特許第6757600号(P6757600)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6757600
(24)【登録日】2020年9月2日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】異種金属積層構造形成方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/16 20060101AFI20200910BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20200910BHJP
   B23K 26/34 20140101ALI20200910BHJP
   B23K 26/144 20140101ALI20200910BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20200910BHJP
   B23K 9/04 20060101ALI20200910BHJP
   B23K 10/02 20060101ALI20200910BHJP
【FI】
   B22F3/16
   B22F3/105
   B23K26/34
   B23K26/144
   B23K26/21 Z
   B23K9/04 J
   B23K10/02 501A
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-110935(P2016-110935)
(22)【出願日】2016年6月2日
(65)【公開番号】特開2017-214635(P2017-214635A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2019年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 泰之
(72)【発明者】
【氏名】上谷 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】成田 竜一
(72)【発明者】
【氏名】石井 建
(72)【発明者】
【氏名】平松 範之
(72)【発明者】
【氏名】荻村 晃示
(72)【発明者】
【氏名】坪田 秀峰
【審査官】 西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/110001(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0015172(US,A1)
【文献】 特開2011−021676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/16
B22F 3/105
B23K 9/04
B23K 10/02
B23K 26/144
B23K 26/21
B23K 26/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の金属材料の粉末を供給することにより前記第一の金属材料から形成される第一のビード帯と、第二の金属材料の粉末を供給することにより前記第二の金属材料から形成される第二のビード帯とが交互に配置された異種金属層を形成する異種金属層形成工程を含み、前記異種金属層形成工程を繰り返すことにより、複数の異種金属層が順次積層された異種金属積層構造を形成する異種金属積層構造形成方法であって、
積層順序の第一番目の前記異種金属層形成工程を、前記第二のビード帯の幅よりも前記第一のビード帯の幅の方が小さくなるように実行し、
前記積層順序の第二番目以降の前記異種金属層形成工程を、前記積層順序が増加するにつれて、前記第二のビード帯の幅が順次小さくなるとともに前記第一のビード帯の幅が順次大きくなるように実行し、
前記異種金属層形成工程は、前記異種金属層の積層方向に直交する方向から見て前記異種金属層における前記第一の金属材料と前記第二の金属材料との境界が三角波状をなすように実行され、
第一の金属材料は、アルミニウム及び鉄の一方であって、
第二の金属材料は、アルミニウム及び鉄の他方である異種金属積層構造形成方法。
【請求項2】
前記第一のビード帯のビード及び前記第二のビード帯のビードの延在方向が、互いに交差する請求項に記載の異種金属積層構造形成方法。
【請求項3】
前記第一のビード帯及び前記第二のビード帯の延在方向が、互いに一致する請求項に記載の異種金属積層構造形成方法。
【請求項4】
第一の金属材料の粉末を供給することにより前記第一の金属材料から形成される第一のビード帯と、第二の金属材料の粉末を供給することにより前記第二の金属材料から形成される第二のビード帯とが交互に配置された異種金属層を形成する異種金属層形成工程を含み、前記異種金属層形成工程を繰り返すことにより、複数の異種金属層が順次積層された異種金属積層構造を形成する異種金属積層構造形成方法であって、
積層順序の第一番目の前記異種金属層形成工程を、前記第二のビード帯の幅よりも前記第一のビード帯の幅の方が小さくなるように実行し、
前記積層順序の第二番目以降の前記異種金属層形成工程を、前記積層順序が増加するにつれて、前記第二のビード帯の幅が順次小さくなるとともに前記第一のビード帯の幅が順次大きくなるように実行し、
前記異種金属層形成工程は、前記異種金属層の積層方向に直交する方向から見て前記異種金属層における前記第一の金属材料と前記第二の金属材料との境界が三角波状をなすように実行され、
前記第一のビード帯及び前記第二のビード帯の延在方向が、互いに一致する異種金属積層構造形成方法。
【請求項5】
第一の金属材料は、アルミニウム及び鉄の一方であって、
第二の金属材料は、アルミニウム及び鉄の他方である請求項に記載の異種金属積層構造形成方法。
【請求項6】
前記積層順序の第二番目以降の前記異種金属層形成工程を、前記第二のビード帯の幅よりも前記第一のビード帯の幅が大きくなるまで実行する請求項1から5のいずれか一項に記載の異種金属積層構造形成方法。
【請求項7】
前記異種金属層形成工程は、前記異種金属層の積層方向に直交する方向から見て前記異種金属層における前記第一の金属材料と前記第二の金属材料との境界が三角波状をなすように実行される請求項1から6のいずれか一項記載の異種金属積層構造形成方法。
【請求項8】
前記第一のビード帯は、単一のビードによって形成されている請求項1からのいずれか一項に記載の異種金属積層構造形成方法。
【請求項9】
前記第一のビード帯及び前記第二のビード帯は、レーザ・メタル・デポジション装置を用いて形成される請求項1からのいずれか一項に記載の異種金属積層構造形成方法。
【請求項10】
前記第一のビード帯のビード及び前記第二のビード帯のビードを、直線状又は波状に形成する請求項1からのいずれか一項に記載の異種金属積層構造形成方法。
【請求項11】
前記第一の金属材料と前記第二の金属材料との希釈率が1%以下である請求項1から10のいずれか一項に記載の異種金属積層構造形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、異種金属の組合せが積層された異種金属積層構造形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、異種金属同士を接合したり、金属母材の表面に金属母材と異なる種類の金属材料を被覆したりする方法として、アーク溶接、レーザ溶接、抵抗溶接等の溶融溶接が用いられている。
【0003】
また、特許文献1には、金属母材の表面に金属母材とは異なる種類の金属材料を被覆する際に、両者の境界層及びその近傍において傾斜機能部を形成する方法が記載されている。傾斜機能部は、金属母材の組織と被覆層の組織とを相互に拡散させて両者の分布が金属母材側から被覆層側へかけて連続的な変化を示す部位である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2982355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、アルミニウム(Al)と鉄(Fe)等の組み合わせでは接合界面に脆弱な反応層(金属間化合物)を生成すると同時に、線膨張係数等の物性が大きく異なる。これにより、接合界面で発生する熱応力が大きくなり、割れが発生し界面で破壊しやすく、溶融溶接を行うことは困難である。
また、機械的な接合方法、若しくは接着剤を用いて異種金属同士を接合する方法もある。しかしながら、機械的な接合方法では重量増加が問題となり、接着剤を用いる方法では強度不足が問題となる。
【0006】
この発明は、割れが発生したり金属間化合物が生成したりするため、溶融接合が困難な異種金属の組合せを積層する場合において、溶融接合を可能とする異種金属積層構造形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様によれば、異種金属積層構造形成方法は、第一の金属材料の粉末を供給することにより前記第一の金属材料から形成される第一のビード帯と、第二の金属材料の粉末を供給することにより前記第二の金属材料から形成される第二のビード帯とが交互に配置された異種金属層を形成する異種金属層形成工程を含み、前記異種金属層形成工程を繰り返すことにより、複数の異種金属層が順次積層された異種金属積層構造を形成する異種金属積層構造形成方法であって、積層順序の第一番目の前記異種金属層形成工程を、前記第二のビード帯の幅よりも前記第一のビード帯の幅の方が小さくなるように実行し、前記積層順序の第二番目以降の前記異種金属層形成工程を、前記積層順序が増加するにつれて、前記第二のビード帯の幅が順次小さくなるとともに前記第一のビード帯の幅が順次大きくなるように実行する。
【0008】
このような構成によれば、金属粉末を用いた微細なビードを形成する工程を繰り返して異種金属層を形成することによって、低入熱での金属積層構造の形成が可能となる。
また、低入熱のビード形成を繰り返して異種金属層が順次積層された金属積層構造を形成することによって、溶接での接合が困難な材料同士の接合が可能となる。即ち、互いに混合することによって脆弱な金属間化合物が生成されるような金属の組合せを積層する場合においても、必要な強度を確保することができる。
【0009】
本発明の第二の態様によれば、第一の金属材料の粉末を供給することにより前記第一の金属材料から形成されて千鳥状又は碁盤目状に配置された複数の第一のビード部と、第二の金属材料の粉末を供給することにより前記第二の金属材料から形成されて前記複数の第一のビード部を除く範囲に配置された第二のビード部とからなる異種金属層を形成する異種金属層形成工程を含み、前記異種金属層形成工程を繰り返すことにより、複数の異種金属層が順次積層された異種金属積層構造を形成する異種金属積層構造形成方法であって、積層順序の第一番目の前記異種金属層形成工程を、前記第二のビード部の面積よりも前記第一のビード部の面積の方が小さくなるように実行し、前記積層順序の第二番目以降の前記異種金属層形成工程を、前記積層順序が増加するにつれて、前記第二のビード部の面積が順次小さくなるとともに前記第一のビード部の面積が順次大きくなるように実行する。
【0010】
このような構成によれば、平面的な接合強度をより均一にすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、互いに混合することによって脆弱な金属間化合物が生成されるような金属の組合せを積層する場合においても、必要な強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第一の実施形態の異種金属層結合体の側方から見た概略図である。
図2】本発明の第一の実施形態の異種金属層結合体形成方法のフローチャートである。
図3】本発明の第一の実施形態の第二金属部形成工程を示す側方から見た概略図である。
図4】本発明の第一の実施形態の積層順序の第一番目の異種金属層形成工程を示す側方から見た概略図である。
図5】本発明の第一の実施形態の積層順序の第二番目の異種金属層形成工程を示す側方から見た概略図である。
図6】本発明の第一の実施形態の積層順序の第三番目の異種金属層形成工程を示す側方から見た概略図である。
図7】本発明の第二の実施形態の積層順序の第一番目の異種金属層形成工程を示す側方から見た概略図である。
図8】本発明の第二の実施形態の積層順序の第二番目の異種金属層形成工程を示す側方から見た概略図である。
図9】本発明の第二の実施形態の積層順序の第三番目の異種金属層形成工程を示す側方から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔第一の実施形態〕
以下、本発明の第一の実施形態の異種金属積層構造形成方法について図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態の異種金属積層構造形成方法は、第一の金属材料(例えば、アルミニウム)と第二の金属材料(例えば、鉄)等の異種金属同士が接合された異種金属接合体を形成する際に用いる。
図1に示すように、本実施形態の異種金属接合体10は、第二の金属材料Bによって形成されている第二金属部12の表面12aに、第一の金属材料Aと第二の金属材料Bとからなる異種金属積層構造1を形成した後、異種金属積層構造1の表面1aに第一の金属材料Aによって形成されている第一金属部11を形成することによって得られる。
【0014】
異種金属積層構造1は、第二金属部12側から第一金属部11側に向かうに従って、漸次第一の金属材料Aの量が多くなるように、両者の分布が連続的に変化する傾斜機能部である。
具体的には、異種金属積層構造1において、第二の金属材料Bは側方から見て三角波状をなしている。異種金属積層構造1において、第二の金属材料Bが三角波状をなしていることによって、第二の金属材料Bは、第二金属部12側から第一金属部11側に向かうに従って、漸次量が少なくなる。
異種金属積層構造1において、第一の金属材料Aは三角波状をなす第二の金属材料Bの隣り合う山の間の隙間を充填するように配置されている。
【0015】
図2に示すように、異種金属接合体形成方法は、第二金属部12を形成する第二金属部形成工程P1と、第二金属部12の表面12aに、第一の金属材料Aから形成される第一のビード帯C1と第二の金属材料Bから形成される第二のビード帯C2が交互に配置された異種金属層21,22,23を形成する異種金属層形成工程P2,P3,P4と、複数の異種金属層形成工程を経て形成された異種金属積層構造1の表面1aに、第一の金属材料Aによって形成されている第一金属部11を形成する第一金属部形成工程P5と、を有している。
ビード帯は、一以上のビードによって形成されている。換言すれば、ビード帯は、一以上のパス(溶接操作)によって形成される。
【0016】
図3に示すように、第二金属部形成工程P1は、第二の金属材料Bによって形成されている第二金属部12を形成する工程である。第二金属部形成工程P1では、LMD(レーザ・メタル・デポジション、Laser Metal Deposition、以下LMDと呼ぶ。)装置30を用いて第二の金属材料Bを積層する。
具体的には、LMD装置30を図3の紙面に直交する方向に移動させながら一方向に延びるビード34を形成する。ビード34の形成を隙間なく行うことにより、第二の金属材料Bにより形成された面が形成される。さらに、第二の金属材料Bにより形成された面を積層することにより、第二金属部12が形成される。
【0017】
LMD装置30は、レーザ・メタル・デポジションを用いて金属材料からなるビードを形成する装置である。LMDは、レーザをワークに照射し、照射領域に金属粉末を噴射することにより、レーザで粉末を溶融肉盛りする方法である。
【0018】
LMD装置30は、レーザ光31を照射する照射口と、粉体32を噴射する噴射口と、シールドガス33を供給する供給口と、を有する。レーザ光31は、粉体32及び、ワークを溶融するエネルギーを、粉体32及びワークに付与する。粉体は、ビードを形成するための原料である。シールドガス33は、ビードの酸化を抑制するために供給される不活性ガスである。
LMD装置30は、図示しない移動装置に取り付けられている。移動装置は、例えば、マニピュレータによって構成されており、LMD装置30を移動させる。
【0019】
第二金属部形成工程P1では、LMD装置30に限ることはなく、金属材料を積層することができる装置を使用することができる。
金属材料を積層することができる装置としては、線状の金属を連続的に配置することができる装置、例えば、溶接ロボットや、金属用3D(三次元)プリンタを採用することができる。溶接によって第二金属部12を形成する場合は、アーク溶接等の溶接方法を適宜用いることができる。第二金属部形成工程P1では、例えば、鋳造によって第二金属部12を形成したり、第二の金属材料Bによって形成された板を用意したりしてもよい。
異種金属積層構造1が形成される第二金属部12の表面は、平面であってよいし、曲面や球面であってもよい。
【0020】
図4図5、及び図6に示すように、異種金属層形成工程P2,P3,P4は、第一の金属材料Aの粉末を供給することにより第一の金属材料Aから形成される第一のビード帯C1と、第二の金属材料Bの粉末を供給することにより第二の金属材料Bから形成される第二のビード帯C2とが交互に配置された異種金属層21,22,23を形成する工程である。
【0021】
本実施形態の異種金属層形成工程P2,P3,P4によって形成される異種金属層21,22,23には、平面視において、帯状の第一のビード帯C1と、帯状の第二のビード帯C2とが、ビード帯の延在方向と直交する方向に交互に配置される。
本実施形態の異種金属積層構造形成方法は、異種金属層形成工程を3回繰り返すことによって複数の異種金属層21,22,23が順次積層された異種金属積層構造1を形成する。
【0022】
図4に示すように、積層順序の第一番目の異種金属層形成工程P2により、第二金属部12の表面12aに第一の金属層21が形成される。第一の金属層21は、第一の金属材料Aによって形成される第一のビード帯C11の幅W11と、第二の金属材料Bによって形成される第二のビード帯C21の幅W21との比W11:W21が、W11:W21=1:3となるように形成される。比W11:W21は、これに限ることはなく、第二のビード帯C21の幅W21よりも第一のビード帯C11の幅W11の方が小さければよい(W11<W21であればよい。)。
また、第一のビード帯C11は、単一のビードによって形成されていることが好ましい。即ち、第一のビード帯C11は、1回のパスによって形成されていることが好ましい。
【0023】
また、異種金属層21,22,23の高さHは、例えば、約1mm以下とすることが好ましい。
また、母材に対する希釈率は、1%以下とすることが好ましい。即ち、第一の金属材料Aと第二の金属材料Bから構成される金属間化合物の比率を可能な限り低くすることが好ましい。本実施形態の異種金属層形成工程P2,P3,P4では、LMDを用いてビードを形成するため、他の溶接法と比較して金属間化合物の量は限定される。
【0024】
図5に示すように、積層順序の第二番目の異種金属層形成工程P3により、第一の金属層21の表面21aに第二の金属層22が形成される。第二の金属層22は、第一の金属材料Aによって形成される第一のビード帯C12の幅W12と、第二の金属材料Bによって形成される第二のビード帯C22の幅W22との比W12:W22が、W12:W22=1:1となるように形成される。
第二の金属層22の第一のビード帯C12は、第一の金属層21の第一のビード帯C11と幅方向(図5における左右方法)の中心位置が一致するように形成される。同様に、第二の金属層22の第二のビード帯C22は、第一の金属層21の第二のビード帯C21と幅方向の中心位置が一致するように形成される。
【0025】
比W12:W22は、これに限ることはなく、第二の金属層22の第二のビード帯C22の幅W22が第一の金属層21の第二のビード帯C21の幅W21(図4参照)よりも小さく、かつ、第二の金属層22の第一のビード帯C12の幅W12が第一の金属層21の第一のビード帯C11の幅W11よりも大きければよい。
【0026】
図6に示すように、積層順序の第三番目の異種金属層形成工程P4により第三の金属層23が形成される。第三の金属層23は、第一のビード帯C13の幅W13と第二のビード帯C23の幅W23との比W13:W23が、W13:W23=3:1となるように形成される。比W13:W23は、これに限ることはなく、第三の金属層23の第二のビード帯C23の幅W23が第二の金属層22の第二のビード帯C22の幅W22よりも小さく、かつ、第三金属層23の第一のビード帯C13の幅W13が第二の金属層22の第一のビード帯C12の幅W12よりも大きければよい。
【0027】
このように、積層順序の第二番目以降の異種金属層形成工程P3,P4を、積層順序が増加するにつれて、第二のビード帯C2の幅が順次小さくなるとともに第一のビード帯C1の幅が順次大きくなるように実行することによって、異種金属積層構造1が形成される。異種金属積層構造1は、第二金属部12側から第一金属部11側に向かうに従って、漸次第一の金属材料Aの量が多くなるとともに、漸次第二の金属材料Bの量が少なくなるように形成されている。
【0028】
続く第一金属部形成工程P5では、第二金属部形成工程P1と同様の方法にて、第一金属部11が形成される。これにより、図1に示すような異種金属接合体10が完成する。
【0029】
このような構成によれば、粉末を用いた微細なビードを形成する工程を繰り返して異種金属層21,22,23を形成することによって、低入熱での異種金属積層構造1の形成が可能となる。また、低入熱のビード形成を繰り返して異種金属層21,22,23が順次積層された異種金属積層構造1を形成することによって、溶接での接合が困難な材料同士の接合が可能となる。即ち、互いに混合することによって脆弱な金属間化合物が生成されるような金属の組合せを積層する場合においても、必要な強度を確保することができる。
【0030】
なお、上記実施形態においては、第一の金属層21におけるビード帯C1,C2の延在方向と、第二の金属層22におけるビード帯C1,C2の延在方向が一致しているがこれに限ることはない。例えば、第一の金属層21におけるビード帯C1,C2の延在方向と、第二の金属層22におけるビード帯C1,C2の延在方向とが交差(例えば、直交)する構成としてもよい。
【0031】
また、ビードを直線状でなく、波状に形成してもよい。即ち、波状のビードを隙間なく形成することによって複数のビードによる面を形成してもよい。
また、上記実施形態では異種金属層形成工程を三段階としたが、これに限ることはなく、さらに段階を増やしてもよい。
【0032】
〔第二の実施形態〕
以下、本発明の第二実施形態の異種金属積層構造形成方法について図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態では、上述した第一実施形態との相違点を中心に述べ、同様の部分についてはその説明を省略する。
本実施形態の異種金属積層構造形成方法は、異種金属積層構造1を形成する複数の異種金属層形成工程において形成される異種金属層のパターンが、第一の実施形態の異種金属層形成工程において形成される異種金属層のパターンと異なる。
【0033】
本実施形態の異種金属層形成工程によって形成される異種金属層は、碁盤目状に配置された複数の第一のビード部D1と、複数の第一のビード部D1を除く範囲に配置された第二のビード部D2とからなる。
図7は、積層順序の第一番目の異種金属層形成工程P2によって形成された第一の金属層21Bの平面図である。第一の金属層21Bは、第一の実施形態の異種金属積層構造形成方法と同様に、第二金属部12の表面12a(図4参照)に形成される。図7に示すように、第一の金属層21Bは、碁盤目状に配置された複数の第一のビード部D11と、複数の第一のビード部D11を除く範囲に配置された第二のビード部D21とからなる。
【0034】
積層順序の第一番目の金属層形成工程P2により、第一の金属層21が形成される。第一の金属層21は、第一の金属材料Aによって形成される複数の第一のビード部D11の総面積S11と、第二の金属材料Bによって形成される第二のビード部D21の面積S21との比S11:S21が、S11:S21=1:10となるように形成される。比S11:S21は、これに限ることはなく、第二のビード部D21の面積S21よりも第一のビード部D11の面積S11の方が小さければよい。
【0035】
図8に示すように、積層順序の第二番目の金属層形成工程P3により、第二の金属層22Bが形成される。第二の金属層22Bは、第一の金属材料Aによって形成される第一のビード部D12の面積S12と、第二の金属材料Bによって形成される第二のビード部D22の面積S22との比S12:S22が、S12:S22=1:1となるように形成される。
第二の金属層22の第一のビード部D12は、第一の金属層21の第一のビード部D12(図7参照)と中心位置が一致するように形成される。
比S12:S22は、これに限ることはなく、第二の金属層22の第二のビード部D22の面積W22が第一の金属層21の第二のビード部D21の面積S21よりも小さく、かつ、第二の金属層22の第一のビード部D12の面積S12が第一の金属層21の第一のビード部D11の面積S11よりも大きければよい。
【0036】
図9に示すように、積層順序の第三番目の金属層形成工程P4により第三の金属層23Bが形成される。第三の金属層23Bは、第一のビード部D13の面積S13と第二のビード部D23の面積S23との比S13:S23が、S13:S23=10:1となるように形成される。
比W13:W23は、これに限ることはなく、第三の金属層23の第二のビード部D23の面積W23が第二の金属層22の第二のビード部D22の面積S22よりも小さく、かつ、第三の金属層23の第一のビード部D13の面積S13が第二の金属層22の第一のビード部D12の面積S12よりも大きければよい。
【0037】
上記実施形態によれば、第二金属部12側から第一金属部11側に向かうに従って、漸次第一の金属材料Aの量が多くなるように、両者の分布が連続的に変化する傾斜機能部が、碁盤目状に配置される。これにより、平面的な接合強度をより均一にすることができる。
【0038】
なお、異種金属層形成工程P2,P3,P4における第一のビード部D1の配置方法は、第一のビード部D1が、平面的に均等に配置されていれば、碁盤目状に限ることはない。例えば、第一のビード部D1が千鳥状に配置されてもよい。
【0039】
以上、本発明の実施形態について詳細を説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内において、種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、第一の金属材料をアルミニウムとし、第二の金属材料を鉄としたが、これに限ることはなく、例えば、異種金属間の溶接に適した二種類の金属を用いてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 異種金属積層構造
10 異種金属接合体
11 第一金属部
12 第二金属部
21 第一の金属層(異種金属層)
22 第二の金属層(異種金属層)
23 第三の金属層(異種金属層)
30 LMD装置
A 第一の金属材料
B 第二の金属材料
C1,C2 ビード帯
D1,D2 ビード部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9