特許第6758295号(P6758295)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6758295眼鏡フレームに枠入れされるための眼鏡眼用レンズ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6758295
(24)【登録日】2020年9月3日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】眼鏡フレームに枠入れされるための眼鏡眼用レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/06 20060101AFI20200910BHJP
【FI】
   G02C7/06
【請求項の数】15
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-534802(P2017-534802)
(86)(22)【出願日】2015年12月30日
(65)【公表番号】特表2018-500607(P2018-500607A)
(43)【公表日】2018年1月11日
(86)【国際出願番号】EP2015081456
(87)【国際公開番号】WO2016107919
(87)【国際公開日】20160707
【審査請求日】2018年12月27日
(31)【優先権主張番号】14307228.8
(32)【優先日】2014年12月31日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518040079
【氏名又は名称】エシロール エンテルナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【弁理士】
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【弁理士】
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【弁理士】
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】ユ リチャード リュー
(72)【発明者】
【氏名】ダイアナ チャンドラ
(72)【発明者】
【氏名】ポリーヌ コラス
【審査官】 沖村 美由
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−535357(JP,A)
【文献】 特開2012−022288(JP,A)
【文献】 特開2001−027744(JP,A)
【文献】 特開平11−125799(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/029694(WO,A1)
【文献】 特表2013−518309(JP,A)
【文献】 特開平03−230114(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0320802(US,A1)
【文献】 特開2001−318346(JP,A)
【文献】 特開平8−234146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームに枠入れされるための眼鏡用の眼用レンズにおいて、装用状態で、
− フィッティング十字マークと、
− 前記レンズのこめかみ側に延びる第一の領域と、を含み、
前記フィッティング十字マークにおける度数はマイナスであり、
前記第一の領域では、前記こめかみ側に行くほど度数が正に大きくなり、前記レンズの鼻側では前記眼用レンズの度数は前記フィッティング十字マークにおける度数と実質的に同じである眼鏡用の眼用レンズ。
【請求項2】
前記第一の領域において、前記こめかみ側に行くほど非点収差の振幅が大きくなる、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項3】
前記第一の領域は回廊領域を含み、その中では非点収差の振幅が0.25ディオプタより小さく、前記フィッティング十字マークが前記回廊領域内に配置される、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項4】
前面と後面を含み、その一方が球面又はトーリック面を有し、他方は累進屈折力面を有する、請求項1〜3に記載の眼用レンズ。
【請求項5】
少なくとも、安定化された度数の第一の有効領域を含み、そこでは度数の値は前記フィッティング十字マークにおける度数の値から+/−0.120ディオプタを超えて相違せず、前記第一の有効領域は対物面のうち、前記フィッティング十字マークから全方向に少なくとも3mmにわたって延びる領域に対応する、請求項3に記載の眼用レンズ。
【請求項6】
前記第一の領域は前記眼用レンズの前記こめかみ側に配置され、前記フィッティング十字マークから水平に、3mmと等しいかそれより大きい、請求項1〜5の何れか1項に記載の眼用レンズ。
【請求項7】
水平の前記第一の領域における加入屈折力の絶対値は、前記眼用レンズの前記フィッティング十字マークにおける度数の絶対値より小さいか、これと等しい、請求項1〜6の何れか1項に記載の眼用レンズ。
【請求項8】
装用者に合わせて調整された眼鏡用の眼用レンズを決定する方法において、
− 少なくとも前記装用者の眼科処方を含む装用者データが提供される、装用者データを提供するステップと、
− 第一の面が提供される、第一の面を提供するステップと、
− 第二の面が提供される、第二の面を提供するステップと、
− 前記第一及び前記第二の面の相対位置が決定される位置決めステップであって、前記装用者の眼科処方に対応するマイナス度数を持つフィッティング十字マークと、前記レンズのこめかみ側に延びる水平な第一の領域とを有し、前記第一の領域において、前記こめかみ側に行くほど度数が増大し、前記レンズの鼻側では度数が前記フィッティング十字マークにおける度数と実質的に等しい眼用レンズを形成するように、前記相対位置が決定される、位置決めするステップと、
を含み、
前記第一及び第二の面のうちの少なくとも一方は累進屈折力面である方法。
【請求項9】
前記位置決めするステップでは、前記第一の領域の位置及び/又は度数の増加量は前記装用者の選好に応じて決定される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第一及び第二の面は、前記眼用レンズの前記フィッティング十字マークにおけるプリズム屈折力がゼロと実質的に等しくなるように配置される、請求項8または9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
前記第一の面は累進屈折力面であり、前記第二の面は球面である、請求項8〜10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記位置決めするステップでは、前記第一の面は、前記第一の領域において、前記眼用レンズが眼鏡フレームに枠入れされると、注視方向が前記こめかみ側に行くほど非点収差の振幅が増大するように位置決めされる、請求項9または11の何れかに記載の方法。
【請求項13】
前記位置決めするステップでは、前記第一の面は、前記眼用レンズが、非点収差の振幅が0.25ディオプタより小さい回廊領域を含み、前記眼鏡フレームに枠入れされたときに前記回廊領域が前記眼用レンズの水平注視方向と実質的に整列するように位置決めされる、請求項9または11の何れかに記載の方法。
【請求項14】
前記位置決めするステップでは、前記第一の面は、前記第一の領域が前記眼用レンズの前記こめかみ側に配置され、前記フィッティング十字マークから水平に、3mmと等しいかそれより大きい、好ましくは10mmと等しいかそれより大きい距離だけ分離されるように位置決めされる、請求項9〜13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記第一の面を提供するステップでは、前記第一の面は、加入屈折力の絶対値が前記装用者の眼科処方の度数の絶対値より小さいかそれと等しくなるように選択される、請求項9〜13の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に近視の人用の、フレームに枠入れされるための眼鏡眼用レンズと、かかる眼用レンズを決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界中、特にアジア、とりわけ中国人の間で、近視の人々はますます増え続けており、そこでは近視が主要な視力の問題となっている。近視の人の中には、特に審美的な問題のために眼鏡レンズを装用しない人もいるであろう。
【0003】
実際、特に強度の近視の装用者にとって、マイナスレンズには様々な審美的な問題がある。
【0004】
第一に、装用者と向かい合っている人から装用者のこめかみ側のイメージジャンプが見えやすく、装用者の目が不自然に見える。度が強くなるにつれて、この効果はより強力になり、装用者と向かい合っている人から見た装用者の顔の像の不連続性がより目立つようになる。
【0005】
第二に、マイナスレンズの度の増大に伴い、眼用レンズの縁部の厚さが増す。特に眼用レンズの重量による安全性と使い心地の問題に加えて、これらのレンズには一般的に「瓶底」と呼ばれるような視覚的効果が生じ、これは長い間、美しくないとみなされてきた。
【0006】
第三に、強度の近視の装用者にとって、眼鏡フレームの選択の幅が限られている。眼用レンズの縁部の厚さを薄くするために、装用者は小さい眼鏡フレームを選択することになり、特に眼鏡フレームの幅を限定すべきである。
【0007】
第四に、装用者と向かい合っている人から見て、マイナスレンズを通した装用者の目は実際の大きさより小さく見えるかもしれず、一般に、度が強いほど目は小さく見える。これは、中国人女性が眼用眼鏡レンズの装用を避ける最大の理由であるようであり、それは、実際に「大きい目」が中国の美の定義において重要な部分であるからである。
【0008】
第五に、装用者の近視の処方によるレンズのこめかみ側を、装用者の主要な視線に関して0以外の視角で見る人には、「近視の環(Myopic ringまたはMyopic circle)」と呼ばれるレンズ内の像反射が見える。視角が大きいほど、見える像反射は大きくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、上述のような審美面を改善する、近視の装用者のために調整された眼用レンズが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このために、本発明は、例えば眼鏡フレームに枠入れされるための眼鏡眼用レンズを提案するものであり、この眼用レンズは、装用状態で、
− 度数がマイナスのフィッティング十字マークと、
− レンズのこめかみ側に延びる第一の領域と、を含み、第一の領域では、こめかみ側に行くほど度数が増大し、レンズの鼻側では眼用レンズの度数はフィッティング十字マークと実質的に同じである。
【0011】
有利な点として、眼用レンズのこめかみ側で度数が増大することにより、イメージジャンプの問題が軽減される。こめかみ側の度数の増大はさらに、こめかみ側の眼用レンズの厚さを薄くでき、したがって装用者による眼鏡フレームの選択の幅が広がる。
【0012】
最後に、眼用レンズのこめかみ側の度数を低下させると、「標準的な」マイナス度数の眼用レンズほど目が小さく見えなくなり、装用者のレンズのこめかみ側を見ている人にとって近視の環が見えにくくなる。
【0013】
単独で、又は一緒に考慮できる別の実施形態によれば、
− 第一の領域において、こめかみ側に行くほど非点収差の振幅が大きくなり、及び/又は
− 第一の領域は回廊領域を含み、その中では非点収差の振幅が0.25ディオプタより小さく、その中にフィッティング十字マークが配置され、及び/又は
− 眼用レンズは前面と後面を含み、その一方が球面又はトーリック面を有し、他方が累進屈折力面を有し、及び/又は
− 眼用レンズは少なくとも、安定化された度数の第一の領域を含み、そこでは度数の値はフィッティング十字マークにおける値から+/−0.120ディオプタを超えて相違せず、前記第一の領域は対物面のうち、フィッティング十字マークから全方向に少なくとも3mmにわたって延びる領域に対応し、及び/又は
− 第一の領域は眼用レンズのこめかみ側に配置され、フィッティング十字マークから水平に、3mmと等しいかそれより大きい、好ましくは10mmと等しいかそれより大きい距離だけ分離され、及び/又は
− 水平の第一の領域における加入屈折力の絶対値は、眼用レンズのフィッティング十字マークにおける度数の絶対値より小さいか、これと等しい。
【0014】
他の態様によれば、本発明は、例えば眼鏡フレームに枠入れされるための、装用者に合わせて調整された眼鏡眼用レンズを決定する方法に関し、この方法は、
− 少なくとも装用者の眼科処方を含む装用者データが提供される、装用者データを提供するステップと、
− 第一の面が提供される、第一の面を提供するステップと、
− 第二の面が提供される、第二の面を提供するステップと、
− 第一及び第二の表面の相対位置が、装用者の眼科処方に対応するマイナス度数を持つフィッティング十字マークと、レンズのこめかみ側に延びる水平な第一の領域と、を有し、第一の領域において、こめかみ側に行くほど度数が増大し、レンズの鼻側では度数がフィッティング十字マークと実質的に等しい眼用レンズを形成するように決定される、位置決めするステップと、
を含み、
第一及び第二の面のうちの少なくとも一方は累進屈折力面である。
【0015】
単独で、又は一緒に考慮できる別の実施形態によれば、
− 位置決めするステップでは、第一の領域の位置及び/又は度数の増加量は装用者の選好に応じて決定され、及び/又は
− 第一及び第二の面は、眼用レンズのフィッティング十字マークにおけるプリズム屈折力がゼロと実質的に等しくなるように配置され、及び/又は
− 第一の面は累進屈折力面であり、第二の面は球面であり、及び/又は
− 位置決めするステップでは、第一の面は、第一の領域において、眼用レンズが眼鏡フレームに枠入れされると、注視方向がこめかみ側に行くほど非点収差の振幅が増大するように位置決めされ、及び/又は
− 位置決めするステップでは、第一の面は、眼用レンズが、非点収差の振幅が0.25ディオプタより小さい回廊領域を含み、前記回廊領域が眼用レンズの水平注視方向と実質的に整列するように位置決めされ、及び/又は
− 位置決めするステップでは、第一の面は、それが少なくとも、安定化された度数の第一の領域を含み、そこでは度数の値がフィッティング十字マークにおける値から+/−0.120ディオプタを超えて相違せず、前記第一の領域が、対物面のうち、フィッティング十字マークから全方向に少なくとも3mmにわたって延びる領域に対応するように位置決めされ、及び/又は
− 位置決めするステップでは、第一の面は、第一の領域が眼用レンズのこめかみ側に配置され、フィッティング十字マークから水平に、3mmと等しいかそれより大きい、好ましくは10mmと等しいか、それより大きい距離だけ分離されるように位置決めされ、及び/又は
− 第一の面を提供するステップでは、第一の面は、加入屈折力の絶対値が装用者の眼科処方の度数の絶対値より小さいか、それと等しくなるように選択される。
【0016】
本発明はさらに、眼用レンズの製造方法に関し、これは、
− 本発明による決定方法を使って眼科レンズが決定される、眼科レンズを決定するステップと、
− 決定された眼科レンズが製造される、眼科レンズを製造するステップと、
を含む。
【0017】
本発明はさらに、プロセッサによりアクセス可能であり、プロセッサにより実行されると、プロセッサに本発明による方法のステップを実行させる1つ又は複数の記憶された命令シーケンスを含むコンピュータプログラム製品に関する。
【0018】
本発明はまた、プログラムがそこに記録されているコンピュータ読取可能記憶媒体にも関し、プログラムはコンピュータに本発明の方法を実行させる。
【0019】
本発明はさらに、1つ又は複数の命令シーケンスを記憶し、本発明による方法のステップのうちの少なくとも1つを実行するようになされたプロセッサを含む装置に関する。
【0020】
特に別段の明記がないかぎり、後述の説明から明らかであるように、明細書全体を通じて、「計算」、「演算」、又はその他の用語を使用する記述は、コンピュータもしくはコンピューティングシステム又は、同様の電子的コンピューティングデバイスによる、コンピューティングシステムのレジスタ及び/又はメモリ内で電子的等の物理的数量で表現されるデータをコンピューティングシステムのメモリ、レジスタ、又は他のこのような情報記憶、伝送、又は表示機器内で物理的数量として同様に表現されるその他のデータに操作及び/又は変換する動作及び/又はプロセスを指すものと理解する。
【0021】
本発明の実施形態は、本明細書に記載の動作を実行するための機器を含んでいてもよい。この機器は、特に所望の目的のために構成されてもよく、又はこれは、コンピュータの中に記憶されたコンピュータプログラムによって選択的に作動され、又は再構成される汎用コンピュータ又はDigital Signal Processor(DSP)を含んでいてもよい。このようなコンピュータプログラムはコンピュータ読取可能記憶媒体に記憶されてもよく、これにはフロッピディスク、光ディスク、CD−ROM、磁気光ディスク、ROM(read−only memory)、RAM(random access memory)EPROM(electrically programmable read−only memory)、EEPROM(electrically erasable and programmable read only memory)を含むあらゆる種類のディスク、磁気もしくは光カード、又は電子命令を記憶するのに適し、コンピュータシステムバスに連結可能な他のあらゆる種類の媒体が含まれるが、これらに限定されない。
【0022】
本明細書において提示されるプロセスは、何れの特定のコンピュータ又はその他の機器に本質的に関係しているのではない。本明細書の教示によるプログラムには、様々な汎用システムが使用されてもよく、又は所望の方法を実行するために、より専門化された機器を構成することが好都合であると判明するかもしれない。各種のこのようなシステムのための所望の命令は、後述の命令から明らかとなるであろう。それに加えて、本発明の実施形態は、何れの特定のプログラミング言語に関しても説明されていない。本明細書に記載されている本発明の教示を実行するために様々なプログラミング言語が使用されてよいことがわかるであろう。
【0023】
ここで、本発明の実施形態をあくまでも例として、下記のような図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】TABO方式におけるレンズの非点収差軸γを示す。
図2】非球面を特徴付けるために使用される方式における円柱軸γAXを示す。
図3】眼とレンズの光学系を図式的に示す。
図4】眼とレンズの光学系を図式的に示す。
図5】眼の回転中心からの光線追跡を示す。
図6】レンズの視野領域を示す。
図7】レンズの視野領域を示す。
図8】近視の環を見るための、装用者のレンズに関する視角を示す。
図9図8に示されるレンズの拡大図を示す。
図10】本発明による眼用レンズの概略図である。
図11a】本発明による眼用レンズの球面及び円柱面度数マップである。
図11b】本発明による眼用レンズの球面及び円柱面度数マップである。
図12a】本発明による眼用レンズの後面の球面及び円柱面度数マップである。
図12b】本発明による眼用レンズの後面の球面及び円柱面度数マップである。
図13】本発明による方法のある実施形態のフローチャートの図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の意味において、屈折機能とは、注視方向に関するレンズ度数、例えば平均度数、又は非点収差に対応する。
【0026】
「光学設計」という用語は、眼科分野の当業者により知られている、眼用レンズの屈折機能を定義することができるようなパラメータ群を指定するために広く使用される用語であり、各眼用レンズ設計者は、特に累進眼用レンズについて独自の設計を有する。ある例に関して、累進眼用レンズの「設計」は、老眼の人があらゆる距離で明瞭に見る能力を回復するだけでなく、中心視覚、中心窩外視覚、両眼視覚等のすべての生理学的視覚機能を最適に配慮し、不要な非点収差を最小にするように累進面を最適化した結果である。例えば、累進レンズの設計は、
− 日中の活動中にレンズ装用者が使用する、子午線と呼ばれる主な注視方向に沿った度数配置と、
− レンズの側方の、いわば主な注視方向から離れた箇所の、度数、例えば平均度数、又は非点収差の分布と、
を含む。
【0027】
これらの光学特性は眼用レンズ設計者により定義及び計算され、累進レンズに提供される「設計」の一部である。
【0028】
累進レンズは、少なくとも1つ、しかしながら好ましくは2つの非回転対称非球面を含み、これは例えば累進面、リグレシブ面、トーリック、又は非トーリック面であるが、これらに限定されない。
【0029】
周知のように、最小曲率CURVminは、非球面上の何れの点においても、次式
【数1】
で定義され、式中、Rmaxはメートルで表現される局所的最大曲率半径であり、CURVminはディオプタで表現される。
【0030】
同様に、最大曲率CURVmaxは、非球面上の何れの点においても、次式
【数2】
で定義でき、式中、Rminはメートルで表現される局所的最小曲率半径であり、CURVmaxはディオプタで表現される。
【0031】
表面が局所的に球面である場合、局所的最小曲率半径Rminと局所的最大曲率半径Rmaxは同じであり、したがって、最小及び最大曲率CURVmin及びCURVmaxもまた同じであることがわかる。表面が非球面である場合、局所的最小曲率半径Rminと局所的最大曲率半径Rmaxは異なる。
【0032】
最小及び最大曲率CURVmin及びCURVmaxのこれらの表現から、SPHmin及びSPHmaxと表示される最小及び最大球面を、考慮されている表面の種類に応じて推定できる。
【0033】
考慮されている表面が対物面(前面とも呼ばれる)である場合、表現は、
【数3】
となり、式中、nはレンズの構成材料の屈折率である。
【0034】
考慮されている表面が眼球側の面(後面とも呼ばれる)であると、表現は、
【数4】
となり、式中、nはレンズの構成材料の屈折率である。
【0035】
よく知られているように、非球面上の何れの点の平均球面SPHmeanもまた、次式、
【数5】
で定義できる。
【0036】
したがって、平均球面の表現は、考慮されている表面に依存しており、
− 表面が対物面であれば、
【数6】
であり、
− 表面が眼球側面であれば、
【数7】
であり、
− 円柱面CYLもまた、式CYL=|SPHmax−SPHmin|で定義される。
【0037】
レンズの何れの非球面の特徴も、局所的平均球面及び円柱面により表現されてよい。表面は、円柱面が少なくとも0.25ディオプタであるとき、局所的に非球面であると考えることができる。
【0038】
非球面に関しては、局所的円柱軸γAXがさらに定義されてもよい。図1は、TABO方式で定義される非点収差軸γを示し、図2は非球面を特徴付けるために定義される方式における円柱軸γAXを示している。
【0039】
円柱軸γAXは、参照軸に関する、選択された回転方向における最大曲率CURV最大の方位角である。上で定義された方式において、参照軸は水平であり、この水平軸の角度は0°であり、回転方向は、装用者を見た時に各眼について反時計回りである(0°≦γAX≦180°)。したがって、+45°の円柱軸γAXに関する軸の数値は、斜めの向きの軸を表し、これは、装用者を見た時に、右上の四分円から左下の四分円へと延びる。
【0040】
さらに、累進レンズはまた、そのレンズを装用する人物の状況を考慮に入れて、光学特性によって定義されてもよい。
【0041】
図3及び4は、眼とレンズ1の光学系の概略図であり、それゆえ、説明で使用される定義を示している。より正確には、図3はそのような系の斜視図を示し、注視方向を定義するために使用されるパラメータα及びβを示している。図4は、装用者の頭の前後軸に平行な、パラメータβが0と等しい場合に眼球回転中心を通過する垂直面の図である。
【0042】
眼球回転中心はQ’で表示される。図4において一点鎖線で示される軸Q’F’は、眼球回転中心を通過し、装用者の正面に延びる水平軸であり、すなわち、軸Q’F’は主要注視視野に対応する。この軸は、レンズ上にあって眼鏡店員によるフレーム内のレンズの位置決めを可能にするフィッティング十字マークと呼ばれる点でレンズ1の非球面を切断する。レンズ後面と軸Q’F’の交点は点Oである。Oは、それが後面にあればフィッティング十字マークとすることができる。中心がQ’で半径がq’の頂点部球面は、レンズの後面に水平軸のある点で接する。例えば、半径q’の値、25.5mmは通常の値に対応し、これらのレンズの装用時に満足できる結果を提供する。
【0043】
レンズ上のフィッティング十字マークは、例えば34mmだけ水平に離間された2つの微細円の刻印の中心として、非永久的なマークで物理的に表されても、又は永久的な刻印から判断されてもよい。また、それはレンズ上、特に単焦点レンズ上で、プリズムによる光のフレがゼロである点としても決定できる。
【0044】
図4において実線で示される、ある注視方向はQ’の周囲の眼球回転位置と、頂点部球面の点Jに対応し、角度βは軸Q’F’と軸Q’F’を含む水平面上への直線Q’Jの投影との間になされる角度であり、この角度は図4の概略図に示されている。角度αは、軸Q’Jと、軸Q’F’を含む水平面上への直線Q’Jの投影との間になされる角度であり、この角度は図4の略図の上にある。それゆえ、ある注視視野は頂点部球面の点J又は対(α,β)に対応する。下降する注視角の値がプラスであるほど、注視は下がり、値がマイナスであるほど、注視は上がる。
【0045】
ある注視方向において、物体空間内のある物体距離にある点Mの像は、最小及び最大距離JSとJTに対応する2つの点SとTの間に形成され、これらは矢状方向及び接線方向の焦点距離であろう。無限遠での物体空間内の点の像は点F’に形成される。距離Dはレンズの後方前面に対応する。
【0046】
エルゴラマ(ergorama)は、各注視方向と物体の点の通常の距離に関わる関数である。典型的に、主要注視方向に追従する遠視野において、物体点は無限遠にある。近視野において、鼻側に向かって基本的に絶対値で35°程度の角度αと5°程度の角度βに対応する注視方向に追従すると、物体距離は30〜50cm程度である。エルゴラマの定義として考えられるものに関するさらなる詳細は、米国特許第6,318,859号を考慮してもよい。この文献には、エルゴラマ、その定義、及びそのモデリング方法について記載されている。本発明の方法について、点は無限遠にあってもなくてもよい。エルゴラマは装用者の屈折異常に関していてもよい。
【0047】
これらの要素を使い、各注視方向における装用者の度数と非点収差を設定できる。エルゴラマにより与えられる物体距離にある物体点Mが、ある注視方向について考慮される(α,β)。物体近接度ProxOは、物体空間内の対応する光線上の点Mに関して、点Mと頂点部球面の点Jとの間の距離MJの逆数として定義される。
ProxO=1/MJ
【0048】
これによって、頂点部球面のすべての点に関して、薄型レンズの概算における物体近接度を計算でき、これはエルゴラマの決定に使用される。実際のレンズの場合、物体近接度は物体点とレンズ前面との間の、対応する光線上の距離の逆数と考えることができる。
【0049】
同じ注視方向(α,β)について、ある物体近接度を有する点Mの像は、それぞれ最小及び最大焦点距離(これらは矢状方向及び接線方向の焦点距離であろう)に対応する2つの点SとTとの間に形成される。数量ProxIは、点Mの像近接度と呼ばれる。
【数8】
【0050】
薄型レンズの場合と同様に、これはしたがって、ある注視方向及びある物体近接度について、すなわち対応する光線上の物体空間のある点について、度数Puiを像近接度と物体近接度の和として定義できる。
Pui=ProxO+ProxI
【0051】
同じ表記法で、非点収差Astは、個々の注視方向とある物体近接度について、
【数9】
と定義される。
【0052】
この定義はレンズにより作られる光線ビームの非点収差に対応する。この定義により、主要注視方向において、古典的な値の非点収差が求められることがわかる。非点収差角度は、通常は軸と呼ばれ、角度γである。角度γは、眼に関連するフレーム{Q’,x,y,z}内で測定される。これは、平面{Q’,z,y}の中の方向zに関して使用される方式に応じて像S又はTが形成される角度に対応する。
【0053】
装用状態でのレンズの度数と非点収差の考えうる定義はそれゆえ、B.Bourdoncleらの“Ray tracing through progressive ophthalmic lenses”,1990 International Lens Design Conference,D.T.Moore ed.,Proc.Soc.Photo.Opt.Instrum.Eng.の記事の中で説明されているように計算できる。
【0054】
装用状態とは、装用者の眼に関する眼用レンズの位置と理解するものとし、例えば前傾角、角膜からレンズまでの距離、瞳孔から角膜までの距離、眼球回転中心から瞳孔までの距離、眼球回転中心からレンズまでの距離、及びラップ角により定義される。
【0055】
角膜からレンズの距離は、第一眼位の装用者の眼の視軸(通常は水平とされる)に沿った、角膜とレンズ後面、例えば図4のOとの間の距離であり、例えば12mmと等しい。
【0056】
瞳孔から角膜までの距離は、装用者の眼の瞳孔から角膜との間の距離であり、通常は2mmと等しい。
【0057】
眼球回転中心から瞳孔までの距離は、眼球回転中心Q’と角膜との間の眼の視軸に沿った距離であり、例えば11.5mmと等しい。
【0058】
眼球回転中心からレンズまでの距離は、第一眼位の眼の視軸(通常は水平とされる)に沿った、眼球回転中心Q’とレンズ後面、例えば図4のOとの間の距離であり、例えば25.5mmと等しい。
【0059】
前傾角は、レンズ後面と第一眼位の眼の視軸との間の交点における垂直平面内の、レンズ後面の法線と第一眼位の眼の視軸との間の角度であり、例えば−8°と等しい。
【0060】
ラップ角は、レンズ後面と第一眼位の眼の視軸(通常は水平とされる)との間の交点における水平平面内の、レンズ後面の法線と第一眼位の眼の視軸との間の角度であり、例えば5°と等しい。図5は、パラメータα及びβがゼロ以外である構成の斜視図を示している。眼球回転の効果はそれゆえ、固定フレーム{x,y,z}と眼に関連するフレーム{x,y,z}を示すことによって例示できる。フレーム{x,y,z}はその原点が点Q’にある。軸xは軸Q’Oであり、これはレンズから眼に向かう。y軸は縦方向で上方に向かう。z軸は、フレーム{x,y,z}が正規直交で直接的となる軸である。フレーム{x,y,z}は眼に関連付けられ、その中心は点Q’である。x軸は注視方向JQ’に対応する。それゆえ、主要注視方向に関して、2つのフレーム{x,y,z}及び{x,y,z}は同じである。レンズに関する特性は何種類かの方法で、特に表面において、及び光学的に表現されてもよいことが知られている。それゆえ、表面特性は光学特性と等しい。ブランクの場合、表面特性だけが使用されるかもしれない。理解しなければならない点として、光学特性には、レンズが装用者の処方に合わせて機械加工されていることが必要である。これに対して、眼用レンズの場合、特性は表面又は光学的種類のものであってもよく、何れの特性も、2つの異なる視点から同じ物体を表現することができる。レンズの特性が光学的種類のものであれば、常にこれは上述のエルゴラマ−眼−レンズ系を指す。簡単にするために、「レンズ」という用語は説明の中で使用されているが、これは「エルゴラマ−眼−レンズ系」として理解しなければならない。
【0061】
光学的項目の値は、注視方向に関して表現できる。注視方向は通常、その下降の程度と、眼球回転中心を原点とするフレーム内の方位角により与えられる。レンズが眼の正面に取り付けられると、フィッティング十字マークは瞳孔の前又は主要注視方向の場合の眼の眼球回転中心Q’の前に置かれる。主要注視方向は装用者がまっすぐ正面を見ている状態である。選択されたフレーム内で、フィッティング十字マークはそれゆえ、フィッティング十字マークが位置付けられているのがレンズのどの面か、すなわち後面か前面かにかかわらず、下降角度αが0°、方位角βが0°である場合に対応する。
【0062】
図3〜5に関する上記の説明は、中心視野に関して行われた。周辺視野では、注視方向が固定されると、眼球回転中心の代わりに瞳孔の中心が考慮され、注視方向の代わりに周辺光線方向が考慮される。周辺視野を考えるとき、角度αと角度βは、注視方向の代わりに光線方向に対応する。
【0063】
以下の説明の中で、『上』、『下』、『水平』、『垂直』、『上方』、『下方』、又は相対位置を示すその他の単語が使用されるかもしれない。これらの用語は、レンズの装用状態において理解するものとする。特に、レンズの「上」部分はマイナスの下降角度α<0°に対応し、レンズの「下」部分はプラスの下降角度α>0°に対応する。同様に、レンズの、又はセミフィニッシュトレンズブランクの表面の「上」部分はy軸に沿ったプラスの値、好ましくはフィッティング十字マークにおけるy_値より大きいy軸に沿った値に対応し、レンズの、又はセミフィニッシュトレンズブランクの表面の「下」部分は、フレーム内のy軸に沿ったマイナスの値、好ましくはフィッティング十字マークにおけるy_値より小さいy軸に沿った値に対応する。
【0064】
レンズを通して見る視野領域が図6及び7に概略的に示されている。レンズは、レンズ上部分にある遠用領域26と、レンズの下部分にある近用部分28と、レンズの下部分の、遠用領域26と近用領域28との間にある中間領域30と、を含む。レンズはまた、3つの領域を通り、鼻側とこめかみ側を画定する主子午線32も有する。
【0065】
本発明の解釈において、累進レンズの子午線32は次のように定義される:各フィッティング十字マークに対応する注視方向と近用領域内にある注視方向との間の各視線下降角度α=α1に関して、局所的残留非点収差が最小となる注視方向(α1,β1)が探索される。それゆえ、このように定義される注視方向はすべて、エルゴラマ−眼−レンズ系の子午線を形成する。レンズの子午線は、装用者が遠視野から近視野を見ている時の平均的な注視方向の位置を表す。レンズ表面の子午線32は、次のように定義される:レンズの光学子午線に属する各注視方向(α,β)は点(x,y)において表面と交差する。表面の子午線は、レンズの子午線の注視方向に対応する点群である。
【0066】
図7に示されるように、子午線32はレンズを鼻側領域とこめかみ側領域に分割する。推測されるように、鼻側領域はレンズのうち、子午線と装用者の鼻との間の領域であり、それに対してこめかみ側領域は子午線と装用者のこめかみとの間の領域である。鼻側領域は領域_鼻と表示され、こめかみ側領域は領域_こめかみと表示されており、以下の説明においても同様とする。
【0067】
レンズが単焦点レンズである場合、「鼻側領域」は、装用者の鼻とフィッティング十字マークを横切るレンズの縦子午線との間にある領域、こめかみ側領域は装用者のこめかみとレンズの縦子午線との間にある領域と定義することもできる。
【0068】
本発明による眼鏡眼用レンズには、レンズのこめかみ及び鼻側の表示が提供される。例えば、レンズは特定の眼鏡フレームに適合するように玉形加工され、及び/又は基準マーク等の表示が、熟練者に左右のレンズ、縦子午線、及び方位を特定させるように提供される。
【0069】
本発明は、例えば眼鏡フレームに枠入れされるための眼鏡眼用レンズに関する。眼用レンズは近視の装用者用とされ、特にフィッティング十字マークにおける度数がネガティブである。
【0070】
眼用レンズのフィッティング十字マークの鼻側での度数は、フィッティング十字マークと実質的に等しい。
【0071】
フィッティング十字マークのこめかみ側は第一の領域を含み、度数は前記第一の領域のフィッティング十字マークに最も近い部分から前記第一の領域の、眼用レンズのこめかみ側縁部に最も近い部分へと増大する。
【0072】
換言すれば、眼鏡レンズが眼鏡フレームに枠入れされると、度数は、注視方向がこめかみ側に行くほど増大する。
【0073】
図8に示されるように、レンズ6を有する装用者が示されている。レンズ6は、フレーム(図示せず)に枠入れされていてもよい。レンズは好ましくは近視処方のレンズである。
【0074】
装用者5の顔、より正確には装用者のレンズ6のこめかみ側を見ている観察者10は、観察者10の眼の注視方向と装用者の主要視線2との間にゼロ以外の角度4が現れるような位置に配置される。ここでは、装用者の主要視線2とは、装用者の眼球回転中心とレンズのフィッティング十字マークを通過する線と定義される。
【0075】
図10のレンズ6の拡大図を表す図11に示されているように、光はレンズの後面7bに斜めに当たり、それによって光はレンズの後面7bで反射されて、レンズ前面を通過する。このような現象は「近視の環(Myopic ringまたはMyopic circle)」と呼ばれ、例えばDaniel A.Wintersの“Master in ophthalmic Optics certification of the American Board Opticianry”,1996年8月を参照のこと。より正確には、レンズの後面7bから及びレンズの縁部7aからの光線が、観察者に見える近視の環の像を作り、これが光線ビーム9に対応する。近視の環の像の大きさは、ビーム9の極端光線により形成される角度8により表される。視線の角度が大きいほど、見える像反射の大きさは大きい。
【0076】
図10に概略的に示されているように、提案されている解決策の原理は、マイナス度数のレンズのこめかみ側に累進的加入屈折力を付与することにより、眼用レンズのこめかみ側縁部に、より弱いマイナス度数を提供する、というものである。
【0077】
有利な点として、眼鏡レンズのこめかみ側縁部におけるマイナス度数を小さくすることによって、イメージジャンプの効果が縮小され、眼用レンズの厚さが削減されるため、「瓶底」の効果が軽減される。
【0078】
本発明のある実施形態によれば、本発明による眼用レンズは、前記眼用レンズが眼鏡フレームに枠入れされたときに、注視方向がこめかみ側に行くほど非点収差の振幅が増すように配置される。特に、非点収差の振幅は、第一の領域のうち、フィッティング十字マークに最も近い部分から前記第一の領域のうち、眼鏡レンズのこめかみ側の縁部に最も近い部分へと増大する。
【0079】
あるいは、第一の領域は、非点収差の振幅が0.25ディオプタより小さい回廊領域を含んでいてもよい。
【0080】
好ましくは、累進レンズの位置決めは、不要な非点収差が0.25ディオプタより小さい回廊領域が水平で、水平注視方向と整列するように行われる。例えば、回廊領域は水平で、フィッティング十字マークと整列していてもよい。
【0081】
図10のレンズは、眼鏡フレームの輪郭形状を有する。この輪郭形状は、円形のレンズから得られ、これは何れかのエッジャ装置を使って玉形加工される。レンズ表面はインクマーク等の非永久的なマークを含んでいても、刻印等の永久的マークを含んでいてもよく、これはレンズ内のこめかみ側領域の位置を特定するために使用される。例えば、水平マークはレンズの水平軸を画定するために使用され、これに対して、特定のマークがフィッティング十字マークの右側(又は左側)にあり、こめかみ側領域がレンズの右(又は左)部分にあることを示す。
【0082】
このような実施形態は、図11aの球面度数マップと図11bの円柱面度数マップにより示される。
【0083】
有利な点として、装用者が眼用レンズのこめかみ側を通して見るとき、球面屈折力だけが変化し、したがって、装用者が経験する不要な非点収差に起因する歪みは軽減される。
【0084】
良好な光学的品質と装用者にとっての視覚的快適さを確保するために、本発明の眼用レンズは少なくとも、安定化された度数の第一の有効領域を含んでいてもよく、そこでは度数の値がフィッティング十字マークにおける値から+/−0.120ディオプタを超えて相違しない。
【0085】
好ましくは、前記第一の有効領域は、眼用レンズが眼鏡フレームに枠入れされた時に、対物面の、フィッティング十字マークから全方向に少なくとも3mmにわたり延びる領域に対応する。
【0086】
本発明による眼用レンズの設計が装用者の視覚的快適さに与える影響を軽減するために、第一の領域は眼用レンズのこめかみ側に配置されてもよく、フィッティング十字マークから、3mmと等しいか、それより大きい、好ましくは10mmと等しいか、それより大きい距離だけ水平に分離される。
【0087】
本発明の実施形態によれば、第一の領域の加入屈折力の絶対値は眼用レンズのフィッティング十字マークにおける度数の絶対値より小さいか、それと等しい。加入屈折力を処方の絶対値にできるだけ近付けることによって、レンズのこめかみ側はプラノレンズに近付き、こめかみ側のジャンプはほとんどない。
【0088】
典型的に、眼用レンズの面のうちの一方は球面またはトーリック面を有し、他方は累進屈折力面を有する。
【0089】
有利な点として、本発明による眼用レンズは、既存の累進眼用レンズ設計を使用し、初期の累進設計の近用領域を眼用レンズのこめかみ側に配置することによって得ることができる。
【0090】
例えば、発明者らは、−8.00ディオプタの処方の単焦点眼用レンズを本発明による2種類の眼用レンズと比較した。
【0091】
本発明による第一の眼用レンズは、初期の単焦点レンズに+0.6DのPhysio(登録商標)の累積設計を付加したものに対応する。
【0092】
本発明による第二の眼用レンズは、初期の単焦点レンズに+2.0DのPhysio(登録商標)の累進設計を付加したものに対応する。
【0093】
発明者らは、本発明による第一の眼用レンズのイメージジャンプは、単焦点レンズと比較して5%減少し、本発明による第二の眼用レンズでは15%減少することを確認した。
【0094】
こめかみ側の厚さに関して、A=55mm、B=28mmのボクシングサイズのフレームの外形を考えたとき、本発明による第一の眼用レンズに関する厚さ減少率は5.3%であり、本発明による第二の眼用レンズの厚さ減少率は13.3%である。
【0095】
Physio(登録商標)累進設計を用いた上記の例において、フィッティング十字マークは装用者の光学中心と重なる。しかしながら、これは必須ではない。
【0096】
特に、フィッティング十字マークをこめかみ側に向かって水平に移動させると、視野は拡大するが、ジャンプイメージ縮小の利益は減少し、その逆でもある。
【0097】
有利な点として、本発明の、図11a及び11bに示されるようなレンズとは異なる実施形態によるレンズは、フィッティング十字マークから眼用レンズのこめかみ側への累進的な球面及び円筒面屈折力によって特徴付けられる面を使って得ることができる。
【0098】
前記の代替的実施形態は、前面が球面のレンズの後面の、図12aの球面屈折力マップと図12bの円筒面屈折力マップにより示される。
【0099】
図12aでは、レンズの後面の曲率は、水平方向に沿ってフィッティング十字マークからレンズのこめかみ側へと減少する。その結果、屈折力はフィッティング十字マークからこめかみ側へと増加し、こめかみ側で処方の絶対値にできるだけ近くなる。
【0100】
このような構成により、レンズのこめかみ側は、「プラノレンズ」とも呼ばれる度無しレンズに非常に近くなる。特に、このようなレンズでは、こめかみ側のジャンプはほとんどない。
【0101】
したがって、こめかみ側では、後面の曲率が減少し、レンズの縁部は古典的な単焦点レンズより薄い。すると、観察者に見える近視の環の像の大きさも減少する。
【0102】
例えば、発明者らは、−6.00ディオプタの処方の古典的な単焦点眼用レンズを前記代替的実施形態と比較した。
【0103】
前記代替的実施形態は、古典的な単焦点レンズの前面と同じ前面を含んでいてもよいが、図12a及び12bによる累進的球面及び円柱面屈折力を有する後面も含んでいてもよい。
【0104】
発明者らは、古典的な単焦点眼用レンズと比較して、本発明による眼用レンズではイメージジャンプが45%減少したことを確認した。
【0105】
こめかみ側の厚さに関しては、A=55mm、B=34mmのボクシングサイズのフレームの外形を考えた時、本発明による眼用レンズの厚さ減少率は21%である。
【0106】
近視の環の像の大きさに関しては、観察者が30度の角度の位置にいることを考えたとき、近視の環の像の大きさは82%減少する。
【0107】
本発明はさらに、眼鏡フレームに枠入れされるための、装用者に合わせて調整された眼用レンズを決定する方法に関する。図13は、本発明による方法のある実施形態のフローチャートを示す。この方法は
− 装用者データを提供するステップS1と、
− 第一の面を提供するステップS2と、
− 第二の面を提供するステップS3と、
− 位置決めするステップと、
を含む。
【0108】
装用者データを提供するステップS1では、少なくとも装用者の眼科処方を含む装用者データが提供される。装用者データはさらに、装用者が審美的問題をどれだけ意識するかの指標及び/又は装用者がその視野の周辺部にある標的を注視する際に頭と眼の何れを動かす傾向にあるかを含んでいてもよい。
【0109】
装用者が審美的問題をどれだけ意識するかに基づき、レンズ提供者は、レンズのこめかみ側に付与する度数をより高くするか、より低くするかを決定してもよい。例えば、装用者が審美的問題を非常に重視する場合、レンズ提供者は装用者が光学レンズの光学特性のほうに重きを置く場合より、レンズのこめかみ側により高い度数を付与してもよい。
【0110】
さらに、周辺部の標的を注視する時に目を動かす傾向のある装用者は、頭を動かす装用者より眼用レンズの周辺部分をより多く使用する。したがって、レンズ提供者は「目を動かす人」より「頭を動かす人」のために、レンズのこめかみ側に高い度数を付与してもよい。
【0111】
装用者データはさらに、装用者が選択する眼鏡フレームの指標を含んでいてもよい。眼鏡フレームの形状に基づき、こめかみ側に付与するべき度数を調節してもよく、例えば、こめかみ側のジャンプ効果を減少させるために、玉形加工された眼用レンズのこめかみ側の屈折力を装用者の眼科処方の屈折力と等しくなるように選択してもよい。
【0112】
第一の面を提供するステップS2で、第一の光学面が提供される。
【0113】
第二の面を提供するステップS3で、第二の光学面が提供される。
【0114】
好ましい実施形態によれば、第一の光学面は累進面であり、第二の光学面は球面である。
【0115】
第一及び第二の面の相対位置は、装用者の眼科処方に対応するマイナス度数のフィッティング十字マークを有する眼用レンズを形成するように決定される。第一及び第二の面はさらに、眼用レンズが水平の第一の領域を有するように位置付けられ、度数は前記第一の領域のうち、フィッティング十字マークから最も近い部分から、第一の領域のうち、眼用レンズのこめかみ側縁部に最も近い部分へと増大する。
【0116】
累進屈折力面、例えば第一の面は既存の設計に対応していてもよく、それによって本発明の方法はより実行しやすくなる。
【0117】
位置決めするステップで、第一の面は、第一の領域において、眼用レンズが眼鏡フレームに枠入れされたときに、注視方向がこめかみ側に行くほど非点収差の振幅が増大するように位置決めされてもよい。
【0118】
第一の面を提供するステップで提供される第一の光学面は、非点収差の振幅が0.25ディオプタより小さい回廊領域を含む累進屈折力面であってもよい。装用者の光学的な快適さを増大させるためには、位置決めするステップで、第一の面は、前記回廊領域が、眼鏡フレームに枠入れされた時の眼用レンズの水平注視方向と実質的に整列するように位置決めされる。
【0119】
良好な光学的快適さを確保するために、第一の光学面は少なくとも、安定化された屈折力第一の有効領域を含んでいてもよく、そこでは屈折力の値が+/−0.120ディオプタより小さいか、それと等しく、直径は少なくとも直径3mmである。第二の光学面は、装用者の眼科処方に対応する球面である。位置決めするステップで、第一及び第二の光学面は、第一の有効領域がフィッティング十字マークを覆い、フィッティング十字マークから全方向に少なくとも3mmにわたって延びるように位置決めされる。
【0120】
装用者の光学的障害を縮小するために、位置決めするステップで、第一の面は、第一の領域が眼用レンズのこめかみ側に配置され、3mmより大きいかこれと等しい、好ましくは10mmより大きいかこれと等しい距離だけフィッティング十字マークから水平に分離されるように位置決めされる。
【0121】
第一の面を提供するステップで、第一の面は、加入屈折力の絶対値が装用者の眼科処方の度数の絶対値より小さいか、それと等しくなるように選択される。加入屈折力の絶対値が装用者の眼科処方の度数に近いほど、こめかみ側のジャンプ効果は減少する。ある実施形態によれば、位置決めするステップで、第一の領域の位置及び/又は度数の増加量は、装用者の選好に応じて決定される。典型的には、装用者の選好は、装用者が審美的問題と光学的品質の問題との間で希望する妥協点の指標を含んでいてもよい。
【0122】
本発明のある実施形態によれば、第一の領域の位置及び/又は度数の増加量は完全にカスタム化できる。
【0123】
例えば、近視の装用者の中には、こめかみ側でのイメージジャンプに関連付けられる審美的外観と、こめかみ側における装用者の処方と度数との差に関連付けられる視覚的性能の喪失とで、異なるトレードオフを選択したいと思う人がいるかもしれない。
【0124】
この目的のために、仮想現実技術を使ってレンズの装用をシミュレートすることにより、そのようなレンズを装用した時に装用者が認識する光学的ぼやけの物理的な現実的視覚的シミュレーションを提供してもよい。このような視覚的シミュレーションはまた、近視の装用者の写真と光線追跡技術を使って、レンズを通して見た時の装用者のこめかみ側の変形を計算することにより、装用者の顔のこめかみ側のジャンプの量を示してもよい。この視覚的シミュレーションは、「店頭」でのバーチャル試着(VTO)ソフトウェアの中に含められてもよい。
【0125】
すると、近視の装用者は、各種のパラメータ(例えば、第一の領域の位置、度数の増加量、又は各種のフレーム)を繰り返し調整し、シミュレーションにより提供される例示に基づいて、自分のニーズを満たすための最善のパラメータのトレードオフを選択できる。
【0126】
本発明による眼用レンズの製造方法は、半完成品レンズに既存の累進設計を使用するステップを含んでいてもよい。このような方法は、
− こめかみ側のジャンプを減少させるために必要な度数に対応する屈折力を有する累進セミフィニッシュトレンズが提供される、セミフィニッシュト累進レンズを提供するステップと、
− セミフィニッシュトレンズが、子午線が0°ではなく90°であり、子午線が、光学レンズが枠入れされ、装用者がまっすぐ前を見た時の視線と交差するように位置付けられる、セミフィニッシュトを位置決めするステップと、
− 子午線の水平位置が、累進がこめかみ側で始まるように決定される、水平に位置決めするステップと、
− セミフィニッシュトレンズの後面が、レンズの度数が装用者の眼科処方と等しく、プリズム屈折力が遠視野を見るための瞳孔の位置においてゼロとなるように加工される、後面を加工するステップと、
を含む。
【0127】
あるいは、眼用レンズはまた、累進面が後面上にある、又は両面が累進面である累進設計を使っても実現できる。デジタル表面処理を使ってこのようなレンズを実現してもよい。
【0128】
以上、本発明を実施形態に関して説明したが、全体的な本発明の概念は限定されない。特に、本発明を少なくとも1つの累進屈折力面を使って説明したが、本発明は二焦点レンズで実施されてもよい。
【0129】
当業者にとっては、あくまでも例として提供され、付属の特許請求の範囲によってのみ決定される本発明の範囲を限定していない上記の例示的実施形態を参照すれば、多くの別の改良や変形が自明であろう。
【0130】
特許請求の範囲において、「〜を含む(comprising)」という単語は他の要素又はステップを排除せず、不定冠詞(a、an)は複数を排除しない。異なる特徴が相互に異なる従属項に記載されているという単なる事実は、これらの特徴の組合せを有利に使用できないことを示しているのではない。特許請求項の中の何れの参照符号も、本発明の範囲を限定しないと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11a
図11b
図12a
図12b
図13