(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されているプレス成形方法及びプレス型は、鋼板を曲げ加工する工程中に、略ハット断面形状の側壁部に対して壁高さ方向に圧縮力を付与し、残留応力を除去する技術であるので、側壁部に対して付与する圧縮力によって、薄肉部分が座屈する恐れがあった。そのため、略ハット断面形状の側壁部に対して薄肉部分を形成することは容易ではなかった。
【0008】
また、特許文献2に開示されているテーラードブランク溶接を用いて、素材の段階でハット断面形状の側壁部に薄肉部分を形成した場合、曲げ加工中に、厚肉部分と薄肉部分との接合部から割れが生じる恐れがあった。更に、テーラードブランク溶接のためには、各素材の切断型やレーザー溶接装置等が必要となり、設備費や加工工数が増加する問題もあった。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、車両用メンバー部品における軽量化と高強度化とを容易に両立させるべく、鋼板の高ハイテン化と板厚の部分的薄肉化をプレス加工において実現させることが可能な車両用メンバー部品、及び該車両用メンバー部品を成形するプレス成形方法、並びに該プレス成形方法に用いるプレス型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記課題を解決するための本発明の一態様は、略均一な板厚の鋼板をプレス加工して中央部とその左右両側に起立する側壁部とを備えた略ハット断面形状に形成された車両用メンバー部品であって、
前記側壁部には、前記中央部の左右端から折れ曲がる基端部の板内端縁に形成した第1段差部から先端部まで板内面が板外側へ変位して形成された板内変位面と、前記先端部の板外端縁に形成した第2段差部から前記基端部まで板外面が板内側へ変位して形成された板外変位面とを備え、
前記板内変位面と前記板外変位面とによって前記第1段差部から前記第2段差部までの間に前記中央部の板厚より板厚の薄い薄肉部が形成されていることを趣旨とする。
【0011】
上記態様によれば、側壁部には、中央部から折れ曲がる基端部の板内端縁に形成した第1段差部から先端部まで板内面が板外側へ変位して形成された板内変位面と、先端部の板外端縁に形成した第2段差部から基端部まで板外面が板内側へ変位して形成された板外変位面とを備え、板内変位面と板外変位面とによって第1段差部から第2段差部までの間に中央部の板厚より板厚の薄い薄肉部が形成されているので、車両の強度・剛性面で寄与するために厚い板厚が必要な中央部及びその肩R部と側壁部の基端部及び先端部に厚肉部を残しつつ、板厚を薄くしても車両の強度・剛性を確保し得る側壁部の壁高さ方向中間域(第1段差部から第2段差部までの間)に薄肉部を形成することができる。
【0012】
また、側壁部における薄肉部は、略均一な板厚の鋼板をプレス加工して形成されている。そのため、車両用メンバー部品において、テーラードブランク溶接等の新たな工程、設備を用いることなく、鋼板の高ハイテン化と板厚の部分的薄肉化を簡単に実現させることができる。その結果、車両用メンバー部品における軽量化と高強度化とを容易に両立させることができる。
【0013】
よって、本発明の一態様によれば、車両用メンバー部品における軽量化と高強度化とを容易に両立させるべく、鋼板の高ハイテン化と板厚の部分的薄肉化をプレス加工において実現させることが可能な車両用メンバー部品を提供することできる。
【0014】
(2)(1)に記載された車両用メンバー部品において、
前記側壁部の先端部には、前記薄肉部より板厚の厚いフランジ部が板外側へ延設されていることが好ましい。
【0015】
上記態様によれば、側壁部の先端部には、薄肉部より板厚の厚いフランジ部が板外側へ延設されているので、車両の強度・剛性面で寄与する割合が大きい厚肉部からなるフランジ部を側壁部の先端部に形成することができ、車両用メンバー部品における軽量化と高強度化とをより一層容易に両立させることができる。
【0016】
(3)(1)又は(2)に記載された車両用メンバー部品において、
前記板内変位面の前記板内面に対する変位量と、前記板外変位面の前記板外面に対する変位量とが、同一であることが好ましい。
【0017】
上記態様によれば、板内変位面の板内面に対する変位量と、板外変位面の板外面に対する変位量とが、同一であるので、車両の上下方向に作用する負荷に対して薄肉部を屈曲又は座屈変形させる偏心荷重を低減できる。そのため、所定の強度・剛性を保持しつつ、鋼板の板厚に対する薄肉部の板厚の減少率を増大させることができ、車両用メンバー部品における軽量化と高強度化とをより一層容易に促進させることができる。
【0018】
(4)(1)又は(2)に記載された車両用メンバー部品において、
前記板内変位面は、前記第2段差部で先端部側の板内変位面が薄肉部側の板内変位面より板外側へ変位していることが好ましい。
【0019】
上記態様によれば、板内変位面は、第2段差部で先端部側の板内変位面が薄肉部側の板内変位面より板外側へ変位しているので、第2段差部において側壁部を階段状に屈曲させて、側壁部に形状凍結用の折り曲げ線を形成できる。また、左右の先端部同士の間隔を、左右の基端部同士の間隔より大きく形成できる。そのため、車両用メンバー部品における側壁部のスプリングバック量や反り量を低減しつつ、車両用メンバー部品における軸方向の捻れ剛性等を高めることができる。その結果、車両用メンバー部品における軽量化と高強度化とをより一層向上させることができる。
【0020】
(5)また、本発明の他の態様は、(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された車両用メンバー部品のプレス成形方法において、
前記鋼板を前記中央部の肩R部で曲げ加工して前記側壁部の基端部を形成した後に、前記第1段差部から前記第2段差部までの間で前記鋼板を板厚方向に潰し加工しつつ、プレス方向に扱き加工して前記薄肉部を形成し、最後に前記鋼板を曲げ加工して前記先端部を形成することを趣旨とする。
【0021】
上記態様によれば、鋼板を中央部の肩R部で曲げ加工して側壁部の基端部を形成した後に、第1段差部から第2段差部までの間で鋼板を板厚方向に潰し加工しつつ、プレス方向に扱き加工して薄肉部を形成し、最後に鋼板を曲げ加工して先端部を形成するので、曲げ加工した側壁部における第1段差部から第2段差部までの間で潰し加工と扱き加工とを行い、薄肉部における鋼板の塑性流動を促進させながらその板厚を減少させることができる。そのため、薄肉部における残留応力を鋼板の塑性流動によって均一化でき、曲げ加工に基づく略ハット断面形状の側壁部におけるスプリングバック量や反り量等を低減させることができる。
【0022】
また、薄肉部は、第1段差部から第2段差部までの間で鋼板を板厚方向に潰し加工しつつ、プレス方向に扱き加工して成形するので、薄肉部に壁高さ方向(プレス方向)の座屈変形等が生じる恐れもなく、むしろ、薄肉部の壁高さ方向における素材長が塑性流動に伴って長くなり、鋼板の素材幅を短縮できるという素材幅短縮効果を奏することができる。
【0023】
(6)(5)に記載された車両用メンバー部品のプレス成形方法において、
前記薄肉部の板厚は、前記中央部の板厚に対して35〜45%減少させることが好ましい。
【0024】
上記態様によれば、薄肉部の板厚は、中央部の板厚に対して35〜45%減少させるので、鋼板の塑性流動をより一層促進させることができる。そのため、薄肉部における板内側と板外側の残留応力の差異を、塑性流動の促進によって、より一層低減させることができる。その結果、略ハット断面形状の側壁部におけるスプリングバック量や反り量等をより一層低減させることができる。
【0025】
(7)また、本発明の他の態様は、(4)に記載された車両用メンバー部品のプレス成形方法において、
前記鋼板を前記中央部の肩R部で曲げ加工して前記側壁部の基端部を形成した後に、前記第1段差部で前記鋼板を板厚方向に潰し加工又はプレス方向へ延伸加工すると共に、前記第2段差部で前記鋼板をプレス方向に対して傾斜する方向へ曲げ加工しつつ、更にプレス方向へ曲げ戻し加工することによって、前記第1段差部から前記第2段差部までの間で前記鋼板の板内側と板外側とをプレス方向へ同程度に延伸加工して前記薄肉部を形成すると同時に、前記第2段差部で前記側壁部を階段状に屈曲させて、最後に前記鋼板を曲げ加工して前記先端部を形成することを趣旨とする。
【0026】
上記態様によれば、鋼板を中央部の肩R部で曲げ加工して基端部を形成した後に、第1段差部で鋼板を板厚方向に潰し加工又はプレス方向へ延伸加工すると共に、第2段差部で鋼板をプレス方向に対して傾斜する方向へ曲げ加工しつつ、更にプレス方向へ曲げ戻し加工することによって、第1段差部から第2段差部までの間で鋼板の板内側と板外側とをプレス方向へ同程度に延伸加工して薄肉部を形成すると同時に、第2段差部で側壁部を階段状に屈曲させて、最後に鋼板を曲げ加工して先端部を形成するので、曲げ加工した側壁部における第1段差部から第2段差部までの間で、鋼板の板内側と板外側とが曲げ・曲げ戻し加工によって同程度に延伸し、延伸した分だけ、体積一定の原則の下、板厚が略均一に減少して薄肉部を形成することができる。そのため、鋼板の潰し加工に加えて扱き加工を行うことなく薄肉部を形成できるので、薄肉部の成形に伴う型負荷(曲げ刃のカジリや型開き等)を大幅に低減できる。
【0027】
また、薄肉部における板内側と板外側との間で生じる残留応力の差異を、曲げ加工及び曲げ戻し加工によって、低減できる。すなわち、曲げ加工によって生じる引張応力を、曲げ戻し加工によって生じる圧縮応力によって相殺し、薄肉部における板内側と板外側の残留応力を、それぞれ同程度にできる。そのため、薄肉部における板内側と板外側との間で生じる残留応力の差異が少ないので、略ハット断面形状の側壁部におけるスプリングバック量や反り量等を大幅に低減させることができる。また、第2段差部で側壁部を階段状に屈曲させることによって、側壁部の形状凍結を促進でき、側壁部におけるスプリングバック量等をより一層低減できる。
【0028】
(8)また、本発明の更なる他の態様は、(5)又は(6)に記載されたプレス成形方法に用いるプレス型において、
略ハット断面形状の下型ポンチと、該下型ポンチの側壁に対向して曲げ刃が形成された上型と、該上型に懸架され前記曲げ刃が前記鋼板に当接する以前に前記下型ポンチの上端部に前記鋼板を押圧する上パッドとを備え、
前記下型ポンチの側壁には、前記上端部と交差し前記基端部の板内面と当接する上側壁部と、該上側壁部の下外方で前記板内変位面と当接する第1凸部とが形成され、
前記曲げ刃の側壁には、前記曲げ刃の下端部と交差し前記先端部の板外面と当接する下側壁部と、該下側壁部の上内方で前記板外変位面と当接する第2凸部とが形成されていることを趣旨とする。
【0029】
上記態様によれば、略ハット断面形状の下型ポンチと、該下型ポンチの側壁に対向して曲げ刃が形成された上型と、該上型に懸架され曲げ刃が鋼板に当接する以前に下型ポンチの上端部に鋼板を押圧する上パッドとを備え、下型ポンチの側壁には、上端部と交差し基端部の板内面と当接する上側壁部と、該上側壁部の下外方で板内変位面と当接する第1凸部とが形成され、また、曲げ刃の側壁には、曲げ刃の下端部と交差し先端部の板外面と当接する下側壁部と、該下側壁部の上内方で板外変位面と当接する第2凸部とが形成されているので、上型が下型ポンチに向けて下降するとき、上パッドが鋼板を下型ポンチの上端部に押圧した状態で、上型の曲げ刃が鋼板を折り曲げて下型ポンチの上側壁部に沿わせて略ハット断面形状における側壁部の基端部を形成した後に、第1凸部と第2凸部とが鋼板を板厚方向に狭圧して潰し加工しつつ、第2凸部がプレス方向に扱き加工して、略ハット断面形状の側壁部に薄肉部を形成する。また、最後に、プレス下死点で第1凸部と下側壁部との間で鋼板を狭圧して先端部を形成することができる。なお、第1凸部の上端が鋼板を押圧して第1段差部を形成し、第2凸部の下端が鋼板を押し潰して第2段差部を形成する。上記のように、1回のプレス加工によって略ハット断面形状の側壁部に基端部と薄肉部と先端部とを連続的に形成するので、新たな工程や別のプレス型を追加する必要もない。
【0030】
(9)(8)に記載されたプレス型において、
前記第1凸部の表面には、上下方向へ連続する微小な凹凸状の波模様が形成されていることが好ましい。
【0031】
上記態様によれば、第1凸部の表面には、上下方向へ連続する微小な凹凸状の波模様が形成されているので、第1凸部と第2凸部とが鋼板を板厚方向に狭圧して潰し加工し、かつ第2凸部がプレス方向に扱き加工を行うとき、第1凸部の表面に形成された微小な凹凸状の波模様によって側壁部の板内変位面を上下方向により多く引き伸ばすことができる。そのため、中央部(又は鋼板)の板厚に対する薄肉部の板厚の減少率が少なく、鋼板の板内側に圧縮応力が生じやすい場合においても、側壁部の板内変位面に波模様によって引張応力を付加させることができ、板内外における残留応力の差異を低減して、略ハット断面形状の側壁部におけるスプリングバック量や反り量等を低減させることができる。
【0032】
(10)(8)に記載されたプレス型において、
前記下型ポンチは、台座部と一体化されたポンチ上部と、前記ポンチ上部からプレス方向へ離間可能に形成されたポンチ下部とからなり、
前記上側壁部は、前記ポンチ上部の側壁上部に形成され、
前記第1凸部は、前記ポンチ上部の側壁下部に形成された上凸部と、前記ポンチ下部の側壁上部に形成された下凸部とに分割して形成され、
前記ポンチ下部は、前記第2凸部と前記下凸部とが略同一高さになる位置まで前記上型が下降したときから、前記上型の下降動作に同期してプレス方向へ移動することが好ましい。
【0033】
上記態様によれば、下型ポンチは、台座部と一体化されたポンチ上部と、ポンチ上部から下方向へ離間可能に形成されたポンチ下部とからなり、上側壁部は、ポンチ上部の側壁上部に形成され、第1凸部は、ポンチ上部の側壁下部に形成された上凸部と、ポンチ下部の側壁上部に形成された下凸部とに分割して形成され、また、ポンチ下部は、第2凸部と下凸部とが略同一高さになる位置まで上型が下降したときから、上型の下降動作に同期してプレス方向(下方)へ移動するので、上型が下型ポンチに向けて下降するとき、上パッドが鋼板をポンチ上部の上端部に押圧した状態で、上型の曲げ刃が鋼板を折り曲げてポンチ上部の上側壁部に沿わせて略ハット断面形状における側壁部の基端部を形成した後に、曲げ加工の途中から上凸部と第2凸部とが鋼板を板厚方向に狭圧して潰し加工しつつ、第2凸部がプレス方向に扱き加工することによって、略ハット断面形状の側壁部に薄肉部の上部(一部)を形成し、さらに、下凸部と第2凸部とが鋼板を板厚方向に狭圧して潰し加工しつつ、プレス方向に扱き加工することによって、略ハット断面形状の側壁部に薄肉部の下部(残りの部分)を連続して形成し、下死点で先端部を形成することができる。ここでは、上凸部の上端が鋼板を押圧して第1段差部を形成する。
【0034】
なお、略ハット断面形状の側壁部に薄肉部の下部(残りの部分)を連続して形成するときには、下凸部と第2凸部とが同期してプレス方向(下方)へ移動して、薄肉部の下部(残りの部分)の板内変位面と板外変位面とを同時にプレス方向に扱き加工する。そのため、薄肉部の板内変位面と板外変位面には、同程度の引張応力を付加させることができ、板内外における残留応力の差異を低減して、略ハット断面形状の側壁部におけるスプリングバック量や反り量等を低減させることができる。
【0035】
(11)(8)に記載されたプレス型において、
前記下型ポンチは、下型本体と一体化されたポンチ上部と、前記ポンチ上部からプレス方向へ離間可能に形成されたポンチ下部とからなり、
前記上側壁部は、前記ポンチ上部の側壁に形成され、
前記第1凸部は、前記ポンチ下部の側壁上部に形成され、
前記ポンチ下部は、前記第1凸部と前記第2凸部とが略同一高さになる位置まで前記上型が下降したときから、前記上型の下降動作に同期してプレス方向へ移動することが好ましい。
【0036】
上記態様によれば、下型ポンチは、下型本体と一体化されたポンチ上部と、ポンチ上部からプレス方向へ離間可能に形成されたポンチ下部とからなり、上側壁部は、ポンチ上部の側壁に形成され、第1凸部は、ポンチ下部の側壁上部に形成され、また、ポンチ下部は、第1凸部と第2凸部とが略同一高さになる位置まで上型が下降したときから、上型の下降動作に同期してプレス方向(下方)へ移動するので、上型が下型ポンチに向けて下降するとき、上パッドが鋼板をポンチ上部の上端部に押圧した状態で、上型の曲げ刃が鋼板を折り曲げてポンチ上部の上側壁部に沿わせて略ハット断面形状における側壁部の基端部を形成した後に、プレス加工の途中から第1凸部と第2凸部とが鋼板を板厚方向に狭圧して潰し加工しつつ、プレス方向に扱き加工することによって、略ハット断面形状の側壁部に薄肉部を形成し、下死点で先端部を形成することができる。
【0037】
なお、側壁部に薄肉部を形成するときには、第1凸部と第2凸部とが同期してプレス方向(下方)へ移動して、薄肉部の板内変位面と板外変位面とを同時にプレス方向に扱き加工する。そのため、薄肉部の板内変位面と板外変位面には、同程度の引張応力を付加させることができ、板内外における残留応力の差異を低減して、略ハット断面形状の側壁部におけるスプリングバック量や反り量等を低減させることができる。
【0038】
(12)(10)又は(11)に記載されたプレス型において、
前記ポンチ下部には、前記曲げ刃の下端部と対向して形成され、前記第1凸部と前記第2凸部とが略同一高さになる位置まで前記上型が下降したとき、前記鋼板を前記曲げ刃の下端部に沿わせるように押圧するしわ押さえ部を備えたことが好ましい。
【0039】
上記態様によれば、ポンチ下部には、曲げ刃の下端部と対向して形成され、第1凸部と第2凸部とが略同一高さになる位置まで上型が下降したとき、鋼板を曲げ刃の下端部に沿わせるように押圧するしわ押さえ部を備えたので、鋼板は、ポンチ下部のしわ押さえ部に押圧されて曲げ刃の肩R部で曲げ加工され、更に曲げ刃の下側壁部に沿うように曲げ戻し加工された後に、第1凸部と第2凸部とによって板厚方向に潰し加工され、かつプレス方向に扱き加工されることになる。そのため、曲げ加工及び曲げ戻し加工を経て板厚が薄くなった鋼板を、第1凸部と第2凸部とによって板厚方向に潰し加工しつつ、プレス方向に扱き加工することによって、略ハット断面形状の側壁部に薄肉部を形成することができる。したがって、薄肉部を形成する第1凸部と第2凸部とに対する減肉に伴う型負荷を軽減しながら、略ハット断面形状の側壁部におけるスプリングバック量や反り量等を低減させることができる。
【0040】
(13)また、本発明の更なる他の態様は、(7)に記載されたプレス成形方法に用いるプレス型において、
略ハット断面形状の下型ポンチと、該下型ポンチの側壁に対向して曲げ刃が形成された上型と、該上型に懸架され曲げ刃が鋼板に当接する以前に下型ポンチの上端部に鋼板を押圧する上パッドとを備え、
下型ポンチは、台座部と一体化されたポンチ上部と、前記ポンチ上部からプレス方向へ離間可能に形成されたポンチ下部とからなり、
前記ポンチ上部の側壁には、前記上端部と交差し前記基端部の板内面と当接する上側壁部が形成され、
前記ポンチ下部の側壁には、基端部側の前記板内変位面と当接又は対向する第1凹部と、該第1凹部の下外方で先端部側の前記板内変位面と当接する第1凸部と、前記第1凹部と前記第1凸部とを傾斜状に連結し前記第2段差部における板内変位面と当接する第1傾斜部とが形成され、
前記曲げ刃の側壁には、該曲げ刃の下端部と交差し前記先端部の板外面と当接又は対向する下側壁部と、該下側壁部の上内方で基端部側の前記板外変位面と当接する第2凸部と、前記下側壁部と前記第2凸部とを傾斜状に連結し前記第2段差部における板外変位面と当接する第2傾斜部とが形成され、
前記ポンチ下部は、前記第1凹部と前記第2凸部とが略同一高さになる位置まで前記上型が下降したときから、前記上型の下降動作に同期してプレス方向へ移動することを趣旨とする。
【0041】
上記態様によれば、略ハット断面形状の下型ポンチと、該下型ポンチの側壁に対向して曲げ刃が形成された上型と、該上型に懸架され曲げ刃が鋼板に当接する以前に下型ポンチの上端部に鋼板を押圧する上パッドとを備え、下型ポンチは、台座部と一体化されたポンチ上部と、ポンチ上部からプレス方向へ離間可能に形成されたポンチ下部とからなり、また、ポンチ上部の側壁には、上端部と交差し基端部の板内面と当接する上側壁部が形成され、ポンチ下部の側壁には、基端部側の板内変位面と当接又は対向する第1凹部と、該第1凹部の下外方で先端部側の板内変位面と当接する第1凸部と、第1凹部と第1凸部とを傾斜状に連結し第2段差部における板内変位面と当接する第1傾斜部とが形成され、また、曲げ刃の側壁には、該曲げ刃の下端部と交差し先端部の板外面と当接又は対向する下側壁部と、該下側壁部の上内方で基端部側の板外変位面と当接する第2凸部と、下側壁部と第2凸部とを傾斜状に連結し第2段差部における板外変位面と当接する第2傾斜部とが形成され、また、ポンチ下部は、第1凹部と第2凸部とが略同一高さになる位置まで上型が下降したときから、上型の下降動作に同期してプレス方向へ移動するので、略ハット断面形状の側壁部に以下のように基端部と薄肉部と先端部1とが形成される。
【0042】
すなわち、上型が下型ポンチに向けて下降するとき、上パッドが鋼板Wを下型ポンチの上端部に押圧した状態で、上型の曲げ刃が鋼板を折り曲げてポンチ上部の上側壁部に沿わせて略ハット断面形状における側壁部の基端部を形成した後に、ポンチ下部の第1凹部と曲げ刃の第2凸部との間で鋼板を潰し加工し、又は曲げ刃の第2凸部によって鋼板をプレス方向へ延伸加工して第1段差部を形成する。また、プレス加工の途中で、ポンチ下部の第1凸部と曲げ刃の下側壁部との間でプレス方向へ曲げ戻し加工された鋼板は、第1傾斜部と第2傾斜部との間を通過するとき、プレス方向に対して傾斜する方向へ曲げ加工され、更にポンチ下部の第1凹部と曲げ刃の第2凸部との間を通過するとき、プレス方向へ曲げ戻し加工されて、徐々に板厚を減少させ、薄肉部として形成される。また、プレス下死点では、ポンチ下部の第1凸部と曲げ刃の下側壁部との間でプレス方向へ曲げ戻し加工された鋼板が、先端部として形成される。そのため、略均一な板厚の鋼板から曲げ加工及び曲げ戻し加工を経て、略ハット断面形状の側壁部に薄肉部と先端部とを形成することができる。その結果、薄肉部を形成する曲げ刃等の型負荷を大幅に軽減できる。また、1回のプレス加工によって、略ハット断面形状の側壁部に基端部と薄肉部と先端部とを連続的に形成するので、新たな工程や別のプレス型を追加する必要もない。
【0043】
(14)(13)に記載されたプレス型において、
前記ポンチ下部には、前記曲げ刃の下端部と対向して形成され、前記第1凹部と前記第2凸部とが略同一高さになる位置まで前記上型が下降したとき、前記鋼板を前記曲げ刃の下端部に沿わせるように押圧するしわ押さえ部を備えたことが好ましい。
【0044】
上記態様によれば、ポンチ下部には、曲げ刃の下端部と対向して形成され、第1凹部と第2凸部とが略同一高さになる位置まで上型が下降したとき、鋼板を曲げ刃の下端部に沿わせるように押圧するしわ押さえ部を備えたので、鋼板は、ポンチ下部のしわ押さえ部に押圧されて曲げ刃の肩R部でプレス方向と直交する方向へ曲げ加工され、更に曲げ刃の下側壁部に沿うようにプレス方向へ曲げ戻し加工された後に、第1傾斜部と第2傾斜部とを通過するとき、プレス方向に対して傾斜する方向へ曲げ加工され、更にポンチ下部の第1凹部と曲げ刃の第2凸部との間を通過するとき、プレス方向へ曲げ戻し加工されて、徐々に板厚を減少させ、薄肉部として形成される。この場合、曲げ・曲げ戻し加工の回数が増加するので、薄肉部の成形に対する曲げ刃等の型負荷が分散されて、より一層、略ハット断面形状の側壁部に薄肉部を簡単に形成することができる。また、薄肉部の板内外における残留応力の差異をより一層低減して、略ハット断面形状の側壁部におけるスプリングバック量や反り量等を低減させることができる。
【0045】
(15)(14)に記載されたプレス型において、
前記ポンチ下部と前記曲げ刃との間には、前記しわ押さえ部と前記曲げ刃の下端部との隙間を調節するディスタンスブロックを装着することが好ましい。
【0046】
上記態様によれば、ポンチ下部と曲げ刃との間には、しわ押さえ部と曲げ刃の下端部との隙間を調節するディスタンスブロックを装着するので、しわ押さえ部と曲げ刃の下端部との間に挟まれた鋼板の引張力を調節して、曲げ・曲げ戻し加工に伴う鋼板の板厚減少量と残留応力とを、簡単に制御することができる。そのため、薄肉部を所望の板厚で形成しながら、略ハット断面形状の側壁部におけるスプリングバック量や反り量等をより一層低減させることができる。
【0047】
(16)(10)乃至(15)のいずれか1つに記載されたプレス型において、
前記ポンチ下部は、前記ポンチ上部に対して左右対称に分割して形成され、分割された前記ポンチ下部と該ポンチ下部と対向する前記曲げ刃とが、略ハット断面形状の軸方向に沿って前記台座部に形成された同一のガイド部材に案内されていることが好ましい。
【0048】
上記態様によれば、ポンチ下部は、ポンチ上部に対して左右対称に分割して形成され、分割されたポンチ下部と該ポンチ下部と対向する曲げ刃とが、略ハット断面形状の軸方向に沿って台座部に形成された同一のガイド部材に案内されているので、ポンチ下部と曲げ刃の型撓みを同一のガイド部材によって抑制して、鋼板に対する隙間(曲げクリアランス)を略一定に維持することができる。そのため、曲げ・曲げ戻し加工に伴う鋼板の板厚減少量と残留応力とを、安定して制御することができる。その結果、軸方向(車両前後方向)に延設された略ハット断面形状の側壁部における薄肉部を、所定の板厚で形成しながら、スプリングバック量や反り量等を低減させることができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、車両用メンバー部品における軽量化と高強度化とを容易に両立させるべく、鋼板の高ハイテン化と板厚の部分的薄肉化をプレス加工において実現させることが可能な車両用メンバー部品、及び該車両用メンバー部品を成形するプレス成形方法、並びに該プレス成形方法に用いるプレス型を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0051】
次に、本発明の実施形態に係る車両用メンバー部品及びそのプレス成形方法並びにプレス型について、図面を参照して詳細に説明する。はじめに、本実施形態に係る第1実施例の車両用メンバー部品の構造を説明し、その後、本第1実施例の車両用メンバー部品を成形する第1〜第3のプレス成形方法、並びに該プレス成形方法に用いる第1〜第3のプレス型について説明する。次に、プレス加工後の本第1実施例の車両用メンバー部品における応力分布のCAE解析結果について、板厚差を生じない従来方法で曲げ加工した場合と比較して説明する。また、本車両用メンバー部品の側壁部におけるスプリングバック量、反り量のCAE解析結果について、従来方法で曲げ加工した場合と比較して説明する。さらに、本実施形態に係る第2実施例の車両用メンバー部品の構造を説明し、その後、本第2実施例の車両用メンバー部品を成形する第4のプレス成形方法、並びに該プレス成形方法に用いる第4のプレス型について説明する。また、プレス加工後の本第2実施例の車両用メンバー部品における応力分布のCAE解析結果、及び側壁部におけるスプリングバック量、反り量のCAE解析結果について説明する。また、上述したプレス成形方法及びプレス型の変形例について説明する。
【0052】
<第1実施例の車両用メンバー部品の構造>
まず、本実施形態に係る第1実施例の車両用メンバー部品の構造を、
図1、
図2を用いて説明する。
図1に、本発明の実施形態に係る第1実施例の車両用メンバー部品(車両取付け状態)の部分斜視図を示す。
図2に、
図1に示す第1実施例の車両用メンバー部品の断面図を示す。ここで、
図1に示す上下、左右、前後の方向矢印は、車両用メンバー部品を車両に取り付けた状態における上下、左右、前後の方向を表す。
【0053】
図1、
図2に示すように、本実施形態に係る第1実施例の車両用メンバー部品10は、略均一な板厚の鋼板をプレス加工して中央部2とその左右両側に起立する側壁部1とを備えた略ハット断面形状に形成された車両用メンバー部品であって、側壁部1には、中央部2の左右端から折れ曲がる基端部12の板内端縁に形成した第1段差部121から先端部11まで板内面1aが板外側へ略平行に変位して形成された板内変位面31と、先端部11の板外端縁に形成した第2段差部111から基端部12まで板外面1bが板内側へ略平行に変位して形成された板外変位面32とを備え、板内変位面31と板外変位面32とによって第1段差部121から第2段差部111までの間に中央部2の板厚t0より板厚t3の薄い薄肉部3が形成されている。なお、第1段差部121と第2段差部111は、傾斜状又は円弧状に板厚が変化するように形成されている。また、中央部2の板厚t0は、曲げ加工に伴う板厚変化が殆ど生じなく、鋼板Wの板厚t0と略同一である。例えば、鋼板Wの引張強度:590Mpaで、板厚:2.6mmの場合、薄肉部3の板厚t3を1.6mmとする車両用メンバー部品10を形成することができる。なお、鋼板Wの引張強度及び板厚、薄肉部の板厚は、上記に限定されることはない。
【0054】
また、側壁部1の先端部11には、薄肉部3より板厚t4の厚いフランジ部13が板外側へ延設されている。この場合、先端部11は、フランジ部13を含めてL字状に形成され、フランジ部13は、例えば、
図1に示すように、車体Sの床部品20に接合されている。車両用メンバー部品10は、フランジ部13が車体Sの床部品20と接合されて、車両上下方向に長い長方形状のボックス断面を形成している。車両用メンバー部品10は、車体Sの車両左右方向の両側部に配置され、車両前後方向(軸方向)に延設されて、車両の強度・剛性を確保する骨格部材として利用されている。ここでは、車両の強度・剛性面で寄与するために厚い板厚が必要な中央部2及びその肩R部21と、フランジ部13及びその肩R部131と、側壁部1の先端部11及び基端部12とに、それぞれ厚肉部を残しつつ、板厚を薄くしても車両の強度・剛性を確保し得る側壁部1の壁高さ方向(上下方向)の中間域Zに薄肉部3を形成している。
【0055】
また、板内変位面31の板内面1aに対する変位量t1と、板外変位面32の板外面1bに対する変位量t2は、鋼板の板厚や引張強度、床部品等と接合されて形成されるボックス断面の断面係数等に応じて任意に設定し得るが、両者(t1、t2)が同一であることが好ましい。ただし、上記「同一」は、実質的な同一を意味するのであり、例えば、強度・剛性面で微差である程度の相違は含まれる。板内変位面31の板内面1aに対する変位量t1と、板外変位面32の板外面1bに対する変位量t2とを実質的な意味で同一に形成することによって、車両の上下方向に作用する負荷に対して薄肉部3を屈曲又は座屈変形させる偏心荷重を低減できる。これによって、所定の強度・剛性を確保しつつ、薄肉部3の板厚減少率を高めて、より一層軽量化することができる。
【0056】
<第1実施例の車両用メンバー部品を成形するプレス方法及びプレス型>
次に、第1実施例の本車両用メンバー部品を成形する第1〜第3のプレス方法及び第1〜第3のプレス型について、
図2〜
図9を用いて説明する。
図2に、
図1に示す第1実施例の車両用メンバー部品の断面図を示す。
図3に、
図2に示す車両用メンバー部品の略ハット断面形状の側壁部に薄肉部を成形する第1のプレス成形方法に係る詳細断面図を示す。
図4に、
図3に示す第1のプレス成形方法に用いるプレス型(第1のプレス型)の概略断面図であって、(A)は鋼板を略ハット断面形状の中央部の肩R部で曲げ加工した状態の断面図を示し、(B)は略ハット断面形状の側壁部に薄肉部を成形している途中の断面図を示し、(C)は下死点で加工完了した状態の断面図を示す。
図5に、
図3に示す第1のプレス成形方法及び
図4に示す第1のプレス型の変形例に係る詳細断面図を示す。
図6に、
図2に示す車両用メンバー部品の略ハット断面形状の側壁部に薄肉部を成形する第2のプレス成形方法に係る詳細断面図を示す。
図7に、
図6に示す第2のプレス成形方法に用いるプレス型(第2のプレス型)の概略断面図であって、(A)は鋼板を略ハット断面形状の中央部の肩R部で曲げ加工した状態の断面図を示し、(B)は略ハット断面形状の側壁部に薄肉部を成形している途中の断面図を示し、(C)は下死点で加工完了した状態の断面図を示す。
図8に、
図2に示す車両用メンバー部品の略ハット断面形状の側壁部に薄肉部を成形する第3のプレス成形方法に係る詳細断面図を示す。
図9に、
図8に示す第3のプレス成形方法に用いるプレス型(第3のプレス型)の概略断面図であって、(A)は鋼板を略ハット断面形状の中央部の肩R部で曲げ加工した状態の断面図を示し、(B)は略ハット断面形状の側壁部に薄肉部を成形している途中の断面図を示し、(C)は下死点で加工完了した状態の断面図を示す。
【0057】
(第1のプレス成形方法及び第1のプレス型)
図2〜
図4に示すように、本車両用メンバー部品10の第1のプレス成形方法は、例えば、第1のプレス型30を用いて、鋼板Wを中央部2の肩R部21で折り曲げ加工して側壁部1の基端部12を形成した後に、第1段差部121から第2段差部111までの間で鋼板Wを板厚方向に潰し加工しつつ、プレス方向に扱き加工して、薄肉部3を形成し、最後に鋼板を曲げ加工して前記先端部を形成する方法である。本第1のプレス成形方法によれば、側壁部1における第1段差部121から第2段差部111までの間で鋼板Wの塑性流動を促進させながら鋼板Wの板厚を減少させることができる。そのため、薄肉部3における残留応力を鋼板Wの塑性流動によって略均一化でき、略ハット断面形状の側壁部1におけるスプリングバック量や反り量等を低減させることができる。また、薄肉部3は、第1段差部121と第2段差部111との間で鋼板Wを板厚方向に潰し加工しつつ、プレス方向に扱き加工して成形するので、薄肉部3に壁高さ方向(プレス方向)の座屈変形等が生じる恐れもなく、むしろ、薄肉部3の壁高さ方向における素材長が塑性流動に伴って長くなり、鋼板の素材幅を短縮できるという素材幅短縮効果を奏することができる。
【0058】
また、第1のプレス型30には、略ハット断面形状の下型ポンチ4と、該下型ポンチ4の側壁に対向して曲げ刃5が形成された上型6と、上型6に懸架され曲げ刃5が鋼板Wに当接する以前に下型ポンチ4の上端部43に鋼板Wを押圧する上パッド7とを備えている。上型6には、上パッド7に押圧力を発生させる加圧部材(弾性部材又はガスユニット等)71が装着されている。また、下型ポンチ4の側壁には、上端部43と交差し基端部12の板内面1aと当接する上側壁部41と、上側壁部41の下外方で板内変位面31と当接成する第1凸部42とが形成され、曲げ刃5の側壁には、曲げ刃5の下端部54と交差し先端部11の板外面1bと当接する下側壁部51と、下側壁部51の上内方で板外変位面32と当接成する第2凸部52とが形成されている。なお、下型ポンチ4の上側壁部41と、曲げ刃5の下側壁部51との間には、鋼板Wの板厚t0と同程度の型クリアランスが形成されている。
【0059】
また、第1凸部42は、下型ポンチ4の上側壁部41に対して略平行に板外側へ突出して形成されている。第1凸部42の上端421は、車両用メンバー部品10の第1段差部121に対応する位置に、垂直面に対して略40〜50度程度傾斜する傾斜面として形成されている。また、第2凸部52は、曲げ刃5の下側壁部51に対して略平行に板内側へ突出して形成されている。第2凸部52の下端523は、車両用メンバー部品10の第2段差部111に対応する位置に、略円弧状面として形成されている。第2凸部52の下端523と曲げ刃5の下側壁部51との間には、油溝522が形成されている。
【0060】
上述した第1のプレス型30を用いて、本車両用メンバー部品10を以下のようにプレス成形する。すなわち、まず、
図4(A)に示すように、平板状の鋼板Wを下型ポンチ4の上端部43に載置した後、上型6を下降させ、上パッド7が鋼板Wを下型ポンチ4の上端部43に押圧した状態で、曲げ刃5のダイR部53が、鋼板Wを中央部2の肩R部21で折り曲げ加工する。なお、下型ポンチ4の起立する台座部44には、鋼板Wを折り曲げたときの側壁部1の反り量を低減させるべく、逃げ面441が形成されている。
【0061】
次に、
図3、
図4(B)に示すように、曲げ刃5のダイR部53が、鋼板Wを中央部2の肩R部21で折り曲げ加工して基端部12を形成した状態から、上型6を更に下降させる。曲げ刃5の第2凸部52が下型ポンチ4の第1凸部42と略同一高さになると、はじめに、第1凸部42の上端421が鋼板Wを押圧して基端部12の板内外縁に第1段差部121を形成する。その後、鋼板Wに対する板厚方向への狭圧力P1、P2が大幅に増大し、その面圧が冷間鍛造の領域に到達する。すなわち、曲げ刃5の第2凸部52と下型ポンチ4の第1凸部42とが鋼板Wを冷間鍛造の狭圧力P1、P2で狭圧することによって、第1段差部121から第2段差部111までの間で鋼板Wが板厚方向に潰し加工される。そして、鋼板Wに対する第2凸部52による下方への扱き力P3が、側壁部1の壁高さ方向(プレス方向)への鋼板Wの塑性流動を促すことになる。
【0062】
一方、上パッド7が鋼板Wを下型ポンチ4の上端部43に所定の加圧力P0で押圧し、第1凸部42の上端421によって車両用メンバー部品10の第1段差部121が堰として形成されているので、略ハット断面形状の中央部2及び側壁部1の基端部12側からの材料流入は阻害される。したがって、曲げ刃5の第2凸部52が、下型ポンチ4の第1凸部42と略同一高さから下方へ移動するに従って、略ハット断面形状の側壁部1の材料を下方へ押し出しながら、第1段差部121の下方に薄肉部3を形成する。このとき、薄肉部3は、壁高さ方向への鋼板Wの塑性流動が促進されて形成されるので、薄肉部3の壁高さ方向(プレス方向)における残留応力を、板厚差を生じさせない従来の曲げ加工に比較して大幅に低減させることができる。
【0063】
次に、
図4(C)に示すように、上型6が更に下降して、プレス下死点に到達すると、曲げ刃5の下側壁部51と下型ポンチ4の第1凸部42との間で鋼板Wが狭圧されることによって、薄肉部3の下方に先端部11が形成される。また、曲げ刃5の下端部54が鋼板Wを下型ポンチ4の台座部44の上端部442に押圧する。このとき、略ハット断面形状の側壁部1の先端部11には、薄肉部3より板厚の厚いフランジ部13が板外側へ延設されて形成されて、本第1実施例の車両用メンバー部品10が形成される。なお、曲げ刃5の第2凸部52の下端523に先端部11の板外端縁が押圧されることよって、車両用メンバー部品10の薄肉部3と先端部11との境界に第2段差部111が形成される。
【0064】
なお、薄肉部3の板厚t3が、中央部2の板厚t0に対して35〜45%程度減少している場合、鋼板Wの塑性流動をより一層均一に促進させることができる。そのため、薄肉部3における板内側と板外側の残留応力の差異をより一層低減させることができる。その結果、略ハット断面形状の側壁部1におけるスプリングバックや反り等をより一層低減させることができる。
【0065】
また、中央部2の板厚t0に対する薄肉部3の板厚t3の減少率が、例えば20%程度である場合には、
図5に示すように、上述した第1のプレス型30の変形例として、下型ポンチ4の第1凸部42の表面に、上下方向へ連続する微小な凹凸状の波模様422を形成することが好ましい。第1凸部42の波模様422によって、薄肉部3の板内変位面31を上下方向へ延伸させることができる。そのため、薄肉部3の板厚t3の減少率が少なく、鋼板Wの板内側に圧縮応力が残留する場合でも、薄肉部3の板内変位面31に波模様422によって引張応力を付加して圧縮応力をキャンセルさせ、板内外における残留応力の差異を低減させることができる。なお、波模様422は、例えば、深さd1が0.3〜0.5mm程度で、ピッチd2が2〜4mm程度が好ましい。また、同じく変形例として、曲げ刃5の第2凸部52は、その下端523を車両用メンバー部品10の第2段差部111に対応する位置に略円弧状面として形成し、第2凸部52の上部は、板外側へ僅かに変位した逃し面521として形成することが好ましい。逃し面521を形成することによって、鋼板Wとの摩擦を減らして型傷を防止すると共に、薄肉部3における板外側の残留応力を減少させることができるからである。
【0066】
(第2のプレス成形方法及び第2のプレス型)
図2、
図6、
図7に示すように、本車両用メンバー部品10の第2のプレス成形方法は、例えば、第2のプレス型30Bを用いて、鋼板Wを中央部2の肩R部21で折り曲げ加工して側壁部1の基端部12を形成した後に、第1段差部121から第2段差部111までの間で鋼板Wを板厚方向に狭圧して潰し加工しつつ、プレス方向に扱き加工して、薄肉部3を形成し、最後に鋼板Wを曲げ加工して先端部11を形成する方法である。第2のプレス成形方法の加工原理は、上述した第1のプレス成形方法と基本的に同様である。
【0067】
また、第2のプレス型30Bには、略ハット断面形状の下型ポンチ4Bと、該下型ポンチ4Bの側壁に対向して曲げ刃5Bが形成された上型6Bと、該上型6Bに懸架され曲げ刃5Bが鋼板Wに当接する以前に下型ポンチ4Bの上端部43Bに鋼板Wを押圧する上パッド7Bとを備えている。また、上型6Bには、上パッド7Bに押圧力を発生させる加圧部材(弾性部材又は加圧ユニット等)71Bが装着されている。また、下型ポンチ4Bの台座部44Bには、鋼板Wを折り曲げ加工したときの側壁部1の反り量を低減させるべく、逃げ面441Bが形成されている。
【0068】
また、曲げ刃5Bの側壁には、曲げ刃5Bの下端部54Bと交差し先端部11の板外面1bと当接する下側壁部51Bと、下側壁部51Bの上内方で板外変位面32と当接する第2凸部52Bとが形成されている。また、下型ポンチ4Bは、台座部44Bと一体に形成されたポンチ上部4B1と、ポンチ上部4B1からプレス方向(下方向)へ離間可能に形成されたポンチ下部4B2とからなり、車両用メンバー部品10の板内変位面31を形成する第1凸部42Bは、ポンチ上部4B1の側壁下部に形成された上凸部42B1と、ポンチ下部4B2の側壁上部に形成された下凸部42B2とに分割して形成されている。ポンチ上部4B1の側壁には、上端部43Bと交差し基端部12の板内面1aと当接する上側壁部41B1が形成されている。また、ポンチ下部4B2は、第2凸部52Bと下凸部42B2とが略同一高さになる位置まで上型6Bが下降したときから、上型6Bの下降動作に同期して下方向へ移動するように形成されている。ポンチ上部4B1の上側壁部41B1と、曲げ刃5Bの下側壁部51Bとの間には、鋼板Wの板厚t0と同程度の型クリアランスが形成されている。
【0069】
また、上凸部42B1は、ポンチ上部4B1の上側壁部41B1に対して略平行に板外側へ突出して形成されている。上凸部42B1の上端42B11は、車両用メンバー部品10の第1段差部121に対応する位置に、垂直面に対して略40〜50度程度傾斜する傾斜面として形成されている。また、下凸部42B2は、ポンチ下部4B2の側壁上部に板外側へ円弧状に突出して形成されている。下凸部42B2の下部には、下凸部42B2に対して僅かに板内側へ略平行に変位した逃し面42B22が形成されている。逃し面42B22の下凸部42B2に対する変位量を調節することによって、下凸部42B2による板内変位面31の扱き量を調節することができる。また、第2凸部52Bは、曲げ刃5Bの下側壁部51Bに対して板内側へ円弧状に突出して形成されている。第2凸部52Bの下端は、車両用メンバー部品10の第2段差部111に対応する位置に形成されている。第2凸部52Bの上部には、第2凸部52Bに対して僅かに板外側へ略平行に変位した逃げ面521Bが形成され、また第2凸部52Bの下端と曲げ刃5Bの下側壁部51Bとの間には、油溝522Bが形成されている。
【0070】
また、上型6Bには、曲げ刃5Bの第2凸部52Bとポンチ下部4B2の下凸部42B2とが略同一高さとなる位置まで上型6Bが下降したときから、ポンチ下部4B2の上端面4B21に当接して、曲げ刃5Bの第2凸部52Bとポンチ下部4B2の下凸部42B2とを同期して下降させる同期部材61が装着されている。また、ポンチ下部4B2の下端面4B23と台座部44Bとの間には、ポンチ下部4B2を上方へ付勢する加圧部材(弾性部材又は加圧ユニット等)45が装着されている。
【0071】
上述した第2のプレス型30Bによれば、上型6Bが下型ポンチ4B(4B1、4B2)に向けて下降するとき、上パッド7Bが鋼板Wをポンチ上部4B1の上端部43Bに押圧した状態で、上型6Bの曲げ刃5Bが鋼板Wを折り曲げてポンチ上部4B1の上側壁部41B1に沿わせて基端部12を形成した後に、プレス加工の途中から上凸部42B1と第2凸部52Bとが鋼板Wを板厚方向に狭圧して潰し加工しつつ、第2凸部52Bがプレス方向に扱き加工することによって、略ハット断面形状の側壁部1に薄肉部3の上部(一部)3aを形成し、さらに、下凸部42B2と第2凸部52Bとが、鋼板Wを板厚方向に狭圧して潰し加工しつつ、それぞれプレス方向に扱き加工することによって、略ハット断面形状の側壁部1に薄肉部3の下部(残りの部)3bを連続して形成することができる。
【0072】
また、第2凸部52Bと下凸部42B2とは、両者が略同一高さになる位置まで上型6Bが下降したときから、上型6Bの下降動作に同期して下方向へ移動するので、下凸部42B2の扱き加工により薄肉部3の板内側に発生する引張応力と、第2凸部52Bの扱き加工により薄肉部3の板外側に発生する引張応力とが、薄肉部3には同程度に残留することになる。したがって、中央部2(鋼板)の板厚t0に対する薄肉部3の板厚t3の減少率が少なく、各扱き加工量が少ない場合においても、薄肉部3の板内側の残留応力と板外側の残留応力とが同程度になって差異が生じにくいので、略ハット断面形状の側壁部1におけるスプリングバック量や反り量等をより一層低減させることができる。
【0073】
具体的には、
図7(A)に示すように、平板状の鋼板Wをポンチ上部4B1の上端部43Bに載置した後、上型6Bを下降させ、上パッド7Bが鋼板Wをポンチ上部4B1の上端部43Bに押圧した状態で、曲げ刃5BのダイR部53Bが、鋼板Wを中央部2の肩R部21で折り曲げ加工する。なお、この段階では、同期部材61は、ポンチ下部4B2に当接していない。したがって、ポンチ下部4B2の上端面4B21は、ポンチ上部4B1の下端面4B11と当接している。
【0074】
次に、
図6、
図7(B)に示すように、曲げ刃5BのダイR部53Bが、鋼板Wを中央部2の肩R部21で折り曲げ加工して基端部12と第1段差部121とを形成した状態から、上型6Bを更に下降させる。第1段差部121は、上凸部42B1の上端42B11によって形成される。曲げ刃5Bの第2凸部52Bがポンチ上部4B1の上凸部42B1と略同一高さになると、鋼板Wに対する板厚方向への狭圧力P4、P5が大幅に増大し、その面圧が冷間鍛造の領域に到達する。すなわち、曲げ刃5Bの第2凸部52Bとポンチ上部4B1の上凸部42B1とが鋼板Wを冷間鍛造の面圧で狭圧することによって、基端部12の下方で鋼板Wが板厚方向に潰し加工される。そして、第2凸部52Bの下方への扱き力P7が、鋼板Wの壁高さ方向(プレス方向)への塑性流動を促して薄肉部3の上部(一部)3aを形成する。
【0075】
また、曲げ刃5Bの第2凸部52Bとポンチ下部4B2の下凸部42B2とが略同一高さまで上型6Bが下降したときには、同期部材61がポンチ下部4B2の上端面4B21に当接して、曲げ刃5Bの第2凸部52Bとポンチ下部4B2の下凸部42B2とを同期して下降させる。このとき、ポンチ下部4B2の下凸部42B2の下方への扱き力P6と曲げ刃5Bの第2凸部52Bの下方への扱き力P7とが、潰し加工された鋼板Wの壁高さ方向(プレス方向)への塑性流動を促して薄肉部3の下部(残りの部)3bを形成する。
【0076】
そして、下凸部42B2の扱き加工により薄肉部3の板内側に上下方向に発生する引張応力と、第2凸部52Bの扱き加工により薄肉部3の板外側に上下方向に発生する引張応力とが、薄肉部3には、同程度に残留することになる。この場合、薄肉部3の板厚t3の減少率が少なくても、薄肉部3の板内変位面31と板外変位面32とに同程度の引張応力を付加させることができる。そのため、薄肉部3の板内外における残留応力の差異を低減して、略ハット断面形状の側壁部1におけるスプリングバックや反り等を低減させることができる。
【0077】
次に、
図7(C)に示すように、上型6Bが更に下降して、下死点に到達すると、曲げ刃5Bの下端部54Bが鋼板Wを下型ポンチ4Bの台座部44Bの上端面442Bに押圧する。このとき、略ハット断面形状の側壁部1の先端部11には、薄肉部3より板厚の厚いフランジ部13が板外側へ延設されて、本第1実施例の車両用メンバー部品10が形成される。なお、曲げ刃5Bの第2凸部52Bの下端によって、車両用メンバー部品10の第2段差部111が形成される。
【0078】
(第3のプレス成形方法及び第3のプレス型)
図8、
図9に示すように、本車両用メンバー部品10の第3のプレス成形方法は、例えば、第3のプレス型30Cを用いて、鋼板Wを中央部2の肩R部21で折り曲げ加工して側壁部1の基端部12を形成した後に、第1段差部121と第2段差部111との間で鋼板Wを板厚方向に狭圧して潰し加工しつつ、プレス方向に扱き加工して、側壁部1に薄肉部3を成形し、最後に鋼板を曲げ加工して先端部11を形成する方法である。第3のプレス成形方法の加工原理は、上述した第1、第2のプレス成形方法と同様である。
【0079】
また、第3のプレス型30Cには、略ハット断面形状の下型ポンチ4Cと、該下型ポンチ4Cの側壁に対向して曲げ刃5Cが形成された上型6Cと、上型6Cに懸架され曲げ刃5Cが鋼板Wに当接する以前に下型ポンチ4Cの上端部43Cに鋼板Wを押圧する上パッド7Cとを備えている。また、上型6Cには、上パッド7Cに押圧力を発生させる加圧部材(弾性部材又は加圧ユニット等)71Cが装着されている。
【0080】
また、曲げ刃5Cの側壁には、曲げ刃5Cの下端部54Cと交差し先端部11の板外面1bと当接する下側壁部51Cと、下側壁部51Cの上内方で板外変位面32と当接する第2凸部52Cとが形成されている。また、下型ポンチ4Cは、台座部44Cと一体に形成されたポンチ上部4C1と、ポンチ上部4C1からプレス方向(下方向)へ離間可能に形成されたポンチ下部4C2とからなり、車両用メンバー部品10の板内変位面31と当接する第1凸部42Cは、ポンチ下部4B2の側壁上部に形成されている。ポンチ上部4B1の側壁には、上端部43Bと交差し基端部12の板内面1aと当接する上側壁部41B1が形成されている。また、ポンチ下部4C2は、第2凸部52Cと第1凸部42Cとが略同一高さになる位置まで上型6Cが下降したときから、上型6Cの下降動作に同期して下方向へ移動するように形成されている。ポンチ上部4C1の上側壁部41C1と、曲げ刃5Cの下側壁部51Cとの間には、鋼板Wの板厚t0と同程度の型クリアランスが形成されている。
【0081】
また、第1凸部42Cの上端42C1は、車両用メンバー部品10の第1段差部121に対応する位置に、垂直面に対して略40〜50度程度傾斜する傾斜面として形成されている。また、第1凸部42Cは、ポンチ下部4B2の側壁上部に板外側へ円弧状に突出して形成されている。第1凸部42Cの下部には、第1凸部42Cに対して僅かに板内側へ略平行に変位した逃し面42C2が形成されている。また、第2凸部52Cは、曲げ刃5Cの下側壁部51Cに対して板内側へ円弧状に突出して形成されている。第2凸部52Cの下端は、車両用メンバー部品10の第2段差部111に対応する位置に形成されている。第2凸部52Cの上部には、第2凸部52Cに対して僅かに板外側へ略平行に変位した逃げ面521Cが形成され、また第2凸部52Cの下端と曲げ刃5Cの下側壁部51Cとの間には、油溝522Cが形成されている。
【0082】
また、上型6Cには、曲げ刃5Cの第2凸部52Cとポンチ下部4C2の第1凸部42Cとが略同一高さとなる位置まで上型6Cが下降したときから、ポンチ下部4C2の上端面4C21に当接して、曲げ刃5Cの第2凸部52Cとポンチ下部4C2の第1凸部42Cとを同期して下降させる同期部材61が装着されている。また、ポンチ下部4C2の下端面4C23には、ポンチ下部4C2を上方へ付勢する加圧部材(ロッキング付きクッションピン又はロッキング付き加圧ユニット等)45Cが当接されている。また、ポンチ下部4C2には、曲げ刃5Cの下端部54Cと対向して形成され、第1凸部42Cと第2凸部52Cとが略同一高さになる位置まで上型6Cが下降したとき、鋼板Wを曲げ刃5Cの下端部54Cに沿うように押圧するしわ押さえ部4C22を備えている。
【0083】
上述した第3のプレス型30Cによれば、上型6Cが下型ポンチ4C(4C1、4C2)に向けて下降するとき、上パッド7Cが鋼板Wをポンチ上部4C1の上端部43Cに押圧した状態で、上型6Cの曲げ刃5Cが鋼板Wを折り曲げてポンチ上部4C1の上側壁部41C1に沿わせて基端部12を形成した後に、曲げ加工の途中から第1凸部42Cと第2凸部52Cとが鋼板Wを板厚方向に狭圧して潰し加工しつつ、プレス方向に扱き加工することによって、略ハット断面形状の側壁部1に薄肉部3を形成することができる。なお、鋼板Wは、ポンチ下部4C2のしわ押さえ部4C22に押圧されて曲げ刃5CのダイR部53Cで曲げ加工され、更に曲げ刃5Cの下側壁部51Cに沿うように曲げ戻し加工された後に、第1凸部42Cと第2凸部52Cとによって板厚方向に潰し加工され、かつプレス方向に扱き加工されることになる。そのため、曲げ加工及び曲げ戻し加工を経て板厚が薄くなった鋼板Wを、第1凸部42Cと第2凸部52Cとによって板厚方向に潰し加工しつつ、プレス方向に扱き加工することができる。したがって、略ハット断面形状の側壁部1に、薄肉部3をより少ない型負荷で形成することができる。
【0084】
また、第2凸部52Cと第1凸部42Cとは、略同一高さになる位置まで上型6Cが下降したときから、上型6Cの下降動作に同期して下方向へ移動するので、第1凸部42Cの扱き加工により薄肉部3の板内側に発生する引張応力と、第2凸部52Cの扱き加工により薄肉部3の板外側に発生する引張応力とが、薄肉部3には、同程度に残留することになる。したがって、中央部2(鋼板)の板厚t0に対する薄肉部3の板厚t3の減少率が少なく、各扱き加工量が少ない場合においても、薄肉部3の板内側の残留応力と板外側の残留応力とが同程度になって差異が生じにくいので、略ハット断面形状の側壁部1におけるスプリングバックや反り等をより一層低減させることができる。
【0085】
具体的には、
図9(A)に示すように、平板状の鋼板Wをポンチ上部4C1の上端部43Cに載置した後、上型6Cを下降させ、上パッド7Cが鋼板Wをポンチ上部4C1の上端部43Cに押圧した状態で、曲げ刃5CのダイR部53Cが、鋼板Wを中央部2の肩R部21で折り曲げ加工する。なお、この段階では、同期部材61は、ポンチ下部4C2に当接していない。したがって、ポンチ下部4C2の上端面4C21は、ポンチ上部4C1の下端面4C11と当接している。
【0086】
次に、
図8、
図9(B)に示すように、曲げ刃5CのダイR部53Cが、鋼板Wを中央部2の肩R部21で折り曲げ加工して基端部12と第1段差部121とを形成した状態から、上型6Cを更に下降させる。第1段差部121は、第1凸部42Cの上端42C1と曲げ刃5Cの第2凸部52とが鋼板Wを挟圧することによって形成される。第1凸部42Cの上端42C1は、垂直面に対して略40〜50度程度傾斜する傾斜面として形成されているので、曲げ刃5Cに対する型開き方向(横方向)へのスラスト荷重を低減できる。また、曲げ刃5Cの第2凸部52Cがポンチ下部4C1の第1凸部42Cと略同一高さになると、鋼板Wに対する板厚方向への狭圧力P4、P5が大幅に増大し、その面圧が冷間鍛造の領域に到達する。すなわち、曲げ刃5Cの第2凸部52Cとポンチ下部4C1の第1凸部42Cとが鋼板Wを冷間鍛造の面圧で押圧することによって、基端部12と先端部11との間で鋼板Wが板厚方向に潰し加工される。
【0087】
また、曲げ刃5Cの第2凸部52Cとポンチ下部4C2の第1凸部42Cとが略同一高さまで上型6Cが下降したときには、同期部材61がポンチ下部4C2の上端面4C21に当接して、曲げ刃5Cの第2凸部52Cとポンチ下部4C2の第1凸部42Cとを同期して下降させる。このとき、ポンチ下部4C2には、加圧部材45Cの押圧力が上方へ作用する。そのため、鋼板Wは、ポンチ下部4C2のしわ押さえ部4C22に押圧されて曲げ刃5CのダイR部53Cで曲げ加工され、更に曲げ刃5Cの下側壁部51Cに沿うように曲げ戻し加工されて減肉された後に、第1凸部42Cと第2凸部52Cとによって板厚方向に潰し加工され、かつプレス方向に扱き加工されることになる。そして、ポンチ下部4C2の第1凸部42Cの下方への扱き力P6と曲げ刃5Cの第2凸部52Cの下方への扱き力P7とが、潰し加工された鋼板Wの壁高さ方向(プレス方向)への塑性流動を促して、第1段差部121から第2段差部111までの間で薄肉部3を形成する。
【0088】
そして、第1凸部42Cの扱き加工により薄肉部3の板内側にプレス方向に発生する引張応力と、第2凸部52Cの扱き加工により薄肉部3の板外側にプレス方向に発生する引張応力とが、薄肉部3には、同程度に残留することになる。この場合、薄肉部3の板厚t3の減少率が少なくても、薄肉部3の板内変位面31と板外変位面32とに同程度の引張応力を付加させることができる。そのため、薄肉部3の板内外における残留応力の差異を低減して、略ハット断面形状の側壁部1におけるスプリングバックや反り等を低減させることができる。
【0089】
次に、
図9(C)に示すように、上型6Cが更に下降して、下死点に到達すると、曲げ刃5Cの下端部54Cが鋼板Wをポンチ下部4C2のしわ押さえ部4C22に押圧する。このとき、略ハット断面形状の側壁部1の先端部11には、薄肉部3より板厚の厚いフランジ部13が板外側へ延設されて、本第1実施例の車両用メンバー部品10が形成される。なお、曲げ刃5Cの第2凸部52Cの下端に先端部11の板外端縁が押圧されることよって、車両用メンバー部品10の第2段差部111が形成される。また、ポンチ下部4C2のしわ押さえ部4C22と曲げ刃5Cの下端部54Cとの隙間は、同期部材61の高さによって調節することができる。同期部材61は、しわ押さえ部4C22と曲げ刃5Cの下端部54Cとの間に設置しても良い。また、上型6Cが下死点を通過後に上昇するときには、加圧部材45Cを一時的にロックして、ポンチ下部4C2の上昇タイミングを遅らせる。これによって、プレス加工された車両用メンバー部品の変形を防止する。
【0090】
(応力分布のCAE解析結果)
次に、曲げ加工後の本第1実施例の車両用メンバー部品10における応力分布のCAE解析結果について、板厚差を生じない従来方法で曲げ加工した場合と比較して、
図10A、
図10B、
図11A、
図11Bを用いて説明する。
図10Aに、
図4に示す第1のプレス型を用いて、第1実施例の本車両用メンバー部品を成形したときの下死点時におけるプレス方向の応力分布図(CAE解析結果)であって、板外側における応力分布図を示す。
図10Bに、
図4に示す第1のプレス型を用いて、第1実施例の本車両用メンバー部品を成形したときの下死点時におけるプレス方向の応力分布図(CAE解析結果)であって、板内側における応力分布図を示す。
図11Aに、板厚差を生じさせない従来のプレス型を用いて、第1実施例の本車両用メンバー部品と同材質、同サイズの車両用メンバー部品を成形したときの下死点時における応力分布図(CAE解析結果)であって、板外側における応力分布図を示す。
図11Bに、板厚差を生じさせない従来のプレス型を用いて、第1実施例の本車両用メンバー部品と同材質、同サイズの車両用メンバー部品を成形したときの下死点時における応力分布図(CAE解析結果)であって、板内側における応力分布図を示す。なお、
図10A、
図10B、
図11A、
図11Bに示す応力分布図は、引張強度が590Mpaであり、板厚が2.6mmである鋼板を使用して評価した。また、
図10A、
図10Bの車両用メンバー部品10における薄肉部3の板厚t3は、1.6mmとした。
【0091】
図10Aに示すように、略ハット断面形状の側壁部に形成した薄肉部3の板外側におけるプレス方向の応力分布の状態は、第1段差部121に隣接する位置Aでは、約600Mpaの引張応力が生じ、第1段差部121と第2段差部111との中間地点である位置Bでは、約800Mpaの引張応力が生じ、第2段差部111に隣接する位置Cでは、約900Mpaの引張応力が生じている。また、
図10Bに示すように、略ハット断面形状の側壁部に形成した薄肉部3の板内側におけるプレス方向の応力分布の状態は、第1段差部121に隣接する位置Aでは、約500Mpaの引張応力が生じ、第1段差部121と第2段差部111との中間地点である位置Bでは、約500Mpaの引張応力が生じ、第2段差部111に隣接する位置Cでは、約400Mpaの引張応力が生じている。
【0092】
これに対して、
図11Aに示すように、板厚差を生じない略ハット断面形状の側壁部の板外側におけるプレス方向の応力分布の状態は、位置Aに相当する位置aでは、約700Mpaの引張応力が生じ、位置Bに相当する位置bでは、約500Mpaの引張応力が生じ、位置Cに相当する位置cでは、約100Mpaの引張応力が生じている。また、
図11Bに示すように、板厚差を生じない略ハット断面形状の側壁部の板内側におけるプレス方向の応力分布の状態は、位置Aに相当する位置aでは、約300Mpaの圧縮応力が生じ、位置Bに相当する位置bでは、約100Mpaの圧縮応力が生じ、位置Cに相当する位置cでは、約100Mpaの引張応力が生じている。
【0093】
したがって、本実施形態に係る第1実施例の車両用メンバー部品10では、
図10A、
図10Bに示すように、略ハット断面形状における側壁部のスプリングバック量に影響しやすい位置A〜Bの板外側と板内側との応力差が約100〜300Mpaであったのに対して、板厚差の生じない従来の車両用メンバー部品では、
図11A、
図11Bに示すように、略ハット断面形状における側壁部のスプリングバック量に影響しやすい位置a〜bの板外側と板内側との応力差が約600〜1000Mpaであった。
【0094】
また、本実施形態に係る第1実施例の車両用メンバー部品10では、
図10Aに示すように、略ハット断面形状における側壁部の反り量に影響しやすい板外側の位置Aと位置Cとの応力差が約300Mpaであったのに対して、板厚差の生じない従来の車両用メンバー部品では、
図11Aに示すように、略ハット断面形状における側壁部の反り量に影響しやすい板外側の位置aと位置cとの応力差が約600Mpaであった。
【0095】
よって、
図10A、
図10B、
図11A、
図11Bに示す応力分布状況から明らかなように、本実施形態に係る車両用メンバー部品10では、板厚差を生じない従来方法で曲げ加工した場合と比較して、略ハット断面形状における側壁部のスプリングバック量と反り量とに影響を与えやすい応力差を、大幅に低減できる。
【0096】
(側壁部のスプリングバック量、反り量のCAE解析結果)
次に、本第1実施例の車両用メンバー部品10の側壁部1におけるスプリングバック量、反り量のCAE解析結果について、板厚差を生じない従来方法で曲げ加工した場合と比較して、
図12A、
図12B、
図13を用いて説明する。
図12Aに、第1実施例の本車両用メンバー部品の側壁部のスプリングバック量、反り量を表す断面図であって、
図4に示す第1のプレス型でプレスした場合を示す。
図12Bに、従来の車両用メンバー部品の側壁部のスプリングバック量、反り量を表す断面図であって、板厚差を生じさせない従来のプレス型でプレスした場合を示す。
図13に、第1実施例の本車両用メンバー部品の側壁部の先端部にフランジ部が無い場合におけるスプリングバック量、反り量を表す断面図であって、
図4に示す第1のプレス型でプレスした場合を示す。
【0097】
図12Aに示すように、略ハット断面形状の側壁部に形成した薄肉部3のスプリングバック量は、第1段差部121に隣接する位置Aを起点に、第2段差部111に隣接する位置Cが板外側へ開く角度S1を算定すると、約0.8度であった。また、略ハット断面形状の側壁部に形成した薄肉部3の反り量は、第1段差部121に隣接する位置Aと第2段差部111に隣接する位置Cとを起点に、第1段差部121と第2段差部111との中間地点で最大の変位量S2を算定すると、約0mmであった。
【0098】
これに対して、
図12Bに示すように、板厚差を生じない略ハット断面形状の側壁部のスプリングバック量は、位置Aに相当する位置aを起点に、位置Cに相当する位置cが板外側へ開く角度s1を算定すると、約5度であった。また、略ハット断面形状の側壁部の反り量は、位置Aに相当する位置aと位置Cに相当する位置cとを起点に、中間地点で最大の変位量s2を算定すると、約0.9mmであった。
【0099】
よって、
図12A、
図12Bに示すスプリングバック量、反り量の状況から明らかなように、本実施形態に係る第1実施例の車両用メンバー部品10では、板厚差を生じない従来方法で曲げ加工した場合と比較して、略ハット断面形状における側壁部のスプリングバック量と反り量とを、大幅に低減できる。なお、
図13に示すように、本車両用メンバー部品の側壁部の先端部に板外側へ延設されたフランジ部が無い場合のスプリングバック量、反り量について、側壁部の先端部に板外側へ延設されたフランジ部がある場合(
図12A)と比較すると、フランジ部がある場合とフランジ部が無い場合とで、いずれも差異はなかった。
【0100】
<第2実施例の車両用メンバー部品の構造>
次に、本実施形態に係る第2実施例の車両用メンバー部品の構造を、
図14、
図15を用いて説明する。
図14に、本発明の実施形態に係る第2実施例の車両用メンバー部品(車両取付け状態)の部分斜視図を示す。
図15に、
図14に示す第2実施例の車両用メンバー部品の断面図を示す。ここで、
図14に示す上下、左右、前後の方向矢印は、車両用メンバー部品を車両に取り付けた状態における上下、左右、前後の方向を表す。
【0101】
図14、
図15に示すように、本実施形態に係る第2実施例の車両用メンバー部品10Bは、略均一な板厚の鋼板をプレス加工して中央部2とその左右両側に起立する側壁部1Bとを備えた略ハット断面形状に形成された車両用メンバー部品であって、側壁部1Bには、中央部2の左右端から折れ曲がる基端部12の板内端縁に形成した第1段差部121から先端部11Bまで板内面1aが板外側へ変位して形成された板内変位面31Bと、先端部11Bの板外端縁に形成した第2段差部111Bから基端部12まで板外面1Bbが板内側へ変位して形成された板外変位面32Bとを備え、板内変位面31Bと板外変位面32Bとによって第1段差部121から第2段差部111Bまでの間に中央部2の板厚t0より板厚t3の薄い薄肉部3Bが形成されている。
【0102】
なお、第1段差部121と第2段差部111Bとは、傾斜状又は円弧状に板厚が変化するように形成されている。また、中央部2の板厚t0は、曲げ加工に伴う板厚変化が殆ど生じなく、鋼板Wの板厚t0と略同一である。例えば、鋼板Wの引張強度が590Mpaで、板厚が2.6mmの場合、薄肉部3Bの板厚t3を1.6mmとする車両用メンバー部品10Bを形成することができる。なお、鋼板Wの引張強度及び板厚、薄肉部の板厚は、上記に限定されることはない。
【0103】
また、側壁部1Bの先端部11Bには、薄肉部3Bより板厚t4の厚いフランジ部13Bが板外側へ延設されている。この場合、先端部11Bは、フランジ部13Bを含めてL字状に形成され、フランジ部13Bは、例えば、
図14に示すように、車体Sの床部品20に接合されている。車両用メンバー部品10Bは、車体Sの床部品20と接合されて、車両上下方向に長い長方形状のボックス断面を形成している。車両用メンバー部品10Bは、車体Sの車両左右方向の両側部に配置され、車両前後方向(軸方向)に延設されて、車両の強度・剛性を確保する骨格部材として構成されている。ここでは、車両の強度・剛性面で寄与するために厚い板厚が必要な中央部2及びその肩R部21と、フランジ部13B及びその肩R部131Bと、側壁部1Bの先端部11B及び基端部12とに、それぞれ厚肉部を残しつつ、板厚を薄くしても車両の強度・剛性を確保し得る側壁部1Bの壁高さ方向の中間域Zに薄肉部3Bを形成している。
【0104】
また、板内変位面31Bは、第2段差部111Bで先端部側の板内変位面311Bが薄肉部側の板内変位面312Bより板外側へ変位している。第1段差部121における板内変位面31Bの板内面1aに対する変位量t1と、第2段差部111Bにおける板外変位面32Bの板外面1Bbに対する変位量t5は、鋼板の板厚や引張強度、床部品等と接合されて形成されるボックス断面の断面係数等に応じて任意に設定し得るが、ここでは、変位量t5を変位量t1より大きく形成することによって、第2段差部111Bにおいて側壁部1Bを階段状に屈曲させて、側壁部1Bに形状凍結用の折り曲げ線33B、34Bが形成されている。また、左右の先端部11B同士の間隔が、左右の基端部12同士の間隔より大きく形成されている。
【0105】
上記構成によって、車両用メンバー部品10Bにおける側壁部1Bのスプリングバック量や反り量を低減しつつ、車両用メンバー部品10Bにおける軸方向(車両前後方向)の捻れ剛性等を高めることができる。その結果、車両用メンバー部品10Bにおける所定の強度・剛性を確保しつつ、薄肉部3Bの板厚減少率を高めて、より一層軽量化できる。ここでは、第2段差部111Bにおいて側壁部1Bを1回だけ階段状に屈曲させているが、第2段差部111Bにおいて側壁部1Bを複数回に亘って階段状に屈曲させてもよい。
【0106】
<第2実施例の車両用メンバー部品を成形するプレス方法及びプレス型>
次に、第2実施例の本車両用メンバー部品を成形する第4のプレス方法及び第4のプレス型について、
図15〜
図19を用いて説明する。
図15に、
図14に示す第2実施例の車両用メンバー部品の断面図を示す。
図16に、
図15に示す車両用メンバー部品の略ハット断面形状の側壁部に薄肉部を成形する第4のプレス成形方法に係る詳細断面図を示す。
図17に、
図16に示す第4のプレス成形方法に用いるプレス型(第4のプレス型)の断面図であって、(A)は鋼板を略ハット断面形状の中央部の肩R部で曲げ加工した状態の断面図を示し、(B)は略ハット断面形状の側壁部に薄肉部を成形している途中の断面図を示し、(C)は下死点で加工完了した状態の断面図を示す。
図18に、
図17(C)に示すQ部の詳細断面図を示す。
図19に、
図17(C)に示す第4のプレス型における変形例の断面図を示す。
【0107】
(第4のプレス成形方法及び第4のプレス型)
図15〜
図17に示すように、本第2実施例に係る車両用メンバー部品10Bのプレス成形方法(第4のプレス成形方法)は、例えば、第4のプレス型30Dを用いて、鋼板Wを略ハット断面形状の中央部2の肩R部21で折り曲げ加工して基端部12を形成した後に、第1段差部121で鋼板Wを板厚方向に潰し加工又はプレス方向へ延伸加工すると共に、第2段差部111Bで鋼板Wをプレス方向に対して傾斜する方向へ曲げ加工しつつ、更にプレス方向へ曲げ戻し加工することによって、第1段差部121から第2段差部111Bまでの間で鋼板Wの板内側と板外側とをプレス方向へ同程度に延伸加工して、薄肉部3Bを形成すると同時に、第2段差部111Bで側壁部1Bを階段状に屈曲させて、最後に鋼板Wを曲げ加工して先端部11Bを形成する方法である。
【0108】
上記プレス成形方法によれば、第1段差部121から第2段差部111Bまでの間で、鋼板Wの板内側と板外側とが曲げ・曲げ戻し加工によって同程度に延伸し、延伸した分だけ、体積一定の原則の下、板厚が略均一に減少して薄肉部3Bを形成することができる。そのため、鋼板Wの潰し加工に加えて扱き加工を行うことなく薄肉部3Bを形成できるので、薄肉部3Bの成形に伴う型負荷(曲げ刃のカジリや型開き等)を大幅に低減できる。
【0109】
また、薄肉部3Bにおける板内側と板外側との間で生じる残留応力の差異を、大幅に低減できる。すなわち、曲げ加工によって生じる引張応力を、曲げ戻し加工によって生じる圧縮応力によって相殺し、薄肉部3Bにおける板内側と板外側の残留応力を、それぞれ同程度に低減できる。そのため、薄肉部3Bにおける板内側と板外側との間で生じる残留応力の差異が少ないので、略ハット断面形状の側壁部におけるスプリングバック量や反り量等を大幅に低減させることができる。
【0110】
また、第4のプレス型30Dには、略ハット断面形状の下型ポンチ4Dと、該下型ポンチ4Dの側壁に対向して曲げ刃5Dが形成された上型6Dと、上型6Dに懸架され曲げ刃5Dが鋼板Wに当接する以前に下型ポンチ4Dの上端部43Dに鋼板Wを押圧する上パッド7Dとを備えている。また、上型6Dには、上パッド7Dに押圧力を発生させる加圧部材(弾性部材又は加圧ユニット等)71Dが装着されている。
【0111】
また、下型ポンチ4Dは、台座部44Dと一体化されたポンチ上部4D1と、ポンチ上部4D1からプレス方向(下方向)へ離間可能に形成されたポンチ下部4D2とからなる。また、ポンチ下部4D2の下端面4D23には、ポンチ下部4D2を上方へ付勢する加圧部材(ロッキング付きクッションピン又はロッキング付き加圧ユニット等)45Dが当接されている。
【0112】
また、ポンチ上部4D1の側壁には、上端部43Dと交差し基端部12の板内面1aと当接する上側壁部41D1が形成されている。また、ポンチ下部4D2の側壁には、基端部側の板内変位面312Bと当接又は対向する第1凹部42D2と、第1凹部42D2より下方で板外側へ突出し先端部側の板内変位面311Bと当接する第1凸部42D1と、第1凹部42D2と第1凸部42D1とを傾斜状に連結し第2段差部111Bの板内変位面31Bを形成する第1傾斜部42D3とが形成されている。第1傾斜部42D3は、直線状に傾斜していても、湾曲状に傾斜していても良い。
【0113】
また、ポンチ下部4D2には、曲げ刃5Dの下端部54Dと対向して形成され、第1凸部42D1と第2凸部52Cとが略同一高さになる位置まで上型6Cが下降したとき、鋼板Wを曲げ刃5Cの下端部54Cに沿うように押圧するしわ押さえ部4C22を備えている。しわ押さえ部4C22は、水平状に形成されている。また、第1凸部42D1は、ポンチ下部4D2のしわ押さえ部4D22に対して垂直状に起立するように形成されている。
【0114】
また、ポンチ下部4D2は、ポンチ上部4D1に対して左右対称に分割して形成され、分割されたポンチ下部4D2と該ポンチ下部4D2と対向する曲げ刃5Dとが、略ハット断面形状の長手方向に沿って台座部44Dに形成された同一のガイド部材44D1に案内されている。これによって、本車両用メンバー部品10Bの側壁部1Bが長手方向に大きく延設されている場合でも、ポンチ下部4D2と曲げ刃5Dの型撓みを同一のガイド部材44D1によって抑制して、鋼板Wに対する隙間(曲げクリアランス)を略一定に維持することができる。
【0115】
また、曲げ刃5Dの側壁には、曲げ刃5Dの下端部54DとダイR部53Dで交差し先端部11Bの板外面1Bbと当接又は対向する下側壁部51Dと、下側壁部51Dの上方で板内側へ突出し板外変位面32Bと当接する第2凸部52Dと、下側壁部51Dと第2凸部52Dとを傾斜状に連結して第2段差部111Bにおける板外変位面32Bと当接する第2傾斜部522Dとが形成されている。第2傾斜部522Dは、車両用メンバー部品10Bの第2段差部111Bに対応する位置に傾斜状に形成されている。第2傾斜部522Dは、直線状に傾斜していても、湾曲状に傾斜していても良い。
【0116】
また、第2凸部52Dの上部は、僅かに板外側へ略平行に変位した逃げ面521Dが形成されている。曲げ刃5Dの下側壁部51Dとポンチ下部4D2の第1凸部42D1との間には、鋼板Wの板厚t0と同程度の型クリアランスが形成されている。また、ポンチ下部4D2は、第1凹部42D2と第2凸部52Dとが略同一高さになる位置まで上型6Dが下降したときから、上型6Dの下降動作に同期して下方向へ移動するように形成されている。
【0117】
上述した第4のプレス型30Dによれば、上型6Dが下型ポンチ4Dに向けて下降するとき、上パッド7Dが鋼板Wを下型ポンチ4Dの上端部43Dに押圧した状態で、上型6Dの曲げ刃5Dが鋼板Wを折り曲げて下型ポンチ4Dの上側壁部41D1に沿わせて略ハット断面形状における側壁部1Bの基端部12を形成した後に、鋼板Wは、ポンチ下部4D2のしわ押さえ部4D22に押圧されて曲げ刃5DのダイR部53Dで曲げ加工され、更に曲げ刃5Dの下側壁部51Dに沿うように曲げ戻し加工されて板厚t0が減少する。
【0118】
その後に、第1傾斜部42D3と第2傾斜部522Dとによって、鋼板Wは再度曲げ加工されながら徐々に板厚が減少する。そして、板厚が減少した鋼板Wを第1凹部42D2と第2凸部52Dとの間を通過するとき、再度曲げ戻し加工を行うことによって、所要の板厚t3を有する薄肉部3が形成され、プレス下死点で先端部11Bが形成される。そのため、略均一な板厚t0の鋼板Wから曲げ加工及び曲げ戻し加工を経て、略ハット断面形状の側壁部1Bに基端部12と薄肉部3と先端部11Bとを形成することができる。その結果、薄肉部3を形成する曲げ刃5D等の負荷を大幅に軽減できる。
【0119】
具体的には、
図17(A)に示すように、平板状の鋼板Wをポンチ上部4D1の上端部43Dに載置した後、上型6Dを下降させ、上パッド7Dが鋼板Wをポンチ上部4D1の上端部43Dに押圧した状態で、曲げ刃5DのダイR部53Dが、鋼板Wを平坦部2の肩R部21で折り曲げ加工する。なお、この段階では、ポンチ下部4D2の上端面4D21は、ポンチ上部4D1の下端面4D11と当接している。
【0120】
次に、
図16、
図17(B)に示すように、曲げ刃5DのダイR部53Dが、鋼板Wを中央部2の肩R部21で折り曲げ加工して基端部12と第1段差部121とを形成した状態から、上型6Dを更に下降させる。第1段差部121は、第1凹部42D2の上端角部42D21によって形成される。ポンチ下部4D2の第1凹部42D2と曲げ刃5Dの第2凸部52Dとが略同一高さになる位置まで上型6Dが下降したとき、しわ押さえ部4D22が鋼板Wを曲げ刃5Dの下端部54Dに沿うように押圧して曲げ加工及び曲げ戻し加工を行う。また、第1傾斜部42D2と第2傾斜部522Dとを鋼板Wが通過するとき、プレス方向に対して傾斜する方向へ曲げ加工され、更に、第1凹部42D2と第2凸部52Dとを通過するとき、鋼板Wをプレス方向へ曲げ戻し加工されて、鋼板Wの板厚が徐々に減少し、薄肉部3Bが形成される。
【0121】
次に、
図17(C)に示すように、上型6Dが更に下降して、プレス下死点に到達すると、曲げ刃5Dの下端部54Dが鋼板Wをポンチ下部4D2のしわ押さえ部4D22に押圧する。このとき、略ハット断面形状の側壁部1Bの先端部11Bには、薄肉部3Bより板厚の厚いフランジ部13Bが板外側へ延設されると同時に、第2段差部111Bで側壁部1Bを階段状に屈曲させ、車両用メンバー部品10Bが形成される。また、上型6Dがプレス下死点を通過後に上昇するときには、加圧部材45Dを一時的にロックして、ポンチ下部4D2の上昇タイミングを遅らせる。これによって、車両用メンバー部品10Bの変形を防止する。
【0122】
なお、ポンチ下部4D2と曲げ刃5Dとの間には、しわ押さえ部4D22と曲げ刃5Dの下端部54Dとの隙間d3を調節するディスタンスブロック62を装着している。このディスタンスブロック62によって、しわ押さえ部4D22と曲げ刃5Dの下端部54Dとの隙間(型クリアランス)を鋼板Wの板厚より大きくなるように調節することによって、しわ押さえ部4D22と曲げ刃5Dの下端部54Dとの間に挟まれた鋼板Wにおける曲げ・曲げ戻し加工に伴う板厚減少量を簡単に制御し、曲げ加工に伴う型負荷(曲げ刃のカジリ、型開き等)を軽減することができる。
【0123】
例えば、
図18に示すように、引張強度が590Mpaの鋼板Wであって、その板厚t4が2.6mmである場合に、3.0mm厚のディスタンスブロック62を装着して、しわ押さえ部4D22と曲げ刃5Dの下端部54Dとの隙間(型クリアランス)d3を3.0mmとすると、鋼板Wは、曲げ刃5DのダイR部53Dで曲げ加工された後に、ポンチ下部4D2の第1凸部42D1と曲げ刃5Dの下側壁部51Dとの隙間d4(2.6〜2.7mm)を通過するとき曲げ戻し加工され、その板厚t6は、2.3〜2.4mm程度に減肉される。そして、第1傾斜部42D3と第2傾斜部522Dとの隙間を通過するとき再度曲げ加工された鋼板Wの板厚t7は、2.0〜2.1mmに減肉され、更に、ポンチ下部4D2の第1凹部42D2と曲げ刃5Dの第2凸部52Dとの隙間d5(1.6〜1.7mm)を通過するとき再度曲げ戻し加工され、その板厚t3は、1.4〜1.5mm程度に減肉されて、薄肉部3Bが形成される。
【0124】
上記のように、ディスタンスブロック62を装着して、しわ押さえ部4D22と曲げ刃5Dの下端部54Dとの隙間(型クリアランス)d3を調節するだけで、所望の板厚の薄肉部3Bを簡単に形成することができる。また、所望の板厚の薄肉部3Bを形成するため、曲げ・曲げ戻しの型クリアランス(d3、d4、d5)を、いずれも通過する鋼板Wの板厚(t4、t6、t3)より大きく形成することができるので、曲げ加工に伴う型負荷(曲げ刃のカジリ、型開き等)を大幅に軽減することができる。
【0125】
なお、
図16、
図18に示すように、第1凹部42D2は、プレス方向と平行に鉛直状に形成され、その上端角部42D21が、車両用メンバー部品10Bの第1段差部121に対応する位置に、円弧面として形成されている。この場合、曲げ刃5Dの第2凸部52Dとポンチ下部4D2の上端角部42D21とが鋼板Wを押し潰して第1段差部121を形成するので、曲げ刃5Dに対して型開き方向(X方向)へ大きなスラスト荷重が作用する。このスラスト荷重は、第1段差部121を形成するときの一時的な荷重ではあるが、型耐久性にとっては、必ずしも好ましくない。
【0126】
上記第1段差部121を形成するときの曲げ刃5Dに対するスラスト荷重を低減させる方策として、
図18に仮想線で示すように、第1凹部42D22を第1傾斜部42D3の延長線上に板内側へ傾斜させて形成することが好ましい。この場合、
図19に示すように、第1段差部121は、板厚方向へ潰されずにプレス方向へ延伸加工されて傾斜状に形成されるが、第1段差部121を形成するときのスラスト荷重を大幅に低減できる。なお、
図19に示すように、曲げ刃5Dには、ダイR部53DDと第2凸部52DDとを含む鋼材ブロック5DDを分割して装着し、耐摩耗性の高い表面処理を行うことが好ましい。また、ポンチ下部4D2には、第1凸部42DD1と第1傾斜部42DD3と第1凹部42DD2とを含む鋼材ブロック4DD2を分割して装着し、耐摩耗性の高い表面処理を行うことが好ましい。
【0127】
(応力分布のCAE解析結果)
次に、曲げ加工後の本第2実施例の車両用メンバー部品10Bにおける応力分布のCAE解析結果について、
図20、
図21を用いて説明する。
図20に、
図17に示す第4のプレス型を用いて、第2実施例の本車両用メンバー部品を成形したときの下死点時におけるプレス方向の応力分布図(CAE解析結果)であって、板外側における応力分布図を示す。
図21に、
図17に示す第4のプレス型を用いて、第2実施例の本車両用メンバー部品を成形したときの下死点時におけるプレス方向の応力分布図(CAE解析結果)であって、板内側における応力分布図を示す。なお、
図20、
図21に示す応力分布図は、引張強度が590Mpaであり、板厚が2.6mmである鋼板を使用して評価した。また、
図20、
図21の車両用メンバー部品10Bにおける薄肉部3Bの板厚t3は、1.4mmとした。
【0128】
図20に示すように、略ハット断面形状の側壁部に形成した薄肉部3Bの板外側におけるプレス方向の応力分布の状態は、第1段差部121に隣接する位置Aでは、約700Mpaの引張応力が生じ、第1段差部121と第2段差部111Bとの中間地点である位置Bでは、約970Mpaの引張応力が生じ、第2段差部111Bに隣接する位置Cでは、約1090Mpaの引張応力が生じている。また、
図21に示すように、略ハット断面形状の側壁部に形成した薄肉部3の板内側におけるプレス方向の応力分布の状態は、第1段差部121に隣接する位置Aでは、約850Mpaの引張応力が生じ、第1段差部121と第2段差部111Bとの中間地点である位置Bでは、約1000Mpaの引張応力が生じ、第2段差部111Bに隣接する位置Cでは、約700Mpaの引張応力が生じている。
【0129】
したがって、本実施形態に係る第2実施例の車両用メンバー部品10Bでは、
図20、
図21に示すように、略ハット断面形状における側壁部のスプリングバック量に影響しやすい位置A〜Bの板外側と板内側との応力差が約150〜30Mpaであった。これに対して、板厚差の生じない従来の車両用メンバー部品では、前述したように(
図11A、
図11Bに示すように)、略ハット断面形状における側壁部のスプリングバック量に影響しやすい位置a〜bの板外側と板内側との応力差が約600〜1000Mpaであった。
【0130】
また、本実施形態に係る第2実施例の車両用メンバー部品10Bでは、
図20に示すように、略ハット断面形状における側壁部の反り量に影響しやすい板外側の位置Aと位置Cとの応力差が約390Mpaであった。これに対して、板厚差の生じない従来の車両用メンバー部品では、前述したように(
図11Aに示すように)、略ハット断面形状における側壁部の反り量に影響しやすい板外側の位置aと位置cとの応力差が約600Mpaであった。
【0131】
よって、
図20、
図21に示す応力分布状況から明らかなように、本実施形態に係る第2実施例の車両用メンバー部品10Bでは、板厚差を生じない従来方法で曲げ加工した場合と比較して、略ハット断面形状における側壁部のスプリングバック量と反り量とに影響を与えやすい応力差を、大幅に低減できる。
【0132】
(側壁部のスプリングバック量、反り量のCAE解析結果)
次に、本第2実施例の車両用メンバー部品10Bの側壁部1Bにおけるスプリングバック量、反り量のCAE解析結果について、板厚差を生じない従来方法で曲げ加工した場合と比較して、
図22を用いて説明する。
図22に、第2実施例の本車両用メンバー部品の側壁部のスプリングバック量、反り量を表す断面図であって、
図17に示す第4のプレス型でプレスした場合を示す。
【0133】
図22に示すように、略ハット断面形状の側壁部に形成した薄肉部3Bのスプリングバック量は、第1段差部121に隣接する位置Aを起点に、第2段差部111Bに隣接する位置Cが板外側へ開く角度S1を算定すると、約−0.5度であった。また、略ハット断面形状の側壁部に形成した薄肉部3Bの反り量は、第1段差部121に隣接する位置Aと第2段差部111Bに隣接する位置Cとを起点に、第1段差部121と第2段差部111Bとの中間地点で最大の変位量S2を算定すると、約0mmであった。
【0134】
これに対して、前述したように(
図12Bに示すように)、板厚差を生じない略ハット断面形状の側壁部のスプリングバック量は、位置Aに相当する位置aを起点に、位置Cに相当する位置cが板外側へ開く角度s1を算定すると、約5度であった。また、略ハット断面形状の側壁部の反り量は、位置Aに相当する位置aと位置Cに相当する位置cとを起点に、中間地点で最大の変位量s2を算定すると、約0.9mmであった。
【0135】
よって、
図22に示すスプリングバック量、反り量の状況から明らかなように、本実施形態に係る第2実施例の車両用メンバー部品10Bでは、板厚差を生じない従来方法で曲げ加工した場合と比較して、略ハット断面形状における側壁部のスプリングバック量と反り量とを、大幅に低減できる。
【0136】
<作用効果>
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る車両用メンバー部品10、10Bによれば、側壁部1、1Bには、中央部2から折れ曲がる基端部12の板内端縁に形成した第1段差部121から先端部11、11Bまで板内面1aが板外側へ変位して形成された板内変位面31、31Bと、先端部11、11Bの板外端縁に形成した第2段差部111、111Bから基端部12まで板外面1b、1Bbが板内側へ変位して形成された板外変位面32、32Bとを備え、板内変位面31、31Bと板外変位面32、32Bとによって第1段差部121と第2段差部111、111Bとの間に中央部2の板厚t0より薄い板厚t3の薄肉部3、3Bが形成されているので、車両の強度・剛性面で寄与するために厚い板厚が必要な中央部2及びその肩R部21と側壁部1、1Bの基端部12及び先端部11、11Bに厚肉部を残しつつ、板厚を薄くしても車両の強度・剛性を確保し得る側壁部1、1Bの壁高さ方向の中間域Z(第1段差部121と第2段差部111、111Bとの間)に薄肉部3、3Bを形成することができる。また、側壁部1、1Bにおける薄肉部3、3Bは、略均一な板厚t0の鋼板Wをプレス加工して形成されている。そのため、車両用メンバー部品10、10Bにおいて、テーラードブランク溶接等の新たな工程、設備を用いることなく、鋼板Wの高ハイテン化と板厚の部分的薄肉化を簡単に実現させることができる。その結果、車両用メンバー部品10、10Bにおける軽量化と高強度化とを容易に両立させることができる。
【0137】
よって、本実施形態によれば、車両用メンバー部品10、10Bにおける軽量化と高強度化とを容易に両立させるべく、鋼板Wの高ハイテン化と板厚の部分的薄肉化を曲げ加工において実現させることが可能な車両用メンバー部品10、10Bを提供することできる。
【0138】
また、本実施形態に係る車両用メンバー部品10、10Bによれば、側壁部1、1Bの先端部11、11Bには、薄肉部3、3Bより板厚t4の厚いフランジ部13、13Bが板外側へ延設されているので、車両の強度・剛性面で寄与する割合が大きい厚肉部分からなるフランジ部13、13Bを側壁部1、1Bの先端部11、11Bに形成することができ、車両用メンバー部品10、10Bにおける軽量化と高強度化とをより一層容易に両立させることができる。
【0139】
また、本実施形態に係る車両用メンバー部品10によれば、板内変位面31の板内面1aに対する変位量t1と、板外変位面32の板外面1bに対する変位量t2とが、略同一であるので、車両の上下方向に作用する負荷に対して薄肉部3を屈曲又は座屈変形させる偏心荷重を低減できる。そのため、所定の強度・剛性を保持しつつ、鋼板Wの板厚t0に対する薄肉部3の板厚t3の減少率を増大させることができ、車両用メンバー部品10における軽量化と高強度化とをより一層容易に促進させることができる。
【0140】
また、本実施形態に係る車両用メンバー部品10Bによれば、第2段差部111Bで先端部側の板内変位面311Bが薄肉部側の板内変位面312Bより板外側へ変位しているので、第2段差部111Bにおいて側壁部1Bを階段状に屈曲させて、側壁部1Bに形状凍結用の折り曲げ線33B、34Bを形成できる。また、左右の先端部11B同士の間隔を、左右の基端部12同士の間隔より大きく形成できる。そのため、車両用メンバー部品10Bにおける側壁部1Bのスプリングバック量や反り量を低減しつつ、車両用メンバー部品10Bにおける軸方向(前後方向)の捻れ剛性等を高めることができる。その結果、車両用メンバー部品10Bにおける軽量化と高強度化とをより一層向上させることができる。
【0141】
また、本他の実施形態に係る車両用メンバー部品10のプレス成形方法によれば、鋼板Wを中央部2の肩R部21で曲げ加工して側壁部1の基端部12を形成した後に、第1段差部121から第2段差部111までの間で鋼板Wを板厚方向に潰し加工しつつ、プレス方向に扱き加工して薄肉部3を形成し、最後に鋼板Wを曲げ加工して先端部11を形成するので、曲げ加工した側壁部1における第1段差部121から第2段差部111までの間で潰し加工と扱き加工とを行い、薄肉部3における鋼板Wの塑性流動を促進させながらその板厚を減少させることができる。そのため、薄肉部3における残留応力を鋼板Wの塑性流動によって均一化でき、曲げ加工に基づく略ハット断面形状の側壁部1におけるスプリングバック量や反り量等を低減させることができる。
【0142】
また、薄肉部3は、第1段差部121から第2段差部111までの間で鋼板Wを板厚方向に潰し加工しつつ、プレス方向に扱き加工して成形するので、薄肉部3に壁高さ方向(プレス方向)の座屈変形等が生じる恐れもなく、むしろ、薄肉部3の壁高さ方向における素材長が塑性流動に伴って長くなり、鋼板Wの素材幅を短縮できるという素材幅短縮効果を奏することができる。
【0143】
また、本他の実施形態に係る車両用メンバー部品10のプレス成形方法によれば、薄肉部3の板厚t3は、中央平坦部2の板厚t0に対して35%以上減少させるので、鋼板Wの塑性流動をより一層促進させることができる。そのため、薄肉部3における板内側と板外側の残留応力の差異をより一層低減させることができる。その結果、略ハット断面形状の側壁部1におけるスプリングバック量や反り量等をより一層低減させることができる。
【0144】
また、本他の実施形態に係る車両用メンバー部品10Bのプレス成形方法によれば、鋼板Wを中央部2の肩R部21で曲げ加工して基端部12を形成した後に、第1段差部121で鋼板Wを板厚方向に潰し加工又はプレス方向へ延伸加工すると共に、第2段差部111Bで鋼板Wをプレス方向に対して傾斜する方向へ曲げ加工しつつ、更にプレス方向へ曲げ戻し加工することによって、第1段差部121から第2段差部111Bまでの間で鋼板Wの板内側と板外側とをプレス方向へ同程度に延伸加工して薄肉部3Bを形成すると同時に、第2段差部111Bで側壁部1Bを階段状に屈曲させて、最後に鋼板Wを曲げ加工して先端部11Bを形成するので、曲げ加工した側壁部1Bにおける第1段差部121から第2段差部111Bまでの間で、鋼板Wの板内側と板外側とが曲げ・曲げ戻し加工によって同程度に延伸し、延伸した分だけ、体積一定の原則の下、板厚が略均一に減少して薄肉部3Bを形成することができる。そのため、鋼板Wの潰し加工に加えて扱き加工を行うことなく薄肉部3Bを形成できるので、薄肉部3Bの成形に伴う型負荷(曲げ刃のカジリや型開き等)を大幅に低減できる。
【0145】
また、薄肉部3Bにおける板内側と板外側との間で生じる残留応力の差異を、曲げ加工及び曲げ戻し加工によって、低減できる。すなわち、曲げ加工によって生じる引張応力を、曲げ戻し加工によって生じる圧縮応力によって相殺し、薄肉部3Bにおける板内側と板外側の残留応力を、それぞれ同程度にできる。そのため、薄肉部3Bにおける板内側と板外側との間で生じる残留応力の差異が少ないので、略ハット断面形状の側壁部1Bにおけるスプリングバック量や反り量等を大幅に低減させることができる。また、第2段差部111Bで側壁部1Bを階段状に屈曲させることによって、側壁部1Bの形状凍結を促進でき、側壁部1Bにおけるスプリングバック量等をより一層低減できる。
【0146】
また、本更なる他の実施形態に係るプレス成形方法に用いるプレス型30、30B、30Cによれば、略ハット断面形状の下型ポンチ4、4B、4Cと、該下型ポンチ4、4B、4Cの側壁に対向して曲げ刃5、5B、5Cが形成された上型6、6B、6Cと、該上型6、6B、6Cに懸架され曲げ刃5、5B、5Cが鋼板Wに当接する以前に下型ポンチ4、4B、4Cの上端部43、43B、43Cに鋼板Wを押圧する上パッド7、7B、7Cとを備え、下型ポンチ4、4B、4Cの側壁には、上端部43、43B、43Cと交差し基端部12の板内面1aと当接する上側壁部41、41B1、41C1と、該上側壁部41、41B1、41C1の下外方で板内変位面31と当接する第1凸部42、42B、42Cとが形成され、曲げ刃5、5B、5Cの側壁には、曲げ刃5、5B、5Cの下端部54、54B、54Cと交差し先端部11の板外面1bと当接する下側壁部51、51B、51Cと、該下側壁部51、51B、51Cの上内方で板外変位面32と当接する第2凸部52、52B、52Cとが形成されているので、上型6、6B、6Cが下型ポンチ4、4B、4Cに向けて下降するとき、上パッド7、7B、7Cが鋼板Wを下型ポンチ4、4B、4Cの上端部43、43B、43Cに押圧した状態で、上型6、6B、6Cの曲げ刃5、5B、5Cが鋼板Wを折り曲げて下型ポンチ4、4B、4Cの上側壁部41、41B1、41C1に沿わせて略ハット断面形状における側壁部1の基端部12を形成した後に、第1凸部42、42B、42Cと第2凸部52、52B、52Cとが鋼板Wを板厚方向に狭圧して潰し加工しつつ、第2凸部52、52B、52Cがプレス方向に扱き加工して、略ハット断面形状の側壁部1に薄肉部3を形成する。また、最後に、プレス下死点で第1凸部42、42B、42Cと下側壁部51、51B、51Cとの間で鋼板Wを狭圧して先端部11を形成することができる。なお、第1凸部42、42B、42Cの上端421、42B11、42C1が鋼板Wを押圧して第1段差部121を形成し、第2凸部52、52B、52Cの下端が鋼板Wを押し潰して第2段差部を形成する。上記のように、1回のプレス加工によって略ハット断面形状の側壁部1に基端部12と薄肉部3と先端部11とを形成するので、新たな工程や別のプレス型を追加する必要もない。
【0147】
また、本更なる他の実施形態に係る前記プレス成形方法に用いるプレス型30によれば、第1凸部42の表面には、上下方向へ連続する微小な凹凸状の波模様422が形成されているので、第1凸部42と第2凸部52とが鋼板Wを板厚方向に狭圧して潰し加工し、かつ第2凸部52がプレス方向に扱き加工を行うとき、第1凸部42の表面に形成された微小な凹凸状の波模様422によって側壁部1の板内変位面31を上下方向により多く引き伸ばすことができる。そのため、中央平坦部2(又は鋼板W)の板厚t0に対する薄肉部3の板厚t3の減少率が少なく、鋼板Wの板内側に圧縮応力が生じやすい場合においても、側壁部1の板内変位面31に波模様422によって引張応力を付加させることができ、板内外における残留応力の差異を低減して、略ハット断面形状の側壁部1におけるスプリングバック量や反り量等を低減させることができる。
【0148】
また、本更なる他の実施形態に係る前記プレス成形方法に用いるプレス型30Bによれば、下型ポンチ4Bは、台座部44Bと一体化されたポンチ上部4B1と、ポンチ上部4B1から下方向へ離間可能に形成されたポンチ下部4B2とからなり、上側壁部41B1は、ポンチ上部4B1の側壁上部に形成され、第1凸部42Bは、ポンチ上部4B1の側壁下部に形成された上凸部42B1と、ポンチ下部4B2の側壁上部に形成された下凸部42B2とに分割して形成され、また、ポンチ下部4B2は、第2凸部52Bと下凸部42B2とが略同一高さになる位置まで上型6Bが下降したときから、上型6Bの下降動作に同期してプレス方向(下向)へ移動するので、上型6Bが下型ポンチ4Bに向けて下降するとき、上パッド7Bが鋼板Wをポンチ上部4B1の上端部43Bに押圧した状態で、上型6Bの曲げ刃5Bが鋼板Wを折り曲げてポンチ上部4B1の上側壁部41B1に沿わせて略ハット断面形状における側壁部1の基端部12を形成した後に、曲げ加工の途中から上凸部42B1と第2凸部52Bとが鋼板Wを板厚方向に狭圧して潰し加工しつつ、第2凸部52Bがプレス方向に扱き加工することによって、略ハット断面形状の側壁部1に薄肉部3の上部(一部)3aを形成し、さらに、下凸部42B2と第2凸部52Bとが鋼板Wを板厚方向に狭圧して潰し加工しつつ、それぞれプレス方向に扱き加工することによって、略ハット断面形状の側壁部1に薄肉部3の下部(残りの部分)3bを連続して形成し、下死点で先端部11を形成することができる。ここでは、上凸部42B1の上端42B11が鋼板Wを押圧して第1段差部121を形成する。
【0149】
なお、略ハット断面形状の側壁部1に薄肉部3の下部(残りの部分)3bを連続して形成するときには、下凸部42B2と第2凸部52Bとが同期して下方へ移動して、薄肉部3の下部(残りの部分)3bの板内変位面31と板外変位面32とを同時にプレス方向に扱き加工する。そのため、薄肉部3の板内変位面31と板外変位面32には、同程度の引張応力を付加させることができ、板内外における残留応力の差異を低減して、略ハット断面形状の側壁部1におけるスプリングバック量や反り量等を低減させることができる。
【0150】
また、本更なる他の実施形態に係る前記プレス成形方法に用いるプレス型30Cによれば、下型ポンチ4Cは、台座部44Cと一体化されたポンチ上部4C1と、ポンチ上部4C1から下方向へ離間可能に形成されたポンチ下部4C2とからなり、上側壁部41C1は、ポンチ上部4C1の側壁に形成され、第1凸部42Cは、ポンチ下部4C2の側壁上部に形成され、また、ポンチ下部4C2は、第1凸部42Cと第2凸部52Cとが略同一高さになる位置まで上型6Cが下降したときから、上型6Cの下降動作に同期して下方向へ移動するので、上型6Cが下型ポンチ4Cに向けて下降するとき、上パッド7Cが鋼板Wをポンチ上部4C1の上端部43Cに押圧した状態で、上型7Cの曲げ刃5Cが鋼板Wを折り曲げてポンチ上部4C1の上側壁部41C1に沿わせて略ハット断面形状における側壁部1の基端部12を形成した後に、曲げ加工の途中から第1凸部42Cと第2凸部52Cとが鋼板Wを板厚方向に狭圧して潰し加工しつつ、プレス方向に扱き加工することによって、略ハット断面形状の側壁部1に薄肉部3を形成し、プレス下死点で先端部11を形成することができる。
【0151】
なお、側壁部1に薄肉部3を形成するときには、第1凸部42Cと第2凸部52Cとが同期して下方へ移動して、薄肉部3の板内変位面31と板外変位面32とを同時にプレス方向に扱き加工する。そのため、薄肉部3の板内変位面31と板外変位面32には、同程度の引張応力を付加させることができ、板内外における残留応力の差異を低減して、略ハット断面形状の側壁部1におけるスプリングバック量や反り量等を低減させることができる。
【0152】
また、本更なる他の実施形態に係る前記プレス成形方法に用いるプレス型30Cによれば、ポンチ下部4C2には、曲げ刃5Cの下端部54Cと対向して形成され、第1凸部42Cと第2凸部52Cとが略同一高さになる位置まで上型6Cが下降したとき、鋼板Wを曲げ刃5Cの下端部54Cに沿うように押圧するしわ押さえ部4C22を備えたので、鋼板Wは、ポンチ下部4C2のしわ押さえ部4C22に押圧されて曲げ刃5CのダイR部53Cで曲げ加工され、更に曲げ刃5Cの下側壁部51Cに沿うように曲げ戻し加工された後に、第1凸部42Cと第2凸部52Cとによって板厚方向に潰し加工され、かつプレス方向に扱き加工されることになる。そのため、曲げ加工及び曲げ戻し加工を経て板厚が薄くなった鋼板Wを、第1凸部42Cと第2凸部52Cとによって板厚方向に潰し加工しつつ、プレス方向に扱き加工することによって、略ハット断面形状の側壁部1に薄肉部3を形成することができる。したがって、薄肉部3を形成する第1凸部42Cと第2凸部52Cとに対する減肉に伴う型負荷を軽減しながら、略ハット断面形状の側壁部1におけるスプリングバック量や反り量等を低減させることができる。
【0153】
また、本更なる他の実施形態に係る前記プレス成形方法に用いるプレス型30Dによれば、略ハット断面形状の下型ポンチ4Dと、該下型ポンチ4Dの側壁に対向して曲げ刃5Dが形成された上型6Dと、該上型6Dに懸架され曲げ刃5Dが鋼板Wに当接する以前に下型ポンチ4Dの上端部43Dに鋼板Wを押圧する上パッド7Dとを備え、下型ポンチ4Dは、台座部44Dと一体化されたポンチ上部4D1と、ポンチ上部4D1からプレス方向へ離間可能に形成されたポンチ下部4D2とからなり、また、ポンチ上部4D1の側壁には、上端部43Dと交差し基端部12の板内面1aと当接する上側壁部41D1が形成され、ポンチ下部4D2の側壁には、基端部側の板内変位面31B(312B)と当接又は対向する第1凹部42D2、42D22と、該第1凹部42D2、42D22の下外方で先端部側の板内変位面31B(311B)と当接する第1凸部42D1と、第1凹部42D2、42D22と第1凸部42D2とを傾斜状に連結し第2段差部111Bにおける板内変位面31Bと当接する第1傾斜部42D3とが形成され、また、曲げ刃5Dの側壁には、該曲げ刃5Dの下端部54Dと交差し先端部11Bの板外面1Bbと当接又は対向する下側壁部51Dと、該下側壁部51Dの上内方で基端部側の板外変位面32Bと当接する第2凸部52Dと、下側壁部51Dと第2凸部52Dとを傾斜状に連結し第2段差部111Bにおける板外変位面32Bと当接する第2傾斜部522Dとが形成され、また、ポンチ下部4D2は、第1凹部42D2、42D22と第2凸部52Dとが略同一高さになる位置まで上型6Dが下降したときから、上型6Dの下降動作に同期してプレス方向へ移動するので、略ハット断面形状の側壁部1Bに以下のように基端部12と薄肉部3Bと先端部11Bとが形成される。
【0154】
すなわち、上型6Dが下型ポンチ4Dに向けて下降するとき、上パッド7Dが鋼板Wを下型ポンチ4Dの上端部43Dに押圧した状態で、上型6Dの曲げ刃5Dが鋼板Wを折り曲げてポンチ上部4D1の上側壁部41D1に沿わせて略ハット断面形状における側壁部1Bの基端部12を形成した後に、ポンチ下部4D2の第1凹部42D2、42D22と曲げ刃5Dの第2凸部52Dとの間で鋼板Wを潰し加工し、又は曲げ刃5Dの第2凸部52Dによって鋼板Wをプレス方向へ延伸加工して第1段差部121を形成する。また、プレス加工の途中で、ポンチ下部4D2の第1凸部42D1と曲げ刃5Dの下側壁部51Dとの間でプレス方向へ曲げ戻し加工された鋼板Wは、第1傾斜部42D3と第2傾斜部522Dとの間を通過するとき、プレス方向に対して傾斜する方向へ曲げ加工され、更にポンチ下部4D2の第1凹部42D2、42D22と曲げ刃5Dの第2凸部52Dとの間を通過するとき、プレス方向へ曲げ戻し加工されて、徐々に板厚を減少させ、薄肉部3Bとして形成される。また、プレス下死点では、ポンチ下部4D2の第1凸部42D1と曲げ刃5Dの下側壁部51Dとの間でプレス方向へ曲げ戻し加工された鋼板Wが、先端部11Bとして形成される。そのため、略均一な板厚の鋼板Wから曲げ加工及び曲げ戻し加工を経て、略ハット断面形状の側壁部1Bに薄肉部3Bと先端部11Bとを形成することができる。その結果、薄肉部3Bを形成する曲げ刃5D等の型負荷を大幅に軽減できる。また、1回のプレス加工によって、略ハット断面形状の側壁部1Bに基端部12と薄肉部3Bと先端部11Bとを連続的に形成するので、新たな工程や別のプレス型を追加する必要もない。
【0155】
また、本更なる他の実施形態に係る前記プレス成形方法に用いるプレス型30Dによれば、ポンチ下部4D2には、曲げ刃5Dの下端部54Dと対向して形成され、第1凹部42D2、42D22と第2凸部52Dとが略同一高さになる位置まで上型6Dが下降したとき、鋼板Wを曲げ刃5Dの下端部54Dに沿わせるように押圧するしわ押さえ部4D22を備えたので、鋼板Wは、ポンチ下部4D2のしわ押さえ部4D22に押圧されて曲げ刃5DのダイR部53Dでプレス方向と直交する方向へ曲げ加工され、更に曲げ刃5Dの下側壁部51Dに沿うようにプレス方向へ曲げ戻し加工された後に、第1傾斜部42D3と第2傾斜部522Dとを通過するとき、プレス方向に対して傾斜する方向へ曲げ加工され、更にポンチ下部4D2の第1凹部42D2、42D22と曲げ刃5Dの第2凸部52Dとの間を通過するとき、プレス方向へ曲げ戻し加工されて、徐々に板厚を減少させ、薄肉部3Bとして形成される。この場合、曲げ・曲げ戻し加工の回数が増加するので、薄肉部3Bの成形に対する曲げ刃5D等の型負荷が分散されて、より一層、略ハット断面形状の側壁部1Bに薄肉部3Bを簡単に形成することができる。また、薄肉部3Bの板内外における残留応力の差異をより一層低減して、略ハット断面形状の側壁部1Bにおけるスプリングバック量や反り量等を低減させることができる。
【0156】
また、本更なる他の実施形態に係る前記プレス成形方法に用いるプレス型30Dによれば、ポンチ下部4D2と曲げ刃5Dとの間には、しわ押さえ部4D22と曲げ刃5Dの下端部54Dとの隙間d3を調節するディスタンスブロック62を装着するので、しわ押さえ部4D22と曲げ刃5Dの下端部54Dとの間に挟まれた鋼板Wの引張力を調節して、曲げ・曲げ戻し加工に伴う鋼板Wの板厚減少量と残留応力とを、簡単に制御することができる。そのため、薄肉部3Bを所望の板厚で形成しながら、略ハット断面形状の側壁部1Bにおけるスプリングバック量や反り量等をより一層低減させることができる。
【0157】
また、本更なる他の実施形態に係る前記プレス成形方法に用いるプレス型30Dによれば、ポンチ下部4D2は、ポンチ上部4D1に対して左右対称に分割して形成され、分割されたポンチ下部4D2と該ポンチ下部4D2と対向する曲げ刃5Dとが、略ハット断面形状の軸方向に沿って台座部44Dに形成された同一のガイド部材44D1に案内されているので、ポンチ下部4D2と曲げ刃5Dの型撓みを同一のガイド部材44D1によって抑制して、鋼板Wに対する隙間(型クリアランス)を略一定に維持することができる。そのため、曲げ・曲げ戻し加工に伴う鋼板Wの板厚減少量と残留応力とを、安定して制御することができる。その結果、軸方向(車両前後方向)に延設された略ハット断面形状の側壁部1Bにおける薄肉部3Bを、所要の板厚で形成しながら、スプリングバック量や反り量等を低減させることができる。
【0158】
<変形例>
上述した実施形態は、本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜変更することができる。例えば、本実施形態に係る車両用メンバー部品10、10Bでは、側壁部1、1Bの先端部11、11Bに、薄肉部3、3Bより板厚の厚いフランジ部13、13Bが板外側へ延設されているが、フランジ部13、13Bは無くてもよい。
【0159】
この場合、例えば、
図15、
図23に示すように、プレス型30Eは、略ハット断面形状の下型ポンチ4Eと、該下型ポンチ4Eの側壁に対向して曲げ刃5Eが形成された上型と、該上型に懸架され曲げ刃5Eが鋼板Wに当接する以前に下型ポンチ4Eの上端部43Eに鋼板Wを押圧する上パッド7Eとを備えている。また、下型ポンチ4Eは、台座部と一体化されたポンチ上部4E1と、ポンチ上部4E1からプレス方向へ離間可能に形成されたポンチ下部4E2とからなり、また、ポンチ上部4E1の側壁には、上端部43Eと交差し基端部12の板内面1aと当接する上側壁部41E1が形成されている。
【0160】
また、ポンチ下部4E2の側壁には、基端部側の板内変位面31B(312B)と当接又は対向する第1凹部42E2と、該第1凹部42E2の下外方で先端部側の板内変位面31B(311B)と当接する第1凸部42E1と、第1凹部42E2と第1凸部42E1とを傾斜状に連結し第2段差部111Bにおける板内変位面31Bと当接する第1傾斜部42E3とが形成されている。
【0161】
また、曲げ刃5Eの側壁には、該曲げ刃5Eの下端部54Eと交差し先端部11Bの板外面1Bbと当接又は対向する下側壁部51Eと、該下側壁部51Eの上内方で基端部側の板外変位面32Bと当接する第2凸部52Eと、下側壁部51Eと第2凸部52Eとを傾斜状に連結し第2段差部111Bにおける板外変位面32Bと当接する第2傾斜部522Eとが形成されている。
【0162】
また、ポンチ下部4E2は、第1凹部42E2と第2凸部52Eとが略同一高さになる位置まで上型が下降したときから、上型の下降動作に同期してプレス方向へ移動するように形成されている。なお、ポンチ下部4E2に下端には、加圧部材45Eが当接されている。また、鋼板Wは、第1凸部42E1の下方に形成された傾斜面に沿って湾曲状に形成される。
【0163】
また、本更なる他の実施形態に係る前記プレス成形方法に用いるプレス型30B、30Cでは、ポンチ下部4B2、4C2は、ポンチ上部4B1、4C1に対して左右対称に一体に形成されているが、第4のプレス型30Dと同様に、ポンチ下部4B2、4C2は、ポンチ上部4B1、4C1に対して左右対称に分割して形成され、分割されたポンチ下部4B2、4C2と該ポンチ下部4B2、4C2と対向する曲げ刃5B、5Cとが、略ハット断面形状の軸方向に沿って台座部44B、44Cに形成された同一のガイド部材に案内されているように形成してもよい。
【0164】
また、本更なる他の実施形態に係る前記プレス成形方法に用いるプレス型30、30B、30C、30Dによれば、略ハット断面形状の下型ポンチ4、4B、4C、4Dと、該下型ポンチ4、4B、4C、4Dの側壁に対向して曲げ刃5、5B、5C、5Dが形成された上型6、6B、6C、6Dと、上型6、6B、6C、6Dに懸架され曲げ刃5、5B、5C、5Dが鋼板Wに当接する以前に下型ポンチ4、4B、4C、4Dの上端部43、43B、43C、43Dに鋼板Wを押圧する上パッド7、7B、7C、7Dとを備えているが、下型ポンチ4、4B、4C、4Dと、該下型ポンチ4、4B、4C、4Dの側壁に対向して曲げ刃5、5B、5C、5Dが形成された上型6、6B、6C、6Dとを上下逆転して、下型に曲げ刃を形成し、略ハット断面形状に形成した上型を上下動させてもよい。