【実施例】
【0104】
実施例1:PRG4がCD44に拮抗してCD44媒介性の炎症経路を阻害する実験的証拠
[00118] ヒトプロテオグリカン4とCD44受容体との相互作用、および炎症促進性サイトカイン誘導性の滑膜細胞増殖に及ぼすこの相互作用の結果を評価するために、以下の実験を実施した。
【0105】
[00119] CD44へのrhPRG4の結合および高分子量ヒアルロン酸(HMWHA)との競合を、直接酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)および表面プラズモン共鳴を使用して評価した。rhPRG4のシアリダーゼ−AおよびO−グリコシダーゼ消化を行って、CD44結合を、ELISAを使用して評価した。リウマチ性関節炎線維芽細胞様滑膜細胞(RA-FLS)を、20、40、および80μg/mLのrhPRG4またはHMWHAの存在下または非存在下で、インターロイキン−1β(IL-1β)または腫瘍壊死因子α(TNF-α)によって48時間刺激して、細胞増殖を測定した。抗CD44抗体(IM7)と同時インキュベートすることによって、CD44の関与を評価した。rhPRG4の抗増殖効果を、IM7の存在下または非存在下でIL−1βまたはTNF−αによるPrg4−/−滑膜細胞の処置後に調べた。
【0106】
[00120] 最初に、変数を正規性および等分散に関して調べた。両方の仮定を満たした変数を、Studentのt−検定、または分散分析(ANOVA)の後に2群の比較および2超の群の比較に関するテューキーの事後検定を使用して統計学的有意性に関して試験した。正規性仮定を満たさなかった変数を、ランクについてマン・ホイットニーのU検定またはANOVAを使用して検定した。統計学的有意性の水準を、α=0.05に設定した。データを、平均値±標準偏差としてグラフ表示する。
【0107】
1A.直接ELISAを使用した、CD44へのrhPRG4、高分子量HA、中分子量HA、およびビトロネクチンの結合
[00121] 高結合マイクロタイタープレート(Corning, Sigma Aldrich, USA)を、PBS緩衝液(ウェルあたり100μL)中で400μg/mLのrhPRG4(Mr≒240KDa)、高分子量HA(HMW HA;Mr≒1,500KDa)(R & D System, USA)、中分子量HA(MMW HA;Mr≒300KDa)(R & D System)およびビトロネクチン(Mr≒75 KDa)(Sigma Aldrich)によって4℃で一晩コーティングした。rhPRG4は、CHO−M細胞(Lubris, Framingham, MA, USA)により産生された完全長の産物である。PBS+0.1%Tween20によって洗浄後、ウェルを2%ウシ血清アルブミン(BSA、300μL/ウェル)によって室温で少なくとも2時間ブロックした。各1μg/mL(ウェルあたり100μL)のCD44−IgG
1Fc(R & D systems)またはIgG
1Fc(R & D systems)をプレートに加えて、室温で60分間インキュベートした。PBS+0.1%Tween20によって洗浄後、抗IgG
1Fc−HRP(Sigma Aldrich)を1:10,000希釈(ウェルあたり100μL)で加えて、室温で60分間インキュベートした。PBS+0.1%Tween20で洗浄後、アッセイを1ステップTurboTMB ELISA試薬(ThermoScientific, USA)を使用して発色させ、450nmでの吸光度を測定した。データは、それぞれ1群あたりウェル3重測定の独立したアッセイ4回の平均値を表す。
【0108】
[00122] CD44−IgG
1Fc融合タンパク質およびIgG
1FcへのrhPRG4、HMWHA、MMWHA、およびビトロネクチンの結合を
図1Aに表す。CD44−IgG
1Fc群における450nmの吸光度は、rhPRG4、HMWHA、およびMMWHAコーティングウェルに関してIgG
1Fc群の吸光度より有意に高かった(p<0.001)。これに対し、ビトロネクチンコーティングウェルではCD44−IgG
1FcとIgG
1Fcとの間に有意差はなかった。
【0109】
[00123] これらのデータは、rhPRG4がCD44に結合して、HMWHAのCD44結合を妨害することを示している。rhPRG4、HMWHAおよびMMWHAは、キメラCD44に対して、極めて低い非特異的結合で特異的に結合する。これに対し、ルブリシンと有意な配列相同性を共有するビトロネクチンは、CD44結合に対していかなる特異性も示さない。rhPRG4がCD44に結合することから、これはCD44のアンタゴニストとして機能して、それによってCD44炎症促進性シグナル伝達を妨害し得る。
【0110】
1B.直接ELISAを使用した、CD44へのrhPRG4、HMWHA、およびMMWHAの濃度依存的結合ならびにCD44への結合に関するrhPRG4とHAとの競合
[00124] CD44へのrhPRG4、HMWHA、およびMMWHAの濃度依存的結合を、400,200、100、20、4、2、および0.1μg/mLの高分子によってマイクロタイタープレートをコーティングすることによって実施した。アッセイは上記の通りに実施した。IgG
1Fcウェルの吸光度の値をCD44−IgG
1Fcウェルの吸光度の値から差し引いて、補正されたCD44 IgG
1Fc吸光度値を400μg/mLのrhPRG4群の値に対して標準化して、データをCD44への結合百分率として表記した。組換えCD44へのrhPRG4、HMWHA、およびMMWHAの濃度依存的結合を
図1Bに表す。組換えCD44結合百分率は、400、100、20、4、および2μg/mL濃度のHMWHAまたはMMWHAコーティングウェルと比較して、rhPRG4コーティングウェルにおいて有意に高かった(p<0.001)。さらに、組換えCD44結合百分率は、200μg/mL濃度のMMWHAコーティングウェルと比較してrhPRG4コーティングウェルにおいて有意に高かった(p<0.001)。0.1μg/mL濃度では、rhPRG4、HMWHA、およびMMWHAコーティングウェルにおけるCD44結合百分率に有意差はなかった。データはそれぞれ1群あたりウェル3重測定の独立したアッセイ4回の平均値を表す。
【0111】
[00125] CD44への結合に関するrhPRG4とHMWHAまたはMMWHAのいずれかとの間の競合を評価するために、マイクロタイタープレートを1μg/mL(100μL/ウェル)のCD44−IgG
1FcまたはIgG
1Fcのいずれかによって4℃で一晩コーティングした。次に、ウェルをPBS+0.1%Tween20によって洗浄して、2%BSA(300μL/ウェル)を使用して室温で少なくとも2時間ブロックした。5μg/mLのrhPRG4、またはrhPRG4(5μg/mL)と0.01、0.05、0.25、1、5、もしくは50μg/mLのHMWHAもしくはMMWHAとの組み合わせをウェルに加えて(100μL/ウェル)、室温で60分間インキュベートした。PBS+0.1%Tween20によって洗浄後、ルブリシン特異的モノクローナル抗体(Mab9G3)を1:1000(100μL/ウェル)で加えて、室温で60分間インキュベートした。PBS+0.1%Tween20によって洗浄後、ヤギ抗マウスIgG−HRP(Thermo Scientific)の1:1,000希釈液を加えて(100μL/ウェル)、室温で60分間インキュベートした。アッセイは上記の通りに行った。IgG
1Fcウェルの吸光度の値を、CD44−IgG
1Fcウェルの吸光度の値から差し引いて、rhPRG4+HA群の補正吸光度の値をrhPRG4群の吸光度の値に対して標準化して、データをCD44への結合百分率として表記した。データは、それぞれ1群あたりウェル3重測定の独立したアッセイ4回の平均値を表す。
【0112】
[00126] 組換えCD44への結合におけるrhPRG4とHMWHAまたはMMWHAとの間の競合を、
図1Cに表す。0.05、0.25、1、5および25μg/mLのHMWHAまたはMMWHAは、CD44へのrhPRG4の結合を有意に低減させた(p<0.05)。
【0113】
[00127] これらのデータは、rhPRG4が、HMWHAと同等の親和性で濃度依存的にCD44に結合することを証明する。さらに、rhPRG4は、CD44との結合に関してHMWHAと競合する。過剰量のHMWHAまたはMMWHAの存在は、CD44へのrhPRG4の結合をおよそ50%低減させた。これらのデータは、rhPRG4がCD44のアンタゴニストであり、したがってCD44炎症促進性シグナル伝達を妨害する能力を有することを示唆している。
【0114】
1C.表面プラズモン共鳴を使用した、CD44へのrhPRG4の濃度依存的結合およびrhPRG4とHMWHAとの間の競合
[00128] rhPRG4のCD44−IgGFcへの結合を、表面プラズモン共鳴(Biacore T100, GE Healthcare Lifesciences, NJ, USA)を使用して調べた。
図1Cを参照されたい。ヒト抗体捕捉キット(GE Life Sciences)を使用して一連のSチップを官能化して、CD44−IgG
1FcまたはIgG
1Fcのいずれかを、フローセル1(Fc
1)およびフローセル2(Fc
2)における官能化チップの表面にそれぞれ結合させた。rhPRG4を、濃度300、250、200、150、100、および50μg/mLで30μL/分で8分間注入した後、0.1%HEPES、1.5M NaCl、30mM EDTA、および0.5%P20(GE Life Sciences)を使用して10分間解離させた。チップの表面を、各サイクルの終了時に3M MgCl
2の1分間のパルスによって再生した。各検体濃度を二連で注入した。得られた曲線を二重に参照した(すなわち、Fc
2-Fc
1、0μg/mL曲線を差し引いた後)。結合速度論および結合親和性は、BiaEvaluationソフトウェアによって1:1結合/コンフォメーショナル変化モデル、または定常状態平衡をそれぞれ使用して決定した。CD44への結合に関するrhPRG4とHMWHAの間の競合を調べるために、rhPRG4を、上記のように0〜300μg/mLの範囲の濃度で注入した。解離相の終了後、HMWHAを50μg/mL(30μL/分)で1分間注入した。次に、CD44へのrhPRG4(様々な濃度)の二重参照結合シグナルを、rhPRG4注入後のCD44へのHMWHAの結合によって生成された結合シグナルに対してプロットした。
【0115】
[00129] 組換えCD44へのrhPRG4の結合を、表面プラズモン共鳴を使用して確認した。rhPRG4は、固定されたCD44−IgG
1Fcに対して濃度依存的会合および解離を示し(
図2A)、rhPRG4の分子量240kDaに基づいて、見かけのK
d≒38nMであった。rhPRG4は、HMWHA結合シグナル強度(x−軸)とrhPRG4結合シグナル強度(y−軸)の間の反比例関係によって示されるように、組換えCD44へのHMWHAの結合を妨害した(
図2B)。
【0116】
[00130] これらのデータは、rhPRG4がHMWHAと同等の親和性で濃度依存的にCD44に結合することを証明している。さらに、実施例1Bおよび1Cに証明されるように、CD44に結合したrhPRG4の存在は、HMWHAがCD44に結合するのを濃度依存的に防止し、rhPRG4およびHMWHAが、受容体上の共通の結合部位を共有することを示し得る。HASF濃度がルブリシンの濃度のほぼ10倍高い関節の環境においても、本明細書において示される競合的結合データに基づくと、ルブリシンは、滑膜細胞および軟骨細胞表面上のCD44に結合して、HAの存在下でもCD44媒介性生物機能を発揮することができ、それによってそうでなければ炎症を促進するメディエータを妨害することによって関節の恒常的役割を提供すると予想される。
【0117】
1D.CD44へのrhPRG4の結合に及ぼすムチンドメイングリコシル化の除去の影響
[00131] ルブリシンの境界潤滑能は、O−結合(β1−3)Gal−GalNAcオリゴ糖によって媒介される(Jay et al., Glucoconj J 2001; 18(10):807-15)。ノイラミニダーゼとβ1,3,6ガラクトシダーゼ消化とを組み合わせると、ルブリシンの境界潤滑能が50%低減した(Jay et al., Glucoconj J 2001; 18(10):807-15)。RASF試料から単離されたルブリシンは、増加したコア1グリコシル化構造を含有し、L−セレクチンリガンドの一部であると提唱される硫酸化エピトープを示す(Estrella et al., Biochem J 2010; 429(2):359-67)。さらに、RASFからのルブリシンは、グリコシル化依存的にL−セレクチンに結合して、RAを有する患者の炎症を有する滑膜およびSFに動員された多形核顆粒球を覆う(Jin et al. J Biol Chem 2012; 287(43):35922-33)。
【0118】
[00132] rhPRG4を、シアリダーゼA(Prozyme, USA)、O−グリコシダーゼ(New England Biolabs, USA)またはシアリダーゼ−AとO−グリコシダーゼの組み合わせを使用して、37℃で16時間消化した。シアリダーゼA消化において、酵素(1U/200μL)12μLを、rhPRG4に総反応容積180μLおよびrhPRG4の最終濃度300μg/mLとなるように加えた。O−グリコシダーゼ消化において、酵素(4千万単位/mL)4.8μLをrhPRG4に総反応容積180μLおよびrhPRG4の最終濃度300μg/mLとなるように加えた。シアリダーゼ−AおよびO−グリコシダーゼ消化において、酵素を上記と同じ容量で使用して、上記と同じ総反応容積および最終rhPRG4濃度でrhPRG4と共にインキュベートした。rhPRG4の見かけの分子量に及ぼすシアリダーゼ−AおよびO−グリコシダーゼ消化の効果を、4〜12%Bis−Trisゲル(NuPage, life technologies, USA)を使用して、SDS−PAGEによって決定した。rhPRG4または酵素消化rhPRG4の全量20μLを還元条件(200mVで60分間)で泳動させた後、Gelcode Blue Stain(Thermo Scientific, USA)を使用して染色した。酵素消化されたrhPRG4のCD44への結合を、上記の直接ELISAアプローチおよび30μg/mLのrhPRG4コーティング濃度を使用して非消化rhPRG4と比較した。データは、それぞれ1群あたりウェル3重測定の独立した実験4回の平均値を表す。
【0119】
[00133] シアリダーゼ−A消化によって、
図3Aに示されるように、無処置対照と比較してCD44へのrhPRG4の結合百分率の有意な増加(p<0.001)が起こった。同様に、O−グリコシダーゼ消化によって、無処置対照と比較してCD44へのrhPRG4の結合百分率の有意な増加(p=0.008)が起こった。シアリダーゼ−A消化およびO−グリコシダーゼ同時消化rhPRG4の間の百分率CD44結合に有意差はなかった(p=0.105)。シアリダーゼ−AおよびO−グリコシダーゼ消化rhPRG4のCD44への結合百分率は、シアリダーゼ−A消化rhPRG4(p=0.007)、O−グリコシダーゼ消化rhPRG4(p<0.001)、および無処置対照(p<0.001)より有意に高かった。rhPRG4をシアリダーゼ−AおよびO−グリコシダーゼによって消化すると、rhPRG4の見かけの分子量はおよそ200kDaに低減された(
図3B)。
【0120】
[00134] シアル酸の除去およびO−グリコシル化は、rhPRG4によるCD44結合を有意に増加させた(p<0.001)。シアリダーゼ−AおよびO−グリコシダーゼ処置によって、個々に、CD44受容体へのrhPRG4の結合が増強した。累積的なシアリダーゼ−AおよびO−グリコシダーゼ消化によって、個々の酵素消化と比較してrhPRG4によるCD44へのさらにより有意な結合が起こった。シアリダーゼ−Aは、糖タンパク質から分岐および非分岐の末端シアル酸残基を切断するが、O−グリコシダーゼは、糖タンパク質からのコア1および2の除去を触媒する。CD44結合の増強は、コア1グリコシル化もシアル酸末端残基のいずれもCD44へのrhPRG4の結合にとって必要ではないことを示している。したがって、rhPRG4タンパク質に及ぼすシアリル化およびコア1グリコシル化のレベルは、PRG4のCD44への結合能にとって必須ではない。これに対し、これらの残基の除去によって、rhPRG4の半剛性の棹状構造のコンフォメーションの変化が起こり、それによってCD44との相互作用が増強され得る。
【0121】
1E.炎症促進性サイトカイン誘導性のリウマチ性関節炎線維芽細胞様滑膜細胞の増殖およびrhPRG4またはHMWHA処置の影響
[00135] RAを有する患者の滑液は、かなりの量の様々なCD44アイソフォームを含有し、これらは一般的にOAまたは正常な滑膜と比較して多量に存在する(Naor et al., Arthritis Res Ther 2003;5(3):105-15; . Grisar et al., Clin Exp Rheumatol 2012; 30(1):64-72)。リウマチ性関節炎線維芽細胞様滑膜細胞(RA-FLS)は、RAを有する患者の滑液の浸潤性において重要な役割を果たしている。独自のCD44変種(CD44v7/8)の発現は、in vitroでのRA−FLSの増殖(Wibulswas et al., Am J Pathol 2000;157(6):2037-2044)に関与しており、細胞表面CD44に結合してその後受容体が切断される薬剤は、実験的関節炎モデルにおいて効能を示している(Runnels et al. Adv Ther 2010; 27(3):168-80)。
【0122】
[00136] これらの実験を実施するために、継代3〜6回目のリウマチ性関節炎線維芽細胞様滑膜細胞(RA-FLS;Cell Applications, USA)を使用した。滅菌96ウェルプレートにおいて、RA−FLS(80μL中に細胞5,000個/ウェル)を、1%FBSおよび1mMピルビン酸塩を添加したDMEM中で培養して、最終濃度20、40、または80μg/mLのrhPRG4またはHMWHAの非存在下または存在下で、20ng/mL組換えヒトインターロイキン−1β(IL-1β;R & D systems)、または5ng/mL腫瘍壊死因子α(TNF-α;R & D systems)によって37℃で48時間刺激した。各ウェルの総容積は200μLであった。炎症の指標である細胞増殖は、CellTiter 96 AQueous1ボトル溶液細胞増殖アッセイ(MTS; Promega, USA)を使用して決定し、490nmでの吸光度を決定した。データは、無処置対照RA−FLSと比較した490nmでの吸光度の倍変化の数値として表す。データは、1つの処置あたり少なくともウェル3重測定の独立した実験3回の平均値を表す。CD44のrhPRG4またはHMWHAの効果への寄与を評価するために、RA−FLSを上記のIL−1βまたはTNF−αで刺激した。rhPRG4またはHMWHAによる処置は、全てのCD44アイソフォームに対して保存されたエピトープを認識するCD44中和抗体であるIM7(Abcam, USA)(Samson et al., Exp Eye Res, 2014; 127C:14-19)の1:200の最終希釈液の非存在下または存在下で80μg/mLの最終濃度で実施した。各ウェルの総容量は200μLであった。実験群の細胞増殖を上記のように決定して、データを、無処置対照RA−FLSと比較した490nm吸光度の倍変化の数値として表記する。データは、1つの処置あたりウェル少なくとも3重測定の独立した実験3回の平均値を表す。
【0123】
[00137] 48時間の間にIL−1βおよびTNF−αによって誘導されたRA−FLS増殖を、
図4Aに示す。40および80μg/mLのrhPRG4またはHMWHAによる処置は、IL−1β刺激によるRA−FLS増殖を有意に抑制した(p<0.05)。20、40、および80μg/mLのrhPRG4による処置は、TNF−α刺激によるRA−FLS増殖を有意に抑制した(p<0.05)。HMWHAによる処置では、TNF−αによるRA−FLS増殖の抑制が起こらなかった。
図4Bに示すように、rhPRG4+IM7またはHMWHA+IM7によって処置したIL−1β刺激RA−FLSと、IL−1β刺激RA−FLSとの間の吸光度の変化に有意差がなかったことから示されるように、IM7抗CD44抗体による同時処置は、IL−1β刺激RA−FLSに及ぼすrhPRG4およびHMWHAの効果を逆転させた。同様に、IM7抗体による同時処置は、TNF−α誘導性RA−FLS増殖に及ぼすrhPRG4の効果を逆転させた。
【0124】
[00138] 40および80μg/mLのrhPRG4およびHMWHAは、IL−1β誘導性RA−FLS増殖を有意に抑制した(p<0.05)。20、40、および80μg/mLのrhPRG4は、TNF−α誘導性RA−FLS増殖を有意に抑制した(p<0.05)。CD44の中和は、IL−1βおよびTNF−α刺激RA−FLSに及ぼすrhPRG4の効果、ならびにIL−1β刺激RA−FLSに及ぼすHMWHAの効果を逆転させた。
【0125】
[00139] IL−1βおよびTNF−αは、RA−FLS増殖を誘導し、TNF−α刺激ではより大きい細胞増殖が観察され、他の公表された報告(例えば、Lacey et al. Arthritis Rheum 2003;48(1):103-109)と一致する。rhPRG4は、IL−1βおよびTNF−α誘導性RA−FLS増殖を、CD44結合を必要とするメカニズムで阻害した。rhPRG4およびCD44相互作用の下流の効果は、NF−κBの核移行の阻害である。この細胞増殖アッセイにおいて、HMWHAは、IL−1β誘導性RA−FLS増殖を阻害したが、TNF−α誘導性増殖を阻害しなかった。rhPRG4処置と同様に、HMWHAの効果は、CD44抗体によって逆転され、この効果の媒介におけるCD44の役割を示している。
【0126】
[00140] これらのデータは、rhPRG4がIL−1βまたはTNF−α刺激後のRA−FLSに対して、抗増殖、抗炎症効果を発揮することを示している。興味深いことに、この抗増殖効果を証明するrhPRG4濃度は、一般的に、境界潤滑を提供するために必要な最適なrhPRG4濃度より低い。rhPRG4のこの抗増殖効果はCD44相互作用によって媒介され、下流のNF−κBの核移行が阻害され、このことは治療用に適用したルブリシンがCD44依存的メカニズムを通して有害な細胞タイプの増殖に及ぼす炎症促進性サイトカインの効果を緩和し得ることを示唆している。
【0127】
1F.RA−FLSのTNF−α刺激後のNF−κBの核移行に及ぼすrhPRG4処置の効果
[00141] RA−FLS(細胞400,000個/ウェル)を培養してTNF−α(5ng/mL)によって刺激して、rhPRG4(200μg/mL)または市販のNF−κBの移行阻害剤MG132(3μM;Tocris Bioscience)によって無血清培地中で24時間処置した。細胞を収集して、市販のキット(Thermo scientific)を使用して核抽出を行った。総タンパク質を、マイクロビシンコニン酸(BCA)キット(Thermo scientific)を使用して測定し、および各実験群の核抽出物3μgを使用した。核抽出物中の、NF−κBのp50サブユニットを、市販のNF−κBのDNA結合アッセイキット(Abcam)を使用して検出した。データは、無処置対照と比較してNF−κBの核内レベルの倍変化の数値として表す。rhPRG4によるNF−κB移行の阻害がCD44依存的であるか否かを評価するために、上記の実験をIM7 CD44抗体(1:1,000希釈)の存在下または非存在下で繰り返した。データは、処置あたりウェル少なくとも3重測定の独立した実験3回の平均値を表す。
【0128】
[00142] TNF−α処置によって、無処置対照と比較して有意なNF−κB核移行が起こった(p<0.001)(
図4C)。rhPRG4またはNF−κB移行阻害剤MG132による処置によって、TNF−α処置RA−FLSと比較してNF−κB核移行が有意に低減された(p<0.001)。TNF−α+rhPRG4+IM7群のNF−κB核移行は、TNF−α+rhPRG4群のNF−κB移行より有意に高く(p<0.001)、TNF−α群とは有意差がなかった。したがって、rhPRG4の抗増殖抗炎症効果は、CD44相互作用によって媒介され、下流のNF−κB核移行が阻害され、このことは、rhPRG4がCD44依存的メカニズムを通してNF−κB核移行の炎症促進効果を直接低減する能力を有することを示唆している。
【0129】
1G.Prg4−/−およびPrg4+/+滑膜細胞の単離ならびにCD44免疫組織化学
[00143] 滑膜組織をPrg4−/−およびPrg4+/+雄性マウス(8〜10週齢、遺伝子型あたり5〜8匹)から採取して、滅菌HBSS緩衝液中でプロナーゼ酵素(2mg/mL;Sigma Aldrich)によって37℃で振とうさせながら30分間消化した。この後、I型コラゲナーゼ(1mg/mL;Sigma Aldrich)によって37℃で振とうさせながら4時間消化した。DMEM+10%FBSを使用して酵素反応を停止させた。細胞をDMEM+10%FBS中で増殖させて、Prg4−/−滑膜細胞を継代2〜4回目の間に使用し、Prg4+/+滑膜細胞は、2回目の継代で使用した。
【0130】
[00144] Prg4−/−およびPrg4+/+滑膜細胞を、チャンバースライドガラス(Thermo scientific)において増殖させた。細胞を4%ホルムアルデヒドで15分間固定して、PBS緩衝液によって2回洗浄した。細胞を0.2%Triton X−100によって10分間透過性にして、PBS緩衝液によって3回洗浄した。細胞を2%BSAによって30分間ブロックした。滑膜細胞をIM7抗CD44抗体(1:200希釈)と共に4℃で一晩インキュベートした。PBSによって3回洗浄後、滑膜細胞をAlexa Fluor 488ヤギ抗ラットIgG(Life Technologies)の1:400希釈液と共に暗所で1時間インキュベートした。全てのインキュベーションは、特に明記されていない限り室温で実施した。PBSによって5分間洗浄後、DAPIを含有するVectashield包埋培地(Vector Labs, Burlingame, CA, USA)を加えた。細胞を、NIS Elementsイメージングソフトウェアを使用してNikon Eclipse90i蛍光顕微鏡によって撮像した。
【0131】
[00145] Prg4−/−およびPrg4+/+滑膜細胞のCD44免疫細胞化学を
図5Aに示す。CD44の局在およびCD44エピトープが占有されていないことを示す強い緑色蛍光が、Prg4−/−滑膜細胞に関して観察された。あるいはPrg4+/+滑膜細胞に関しては緑色蛍光は全く観察されないかまたはかすかに観察され、ほとんどのCD44受容体(エピトープ)が占有されているか、またはネイティブのPrg4発現によって拮抗されたことを示している。IL−1βおよびTNF−α処置によって、無処置Prg4−/−滑膜細胞と比較してPrg4−/−滑膜細胞の増殖の有意な増加が起こった(p<0.001)(
図5B)。これに対し、IL−1β刺激のみが、無処置Prg4+/+滑膜細胞と比較してPrg4+/+滑膜細胞増殖の有意な増加を示した(p<0.001)。さらに、Prg4−/−滑膜細胞のL−1βおよびTNF−α誘導性増殖の増加比は、Prg4+/+滑膜細胞のサイトカイン誘導性増殖の増加比より有意に高かった(p<0.001)。
【0132】
[00146] rhPRG4による処置は、Prg4−/−滑膜細胞のIL−1βおよびTNF−α誘導性増殖を有意に阻害した(p<0.001)(
図5C)。IM7と同時に処置すると、rhPRG4の効果は逆転された。このことは、IL−1β+rhPRG4群およびTNF−α+rhPRG4群とそれぞれ比較して、IL−1β+rhPRG4+IM7群およびTNF−α+rhPRG4+IM7群におけるPrg4−/−滑膜細胞増殖の有意な増加(p<0.001)によって例証される。TNF−α+rhPRG4+IM7群とTNF−α群との間にPrg4−/−滑膜細胞増殖の有意差はなかった。これに対し、Prg4−/−滑膜細胞増殖は、IL−1β+rhPRG4+IM7群よりIL−1β群において有意に高かった(p<0.001)。
【0133】
[00147] Prg4−/−マウスは、Prg4+/−およびPrg4+/+マウスと比較して表面フィブリル化および関節摩擦係数の増加によって証明されるように軟骨変性の初期兆候を示す(Jay et al., Arthritis Rheum, 2007; 56(11):3662-9)。さらに、Prg4−/−マウスは年齢をマッチさせたPrg4+/+軟骨と比較して関節軟骨の活性化カスパーゼ−3軟骨細胞染色の増加を示し(Waller et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2013; 110(15): 5852-7)、およびPrg4−/−マウスでは滑膜過形成および過増殖が明白であるが、Prg4+/−およびPrg4+/+マウスでは明白な滑膜過形成は認められない(Rhee et al., J. Clin. Invest, 2005; 115(3):622-31)。Prg4−/−滑膜細胞は、Prg4+/+滑膜細胞と比較して強いCD44染色を示す。さらに、炎症促進性サイトカインは、Prg4−/−滑膜細胞の有意な増殖を誘導したが、Prg4+/+滑膜細胞に対しては認識可能な効果を示さなかった。併せて考慮すると、これらの知見は、RA−FLSの表現型に類似する増殖性の滑膜細胞表現型を有するPrg4−/−関節において炎症が進行中であることを示している。rhPRG4は、サイトカイン誘導性のPrg4−/−滑膜細胞増殖を阻害し、この効果は、rhPRG4−CD44相互作用によって媒介された。CD44を中和すると、TNF−α刺激後のrhPRG4の抗増殖効果を完全に逆転し、IL−1β刺激後のrhPRG4の抗増殖効果を部分的に逆転した。Prg4−/−滑膜細胞のTNF−αおよびIL−1β刺激の状況におけるrhPRG4−CD44相互作用に関連するこの差は、おそらくrhPRG4のCD44との相互作用能とは無関係に、rhPRG4が他のシグナル伝達経路をモジュレートする能力のためであり得る。したがって、rhPRG4は、Prg4−/−滑膜細胞のIL−1βおよびTNF−α誘導性増殖を、CD44を伴うメカニズムで阻害し、したがって、CD44シグナル伝達の炎症促進活性を下方調節することができるCD44のアンタゴニストである。
【0134】
実施例2.ルブリシンは、ヒト全血系における炎症性サイトカインの産生をモジュレートする
[00148] リポ多糖(LPS)は、グラム陰性菌の外膜に見出され、動物において強い免疫炎症応答を誘発する。炎症性サイトカインの産生に及ぼすLPSチャレンジの効果を、様々なサイトカインの生成およびその産生のモジュレーションのプロファイルを調べるためにBiochip Array技術を使用して、クエン酸加ヒト全血において試験した。IL2、IL4、IL6、IL8、IL10、VEGF、IFNg、TNFa、IL1a、IL1b、MCP1、およびEGFの生成を、試料に食塩水(1〜10の比率)および10μg/mL LPSを添加したクエン酸加ヒト全血試料において37℃で60分間試験した。これらの混合物を遠心沈降させて、上清の血漿を、Randox Investigator Biochipリーダー上の高感度サイトカインアレイを使用して、14個の炎症バイオマーカーに関して分析した。これらの試験は二連で行い、表および図の形に要約した。
図8A〜Bに示されるように、リポ多糖を1:10希釈で全血に加えると、明記された条件下で、炎症性サイトカインIL−4、IL−6、IL−8、IL−10、VEGF、TNF−α、IL−1β、およびMCP−1の産生が増加した。IL2、IFNgおよびIL1bに変化は認められなかった。
図8Bは、様々なパラメータのパーセント変化を示し、IL6、IL8、VEGFおよびTNFaの顕著な増加を明らかに証明する。
【0135】
[00149] 同じアプローチを利用して、全血中の炎症性サイトカインの生成に及ぼすルブリシンの効果も、類似の実験設定を使用して試験した。これらの試験において、正常な健康なボランティアから採取したクエン酸加全血試料にルブリシンを添加することによって、ルブリシン(0.57mg/mL)の効果を調べた。試料を、食塩水対照と共に試料中の炎症性サイトカインレベルに関して、60分間インキュベートしてプロファイルを調べた。全血を遠心沈降させて、血漿を得て、これを、高感度サイトカインアッセイを使用して、様々な炎症性サイトカインに関してプロファイルを調べた。
図9A〜Bに示されるように、0.57mg/mLルブリシンを全血に添加すると、IL−4、IL−6、IL−8、IL−10、VEGF、TNF−α、IL−1β、MCP−1、およびEGFの産生が減少した。最も顕著な減少は、VEGF、IL8、IL6、およびIL10で認められた。
【0136】
[00150] LPS媒介性炎症性サイトカイン生成に及ぼすルブリシンの効果を、Biochip Array技術を使用して試験した。これらの試験において、10ng/mLのLPS単独および10ng/mL LPSの添加後に0.57mg/mLルブリシンを添加したクエン酸加全血における様々な炎症性サイトカインの生成を比較した。試料を全て、60分間インキュベートして、遠心沈降させて血漿を得た。この血漿を、Biochip Arrayを使用して炎症性サイトカインに関して分析した。LPSを全血に1:10希釈で添加した。
図10A〜Bに示されるように、ルブリシンの存在により、IL−4、IL−6、IL−8、IL−10、VEGF、TNF−α、IL−1β、MCP−1、およびEGFの減少が起こったが、上記のようにLPS単独の存在ではこれらのサイトカインのそれぞれの産生の増加が起こった。
図10Bに示すように、ルブリシンによって、EGF、IL10、VEGF、MCP1、IL1b、およびTNFレベルの顕著な減少が起こった。これらのデータは、ルブリシンの添加が、LPS媒介性の炎症性サイトカイン生成を有意に妨害することを示唆しており、ルブリシンが抗炎症特性を有することを示している。
【0137】
[00151] TNF−α媒介性炎症性サイトカイン生成に及ぼすルブリシンの効果をBiochip Array技術を使用して試験した。組換えTNF−αを全血における炎症性サイトカイン生成の誘因として使用した。様々なサイトカインのTNF−α媒介性の生成に及ぼすルブリシンの効果を試験した。濃度100mg/mLのTNF−αのみを全血に添加して、これを37℃で60分間インキュベートした。TNF−αは1:10希釈で全血に添加した。様々なサイトカインのTNF−α媒介性生成に及ぼすルブリシンのモジュレーション性効果を、TNF−αを添加する直前に0.57mg/mLルブリシンを全血に添加することによって試験した。60分後、遠心沈降によって血漿を得て、Randox Biochipアレイを使用して炎症性サイトカインに関して分析した。
図11A〜Bに示されるように、TNF−α単独のチャレンジではこれらのそれぞれのサイトカインが産生されたにもかかわらず、ルブリシンの存在によって、IL−6、IL−8、IL−10、VEGF、TNF−α、IL−1β、およびEGFが減少した。
図11Bは、ルブリシンが、10〜100%の範囲でサイトカインレベルを減少させたことを示している。TNF−αによって刺激されたサイトカイン発現の最も劇的な減少は、ルブリシンの非存在下での刺激と比較して刺激されたIFN−γおよびTNF−α(ルブリシンは、明らかにTNF−α産生の陽性のフィードバックループを阻止した)の低減であることが見出された。これらのデータは、ルブリシンの投与がTNF−α媒介性炎症性サイトカイン生成を有意に妨害することを示唆しており、ルブリシンが抗炎症特性を有することを示している。
【0138】
[00152] 組換え組織因子(TF)媒介性炎症性サイトカイン生成に及ぼすルブリシンの効果を、Biochip Array技術を使用して試験した。これらの試験において、リコンビプラスチン銘柄(IL Laboratories)の組織因子を、ヒト全血における炎症性サイトカインの生成を誘発するために使用した。組織因子を全血に添加する前に0.57mg/mLルブリシンを添加することによってルブリシンの効果を試験した。組織因子単独を陽性対照として使用した。血液試料を遠心沈降させて、血漿を回収した。この血漿を、Randox Biochipアレイにおいて炎症性サイトカインプロファイルに関して調べた。TFは、全血に1:10希釈で添加した。
図12A〜Bに示されるように、ルブリシンの存在によって、IL−6、IL−8、VEGF、TNF−α、IL−1α、IL−1β、MCP−1、およびEGFが減少したが、TF単独によるチャレンジによって、これらのそれぞれのサイトカインの産生が起こった。
図12Bに示されるように、ルブリシンは、組織因子添加試料においてTNF−αおよびVEGFレベルの顕著な減少を生じた。これらのデータは、ルブリシンの投与がTF媒介性炎症性サイトカイン生成を有意に妨害することを示唆しており、ルブリシンが抗炎症特性を有することを示している。
【0139】
[00153] これらの試験は、ルブリシンが、細菌リポ多糖(LPS)、TNF−α、および組織因子を添加した全血において様々な炎症性サイトカインの生成を阻害することができることを示している。これらの作用物質は全て、炎症のメディエータである。このように、ルブリシンは、広く多様なメディエータによる炎症性サイトカインの生成を下方調節することができる。
【0140】
実施例3.ルブリシンはin vivoで炎症促進性サイトカインのレベルを低減する
[00154] ルブリシンが、in vivoで炎症促進性サイトカインレベルをモジュレートできるか否かを決定するために、ラットモデルを使用した。ラット9匹に手術を行って半月板を不安定化させた(DMM手術)。術後7日目に、それぞれのラットに用量200μg/kgのルブリシンを1回関節内投与した。対照ラットには、等量の食塩水を注射した。試験マウスから採取した血清試料中のサイトカインレベルを、手術を受けたが、術後にルブリシンを投与しなかった対照マウスと比較した。ルブリシンの用量を投与した3週間後に試料を採取して、Luminex Multiplexプラットフォームを使用して分析した。結果を
図13に示し、EPO、IL−13、IL−10、IL−18、IL−1α、IL−2、MCSF、IL−1β、IL−4、IFN−γ、MIP−3α、GMCSF、IL−7、TNF−α、VEGF、MCP−1、IL−5、G−CSF、RANTES、IL−6、GRO、IL−17α、およびIL−12p70に関して測定されたレベルを示す。IL−18、MCSF、MCP−1、RANTES、およびGROのレベルは全て、食塩水単独を注射されたラットと比較して、ルブリシンを投与したラットで低減された。より具体的には、炎症性サイトカインのこのパターンは、LPSおよびTFメディエータ(一般的にこのモデルで上方調節されなかった)のTNF−α/IL−6/IL−8優勢型プロファイルとは異なったことから、このことは、ルブリシンの広い抗炎症効果を示している。それにもかかわらず、ルブリシンは、in vivoで炎症促進性サイトカイン産生を有意に低減することができた。
【0141】
実施例4.ヒト骨関節炎滑膜細胞によって分泌されたサイトカインレベルに及ぼすルブリシンの効果
[00155] 滑膜液細胞を正常な患者および骨関節炎(OA)患者から得て、免疫細胞の枯渇後にCD90+細胞を精製した。細胞を10,000個/ウェルで播種して、DMEM、熱不活化HycloneFBS(10%)、およびAnti−Anti(1%)を含有する培地中に浮遊させた。アッセイは、細胞浮遊液(細胞+培地)180μL、およびリガンド20μLを全量200μLとして含有した。組換えルブリシン(rhPRG4)を90μg/mLの濃度で細胞に導入して、陰性対照はPBSであった。プレートを5%CO
2、37℃で24時間インキュベートした後、上清をLuminex Multiplexプラットフォームによるサイトカイン分析のために収集した。
図14A〜Bに示すように、ルブリシンをPBS条件と比較すると、正常な細胞は、サイトカイン反応にいかなる変化も示さなかった。しかし、OA細胞は、ルブリシンに曝露されるとFGF−2およびIL−1Raサイトカインの下方調節を示した。したがって、本明細書において試験した骨関節炎の細胞などの、すでに炎症応答を示している細胞においても、ルブリシンの投与は、これらの細胞から発現された炎症促進性サイトカインレベルを低減させる能力を有する。
【0142】
実施例5.脳損傷の処置
[00156] 頭部外傷の際には、しばしば脳組織の挫傷および血管完全性の破壊が起こり、それによってくも膜下出血および/または硬膜下血腫が起こる。その結果、ニューロンが失われて、脳機能障害が起こる。さらに、CVAおよびTIAでは、1つまたは複数の血管内凝固が形成され、遮断の下流の脳の部分においてニューロンを含む脳細胞への酸素および栄養供給が遮断される。このことによってもニューロンの破壊が起こり、それによって脳機能が障害される。損傷に対する脳の免疫応答は、炎症促進性メディエータの産生の増加および損傷領域への白血球の動員を伴う。このことは、「半影」と称される、損傷部位周囲の脳の領域におけるニューロンの損傷に関与して、脳の損傷を悪化させる。神経炎症は、二次損傷の重要なメカニズムの1つであり、外傷後神経炎症が外傷性脳損傷後に起こる神経損傷に有意に関与することは十分に確立されている。そのような脳損傷を制限する1つの方法は、損傷後短期間(時間)での薬剤の投与であり、それによって神経炎症を低減させ、結果としての神経損傷を低減させる。したがって、本発明の1つの実施形態において、ルブリシンとしても公知であるrhPRG4は、脳損傷を制限する手段として、脳における圧を軽減するために血管を通してまたは手術の際に全身投与することができる。そのような処置の根拠は、以下に示される結果によって裏付けられる。
【0143】
[00157] 制御式皮質衝撃を伴う確立された脳損傷モデルを使用してラットに外傷性脳損傷を作製したおよそ1時間後に、rhPRG4をおよそ2.5mg/Kgの用量で試験ラットに静脈内投与した。対照ラットには、通常の食塩水(0.9%NaCl)を静脈内に投与した。1日後、脳を摘出して、外傷後病変周囲の大脳皮質試料を、ウェスタンブロッティングを使用して分析した。分析から、rhPRG4が、対照と比較して炎症促進性メディエータの外傷後産生を低減することが証明された。
【0144】
[00158] ガレクチン3は、その脳の発現が外傷性脳損傷後に急速に増加して長期間にわたって高レベルで維持されるが、これは74%下方調節された。正常な食塩水処置ラットと比較すると、rhPRG4処置ラットでも、損傷した脳実質への単球の外傷後流入の程度の60%低減が観察され、rhPRG4はまた、マトリクスメタロプロテナーゼ−9の外傷後合成を実質的に(94%)減弱させて、プロマトリクスメタロプロテナーゼ2のその酵素的活性型への変換を(64%)阻害した。さらに、rhPRG4は、外傷性脳組織におけるアルブミンレベルを評価することによって評価した血液脳関門の透過性を80%低減させた。
【0145】
[00159] 蛍光標識rhPRG4を注射すると、それが脳の損傷領域の脳実質に入ることが示されたが、これは損傷を受けていない脳の領域には全く存在しない。単球細胞株THP−1を伴うin vitro試験の結果と共に、これらの知見は、rhPRG4が、浸潤性の炎症細胞の走化性活性を直接阻害することによって、ならびに炎症促進性メディエータの産生およびシグナル伝達を省略することによって、外傷後神経炎症の程度を制限することを示している。
【0146】
[00160] このように、rhPRG4は、脳の損傷領域を選択的に標的として、オフターゲット薬理学的効果の可能性を低減させる。組換えhPRG4は、炎症促進性メディエータの外傷後産生および炎症細胞の流入を低減させることによって、外傷性脳損傷によって引き起こされる神経炎症の程度を高い効能で制限する。同様に、rhPRG4は、血液脳関門を安定化する独自の能力を示す。脳損傷において観察される血液脳関門の機能障害は、損傷の急性期におけるニューロンの死に関与するのみならず、損傷を受けた脳における進行性の神経変性変化、その結果としての神経学転帰の不良に至ることから、この新規rhPRG4特性の発見は、脳損傷の処置にとって非常に重要である。
【0147】
実施例6.炎症性腸疾患の処置
[00161] 炎症性腸疾患は、活性化T細胞のサイトカイン媒介性の動員によって特徴付けられ、それによって酸化的損傷および腸管上皮の摩耗が起こる。潰瘍性大腸炎(UC)またはクローン病を有する人の25%〜40%が、回腸痩肛門吻合術、または結腸および直腸の一部を切除する直腸結腸切除術などの手術へと進行し得る。一般的な治療法には、コルチコステロイドなどの広域スペクトルの抗炎症薬、抗TNF抗体、または腸管ホーミングT細胞遊走を防止することをねらいとするより標的化された抗インテグリン抗体が挙げられる。これらのアプローチのいずれも、これらのアプローチに付随する感染症およびがんなどの重篤な副作用のために、長期療法として適していない。これに対し、組換えhPRG4は、失われた上皮グリコカリックスを補充してサイトカイン発現を局所的に低減させるために、腸管に選択的に適用することができる。主として結腸の炎症性腸疾患のサイトカインプロファイルが最近特徴付けされたことにより、対照と比較して、UCにおいてTNF−α、GRO、CCL11(エオタキシン)の増加、クローン病においてIL−6の増加、ならびにUCおよびクローン病の両者においてIL−8の増加が明らかとなった(Korolkova et al., Clin Med Insights Gastroenerol 2015 May 6;8:29-44)。ルブリシンは、これらのサイトカインの発現を有意に低減させることが示されている。1つの実施形態において、rhPRG4は、浣腸によって、または経口針、腸洗浄、溶液を飲むことによって、もしくはカプセル化された丸剤(例えば、微粒子カプセル化、ナノ粒子カプセル化、ポリマーカプセル化等)によって経口投与される。例として、腸管適合性の緩衝塩類溶液に懸濁した濃度範囲10μg/mL〜200μg/mLのrhPRG4の100mL〜4L、より好ましくは濃度範囲50μg/mL〜150μg/mLの200mL〜500mLの浣腸投与は、グリコカリックスを補充して、T細胞ホーミングを防止し、投与されたルブリシンの局所でサイトカイン発現を下方調節する。rhPRG4の投与によって、上皮障壁機能が改善され、血管透過性が減少し、プロテアーゼ活性に対する感受性が減少し、および栄養吸収が改善する。特定の実施形態において、クエン酸マグネシウム、または他の下剤をルブリシン投与の24時間前までに投与した後、適切に絶食する。
【0148】
実施例7.痛風の処置
[00162] 尿酸ナトリウム結晶を注射したラットを、痛風のモデルとして試験した。尿酸ナトリウム結晶の投与の24時間後、ラットは、関節痛を発症した。尿酸結晶を導入した24時間後、ラット2匹に食塩水を投与して、別の2匹にrhPRG4を注射した。これらのラットを12時間毎にVon Frey法を利用して試験した。この方法は、罹患した脚の足底を細いフィラメントワイヤで触れることによって、関節炎症の結果としての求心性の疼痛感作を決定する。
図15に示すデータは、rhPRG4を投与されたラットが、プラセボを投与されたラットより疼痛が少なかったことを示している。
【0149】
[00163] 本発明の好ましい実施形態を、本明細書において示し、記述してきたが、そのような実施形態は、単なる例として提供されていることは当業者に明らかであろう。本発明から逸脱することなく、多数の変更、変化、および置換が当業者に想起される。本発明の実施において、本明細書に記述の本発明の実施形態に対する様々な代替を使用してもよいと理解すべきである。以下の特許請求の範囲は本発明の範囲を定義し、これらの特許請求の範囲の範囲内の方法および構造ならびにその等価物は、特許請求の範囲に含まれると意図される。
【0150】
[00164] 本発明の他の特徴および利点は、好ましい実施形態の説明からおよび特許請求の範囲から明らかであろう。本発明のこれらおよび他の多くの変化および実施形態は、説明および実施例を参照して当業者に明らかであろう。