(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0010】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る車両用乗員保護装置2が適用される自動車1の構造を模式的に示す説明図である。
【0011】
自動車1は、車両の一種である。自動車1の車体の前後方向中央部には、乗員が乗車する乗員室が形成される。車体の前部には、燃料エンジンなどを配置するための前室が形成される。車体の後部には、荷室などとして用いることができる後室が形成される。
乗員室は、略四角形のフロアパネル11、フロアパネル11の前角に立設される一対のAピラー12、フロアパネル11の前後方向中央に立設される一対のBピラー13、フロアパネル11の後角に立設される一対のCピラー14、を有する。Aピラー12の上端とCピラー14の上端とは、ルーフレール15により連結される。Bピラー13の上端は、ルーフレール15の前後方向中央に接合される。左右一対のルーフレール15の間には、略四角形のルーフパネル16が接合される。
フロアパネル11の前縁と一対のAピラー12の下部との間にはトーボード17が配置され、トーボード17の上側にはダッシュボード18が配置される。ダッシュボード18、一対のAピラー12の上部、およびルーフパネル16の前縁に囲われるように、フロントガラス19が嵌め込まれる。一対のCピラー14の上部の間には、リアガラス20が嵌め込まれる。
前後方向に並ぶAピラー12とBピラー13との間には、Aピラー12に回転可能に支持される前ドアが配置される。Bピラー13とCピラー14との間には、Bピラー13に回転可能に支持される後ドアが配置される。フロアパネル11の左右幅方向両縁には、一対のサイドシル21が接合される。
このように、自動車1の乗員室は、略立方体形状の箱型の空間となる。
また、フロアパネル11の左右幅方向中央には、乗員室内へ突出するように前後方向へ延在するセンタートンネル22が形成される。センタートンネル22の下側には、たとえば燃料エンジンの駆動力を後輪へ伝達するためのドライブシャフトが配置される。
フロアパネル11の前部には、フロントシートとして、ドライバが着座するドライバシート23、ナビゲータが着座するナビゲーションシート24が左右幅方向に並べて取り付けられる。ドライバシート23は、座部41と背部42とを有する。ナビゲーションシート24は、座部41と背部42とを有する。ドライバシート23の座部41とナビゲーションシート24の座部41との間にセンタートンネル22が位置する。センタートンネル22の上には、シフトレバー25、サイドブレーキレバー、内装部材としてのコンソールボックス26などが取り付けられる。
ドライバシート23およびナビゲーションシート24の前には、左右幅方向へ延在するダッシュボード18が位置する。ドライバシート23の前には、ダッシュボード18から後向きに突出して設けられたステアリングホイール27が位置する。
フロアパネル11の後部には、リアシートとして、複数の乗員が着座できるベンチシート28が取り付けられる。ベンチシート28は、座部41と背部42とを有する。ベンチシート28は、フロアパネル11と同等の左右幅を有する。ベンチシート28には、通常3名までの乗員が着座することが可能である。
【0012】
ところで、自動車1では、衝突時に乗員等を保護するための車両用乗員保護装置2が用いられる。
図2は、第1実施形態に係る車両用乗員保護装置2の説明図である。
車両用乗員保護装置2は、フロントエアバッグモジュール50、押圧部材61、制御部71、を有する。
【0013】
フロントエアバッグモジュール50は、フロントエアバッグ51、インフレータ52、モジュールベース53、を有する。
フロントエアバッグ51は、たとえば布を略立方体形状の袋状に縫製したものである。
インフレータ52は、火薬および高圧ガスを収容する小型のタンクである。インフレータ52は、フロントエアバッグ51と連結される。
モジュールベース53は、たとえば金属板である。モジュールベース53には、フロントエアバッグ51、インフレータ52が固定される。
また、モジュールベース53は、ダッシュボード18内で、ステアリングサポートビーム29に固定される。モジュールベース53は、ナビゲーションシート24の前側となる位置で、後向きに固定される。ステアリングサポートビーム29の両端は、一対のAピラー12に固定される。
そして、フロントエアバッグモジュール50は、高圧ガスが導入されることで、モジュールベース53から後方向へ展開する。
【0014】
押圧部材61は、たとえば押圧エアバッグモジュール62である。押圧エアバッグモジュール62は、押圧エアバッグ63、インフレータ64、モジュールベース65、を有する。
モジュールベース65は、Aピラー12に固定される。押圧エアバッグ63は、インフレータ64の高圧ガスが導入されることで、Aピラー12から斜め内側後方へ向かって展開する。押圧エアバッグ63の展開領域は、フロントエアバッグ51の展開領域と重なる。押圧エアバッグ63は、フロントエアバッグ51の外側の面を外側から押圧する。
【0015】
制御部71は、たとえばマイクロコンピュータ装置である。マイクロコンピュータ装置は、CPU、ROM、RAM、入出力ポート、これらを接続するシステムバスを有する。ROMは、車両用乗員保護装置2の動作を制御するためのプログラムを記憶する。CPUは、このプログラムをRAMに読み込み、実行する。これにより、マイクロコンピュータ装置は、車両用乗員保護装置2の制御部71として機能する。
入出力ポートには、インフレータ52、各種の検出部、が接続される。検出部には、たとえば乗員室から車体の前方といった車外を撮像する車外カメラ72、車内を撮像する車内カメラ73、加速度センサ74、車速センサ75、操舵角センサ76、がある。制御部71は、これら検出部からの入力情報に基づいて、車両用乗員保護装置2の動作を制御する。制御部71は、たとえば押圧部材61の駆動を制御する。
【0016】
次に、車両用乗員保護装置2の動作について説明する。
図3は、
図2の制御部71によるエアバッグモジュール50の回動駆動処理の流れを示すフローチャートである。制御部71は、
図3の処理を周期的に実施する。
【0017】
制御部71は、衝突前に、入出力ポートに入力される車体の内外状況を示す入力情報に基づいて、衝突形態を予測判断する(ステップST1)。
ここで、車体の内外状況を示す入力情報には、たとえば車外の撮像画像といった衝突形態の予測に用いる入力情報、衝突時の入力情報、車内の撮像画像といった車内状況の入力情報がある。
また、衝突形態としては、たとえばフルラップ衝突、オフセット衝突、オブリーク衝突、側面衝突、がある。フルラップ衝突は、たとえば対向車と車幅全体で正面衝突することである。オフセット衝突は、たとえば対向車とずれた状態で正面衝突することである。オブリーク衝突は、さらにずれた状態で対向車と正面衝突することである。側面衝突は、車体の側面に他の自動車1が衝突することである。そして、衝突形態の違いにより、衝突時の車体の挙動および乗員の挙動が変化する。
このため、衝突前の衝突形態の予測判断において、制御部71は、まず、車体の内外状況を示す入力情報に基づいて、衝突形態を予測判断する。
たとえば、制御部71は、車外の撮像画像から、先行車、対向車、構造物との相対位置および相対速度を予測し、さらにエアバッグ51の初期展開方向と衝撃入力方向との一致度、衝撃値の大きさ、を予測する。
また、制御部71は、車内の撮像画像から、乗員の乗車位置、乗員の体格若しくは体重を予測し、さらに衝撃による乗員の倒れ方向とエアバッグ51の初期展開方向との一致度、乗員と車体の内装部材との距離、を予測する。
このように、制御部71は、衝突形態を予測判断する。
なお、制御部71は、衝突前の通常時だけでなく、衝突中にもこれらの衝突形態の予測判断を実施してよい。
【0018】
次に、制御部71は、予測した衝突形態に基づいて、フロントエアバッグモジュール50の押圧の要否または押圧タイミングを判断する(ステップST2)。ここで、押圧タイミングは、離散的な値であっても、連続的な値であってもよい。
たとえば予測した衝突形態がフルラップ衝突である場合、制御部71は、フロントエアバッグモジュール50の押圧を不要と判断する。
また、予測した衝突形態がオブリーク衝突である場合、制御部71は、フロントエアバッグモジュール50の押圧を必要と判断する。
フロントエアバッグモジュール50の押圧が必要である場合、制御部71は、フロントエアバッグ51を押圧するタイミングを、すなわち押圧エアバッグモジュール62の展開を開始するタイミングを判断する。制御部71は、乗員の体格、車速等に応じて、倒れた乗員がフロントエアバッグ51に到達するまでの遅延時間を計算する。遅延時間は、たとえばフロントエアバッグモジュール50のインフレータ52に点火信号を出力したタイミングを基準としてよい。
【0019】
このように衝突前にフロントエアバッグモジュール50の押圧要否を判断するとともに、制御部71は、
図3とは別の衝突判断処理により、衝突の発生を判断する。
衝突判断処理において、制御部71は、入出力ポートに入力される各種の検出情報に基づいて、衝突の発生を判断する。
そして、衝突が発生する場合、制御部71は、インフレータ52へ点火信号を出力する。制御部71は、エアバッグ51が最大サイズに展開するタイミングまたはその直前または直後のタイミングで乗員がフロントエアバッグ51に対して突入するように、インフレータ52へ点火信号を出力するタイミングを調整する。
フロントエアバッグモジュール50は、インフレータ52に点火信号が入力されると、火薬を発火させ、高圧ガスをエアバッグ51へ吹き出す。これにより、フロントエアバッグ51が展開する。フロントエアバッグ51は、高圧ガスの流入開始により展開を開始し、その後に最大サイズに達し、さらに内圧が高まると、ガスの放出を開始してしぼむ。この展開したフロントエアバッグ51に対して乗員が当たることにより、乗員が内装部品などに当たる場合と比べて、乗員を保護することができる。
また、予測時にフロントエアバッグ51の押圧が必要であると判断した場合、制御部71は、フロントエアバッグ51の展開を開始してから遅延時間の後に、押圧エアバッグモジュール62のインフレータ64へ点火信号を出力する。押圧エアバッグ63は、展開中又は展開後のフロントエアバッグ51へ向かって作動する。
これにより、たとえばナビゲーションシート24に着座した乗員が内側へ倒れながらフロントエアバッグ51に当たった場合、その乗員の動きに合わせてフロントエアバッグ51を内向きに変位させることができる。乗員の頭部の移動方向に沿って、フロントエアバッグ51を変位させることができる。
【0020】
以上のように、本実施形態では、内向きに倒れる乗員がフロントエアバッグ51に当接するタイミングで押圧エアバッグ63を展開し、展開中又は展開後のフロントエアバッグ51を乗員の動きに合わせて内向きに変位させることができる。よって、内向きに倒れる乗員の頭部は、フロントエアバッグ51に当たった後に、フロントエアバッグ51とずれるように横へ移動し難くなる。
これに対して、内向きに倒れる乗員の頭部は、フロントエアバッグ51に当たった後に、フロントエアバッグ51に当接したままフロントエアバッグ51とずれるように横へ移動した場合、回転することになる。この回転が大きく且つ早い場合、頭部の回転に対して脳が遅れて回転し易くなる。本実施形態では、このような事態の発生を効果的に抑制できる。
【0021】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態の車両用乗員保護装置2は、押圧部材61の構成が異なる以外は、第1実施形態のものと同様である。以下の説明では、第1実施形態のものと対応する構成要素には、第1実施形態と同じ符号を付して説明を省略する。
【0022】
図4は、第2実施形態の車両用乗員保護装置2の構成要素の配置の説明図である。
押圧部材61は、押圧ロッド66、ソレノイド67、を有する。押圧部材61は、Aピラー12に固定される。
押圧ロッド66は、Aピラー12からフロントエアバッグ51の展開領域へ向かって可動可能に設けられる。
ソレノイド67は、制御部71からの制御信号により押圧ロッド66を可動させる。
これにより、押圧ロッド66は、Aピラー12から突出し、その先端がフロントエアバッグ51の展開領域内に侵入する。
【0023】
衝突判断処理において、制御部71は、入出力ポートに入力される各種の検出情報に基づいて衝突の発生を判断し、さらにフロントエアバッグ51を展開させる。そして、予測時にフロントエアバッグ51の押圧が必要であると判断した場合、制御部71は、フロントエアバッグ51の展開を開始してから遅延時間の後に、押圧部材61のソレノイド67に駆動信号を出力する。これにより、押圧ロッド66が作動し、展開中又は展開後のフロントエアバッグ51を内側に変位させる。
これにより、たとえばナビゲーションシート24に着座した乗員が内側へ倒れながらフロントエアバッグ51に当たった場合、その乗員の動きに合わせてフロントエアバッグ51を内向きに変位させることができる。乗員の頭部の移動方向に沿って、フロントエアバッグ51を変位させることができる。
【0024】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態の車両用乗員保護装置2は、押圧部材61の構成が異なる以外は、第1実施形態のものと同様である。以下の説明では、第1実施形態のものと対応する構成要素には、第1実施形態と同じ符号を付して説明を省略する。
【0025】
図5は、第3実施形態の車両用乗員保護装置2の構成要素の配置の説明図である。
押圧部材61は、たとえば押圧エアバッグモジュール62である。押圧エアバッグモジュール62は、押圧エアバッグ63、インフレータ64、切替弁68、を有する。そして、インフレータ64は、切替弁68を介して、押圧エアバッグ63およびカーテンエアバッグ69と連結される。カーテンエアバッグ69は、側突の場合に乗員の外側で展開されるエアバッグである。このようにインフレータ64を共用化することにより、狭い空間しか確保できないAピラー12内に、押圧エアバッグモジュール62とともにカーテンエアバッグ69を収容することが可能になる。
【0026】
制御部71は、予測時にフロントエアバッグモジュール50の押圧が必要であると判断した場合、切替弁68により押圧エアバッグ63を選択する。これにより、インフレータ52のガスの供給先は、押圧エアバッグ63に切り替わる。
それ以外の場合は、制御部71は、切替弁68によりカーテンエアバッグ69を選択する。インフレータ52のガスの供給先は、カーテンエアバッグ69に切り替わる。
【0027】
これにより、衝突時にフロントエアバッグモジュール50の押圧が必要である場合に、制御部71は、内向きに倒れる乗員がフロントエアバッグ51に当接するタイミングで押圧エアバッグ63を展開し、展開中又は展開後のフロントエアバッグ51を乗員の動きに合わせて内向きに変位させることができる。よって、内向きに倒れる乗員の頭部は、フロントエアバッグ51に当たった後に、フロントエアバッグ51とずれるように横へ移動し難くなる。
【0028】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態の車両用乗員保護装置2は、押圧部材61の構成が異なる以外は、第1実施形態のものと同様である。以下の説明では、第1実施形態のものと対応する構成要素には、第1実施形態と同じ符号を付して説明を省略する。
【0029】
図6は、第4実施形態の車両用乗員保護装置2の構成要素の配置の説明図である。
押圧部材61は、フロントエアバッグモジュール50の上下左右の4方向の周囲に隣接して配置された押圧エアバッグモジュール62である。押圧エアバッグモジュール62は、複数の押圧エアバッグ63、インフレータ64、切替弁68、を有する。なお、切替弁68を有し、1つのインフレータ64のガスの供給先をこの複数の押圧エアバッグモジュール62の間で切り替えるようにしてもよい。4つの押圧エアバッグ63の展開領域は、フロントエアバッグ51の展開領域と上下左右で重なる。
【0030】
次に、車両用乗員保護装置2の動作について説明する。
本実施形態の制御部71によるエアバッグモジュール50の回転駆動処理の全体的な流れは、
図4と同様である。
【0031】
制御部71は、衝突前に、入出力ポートに入力される車体の内外状況を示す入力情報に基づいて、衝突形態を予測判断する。また、予測した衝突形態に基づいて、フロントエアバッグモジュール50の押圧の要否、押圧方向、および押圧タイミングを判断する。制御部71は、必要に応じて切替弁68により、インフレータ52のガスの供給先を、押圧方向と逆側の押圧エアバッグモジュール62に切り替える。
【0032】
また、制御部71は、衝突の発生を判断する。
そして、衝突が発生すると判断した場合、制御部71は、フロントエアバッグモジュール50のインフレータ52へ点火信号を出力する。これにより、フロントエアバッグ51が展開する。
また、予測時にフロントエアバッグ51の押圧が必要であると判断した場合、制御部71は、フロントエアバッグ51の展開を開始してから遅延時間の後に、押圧方向と逆側の押圧エアバッグモジュール62のインフレータ52へ点火信号を出力する。押圧方向と逆側の押圧エアバッグ63は、展開中又は展開後のフロントエアバッグ51へ向かって作動する。
これにより、たとえばナビゲーションシート24に着座した乗員が内側へ倒れながらフロントエアバッグ51に当たった場合、その乗員の動きに合わせてフロントエアバッグ51を押圧方向に変位させることができる。乗員の頭部の移動方向に沿って、フロントエアバッグ51を変位させることができる。