特許第6758214号(P6758214)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6758214
(24)【登録日】2020年9月3日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】油性インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/36 20140101AFI20200910BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20200910BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20200910BHJP
【FI】
   C09D11/36
   B41M5/00 120
   B41J2/01 501
【請求項の数】10
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2017-24910(P2017-24910)
(22)【出願日】2017年2月14日
(65)【公開番号】特開2018-131509(P2018-131509A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2020年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】▲清▼水 麻奈美
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 祥史
(72)【発明者】
【氏名】山田 憲司
(72)【発明者】
【氏名】松沢 智洋
【審査官】 宮地 慧
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−124382(JP,A)
【文献】 特開2012−092294(JP,A)
【文献】 特開2013−237831(JP,A)
【文献】 特開2009−180874(JP,A)
【文献】 特開2003−128966(JP,A)
【文献】 特開2012−140519(JP,A)
【文献】 特開2011−202004(JP,A)
【文献】 特開2012−077139(JP,A)
【文献】 特開2014−070184(JP,A)
【文献】 特開平04−178418(JP,A)
【文献】 特開2012−046675(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/035827(WO,A1)
【文献】 特開2008−001849(JP,A)
【文献】 特開昭55−018401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
B41J
B41M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と前記顔料の表面を被覆するウレタン変性エポキシ樹脂とを含むカプセル化顔料、及び非水系溶剤を含み、
前記ウレタン変性エポキシ樹脂は、ウレタン部分及びエポキシ樹脂部分を有し、前記非水系溶剤に不溶性の化合物であり、
前記ウレタン部分は、芳香環、複素環、カルボキシ基、アミド結合、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキル基、アミノ基、及びニトリル基からなる群から選択される1種以上の側鎖を含む、油性インクジェットインク。
【請求項2】
前記ウレタン部分と前記エポキシ樹脂部分との質量比は85:15〜40:60である、請求項1に記載の油性インクジェットインク。
【請求項3】
顔料と前記顔料の表面を被覆するウレタン変性(メタ)アクリル樹脂とを含むカプセル化顔料、及び非水系溶剤を含み、
前記ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂は、ウレタン部分及び(メタ)アクリル樹脂部分を有し、前記非水系溶剤に不溶性の化合物であり、
前記ウレタン部分は、芳香環、複素環、カルボキシ基、アミド結合、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキル基、アミノ基、及びニトリル基からなる群から選択される1種以上の側鎖を含む、油性インクジェットインク。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル樹脂部分は、
イソシアネート基と反応性を有する反応性官能基を有し、前記反応性官能基を介してウレタン部分が結合する単位aと、
芳香環を有する単位b及び/またはカルボキシ基を有する単位cとを含む、請求項3に記載の油性インクジェットインク。
【請求項5】
前記ウレタン部分と前記(メタ)アクリル樹脂部分との質量比は85:15〜40:60である、請求項3または4のいずれか1項に記載の油性インクジェットインク。
【請求項6】
前記ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂は、酸価が15〜200mgKOH/gである、請求項3から5のいずれか1項に記載の油性インクジェットインク。
【請求項7】
前記ウレタン部分の側鎖は、芳香環と、複素環、カルボキシ基、アミド結合、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキル基、アミノ基、及びニトリル基からなる群から選択される1種以上とを有する、請求項1から6のいずれか1項に記載の油性インクジェットインク。
【請求項8】
前記ウレタン部分は、多価イソシアネート由来の単位と、多価アルコール由来の単位とが交互に配列した構造を有し、
前記多価アルコール由来の単位は、アルカノールアミン由来の単位を含み、
前記ウレタン部分の側鎖は、前記アルカノールアミン由来の単位の窒素原子を介して前記ウレタン部分に結合する、請求項1から7のいずれか1項に記載の油性インクジェットインク。
【請求項9】
前記アルカノールアミン由来の単位は、
芳香環を有するアクリレートがマイケル付加したジアルカノールアミン由来の単位、
複素環を有するアクリルアミドがマイケル付加したジアルカノールアミン由来の単位、
N−アルキルアクリルアミドがマイケル付加したジアルカノールアミン由来の単位、
N,N−ジアルキルアクリルアミドがマイケル付加したジアルカノールアミン由来の単位、
アクリロニトリル、及び
アミノ基を有するアクリレートがマイケル付加したジアルカノールアミン由来の単位からなる群から選択される1種以上を含む、請求項8に記載の油性インクジェットインク。
【請求項10】
前記多価アルコール由来の単位は、非対称性グリコール由来の単位をさらに含む、請求項8または9のいずれか1項に記載の油性インクジェットインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なノズルから液滴として噴射し、ノズルに対向して置かれた記録媒体に画像を記録するものであり、低騒音で高速印字が可能であることから、近年急速に普及している。このようなインクジェット記録方式に用いられるインクとして、水を主溶媒として含有する水性インク、重合性モノマーを主成分として高い含有量で含有する紫外線硬化型インク(UVインク)、ワックスを主成分として高い含有量で含有するホットメルトインク(固体インク)とともに、非水系溶剤を主溶媒として含有する、いわゆる非水系インクが知られている。非水系インクは、主溶媒が揮発性有機溶剤であるソルベントインク(溶剤系インク)と、主溶媒が低揮発性あるいは不揮発性の有機溶剤である油性インク(オイル系インク)に分類できる。ソルベントインクは主に有機溶剤の蒸発によって記録媒体上で乾燥するのに対して、油性インクは記録媒体への浸透が主となって乾燥する。
【0003】
高顔料濃度でも低粘度の油性インクジェットインクとして、酸価30〜60の(メタ)アクリル酸系共重合物によって表面処理されたカプセル型顔料を用いる技術がある(特許文献1参照)。
しかし、このようなインクは、インクジェット印刷装置のヘッドのノズルプレート表面に対する濡れ性が良く、ノズルプレート表面に付着しやすい。そのため、ノズルプレート表面に付着したインクが用紙に垂れて画像を汚したり、ノズルプレート表面に付着したインクがインクの吐出を妨げたりするという問題がある。
【0004】
また、インクジェット印刷装置は、定期的にヘッドクリーニング動作が行われるように設計されている。このヘッドクリーニング動作は、一般的に、ノズルからインクを吐出させる加圧パージと、ノズルプレートのワイピングから構成される。
ノズルプレート表面に付着しやすいインクを用いた場合、ノズルプレートのワイピングを行うと、インク中の顔料が研磨剤となり、ノズルプレート表面のフッ素樹脂等の被膜を削り取り、ノズルプレートの撥インク性を低下させることがある。
【0005】
上記問題に対し、特許文献2では、油性インクジェットインクにおいて、α値5〜60の化合物が側鎖として付加され、かつ、溶剤に混和性の櫛形ポリウレタン化合物によって表面処理されたカプセル型顔料を用いることで、ノズルプレートに対するはじき性に優れ、ノズルプレートの劣化を抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−314651号公報
【特許文献2】特開2011−57812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、油性インクジェットインクでは、用紙上にインクが吐出されると、用紙表面上でインク中の溶剤が用紙内部に浸透していく。この際に、インク中の溶剤とともに顔料が用紙内部に浸透すると、用紙の裏面に画像が裏抜けする、いわゆる裏抜け現象が発生する。裏抜けが発生すると、用紙表面の画像濃度も低下する。
特許文献2では、カプセル型顔料に、溶剤に混和性の櫛形ポリウレタン化合物を用いているため、インク中の溶剤とともにカプセル型顔料が用紙内部に浸透し、裏抜けが発生し、画像濃度が低下する問題がある。
【0008】
また、油性インクジェットインクでは、インクが用紙に着弾後、インク中の溶剤が用紙に浸透しながら顔料が用紙表面に残るようにして、高濃度の印刷画像を得ることができる。この際に、印刷画像面を擦っても画像が擦れ落ちないように、印刷物の耐擦過性が重要になる。
【0009】
本発明の一目的としては、印刷物の画像裏抜けを低減し、画像濃度を高め、印刷物の耐擦過性を改善することである。また、本発明のさらなる目的としては、ノズルプレートに対する濡れ性及びワイプ耐久性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下を要旨とする。
(1)顔料と前記顔料の表面を被覆するウレタン変性エポキシ樹脂とを含むカプセル化顔料、及び非水系溶剤を含み、前記ウレタン変性エポキシ樹脂は、ウレタン部分及びエポキシ樹脂部分を有し、前記非水系溶剤に不溶性の化合物であり、前記ウレタン部分は、芳香環、複素環、カルボキシ基、アミド結合、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキル基、アミノ基、及びニトリル基からなる群から選択される1種以上の側鎖を含む、油性インクジェットインク。
(2)前記ウレタン部分と前記エポキシ樹脂部分との質量比は85:15〜40:60である、(1)に記載の油性インクジェットインク。
【0011】
(3)顔料と前記顔料の表面を被覆するウレタン変性(メタ)アクリル樹脂とを含むカプセル化顔料、及び非水系溶剤を含み、前記ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂は、ウレタン部分及び(メタ)アクリル樹脂部分を有し、前記非水系溶剤に不溶性の化合物であり、前記ウレタン部分は、芳香環、複素環、カルボキシ基、アミド結合、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキル基、アミノ基、及びニトリル基からなる群から選択される1種以上の側鎖を含む、油性インクジェットインク。
(4)前記(メタ)アクリル樹脂部分は、イソシアネート基と反応性を有する反応性官能基を有し、前記反応性官能基を介してウレタン部分が結合する単位aと、芳香環を有する単位b及び/またはカルボキシ基を有する単位cとを含む、(3)に記載の油性インクジェットインク。
(5)前記ウレタン部分と前記(メタ)アクリル樹脂部分との質量比は85:15〜40:60である、(3)または(4)のいずれかに記載の油性インクジェットインク。
【0012】
(6)前記ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂は、酸価が15〜200mgKOH/gである、(3)から(5)のいずれかに記載の油性インクジェットインク。
(7)前記ウレタン部分の側鎖は、芳香環と、複素環、カルボキシ基、アミド結合、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキル基、アミノ基、及びニトリル基からなる群から選択される1種以上とを有する、(1)から(6)のいずれかに記載の油性インクジェットインク。
(8)前記ウレタン部分は、多価イソシアネート由来の単位と、多価アルコール由来の単位とが交互に配列した構造を有し、前記多価アルコール由来の単位は、アルカノールアミン由来の単位を含み、前記ウレタン部分の側鎖は、前記アルカノールアミン由来の単位の窒素原子を介して前記ウレタン部分に結合する、(1)から(7)のいずれかに記載の油性インクジェットインク。
(9)前記アルカノールアミン由来の単位は、芳香環を有するアクリレートがマイケル付加したジアルカノールアミン由来の単位、複素環を有するアクリルアミドがマイケル付加したジアルカノールアミン由来の単位、N−アルキルアクリルアミドがマイケル付加したジアルカノールアミン由来の単位、N,N−ジアルキルアクリルアミドがマイケル付加したジアルカノールアミン由来の単位、アクリロニトリル、及び
アミノ基を有するアクリレートがマイケル付加したジアルカノールアミン由来の単位からなる群から選択される1種以上を含む、(8)に記載の油性インクジェットインク。
(10)前記多価アルコール由来の単位は、非対称性グリコール由来の単位をさらに含む、(8)または(9)のいずれかに記載の油性インクジェットインク。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、印刷物の画像裏抜けを低減し、画像濃度を高め、印刷物の耐擦過性を改善することができる。また、本発明によれば、ノズルプレートに対する濡れ性及びワイプ耐久性を改善することができる。
本発明に係る油性インクジェットインクは、普通紙とともに、コート紙への耐擦過性も改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を一実施形態を用いて説明する。以下の実施形態における例示が本発明を限定することはない。
(第1の実施形態)
本実施形態による油性インクジェットインク(以下、単に「インク」と称することがある。)としては、顔料と顔料の表面を被覆するウレタン変性エポキシ樹脂とを含むカプセル化顔料、及び非水系溶剤を含み、ウレタン変性エポキシ樹脂は、ウレタン部分及びエポキシ樹脂部分を有し、非水系溶剤に不溶性の化合物であり、ウレタン部分は、芳香環、複素環、カルボキシ基、アミド結合、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキル基、アミノ基、及びニトリル基からなる群から選択される1種以上の側鎖を含む、ことを特徴とする。
本実施形態によれば、印刷物の画像裏抜けを低減し、画像濃度を高め、印刷物の耐擦過性を改善することができる。また、本実施形態によれば、ノズルプレートに対する濡れ性及びワイプ耐久性を改善することができる。
本実施形態による油性インクは、普通紙とともに、コート紙への耐擦過性も改善することができる。
【0015】
油性インクジェットインクでは、樹脂でカプセル化されていない顔料を用いる場合、顔料が研磨剤となって、印刷装置のノズルプレート表面が削られることがあり、ノズルプレートの撥インク性を低下させる問題がある。そうすると、ノズル部分にインク滴が付着して、ノズルプレートからインク滴が垂れて印刷物を汚すことがあり、また、ノズルが目詰まりして吐出不良につながることがある。
【0016】
本実施形態では、ウレタン変性エポキシ樹脂のウレタン部分の側鎖が、上記した構造を有することで、ノズルプレートに対する濡れ性及びワイプ耐久性を改善することができる。さらに、ウレタン部分の側鎖を特定したうえで、ウレタン変性エポキシ樹脂がインク用溶剤に対して溶解性が低いことで、画像裏抜けを低減し、画像濃度を高くすることができる。
ウレタン変性エポキシ樹脂がインク用溶剤と溶解性が低くなると、このウレタン変性エポキシ樹脂でカプセル化した顔料は、記録媒体上で、溶剤離脱性が高くなる。そうすると、記録媒体表面で、顔料が溶剤から離脱して、記録媒体内部に溶剤が浸透する際に、記録媒体表面に顔料が残存しやすくなる。結果として、画像裏抜けを低減することができ、画像濃度も高くすることができる。
【0017】
また、ウレタン変性エポキシ樹脂は、顔料への吸着性に優れるため、顔料の被覆効率を向上することができる。そうすると、インク中において、インク用溶剤が被膜のウレタン変性エポキシ樹脂にはばまれ顔料にまで浸透することを防止することができる。結果として、顔料と溶剤との離脱性を改善することができる。
また、ウレタン変性エポキシ樹脂によって顔料の被覆効率が向上することで、顔料表面が直接ノズルプレートに接触して研磨することを防止して、ワイプ耐久性をさらに改善することができる。
【0018】
また、ウレタン変性エポキシ樹脂がエポキシ樹脂部分を有することで、裏抜け低減及び画像濃度向上の効果をより高めることができる。さらに、これによって、普通紙とともに、コート紙への耐擦過性を改善することができる。
ウレタン変性エポキシ樹脂がウレタン部分とともにエポキシ樹脂部分を含むことで、樹脂にある程度の硬さが付与されて、用紙表面上のインク塗膜をより高強度にすることができるため、印刷物の耐擦過性を改善することができる。
【0019】
本実施形態のインクはカプセル化顔料を含み、カプセル化顔料は、顔料と顔料の表面を被覆するウレタン変性エポキシ樹脂とを含む。
【0020】
顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料、及び、カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。
アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0021】
顔料の平均粒子径としては、吐出安定性と貯蔵安定性の観点から、300nm以下であることが好ましく、より好ましくは200nm以下である。
顔料は、インク全量に対し、通常0.01〜20質量%であり、印刷濃度とインク粘度の観点から、1〜15質量%であることが好ましい。
【0022】
カプセル化顔料において、顔料の表面の部分的または全部の領域は、ウレタン変性エポキシ樹脂によって被覆される。
ウレタン変性エポキシ樹脂は、インクに使用される非水系溶剤に対して不溶性であることが好ましい。
具体的には、ウレタン変性エポキシ樹脂は、インクに使用される非水系溶剤100gに対して、23℃で、3g以下で溶解することが好ましく、より好ましくは1g以下であり、さらに好ましくは0.5g以下である。一層好ましくは、ウレタン変性エポキシ樹脂は、インクに使用される非水系溶剤に、23℃で実質的に溶解しないことが好ましい。
インクに使用される非水系溶剤に対する溶解度は、インクに2種以上の溶剤が配合される場合は、2種以上の溶剤をインクと同じ配合割合で混合した混合物に対する溶解度になる。
【0023】
ウレタン変性エポキシ樹脂は、側鎖を有するウレタン部分と、エポキシ樹脂部分とを有する。
ウレタン部分としては、例えば、ウレタン骨格からなる主鎖と、主鎖にグラフト重合した側鎖とを含む化合物を用いることができる。
ウレタン部分の側鎖は、芳香環、複素環、カルボキシ基、アミド結合、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキル基、アミノ基、及びニトリル基からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。
ウレタン部分が、側鎖として、複素環、アミド結合、アミノ基及びニトリル基のうち1種以上を含むことで、ウレタン変性エポキシ樹脂の顔料への吸着性をより高めることができる。
ウレタン部分は、ウレタン骨格から側鎖が分岐するため、櫛形ポリウレタン構造となる。
【0024】
ウレタン変性エポキシ樹脂は、例えば、多価アルコールと、多価イソシアネートと、エポキシ樹脂とを反応させることで、多価アルコールと多価イソシアネートとによってウレタン骨格が形成され、このウレタン骨格がエポキシ樹脂と結合し、合成することができる。
例えば、エポキシ樹脂として、水酸基含有エポキシ樹脂や、エポキシ樹脂のエポキシ基をアルカノールアミンで変性して水酸基を導入したエポキシ樹脂を用いることで、エポキシ樹脂の水酸基に対して、ウレタン骨格のイソシアネート基を結合させることができる。
【0025】
ウレタン部分としては、例えば、多価イソシアネート由来の単位と、アルカノールアミン由来の単位とが交互に配列した構造を備え、ウレタン部分の側鎖が、アルカノールアミン由来の単位の窒素原子を介して結合しているものを用いることができる。
このようなウレタン部分は、多価イソシアネートと、アルカノールアミンまたはその誘導体とを反応させることで得ることができる。
【0026】
アルカノールアミンとしては、モノアルカノールアミン、ジアルカノールアミン、またはこれらの組み合わせを用いることができる。
モノアルカノールアミンとしては、例えば、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノ(n−プロパノール)アミン、モノイソプロパノールアミン、モノブタノールアミン、モノペンタノールアミン、モノヘキサノールアミン、モノヘプタノールアミン、モノオクタノールアミン、モノノナノールアミン、モノデカノールアミン、モノウンデカノールアミン、モノドデカノールアミン、モノトリデカノールアミン、モノテトラデカノールアミン、モノペンタデカノールアミン、モノヘキサデカノールアミン等を用いることができる。
ジアルカノールアミンとしては、例えば、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジ(n−プロパノール)アミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン、ジペンタノールアミン、ジヘキサノールアミン、ジヘプタノールアミン等を用いることができる。
また、モノアルカノールアミン及びジアルカノールアミンは、それぞれ分岐鎖を有してもよく、置換基を有してもよい。
【0027】
好ましくは、上記ウレタン部分においてジアルカノールアミンを用いることができる。
多価イソシアネートのイソシアネート基と、2価アルコールであるジアルカノールアミンのヒドロキシ基とによって、ウレタン結合「―NH―CO−O―」が形成され、さらにジアルカノールアミン由来の「−(CH−NR−(CH−」で表される結合が形成される。ここで、m及びnは正の整数であり、Rは側鎖である。
【0028】
具体的には、下記式(1)で表される繰り返し単位を有するウレタン部分を用いることができる。式(1)において、Rは側鎖であり、側鎖Rを備えるジアルカノールアミン由来の単位「―O―(CH―NR―(CH―O―」とジイソシアネート由来の単位「−CONH−Y−NHCO−」とが交互に配列している。
【0029】
【化1】
【0030】
式(1)において、m及びnは、それぞれ独立的に正の整数であり、1〜18の整数であることが好ましい。pは、正の整数であり、ウレタン部分の重合度によって変わり、5〜100の整数であってよい。
Yは、任意の2価の基である。
Rは、−A−Rであり、Aは単結合または任意の2価の基であり、Rは芳香環含有基、複素環含有基、水素原子、カルボキシ基、アミド結合含有基、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキル基、アミノ基、及びニトリル基のうちから選択され、これらは置換基を有してもよい。
【0031】
式(1)において、Rは、−A−Rであり、Aは、−(CH−を含むことが好ましい。この場合、ジアルカノールアミン「OH―(CH―NH―(CH―OH」に、Rで表される基を有するビニルモノマーをマイケル付加反応させて、ジアルカノールアミンの窒素原子「N」を基点にRで表される基が導入されたジアルカノールアミン誘導体を用いて、目的とするウレタン部分を製造することができる。
ジアルカノールアミン誘導体の一般式を下記に示す。
OH―(CH―NR―(CH―OH
ここで、m及びnは、それぞれ独立的に正の整数であり、1〜18の整数であることが好ましい。Rは、側鎖である。
【0032】
また、ジアルカノールアミンまたはその誘導体に代えて、またはそれらとともに、モノアルカノールアミンまたはその誘導体を用いてもよい。
モノアルカノールアミン誘導体としては、例えば、モノアルカノールアミンに対して、上記したジアルカノールアミンと同様に、Rで表される基を有するビニルモノマーをマイケル付加反応させて製造することができる。
【0033】
このマイケル付加反応による側鎖の導入は、通常、ウレタン化反応の前にジアルカノールアミン単量体に対して行われるが、重合後にウレタン部分に含まれるジアルカノールアミン由来の単位に対して行ってもよい。
ビニルモノマーとしては、アクリレート等のアクリロイルオキシ基を有するモノマー、アクリロイル基を有するモノマー、アクリルアミド類、ビニル基を有するモノマー等を用いることができる。
例えば、Rで表される基を有するアクリレートとジアルカノールアミンをマイケル付加反応させる場合は、下記式の通り反応が進行し、ジアルカノールアミン誘導体を得ることができる。
【0034】
【化2】
【0035】
(1)アクリレート由来の側鎖
ウレタン部分の一例としては、式(1)において、側鎖Rは、−(CH−COO−R1aであり、R1aは、水素原子、芳香環含有基、複素環含有基、または1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキル基であり、これらは置換基を有してもよい。
このようなウレタン部分を含むウレタン変性エポキシ樹脂によれば、ノズルプレートに対する濡れ性及びワイプ耐久性とともに、画像裏抜け及び画像濃度を改善することができる。
ウレタン部分の側鎖が、カルボキシ基、芳香環または複素環を有することで、さらにインクの貯蔵安定性を良好に維持することができる。
また、ウレタン部分の側鎖が、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキル基を有することで、さらに印刷物の耐擦過性を改善することができる。
【0036】
1aが水素原子の場合、ウレタン部分の側鎖にカルボキシ基が導入されることになる。
1aのうち芳香環含有基の一例としては、以下の官能基を挙げることができる。
【0037】
【化3】
【0038】
1aのうち複素環含有基の一例としては、以下の官能基を挙げることができる。
【0039】
【化4】
【0040】
1aのうち1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキル基としては、直鎖または分岐鎖の炭素数1〜10のアルキル基の水素原子(個数)の50%以上、好ましくは80%以上がフッ素原子に置換されているものが好ましい。フルオロアルキル基の一例としては、以下の官能基を挙げることができる。
【0041】
【化5】
【0042】
上記したウレタン部分を製造する際には、ジアルカノールアミン「OH―(CH―NH―(CH―OH」の窒素原子「N」を基点に、以下のモノマーを導入したジアルカノールアミン誘導体を用いることができる。好ましくは、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート等の芳香環を有するアクリレートである。
【0043】
【化6】
【0044】
また、ウレタン部分の一例としては、式(1)において、側鎖Rは、−(CH−COO−R1aであり、R1aは、アミノ基等の窒素原子含有基であり、これらは置換基を有してもよい。
上記したウレタン部分を製造する際には、ジアルカノールアミン「OH―(CH―NH―(CH―OH」の窒素原子「N」を基点に、ジメチルアミノメチルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート等を導入したジアルカノールアミン誘導体を用いることができる。
【0045】
(2)アクリルアミド由来の側鎖
ウレタン部分の一例としては、式(1)において、側鎖Rは、−(CH−R1bであり、R1bは、下記式(2)で表されるアミド結合含有基、である。
―CO―NR’R’’
式(2)において、R’及びR’’は、それぞれ独立的に、水素原子、アルキル基、またはN、R’及びR’’によって複素環を形成する基であり、これらは置換基を有してもよい。
このようなウレタン部分を含むウレタン変性エポキシ樹脂によれば、ノズルプレートに対する濡れ性及びワイプ耐久性とともに、画像裏抜け及び画像濃度を改善することができる。
ウレタン部分の側鎖が、アミド結合含有基を有することで、さらにインクの貯蔵安定性を良好に維持することができる。
【0046】
R’及びR’’がともに水素原子の場合、ウレタン部分の側鎖にアミド基が導入されることになる。
R’及びR’’のいずれか一方がアルキル基であり、他方が水素原子である場合、ウレタン部分の側鎖にモノアルキルアミド基が導入されることになる。
R’及びR’’の両方がアルキル基である場合、ウレタン部分の側鎖にジアルキルアミド基が導入されることになる。
モノアルキルアミド基及びジアルキルアミド基のアルキル基は、それぞれ独立的にアミノ基、ヒドロキシ基等の置換基を有してもよい。
ウレタン部分の側鎖が、モノアルキルアミド基またはジアルキルアミド基を有することで、ワイプ耐久性をさらに改善することができる。
R’及びR’’は、「―CO―NR’R’’」の窒素原子「N」とともに複素環を形成してもよい。
【0047】
「−NR’R’’」の一例としては、以下の官能基を挙げることができる。
【0048】
【化7】
【0049】
上記したウレタン部分を製造する際には、ジアルカノールアミンの窒素原子を基点に、以下のモノマーを導入したジアルカノールアミン誘導体を用いることができる。好ましくは、N−アルキルアクリルアミド;ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド等のN,N−ジアルキルアクリルアミド;アクリロイルモルホリン等の複素環を有するアクリルアミドである。
【0050】
【化8】
【0051】
(3)アクリロニトリル由来の側鎖
ウレタン部分の一例としては、式(1)において、側鎖Rは、−(CH−R1cであり、R1cは、ニトリル基である。
このようなウレタン部分を製造する際には、ジアルカノールアミンの窒素原子を基点に、以下のアクリロニトリルを導入したジアルカノールアミン誘導体を用いることができる。
【0052】
【化9】
【0053】
このようなウレタン部分を含むウレタン変性エポキシ樹脂によれば、ノズルプレートに対する濡れ性及びワイプ耐久性とともに、画像裏抜け及び画像濃度を改善することができる。
ウレタン部分の側鎖が、ニトリル基を有することで、ワイプ耐久性をさらに改善することができ、さらにインクの貯蔵安定性を良好に維持することができる。
【0054】
ウレタン部分は、上記した側鎖の構造を、1種または2種以上含んでもよい。2種以上の側鎖を有するウレタン部分は、多価イソシアネート化合物と、異なる官能基を有する2種以上のジアルカノールアミン誘導体とを反応させることで、得ることができる。
好ましくは、ウレタン部分は、芳香環を有する第1の側鎖と、複素環、カルボキシ基、アミド結合、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキル基、アミノ基、またはニトリル基を有する第2の側鎖とを有することが好ましい。ウレタン部分が第2の側鎖を有することで、それぞれの効果を発揮する一方で、第1の側鎖が芳香環を有することで、ノズルプレートに対する濡れ性を確実に改善することができる。第1の側鎖と第2の側鎖とは、モル比で、25:75〜75:25であることが好ましい。
【0055】
ウレタン部分において、多価イソシアネート由来の単位としては、上記した式(1)において、Yが以下の構造を有することが好ましい。
直鎖または分岐鎖を有する炭素数1〜8のアルキレン基;ベンゼン、ナフタレン等の芳香環を有する2価の基;シクロヘキサン、ノルボルネン等のシクロアルカンを有する2価の基等を挙げることができる。
【0056】
このようなウレタン部分を製造する際に用いる多価イソシアネートとしては、2以上のイソシアネート基を有する化合物であり、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート等のいずれであってもよい。
【0057】
多価イソシアネートの具体例としては、例えば、1、6−ジイソシアネートヘキサン、1、3−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4−ジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メタキシレンジイソシアネート等のジイソシアネート;1−メチルベンゼン−2,4,6−トリイルトリイソシアナート、1,6,11−トリイソシアナトウンデカン等のトリイソシアネート;ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等のポリイソシアネート等を挙げることができる。
また、多価イソシアネート化合物としては、3以上のイソシアネート基を有するものとして、例えば、イソシアヌレート環を含む多価イソシアネート化合物、アダクト構造を含む多価イソアネート化合物、ビュレット構造を含む多価イソシアネート化合物、ウントジオン構造を含む多価イソシアネート化合物を使用することができる。
イソシアヌレート環を含む多価イソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートイソシアヌレート、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアナートイソシアヌレート等を挙げることができる。また、アダクト構造を含む多価イソシアネート化合物としては、アダクト構造を含むヘキサメチレンジイソシアネート等を挙げることができる。
特に好ましくは、2価のイソシアネートを用いることができる。
【0058】
ウレタン部分は、多価イソシアネート由来の単位及びアルカノールアミン由来の単位とともに、さらにアルカノールアミン以外のその他の多価アルコール由来の単位を含んでもよい。その他の多価アルコールとして、側鎖を備えない多価アルコールを用いることで、ウレタン部分を含むウレタン変性エポキシ樹脂がインク溶剤中で結晶化するのを防止し、インク溶剤との混和性を得ることができる。
その他の多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等を挙げることができる。これを由来とする単位は、1種で、または2種以上を組み合わせてウレタン部分に含まれてもよい。
中でも、ウレタン部分は、非対称性グリコール由来の単位を含むことが好ましい。この非対称性グリコールは、炭素数は3〜600のプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールであることが好ましい。
【0059】
ウレタン部分は、アルカノールアミン由来の単位及びその他の多価アルコール由来の単位を、25:75〜75:25のモル比(アルカノールアミン:その他の2価アルコール)で含むことが好ましい。
【0060】
以下、ウレタン変性エポキシ樹脂のエポキシ樹脂部分について説明する。
エポキシ樹脂部分を構成するエポキシ樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂の両末端にエポキシ基を有する樹脂や、エポキシ基を有する繰り返し単位を有する樹脂等を用いることができる。
【0061】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、エポキシポリオール等を挙げることができる。
これらは、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
エポキシ樹脂部分は、イソシアネート基と反応性を有する反応性官能基を有するエポキシ樹脂由来であって、この反応性官能基を介してウレタン部分が結合することが好ましい。反応性官能基としては、水酸基、アミノ基等を挙げることができる。
なかでも、エポキシ樹脂として、エピクロルヒドリンと活性水素化合物から得られるエポキシ樹脂を好ましく用いることができる。詳しくは、グリシジルエーテルタイプのエポキシ樹脂が好ましく、さらに、エピクロルヒドリンとビスフェノール(A、F、AD)との縮合反応により製造されるビスフェノール型エポキシ樹脂を好ましく用いることができる。
【0063】
ウレタン変性エポキシ樹脂は、例えば、多価アルコールと多価イソシアネートとを反応させウレタン部分を合成する過程で、多価イソシアネートのイソシアネート基と反応性を有する反応性官能基を含むエポキシ樹脂を加えることで得ることができる。
ビスフェノール型エポキシ樹脂は、水酸基を反応点としてウレタン部分を結合させることが可能である。また、ビスフェノール型エポキシ樹脂は、繰り返し構造の中に水酸基を有するため、有機溶剤との相溶性に優れている。
【0064】
また、エポキシ樹脂部分は、エポキシ基をアミンで変性したアミン変性部位を有するエポキシ樹脂由来であって、このアミン変性部位を介してウレタン部分が結合することが好ましい。
この場合、エポキシ基の反応性を利用して、エポキシ樹脂のエポキシ基と1,2級アミンを反応させてアミノ基を導入したり、エポキシ基とアルカノールアミンを反応させて水酸基を導入したりして、エポキシ樹脂にイソシアネート基との反応点を導入することができる。
このようなアミン変性エポキシ樹脂は、ウレタン変性エポキシ樹脂がより塩基性となって、顔料への吸着性を高めることができる。
【0065】
アミン変性エポキシ樹脂としては、例えば、上記した各種エポキシ樹脂をアミン変性したものであってよい。
詳しくは、アミン変性エポキシ樹脂としては、エポキシ樹脂と、アルカノールアミンとを溶媒中で反応させることで得ることができる。アルカノールアミンとしては、例えば、モノアルカノールアミン、ジアルカノールアミン、またはこれらの組み合わせを用いることができる。これらのアルカノールアミンは、上記ウレタン部分に側鎖を導入する際に説明したアルカノールアミンと同じものを用いることができる。
エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対してアルカノールアミンのアミノ基が0.1〜1.02当量となるように反応させることが好ましい。
【0066】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、三菱化学株式会社製jERエポキシ樹脂:834、1001、1002、1003、1055、1004AF、1004、1007、1009、1010等を挙げることができる。
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、三菱化学株式会社製jERエポキシ樹脂:806、806H、807、4004P、4005P、4007P、4010P等を挙げることができる。
フェノールノボラック型エポキシ樹脂エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、三菱化学株式会社製jERエポキシ樹脂:152、154等を挙げることができる。
【0067】
エポキシ樹脂の重量平均分子量としては、300〜7000であることが好ましく、より好ましくは450〜3000である。
エポキシ樹脂の重量平均分子量が300以上であることで、普通紙およびコート紙へ耐擦過性をより改善することができる。
エポキシ樹脂の重量平均分子量が7000以下であることで、ノズルプレートに対する濡れ性及びワイプ耐久性をより改善することができる。
ここで、重量平均分子量(Mw)は、GPC法で標準ポリスチレン換算で求めた値である(以下同じ)。
【0068】
エポキシ樹脂のエポキシ当量としては、150〜6000であることが好ましく、より好ましくは200〜3000であり、さらに好ましくは250〜2500である。
エポキシ当量が150以上であることで、普通紙およびコート紙への耐擦過性をより改善することができる。
エポキシ当量が6000以下であることで、ノズルプレートに対する濡れ性及びワイプ耐久性をより改善することができる。
ここで、エポキシ当量は、1グラム当量のエポキシ基を含むエポキシ樹脂のグラム数である(以下同じ)。
【0069】
ウレタン変性エポキシ樹脂は、多価アルコールと、多価イソシアネートと、エポキシ樹脂とを、メチルエチルケトンのような低沸点の非プロトン性溶媒中で反応させることにより製造することができる。多価アルコールとしては、アルカノールアミン及びその誘導体から選択される1種以上と、選択的にその他の多価アルコールとを用いることができる。
【0070】
この際に、触媒としてジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート等のスズ系触媒;テトラノルマルブチルチタネート、テトラオクチルチタネート、チタンアセチルアセトネート、チタンエチルアセテート、チタンエチルアセトアセテート等の有機チタン化合物;ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムエチルアセトアセテート等の有機ジルコニウム化合物;亜鉛系触媒、ビスマス系触媒等を溶媒中に添加してもよい。
【0071】
スズ系触媒の市販品としては、東京ファインケミカル株式会社製「L−101、OL−1」等を挙げることができる。
有機チタン化合物の市販品としては、マツモトファインケミカル株式会社製「オルガチックス:TA−21、TA−30、TC−100、TC−710、TC−750」等挙げることができる。
有機ジルコニウム化合物の市販品としては、マツモトファインケミカル株式会社製「オルガチックス:ZC−21、ZC−700、ZC−580」等を挙げることができる。
亜鉛系触媒の市販品としては、Shepherd Chemical社製「BiCAT:Z(M)、3228(M)」等を挙げることができる。
ビスマス系触媒の市販品としては、Shepherd Chemical社製「BiCAT:8118(M)、8108(M)、8124(M)、8106(M)、8210(M)」等を挙げることができる。
【0072】
多価アルコールのヒドロキシ基1.0モルに対して、多価イソシアネートのイソシアネート基が0.60〜1.02モルとなるように、多価アルコールと多価イソシアネートを配合して反応させることが好ましい。
【0073】
ウレタン変性エポキシ樹脂において、ウレタン部分(U)とエポキシ樹脂部分(E)との質量比(U:E)は90:10〜30:70の範囲であってよく、85:15〜35:65であることが好ましく、85:15〜40:60あることがより好ましい。
より好ましくは、U:Eは、80:20〜40:60であり、さらに好ましくは70:30〜40:60である。
これによって、ノズルプレートに対する濡れ性及びワイプ耐久性を改善するとともに、普通紙およびコート紙への耐擦過性が改善することができる。
ここで、ウレタン部分の質量は、反応に用いた多価アルコール、多価イソシアネートの合計量から求め、エポキシ樹脂部分の質量は、反応に用いたエポキシ樹脂の合計量から求めることができる。
【0074】
ウレタン変性エポキシ樹脂の重量平均分子量は、2000〜50000であることが好ましい。この重量平均分子量が2000より低い場合は、ウレタン変性エポキシ樹脂がインク溶剤中に浮遊してカプセル化顔料の形態を維持できないおそれがある。ウレタン変性エポキシ樹脂の重量平均分子量が40000よりも高い場合は、粗大なカプセル粒子が発生し、安定性の低下、吐出性の悪化を招く恐れがある。より好ましくは、ウレタン変性エポキシ樹脂の重量平均分子量は、2000〜40000であり、さらに好ましくは2000〜30000であり、一層好ましくは4000〜20000である。
【0075】
上記したウレタン変性エポキシ樹脂は、カプセル化顔料として油性インクに好ましく用いることができる。
ウレタン変性エポキシ樹脂は、顔料1質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上であり、さらに好ましくは0.15質量部以上である。これによって、顔料表面の被覆性を高めることができる。
一方、ウレタン変性エポキシ樹脂は、顔料1質量部に対し、5.0質量部以下であることが好ましく、より好ましくは1.0質量部以下であり、さらに好ましくは0.5質量部以下である。これによって、顔料表面に余剰の樹脂が被覆されることを防止し、また、余剰の樹脂が溶剤中に混在することを防止することができる。
ウレタン変性エポキシ樹脂は、インク全量に対し、0.01〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜20質量%であることが好ましい。
【0076】
カプセル化顔料は、ウレタン変性エポキシ樹脂と顔料の合計量で、インク全量に対し、1〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜30質量%である。
【0077】
油性インクは、カプセル化顔料の分散性を安定化させるために、顔料分散剤を含んでもよい。
顔料分散剤としては、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、ビニルピロリドンと長鎖アルケンとの共重合体、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリエステルポリアミン等が好ましく用いられる。
【0078】
顔料分散剤の市販品例としては、アイ・エス・ピー・ジャパン株式会社製「アンタロンV216(ビニルピロリドン・ヘキサデセン共重合体)」(商品名)、日本ルーブリゾール株式会社製「ソルスパース13940(ポリエステルアミン系)、17000、18000(脂肪酸アミン系)、11200、24000、28000」(いずれも商品名)、BASFジャパン株式会社製「エフカ400、401、402、403、450、451、453(変性ポリアクリレート)、46、47、48、49、4010、4055(変性ポリウレタン)」(いずれも商品名)、楠本化成株式会社製「ディスパロンKS−860、KS−873N4(ポリエステルのアミン塩)」(いずれも商品名)、第一工業製薬株式会社製「ディスコール202、206、OA−202、OA−600(多鎖型高分子非イオン系)」(いずれも商品名)、ビックケミー・ジャパン株式会社製「DISPERBYK2155、9077」(いずれも商品名)、クローダジャパン株式会社製「HypermerKD2、KD3、KD11、KD12」(いずれも商品名)等が挙げられる。
上記分散剤の含有量は、上記顔料を十分にインク中に分散可能な量であれば足り、適宜設定できる。例えば、質量比で、顔料1に対し顔料分散剤を0.1〜5で配合することができる。
【0079】
非水系溶剤としては、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤のいずれも使用できる。これらは、単独で使用してもよく、組み合わせて使用することもできる。なお、本実施形態において、非水系溶剤には、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合しない非水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0080】
非極性有機溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤、芳香族炭化水素溶剤等の石油系炭化水素溶剤を好ましく挙げることができる。
脂肪族炭化水素溶剤及び脂環式炭化水素溶剤としては、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系等の非水系溶剤を挙げることができ、市販品としては、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、カクタスノルマルパラフィンN−10、カクタスノルマルパラフィンN−11、カクタスノルマルパラフィンN−12、カクタスノルマルパラフィンN−13、カクタスノルマルパラフィンN−14、カクタスノルマルパラフィンN−15H、カクタスノルマルパラフィンYHNP、カクタスノルマルパラフィンSHNP、アイソゾール300、アイソゾール400、テクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、AFソルベント4号、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号、ナフテゾール160、ナフテゾール200、ナフテゾール220(いずれもJXエネルギー株式会社製);アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD95、エクソールD110、エクソールD130(いずれも東燃ゼネラル石油株式会社製)等を好ましく挙げることができる。
芳香族炭化水素溶剤としては、グレードアルケンL、グレードアルケン200P(いずれもJXエネルギー株式会社製)、ソルベッソ100、ソルベッソ150、ソルベッソ200、ソルベッソ200ND(いずれも東燃ゼネラル石油株式会社製)等を好ましく挙げることができる。
石油系炭化水素溶剤の蒸留初留点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがいっそう好ましい。蒸留初留点はJIS K0066「化学製品の蒸留試験方法」に従って測定することができる。
【0081】
極性有機溶剤としては、脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等を好ましく挙げることができる。
例えば、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸ヘキシル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸ヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸イソブチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ヘキシル、ステアリン酸イソオクチル、イソステアリン酸イソプロピル、ピバリン酸2−オクチルデシル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル等の1分子中の炭素数が13以上、好ましくは16〜30の脂肪酸エステル系溶剤;イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、イソエイコシルアルコール、デシルテトラデカノール等の1分子中の炭素数が6以上、好ましくは12〜20の高級アルコール系溶剤;ラウリン酸、イソミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、α−リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の1分子中の炭素数が12以上、好ましくは14〜20の高級脂肪酸系溶剤等が挙げられる。
脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等の極性有機溶剤の沸点は、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましい。なお、沸点が250℃以上の非水系溶剤には、沸点を示さない非水系溶剤も含まれる。
【0082】
本実施形態によるカプセル化顔料の製造方法においては、上記したウレタン変性エポキシ樹脂を低沸点の非プロトン性溶剤に溶解したウレタン変性エポキシ樹脂溶液を用いることが好ましい。
低沸点の非プロトン性溶剤としては、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒等を挙げることができる。
【0083】
このウレタン変性エポキシ樹脂溶液は、上記したアルカノールアミン等を含む多価アルコールと、多価イソシアネートと、エポキシ樹脂とを低沸点の非プロトン性溶剤中で反応させたものを、必要であれば希釈溶剤等を加えて、そのまま用いてもよい。
そして、カプセル化顔料は、ウレタン変性エポキシ樹脂溶液を、インク用の高沸点溶剤、顔料、及び顔料分散剤等の任意成分とともに混合し、ビーズミルなどの分散機で分散させた後、顔料分散体から低沸点溶剤を除去することにより製造することができる。低沸点溶剤の除去には、加圧、加熱、蒸留等を用いることができる。所望により、メンブレンフィルター等のろ過機を通して作製してもよい。
得られたカプセル化顔料分散体は、必要であれば希釈溶剤等を加えて、そのまま油性インクとして用いることができる。
【0084】
油性インクは、不揮発分量が1〜40質量%であることが好ましい。この不揮発分量となるように、インク用溶剤の配合量を調整するとよい。
また、カプセル化顔料の製造工程において、低沸点の非プロトン性溶剤は、ウレタン変性エポキシ樹脂がインク用溶剤と混合される際に凝集などが起こらないように、十分な量で配合することが好ましい。好ましい低沸点の非プロトン性溶剤の配合量は、質量比で、ウレタン変性エポキシ樹脂1に対し1〜15である。
【0085】
上記各成分に加えて、油性インクには、本発明の効果を損なわない限り、各種添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、ノズルの目詰まり防止剤、酸化防止剤、導電率調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤等を適宜添加することができる。また、発色性の観点から、カプセル化顔料とともに染料を併用してもよい。これらの種類は、特に限定されることはなく、当該分野で使用されているものを用いることができる。
【0086】
油性インクジェットインクとしての粘度は、インクジェット記録システムの吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5〜30mPa・sであることが好ましく、5〜15mPa・sであることがより好ましく、約10mPa・s程度であることが、一層好ましい。
【0087】
油性インクジェットインクを用いた印刷方法としては、特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよい。インクジェット記録装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから本実施形態によるインクを吐出させ、吐出されたインク液滴を記録媒体に付着させるようにすることが好ましい。
【0088】
本実施形態において、記録媒体は、特に限定されるものではなく、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙、布、無機質シート、フィルム、OHPシート等、これらを基材として裏面に粘着層を設けた粘着シート等を用いることができる。これらの中でも、インクの浸透性の観点から、普通紙、コート紙等の印刷用紙を好ましく用いることができる。
【0089】
ここで、普通紙とは、通常の紙の上にインクの受容層やフィルム層等が形成されていない紙である。普通紙の一例としては、上質紙、中質紙、PPC用紙、更紙、再生紙等を挙げることができる。普通紙は、数μm〜数十μmの太さの紙繊維が数十から数百μmの空隙を形成しているため、インクが浸透しやすい紙となっている。
【0090】
また、コート紙としては、マット紙、光沢紙、半光沢紙等のインクジェット用コート紙や、いわゆる塗工印刷用紙を好ましく用いることができる。ここで、塗工印刷用紙とは、従来から凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等で使用されている印刷用紙であって、上質紙や中質紙の表面にクレーや炭酸カルシウム等の無機顔料と、澱粉等のバインダーを含む塗料により塗工層を設けた印刷用紙である。塗工印刷用紙は、塗料の塗工量や塗工方法により、微塗工紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、上質コート紙、中質コート紙、アート紙、キャストコート紙等に分類される。
【0091】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態において、特に説明の無い箇所は、第1の実施形態と同様である。
本実施形態による油性インクジェットインク(以下、単にインクと称することがある。)としては、顔料と顔料の表面を被覆するウレタン変性(メタ)アクリル樹脂とを含むカプセル化顔料、及び非水系溶剤を含み、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂は、ウレタン部分及び(メタ)アクリル樹脂部分を有し、非水系溶剤に不溶性の化合物であり、ウレタン部分は、芳香環、複素環、カルボキシ基、アミド結合、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキル基、アミノ基、及びニトリル基からなる群から選択される1種以上の側鎖を含む、ことを特徴とする。
【0092】
本実施形態によれば、上記したウレタン変性エポキシ樹脂と同様に、印刷物の画像裏抜けを低減し、画像濃度を高め、印刷物の耐擦過性を改善することができる。また、本実施形態によれば、ノズルプレートに対する濡れ性及びワイプ耐久性を改善することができる。
本実施形態による油性インクは、普通紙とともに、コート紙への耐擦過性も改善することができる。
【0093】
また、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂が(メタ)アクリル樹脂部分を有することで、裏抜け低減及び画像濃度向上の効果をより高めることができる。さらに、これによって、普通紙とともに、コート紙への耐擦過性を改善することができる。
ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂がウレタン部分とともに(メタ)アクリル樹脂部分を含むことで、樹脂にある程度の硬さが付与されて、用紙表面上のインク塗膜をより高強度にすることができるため、印刷物の耐擦過性を改善することができる。
ここで、(メタ)アクリルは、メタクリル、アクリル、またはこれらの組み合わせを含むことを意味し、(メタ)アクリル樹脂は、メタクリル単位を有する樹脂、アクリル単位を有する樹脂、またはこれらの単位をともに含む共重合体であることを意味する。
【0094】
本実施形態のインクはカプセル化顔料を含み、カプセル化顔料は、顔料と顔料の表面を被覆するウレタン変性(メタ)アクリル樹脂とを含む。顔料の詳細は、上記ウレタン変性エポキシ樹脂で説明した通りである。
【0095】
カプセル化顔料において、顔料の表面の部分的または全部の領域は、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂によって被覆される。
ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂は、インクに使用される非水系溶剤に対して不溶性であることが好ましい。ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂の溶解性の詳細は、上記ウレタン変性エポキシ樹脂と共通する。
【0096】
ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂は、側鎖を有するウレタン部分と、(メタ)アクリル樹脂部分とを有する。
ウレタン部分の側鎖は、芳香環、複素環、カルボキシ基、アミド結合、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキル基、アミノ基、及びニトリル基からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。
ウレタン部分が、側鎖として、複素環、アミド結合、アミノ基及びニトリル基のうち1種以上を含むことで、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂の顔料への吸着性をより高めることができる。
ウレタン部分及び側鎖の詳細は、上記したウレタン変性エポキシ樹脂で説明した通りである。
【0097】
好ましくは、ウレタン部分は、芳香環を有する第1の側鎖と、複素環、カルボキシ基、アミド結合、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキル基、アミノ基、またはニトリル基を有する第2の側鎖とを有することが好ましい。ウレタン部分が第2の側鎖を有することで、それぞれの効果を発揮する一方で、第1の側鎖が芳香環を有することで、ノズルプレートに対する濡れ性を確実に改善することができる。第1の側鎖と第2の側鎖とは、モル比で、25:75〜75:25であることが好ましい。
【0098】
ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂は、例えば、多価アルコールと、多価イソシアネートと、(メタ)アクリル樹脂とを反応させることで、多価アルコールと多価イソシアネートとによってウレタン骨格が形成され、このウレタン骨格が(メタ)アクリル樹脂と結合し、合成することができる。
例えば、(メタ)アクリル樹脂として、水酸基やアミノ基等のイソシアネート基と反応性を有する反応性官能基を含む(メタ)アクリル樹脂を用いることで、(メタ)アクリル樹脂の反応性官能基に対して、ウレタン骨格のイソシアネート基を結合させることができる。
【0099】
以下、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂の(メタ)アクリル樹脂部分について説明する。
(メタ)アクリル樹脂部分を構成する(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、イソシアネート基と反応性を有する反応性官能基を有する(メタ)アクリル樹脂であることが好ましい。
これによって、(メタ)アクリル樹脂部分の反応性官能基にウレタン部分のイソシアネート基を反応させ、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂をより簡便に合成することができる。
イソシアネート基と反応性を有する反応性官能基としては、水酸基、アミノ基等からなる群から選択される1種以上を用いることができる。
【0100】
(メタ)アクリル樹脂の好ましい例としては、例えば、イソシアネート基と反応性を有する反応性官能基を有する単位aを含むことが好ましい。さらに、(メタ)アクリル樹脂の好ましい例としては、例えば、この単位aとともに、芳香環を有する単位b、及び/またはカルボキシ基を有する単位cをさらに含む重合体である。
【0101】
(メタ)アクリル樹脂は、イソシアネート基と反応性を有する反応性官能基を有する単位aを有することが好ましい。この単位aは、反応性官能基を介してウレタン部分が結合し、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂においては、ウレタン部分が結合する単位aとなる。
単位aの一例としては、主鎖の炭素鎖に、−COORで表される官能基が結合している単位である。Rは、反応性官能基を有する基である。この場合、反応性官能基は、酸素原子に、炭素数1〜8のアルキル基が結合し、このアルキル基の水素原子の1個以上が反応性官能基に置換されていることが好ましい。好ましい例として、Rは、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基等を挙げることができる。
【0102】
また、(メタ)アクリル樹脂は、芳香環を有する単位bを有することが好ましい。
これによって、芳香環が顔料に配向しやすくなって、顔料をより均一に被覆することができるようになる。
芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等、またはこれらの置換体を用いることができ、好ましくはベンゼン環である。
単位bの一例としては、主鎖の炭素鎖に、−COORで表される官能基が結合している単位である。Rは、芳香環を有する基である。
また、Rは、−Rb1−Rb2として表される基であって、Rb1が任意の2価以上の官能基であって、Rb2で表される末端に芳香環を有するものであってよい。単位bにおいて、末端の芳香環は2個以上有してもよい。
芳香環を有する基は、例えば、ベンジル基、フェニル基等を挙げることができる。
【0103】
また、(メタ)アクリル樹脂は、カルボキシ基(−COOH)を有する単位cを有することが好ましい。
単位cのカルボキシ基は、(メタ)アクリル樹脂において、主鎖の炭素鎖に、−COOHが結合したものであってよい。この場合、単位cは、アクリル酸及び/またはメタクリル酸に由来する単位である。
他の形態としては、主鎖の炭素鎖に、−COORで表される基が結合した単位であって、Rが−Rc1−COOHで表される基であり、Rc1が任意の2価以上の基であり、末端にカルボキシ基を有する。単位cにおいて、末端のカルボキシ基は2個以上有してもよい。
【0104】
(メタ)アクリル樹脂には、炭素数1〜8のアルキル基を有する単位dがさらに含まれてもよい。この単位dは、(メタ)アクリル樹脂の主鎖の炭素原子に、−COORで表される基が結合した単位であって、Rが炭素数1〜8、特に炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。
これによって、(メタ)アクリル樹脂に柔軟性を付与して、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂全体の柔軟性を高めて、顔料の被覆性をより改善することができる。また、単位dを有することで(メタ)アクリル樹脂の溶媒親和性が高くなり、ウレタン部分との反応を促進させることができる。
単位dにおいて、炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基等を用いることができる。
【0105】
(メタ)アクリル樹脂は、上記単位a、単位b、単位c、単位dをそれぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて有することができる。好ましくは、(メタ)アクリル樹脂は、単位aとともに、さらに単位b及び/または単位cを含むことが好ましい。
【0106】
(メタ)アクリル樹脂において、単位aは、重合体全体に対し、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。一方、単位aは、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは17質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以下である。
(メタ)アクリル樹脂において、単位bは、重合体全体に対し、5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。一方、単位bは、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは45質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以下である。
(メタ)アクリル樹脂において、単位cは、重合体全体に対し、5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。一方、単位cは、45質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。
(メタ)アクリル樹脂において、単位dは、重合体全体に対し、5量%以上であることが好ましい。一方、単位dは、90質量%以下であることが好ましい。
ここで、重合体全体は、(メタ)アクリル樹脂を構成する全単位を基準とする。
【0107】
(メタ)アクリル樹脂は、少なくとも以下のモノマーaを含むモノマー混合物を共重合して製造することができる。また、(メタ)アクリル樹脂は、モノマーaとともに、以下のモノマーb及びモノマーcから選択される1種以上を含み、任意的にモノマーdを含んでもよいモノマー混合物を共重合して製造することができる。
モノマー混合物中のモノマーa〜dの配合量は、上記した(メタ)アクリル樹脂の単位a〜dの割合となるように、調整すればよい。
イソシアネート基と反応性を有する反応性官能基を含むモノマーa;
芳香環を有するモノマーb;
カルボキシ基を有するモノマーc;
炭素数1〜8のアルキル基を有するモノマーd。
【0108】
モノマーaとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル等を用いることができる。
モノマーbとしては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコールアクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールアクリレート等を挙げることができる。
【0109】
モノマーcとしては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸(CAS番号51252−88−1)、4−[2−(メタクリロイルオキシ)エトキシ]−4−オキソ−2−ブテン酸(CAS番号51978−15−5)等を挙げることができる。
【0110】
モノマーdとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート(C1)、エチル(メタ)アクリレート(C2)、ブチル(メタ)アクリレート(C4)、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート(C8)等を挙げることができる。かっこ内の数値は、アルキル基の炭素数である。
上記したモノマーa〜dは、それぞれ独立的に単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0111】
上記したモノマーa〜dに加え、本発明の効果を損なわない限り、その他のモノマーを用いてもよい。その他のモノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;酢酸ビニル、安息香酸ビニル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系ポリマー;マレイン酸エステル;フマル酸エステル;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;α−オレフィン;アルキル基の炭素数が9以上のアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0112】
上記したモノマー混合物は、公知のラジカル共重合により、重合させることができる。反応系としては、溶液重合または分散重合で行うことが好ましい。
重合反応に際し、反応速度を調整するために、重合開始剤、連鎖移動剤、重合禁止剤、重合促進剤、分散剤等を反応系に適宜添加することができる。
重合開始剤としては、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物;t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート(パーブチルO、日本油脂株式会社製)等の過酸化物等の熱重合開始剤を使用することができる。その他にも、活性エネルギー線照射によりラジカルを発生する光重合型開始剤を用いることができる。
また、反応系に連鎖移動剤を併用することで、得られる(メタ)アクリル樹脂の分子量を調整することができる。連鎖移動剤としては、たとえば、n−ブチルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ステアリルメルカプタン、シクロヘキシルメルカプタン等のチオール類等を好ましく用いることができる。
溶液重合に用いる重合溶媒(反応溶媒)は、特に限定されないが、重合によって得られる樹脂を分散ないし溶解可能であるものが好ましい。
【0113】
本実施形態の(メタ)アクリル樹脂は、上記した構造の(メタ)アクリル樹脂に限定されない。
本実施形態の(メタ)アクリル樹脂として使用可能な市販品としては、例えば、東亜合成株式会社製「ARUFON:UH-2000、UH-2041、UH-2170、UH-2190、UHE-2012」等を挙げることができる。
【0114】
(メタ)アクリル樹脂部分の重量平均分子量としては、5000〜100000であることが好ましく、より好ましくは7000〜80000であり、さらに好ましくは10000〜50000である。この範囲であることで、普通紙及びコート紙への耐擦過性を改善することができる。
また、(メタ)アクリル樹脂部分を構成する(メタ)アクリル樹脂としては、酸価が0〜300mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは、15〜200mgKOH/gであることが好ましい。この範囲であることで、普通紙における画像濃度および裏抜けを改善することができる。
ここで、酸価は、不揮発分1g中の全酸性成分を中和するのに必要な水酸化カリウムのミリグラム数である。
【0115】
ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂は、多価アルコールと、多価イソシアネートと、(メタ)アクリル樹脂とを、メチルエチルケトンのような低沸点の非プロトン性溶媒中で反応させることにより製造することができる。多価アルコールとしては、アルカノールアミン及びその誘導体から選択される1種以上と、選択的にその他の多価アルコールとを用いることができる。
この際に、触媒を用いてもよい。触媒の詳細は、上記したウレタン変性エポキシ樹脂で説明した通りである。
多価アルコールのヒドロキシ基1.0モルに対して、多価イソシアネートのイソシアネート基が0.60〜1.02モルとなるように、多価アルコールと多価イソシアネートを配合して反応させることが好ましい。
【0116】
ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂において、ウレタン部分(U)と(メタ)アクリル樹脂部分(A)との質量比(U:A)は90:10〜10:90の範囲であってよく、85:15〜40:60あることが好ましい。より好ましくは、U:Aは、85:15〜60:40である。
これによって、ノズルプレートに対する濡れ性及びワイプ耐久性を改善するとともに、普通紙およびコート紙への耐擦過性が改善することができる。
ここで、ウレタン部分の質量は、反応に用いた多価アルコール、多価イソシアネートの合計量から求め、(メタ)アクリル樹脂部分の質量は、反応に用いた(メタ)アクリル樹脂の合計量から求めることができる。
【0117】
ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、5000〜100000であることが好ましい。この重量平均分子量が5000より低い場合は、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂がインク溶剤中に浮遊してカプセル化顔料の形態を維持できないおそれがある。ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量が100000よりも高い場合は、粗大なカプセル粒子が発生し、安定性の低下、吐出性の悪化を招く恐れよりも高い場合は、粗大なカプセル粒子が発生し、安定性の低下、吐出性の悪化を招く恐れがある。より好ましくは、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、10000〜80000であり、さらに好ましくは20000〜60000である。
【0118】
また、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂は、酸価が5〜300mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは、15〜200mgKOH/gであることが好ましい。この範囲であることで、普通紙における画像濃度および裏抜けを改善することができる。
【0119】
上記したウレタン変性(メタ)アクリル樹脂は、カプセル化顔料として油性インクに好ましく用いることができる。
ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂は、顔料1質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上であり、さらに好ましくは0.15質量部以上である。これによって、顔料表面の被覆性を高めることができる。
一方、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂は、顔料1質量部に対し、5.0質量部以下であることが好ましく、より好ましくは1.0質量部以下であり、さらに好ましくは0.5質量部以下である。これによって、顔料表面に余剰の樹脂が被覆されることを防止し、また、余剰の樹脂が溶剤中に混在することを防止することができる。
ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂は、インク全量に対し、0.01〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜20質量%であることが好ましい。
【0120】
カプセル化顔料は、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂と顔料との合計量で、インク全量に対し、1〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜30質量%である。
ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂を含むインク及びその製造方法等の詳細については、上記ウレタン変性エポキシ樹脂で説明した通りである。
【実施例】
【0121】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
以下の実施例及び比較例を通して、特に説明のない限り、共通する成分は同一のものである。
【0122】
「製造例A:ウレタン変性エポキシ樹脂の例」
以下、製造例Aとしてウレタン変性エポキシ樹脂を用いてカプセル化顔料を作製した。
<エポキシ樹脂の種類>
表1にエポキシ樹脂の種類を示す。表1に示すエポキシ樹脂は、いずれも三菱化学株式会社から入手した。
【0123】
<エポキシ樹脂のアミン変性>
表2にエポキシ樹脂のアミン変性の処方を示す。
表に示す割合でアルカノールアミン、エポキシ樹脂、非プロトン性溶媒を仕込み、撹拌しながら60℃まで昇温して反応させ、アミン変性エポキシ樹脂を得た。
【0124】
<ジオールの合成>
表3に、ウレタン部分の側鎖を構成するジエタノールアミン誘導体(ジオール)の処方を示す。
表に示す割合でジエタノールアミンを仕込み、110℃まで昇温した。これに、表に示すモノマーをそれぞれの配合量で滴下し、マイケル付加反応を完結させ、ジオールを得た。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
【表3】
【0128】
各表に示す成分は、以下の通りである。
ジエタノールアミン:NH(COH)、MW105.1、株式会社日本触媒製「DEA」。
エタノールアミン:NHOH、MW61.08、株式会社日本触媒製「MEA」。
MEK:メチルエチルケトン、和光純薬工業株式会社製。
ベンジルアクリレート:大阪有機化学工業株式会社製「ビスコート#160」、MW162.2。
アクリロイルモルホリン:KJケミカルズ株式会社製「ACMO」、MW141.2。
ジメチルアクリルアミド:KJケミカルズ株式会社製「DMAA」、MW99.1。
ジエチルアクリルアミド:KJケミカルズ株式会社製「DEAA」、MW127.2。
アクリロニトリル:和光純薬工業株式会社製、MW53.1。
ジメチルアミノエチルアクリレート:東亞合成株式会社製「アロンDA」、MW143.2。
メトキシポリエチレングリコール(PEG9)アクリレート:比較モノマー、CH=CH−CO−(OCH−CH−OCH、日油株式会社製「AME−400」、MW482.0。
上記MWは分子量である。
【0129】
<ウレタン変性エポキシ樹脂の合成>
表4及び表5に、ウレタン変性エポキシ樹脂の処方を示す。
各表に示す配合量にしたがって、上記で得られたジオール溶液と、他のジオール成分としてプロピレングリコールとMEK(メチルエチルケトン)とを仕込み、スズ系触媒としてジブチル錫ジラウレートを添加し、78℃まで昇温した。そして、ジイソシアネートを滴下し、固形分50.0質量%の樹脂溶液を得た。重量平均分子量(Mw;GPC法、標準ポリスチレン換算、以下同じ)を各表に示す。
【0130】
各表に示す成分は、以下の通りである。
ヘキサメチレンジイソシアネート:OCN−(CH−NCO、MW168.2、和光純薬工業株式会社製。
キシレンジイソシアネート:OCN−CH−C−CH−NCO、MW188.18、三井化学株式会社製「タケネート500」。
プロピレングリコール:和光純薬工業株式会社製。
スズ系触媒:ジブチル錫ジラウレート、東京ファインケミカル株式会社製「L−101」。
【0131】
<インク作製>
表6及び表7にインク処方を示す。
各表に示す配合量にしたがって、上記で得られた樹脂溶液、顔料「MOGUL L」、顔料分散剤「HypermerKD12」、オレイン酸メチル、及びAF−5を混合し、ロッキングミル(株式会社セイワ技研製)により、分散した。分散後、エバポレータを用いて、分散体の低沸点溶剤(メチルエチルケトン)の脱溶剤を行った。このようにして、ウレタン変性エポキシ樹脂によって顔料をカプセル化し、カプセル化顔料を含むインクを得た。
【0132】
以下の点を除いては、上記方法にしたがって、各実施例及び比較例のインクを作製した。
実施例A11では、ジイソシアネートが異なるウレタン変性エポキシ樹脂A11を用い、また、顔料、顔料分散剤、溶剤を変更した。
比較例A1では、ウレタン樹脂A12を用いた。
比較例A2では、比較モノマーを側鎖としたウレタン樹脂A13を用いた。
【0133】
各表に示す成分は、以下の通りである。
顔料「MOGUL L」:カーボンブラック、キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ・インク社製「MOGUL L」。
顔料「MA8」:カーボンブラック、三菱化学株式会社製「MA8」。
顔料分散剤「HYPERMER KD11」:クローダジャパン株式会社製「HypermerKD11」。
顔料分散剤「S13940」:日本ルーブリゾール株式会社製「ソルスパース13940」。
オレイン酸メチル:脂肪酸エステル系溶剤、CH(CHCH=CH(CHCOOCH、東京化成工業株式会社。
ミリスチン酸イソプロピル:脂肪酸エステル系溶剤、CH(CH12COOCH(CH、和光純薬工業株式会社製。
AF−5:石油系炭化水素溶剤、JXエネルギー株式会社製「AFソルベント5号」。
【0134】
各実施例及び比較例で用いた非水系溶剤(2種以上の非水系溶剤を用いている場合は混合物)100gに対し、各実施例及び比較例で用いたウレタン変性エポキシ樹脂が完全に溶解する質量(g/100g)を測定し、ウレタン変性エポキシ樹脂(樹脂A1〜A11)及びウレタン樹脂(樹脂A12、A13)の溶解性を求めた。
その結果、各実施例及び比較例A1では、非水系溶剤100gに対し各樹脂の溶解度は1g/100g未満であった。
比較例A2では、非水系溶剤100gに対し樹脂A13の溶解度は5g/100g超過であった。樹脂A13は非水系溶剤に混和性を示した。
【0135】
【表4】
【0136】
【表5】
【0137】
【表6】
【0138】
【表7】
【0139】
<評価>
上記実施例及び比較例のインクについて、以下の方法により評価を行った。これらの評価結果を表6及び表7に示す。
【0140】
(1)ノズルプレートに対する濡れ性
各インクを30mlのガラス容器に入れ、インクジェットプリンター「オルフィスEX9050」(商品名:理想科学工業株式会社製)に使用されるノズルプレート(長さ5mm、幅5mm)の一辺をピンセットでつまみ、反対側の一辺から2cmを5秒間インクに浸漬させた。その後、ノズルプレートを素早く引き上げ、ノズルプレート上に残ったインク膜がインク滴になるまでの時間tを測定した。同じノズルプレートを用いて同様の操作を10回繰り返し、それぞれ時間tを測定した。その平均値を算出し、撥インク時間とし、下記基準で評価した。
AA:撥インク時間が1秒未満である。
A:撥インク時間が1秒以上、3秒未満である。
B:撥インク時間が3秒以上、4秒未満である。
C:撥インク時間が4秒以上である。
【0141】
(2)ワイプ耐久性
インクジェットプリンター「オルフィスEX9050」(商品名:理想科学工業株式会社製)を用いて、ヘッドメンテナンスのノーマルクリーニングによりヘッドクリーニングを1000回実施した。1000回のヘッドクリーニング後、ワイプブレードが接したノズルプレート部分の撥インク性を目視で評価した。
AA:ワイプブレードが接した全ての部分の撥インク性が保たれている。試験後、即座にインクが完全にはじかれる。
A:ワイプブレードが接した全ての部分の撥インク性が保たれている。試験後、インクが完全にはじかれるまで数秒かかる。
B:ワイプブレードが接した一部分の撥インク性が低下している。
C:ワイプブレードが接した全ての部分の撥インク性が低下している。
【0142】
(3)貯蔵安定性(70℃、1ヶ月)
まず、インク作製直後のインクの粘度を測定した。
次に、インクを10mlのスクリュ−バイアル瓶に入れて、70℃で1ヶ月間放置した。その後、インクをサンプリングし、インク粘度測定を行った。
粘度は、レオメーターARG2(ティ−・エイ・インスツルメント社製)を用いて、コーン角度2°、直径40mmで、室温(23℃)で測定した。
1ヶ月放置前後のインク粘度から、次式により粘度変化率を求め、以下の基準で貯蔵安定性を評価した。
粘度変化率(%)=100−(放置後のインク粘度(mPa・s)/作製直後のインク粘度(mPa・s))×100
A:粘度変化率が±5%以内である。
B:粘度変化率が±10%未満である。
C:粘度変化率が±10%以上である。
【0143】
(4)画像濃度及び画像裏抜け
インクジェットプリンター「オルフィスEX9050」に搭載されているインクジェットヘッドを用いて、普通紙(理想用紙マルチ、理想科学工業株式会社製)に、解像度600dpi×600dpiで1画素当たり、12plのベタ画像を印刷した。印刷から一日経過後に、光学濃度計(RD920、マクベス社製)を用いて、印刷物表面のOD値(表OD値)、及び印刷物裏面のOD値(裏OD値)を測定した。表OD値から画像濃度を以下の基準で評価した。裏OD値から画像裏抜けを以下の基準で評価した。
【0144】
(画像濃度)
AA:表OD値が1.18以上である。
A:表OD値が1.12以上、1.18未満である。
B:表OD値が1.00以上、1.12未満である。
C:表OD値だ1.00未満である。
(画像裏抜け)
AA:裏OD値が0.08未満である。
A:裏OD値が0.08以上、0.15未満である。
B:裏OD値が0.15以上、0.25未満である
C:裏OD値が0.25以上である。
【0145】
(5)耐擦過性(普通紙)
上記画像濃度及び画像裏抜けの評価方法と同様にして印刷物を作製した。印刷から一日経過後に、印刷物のベタ画像部分を、クロックメーター(布)で5回擦ったときの状態を目視で観察し、耐擦過性を次の基準で評価した。
A:画像周囲の汚染がほとんど確認されない。
B:画像周囲の汚染が若干確認される。
C:画像周囲の汚染が顕著である。
【0146】
(6)耐擦過性(コート紙)
上質コート紙「オーロラコート」(日本製紙株式会社製)を用いた以外は、上記画像濃度及び画像裏抜けの評価方法と同様にして印刷物を作製した。印刷後100℃で3分間乾燥した後に、印刷物のベタ画像部分を指で擦ったときの状態を目視で観察し、耐擦過性を次の基準で評価した。
A:指にインクがつかず、印刷物にタックもない。
B:指にインクはつかないが、印刷物にタックがある。
C:指にインクがつく。
【0147】
各表に示す通り、各実施例のインクでは、ノズルプレートに対する濡れ性及びワイプ耐久性が良好であるとともに、印刷物の画像裏抜けを防いで、高い画像濃度を得ることができた。また、各実施例のインクは、貯蔵安定性が良好で、印刷物の耐擦過性に優れた。
各実施例のインクは、比較例A1のウレタン樹脂A12を用いているインクに比べ、印刷物の画像濃度及び画像裏抜けを改善し、印刷物の耐擦過性に優れた。
比較例A2では、比較モノマーを側鎖としたウレタン樹脂A13を用いてインクを作製しており、画像濃度及び画像裏抜け、貯蔵安定性が不十分であった。
【0148】
実施例A1〜A8では、各種側鎖を有する樹脂A1〜A8を用いて顔料をカプセル化しており、良好な結果であった。
実施例A2では、アミン変性したエポキシ樹脂を用いて樹脂A2を合成しており、ワイプ耐久性がより改善された。
実施例A3、A7、A8では、より高分子量のエポキシ樹脂を用いて樹脂A3を合成しており、ワイプ耐久性がより改善された。
【0149】
実施例A4〜A6では、ベンジル基とともに各種側鎖を有する樹脂A4〜A6を用いて顔料をカプセル化しており、良好な結果であった。
実施例A4及びA6では、アミン変性したエポキシ樹脂を用いて樹脂A4及びA6を合成しており、ワイプ耐久性がより改善された。
実施例A5では、より高分子量のエポキシ樹脂を用いて樹脂A5を合成しており、ワイプ耐久性がより改善された。
【0150】
実施例A9及びA10は、ウレタン部分/エポキシ部分の質量比率を変更したものであり、良好な結果であった。
実施例A11は、ジイソシアネートが異なる樹脂A13を用いて、顔料、顔料分散剤、溶剤を変更してインクを作製したものであり、良好な結果であった。
【0151】
「製造例B:ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂の例」
以下、製造例Bとしてウレタン変性(メタ)アクリル樹脂を用いてカプセル化顔料を作製した。上記製造例Aと共通する成分は同一のものを用いている。
<(メタ)アクリル系樹脂の合成>
表8に、(メタ)アクリル樹脂のモノマー処方を示す。
表に示す割合で各モノマーを混合しモノマー混合物を得た。モノマー混合物と同量のメチルエチルケトン(MEK)にV−65(アゾビス,2−4−ジメチルイソバレロニトリル、和光純薬工業株式会社製)をモノマー混合物に対して5質量%の割合で添加した。この溶液に、モノマー混合物を滴下した。モノマー混合物の滴下が終了してから、モノマー混合物に対して0.3質量%の割合のV−65をさらに添加し、不揮発分50%の樹脂溶液を得た。
【0152】
得られた樹脂の重量平均分子量を表に示す。
得られた樹脂の酸価をJIS K 2501に従って測定した(以下、同じ)。結果を表に示す。
【0153】
使用したモノマーは、以下の通りである。
メタクリル酸:和光純薬工業株式会社製。
アクリル酸:和光純薬工業株式会社製。
メタクリル酸ヒドロキシエチル:和光純薬工業株式会社製。
ベンジルメタクリレート:和光純薬工業株式会社製。
ベンジルアクリレート:大阪有機化学工業株式会社製。
メチルメタクリレート:和光純薬工業株式会社製。
【0154】
<ジオールの合成>
表9に、ウレタン部分の側鎖を構成するジエタノールアミン誘導体(ジオール)の処方を示す。
表に示す割合でジエタノールアミンを仕込み、110℃まで昇温した。これに、表に示すモノマーをそれぞれの配合量で滴下し、マイケル付加反応を完結させ、ジオールを得た。
【0155】
【表8】
【0156】
【表9】
【0157】
<ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂の合成>
表10及び表11に、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂の処方を示す。
各表に示す配合量にしたがって、上記で得られたアクリル樹脂と、上記で得られたジオール溶液と、他のジオール成分としてプロピレングリコールとMEK(メチルエチルケトン)とを仕込み、スズ系触媒としてジブチル錫ジラウレートを添加し、78℃まで昇温した。そして、ジイソシアネートを滴下し、固形分50.0質量%の樹脂溶液を得た。得られたウレタン変性(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量及び酸価を各表に示す。
【0158】
<インク作製>
表12及び表13にインク処方を示す。
各表に示す配合量にしたがって、上記で得られた樹脂溶液、顔料「MA8」、顔料分散剤「S13940」、オレイン酸メチル、及びAF−5を混合し、ロッキングミル(株式会社セイワ技研製)により、分散した。分散後、エバポレータを用いて、分散体の低沸点溶剤(メチルエチルケトン)の脱溶剤を行った。このようにして、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂によって顔料をカプセル化し、カプセル化顔料を含むインクを得た。
【0159】
以下の点を除いては、上記方法にしたがって、各実施例及び比較例のインクを作製した。
実施例B11では、ジイソシアネートが異なる樹脂B12を用い、また、顔料、顔料分散剤、溶剤を変更した。
比較例B1では、ウレタン樹脂B13を用いた。
比較例B2では、比較モノマーを側鎖としたウレタン樹脂B14を用いた。
【0160】
各実施例及び比較例で用いた非水系溶剤(2種以上の非水系溶剤を用いている場合は混合物)100gに対し、各実施例及び比較例で用いたウレタン変性(メタ)アクリル樹脂が完全に溶解する質量(g/100g)を測定し、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂(樹脂B1〜B12)及びウレタン樹脂(樹脂B13、B14)の溶解性を求めた。
その結果、各実施例及び比較例B1では、非水系溶剤100gに対し各樹脂の溶解度は1g/100g未満であった。
比較例B2では、非水系溶剤100gに対し樹脂B14の溶解度は5g/100g超過であった。樹脂B14は非水系溶剤に混和性を示した。
【0161】
<評価>
上記実施例及び比較例のインクについて、上記製造例Aと同様の方法及び評価基準にしたがって、評価を行った。これらの評価結果を表12及び表13に示す。
【0162】
【表10】
【0163】
【表11】
【0164】
【表12】
【0165】
【表13】
【0166】
各表に示す通り、各実施例のインクでは、ノズルプレートに対する濡れ性及びワイプ耐久性が良好であるとともに、印刷物の画像裏抜けを防いで、高い画像濃度を得ることができた。また、各実施例のインクは、貯蔵安定性が良好で、印刷物の耐擦過性に優れた。
各実施例のインクは、比較例B1のウレタン樹脂B13を用いているインクに比べ、印刷物の画像濃度及び画像裏抜けを改善し、印刷物の耐擦過性に優れた。
比較例B2では、比較モノマーを側鎖としてウレタン樹脂に導入した樹脂B14を用いてインクを作製しており、画像濃度及び画像裏抜け、耐擦過性が不十分であった。
【0167】
実施例B1〜B6では、各種側鎖を有する樹脂B1〜B6を用いて顔料をカプセル化しており、良好な結果であった。
実施例B4〜B6では、ベンジル基とともに各種側鎖を有する樹脂B4〜B6を用いて顔料をカプセル化しており、良好な結果であった。
【0168】
実施例B7及びB8は、ウレタン部分/アクリル部分の質量比率を変更したものであり、良好な結果であった。
実施例B9及びB10は、ウレタン部分の側鎖の種類を変更したものであり、良好な結果であった。
実施例B11は、ジイソシアネートが異なる樹脂B11を用いて、顔料、顔料分散剤、溶剤を変更してインクを作製したものであり、良好な結果であった。
実施例B12は、アクリル樹脂が異なる樹脂B12を用いており、良好な結果であった。