【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)IABSE Conference Nara 2015(国際構造工学会2015年春季大会)レポート第432頁〜第433頁、国際構造工学会編 平成27年5月13日公開 (2)IABSE Conference Nara 2015(国際構造工学会2015年春季大会)、平成27年5月15日公開 (3)平成27年度第1回技術研修会 平成27年7月8日公開
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
高架橋の振動の節に当たる位置に前記支持横桁を設け、該支持横桁に前記シングルダイナミックマス型の制振装置と前記ダブルダイナミックマス型の制振発電装置を設置したことを特徴とする請求項2に記載の制振発電装置を備えた高架橋。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先の特許文献1に記載されている振動発電装置は、車両の通行に伴って橋梁に生じる振動のエネルギーを電気エネルギーに変換することができる新規な振動発電装置であった。
ところが、橋梁に生じる振動の振幅は数mm〜10数mm程度のレベルであり、しかも数Hz〜10数Hz程度の低周波数であるので、上下移動する被駆動体の移動距離として数mm〜10数mmを確保できたとしても、これから得られる回転運動エネルギーは大きなものではなく、発電機を充分には回転できないので、モニタリングシステムへの電源供給やバッテリーへの蓄電能力を確保することは難しかった。
【0006】
ところで、本願出願人は、橋梁の劣化や騒音の原因である橋梁の振動を制御するため、同調質量ダンパー(TMD:Tuned Mass Damper)を備えた制振装置について研究を行っている。
この同調質量ダンパーは、通過車両による振動が伝播された場合、制振装置にコイルばねを介して設けたダイナミックマスが揺れ始め、ダイナミックマスが橋梁の固有振動数と同調し、それによって生じた反力で橋梁の振動を制振する装置である。
この同調質量ダンパーを設けた制振装置を橋梁に対し設置する場合、前述の環境発電に利用することを想定し研究開発を行った結果、制振作用を備えたまま発電に供することができる構造を発案することができ、本願発明に到達した。
例えば、発電機は磁石とコイルの相対運動において速度に比例した磁気的反力を発生するが、その減衰係数が同調質量ダンパーの最適同調のための減衰係数に相当すれば、制振して発電するための効率がよいことになる。しかしながら、発電機の発電に伴う減衰係数は発電機固有に決まっており、同調質量ダンパーの最適同調の減衰係数に合わせることは容易ではない。
【0007】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高架橋を制振すると同時に、高架橋の振動を利用して発電し、発電エネルギーの蓄電も可能とする制振発電装置およびそれを備えた高架橋の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、構造物に生じた振動のエネルギーを電気エネルギーに変換するとともに前記構造物の制振を行う制振発電装置であって、制振対象とする構造物に設置される基台と、該基台上に第1の弾性体を介し上下に振動自在に支持された第1の付加質量体と、
前記第1の付加質量体の上に第2の弾性体を介し上下に振動自在に支持された第2の付加質量体と、前記第1の付加質量体
と前記第2の付加質量体の上下振動による相対移動により上下方向に振動されるピストン、該ピストンに取り付けられインナーヨークの外周に沿って複数の磁石を有する磁極部、前記ピストンをその軸方向に移動自在に収容するシリンダー、該シリンダーの内部に前記
磁極部を囲むように設けられたアウターヨークにコイルを巻き付けて構成された起電コイルを具備してなるリニア発電機とを有し、前記アウターヨークにおいて前記磁極部側の部分は前記起電コイルの中心軸を含む断面に沿ってC字型に形成されており、前記シリンダーが前記第1の付加質量体
と前記第2の付加質量体のどちらか一方に一体化されて上下振動自在に支持されるとともに、前記ピストンが
前記第2の付加質量体と前記第1の付加質量体のどちらか他方に接続されて上下振動自在に支持されるとともに、
前記第1の付加質量体が、質量板と、基板と、周壁板と、複数枚の板を積層した積層板と、底板を重ねて構成され、前記質量板と前記基板の中央部を貫通して前記周壁板の底部に達する収容部が形成され、該収容部に、前記ピストンを上向きとして前記質量板と前記基板と前記周壁板を上下に貫通し、前記積層板の上に位置するように前記シリンダーが固定され、前記質量板とその下に重ねられた前記基板と前記周壁板と前記積層板と前記底板を上下に貫通する連結ボルトによりこれらが一体化され、前記第1の付加質量体として振動自在に支持され、前記ピストンの上端部が前記第2の付加質量体に接続され、前記基台上に、前記第1の付加質量体の外周部を上下に貫通して前記第1の付加質量体の上下振動位置の上限と下限を規定するストッパー部材が立設され、前記第1の付加質量体上に、前記第2の付加質量体の外周部を上下に貫通して前記第2の付加質量体の上下振動位置の上限と下限を規定するストッパー部材が立設されたことを特徴とする。
【0009】
高架橋などの構造物の振動を受けて第1の付加質量体または第2の付加質量体が上下に相対振動し、これらに連動してリニア発電機のシリンダー内の起電コイルに対しピストンに備えた磁石が上下に相対振動する。起電コイルの内部を上下に磁石が相対振動するので、起電コイルに電流が生じて発電エネルギーの取り出しができる。構造物の振動を受けて個々に上下に振動する第1の付加質量体または第2の付加質量体のそれぞれにシリンダーかピストンを支持させているので、構造物の振動に応じてシリンダーとピストンの両方が個々に振動し、両者の上下振動でもって相対振動できる結果、構造物の振動を利用した発電ができる。
構造物の振動と第1の付加質量体または第2の付加質量体の振動との関係から制振することができる。この制振内容については特開2006−077812号に公開されている通りである。第1の付加質量体と第2の付加質量体の相対運動により、リニア発電機の起電コイルの内部を磁石が振動し発電する。その際に受ける磁気的反力によるダンパー作用によってダブルマス制振装置に必要な減衰を得ることができる。
【0011】
第1の付加質量体とともにリニア発電機のシリンダーが基台上で振動するが、通常の振動を超える大きな振動、例えば地震発生時などのように大きな振動が生じると、第1の付加質量体とシリンダーが基台に衝突するおそれがある。これらの衝突をストッパー部材が阻止する。また、リニア発電機において、シリンダー側の起電コイルに対しピストン側の磁石の可動域が狭い構造の場合、ストッパー部材がストロークの大きなピストンの移動を抑え、リニア発電機を保護する。
【0012】
(2)本発明の高架橋は、複数の桁橋が直列配置されてなる高架橋の制振発電構造であって、前記桁橋が橋軸直交方向に所定間隔をあけて配置された一対の主桁と、前記一対の主桁の間に橋軸方向に間隔をあけて複数配置された主横桁と、前記一対の主桁の上面に載置された床版を備えてなり、前記橋軸方向に離間した複数の主横桁の間に前記橋軸方向に離間させて対になる支持横桁を前記主桁に支持させて設け、前記支持横桁に、付加質量体と弾性部材と減衰機構を備えたシングルダイナミックマス型の制振装置、および、2つの可動質量体と弾性部材とリニア発電機を備えた
(1)に記載のダブルダイナミックマス型の制振発電装置を設置したことを特徴とする。
先の
(1)に記載の制振発電装置を備えた構成であるならば、高架橋の制振作用とともに効率のよい環境発電が可能となり、高架橋のヘルスモニタリングシステムなどに適用されるワイヤレスセンサなどの電子部品の電源として利用することができる。
また、発電した電気をバッテリーに蓄えておくならば、交通量の少ない時期のモニタリンスシステム用の電源として、あるは別用途の電源として安定的な電源の確保ができる。
【0013】
床版の上を走行する車輌により高架橋に振動が発生し、この振動によってシングルダイナミックマス型の制振装置およびダブルダイナミックマス型の制振発電装置の第1の付加質量体が上下に振動する。それぞれの第1の付加質量体は、高架橋の振動に応じて同期振動し、その反力により高架橋の振動を抑制し、制振する。このため、高架橋の制振ができる。
制振装置において第1の付加質量体が受けた振動は、減衰機構が減衰させる。また、制振発電装置において第1の付加質量体と第2の付加質量体が受けた振動は、リニア発電機の起電コイルの内部を磁石が振動し、発電する際に受ける磁気的反力による減衰作用によって減衰される。
【0014】
(3)本発明の高架橋において、前記桁橋を構成する横桁の一部に前記シングルダイナミックマス型の制振装置と前記ダブルダイナミックマス型の制振発電装置を設置することができる。
(4)本発明の高架橋において、高架橋の振動の節に当たる位置に支持横桁を設け、該支持横桁に前記シングルダイナミックマス型の制振装置と前記ダブルダイナミックマス型の制振発電装置を設置したことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高架橋などの構造物の振動を受けて第1の付加質量体または第2の付加質量体が上下に相対振動し、これらに連動してリニア発電機のシリンダー内の起電コイルに対しピストンに備えた磁石が上下に相対振動する。起電コイルの内部を上下に磁石が相対振動するので、起電コイルに電流が生じて発電ができる。構造物の振動を受けて個々に上下に振動する第1の付加質量体または第2の付加質量体のそれぞれにシリンダーかピストンが支持されているので、構造物の振動に応じてシリンダーとピストンの両方が個々に振動し、両者の上下振動でもって確実に相対振動できる結果、構造物の振動を有効に利用した発電ができる。
【0016】
本発明によれば、構造物の振動と第1の付加質量体と第2の付加質量体の振動との関係から制振することができる。また、第1の付加質量体と第2の付加質量体の相対運動により、リニア発電機の起電コイルの内部を磁石が振動し発電する。その際に受ける磁気的反力によるダンパー作用によってダブルマス制振装置に必要な減衰を得ることができる。
【0017】
図10は、ダブルマス制振装置の場合の発電量の等高線図であり、横軸は構造物の固有振動数に対する加振振動数の比を表し、縦軸は発電装置の磁気的反力によるダンパー作用の減衰係数を第2の付加質量体の減衰比として表したものである。また、
図11は、
図10と同じ縦軸、横軸における構造物の応答変位の等高線図である。
図10に示すように本発明に係る制振発電装置は、縦軸の減衰比が0.5から4.0程度まで大きく変化しても発電量はそれほど変化していない。つまり、発電装置の仕様による発電時のダンパー作用の強さを幅広く設定できるので、幅広い仕様の発電装置を橋梁に用いることができる。このときの制振効果は、
図11の構造物の応答変位の等高線図に示す通り、発電装置の仕様によって大きく変化していない。
従って、本発明の制振発電装置は、広い範囲の減衰比に対応させて設置することができ、数Hz程度の低周波数の固有振動数を示す橋梁等の構造物であっても発電用と制振用の両方の用途として適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る制振発電装置とそれを備えた高架橋の一実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明は以下に説明する実施形態に制限されるものではない。
また、以下の各図に示す構造は、本発明の特徴をわかりやすくするため、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際の構成と同じであるとは限らない。
図1、
図2は本発明に係る制振発電装置を備えた高架橋の一例を示す構成図、
図3、
図4は同高架橋に設置される制振装置の一例を示し、
図5〜
図7は同高架橋に設置される制振発電装置の一例を示す。
【0020】
図1、
図2に示す高架橋1は、渓谷などに設置されたトラス梁構造の一例を示すもので、この高架橋(構造物)1は、高低差のある地盤Gに立設されたそれぞれ高さの異なる橋脚2、3、4、5によって鉛直に支持された構造を有している。
この例の高架橋1は、橋軸方向に沿う左右両端側の主桁10が上弦材6と下弦材7を複数のウェブ材8を介し接合したトラス構造とされている。
また、
図2に示すように高架橋1を平面視した場合の概略構造として、上り側の高架橋1Aと下り側の高架橋1Bが並列され、高架橋1A、1Bがそれぞれ幅方向左右に位置する主桁10、10と、それらの間に主桁10に平行に架設された副桁11と、これらの間に複数配置された複数の横桁12と、横桁12間に架設されたウェブ材13を主体として構成されている。また、
図2では略しているが、主桁10、10の上には床版が設置され、この床版の上面側が車輌走行用の車道とされている。主桁10、副桁11、横桁12、ウェブ材13はいずれもH型鋼あるいはI形鋼などの鋼材から構成されている。
【0021】
高架橋1Aにおいて主桁10、10の間の適切な位置に支持横桁15、15が所定の間隔をあけて主桁10、10に対し直角に溶接やボルト止めなどの接合手段により固定され、これら支持横桁15、15に支持されて高架橋1Aの幅方向に2基のダイナミックマス型の制振装置16と1基のダイナミックマス型の制振発電装置17が設置されている。また、高架橋1Bにおいても同等の位置に支持横桁15、15が固定され、これらに支持されて2基の制振装置16と1基の制振発電装置17が設置されている。高架橋1A、1Bにおいて
図2に示す構造では橋脚間の距離の約1/4の位置に制振装置16と制振発電装置17が位置するように支持横桁15、15が配置されている。
制振装置16と制振発電装置17の設置個数は特に制限されず目的とする制振効果と発電効果に合致するような設置個数を選択すればよい。この実施形態では2基の制振装置16と1基の制振発電装置17をセットとして高架橋1A、1Bの幅方向にそれぞれ設置した例を示している。
【0022】
制振装置16は一例として
図3、
図4に示すようにH型鋼材などを組み付けて構成した矩形枠状の金属製のベース基台20の上に立設された4つの支持軸21によって上下移動自在に矩形板状の第1の付加質量体22が支持されている。第1の付加質量体22の中央部側には錘体22Aが一体化され、第1の付加質量体22の各コーナー部分を貫通するように支持軸21が設けられている。
各支持軸21において第1の付加質量体22の下側には下部コイルばね(弾性体)23が設けられ、各支持軸21において付加質量体22の上側には抜け止め板25により抜け止めされて上部コイルばね(弾性体)26が設けられている。付加質量体22はその上下をコイルばね23、26により挟まれて弾性支持されているので、付加質量体22に高架橋1A、1Bの振動が伝達されると付加質量体22は上下のコイルばねのばね力に抗しつつ支持軸21に沿って上下に振動できるように構成されている。この例の制振装置16は質量体として第1の付加質量体22のみを有するのでシングルダイナミック型と称することができる。
【0023】
付加質量体22の外側であってベース基台10のコーナー部分にオイルダンパー(減衰機構)28が設けられている。このオイルダンパー28は、オイルを収容したシリンダー28Aに対しピストン28Bが摺動自在に挿入され、シリンダー28Aの内部にオリフィスを伴うオイルの流路が構成されている。シリンダー28Aに対しピストン28Bが相対摺動する際、オリフィスを通過するオイルの粘性抵抗により減衰作用が発揮され、付加質量体22を振動させるエネルギーの一部が熱エネルギーに変換されて吸収される。
制振装置16において、錐体22Aを備えた第1の付加質量体22に作用した上下方向への振動エネルギーにより、第1の付加質量体22はコイルばね23、26の弾性力に抗して上下に振動するが、第1の付加質量体22は高架橋1Aあるいは高架橋1Bの固有振動と同期して振動するので高架橋1A、1Bの振動を減衰するとともに、オイルダンパー28の作用によって前記振動エネルギーは熱エネルギーに変換されて消費される。
なお、
図3、
図4に符号29で示すものは、付加質量体22の上下移動量を規制するストッパー部材である。このストッパー部材29には第1の付加質量体22の上方に間隔をあけて位置する上部規制板29aと第1の付加質量体22の下方に間隔をあけて位置する下部規制板29bが設けられている。
【0024】
制振装置16は、隣接する一対の支持横桁15、15の間に支持プレート30を溶接などの接合方法により橋渡し状に接合し、この支持プレート30の上にベース基台20をボルト止めするなどの手段により取り付けられている。
図2に示す構造は制振装置16、16と制振発電装置17を高架橋1Aの幅方向に合計3基設置した例であるため、支持プレート30は高架橋1Aの幅方向ほぼ全長に延在する長方形状に形成されている。
図2の例では支持プレート30の上であって、副桁11、11の位置より若干外側の位置、即ち副桁11の設置位置より若干主桁10側よりの位置にそれぞれ制振装置16が設けられている。また、制振発電装置17は2基設けられた制振装置16のうち、一方の制振装置16に近い位置に設置されている。
【0025】
制振発電装置17は、一例として
図5〜
図7に示すように矩形板状の金属製のベース基台35の上に第1の付加質量体36と第2の付加質量体37とリニア発電機38を備えた構成とされている。
ベース基台35は
図6に示す平面視横長の板状体からなり、ベース基台35の4つの角部にそれぞれ取付ボルト挿通用の取付孔35aが形成されている。前述の支持プレート30の上にこれらの取付孔35aを利用してベース基台35をボルト止めすることが可能となる。
ベース基台35上においてこれら取付孔35aより内側の部分に第1の付加質量体36が支持されている。第1の付加質量体36は、基板40の上に板状の第1の質量板41と第2の質量板42を積み重ね、基板40の中央底部側に収容部43aを備えた周壁板43と複数枚の積層板45と底板46が重ねて一体化されている。
図5、
図7に示すように上から順に第2の質量板42、第1の質量板41、基板40、周壁板43、積層板45、底板46を上下に貫通するように連結ボルト47が設けられ、これらが一体化されている。また、第2の質量板42、第1の質量板41、基板40の中央部を貫通して周壁板43の底部側に達する収容部43aが形成され、この収容部43aに以下に説明するリニア発電機38が搭載されている。
【0026】
リニア発電機38はシリンダー50に対し上下に移動自在にピストン51が設けられ、シリンダー50内のピストン51の一部に円環状に配置された永久磁石からなる磁極部52が形成され、シリンダー50の内部において磁極部52の周囲側に起電コイル53が設けられている。ピストン51の上端部は第2の付加質量体の底部に連結されている。なお、ピストン51において磁極部52を構成する部分にインナーヨークが構成され、このインナーヨークの外周に沿って板状の永久磁石を複数配置することで磁極部52が構成されている。また、シリンダー50の内壁部分には図示略のアウターヨークが設けられ、このアウターヨークにコイルを巻き付けることで起電コイル53が構成されている。
リニア発電機38において、ピストン51が上下方向に振動すると、起電コイル53の内側において永久磁石からなる磁極部52が上下移動するので電磁誘導により起電コイル53に沿って電流が流れ、発電ができるようになっている。
【0027】
なお、起電コイル53を装着するアウターヨークにおいて起電コイル53を囲む部分は起電コイル53の中心軸を含む断面に沿って断面C字型に形成されていて、磁極部52側に隣接するアウターヨークの磁極先端側に磁束が集中しやすい構造とされている。この磁束が集中しやすい領域を永久磁石を備えた磁極部52が通過することでリニア発電機38は効率良く発電ができるように構成されている。このため、リニア発電機38はピストン51の移動ストロークが例えば10mm(±5mm)程度で効率良く発電可能であり、ピストン51の上下方向の振動に伴い磁極部52が上述の領域を通過することで効率良く発電ができる。
【0028】
第1の付加質量体36はそのコーナー部分4箇所を上下に貫通する支持軸55により軸支されている。各支持軸55において第1の付加質量体36の底部側に配置された下部コイルばね(弾性体)56と各支持軸55において第1の付加質量体36の上部側に配置された上部コイルばね(弾性体)57により第1の付加質量体36を吊り持ち支持することで第1の付加質量体36が上下方向に振動できるように弾性支持されている。なお、下部コイルばね56の下端がベース基台35に望む部分と下部コイルばね56の上端が基板40に望む部分にはそれぞればね受け座金58が設けられ、上部コイルばね57の下端が第2の質量板42に望む部分と上部コイルばね57の上端側にばね受け座金59が設けられている。
【0029】
第1の付加質量体36の基板40において支持軸設置位置の外側に延出部40aが形成され、これらの延出部40aを上下に貫通するようにストッパー部材60が設けられている。このストッパー部材60は、ベース基台35上に立設され、延出部40aに形成されている透孔を貫通するとともに、延出部40aの上方に間隔をあけて位置された上部規制部材61と、延出部40aの下方に間隔をあけて配置された下部規制部材62を有している。
これらの規制部材61、62は基板40の上下振動の際の上限位置と下限位置を規制する。
【0030】
次に、第1の付加質量体36の上に2本の支持軸63が立設され、これらの支持軸63に両側を支持された状態で第2の付加質量体37が上下に振動自在に支持されている。
支持軸63、63は
図6に示すように平面視リニア発電機38の左右を挟む位置であって、それぞれ支持軸55、55の近傍に立設され、第2の付加質量体37の両端部分を支持軸63が支持している。
第2の付加質量体37は、
図6に示すように平面視帯板状に形成され、下から順に第1の質量板37aと第2の質量板37bと第3の質量板37cが積層された構造とされている。支持軸63はこれらを上下に貫通するように設けられ、各支持軸63において第2の付加質量体37の底部側に配置された下部コイルばね(弾性体)66と各支持軸63において第2の付加質量体37の上部側に配置された上部コイルばね(弾性体)67により第2の付加質量体37を吊り持ち支持することで第2の付加質量体37が上下方向に振動できるように弾性支持されている。なお、下部コイルばね66の下端が第2の質量板42に望む部分と下部コイルばね66の上端が第1の質量板37aに望む部分にはそれぞればね受け座金68が設けられ、上部コイルばね67の下端が第3の質量板37cに望む部分と上部コイルばね67の上端側の部分にばね受け座金69が設けられている。
【0031】
第2の付加質量体37の両端側は支持軸55、55の間の領域まで延出され、この延出部分を上下に貫通するようにストッパー部材70が設けられている。このストッパー部材70は、第2の質量板42上に立設され、第2の付加質量体37を貫通するとともに、第2の付加質量体37の上方に間隔をあけて位置された上部規制部材71と、第2の付加質量体37の下方に間隔をあけて配置された図示略の下部規制部材を有している。
これらの規制部材は第2の付加質量体37の上下振動の際の上限位置と下限位置を規制する。
【0032】
図7において符号80で示すものは、制振発電装置17のカバー部材であり、このカバー部材80はベース基台30の取付孔35aを形成した部分に
図7に示すように立設される支柱81によって支持される。また、支柱81の上端部にリングナット82が取り付けられていて、これらのリングナット82を介し
制振発電
装置17の全体を吊り持ち移動することができる。これらのリングナット82は
制振発電
装置17の設置移動時に有用となる。
なお、図面では略しているが、リニア発電機38のベース基台35上には蓄電池を備えた蓄電装置が設置されていて、リニア発電機38が発電した電気エネルギーを蓄電池に蓄電できるように構成されている。
この蓄電装置への蓄電量の変化をモニタリングできる装置を設け、発電した電力を利用して高架橋1のヘルスモニタリングが可能なシステムを構築することができる。また、このモニタリングシステムからの情報を送信する通信機を設け、この通信機から送信することで遠隔地における高架橋1のモニタリングが可能となる。
あるいは、蓄電装置への蓄電量の変化をモニタリングすることで蓄電量が所定時間無い場合や蓄電量が異常に多い場合等に異常と見なしてヘルスモニタリングが可能となる。
【0033】
高架橋1において床版の上を車輌が走行すると床版が振動する。この振動は主桁10、10、上弦材6、ウェブ材8などを介し支持横桁15に伝達される。
支持横桁15、15に伝達された振動は、支持プレート30を介し制振装置16と制振発電装置17に伝達される。制振装置16に伝達された振動により第1の付加質量体22がコイルばね23、26の弾性力に抗して上下に振動し、高架橋1の固有周期と同調し、それによって生じた反力により高架橋1を制振する。また、オイルダンパー28が作動して第1の付加質量体22の振動エネルギーを熱エネルギーに変換して振動エネルギーを減衰する。このため、高架橋1を効率良く制振することができ、特に2〜15Hz程度の低周波音を低減できる。
【0034】
また、制振発電装置17に伝達された振動により第1の付加質量体36がコイルばね56、57の弾性力に抗して上下に振動し、高架橋1の固有周期と同調し、それによって生じた反力により高架橋1の振動を抑制する。また、
制振発電
装置17において第1の付加質量体36の振動に応じて第2の付加質量体37も振動する。第1の付加質量体36と第2の付加質量体37の相対移動に応じ、リニア発電機38のシリンダー50に対しピストン51が相対振動するので、起電コイル53の内側において永久磁石を備えた磁極部52が振動する結果、起電コイル53に電流が流れて発電がなされる。
また、起電コイル53の内側で永久磁石を備えた磁極52が振動する際、磁気的反発力から減衰機能が発揮され、第1の付加質量体22の振動エネルギーを減衰する。このため、
制振発電
装置17によっても高架橋1を効率良く制振することができ、特に2〜15Hz程度の低周波音を低減できる。
【0035】
以上説明のように、制振装置16、16と制振発電装置17を備えた高架橋1であるならば、高架橋1が制振されているので、近隣地域に低周波振動の影響を与え難い。よって、高架橋1が居住地区に隣接して設置されていた場合であっても、近隣の建築物に低周波振動による騒音などの悪影響を与えることがない。
また、高架橋1にその状態をモニターする各種センサ機器を備える場合、制振発電装置17のリニア発電機38が発電した電気エネルギーを利用することが可能となり、道路用の送電網に頼ることなく車輌の走行に伴い振動を利用した環境発電による電気エネルギーで各種センサ機器の電源を確保することができる。
【0036】
なお、上述の実施形態においては、第1の付加質量体36側にリニア発電機38のシリンダー50を取り付け、第2の付加質量体37側にピストン51を接続したが、リニア発電機38は上下逆に設置してもよい。よって、第2の付加質量体37側にリニア発電機38のシリンダー50を取り付け、第1の付加質量体36側にピストン51を接続してリニア発電機38を設置してもよい。
【0037】
また、
図4に示す構造のシングルマス構造の制振装置16においてリニア発電機38を搭載し、発電機として構成することもできる。その場合、オイルダンパー28の代わりにリニア発電機38を設け、リニア発電機38の起電コイル53の内部を磁極部52が振動し、発電する際の磁気的反力によるダンパー作用を制振力として用いる。
この構造においても先のリニア発電機38の構造と同様に、構造物の制振とともに振動発電を行うことができる。
【実施例】
【0038】
図8は第1の付加質量体と第2の付加質量体を備えた二質点系の同調質量系発電デバイスのモデル解析に用いる解析モデルを示し、
図9はリニア発電機部分の等価回路を示す。
この解析モデルは、バネ常数κのバネと減衰定数C
Mのダンパーで支持された高架橋の等価質量をMと設定し、バネ、電磁誘導型のリニア発電装置および2つの質量である第1の付加質量体m
1と第2の付加質量体m
2で構成された二質点系同調質量系に発電デバイスが付加された状態を示す。
質量Mの高架橋に調和外力F=F
0sinωtが作用した時、発電電力と高架橋変位の伝達関数を求める。
【0039】
Feは
図8に示す電磁誘導式発電装置を用いたリニア発電装置の回路による減衰力であり、発電装置の誘導起電力定数をκemf[Vs/m]とすると、発電による減衰率はFe=κemfIで表される。一般性を持たせるため、無次元量ξe=κ
2emf/{2(m
2κ
2)
1/2(r+R)}を発電による減衰比とする。
静的変位F
0/κに対する定常振動状態の橋梁変位振幅の比を変位振幅比、振動系の仕事率F
02(K/M)
1/2に対する発電電力振幅の比を発電電力比と定義する。
以上定義した場合の加振力の振動比λと減衰率ξに対する発電電力比と変位振幅比の解析結果を
図10と
図11に示す。
【0040】
振動数比はλ=ω/(κ/M)
1/2で示される無次元量である。ここでは、第1の付加質量体の高架橋(橋梁)に対する質量比μ1=m1/Mは0.001(1%)としている。
図10は、ダブルマス制振装置の場合の発電量の等高線図であり、横軸は構造物の固有振動数に対する加振振動数の比を表し、縦軸は発電装置の磁気的反力によるダンパー作用の減衰係数を第2の付加質量体の減衰比として表したものである。また、
図11は、
図10と同じ縦軸、横軸における構造物の応答変位の等高線図である。
【0041】
図10の中央よりの小さな○印は、発電電力比の極大値の位置を示しており、破線はそのときの減衰率ξeを示している。
図11の下側の小さな○印は振幅比の極大値の最小値を示しており。細線はそのときの減衰率ξeを示している。
これらの結果から、大きな発電電力比スペクトルを与える減衰率ξeと、小さな振幅比スペクトルを与えるξeは一致しないことがわかる。即ち、二質点同調質量系デバイスにおいて、高架橋の振動抑制を目的とした設定と高架橋の振動発電を目的とした設定ではパラメーターの設定値が異なることを示している。
【0042】
しかし、
図10に示すように本発明に係る制振発電装置は、縦軸の減衰比が0.5から4.0程度まで大きく変化しても発電量はそれほど変化していない。つまり、発電装置の仕様による発電時のダンパー作用の強さを幅広く設定できるので、幅広い仕様の発電装置を橋梁に用いることができる。このときの制振効果は、
図11の構造物の応答変位の等高線図に示す通り、発電装置の仕様によって大きく変化していない。
従って、本発明の制振発電装置は、広い範囲の減衰比に対応させて設置することができ、数Hz程度の低周波数の固有振動数を示す橋梁等の構造物であっても発電用と制振用の両方の用途として適用することができる。
また、先の実施形態では、1つの高架橋1に対し3基の制振装置を設ける場合、全て制振発電装置とするのではなく、1基のみ制振発電装置として残り2基を制振装置とした例を望ましい例として示している。
以上の解析結果を踏まえ、パラメーターの設定について検討する。
【0043】
高架橋における対象振動に対する発電エネルギーを最大とする制振発電装置のパラメーターを決定するため、
図8に示した高架橋−制振発電装置のモデルに自動車交通による等価加振力Fを解析モデルに加え、発電エネルギーを算出した。
等価加振力は大型車が単独で通過したと思われる代表的な加速度波形から算出した。
用いた制振発電装置の第1の付加質量体の質量を104kg、対象モードの高架橋等価質量233トンの約0.045%である。高架橋の発電対象振動モードの減衰率はバンドパスフィルターを通して得られる加速度の自由減衰波形より算出した。
制振発電
装置の機械的な減衰率はハーフパワー法により同定した値を用いる。対象としたパラメーターは第1の付加質量体と第2の付加質量体の振動数f1、f2と発電による減衰率ξeである。これら3つのパラメーターを変化させ、繰り返し計算によって最大の発電エネルギーとなるパラメーターを決定した。
【0044】
主なパラメーターを以下に示す。
第1付加質量体の質量104kg、第2付加質量体の質量31kg、第1付加質量体の固有振動数f
1=6.92Hz、第2付加質量体の固有振動数f
2=10.2Hz、第1付加質量体の減衰率ξ
1=0.009、第2付加質量体の減衰率ξ
2=0.009、発電による減衰率ξe=2038Ns/m。
これらのパラメーター設定に従い、
図12に示すように高架橋1A、1Bのそれぞれの径間の中央位置に支持横桁を設置し、支持横桁間に当初1基の制振発電装置を設置し、試験したところ、リニア発電機のストロークの10mm(±5mm)を超えるストロークが第1付加質量と第2付加質量から与えられることがわかった。
【0045】
そこで、
図1に示す構造の高架橋(中央高速道路、池ヶ谷橋三径間連続トラス橋の下り車線側)に実際に制振発電装置を取り付ける場合、2基の制振装置と1基の制振発電装置を組として高架橋に設置し、設置位置として、第1径間の1/4L地点の横桁に対しH型鋼を介し取り付け、24時間の発電実験を行った。発電対象振動数を6.1Hzとした。
2基の制振装置と1基の制振発電装置を組として高架橋に設置すると、1基の場合より個々の装置のストローク量を少なくすることができ、1/4L地点に設置することで、高架橋の振動の節の位置であって振幅のより小さい位置に設置することができると推定し試験に供した。
取り付け後、第1付加質量体の1〜8Hzの振動数域において第1の付加質量体と第2の付加質量体が同位相で振動することを確認できた。
【0046】
図13に24時間計測した結果、10分間毎の発電エネルギーの遷移を実線で示し、60分移動平均を鎖線で示す。発電エネルギーは、交通状態により大きく変化するが、いずれにおいても充分な発電エネルギーを取り出し得ることが判明した。
例えば、一般市販のワイヤレス電圧ロガーにおいて消費電力約1.6mW、記録間隔1分のタイプであれば、2台分をまかなえる量の発電ができている。また、ワイヤレスの3軸加速度センサ、消費電力100mW、サンプリングレート130あるいは280Hzであるならば、約5時間毎に10分間の計測が可能な発電量である。
【0047】
図14は
図13に示すように24時間の発電を行っている間、最大発電電力を得たときの振動発電機取り付け位置での加速度波形を示している。
このときの瞬間最大値は3.2W、加速度は瞬間的に200galを超えていた。また、この他の発電においても通常の大型車輌が通行した際に平均的に100gal程度が記録されているので、高架橋のヘルスモニタリングシステム用として優れた発電効果を得られることがわかった。
【0048】
図15は、
図14で示した加速度波形と同時に計測した振動発電機の第1付加質量体の加速度波形及び発電電圧波形を用いて、高架橋と制振発電装置のエネルギー遷移を対比して示す。振動モードによって高架橋等価質量が異なるため、エネルギーの量比は1−3次振動モード(1次3Hz:394トン、2次6Hz:148トン、3次9Hz:123トン)の合計から求めた。
高架橋と振動発電機からなるシステムに与えられた合計エネルギーは98.3Jで振動発電機はそのうちの3.3Jを電気エネルギーに変換したこととなる(エネルギー変換効率3.4%)。振動発電機が吸収したエネルギーは、減衰エネルギー(3.0J)と発電エネルギー(3.3J)の合計で表され、システムに与えられたエネルギーのうち、6.3J(6.4%)を振動発電機が吸収したこととなる。