(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記軸方向穴に、前記超音波を所定の角度で反射する反射部材を配置して、前記反射部材に向けて探触子から発振した前記超音波を前記軸方向穴の半径方向外側に反射する前記請求項1又は2に記載の超音波検査方法。
前記軸状部材を前記探触子に対してその中心線まわりに相対回転させながら、前記軸方向穴から半径方向外側に向けて前記超音波を発振する請求項3〜5の何れかに記載の超音波検査方法。
【背景技術】
【0002】
例えば等速自在継手の外輪となる外側継手部材は、カップ部と軸状のステム部とを一体に有するもので、鍛造により一体成形したものや、カップ部の底部にステム部の一端部を突き合わせてその外周を溶接することで一体化したものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
このように溶接を施して複数の部品を一体化した場合、溶接を施した箇所に未溶接の部分や溶接が不十分な部分が残存していると、これら溶接不良部においていわゆる切欠き係数が高まり、接合強度の低下を招くおそれがある。そのため、溶接状態に対する保証が重要となる。
【0004】
溶接部の良否を検査するための方法の一つに超音波探傷がある。この方法は、検査対象に向けて超音波を発振して例えば溶接不良部から超音波が反射する強さ(エコー高さ)を測定することにより、欠陥(未溶接部又は溶接が不十分な部分)の位置や大きさを評価する方法である。この方法によれば製品を破壊することなく検査できるので、全数検査が可能となり生産効率を高める上で好適である。
【0005】
例えば、シャフト状部材の欠陥の有無を検査するための方法として、特許文献2には、シャフト状部材に対してその半径方向外側に配置した探触子により、シャフト状部材の半径方向外側から超音波を発振して、内部の欠陥を検出する方法が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、外側継手部材を構成するカップ部とステム部との接合態様には、上述した態様(突合せ溶接)以外に、例えばカップ部の底部に設けた穴にステム部の一端部を嵌合して当該嵌合部分に溶接を施した形態が考えられる。具体的には、
図7に示すように、カップ部24とステム部25との溶接が、カップ部24の底部26に設けられた嵌合穴27にステム部25の一端部28を嵌め合せた状態で、軸方向嵌合領域29の一端側(
図7でいえばカップ部24の開口側となる左側)から行われる溶接形態が考えられる。この場合、良好な溶接が行われていれば、
図8(
図7のB部)に示すように、軸方向嵌合領域29の軸方向全域(
図8の二点鎖線で示す領域)にわたって溶接部30が形成されることになる。
【0008】
超音波探傷を、
図8に示す接合形態をなすカップ部24とステム部25との溶接部30の良否検査に用いる場合、既存の方法をそのまま適用することは難しい。すなわち上述した突合せ溶接やスポット溶接のように、溶接部の外表面を探傷面として、探触子で溶接部を直接探傷できる場合は問題ないが、
図7に示すようなカップ部24とステム部25との嵌合部(軸方向嵌合領域29)に形成される溶接部30は、探触子を直接当てて検査しにくい。カップ部24とステム部25との溶接部30は、カップ部24の外面24aよりも半径方向内側にあり、特許文献1に記載のように、カップ部24の半径方向外側から超音波を発振した場合、カップ部24の外面24aから溶接部30に至るまでの肉厚部分による超音波の減衰を考慮する必要があるためである。
【0009】
特に、この種の外側継手部材においては、例えばトリポート型等速自在継手用の外輪など、
図9に示すように外面24aの形状が非真円形状をなし、その肉厚(半径方向の厚み寸法)が一定でないものがある。このようなタイプの外側継手部材11に対して半径方向外側に探触子42を配置し、この探触子42から超音波を発振した場合、
図9及び
図10に示すように、探傷面(カップ部24の外面24a)から溶接部30までの距離L1,L2が超音波を発振した円周方向位置によって異なるため、エコーの減衰度合が安定しない。これでは、例えば溶接不良部などの欠陥が存在する場合、当該欠陥から超音波が反射して戻ってきたにもかかわらず、エコーが大きく減衰することで、欠陥からの反射波はない(すなわち欠陥がない)と判定してしまうおそれが生じる。
【0010】
また、探触子に垂直探触子を使用する場合、カップ部の外面に対して常に垂直となるように探触子の向きを制御する必要がある。しなしながら、
図9のように外側継手部材11の外面形状(この場合、カップ部24の外面24a形状)がその円周方向位置によって大きく変化する場合には、探触子42を常にカップ部24の外面24aに対して垂直姿勢とするために非常に複雑な制御が必要となり、制御のための設備が高価になるといった問題もある。
【0011】
以上の問題はなにも外側継手部材に限ったことではなく、筒状部材の底部に設けられた嵌合穴に軸状部材を嵌合して底部と軸状部材の間に溶接を施して、当該溶接の良否を検査する場合全てに起こり得る。また、以上の問題はなにも溶接に限ったことではなく、例えば摩擦撹拌接合や摩擦圧接など母材の溶融を伴わない接合を上述した部材間に施す場合にも起こり得る。
【0012】
以上の事情に鑑み、本明細書では、筒状部材と軸状部材との嵌合部に接合部を形成した場合に、当該接合部の良否を 超音波を用いて簡易かつ高精度に検査することを、解決すべき技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記技術的課題の解決は、本発明に係る接合部の超音波検査方法によって達成される。すなわち、この検査方法は、筒状部材の底部に設けられた嵌合穴に軸状部材の一端部を嵌め合わせて底部と一端部との間の所定の軸方向嵌合領域に接合部を形成した場合に、接合部の良否を超音波により検査するための方法であって、軸状部材の一端部に、筒状部材の開口側から見て所定の軸方向嵌合領域よりも深い位置まで伸びる軸方向穴を形成しておき、軸方向穴から半径方向外側に向けて超音波を発振する点をもって特徴付けられる。なお、ここでいう筒状部材とは、断面形状が真円以外の形状をなすものを含む。また、軸状部材とは、少なくとも筒状部材の底部との嵌合部分が軸状をなすものであればよく、全体として軸状である必要はない。
【0014】
このように、本発明では、超音波により接合部の良否を検査するに際して、筒状部材の底部に設けられた嵌合穴に嵌め合される軸状部材の一端部に、所定の軸方向嵌合領域よりも深い位置まで伸びる軸方向穴を形成しておき、この穴から半径方向外側に向けて超音波を発振するようにした。このようにすれば、筒状部材の外面形状に関係なく、探傷面となる軸方向穴の内周面から接合部までの距離を軸方向穴の内周面形状により調整することができるので、減衰度合がばらつく事態を可及的に回避して、安定的かつ正確な超音波検査を行うことが可能となる。また、軸方向穴の内周面であれば、筒状部材の外面ほど形状的な制約はないため、例えば上記内周面を断面真円形状など単純な形状にして、探触子などの姿勢制御を簡易化することができる。よって、制御のための設備を安価にすることが可能となる。
【0015】
また、本発明に係る超音波検査方法は、軸方向穴を一端部の中心に形成し、かつ軸方向穴の断面形状と底部の嵌合穴の断面形状をともに真円形状としたものであってもよい。
【0016】
このように構成することにより、探傷面となる軸方向穴の内周面から嵌合穴の内周面(又はこの嵌合穴と嵌合する軸状部材の一端部の外周面)までの距離を容易に一定にすることができる。従って、超音波の減衰度合を一定にして、より安定的かつ正確な超音波検査を行うことが可能となる。また、軸方向穴の内周面を断面真円形状とすれば、垂直探触子などを用いて半径方向外側に向けて超音波を発振しつつ軸方向穴の中心線まわりに相対回転させるだけで済むため、その動作制御も非常に簡易なもので足りる。よって、更なる設備コスト及び作業コストの低減化につながる。
【0017】
また、本発明に係る超音波検査方法は、軸方向穴に探触子を配置して、探触子から半径方向外側に向けて超音波を発振するものであってもよい。
【0018】
このようにすれば、汎用性の高い垂直探触子を使用して上述した接合部の良否検査を行うことができるので、低コストに上記検査を行うことが可能となる。
【0019】
あるいは、本発明に係る超音波検査方法は、軸方向穴に、超音波を所定の角度で反射する反射部材を配置して、反射部材に向けて探触子から発振した超音波を軸方向穴の半径方向外側に反射するものであってもよい。
【0020】
このように構成すれば、軸方向穴に配置すべき部材は反射部材だけで足りるので、例えば強度の面から軸状部材の一端部にあまり大きな内径寸法を有する軸方向穴を形成することが難しい場合であっても、上述の通り、安定かつ高精度に超音波による接合部の良否検査を行うことが可能となる。
【0021】
また、上述のように探触子を用いる場合、本発明に係る超音波検査方法は、探触子を軸方向に移動させつつ、軸方向穴から半径方向外側に向けて超音波を発振するものであってもよい。
【0022】
検査対象となる溶接部などの接合部は、筒状部材の底部に設けられた嵌合穴とこの穴に嵌まり合う軸状部材の一端部との間の所定の軸方向嵌合領域に形成されている。従って、上述のように探触子を軸方向に移動させつつ、軸方向穴から半径方向外側に向けて超音波を発振する検査態様をとることにより、所定の軸方向嵌合領域の軸方向全域にわたって超音波を発振することができるので、接合部が軸方向の一部で形成されていない(未接合部がある)ことを確実に検出することが可能となる。
【0023】
また、本発明に係る超音波検査方法は、軸状部材を探触子に対してその中心線まわりに相対回転させつつ、軸方向穴から半径方向外側に向けて超音波を発振するものであってもよい。
【0024】
このように軸状部材を探触子に対して相対回転させることで、軸方向嵌合領域をその円周方向全域にわたって超音波で検査することができる。また、軸状部材をその中心線まわりに回転させるようにすれば、探触子を回転させることなく、容易に超音波を円周方向全域にわたって発振することができる。これにより、探触子の動作制御をより一層簡易にすることができ、制御のための設備コストをさらに低減化することが可能となる。
【0025】
また、上述した超音波検査方法は、接合部の良否を超音波により簡易かつ高精度に検査することができるので、例えば筒状部材としてのカップ部の底部に、軸状部材としてのステム部の一端部を嵌合してカップ部の底部とステム部の一端部との間の所定の軸方向嵌合領域に接合部を形成した場合に、接合部の良否を超音波により検査する方法として好適に提供することが可能である。
【発明の効果】
【0026】
以上に述べたように、本発明によれば、筒状部材と軸状部材との嵌合部に接合部を形成した場合に、当該接合部の良否を 超音波を用いて簡易かつ高精度に検査することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づき説明する。まず検査対象となる外側継手部材を備えた等速自在継手の詳細を説明する。なお、以下の実施形態では、等速自在継手として、自動車のドライブシャフトに組み込まれ、駆動側と従動側の二軸を連結してその二軸が如何なる作動角をとっても等速で回転トルクを伝達する構造を備えた摺動型等速自在継手を例示する。
【0029】
図1は、摺動型等速自在継手10の断面図である。この等速自在継手10は、いわゆるシングルローラタイプのトリポード型等速自在継手であり、外側継手部材11と、トリポード部材12、及びローラユニット13とを主に備える。外側継手部材11のうち、本発明に特に関連する部分の詳細については後述するものとし、先に本発明に特に関連する部分以外の構成を説明する。
【0030】
外側継手部材11の内周面には、
図2に示すように、軸方向に伸びる三本の直線状トラック溝14が円周方向等間隔に形成される。各トラック溝14は、その内側両壁に互いに対向する一対のローラ案内面15を有する。ローラ案内面15は円弧状断面を有し、外側継手部材11の軸線方向に直線状に延びている。
【0031】
トリポード部材12は、図示は省略するが、円筒状をなすボス16の外周面に、ボス16の半径方向に伸びる三本の脚軸17が円周方向等間隔(120°間隔)で一体的に形成されたものである。
図1に示すように、脚軸17は、その先端がトラック溝14の底部付近まで半径方向に延在している。ボス16の軸孔には、シャフト部18の例えばインボード側となる一端部18aがスプライン嵌合等により連結されている。
【0032】
上記構成の摺動型等速自在継手10においては、トリポード部材12の脚軸17と外側継手部材11のローラ案内面15とがローラユニット13を介して二軸の回転方向に係合することにより、駆動側から従動側へ回転トルクが等速で伝達される。また、ローラユニット13が脚軸17に対して回転しながらローラ案内面15上を転動することにより、外側継手部材11とトリポード部材12との間の相対的な軸方向変位や角度変位が許容される。
【0033】
また、この等速自在継手10は、内側継手部材としてのトリポード部材12のボス16にインボード側となる一端部18aがスプライン嵌合により連結されているシャフト部18と、ブーツ19とをさらに備える。すなわち、本実施形態では、シャフト部18は、摺動型等速自在継手10の構成要素でもある。
【0034】
ブーツ19は、摺動型等速自在継手10の内部に封入されたグリースなどの潤滑剤の漏れ出しを防止すると共に外部からの異物の侵入を防止する目的で設けられるもので、その大径側端部20が外側継手部材11の外周面に嵌合固定されると共に、小径側端部21がシャフト部18の外周面に嵌合固定されている。本実施形態では、ブーツ19は、
図1に示すように、蛇腹状の屈曲部を有するもので、大径側端部20の外周に巻き付けられた状態のブーツバンド22により、大径側端部20が外側継手部材11に締め付け固定されていると共に、小径側端部21の外周に巻き付けられた状態のブーツバンド23により、小径側端部21がシャフト部18に締め付け固定されている。
【0035】
外側継手部材11は、筒状をなすカップ部24と、軸状をなすステム部25とを一体に有するもので、別個に形成されたカップ部24とステム部25とを溶接により一体化している。詳述すると、カップ部24の底部26には嵌合穴27が設けられており、この嵌合穴27にステム部25の一端部28が嵌合されるようになっている。本実施形態では、嵌合穴27は、カップ部24の開口側に位置する小径内周面27aと、小径内周面27aと段差を介して軸方向に隣接し、小径内周面27aより大径な大径内周面27bとで構成されている。これら小径内周面27aと大径内周面27bはともに断面真円形状をなす。また、ステム部25の一端部28は、小径内周面27aと嵌まり合う小径外周面28aと、小径外周面28aと段差を介して軸方向に隣接し、小径外周面28aよりも大径な大径外周面28bとで構成されている。これら小径外周面28aと大径外周面28bはともに断面真円形状をなす。また、小径内周面27aの軸方向寸法と小径外周面28aの軸方向寸法とは略等しい。よって、
図1のようにステム部25の一端部28をカップ部24の嵌合穴27に嵌め合わせることで、嵌合穴27の小径内周面27aと一端部28の小径外周面28aとがその軸方向全域にわたって嵌合した状態となる。この場合、カップ部24とステム部25との間の所定の軸方向嵌合領域29の一端がカップ部24の内面24b側に露出した状態となる。よって、この軸方向嵌合領域29に対してカップ部24の開口側から溶接が行われることで、軸方向嵌合領域29に溶接部30が形成される。
【0036】
本実施形態では、溶接部30は、
図2に示すように、軸方向嵌合領域29(
図1を参照)の円周方向全域にわたって形成される。また、軸方向嵌合領域29の軸方向全域にわたって形成される。
図3は、カップ部24とステム部25との間の軸方向嵌合領域29周辺の拡大断面図である。本来であれば溶接部30は軸方向嵌合領域29の軸方向全域にわたって形成されるべきところ、
図3に示すように、溶接開始側とは反対側(
図3でいえば、溶接開始側から見て奥側となる右側)の一部が溶接されることなく軸方向嵌合領域29の一部が残ることがある。このような溶接不良部31(溶接深さ不良)を非破壊で検知するべく、以下に示す超音波検査が行われる。
【0037】
また、ステム部25の一端部28には、カップ部24の開口側から見て所定の軸方向嵌合領域29よりも深い位置まで伸びる軸方向穴32が形成される。本実施形態では、軸方向穴32の中心線はステム部25の中心線X1(
図1を参照)に一致しており、かつその内周面32aは断面真円形状(
図2を参照)をなす。
【0038】
図4は、本発明の一実施形態に係る超音波検査装置40の全体構成を示す図である。この超音波検査装置40は、例えばロボットアーム41と、ロボットアーム41の先端に取り付けられる探触子42と、検査対象としての外側継手部材11を保持する保持部43と、保持部43と一体に回転する回転台44、及び超音波探傷結果に基づき溶接の良否を判定する良否判定装置45とを備える。
【0039】
ロボットアーム41は多関節ロボットアームであって、その先端に取り付けた探触子42の三次元位置及び姿勢を図示しない制御装置により制御可能としている。
【0040】
探触子42には、公知の超音波探傷用探触子が適用可能であり、本実施形態では垂直探触子が適用される。従って、使用時には、探触子42の超音波発振方向u(後述する
図5を参照)を、探傷面となる軸方向穴32の内周面32aに対して垂直な方向に設定した状態を維持しながら、超音波による探傷(溶接不良の有無の検出)を行う。
【0041】
保持部43及び回転台44について特に制限されないが、例えば保持部43に保持された状態のステム部25の中心線X1と、回転台44の回転中心線X2とが一致するように(
図4を参照)、保持部43及び回転台44を構成するのがよい。
【0042】
以下、上記構成の超音波検査装置40を用いた溶接の良否を判定するための検査の一例を主に
図4及び
図5に基づいて説明する。
【0043】
まず、
図4に示すように、検査対象となる外側継手部材11のカップ部24を上方、ステム部25を下方に向けた状態で保持部43によりステム部25を保持する。これにより外側継手部材11を超音波検査装置40に対して所定の姿勢で保持する。
【0044】
次に、ロボットアーム41の先端に取り付けられた探触子42を移動させて、ステム部25の一端部28に形成された軸方向穴32の内部に探触子42の少なくとも一部を配置する(
図5を参照)。この際、探触子42の超音波発振方向uが、探傷面となる軸方向穴32の内周面32aと垂直になるように、探触子42の姿勢を調整する。
【0045】
上述のように配置し終えた後、軸方向穴32の半径方向外側に位置する溶接部30、正確には溶接部30を形成すべき所定の軸方向嵌合領域29の全域に対して超音波による検査を行う。具体的には、
図5に示す状態において、探触子42から半径方向外側に向けて所定の超音波を発振する。そして、探触子42により受信した反射波のエコー高さないし時間的遅れに基づいて、例えば予め求めておいた良否判定基準との比較により良否判定装置45が溶接の良否判定を行う。
【0046】
上述した動作を例えば1ステップとして実行すると共に、1ステップごとに、回転台44を所定角度だけ回転させることにより、軸方向嵌合領域29の円周方向全域に対して上述した超音波検査を行う。
【0047】
また、上述した回転動作を伴う検査を、軸方向嵌合領域29の円周方向全域に対して実施した後、ロボットアーム41により探触子42を外側継手部材11の中心線X1に沿って所定距離だけ移動させて上述した検査を軸方向嵌合領域29の円周方向全域に対して実施する。この動作及び検査を繰り返すことにより、探触子42を用いた軸方向嵌合領域29の円周方向全域及び軸方向全域に対する超音波検査を実施する。
【0048】
なお、良否判定の具体的な手段については検査対象との関係で適宜設定すればよい。一例として、溶接深さ不良(未溶接)である溶接不良部31が存在する場合のエコー高さについてしきい値を予め設定しておき、検査対象となる外側継手部材11を一周させた際に検出されたエコー高さのしきい値超えの回数が所定回数に達した場合には、溶接深さ不良が存在したものと判定し、所定回数未満の場合には、溶接深さ不良はないものと判定する方法が挙げられる。
【0049】
以上に述べたように、本発明に係る超音波検査方法では、カップ部24の底部26に設けられた嵌合穴27に嵌め合されるステム部25の一端部28に、所定の軸方向嵌合領域29よりも深い位置まで伸びる軸方向穴32を形成しておき、この軸方向穴32から半径方向外側に向けて超音波を発振するようにした。このようにすれば、筒状をなすカップ部24の外面24a形状に関係なく、探傷面となる軸方向穴32の内周面32aから溶接部30までの距離(正確には軸方向嵌合領域29までの距離)を軸方向穴32の内周面32a形状により調整することができるので、減衰度合がばらつく事態を可及的に回避して、安定的かつ正確な超音波検査を行うことが可能となる。また、軸方向穴32の内周面32aであれば、カップ部24の外面24aほど形状的な制約はないため、例えば内周面32aを断面真円形状など単純な形状にして、探触子42の姿勢制御を簡易化することができる。よって、制御のための設備(本実施形態でいえばロボットアーム41及びこの制御装置)を安価にすることが可能となる。
【0050】
特に、本実施形態のように、軸方向穴32を一端部28の中心に形成し、かつ軸方向穴32の断面形状と底部26の嵌合穴27の断面形状をともに真円形状とすることで、探傷面となる軸方向穴32の内周面32aから嵌合穴27の内周面(本実施形態では小径内周面27a)までの距離を軸方向嵌合領域29の全周にわたって一定にすることができる。従って、超音波の減衰度合を一定にして、より安定的かつ正確な超音波検査を行うことが可能となる。また、軸方向穴32の内周面32aを断面真円形状とすれば、探触子42に垂直探触子を用いて半径方向外側に向けて超音波を発振しつつ軸方向穴32の中心線(すなわちステム部25の中心線X1)まわりに相対回転させるだけで済むため(
図5を参照)、その動作制御も非常に簡易なもので足りる。よって、更なる設備コスト及び作業コストの低減化につながる。
【0051】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、もちろん超音波検査方法及び超音波検査装置40はそれぞれ、本発明の範囲内において、他の形態を採ることも可能である。
【0052】
例えば、上記実施形態では、ステム部25の一端部28に設けた軸方向穴32に探触子42を配置して、探触子42から半径方向外側に向けて超音波を発振する検査態様をとる場合を例示したが、もちろんこれ以外の検査態様をとることも可能である。
図6はその一例(本発明の他の実施形態)に係る超音波検査装置50の全体構成を示す図である。この超音波検査装置50は、ステム部25の軸方向穴32に配置され、超音波を所定の角度で反射する反射部材53を備える点において、
図4に示す超音波検査装置40と異なる構成をとっている。この場合、反射面53aは例えば円錐形状をなす。また、反射部材53の少なくとも反射面53aを含む部分には、ステンレス鋼など所定の金属で形成され、超音波を反射可能なように適当な研磨が施されたものが使用される。
【0053】
上記構成の超音波検査装置50を用いた溶接の良否判定検査は、例えば以下のようにして行われる。すなわち、まず
図6に示すように、反射面53aを有する反射部材53を軸方向穴32の内部に載置すると共に、探触子52をカップ部24の内側の所定の位置に配置させる。この際、探触子52から発振された超音波の反射面53aによる反射方向rが、軸方向穴32の内周面32aと垂直な向きとなるよう、探触子52からの超音波発振方向u、及び中心線X1に対する反射面53aの傾斜角度が設定される。本実施形態に示す形態であれば、ロボットアーム41により探触子52の姿勢が適切に制御される。
【0054】
上述のように配置した状態で、軸方向穴32の半径方向外側に位置する溶接部30、正確には溶接部30を形成すべき所定の軸方向嵌合領域29の全域に対して超音波による検査を行う。具体的には、
図6に示す状態において、探触子52から反射部材53に向けて超音波を発振し、反射面53aでこの超音波を半径方向外側に反射する。そして、探触子52により受信した溶接部30(軸方向嵌合領域29)からの反射波のエコー高さないし時間的遅れに基づいて、例えば予め求めておいた良否判定基準との比較により良否判定装置45が溶接の良否判定を行う。この際、例えば上記実施形態と同様、回転台44をその中心線X2まわりに回転させると共に、探触子52を軸方向及び外側継手部材11の半径方向に移動させることで、軸方向嵌合領域29の円周方向全域及び軸方向全域に対して超音波による検査を行う。
【0055】
このように反射部材53を軸方向穴32に配置して、間接的に探触子52からの超音波を軸方向穴32から半径方向外側に向けて発振すれば、軸方向穴32に配置すべき部材は反射部材53だけで足りる。これにより、例えば強度の面からステム部25の一端部28にあまり大きな内径寸法を有する軸方向穴32を形成することが難しい場合であっても、上述の通り、安定かつ高精度に超音波による溶接部30の良否検査を行うことが可能となる。
【0056】
なお、上記実施形態では検査対象となる外側継手部材11の回転に関し、所定角度ずつ断続的に回転させながら超音波による検査を行う場合を例示したが、もちろんこれには限られない。超音波の送受信が滞りなく実施できる限りにおいて、例えば外側継手部材11を所定の速度(角速度)で連続的に回転させながら、上記超音波による検査を円周方向に沿って連続的に実施してもかまわない。軸方向の移動についても同様に、超音波の送受信が滞りなく実施できる限りにおいて、例えば探触子42(52)のロボットアーム41による軸方向への移動を所定の速度で連続的に行いながら、上記超音波による検査を軸方向に沿って連続的に実施してもかまわない。
【0057】
また、上記実施形態では、検査対象となる外側継手部材11を回転させると共に、探触子42(52)を軸方向に移動させながら、上記超音波による検査を実施する場合を例示したが、もちろんこれ以外の移動形態をとることも可能である。例えば外側継手部材11を固定した状態で探触子42を中心線X1まわりに回転させながら上記超音波による検査を実施してもよい。また、探触子42を固定した状態で外側継手部材11を軸方向に移動させながら上記超音波による検査を実施してもよい。
【0058】
また、以上の説明では、外側継手部材11を構成するカップ部24とステム部25との溶接部30を検査対象とした場合を例示したが、もちろん本発明はこれ以外の構成に係る溶接部、例えば筒状をなす部材の底部に設けられた嵌合穴に、軸状をなす部材の一端部を嵌め合わせた状態で当該軸方向嵌合領域に溶接を施して得られる溶接部全般に対して適用することが可能である。
【0059】
また、以上の説明では、溶接部30を超音波による検査対象とした場合を例示したが、もちろん、本発明は溶接部以外の接合部、例えば摩擦撹拌接合や摩擦圧接などの固相接合部など母材の加熱溶融を伴わない接合部全般に対して適用することが可能である。