【文献】
酒井千尋,ガラス中の泡の分析(その1.泡のガス分析の方法),NEW GLASS,1999年,VOL.14, NO.4,p.42-47
【文献】
酒井千尋,ガラス中の泡の分析(その2.分析結果の解析と考察),NEW GLASS,2000年,VOL.15, NO.1,p.31-35
【文献】
Erik MUYSENBERG et al.,Bubbles and Blister,63rd Conference on Glass Problems,2003年,volume.24 issue 1,p.161-174
【文献】
David A. TAMMARO,Gas Bubbles in Glass,AMERICAN CERAMIC SOCIETY BULLETIN,1994年,vol.73 No.2,p.79-84
【文献】
Lubomir NEMEC et al.,Identifying the Source of Bubbles in Glass Melts,Glass,1996年,Vol.73 No.7,p.281,282,285
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記分析する工程では、前記ガラス板に含まれる気泡に対して光源から照射されたレーザ光の散乱光を分析することで、又は、前記ガラス板に含まれる気泡内のガス成分を放出させ、質量分析計を用いて前記放出させたガス成分を分析することで、前記ガス成分の構成比を分析する、請求項1から10のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、バブリングにより、熔融ガラスの酸性度が向上し、SO
2を含んだ気泡の発生を低減することができるとされている。しかし、ガラス基板中の気泡に含まれる可能性のあるガス成分には、SO
2だけでなく種々存在する。また、1つの気泡には、複数の種類のガス成分が含まれている場合がある。さらに、特定のガス成分を含んだ気泡を取り除くための対策として、気泡に含まれるガス成分の種類ごとに知られている製造工程の調整を行っても、ガラス板内の気泡を十分に低減できない場合があることが分かった。
【0005】
そこで、本発明は、ガラス基板に含まれる気泡を効果的に低減できるガラス基板の製造方法およびガラス基板製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
気泡内には、通常、複数の種類のガス成分が存在している。本発明者の検討によれば、気泡内の複数のガス成分が採りうる構成比は、無数に存在するようでありながら、互いに類似する(同様の傾向性を示す)気泡ごとに、いくつかのグループに分けられることが分かった。そして、同じグループに属する気泡であれば、製造工程を同様に調整することで、同様に低減できる場合があることが分かった。一方で、ある気泡が、同時に複数のグループに属することもあり、グループのそれぞれと対応する調整方法の中からどの方法を選択し、実行すればより効果的に気泡を低減できるか判別のつかない場合がある。このような状況で、さらに検討が重ねられた結果、あるグループに属する気泡を低減するのに有効な調整方法は、そのグループに属する気泡の発生原因を特定することによってより適切に選択でき、選択された調整方法(気泡低減方法)を行うことで、そのグループに属する気泡を効果的に低減できることを見出した。本発明は、下記(1)〜(13)を提供する。
【0007】
(1)熔融ガラスの生成、撹拌、清澄の少なくとも何れかを行う熔解工程と、
前記熔融ガラスからガラス板を成形する成形工程と、を備える製造工程を有するガラス基板の製造方法であって、
さらに、前記ガラス板に含まれる気泡内のガス成分を分析する分析工程と、
前記分析された気泡が、前記気泡に含まれ得る複数のガス成分の構成比に従って予め用意された複数のグループのうちのどのグループに属するかを、前記分析の結果に応じて判定する判定工程と、
前記判定の結果に基づいて
、前記グループそれぞれと対応付けられた複数の気泡の発生原因のうち、前記判定されたグループと対応付けられた発生原因を特定する特定工程と、を備え、
前記特定工程では、前記判定されたグループが複数ある場合に、前記判定されたグループそれぞれと対応付けられた発生原因のうちの1つを、前記製造工程における前記ガラス板の製造条件を用いて特定し、
前記特定の結果に基づいて、前記発生原因を抑えて前記気泡の数を低減するように、前記判定されたグループと予め関連付けられた気泡低減方法を用いて前記製造工程をフィードバック調整することを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0008】
(2)
熔融ガラスの生成、撹拌、清澄の少なくとも何れかを行う熔解工程と、
前記熔融ガラスからガラス板を成形する成形工程と、を備える製造工程を有するガラス基板の製造方法であって、
さらに、前記ガラス板に含まれる気泡内のガス成分を分析する分析工程と、
前記分析された気泡が、前記気泡に含まれ得る複数のガス成分の構成比に従って予め用意された複数のグループのうちのどのグループに属するかを、前記分析の結果に応じて判定する判定工程と、
前記判定の結果に基づいて前記気泡の発生原因を特定する特定工程と、を備え、
前記特定の結果に基づいて、前記発生原因を抑えて前記気泡の数を低減するように、前記判定されたグループと予め関連付けられた気泡低減方法を用いて前記製造工程をフィードバック調整し、
前記複数のグループは、第1のグループとして、前記ガス成分のCO
2濃度が60〜100%、SO
2濃度が0〜40%、N
2濃度が0〜5%であるグループを含み、
前記分析された気泡が前記第1のグループに属すると判定された場合に、前記製造工程を行う装置を汚染している汚染物質を低減させることを、前記気泡低減方法として行う、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0009】
(3)
熔融ガラスの生成、撹拌、清澄の少なくとも何れかを行う熔解工程と、
前記熔融ガラスからガラス板を成形する成形工程と、を備える製造工程を有するガラス基板の製造方法であって、
さらに、前記ガラス板に含まれる気泡内のガス成分を分析する分析工程と、
前記分析された気泡が、前記気泡に含まれ得る複数のガス成分の構成比に従って予め用意された複数のグループのうちのどのグループに属するかを、前記分析の結果に応じて判定する判定工程と、
前記判定の結果に基づいて前記気泡の発生原因を特定する特定工程と、を備え、
前記特定の結果に基づいて、前記発生原因を抑えて前記気泡の数を低減するように、前記判定されたグループと予め関連付けられた気泡低減方法を用いて前記製造工程をフィードバック調整し、
前記複数のグループは、第2のグループとして、前記ガス成分のCO
2濃度が0〜30%、SO
2濃度が70〜100%、N
2濃度が0〜5%であるグループを含み、
前記分析された気泡が前記第2のグループに属すると判定された場合に、前記製造工程を行う装置の構成材料に含有される不純物量を低減することを、前記気泡低減方法として行う、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0010】
(4)
熔融ガラスの生成、撹拌、清澄の少なくとも何れかを行う熔解工程と、
前記熔融ガラスからガラス板を成形する成形工程と、を備える製造工程を有するガラス基板の製造方法であって、
さらに、前記ガラス板に含まれる気泡内のガス成分を分析する分析工程と、
前記分析された気泡が、前記気泡に含まれ得る複数のガス成分の構成比に従って予め用意された複数のグループのうちのどのグループに属するかを、前記分析の結果に応じて判定する判定工程と、
前記判定の結果に基づいて前記気泡の発生原因を特定する特定工程と、を備え、
前記特定の結果に基づいて、前記発生原因を抑えて前記気泡の数を低減するように、前記判定されたグループと予め関連付けられた気泡低減方法を用いて前記製造工程をフィードバック調整し、
前記複数のグループは、第3のグループとして、前記ガス成分のAr濃度に対するN
2濃度の比であるN
2/Ar比が50以上であるグループを含み、
前記分析された気泡が前記第3のグループに属すると判定された場合に、前記熔融ガラスに接触する雰囲気が前記熔融ガラス中に巻き込まれることを抑制することを、前記気泡低減方法として行う、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0011】
(5)
熔融ガラスの生成、撹拌、清澄の少なくとも何れかを行う熔解工程と、
前記熔融ガラスからガラス板を成形する成形工程と、を備える製造工程を有するガラス基板の製造方法であって、
さらに、前記ガラス板に含まれる気泡内のガス成分を分析する分析工程と、
前記分析された気泡が、前記気泡に含まれ得る複数のガス成分の構成比に従って予め用意された複数のグループのうちのどのグループに属するかを、前記分析の結果に応じて判定する判定工程と、
前記判定の結果に基づいて前記気泡の発生原因を特定する特定工程と、を備え、
前記特定の結果に基づいて、前記発生原因を抑えて前記気泡の数を低減するように、前記判定されたグループと予め関連付けられた気泡低減方法を用いて前記製造工程をフィードバック調整し、
前記複数のグループは、第4のグループとして、前記ガス成分のAr濃度に対するN
2濃度の比であるN
2/Ar比が50未満であるグループを含み、
前記分析された気泡が前記第4のグループに属すると判定された場合に、前記清澄の後に前記熔融ガラス中に生じるリボイルを抑制することを、前記気泡低減方法として行う、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0012】
(6)
熔融ガラスの生成、撹拌、清澄の少なくとも何れかを行う熔解工程と、
前記熔融ガラスからガラス板を成形する成形工程と、を備える製造工程を有するガラス基板の製造方法であって、
さらに、前記ガラス板に含まれる気泡内のガス成分を分析する分析工程と、
前記分析された気泡が、前記気泡に含まれ得る複数のガス成分の構成比に従って予め用意された複数のグループのうちのどのグループに属するかを、前記分析の結果に応じて判定する判定工程と、
前記判定の結果に基づいて前記気泡の発生原因を特定する特定工程と、を備え、
前記特定の結果に基づいて、前記発生原因を抑えて前記気泡の数を低減するように、前記判定されたグループと予め関連付けられた気泡低減方法を用いて前記製造工程をフィードバック調整し、
前記複数のグループは、第5のグループとして、
前記ガス成分のCO
2濃度が0〜30%、SO
2濃度が70〜100%、N
2濃度が0〜30%である第1のサブグループ、
前記ガス成分のCO
2濃度が70〜100%、SO
2濃度が0〜30%、N
2濃度が0〜5%である第2のサブグループ、および
前記ガス成分のCO
2濃度が0〜10%、SO
2濃度が10〜30%、N
2濃度が70〜85%である第3のサブグループ、の少なくともいずれか1つのサブグループを含み、
前記分析された気泡が前記第5のグループのいずれかのサブグループに属すると判定された場合に、前記熔融ガラス全体に含まれるSiの濃度よりも高い濃度でSiを含む成分が前記熔解を行う熔解装置から前記熔融ガラスとともに流出することを抑制することを、前記気泡低減方法として行う、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0013】
(7)
熔融ガラスの生成、撹拌、清澄の少なくとも何れかを行う熔解工程と、
前記熔融ガラスからガラス板を成形する成形工程と、を備える製造工程を有するガラス基板の製造方法であって、
さらに、前記ガラス板に含まれる気泡内のガス成分を分析する分析工程と、
前記分析された気泡が、前記気泡に含まれ得る複数のガス成分の構成比に従って予め用意された複数のグループのうちのどのグループに属するかを、前記分析の結果に応じて判定する判定工程と、
前記判定の結果に基づいて前記気泡の発生原因を特定する特定工程と、を備え、
前記特定の結果に基づいて、前記発生原因を抑えて前記気泡の数を低減するように、前記判定されたグループと予め関連付けられた気泡低減方法を用いて前記製造工程をフィードバック調整し、
前記複数のグループは、第6のグループとして、前記ガス成分のCO
2濃度が70〜90%、SO
2濃度が5〜20%、N
2濃度が5〜20%であるグループを含み、
前記分析された気泡が前記第6のグループに属すると判定された場合に、前記成形を行う成形装置を構成する部品のうち前記熔融ガラスが接触する部品に含まれるガス成分の前記熔融ガラスへの溶出を抑制することを、前記気泡低減方法として行う、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0014】
(8)
熔融ガラスの生成、撹拌、清澄の少なくとも何れかを行う熔解工程と、
前記熔融ガラスからガラス板を成形する成形工程と、を備える製造工程を有するガラス基板の製造方法であって、
さらに、前記ガラス板に含まれる気泡内のガス成分を分析する分析工程と、
前記分析された気泡が、前記気泡に含まれ得る複数のガス成分の構成比に従って予め用意された複数のグループのうちのどのグループに属するかを、前記分析の結果に応じて判定する判定工程と、
前記判定の結果に基づいて前記気泡の発生原因を特定する特定工程と、を備え、
前記特定の結果に基づいて、前記発生原因を抑えて前記気泡の数を低減するように、前記判定されたグループと予め関連付けられた気泡低減方法を用いて前記製造工程をフィードバック調整し、
前記複数のグループは、第7のグループとして、前記ガス成分のSO
2濃度が100%であるグループを含み、
前記分析された気泡が前記第7のグループに属すると判定された場合に、前記熔融ガラス中の水分量を増加させることを、前記気泡低減方法として行う、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0015】
(9)
熔融ガラスの生成、撹拌、清澄の少なくとも何れかを行う熔解工程と、
前記熔融ガラスからガラス板を成形する成形工程と、を備える製造工程を有するガラス基板の製造方法であって、
さらに、前記ガラス板に含まれる気泡内のガス成分を分析する分析工程と、
前記分析された気泡が、前記気泡に含まれ得る複数のガス成分の構成比に従って予め用意された複数のグループのうちのどのグループに属するかを、前記分析の結果に応じて判定する判定工程と、
前記判定の結果に基づいて前記気泡の発生原因を特定する特定工程と、を備え、
前記特定の結果に基づいて、前記発生原因を抑えて前記気泡の数を低減するように、前記判定されたグループと予め関連付けられた気泡低減方法を用いて前記製造工程をフィードバック調整し、
前記分析工程では、さらに、前記ガラス板に含まれる気泡の前記ガラス板の主表面からの深さ位置を測定し、
前記判定工程において、前記構成比、および前記気泡の深さ位置に従って、前記判定を行う、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0016】
(10)前記分析工程では、さらに、前記ガラス板に含まれる気泡のサイズを測定し、
前記判定工程において、前記構成比、および前記気泡のサイズに従って、前記判定を行う、前記(1)から(8)のいずれか1つに記載のガラス基板の製造方法。
【0017】
(11)前記分析する工程では、前記ガラス板に含まれる気泡に対して光源から照射されたレーザ光の散乱光を分析することで、又は、前記ガラス板に含まれる気泡内のガス成分を放出させ、質量分析計を用いて前記放出させたガス成分を分析することで、前記ガス成分の構成比を分析する、前記(1)から前記(10)のいずれか1つに記載のガラス基板の製造方法。
【0018】
(12)熔融ガラスの生成、撹拌、清澄の少なくとも何れかを行う熔解工程と、
前記熔融ガラスからガラス板を成形する成形工程と、を備える製造工程を有するガラス基板の製造方法であって、
さらに、前記ガラス板に含まれる気泡内のガス成分を分析する分析工程と、
前記分析された気泡が、前記気泡に含まれ得るガス成分の構成比に従って予め用意された複数のグループのうちのどのグループに属するかを、前記分析の結果に応じて判定する判定工程と、
前記判定の結果に基づいて前記気泡の発生原因を特定する特定工程と、を備え、
前記特定の結果に基づいて、前記発生原因を抑えて前記気泡の数を低減するように、前記判定されたグループと予め関連付けられた気泡低減方法を用いて前記製造工程をフィードバック調整し、
前記複数のグループは、第7のグループとして、前記ガス成分のSO
2濃度が100%であるグループを含み、
前記分析された気泡が前記第7のグループに属すると判定された場合に、前記熔融ガラス中の水分量を増加させることを、前記気泡低減方法として行うことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0019】
(13)熔融ガラスの生成、撹拌、清澄の少なくとも何れかを行う熔解工程と、
前記熔融ガラスからガラス板を成形する成形工程と、を備える製造工程を少なくとも行うガラス基板製造装置であって、
さらに、前記ガラス板に含まれる気泡内のガス成分を分析する分析装置と、
前記分析された気泡が、前記気泡に含まれ得る複数のガス成分の構成比に従って予め用意された複数のグループのうちのどのグループに属するかを、前記分析の結果に応じて判定する判定装置と、
前記判定の結果に基づいて
、前記グループそれぞれと対応付けられた複数の気泡の発生原因のうち、前記判定されたグループと対応付けられた前記気泡の発生原因を特定する特定装置と、を備え、
前記特定装置は、前記判定されたグループが複数ある場合に、前記判定されたグループそれぞれと対応付けられた発生原因のうちの1つを、前記製造工程における前記ガラス板の製造条件を用いて特定し、
前記特定の結果に基づいて、前記発生原因を抑えて前記気泡の数を低減するように、前記判定されたグループと予め関連付けられた気泡低減方法を用いて前記製造工程をフィードバック調整することを特徴とするガラス基板製造装置。
【発明の効果】
【0020】
上述のガラス基板の製造方法およびガラス基板製造装置によれば、ガラス基板に含まれる気泡を効果的に低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態のガラス基板の製造方法およびガラス基板製造装置について説明する。
本実施形態のガラス基板の製造方法は、熔融ガラスの生成、撹拌、清澄の少なくとも何れかを行う熔解工程と、熔融ガラスからガラス板を成形する成形工程と、を備える製造工程を有している。このガラス基板の製造方法は、さらに、ガラス板に含まれる気泡内のガス成分を分析する分析工程と、分析された気泡が、気泡に含まれ得る複数のガス成分の構成比に従って予め用意された複数のグループのうちのどのグループに属するかを、分析の結果に応じて判定する判定工程と、判定の結果に基づいて気泡の発生原因を特定する特定工程と、を備えている。そして、このガラス基板の製造方法は、特定の結果に基づいて、発生原因を抑えて気泡の数を低減するように、判定されたグループと予め関連付けられた気泡低減方法を用いて製造工程をフィードバック調整することを特徴としている。この方法によれば、ガラス基板に含まれる気泡を効果的に低減できる。ガス成分は、気体である単体または化合物である。また、複数のガス成分とは、種類の異なる複数のガス成分を意味する。
【0023】
(ガラス基板の製造方法)
図1は、本実施形態のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
ガラス基板の製造方法は、熔解工程(S1)と、成形工程(S2)と、徐冷工程(S3)と、切断工程(S4)と、を主に有する。本明細書では、このうち、熔解工程(S1)および成形工程(S2)を、製造工程ともいう。熔解工程は、生成工程と、清澄工程と、撹拌工程と、供給工程と、を行う。さらに、本実施形態のガラス基板の製造方法は、熔解工程(S1)から切断工程(S4)が行われる間(操業中)に行われる他の工程として、後述する、分析工程と、判定工程と、特定工程と、調整工程と、を有している。
【0024】
生成工程は熔解槽で行われる。生成工程では、熔融ガラスが蓄えられた熔解槽にガラス原料を投入し、加熱することで、熔融ガラスを作る。
清澄工程は、少なくとも清澄槽において行われる。清澄工程では、熔融ガラスの温度を調整して、清澄剤の酸化還元反応を利用して熔融ガラスの清澄を行う。清澄剤には、例えば、酸化錫が用いられる。
【0025】
撹拌工程では、撹拌槽内の熔融ガラスを、スターラを用いて撹拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。
供給工程では、撹拌槽から延びる配管を通して熔融ガラスが成形装置に供給される。
【0026】
成形工程(S2)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形は、オーバーフローダウンドロー法あるいはフロート法を用いることができる。徐冷工程(S3)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
【0027】
切断工程(S4)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス板を得る。切断されたガラス板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。
【0028】
(ガラス基板製造装置)
図2は、本実施形態における熔解工程(S1)〜切断工程(S4)を行うガラス基板製造装置の一例を模式的に示す図である。当該装置は、
図2に示すように、主に熔解装置100と、成形装置200と、切断装置300と、を有する。熔解装置100は、熔解槽101と、清澄槽102と、撹拌槽103と、ガラス供給管104,105,106と、を有する。成形装置200は、成形体210を有する。当該装置は、さらに、分析工程、判定工程、特定工程、調整工程を行う各装置として、分析装置、判定装置、特定装置、調整装置を有する。
【0029】
図2に示す例の熔解装置100では、ガラス原料は、バケット101dによって、熔解槽101に蓄えられた熔融ガラスMGの表面に分散させて投入される。熔解槽101には、熔融ガラスを加熱する加熱装置が設けられる。これにより熔解槽101では、ガラス原料を熔解した熔融ガラスが作られる。このとき、熔解槽101内には熔融ガラスの所定の流れ(対流)が形成される。熔解槽101の熔融ガラスは、熔解槽101の内壁のうち、ガラス原料の投入口と対向する側壁に設けられた流出口104aからガラス供給管104を通って次工程に向けて流出する。これにより、熔解槽101に一定の量の熔融ガラスが貯留される。熔融ガラスの加熱は、例えば、バーナーによる燃焼ガスを用いた気相中の燃焼加熱と、熔融ガラスに電流を流すことにより行う通電加熱とを用いて行われ、この比率を調整することで熔融ガラス中に含まれる水分量を調整することができる。
【0030】
清澄槽102では、熔融ガラスが昇温され、清澄剤の還元反応によって酸素が放出される。その後、清澄槽102または清澄槽102から延びるガラス供給管105では、熔融ガラスの温度が低下され、清澄剤の酸化反応により、熔融ガラスに残存する泡中のガス成分が熔融ガラス中に再吸収され、消滅する。清澄剤による酸化反応及び還元反応は、熔融ガラスの温度を制御することにより行われる。
【0031】
撹拌槽103では、ガラス供給管105を通って供給された熔融ガラスがスターラ103aによって撹拌されて均質化される。なお、撹拌槽は、図示されるように1つ設けても、2つ設けてもよい。撹拌槽103で均質化された熔融ガラスは、ガラス供給管106を通って成形装置200に供給される。
なお、清澄槽102、撹拌槽103、ガラス供給管104,105,106には、例えば、白金族金属を構成材料とする容器または管が用いられる。
【0032】
成形装置200では、成形体210を用いたオーバーフローダウンドロー法により、熔融ガラスMGからシートガラスSGが成形される。成形体210に供給された熔融ガラスは、成形体210の上部から溢れ出て、成形体210の両側の側面に沿って流下し、成形体210の下端において合流することによりシートガラスSGの流れとなる。成形体210の構成材料は、例えば、耐熱レンガ等の耐火物である。
【0033】
(ガラス基板)
本実施形態で製造されるガラス基板として、以下のガラス組成のガラス基板が例示される。したがって、以下のガラス組成をガラス基板が有するようにガラス原料は調合される。本実施形態で製造されるガラス基板は、例えば、SiO
2 55〜75モル%、Al
2O
3 5〜20モル%、B
2O
3 0〜15モル%、RO 5〜20モル%(ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量)、 R’
2O 0〜0.4モル%(R’はLi
2O、K
2O、及びNa
2Oの合量)、SnO
2 0.01〜0.4モル%、含有する。
このとき、SiO
2、Al
2O
3、B
2O
3、及びRO(Rは、Mg、Ca、Sr及びBaのうち前記ガラス基板に含有される全元素)の少なくともいずれかを含み、モル比((2×SiO
2)+Al
2O
3)/((2×B
2O
3)+RO)は4.0以上であってもよい。モル比((2×SiO
2)+Al
2O
3)/((2×B
2O
3)+RO)は4.0以上であるガラスは、粘性の高いガラス、つまり気泡が残りやすいガラスの一例である。
【0034】
本実施形態で製造されるガラス基板は、例えば、無アルカリガラスまたはアルカリ微量含有ガラスからなるガラス基板である。無アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物(Li
2O、K
2O、及びNa
2O)を実質的に含有しないガラスである。アルカリ微量含有ガラスは、アルカリ金属酸化物の含有量(Li
2O、K
2O、及びNa
2Oの合量)が0モル%を超え0.8モル%以下のガラスである。このようにアルカリ量の少ないガラスは、粘性が高い傾向にあるため、ガラス基板内に気泡が残りやすい。このため、本実施形態は、アルカリ量の少ないガラス基板の製造に好適である。
【0035】
本実施形態で製造されるガラス基板は、歪点が650℃以上であってもよく、660℃以上であることがより好ましく、690℃以上であることがさらに好ましく、730℃以上が特に好ましい。このように歪点が高いガラスは、粘性が高い傾向にあるため、ガラス基板内に気泡が残りやすい。このため、本実施形態は、歪点の高いガラス基板の製造に好適である。
【0036】
本実施形態で製造されるガラス基板は、板厚が薄いガラス基板であり、例えば0.01mm〜0.5mm、さらには0.01mm〜0.3mm、さらには0.01mm〜0.1mmの板厚を有するガラス基板である。
【0037】
ガラス基板に気泡が存在すると、画面の表示欠陥を引き起こすという問題がある。そのため、本実施形態は、画面の表示欠陥に対する要求の厳しいディスプレイ用ガラス基板の製造に好適であり、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板及び曲面ディスプレイ用ガラス基板(ただし、CRT(ブラウン管)ディスプレイは除く)の製造に、より好適である。特に、本実施形態は、画面の表示欠陥に対する要求がさらに厳しい、IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素)等の酸化物半導体を使用した酸化物半導体ディスプレイ用ガラス基板及びLTPS(低温度ポリシリコン)半導体を使用したLTPSディスプレイ用ガラス基板等に代表される高精細ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適である。また、本実施形態で製造されるガラス基板は、アルカリ金属酸化物の含有量が極めて少ないことが求められる液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。また、有機ELディスプレイ用ガラス基板にも好適である。
また、本実施形態で製造されるガラス基板は、カバーガラス、磁気ディスク用ガラス、太陽電池用ガラス基板などにも適用することが可能である。
【0038】
ガラス基板に気泡が存在すると、ガラス基板のサイズが大きいほど、気泡による歩留まり率の低下が顕著になる。ガラス基板に1つでも基準以上の大きさの気泡が含まれていると、製品欠陥として扱われるためである。そのため、本実施形態は、サイズの大きいガラス基板の製造に好適であり、例えば、縦1100mm×横1300mm、さらには縦1500mm×横1850mm、さらには縦1950mm×横2250mm、さらには縦2200mm×横2500mm、のサイズのガラス基板の製造に好適である。
【0039】
次に、本実施形態のガラス基板の製造方法が備える他の工程について説明する。
図3に、本実施形態のガラス基板の製造方法が備える他の工程として、分析工程(S11)、判定工程(S12)、特定工程(S13)、調整工程(S14)、を示す。
【0040】
(a)分析工程
分析工程(S11)では、ガラス板に含まれる気泡内のガス成分を分析する。分析の対象となるガラス板は、例えば、切断工程(S4)において採板されたガラス板の中から抽出したガラス板サンプルである。分析工程(S11)では、例えば、レーザラマン分光法、質量分析法を用いて、気泡内のガス成分を検出する。レーザラマン分光法では、ガラス板に含まれる気泡にレーザ光を照射し、気泡内ガスにより発生したラマン散乱光を検出することで、ガス成分を検出する。質量分析法では、真空チャンバ中でガラス板を破壊して気泡内のガス成分を放出させ、放出されたガス成分を質量分析計を用いて検出する。質量分析法は、ガス成分中の希ガスを検出するために好適である。分析工程(S11)では、さらに、検出されたガス成分の濃度に基づいて、気泡に含まれるガス成分の構成比が求められる。
【0041】
分析工程(S11)では、さらに、ガラス板に含まれる気泡のガラス板の主表面からの深さ位置(板厚方向の位置)、または、気泡のサイズの測定を行ってもよい。気泡の深さ位置は、例えば、深さ方向に焦点を合わせる機能を備えた顕微鏡を用いて測定することができる。気泡のサイズは、レーザ顕微鏡を用いて測定することができる。
【0042】
(b)判定工程
判定工程(S12)は、分析工程(S11)で分析された気泡が、予め用意された複数のグループのうちのどのグループに属するかを、分析の結果に応じて判定する。複数のグループは、気泡を、ガス成分の構成比に従って分類するためのものであり、気泡に含まれ得る複数のガス成分の構成比に従って分けられたものである。気泡に含まれ得るガス成分は、例えば、CO
2、SO
2、N
2、O
2、Arのうちのいずれか1種以上である。ガス成分の構成比は、気泡に含まれるガス成分が複数あることを示す構成比であってもよく、気泡に含まれるガス成分が1種であることを示す構成比であってもよい。なお、気泡に含まれるガス成分が1種である場合の例として、当該ガス成分だけが含まれる場合や、当該ガス成分のほかに微量ガス成分が含まれる場合が挙げられる。微量とは、そのようなガス成分の濃度の合計が、気泡に含まれるガス成分全体の0.1%未満であることをいう。複数のグループは、分析工程(S11)〜調整工程(S14)の各工程を行う前に予め用意される。複数のグループは、具体的に、実際に作製されたガラス板に含まれる気泡を分析し、その結果得られたガス成分の構成比に関する情報を参照して、予め用意することができる。判定工程(S12)では、分析工程(S11)で求められた構成比を満たすグループが、複数のグループの中から抽出され、抽出されたグループに分析の対象とされた気泡が属すると判定する。
複数のグループの例として、下記のグループ1〜7を挙げることができる。なお、各グループは、各グループに属する気泡を、さらにガス成分の構成比に従って分類するための複数のサブグループを有していてもよい。例えば、下記のグループ5は、サブグループ1〜3を有している。あるガス成分の構成比が100%である場合、そのガス成分のほかに、微量ガス成分が0.1%未満含まれていてもよい。また、あるガス成分の構成比が0%である場合、そのガス成分が微量ガス成分として0.1%未満含まれていてもよい。
【0043】
(グループの例)
グループ1:CO
2 60〜100%、SO
2 0〜40%、N
2 0〜5%
グループ2:CO
2 0〜30%、SO
2 70〜100%、N
2 0〜5%
グループ3:Ar濃度に対するN
2濃度の比(N
2/Ar比):50以上
グループ4:Ar濃度に対するN
2濃度の比(N
2/Ar比):50未満
グループ5:
サブグループ1:CO
2 0〜30%、SO
2 70〜100%、N
2 が0〜30%
サブグループ2:CO
2 70〜100%、SO
2 0〜30%、N
2 0〜5%
サブグループ3:CO
2 0〜10%、SO
2 10〜30%、N
2 70〜85%
グループ6:CO
2 70〜90%、SO
2 が5〜20%、N
2 5〜20%
グループ7:CO
2 0%、SO
2 100%、N
2 0%
【0044】
ここで、実際に作製したガラス板に含まれる気泡であって、グループ1〜7のそれぞれに属すると判定された気泡のガス成分の分析結果を、
図4〜9に示す。
図4は、グループ1に属すると判定された気泡の例を示すグラフである。
図5は、グループ2に属すると判定された気泡の例を示すグラフである。
図6は、グループ3に属すると判定された気泡の例およびグループ4に属すると判定された気泡の例を合わせて示すグラフである。
図7は、グループ5のサブグループ1〜3のそれぞれに属すると判定された気泡の例を合わせて示すグラフである。
図8は、グループ6に属すると判定された気泡の例を示すグラフである。
図9は、グループ7に属すると判定された気泡の例を示すグラフである。
図4〜
図9は、ガス成分としてCO
2、SO
2、N
2に注目し、これら3種のガス成分の構成比をプロットしたものである。
図4〜
図9のグラフから分かるように、1種又は複数のガス成分を含む気泡を、互いに類似する構成比ごとに、いくつかのグループに分類できることが分かる。
【0045】
なお、気泡に含まれるガス成分の構成比に基づいて複数のグループのうちいずれのグループに属するかを判定する例を挙げて説明したが、これに加えて、気泡又はガラス基板に含まれる不純物、ガラス基板における気泡のガラス主表面からの深さ位置、および、気泡のサイズ、の少なくとも1つをガス成分の構成比と組み合わせてグループの判定を行うようにしてもよい。これにより、気泡がどのグループに属するかの判定をより適切に行うことができる。
【0046】
(c)特定工程
特定工程(S13)は、判定工程(S12)での判定の結果に基づいて気泡の発生原因を特定する。具体的には、特定工程(S13)では、分析された気泡が属するグループと対応付けられた気泡の発生原因を、その気泡の発生原因であると特定する。グループと、気泡の発生原因との対応付けは、実際に作製されたガラス板中の気泡が属するグループと、このガラス板を製造した時の製造条件とを照らし合わせて、このグループに属する気泡の発生原因として最も妥当な原因を、このグループと対応付けることによって行われる。この場合に、上記した、ガラス基板に含まれる不純物、ガラス主表面からの気泡の深さ位置、および、気泡のサイズ、のいずれか1つを用いてグループと発生原因との対応付けを行ってもよい。この対応付けは、判定工程(S12)が行われる都度行ってもよく、予め行ってもよい。
【0047】
気泡の発生原因を特定することは、特に、分析対象である気泡が同時に複数のグループに属すると判定された場合に有効である。分析対象の気泡が同時に複数のグループに属する場合、属するグループのそれぞれに後述する気泡低減方法が関連付けられているために、調整工程(S14)で行いうる気泡低減方法として複数の方法が存在する。この場合、どの気泡低減方法がより効果的に気泡を低減できる方法であるか判断がつかない場合がある。特定工程(S13)を行えば、気泡が属するグループと対応付けられた発生原因が特定され、複数の気泡低減方法のうち、特定された発生原因を抑える方法としてどの方法が適切であるかが判断できるため、より適切な気泡低減方法を選択することができる。そして、選択した気泡低減方法を実行することにより、調整工程(S14)でフィードバック調整した製造工程によって作製されたガラス板に含まれる気泡を効果的に低減することができる。なお、分析対象である気泡が同時に複数のグループに属すると判定された場合は、グループのそれぞれと対応付けられた発生原因が複数存在する。この場合、判断対象である気泡を含んだガラス板の製造条件と照らし合わせて、それらの発生原因を比較し、最も妥当なものを、気泡の発生原因として特定することができる。
気泡の発生原因の例として、例えば、下記の原因1〜7が挙げられる。原因1〜7のそれぞれは、グループ1〜7のうち同じ番号のグループと対応付けられた気泡の発生原因である。
【0048】
(発生原因の例)
原因1:製造工程を行う装置が有機物で汚染されていること
原因2:製造工程を行う装置のうち、白金族金属を構成材料とする装置に含まれるオスミウム(Os)を含んだ不純物が析出したこと
原因3:熔融ガラスと接触する雰囲気が熔融ガラス中に巻き込まれること
原因4:清澄工程の後に熔融ガラス中にリボイルが生じていること
原因5:熔解槽から、熔融ガラス全体に含まれるSiの濃度よりも高い濃度でSiを含む成分の塊(シリカ高濃度層)であってガス成分を含んだものが流出したこと
原因6:成形体の構成部品である、耐火物からなる部品に含まれるガスが熔融ガラス中に流出したこと
なお、製造工程を行う装置とは、熔解工程および成形工程で用いられる装置であり、その例としては、熔解装置、成形装置が挙げられ、さらに、熔解槽、清澄槽、撹拌槽、成形体が挙げられる。
原因7:熔融ガラス中の水分量が不足していること
【0049】
原因1に関して、製造工程を行う装置(例えば、清澄槽、撹拌槽、ガラス供給管)が有機物で汚染されていると、熔融ガラスが装置内で有機物に接触することで、有機物が分解されてCO
2が生じ、熔融ガラス中に溶け込むおそれがある。このことから、CO
2を主成分とする気泡のグループであるグループ1に属する気泡に関しては、その主な発生原因として、製造工程を行う装置が有機物で汚染されていること、を特定することができる。
【0050】
原因2に関して、製造工程を行う装置の構成材料として用いられる白金族金属は、主成分の白金又は白金合金のほかオスミウム(Os)を含んでいる場合がある。オスミウム(Os)が還元剤として働くことでガラス中に気泡が生成し、ガラス中に溶解している主にSO
2等のガス成分がこのオスミウム(Os)に起因する気泡中に進入すると考えられる。よって、SO
2を主成分とする気泡のグループであるグループ2に属する気泡に関しては、その主な発生原因として、製造工程を行う装置のうち白金族金属を構成材料とする装置に含まれるオスミウム(Os)を含んだ不純物が析出したこと、を特定することができる。なお、原因2を発生原因とする気泡には、1μm程度の大きさの複数のオスミウム結晶が含まれていることが多い。したがって、SO
2を主成分とする気泡であって、このようなオスミウム結晶を含んだ気泡であることを手がかりとして、原因2を、その発生原因として特定することができる。
【0051】
原因3に関して、N
2とArの熔融ガラス中での拡散速度を比較すると、その分子半径の違いにより、Arの方が速く移動する。よって、例えば撹拌槽のスターラによって撹拌されること等により、熔融ガラスの液面と接触する雰囲気が熔融ガラス中に巻き込まれると、巻き込まれた空気中に含まれていたN
2は、同じく巻き込まれた空気中に含まれていたArよりも気泡中に残存しやすく、気泡中のN
2濃度は高くなる。このことから、N
2/Ar比が50以上である気泡のグループであるグループ3に属する気泡に関しては、その主な発生原因として、熔融ガラスと接触する雰囲気が熔融ガラス中に巻き込まれること、を特定することができる。なお、原因3を発生原因とする気泡は、サイズが大きい(例えば、最大長さが5mm以上)ものが多いことがわかっている。このため、気泡のサイズに基づいて、原因2を発生原因として特定することができる。
【0052】
原因4に関して、清澄工程の後にN
2とArのリボイルが発生すると、N
2/Ar比は小さくなる。リボイルは、熔融ガラスの清澄を行った後に熔融ガラス中に再び気泡が発生する現象をいう。N
2と比較してArの拡散速度は速いため、Arの方がリボイルしやすい。このことから、N
2/Ar比が50未満である気泡のグループであるグループ4に属する気泡に関しては、その主な発生原因として、清澄工程の後に熔融ガラス中にリボイルが生じていること、を特定することができる。
【0053】
原因5に関して、熔解槽からガス成分を含んだシリカ高濃度層が流出すると、清澄工程において清澄しきれずガラス中に気泡が残存することがある。シリカの濃度が高いガラスは粘性が高いため、清澄槽における気泡の浮上がし難い。そのため、気泡を含むガラス基板がシリカ高濃度層を含む場合には、CO
2、SO
2、N
2のそれぞれを主成分とする気泡が残存することが考えられ、それぞれの気泡には複数のガス成分が含まれていることが多いと考えられる。このことから、CO
2、SO
2、N
2のそれぞれを主成分とする気泡のサブグループであるサブグループ1〜3の気泡に関しては、その主な発生原因として、熔解槽からガス成分を含んだシリカ高濃度層が流出したこと、を特定することができる。
【0054】
原因6に関して、成形体の構成部品である、耐火物からなる部品(セルレンガ)に含まれるガスが熔融ガラス中に流出すると、その耐火物が含むガス成分と同じガス構成の気泡が発生する。耐火物はCO
2を含んでいることが多いため、CO
2を主成分とする気泡のグループであるグループ6の気泡に関しては、その主な発生原因として、成形体の構成部品である、耐火物からなる部品に含まれるガスが熔融ガラス中に流出したこと、を特定することができる。なお、原因6を発生原因とする気泡は、成形体をオーバーフローした熔融ガラスが成形体の下端で合流した部分と対応する熔融ガラスのフュージョンした面(通常、ガラス板の深さ方向の中心を含む領域。例えば、ガラス板の深さ方向の中心からガラス板の板厚の10〜25%の深さ方向領域)に集中して発生し、これ以外のガラス板の領域には発生しないことがわかっている。したがって、ガラス基板における気泡のガラス主表面からの深さ位置に基づいて、原因6を発生原因として特定することができる。また、原因6を発生原因とする気泡は、サイズが小さい(例えば、最大長さが0.3mm以下)ものが多いことがわかっている。このため、気泡のサイズに基づいて、原因6を発生原因として特定することができる。
【0055】
原因7に関して、白金族金属材料で構成された、製造工程を行う装置は、水素を透過させる性質を有しているため、装置内の熔融ガラス中の水分が不足していると、平衡を保つためにプロトンが槽外に移動して、その結果、O
2泡(β−OH泡とも呼ばれる)が生じ、このことに起因して、熔融ガラス中のSO
3がSO
2に還元されることで、SO
2を多く含む泡が生じることがわかっている。このことから、SO
2を主成分とする気泡のグループであるグループ7の気泡に関しては、その主な発生原因として、熔融ガラス中の水分量が不足していること、を特定することができる。
【0056】
(d)調整工程
調整工程(S14)では、特定工程(S13)での特定結果に基づいて、気泡の発生原因を抑えて気泡の数を低減するように、気泡低減方法を用いて製造工程をフィードバック調整する。気泡低減方法は、具体的には、ガラス板中の気泡を低減させるために行われる、製造工程の調整方法である。本明細書において、製造工程を調整するという場合、製造工程に関する種々の調整対象を調整することを意味する。例えば、気泡低減方法として例示する下記の方法1〜7を行うことはいずれも、製造工程の調整に該当する。気泡低減方法は、実際に気泡が低減されたガラス板を作製したときの製造工程に関する情報を参照して定められ、さらに、その気泡のガス成分の構成比が該当するグループと関連付けられる。気泡低減方法とグループとの関連付けは、分析工程(S11)〜調整工程(S14)の各工程を行う前に予め行われる。下記の方法1〜7は、グループ1〜7と関連付けられている。また、方法1〜7は、原因1〜7で表わされる気泡の発生原因を抑えて気泡を低減する方法である。
【0057】
(気泡低減方法の例)
方法1:製造工程を行う装置を汚染している汚染物質を低減させる
例えば、製造工程を行う装置を洗浄または交換することが考えられる。
方法2:製造工程を行う装置の構成材料に含有される不純物量を低減する
例えば、製造工程を行う装置を交換することが考えられる。
方法3:熔融ガラスに接触する雰囲気が熔融ガラス中に巻き込まれることを抑制する
例えば、撹拌装置内における熔融ガラス表面(液面)位置の調整や、スターラの回転速度等を調整することが考えられる。
方法4:清澄の後に熔融ガラス中に生じるリボイルを抑制する
例えば、清澄が行われる装置の、清澄後(例えば、熔融ガラスが最高温度に達した後、清澄剤の還元反応によって酸素を放出することが行われた後)に熔融ガラスが降温される領域における熱衝撃、機械的衝撃を緩和することが考えられる。具体的には、清澄後の熔融ガラスの降温速度、スターラの回転速度等を調整することが考えられる。
方法5:シリカ高濃度層が熔解槽から熔融ガラスとともに流出することを抑制する
例えば、熔解槽内で熔融ガラスが短い経路で熔解槽の流出口から流出することが抑制されるよう、熔解槽内での熔融ガラスの温度分布を調整することで、熔融ガラスの流れ(対流)を変えて、シリカ高濃度層の流出を抑制することが考えられる。また、例えば、熔解槽の下流側に流出したシリカ高濃度層を十分に溶融し、かつ、清澄に十分な時間が確保されるよう、清澄工程における熔融ガラス温度を調整することが考えられる。
方法6:成形体を構成する部品のうち熔融ガラスが接触する部品である耐火物の部材に含まれるガス成分の熔融ガラスへの溶出を抑制する
例えば、成形工程における熔融ガラス温度を一時的に上昇させることで耐火物が含むガス成分の熔融ガラスへの溶出を減少させることが考えられる。
方法7:熔融ガラス中からプロトンが、白金族金属材料で構成された、製造工程を行う装置を通過して大気中に放出されることを抑制する
例えば、白金族金属で構成された清澄槽102と、撹拌槽103と、ガラス供給管と、の少なくともいずれかの周辺雰囲気の水分量を調整することが考えられる。
【0058】
調整工程(S14)では、分析対象である気泡が属するグループと関連付けられた気泡低減方法を、操業中に行うことで、製造工程をフィードバック調整する。これによって、気泡の発生原因を抑えて気泡の数を低減することができる。なお、判定工程(S12)において、分析対象の気泡が、グループ5のいずれかのサブグループに属すると判定された場合には、方法5が行われる。
【0059】
本実施形態によれば、分析対象である気泡は、複数のグループのうち、ガス成分の構成比が同様の傾向を示すグループに分類されることで、そのグループと対応する気泡の発生原因が特定される。このように、本実施形態では、気泡が属するグループが判定されるだけでなく、気泡の発生原因が特定されることによって、その気泡が低減されるのに適切な気泡低減方法が選択される。このため、選択された気泡低減方法を行うことで製造工程をフィードバック調整することによって、その気泡と同種の(同じグループに属しうる)気泡を低減することができる。
なお、本実施形態のガラス基板の製造方法において、熔解工程は、生成工程、清澄工程、均質化工程、供給工程のうち少なくともいずれか1つの工程を行うものであればよい。
【0060】
(実験例)
上記実施形態の製造工程に従って複数のガラス板を作製し、得られたガラス板の中から気泡が見つかったものガラス板サンプルとして取り出し、ガラス板サンプルを用いて、上記説明した分析工程から調整工程までの各工程を行うことで、ガラス板サンプルを作製した製造工程をフィードバック調整し、調整後の製造工程によってガラス基板を作製した。(実施例)。
一方、実施例と同じ製造工程において、実施例と同様に取り出したガラス板サンプルに含まれるガス成分の分析を行わず、フィードバック調整を行わなかった点を除いて、実施例と同様にガラス基板を作製した(比較例)。
実施例のガラス基板を顕微鏡で観察し、ガラス基板に含まれている気泡の数を数え、ガラス単位重量当りの気泡数に換算した。
なお、気泡は、最大長さが100μm以上のものを対象とした。
【0061】
この結果、実施例では、気泡による歩留りの低下は10%未満であり、歩留り90%以上でガラス基板の製造を行うことができた。これにより、気泡を効率的に低減できることが確認された。一方、比較例では、気泡による歩留りの低下が10%を超える場合があり、気泡を十分に低減できない場合があることが確認された。
【0062】
以上、本発明のガラス基板の製造方法およびガラス基板製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。