(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る乗員保護装置の一実施形態について、
図1〜
図3を参照しつつ説明する。
なお、
図1(a)〜(c)は本発明の一実施形態である乗員保護装置1を示す概略図であり、
図1(a)は乗員保護装置1を示す正面図であり、
図1(b)は乗員保護装置1を示す側面図であり、
図1(c)は乗員保護装置1のシート100をリクライニングした状態を示す側面図である。
図2は、
図1に示した乗員保護装置1を用いた乗員の着座状態の規制を行う際の制御フローについて示すフローチャート図である。
図3(a)〜(d)は、乗員保護装置1を
図2に示した制御フローに沿って駆動したときの工程説明図である。
【0013】
図1に示すように、乗員保護装置1は、シート100と、シートベルト2と、駆動手段3と、第1検知手段4と、第2検知手段5と、制御手段6とを備える。
【0014】
シート100は、乗員Pが着座可能なシートクッション101と、乗員Pが背面をもたれさせることのできるシートバック102とを有する。シートバック102は、シート100の幅方向に沿ってシートクッション101の後部に配置されたヒンジ状部材の軸線方向を中心として後傾することで、シート100後方へのリクライニングが可能となっている。
【0015】
乗員保護装置1は、フロア部分にアンカ部103と、シート100の側方にバックル部104とを備える。
アンカ部103は、シート100の幅方向一方側(
図1ではシート100及び乗員Pの右側)の車両フロア部分に配置され、シートベルト2の一端部を固定的に保持する。なお、本発明においてアンカ部は、自動運転車両においてシートレイアウトの自由化が進む場合には、フロア部分に代えてシート自体に取付けられることも有り得る。
バックル部104は、シート100の幅方向他方側(
図1ではシート100及び乗員Pの左側)のシート100下部の側方に配置され、アンカ部103から延在するシートベルト2の一部を保持可能なタング105が係止される。タング105は、バックル部104に対して着脱自在であり、シートベルト2の摺動部分を有する。これにより、シートベルト2はシートバック102上部からバックル部104に係止されたタング105を経由してアンカ部103まで延在することとなる。
【0016】
シートベルト2は、乗員Pを着座状態でシート100に拘束する手段であり、ショルダ部21とラップ部22とを有する。シートベルト2は、上述したように一端部がアンカ部103に固定的に保持されると共に、他端部が駆動手段3に保持される。
ショルダ部21は乗員Pの肩部を拘束することが可能な部位である。ショルダ部21は、シートベルト2において、上側がシート100の幅方向におけるアンカ部103が設けられている側、本実施形態ではシート100の幅方向一方側から、下側がバックル部104及びタング105までの間の部位である。ショルダ部21は、乗員Pの上体を上方から下方に向かって斜めに横断するように配置されることで、乗員Pの左右方向一方側の肩部から他方側の腰部までに密着して拘束する。
ラップ部22は乗員Pの腰部を拘束することが可能な部位である。ラップ部22は、シートベルト2において、アンカ部103からバックル部104及びタング105までの間の部位である。ラップ部22は、乗員Pの腰部周辺をシート100の幅方向の一方側から他方側に向かって横断するように配置されることで、乗員Pの腰部及び下肢に密着して拘束する。
【0017】
駆動手段3は、ショルダ部21の巻取り及び繰出しを行う。具体的には、駆動手段3は、シートバック102内の上方に配置され、ガス又は電動により回転駆動するリトラクタなどを用いて、拘束を強めるショルダ部21の巻取り、及び、拘束を緩めるショルダ部21の繰出しを行うようになっている。本実施形態におけるシートベルト2は、ショルダ部21がシートバック102の上端部からシートバック102内部に案内され、シートバック102内で駆動手段3により保持されている。
【0018】
第1検知手段4は、車両の衝突又は衝突可能性を検知する。具体的には、第1検知手段4は、適宜のカメラ、センサなどにより車外の周辺環境の監視結果に基づいて、他車両又は障害物と自車両との衝突又は衝突可能性の有無を検知する。第1検知手段4は、検知結果を制御手段6に出力することが可能となっている。
衝突の検知は、車両に搭載される加速度センサなどによって、自車両に作用する衝撃を検知することで衝突が発生したと判別することができる。
また、衝突可能性の検知は、車両に搭載されるカメラ、監視用センサなどによる他車両又は障害物の監視結果と、自車両の走行速度、方向などとを併せることで、自車両に接近しかつ接触し得る可能性を導出し、導出結果が適宜のしきい値を超えているか否かによって衝突可能性の高低を判別することができる。
第1検知手段4としては、例えば車載カメラ、監視用センサ、加速度センサなどと、監視結果の解析のための演算処理装置とを組合せて用いることができる。
【0019】
第2検知手段5は、シートクッション101に着座する乗員Pの着座状態の変化を検知する。具体的には、第2検知手段5は、適宜のカメラ、センサなどにより車内の乗員Pの着座位置、及び、乗員Pの着座姿勢の少なくとも一方の変化を検知する。第2検知手段5は、検知結果を制御手段6に出力することが可能となっている。
乗員Pの着座位置又は着座姿勢は、乗員Pの監視用カメラを用いたドライバモニタリングシステム(DMS)、シートクッション101及びシートバック102の表面に配置され荷重分布を導出可能な感圧センサ、シートバック102のリクライニング角度を検出する角度センサなどを利用することで、適宜に検知することができる。乗員Pの着座位置又は着座姿勢の変化は、上記カメラ及びセンサなどと、監視結果の経時的な変化を解析、導出するための演算処理装置とを組み合わせて用いることができる。
【0020】
なお、第2検知手段5による着座状態の変化は、上記カメラ及びセンサなどを用いて直接モニタリングする形態に代えて、変化を推定する形態を採用することもできる。この変化の推定形態としては、例えば加速度センサとタイマ部材とを用いて、加速度センサにより検知される衝突が生じた瞬間からタイマ部材で経過時間を計測し、所定時間が経過すると乗員Pの着座状態が所定の状態に変化しているとの推定を行うことができる。なお、例えばどの程度の加速度が車両に生じていれば、乗員Pの特に上体などがどの程度の変化(上体の起き上がり及び前方移動など)を生じるのかという相関関係を、推定のための演算処理装置に予め記憶させておくのが良い。
【0021】
乗員Pの着座位置の検知要素としては、例えばシートクッション101において最も荷重が作用している位置を挙げることができる。乗員Pの着座位置として実際には、
図1(b)に下向きの黒色矢印で示すように乗員Pの腰部(腰椎)の下方位置、又は臀部とシートクッション101との接触位置となることが多い。
図1に示す乗員Pの着座位置は、車両に搭載されて成る乗員Pの保護デバイス、つまりフロントエアバッグ、サイドエアバッグ、カーテンエアバッグ、シートベルト2などによって乗員Pを保護するときに想定されている適切な着座位置である。他の着座位置としては、例えば
図1に示す着座位置より腰部又は臀部が前方に載置されることで、荷重が前方に偏った位置などが挙げられる。
【0022】
乗員Pの着座姿勢の検知要素としては、例えば乗員Pの体の各部位の角度及び位置を挙げることができ、更に具体的には乗員Pの頭部、肩部、頸部、胴部、腰部、臀部、大腿部、膝部、及び脛部などの相対角度及び相対位置などが挙げられる。
図1に示す乗員Pの着座姿勢は、通常の手動運転を行う際の着座姿勢であり、乗員Pの上半身が正立した状態である。他の着座姿勢としては、シートバック102と共に上半身が後傾した状態などが挙げられる。
【0023】
制御手段6は、駆動手段3の駆動を制御する。具体的には、制御手段6は、制御手段6は、第1検知手段4によって車両の衝突又は衝突可能性が検知されると、ショルダ部21の巻取りと、該巻取りの停止又はショルダ部21の繰出しとを行うように駆動手段3を制御すると共に、第2検知手段5によって検知された着座状態の変化に基づいて、ショルダ部21の再度の巻取りを行うように駆動手段3を制御する。制御手段6は駆動手段3に対して駆動信号を出力することが可能となっている。
制御手段6としては、例えば車載用の演算処理装置であるECUなどを用いることができる。
【0024】
図1(c)に示す乗員保護装置1は、
図1(a)及び(b)に示した乗員保護装置1を用いて、シートバック102を後方に傾斜させた状態である。
図1(c)に示す乗員Pは、シートバック102が後傾することで乗員Pの上体も後傾している状態である。また乗員Pの着座位置は、
図1(a)及び(b)に示した着座位置と略同位置である。よって、
図1(c)に示す乗員Pの着座状態として、着座姿勢は上体が後傾した姿勢であり、かつ着座位置はシートクッション101の後方側でいわゆる深く着座している位置であることを、第2検知手段5が検知することになる。
図1(c)に示す着座状態で車両を走行させるには、自車両において自動運転制御又は高度運転支援制御が行われることが必要である。
【0025】
図1(a)及び(b)に示したように乗員Pの上体が正立状態である場合、車両前方からの衝突が生じると、乗員Pの腰部及び臀部は、シートクッション101に一旦沈み込むように下方に移動した後に前方に移動し始めることがある。
これに対して、
図1(c)に示すように乗員Pの上体が後傾している場合、前方からの衝突が生じると、乗員Pの腰部及び臀部は、シートクッション101への沈み込みが少なく、座面上で前方に滑るように移動する可能性がある。
特に
図1(c)に示す乗員Pの着座状態は、
図1(a)及び(b)に示す着座状態よりも前方移動のタイミングが早くなると共に移動量が大きくなる傾向があるので、着座姿勢などが崩れ易い。着座姿勢などの着座状態が崩れ易いと、車両に搭載されているエアバッグなどの保護デバイスから適切な保護を受けにくくなり易い。つまり、乗員Pが
図1(c)に示す着座状態である場合に、衝突が生じたときに乗員保護装置1を用いて乗員Pの着座状態の規制を行うのが好ましい。
【0026】
よって、本実施形態に係る乗員保護装置1を用いる際の制御について、
図1(c)に示した乗員Pの着座状態に基づいて、
図2及び
図3を参照しつつ説明する。
【0027】
先ず、
図2に示すように、第1検知手段4が自車両の衝突又は衝突可能性の有無を判別する(ステップS1)。本工程では、第1検知手段4の検知結果に基づいて、実際に衝突が発生したと第1検知手段4が判別した場合に、次工程に移る(ステップS1のYES)。また、本工程では、第1検知手段4の検知結果に基づいて、他車両若しくは障害物が自車両に接近することで増大するリスクを第1検知手段4が導出し、該リスクが適宜のしきい値を超えていれば衝突の可能性があると第1検知手段4が判別し、この場合にも同様に次工程に移る(ステップS1のYES)。
なお、第1検知手段4の検知結果では衝突の発生が無いと第1検知手段4が判別した場合は、衝突に備える必要が無く、駆動手段3を駆動させる必要も無いので、本制御フローを完了する(ステップS1のNO)。また、他車両若しくは障害物が自車両に接近していないことで衝突の可能性が無い場合、又は、他車両若しくは障害物が自車両に接近しているが上記リスクが適宜のしきい値を超えていないことで衝突の可能性が低い場合にも、同様に本制御フローを完了する(ステップS1のNO)。
第1検知手段4の判別結果は制御手段6に出力される。
本工程の実行前、つまり自動運転状態又は高度運転支援状態での通常運転走行時、及び本工程の判別中は、
図3(a)に示すように乗員Pが上体をシートバック102に沿って後傾した着座状態である。
【0028】
衝突の発生又は衝突可能性があると第1検知手段4により判別がなされた場合は(ステップS1のYES)、制御手段6が駆動手段3の巻取りに係る駆動制御を行う(ステップS2)。本工程では、制御手段6から駆動信号が入力されることで、駆動手段3におけるリトラクタがガス又は電動によりショルダ部21を巻取ることとなる(以下に、本工程の巻取りを「第1巻取り」と称する)。本工程におけるショルダ部21の第1巻取りを行うことで、乗員Pの上体をシート100に対して適正位置に規制する。この適正位置としては、例えば乗員Pの上体の幅方向における中心線と、シート100の幅方向の中心線とが略一致する位置を挙げることができる。乗員Pの上体がシート100の幅方向のいずれか側にずれていた場合であっても、ショルダ部21の第1巻取りによって適正位置にすること又は近付けることができる。
先ず乗員Pの上体をシート100の幅方向で適正位置に規制しておくことで、本工程以降の乗員Pの着座状態の変化において、シート100及び乗員Pの前後方向に対して斜め方向などの意図しない変化が生じにくくなる。
本工程を実行すると、
図3(b)に示すように、ショルダ部21が巻取られることで乗員Pの上体にショルダ部21が密着し、乗員Pの上体をシートバック102に拘束した状態となる。
【0029】
次に、制御手段6が駆動手段3の巻取りの停止又は繰出しに係る駆動制御を行う(ステップS3)。本工程では、制御手段6から駆動信号が入力されることで、駆動手段3におけるリトラクタが停止することでショルダ部21の第1巻取りを停止する、又はリトラクタが逆回転することでショルダ部21を繰り出すこととなる。本工程におけるショルダ部21の第1巻取りの停止又はショルダ部21の繰出しを行うことで、乗員Pの上体のシートバック102への拘束状態を緩和する。
本工程を実行すると、
図3(c)に示すように、衝突が生じていれば乗員Pの上体に前方に向かって慣性が作用することで、乗員Pの上体が起き上がるという着座状態の変化が生じることを許容することとなる。
【0030】
続いて、第2検知手段5が乗員Pの着座状態が規定以上の変化を生じているか否かを判別する(ステップS4)。本工程では、第2検知手段5の検知結果に基づいて、
図3(c)に示したような起き上がり挙動などの乗員Pの着座状態の変化が所定のしきい値(以下、「変化しきい値」と称する)以上であると第2検知手段5が判別した場合に、次工程に移る(ステップS4のYES)。なお、本工程で用いる変化しきい値は、乗員Pの上体の移動量などの変化量に係るしきい値であっても良く、乗員Pの上体の移動速度などの変化速度に係るしきい値であっても良く、乗員Pの上体の移動加速度などの変化加速度に係るしきい値であっても良い。
なお、第2検知手段5の検知結果では衝突が未だ発生していない、又は、衝突発生しているが乗員Pの着座状態の変化が変化しきい値に達していないと第2検知手段5が判別した場合は、乗員Pの着座状態の変化が変化しきい値以上となるまで、本判別工程を繰り返す(ステップS4のNO)。
第2検知手段5の判別結果は制御手段6に出力される。
本工程の判別中は、前工程(ステップS3)に引き続き、
図3(c)に示すように乗員Pの着座状態の変化を許容された状態が維持されている
【0031】
乗員Pの着座状態の変化が変化しきい値以上であると第2検知手段5により判別がなされた場合は(ステップS4のYES)、制御手段6が駆動手段3の再度の巻取りに係る駆動制御を行う(ステップS5)。本工程では、制御手段6から駆動信号が入力されることで、駆動手段3におけるリトラクタがガス又は電動によりショルダ部21を再度巻取ることとなる(以下に、本工程の巻取りを「第2巻取り」と称する)。本工程におけるショルダ部21の第2巻取りを行うことで、乗員Pの上体に前工程(ステップS3)以上の変化を生じないように規制する。本工程以降は、衝突により乗員Pの上体及び下肢が大きく前方移動しようとすると共に、車両に搭載されているエアバッグなどの保護デバイスが駆動し始めるので、前方移動の抑制又は低減を行う必要がある。
本工程を実行すると、
図3(d)に示すように、第2巻取りによりショルダ部21が再度巻取られることで、乗員Pの上体にショルダ部21が密着し、乗員Pを前方移動しないように規制し、拘束した状態となる。これにより、乗員Pの着座状態を規制して
図3に示す着座状態から変化させ難くするので、結果として衝突時に乗員Pの下肢が前方に移動するいわゆるサブマリン現象の発生を抑制することができる。
【0032】
したがって、ショルダ部21の第1巻取りと、第1巻取りの停止又はショルダ部21の繰出しとを行うことで、衝突が生じた際に乗員Pの下肢の前方移動の原因となる前方への慣性を、乗員Pの上体の起き上がり挙動によって低減する。更にショルダ部21の第2巻取りによって乗員Pの着座状態を略固定状態とすることで、乗員Pに対して保護デバイスの乗員保護機能を適切に発揮させることができるようになる。
【0033】
なお、
図3に示した乗員保護装置1の駆動工程では、
図1(c)に示したように乗員Pの上体が後傾している状態であったが、本発明においては乗員Pの上体が
図1(a)及び(b)に示したような正立状態であっても、同様の駆動工程を経ることで乗員Pを適切な着座状態とすることができる。
具体的には、乗員Pの上体が正立状態であるときに、衝突又は衝突可能性の有無の判別工程(ステップS1)と、ショルダ部21の第1巻取り工程(ステップS2)と、第1巻取りの停止又はショルダ部21の繰出し工程(ステップS3)とを同様に実行した場合、乗員Pの上体は上述した起き上がり挙動に代えて前方移動を生じる。この場合であっても衝突が生じた際に乗員Pの下肢が沈み込んだ後に前方移動の原因となる前方への慣性を、乗員Pの上体の前方移動挙動によって低減する。更にショルダ部21の第2巻取りによって乗員Pの着座状態をシートバック102に対して拘束し、略固定状態とすることで、乗員Pに対して保護デバイスの乗員保護機能を適切に発揮させることができるようになる。
【0034】
よって、乗員Pの着座状態が
図1(a)及び(b)に示した状態であっても、
図1(c)に示した状態であっても、乗員Pの着座状態に依らずに乗員の上体を車両前後方向に正対させた状態にすることができる。乗員の上体が車両前後方向に正対した状態であると、例えば乗員に対して想定した通りの各種エアバッグの保護形態を実現可能となる。
【0035】
図2に示した乗員保護装置1の駆動工程において、衝突予測に基づいてシートベルト2の駆動制御を行っているときに、自動運転車両による又は手動運転による衝突の回避が達成されると、シートベルト2を初期状態に戻す制御を割り込ませることができる。具体的には、衝突の回避を第2検知手段5が検知すると、回避に係る検知結果が第2検知手段5から制御手段6に対して入力される。回避に係る検知結果が入力された制御手段6は、いずれの駆動工程を実行中であっても、ショルダ部21の巻取り又は繰出しを中止すると共に、シートベルト2が駆動前状態(初期状態)となるように復元のためのショルダ部21の巻取り又は繰出しを適宜に行う。これにより、乗員Pを元の着座状態に戻すことができ、不要な拘束などを行わずに済むので好ましい。
【0036】
ここで、本発明の駆動手段の他の実施形態について、
図4及び
図5を参照しつつ説明する。
なお、
図4は本発明の他の実施形態である乗員保護装置11を示す正面概略図である。また、
図5は、
図4に示した乗員保護装置11を用いた乗員Pの着座状態の規制を行う際の制御フローについて示すフローチャート図である。
【0037】
図4に示す乗員保護装置11と、
図1に示した乗員保護装置1との相違点は、第2駆動手段30及び規制部106の有無である。この相違点以外については、同一の部材及び同一の駆動工程を採用しているので、詳細な説明は省略する。
【0038】
図4に示す乗員保護装置11には、規制部106がタング105に設けられている。規制部106は、タング105においてショルダ部21とラップ部22との固定及び解放を行う。規制部106は、所定の速度又は加速度でショルダ部21又はラップ部22が引張られたときに駆動する機械的又は電気的なロック機構及び解除機構によって、ショルダ部21及びラップ部22のそれぞれの長さの固定及び解放を行う。
規制部106がロック状態となってショルダ部21及びラップ部22のそれぞれの長さが固定されると、ショルダ部21が引張り状態となればラップ部22は引張られること無く、ショルダ部21のみが引張られる。換言すると、規制部106が固定状態であれば、シートベルト2においてタング105によるショルダ部21とラップ部22との画分状態が固定されることで、ショルダ部21のみ又はラップ部22のみが引張り方向に変位するので、ショルダ部21又はラップ部22という局所的な拘束力が高まっていく。つまり、規制部106を用いることで、ショルダ部21及びラップ部22のそれぞれ独立した局所的な拘束形態が可能となる。
規制部106が解放状態となってショルダ部21及びラップ部22のそれぞれの長さの固定が解除されると、ショルダ部21が引張り状態となればラップ部22も引張られ、ショルダ部21及びラップ部22を有するシートベルト2全体が引張られる。換言すると、ショルダ部21側又はラップ部22側にシートベルト2が引張られた場合に、規制部106が解放状態であれば、タング105を介してショルダ部21及びラップ部22が引張り方向に変位するので、シートベルト2全体の拘束力が高まっていく。
【0039】
第2駆動手段30は、ラップ部22の巻取りを行う。具体的には、第2駆動手段30は、アンカ部103内に配置され、ガス又は電動により回転駆動するリトラクタなどを用いて、拘束を強めるためにラップ部22の巻取り行うようになっている。本実施形態におけるシートベルト2は、シートベルト2の一端部であるラップ部22の端部がアンカ部103内で第2駆動手段30により保持されている。
なお、乗員保護装置11における制御手段60は、駆動手段3に加えて、第2駆動手段30の駆動も制御する。
【0040】
上述した第2駆動手段30及び規制部106を備える乗員保護装置11を用いた制御フローとしては
図5に示すようになる。
なお、
図5に示す制御フローを実行する際の乗員Pの着座状態は、
図3(a)と同様に、着座姿勢は上体が後傾した姿勢であり、かつ着座位置はシートクッション101の後方側でいわゆる深く着座している位置であることとする。
【0041】
先ず、衝突又は衝突可能性の有無の判別工程(ステップS1)が、
図2に示した制御フローと同様に実行される。
次いで、衝突が発生している、又は、衝突の可能性が高いと第1検知手段4により判別された場合は(ステップS1のYES)、規制部106がショルダ部21とラップ部22との固定を行う(ステップS6)。本工程では、規制部106がタング105においてシートベルト2の摺動を中止させることで、ショルダ部21とラップ部22との固定を行う。
なお、電気的に規制部106が駆動することでショルダ部21とラップ部22との固定を行う場合は、前工程(ステップS1)の判別結果に係る電気信号を第1検知手段4から入力された制御手段60が、規制部106に駆動信号を出力する形態を採るのが良い。
また、機械的に規制部106が駆動することで上記固定を行う場合は、シートベルト2が所定以上の速度などでタング105に対して摺動したときに、規制部106がシートベルト2を強制的に挟持又は保持するなどして係止状態とする形態を採るのが良い。
【0042】
ショルダ部21とラップ部22との固定工程(ステップS6)の後に、
図2に示した制御フローと同様に、ショルダ部21の第1巻取り工程(ステップS2)と、第1巻取りの停止又はショルダ部21の繰出し工程(ステップS3)とが実行される。なお、これらの工程では、前段階として実行された固定工程(ステップS6)によってショルダ部21とラップ部22とのそれぞれの長さが固定されているので、ショルダ部21のみにおいて拘束力の増大及び拘束力の緩和が生じることとなる。なお、このときのラップ部22の拘束力は固定工程の実行時点から一定である。
【0043】
続いて、制御手段60が第2駆動手段30の巻取りに係る駆動制御を行う(ステップS7)。本工程では、制御手段60から駆動信号が入力されることで、第2駆動手段30におけるリトラクタがガス又は電動によりラップ部22を巻取ることとなる。本工程におけるラップ部22の巻取りを行うことで、乗員Pの腰部及び下肢の拘束力を増大させて、特に乗員Pの下肢の前方移動を抑制する。
【0044】
前工程(ステップS3)により乗員Pの上体に起き上がり挙動又は前方移動の挙動を許容していることと、本工程(ステップS7)により乗員Pの下肢を拘束していることとによって、乗員Pはラップ部22によって固定された腰部中心の略回転動きが生じ易くなる。これにより、乗員Pに作用する前方への慣性が、より確実に上体の起き上がり挙動又は前方移動に変換され易くなる。結果として、乗員Pの下肢の前方移動がより一層生じ難くなる。
【0045】
更に、第2検知手段5による乗員Pの着座状態の変化についての判別工程(ステップS4)と、制御手段60によるショルダ部21の第2巻取りに係る駆動制御工程(ステップS5)とが実行される。ショルダ部21の第2巻取りによりショルダ部21が再度巻取られることで、乗員Pの上体にショルダ部21が密着し、乗員Pを前方移動しないように規制し、拘束した状態となる。このとき、ラップ部22の巻取り工程(ステップS7)による乗員Pの腰部の拘束状態が維持されている。これにより、乗員Pの上体及び下肢の着座状態を規制することでそれ以上の着座状態から前方への変化を生じ難くするので、結果として衝突時に乗員Pの下肢が前方に移動するいわゆるサブマリン現象の発生を抑制することができる。
【0046】
したがって、ショルダ部21とラップ部22との固定と、ショルダ部21の第1巻取りと、第1巻取りの停止又はショルダ部21の繰出しと、ラップ部22の巻取りとを行うことで、衝突が生じた際に乗員Pの下肢の前方移動の原因となる前方への慣性を、乗員Pの上体の起き上がり挙動を生じさせることによって低減する。更にラップ部22の巻取りとショルダ部21の第2巻取りとによって乗員Pの着座状態を略固定状態とすることで、乗員Pに対して保護デバイスの乗員保護機能を適切に発揮させることができるようになる。
【0047】
以上に説明したように、
図1〜5に示した実施形態に係る乗員保護装置1及び11は、駆動手段3、第2駆動手段30などのシートベルト2の巻取り、停止、又は繰出し制御などを適宜に行うことで、たとえ自動運転制御又は高度運転支援制御状態の車両で様々な着座状態をとり得る乗員Pであっても、乗員Pの下肢の前方移動を抑制することが可能である。よって、エアバッグ及びシートベルトなどの車両の保護デバイスが想定していた乗員Pの着座状態を維持することができ、保護デバイスの乗員保護性能を低下させることが無い又は少ない。
【0048】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により、本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。