特許第6758251号(P6758251)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6758251
(24)【登録日】2020年9月3日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】収穫機用伝動装置
(51)【国際特許分類】
   A01D 69/10 20060101AFI20200910BHJP
   A01B 69/00 20060101ALI20200910BHJP
   F16D 65/18 20060101ALI20200910BHJP
   F16D 55/40 20060101ALI20200910BHJP
   F16D 121/04 20120101ALN20200910BHJP
   F16D 125/06 20120101ALN20200910BHJP
【FI】
   A01D69/10
   A01B69/00 302
   F16D65/18
   F16D55/40
   F16D121:04
   F16D125:06 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-107625(P2017-107625)
(22)【出願日】2017年5月31日
(65)【公開番号】特開2018-201355(P2018-201355A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2019年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】武藤 聖也
(72)【発明者】
【氏名】法田 誠二
(72)【発明者】
【氏名】森 学
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−207822(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第106561167(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D 69/10
A01B 69/00
F16D 55/48
F16D 65/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の回転を制動するブレーキが備えられ、
前記ブレーキに、
前記回転軸と一体回転する第1ボス部材と、
前記回転軸と相対回転自在で且つ前記回転軸と前記第1ボス部材との間に位置して固定部に固定された第2ボス部材と、
前記第1ボス部材と前記第2ボス部材との間に位置して、前記第1ボス部材と前記第2ボス部材との相対回転を規制する係合状態と、相対回転を許容する係合解除状態とに切り換え自在な多板摩擦式係合機構と、
前記多板摩擦式係合機構を押圧操作する操作機構と、が備えられ、
前記第1ボス部材に、前記回転軸の軸心方向で前記多板摩擦式係合機構の一端側に位置して前記回転軸の外周部に一体回転自在に連結された側壁部と、前記多板摩擦式係合機構の外周側を保持する筒状部と、が備えられ、
前記回転軸の軸心方向で前記多板摩擦式係合機構の他端側における前記第2ボス部材の端部に連結部材が備えられ、前記連結部材が前記固定部に固定され、
前記第2ボス部材の外周に外歯ギア部が備えられ、
前記連結部材の内周に内歯ギア部が備えられ、
前記外歯ギア部と前記内歯ギア部とが噛み合って、前記第2ボス部材と前記連結部材とが一体的に連結されている収穫機用伝動装置。
【請求項2】
前記連結部材が、前記固定部としてのミッションケースに固定されている請求項1記載の収穫機用伝動装置。
【請求項3】
前記連結部材が、周方向の複数箇所で前記ミッションケースに連結して固定されている請求項2記載の収穫機用伝動装置。
【請求項4】
前記ミッションケースに前記回転軸の軸芯方向と直交する平面からなる接当部が形成され、
前記連結部材が、前記接当部に面接触した状態で前記ミッションケースに固定されている請求項2又は3記載の収穫機用伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、コンバインやトウモロコシ収穫機等の収穫機に用いられる収穫機用伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
収穫機には、不整地走行用のクローラ式の走行装置を用いる場合が多く、走行装置の駆動速度を変更することで旋回走行を行うようにしている。このような収穫機では、多板式の摩擦ブレーキ又は多板式の摩擦クラッチなどの多板摩擦式係合機構が用いられる。そして、従来では、多板摩擦式係合機構を用いるブレーキは、次のように構成されていた。
【0003】
回転軸の外周部に一体回転可能に設けられた筒軸と、ミッションケースと一体的に設けられたブレーキハウジングとの間に、多板摩擦式係合機構が備えられ、多板摩擦式係合機構のうちの一方のディスクは筒軸と一体回転自在に設けられ、他方のディスクは、回転が規制される状態でブレーキハウジングに係止する状態で設けられ、多板摩擦式係合機構を押圧操作してディスク同士を圧接することで回転軸を制動する構成となっていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−94958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来構成は、多板摩擦式係合機構のうちの他方のディスクが位置固定状態のブレーキハウジングに係止する構成であるから、ディスク同士を圧接すると、回転軸を制動させる機能を得ることができるが、多板摩擦式係合機構は、常に制動装置として機能することに限定されるものであり、他の用途に流用できないものであった。
【0006】
そこで、多板摩擦式係合機構を制動装置以外の他の用途にも流用できるようにすることが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る収穫機用伝動装置の特徴構成は、
回転軸の回転を制動するブレーキが備えられ、
前記ブレーキに、
前記回転軸と一体回転する第1ボス部材と、
径方向において前記回転軸と前記第1ボス部材との間に配置され、且つ、固定部に固定された状態で前記回転軸と相対回転する第2ボス部材と、
前記第1ボス部材と前記第2ボス部材との間に位置して、前記第1ボス部材と前記第2ボス部材との相対回転を規制する係合状態と、相対回転を許容する係合解除状態とに切り換え自在な多板摩擦式係合機構と、
前記多板摩擦式係合機構を押圧操作する操作機構とが備えられ、
前記第1ボス部材に、前記回転軸の軸心方向で前記多板摩擦式係合機構の一端側に位置して前記回転軸の外周部に一体回転自在に連結された側壁部と、前記多板摩擦式係合機構の外周側を保持する筒状部と、が備えられ、
前記回転軸の軸心方向で前記多板摩擦式係合機構の他端側における前記第2ボス部材の端部に連結部材が備えられ、前記連結部材が前記固定部に固定され、
前記第2ボス部材の外周に外歯ギア部が備えられ、
前記連結部材の内周に内歯ギア部が備えられ、
前記外歯ギア部と前記内歯ギア部とが噛み合って、前記第2ボス部材と前記連結部材とが一体的に連結されている点にある。
【0008】
本発明によれば、多板摩擦式係合機構を操作機構によって押圧操作して係合状態に切り換えると、第1ボス部材と第2ボス部材との相対回転が規制される。第1ボス部材は回転軸と一体回転するものであり、第2ボス部材は固定部に固定されるので、回転軸の回転が制動される。多板摩擦式係合機構を係合解除状態に切り換えると、回転軸は制動が解除され自由回転状態となる。
【0009】
第2ボス部材は、径方向において回転軸と第1ボス部材との間に配置され、且つ、固定部に固定された状態で回転軸と相対回転するものであり、この第2ボス部材の固定部との固定状態を解除して、例えば、他の回転体との間で動力を伝達可能な構成とすることも可能である。このように構成した場合、多板摩擦式係合機構を係合状態に切り換えると、回転軸と他の回転体との間での動力伝達が可能な状態となり、多板摩擦式係合機構を係合解除状態に切り換えると、回転軸と他の回転体との間での動力伝達が遮断された状態となる。すなわち、多板摩擦式係合機構を用いて動力伝達を入り切りする動力断続機構(クラッチ)を構成することが可能となる。
【0010】
従って、多板摩擦式係合機構を制動装置以外の他の用途にも流用することが可能となり、伝動装置の仕様変更の際に主要部品を転用することでコストを抑制できる利点がある。
【0011】
【0012】
また、本構成によれば、第1ボス部材は軸芯方向一端側に位置する側壁部が回転軸に連結され、筒状部が回転軸に対して径方向に離れた箇所に位置する。第2ボス部材は、回転軸と筒状部との間に位置して、連結部材を介して固定部に固定される。多板摩擦式係合機構は、第2ボス部材の外周側と、第1ボス部材の筒状部の内周側との間に設けられる。
【0013】
連結部材は側壁部とは反対側箇所に備えられるので、固定部が筒状部よりも径方向外方側に位置する場合であっても、第1ボス部材に邪魔されることなく、連結部材により第2ボス部材と固定部とを連結することができる。
さらに、本構成によれば、外歯ギア部と内歯ギア部とが噛み合うことにより、第2ボス部材と連結部材とが一体的に連結される。連結部材は固定部に連結されているので、第2ボス部材と固定部とが外歯ギア部と内歯ギア部とが噛み合うギア噛み合い部を介して連結される。
ギア噛み合い部では、ギア同士の間で周方向に沿うガタが生じるので、ガタにより、第2ボス部材と連結部材との間での少しの位置ずれを許容することができる。その結果、各部材同士の位置合わせを高精度で行う必要がなく、それだけ部材の加工精度を下げてコスト低減を図ることが可能となる。
【0014】
本発明においては、前記連結部材が、前記固定部としてのミッションケースに固定されていると好適である。
【0015】
本構成によれば、伝動機構の外周部を覆うとともに、伝動機構に備えられる複数の伝動用回転体等を回転自在に支持するフレーム体として機能するミッションケースを有効に利用して、第2ボス部材を固定することができる。
【0016】
本発明においては、前記連結部材が、周方向の複数箇所で前記ミッションケースに連結して固定されていると好適である。
【0017】
本構成によれば、第2ボス部材は、周方向の複数箇所でミッションケースに連結されるので、強固に固定することができる。回転軸に強い力が作用して回転しようとしても、強固に固定された第2ボス部材により作用する力を受け止めて、回転軸を確実に制動させることができる。
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
本発明においては、
前記ミッションケースに前記回転軸の軸芯方向と直交する平面からなる接当部が形成され、
前記連結部材が、前記接当部に面接触した状態で前記ミッションケースに固定されていると好適である。
【0024】
本構成によれば、連結部材とミッションケースとが面接触した状態で連結されるので、連結部材をミッションケースに対してガタツキが少ない安定した状態で連結することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】コンバインの全体側面図である。
図2】ミッションケースの縦断正面図である。
図3】旋回用ブレーキ配設部の縦断正面図である。
図4】旋回用伝動軸と連結部材との連結状態を示す側面図である。
図5】(比較例を示す)旋回用ブレーキ配設部の縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る収穫機用伝動装置の実施形態を、収穫機の一例としての普通型コンバインに適用した場合について図面に基づいて説明する。
【0027】
〔全体構成〕
図1に、稲や麦などを収穫対象とする普通型コンバインが示されている。このコンバインは、機体フレーム1の下部に左右一対のクローラ式の走行装置2を装備した走行機体を備え、その走行機体の前部に、収穫対象の植立穀稈を刈り取って後方に向けて搬送する刈取搬送部3が横軸芯P周りで揺動昇降自在に連結されている。そして、機体フレーム1上に、刈取搬送部3からの刈取穀稈に対して扱き処理を施すとともに、その扱き処理で得られた脱穀処理物に対して選別処理を施す脱穀装置4、脱穀装置4からの穀粒を貯留する穀粒タンク5、穀粒タンク5に貯留される穀粒を機外に排出するための穀粒排出装置6、操縦者が搭乗して運転操作を行う運転部7等が備えられている。
【0028】
運転部7は機体前部右側に位置し、運転部7の後方に穀粒タンク5が位置している。脱穀装置4が左側に位置し、穀粒タンク5が右側に位置する状態で、脱穀装置4と穀粒タンク5とが左右方向に並ぶ状態で備えられている。そして、運転部7の下方側には、駆動用のエンジン(図示せず)が備えられ、その動力が後述するように各部に伝達される。
【0029】
刈取搬送部3は、機体走行に伴って、植立穀稈を収穫対象の植立穀稈と収穫対象外の植立穀稈とに梳き分ける分草具9、収穫対象の植立穀稈を後方に向けて掻き込む回転リール10、収穫対象の植立穀稈の株元側を切断するバリカン形の刈取装置11、切断後の刈取穀稈を左右方向の中央側の所定箇所に寄せ集め後方に向けて送り出す横送りオーガ12、刈取穀稈を脱穀装置4に向けて搬送するフィーダ13等を備えて構成されている。そして、刈取搬送部3は、油圧シリンダ14により横軸芯P周りで昇降揺動自在に支持されている。
【0030】
脱穀装置4は、詳述はしないが、フィーダ13より搬送されてくる刈取穀稈を扱き処理したのち、扱き処理物を穀粒、二番物、排ワラ屑等に選別するように構成されている。穀粒は穀粒タンク5に貯留され、刈取作業終了後に、穀粒タンク5に貯留される穀粒は、周知構造のスクリューコンベアからなる穀粒排出装置6により機外に排出される。
【0031】
図2に示すように、エンジンの動力が図示しないベルト伝動機構を介して、静油圧式無段変速装置15に伝達され、その無段変速装置15の出力がミッションケース16内の伝動機構を介して左右の走行装置2に伝達される。一方、エンジンの動力は刈取搬送部3にも伝達される。
【0032】
〔伝動構造〕
次に、ミッションケース16内部の伝動機構について説明する。
図2に示すように、ミッションケース16の上部において入力軸17が支持され、入力軸17に伝動ギア18,19がスプライン構造により一体回転自在に外嵌されている。無段変速装置15の出力軸15cがミッションケース16の内部に挿入され、スプライン構造により伝動ギア18(入力軸17)に連結されている。
【0033】
入力軸17の下方側に副変速用伝動軸21が備えられ、副変速用伝動軸21に、高速ギア22と低速ギア23とが相対回転自在に外嵌されている。高速ギア22と低速ギア23との間に、スプライン構造により副変速用伝動軸21に一体回転及びスライド自在にシフト部材24が外嵌されている。そして、高速ギア22と伝動ギア19とが噛み合い、低速ギア23と伝動ギア18とが噛み合っている。これら伝動ギア19及び高速ギア22、伝動ギア18及び低速ギア23、シフト部材24により副変速装置25が構成されている。シフト部材24を高速ギア22に噛み合う高速状態と低速ギア23に噛み合う低速状態とに切り換えることにより、入力軸17の動力が高低2段(低速及び高速)に変速されて、副変速用伝動軸21に伝達される構成となっている。
【0034】
ミッションケース16の下部に直進用伝動軸26が支持され、直進用伝動軸26に伝動ギア27が一体回転自在に外嵌され、この伝動ギア27は副変速用伝動軸21に一体回転自在に外嵌された伝動ギア28と噛み合っている。又、直進用伝動軸26には、左右一対の出力ギア29R,29Lが相対回転自在に外嵌され、且つ、左右一対の噛み合い部30R,30Lがスプライン構造により直進用伝動軸26に一体回転及びスライド自在に外嵌されている。そして、右の出力ギア29Rと右の噛み合い部30Rとの間で右のサイドクラッチ31が構成され、左の出力ギア29Lと左の噛み合い部30Lとの間で左のサイドクラッチ31が構成されている。
【0035】
次に、左右のサイドクラッチ31について説明する。
図2,3に示すように、バネ33により左右の噛み合い部30R,30Lが、左右の出力ギア29R,29Lの噛み合い側に付勢されている。左右の噛み合い部30R,30Lが左右の出力ギア29R,29Lに噛み合いすることにより、左右のサイドクラッチ31が伝動状態となり、直進用伝動軸26の動力が左右の走行装置2に伝達される。
【0036】
左右の出力ギア29R,29Lと左右の噛み合い部30R,30Lとの間に夫々形成された油室内に作動油を供給することで、バネ33の付勢力に抗して、左右の噛み合い部30R,30Lが左右の噛み合い部30R,30Lから離間する側にスライド操作されて、サイドクラッチ31がクラッチ切り状態(遮断状態)となる。作動油を排出すると、バネ33の付勢力によりサイドクラッチ31がクラッチ入り状態(伝動状態)に戻る。
【0037】
図2に示すように、ミッションケース16の下部には、左右の中継伝動軸34が同一軸芯上に左右に並ぶ状態で支持され、左右の中継伝動軸34に一体回転自在に外嵌された左右の伝動ギア35が右の出力ギア29R及び左の出力ギア29Lに噛み合っており、左右の中継伝動軸34に固定された左右の伝動ギア36が、左右の車軸38に一体回転自在に外嵌された伝動ギア39夫々に噛み合っている。左右の車軸38には夫々、走行装置2のスプロケットが連結されている。
【0038】
そして、左右のサイドクラッチ31が共にクラッチ入り状態であれば、入力軸17の動力が、副変速用伝動軸21、伝動ギア27,28、直進用伝動軸26、左右のサイドクラッチ31、左右の出力ギア29R,29L、伝動ギア35、中継伝動軸34、伝動ギア36,39、左右の車軸38を介して、左右の走行装置2に伝達され、機体は直進状態で走行する。
【0039】
次に、車体を旋回走行させるための旋回用の伝動系の構造について説明する。
図3に示すように、ミッションケース16内に旋回用伝動軸44(回転軸の一例)が支持されている。この旋回用伝動軸44には、相対回転自在に第1中継ギア45が外嵌され、この第1中継ギア45は右の噛み合い部30Rの外周のギア部に噛み合っている。旋回用伝動軸44と第1中継ギア45との間に緩旋回クラッチ46が備えられている。
【0040】
緩旋回クラッチ46は多板摩擦式に構成されており、旋回用伝動軸44と一体回転するクラッチハウジング47、第1中継ギア45に一体的に設けられ、旋回用伝動軸44とクラッチハウジング47との間に位置する筒軸48、クラッチハウジング47と筒軸48との間に位置して、クラッチハウジング47と筒軸48との相対回転を規制する係合状態(伝動状態)と相対回転を許容する係合解除状態(遮断状態)とに切り換え自在な多板摩擦式係合機構49、油圧操作力にて多板摩擦式係合機構49を押圧操作する移動操作部材50、移動操作部材50を多板摩擦式係合機構49とは反対方向に移動付勢するバネ51等が備えられている。
【0041】
緩旋回クラッチ46は、作動油が供給されて移動操作部材50が多板摩擦式係合機構49を押圧操作すると、伝動状態すなわち、クラッチ入り状態に操作される。又、作動油が排出されると、移動操作部材50がバネ51により多板摩擦式係合機構49とは反対方向に移動して、遮断状態すなわち、クラッチ切り状態に操作される。
【0042】
直進用伝動軸26に旋回クラッチケース52が相対回転自在に外嵌されて、旋回用伝動軸44に一体回転自在に外嵌された第2中継ギア53と旋回クラッチケース52の外周部の伝動ギア52aとが噛み合っている。旋回クラッチケース52は左右対称に構成されており、旋回クラッチケース52と左右の出力ギア29R,29Lとの間に左右の旋回クラッチ54が備えられている。左右の旋回クラッチ54は多板摩擦式に構成されており、作動油が供給されることで伝動状態に操作される。この左右の旋回クラッチ54は、摩擦板が互いに密になるように配置されており、作動油が排出されても左右の旋回クラッチ54が半伝動状態となるように構成されている。
【0043】
緩旋回クラッチ46が伝動状態に操作されると、直進用伝動軸26の動力が右の噛み合い部30R、第1中継ギア45、緩旋回クラッチ46、旋回用伝動軸44及び第2中継ギア53を介して、直進用伝動軸26と同方向の回転で直進用伝動軸26よりも低速の動力として、旋回クラッチケース52に伝達される。
【0044】
左右のサイドクラッチ31のうちのいずれかを遮断状態に操作し、左右の旋回クラッチ54のうちのサイドクラッチ31が遮断された側のものを伝動状態に操作すると、伝動状態となる旋回クラッチ54を介して直進用伝動軸26と同方向の回転で直進用伝動軸26よりも低速の動力が左右の出力ギア29R,29Lのいずれか一方に伝達され、それに対応する側の走行装置2に低速の動力が伝達される。そのとき、左右の出力ギア29R,29Lの他方のものは、直進用伝動軸26の動力がそのまま伝達される。
【0045】
旋回用伝動軸44には、第2中継ギア53に対して緩旋回クラッチ46とは反対側に旋回用ブレーキ55が備えられている。この旋回用ブレーキ55は、緩旋回クラッチ46と同様な多板摩擦式伝動機構であり、作動油が供給されることで制動状態に操作され、作動油が排出されることで非制動状態(自由回転状態)に操作される。
【0046】
旋回用ブレーキ55について説明する。
図3に示すように、旋回用ブレーキ55は、旋回用伝動軸44と一体回転する第1ボス部材としてのブレーキハウジング56と、旋回用伝動軸44と相対回転自在で且つ旋回用伝動軸44とブレーキハウジング56との間に位置してミッションケース16に固定された第2ボス部材としての筒軸57と、ブレーキハウジング56と筒軸57との間に位置して、ブレーキハウジング56と筒軸57との相対回転を規制する係合状態(制動状態)と、相対回転を許容する係合解除状態(非制動状態)とに切り換え自在な多板摩擦式係合機構58と、多板摩擦式係合機構58を押圧操作する操作機構としての移動操作部材59と、移動操作部材59を多板摩擦式係合機構58とは反対方向に移動付勢するバネ60とが備えられている。
【0047】
ブレーキハウジング56には、軸芯方向一端側に位置して旋回用伝動軸44の外周部に一体回転自在に連結された側壁部61と、側壁部61の径方向外周部に連結された筒状部62とが備えられている。側壁部61の径方向内端部が旋回用伝動軸44の外周部にスプライン構造により噛み合う状態で外嵌されている。
【0048】
多板摩擦式係合機構58は、ブレーキハウジング56の筒状部62の内部に位置して、筒軸57に対して一体回動自在に係合する複数のブレーキディスク63と、ブレーキディスク63同士の間に交互に挟む状態で設けられる複数のセパレートプレート64とが備えられている。ブレーキハウジング56の筒状部62には、周方向に適宜間隔をあけて複数の係合溝65が形成されており、複数のセパレートプレート64には夫々、径方向外方に突出して係合溝65に入り込み係合する複数の係止部66が形成されている。係止部66を係合溝65に入り込ませて回転を阻止する状態で、複数のセパレートプレート64がブレーキハウジング56の内部に収納されている。
【0049】
筒軸57の軸芯方向他端側端部に連結部材67が備えられ、連結部材67がミッションケース16に固定されている。図3,4に示すように、筒軸57の外周に外歯ギア部68が備えられ、連結部材67の内周に内歯ギア部69が備えられ、外歯ギア部68と内歯ギア部69とが噛み合って、筒軸57と連結部材67とが一体的に連結されている。
【0050】
図4に示すように、外歯ギア部68は、筒軸57における筒状部62の側壁部61とは反対側の端部に一体的に形成された円板状部70の外周に周方向全域にわたって設けられている。従って、外歯ギア部68は、通常の伝動ギアと同様に、筒軸57の周方向全域にわたる状態で設けられている。連結部材67は、旋回用伝動軸44の軸芯方向視で円環を半分に割った略半円環状に形成されており、外歯ギア部68の外周に沿って約半周分だけ重なり合う状態で設けられている。連結部材67は、内周側に外歯ギア部68と噛み合う内歯ギア部69が形成され、外周側は軸芯方向視で半円弧状の外周部71が形成されている。
【0051】
図3に示すように、ミッションケース16における連結部材67が対向する箇所には、旋回用伝動軸44の軸芯方向と直交する平面からなる接当部72が形成され、連結部材67が、接当部72に面接触した状態でミッションケース16にボルト連結により固定されている。
【0052】
図3,4に示すように、連結部材67は、周方向両側部がボルトBoによってミッションケース16に連結され、周方向の途中部の2箇所において、連結部材67とミッションケース16とに亘って固定ピン73が差し込み装着されて固定されている。外歯ギア部68を有する筒軸57における円板状部70の基端部とベアリング74との間にはカラー部材75が設けられ、軸芯の移動が規制されている。
【0053】
図3に示すように、移動操作部材59は、ブレーキハウジング56の内部において、多板摩擦式係合機構58と側壁部61との間に備えられている。すなわち、多板摩擦式係合機構58と側壁部61との間における旋回用伝動軸44の外周部に相対回転自在で且つ回転軸芯方向に移動自在に移動操作部材59が備えられている。移動操作部材59は、筒軸57の内周部に備えられたバネ60によって、多板摩擦式係合機構58とは反対方向に移動付勢されている。
【0054】
ブレーキハウジング56の側壁部61には、内周側に位置して旋回用伝動軸44の外周部に一体回転自在にスプライン外嵌される基端部61aと、外周側に位置して多板摩擦式係合機構58の一端側を受止める受止め作用部61bと、基端部61aと受止め作用部61bとの間に位置する断面が略階段状に形成された収納部61cとが備えられている。収納部61cは、移動操作部材59の小径軸部76を内嵌支持する小径筒部77と、移動操作部材59の大径軸部78を内嵌支持する大径筒部79とを備えている。
【0055】
そして、移動操作部材59の大径軸部78と小径軸部76との間の段差部と、収納部61cの縦面部との間に油室81が形成されている。この油室81に作動油を供給する供給路82が形成されている。作動油は旋回用伝動軸44の内部を貫通する油路(図示せず)を通して供給される。油室81に作動油が供給されると、移動操作部材59は多板摩擦式係合機構58側に向けて押圧操作力を受ける。そのとき、移動操作部材59に対して作動油が作用する受圧面83は、緩旋回クラッチ46に備えられる移動操作部材50に比べて面積が小さくなっている。
【0056】
旋回用ブレーキ55は、緩旋回クラッチ46に比べて大きな操作力が必要であり、多板摩擦式係合機構58における摩擦用ディスクの枚数が多くなっている。そこで、移動操作部材59を緩旋回クラッチ46の場合と同じ構成にすると、作動油が作用する受圧面積が大きく、作動油の供給量の変更に対する多板摩擦式係合機構58に対する押圧操作力の変化割合が大きくなり過ぎて、滑らかな制動操作が行えないおそれがある。又、移動操作部材59による外形寸法を小さくすると、多板摩擦式係合機構58に対する押圧操作が良好に行えない不利がある。
【0057】
緩旋回クラッチ46の移動操作部材50は、旋回用伝動軸44の外周面から多板摩擦式係合機構49側に向けて押圧操作する押圧部の外端部にわたる幅広に形成されている。それに対して、旋回用ブレーキ55の移動操作部材59は、移動操作部材59に小径軸部76を備えて、大径軸部78と小径軸部76との段差部に油室81を形成することで、圧油の受圧面積が小さくなり、しかも、外形寸法は変化しないので、上述したような不利がなく、滑らかな操作によって制動操作を良好に行うことができる。
【0058】
油室81に作動油が供給されると、移動操作部材59が多板摩擦式係合機構58を押圧操作して、係合状態(制動状態)に切り換わる。制動状態では、旋回用伝動軸44及び第2中継ギア53を介して、旋回クラッチケース52が制動状態となる。左右のサイドクラッチ31のうちのいずれかを遮断状態に操作し、左右の旋回クラッチ54のうちのサイドクラッチ31が遮断された側のものを伝動状態に操作すると、左右の出力ギア29R,29Lのうち、サイドクラッチ31が遮断されていない側のものが制動状態となり、反対側のものは直進用伝動軸26の動力がそのまま伝達される。
【0059】
図示はしていないが、緩旋回クラッチ46、旋回用ブレーキ55、左右のサイドクラッチ31、左右の旋回クラッチ54の夫々に対する作動油の供給状態を調整する複数の制御弁と、それらの複数の制御弁の作動を制御する制御装置とが備えられる。又、旋回モードとして、緩旋回モードとブレーキ旋回モードのいずれかに切り換え指令する旋回モードスイッチ(図示せず)が運転部7に備えられる。
【0060】
〔旋回操作構造〕
車体の旋回操作は、運転部7に備えられている旋回レバー85(図1参照)の操作により行われる。旋回レバー85を中立位置から左方向に倒すと左方向への旋回が行われ、旋回レバー85を中立位置から右方向に倒すと右方向への旋回が行われる。
【0061】
旋回モードスイッチにて緩旋回モードが指令されているときの旋回操作について説明する。旋回レバー85が直進指令位置から、例えば右方向に操作されて不感帯を外れると、制御装置が対応する制御弁を切り換え操作して、右のサイドクラッチ31(右の噛み合い部30R)が遮断状態に操作され、右の旋回クラッチ54に作動油が供給されて伝動状態に操作される。この場合、左の旋回クラッチ54が半伝動状態であるので、左のサイドクラッチ31の動力が、左の出力ギア29L及び左の旋回クラッチ54から右の旋回クラッチ54を介して右の出力ギア29Rに伝達され、直進用伝動軸26と同方向の回転で直進用伝動軸26より少し低速の動力が右の出力ギア29Rに伝達される。これにより、機体は緩やかに右に向きを変える。
【0062】
旋回レバー85の右側への移動操作量が大きくなると、緩旋回クラッチ46の操作圧が昇圧するように制御弁が制御される。その結果、緩旋回クラッチ46からの動力が左のサイドクラッチ31(左の噛み合い部30L)からの動力に打ち勝って、緩旋回クラッチ46からの動力により右の出力ギア29Rが駆動される。この状態において、左のサイドクラッチ31(左の噛み合い部30L)を介して直進用伝動軸26の動力により駆動される左の出力ギア29Lよりも、緩旋回クラッチ46からの動力により右の出力ギア29Rが低速で駆動されることになり、機体は右に旋回する。このとき、旋回内側の走行装置2が機体進行方向に旋回外側の走行装置2よりも低速度で回動する。旋回レバー85が最大操作位置にまで操作されたときに、左右一対の走行装置2のうち旋回内側の走行装置2の出力回転速度が反対側の走行装置2の出力回転速度の約1/3の速度にまで減速される。
【0063】
次に、旋回モードスイッチにて、ブレーキ旋回モードが指令されているときの旋回操作について説明する。旋回レバー85が直進指令位置Nから、例えば右方向に操作されて不感帯を外れると、右のサイドクラッチ31(右の噛み合い部30R)が遮断状態に操作され、右の旋回クラッチ54に作動油が伝動状態に操作されて、左の旋回クラッチ54が半伝動状態であるので機体は緩やかに右に向きを変える。この状態は、緩旋回モードのときと同じである。そして、旋回レバー85の右側への移動操作量が大きくなると、旋回用ブレーキ55の操作圧が昇圧するように制御弁が制御される。その結果、制動力が左のサイドクラッチ31(左の咬合部33L)からの動力に打ち勝って右の出力ギア29Rが制動状態となり、機体は右に旋回する。旋回レバー85の右側への移動操作量が大きくなるに伴って緩旋回クラッチ46の操作圧が昇圧して制動力が大きくなるように制御弁が制御される。旋回レバー85が最大操作位置にまで操作されたときに、左右一対の走行装置2のうち旋回内側の走行装置2は略走行停止状態になる。従って、緩旋回モードに比べて急旋回させることができる。
旋回方向が左方向であれば、左右が反転した状態で上述の動作と同様な旋回操作が行われる。
【0064】
比較例
上記実施形態では、筒軸の外周に外歯ギア部68が備えられ、連結部材67の内周に内歯ギア部69が備えられ、外歯ギア部68と内歯ギア部69とが噛み合って、筒軸と連結部材67とが一体的に連結される構成としたものを示した。この構成によれば、次のように構成されたものに比べて、ギア同士の間で周方向に沿うガタが生じるので、ガタにより、第2ボス部材と連結部材との間での少しの位置ずれを許容することができる。その結果、各部材同士の位置合わせを高精度で行う必要がなく、それだけ部材の加工精度を下げてコスト低減を図ることが可能となる。
【0065】
図5に示すように、連結部材67が、筒軸57の外周に連結され且つ径方向外方に延びる鍔状に形成されるものでもよい。連結部材67は、軸芯方向視で略扇形状に形成された板状部材にて構成され、筒軸57に溶接にて一体的に連結され、外周側の周方向に離れた複数箇所においてミッションケース16にボルトBoで連結されている。
【0066】
【0067】
〔別実施形態〕
)上記実施形態では、連結部材67がミッションケース16にボルトで連結固定される構成としたが、この構成に代えて、連結部材67が、ミッションケース16に形成された係合部に入り込み係合して回転が規制される状態で固定されるものでもよい。又、連結部材67が、ミッションケース16以外の部材に固定されるものでもよい。
【0068】
)上記実施形態では、収穫機として普通型コンバインに適用したが、自脱型コンバインでもよく、コンバイン以外にもトウモロコシ収穫機等の種々の収穫機に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、コンバインやトウモロコシ収穫機等の収穫機に用いられる収穫機用伝動装置に適用できる。
【符号の説明】
【0070】
16 ミッションケース(固定部)
44 回転軸
55 ブラケット
56 第1ボス部材
57 第2ボス部材
58 多板摩擦式係合機構
59 操作機構
61 側壁部
62 筒状部
67 連結部材
68 外歯ギア部
69 内歯ギア部
72 接当部
図1
図2
図3
図4
図5