(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の運動測定装置では、角速度センサおよび加速度センサを用い、さらにフィルタリングを施す演算であるため、消費電力は大きくなり、異なる種類の複数のセンサとそれぞれに対応した回路を設置するための面積も大きくなり、さらに、演算回路にかかる負荷も大きくなるという課題がある。
【0005】
一方、位置の算出方法として、加速度センサが検知した加速度を積算(積分)することによって行うものもあるが、加速度から速度への積算、さらには、速度から位置への積算の過程において、加速度データに含まれるノイズ信号が重畳されてしまうため、精度の高い位置算出を行うことが難しくなるという問題がある。
【0006】
そこで本発明は、カルマンフィルタなどの特殊なフィルタを用いることなく、消費電力、装置サイズ、および、演算回路にかかる負荷を抑えることができ、かつ、ノイズを抑えることによって、精度の高い物理量演算を行うことができる物理量演算装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の物理量測定装置は、所定時間ごとの各検知時刻に物理量を検知する同種の
2つの物理量センサと、各時刻において
2つの物理量センサのそれぞれで検知された物理量に基づいて出力値を算出する演算部と、直前の検知時刻について算出された出力値と、現在の検知時刻において
2つの物理量センサのそれぞれで検知された物理量とに基づいて所定の判別を行う判別部とを備え、演算部は、判別部による判別結果に基づいて、各時刻における出力値を算出する
物理量測定装置であって、判別部は、現在の検知時刻において2つの物理量センサで検知された物理量の間に、直前の検知時刻について算出された出力値が存在しているか否かを判別し、演算部は、現在の検知時刻において2つの物理量センサで検知された物理量の間に、直前の検知時刻について算出された出力値が存在しているときは、現在の検知時刻において2つの物理量センサで検知された物理量の平均値を現在の検知時刻についての出力値とし、現在の検知時刻において2つの物理量センサで検知された物理量の間に、直前の検知時刻について算出された出力値が存在していないときは、現在の検知時刻について検知された2つの物理量のうちで、直前の検知時刻について算出された出力値に近い物理量を現在の検知時刻についての出力値とすることを特徴としている。
【0008】
これにより、特殊なフィルタを用いることなく、消費電力、装置サイズ、および、演算回路にかかる負荷を抑えることができ、かつ、ノイズを抑えることによって、精度の高い物理量演算を行うことが可能となる。
【0010】
本発明の物理量測定装置において、出力値は、
2つの物理量センサのそれぞれで最初の時刻に検知された物理量の平均値を初期の出力値とすることが好ましい。
これにより、平均値を算出すればすむため、演算回路にかかる負荷を小さくすることができ、迅速かつ正確に、演算部や判別部による処理を行うことができる。
【0011】
本発明の物理量測定装置において、
2つの物理量センサのうち
、一方の物理量センサのみを動作させるように切り替える切替部を備えることが好ましい。
これにより、低消費電力にすることを優先にしたいときには動作させる物理量センサの数を減らすことができ、また、動作させる物理量センサの数を増やすことによって測定精度を高めることができる。
【0012】
本発明の物理量測定装置において
、判別部は、
2つ複数の物理量センサのそれぞれで検知された物理量の比較により
、物理量測定装置の故障判定を行うことが好ましい。
これにより、物理量センサの故障を認識できるようになるため、物理量センサの交換や動作させる物理量センサの数の切り替え等の対応を迅速に取れるようになることから、物理量測定の精度を維持することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、カルマンフィルタなどの特殊なフィルタを用いることなく、消費電力、装置サイズ、および、演算回路にかかる負荷を抑えることができ、かつ、ノイズを抑えることによって、精度の高い物理量演算を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る物理量測定装置について図面を参照しつつ詳しく説明する。本実施形態においては、物理量センサとして2つの加速度センサを用いた場合について説明するが、本発明における物理量センサは加速度センサには限定されず、例えば、角速度センサ、気圧センサ、光センサ、温度センサ、重量センサなどにも適用可能である。
図1は、本実施形態に係る物理量測定装置10の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、物理量測定装置10は、第1加速度センサ11と、第2加速度センサ12と、制御部13と、演算部14と、判別部15と、記憶部16とを備える。
【0016】
第1加速度センサ11と第2加速度センサ12は、同種のセンサであって、所定時間ごと、例えば10msごとの検知時刻に、物理量としての加速度をそれぞれが検知し、検知結果は制御部13へ出力される。ここで、同種のセンサとは、同じ原理で同じ物理量を検知する単一種のセンサである。加速度センサ11、12は、質量が加速度の向きに沿って移動するときの力を検知するものであり、例えば、質量を支持する梁と、梁の撓みを検知する歪センサとから構成される。歪センサで検知される歪量が前記力に比例する。質量と梁と歪センサとから成るセンサ部は3組設けられており、互いに直交する基準座標軸の3軸方向の加速度を検知できるように、それぞれの梁の撓み方向が3軸のそれぞれの方向に向けられている。
【0017】
制御部13は、演算部14と判別部15の動作を制御し、また、検知の時刻に応じて、第1加速度センサ11と第2加速度センサ12による検知データを演算部14または判別部15へ出力する。さらに、判別部15による判別結果にしたがって演算部14に所定の出力値の演算を実行させる。
【0018】
演算部14は、上記所定時間ごとの各検知時刻において、第1加速度センサ11と第2加速度センサ12のそれぞれで検知された加速度に基づいて、制御部13による制御にしたがって、出力値を算出する。算出された出力値は制御部13を経て、記憶部16に保存されるとともに、判別部15へ出力される。判別部15は、直前の検知時刻について演算部14で算出された出力値と、現在の検知時刻において第1加速度センサ11と第2加速度センサ12のそれぞれで検知された加速度とに基づいて、制御部13による制御にしたがって所定の判別を行う。この判別結果は、制御部13を経て演算部14へ出力され、演算部14では、判別部15による判別結果に基づいて、各検知時刻における出力値を算出する。
ここで、物理量測定装置10を起動したときの初期の出力値は、第1加速度センサ11と第2加速度センサ12のそれぞれで最初の検知時刻に検知した加速度の平均値とするとよい。
【0019】
判別部15における判別としては、現在の検知時刻において第1加速度センサ11と第2加速度センサ12のそれぞれで検知された2つの加速度の間に、直前の検知時刻について演算部14で算出された出力値が存在するか否かの判別がある。演算部14では、この判別結果にしたがって、次の(1)または(2)のように出力値を算出する。
【0020】
(1)現在の検知時刻において第1加速度センサ11と第2加速度センサ12で検知された加速度の間に、直前の検知時刻について算出された出力値が存在しているときは、現在の検知時刻において第1加速度センサ11と第2加速度センサ12で検知された加速度の平均値を現在の検知時刻についての出力値とする。
【0021】
(2)現在の検知時刻において第1加速度センサ11と第2加速度センサ12で検知された加速度の間に、直前の検知時刻について算出された出力値が存在していないときは、現在の検知時刻について検知された2つの加速度のうちで、直前の検知時刻について算出された出力値に近い加速度を現在の検知時刻についての出力値とする。ここで、現在の検知時刻について検知された2つの加速度のうちで、直前の検知時刻について算出された出力値に近い加速度がいずれであるかについての判別も、判別部15が行う。
【0022】
また、判別部15は、故障判定部として、第1加速度センサ11と第2加速度センサ12のそれぞれで検知された物理量を比較することにより、物理量測定装置の故障、例えば、第1加速度センサ11または第2加速度センサ12の故障の判定を行う。より具体的には、2つの物理量の一方が他方の所定倍以上、例えば3倍以上の数値であったときは、故障であると判定する。
ここで、故障判定部としての判定は、加速度センサが3つ以上ある場合も実行され、例えば、1つの加速度センサで検知された物理量が、残りの加速度センサで検知された物理量の平均値に対して所定倍以上、例えば3倍以上の数値であったときは故障であると判定する。
【0023】
図2は、本実施形態の物理量測定装置10に係る出力値設定の処理の流れを示すフローチャートである。
図3と
図4は、検知された加速度と出力値の設定例を示す図である。
図2〜
図4において、Z1(n)は検知時刻nにおいて第1加速度センサ11によって検知された加速度であり、Z2(n)は検知時刻nにおいて第2加速度センサ12によって検知された加速度である。検知時刻n+1は検知時刻nの次の検知時刻である。Zout(n)は、検知時刻nにおける演算部14による出力値である。
【0024】
まず、物理量測定装置10の起動時の初回の検知として、第1加速度センサ11で第1加速度Z1(n)が検知され、第2加速度センサ12で第2加速度Z2(n)が検知され(ステップS1)、これらの加速度データは制御部13へ出力される。制御部13は、演算部14に対して、検知された2つの加速度から平均値を計算するよう指示し、演算部14は、算出した平均値をこの時刻における出力値Zout(n)に設定し、この出力値は記憶部16に保存される(ステップS2)。ここで、出力値Zout(n)は次式(1)で表される。
Zout(n)=[Z1(n)+Z2(n)]/2 (1)
【0025】
上記ステップS1での検知から所定時間が経過した後の第2回の検知では、第1加速度センサ11で第1加速度Z1(n+1)が検知され、第2加速度センサ12で第2加速度Z2(n+1)が検知され(ステップS3)、これらの加速度データは制御部13へ出力される。制御部13は、判別部15に対して、2つの加速度Z1(n+1)、Z2(n+1)の間に、初回の出力値Zout(n)が存在するか否かを判別させる(ステップS4)。ここで、第2回の検知の時刻を現在の検知時刻とすると、初回の検知の時刻は直前の検知時刻となる。
【0026】
図3に示すように、2つの加速度Z1(n+1)、Z2(n+1)の間に、初回の出力値Zout(n)が存在していた場合(ステップS4でYES)、制御部13は、演算部14に対して、2つの加速度Z1(n+1)、Z2(n+1)の平均値を算出させ、演算部14は、算出した平均値をこの時刻における出力値Zout(n+1)に設定し、この出力値は記憶部16に保存される(ステップS5)。ここで、Zout(n+1)は次式(2)で表される。なお、
図3においてはZout(n)が検知時刻nからずれ、
図4においてはZout(n+1)が検知時刻n+1からずれているが、説明の便宜上ずらしたものである。
Zout(n+1)=[Z1(n+1)+Z2(n+1)]/2 (2)
【0027】
一方、
図4に示すように、2つの加速度Z1(n+1)、Z2(n+1)の間に、初回の出力値Zout(n)が存在していなかった場合(ステップS4でNO)、判別部15はさらに、第1加速度Z1(n+1)が第2加速度Z2(n+1)よりも初回の出力値Zout(n)に近いか否かを判別する(ステップS6)。
その結果、第1加速度Z1(n+1)の方が第2加速度Z2(n+1)よりも初回出力値Zout(n)に近い場合(ステップS6でYES)は、第1加速度Z1(n+1)がこの検知時刻の出力値Zout(n+1)に設定される(ステップS7)。
【0028】
これに対して、第2加速度Z2(n+1)の方が第1加速度Z1(n+1)よりも初回出力値Zout(n)に近い、または、第1加速度Z1(n+1)と第2加速度Z2(n+1)が同じ値である場合(ステップS6でNO)、第2加速度Z2(n+1)がこの時刻の出力値Zout(n+1)に設定される(ステップS8)。
上記ステップS5、S7、S8の後は、次の検知時刻を現在の検知時刻として、ステップS3以降の処理を繰り返す(ステップS9)。
【0029】
ここで、上記ステップS6においては、第1加速度Z1(n+1)が第2加速度Z2(n+1)よりも初回の出力値Zout(n)に近いか否かを判別していたが、第2加速度Z2(n+1)が第1加速度Z1(n+1)よりも初回の出力値Zout(n)に近いか否かを判別してもよく、その場合にも上記ステップS7、S8と同様に、初回の出力値Zout(n)に近い方の加速度をこの時刻の出力値Zout(n+1)に設定する。
【0030】
図5〜
図7は、加速度センサまたは物理量測定装置を静止した状態で置いたときの、経過時間に対する出力の変化を示すグラフである。
図5は、1つの加速度センサの検知出力を破線L11で示し、
図6は、
図5で用いた加速度センサを含む2つの加速度センサの検知出力の平均値を点線L12で示し、
図7は、
図6で用いた2つの加速度センサを含む本実施形態の物理量測定装置における出力値を実線L13で示す。
図8は、
図5〜
図7に示す値からそれぞれ算出した3σの経過時間に対する変化を示すグラフである。ここで、標準偏差σは、
図5〜
図7にそれぞれ示すデータについて、各時刻において、直近の連続する所定数のデータごと、例えば連続する20回分のデータに算出した値である。
【0031】
図5〜
図7を比較すると、1つの加速度センサによる検知出力(
図5、破線L11)では、加速度センサが静止しているのにかかわらず、検知出力の変動が大きくなっており、ノイズの影響が見られる。これに対して、2つの加速度センサの検知出力の平均値(
図6、点線L12)を見ると、
図5の場合と比べて出力の変動が激しい時間帯は少なくなっているが、依然として変動量が大きくなっており、ノイズの影響が見られる。一方、本実施形態の物理量測定装置による出力値(
図7、実線L13)では、装置をセットした初期の期間を過ぎてからは、変動が少なく、かつ、ゼロに近い値で安定しており、ノイズの影響を抑えることができているのが分かる。
【0032】
図8においては、1つの加速度センサによる検知出力(破線L11)と、2つの加速度センサの検知出力の平均値(点線L12)は3σの値が大きく、検知出力または平均値の変動幅が大きいことが分かる。これに対して、本実施形態の物理量測定装置による出力値(実線L13)は、初期の期間を過ぎて安定してからは、破線L11と点線L12よりも常に小さな値をとっており、出力値の変動幅が小さいことが分かる。
【0033】
以上のように構成されたことから、上記実施形態によれば、次の効果を奏する。
(1)特殊なフィルタを用いることがなく、また、同種の複数の物理量センサを用いればすむことから、消費電力、装置サイズ、および、演算回路にかかる負荷を抑えることができる。
【0034】
(2)複数の物理量センサを用い、直前の検知時刻の出力値、または、この出力値に近い検出値を選択していく処理を継続していくため、ノイズの影響が抑えられた安定した出力値を得ることができる。これに対して、例えばカルマンフィルタは移動平均を拡張した理論であり、それぞれのセンサの検知出力のばらつきを平均化できるのみであるため、ノイズを確実に抑えることは難しい。
【0035】
以下に変形例について説明する。
上記実施形態においては、2つの加速度センサを用いた例を示したが、3つ以上の加速度センサを用いることもできる。この場合も
図2に示すのと同様の流れで出力値を設定することができる。より具体的には、
図2のステップS1〜S3の処理は加速度センサが3つの場合も同様であり、次のステップS4の判別処理については、3つの加速度センサによる検知出力のうちの最大値と最小値の間に直前の検知時刻の出力値Zout(n)が存在するか否かを判別する。最大値と最小値の間に出力値Zout(n)が存在する場合は、ステップS5と同様に3つの検知出力の平均値を出力値Zout(n+1)とする。一方、最大値と最小値の間に出力値Zout(n)が存在しない場合は、3つの加速度センサによる検知出力のうち、直前の検知時刻の出力値Zout(n)に最も近い値を現在の検知時刻の出力値Zout(n+1)とする。このように加速度センサを3つ以上用いることにより、さらにノイズを抑えやすくなり、精度の高い物理量演算が可能となる。
【0036】
また、上記実施形態では、2つの加速度センサの両方を動作させ続けていたが、状況に応じて一方の加速度センサのみを動作させるように切り替えてもよい。切り替えの制御は、切替部としての制御部13が行う。これにより、低消費電力にすることを優先にしたいときには動作させる加速度センサを1つとし、この加速度センサの検知結果に基づいて出力値を算出することができ、また、測定精度を優先するときには2つの加速度センサを動作させて、
図2に示す流れにしたがって出力値を算出することができる。このようなセンサの切り替えはセンサが3つ以上の場合も同様であり、状況に応じて動作させるセンサの数を切り替える。
本発明について上記実施形態を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、改良の目的または本発明の思想の範囲内において改良または変更が可能である。