、本発明はそれによって限定されるものではない。ナノポアのボアにおけるポリヌクレオチドの標識の双極子は、ナノポアの限定された直径に基づいてそれらの回転自由度が拘束される。ナノポアに取着された対応するFRET対のアライメントとの双極子のアライメントのこの低減は、FRET効率を劇的に限定する。標識されたポリヌクレオチドは、ポリマー(例えば、ポリヌクレオチド)上のFRETアクセプターまたはドナーが回転自由度を再び得てFRET事象が可能になる点で、ナノポアから出た後に、FRET相互作用に関与することができる。
【0082】
上記の広範な実施形態は、分析物が例えばドナーで標識されていようとアクセプターで標識されていようと、検出される分析物のタイプ、採用されるドナーおよびアクセプターのタイプ、ナノポア、ドナー、およびアクセプターの物理的配置構成などに応じて実施されてもよい。一実施形態では、本発明により測定される分析物は、アクセプター標識ポリマーであり、特にアクセプター標識ポリヌクレオチドである。後者の実施形態の1つの種において、ポリヌクレオチド分析物の異なるヌクレオチドを、1つまたは複数の異なる種類のアクセプターで標識し、したがってポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は、ナノポアを通って移行するときに発生したFRETシグナルを測定することから決定されてもよい。別の実施形態では、本発明により測定される分析物は、ドナー標識ポリマー、特にドナー標識ポリヌクレオチドである。ポリヌクレオチドの配列は、ナノポアを通って移行するときのFRETシグナルを測定することから決定されてもよい。本発明のさらに別の実施形態では、ポリヌクレオチド分析物の4種のヌクレオチドの少なくとも1つを、FRET対のメンバーで標識する。ポリヌクレオチド中の標識ヌクレオチドの位置は、標識ナノポアを通って標識ポリヌクレオチドを移行させ、FRET事象を測定することによって決定される。同じポリヌクレオチド試料の残りのヌクレオチドを標識し、その後、標識ナノポアを通って前記試料を移行させることによって、ポリヌクレオチドのサブ配列が生成される。そのようなサブ配列を再整列させて、ポリヌクレオチドの完全配列を得ることができる。
【0083】
本発明の上記態様および実施形態のいくつかを、
図3に図式的に示す。ポリヌクレオチドなどのポリマー分析物(3000)は、ナノポア(3002)内を例えば電気泳動によって推進され、そのモノマー単位がそれらのポリマーの一次配列と同じ順序でナノポアを通って移行するように、このナノポアはポリマー(3000)の配座を拘束する。
図3に示される実施形態では、蛍光標識は、FRET対のメンバーであると仮定するが、これは本発明を限定するものではなく;蛍光標識は、蛍光シグナルを発生させるように、例えば適切な波長のレーザー放出で直接励起される蛍光標識を含んでいてもよい。
【0084】
上述のように、アクセプター標識されたモノマー単位がナノポア(3002)のボア内にあるときにはいつでも、そのFRET対のそのようなアクセプターとドナーとの間のFRET相互作用は、アクセプターが拘束状態(3014)にあるので抑制される。そのような抑制は、例えば、アクセプターおよびドナーの双極子の好ましくない配向に起因して、そのようなアクセプターがドナーからFRET距離内にあっても、検出可能なFRETシグナルが生成されないことを典型的には意味する。一方、アクセプター標識されたモノマー単位が、ナノポアのボアから出現し、またはナノポアから出て遷移ゾーン(3008)に入るとき、FRET相互作用(3010)が生じ、FRET放出(3016)が生成され、そして隣接するアクセプターによってアクセプターが自己消光状態(3011)に入り、かつアクセプターとドナーとの間の距離がFRET相互作用距離から出て行くまで、ポリマー(3000)の動きと共に増大するにつれ、検出器(3018)によって検出される。シグナル(3022)は、単一のアクセプターによって、それが遷移ゾーン(3008)内を移動するときに生成される。ナノポア(3002)の出口(3015)のすぐ隣りに隣接する空間領域である遷移ゾーン(3008)は、ナノポア(3002)を通るポリマー(3000)の移行速度、蛍光標識の振動および回転移動度、蛍光標識の物理化学的性質などを含むいくつかの因子によって画定される。
図3において、ベタ塗りの円(3004)として示されるただ1つのタイプのモノマー単位は、第1の蛍光標識(「a」と示される)を保持し;まだらの円(3006)として示されるモノマー単位の残りは、第2の蛍光標識(「b」と示される)を保持する。この実施形態において、第1の蛍光標識は、隣接する第1の蛍光標識および隣接する第2の蛍光標識を消光し;同様に、第2の蛍光標識は、隣接する第1の蛍光標識および隣接する第2の蛍光標識を消光し;さらに、第1および第2の蛍光標識は、互いに区別可能なFRETシグナル、例えば
図3の標識「a」に関して記録されたシグナル(3022)および標識「b」に関して記録されたシグナル(3023)を発生させ、したがって各蛍光標識(したがって、モノマー)は、検出器(3018)によって検出されたシグナルにより識別され得る。
【0085】
一部の実施形態では、ナノポアは、上記に記述されるように、固相膜のポアに挿入されたタンパク質ナノポアを含むハイブリッドナノポアである。ハイブリッドナノポアでは、FRET対の第1のメンバーは、「クリック」ケミストリー、例えばKolbら、Angew.Chem.Int.Ed.、4巻):2004〜2021頁(2001年)などの、従来の連結化学を使用して、タンパク質ナノポアに直接取着されていてもよく、あるいは、固相膜に直接取着されていてもよい。一実施形態では、FRET対の第1のメンバーは、例えば
図2Dを参照して論じられるように、タンパク質ナノポアに直接または間接的に取着される。別の実施形態では、FRET対の第1のメンバーは、ドナーおよび量子ドットである。量子ドットは、典型的にはアクセプター、特に、典型的には200から2000ダルトンの範囲の分子量を有する有機色素であるアクセプターよりも非常に大きい。
【0086】
一実施形態では、本発明は、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を決定するなどの、1種または複数のポリマー分析物を分析するための方法で使用されてもよく、この方法は、下記のステップ:(a)ナノポアアレイのナノポアを通ってポリマー分析物を移行させるステップであって、各ナノポアはボアおよび出口を有し、各ポリマー分析物はモノマーの配列を含み、実質的にそれぞれのモノマーは、隣接するモノマーの蛍光標識がナノポアの外側での互いの自己消光によって消光状態にあるようにかつ蛍光標識が立体的に拘束された状態にあってナノポアの内部で検出可能な蛍光シグナルを発生させることができないように、蛍光標識で標識されているステップと;(b)各蛍光標識を、立体的に拘束された状態から消光状態に遷移するときに、ナノポアの出口で励起して、蛍光標識が取着されるモノマーを示す蛍光シグナルを発生させるようにするステップと;(c)蛍光シグナルを検出してモノマーを識別するステップであって、ナノポアアレイがクラスターのアレイであるステップとを含む。本明細書で使用される、「実質的にあらゆる」、「実質的に全ての」、または同様の用語は、モノマー、特にヌクレオチドの標識付けについて言及する場合、化学的標識手順が完遂することは希であると理解され;実施可能な程度まで、これらの用語は、本発明に関連した標識反応が終了するまで継続されると理解され;一部の実施形態では、そのような完全な標識反応は、モノマーの少なくとも50パーセントを標識することを含み;他の実施形態では、そのような標識反応は、モノマーの少なくとも80パーセントを標識することを含み;他の実施形態では、そのような標識反応は、モノマーの少なくとも95パーセントを標識することを含み;他の実施形態では、そのような標識反応は、モノマーの少なくとも99パーセントを標識することを含む。
【0087】
別の実施形態では、本発明は、1つまたは複数の標識されたポリマー分析物を分析するためのデバイス、例えば1つまたは複数の標識されたポリヌクレオチド分析物のヌクレオチド配列を決定するためのデバイスを対象とし、そのようなデバイスは、以下の要素:(a)第1のチャンバーと第2のチャンバーとを分離する固相膜であって、第1のチャンバーと第2のチャンバーとをボアまたは管腔を通してそれぞれが流体接続するナノポアのアレイを有し、ボアまたは管腔は、そこを通って移行する標識されたポリマーの標識が立体的に拘束されて、検出可能なシグナルが発生しないように、かつ標識されたポリマーの隣接するモノマーの標識が自己消光するような断面寸法を有する固相膜と;(b)標識が取着されるモノマーを示すシグナルが発生するように、それぞれのナノポアから出て行き第2のチャンバーに進入するときに各標識を励起するための励起源と;(c)各励起標識によって発生したシグナルの少なくとも一部を収集するための検出器と;(d)配列決定可能なナノポアから放出されるときにはいつでも、収集されたシグナルによって、励起した標識が取着されるモノマーを識別することを含み、ここで、ナノポアのアレイはナノポアのクラスターのアレイである。
【0088】
別の実施形態では、本発明は、互いに消光する色素の組で実質的に全て標識されたモノマーを含むポリマーを含むポリマーを分析するためのシステム、およびポリマーに取着された互いに消光する色素の組の色素から光学的シグナルを順次検出するためのナノポアデバイスを対象とする。ポリヌクレオチドの配列を決定するためのそのような実施形態は、以下の要素:(a)第1のチャンバーと第2のチャンバーとを分離する固相膜であって、第1のチャンバーと第2のチャンバーとをそれぞれが接続するアパーチャーのアレイを有し、かつ少なくとも1つの表面に疎水性コーティングを有する固相膜と;(b)疎水性コーティング上に配置された脂質層と;(c)アパーチャー内に固定化されたタンパク質ナノポアであって、それぞれが出口を備えたボアを有し、脂質層と相互作用してアパーチャー内で固相膜と封止を形成することによりタンパク質ナノポアのボアを通してのみ第1のチャンバーと第2のチャンバーとの間に流体連通が生じ、ポリヌクレオチドのヌクレオチドが順次ボアの出口を通るように、かつポリヌクレオチドに取着された蛍光標識が立体的に拘束されたそれぞれが断面寸法のタンパク質ナノポアと;(d)固相膜またはタンパク質ナノポアに取着されたFRET対の第1のメンバーであって、ポリヌクレオチドのヌクレオチドがボアから出現するときにはいつでも、複数のヌクレオチドがFRET対の第1のメンバーからFRET距離内にある第1のメンバーとを含んでいてもよく、ここで、アパーチャーのアレイはアパーチャーのクラスターのアレイである。
配列分析のためのゼロモード導波路のアレイ
ゼロモード導波路のアレイは、対応する光学シグナルの配列を発生させる反応のシーケンスをそれぞれが受ける単一分子の集団を、並行して分析するために開発されており、例えば、Leveneら、Science、299巻:682〜686頁(2003年);Korlachら、Proc.Natl.Acad.Sci.、105巻(4号):1176〜1181頁(2008年)がある。この手法は、高スループットDNA配列決定機器を開発するのに適用されており、Eidら、Science、323巻:133〜138頁(2009年)がある。そのような適用例は、参照により本明細書に組み込まれる以下の米国特許:第7,302,146号;第7,476,503号;第7,906,284号;および第8,709,725号などに、さらに開示されている。典型的には、これらの適用例で使用されるゼロモード導波路のアレイでは、導波路は、隣接する導波路からの光学シグナルを光学的に区別することができ、かつ収集されたシグナルの値に実質的に影響を及ぼさないような、十分大きい導波路間距離で、規則的に間隔を空けて配置される。そのような間隔は、通常、光学シグナルを含む光の波長よりも大きく、したがって、ナノポアアレイに関して既に記述されたように、特徴の近接した配置に関するナノ工学技法の全能力は用いられない。したがって、そのような方法の効率は、本発明によるクラスターのアレイを用いることによって改善することができる。
一部の実施形態では、複数の反応試料を用いる多数の化学反応を行うための改善された方法は、以下のステップ:(a)ナノウェルのアレイを提供するステップと;(b)標識された反応物を含む複数の反応試料を、アレイのナノウェル内に配置するステップであって、個別の反応試料はアレイの異なるナノウェル内に配置されるステップと;(c)アレイを、化学反応の生成物の形成に適した条件に供するステップと;(d)生成物に動作可能に関連付けられた光学システムで、生成物の形成を検出するステップとで行ってもよく、アレイのナノウェルは、ナノウェルの異なるクラスターのそれぞれが異なる分解能限界区域内に配置されるようにかつ各クラスターのナノウェルの平均数がゼロよりも大きいように、クラスターに配置されている。一部の実施形態では、アレイのナノウェルはそれぞれ、米国特許第7,302,146号に記載されるように、光閉じ込め部および/またはゼロモード導波路を含む。
一部の実施形態では、複数の標的核酸分子を配列決定する改善された方法は、以下のステップ:(a)ナノウェルのアレイを提供するステップであって、アレイのナノウェルは、ナノウェルの異なるクラスターのそれぞれが異なる分解能限界区域内に配置されるように、かつ各クラスターのナノウェルの平均数がゼロよりも大きいように、クラスターに配置され、各ナノウェルは、個々の分子の観察を可能にする有効観察体積を提供し;光学システムは、ナノウェルに動作可能にカップリングされて、ナノウェルの有効観察体積からシグナルを検出するステップと;(b)ナノウェル内で、複数の標的核酸分子、標的核酸分子に相補的なプライマー、重合酵素、および複数新生ヌクレオチド鎖中に取り込まれるべき1つ以上のタイプのヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を、混合するステップであって、各鎖がそれぞれの標的核酸分子と相補的であるステップと;(c)ステップ(b)の混合物を、ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体の鋳型指向性重合により、新生ヌクレオチド鎖の形成に適した条件下で重合反応に供するステップと;(d)ナノウェルを、入射光線で照明するステップと;(e)各新生ヌクレオチド鎖に組み込まれたヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を識別するステップとによって行ってもよい。上記のように、一部の実施形態では、アレイのナノウェルはそれぞれ、米国特許第7,302,146号に記載されるように、光閉じ込め部および/またはゼロモード導波路を含む。
【0089】
定義
ナノ構造のアレイに言及する際の「クラスター」は、ナノ構造の複数の群または収集物の分布を意味し、各群はアレイの個別の区域を占有し、群内のナノ構造間距離は、群間のナノ構造間距離よりも非常に小さい。一部の実施形態では、そのような分布は実質的に平面状であり;即ち、ナノ構造が表面に対して間隔を空けて配置される場合、そのような表面の曲率はクラスターの近傍で小さい。一部の実施形態では、ナノ構造のクラスターは、異なるクラスターのナノ構造が異なる分解能限界区域内にあるように、分解能限界区域により包含される。クラスター内のナノ構造の数は、広く様々であってもよい。一部の実施形態では、ナノ構造アレイは、アレイの各クラスター内で、所定の数のナノ構造で製作されてもよい。例えば、アレイのクラスターはそれぞれ、複数のナノ構造を有していてもよく;他の実施形態では、アレイのクラスターはそれぞれ、1から100個のナノ構造を有していてもよく;他の実施形態では、クラスターはそれぞれ、2から50個のナノ構造を有していてもよく;他の実施形態では、クラスターは2から16個のナノ構造を有していてもよい。一部の実施形態では、アレイの各クラスターは、同じ数のナノ構造を有していてもよい。他の実施形態では、クラスター内のナノ構造の数は、平均の、または予測される数およびおそらくはその分散がアレイ内のクラスターを特徴付けるように、ランダムな変数であってもよい。一部の実施形態では、ナノ構造のクラスターはナノポアのクラスターであり;他の実施形態では、ナノ構造のクラスターは、ゼロモード導波路であるナノウェルを含むがこれらに限定されないナノウェルのクラスターである。一部の実施形態では、例えばナノ構造がタンパク質ナノポアを含む場合、クラスター内のナノポアの数を表すランダムな変数は、その平均値が、アパーチャーのアレイを装荷するのに使用される溶液中のタンパク質ナノポアの濃度に依存する、Poissonランダム変数であってもよい。
【0090】
「FRET」または「Forsterまたは蛍光共鳴エネルギー伝達」は、励起されたドナーフルオロフォアから基底状態のアクセプターフルオロフォアへの非放射性双極子−双極子エネルギー伝達メカニズムを意味する。FRET相互作用におけるエネルギー伝達の速度は、ドナーの放出スペクトルとアクセプターの吸収スペクトルとのスペクトルの重なりの程度、ドナーの量子収率、ドナーおよびアクセプターの遷移双極子の相対的な配向、ならびにドナー分子とアクセプター分子との間の距離に依存し、Lakowitz、Principles of Fluorescence Spectroscopy、第3版、(Springer、2006年)がある。特定の目的のFRET相互作用は、アクセプターに伝達され、次にそのドナーを励起する光の周波数よりも低い周波数で、光子としてアクセプターにより放出される、エネルギーの一部をもたらすものである(即ち、「FRETシグナル」)。「FRET距離」は、FRET相互作用を引き起こすことができ、かつ検出可能なFRETシグナルがFRETアクセプターによって生成される、FRETドナーとFRETアクセプターとの間の距離を意味する。
【0091】
「キット」は、本発明の方法を実施する材料または試薬を送達するための、任意の送達システムを指す。反応アッセイの文脈において、そのような送達システムは、1つの場所から別の場所への、反応試薬(例えば、適切な容器内の、互いに消光する蛍光標識、蛍光標識連結剤、酵素などの蛍光標識)および/または支持材料(例えば、緩衝剤、アッセイを行うために文書にされた取扱説明書など)の貯蔵、輸送、または送達を可能にするシステムを含む。例えばキットは、関係のある反応試薬および/または支持材料を含有する1つまたは複数のエンクロージャー(例えば、ボックス)を含む。そのような内容物は、一緒にまたは別々に、意図される受取人に送達される。例えば、第1の容器には、アッセイで使用される酵素が入っていてもよく、一方、第2のまたはそれ超の容器には、互いに消光する蛍光標識が入っていてもよい。
【0092】
本明細書で交換可能に使用される「マイクロ流体」デバイスまたは「ナノ流体」デバイスはそれぞれ、試料(また、目的の細胞または分子分析物を含有するか、または含んでいてもよい)、試薬、希釈剤、または緩衝剤などを含む少量の流体を捕獲し、移動させ、混合し、分与し、または分析するための、一体化システムを意味する。一般に、「マイクロ流体」および「ナノ流体」と言う場合、デバイスのサイズと取り扱われる流体の体積とは異なる規模であることを示す。一部の実施形態では、マイクロ流体デバイスの特徴は、数百平方マイクロメートル未満の断面寸法を有し、かつ毛管寸法を有する、例えば、約500μmから約0.1μmの最大断面寸法を有する、経路またはチャネルを有する。一部の実施形態では、マイクロ流体デバイスは、1μLから数nLの、例えば10〜100nLの範囲の体積容量を有する。ナノ流体デバイスにおける、対応する特徴または構造の寸法は、典型的にはマイクロ流体デバイスの大きさよりも1から3桁小さい。当業者なら、寸法上適切と考えられる特定の適用例の状況から、わかるであろう。一部の実施形態では、マイクロ流体またはナノ流体デバイスは、相互接続され流体連通された、かつ1つまたは複数の分析反応またはプロセスを実施するために設計された、1つまたは複数のチャンバー、ポート、およびチャネルを有し、これらは単独で用いられるか、または試料導入などの支持機能、正もしくは負圧または音響エネルギーなどの流体および/または試薬推進手段、温度制御、検出システム、データ収集および/または積分システムなどをもたらす器具もしくは機器と協働して用いられる。一部の実施形態では、マイクロ流体およびナノ流体デバイスは、弁、ポンプ、フィルター、および内壁上の特殊化された機能性コーティングを、例えば、試料成分または反応物の吸着を防止し、または電気浸透によって試薬の移動を容易にするなどのためにさらに含んでいてもよい。そのようなデバイスは、ガラス、プラスチック、またはその他の固体ポリマー材料であってもよく、特に光学的または電気化学的方法を介して試料および試薬の移動を検出し、モニターするのを容易にするための平面状のフォーマットを有していてもよい固体基材の内部に、または固体基材として製作されてもよい。一部の実施形態では、そのようなデバイスは、1回使用した後に使い捨て可能である。一部の実施形態では、マイクロ流体およびナノ流体デバイスは、軽油などの非混和性流体に浸漬された水性液滴などの液滴の、移動、混合、分与、および分析を形成し制御するデバイスを含む。マイクロ流体およびナノ流体デバイスの製作および操作は、参照により組み込まれる以下の参考文献により具体化されるように、当技術分野で周知である。Ramsey,米国特許第6,001,229号;同第5,858,195号;同第6,010,607号;および同第6,033,546号;Soane et al,米国特許第5,126,022号および同第6,054,034号;Nelson et al,米国特許第6,613,525号;Maher et al,米国特許第6,399,952号;Ricco et al,国際特許公開WO02/24322;Bjornson et al,国際特許公開WO99/19717;Wilding et al,米国特許第5,587,128号;同第5,498,392号;Sia et al,Electrophoresis,24:3563−3576(2003);Unger et al,Science,288:113−116(2000);Enzelberger et al,米国特許第6,960,437号;Cao,“Nanostructures&Nanomaterials:Synthesis,Properties&Applications,”(Imperial College Press,London,2004);Haeberle et al,LabChip,7:1094−1110(2007);Cheng et al,Biochip Technology(CRC Press, 2001)など。
【0093】
「ナノポア」は、基材が所定のまたは識別可能な順序で分析物を通る、またはポリマー分析物の場合、そのモノマー単位が所定のまたは識別可能な順序で基材を通るのを可能にする、基材に位置決めされた任意の開口を意味する。後者の場合、所定のまたは識別可能な順序は、ポリマー中のモノマー単位の一次配列であってもよい。ナノポアの例には、タンパク質様またはタンパク質ベースのナノポア、合成または固体状態のナノポア、およびタンパク質ナノポアがその内部に埋め込まれている固体状態のナノポアを含むハイブリッドナノポアが含まれる。ナノポアは、内径が1〜10nmまたは1〜5nmまたは1〜3nmであってもよい。タンパク質ナノポアの例には、アルファ−溶血素、電圧依存性ミトコンドリアポリン(VDAC)、OmpF、OmpC、MspA、およびLamB(マルトポリン)、例えば、参照により本明細書に組み込まれるRhee,M.ら、Trends in Biotechnology、25巻(4号)(2007年):174〜181頁;Bayleyら(前掲);Gundlachら、米国特許公開第2012/0055792号などに開示されているものが含まれるが、これらに限定されない。単一核酸分子の通過を可能にする任意のタンパク質ポアを用いてもよい。ナノポアタンパク質は、ポアの外側の特定の部位で、またはポア形成タンパク質を構成する1つまたは複数のモノマー単位の外側の特定の部位で標識されてもよい。ポアタンパク質は、アルファ−溶血素、MspA、電圧依存性ミトコンドリアポリン(VDAC)、アンスラックスポリン、OmpF、OmpC、およびLamB(マルトポリン)などであるがこれらに限定されないタンパク質の群から選択される。固体状態のホールへのポアタンパク質の一体化は、帯電したポリマーをポアタンパク質に取着することによって実現される。電場を印加した後、帯電した複合体を、電気泳動によって固体状態のホールに引き込む。合成ナノポアまたは固体状態のナノポアは、様々な形態の固体基材中に創出されてもよく、その例には、シリコーン(例えば、Si
3N
4、SiO
2)、金属、金属酸化物(例えば、Al
2O
3)、プラスチック、ガラス、半導体材料、およびこれらの組合せが含まれるがこれらに限定されない。合成ナノポアは、脂質二重層膜内に位置決めされた生物学的タンパク質ポアよりも安定と考えられる。合成ナノポアは、重合エポキシなどであるがこれに限定されない適切な基材に埋め込まれたカーボンナノチューブを使用することによって、創出されてもよい。カーボンナノチューブは、均一で十分定められた化学的および構造的性質を有することができる。1から100ナノメートルに及ぶ様々なサイズのカーボンナノチューブを得ることができる。カーボンナノチューブの表面電荷は、約ゼロであることが公知であり、その結果、ナノポアを通る核酸の電気泳動輸送は単純かつ予測可能になる(Ito,T.ら、Chem.Commun.12巻(2003年):1482〜83頁)。合成ナノポアの基材表面は、タンパク質ポアの共有結合による取着が可能になるようにまたは表面特性を光学ナノポア配列決定に適切なものにするように、化学修飾されてもよい。そのような表面修飾は、共有結合または非共有結合にすることができる。ほとんどの共有結合による修飾は、オルガノシラン堆積を含み、それに関する最も一般的なプロトコールが記述されている:1)水性アルコールからの堆積。これはシリル化表面を調製するための最も容易な方法である。95%エタノール−5%水の溶液を、酢酸でpH4.5〜5.5に調節する。シランを、撹拌しながら添加して、2%の最終濃度が得られる。加水分解およびシラノール基形成の後、基材を2〜5分間添加する。濯いだ後、過剰な材料は、エタノール中に短時間浸漬することによってなくなる。シラン層の硬化は、摂氏110度で5〜10分である。2)気相堆積。乾燥非プロトン性条件下、化学気相堆積法によって、シランを基材に付着させることができる。これらの方法は、単層堆積が容易である。閉鎖チャンバーのデザインで、5mmの蒸気圧が達成されるような十分な温度に基材を加熱する。あるいは、シランの蒸発が観察されるまで、真空を印加することができる。3)スピンオン堆積。スピンオン付着は、最大源の官能化および多層堆積が好まれる加水分解条件下で、または単層堆積が好まれる乾燥条件下で行うことができる。一部の実施形態では、単一ナノポアが本発明では用いられる。他の実施形態では、複数のナノポアが用いられる。後者の実施形態のいくつかでは、複数のナノポアを、ナノポアのアレイとして用い、これらは固相膜などの平面基材に通常は堆積される。ナノポアアレイのナノポアは、規則的に、例えば直線的なパターンで、間隔を空けて配置されてもよく、またはランダムに間隔を空けて配置されてもよい。好ましい実施形態では、ナノポアは、平面状の固相基材において、直線上のパターンとして規則的に間隔を空けて配置される。
【0094】
「ナノ構造」(「ナノスケール構造」および「ナノスケール特徴」と交換可能に使用される)は、数ナノメートルから数百ナノメートルの範囲内、例えば1から1000ナノメートルの範囲内にある少なくとも1つの寸法を有する構造を意味する。いくつかの適用例では、そのような範囲は2から500ナノメートルであり;他の適用例では、そのような範囲は3から500ナノメートルである。ナノ構造の形状および幾何学的形状は、広く様々であってもよく、ナノポア、ナノウェル、ナノ粒子、および反応のシーケンスを実施するのに特に適した任意のその他の都合のよい形状を含むがこれらに限定されない。一部の実施形態では、ナノ構造は、固相膜に動作可能に関連付けられたタンパク質ナノポアであってもよい。ナノポアおよびナノウェルなどのいくつかのナノ構造は、ナノポアまたはナノウェルのアレイが形成されるよう、固相膜またはその他の固体などのより大きい共通基材に形成されてもよい。特定の目的のナノ構造は、化学的、物理的(例えば、FRET)、酵素的、および/もしくは結合反応、またはそのような反応のシーケンスを支持するか、または含有することが可能なものである。一部の実施形態では、ナノウェルなどのナノ構造は、1ナノリットル(10
−9リットル)未満、1ピコリットル未満、または1フェムトリットル未満の体積を取り囲む。他の実施形態では、個々のナノウェルのそれぞれは、1000ゼプトリットル未満、100ゼプトリットル、80ゼプトリットル、または50ゼプトリットル未満、または1ゼプトリットル未満、またはさらに100ヤクトリットル未満の体積を提供する。一部の実施形態では、ナノウェルは、ゼロモード導波路を含む。
【0095】
ペプチドについて言及する際の、「ペプチド」、「ペプチド断片」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」、または「断片」は、本明細書では同義に使用され、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基の単一の非分岐鎖を構成する化合物を指す。ペプチドまたはポリペプチド中のアミノ酸は、ポリエチレングリコール、色素、ビオチン、ハプテン、または同様の部分を含むがこれらに限定されない様々な部分により誘導体化されてもよい。タンパク質またはポリペプチドまたはペプチド中のアミノ酸残基の数は、広く様々であってもよく;しかし一部の実施形態では、本明細書で言及するタンパク質またはポリペプチドまたはペプチドは、2から70個のアミノ酸残基を有していてもよく;他の実施形態では、2から50個のアミノ酸残基を有していてもよい。他の実施形態では、本明細書で言及されるタンパク質またはポリペプチドまたはペプチドは、数十個のアミノ酸残基、例えば20個から、最大で千個またはそれ超のアミノ酸残基、例えば1200個までのアミノ酸残基を有していてもよい。さらに他の実施形態では、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、もしくはそれらの断片は、10から1000個のアミノ酸残基を有していてもよく;またはそれらは20から500個のアミノ酸残基を有していてもよく;またはそれらは20から200個のアミノ酸残基を有していてもよい。
【0096】
「ポリマー」は、直鎖状に接続された複数のモノマーを意味する。通常、ポリマーは、複数のタイプのモノマーを、例えばA、C、G、およびTを含むポリヌクレオチドとして、または複数の種類のアミノ酸を含むポリペプチドとして含む。モノマーは、ヌクレオシドおよびその誘導体または類似体、ならびにアミノ酸およびその誘導体および類似体を、限定することなく含んでいてもよい。一部の実施形態では、ポリマーは、ヌクレオシドモノマーがホスホジエステル結合によって接続されているポリヌクレオチド、またはその類似体である。
【0097】
「ポリヌクレオチド」または「オリゴヌクレオチド」は交換可能に使用され、それぞれヌクレオチドモノマーの直鎖状ポリマーを意味する。ポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドを構成するモノマーは、Watson−Crick型の塩基対合、塩基スタッキング、またはHoogsteenもしくは可逆的Hoogsteen型の塩基対合などの、モノマー間相互作用の規則的なパターンを経て天然のポリヌクレオチドに特異的に結合することが可能である。そのようなモノマーおよびそれらのヌクレオシド間連結は、天然に生じてもよく、またはその類似体、例えば、天然に存在するか、または天然に存在しない類似体であってもよい。天然に存在しない類似体は、PNA、ホスホロチオエートヌクレオシド間連結、およびフルオロフォアまたはハプテンなどの標識の取着を可能にする連結基を含有する塩基などを含んでいてもよい。オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの使用に際してポリメラーゼによる伸長またはリガーゼによるライゲーションなどの酵素処理を必要とするときにはいつでも、当業者には、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドがそれらの場合に任意のまたはいくつかの位置でヌクレオシド間連結、糖部分、または塩基の類似体を含有しなくてもよいことを理解するであろう。ポリヌクレオチドは、典型的にはそのサイズが、それらが通常「オリゴヌクレオチド」と呼ばれる場合には、数モノマー単位、例えば5〜40単位から、数千モノマー単位に及ぶ。ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドが、「ATGCCTG」などの文字(大文字または小文字)の配列によって表される場合はいつでも、ヌクレオチドは左から右に5’→3’の順序であり、文脈から他に指示されずまたは明らかにされない限り、「A」はデオキシアデノシンを示し、「C」はデオキシシチジンを示し、「G」はデオキシグアノシンを示し、「T」はチミジンを示し、「I」はデオキシイノシンを示し、「U」はウリジンを示すことが理解されよう。他に記述されない限り、専門用語および原子付番規則は、StrachanおよびRead、Human Molecular Genetics 2(Wiley−Liss、New York、1999年)に開示されたものに従うことになる。通常、ポリヌクレオチドは、ホスホジエステル結合によって連結された4種の天然ヌクレオシド(例えば、DNAに関してはデオキシアデノシン、デオキシシチジン、デオキシグアノシン、デオキシチミジンであり、またはRNAに関してはそれらのリボース対応物である)を含み;しかし、それらは、例えば修飾された塩基、糖、またはヌクレオチド間の結合を含む非天然ヌクレオチド類似体を含んでいてもよい。酵素が、活性に関して特定のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド基材要件、例えば一本鎖DNA、またはRNA/DNA二重鎖などを有する場合、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド基材に適切な組成物の選択は、特にSambrookら、Molecular Cloning、第2版(Cold Spring Harbor Laboratory、New York、1989年)などの論文および同様の参考文献による指針により、十分に当業者の知識の範囲内にあることは、当業者には明らかである。同様に、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドは、一本鎖の形態または二本鎖の形態(即ち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの二重鎖と、そのそれぞれの相補体)を指してもよい。どの形態が意図されるのかまたは両方の形態が意図されるのか否かは、用語の使用の文脈から、当業者には明らかであろう。
【0098】
ポリヌクレオチドに言及する際の「配列決定」、「配列決定すること」または「ヌクレオチド配列を決定すること」または同様の用語は、ポリヌクレオチドの部分的ならびに完全な配列情報の決定を含む。すなわち、上記用語は、4種の天然ヌクレオチド、A、C、G、およびTの全ての組のサブセットの配列、例えば標的ポリヌクレオチドのAおよびCのみの配列などを含む。即ち用語は、標的ポリヌクレオチド内のヌクレオチドの4つのタイプの1つ、2つ、3つ、または全ての同一性、順序、および場所を決定することを含む。一部の実施形態では、用語は、標的ポリヌクレオチド内のヌクレオチドの4つのタイプの2つ、3つ、または全ての同一性、順序、および場所を決定することを含む。一部の実施形態では、配列決定は、標的ポリヌクレオチド「catcgc...」内のヌクレオチドの単一タイプ、例えばシトシンの、順序および場所を識別することによって実現されてもよく、したがってその配列は、「c−(非c)(非c)c−(非c)−c...」などを表すバイナリーコード、例えば「100101...」として表されるようになる。一部の実施形態では、用語は、標的ポリヌクレオチドのフィンガープリントとしての役割をする標的ポリヌクレオチドの配列を含んでいてもよく;即ち、一組のポリヌクレオチド内の標的ポリヌクレオチドまたは標的ポリヌクレオチドのクラスを独自に識別する配列であり、例えばセルによって表される全ての異なるRNA配列である。
【0099】
本開示は、記述される特定の形態の範囲を限定するものではなく、本明細書に記述される変形例の代替例、修正例、および均等物を包含するものとする。さらに、本開示の範囲は、本開示に鑑み当業者に明らかになり得るその他の変形例を、完全に包含する。本発明の範囲は、添付される特許請求の範囲によってのみ限定される。