【文献】
石橋睦美、上野佳奈子、橘秀樹、渡辺充敏,“シミュレーション音場を用いた集合住宅の音環境に関する主観評価実験”,日本建築学会環境系論文集,日本,日本建築学会,2005年 7月,第593号,pp.9-16
【文献】
古川優、冨高隆,“建築物の外装部材から発生する風騒音の予測・評価”,日本風工学会誌,日本風工学会,2014年 1月,第39巻、第1号,pp.10-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
風洞実験機の実験室において、試験体設置箇所の周囲に建築物の立地予定地の環境音を印加するスピーカを複数配置したことを特徴とする建築物の風騒音評価用風洞実験室。
【背景技術】
【0002】
近年、聴感上、耳につきやすい純音性の成分を持つ風騒音が社会的に注目されるようになった。
風騒音を評価する方法として、車の風切音やコピー機の発生音などの要素音の騒音評価方法は提案されている。
建築物においては、風圧や風抵抗に関する風洞試験が行われており、主に、水平の横風を中心に検討がなされている。
例えば、特許文献1(実開平3−68038号公報)には、モデルの位置を上下に調整可能な4本のネジ付き柱材を備えた風洞の模型の支持装置が開示されている。
また、特許文献2(特開昭60−131440号公報)には、試験用家屋などを設置するターンテーブルを備えた住宅用環境試験装置が開示されている。
また、特許文献3(特開2004−354290号公報)には、風洞中空に支持し、3軸方向に姿勢を制御できる航空機などの風洞模型支持装置が開示されている。
また、特許文献4(特開2001−41846号公報)には、弾性支持と加振装置を備えた風洞試験の支持装置が開示されている。
【0003】
風によって引き起こされる建築物の騒音の発生メカニズムは複雑であり、単純に水平方向からの風の影響を予想しても、現実の風騒音評価には十分でないことが分かってきている。
また、現実には、建築物の立地環境によっても、騒音と認識されるか否か左右されることもあり、建築物の周囲の音環境も含めて評価する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、建築物の風騒音を評価できる装置を開発することを目的とし、具体的な風洞実験室及びその風洞実験室で用いる建築物モデル試験体の姿勢を多様に変更できる支持装置を提供することを目的とする。
またさらに、環境音を加味した風騒音を体感できる(あるいは再現できる)風洞実験装置を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.風洞実験機の実験室において、試験体設置箇所の周囲に建築物の立地予定地の環境音を印加するスピーカを複数配置したことを特徴とする建築物の風騒音評価用風洞実験室。
2.風洞実験機が、低騒音風洞装置であって、
試験体を設置する実験室が半無響音室又は無響音室であることを特徴とする1.に記載の建築物の風騒音評価用風洞実験室。
3.
回動可能な脚部と上下動機構が設けられた基礎台上に縦回転、水平回転可能な建築物モデル固定装置が取り付けられている風洞実験用建築物支持装置に支持した建築物モデルを試験体として、1.又は2.に記載された建築物の風騒音評価用風洞実験室の試験体設置箇所に設置したことを特徴とする建築物の風騒音評価装置。
4.回動可能な脚部と上下動機構が設けられた基礎台上に縦回転、水平回転可能な建築物モデル固定装置が取り付けられていることを特徴とする風洞実験用建築物支持装置。
5.基礎台は、キャスターと上下動が可能な脚注とを有する脚部、及び上下動機構としてのジャッキを備えており、
建築物モデル固定装置は、水平回転可能な回転体と該回転体上に取り付けられた支柱フレームに縦回転可能に接続された建築物モデル支持用の取付けフレームを備えていることを特徴とする風洞実験用建築物支持装置。
6.4.又は5.に記載された風洞実験用建築物支持装置に支持した建築物モデルを試験体として1.又は2.に記載された建築物の風騒音評価用風洞実験室の試験体設置箇所に設置したことを特徴とする建築物の風騒音評価装置。
【発明の効果】
【0007】
1.現実に近づけた建築物の風騒音を評価できる装置を開発した。
環境音を暗騒音として印加するスピーカを配置し、建築物の立地環境に即した風騒音の状況を確認、評価できる建築物の風騒音評価用風洞実験室を提供した。建築物モデルの姿勢を多様にすることができる支持装置によって、風向の変化による騒音状況を評価確認できる機器を提供した。
また、支持装置に取り付けた建築物モデル試験体を風騒音評価用風洞実験室に配置して、送風試験を行い騒音の発生状況を評価者が直接聴取して評価あるいは記録して評価することができる評価装置を実現できた。
2.風洞実験室は、低騒音風洞装置を用い風洞装置由来の騒音を極力減らし、無響音室あるいは半無響音室とすることにより、音を出すスピーカの位置によって音源の方向性を明確にして建物の立地環境に合わせることができ、また、騒音が発生する建築物モデル箇所を特定できる。例えば、残響音がある状況下では、音の発生方向を特定することは困難であるので、複数のスピーカを配置する必要がないが、細かな評価をすることもできない。
3.風洞実験装置において、建築物モデルの設置位置の周囲に環境騒音を印加できるスピーカを配置して、建築物の立地箇所の音環境条件を加味した建築物による風騒音の評価ができる。これによって、立地状況の実状に即した風騒音の評価を行い、建築物の設計に反映することができる。
暗騒音付加システムの導入により、風騒音の部材性能評価と、建築物の設置階などの影響を受ける空間性能評価の二つの評価・体感が可能になる。様々な風向条件の再現が可能となる。複数の人が風洞実験により発生する風騒音を直接聞きながら、同時にスピーカにより環境騒音も体感できる。
4.キャスターにより、建築物モデル支持装置をx軸、y軸方向に移動して平面位置を決定し、ジャッキを利用して、z軸方向の支持装置の高さ方向の位置を決定する。本発明の支持装置はさらに、建築物に対して当たる風の向きや方向を調整できるように、縦及び水平回転可能である。建築物モデルを3軸方向設置位置設定とさらに2軸方向に回転して、風を受ける建築物モデルの姿勢を設定できる。これによって、建築物に当たる風当たりの角度を任意に設定することができ、多様な状況の風当たり条件による風騒音を評価することができる。
5.したがって、本発明は、建築物の風騒音を評価する建築物モデル試験体の姿勢を多様に設定できる風洞実験用建築物支持装置を実現しており、環境音を加味した風騒音を体感できる(あるいは再現できる)風洞実験装置である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】風洞実験用建築物モデルの支持装置の正面図である。
【
図2】風洞実験用建築物モデルの支持装置の側面図である。
【
図3】風洞実験用建築物モデルの支持装置の平面図である。
【
図4】風騒音評価用風洞実験室の平面配置を示す図である。
【
図5】風騒音評価用風洞実験室の立面状態を示す図である。
【
図6】風洞実験室の建築物モデル試験体の姿勢変化の例を示す図である。
【
図9】建築物に対する風向による風条件に関する図面である。
【
図10】外装材の設置場所による建物の風条件に関する図面である。
【
図12】ターンテーブルを使用した従来例の支持装置の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、建築物風騒音評価用風洞実験室及び風洞実験用建築物支持装置に関する発明である。
建築された建築物を利用していると、風によって発生する騒音が問題になることがある。
騒音は、建築物の固有の形状や構造に伴って発生する建築物由来の騒音の他、建物の向きや階数などの設置箇所に基づく風当たりに由来する騒音がある。また、建築物が立地する周囲に存在する日常音環境によっても、居住者にとって騒音として認識されるレベルが変化する。
本発明は、建築物固有の風騒音と建築物の設置箇所の風騒音、さらに環境由来の騒音(環境暗騒音)とに着目し、再現できる風洞実験を実現するために行った装置発明である。
建築物に当たる水平及び上下方向の風向きに対応して建築物モデルの姿勢を自由に設定できるように、xyzの3軸位置調整機能と縦回転と横回転の2方向の位置調整機能を備えた建築物モデル支持装置を開発した。
さらに、風洞実験装置において、本建築物モデル支持装置に取り付けた建築物モデルを設置して風を当てることによって、建築物モデルから発生する基礎的な騒音と設置階数や方角による騒音を発生させて評価することができる。これに加えて、建築物が立地する周囲の音環境を印加した状態で、発生する騒音状態を評価することによって、建築物が完成した後の現実空間での騒音問題が生ずるかを事前に評価することができる。
したがって、本装置には、建物毎または同一建物の居室毎の暗騒音(あらかじめ収録した暗騒音や、騒音伝搬シミュレーション等で予測される暗騒音等)を呈示可能な暗騒音付加システム(複数のスピーカから構成され、様々な音源を再現可能)にて導入して、これまで評価が行われてきた風騒音に対する対象部材の「部材性能評価」だけではなく、部材設置位置や建物建設予定地等によって異なる暗騒音の影響を考慮した「空間性能評価」を1つの装置で行うことができる。
【0010】
暗騒音について
建築物の形状・構造に由来して発生する音であっても、設置箇所によって、風当たりの条件が異なり、それによって風騒音の可能性も生ずる。
建物に当たった風の流れは、建物と風の向きや高さによって風速が変化するので、外装材はそれぞれの設置位置で条件が異なることとなる。例えば、弱風では騒音は発生せず、風速が上がると騒音の問題が生ずる可能性があるので、それぞれの設置位置に応じた風洞試験を行って、騒音の可能性を検討し、評価する。
建物正面から吹く風と45度の角度から吹く風の流れを平面的に示した模式図が
図9であり、立面的に示した模式図が
図10である。
壁面から1.5m離れた位置の風速比であって、建物高さにおける平均風速を基準としている。
図9、
図10は水平な風を想定して解析して示している。高層建築物では、上昇流や下降流など様々な方向から風が吹いてくるので、
図12(特許文献2
図1参照)に示すようなターンテーブルでは、水平の風向きには対応できるが、傾きの変化には対応できず、十分な風騒音評価が実現できない。
【0011】
環境暗騒音について
建物が建築される地域や場所によって、既に発生している音条件がある。例えば、駅前と住宅地では音の種類も異なり、それぞれの場所の日常状態に適応して生活が成り立っている。同じ建築物から発生する風の音でも、日常音と同程度であれば騒音問題とならない可能性がある。
したがって、建物と風の関係の外、環境に由来する日常音も環境暗騒音として、評価項目とする。本発明では、風洞実験室に環境暗騒音を再現して、環境暗騒音を考慮した風騒音評価が可能となる。
【0012】
<風洞実験用建築物支持装置の例>
風洞実験用建築物支持装置Aの立面図を
図1に、側面図を
図2に、平面図を
図3に示す。
風洞実験用建築物支持装置Aは、基礎台2の上方に建築物モデルを支持する建築物モデル固定装置1を備えている。
基礎台2は、上下動が可能な脚柱25と該脚の下端に取り付けたキャスター22と基礎台を上下動させるジャッキ23を備えている。
建築物モデル固定装置1は、底部の水平回転体18上に支柱12を設け、該支柱12に設けた縦回転軸13を介してモデルを固定する取付けフレーム11を接続している。
キャスター22はX方向、Y方向の調整を行う。位置固定は、キャスターをロックするか、キャスターを上方に引き上げて、脚フレームで固定する等の手段による。
キャスターでX、Y方向の位置を決めた後に、ジャッキを用いて、Z方向の上下位置を調整する。キャスターは四隅に設けられており、左右のキャスターを別々の高さにすると、基礎台上面を傾斜させることができ、取付けフレーム11に固定されている建築物モデルも傾斜させることができる。
【0013】
建築物モデル固定装置1は、取付けフレーム11をフレームで方形に形成され縦回転軸13に軸着されており、支柱12の側部には縦回転案内用のガイドアーム15が設けられており、ガイドアーム15は、支柱12とクロスしており、角度を決定して、ガイドアームと支柱はボルトなどのロック機構16によって固定する。
フレームを用いることにより気流の抵抗を減らし、気流が直接当たって、発音するような部分には吸音材を被覆して、フレームに起因する騒音の発生を防止する。
建築物モデルを取り付けるフレームは、方形の取付けフレーム11、さらに取付けフレーム11の周囲に立設した試験体固定用アーム14を備える。また、取付けフレーム11の背面にはクロスフレームを備えている。建築物モデルは、これらのフレームやアームに固定して取り付ける。建築物モデルの形状、構造によって、取付けフレーム11や試験体固定用アーム14を利用して、取付け固定する。
建築物モデル固定装置1は、縦回転と横回転を行って調整することができる。例えば水平回転体18を回転して、気流に対する水平角度調整、縦回転軸13によって気流に対する仰角調整を行う。さらに、基礎台の上面を傾けることにより、建築物モデル固定装置1その物を傾斜させて、モデルの姿勢も調整することができる。
したがって、本例に示した風洞実験用建築物支持装置Aは、建築物モデルを3軸方向に姿勢調整できる風洞実験用建築物支持装置である。
また、フレーム構成にすることにより、空間を大きくして空気流に与える影響を小さくしている。さらに、フレームが原因となる音の発生を防止するために、スポンジなどの吸音材で被覆する。
【0014】
この風洞実験用建築物支持装置を用いることにより、建築物モデルを気流に当てる様々な姿勢を実現することができ、風向きによる各種の風騒音の評価が実現できる。
【0015】
<風騒音評価用風洞実験室の例>
本発明の風騒音評価用風洞実験室61の例を
図4〜
図7に示す。
図4、
図5は使用例1、
図6、
図7は使用例2を示している。
使用例1は、風洞実験用建築物支持装置Aに垂直に建築物モデル5を取り付けて、空気流に対して水平方向に角度調節を行う例である。
使用例2は、風洞実験用建築物支持装置Aの建築物モデル固定装置に縦と横の回転調整をして、傾きのある空気流を建築物モデルに当てている例である。
【0016】
風騒音評価用風洞実験室61は、風洞実験機6の測定室であって、中央部に建築物モデル5を支持した建築物支持装置Aを設置する空間を備え、壁には吸音体64を配置して、無響音環境を整える。暗騒音を付加するシステムとして、床面の4方向及び送風口62上部に1つの合計5個のスピーカ63を配置している。送風口62から、風速を調整して送風する。この送風装置としては、音の評価であるので送風音が低い低騒音型の風洞装置を採用するのが望ましい。本例のスピーカの配置は、四方から暗騒音を提示して、方向性を無くしている。また、送風口上方に設けて、送風騒音を打ち消すようにしている。
無響音環境であるので、発音方向を不特定とするためには、多方向から音を出す必要がある。なお、特定のスピーカから音を出すことにより、環境暗騒音の種類と方向性を付与することもできる。
風洞実験装置の例は、
図11に示されるような公知の基本構造である。低騒音風洞実験機の例は、鉄道総研やJR東海の研究施設に備えられている。鉄道総研の例が雑誌「騒音制御」Vol.27、No.5(2003)p305〜310に紹介されている。また、実用風洞実験機の例が各社のホームページ等でも紹介されている。
【0017】
図4は、使用例1の平面図であり、
図5は立面図である。
建築物モデル5は、ベランダの手摺を想定している。建築物支持装置A上の建築物モデル固定装置1が、水平角を水平回転体で調整するように設定されている。図示では、送風方向に対して45度の角度に調整されている。
まず、建築物モデルを設置しない状態で送風して、風洞実験装置の固有の音を採取する。次に、この建築物モデルを設置して送風して、建築物モデル固有の音を採取する。引き続き、スピーカから建築物建設予定地の環境音を付加して、送風し音を採取する。
これらの発生する音を聴いて、騒音の発生を評価することができる。
これらの条件を、風の強さ、階数や立地場所などの条件を変えて、評価を行う。
また、風洞実験装置固有の音成分を除去して、純粋な建築物固有の騒音、及び環境暗騒音を加味した音に調整して評価することもできる。
音の観察は、評価者がこの測定室内で立ち会いをすること、あるいは収録音によって行うことができる。特に試験現場で立ち会い評価をする場合、風洞実験装置の固有音や建築物支持装置の発音の影響を小さくして、建築物に起因する音を明確にすることが重要である。低騒音型の風洞実験装置およびフレーム体で構成された建築物支持装置Aは、有効である。
複数のスピーカから流す暗騒音は、全スピーカを同一にするか、あるいは方向によって種類や強弱を変える。評価対象の建築物の立地環境条件に合わせて、方向性を検討する。
スピーカの配置箇所、数はこの5つに限定されるものではなく、多数配置し、選択的使用をすることもできる。
【0018】
図6は、使用例2の平面図であり、
図7は立面図である。
建築物モデル5は、ベランダの手摺を想定している。建築物支持装置A上の建築物モデル固定装置1を、縦回転と横回転させて調整するように設定されている。図示では、送風方向に対して斜め上45度の角度に調整されている。
この状態で、使用例1と同様に測定して、評価する。
【0019】
本発明者は、別途建築物による風騒音の客観評価について検討している。
この評価手法を用いると、聴覚評価との整合性の良い評価を本発明の風洞実験装置を用いて得ることができる。
即ち、建築物モデルを用いた風洞試験の周波数スペクトルから、風洞試験装置の固有の暗騒音及び環境暗騒音等の暗騒音を除いて評価する、あるいは、環境暗騒音を付加して立地状態での評価をすることが可能であって、実聴感評価と相関性の良い結果が得られる。