特許第6757573号(P6757573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6757573-全固体電池の製造方法および全固体電池 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6757573
(24)【登録日】2020年9月2日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】全固体電池の製造方法および全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20200910BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20200910BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20200910BHJP
【FI】
   H01M10/0585
   H01M10/0562
   H01M4/62 Z
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-37176(P2016-37176)
(22)【出願日】2016年2月29日
(65)【公開番号】特開2017-157305(P2017-157305A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2019年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 正一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 信三
【審査官】 井原 純
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−206090(JP,A)
【文献】 特開2016−001598(JP,A)
【文献】 特開2009−206094(JP,A)
【文献】 特開2012−099225(JP,A)
【文献】 特表2016−502746(JP,A)
【文献】 特開2012−238545(JP,A)
【文献】 特開2013−157195(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/105574(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 4/62
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体的な焼結体で層状の正極と負極との間に層状の固体電解質が挟持されてなる積層電極体を備えた全固体電池の製造方法であって、
焼結性を有する正極用の電極活物質の粉体と焼結性を有する非晶質からなる第1の固体電解質の粉体とを含むスラリー状の正極層材料をシート状に成形して正極層シートを作製する正極層シート作製ステップと、
焼結性を有する負極用の電極活物質の粉体と前記第1の固体電解質の粉体とを含むスラリー状の負極層材料をシート状に成形して負極層シートを作製する負極層シート作製ステップと、
第2の固体電解質の粉体を含むスラリー状の電解質層材料をシート状に成形して電解質層シートを作製する電解質層シート作製ステップと、
前記正極層シート、前記電解質層シート、および前記負極層シートをこの順に積層してなる積層体を還元雰囲気下でかつ前記第1および第2の固体電解質が結晶化する温度で焼成することで前記積層電極体を作製する焼成ステップと、
を含み、
前記第1および第2の固体電解質は一般式Li1+xAlGe2−x(POで表される化合物であり(但し、0<x<1)、
前記正極層材料中および前記負極層材料中では、前記電極活物質のメジアン径は、前記第1の固体電解質のメジアン径以上で、前記第1の固体電解質のメジアン径は0.2μm以上1.0μm以下であり、
前記電解質層材料中の前記第2の固体電解質のメジアン径は、前記正極層材料中および前記負極層材料中の前記電極活物質のメジアン径よりも大きく、前記電解質層材料中での前記第2の固体電解質のメジアン径は2.0μm以上3.4μm以下であり
前記正極層材料中および前記負極層材料中での前記電極活物質のメジアン径は0.5μm以上1.4μm以下である、
ことを特徴とする全固体電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法によって製造された全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全固体電池の製造方法、および当該製造方法によって製造された全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、各種二次電池の中でもエネルギー密度が高いことで知られている。しかし一般に普及しているリチウム二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いているため、リチウム二次電池では、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められている。そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料であり、従来のリチウム二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。
【0003】
全固体電池は層状の正極(正極層)と層状の負極(負極層)との間に層状の固体電解質(電解質層)が挟持されてなる一体的な焼結体(以下、積層電極体とも言う)に集電体を形成した構造を有している。積層電極体の製造方法としては周知のグリーンシートを用いた方法がある。概略的には、焼結性を有する正極活物質と焼結して結晶化するとイオン伝導体となる非晶質の固体電解質を含むスラリー状の正極層材料、焼結性を有する負極活物質と固体電解質を含むスラリー状の負極層材料、および固体電解質を含むスラリー状の固体電解質層材料をそれぞれシート状(グリーンシート)に成形するとともに、固体電解質層材料のグリーンシートを正極層材料と負極層材料のグリーンシートで挟持した積層体を焼成して焼結体にすることで作製される。なお各層のグリーンシートを作製する方法としては、周知のドクターブレード法がある。ドクターブレード法では、焼成前の無機酸化物などのセラミックス粉体にバインダ(ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリフッ化ビニリレン(PVDF)、アクリル、エチルメチルセルロースなど)および溶剤(無水アルコールなど)を混合して得たスラリーを塗布工程あるいは印刷工程により薄板状に成形してグリーンシートを作製する。そしてスラリーに含ませるセラミック粉体として正極活物質、固体電解質、および負極活物質のそれぞれの粉体を用いる。
【0004】
全固体電池において最も特徴的な材料は固体電解質であり、以下の非特許文献1にも記載されているように、一般式Liで表されるNASICON型酸化物などが固体電解質として用いられる。正極活物質や負極活物質(以下、総称して電極活物質とも言う)としては従来のリチウム二次電池に使用されていた材料を使用することができる。また全固体電池では可燃性の電解液を用いないことから、より高い電位差が得られる電極活物質についても研究されている。
【0005】
なお以下の特許文献1には、全固体電池の基本的な製造方法について記載されており、特許文献2には主に正極層や負極層における固体電解質の粉体と電極活物質の粉体の混合材を加圧造粒した粒体の平均粒子径を調整することで正極層および負極層(以下、総称して電極層とも言う)におけるイオン伝導性を高めた全固体電池の製造方法について記載されている。また非特許文献1には全固体電池の概要について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−206094号公報
【特許文献2】特開2014−192061号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】大阪府立大学 無機化学研究グループ、”全固体電池の概要”、[online]、[平成28年1月28日検索]、インターネット<URL:http://www.chem.osakafu-u.ac.jp/ohka/ohka2/research/battery_li.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
全固体電池を製造する際には、実用的なイオン伝導特性が得られるようにすることが重要であり、そのために上記特許文献2に記載の発明では一度解砕した固体電解質の粉体と電極活物質の粉体の混合材を加圧造粒して固体電解質と電極活物質とを一つの大きな粒子状に成形している。しかし当該文献2に記載の発明では、加圧造粒する工程やその加圧造粒して得た粒子の粒子径を制御するための複雑な工程が必要であり製造コストが嵩む。
【0009】
さらにグリーンシートからなる積層体を焼成することで作製される全固体電池では、その焼成に際して各層を確実に焼結させ、さらには層間で収縮率を調整するなどして焼成後の積層電極体に割れや反りなどが生じないようにする必要がある。従来の全固体電池の製造方法では、焼成前の各層のグリーンシートにフィラーを含ませることで、各層を確実に焼結させつつ、層間での収縮率を制御している。しかしフィラーはイオン伝導や充放電に関わる電気化学反応に寄与しない物質であり、フィラーを含む電極層材料を焼結させると、イオン伝導性の劣化や容量の低下など、目的とする電池性能が得られなくなる可能性がある。またフィラーが活物質と反応したり均一に分散されなかったりすれば、さらに電池性能を劣化させることも懸念される。なお特許文献2には層間で熱収縮率を整合させることについて何ら記載されていない。
そこで本発明はフィラーを用いずにイオン伝導性に優れた電極層および電解質層を有し、かつ層間の熱収縮率を整合させて焼結性に優れた全固体電池を製造するための方法と、その方法によって製造された全固体電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、一体的な焼結体で層状の正極と負極との間に層状の固体電解質が挟持されてなる積層電極体を備えた全固体電池の製造方法であって、
焼結性を有する正極用の電極活物質の粉体と焼結性を有する非晶質からなる第1の固体電解質の粉体とを含むスラリー状の正極層材料をシート状に成形して正極層シートを作製する正極層シート作製ステップと、
焼結性を有する負極用の電極活物質の粉体と前記第1の固体電解質の粉体とを含むスラリー状の負極層材料をシート状に成形して負極層シートを作製する負極層シート作製ステップと、
第2の固体電解質の粉体を含むスラリー状の電解質層材料をシート状に成形して電解質層シートを作製する電解質層シート作製ステップと、
前記正極層シート、前記電解質層シート、および前記負極層シートをこの順に積層してなる積層体を還元雰囲気下でかつ前記第1および第2の固体電解質が結晶化する温度で焼成することで前記積層電極体を作製する焼成ステップと、
を含み、
前記第1および第2の固体電解質は一般式Li1+xAlGe2−x(POで表される化合物であり(但し、0<x<1)、
前記正極層材料中および前記負極層材料中では、前記電極活物質のメジアン径は、前記第1の固体電解質のメジアン径以上で、前記第1の固体電解質のメジアン径は0.2μm以上1.0μm以下であり、
前記電解質層材料中の前記第2の固体電解質のメジアン径は、前記正極層材料中および前記負極層材料中の前記電極活物質のメジアン径よりも大きく、前記電解質層材料中での前記第2の固体電解質のメジアン径は2.0μm以上3.4μm以下であり
前記正極層材料中および前記負極層材料中での前記電極活物質のメジアン径は0.5μm以上1.4μm以下である、
ことを特徴とする全固体電池の製造方法としている。また、本発明は上記の製造方法によって製造された全固体電池にも及んでいる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の全固体電池の製造方法によれば、電極層にフィラーを含めずに焼結性を高めることができるとともに、電極層と電解質層に含まれる固体電解質や電極活物質の相対的な粒子径を制御するだけの容易な工程でイオン伝導性にも優れた全固体電池を製造することができる。そしてその製造方法によって製造された全固体電池によれば、高いイオン導電性によって充放電特性に優れ、かつ高い焼結性を有して割れや反りなどがない高い信頼性を備えている。なおその他の効果については以下の記載で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】固体電解質(LAGP)の重量熱−示差熱特性を示す図である。
図2】本発明の実施例に係る全固体電池の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
===本発明に想到する過程===
全固体電池において、固体電解質は焼成前の非晶質からなる粒子状の状態から焼成の過程で結晶化することでイオン伝導性を発現する。したがって電極層内には不定形の結晶化した固体電解質と粒子状の電極活物質とが混在することになる。そして全固体電池を実用化させるためには、まず粒子状の活物質の周囲に不定形の固体電解質を均一にかつ過不足無く介在させることで電極層内でのイオン伝導率を向上させることが必要となる。すなわち電極活物質の粒子同士を適切な距離を隔てて分散させつつ電極活物質の粒子間に固体電解質を均一に配置することが必要である。
【0015】
上記特許文献2に記載の発明では、一度解砕した固体電解質の粉体と電極活物質の粉体の混合材を加圧造粒して固体電解質と電極活物質とを一つの大きな粒子状にしている。しかし当該文献2に記載の発明では、加圧造粒する工程やその加圧造粒して得た粒子の粒子径を制御するための複雑な工程が必要であり製造コストが嵩む。そして上述したように特許文献2には層間で熱収縮率を整合させることについて何ら記載されていない。
【0016】
そこで本発明者は、まず電極層内における電極活物質と固体電解質の粒子径を調整することで電極層のイオン伝導率の向上を試みた。そして電極層内で電極活物質の粒子同士を適切な距離を隔てて配置させるためには、グリーンシートの状態では固体電解質の粒子径が電極活物質の粒子径以下であることが必要であると考えた。もちろん焼成によって確実に焼結できる粒子径であることが前提となる。
【0017】
さらに焼結に際して電極層と電解質層との層間での熱収縮率を整合させることも必要であり、従来の全固体電池では層間の熱収縮率を整合させるためにフィラーを用いていたが、上述したようにフィラーは電池特性に何ら寄与せず、却って電池特性に悪影響を与える可能性もある。そこで電極層と電解質層のそれぞれの固体電解質の粒子径を検討することでフィラーを用いずに層間の熱収縮率を整合させることを試みた。具体的には、固体電解質が結晶化して不定形の状態となる過程で電極層と電解質層の双方に含まれる粒子の粒子径を整合させれば、双方の層が同様の収縮過程を経て焼結するのではないかと考えた。さらに電極層内では電極活物質とその周囲に介在する固体電解質を含めた状態で粒子径を議論する必要があると考えた。そして電極層が電極活物質とその周囲に介在する固体電解質とを一つの粒子と見なせば、その粒子は明らかに電極層内の電極活物質の粒子径よりも大きくなる。そこで電極層内の電極活物の粒子径よりも電極層内の固体電解質の粒子径を大きくして、電極層内における実質的な粒子の粒子径と電解質層内の固体電解質の粒子径との熱収縮率を整合させるという技術思想に至った。本発明はこのような一連の考察や技術思想に基づいて鋭意研究を重ねた結果なされたものである。
【0018】
===サンプル===
上記考察や技術思想に基づいて、電極層内の電極活物質と固体電解質の粒子径が異なる種々のグリーンシート、および電解質層内の固体電解質の粒子径が異なる種々のグリーンシートを作製し、電極層と電解質層のそれぞれのグリーンシートを積層するとともに、その積層体を焼成してなる積層電極体をサンプルとして作製した。そして各サンプルについてイオン伝導度や焼結性について検討し、各層内における電極活物質の粒子や固体電解質の粒子における適切な相対関係を求めた。
【0019】
<グリーンシートの製造手順>
サンプルを構成する電極層と電解質層はグリーンシートを焼成したものであり、電極層のグリーンシート(以下、電極層シートとも言う)と電解質層のグリーンシート(以下、電解質シート)の製造手順は上述したドクターブレード法に基づいている。そして電極層シートと電解質層シートは、グリーンシートに含ませるセラミック粉体の種類や粒子径のみがサンプルの種類に応じて異なっている。なおここでは粒子径を規定するパラメーターとしてメジアン径を採用し、固体電解質には全固体電池用の固体電解質としてよく知られているLAGPを用いた。周知のごとくLAGPは0<x<1として化学式Li1+xAlGe2−x(POで表される化合物である。そして以下では、電解質層シートの作製手順を例に挙げてグリーンシートの作製手順を説明する。
【0020】
まずLAGPの原料となるLiCO、Al、GeO、NHPOの粉末を所定の組成比になるように秤量して磁性乳鉢やボールミルで混合し、その混合物をアルミナルツボなどに入れて300℃〜400℃の温度で3h〜5hの時間を掛けて仮焼成する。仮焼成によって得られた仮焼き粉体を1200℃〜1400℃の温度で1h〜2h熱処理することで、仮焼き粉体を溶解させる。そしてその溶解した試料を急冷してガラス化することで、非晶質のLAGPからなる粉体を得る。つぎにその非晶質のLAGP粉体を200μm以下の粒子径となるように粗解砕し、その粗解砕された固体電解質の粉体をボールミルなどの粉砕装置を用いて粉砕することで、LAGPの粉体を目的の粒子径(メジアン径)となるように調整する。すなわちこの目的のメジアン径を有するLAGPの粉体(以下、電解質粉体とも言う)がグリーンシートに含ませるセラミック粉体となる。
【0021】
次にバインダを電解質粉体に対し20wt%〜30wt%添加するとともに、溶媒としてエタノールなどの無水アルコールをLAGP粉体に対し30wt%〜50wt%添加し、ペースト状の固体電解質層材料の原料を混合する。なおフィラーは添加しない。そして固体電解質層材料の原料を均一に混合してペースト状の固体電解質層材料を得るために、当該原料をボールミルで20h混合する。
【0022】
ペースト状の固体電解質層材料を真空中にて脱泡した後、その固体電解質層材料をドクターブレード法にてPETフィルム上に塗工し、シート状の固体電解質層材料を得る。また電解質層シートを目的の厚さに調整するために、一回の塗工で得られた1枚のシート状の固体電解質層材料を所定枚積層するとともに、その積層したものをプレス圧着したものを所定の平面サイズに裁断してグリーンシートである電解質層シートを完成させる。なお電極層シートは、電極活物質として酸化チタンの粉体を用い、サンプルの種類に応じてメジアン径が調整された電極活物質の粉体(以下、活物質粉体)と電解質粉体を50:50の質量比で混合したセラミック粉体を用いる以外は上述した電解質シートと同様の手順で作製した。
【0023】
<焼成条件>
上述したように全固体電池は、各層のグリーンシートをさらに積層し、その積層体を焼成することで作製される。そして固体電解質は非晶質の状態から結晶化することでイオン伝導性が発現することから、その焼成温度は固体電解質を結晶の状態にさせるための温度となる。そこでまず上記手順で作成した電解質シートのみを焼成し、その焼成過程での熱重量と示差熱の変化をTG−DTA分析装置を用いて測定することとした。周知のごとくTG−DTA分析装置は、温度と熱重量、および温度と示差熱の関係を同時に測定することができ、熱重量として試料の質量変化(%)を測定し、示差熱を示す熱流を電位差(μV)として測定する。図1にTG−DTA分析装置による熱重量と示差熱の測定結果を示した。
【0024】
図1には電解質シートにセラミック粉体として含まれる非晶質のLAGPについての温度(℃)と熱重量(%)との関係を示す曲線TGと、温度(℃)と示差熱(μV)との関係を示す曲線DTAが示されており、これらの曲線(TG、DTA)の形状は典型的な結晶化・転移の曲線モデルを示している。そして温度−示差熱特性の曲線DTAから、非晶質LAGPのガラス転移点は約566℃であり、599℃から結晶化が始まり発熱ピークが618℃である。そしてLAGPは結晶化することでイオン伝導を発現させることから、上述した電極層シートと電解質層シートの積層体を焼結させるための焼成温度は600℃以上とすればよいことが分かる。
【0025】
以上の分析結果より、サンプルの作製に際しては、電極層シートや電解質層シート内のセラミック粉体のメジアン径を変えるとともに、電極層シートと電解質層シートの積層体を還元雰囲気下で625℃、2h条件で焼成することとした。なおサンプルの作製目的は、焼成前の電極層シート内や電解質層シート内におけるセラミック粉体の粒子径と焼成後の積層体におけるイオン伝導率の関係を検討することにあるため、電極層シートとしては負極層活物質として酸化チタンを用いた負極層に対応するグリーンシートのみを作製し、電解質層シートをその電極層シートで挟持した積層体を焼成したものをサンプルとした。
【0026】
<電極層>
電極層シートにおける活物質粉体と電解質粉体についての適切な粒子径の関係を調べるために、活物質粉体のメジアン径(以下、粒子径φ1)を1μmとしつつLAGP粉体のメジアン径(以下、粒子径φ2)を変えた電極層シートと、LAGP粉体のメジアン径(以下、粒子径φ3)を3.0μmとした電解質シートを作製し、電極層シートと電解質シートからなる2層の積層体を上記条件で焼成して各種サンプルを得た。さらに、積層体の積層方向を上下方向とすると、各サンプルの上面と下面にスパッタリングによって金(Au)の薄膜からなる集電体層を形成した上で、各サンプルのイオン伝導率(S/cm)を測定した。
【0027】
以下の表1に各サンプルのイオン伝導率を示した。
【0028】
【表1】
表1に示したように、焼成前の電極層シート内のLAGP粉体の粒子径φ2が活物質粉体の粒子径φ1よりも大きな1.1μmになるサンプル11では一般的なイオン伝導率の良否判定の基準となる1×10−6(S/cm)を僅かに下回った。また活物質粉体の粒子径φ1が0.1μmのサンプル1においてもイオン伝導率が1×10−6(S/cm)を僅かに下回った。なおサンプル1では電解質粉体が粒子径φ2が0.1μmの微粉状態になっていることから焼結不足が疑われ、その焼結不足によってイオン伝導率が低下したものと思われる。なお全固体電池では積層電極体が焼結していることが前提であるため、ここで作製したサンプルについては、粒子径φ2が0.2μm以上のLAGP粉体を用いることが焼結条件の一つとなり、電極層シート内におけるLAGP粉体の粒子径φ2は、焼結可能な下限値以上で、活物質粉体の粒子径φ1以下であることを条件にすると、実用的なイオン伝導率を示すということが分かった。さらに焼成前の電極層シート内のLAGP粉体の粒子径φ2を0.2μm以上1.0μm以下とすると確実に1.0×10−6(S/cm)より大きなイオン伝導率が得られることも分かった。なお活物質粉体の粒子径φ1=1.0μmに対して電解質シート内の電解質粉体の粒子径φ3は3.0μmと大きく、この条件では層間での熱収縮率の差に起因する焼結体の割れや反りなどの問題は発生しなかった。
【0029】
つぎに電極層シート内の電解質粉体の粒子径φ2を0.5μmとしつつ活物質粉体の粒子径φ1を変えた電極層シートと、電解質粉体のメジアン径φ3を3.0μmとした電解質シートを作製し、これらのシートの積層体を焼成して各種サンプルを得た。そしてその焼成後の各サンプルに上記の集電体層を形成し、各サンプルのイオン伝導率(S/cm)を測定した。
【0030】
以下の表2に各サンプルのイオン伝導率を示した。
【0031】
【表2】
電極層シート内の電解質粉体の粒子径φ2は0.5μmであり、サンプル12における電極層シート内の活物質粉体の粒子径φ1はそれよりも小さな0.4μmである。そしてこのサンプル12のイオン伝導率は1.0×10−6(S/cm)未満となった。すなわち電極層シート内では、電解質粉体の粒子径φ2よりも活物質粉体の粒子径φ1を大きくするという上記条件が確認された。なお活物質の粒子径φ1が1.5μmと大きなサンプル23でもイオン伝導率は1.0×10−6(S/cm)未満となったが、これは活物質粉体の粒子が大きいと活物質粉体の粒子間でのイオンの授受が遅くなることに加え、焼結性も劣化しためと思われる。すなわちサンプル23では活物質粉体の粒子径φ1に対して電解質粉体の粒子径φ2が相対的にかなり小さく、表1に示したサンプル1で焼結性が劣化したことからも容易に予想されるように、電極層の焼結性の良否は電極層シート内の電解質粉体の粒子径φ2の絶対値ではなく、活物質粉体の粒子径φ1との相対値に依存し、その相対値が大きいほど焼結性が劣化すると考えることができる。したがって電極層シート内における活物質粉体の粒子径φ1は、焼結可能な大きさを有していること、および電解質粉体の粒子径φ2以上であるということが重要な条件となる。なおサンプル13〜サンプル22より、この条件を満たす場合に限り、焼成前の電極層シート内の活物質粉体の粒子径φ1を0.5μm以上1.4μm以下とすると確実に1.0×10−6(S/cm)より大きなイオン伝導率が得られる。なおサンプル13〜サンプル22における活物質粉体の粒子径φ1は0.5μm以上1.4μm以下であり、電解質シート内の電解質粉体の粒子径φ3=3.0μmの方が大きい。そしてサンプル13〜サンプル22では層間での熱収縮率の差に起因する焼結体の割れや反りなどの問題は発生しなかった。
【0032】
<電解質層>
つぎに電解質層シート内の電解質粉体のメジアン径と電極層シート内の活物質のメジアン径との間のより適切な関係を調べるために、活物質粉体および電解質粉体のそれぞれのメジアン径を0.9μmおよび0.5μmとした電極層シートと、電解質粉体のメジアン径を変えた電解質層シートの積層体を焼成して各種サンプルを作製した。そして各サンプルに上記の集電体層を形成した後、各サンプルのイオン伝導率(S/cm)を測定した。
【0033】
以下の表3に各サンプルのイオン伝導率を示した。
【0034】
【表3】
表3に示したサンプル24〜37は、いずれも電解質層シート内の電解質粉体のメジアン径が電極層シート内の活物質粉体のメジアン径よりも大きい。そしてサンプル24、25、36、37ではイオン伝導率が1.0×10−6(S/cm)未満となった。しかし全てのサンプルでは層間での熱収縮率に起因する割れや反りなどの問題は発生しなかった。すなわち電極層の焼結性さえ確保できれば、電解質層シート内の電解質粉体のメジアン径を電極層シート内の活物質粉体のメジアン径よりも大きくすれば、全固体電池の本体でもある積層体自体の焼結性が確保される。
【0035】
===実施例に係る全固体電池の製造方法===
つぎに上記各サンプルにおける粒子径(φ1〜φ3)とイオン伝導率との関係に基づいて本発明の実施例に係る全固体電池の製造方法について説明する。図2は焼成前の積層体1の概略構造であり、ここでは積層体1における各層に対応するグリーンシート(10a、20、10b)の積層方向を上下方向として、上方から正極の電極層シート(以下、正極層シート10aとも言う)、電解質層シート20、および負極の電極層シート(以下、負極層シート10bとも言う)がこの順に積層されていることとし、各グリーンシート(10a、20、10b)の一部を拡大して示した。そして各グリーンシート(10a、20、10b)内における粒子状の電極活物質(11a、11b)や固体電解質(12a、12b、21)の粒子径(φ1〜φ3)の相対的な関係を示した。なお実施例に係る全固体電池の製造方法では、各グリーンシート(10a、10b、20)中に含まれるセラミック粉体の粒子(11a、12a、11b、12b、21)の大きさをメジアン径で規定しており、実際のグリーンシート(10a、10b、20)中には多種多様な粒径の粒子が混在している。しかし図2では説明を容易にするために種類が同じセラミック粉体の粒子(11a、12a、11b、12b、21)については一律に同じ大きさで示した。
【0036】
図2に示したように、実施例に係る全固体電池の製造方法では、まず、焼成後の電極層(正極層、負極層)に実用的なイオン伝導性を付与するために、電極層シート(10a、10b)内での電極活物質(11a、11b)の粉体の粒子径φ1(φ1a、φ1b)と固体電解質(12a、12b)の粉体の粒子径φ2(φ2a、φ2b)との相対的な大小関係をφ1≧φ2としている。すなわち正極層シート10a内での正極活物質11aの粒子径φ1aと固体電解質12aの粒子径φ2aはφ1a≧φ2aであり、負極層シート10b内での負極活物質11bの粒子径φ1bと固体電解質12bの粒子径φ2bはφ1b≧φ2bであることを条件としている。さらに電極層シート(10a、10b)と電解質層シート20との積層体1を焼成していく過程で層間での熱収縮率を整合させるために、電極シート(10a、10b)内での電極活物質(11a、11b)の粒子径φ1(φ1a、φ1b)と電解質シート20内の固体電解質21の粒子径φ3との相対的な大小関係をφ3>φ1(φ3>φ1a、φ3>φ1b)とすることも条件としている。そしてこれらの条件(φ1≧φ2、φ3>φ1)を満たした上で総合的なイオン伝導率を目的とする数値範囲(例えば、1×10−6S/cm以上)とするために、電極層シート20内の電極活物質(11a、11b)の粒子径φ1(φ1a、φ1b)と固体電解質(12a、12b)の粒子径φ2(φ2a、φ2b)、および電解質層シート20内の固体電解質21の粒子径φ3を適切な範囲に調整すればより好ましい。
【0037】
このように本実施例に係る全固体電池の製造方法によれば、電極活物質や固体電解質を解砕によって個別に所定のメジアン径に調整するだけで、イオン伝導率に優れた全固体電池を製造することができる。また積層体を焼成する過程で各層間の熱収縮率を整合させて割れや反りなどが発生し難く高い歩留まりで全固体電池を製造することもできる。もちろん解砕後の電極活物質や固体電解質との混合材を加圧造粒する工程が不要である。したがって製造コストを大きく低減させることも可能となる。
【0038】
===その他の実施例===
本発明の実施例に係る全固体電池の製造方法では、グリーンシートの積層体を焼成することで全固体電池を製造することとし、その製造に際し、電極層や電解質層のグリーンシートに混入する固体電解質や電極活物質のメジアン径の大小関係を規定することで、実用的な全固体電池に求められるイオン伝導率を確保するとともに、層間での熱収縮率を整合させている。したがって本発明の実施例に係る全固体電池の製造方法においては、固体電解質、正極活物質、さらにはバインダや溶剤などは上述したものに限らない。
【0039】
固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有する材料であればよく、各種NASICON型酸化物や硫化物系無機固体電解質などが挙げられる。電極活物質としては、非水電解液を用いた従来のリチウム二次電池に用いられる材料と同様のものを用いることができる。例えば、正極活物質であれば、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)などの層状酸化物や、オリビン構造を持つリン酸鉄リチウム(LiFePO)、スピネル構造を持つマンガン酸リチウム(LiMn、LiMnO、LiMO)などが挙げられる。負極活物質としては、上記サンプルに用いた酸化チタンの他に、例えば炭素材料(天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維など)、チタン酸リチウム(LiTi12)などの金属酸化物が挙げられる。これもリチウムイオン電池負極活物質として分類される物質であれば特に限定はされない。また正極活物質および負極活物質の表面に、ジルコニア(ZrO)、アルミナ(Al)、チタン酸リチウム(LiTi12)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、炭素(C)などがコーティングされていてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 積層体、10a 正極層シート、10b 負極層シート、
11a,11b 電極活物質の粒子、
12a、12b 電極層シート内の固体電解質の粒子、20 電解質層シート、
21 電解質層シート内の固体電解質の粒子
図1
図2