特許第6757757号(P6757757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6757757高血圧症を発症するリスクを予測するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6757757
(24)【登録日】2020年9月2日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】高血圧症を発症するリスクを予測するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20200910BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20200910BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20200910BHJP
【FI】
   A61K45/00ZMD
   A61P9/12
   G01N33/53 DZNA
【請求項の数】30
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-30232(P2018-30232)
(22)【出願日】2018年2月23日
(62)【分割の表示】特願2015-527668(P2015-527668)の分割
【原出願日】2013年8月16日
(65)【公開番号】特開2018-135330(P2018-135330A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2018年3月20日
(31)【優先権主張番号】61/683,956
(32)【優先日】2012年8月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508317295
【氏名又は名称】クリティカル ケア ダイアグノスティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】スナイダー ジェイムズ ブイ.
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−519235(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/127412(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0250703(US,A1)
【文献】 国際公開第2011/023813(WO,A1)
【文献】 特表2012−505388(JP,A)
【文献】 特表2008−522199(JP,A)
【文献】 特表2005−515407(JP,A)
【文献】 CARLOMAGNO, G. et al.,Eur Heart J,2012年 8月 1日,Vol.33, Suppl.1,p.416, P2506欄
【文献】 RAME, J.E.,J Heart Lung Transplant,2010年,Vol.29, No.2S,p.S45-S46, 121欄
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
G01N 33/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
降圧剤を含む、高血圧を発症するリスクが高いと特定されたが高血圧症を有さない対象における高血圧症の発症のリスクを減少させるための薬剤であって、
前記対象は、第1の時点に由来する第1の生物学的サンプルおよび第2の時点に由来する第2の生物学的サンプルが由来する対象であり、第2の生物学的サンプルが以下の工程を含む工程によって選択される、薬剤
第1の生物学的サンプルにおける可溶性ST2の第1のレベルを決定し、第2の生物学的サンプルにおける可溶性ST2の第2のレベルを決定する工程、
可溶性ST2の第2のレベルを、可溶性ST2の第1のレベルと比較する工程、および
可溶性ST2の第2のレベルが可溶性ST2の第1のレベルと比較して上昇している第2の生物学的サンプルを選択する工程。
【請求項2】
第1の生物学的サンプルが、血液、血清または血漿を含む、請求項1に記載の薬剤
【請求項3】
第2の生物学的サンプルが、血液、血清または血漿を含む、請求項1に記載の薬剤
【請求項4】
可溶性ST2の第1のレベルおよび第2のレベルが可溶性ST2に特異的に結合する抗体を使用して決定される、請求項1に記載の薬剤
【請求項5】
可溶性ST2の第1のレベルおよび第2のレベルが免疫アッセイを使用して決定される、請求項1に記載の薬剤
【請求項6】
免疫アッセイが酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)である、請求項5に記載の薬剤
【請求項7】
第1の生物学的サンプルにおける、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、proANP、N末端(NT)-proANP、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、proBNP、NT-proBNP、心筋トロポニンI、C反応性タンパク質、クレアチニンおよび血液尿素窒素(BUN)からなる群より選択される1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第1のレベルを決定する工程、
第2の生物学的サンプルにおける、該1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第2のレベルを決定する工程、
該1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第2のレベルを、該1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第1のレベルと比較する工程、ならびに
該1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第2のレベルが該1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第1のレベルと比較して上昇している第2の生物学的サンプルをさらに選択する工程
をさらに含む、請求項1に記載の薬剤
【請求項8】
1つまたは複数の追加のバイオマーカーが、BNP、proBNPおよびNT-proBNPからなる群より選択される、請求項7に記載の薬剤
【請求項9】
1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第1のレベルおよび1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第2のレベルが、1つまたは複数の抗体であって、そのそれぞれが該追加のバイオマーカーの1つと特異的に結合する1つまたは複数の抗体を使用して決定される、請求項7に記載の薬剤
【請求項10】
1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第1のレベルおよび1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第2のレベルが免疫アッセイを使用して決定される、請求項7に記載の薬剤
【請求項11】
免疫アッセイが酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)である、請求項10に記載の薬剤
【請求項12】
高血圧を発症するリスクが、3年以内に高血圧を発症するリスクである、請求項1に記載の薬剤
【請求項13】
対象が臨床研究の参加者である、請求項1に記載の薬剤
【請求項14】
降圧剤が、利尿薬、ベータ遮断薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬、アルファ遮断薬、中枢作用薬、血管拡張薬およびレニン阻害薬からなる群より選択される、請求項1に記載の薬剤
【請求項15】
対象がヒトである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の薬剤
【請求項16】
高血圧症を有さない健常な対象において高血圧症を発症するリスクを評価するためのインビトロにおける方法であって、
対象の第1の時点に由来する第1の生物学的サンプルにおける可溶性ST2の第1のレベルを決定する工程、
対象の第2の時点に由来する第2の生物学的サンプルにおける可溶性ST2の第2のレベルを決定する工程、および
可溶性ST2の第2のレベルを、可溶性ST2の第1のレベルと比較する工程
を含み、
可溶性ST2の第2のレベルが可溶性ST2の第1のレベルと比較して上昇している第2の生物学的サンプルが、高血圧症を発症するリスクが増加している対象由来の生物学的サンプルと示され、または可溶性ST2の第2のレベルが可溶性ST2の第1のレベルと比較して低下している第2の生物学的サンプルが、高血圧症を発症するリスクが低下している対象由来の生物学的サンプルと示される、方法。
【請求項17】
高血圧症を発症するリスクが、3年以内に高血圧症を発症するリスクである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
第1の生物学的サンプルが、血液、血清または血漿を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
第2の生物学的サンプルが、血液、血清または血漿を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
生物学的サンプルにおける可溶性ST2の第1のレベルおよび第2のレベルが可溶性ST2に特異的に結合する抗体を使用して決定される、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
生物学的サンプルにおける可溶性ST2の第1のレベルおよび第2のレベルが免疫アッセイを使用して決定される、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
免疫アッセイが酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
第1の生物学的サンプルにおける、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、proANP、N末端(NT)-proANP、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、proBNP、NT-proBNP、心筋トロポニンI、C反応性タンパク質、クレアチニンおよび血液尿素窒素(BUN)からなる群より選択される1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第1のレベルを決定する工程、
第2の生物学的サンプルにおける、該1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第2のレベルを決定する工程、および
該1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第2のレベルを、該1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第1のレベルと比較する工程
をさらに含み、
該1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第2のレベルが該1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第1のレベルと比較して上昇している第2の生物学的サンプルが、高血圧を発症するリスクが増加している対象由来のサンプルとして示される、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
1つまたは複数の追加のバイオマーカーが、BNP、proBNPおよびNT-proBNPからなる群より選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第1のレベルおよび1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第2のレベルが、1つまたは複数の抗体であって、そのそれぞれが該追加のバイオマーカーの1つと特異的に結合する1つまたは複数の抗体を使用して決定される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第1のレベルおよび1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第2のレベルが免疫アッセイを使用して決定される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
免疫アッセイが酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
対象が臨床研究の参加者である、請求項16に記載の方法。
【請求項29】
対象がヒトである、請求項16〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
可溶性ST2に特異的に結合する抗体および請求項16〜29に記載の方法のいずれかを実施するための説明書を含む、請求項16〜29のいずれかに記載の方法において使用するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2012年8月16日に出願された米国仮特許出願番号第61/683,956号の優先権を主張し、その内容の全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、分子生物学および心臓血管内科の分野に関し、高血圧症を発症するリスクを予測するためのバイオマーカー、例えばST2の血清レベルを使用する方法、ならびに高血圧症を発症するリスクを減らすために対象を処置するための方法、ならびに高血圧症のリスクを減らすための処置の臨床トライアルに関して対象を選択および/または層別化するための方法を含む。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
口語的に「高血圧(high blood pressure)」とも称される高血圧症(hypertension)は、収縮期血圧≧140 mmHgおよび拡張期血圧≧90 mmHg(140/90と称される)の存在によって特徴づけられる状態である。120/80〜140/90の間の血圧は、典型的に、高血圧前症とみなされ、120/80を下回る血圧が正常である。米国の成人の間で、高血圧症の処置は、妊娠を除いて、来院および処方箋薬の使用の最も一般的な理由である(Egan et al., JAMA 303(20):2043, 2010(非特許文献1))。高血圧症は、心臓血管疾患の主要なリスク因子であり、心筋梗塞を偶発的に発症した患者のおよそ69%および心不全を偶発的に発症した患者の74%が、その前に高血圧症を有している(Roger et al., Circulation 125:e2-e220, 2012(非特許文献2))。高血圧症の処置および管理は、これらの心臓血管疾患のリスクを減らす(Meredith, Journal of Renin-Angiotensin-Aldosterone System, 7(2):64-73, 2006(非特許文献3))。したがって、高血圧症を発症するリスクがある対象を特定しそのリスクを減らす処置を行うことは、彼ら/彼女らの心臓血管疾患のリスクを減らすであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Egan et al., JAMA 303(20):2043, 2010
【非特許文献2】Roger et al., Circulation 125:e2-e220, 2012
【非特許文献3】Meredith, Journal of Renin-Angiotensin-Aldosterone System, 7(2):64-73, 2006
【発明の概要】
【0005】
概要
本発明は、高血圧症を有していないが可溶性ST2のレベルが上昇している対象は高血圧症を発症するリスクが高いという発見に少なくとも部分的に基づいている。したがって、対象に対する処置を選択するための方法であって、対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを決定する工程、生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを可溶性ST2の参照レベルと比較する工程、および生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルが可溶性ST2の参照レベルと比較して上昇している対象に対して降圧処置(本明細書で、降圧療法とも称される)を選択する工程を含む方法が本明細書に提供される。対象を処置する方法であって、対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを決定する工程、生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを可溶性ST2の参照レベルと比較する工程、および生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルが可溶性ST2の参照レベルと比較して上昇している対象に対して降圧剤を投与する工程を含む方法も提供される。高血圧症を発症するリスクを減らすための処置の臨床研究への参加に関して対象を選択するための方法および対象において高血圧症を発症するリスクを評価する方法であって、対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを決定する工程を含む方法も提供される。本明細書に記載される任意の方法において使用するための可溶性ST2に特異的に結合する抗体を含むキットも提供される。
【0006】
対象において高血圧症を発症するリスクを減らすための処置の効能を決定するための方法であって、第1の時点で対象から得られた生物学的サンプルにおける可溶性ST2の第1のレベルを決定する工程、(2)第2の時点で対象から得られた生物学的サンプルにおける可溶性ST2の第2のレベルを決定する工程であって、第1の時点と第2の時点の間に対象に2つまたはそれ以上(例えば、5つ超、10超または20超)の処置薬(例えば、降圧処置、例えば1つまたは複数の降圧剤)が投与される工程、(3)可溶性ST2の第2のレベルと第1のレベルを比較する工程、ならびに(4)可溶性ST2の第2のレベルが可溶性ST2の第1のレベルと比較して低下した対象に行われた処置を、対象において高血圧症を発症するリスクを減らすのに有効であると特定するか、あるいは可溶性ST2の第2のレベルが可溶性ST2の第1のレベルと比較して実質的に変化しなかったまたは上昇した対象に行われた処置を、対象において高血圧症を発症するリスクを減らすのに有効でないと特定する工程を含む方法も提供される。
【0007】
本明細書に記載される任意の方法において、対象は、高血圧症を有さない健常な対象である。本明細書に記載される任意の方法の他の態様において、対象は、高血圧症を有さずかつ心疾患、心臓血管疾患もしくは腎臓疾患のいずれか1つであると診断されていないかまたは心疾患、心臓血管疾患もしくは腎臓疾患のいずれか1つの2つもしくはそれ以上の症状が表れていない健常な対象である。
【0008】
本明細書に記載される任意の方法において、可溶性ST2または1つもしくは複数の追加マーカーの参照値は、高血圧症を有さず、かつ高血圧症を発症するリスクがないまたはそのリスクが低い対照対象(例えば、健常な対象)における可溶性ST2または1つもしくは複数の追加マーカーのレベルである。
【0009】
本明細書に記載される任意の方法を用いて高血圧症を発症するリスクが増加していると特定された対象を処置するための、高血圧を下げるための薬剤(例えば、本明細書に記載される高血圧を下げるための例示的な薬剤のいずれか)の使用も提供される。
【0010】
高血圧症という用語は、異常な上昇した血圧(すなわち、収縮期血圧≧140 mmHg、拡張期血圧≧90 mmHg)によって特徴づけられる医学的状態を意味する。
【0011】
「可溶性ST2」という用語は、NCBIアクセッション番号NP_003847.2(SEQ ID NO:1)と少なくとも90%同一(例えば、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%同一)の配列を含むかもしくはSEQ ID NO:1のアミノ酸19〜328と少なくとも90%同一(例えば、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%同一)の配列を含む可溶性タンパク質、またはNCBIアクセッション番号NM_003856.2と少なくとも90%同一(例えば、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%同一)の配列を含むかもしくはNCBIアクセッション番号NM_003856.2のヌクレオチド285〜1214と少なくとも90%同一(例えば、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%同一)の配列を含む核酸配列を意味する。
【0012】
「上昇した」または「上昇」という用語は、参照レベル(例えば、高血圧症を発症するリスクが増加していない対象(もしくは対象集団)におけるヒト可溶性ST2のレベルまたはヒト可溶性ST2の閾値レベル)と比較した、決定または測定されたレベル(例えば、ヒト可溶性ST2タンパク質レベル)の差、例えば統計的に有意または検出可能な増加を意味する。いくつかの態様において、参照は閾値レベルであり、それを上回る任意のレベルが「上昇した」とみなされる。ヒト可溶性ST2のさらなる参照レベルは、本明細書に記載されており、当技術分野で公知である。
【0013】
本明細書で使用される場合、「生物学的サンプル」は、血液、血清、血漿、尿および身体組織の1つまたは複数を含む。通常、生物学的サンプルは、血清、血液または血漿を含むサンプルである。
【0014】
「ヘルスケア施設」という用語は、対象がヘルスケア専門家(例えば、看護師、医師または医師助手)から医療的ケアまたは処置を受けることができる場所を意味する。ヘルスケア施設の非限定的な例は、病院、クリニック、手術センターおよび介助施設(例えば、介護ホーム)を含む。
【0015】
「参照レベル」という用語は、閾値レベルまたは対照対象もしくは対照患者集団のレベルを意味する。参照レベルは実施されるアッセイに依存し、当業者によって決定され得る。参照レベルは、ベースラインレベルまたはより早い時点で測定された同一患者のレベルであり得る。いくつかの態様において、参照レベルは、高血圧症を発症するリスクが増加していない対照対象または対照対象集団における可溶性ST2のレベルである。いくつかの態様において、参照レベルは、健常な対象における可溶性ST2のレベルである。可溶性ST2の参照レベルのさらなる例およびそれを決定する方法は、当技術分野で公知であり、本明細書に記載されている。
【0016】
いくつかの態様において、対象における2つの可溶性ST2レベルの比率が、参照比率(例えば、対照対象、例えば、本明細書に記載される対照対象のいずれかまたはより早い時点の同一対象において測定された可溶性ST2レベルの比率)と比較される。可溶性ST2の参照比率のさらなる例は、当技術分野で公知であり、本明細書に記載されている。
【0017】
本明細書で使用される場合、「対象」は、哺乳動物、例えばヒトである。すべての態様において、ヒト核酸、ヒトポリペプチドおよびヒト対象が使用され得る。
【0018】
「健常な対象」という用語は、疾患(例えば、心疾患)を有さない対象を意味する。例えば、健常な対象は、疾患を有していると診断されておらず、かつ疾患状態の2つまたはそれ以上(例えば、2つ、3つ、4つまたは5つ)の症状が表れていない。
【0019】
いくつかの態様において、健常な対象は、高血圧症を有さない。
【0020】
「疾患状態」という用語は、生存能力の異常な低下および/または対象の身体の1つもしくは複数(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つもしくは5つ)の組織の生物学的活性の異常な低下/機能不全のいずれかを示す、対象における1つまたは複数(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つまたは5つ)の症状の発現を意味する。対象における疾患状態の非限定的な例は、心疾患(例えば、不整脈、心不全、心臓発作、冠動脈疾患、心臓血管疾患、急性冠症候群および狭心症)、炎症、卒中、腎不全、肥満症、高コレステロールならびに脂質異常症を含む。
【0021】
「疾患状態に関連する身体的症状」という語句は、特定の疾患状態を有する対象によって発現される1つまたは複数(例えば、少なくとも2つ、3つまたは4つ)の症状を意味する。いくつかの疾患状態に関連する身体的症状は、保健医療専門家(例えば、医師)により当技術分野で公知となっている。心疾患(例えば、不整脈、心不全、冠動脈疾患、心臓血管疾患、急性冠症候群および狭心症)に関連する身体的症状の非限定的な例は、息切れ、心臓の動悸、心拍数増加、衰弱、めまい、悪心、発汗、胸の不快感または圧迫感、胸の痛み、腕の痛み、膨満感、消化不良、発汗、喘鳴、睡眠時無呼吸および不安感を含む。
【0022】
別様に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。本発明における使用のために、材料および方法が本明細書に記載されているが、当技術分野で公知のその他の適切な方法および材料も使用され得る。材料、方法および実施例は、例示にすぎず、限定を意図したものではない。本明細書で言及されているすべての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースのエントリーおよびその他の参考資料は、それらの全体が参照により組み入れられる。矛盾が生じる場合は、定義を含めて本明細書が優先される。
【0023】
[本発明1001]
高血圧症を有さない健常な対象に対する処置を選択するための方法であって、
対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを決定する工程、
該生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを可溶性ST2の参照レベルと比較する工程、および
該生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルが可溶性ST2の参照レベルと比較して上昇している対象に対して降圧療法を選択する工程
を含む、方法。
[本発明1002]
可溶性ST2の参照レベルが、高血圧症を発症するリスクが低い健常な対象における可溶性ST2のレベルである、本発明1001の方法。
[本発明1003]
生物学的サンプルが、血液、血清または血漿を含む、本発明1001の方法。
[本発明1004]
生物学的サンプルにおける、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、proANP、N末端(NT)-proANP、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、proBNP、NT-proBNP、心筋トロポニンI、C反応性タンパク質、クレアチニンおよび血液尿素窒素(BUN)からなる群より選択される1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルを決定する工程、
該生物学的サンプルにおける該1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルを該1つまたは複数の追加のバイオマーカーの参照レベルと比較する工程、ならびに
該生物学的サンプルにおける該1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルが該1つまたは複数の追加のバイオマーカーの参照レベルと比較して上昇している対象に対して降圧療法を選択する工程
をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1005]
1つまたは複数の追加のバイオマーカーが、BNP、proBNPおよびNT-proBNPからなる群より選択される、本発明1004の方法。
[本発明1006]
高血圧症を有さない健常な対象を処置する方法であって、
対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを決定する工程、
該生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを可溶性ST2の参照レベルと比較する工程、および
該生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルが可溶性ST2の参照レベルと比較して上昇している対象に対して降圧療法を行うか、または該生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルが可溶性ST2の参照レベルと比較して低下しており低い対象をモニタリングする工程
を含む、方法。
[本発明1007]
可溶性ST2の参照レベルが、高血圧症を発症するリスクが低い健常な対象における可溶性ST2のレベルである、本発明1006の方法。
[本発明1008]
生物学的サンプルが、血液、血清または血漿を含む、本発明1006の方法。
[本発明1009]
生物学的サンプルにおける、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、proANP、N末端(NT)-proANP、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、proBNP、NT-proBNP、心筋トロポニンI、C反応性タンパク質、クレアチニンおよび血液尿素窒素(BUN)からなる群より選択される1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルを決定する工程、
該生物学的サンプルにおける該1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルを該1つまたは複数の追加のバイオマーカーの参照レベルと比較する工程、ならびに
該生物学的サンプルにおける該1つもしくは複数の追加のバイオマーカーのレベルが該1つもしくは複数の追加のバイオマーカーの参照レベルと比較して上昇している対象に対して降圧療法を行うか、または該生物学的サンプルにおける該1つもしくは複数の追加のバイオマーカーのレベルが該1つもしくは複数の追加のバイオマーカーの参照レベルと比較して低下しており低い対象をモニタリングする工程
をさらに含む、本発明1006の方法。
[本発明1010]
1つまたは複数の追加のバイオマーカーが、BNP、proBNPおよびNT-proBNPからなる群より選択される、本発明1006の方法。
[本発明1011]
高血圧症を発症するリスクを減らすための処置の臨床研究への参加に関して対象を選択するための方法であって、
高血圧症を有さない健常な対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを決定する工程、
該生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを可溶性ST2の参照レベルと比較する工程、および
高血圧症を発症するリスクを減らすための処置の臨床トライアルへの参加に関して、該生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルが可溶性ST2の参照レベルと比較して上昇している対象を選択する工程
を含む、方法。
[本発明1012]
可溶性ST2の参照レベルが、高血圧症を発症するリスクが低い健常な対象における可溶性ST2のレベルである、本発明1011の方法。
[本発明1013]
生物学的サンプルが、血液、血清または血漿を含む、本発明1011の方法。
[本発明1014]
生物学的サンプルにおける、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、proANP、N末端(NT)-proANP、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、proBNP、NT-proBNP、心筋トロポニンI、C反応性タンパク質、クレアチニンおよび血液尿素窒素(BUN)からなる群より選択される1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルを決定する工程、
該生物学的サンプルにおける該1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルを該1つまたは複数の追加のバイオマーカーの参照レベルと比較する工程、ならびに
高血圧症を発症するリスクを減らすための処置の臨床トライアルへの参加に関して、該生物学的サンプルにおける該1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルが該1つまたは複数の追加のバイオマーカーの参照レベルと比較して上昇している対象を選択する工程
をさらに含む、本発明1011の方法。
[本発明1015]
1つまたは複数の追加のバイオマーカーが、BNP、proBNPおよびNT-proBNPからなる群より選択される、本発明1011の方法。
[本発明1016]
高血圧症を有さない健常な対象において高血圧症を発症するリスクを評価するための方法であって、
対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを決定する工程、
該生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを可溶性ST2の参照レベルと比較する工程、および
該生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルが可溶性ST2の参照レベルと比較して上昇している対象を、高血圧症を発症するリスクが増加していると特定するか、または該生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルが可溶性ST2の参照レベルと比較して低下しており低い対象を、高血圧症を発症するリスクが低下していると特定する工程
を含む、方法。
[本発明1017]
可溶性ST2の参照レベルが、高血圧症を発症するリスクが低い健常な対象における可溶性ST2のレベルである、本発明1016の方法。
[本発明1018]
高血圧症を発症するリスクが、3年以内に高血圧症を発症するリスクである、本発明1016の方法。
[本発明1019]
生物学的サンプルが、血液、血清または血漿を含む、本発明1016の方法。
[本発明1020]
生物学的サンプルにおける、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、proANP、N末端(NT)-proANP、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、proBNP、NT-proBNP、心筋トロポニンI、C反応性タンパク質、クレアチニンおよび血液尿素窒素(BUN)からなる群より選択される1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルを決定する工程、
該生物学的サンプルにおける該1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルを該1つまたは複数の追加のバイオマーカーの参照レベルと比較する工程、ならびに
該生物学的サンプルにおける該1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルが該1つまたは複数の追加のバイオマーカーの参照レベルと比較して上昇している対象を、高血圧症を発症するリスクが増加していると特定する工程
をさらに含む、本発明1016の方法。
[本発明1021]
1つまたは複数の追加のバイオマーカーが、BNP、proBNPおよびNT-proBNPからなる群より選択される、本発明1020の方法。
[本発明1022]
対象がヒトである、本発明1001〜1021のいずれかの方法。
[本発明1023]
本発明1001〜1022の方法において使用するための可溶性ST2に特異的に結合する抗体および、任意で、本発明1001〜1022の方法のいずれかを実施するための説明書を含む、キット。
本発明の1つまたは複数の態様の詳細は、添付図面および以下の説明に示されている。本発明の他の特徴、目的および利点も、この説明および図面から、ならびに特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
本発明は、可溶性ST2のレベルが上昇しているまたは可溶性ST2が経時的に増加している対象は高血圧症を発症するリスクが高いという発見に部分的に基づいている。したがって、高血圧症を発症するリスクが増加している対象を特定するための方法が、本明細書に提供される。対象に対する処置を選択するための方法であって、対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを決定する工程、生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを可溶性ST2の参照レベルと比較する工程、および生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルが可溶性ST2の参照レベルと比較して上昇している対象に対して降圧療法(本明細書で、降圧処置とも称される)を選択する工程を含む方法も本明細書に提供される。対象を処置する方法であって、対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを決定する工程、生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを可溶性ST2の参照レベルと比較する工程、および生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルが可溶性ST2の参照レベルと比較して上昇している対象に対して降圧療法を行う工程を含む方法も提供される。高血圧症を発症するリスクを減らすための処置の臨床研究への参加に関して対象を選択するための方法および対象において高血圧症を発症するリスクを評価する方法であって、対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを決定する工程を含む方法も提供される。可溶性ST2に特異的に結合する抗体および本明細書に記載される方法のいずれかを実施するための説明書を含む、キットも提供される。
【0025】
ST2
ST2遺伝子は、そのタンパク質産物が膜貫通形態および血清中で検出可能な可溶性受容体の両方として存在するインターロイキン-1受容体ファミリーのメンバーである(Kieser et al., FEBS Lett. 372(2-3):189-93 (1995); Kumar et al., J. Biol. Chem. 270(46):27905-13 (1995); Yanagisawa et al., FEBS Lett. 302(1):51-3 (1992); Kuroiwa et al., Hybridoma 19(2):151-9 (2000))。ST2は、最近、心不全の実験モデルにおいて顕著に上方制御されることが報告され(Weinberg et al., Circulation 106(23):2961-6 (2002))、これらの予備的結果は、慢性の重度の心不全を有する者において(Weinberg et al., Circulation 107(5):721-6 (2003))および急性の心筋梗塞(MI)を有する対象において(Shimpo et al., Circulation 109(18):2186-90(2004))、ST2濃度が上昇している可能性を示唆している。
【0026】
膜貫通形態のST2は、T-ヘルパー2型細胞の応答を調整する役割を果たしていると考えられており(Lohning et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95(12): 6930-6935 (1998); Schmitz et al., Immunity 23(5):479-90(2005))、かつ重度または慢性的な炎症の状態における寛容の発現において役割を果たし得る(Brint et al., Nat. Immunol. 5(4):373-9 (2004))のに対して、可溶性形態のST2は、成長刺激を受けた線維芽細胞において上方制御される(Yanagisawa et al., 1992, 前記)。実験データは、ST2遺伝子が、BNP遺伝子の誘導(Bruneau et al., Cardiovasc. Res. 28(10):1519-25 (1994))に類似する方法で、筋細胞の伸長の状態において顕著に上方制御される(Weinberg et al., 2002, 前記)ことを示唆している。
【0027】
Tominaga, FEBS Lett. 258:301-304 (1989)は、BALB/c-3T3細胞において成長刺激により特異的に発現されたマウス遺伝子を単離し;彼らはこれらの遺伝子の1つをSt2と名づけた。このSt2遺伝子は、可溶性の分泌形態であるST2(IL1RL1)およびインターロイキン-1受容体に非常に似た膜貫通受容体形態であるST2Lという2つのタンパク質産物をコードする。HUGO Nomenclature Committeeは、そのクローニングがTominaga et al., Biochim. Biophys. Acta 1171:215-218 (1992)で報告されたST2のヒトホモログを、インターロイキン1受容体様1(Interleukin 1 Receptor-Like 1 (IL1RL1))と呼んだ。これら2つの用語は、本明細書で互換的に使用される。
【0028】
ヒトST2のより短い可溶性アイソフォームのcDNA配列はGenBankアクセッション番号NM_003856.2で見出すことができ(SEQ ID NO:2)、そのポリペプチド配列はGenBankアクセッション番号NP_003847.2(SEQ ID NO:1、以下に示される)にある。ヒトST2のより長い形態のmRNA配列はGenBankアクセッション番号NM_016232.4にあり、そのポリペプチド配列はGenBankアクセッション番号NP_057316.3にある。公開データベースにおいて、GeneID: 9173、MIM ID #601203およびUniGene No. Hs.66で追加情報を入手することができる。通常、本明細書に記載される方法では、可溶性形態のST2ポリペプチドが測定される。可溶性ST2タンパク質の非限定的な例は、SEQ ID NO:1の配列と少なくとも90%同一(例えば、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一)の配列を含むタンパク質を含む。可溶性ST2核酸の非限定的な例は、NCBIアクセッション番号NM_003856.2の配列(SEQ ID NO:2)と少なくとも90%同一(例えば、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%同一)の配列を含む核酸を含む。
【0029】
ヒト可溶性ST2タンパク質(SEQ ID NO:1)
【0030】
可溶性ST2を検出および測定するための方法は、例えば各々の内容全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2003/0124624号、同第2004/0048286号および同第2005/0130136号に記載されるように、当技術分野で公知である。いくつかの態様において、前記方法は、RefSNP ID: rs1041973のヌクレオチド配列の存在を決定することを含む。
【0031】
可溶性ST2ポリペプチドを測定するためのキットも市販されており、例えばMedical & Biological Laboratories Co., Ltd.(MBL International Corp., Woburn, MA)により製造されるST2 ELISA Kit、7638番およびPresage(登録商標)ST2 Assay, Critical Care Diagnostics, San Diego, CAがある。加えて、可溶性ST2およびその他のバイオマーカーを測定するための装置が、米国特許公開第2005/0250156号に記載されている。可溶性ST2タンパク質のレベルはまた、American Type Culture Collectionに寄託されPatent Deposit Designation PTA-10432により指定されるハイブリドーマから産生される抗体、ならびに米国特許出願公開第2011/0256635号およびWO2011/127412号(各々参照により本明細書に組み入れられる)に記載される抗体を用いて測定され得る。
【0032】
ST2参照レベル
対象由来の生物学的サンプルにおいて可溶性ST2のレベルが決定された後、そのレベルが参照レベル(例えば、本明細書に記載されるまたは当技術分野で公知の参照レベルのいずれか)と比較され得る。いくつかの態様、例えば可溶性ST2のレベルがELISAを用いて決定されるいくつかの態様において、参照レベルは、それを超えると対象が高血圧症を発症するリスクが増加していると特定されるかまたは高血圧症を予防するもしくはその発症のリスクを減らす処置の臨床研究への参加に関して選択される、閾値レベルを表してもよい。選択される参照レベルは、可溶性ST2のレベルを測定するために使用される手法(例えば、特定の抗体またはELISAキット)に依存し得る。可溶性ST2の参照レベルは、当技術分野で公知であり、当業者によって容易に決定され得る。いくつかの態様において、閾値レベルまたは参照レベルは、対象集団におけるST2の中央レベルであり、その中央レベルを超えるものは高血圧症を発症するリスクが増加している。いくつかの態様において、閾値レベルまたは参照レベルは、集団を分割する、例えばリスクまたはST2レベルによって分割する際のカットオフを表すレベル、例えば上位四分位または上位三分位のカットオフレベルである。
【0033】
可溶性ST2の非限定的な閾値レベルは、特定の患者集団、例えば高血圧症を発症するリスクが増加している対象における可溶性ST2の中央レベルを表し得、いくつかの態様において、対象は、様々な特徴、例えば25未満、25〜29もしくは30超のBMIを有すること、正常もしくは障害のある腎機能を有する対象、心疾患を有さない(例えば、本明細書に記載される心疾患のいずれかと診断されていない)対象、または健常な(例えば、疾患であると診断されていない、疾患を発症するリスクが低い、および疾患の2つまたはそれ以上の症状が表れていない)男性、女性もしくは子供、によって層別化される。例えば、可溶性ST2の閾値は、約1.0〜10 ng/mL、5.0 ng/mL〜10 ng/mL、約10.0 ng/mL〜20.0 ng/mL、約10.0 ng/mL〜15.0 ng/mL、約15.0 ng/mL〜20.0 ng/mL、約20.0 ng/ml〜40 ng/mL、約20 ng/mL〜30 ng/mL、約20 ng/mL〜25 ng/mL、約25 ng/mL〜30 ng/mL、約30 ng/mL〜約40 ng/mL、約30 ng/mL〜35 ng/mL、約35 ng/mL〜40 ng/mL、約40 ng/mL〜約60 ng/mL、約40 ng/mL〜約50 ng/mLおよび約50 ng/mL〜約60 ng/mLの範囲内であり得る。いくつかの態様において、閾値は、約25 ng/ml、例えば約24.8 ng/mlである。
【0034】
いくつかの態様において、男性および女性における可溶性ST2の閾値は、表1に列挙される任意の値であり得る。例えば、男性における可溶性ST2の閾値は、17.0 ng/mL〜19.0 ng/mL、19.0 ng/mL〜21.0 ng/mL、21.0 ng/mL〜23.0 ng/mL、23.0 ng/mL〜25.0 ng/mL、25.0 ng/mL〜27.0 ng/mL、27.0 ng/mL〜29.0 ng/mL、29.0 ng/mL〜31.0 ng/mL、31.0 ng/mL〜33.0 ng/mL、33.0 ng/mL〜35.0 ng/mL、35.0 ng/mL〜37.0 ng/mL、37.0 ng/mL〜39.0 ng/mL、39.0 ng/mL〜41.0 ng/mL、41.0 ng/mL〜43.0 ng/mL、43.0 ng/mL〜45.0 ng/mL、45.0 ng/mL〜47.0 ng/mL、47.0 ng/mL〜49.0 ng/mLおよび49.0 ng/mL〜51.0 ng/mLの間であり得る。女性における可溶性ST2の例示的な閾値は、12.0 ng/mL〜14.0 ng/mL、14.0 ng/mL〜16.0 ng/mL、16.0 ng/mL〜18.0 ng/mL、18.0 ng/mL〜20.0 ng/mL、20.0 ng/mL〜22.0 ng/mL、22.0 ng/mL〜24.0 ng/mL、24.0 ng/mL〜26.0 ng/mL、26.0 ng/mL〜28.0 ng/mL、28.0 ng/mL〜30.0 ng/mL、30.0 ng/mL〜32.0 ng/mL、32.0 ng/mL〜34.0 ng/mL、34.0 ng/mL〜36.0 ng/mL、36.0 ng/mL〜38.0 ng/mLおよび38.0 ng/mL〜40.0 ng/mLであり得る。
【0035】
上記のように、可溶性ST2の閾値レベルは、可溶性ST2のレベルを測定するために使用される手法に依存して変化し得る。例えば、American Type Culture Collectionに寄託され、Patent Deposit Deposition PTA-10432で指定されるハイブリドーマから産生される抗体が可溶性ST2レベルの決定に使用される場合、可溶性ST2の非限定的な閾値は、20 ng/mL未満、5 ng/mL〜15 ng/mL、5.0 ng/mL〜10 ng/mL、10 ng/mL〜20 ng/mL、10 ng/mL〜15 ng/mL、14.5 ng/mL〜25.3 ng/mL、15 ng/mL〜25 ng/mL、15 ng/mL〜20 ng/mL、18.0 ng/mL〜20.0 ng/mL、18.1 ng/mL〜19.9 ng/mL、20 ng/mL〜30 ng/mL、20 ng/mL〜25 ng/mL、25 ng/mL〜35 ng/mL、25 ng/mL〜30 ng/mL、30 ng/mL〜40 ng/mL、30 ng/mL〜35 ng/mL、35 ng/mL〜45 ng/mL、35 ng/mL〜40 ng/mlおよび40 ng/mL〜45 ng/mLを含み得る。PTA-10432で指定されるハイブリドーマから産生される抗体が可溶性ST2レベルの決定に使用される場合に使用され得るさらなる可溶性ST2参照値は、女性の場合、12.4 ng/mL〜19.9 ng/mL、12.0 ng/mL〜20 ng/mL、15.3 ng/mL〜17.4 ng/mL、15.0〜17.0 ng/mL、20 ng/mL未満、および18 ng/mL未満、ならびに、男性の場合、31.0 ng/mL未満、26.0 ng/mL未満、17.6 ng/mL〜30.6 ng/mL、17.0 ng/mL〜30.0 ng/mL、21.3 ng/mL〜25.1 ng/mLおよび21.0 ng/mL〜25.0 ng/mLを含む。可溶性ST2レベルがPTA-10432で指定されるハイブリドーマから産生される抗体を用いて測定される場合に使用され得るさらなる非限定的な閾値は、10 ng/mL、11 ng/mL、12 ng/mL、13 ng/mL、14 ng/mL、15 ng/mL、16 ng/mL、17 ng/mL、18 ng/mL、19 ng/mL、20 ng/mL、21 ng/mL、22 ng/mL、23 ng/mL、24 ng/mL、25 ng/mL、26 ng/mL、27 ng/mL、28 ng/mL、29 ng/mL、30 ng/mLまたは31 ng/mLを含む。
【0036】
(表1)健常な男性および女性における血清ST2濃度
【0037】
さらなる非限定的な例において、可溶性ST2レベルがST2 ELISA Kit(MBL International Corp., Woburn, MA)を用いて測定される場合、可溶性ST2の閾値レベルは、0.1 ng/mL〜0.6 ng/mL、0.2 ng/mL〜0.6 ng/mL、0.2 ng/mL〜0.5 ng/mL、0.3 ng/mL〜0.5 ng/mL、0.2 ng/mL〜0.3 ng/mL、0.3 ng/mL〜0.4 ng/mL、および0.4 ng/mL〜0.5 ng/mLを含む。ST2 ELISA Kit(MBL International Corp.)が可溶性ST2レベルの測定に使用される場合に使用され得るさらなる非限定的な閾値は、血液、血清または血漿の0.17 ng/mL、0.18 ng/mL、0.19 ng/mL、0.20 ng/mL、0.21 ng/mL、0.22 ng/mL、0.23 ng/mL、0.24ng/mL、0.25 ng/mL、0.26 ng/mL、0.27 ng/mL、0.28 ng/mLまたは0.29 ng/mLを含む。
【0038】
いくつかの態様において、可溶性ST2の参照レベルは、標準的な経験的方法によって決定される、高血圧症を有さないか、高血圧症を発症するリスクがないかまたは高血圧症を発症するリスクが低い対照対象(例えば、健常な対象)において存在する可溶性ST2のレベルである。いくつかの態様において、対照対象(例えば、健常な対象)は、高血圧症を有すると診断されていないか、高血圧症を発症するリスクがないかまたは高血圧症を発症するリスクが低く、25未満のボディマスインデックスを有し、かつ正常範囲内のコレステロール(総コレステロール、高密度リポタンパク質および/または低密度リポタンパク質)ならびにトリグリセリドプロフィールを有する。
【0039】
追加マーカー
本明細書に記載されるすべての方法のいくつかの態様はさらに、対象由来の生物学的サンプルにおける1つまたは複数(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つまたは4つ)の追加マーカーのレベルを決定する工程を含み得る。追加マーカーは、proANP、NT-proANP、ANP、proBNP、NT-proBNP、BNP、トロポニン、CRP、クレアチニン、血液尿素窒素(BUN)、ガレクチン、肝機能酵素、アルブミンおよび細菌内毒素の群より選択され得る。1つまたは複数の追加マーカーは、本明細書の任意の生物学的サンプルにおいて測定され得る。対象における、proANP、NT-proANP、ANP、proBNP、NT-proBNP、BNP、トロポニン、CRP、クレアチニン、血液尿素窒素(BUN)、ガレクチン、肝機能酵素、アルブミンおよび細菌内毒素のうちの1つまたは複数(例えば、少なくとも2つ、3つまたは4つ)のレベルがこれらの各追加バイオマーカーの参照レベルと比較して(例えば、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、200%、210%、220%、230%、240%、250%、260%、270%、280%、290%または300%)上昇していることは、その対象が高血圧症を発症するリスクが高いこと、その対象が処置(例えば、入院ベースの処置)を受けるべきであること、またはその対象が高血圧症を発症するリスクを減らすための処置の臨床研究への参加に関して選択されるべきであることをさらに示し得る。
【0040】
対象由来の生物学的サンプルにおいて追加のバイオマーカーのレベルが決定された後、そのレベルが、追加のバイオマーカーの参照レベル(例えば、本明細書に記載されるまたは当技術分野で公知の参照レベルのいずれか)と比較され得る。いくつかの態様、例えば、追加のバイオマーカーのレベルがELISAを用いて決定されるいくつかの態様において、参照レベルは、それを超えると対象が高血圧症を発症するリスクが増加していると特定されるか、降圧処置に関して選択されるかまたは高血圧症の発症を防ぐ処置の臨床研究への参加に関して選択される、閾値レベルを表してもよい。選択される追加のバイオマーカーの参照レベルは、追加のバイオマーカーのレベルを測定するために使用される手法(例えば、特定の抗体またはELISAキット)に依存し得る。追加のバイオマーカーの参照レベルは、当技術分野で公知であり、当業者によって容易に決定され得る。
【0041】
追加のバイオマーカーの非限定的な閾値レベルは、特定の患者集団、例えば25未満のBMIを有する対象、正常な腎機能を有する対象、心疾患(例えば、本明細書に記載される心疾患のいずれか)を有さない対象、健常な(例えば、疾患であると診断されていない、疾患を発症するリスクが低い、および疾患の2つまたはそれ以上の症状が表れていない)男性、健常な(例えば、疾患であると診断されていない、疾患を発症するリスクが低い、および疾患の2つまたはそれ以上の症状が表れていない)女性ならびに健常な(例えば、疾患であると診断されていない、疾患を発症するリスクが低い、および疾患の2つまたはそれ以上の症状が表れていない)子供における追加のバイオマーカーの中央レベルを表してもよい。
【0042】
いくつかの態様において、追加のバイオマーカーの参照レベルは、健常な対象(例えば、疾患(例えば、本明細書に記載される心疾患のいずれか)を有さない、疾患を有すると診断されていないおよび/または疾患状態の2つもしくはそれ以上(例えば、2つ、3つ、4つもしくは5つ)の症状が表れていない対象)において存在する追加のバイオマーカーのレベルである。いくつかの態様において、追加のバイオマーカーの参照レベルは、より早い時点の同一対象由来の追加のバイオマーカーのレベルである。いくつかの態様において、追加のバイオマーカーの参照レベルは、心疾患を有さない、心疾患を有すると診断されていないならびに/または心疾患(例えば、不整脈、心不全、心臓発作、冠動脈疾患、心臓血管疾患、急性冠症候群および狭心症)、炎症、卒中、腎不全、肥満症、高コレステロールもしくは脂質異常症に関連する2つもしくはそれ以上の症状を有さない対象由来の追加のバイオマーカーのレベルである。いくつかの態様において、追加のバイオマーカーの参照レベルは、心疾患を有すると診断されておらず、かつ心疾患(例えば、不整脈、心不全、心臓発作、冠動脈疾患、心臓血管疾患、急性冠症候群および狭心症)を発症するリスクがないまたはそのリスクが低い対象由来の追加のバイオマーカーのレベルである。
【0043】
いくつかの態様において、対象における追加のバイオマーカーの異なる2つのレベルの比率が、その追加のバイオマーカーの参照比率と比較される。いくつかの態様において、追加のバイオマーカーの参照比率は、閾比率(例えば、1.00、1.00、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8または2.0の参照比率)であり得る。いくつかの態様において、追加のバイオマーカーの参照比率は、対照対象(例えば、本明細書に記載される対照対象のいずれかまたは同一対象)において測定される追加のバイオマーカーの2つのレベルの比率である。例えば、追加のバイオマーカーの参照比率は、健常な対象(例えば、疾患(例えば、本明細書に記載される心疾患のいずれか)を有さない、疾患を有すると診断されていないおよび/または疾患状態の2つもしくはそれ以上(例えば、2つ、3つ、4つもしくは5つ)の症状が表れていない対象)において2つの異なる時点で収集される追加のバイオマーカーのレベルの比率であり得る。いくつかの態様において、参照比率は、より早い時点の同一対象由来の追加のバイオマーカーのレベルの比率である。いくつかの態様において、追加のバイオマーカーの参照比率は、心疾患を有さない、心疾患を有すると診断されていないならびに/または心疾患(例えば、不整脈、心不全、心臓発作、冠動脈疾患、心臓血管疾患、急性冠症候群および狭心症)に関連する2つもしくはそれ以上の症状を有さない対象由来の追加のバイオマーカーのレベルの比率である。いくつかの態様において、参照比率は、心疾患を有すると診断されておらず、かつ心疾患(例えば、不整脈、心不全、心臓発作、冠動脈疾患、心臓血管疾患、急性冠症候群および狭心症)を発症するリスクがないまたはそのリスクが低い対象由来の追加のバイオマーカーのレベルの比率である。
【0044】
これらの追加マーカーのレベルを決定するための方法は、当技術分野で公知である。これらの追加マーカーを決定するためのキットは、市販されている。
【0045】
対象に対する処置を選択するための方法
本明細書には、対象に対する処置を選択する方法であって、対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを決定する工程、生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを可溶性ST2の参照レベル(例えば、本明細書に記載される可溶性ST2の参照レベルのいずれか)と比較する工程、ならびに生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルが可溶性ST2の参照レベルと比較して上昇している対象に対して、降圧処置(本明細書で、降圧療法とも称される)(例えば、降圧剤、例えば利尿薬、ベータ遮断薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、カルシウムチャネル遮断薬、アルファ遮断薬、中枢作用薬、血管拡張薬および/もしくはレニン阻害薬のうちの1つまたは複数を用いるもの;例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられるKaplan, "Systemic hypertension: Treatment." In: Bonow et al., eds. Braunwald's Heart Disease: A Textbook of Cardiovascular Medicine. 9th ed. Philadelphia, Pa: Saunders Elsevier: 2011: chap 46を参照のこと)を選択する工程もしくは該対象に対して、増加したモニタリング(例えば、高頻度の心機能テスト)を選択する工程、または任意で可溶性ST2の参照レベルと比較して可溶性ST2のレベルが低下しているもしくは有意に変化していない対象に対して、低頻度(例えば、1年に1度もしくは2年に1度)の通院モニタリング(例えば、血圧もしくはST2レベルのモニタリング)を選択する工程を含む方法が提供される。
【0046】
対象に対する処置を選択する方法であって、第1の時点の対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2の第1のレベルを決定する工程、第2の時点の対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2の第2のレベルを決定する工程、可溶性ST2の第2のレベルを可溶性ST2の第1のレベルと比較する工程、ならびに可溶性ST2の第2のレベルが可溶性ST2の第1のレベルと比較して上昇している対象に対して、降圧処置(例えば、降圧剤を用いる処置)、例えば利尿薬、ベータ遮断薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、カルシウムチャネル遮断薬、アルファ遮断薬、中枢作用薬、血管拡張薬および/もしくはレニン阻害薬のうちの1つまたは複数;例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられるKaplan, "Systemic hypertension: Treatment." In: Bonow et al., eds. Braunwald's Heart Disease: A Textbook of Cardiovascular Medicine. 9th ed. Philadelphia, Pa: Saunders Elsevier: 2011: chap 46を参照のこと)を選択する工程もしくは該対象に対して、増加したモニタリング(例えば、高頻度の心機能テスト)を選択する工程、または可溶性ST2の第2のレベルが可溶性ST2の第1のレベルと比較して低下しているもしくは有意に変化していない対象に対して、低頻度(例えば、1年に1度もしくは2年に1度)の通院モニタリング(例えば、血圧もしくはST2のモニタリング)を選択する工程を含む方法もまた提供される。
【0047】
本明細書に記載される方法は、医療専門家(例えば、医師、医師助手、看護師、看護師助手もしくは研究技術者)または獣医専門家によって実施され得る。これらの方法は、病院、クリニック、プライマリーケア施設(例えば、介護ホーム)もしくは臨床研究所またはそれらの任意の組み合わせにおいて実施され得る。
【0048】
いくつかの態様において、生物学的サンプル、第1の生物学的サンプルおよび/または第2の生物学的サンプルは、血液、血清または血漿を含む。いくつかの態様において、生物学的サンプル、第1の生物学的サンプルおよび/または第2の生物学的サンプルは、可溶性ST2のレベルの決定および/または1つもしくは複数の追加のバイオマーカー(例えば、BNP、proBNPもしくはNT-proBNP)のレベルの決定の前に、(例えば25℃を下回る温度、例えば15℃または0℃を下回る温度で)一定期間(例えば、少なくとも2、4、6、8、10、12、24、36または48時間)保存される。
【0049】
いくつかの態様において、可溶性ST2のレベルは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を用いて(例えば、本明細書に記載されるまたは当技術分野で公知の可溶性ST2 ELISAキットのいずれかを用いて)決定される。
【0050】
いくつかの態様はさらに、対象由来の生物学的サンプルにおける1つまたは複数の追加のバイオマーカー(例えば、本明細書に記載される追加のバイオマーカーのいずれか、例えばBNP、proBNPおよびNT-proBNP)のレベルを検出する工程を含む。これらの態様において、生物学的サンプルにおける1つもしくは複数の追加のバイオマーカーのレベルが1つもしくは複数の追加のバイオマーカーの参照レベルと比較して上昇している対象に対して、降圧処置もしくは増加した心臓モニタリングが選択され得、または1つもしくは複数の追加マーカーのレベルが1つもしくは複数の追加のバイオマーカーの参照レベルと比較して低下しているもしくは有意に変化していない対象に対して、低頻度(例えば、1年に1度または2年に1度)の通院モニタリング(例えば、ST2レベルもしくは血圧のモニタリング)が選択される。いくつかの態様はさらに、第1の時点の対象由来の生物学的サンプルにおける1つまたは複数の追加のバイオマーカー(例えば、本明細書に記載される追加のバイオマーカーのいずれか、例えばBNP、proBNPおよびNT-proBNP)の第1のレベルを決定する工程、第2の時点の生物学的サンプルにおける1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第2のレベルを決定する工程、1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第1のレベルと第2のレベルを比較する工程、ならびに1つもしくは複数の追加のバイオマーカーの第2のレベルが1つもしくは複数の追加のバイオマーカーの第1のレベルと比較して上昇している対象に対して、降圧処置もしくは増加した心臓モニタリングを選択する工程または1つもしくは複数の追加マーカーの第2のレベルが1つもしくは複数の追加マーカーの第1のレベルと比較して低下しているもしくは有意に変化していない対象に対して、低頻度の通院モニタリングを選択する工程を含む。
【0051】
対象を処置する方法
対象を処置する方法であって、対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを決定する工程、生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを可溶性ST2の参照レベルと比較する工程、(可溶性ST2の参照レベルに対する可溶性ST2のレベルの上昇に基づき)高血圧症を発症するリスクが増加している対象を特定する工程、および可溶性ST2のレベルが上昇している対象に降圧剤を投与するかもしくは該対象の増加した心臓モニタリングを行うかまたは生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルが可溶性ST2の参照レベルと比較して低い対象をモニタリングする(例えば通院ベースで低頻度でモニタリングする)工程を含む方法が提供される。
【0052】
本明細書に記載されるように、増加した心臓モニタリングは、例えば、対象における心機能のモニタリング(例えば、心電図(例えば携帯型心電図検査)、胸部X線、心エコー検査、ストレステスト、コンピュータ断層撮影、磁気共鳴画像化、陽電子放出断層撮影および心臓カテーテル)または対象における可溶性ST2のレベルの経時的なモニタリングもしくは対象の血圧の経時的なモニタリングであり得る。増加した心臓モニタリングはまた、高頻度の通院(例えば、およそ毎月1回、2ヶ月に1回、3ヶ月に1回、4ヶ月に1回、5ヶ月(fix month)に1回または6ヶ月に1回)を含み得る。
【0053】
対象を処置する方法であって、第1の時点の対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2の第1のレベルを決定する工程、第2の時点の対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2の第2のレベルを決定する工程、可溶性ST2の第2のレベルを第1のレベルと比較する工程、および(1)可溶性ST2の第2のレベルが可溶性ST2の第1のレベルと比較して上昇している対象を、高血圧症を発症するリスクが増加していると特定し、(第2および第1の可溶性ST2レベルの比較に基づき)高血圧症を発症するリスクが増加していると特定された対象に降圧剤を投与するもしくは該対象の増加した心臓モニタリングを行うか、または(2)可溶性ST2の第2のレベルが可溶性ST2の第1のレベルと比較して低下しているもしくは有意に変化していない対象を、高血圧症を発症するリスクが低減していると特定し、(第2および第1の可溶性ST2レベルの比較に基づき)高血圧症を発症するリスクが低減していると特定された対象をモニタリングする(例えば、通院ベースで低頻度でモニタリングする)工程を含む方法も提供される。
【0054】
いくつかの態様はさらに、対象由来の生物学的サンプル(例えば、生物学的サンプル、第1の生物学的サンプルおよび/または第2の生物学的サンプル)における1つまたは複数の追加のバイオマーカー(例えば、本明細書に記載される追加のバイオマーカーのいずれか、例えばBNP、proBNPおよびNT-proBNP)のレベルを決定する工程を含む。これらの態様において、生物学的サンプルにおける1つもしくは複数の追加のバイオマーカーのレベルが1つもしくは複数の追加のバイオマーカーの参照レベル(例えば、本明細書に記載される1つもしくは複数の追加のバイオマーカーの参照レベルのいずれか)と比較して上昇している対象は、降圧剤を投与されるかもしくは増加した心臓モニタリングを行われ、または1つもしくは複数の追加のバイオマーカーのレベルが1つもしくは複数の追加のバイオマーカーの参照レベルと比較して低下しているもしくは有意に変化していない対象は、通院ベースで低頻度でモニタリングされる。いくつかの態様はさらに、第1の時点の対象由来の生物学的サンプルにおける1つまたは複数の追加のバイオマーカー(例えば、本明細書に記載される追加のバイオマーカーのいずれか、例えばBNP、proBNPおよびNT-proBNP)の第1のレベルを決定する工程、第2の時点の生物学的サンプルにおける1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第2のレベルを決定する工程、1つまたは複数の追加のバイオマーカーの第1のレベルと第2のレベルを比較する工程、ならびに1つもしくは複数の追加のバイオマーカーの第2のレベルが1つもしくは複数の追加のバイオマーカーの第1のレベルと比較して上昇している対象に対して、降圧剤を投与するかもしくは増加した心臓モニタリングを行うか、または1つもしくは複数の追加のバイオマーカーの第2のレベルが1つもしくは複数の追加のバイオマーカーの第1のレベルと比較して低下しているもしくは有意に変化していない対象をモニタリングする(例えば、通院ベースで低頻度でモニタリングする)工程を含む。
【0055】
いくつかの態様はさらに、利尿薬、ベータ遮断薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、カルシウムチャネル遮断薬、アルファ遮断薬、中枢作用薬、血管拡張薬および/またはレニン阻害薬の群より選択される1つまたは複数(例えば2つ、3つまたは4つ)の薬剤を対象に投与する工程を含む;例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、Kaplan, "Systemic hypertension: Treatment." In: Bonow et al., eds. Braunwald's Heart Disease: A Textbook of Cardiovascular Medicine. 9th ed. Philadelphia, Pa: Saunders Elsevier; 2011: chap 46を参照のこと。
【0056】
高血圧症を発症するリスクを決定するための方法
対象において高血圧症を発症するリスクを評価する方法であって、対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを決定する工程、生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを可溶性ST2の参照レベルと比較する工程、および生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルが可溶性ST2の参照レベルと比較して上昇している対象を、高血圧症を発症するリスクが増加していると特定するか、または生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルが可溶性ST2の参照レベルと比較して有意に変化していないもしくは低下している対象を、高血圧症を発症するリスクが低下していると特定する工程を含む方法も提供される。いくつかの態様において、可溶性ST2のレベルが(可溶性ST2の参照レベルに対して)上昇している対象は、高血圧症を発症するリスクが増加している(例えば、参照対象、例えば本明細書に記載される対照対象よりもリスクが少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%または200%増加している)。いくつかの態様において、可溶性ST2のレベルが可溶性ST2の参照レベルと比較して低い対象は、高血圧症を発症するリスクが低下している(例えば、リスクが少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%または80%低下している)。
【0057】
対象において高血圧症を発症するリスクの変化を経時的に評価する方法も提供され、これらの方法は、第1の時点の対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2の第1のレベルを決定する工程、第2の時点の対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2の第2のレベルを決定する工程、可溶性ST2の第2のレベルと第1のレベルを比較する工程、および可溶性ST2の第2のレベルが可溶性ST2の第1のレベルと比較して上昇している対象を、第1の時点と第2の時点の間の期間に高血圧症を発症するリスクが増加していると特定するか、または可溶性ST2の第2のレベルが可溶性ST2の第1のレベルと比較して有意に変化していないもしくは低下している対象を、第1の時点と第2の時点の間の期間に高血圧症を発症するリスクが低下していると特定する工程を含む。いくつかの態様において、可溶性ST2の第2のレベルが(可溶性ST2の第1のレベルに対して)上昇している対象は、高血圧症を発症するリスクが増加している(例えば、参照対象、例えば本明細書に記載される対照対象よりもリスクが少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%または200%増加している)。いくつかの態様において、可溶性ST2の第2のレベルが可溶性ST2の第1のレベルと比較して低い対象は、その対象が高血圧症を発症するリスクが低下している(例えば、リスクが少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%または80%低下している)ことを示す。いくつかの態様において、対象は、第1の時点と第2の時点の間に2つまたはそれ以上の処置薬(例えば、降圧処置、例えば1つまたは複数の降圧剤)を受けている。いくつかの態様はさらに、高血圧症を発症するリスクを減らすために第1の時点と第2の時点の間に対象に2つまたはそれ以上の処置薬(例えば、降圧処置、例えば1つまたは複数の降圧剤)を投与する工程を含む。
【0058】
上記の方法は、3年以内に高血圧症を発症するリスク(例えば、生物学的サンプルが対象から得られたときから3年以内、1年以内、9ヶ月以内、6ヶ月以内または30日以内に高血圧症を発症するリスク)を決定するために使用され得る。
【0059】
いくつかの態様はさらに、対象由来の生物学的サンプル(例えば、生物学的サンプル、第1の生物学的サンプルおよび/または第2の生物学的サンプル)における1つまたは複数の追加のバイオマーカー(例えば、本明細書に記載される追加のバイオマーカーのいずれか、例えばBNP、proBNPおよびNT-proBNP)のレベルを検出する工程を含む。これらの態様において、生物学的サンプルにおける1つもしくは複数の追加のバイオマーカーのレベルが1つもしくは複数の追加のバイオマーカーの参照レベルと比較して上昇している対象は、高血圧症を発症するリスクが上昇していると特定され、または1つもしくは複数の追加のバイオマーカーのレベルが1つもしくは複数の追加のバイオマーカーの参照レベルと比較して有意に変化していないもしくは低下している対象は、高血圧症を発症するリスクが低下していると特定される。
【0060】
いくつかの態様はさらに、(本明細書に記載される方法のいずれかを用いて)高血圧症を発症するリスクが増加していると特定された対象に対して少なくとも1つの降圧剤を投与するかもしくは増加した心臓モニタリングを実施する、または(本明細書に記載される方法のいずれかを用いて)高血圧症を発症するリスクが低下していると特定された対象に対して低頻度の通院モニタリングを実施する工程を含む。
【0061】
いくつかの態様は、対象で決定された高血圧症を発症するリスクおよび対象で決定された高血圧症を発症するリスクに基づき示唆された処置を示す対象の臨床ファイル(例えば、コンピュータ読み取り可能な媒体)をアップデートする工程、高血圧症を発症するリスクが増加していると特定された対象に高血圧症の症状を通知する工程、高血圧症を発症するリスクが増加していると特定された対象に、高血圧症の症状に関して自身を自己モニタリングするよう指導する工程、対象に生活様式を変える(例えば、運動療法を実施するまたは増やす、食生活を変える、塩分摂取を減らすおよび喫煙を止めるまたは減らす)よう指導する工程、高血圧症を発症するリスクが増加していると決定された対象の直系の家族員において高血圧症のリスクを試験または決定する工程、高血圧症を発症するリスクが増加していると特定された対象に対して1つまたは複数の確認診断テストを実施する工程、および直系の家族員に、対象で決定された高血圧症を発症するリスクの増加について通知する工程、の1つまたは複数を含む。
【0062】
対象において高血圧症を発症するリスクを減らすための処置の効能を決定するための方法も提供される。これらの方法は、(1)第1の時点で対象から得られた生物学的サンプルにおける可溶性ST2の第1のレベルを決定する工程、(2)第2の時点で対象から得られた生物学的サンプルにおける可溶性ST2の第2のレベルを決定する工程であって、第1の時点と第2の時点の間に対象に2つまたはそれ以上(例えば、5つ超、10超または20超)の処置薬(例えば、降圧処置、例えば1つまたは複数の降圧剤)が投与される工程、(3)可溶性ST2の第2のレベルと第1のレベルを比較する工程、ならびに(4)可溶性ST2の第2のレベルが可溶性ST2の第1のレベルと比較して低下している対象に対して行われた処置を、対象において高血圧症を発症するリスクを減らすのに有効であると特定する、あるいは可溶性ST2の第2のレベルが可溶性ST2の第1のレベルと比較して実質的に変化していないまたは上昇している対象に対して行われた処置を、対象において高血圧症を発症するリスクを減らすのに有効でないと特定する工程、を含む。いくつかの態様において、処置が、対象において高血圧症を発症するリスクを減らすのに有効でないと特定される場合、対象において高血圧症を発症するリスクを減らすための新しい処置(例えば、異なるタイプもしくはクラスの降圧剤)が対象のために選択されるおよび/または対象に対して行われる。いくつかの態様において、処置が対象において高血圧症を発症するリスクを減らすのに有効であると特定される場合、対象において高血圧症を発症するリスクを減らすためのその処置(例えば、降圧処置、例えば1つもしくは複数の降圧剤)が対象のために選択されるおよび/または対象に対してさらに行われる。
【0063】
臨床研究への参加に関して対象を選択するための方法
高血圧症を発症するリスクを減らすための処置の臨床研究への参加に関して対象を選択する方法であって、対象由来の生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを決定する工程、生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルを可溶性ST2の参照レベルと比較する工程、および生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルが可溶性ST2の参照レベルと比較して上昇している対象を臨床トライアルへの参加に関して選択するまたは可溶性ST2のレベルに基づき患者を層別化する工程を含む方法も提供される。いくつかの態様において、対象は、生物学的サンプルにおける可溶性ST2のレベルが可溶性ST2の参照レベル(例えば、本明細書に記載される可溶性ST2の参照のレベルのいずれか)と比較して低い場合、高血圧症を発症するリスクを減らすための処置の臨床研究への参加から除外され得る。
【0064】
臨床研究は、ヘルスケア施設(例えば、病院、クリニックまたは研究センター)において、ヘルスケア専門家(例えば、医師、医師助手、看護師、瀉血専門医または研究技術者)によって実施され得る。生物学的サンプルは、疾患状態(例えば、不整脈、心臓血管疾患、狭心症もしくは心不全)の1つもしくは複数(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つもしくは5つ)の症状が表れている対象、病院で承認された対象または無症候性の対象から入手され得る。
【0065】
いくつかの態様はさらに、対象由来の生物学的サンプル(例えば、生物学的サンプル、第1の生物学的サンプルおよび/または第2の生物学的サンプル)において1つまたは複数の追加のバイオマーカー(例えば、本明細書に記載される追加のバイオマーカーのいずれか、例えばBNP、proBNPおよびNT-proBNP)のレベルを検出する工程を含む。これらの態様において、生物学的サンプルにおける1つまたは複数の追加のバイオマーカーのレベルが1つまたは複数の追加のバイオマーカーの参照レベルと比較して上昇している対象が、高血圧症を発症するリスクを減らすための処置の臨床研究への参加に関して選択される。
【0066】
追加の要因が、高血圧症を発症するリスクを減らすための処置の臨床研究に対象を加入させるべきことをさらに示し得る。これらの追加の要因の非限定的な例は、心臓血管疾患、狭心症、心臓発作、心不全、腎不全、炎症もしくは卒中であるとの事前診断、または以下の症状の1つもしくは複数(例えば、2つ、3つもしくは4つ)の発現を含む:息切れ、心臓の動悸、心拍数増加、衰弱、めまい、悪心、発汗、胸の不快感もしくは圧迫感、胸の痛み、腕の痛み、膨満感、消化不良、発汗、喘鳴、睡眠時無呼吸および不安感。高血圧症を発症するリスクを減らすための処置の臨床研究に対象を加入させるべきことを示す追加の例示的な要因は、25〜30のBMI、30超のBMI、または硝酸薬、カルシウムチャネル遮断薬、利尿薬、血栓溶解剤、ジギタリス、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)調整剤(例えば、ベータアドレナリン遮断剤、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アルドステロンアンタゴニスト、レニン阻害薬およびアンジオテンシンII受容体遮断薬)ならびにコレステロール降下剤(例えば、スタチン)からなる群より選択される1つもしくは複数(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つもしくは5つ)の薬剤を用いる継続的療法を含む。
【0067】
キット
本明細書に記載される方法において使用するためのキットであって、可溶性ST2に特異的に結合する抗体、および任意で該キット(例えば該キットの抗体)を使用して本明細書に記載される任意の方法を実施するための説明書を含むキットも提供される。ST2に特異的に結合する抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組み換え抗体、例えばキメラ抗体またはヒト化抗体、完全ヒト抗体、非ヒト抗体、例えばマウス抗体、単一特異性抗体または単鎖抗体であり得る。本明細書に記載される任意のキットはまた、ELISAアッセイとして提供され得る(例えば、検出用の1つまたは複数の2次抗体および/または基質をさらに含み得る)。例えば、本明細書に記載される任意のキットは、American Type Culture Collectionに寄託されPatent Deposit Designation PTA-10432により指定されるハイブリドーマから産生される抗体またはWO 2011/127412もしくは米国特許出願公開第2011/0256635号に記載される例示的な抗ST2抗体のいずれかを含み得る。
【0068】
本明細書に記載される任意のキットはまた、proANP、NT-proANP、ANP、proBNP、NT-proBNP、BNP、トロポニン、CRP、ガレクチン、クレアチニン、肝機能酵素、アルブミンおよび細菌内毒素からなる群より選択される1つまたは複数(例えば、2つ、3つ、4つまたは5つ)の追加マーカーに対する1つまたは複数(例えば、2つ、3つ、4つまたは5つ)の追加抗体を含み得る。ST2、ガレクチン、proANP、NT-proANP、ANP、proBNP、NT-proBNP、BNP、トロポニン、CRP、クレアチニン、肝機能酵素、アルブミンおよび細菌内毒素に対する抗体は、市販されている。
【実施例】
【0069】
本発明は、以下の実施例においてさらに説明されるが、これは特許請求の範囲に記載される発明の範囲を限定するものではない。
【0070】
実施例1. 可溶性ST2は見かけ上健常な対象において高血圧症を発症するリスクを評価するために使用することができる
可溶性ST2(sST2)が見かけ上健常な個体における高血圧症の発症を予測するのに有用であるかどうかを決定するための実験セットを実施した。FHS Offspring研究は、前向き、観察的なコミュニティベースの研究である。FHS初期集団参加者の子供(およびその子供の配偶者)を1971年に登録し、そしてそれ以降彼ら/彼女らを連続的な試験により追跡した。第6回試験(ベースライン、1995〜1998)に出席した3,532名の参加者のうち、3,273名の参加者がフォローアップのための第7回試験(1998〜2001)に戻ってきた。彼ら/彼女らのうち、52名がBPデータの欠陥のために除外され、1,305名がベースライン試験時の一般的な高血圧症のために除外され、34名がsST2測定の欠陥のために、8名が心不全のために、33名が冠動脈心疾患のために、1名がステージIVの慢性腎疾患(概算された糸球体ろ過率<30ml/分/1.73m2と定義される)のために、および6名が共変数の欠陥のために除外され、1,834名が本研究に参加するために残った。すべての参加者からインフォームドコンセントを得、かつ研究は適切な施設内倫理委員会による承認を受けた。
【0071】
これらの実験において、可溶性ST2は、保存された第6回試験訪問時のサンプルにおいて測定した。可溶性ST2のレベルは、市販のELISA(Presage(登録商標)ST2アッセイ、Critical Care Diagnostics, San Diego, CA)(Dieplinger et a.l., Clin Chim Acta. 2009;409:33-40; Lu et al, Clin Chim Acta 2010;411:1825-1826)を製造元の指示にしたがい用いて決定した。
【0072】
本研究において評価した主要評価項目は、高血圧症の最初の発症までの時間であった。高血圧は、収縮期血圧≧140 mmHg、拡張期血圧≧90 mmHgまたはその時点での降圧薬の使用と定義した。収縮期BP、拡張期BPおよび脈圧の変化は、ベースライン試験とフォローアップ試験の間の連続的変化として定義した。血圧は、対象を少なくとも5分間休息させた後に座らせた状態で、水銀血圧計を用いて左腕において測定した。試験BP値は、2名の医師が得た測定値の平均とした。
【0073】
高血圧症のリスクが増加する傾向は、log変換(ln)sST2で見出された(それぞれ、年齢・性別適合モデルにおいてHR 1.21[95%CI 1.06〜1.39]、P=0.006および全適合モデルにおいてHR 1.22[95% CI 1.05〜1.42]、P=0.051)。全モデルは、年齢、性別、ベースライン時の収縮期および拡張期BP、真性糖尿病、ボディマスインデックスならびに喫煙を含む。以下の表2もまた、第4四分位によって定義されるsST2の最高濃度24.8〜98.8 ng/mlもまた最小適合モデルおよび全適合モデルの両方において高血圧症を予測することを示している。
【0074】
(表2)
【0075】
まとめると、データは、sST2の測定を、そうでなければ見かけ上健常である個体において高血圧症を発症するリスクを評価するために使用できることを示している。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]