【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明における透明基材への透明導電層の形成が、合成樹脂からなるフィルムへの透明導電層の形成であり、該合成樹脂からなるフィルムへの透明導電層の形成方法は、可視光線の波長領域での屈折率が0.4以上で2.4以下の性質を持つニッケルないしはアルミニウムからなる金属を熱分解で析出する金属化合物が、無機物の分子ないしはイオンからなる配位子が金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体であり、該無機金属化合物からなる錯体を、メタノールに分散し、該無機金属化合物からなる錯体が分子状態で前記メタノールに分散したメタノール分散液を作成し、メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度がメタノールの粘度より高い第二の性質と、融点が20℃より低い第三の性質と、沸点が、前記無機金属化合物からなる錯体が還元雰囲気で熱分解する温度より低い第四の性質とを兼備するカルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属するいずれか一種類の有機化合物を、前記メタノール分散液に混合し、該有機化合物が前記メタノールに溶解ないしは混和し、該有機化合物が前記メタノール分散液と均一に混ざり合った混合液を作成し、該混合液を、可視光線の波長領域での屈折率が1.3−1.6である第一の性質と、還元雰囲気で熱分解が開始する温度が、前記無機金属化合物からなる錯体が還元雰囲気で熱分解する温度より高い第二の性質を兼備する合成樹脂で構成されたフィルムの片面ないしは両面に塗布ないしは印刷し、該混合液の粘度に応じた厚みからなる塗膜ないしは印刷膜を前記合成樹脂からなるフィルムに形成し、該合成樹脂からなるフィルムを還元雰囲気で熱処理し、前記無機金属化合物からなる錯体を熱分解する、これによって、可視光線の波長領域での屈折率が0.4以上で2.4以下の性質を持つ第一の特徴と、粒子の大きさが可視光線の波長より1桁小さい粒状の微粒子からなる第二の特徴を兼備するニッケルないしはアルミニウムからなる金属微粒子の集まりが、前記混合液の塗布面ないしは印刷面に一斉に析出し、該金属微粒子が前記塗布面ないしは前記印刷面に接合するとともに、該金属微粒子同士が接触部位で互いに金属結合し、該金属結合したニッケルないしはアルミニウムの金属微粒子の集まりからなる透明導電層が、前記合成樹脂からなるフィルムに形成されることを特徴とする、合成樹脂からなるフィルムへの透明導電層の形成方法である。
【0008】
つまり、本特徴手段に依れば、下記に説明する4つ処理を連続して実施すると、可視光線の波長領域での屈折率が0.4以上で2.4以下の性質を持つニッケルないしはアルミニウムからなる第一の特徴と、粒子の大きさが可視光線の波長より1桁小さい微粒子からなる第二の特徴とを兼備するニッケルないしはアルミニウムからなる金属微粒子の集まりが、合成樹脂で構成されたフィルムからなる薄板状の透明基材の片面ないしは両面に一斉に析出し、金属微粒子同士が互いに接触部位で金属結合した金属微粒子の集まりからなる導電層が、吸着物質が気化して清浄化された合成樹脂で構成されたフィルムからなる透明基材に結合する。この導電層は、7割以上の可視光線が導電層に入射し、入射した可視光線は導電層の内部で散乱せず、高い透明性をもって透過する。このため、導電層は、透明性と導電性とを兼備する透明導電層になる。なお、混合液の塗膜ないしは印刷膜を、透明基材の表面と裏面とで互いに異なる形状とすれば、互いに異なる形状の透明導電層が表面と裏面とに形成される。
すなわち、第一に、可視光線の波長領域での屈折率が、0.4以上で2.4以下の性質を持つニッケルないしはアルミニウムからなる金属を熱分解で析出する金属化合物が、還元雰囲気での熱分解でニッケルないしはアルミニウムからなる金属を熱分解で析出する、無機物の分子ないしはイオンからなる配位子が金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体であり、該無機金属化合物からなる錯体をメタノールに分散すると、無機金属化合物からなる錯体が分子状態でメタノールに分散し、金属微粒子の原料が液相化される。第二に、カルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属するいずれか一種類の有機化合物をメタノール分散液に混合すると、有機化合物がメタノールに溶解ないしは混和するため、有機化合物はメタノール分散液と均一に混ざり合う。第三に、混合液を合成樹脂で構成されたフィルムからなる薄板状の透明基材の片面ないしは両面に塗布ないしは印刷すると、混合液の粘度に応じた厚みで塗膜ないしは印刷膜が形成される。第四に、透明基材を熱処理して無機金属化合物からなる錯体を熱分解する。この際、昇温に順じて次の現象が起こる。最初に、メタノールの沸点に達すると、塗膜ないしは印刷膜からメタノールが気化する。この際、無機金属化合物からなる錯体はメタノールに分散するが有機化合物に分散しないため、無機金属化合物からなる錯体の微細結晶が有機化合物中に一斉に析出し、塗膜ないしは印刷膜は微細結晶が有機化合物に均一に析出した懸濁液になる。次に、有機化合物の沸点に達すると、塗膜ないしは印刷膜から有機化合物が気化する。このため、塗膜ないしは印刷膜が無機金属化合物からなる錯体の微細結晶の集まりになる。なお、微細結晶の大きさは、無機金属化合物からなる錯体の熱分解で析出する40−60nmの金属微粒子の大きさに相当する。さらに、無機金属化合物からなる錯体が熱分解する温度に達すると微細結晶が熱分解し、無機金属化合物からなる錯体の微細結晶が、無機物と金属とに分解され、無機物の気化した後に、40−60nmの大きさの粒状微粒子である第一の特徴と、可視光線の波長領域での屈折率が0.4以上で2.4以下の性質を持つニッケルないしはアルミニウムからなる第二の特徴とを兼備する金属微粒子の集まりが、塗膜ないしは印刷膜が形成された透明基材に一斉に析出する。金属微粒子は不純物を持たない活性状態で析出し、金属微粒子同士が互いに接触する部位で金属結合し、金属結合したニッケルないしはアルミニウムからなる金属微粒子の集まりからなる透明導電層が透明基材に形成される。
いっぽう、透明基材の表面は、水分子と水酸基と有機物の汚染物質とが吸着している。従って、これらの吸着物質の上に混合液が塗膜ないしは印刷膜として形成される。このような塗膜ないしは印刷膜が熱処理されると、透明基材の表面に吸着した水分子と水酸基は、塗膜ないしは印刷膜を構成する有機化合物が気化する以前に気化し、さらに、無機金属化合物からなる錯体が熱分解する以前に、有機物からなる汚染物質が気化する。いっぽう、塗膜ないしは印刷膜から様々な物質が気化するため、塗膜ないしは印刷膜は外部より相対的に陽圧になっている。このため、塗膜ないしは印刷膜が形成された透明基材の表面に、不純物が侵入して再度吸着することはない。従って、透明基材の表面は、全ての吸着物質が気化し、表面が清浄化されて活性化した状態を維持する。このような清浄化され活性化された透明基材の表面に、不純物を含まず活性状態にあるニッケルないしはアルミニウムからなる金属微粒子が一斉に析出し、活性状態のニッケルないしはアルミニウムからなる金属微粒子は活性状態の透明基材の表面に接合する。これによって、金属結合したニッケルないしはアルミニウムの金属微粒子の集まりからなる透明導電層が、一定の強度をもって合成樹脂で構成されたフィルムからなる透明基材と結合する。
ところで、可視光線の波長領域で、ニッケルないしはアルミニウムからなる金属の屈折率が0.4以上で2.4以下であるため、空気の屈折率1に近い。このため、7割以上の可視光線が導電層に入射する。さらに、金属微粒子の大きさが可視光線の波長より1桁小さいため、金属微粒子の集まりで可視光線は殆ど散乱せず、高い透明性をもって導電層を透過する。さらに、導電層を透過した可視光線は、透明基材を高い透明性をもって透過する。この結果、透明基材に形成された導電層は透明性を持つ。なお、光線の表面反射率と全光線透過率とは、下記の9段落で説明する。また、微粒子の集まりにおける光の散乱は、下記の10段落で説明する。
本特徴手段に依れば、以下の特徴をもって透明導電層が透明基材に形成される。
第一に、透明導電層は、無機金属化合物からなる錯体をメタノールに分散する処理と、メタノール分散液に有機化合物を混合する処理と、混合液を透明基材に塗布ないしは印刷する処理と、透明基材を熱処理する処理とからなる極めて簡単な4つの処理で製造される。これら4つの処理を連続して実施すると、透明基材に透明性の導電層が形成される。
第二に、原料を加工する処理は熱処理だけであり、メタノールが200℃程度の温度で熱分解するため、耐熱性が低い透明基材を用いることができる。このため、透明基材の材質の制約を受けない。また、原料の加工処理は、極めて簡単な熱処理だけである。
第三に、大きな面積を持つ透明基材でも、透明導電層が形成された透明基材が連続して製造できる。例えば、大面積を持つ透明基材に、混合液を塗布ないしは印刷し、この透明基材を連続して熱処理炉を通過させれば、安価な費用で、透明導電層が形成された大面積の透明基材が連続して製造できる。さらに、大面積の透明基材を必要な大きさに切断すれば、著しく安価な費用で、透明導電層が形成された透明基材が製造できる。
第四に、透明導電層の原料である無機金属化合物からなる錯体とカルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属するいずれか一種類の有機化合物とは、いずれも汎用的な工業用薬品である。このため、安価な原料を用いて透明導電層が製造できる。
第五に、透明基材に混合液を塗布ないしは印刷し、この後熱処理で透明導電層を形成するため、透明基材の表面の洗浄などの事前処理が不要になる。また、有機化合物の粘度と混合液における有機化合物の濃度とに応じて、混合液の粘度が自在に変えられ、塗膜の厚みは自在に変えられる。この結果、透明導電層の厚みは、自在に変えられる。また、混合液を塗布ないしは印刷する透明基材の大きさの制約はない。さらに、混合液のスクリーン印刷によって、透明基材の表面に様々な形状の導電層が直接形成でき、混合液の粘度を低減すれば、導電層の形状と線幅の制約を受けない。
以上に説明したように、本特徴手段に依れば、6段落に記載した6つの要件を満たして、合成樹脂で構成されたフィルムからなる透明基材にニッケルないしはアルミニウムの金属微粒子の集まりからなる透明導電層が形成される。これによって、タッチパネル用透明導電性基材、フレキシブル回路基板、有機ELの透明電極、有機薄膜太陽電池の透明電極やフレキシブルLED電極シートなどに適応できる透明導電層が形成された透明基材が安価に製造できる。
つまり、ニッケルないしはアルミニウムは、可視光線の波長領域(380−750nm)での屈折率が0.4以上で2.4以下である。
すなわち、ニッケルの屈折率は、380nmで1.61、波長が長くなるとと共に増大し、539nmで1.75、709nmで2.21、729nmで2.28、750nmで2.34である。従って、ニッケル微粒子の集まりからなる導電層の表面で、空気とニッケルとの屈折率の違いで光が反射する。この際、導電層への光の透過率は、380nmで89%、539nmで86%、709nmで74%、729nmで72%、750nmで70%になる。また、ニッケル微粒子の大きさは、可視光線の波長より1桁小さい。従って、赤色の可視光線の成分の一部がニッケル導電層の表面で反射されるが、導電層に入り込んだ光は、殆ど散乱することなくニッケル微粒子の集まりを透過する。
また、アルミニウムの屈折率は、800nmで最大の2.80で、波長が短くなるにつれ急減し、750nmで2.40、708nmで1.91、560nmで空気の屈折率1に最も近づき、450nmで0.620、380nmで0.45となる。従って、アルミニウム微粒子の集まりからなる導電層の表面で、空気とアルミニウムとの屈折率の違いで光が反射する。この際、光の透過率は、750nmで69%、708nmで81%、560nmで100%、450nmで89%、380nmで73%である。また、アルミニウム微粒子の大きさは、可視光線の波長より1桁小さい。このため、導電層の表面で、赤色と紫色との可視光線の一部が反射され、導電層に入り込んだ光は、殆ど散乱することなくアルミニウム微粒子の集まりを透過する。
以上に説明したように、金属がアルミニウムの場合では、可視光線を構成する光線の一部が導電層の表面で反射され、この光線に相当する色彩を放つが、導電層は透明性を持つ。また、金属がニッケルの場合は、導電層は無色に近く、また、透明性を持つ。
さらに、透明導電層の表面は、ニッケルないしはアルミニウムの微粒子の集まりで構成されため、微粒子の大きさと材質とに基づく様々な性質を持つ。
第一に、透明導電層の表面は金属微粒子の大きさに基づく凹凸が形成される。表面の凹凸の全表面積は、透明導電層の表面を形成する金属微粒子の数が莫大な数であるため、莫大な広さの表面積を有し、いわゆるフラクタル面に近い面になる。このような導電層に液滴が接触すると、液滴の表面張力によって金属微粒子の大きさの凹凸に液体が入り込めず、液滴の液面は莫大な数の微粒子の凸部と点接触で接する。この結果、導電層の表面は、接触角が180度に近い超撥水性を示し、撥水性と撥油性と防汚性とがもたらされる。
第二に、導電層の表面は金属微粒子を構成するニッケルないしはアルミニウムに近い導電性と熱伝導性とを持つ。このため、導電層は、帯電防止機能と電磁波遮蔽機能と放熱性とを兼備する。
以上に説明したように、透明導電層の表面が金属微粒子の集まりで構成されため、従来の透明基材では得られない金属微粒子の大きさと材質とに基づく優れた性質がもたらされる作用効果が得られる。
また、無機金属化合物からなる錯体は、還元雰囲気の180℃−220℃の比較的低い温度で熱分解がして金属を析出する。また、最も汎用的なアルコールであるメタノールに、10重量%に近い割合で分散する。このため、無機金属化合物からなる錯体は、7段落に記載した混合液を製造する際の原料になる。また、錯体が還元雰囲気で熱分解する温度は、下記に説明する透明性の合成樹脂は熱分解が始まらないため、透明性の合成樹脂からなる安価なフィルムを、透明基材として用いることができる。
すなわち、無機物の分子ないしはイオンからなる配位子が、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体を、還元雰囲気で熱処理すると、配位結合部が最初に分断され、無機物と金属とに分解される。さらに昇温すると、無機物が気化熱を奪って気化し、すべての無機物の気化が完了した後に金属が析出する。つまり、錯体を構成するイオンの中で、分子の中央に位置する金属イオンが最も大きい。このため、金属イオンと配位子との距離が最も長い。従って、錯体を還元雰囲気で熱処理すると、金属イオンが配位子と結合する配位結合部が最初に分断され、金属と無機物とに分解する。さらに温度が上がると、無機物が気化熱を奪って気化し、気化が完了した後に、金属が析出する。この際、無機物が低分子量であるため、無機物の分子量に応じた180−220℃の低い温度で無機物の気化が完了する。このような錯体として、アンモニアNH
3が配位子となって金属イオンに配位結合するアンミン金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体、塩素イオンCl
−が、ないしは塩素イオンCl
−とアンモニアNH
3とが配位子となって金属イオンに配位結合するクロロ金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体、シアノ基CN
−が配位子イオンとなって金属イオンに配位結合するシアノ金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体、臭素イオンBr
−が配位子イオンとなって金属イオンに配位結合するブロモ金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体、沃素イオンI
−が配位子イオンとなって金属イオンに配位結合するヨード金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯体などがある。また、このような分子量が小さい無機金属化合物からなる錯体は、合成が容易で最も安価な金属錯イオンを有する金属錯体である。
また、カルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に、メタ―ノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度がメタ―ノールの粘度より高い第二の性質と、融点が20℃より低い第三の性質と、沸点が無機金属化合物からなる錯体の熱分解温度より低い第四の性質とを兼備する有機化合物がある。このような有機化合物は、いずれも汎用的な工業用薬品である。このため、このような有機化合物は、混合液を製造する際の安価な原料になる。
従って、無機金属化合物からなる錯体のメタノール分散液に、前記した有機化合物のいずれか一種類を混合すると、錯体と有機化合物とが分子状態で均一に混ざり合って混合液が大量に製造される。これによって、安価な工業用薬品である無機金属化合物からなる錯体と、最も汎用的なアルコールであるメタノールと、汎用的な工業用薬品である有機化合物とを原料として用い、大量の混合液が安価な費用で製造される。
また、可視光線の波長領域での屈折率が1.3−1.6の第一の性質を持つ合成樹脂のフィルムは、全光線透過率は90%以上と高い透明性を持つ。なお、合成樹脂の屈折率は、可視光線の波長領域で有効数字の3桁目が僅かに変わるだけで、波長依存性は極めて小さい。
すなわち、合成樹脂は、その元となるポリマーが非結晶性の熱可塑性樹脂である場合は、成形体に粒界が形成されないため、多くの非晶性樹脂が透明性を持つ。しかし、下記に説明する4種類の非晶性の熱可塑性樹脂以外はポリマーの製造費が高いため、大型の成形体を製造する際にはあまり使用されない。いっぽう、結晶性の熱可塑性樹脂でも、その実用状態では非結晶状態または結晶化度が低い、あるいは結晶サイズが微細である場合に透明性を持つ。透明性の樹脂についても、下記に説明する3種類の結晶性の熱可塑性樹脂以外はポリマーの製造費が高いため、大型の成形体を製造する際にはあまり使用されない。
非晶性の熱可塑性樹脂の中で、ポリメチルメタクリル樹脂PMMAは、1.49の屈折率を持つ最も透明度に優れた合成樹脂である。また、ポリカーボネート樹脂PCは、1.58の屈折率を持ちPMMA樹脂に次いで透明度に優れた合成樹脂である。さらに、ポリスチレン樹脂PSは、1.59の屈折率を持つ優れた透明性の合成樹脂である。
結晶性の熱可塑性樹脂の中で、ポリエチレンテレフタレート樹脂PETは、結晶化の速度が遅く、融解したペレットを急冷すると、結晶化が進む前に冷却し、屈折率が1.58の透明性のフィルムになる。また、ポリプロピレン樹脂PPは、結晶化速度が遅く、融解したペレットを急冷すると、結晶化が進む前に冷却し、1.50の屈折率を持つ優れた透明性のフィルムになる。さらに、ポリアミド6樹脂PA6は、結晶化速度がやや遅く、融解したペレットを急冷すると、1.53の屈折率を持つ優れた透明性のフィルムになる。また、ポリエチレン樹脂PEは結晶性で透明性に劣るが、低密度ポリエチレン樹脂LDPEは、結晶性樹脂の中で最も結晶化速度が遅く、透明性のフィルムが得られる。
さらに、ポリ塩化ビニル樹脂PVCは、可塑剤と熱安定剤の種類と添加量を制限すると、1.52−1.53の屈折率を持つ優れた透明性のフィルムが得られる。また、ポリスルホン樹脂PSUは、1.63の屈折率を持つ透明性の合成樹脂であるが、ポリマーが高価で、大面積のフィルムとしてはあまり使用されない。また、PC樹脂と同等の透明性を持つポリアリレート樹脂PAR、透明性のポリエーテルイミド樹脂PEI、琥珀色の透明性を持つポリエーテルサルホン樹脂PESは、高価なポリマーで、大面積のフィルムとしてはあまり使用されない。
また、結晶性樹脂であるポリ塩化ビニリデン樹脂PVDCの成形体は透明性を持つが、大面積のフィルムに用いる事例は少ない。さらに、結晶性のフッ素樹脂は屈折率が低く、透明性が高いフィルムが得られる。例えば、ネオフロンEFEP樹脂(株式会社ダイキン工業の製品名)の屈折率が1.38で、ネオフロンCPT樹脂の屈折率は1.39で、ポリ弗化ビニル樹脂PVFの屈折率は1.46で、三弗化塩化エチレン樹脂PCTFEの屈折率は1.42で、エチレン・四弗化エチレン共重合樹脂ETFEの屈折率は1.40で、四弗化エチレン・六弗化プロピレン共重合樹脂FEPの屈折率は1.34で、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂PFAの屈折率が1.34である。これらのフッ素樹脂によって、優れた透明性のフィルムが得られるが、フッ素樹脂のポリマーは、前記した結晶性のPET樹脂、PP樹脂、PA6樹脂などのポリマーに比べると高価で、大面積のフィルムとしては不向きである。
いっぽう、合成樹脂は、金属化合物が熱分解する熱処理を行なっても熱分解が開始しない第二の性質を持つ。このため、金属化合物を熱分解して導電層を形成させても、合成樹脂の性質は変わらない。すなわち、合成樹脂を昇温すると、所定の温度から合成樹脂の熱分解が開始し、高分子材料である合成樹脂の分子が徐々に断ち切られ、次第に低分子量となって重量が軽減する熱分解が進む。このため、合成樹脂の熱分解が始まると分子構造が変わるため、合成樹脂の性質は不可逆変化する。この合成樹脂の分子構造に変化が始まる温度は、重量変化が始まる温度であるため、熱重量分析(Thermogravimetory略してTG)によって測定される。従って、金属化合物が熱分解する熱処理を行なっても、合成樹脂の熱分解が始まらない第二の性質を合成樹脂が持つため、合成樹脂の性質は変わらない。これによって、金属化合物の熱分解で導電層を形成しても、合成樹脂の性質は変わらない。
ところで、合成樹脂の熱分解反応は、酸素ガスが存在する雰囲気と、還元雰囲気とでは大きく異なる。つまり、酸素ガスが存在する雰囲気での熱分解は、酸化反応に依る熱分解、つまり、燃焼であるため発熱を伴う。この発熱現象が、酸化されやすい、つまり、燃えやすい有機物質からなる合成樹脂の熱分解を促進させる。これに対し、還元雰囲気での熱分解は吸熱反応に依る熱分解で、酸化反応に依る発熱現象が生じない。このため、合成樹脂が熱分解を開始する温度は、酸素ガスが存在する雰囲気に比べて大幅に遅れて高温側にシフトする。例えば、高密度ポリエチレン樹脂の熱分解は、大気雰囲気では250℃で開始するが、窒素雰囲気では400℃と150℃も高温側にシフトする。従って、還元雰囲気での熱処理で金属を析出する金属化合物を金属微粒子の原料として用いる場合は、透明性の合成樹脂からなる安価なフィルムを、透明基材として用いることができる。
ここで、前記した代表的な透明性の非晶性樹脂の大気雰囲気での熱分解を説明する。
すなわち、アクリル樹脂PMMAは、大気雰囲気で熱分解が220℃から始まり、300℃まで進み、400℃を超える温度まで緩やかに進む。次に、ポリカーボネート樹脂PCは、大気雰囲気で420℃から熱分解が開始し、660℃で完了する。さらに、ポリ塩化ビニル樹脂PVCは、大気雰囲気で3段階に分かれて熱分解する。第一段階の250℃から350℃までの熱分解と、第二段階の350−480℃までの熱分解で、有毒の塩化水素HClが乖離して気化し、また、消防法の第4類危険物第1石油類に属する引火点が21℃未満のベンゼンが生成される。第三段階の480−650℃の熱分解で、ポリマーの燃焼によって二酸化炭素ガスと水蒸気が生成され、また、猛毒の一酸化炭素ガスが生成される。
次に、前記した代表的な透明性の結晶性樹脂の大気雰囲気での熱分解を説明する。ポリプロピレン樹脂PPは、熱分解が240℃から始まり400℃まで進み、430℃まで緩やかに進む。さらに、ポリエチレンテレフタレート樹脂PETは、300−500℃での熱分解と500−650℃での二段階に分かれて熱分解する。
以上に説明したように、可視光線の波長領域での屈折率が1.3−1.6の第一の性質と、無機金属化合物からなる錯体が熱分解する熱処理を行なっても熱分解が開始しない第二の性質とを兼備する合成樹脂からなるフィルムは、透明導電層を形成する透明基材として用いることができる。
【0009】
表面反射率と全光線透過率とを説明する。光が基材に入射する際に、空気と基材との屈折率の差に応じて表面反射が生じる。従って、透明のガラスでも表面反射によるロスが発生し、全光線透過率は100%にならない。ちなみに、厚さが2mmのフロートガラスでは、可視光線の波長領域において全光線透過率は約90%である。基材に垂直に入射した光の表面における表面反射率Rは、基材の屈折率nと空気の屈折率mとからなる数式1によって算出される。また、全光線透過率Tは表面反射率Rからなる数式2によって算出される。従って、金属の屈折率が0.4の場合は、導電層に入射する全光線透過率は67%になり、金属の屈折率が2.4の場合は、導電層に入射する全光線透過率は69%となり、7割以上の可視光線が導電層に入射する。
数1
R=(n―m)
2/(n+m)
2
数2
T=(1−R)
2
【0010】
次に、光の散乱を説明する。可視光線が粒子の集まりに照射された際の光の散乱は、数式3に示すレイリー散乱式が適応できる。数式3におけるSは散乱の比率を意味する散乱係数で、λは可視光線の波長で、Dは粒子径で、mは粒子の屈折率で、πは円周率である。従って、散乱係数Sの大きさは、可視光の波長λに対する粒子径Dの比率D/λの4乗に依存し、また、粒子径Dの2乗と、屈折率mにも依存する。金属微粒子の大きさDが、可視光の波長λより1桁小さいため、比率D/λは小さく、また、粒子径Dも十分に小さい。さらに、金属の屈折率mが0.4以上で2.4以下の値である。従って、散乱係数Sは極めて小さく、導電層は高い透明性を示す。
数3
S=4/3・π
5/λ
4・D
6{(m
2−1)/(m
2+1)}
2
【0011】
透明基材への透明導電層の形成が、合成樹脂からなるフィルムへの透明導電層の形成であり、該合成樹脂からなるフィルムへの透明導電層の形成方法は、可視光線の波長領域での屈折率が0.4以上で2.4以下の性質を持つニッケルないしはアルミニウムからなる金属を熱分解で析出する金属化合物が、オクチル酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合したオクチル酸金属化合物であり、該オクチル酸金属化合物を、メタノールに分散し、該オクチル酸金属化合物が分子状態で前記メタノールに分散したメタノール分散液を作成し、前記メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度が前記メタノールの粘度より高い第二の性質と、融点が20℃より低い第三の性質と、沸点が、前記オクチル酸金属化合物が窒素雰囲気で熱分解する温度より低い第四の性質とを兼備するカルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属するいずれか一種類の有機化合物を、前記メタノール分散液に混合し、該有機化合物が前記メタノールに溶解ないしは混和し、該有機化合物が前記メタノール分散液と均一に混ざり合った混合液を作成し、該混合液を、可視光線の波長領域での屈折率が1.3−1.6である第一の性質と、窒素雰囲気で熱分解が開始する温度が、前記オクチル酸金属化合物が窒素雰囲気で熱分解する温度より高い第二の性質を兼備する合成樹脂で構成されたフィルムの片面ないしは両面に塗布ないしは印刷し、該混合液の粘度に応じた厚みからなる塗膜ないしは印刷膜を前記合成樹脂からなるフィルムに形成し、該合成樹脂からなるフィルムを窒素雰囲気で熱処理し、前記オクチル酸金属化合物を熱分解する、これによって、可視光線の波長領域での屈折率が0.4以上で2.4以下の性質を持つ第一の特徴と、粒子の大きさが可視光線の波長より1桁小さい粒状の微粒子からなる第二の特徴を兼備するニッケルないしはアルミニウムからなる金属微粒子の集まりが、前記混合液の塗布面ないしは印刷面に一斉に析出し、該金属微粒子が前記塗布面ないしは前記印刷面に接合するとともに、該金属微粒子同士が接触部位で互いに金属結合し、該金属結合した前記ニッケルないしはアルミニウムの金属微粒子の集まりからなる透明導電層が、前記合成樹脂からなるフィルムに形成されることを特徴とする、
合成樹脂からなるフィルムへの透明導電層の形成方法である。
【0012】
つまり、オクチル酸金属化合物の熱分解温度は、大気雰囲気の290℃であり、カルボン酸金属化合物の中で最も低い。いっぽう、窒素雰囲気でのオクチル酸金属化合物の熱分解温度は、大気雰囲気より50℃高い340℃である。従って、8段落で説明した多くの透明性合成樹脂が窒素雰囲気の340℃では熱分解せず、窒素雰囲気で熱処理することで透明性合成樹脂のフィルムを用いることができる。
すなわち、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物においては、金属イオンが最も大きいイオンであり、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの距離が、他のイオン同士の距離より長くなる。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸金属化合物を大気雰囲気で熱処理すると、カルボン酸の沸点を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの結合部が最初に分断され、カルボン酸と金属とに分離する。さらに、カルボン酸が飽和脂肪酸から構成される場合は、炭素原子が水素原子に対して過剰となる不飽和構造を持たないため、カルボン酸の分子量と数とに応じて、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、気化が完了すると金属が析出する。こうしたカルボン酸金属化合物として、オクチル酸金属化合物、ラウリン酸金属化合物、ステアリン酸金属化合物などがある。なお、オクチル酸の沸点は228℃であり、ラウリン酸の沸点は296℃であり、ステアリン酸の沸点は361℃である。従って、これらのカルボン酸金属化合物は、290−430℃の大気雰囲気で熱分解が完了する。また、メタノールに10重量%に近い割合で分散する。なお、窒素雰囲気でのカルボン酸金属化合物の熱分解は、50℃程度高温側にシフトする。
つまり、カルボン酸金属化合物の中で、オクチル酸金属化合物の熱分解温度は、大気雰囲気の290℃と最も低い。しかし、大気雰囲気の290℃では、8段落で説明したように、多くの透明性の合成樹脂が熱分解を始める。いっぽう、窒素雰囲気でのオクチル酸金属化合物の熱分解温度は、大気雰囲気より50℃高い340℃である。従って、8段落で説明した多くの透明性合成樹脂が窒素雰囲気の340℃では熱分解せず、窒素雰囲気で熱処理することで、透明性の合成樹脂からなるフィルムを、透明基材として用いることができる。
さらに、カルボン酸金属化合物は、容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、最も汎用的な有機酸であるカルボン酸を、強アルカリと反応させるとカルボン酸アルカリ金属化合物が生成され、カルボン酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させると、カルボン酸金属化合物が合成される。従って、有機金属化合物の中で最も安価な有機金属化合物である。このため、8段落で説明した無機金属化合物からなる錯体より熱処理温度が高いが、錯体より安価な金属化合物である。
また、カルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に、メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度がメタ―ノールの粘度より高い第二の性質と、融点が20℃より低い第三の性質と、沸点がカルボン酸金属化合物の熱分解温度より低い第四の性質とを兼備する有機化合物がある。このような有機化合物は、汎用的な工業用薬品である。このため、このような有機化合物は、メタノール分散液との混合液を製造する際の安価な原料になる。
【0013】
透明基材への透明導電層の形成が、フレキシブルガラスへの透明導電層の形成であり、該フレキシブルガラスへの透明導電層の形成方法は、
可視光線の波長領域での屈折率が0.4以上で2.4以下の性質を持つニッケルないしはアルミニウムからなる金属を熱分解で析出する金属化合物が、カルボン酸におけるカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、前記カルボン酸が飽和脂肪酸で構成される第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物であり、該カルボン酸金属化合物をメタノールに分散し、該カルボン酸金属化合物が分子状態で前記メタノールに分散したメタノール分散液を作成し、前記メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度が前記メタノールの粘度より高い第二の性質と、融点が20℃より低い第三の性質と、沸点が、前記カルボン酸金属化合物が大気雰囲気で熱分解する温度より低い第四の性質を兼備するカルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に属するいずれか一種類の有機化合物を、前記メタノール分散液に混合し、該有機化合物が前記メタノールに溶解ないしは混和し、該有機化合物が前記メタノール分散液と均一に混ざり合った混合液を作成し、該混合液を、耐熱性が前記カルボン酸金属化合物が大気雰囲気で熱分解する温度より高く、厚みが0.2mm以下のアルミノホウケイ酸ガラスないしは石英ガラスからなる透明性のフレキシブルガラスの片面ないしは両面に塗布ないしは印刷し、該混合液の粘度に応じた厚みからなる塗膜ないしは印刷膜を前記フレキシブルガラスに形成し、該フレキシブルガラスを大気雰囲気で熱処理して前記カルボン酸金属化合物を熱分解する、これによって、可視光線の波長領域での屈折率が0.4以上で2.4以下の性質を持つ第一の特徴と、粒子の大きさが可視光線の波長より1桁小さい粒状の微粒子からなる第二の特徴を兼備する前記ニッケルないしはアルミニウムからなる金属の金属微粒子の集まりが、前記混合液の塗布面ないしは印刷面に一斉に析出し、該金属微粒子が前記塗布面ないしは前記印刷面に接合するとともに、該金属微粒子同士が接触部位で互いに金属結合し、該金属結合した前記ニッケルないしはアルミニウムの金属の金属微粒子の集まりからなる透明導電層が、前記フレキシブルガラスに形成されることを特徴とする、フレキシブルガラスへの透明導電層の形成方法である。
【0014】
つまり、透明基材を用いてデバイスを製造するプロセスが、透明性の合成樹脂の耐熱温度を超える場合は、一定の温度以下にプロセスを抑える制約が発生する。また、水蒸気や酸素ガスなどに対するガスバリア性が低いため、透明基材を用いてデバイスを製造する際に、ガスバリア層を透明フィルムに形成する必要がある。さらに、熱膨張係数が大きいため、デバイスを製造する際に透明フィルムに反りが発生する場合がある。また、一部の透明フィルムは、経時変化によって透明性が劣化し、黄変が発生する。こうした透明性の合成樹脂からなるフィルムの課題を抜本的に変える透明基材として、アルミノホウケイ酸ガラスないしは石英ガラスなどからなる板厚が0.2mm以下のフレキシブルガラスがある。
すなわち、板厚が0.2mm以下のガラスは、オーバーフロー法で製造したガラスをロール状に巻き取ることができるため、使用原料の低減と軽量化に依る輸送コストの削減と相俟って、安価に製造できる透明基材になる。つまり、オーバーフロー法では、溶解炉から溢れた溶解ガラスが垂れ下がり、垂れ下がったガラスを冷却する過程で薄くし、このガラスをロール状に巻き取ることで、フレキシブルガラスが連続的に製造できる。
ところで、ガラスを曲げた際に引張応力が発生するが、ガラスが破壊する引張応力は50MPaが目安になる。いっぽう、板厚Tのガラスを曲げた際に、曲げられた部位における曲率半径Rと引張応力σとの間には、σ=(E・T/2)/Rの関係がある。ここでEはガラスのヤング率で、アルミノホウケイ酸ガラスのヤング率は73GPaである。従って、0.5mmの板厚では曲率半径が365mmで破壊応力に達し、0.2mmの板厚では破壊応力に達する曲率半径が146mmまで減少し、0.1mmの板厚では曲率半径が73mmまで減少し、0.05mmの板厚では曲率半径が36.5mmまで減少する。従って、板厚が0.2mm以下になると、薄板状のガラスをロール状に巻き取ることができ、フレキシブルガラスが連続的に製造できる。
また、アルミノホウケイ酸ガラスからなるフレキシブルガラスは、30−380℃の平均の熱膨張係数が38×10
−7/Kであり、透明性の合成樹脂PMMA樹脂の4.5−7×10
−5/Kより1桁小さく、昇温した際の寸法安定性に優れる。また、歪点が650℃と高く、650℃の温度まで粘性流動が起こらず固体のガラス状態を保つ。さらに、屈折率が1.52で、可視光線の波長領域における光線透過率は92%であり、最も透明性に優れるPMMA樹脂フィルムと変わらない透明性を持つ。また、無機質の金属酸化物で構成されるため、経時変化に依る透明性の劣化はない。さらに、ガスを透過しないバリア性を持つ。いっぽう、比重が2.46でPMMA樹脂の2倍であるが、板厚が200μm以下と薄いため、透明基材の用途では比重の大きいことは大きな課題にならない。なお、石英ガラスからなるフレキシブルガラスは、熱膨張率が5.5×10
−7/Kで、歪点が1120℃で、屈折率が1.46で、比重が2.2で、いずれもアルミノホウケイ酸ガラスより優れ、ガスのバリア性を持つが、アルミノホウケイ酸ガラスからなるフレキシブルガラスより高価である。
以上に説明したように、板厚が0.2mm以下のフレキシブルガラスは、透明性の合成樹脂からなるフィルムの課題が解決できるため、第二の透明基材になる。
また、二つの特徴を持つカルボン酸金属化合物は、大気雰囲気の290−430℃で熱分解が完了し金属を析出する。また、最も汎用的なアルコールであるメタノールに対し、10重量%に近い濃度で分散する。このため、カルボン酸金属化合物は、7段落に記載した混合液を製造する際の原料になる。なお、オクチル酸金属化合物の熱分解温度は、大気雰囲気の290℃であり、カルボン酸金属化合物の中で最も低い。いっぽう、窒素雰囲気でのオクチル酸金属化合物の熱分解温度は、大気雰囲気より50℃高い340℃である。従って、
8段落で説明した多くの透明性合成樹脂が窒素雰囲気の340℃では熱分解せず、窒素雰囲気で熱処理することで透明性合成樹脂のフィルムを用いることができる。
すなわち、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物においては、金属イオンが最も大きいイオンであり、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの距離が、他のイオン同士の距離より長くなる。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸金属化合物を大気雰囲気で熱処理すると、カルボン酸の沸点を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの結合部が最初に分断され、カルボン酸と金属とに分離する。さらに、カルボン酸が飽和脂肪酸から構成される場合は、炭素原子が水素原子に対して過剰となる不飽和構造を持たないため、カルボン酸の分子量と数とに応じて、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、気化が完了すると金属が析出する。こうしたカルボン酸金属化合物として、オクチル酸金属化合物、ラウリン酸金属化合物、ステアリン酸金属化合物などがある。なお、オクチル酸の沸点は228℃であり、ラウリン酸の沸点は296℃であり、ステアリン酸の沸点は361℃である。従って、これらのカルボン酸金属化合物は、290−430℃の大気雰囲気で熱分解が完了する。また、メタノールに10重量%に近い割合で分散する。なお、窒素雰囲気でのカルボン酸金属化合物の熱分解は、50℃程度高温側にシフトする。
さらに、カルボン酸金属化合物は、容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、最も汎用的な有機酸であるカルボン酸を、強アルカリと反応させるとカルボン酸アルカリ金属化合物が生成され、カルボン酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させると、カルボン酸金属化合物が合成される。従って、有機金属化合物の中で最も安価な有機金属化合物である。このため、
8段落で説明した無機金属化合物からなる錯体より熱処理温度が高いが、錯体より安価な金属化合物である。
また、本特徴手段におけるカルボン酸エステル類、グリコール類ないしはグリコールエーテル類に、メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度がメタ―ノールの粘度より高い第二の性質と、融点が20℃より低い第三の性質と、沸点がカルボン酸金属化合物の熱分解温度より低い第四の性質とを兼備する有機化合物がある。このような有機化合物は、汎用的な工業用薬品である。このため、このような有機化合物は、第二の混合液を製造する際の安価な原料になる。
従って、カルボン酸金属化合物のメタノール分散液に、有機化合物のいずれか一種類を混合すると、カルボン酸金属化合物と有機化合物とが分子状態で均一に混ざり合って、混合液が大量に製造される。これによって、安価な工業用薬品であるカルボン酸金属化合物と、最も汎用的なアルコールであるメタノールと、汎用的な工業用薬品である有機化合物とを原料として用い、大量の混合液が安価な費用で製造される。
【0015】
7段落ないしは11段落に記載した合成樹脂からなるフィルムに形成した透明導電層を介して2枚の合成樹脂からなるフィルムを結合する方法は、7段落ないしは11段落に記載した混合液を、第一の合成樹脂からなるフィルムと第二の合成樹脂からなるフィルムとの双方の片面に塗布ないしは印刷し、前記第一の合成樹脂からなるフィルムに前記混合液が塗布ないしは印刷された片面を、前記第二の合成樹脂からなるフィルムに前記混合液が塗布ないしは印刷されない片面に重ね合わせて積層体とし、該積層体に一定の荷重を加えて熱処理し、前記混合液を構成する無機金属化合物からなる錯体を熱分解する、ないしは、前記混合液を構成するオクチル酸金属化合物を熱分解する、これによって、前記第一の合成樹脂からなるフィルムと前記第二の合成樹脂からなるフィルムとが重なり合った積層面に、7段落ないしは11段落に記載した透明導電層が形成され、該透明導電層を介して前記第一の合成樹脂からなるフィルムと前記第二の合成樹脂からなるフィルムとが結合されることを特徴とする、7段落ないしは11段落に記載した合成樹脂からなるフィルムに形成した透明導電層を介して2枚の合成樹脂からなるフィルムを結合する方法、
ないしは、
13段落に記載したフレキシブルガラスに形成した透明導電層を介して2枚のフレキシブルガラスを結合する方法は、13段落に記載した混合液を、第一のフレキシブルガラスと第二のフレキシブルガラスとの双方の片面に塗布ないしは印刷し、前記第一のフレキシブルガラスに前記混合液が塗布ないしは印刷された片面を、前記第二のフレキシブルガラスに前記混合液が塗布ないしは印刷されない片面に重ね合わせて積層体とし、該積層体に一定の荷重を加えて熱処理し、前記混合液を構成するカルボン酸金属化合物を熱分解する、これによって、前記第一のフレキシブルガラスと前記第二のフレキシブルガラスとが重なり合った積層面に、13段落に記載した透明導電層が形成され、該透明導電層を介して前記第一のフレキシブルガラスと前記第二のフレキシブルガラスとが結合されることを特徴とする、13段落に記載したフレキシブルガラスに形成した透明導電層を介して2枚のフレキシブルガラスを結合する方法。
【0016】
つまり、本方法に依れば、2枚の透明基材からなる積層体に一定の荷重が加えられ、混合液の塗布面ないしは印刷面は、第一の透明基材の表面と第二透明基材の表面とに接した状態を保つ。この混合液の塗膜ないしは印刷膜が熱処理されると、第一特徴手段と同様に、混合液の塗布面ないしは印刷面と接していた第一の透明基材の表面と第二の透明基材の表面とは清浄化されて活性化する。このような清浄化され活性化された双方の透明基材の表面に、不純物を含まず活性状態にある金属微粒子が一斉に析出し、活性状態の金属微粒子は活性状態の双方の透明基材の表面に接合する。これによって、金属結合した金属微粒子の集まりからなる透明導電層が、第一の透明基材と第二の透明基材との双方の表面に結合し、透明導電層を介して、第一の透明基材と第二の透明基材とが結合される。
このような2枚の透明基材の結合体は、例えば、投影型静電容量式のタッチパネルに適応できる。すなわち、第一の透明基材の透明導電層と第二の透明基材の透明導電層とが、投影型静電容量式のタッチパネルの電極を構成し、第二の透明基材が2つの電極に挟まれた絶縁層を構成する。従って、第一の透明基材の表面に応力を加えると、2枚の電極間の静電容量が変化する。つまり、従来の投影型静電容量式のタッチパネルは、透明導電層が形成された2枚の透明基材を貼り合わせて製造するが、本特徴手段における処理を連続して実施することで投影型静電容量式のタッチパネルが製造できる。これによって、2枚の透明基材を貼り合わせる工程が不要になり、透明基材の貼り合わせに伴う誤差がなく、同一の性能を持つ投影型静電容量式のタッチパネルが連続して安価に製造できる。
また、2枚の透明基材の結合体は、2層のプリント板からなるフレキシブルプリント配線板に適応できる。つまり、透明基材をフレキシブル基板で構成し、互いに異なる配線パターンを2枚のフレキシブル基板に形成し、配線パターンによって2枚のフレキシブル基板を結合すれば、2層のフレキシブルプリント配線板になる。ここで、配線パターンは、前記した透明導電層に該当する。同様に、フレキシブル基板の枚数を増やし、互いに異なる配線パターンをフレキシブル基板に形成し、配線パターンによって、フレキシブル基板が接合され、フレキシブルプリント多層配線板が製造される。このフレキシブル多層配線板も、投影型静電容量式のタッチパネルと同様に、連続したプロセスで安価に製造できる。
以上に説明したように、混合液の塗布面ないしは印刷面と接した第一の透明基材の表面と第二透明基材の表面とは、混合液の熱処理に伴い清浄化されて活性化する。こうした清浄化され活性化された双方の透明基材の表面に、不純物を含まず活性状態の金属微粒子が一斉に析出し、活性状態の金属微粒子は活性状態の透明基材の表面に接合する。この結果、金属結合した金属微粒子の集まりからなる透明導電層が2枚の透明基板の表面に結合し、透明導電層を介して2枚の透明基材が結合される。
【0017】
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【0018】
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