(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
太陽電池セル、前記太陽電池セルと電気的に接続された配線材、前記太陽電池セルを覆う封止材、前記太陽電池セルの受光面側に設けられた受光面保護材、および前記太陽電池セルの裏面側に設けられた裏面保護材を備える太陽電池モジュールであって、
前記太陽電池セルは、光電変換部、および前記光電変換部の裏面に設けられた裏面金属電極、を備え、
前記裏面保護材は、金属箔を含まず、
前記裏面金属電極は主導電層、および裏面側の最表面層としての導電性保護層を有し、
前記導電性保護層は、前記主導電層とは異なる材料からなり、銀、チタン、錫またはクロムを主成分とする金属層であり、
前記封止材は、前記太陽電池セルと前記受光面保護材との間に設けられた受光面封止材、および前記太陽電池セルと前記裏面保護材との間に設けられた裏面封止材を有し、
前記裏面金属電極の前記導電性保護層と前記裏面封止材とが接しており、前記裏面金属電極の前記裏面封止材と接する面の算術平均粗さが0.1μm未満であり、前記裏面封止材は架橋オレフィン樹脂を有する、太陽電池モジュール。
前記光電変換部は、単結晶シリコン基板の受光面側に第一導電型シリコン系薄膜および受光面側透明導電層を有し、前記単結晶シリコン基板の裏面側に第二導電型シリコン系薄膜および裏面側透明導電層を有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に模式的に示すように、モジュール100は、複数のセル101、セルを電気的に接続する配線材204、セルの受光面および裏面を覆う封止材201および202、受光面側に設けられた受光面保護材200、ならびに裏面側に設けられた裏面保護材203を備える。
【0019】
セル101は、光電変換部50の裏面に裏面金属電極を備える。
図1に示す形態では、光電変換部50の受光面に受光面電極7が設けられている。光電変換部の裏面側にp型半導体層およびn型半導体層が設けられたバックコンタクト型のセルでは、光電変換部の受光面には電極が設けられておらず、裏面にのみ電極が設けられている。
【0020】
<セルの構成>
セル101の構成は特に限定されず、結晶シリコン太陽電池や、GaAs等のシリコン以外の半導体基板を用いた太陽電池、非晶質シリコン系薄膜や結晶質シリコン系薄膜のpin接合あるいはpn接合上に透明電極層が形成されたシリコン系薄膜太陽電池、CIS,CIGS等の化合物半導体太陽電池、色素増感太陽電池や導電性ポリマー等を用いた有機薄膜太陽電池等の各種の太陽電池に適用可能である。
【0021】
図2は、セルの一形態を表す模式的断面図である。
図2に示すセル101は、いわゆるヘテロ接合セルであり、単結晶シリコン基板1の受光面側に、真性シリコン系薄膜21、第一導電型シリコン系薄膜31および受光面透明導電層61をこの順に備え、単結晶シリコン基板1の裏面側に、真性シリコン系薄膜22、第二導電型シリコン系薄膜32および裏面側透明導電層62をこの順に備える。第一導電型シリコン系薄膜31と第二導電型シリコン系薄膜32は異なる導電型を有し、一方がp型、他方がn型である。
【0022】
真性シリコン系薄膜21,22および導電型シリコン系薄膜31,32としては、非晶質シリコン薄膜、微結晶シリコン薄膜(非晶質シリコンと結晶質シリコンとを含む薄膜)等が用いられ、中でも非晶質シリコン薄膜が好ましい。これらのシリコン系薄膜は、例えばプラズマCVD法により形成できる。導電型シリコン系薄膜31,32形成時のp型およびn型のドーパントガスとしては、B
2H
6およびPH
3が好ましく用いられる。
【0023】
透明導電層61,62としては、例えば酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタン、およびそれらの複合酸化物等からなる透明導電性金属酸化物が用いられる。中でも、酸化インジウムを主成分とするインジウム系複合酸化物が好ましく、酸化インジウム錫(ITO)を主成分とするものがより好ましい。なお、「主成分」とは、含有量が51重量%以上であることを意味し、好ましくは、含有量が80重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
【0024】
(裏面金属電極)
光電変換部50の裏面(
図2では裏面側透明導電層62上)には、裏面金属電極8が設けられる。裏面金属電極8の表面の算術平均粗さRaは、0.1μm未満である。裏面金属電極のRaが小さく平滑であれば、配線材204との接触面積が大きいため、モジュールの接触抵抗を低減できる。また、裏面金属電極8が平滑であれば、裏面金属電極と配線材204とをはんだにより接続した際の密着性が高くなる傾向がある。そのため、温度変化の大きい環境に置かれた際も配線材の剥離が生じ難く、耐久性の高いモジュールが得られる。
【0025】
裏面金属電極8は単層でもよく複数層が積層されていてもよい。
図2では、下地電極層81上に主導電層821および導電性保護層822からなるめっき電極層82を有する裏面金属電極8が、光電変換部50の裏面の全面に設けられた形態が図示されている。
【0026】
裏面金属電極を光電変換部の裏面側の全面に形成する場合、セルへの水分の浸入防止が期待できる。なお、短絡除去等の目的でセルの周縁等の一部に裏面金属電極が設けられていない領域が存在してもよく、光電変換部の裏面側表面の面積の概ね90%以上の領域に裏面金属電極が設けられていれば、全面に形成されているとみなしてよい。水分の浸入を確実に防止できる点から、裏面電極の形成面積は光電変換部の95%以上が好ましく、100%が特に好ましい。
【0027】
裏面金属電極は、パターン状に形成されていてよい。モジュールの裏面保護材203として透光性の材料を用いる場合、裏面金属電極がグリッド状等のパターン状に形成されていれば、セルの裏面側からも光を取り込むことができる。裏面金属電極のパターンとしては、バスバー電極、およびバスバー電極に直交するフィンガー電極からなるグリッド状のパターンが好ましい。裏面金属電極のフィンガー本数は、裏面金属電極および裏面側透明導電層中を電流が流れる際の直列抵抗を抑える観点で設計することが好ましい。結果として、裏面金属電極のフィンガー本数は、受光面電極のフィンガー本数の2倍程度から3倍程度が好ましい。
【0028】
裏面金属電極の形成方法としては、例えば、スパッタ法等の物理気相堆積(PVD)法や、化学気相堆積(CVD)法、めっき法等が挙げられる。裏面金属電極が複数層からなる場合、異なる製膜方法により各層を製膜してもよい。
図2に示すように、裏面金属電極8が下地電極層81、主導電層821、および導電性保護層822を有する場合、下地電極層はスパッタ法や無電解めっきにより形成されることが好ましく、主導電層および導電性保護層は電解めっきにより形成されることが好ましい。
【0029】
下地電極層81は、電解めっきによりめっき電極層82を形成する際の導電性下地層であり、導電性や化学的安定性が高い材料を用いることが望ましい。このような材料としては、銀、金、アルミニウム等が挙げられる。下地電極層の形成方法は特に限定されないが、表面が平滑となるように形成することが好ましい。下地電極層の表面が平滑であれば、その上に形成されるめっき電極層82も平滑となるため、Raが0.1μm未満の裏面金属電極を形成できる。
【0030】
下地電極層は、銀ペースト等の導電性ペーストにより形成することもできるが、導電性ペースト中には金属粒子が含まれているため、表面に凹凸が形成されやすくなる。下地電極層の表面凹凸を小さくする観点から、上述のように下地電極層はスパッタ法や無電解めっき法により形成されることが好ましく、スパッタ法が特に好ましい。裏面側透明導電層をスパッタ法により形成する場合、裏面側透明導電層62と下地電極層81とを連続して製膜してもよい。
【0031】
めっき電極層82の材料としては、コスト抑制の観点から、アルミニウム、銅等好ましく、導電率の観点から銅がより好ましい。めっき電極層82として、銅等からなる主導電層821上に、最表面層としての導電性保護層822を設けることにより、主導電層821の銅の酸化や、封止材への銅の拡散等を抑制できる。主導電層を構成する金属の酸化や封止材への拡散を確実に防止する観点から、導電性保護層は主導電層を覆うように設けられることが好ましい。
【0032】
導電性保護層822の材料としては、主導電層よりも化学的安定性の高い材料が好ましい。例えば、主導電層が銅である場合、導電性保護層の金属材料としては、錫や銀等が好ましく、中でも錫を主成分とするものが好ましい。錫を主成分とする材料としては、錫単体の他、Sn‐Ag‐Cu系合金やSn‐Cu系合金、Sn‐Bi系合金等合金層が挙げられる。
【0033】
主導電層としての銅の上に導電性保護層として錫を形成すると、両者の界面近傍(例えば界面から3μm以内の領域)に、合金層が形成される場合がある。主導電層と導電性保護層との界面近傍に合金層が形成されると、主導電層に対する化学的な保護性が高められる傾向がある反面、合金層の部分に欠陥が生じ、水分の浸入経路となる場合がある。本発明においては、後述のように裏面封止材として架橋オレフィン樹脂を用いることにより、合金層が形成された場合でも水分の浸入が抑制され、信頼性に優れるモジュールが得られる。
【0034】
めっき電極層82の主導電層821として、電解めっきにより銅層を形成する場合、めっき液としては、例えば酸性銅めっき液が使用可能である。これに10mA/cm
2〜500mA/cm
2程度の電流を流すことにより、下地電極層上に銅めっき層を析出させることができる。適切なめっき時間は、電極の面積、電流、陰極電流効率、厚み等に応じて適宜設定される。電流密度を変更することにより、金属析出のレート、または膜質(表面凹凸)を調整できる。電流密度の増大に伴って、金属の析出レートが大きくなり、表面に凹凸が形成されやすくなる傾向がある。Raが小さく低抵抗の裏面金属電極を形成する観点から、電流密度は、10mA/cm
2〜100mA/cm
2が好ましい。
【0035】
主導電層821上に導電性保護層822を形成する場合、導電性保護層も電解めっき法により形成することが好ましい。導電性保護層として錫層を電解めっきにより形成する場合、メタンスルホン酸錫等を含むめっき液を用いることが好ましく、これに0.1mA/cm
2〜50mA/cm
2程度の電流を流すことにより、導電性保護層としての錫を析出させることができる。
【0036】
裏面金属電極の厚みは、各層の材料等に応じて適宜設定すればよい。光電変換部の全面に裏面金属電極を形成する場合、裏面金属電極の厚みは、低抵抗化の観点から、例えば1200〜6000nmが好ましい。裏面金属電極8として、下地電極層81上に、めっきにより主導電層821および導電性保護層822を形成する場合、下地電極層は8〜100nm程度、主導電層は200〜1000nm程度、導電性保護層は1000〜5000nm程度とすればよい。
【0037】
電解めっきによりパターン状のめっき電極層を形成する場合、フォトリソグラフィー等のパターニング法を採用すればよい。例えば、全面に金属電極層を形成後、めっき金属電極層上にレジストを設け、電極パターン以外の部分がレジスト開口となるように露光を行った後、金属電極層をエッチング除去することにより、パターン状の裏面金属電極を形成できる。また、光電変換部の裏面の全面にスパッタ法や無電解めっき法により下地電極層81を形成後、その上にレジストを設け、電極パターン部分がレジスト開口となるように露光を行い、開口部に選択的にめっき金属電極を析出させてもよい。めっき電極形成後は、レジストを剥離し、めっき電極間に露出した下地電極層をエッチング除去することが好ましい。
【0038】
(受光面電極)
光電変換部50の受光面(
図2では透明導電層61上)に、パターン状の受光面電極7が形成されてもよい。受光面電極7の電極材料は特に限定されず、金、銀、銅、アルミ等の金属を用いることができ、電気導電率の点から、銀や銅を用いることが好ましい。例えば銅を主成分とする受光面電極の表面には、銅の酸化や封止材への拡散抑制のため、最表面層として受光面導電性保護層を設けることが好ましい。受光面側導電性保護層の材料としては、化学的な安定性が高いことから、銀、チタン、錫、クロム等が好ましい。
【0039】
受光面電極7は、インクジェット法、スクリーン印刷法、導線接着法、スプレー法、真空蒸着法、スパッタ法等により形成できる。生産性の観点から、裏面金属電極8の一部または全部をめっき法により形成する場合、受光面電極7の一部または全部めっき法により形成することが好ましい。裏面金属電極と受光面電極の両方をめっき法により形成する場合、両者に同一の材料を用い、表裏同時にめっきを行うことがより好ましい。例えば、裏面金属電極8のめっき電極層82として、下地電極層81上に、銅を主成分とする主導電層821と錫を主成分とする導電性保護層822を形成する場合、受光面電極7のめっき電極層72として、下地電極層71上に、銅を主成分とする主導電層721、および錫を主成分とする導電性保護層722を形成することが好ましい。
【0040】
受光面電極7の表面粗さの影響は、裏面側に比べると小さい。そのため、受光面電極7の算術平均粗さRaは0.1μm以上でもよく、下地電極層71には、銀ペースト等を用いてもよい。受光面電極7と配線材204との接着性を高め、温度変化に対する耐久性をより高める観点から、受光面電極7のRaは0.1μm未満が好ましい。
【0041】
<太陽電池モジュール>
セルのモジュール化においては、複数のセルが直列または並列に接続された太陽電池ストリングが作製される。受光面電極7や裏面金属電極8に配線材204を接続することにより隣接するセル同士の接続が行われる。太陽電池ストリングの受光面および裏面に接するように受光面封止材201および裏面封止材202を配置し、その外側に受光面保護材200および裏面保護材203を配置して、押圧等を行うことにより、隣接するセル間の隙間や、モジュールの端部にも封止材が流動して封止が行われる。
【0042】
配線材204は、セル間あるいはセルと外部回路を接続するための、導電性の板状部材であり、屈曲性を有している。配線材の材料としては、一般的には銅が用いられている。銅等の芯材の表面が被覆材により被覆されていてもよい。セルの電極との接合を容易とする観点から、配線材の表面がはんだで被覆されていてもよい。配線材とセルの接続は、導電性微粒子を含有する樹脂製接着剤で接着する方法や、はんだ付けにより行われる。表面粗さの小さい電極と配線材とをはんだにより接続すると、接着性が高く、接触抵抗が小さくなる傾向がある。
【0043】
(保護材)
セルの受光面側に配置される受光面保護材200としては、ガラス基板(青板ガラス基板や白板ガラス基板)、ポリフッ化ビニルフィルム(例えば、テドラーフィルム(登録商標))等のフッ素樹脂フィルムやポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の樹脂フィルムが例示される。強度、光線透過率、および水分遮断性等の観点から、ガラス基板が好ましく、特に白板ガラス基板が好ましい。
【0044】
受光面保護材200にガラス等の剛性部材が用いられる場合、封止の容易性等の観点から、裏面保護材203としては可撓性のフィルム材料(バックシート)が用いられる。樹脂フィルムはガラス等に比べると水分の透過性が高いため、従来はアルミニウム等の金属箔を樹脂層で挟持したバックシートが広く用いられていた。一方、金属箔を含むバックシートは絶縁不良等の不具合の原因となりやすい。
【0045】
本発明のモジュールでは、金属箔を含まない裏面保護材203が用いられるため、裏面保護材に起因する短絡等を防止できる。裏面保護材としては、ポリフッ化ビニルフィルム(例えば、テドラーフィルム(登録商標))等のフッ素樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等が用いられる。裏面保護材は単層でもよく、複数のフィルム等を積層した構造でもよい。製造コストを低減する観点からは、PET等の単層フィルムを用いることがより好ましい。
【0046】
(封止材)
セル101の裏面側に接して設けられる裏面封止材202は、架橋オレフィン樹脂を有する。「架橋性オレフィン樹脂」とは、加熱により架橋可能であり、架橋硬化後、80℃〜150℃で保持した際に、軟化することなく形状を保持するものであり、「架橋性オレフィン樹脂」を架橋硬化したものが「架橋オレフィン樹脂」である。なお、オレフィン系TPV等の80℃以上で流動する「動的架橋型オレフィン系熱可塑性エラストマー」は、架橋性オレフィン樹脂には含まれない。
【0047】
オレフィン樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)エチレン・α‐オレフィン共重合体等の鎖状ポリオレフィンや、単環状オレフィンポリマー、ノルボルネン系ポリマー等の環状ポリオレフィンが挙げられる。架橋性オレフィン樹脂組成物としては、これらオレフィン樹脂を主成分とし、有機過酸化物等の熱ラジカル発生剤や熱架橋剤を含有する熱架橋性オレフィン樹脂組成物が好ましい。
【0048】
架橋オレフィン樹脂の架橋状態(硬化状態)はゲル分率により確認できる。ゲル分率は、硬化後のオレフィン樹脂を120℃のキシレンに24時間浸漬後の不溶分の質量分率である。硬化後の架橋オレフィン樹脂のゲル分率は、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。ゲル分率が上記範囲を満たすことにより、信頼性向上が期待できる。
【0049】
硬化後の裏面封止材202の水蒸気透過率は、3.0[g/m
2/day]以下が好ましく、2.6[g/m
2/day]以下がより好ましく、1.5[g/m
2/day]以下がさらに好ましい。水蒸気透過率の小さい裏面封止材を用いることにより、セルへの水分の浸入をより防止でき、モジュールの長期信頼性を向上できる。
【0050】
前述のように、本発明ではセルの裏面金属電極8の表面が平滑であるため、裏面金属電極8と配線材402との接着性が高められる。グリッド状電極のフィンガー電極部分のように、配線材と接続されない領域では、裏面金属電極8と裏面封止材202とが接している。裏面金属電極8の表面が平滑でありRaが小さい場合は、裏面金属電極8と裏面封止材202との密着性が低下し、裏面金属電極と裏面封止材との間に水分が浸入しやすくなる傾向がある。特に、裏面保護材203として金属箔を含まない樹脂シートが用いられる場合に、その傾向が顕著となる。また、前述のように、裏面金属電極の主導電層と導電性保護層との界面近傍に合金層が形成されると、合金層の欠陥部分を介して水分が浸入する場合がある。
【0051】
封止材として一般に用いられているEVAは、水分との接触により酢酸が遊離しやすい。遊離酸は裏面金属電極を腐食させる原因となるため、Raの小さい裏面金属電極に接してEVA封止材が配置されたモジュールは、長期信頼試験(特に耐湿試験)において変換特性の低下を生じる。また、非架橋オレフィンを用いた場合は、80℃以上の高温で樹脂が軟化しやすく、裏面金属電極との密着性がさらに低下して、水分が浸入しやすくなる傾向がある。
【0052】
これに対して、裏面封止材として架橋オレフィンを用いることにより、高温環境でも封止材が流動し難く、裏面封止材と裏面金属電極との接着強度が維持される(むしろ接着強度が向上する傾向がある)ため、セルへの水分浸入を抑制できる。そのため、本発明によれば、裏面保護材が金属箔を含まないにも関わらず、耐湿性に優れるモジュールが得られる。
【0053】
上記の様に、本発明のモジュールは、裏面金属電極の表面が平滑であるため、裏面金属電極と配線材との接触抵抗が小さく、モジュールの出力を向上できる。また、温度変化が生じた場合でも、裏面金属電極と配線材との剥離が生じ難く耐久性に優れる。表面が平滑な裏面金属電極と架橋オレフィン封止材との組み合わせにより、水分の浸入が抑制され、耐湿性が高められる。このように、本発明によれば、接触抵抗低減による変換効率の向上と、長期耐久性の向上とを両立したモジュールが得られる。
【0054】
水分の浸入を防止し、長期信頼性を向上する観点から、裏面封止材と裏面金属電極との85℃における接着強度は、15N/cm以上が好ましく、20N/cm以上がより好ましく、30N/cm以上がさらに好ましい。水分の浸入防止の観点から、接着強度は高いほど好ましく、上限は特に制限されない。一般には、裏面封止材と裏面金属電極との85℃における接着強度は、200N/cm以下である。
【0055】
非晶質シリコン薄膜等の非晶質半導体層は水分に曝されると劣化しやすいため、ヘテロ接合太陽電池等の非晶質半導体層を含むセルは、長期信頼性が問題となることが多い。これに対して、裏面封止材として架橋オレフィン樹脂を用いることにより、金属箔を有さない裏面保護材を用いた場合であっても、セルへの水分の浸入を抑制し、長期信頼性を向上できる。
【0056】
裏面金属電極の主導電層と導電性保護層との間に合金層が形成されている場合でも、裏面封止材として架橋オレフィン樹脂を用いることにより、セルへの水分の浸入を抑制し、長期信頼性を向上できる。そのため、裏面金属電極の導電性保護層に接する裏面封止材として架橋オレフィン樹脂を用いれば、導電性保護層により、主導電層の酸化等による劣化や、主導電層の金属成分の拡散を抑制しつつ、セルへの水分の浸入を抑制できるため、信頼性に優れるモジュールが得られる。
【0057】
受光面封止材の材料は特に限定されないが、オレフィン樹脂を用いることが好ましい。オレフィン樹脂は架橋性でも非架橋性でもよい。裏面封止材と同様に架橋性オレフィンを用いることにより、モジュールの耐久性がさらに向上する傾向がある。
【実施例】
【0058】
[実施例1]
(ヘテロ接合太陽電池の作製)
表裏にテクスチャが形成された厚みが200μmのn型単結晶シリコンウェハをCVD装置へ導入し、プラズマCVDにより、受光面にi型非晶質シリコンを5nmの膜厚で製膜し、その上にp型非晶質シリコンを7nmの膜厚で製膜した。次に、ウェハの裏面側に、i型非晶質シリコンを6nmの膜厚で製膜し、その上にn型非晶質シリコンを4nmの膜厚で製膜した。p型非晶質シリコン層およびn型非晶質シリコン層上のそれぞれに透明導電層として酸化インジウム錫(ITO)を100nmの膜厚で製膜した。以上のようにして、ヘテロ接合太陽電池の光電変換部を作製した。
【0059】
裏面側透明導電層上の全面に、下地電極層として、スパッタ法により銀が100nmの膜厚で形成された。受光面側透明導電層上に、フィンガー電極とバスバー電極からなるグリッド状のパターンにAgペーストをスクリーン印刷した。プラズマCVDにより受光面の全面に酸化シリコン層を100nmの膜厚で形成した後、180℃でアニールを行い、Agペースト印刷領域の絶縁層に電解めっきの起点となる開口を形成した(WO2013/077038の実施例参照)。
【0060】
受光面の絶縁層に開口が形成された基板を、電解銅めっき浴に投入した。めっき液は、硫酸銅五水和物、硫酸、および塩化ナトリウムが、それぞれ120g/l、130g/l、および70mg/lの濃度となるように調製し、添加剤(上村工業製:品番ESY−2B、ESY−H、ESY−1A)を添加したものを用いた。温度25℃、電流700mA、時間7分の条件でめっきが行われた。受光面のAgペースト印刷領域の絶縁層の開口部上、および裏面の下地層上のそれぞれに、10μm程度の厚みで銅が均一に析出した。
【0061】
その後、基板を錫めっき浴に投入した。めっき液は、錫濃度30g/l、全遊離酸濃度1.0mol/lとなるようにメタンスルホン酸錫、メタンスルホン酸および添加剤の濃度を調整したものを用いた。温度40℃、電流100mA、時間2分の条件でめっきが行われ、表裏の銅めっき電極上のそれぞれに、3μm程度の厚みで錫が均一に析出した。
【0062】
その後、レーザー加工機によりセル外周部のシリコンウェハが0.5mmの幅で除去された。
【0063】
(モジュール化)
得られたヘテロ接合太陽電池の受光面電極のバスバー上、および裏面金属電極上に、配線材として受光面側に高さ40μmの凹凸が形成された幅1.5mmの光拡散タブ線をはんだ付けして、複数のセルが直列接続された太陽電池ストリングを作製した。
【0064】
受光面保護材として白板ガラス、受光面封止材および裏面封止材として熱架橋性ポリオレフィン樹脂フィルム、裏面保護材として30μmの厚みを有するPETの単層フィルムを用い、受光面保護材、受光面封止材、太陽電池ストリング、裏面封止材、および裏面保護材の順に載置して積層した。熱架橋性ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレンを主成分とするオレフィン樹脂を主原料とし、有機過酸化物系の熱重合開始剤を含有する組成物を用いた。
【0065】
上記の積層体を、熱板温度150℃の真空ラミネータに投入し、5分間加熱圧着を行い、封止樹脂で太陽電池をモールドした後、大気圧下150℃にて50分保持して熱架橋性ポリオレフィン樹脂を架橋硬化させてモジュールを得た。
【0066】
同様の条件で熱架橋を行った熱架橋ポリオレフィン樹脂フィルムは、加熱硬化後は、150℃に再度加熱しても軟化することなく形状を保持していた。加熱硬化後の樹脂フィルムを120℃のキシレンに24時間浸漬後、80メッシュの金網でろ過した不溶分を80℃で16時間乾燥させて、不溶分の質量を測定した。不溶分の質量をキシレン浸漬前の樹脂の質量で除して算出したゲル分率は98%であった。
【0067】
[実施例2]
(ヘテロ接合太陽電池の作製)
実施例1と同様に光電変換部を作製後、裏面側透明導電層上の全面に、下地電極層として、スパッタ法により銅が100nmの膜厚で形成された。その上に、レジストの塗布および露光を行い、フィンガー電極とバスバー電極からなるグリッド状パターンのレジスト開口を形成した。受光面側には実施例1と同様に、Agペーストをスクリーン印刷し、酸化シリコン層を形成後にアニールを行い、酸化シリコン層に電解めっきの起点となる開口を形成した。
【0068】
上記の基板を電解銅めっき浴に投入し、実施例1と同様に電解めっきを行い、受光面および裏面のそれぞれに厚み約10μmのめっき銅電極を析出させた。実施例2では、銅めっき電極上への錫めっきは実施しなかった。銅めっき後にレジストを剥離し、裏面の銅めっき電極間に露出した下地電極層をエッチングにより除去した。
【0069】
(モジュール化)
得られたヘテロ接合太陽電池の受光面電極のバスバー上、および裏面金属電極のバスバー上に、配線材をはんだ付けして、複数のセルが直列接続された太陽電池ストリングを作製した。その後、実施例1と同様に、受光面封止材および裏面封止材として熱架橋性ポリオレフィンフィルムを用いて封止を行い、モジュールを得た。
【0070】
[実施例3]
受光面封止材にポリエチレンを主成分とする非架橋性の熱可塑性ポリオレフィン樹脂フィルムを用いた点を除いて、実施例1と同様にしてモジュールを作製した。
【0071】
[比較例1]
受光面封止材および裏面封止材として、ポリエチレンを主成分とする非架橋性の熱可塑性ポリオレフィン樹脂フィルム用い、実施例1と同様にして太陽電池モジュールを作製した。封止の際、熱板温度150℃の真空ラミネータで15分加熱圧着を行い、その後の熱架橋処理は実施しなかった。
【0072】
同様の条件で加熱を行った非架橋オレフィン樹脂フィルムは、150℃に再度加熱すると軟化した。樹脂フィルムのゲル分率は17%であった。
【0073】
[比較例2]
(ヘテロ接合太陽電池の作製)
実施例1と同様に光電変換部を作製後、受光面側透明導電層上および裏面側透明導電層上のそれぞれに、Agペーストをスクリーン印刷し、酸化シリコン層を形成後にアニールを行い、酸化シリコン層に電解めっきの起点となる開口を形成した。その後、実施例1と同様に、銅めっきおよび錫めっきを実施し、受光面および裏面の両面にグリッド状の金属電極を形成した。
【0074】
(モジュール化)
実施例2と同様に、隣接する太陽電池セルの受光面と裏面のバスバーを配線材により電気的にして太陽電池ストリングを作製した。比較例1と同様に、受光面封止材および裏面封止材として熱架橋性ポリオレフィンフィルムを用いて封止を行い、太陽電池モジュールを得た。
【0075】
[比較例3]
比較例2と同様にヘテロ接合太陽電池を作製した。その後、比較例1と同様に、受光面封止材および裏面封止材として、ポリエチレンを主成分とする非架橋性の熱可塑性ポリオレフィン樹脂フィルムを用いて封止を行い、モジュールを得た。
【0076】
[評価]
(裏面金属電極の表面粗さ)
配線材を接続前の裏面金属電極の表面を共焦点顕微鏡(Lasertec製 H1200)により観察し、JIS B 0601:2001(ISO 4287:1997に対応)に基づいて、算術平均粗さRaを求めた。
【0077】
(裏面金属電極と配線材の接触抵抗)
配線材を接続前の裏面金属電極の隣接する2本のバスバー上にプローブピンを接触させ、2点間の抵抗R
0を測定した。配線材を接続後に、上記2点と同じ位置の配線材上にプローブピンを接触させ、2点間の抵抗R
1を測定した。裏面の全面に金属電極が形成された実施例1,3および比較例1では、隣接する配線材接続(予定)箇所の2点間で、配線材接続前後の2点間の抵抗R
0およびR
1を測定した。(R
0−R
1)/2を配線材1本あたりの接触抵抗とした。
【0078】
(裏面金属電極と配線材の剥離力)
室温(23℃)にて、封止前の太陽電池ストリングの配線材をデジタルフォースゲージで90°方向に引っ張って裏面金属電極から剥離させ、剥離力を測定した。
【0079】
(接着強度試験)
実施例および比較例で作製した太陽電池モジュールにつき、裏面金属電極と裏面封止材の接着強度を90°剥離試験にて測定した。モジュール裏面に10mm幅で切り込みを入れて端部を起こし、デジタルフォースゲージで90°方向に引っ張って剥離させて、剥離力を測定した。測定は室温(23℃)および試料を85℃に加熱した状態で実施した。
【0080】
(耐湿性試験)
IEC61215に準じて耐湿性試験を行った。太陽電池モジュールの初期出力を測定後、太陽電池モジュールを、温度85℃、湿度85%以上の恒温恒室槽中に1000時間保持した。その後、太陽電池モジュールの出力を再び測定し、太陽電池モジュールの初期出力に対する1000時間の出力の割合(保持率)を求めた。
【0081】
(温度サイクル試験)
JIS C8917に準じて、温度サイクル試験を実施した。太陽電池モジュールの初期出力を測定後、試験槽に導入し、90℃で10分保持、80℃/分で−40℃まで降温、−40℃で10分間保持、および80℃/分で90℃まで昇温、を1サイクルとして200サイクルを実施した。その後、太陽電池モジュールの出力を再び測定し、太陽電池モジュールの初期出力に対する200サイクル後の出力の割合(保持率)求めた。
【0082】
実施例および比較例の太陽電池モジュールの裏面金属電極の構成および算術平均粗さRa、裏面金属電極と接続部材界面の特性(接触抵抗および剥離力)、封止材に用いた樹脂の種類、裏面金属電極と裏面封止材の剥離力、ならびにモジュール耐久試験結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
実施例1〜3と比較例2とを対比すると、裏面金属電極のRaが大きい比較例2では、Raが小さい実施例1〜3に比べて、裏面電極と封止材との剥離力(接着強度)が大きいことが分かる。一方、実施例1〜3は、比較例2に比べて、裏面電極と配線材との接触抵抗が小さく、剥離強度が大きくなる傾向がみられた。比較例2は、実施例1〜3に比べて温度サイクル試験後の保持率が低下していた。
【0085】
これらの結果から、裏面封止材と接触する面の算術平均粗さRaの小さい裏面金属電極を用いることにより、配線材との接触抵抗が低く、配線材との接着強度が高く温度サイクル耐久性の高い太陽電池モジュールが得られることが分かる。
【0086】
封止材として非架橋性オレフィンを用いた比較例1および比較例3では、室温での裏面電極と封止材との剥離力は、実施例1〜3と同等であった。一方、比較例1,3では、85℃における裏面電極/封止材間の剥離力が大幅に低下していたのに対して、架橋性オレフィンを用いた実施例1〜3では、85℃における剥離力が室温と同等以上であった。比較例1,3のモジュールは耐湿試験後の保持率が大幅に低下していたのに対して、実施例1〜3のモジュールは98%以上の保持率を有していた。
【0087】
実施例2では、受光面封止材として非架橋性オレフィンを用いたが、耐湿試験後の保持率が98%であり、実施例1,3よりわずかに低いものの、両面の封止材に熱架橋性オレフィンを用いた比較例2と同等の保持率を有していた。この結果から、受光面側は保護材としてガラス基板を用いているために、裏面より水分浸入の影響を受け難く、受光面封止材として非架橋性オレフィンを用いた場合でも、耐湿試験後の保持率を高く維持できると考えられる。一方、保護材として金属箔を含まないフィルムを用いたモジュールの裏面側は、水分が浸入しやすいが、封止材として架橋オレフィンを用いることにより、セルへの水分の浸入がブロックされ、高い耐湿性を有すると考えられる。
【0088】
以上のように、裏面金属電極のRaが小さく平滑な場合に、配線材との接触抵抗が低く初期変換特性に優れる太陽電池モジュールが得られる。また、裏面金属電極のRaが小さい場合、裏面金属電極と配線材との密着性が高く、モジュールの温度サイクル耐久性が向上する。一方、裏面金属電極のRaが小さい場合は、常温における裏面金属電極と封止材との接着力は若干低下する傾向がある。裏面封止材として熱架橋オレフィンを用いることにより、水分遮断性が向上するとともに、高温環境においても裏面金属電極と封止材との密着性を維持できる。そのため、裏面金属電極のRaが小さい場合でも、モジュールの耐湿性を高く維持できる。
【0089】
このように、本発明によれば、裏面保護材として金属箔を有さないものを用いた場合でも、初期変換特性および長期信頼性に優れる太陽電池モジュールが得られる。