特許第6758276号(P6758276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6758276キャスティングドラム装置およびこのキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6758276
(24)【登録日】2020年9月3日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】キャスティングドラム装置およびこのキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/88 20190101AFI20200910BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20200910BHJP
   B29C 41/26 20060101ALI20200910BHJP
【FI】
   B29C48/88
   B29C48/08
   B29C41/26
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-240566(P2017-240566)
(22)【出願日】2017年12月15日
(65)【公開番号】特開2019-107787(P2019-107787A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2019年5月20日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000176763
【氏名又は名称】三菱ケミカルエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 均
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【弁理士】
【氏名又は名称】林 司
(72)【発明者】
【氏名】小川 剛
(72)【発明者】
【氏名】平地 務
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 定昭
【審査官】 正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/080925(WO,A1)
【文献】 特開昭58−065628(JP,A)
【文献】 特開2010−017943(JP,A)
【文献】 米国特許第02273423(US,A)
【文献】 国際公開第2012/069186(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0232654(US,A1)
【文献】 国際公開第99/02328(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 35/00−35/18
B29C 41/00−41/52
B29C 48/00−48/96
B29D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂フィルム・シート形に用いられるキャスティングドラム装置であって、
固定軸と、
前記固定軸の表面に配置された加熱手段および/または冷却手段と、
前記加熱手段および/または冷却手段を覆うように、前記固定軸に対して回転可能に設けられた中空円筒形の回転環とを備え、
前記加熱手段および/または冷却手段により、前記回転環を加熱および/または冷却し、
前記加熱手段および/または冷却手段が、前記合成樹脂フィルム・シートの材料樹脂、前記合成樹脂フィルム・シートに求められる物性・特性に応じて、前記固定軸の表面に配置され、
前記加熱手段が誘導コイルであり、この誘導コイルに交流電流を流して強度の変化する磁力線を発生させることにより、前記回転環を加熱することを特徴とする、キャスティングドラム装置。
【請求項2】
前記加熱手段および/または冷却手段が、回転環の中心軸と直交する断面において、前記加熱手段および/または冷却手段の前記回転環側の表面が、前記回転環の内側表面と略平行となるように配置されることを特徴とする、請求項1に記載のキャスティングドラム装置。
【請求項3】
前記加熱手段および/または冷却手段が、前記回転環の中心軸と略平行となるように、前記固定軸の表面に配置されることを特徴とする、請求項1または2に記載のキャスティングドラム装置。
【請求項4】
前記加熱手段および/または冷却手段が、複数の帯状の加熱手段および/または冷却手段であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
【請求項5】
前記冷却手段が、経路に冷却媒体を供給する冷却手段および/または前記回転環の内側表面に冷却媒体を吹き付ける冷却手段であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
【請求項6】
前記回転環が、ステンレス製の中空円筒であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
【請求項7】
前記回転環が、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の内層、ステンレス製の外層から形成された積層中空円筒、または炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の中空円筒であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
【請求項8】
前記回転環の周囲に、前記回転環の表面に向けて冷却媒体を吹き付ける冷却装置を備えることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
【請求項9】
前記請求項1〜8のいずれかに記載のキャスティングドラム装置を用いることにより、合成樹脂を溶媒に溶解させた溶液または溶融させた合成樹脂から、合成樹脂フィルム・シートを成形することを特徴とする、合成樹脂シート・フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂フィルム・シート成形する際に用いられるキャスティングドラム装置およびこのキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂フィルム・シートは、溶融押出成型法、溶液流延法等により製造される。
溶融押出成型法は、最も一般的な合成樹脂フィルム・シートの製造方法であり、押出機内で加熱して溶融させた熱可塑性樹脂を押出金型の吐出口から押し出し、ドラム上で冷却することにより、合成樹脂フィルム・シートが製造される。
【0003】
溶液流延法は、溶融させると分解しやすい樹脂または融点が高い樹脂を用いて合成樹脂フィルム・シートを製造する場合によく用いられる製造方法であり、合成樹脂を溶媒に溶解させた溶液を、表面を平滑にしたドラムまたは平滑ベルト上に供給した後、溶液を加熱・乾燥させることにより、合成樹脂フィルム・シートが製造される。溶液流延法で製造された合成樹脂フィルム・シートは、高分子の配向が生じていないため強度や光学特性に方向性がない、厚み精度が高い、平滑性、透明性および光沢性に優れる等の優れた物性・特性を有することから、光学用途に多く用いられる。
【0004】
特許文献1には、図4に示すように、外筒21、内筒22、外筒21と内筒22間の空隙23を仕切るらせん溝隔壁24、一方の軸25、他方の軸26、および液状熱媒分岐管27が一体に形成されたキャスティングドラム20が開示されている。このキャスティングドラム20は一方の軸25および他方の軸26で支持されて回転すると共に、冷却水が、一方の軸25の内部→液状熱媒分岐管27→外筒21と内筒22間の空隙23→液状熱媒分岐管27→他方の軸26の内部という経路を通じて供給され、キャスティングドラム20の表面が冷却される。
【0005】
特許文献2には、ポリカーボネート樹脂溶液を金属ベルト上で固形化する際の加熱方法として、赤外線加熱、加熱ガス接触、電磁誘導加熱、ガスヒーター加熱等任意の加熱方法を用いることが開示されている。
【0006】
特許文献3には、ポリビニルアルコール系樹脂を含有する原液を、ダイを通過させ加熱したドラム型ロール上に流延して製膜するにあたり、ドラム型ロールの表面温度を3℃/hr以下の条件で70〜100℃の範囲まで昇温させた後に流延を開始することが開示されている。このドラム型ロールの加熱手段としてはスチーム、加熱媒体、温水、電気ヒーター等が挙げられており、また、温度ムラをコントロールするために、ヒータや誘導加熱コイル等を熱源として使用する時は、熱源の間隔を狭くすることが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第99/02328号
【特許文献2】特開2005−200589号公報
【特許文献3】特開2005−238833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の合成樹脂フィルム・シートを溶融押出成型法、溶液流延法等により製造する際に用いられるキャスティングドラムとしては、一般に、上記特許文献1に開示されているように、軸部、スポーク、胴部等の構成部材が一体に形成されたものが用いられている。このキャスティングドラムは、軸部で支持されて回転すると共に、加熱媒体・冷却媒体が供給されて胴部表面が加熱・冷却される。
【0009】
しかしながら、近年、合成樹脂フィルム・シートの量産化、幅広化、薄膜化等の要望・需要に応じるために、キャスティングドラムは大型化されているが(例えば、直径が4m、幅が6m)、大型化し重量が増加したキャスティングドラムを回転駆動するためには多大なエネルギーを要し、さらに、大型化し重量が増加したキャスティングドラムを軸部で支持し回転させることから、キャスティングドラムの自重による撓みが大きくなり、合成樹脂フィルム・シートの膜厚を均一に保つのが難しくなっている。また、キャスティングドラムに代えて、特許文献2に開示されるような金属ベルトを採用することも可能ではあるが、金属ベルトを採用した場合には設備コストが高くなる等の問題が生じる。
【0010】
さらに、近年、高度な物性・特性を有する合成樹脂フィルム・シートが求められるようになったことに伴い、特許文献3に開示されるような、キャスティングドラムの全周の表面温度を均一に加熱・冷却するのではなく、キャスティングドラム表面が、合成樹脂を溶媒に溶解させた溶液または溶融させた合成樹脂(以下、「液状合成樹脂」ともいう。)と接触する位置に応じて、キャスティングドラム表面の加熱温度を設定・制御する必要性が生じてきた。
【0011】
本発明者等は、上記の問題を解決することを鋭意検討し、本発明を成したものである。
すなわち、本発明の課題は、キャスティングドラムを大型化した場合でも、経済的・効率的に回転駆動することができ、合成樹脂フィルム・シートの膜厚を均一に保つことができると共に、合成樹脂フィルム・シートの材料樹脂、合成樹脂フィルム・シートに求められる物性・特性に応じて、キャスティングドラム表面温度を自由自在に設定・制御することができる、キャスティングドラム装置およびこのキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のキャスティングドラム装置は、固定軸と、固定軸の表面に配置された加熱手段および/または冷却手段と、該加熱手段および/または冷却手段を覆うように、固定軸に対して回転可能に設けられた中空円筒形の回転環とを備え、固定軸の表面に配置された加熱手段および/または冷却手段により、回転環を加熱および/または冷却することにより、前記の課題を解決するものである。
【0013】
また、本発明のキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法は、上記のようなキャスティングドラム装置を用いて、合成樹脂フィルム・シートを製造することにより、前記の課題を解決するものである。
【0014】
本発明の要旨を以下に示す。
(1)合成樹脂フィルム・シート形に用いられるキャスティングドラム装置であって、
固定軸と、
前記固定軸の表面に配置された加熱手段および/または冷却手段と、
前記加熱手段および/または冷却手段を覆うように、前記固定軸に対して回転可能に設けられた中空円筒形の回転環とを備え、
前記加熱手段および/または冷却手段により、前記回転環を加熱および/または冷却し、
前記加熱手段および/または冷却手段が、前記合成樹脂フィルム・シートの材料樹脂、前記合成樹脂フィルム・シートに求められる物性・特性に応じて、前記固定軸の表面に配置され、
前記加熱手段が誘導コイルであり、この誘導コイルに交流電流を流して強度の変化する磁力線を発生させることにより、前記回転環を加熱することを特徴とする、キャスティングドラム装置。
(2)前記加熱手段および/または冷却手段が、回転環の中心軸と直交する断面において、前記加熱手段および/または冷却手段の前記回転環側の表面が、前記回転環の内側表面と略平行となるように配置されることを特徴とする、(1)に記載のキャスティングドラム装置。
(3)前記加熱手段および/または冷却手段が、前記回転環の中心軸と略平行となるように、前記固定軸の表面に配置されることを特徴とする、(1)または(2)に記載のキャスティングドラム装置。
(4)前記加熱手段および/または冷却手段が、複数の帯状の加熱手段および/または冷却手段であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
(5)前記冷却手段が、経路に冷却媒体を供給する冷却手段および/または前記回転環の内側表面に冷却媒体を吹き付ける冷却手段であることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
(6)前記回転環が、ステンレス製の中空円筒であることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
(7)前記回転環が、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の内層、ステンレス製の外層から形成された積層中空円筒、または炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の中空円筒であることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
(8)前記回転環の周囲に、前記回転環の表面に向けて冷却媒体を吹き付ける冷却装置を備えることを特徴とする、(1)〜(7)のいずれかに記載のキャスティングドラム装置。
(9)前記(1)〜(8)のいずれかに記載のキャスティングドラム装置を用いることにより、合成樹脂を溶媒に溶解させた溶液または溶融させた合成樹脂から、合成樹脂フィルム・シートを成形することを特徴とする、合成樹脂シート・フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のキャスティングドラム装置は、表面に加熱手段および/または冷却手段が配置された固定軸と、該固定軸に対して回転可能に設けられた中空円筒形の回転環とを備えるように構成したことにより、回転部分を軽量化することができ、キャスティングドラムを大型化した場合でも経済的・効率的に回転駆動することができる。さらに、回転部分の支持間隔を短くすることができ、また、断面剛性を高めることができるため、キャスティングドラムの自重による撓みを小さく抑えることができ、合成樹脂フィルム・シートの膜厚を均一に保つことができる。
【0016】
さらに、a)加熱手段および/または冷却手段が配置される固定軸の形状および/またはb)固定軸の表面における加熱手段および/または冷却手段の配置を調整することにより、回転環の回転方向(合成樹脂フィルム・シートの長手方向)および回転環の中心軸と平行方向(合成樹脂フィルム・シートの幅方向)における回転環の表面温度を、自由自在に設定・制御することが可能となり、合成樹脂フィルム・シートの材料樹脂、合成樹脂フィルム・シートに求められる物性・特性に応じて、回転環の表面温度を自由自在に設定・制御することができる。
【0017】
また、本発明のキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法は、上記のようなキャスティングドラム装置を用いて、合成樹脂フィルム・シートを製造することにより、キャスティングドラムを大型化した場合でも、経済的・効率的に合成樹脂フィルム・シートを製造することができる。さらに、膜厚の均一な合成樹脂フィルム・シートを容易に製造することができ、求められる物性・特性を有する合成樹脂フィルム・シートを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のキャスティングドラム装置の実施形態を示す、回転環の中心軸を含む断面の模式図である。
図2図1のA−A断面を示す模式図である。
図3図2の部分拡大図である。
図4】従来例である、特許文献1のFig.10である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のキャスティングドラム装置およびこのキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法について、図面も用いながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
まず、本発明のキャスティングドラム装置およびこのキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法の一般的な事項について説明する。
【0021】
<キャスティングドラムを用いた合成樹脂フィルム・シートの製造一般>
合成樹脂フィルム・シートは、溶融押出成型法、溶液流延法等により製造される。
溶融押出成型法は、最も一般的な合成樹脂フィルム・シートの製造方法であり、押出機内で加熱し溶融させた熱可塑性樹脂を押出金型の吐出口から押し出し、ドラム上で冷却することにより、合成樹脂フィルム・シートが製造される。
【0022】
溶液流延法は、溶融させると分解しやすい樹脂または融点が高い樹脂を用いて合成樹脂フィルム・シートを製造する場合によく用いられる製造方法であり、合成樹脂を溶媒に溶解させた溶液を、表面を平滑にしたドラムまたは平滑ベルト上に供給した後、加熱・乾燥させることにより、合成樹脂フィルム・シートが製造される。溶液流延法で製造された合成樹脂フィルム・シートは、高分子の配向が生じていないため強度や光学特性に方向性がない、厚み精度が高い、平滑性、透明性および光沢性に優れる等の優れた物性・特性を有するため、光学用途に多く用いられる。
【0023】
キャスティングドラムとしては、図4に示すような、外筒21、内筒22、外筒21と内筒22間の空隙23を仕切るらせん溝隔壁24、一方の軸25、他方の軸26、および液状熱媒分岐管27が一体に形成されたキャスティングドラム20が用いられ、このキャスティングドラム20は一方の軸25および他方の軸26で支持されて回転すると共に、冷却水が、一方の軸25の内部→液状熱媒分岐管27→外筒21と内筒22間の空隙23→液状熱媒分岐管27→他方の軸26の内部という経路を通じて供給され、キャスティングドラム20の表面が冷却される。
【0024】
溶融押出成型法では、液状合成樹脂を冷却するために、キャスティングドラム内に水等の冷却媒体が供給される(特許文献1)。また、溶液流延法では、液状合成樹脂から溶媒を除くために、キャスティングドラム内にスチーム、温水等の加熱媒体が供給されたり、電気ヒーター、誘導加熱コイル等の熱源が用いられる(特許文献2および3)。
【0025】
<本発明の主要な特徴>
本発明のキャスティングドラム装置の実施形態を図1〜3に示す。図1は回転環4の中心軸9を含む断面の模式図であり、図2図1のA−A断面を示す模式図であり、図3図2の部分拡大図である。
【0026】
本発明のキャスティングドラム装置の主要な特徴は、
1)表面に加熱手段および/または冷却手段3が配置された固定軸2と、該固定軸2に対して回転可能に取り付けられた中空円筒形の回転環4とを備えるように構成されていること、および
2)固定軸2の表面に配置された加熱手段および/または冷却手段3により、回転環4を加熱および/または冷却するように構成されていること
にある。
【0027】
上記1)の構成により、本発明のキャスティングドラム装置1は、キャスティングドラムを大型化した場合でも、経済的・効率的に回転駆動することができる。さらに、本発明のキャスティングドラム装置1では、従来のように、キャスティングドラム全体を軸部で支持して回転させるのではなく、回転環4だけを支持して回転させればよいことから、キャスティングドラムを大型化した場合でも、回転部分を軽量化することができ、また、回転部分の支持間隔を短くすることができるため、キャスティングドラムの自重による撓みを小さく抑えることができ、合成樹脂フィルム・シート5の膜厚を容易に均一に保つことができる。
【0028】
上記2)の構成により、本発明のキャスティングドラム装置1は、合成樹脂フィルム・シート5の材料樹脂、合成樹脂フィルム・シート5に求められる物性・特性に応じて、
a)加熱手段および/または冷却手段3が配置される固定軸2の形状および/またはb)固定軸2の表面における加熱手段および/または冷却手段3の配置を調整することにより、回転環4の表面温度を自由自在に設定・制御することができる。すなわち、加熱手段および/または冷却手段3の配置を調整することにより、回転環4の回転方向(合成樹脂フィルム・シート5の長手方向)および回転環4の中心軸9と平行方向(合成樹脂フィルム・シート5の幅方向)における回転環4の表面温度を、自由自在に設定・制御することができる。
【0029】
<加熱手段および/または冷却手段の固定軸の表面への配置>
本件発明の基本的な技術思想は、回転環4の表面温度を、回転環4から分離して配置した加熱手段および/または冷却手段3によって、設定・制御することにあり、固定軸2は、これらの加熱手段および/または冷却手段3を、所定位置に配置するための好適な手段として用いる。
【0030】
回転環4の表面温度を適切に設定・制御するためには、回転環4の中心軸9と直交する断面において、加熱手段および/または冷却手段3の回転環4側の表面3Aを、回転環4の内側表面4Aと略平行となるように、加熱手段および/または冷却手段3を固定軸2の表面に配置することが好ましい。別の表現で言えば、回転環4の中心軸9と直交する断面において、加熱手段および/または冷却手段3の回転環4側の表面3Aが、回転環4の中心軸9を中心とする円弧上に大凡来るように、加熱手段および/または冷却手段3を固定軸2の表面に配置することが好ましい。
【0031】
<固定軸の形状>
固定軸2の形状(表面形状、断面形状等)としては、回転環4の表面温度を適切に設定・制御できる位置に、加熱手段および/または冷却手段3を配置可能な適宜の形状を採用できる。
【0032】
加熱手段および/または冷却手段3を、回転環4の中心軸9と平行方向に配置する際には、加熱手段および/または冷却手段3の回転環4の回転方向の幅が狭い場合は、固定軸2の断面形状を円形としても配置にそれほど支障を生じないが、この幅が広い場合は、配置が支障なく行えるように、固定軸2の断面形状を適当な多角形とすることが好ましい。
【0033】
また、回転環4の肉厚が一定である場合には、回転環4と加熱手段および/または冷却手段3との距離に応じて回転環4の表面温度が調整できることから、固定軸2の断面形状を楕円形のような形状として、回転環4の表面温度の分布を設定・制御することもできる。
【0034】
また、通常、合成樹脂フィルム・シート5の幅方向の物性・特性として均一なものが求められることが多いが、このような場合には、加熱手段および/または冷却手段3を回転環4の中心軸9と略平行となるように、固定軸2の表面に配置することが好ましい。
【0035】
<加熱手段および/または冷却手段>
加熱手段および/または冷却手段3としては、特許文献1〜3にも記載されているような、キャスティングドラムで一般に用いられている加熱手段、冷却手段を採用することができる。具体的には、加熱手段としては、電磁誘導を用いる加熱手段、赤外線ヒーターを用いる加熱手段、加熱媒体を用いる加熱手段、ガスヒーターを用いる加熱手段等が挙げられ、また、冷却手段としては、経路に冷却媒体を供給したり、冷却媒体を吹き付けたりする冷却手段等が挙げられる。
【0036】
回転環4の表面温度をきめ細かく設定・制御するためには、複数の加熱手段および/または冷却手段3を配置することが好ましく、また、回転環4の表面温度を効果的・効率的に設定・制御するためには、複数の帯状の加熱手段および/または冷却手段3を配置することが好ましい。
【0037】
<回転環の表面温度の設定・制御>
回転環4の表面温度を設定・制御するために、次のような方法を用いることができる。
1)固定軸2の表面における、加熱手段および/または冷却手段3の配置を調整する方法、
2)固定軸2の形状(表面形状、断面形状等)の設定により、回転環4と加熱手段および/または冷却手段3との距離を調整する方法、
3)加熱手段および/または冷却手段3に供給される電気の電力・周波数、加熱媒体・冷却媒体の温度等を調整する方法、
4)上記1)〜3)の方法を併用する方法
上記の方法により、回転環4の表面温度を回転環4の回転方向(合成樹脂フィルム・シート5の長手方向)および回転環4の中心軸9と平行方向(合成樹脂フィルム・シート5の幅方向)に自由自在に設定・制御することができる。
【0038】
設定・制御のしやすさ、経済性等の観点からは、
a)回転環4の中心軸9と直交する断面形状が、均一な円形または多角形である固定軸2を用い、
b)複数の帯状の加熱手段および/または冷却手段3を、回転環4の中心軸9と略平行となるように、固定軸2の表面に配置して、
上記1)の方法により、回転環4の表面温度の設定・制御を行うことが好ましい。
【0039】
<加熱手段>
加熱手段および/または冷却手段3における加熱手段としては、離間する回転環4を加熱できる公知の誘導加熱手段を用いることができるが、応答性が良好であり、回転環4の表面温度をきめ細かく設定・制御できることから、誘導コイルを用いる誘導加熱手段、赤外線ヒーターを用いる加熱手段等を採用することが好ましい。
【0040】
誘導コイルを用いる誘導加熱手段(IH)は、誘導コイルに交流電流を流して強度の変化する磁力線を発生させることにより、回転環4を加熱するものであり、近年、調理器具等に利用されているものである。また、赤外線ヒーターを用いる加熱手段(IR)は、赤外線ヒーターに電流を流して赤外線を発生させることにより、回転環4を加熱するものであり、暖房機器等に利用されているものである。
【0041】
<冷却手段>
加熱手段および/または冷却手段3における冷却手段としては、固定軸2の表面に管路等の経路を設け、この経路に冷却媒体を供給する冷却手段および/または固定軸2の表面にノズル等の吹き出し口を設け、この吹き出し口から回転環4の内側表面4Aに冷却媒体を吹き付ける冷却手段等を用いることができるが、応答性、冷却効率等の観点からは、回転環4の内側表面4Aに冷却媒体を吹き付ける冷却手段を用いることが好ましい。
【0042】
<固定軸および回転環の構造>
固定軸2および回転環4の材質としては、特に限定されないが、物性・特性、価格等の観点から、好適にはステンレスを用いることができる。
【0043】
固定軸2は、必要とされる強度が確保できる範囲において中空とすることで軽量化を図ることができる。
【0044】
回転環4は、物性・特性、価格、軽量化等の観点から、一般的にはステンレス製の中空円筒とするのが好ましい。回転駆動される回転環4をより軽量化するには、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の内層、ステンレス製の外層から形成された積層中空円筒とするのが好ましく、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の中空円筒とするのがより好ましい。
【0045】
回転環4の表面には、傷つき防止のために金属メッキを施すことが好ましい。金属メッキの種類としては、例えばクロムメッキ、ニッケルメッキ、亜鉛メッキなどが好適に用いられ、単独でまたは2種以上の多層の組み合わせで使用することができるが、特に表面平滑化の容易さやその耐久性の点から最表面がクロムメッキされ、表面粗さが3S以下、特に0.5S以下であることが好ましい。
【0046】
回転環4を固定軸2に対して回転可能に取り付ける方法としては、公知の一般的な方法を採用することができるが、図1に示すようにボールベアリング6等の各種ベアリング類を介して取り付けることができる。
【0047】
回転環4を回転駆動する方法としては、公知の一般的な方法を採用することができる。例えば、回転環4の端部に各種ギア類を設け、電動モーターにより回転駆動することができる。特に、本発明のキャスティングドラム装置では、固定軸2に回転環4を回転可能に取り付けることにより回転部分を軽量化できることから、回転環4を斑なく回転できるノンバッククラッシュギアを用いることができる。さらに、回転部分の軽量化によりスリップを低減できることから、ベルトにより回転環4を駆動することも可能である。
【0048】
<冷却装置>
本発明のキャスティングドラム装置は、回転環4の周囲に、回転環4の表面に向けてエアー、ミスト等の冷却媒体を供給する冷却装置8を備えることが好ましい。冷却装置8を用いる補助的な冷却により、液状合成樹脂7および/または合成樹脂フィルム・シート5の温度をより適切に設定・制御することができる。
【0049】
本発明のキャスティングドラム装置では、回転環4の表面に配置された冷却手段および/または回転環4の周囲に備えられた冷却装置8によって、特に、回転環4から剥離する際の合成樹脂フィルム・シート5の温度を適切に設定・制御することができ、合成樹脂フィルム・シート5の剥離性を向上することができる。
【0050】
<合成樹脂フィルム・シートの製造方法>
本発明のキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法は、上記のようなキャスティングドラム装置を用いて、合成樹脂フィルム・シート5を製造することにより、キャスティングドラムを大型化した場合でも、経済的・効率的に回転駆動することができ、また、回転部分の支持間隔を短くすることができるため、キャスティングドラムの自重による撓みを小さく抑えることができ、膜厚の均一な合成樹脂フィルム・シート5を容易に製造することができる。さらに、a)加熱手段および/または冷却手段3が配置される固定軸2の形状および/またはb)固定軸2の表面における加熱手段および/または冷却手段3の配置を調整することにより、回転環4の回転方向(合成樹脂フィルム・シート5の長手方向)および回転環4の中心軸9と平行方向(合成樹脂フィルム・シート5の幅方向)における回転環4の表面温度を、自由自在に設定・制御することが可能となり、合成樹脂フィルム・シート5の材料樹脂、合成樹脂フィルム・シート5に求められる物性・特性に応じて、キャスティングドラム表面温度を自由自在に設定・制御することができる。
【0051】
<まとめ>
以上に説明したように、本発明のキャスティングドラム装置は、固定軸と、固定軸に回転可能に取り付けられた中空円筒形の回転環とを備えるように構成したことにより、回転部分を軽量化することができ、キャスティングドラムを大型化した場合でも、経済的・効率的に回転駆動することができる。さらに、回転部分を軽量化することができ、また、回転部分の支持間隔を短くすることができ、また、断面剛性を高めることができるため、キャスティングドラムの自重による撓みを小さく抑えることができ、合成樹脂フィルム・シートの膜厚を均一に保つことができる。さらに、a)加熱手段および/または冷却手段が配置される固定軸の形状および/またはb)固定軸の表面における加熱手段および/または冷却手段の配置を調整することにより、回転環の回転方向(合成樹脂フィルム・シート5の長手方向)および回転環の中心軸と平行方向(合成樹脂フィルム・シート5の幅方向)における回転環の表面温度を、自由自在に設定・制御することが可能となり、合成樹脂フィルム・シートの材料樹脂、合成樹脂フィルム・シートに求められる物性・特性に応じて、キャスティングドラム表面温度を自由自在に設定・制御することができる。
【0052】
また、本発明のキャスティングドラム装置を用いた合成樹脂フィルム・シートの製造方法は、上記のようなキャスティングドラム装置を用いて、合成樹脂フィルム・シートを製造することにより、キャスティングドラムを大型化した場合でも、経済的・効率的に合成樹脂フィルム・シートを製造することができる。さらに、膜厚の均一な合成樹脂フィルム・シートを容易に製造することができ、求められる物性・特性を有する合成樹脂フィルム・シートを容易に製造することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 キャスティングドラム装置
2 固定軸
3 加熱手段および/または冷却手段
3A 加熱手段および/または冷却手段の回転環側の表面
4 回転環
4A 回転環の内側表面
5 合成樹脂フィルム・シート
6 ボールベアリング
7 合成樹脂を溶媒に溶解させた溶液または溶融させた合成樹脂(液状合成樹脂)
8 冷却装置
9 回転環の中心軸
20 キャスティングドラム
21 外筒
22 内筒
23 外筒と内筒間の空隙
24 らせん溝隔壁
25 一方の軸
26 他方の軸
27 液状熱媒分岐管
図1
図2
図3
図4