【実施例1】
【0020】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)および
図1(c)は、
図1(a)のA−A断面図、
図1(d)は、B−B断面図である。
図1(b)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器を、
図1(c)は例えばラダー型フィルタの並列共振器を示している。
【0021】
図1(a)、
図1(b)および
図1(d)に示すように、直列共振器Sの構造について説明する。シリコン(Si)基板である基板10上に、下部電極12が設けられている。基板10の平坦主面と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが大きくなるような形状の膨らみである。なお、
図1(b)から
図1(d)では、ドーム状の空隙を台形状断面で示す。以下の図も同様である。
【0022】
下部電極12は例えばCr(クロム)膜とCr膜上のRu(ルテニウム)膜とを含む。下部電極12は厚膜部25と薄膜部26を有する。厚膜部25における下部電極12の上面(すなわち圧電膜14と接する面)の空隙30(すなわち空隙30の上面)からの距離は距離t1である。薄膜部26における下部電極12の上面の空隙30からの距離は距離t2である。距離t1は距離t2より大きい。
【0023】
下部電極12上に、(002)方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする圧電膜14が設けられている。圧電膜14を挟み下部電極12と対向する領域(共振領域50)を有するように圧電膜14上に上部電極16が設けられている。すなわち、上部電極16は、圧電膜14の下部電極12が接する面とは反対の面に設けられている。共振領域50は、楕円形状を有し、厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。共振領域50は、平面視において空隙30と同じまたは空隙30より小さくかつ空隙30と重なるように設けられている。上部電極16は例えばRu膜とRu膜上に設けられたCr膜とを含む。
【0024】
上部電極16上には周波数調整膜(不図示)として酸化シリコン膜が形成されている。共振領域50内の積層膜18は、下部電極12、圧電膜14、上部電極16および周波数調整膜を含む。周波数調整膜はパッシベーション膜として機能してもよい。
【0025】
図1(a)および
図1(d)のように、圧電膜14および下部電極12には犠牲層をエッチングするための孔部35が形成されている。犠牲層は空隙30を形成するための層である。孔部35は、空隙30に通じている。
【0026】
図1(c)を参照し、並列共振器Pの構造について説明する。並列共振器Pは直列共振器Sと比較し、上部電極16の下層16a(例えばRu膜)と上層16b(例えばCr膜)との間に、Ti(チタン)層からなる追加膜20が設けられている。よって、積層膜18は直列共振器Sの積層膜に加え、共振領域50内の全面に形成された追加膜20を含む。その他の構成は直列共振器Sの
図1(b)と同じであり説明を省略する。
【0027】
直列共振器Sと並列共振器Pとの共振周波数の差は、追加膜20の膜厚を用い調整する。直列共振器Sと並列共振器Pとの両方の共振周波数の調整は、周波数調整膜の膜厚を調整することにより行なう。
【0028】
3.5GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器の場合、下部電極12の厚膜部25を膜厚が50nmのCr膜と膜厚が105nmのRu膜とする。下部電極12の薄膜部26を膜厚が50nmのCr膜と膜厚が95nmのRu膜とする。圧電膜14を膜厚が713nmのAlN膜とする。上部電極16を膜厚が105nmのRu膜(下層16a)と膜厚が20nmのCr膜(上層16b)とする。周波数調整膜を膜厚が10nmの酸化シリコン膜とする。追加膜20を膜厚が40nmのTi膜とする。各層の膜厚は、所望の共振特性を得るため適宜設定することができる。
【0029】
基板10としては、Si基板以外に、サファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等を用いることができる。下部電極12および上部電極16としては、RuおよびCr以外にもAl、Ti、Cu、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ta、Pt、Rh(ロジウム)またはIr(イリジウム)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。例えば、上部電極16の下層16aをRu、上層16bをMoとしてもよい。
【0030】
圧電膜14は、窒化アルミニウム以外にも、ZnO(酸化亜鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、PbTiO
3(チタン酸鉛)等を用いることができる。また、例えば、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、Sc(スカンジウム)、2族元素と4族元素との2つの元素、または2族元素と5族元素との2つの元素を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。2族元素は、例えばCa(カルシウム)、Mg(マグネシウム)、Sr(ストロンチウム)またはZn(亜鉛)である。4族元素は、例えばTi、Zr(ジルコニウム)またはHf(ハフニウム)である。5族元素は、例えばTa、Nb(ニオブ)またはV(バナジウム)である。さらに、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、B(ボロン)を含んでもよい。
【0031】
周波数調整膜としては、酸化シリコン膜以外にも窒化シリコン膜または窒化アルミニウム等を用いることができる。追加膜20としては、Ti以外にも、Ru、Cr、Al、Cu、Mo、W、Ta、Pt、RhもしくはIr等の単層膜を用いることができる。また、例えば窒化シリコンまたは酸化シリコン等の窒化金属または酸化金属からなる絶縁膜を用いることもできる。追加膜20は、上部電極16の層間(Ru膜とCr膜との間)以外にも、下部電極12の下、下部電極12の層間、上部電極16の上、下部電極12と圧電膜14との間または圧電膜14と上部電極16との間に形成することができる。追加膜20は、共振領域50を含むように形成されていれば、共振領域50より大きくてもよい。
【0032】
図2(a)から
図3(d)は、実施例1の直列共振器の製造方法を示す断面図である。
図2(a)に示すように、平坦主面を有する基板10上に空隙を形成するための犠牲層38を形成する。犠牲層38の膜厚は、例えば10〜100nmであり、MgO(酸化マグネシウム)、ZnO、Ge(ゲルマニウム)またはSiO
2(酸化シリコン)等のエッチング液またはエッチングガスに容易に溶解できる材料から選択される。その後、犠牲層38を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。犠牲層38の形状は、空隙30の平面形状に相当する形状であり、例えば共振領域50となる領域を含む。犠牲層38は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜される。
【0033】
図2(b)に示すように、犠牲層38および基板10上に下部電極12を形成する。下部電極12は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜される。
図2(c)に示すように、薄膜部26となる下部電極12の一部を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い薄膜化する。下部電極12のうちエッチングされた領域は薄膜部26となり、エッチングしていない領域は厚膜部25となる。厚膜部25と薄膜部26との間の段差の側面と、下部電極12の上面と、のなす角度θは、30°以下が好ましい。これにより、圧電膜14等にクラック等が入ることを抑制できる。
図2(d)に示すように、下部電極12をフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いパターニングする。下部電極12はリフトオフ法を用い形成してもよい。
【0034】
図3(a)に示すように、下部電極12および基板10上に圧電膜14を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。
図3(b)に示すように、上部電極16をスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。
図3(c)に示すように、上部電極16をフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。上部電極16はリフトオフ法を用い形成してもよい。
図3(d)に示すように、圧電膜14を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする
【0035】
なお、
図1(c)に示す並列共振器Pにおいては、上部電極16の下層16aを形成した後に、追加膜20を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。追加膜20をフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。その後、上部電極16の上層16bを形成する。
【0036】
周波数調整膜を例えばスパッタリング法またはCVD法を用い形成する。フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い周波数調整膜を所望の形状にパターニングする。
【0037】
孔部35を介し、犠牲層38のエッチング液を下部電極12の下の犠牲層38に導入する。これにより、犠牲層38が除去される。犠牲層38をエッチングする媒体としては、犠牲層38以外の共振器を構成する材料をエッチングしない媒体であることが好ましい。特に、エッチング媒体は、エッチング媒体が接触する下部電極12がエッチングされない媒体であることが好ましい。積層膜18(
図1(b)から
図1(d)参照)の応力を圧縮応力となるように設定しておく。これにより、犠牲層38が除去されると、積層膜18が基板10の反対側に基板10から離れるように膨れる。下部電極12と基板10との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成される。以上により、
図1(a)および
図1(b)に示した直列共振器S、および
図1(a)および
図1(c)に示した並列共振器Pが作製される。
【0038】
実施例1の効果を説明するため、比較例の問題点について説明する。
図4(a)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図4(b)は、
図4(a)のA−A断面図、
図4(c)は
図4(a)のB−B断面図である。
図4(a)から
図4(c)に示すように、比較例1では、下部電極12に厚膜部25および薄膜部26が設けられていない。共振領域50において、空隙30から下部電極12の上面までの距離t3は一定である。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0039】
圧電薄膜共振器では、積層膜18の総膜厚Hがほぼ弾性波の波長λの1/2の整数倍nとなる周波数(つまりH=nλ/2となる周波数)において共振現象が生じる。圧電膜14の材料によって決まる弾性波の伝搬速度をVとすると、共振周波数frは、fr=nV/(2H)となる。このように、共振周波数frを高くするためには、積層膜18の膜厚を小さくする。
【0040】
図4(b)のように、下部電極12は界面70a(
図4(b)において▲で示した)で基板10に固定されている。圧電膜14は界面70b(
図4(b)において●で示した)で下部電極12に固定され、界面70c(
図4(b)において▼で示した)で基板10に固定されている。共振領域50において、下部電極12の下面70d(
図4(b)において○出示した)は固定されておらず、積層膜18は基板10に固定されていない。
【0041】
積層膜18は内部応力を有している。例えばドーム状の空隙30を形成するため、積層膜18は矢印71のように圧縮応力(つまり積層膜18が膨らもうとする応力)を有している。共振領域50の外側で下部電極12および圧電膜14が固定され、共振領域50で下部電極12が固定されていないため、下部電極12に矢印72のように引っ張られる応力が生じる。
【0042】
フィルタの通過帯域を高くするため共振周波数frを高くしようとすると、積層膜18を薄くすることになる。特に、共振周波数frを3GHz以上とすると、積層膜18は非常に薄くなる。このため、積層膜18の強度が低下する。特に下部電極12には矢印72の応力が加わるため下部電極12に亀裂74等が生じる。下部電極12に亀裂等が生じると圧電膜14の破壊も生じる場合がある。特に、圧電膜14にボロン等が添加させていると、圧電膜14が硬くなり圧電膜14が破壊され易くなる。また、下部電極12が変形することで、製造工程等で圧電膜14がエッチングされ空洞が形成される可能性がある。
【0043】
また、上部電極16と圧電膜14との内部応力の差により、積層膜18は上部電極16の引き出し領域の方向に引っ張られるまたは圧縮される。このため、平面視において空隙30と重なる領域の中心60と上部電極16の引き出し領域との間においても積層膜18が機械的に破損されやすい。なお、平面視において空隙30と重なる領域の中心60は、共振領域50の中心に略等しい。
【0044】
このように、共振領域50の積層膜18が機械的に破損してしまう。下部電極12を厚くすることにより、下部電極12の強度は高くできる。しかし、下部電極12を厚くすると、圧電膜14を薄くすることになる。このためQ値が低下してしまう。
【0045】
実施例1の3.5GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器において例示した材料および膜厚の比較例1に係る圧電薄膜共振器を作製した。なお、下部電極12の膜厚は一様であり、Ru膜の膜厚は111nmである。共振領域50の短軸長は68μm、長軸長は124μmである。比較例1において亀裂の生じる箇所を観察した。
【0046】
図5は、比較例1において亀裂の生じる箇所を示した図である。
図5に示すように、共振領域50が楕円形状の場合、楕円形状の中心60、短軸60aおよび長軸60bとした。下部電極12の引き出し領域61および上部電極16の引き出し領域63は短軸60a方向に設けられている。複数の圧電薄膜共振器のうちいくつかの圧電薄膜共振器において下部電極12に亀裂74が生じた。上面から顕微鏡観察すると長軸60b方向に長い三日月状の亀裂74が観察できる。亀裂74の長軸60b方向の大きさは例えば5μmから20μmである。亀裂74が生じた圧電薄膜共振器において、多くの場合亀裂74は平面視において空隙30と重なる領域内に1つ生じる。
図5では、複数の圧電薄膜共振器において亀裂74が生じた場所を図示した。
【0047】
長軸60bの長さが124μmのとき、亀裂74は短軸60aを中心に幅L2が25μmの範囲内に集中している。また、亀裂74は短軸60aを中心に幅L1が80μmの範囲外では観測されない。
【0048】
図4(b)に示すように、下部電極12の引き出し領域では、下部電極12が基板10に固定されている。このため、短軸方向では、下部電極12内に大きな応力が生じる。これにより、短軸60a近傍に亀裂74が生じるものと考えられる。例えば
図4(c)のように長軸方向では、下部電極12は基板10に固定されておらず、下部電極12に加わる応力は小さいと考えられる。そこで、下部電極12に加わる応力が大きく、亀裂74が発生し易い短軸60a近傍に厚膜部25を設け、他を薄膜部26とする。厚膜部25により、亀裂74を抑制できる。また、薄膜部26を設けることで、積層膜18における圧電膜14の比率を下げることなく亀裂74等を抑制でき、Q値等の劣化を抑制できる。
【0049】
亀裂74が生じやすい箇所に設ける観点から、厚膜部25の幅W(
図1(a)参照)は、中心60を通過する直線を中心に幅が25μm以上とすることが好ましく、80μm以下とすることが好ましい。幅Wは、厚膜部25の幅W方向の共振領域50の長さL0の20%以上が好ましく、60%以下が好ましい。30%以上がより好ましく、50%以下がより好ましい。
【0050】
実施例1と比較例1とでは、共振周波数frおよびQ値等をほぼ同じとするため共振領域50内の下部電極12の体積を同じとする。このとき、実施例1における厚膜部25における距離t2(
図1(d)参照)は、比較例1の下部電極12における距離t3(
図4(c)参照)の1.1倍以上かつ2倍以下が好ましく、1.25倍以上かつ1.5倍以下がより好ましい。
【0051】
図6(a)は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図6(b)は、
図6(a)のA−A断面図である。
図6(a)および
図6(b)に示すように、厚膜部25は、空隙30上にのみ設けられている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0052】
実施例1では、厚膜部25が引き出し領域61に設けられている。引き出し領域61においても下部電極12に多少の応力が加わる。このため、実施例1は実施例1の変形例1に比べ、より下部電極12の補強が可能となる。
【0053】
一方、引き出し領域61に厚膜部25が設けられると凹凸が形成され、製造工程の不安定
要因となりうる。実施例1の変形例1では、引き出し領域61に厚膜部25が形成されていないため、下部電極12形成後の製造工程等を安定化できる。
【0054】
図7(a)および
図7(b)は、それぞれ実施例1の変形例2および3に係る圧電薄膜共振器の平面図である。
図7(a)に示すように、下部電極12の引き出し領域61および上部電極16の引き出し領域63は短軸60aに対し斜めに設けられている。引き出し領域61と63の方向はほぼ直角である。薄膜部26は、短軸60aを含むように設けられている。その他の構成は実施例1の変形例1と同じであり説明を省略する。
【0055】
図7(b)に示すように、中心60から引き出し領域61の方向に延伸する直線67aとし、中心60から引き出し領域63の方向に延伸する直線67bとする。厚膜部25は、直線67aおよび67bを含むように設けられている。その他の構成は実施例1の変形例2と同じであり説明を省略する。
【0056】
引き出し領域61および63の方向が短軸60aと斜めの場合、亀裂74の生じやすい領域は、短軸60aの近傍、または直線67aおよび67bの近傍である。応力が集中し易い領域に亀裂74が発生する場合は短軸60a近傍に亀裂74が発生する。この場合実施例1の変形例2を採用することが好ましい。下部電極12の応力の方向に亀裂74が発生する場合は直線67aおよび67bの近傍に亀裂が発生する。この場合実施例1の変形例3を採用することが好ましい。短軸60aの近傍または直線67aおよび67bの近傍で亀裂74が発生し易いかは、材料および構造に依存する。
【0057】
図8は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の平面図である。
図8に示すように、共振領域50以外の下部電極12は全て厚膜部25である。その他の構成は実施例1の変形例2と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例4のように共振領域50以外の下部電極12は全て厚膜部25でもよい。
【0058】
図9(a)および
図9(b)は、それぞれ実施例1の変形例5および6に係る圧電薄膜共振器の平面図である。
図9(a)に示すように、共振領域50は四角形である。
図9(b)に示すように、共振領域50は五角形である。下部電極12の引き出し領域61が設けられた共振領域50の辺64aとする。上部電極16の引き出し領域63が設けられた共振領域50の辺64bとする。辺64aおよび64bのそれぞれの中点65aおよび65bとする。中心60と中点65aおよび65bをそれぞれ結ぶ直線66aおよび66bとする。厚膜部25は直線66aおよび66bを含むように設けられている。中心60は、例えば平面視において空隙30と重なる領域(すなわち共振領域50)の重心である。中心60としては多角形状の内接円の中心または外接円の中心でもよい。その他の構成は実施例1の変形例1と同じであり説明を省略する。
【0059】
実施例1およびその変形例1から6によれば、下部電極12は、平面視において空隙30と重なる領域内に薄膜部26と厚膜部25とを有する。これにより、下部電極12等の積層膜18に亀裂74等が生じやすい箇所を厚膜部25とし、亀裂74が生じにくい箇所を薄膜部26とする。厚膜部25により、亀裂74等を抑制でき、積層膜18の強度を高めることができる。共振領域50内の厚膜部25の面積を小さくし、薄膜部26の面積を大きくすることで、Q値等の劣化を抑制できる。
【0060】
また、共振領域50の下部電極12には、下部電極12および上部電極16の引き出し領域61および63の方向に応力が加わる。このため、中心60と、下部電極12および上部電極16が共振領域50から引き出される引き出し領域61および63と、を結ぶ直線近傍に亀裂74等が発生しやすい。つまり、
図7(a)から
図8では、中心60と、共振領域50の引き出し領域61および63側の外周61aおよび63a上のいずれかの点と、を結ぶ直線近傍に亀裂74が発生し易い。また、
図9(a)および
図9(b)では、中心60と、辺64aおよび64b上のいずれかの点と、を結ぶ直線近傍に亀裂が発生し易い。
【0061】
そこで、厚膜部25を、中心60と引き出し領域61および63とを結ぶ直線の少なくとも一部を含む帯状に設ける。これにより、下部電極12等における亀裂74等発生を抑制できる。
【0062】
さらに、共振領域50の下部電極12には、中心60から下部電極12の引き出し領域61の方向に応力が加わる。そこで、厚膜部25を、応力の加わる中心60と引き出し領域61とを結ぶ直線を含む帯状に設ける。これにより、応力の加わる領域を補強できる。よって、下部電極12等における亀裂74等の発生を抑制できる。
【0063】
さらに、実施例1および変形例1のように、共振領域50が楕円形状のとき、引き出し領域61および63は短軸方向に設けられる。これは、引き出し領域61または63から共振領域50の端(引き出し領域61または63とは反対側の端)まで距離を短くし、下部電極12または上部電極16の実質的な抵抗を低くするためである。このため、亀裂74は短軸60a近傍に発生する。また、楕円形状の場合、長軸60bより短軸60aに応力が集中し易い。よって、実施例1およびその変形例1、2のように、厚膜部25を楕円形状の短軸60aの少なくとも一部を含む帯状に設ける。これにより、下部電極12等における亀裂74等発生を抑制できる。
【0064】
さらに、厚膜部25を、短軸60aを含むように帯状に設ける。例えば、厚膜部25を、中心60と下部電極12の引き出し領域61の間の短軸60aを含むように帯状に設ける。これにより、下部電極12等における亀裂74等発生をより抑制できる。
【0065】
さらに、実施例1の変形例5および6のように、共振領域50が多角形状のとき、
図9(a)および
図9(b)のように、中心60と、引き出し領域61および63が設けられた多角形状の辺64aおよび64bの中点65aおよび65bと、を結ぶ直線66aおよび66bの近傍に亀裂74等が生じやすい。そこで、厚膜部25を直線66aおよび66bの少なくとも一部を含む帯状に設ける。これにより、下部電極12等における亀裂74等発生をより抑制できる。
【0066】
さらに、厚膜部25を、直線66aを含む帯状に設ける。これにより、下部電極12等における亀裂74等発生をより抑制できる。
【0067】
厚膜部25は、短軸60a、直線66aまたは66bに平行な帯状に設けられてもよいし、非平行な帯状に設けられてもよい。また、厚膜部25の帯状の幅は、一定でもよいし、一定でなくてもよい。
【実施例2】
【0068】
実施例2は、厚膜部25および薄膜部26の構造を変える例である。
図10(a)は、実施例2に係る圧電薄膜共振器の断面図、
図10(b)から
図10(d)は、実施例2に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
図10(a)に示すように、厚膜部25および薄膜部26には同じ膜厚の金属膜27aが設けられている。厚膜部25においては金属膜27a上に金属膜27bが設けられている。薄膜部26において金属膜27bは設けられていない。下部電極12は金属膜27aと27bとを含む。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0069】
図10(b)に示すように、実施例1の
図2(a)の後に犠牲層38および基板10上に金属膜27aを形成する。
図10(c)に示すように、金属膜27a上に金属膜27bを形成する。金属膜27aおよび27bは、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜される。
図10(d)に示すように、薄膜部26となる金属膜27bの一部を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い除去する。
厚膜部25において金属膜27b
は除去されていない。金属膜27aおよび27bにより下部電極12が形成される。以降の工程は、実施例1の
図2(d)以降と同じであり説明を省略する。
【0070】
実施例2によれば、下部電極12は、薄膜部26および厚膜部25に設けられた金属膜27a(第1金属膜)と、厚膜部25の金属膜27a上に設けられ薄膜部26に設けられていない金属膜27b(第2金属膜)と、を含む。これにより、共振領域50内に厚膜部25と薄膜部26を形成できる。また、金属膜27aと27bとの材料を異ならせることで、
図10(d)のように、金属膜27bを金属膜27aに対し選択的にエッチングできる。これにより、薄膜部26の距離t1を精度よく製造できる。
【0071】
図11(a)は、実施例2の変形例1に係る圧電薄膜共振器の断面図、
図11(b)から
図11(d)は、実施例2の変形例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
図11(a)に示すように、厚膜部25および薄膜部26には同じ膜厚の下部電極12が設けられている。厚膜部25においては下部電極12下に追加膜28が設けられている。薄膜部26において追加膜28は設けられていない。追加膜28は、例えば酸化シリコン膜、窒化シリコン膜もしくは窒化酸化シリコン膜等の絶縁膜、または下部電極12として例示した金属膜である。追加膜28が金属膜のとき、追加膜28は下部電極の一部となる。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0072】
図11(b)に示すように、実施例1の
図2(a)の後に犠牲層38および基板10上に追加膜28を形成する。追加膜28は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜される。
図11(c)に示すように、薄膜部26となる追加膜28の一部を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い除去する。
厚膜部25において追加膜28は除去されていない。
図11(d)に示すように、犠牲層38および追加膜28上に下部電極12を形成する。以降の工程は、実施例1の
図2(d)以降と同じであり説明を省略する。
【0073】
実施例2の変形例1によれば、追加膜28は、厚膜部25において空隙30と下部電極12との間に設けられ、薄膜部26において設けられていない。これにより、共振領域50内に厚膜部25と薄膜部26を形成できる。
図11(d)のように、追加膜28を形成した後に下部電極12を形成するため、薄膜部26の距離t1を精度よく製造できる。
【0074】
図12(a)は、実施例2の変形例2に係る圧電薄膜共振器の断面図、
図12(b)から
図12(d)は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
図12(a)に示すように、厚膜部25および薄膜部26には同じ膜厚の下部電極12が設けられている。厚膜部25においては下部電極12下に厚い追加膜28が設けられている。薄膜部26においては下部電極12下に薄い追加膜28が設けられている。追加膜28は、実施例2の変形例1と同様に絶縁膜または金属膜である。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0075】
図12(b)に示すように、実施例1の
図2(a)の後に犠牲層38および基板10上に追加膜28を形成する。追加膜28は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜される。
図12(c)に示すように、薄膜部26となる追加膜28の一部を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い薄膜化する。
厚膜部25において追加膜28は薄膜化されていない。
図12(d)に示すように、犠牲層38および追加膜28上に下部電極12を形成する。以降の工程は、実施例1の
図2(d)以降と同じであり説明を省略する。
【0076】
実施例2の変形例2によれば、厚膜部25における追加膜28の膜厚は、薄膜部26における追加膜28の膜厚より大きい。追加膜28上に厚膜部25と薄膜部26とで膜厚が実質的に同じ下部電極12が設けられている。これにより、共振領域50内に厚膜部25と薄膜部26を形成できる。
【0077】
実施例1およびその変形例に実施例2およびその変形例の厚膜部25および薄膜部26を適用してもよい。