特許第6758317号(P6758317)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6758317脳由来神経栄養因子の前駆体に特異的に結合する結合分子の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6758317
(24)【登録日】2020年9月3日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】脳由来神経栄養因子の前駆体に特異的に結合する結合分子の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20200910BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20200910BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20200910BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20200910BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20200910BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20200910BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20200910BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20200910BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20200910BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20200910BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20200910BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20200910BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20200910BHJP
【FI】
   A61K39/395 N
   A61P37/06
   A61P29/00 101
   A61P19/02
   A61P19/08
   A61P17/06
   A61P37/02
   A61P3/10
   A61P25/00
   A61P7/06
   A61P7/00
   C07K16/18ZNA
   !C12P21/08
【請求項の数】20
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2017-550975(P2017-550975)
(86)(22)【出願日】2015年12月18日
(65)【公表番号】特表2018-502905(P2018-502905A)
(43)【公表日】2018年2月1日
(86)【国際出願番号】CN2015097820
(87)【国際公開番号】WO2016095839
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2018年10月31日
(31)【優先権主張番号】201410811678.8
(32)【優先日】2014年12月19日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517215560
【氏名又は名称】上海易▲る▼生物技▲術▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】李昌▲き▼
(72)【発明者】
【氏名】王▲華▼茂
(72)【発明者】
【氏名】戴茹萍
(72)【発明者】
【氏名】蔡秀梅
(72)【発明者】
【氏名】周新富
【審査官】 岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】 Journal of Neurological Sciences,2009年,Vol.287,pp.17-26
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61P 3/10
A61P 7/00
A61P 7/06
A61P 17/06
A61P 19/02
A61P 19/08
A61P 25/00
A61P 29/00
A61P 37/02
A61P 37/06
C07K 16/18
C12P 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己免疫疾患を予防し、軽減し、または治療するための薬剤の製造における、脳由来神経栄養因子の前駆体に特異的に結合する結合分子の使用であって、
ここで、前記結合分子が、配列番号1に対して少なくとも90%の配列相同性を有するCDR1領域、配列番号2に対して少なくとも90%の配列相同性を有するCDR2領域、および、配列番号3に対して少なくとも90%の配列相同性を有するCDR3領域を有する重鎖可変領域;ならびに、配列番号4に対して少なくとも90%の配列相同性を有するCDR1領域、配列番号5に対して少なくとも90%の配列相同性を有するCDR2領域、および、配列番号6に対して少なくとも90%の配列相同性を有するCDR3領域を有する軽鎖可変領域を含むモノクローナル抗体である、使用
【請求項2】
前記モノクローナル抗体が、配列番号1からなるCDR1領域、配列番号2からなるCDR2領域、および、配列番号3からなるCDR3領域を有する重鎖可変領域;ならびに、配列番号4からなるCDR1領域、配列番号5からなるCDR2領域、および、配列番号6からなるCDR3領域を有する軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記モノクローナル抗体の前記重鎖可変領域が、配列番号7からなるアミノ酸配列を有し;前記モノクローナル抗体の前記軽鎖可変領域が、配列番号8からなるアミノ酸配列を有する、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記モノクローナル抗体の前記重鎖可変領域が、配列番号11からなるヌクレオチド配列によってコードされるか;または前記モノクローナル抗体の前記軽鎖可変領域が、配列番号12からなるヌクレオチド配列によってコードされる、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記モノクローナル抗体の前記重鎖が、配列番号9アミノ酸配列からなるか;または前記モノクローナル抗体の前記軽鎖が、配列番号10アミノ酸配列からなる、請求項2に記載の使用。
【請求項6】
前記モノクローナル抗体の前記重鎖が、配列番号13からなるヌクレオチド配列によってコードされるか;または前記モノクローナル抗体の前記軽鎖が、配列番号14からなるヌクレオチド配列によってコードされる、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記自己免疫疾患が、関節リウマチ、強直性脊椎炎、乾癬、全身性エリテマトーデス、インスリン依存性糖尿病、多発性硬化症、再生不良性貧血、クリオグロブリン血症、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記薬剤は、また神経学的障害を軽減し;中枢神経系における炎症性サイトカイン浸潤を阻害し;脊髄白質における髄鞘損失を緩和し;またはIL−1、IL−6、IL−17、IFN−γ、またはTNF−αの発現減少させるために使用される、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記自己免疫疾患が、関節リウマチである、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
前記自己免疫疾患が、多発性硬化症である、請求項1に記載の使用。
【請求項11】
自己免疫疾患を予防し、軽減し、または治療するための、脳由来神経栄養因子の前駆体に特異的に結合する結合分子を含む組成物であって、
ここで、前記結合分子が、配列番号1に対して少なくとも90%の配列相同性を有するCDR1領域、配列番号2に対して少なくとも90%の配列相同性を有するCDR2領域、および、配列番号3に対して少なくとも90%の配列相同性を有するCDR3領域を有する重鎖可変領域;ならびに、配列番号4に対して少なくとも90%の配列相同性を有するCDR1領域、配列番号5に対して少なくとも90%の配列相同性を有するCDR2領域、および、配列番号6に対して少なくとも90%の配列相同性を有するCDR3領域を有する軽鎖可変領域を含むモノクローナル抗体である、組成物。
【請求項12】
前記モノクローナル抗体が、配列番号1からなるCDR1領域、配列番号2からなるCDR2領域、および、配列番号3からなるCDR3領域とを有する重鎖可変領域;ならびに、配列番号4からなるCDR1領域、配列番号5からなるCDR2領域、および、配列番号6からなるCDR3領域を有する軽鎖可変領域を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記モノクローナル抗体の前記重鎖可変領域が、配列番号7からなるアミノ酸配列を有し;前記モノクローナル抗体の前記軽鎖可変領域が、配列番号8からなるアミノ酸配列を有する、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記モノクローナル抗体の前記重鎖可変領域が、配列番号11からなるヌクレオチド配列によってコードされるか;または前記モノクローナル抗体の前記軽鎖可変領域が、配列番号12からなるヌクレオチド配列によってコードされる、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記モノクローナル抗体の前記重鎖が、配列番号9のアミノ酸配列からなるか;または前記モノクローナル抗体の前記軽鎖が、配列番号10のアミノ酸配列からなる、請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
前記モノクローナル抗体の前記重鎖が、配列番号13からなるヌクレオチド配列によってコードされるか;または前記モノクローナル抗体の前記軽鎖が、配列番号14からなるヌクレオチド配列によってコードされる、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記自己免疫疾患が、関節リウマチ、強直性脊椎炎、乾癬、全身性エリテマトーデス、インスリン依存性糖尿病、多発性硬化症、再生不良性貧血、クリオグロブリン血症、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物は、また神経学的障害を軽減し;中枢神経系における炎症性サイトカイン浸潤を阻害し;脊髄白質における髄鞘損失を緩和し;またはIL−1、IL−6、IL−17、IFN−γ、またはTNF−αの発現を減少させるために使用される、請求項11に記載の組成物。
【請求項19】
前記自己免疫疾患が、関節リウマチである、請求項11に記載の組成物。
【請求項20】
前記自己免疫疾患が、多発性硬化症である、請求項11に記載の組成物。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物薬剤学の分野に関し、より詳細には、脳由来神経栄養因子の前駆体(proBDNF)に特異的に結合する結合分子の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
自己免疫疾患(AID)は、自己免疫寛容が破壊され、免疫系が自己抗原を攻撃するように活性化され、組織または臓器の損傷をもたらす疾患クラスのことを言う。これらの病因論及び発症機序はいまだ解明されておらず、自己抗体、自己反応性Tリンパ球、またはそれら両方に起因する、自己抗原に対する過敏性疾患として現在は見なされている。AIDは、2つのカテゴリー、すなわち、臓器特異的AIDと全身性AIDに分けることができる。臓器特異的な自己免疫疾患とは、組織または臓器の病理学的損傷及び機能障害が、抗体または感作リンパ球が向けられる臓器にのみ限定される疾患のことを言い、主に、橋本甲状腺炎、中毒性広汎性甲状腺腫、インスリン依存性糖尿病、重症筋無力症、自己免疫血小板減少性紫斑病、自己免疫溶血性貧血、悪性貧血、グッドパスチャー症候群、尋常性天疱瘡などが挙げられる。全身性自己免疫疾患とは、例えば、血管壁中の抗原抗体複合体の広範な堆積による、全身の多数の臓器の損傷のことを言い、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、強直性脊椎炎、クリオグロブリン血症、多発性硬化症などが挙げられる。
【0003】
その機構は依然として不明であるため、現在のところ根治療法のための薬剤はいまだ存在していない。従来のグルココルチコイド及び免疫抑制剤は、適時に投与すると疾患を制御し、患者の生存率を改善し得るが、それらの長期使用は、一連の副作用をもたらす。これは、患者の生活の質に影響を及ぼし、重篤な場合には命に関わることさえある。さらに、一部の患者は、グルココルチコイド及び免疫抑制剤による治療に感受性がない場合がある。近年、AIDの分子機構に対する深い洞察により、遺伝子療法、エピジェネティックな介入、小分子Toll様受容体阻害剤、抗炎症性因子抗体、B細胞の枯渇、幹細胞及び調節性T細胞の自己血輸血、樹状細胞ワクチンなどを含む、新しい治療戦略が継続的に提案されている。これらの治療薬または方法のいくつかは臨床的に使用されており(ベリムマブ、リツキシマブなど)、それらのいくつかはいまだ臨床研究下であるか(幹細胞自己血輸血療法など)または動物実験の段階でさえある(エピジェネティック調節など)。しかしながら、これらの薬剤は、第一選択薬としてグルココルチコイドと置き換えることができないため、臨床応用用に新規の安全で有効な治療薬及び方法が急務とされている。
【0004】
脳由来神経栄養因子(BDNF)は、神経成長因子に続いて発見された神経栄養因子であり、分子量が12.4kDaである。主に中枢神経系に分布するが、末梢神経系にもBDNFの合成がある。BDNFは、ニューロンの生存、分化、シナプス可塑性、損傷修復などの調節の面で重要な機能を担う。現在、BDNFは、神経系の発育及び情動障害を調節する重要な因子だけでなく、重要な痛覚の修飾物質でもあることを示す証拠が現れた。
【0005】
脳由来神経栄養因子の前駆体(proBDNF)は、BDNF遺伝子から転写、翻訳を経て小胞体内で合成される。そのペプチド鎖の長さは、247個のアミノ酸である。そのアミノ酸配列の理論分子量は27.8kDであるが、タンパク質のグリコシル化修飾の程度が異なるため、実際の分子量は32〜36kDの範囲で変化し得る。シグナルペプチド配列は、ProBDNF分子のアミノ酸配列の1〜18位に位置し、分泌の過程で2つの断片が生成され、その1つの断片は、配列の19〜129番目のアミノ酸、すなわち、前駆体ドメインを含むポリペプチド断片(proBDNF前駆体ドメインとも知られる)で、もう1つの断片は、配列の130〜247番目、すなわち、成熟ドメインでコードされる断片で、この断片は、処理後に生物活性を有する成熟体BDNFを形成する。
【0006】
現在、大量の証拠によって、proBDNFは、成熟体BDNF合成の中間産物として作用するだけでなく、配位子としてその高親和性の受容体p75神経栄養因子受容体(p75NTR)と結合して生物学的効果を発揮するためにも使用できることが示されている。神経栄養因子の前駆体(proNGF、proBDNFなどを含む)がアポトーシス及び炎症反応を促進し得ることが、研究により示されている。しかしながら、自己免疫疾患におけるproBDNFの役割及びそのシグナル伝達はいまだ不明である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、脳由来神経栄養因子の前駆体に特異的に結合する結合分子(proBDNF)の使用を提供することである。
【0008】
本発明の第1の態様では、自己免疫疾患を予防し、軽減し、または治療するための薬剤の製造における、脳由来神経栄養因子の前駆体に特異的に結合する結合分子(proBDNF)の使用を提供する。
【0009】
好ましい実施形態では、脳由来神経栄養因子の前駆体に特異的に結合する結合分子は、配列番号1に示すようなCDR1領域と、配列番号2に示すようなCDR2領域と、配列番号3に示すようなCDR3領域とを有する重鎖可変領域;配列番号4に示すようなCDR1領域と、配列番号5に示すようなCDR2領域と、配列番号6に示すようなCDR3領域とを有する軽鎖可変領域を含むモノクローナル抗体である。
【0010】
別の好ましい実施形態では、脳由来神経栄養因子の前駆体に特異的に結合する結合分子は、proBDNFタンパク質前駆体ドメインにおけるアミノ酸19〜128からのアミノ酸配列を含むポリペプチドを特異的に認識するモノクローナル抗体である。
【0011】
別の好ましい実施形態では、モノクローナル抗体の重鎖可変領域は、配列番号7に示すようなアミノ酸配列を有し;モノクローナル抗体の軽鎖可変領域は、配列番号8に示すようなアミノ酸配列を有する。
【0012】
別の好ましい実施形態では、モノクローナル抗体の重鎖可変領域は、配列番号11に示すようなヌクレオチド配列を有する;またはモノクローナル抗体の軽鎖可変領域は、配列番号12に示すようなヌクレオチド配列を有する。
【0013】
別の好ましい実施形態では、モノクローナル抗体の重鎖は、配列番号9に示すようなアミノ酸配列を有する;またはモノクローナル抗体の軽鎖は、配列番号10に示すようなアミノ酸配列を有する。
【0014】
別の好ましい実施形態では、モノクローナル抗体の重鎖は、配列番号13に示すようなヌクレオチド配列を有する;またはモノクローナル抗体の軽鎖は、配列番号14に示すようなヌクレオチド配列を有する。
【0015】
別の好ましい実施形態では、脳由来神経栄養因子の前駆体に特異的に結合する結合分子が、ポリクローナル抗体である。
【0016】
別の好ましい実施形態では、ポリクローナル抗体は、脳由来神経栄養因子の前駆体、またはそのタンパク質断片、好ましくは、配列番号37に示すようなアミノ酸配列を含む断片で動物を免疫することによって産生される。
【0017】
別の好ましい実施形態では、脳由来神経栄養因子の前駆体に特異的に結合する結合分子は、限定されないが、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、親和性成熟抗体、マウス由来抗体、またはそれらの組み合わせを含む抗体である。
【0018】
別の好ましい実施形態では、脳由来神経栄養因子の結合前駆体は、脳由来神経栄養因子のヒト結合前駆体である。
【0019】
別の好ましい実施形態では、自己免疫疾患は、全身性自己免疫疾患である。
【0020】
別の好ましい実施形態では、自己免疫疾患には、限定されないが、関節リウマチ、強直性脊椎炎、乾癬、全身性エリテマトーデス、インスリン依存性糖尿病(I型糖尿病など)、多発性硬化症、再生不良性貧血、クリオグロブリン血症、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0021】
別の好ましい実施形態では、薬剤は、静脈内または腹腔注射によって投与される。
【0022】
別の好ましい実施形態では、薬剤は、神経学的障害を軽減し;中枢神経系における炎症性サイトカイン浸潤を阻害し;脊髄白質における髄鞘損失を緩和し;またはIL−1、IL−6、IL−17、IFN−γ、またはTNF−αの発現減少させるためにも使用される。
【0023】
本発明の別の態様では、脳由来神経栄養因子の前駆体に特異的に結合する結合分子の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、自己免疫疾患を予防し、軽減し、または治療するための方法を提供し、結合分子は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であってもよく;例えば、結合分子は、ヒト化抗体、キメラ抗体、マウス由来抗体、親和性成熟抗体、またはそれらの組み合わせであってもよい。
一実施形態において、例えば、以下の項目が提供される。
(項目1)
自己免疫疾患を予防し、軽減し、または治療するための薬剤の製造における、脳由来神経栄養因子の前駆体に特異的に結合する結合分子の使用。
(項目2)
脳由来神経栄養因子の前駆体に特異的に結合する前記結合分子が、配列番号1に示すようなCDR1領域と、配列番号2に示すようなCDR2領域と、配列番号3に示すようなCDR3領域とを有する重鎖可変領域;配列番号4に示すようなCDR1領域と、配列番号5に示すようなCDR2領域と、配列番号6に示すようなCDR3領域とを有する軽鎖可変領域を含むモノクローナル抗体である、項目1に記載の使用。
(項目3)
前記モノクローナル抗体の前記重鎖可変領域が、配列番号7に示すようなアミノ酸配列を有し;前記モノクローナル抗体の前記軽鎖可変領域が、配列番号8に示すようなアミノ酸配列を有する、項目2に記載の使用。
(項目4)
前記モノクローナル抗体の前記重鎖可変領域が、配列番号11に示すようなヌクレオチド配列を有する;または前記モノクローナル抗体の前記軽鎖可変領域が、配列番号12に示すようなヌクレオチド配列を有する、項目3に記載の使用。
(項目5)
前記モノクローナル抗体の前記重鎖が、配列番号9に示すようなアミノ酸配列を有する;または前記モノクローナル抗体の前記軽鎖が、配列番号10に示すようなアミノ酸配列を有する、項目2に記載の使用。
(項目6)
前記モノクローナル抗体の前記重鎖が、配列番号13に示すようなヌクレオチド配列を有する;または前記モノクローナル抗体の前記軽鎖が、配列番号14に示すようなヌクレオチド配列を有する、項目5に記載の使用。
(項目7)
脳由来神経栄養因子の前駆体に特異的に結合する前記結合分子が、ポリクローナル抗体である、項目1に記載の使用。
(項目8)
前記ポリクローナル抗体が、脳由来神経栄養因子の前駆体、またはそのタンパク質断片、好ましくは、配列番号37に示すようなアミノ酸配列を含む断片で動物を免疫することによって産生される、項目7に記載の使用。
(項目9)
前記自己免疫疾患が、関節リウマチ、強直性脊椎炎、乾癬、全身性エリテマトーデス、インスリン依存性糖尿病、多発性硬化症、再生不良性貧血、クリオグロブリン血症、またはそれらの組み合わせを含む、項目1に記載の使用。
(項目10)
前記薬剤は、また神経学的障害を軽減し;中枢神経系における炎症性サイトカイン浸潤を阻害し;脊髄白質における髄鞘損失を緩和し;またはIL−1、IL−6、IL−17、IFN−γ、またはTNF−αの発現減少させるために使用する、項目1に記載の使用。
【0024】
本発明の他の態様は、本明細書の開示から当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1の宿主株BL21(DE3)によって発現された精製ヒトproBDNFタンパク質のSDS−PAGE電気泳動の結果を示す。1、精製ヒトproBDNFタンパク質;2、タンパク質分子量マーカー(低)、TAKARA,Cat.No.3450から購入。
図2】本発明の実施例2のHEK293F細胞によって発現された精製ヒトproBDNF前駆体ドメインタンパク質のSDS−PAGE電気泳動の結果を示す。1、精製ヒト前駆体ドメインタンパク質;2、タンパク質分子量マーカー(低)、TAKARA,Cat.No.3450から購入。
図3】ラットproBDNF前駆体ドメイン融合タンパク質(ラットproBDNF前駆体ドメイン−Fc)のSDS−PAGE電気泳動の結果を示す。レーン1の標的バンドの分子量は、約44.3kD(矢印によって示す)。
図4】本発明の実施例3の個々のハイブリドーマ細胞株によって産生された抗proBDNFモノクローナル抗体の特異的抗原結合領域の、ヒトproBDNF及びヒトproBDNF前駆体ドメインへの結合の実験結果を示す。
図5】本発明の実施例3の個々のハイブリドーマ細胞株によって産生された抗proBDNFモノクローナル抗体の特異的抗原結合領域の、ヒトproBDNF及びマウスproBDNFへの結合の実験結果を示す。
図6】本発明の実施例3の抗proBDNFモノクローナル抗体2B11のサブタイプ分析の結果を示す。
図7】異なる希釈条件下での本発明の実施例6のヒト−マウスキメラ抗体CH2B11の、本発明の実施例1のヒトproBDNFタンパク質への結合の実験結果を示す。
図8】正常群と比較した、コラゲナーゼ(CAIAモデル)により誘発された自己免疫関節炎をもつBalb/Cマウスの体重に対する、腹腔内に注射した2B11の効果を示す。
図9】正常群と比較した、コラゲナーゼ(CAIAモデル)により誘発された自己免疫関節炎をもつBalb/Cマウスの関節炎スコア指標に対する、腹腔内に注射した2B11の効果を示す。
図10】正常群と比較した、コラゲナーゼ(CAIAモデル)により誘発された自己免疫関節炎をもつBalb/Cマウスの関節腫脹の程度に対する、腹腔内に注射した2B11の効果を示す。
図11】EAE群と比較した、CFA/Mycobacterium tuberculosisの注射により誘発された実験的アレルギー性脳脊髄炎をもつマウスの神経学的機能に対する、腹腔内に注射した2B11の治療効果を示す。
図12】実験的自己免疫性脳脊髄炎の初期ステージで、NSS及び抗proBDNF抗体でそれぞれ処置したEAEモデルマウスの臨床スコアリングの比較を示す。
図13】実験的自己免疫性脳脊髄炎の初期ステージで、NSS及び抗proBDNF抗体でそれぞれ処置したEAEモデルマウスの脊髄のHE染色を示す。
図14】実験的自己免疫性脳脊髄炎の初期ステージで、NSS及び抗proBDNF抗体でそれぞれ処置したEAEモデルマウスの脊髄のLFB染色を示す。
図15】実験的自己免疫性脳脊髄炎の初期ステージで、NSS及び抗proBDNF抗体でそれぞれ処置したEAEモデルマウスの脊髄内の個々の炎症性サイトカインのmRNA発現を示す;*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、対正常群及びEAE+NSS群。
図16】実験的自己免疫性脳脊髄炎のピークで、NSS及び抗proBDNF抗体でそれぞれ処置したEAEモデルマウスの臨床スコアリングの比較を示す;**p<0.01、***P<0.001、対EAE+NSS群。
図17】実験的自己免疫性脳脊髄炎のピークで、NSS及び抗proBDNF抗体でそれぞれ処置したEAEモデルマウスの脊髄のHE染色を示す。
図18】実験的自己免疫性脳脊髄炎のピークで、NSS及び抗proBDNF抗体でそれぞれ処置したEAEモデルマウスの脊髄のLFB染色を示す。
図19】実験的自己免疫性脳脊髄炎のピークで、NSS及び抗proBDNF抗体でそれぞれ処置したEAEモデルマウスの脊髄内で個々の炎症性サイトカインのmRNA発現を示す;*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、対正常群及びEAE+NSS群。
【発明を実施するための形態】
【0026】
綿密な研究の後、本発明者らは、脳由来神経栄養因子の前駆体(proBDNF)が、自己免疫疾患の治療における重要な標的であり、かつ、proBDNF(抗proBDNFモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を含む)に特異的に結合する結合分子が、自己免疫疾患の著しい軽減または治療効果を有することを初めて見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成した。
【0027】
本発明は、proBDNFに特異的に結合することができる結合分子を提供し、結合分子は、proBDNFに対して中和または阻害活性を示す。
【0028】
本発明の結合分子は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体などのインタクトな免疫グロブリン分子であってもよい。あるいは、結合分子は、限定されないが、Fab、F(ab’)、F(ab’)、Fv、dAb、Fd、相補性決定領域(CDR)断片、単鎖抗体(scFv)、二価単鎖抗体、単鎖ファージ抗体、二重特異性二重鎖抗体、三重特異性抗体(triabody)、四重特異性抗体(tetrabody)、及びproBDNFまたはその断片に特異的に結合するのに十分である免疫グロブリン断片を少なくとも含む(ポリ)ペプチドを含む、抗原結合断片であってもよい。好ましい実施形態では、本発明の結合分子は、ヒトモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である。
【0029】
Kabat,et al.(1991)に記載されるように、CDR領域は、免疫学的関心のあるタンパク質配列である。本発明の実施形態では、結合分子は、本明細書に開示されるCDR領域の2つ、3つ、4つ、5つ、または6つ全てを含み得る。好ましくは、本発明の結合分子は、本明細書に開示される少なくとも2つのCDRを含む。
【0030】
本発明の別の態様は、本明細書に記載の結合分子の機能的変異体を含む。変異体が、proBDNFまたはそのタンパク質断片に特異的に結合するための親結合分子と競合することができる場合、変異体分子は、本発明の結合分子の機能的変異体であると見なされる。言い換えると、機能的変異体は、proBDNFまたはその断片に結合することもできる。機能的変異体には、一次構造及び配列が実質的に同様である誘導体であるが、親結合分子中には見出されない、例えば、インビトロまたはインビボでの化学的及び/または生化学的修飾を含有しているものが含まれるが、これに限定されるものではない。そのような修飾としては、アセチル化、アシル化、ヌクレオチドまたはその誘導体の共有結合、脂質またはその誘導体の共有結合、架橋、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、ヒドロキシル化、メチル化、酸化、ペグ化、タンパク分解性proセシング、リン酸化などが含まれる。言い換えると、親結合分子のアミノ酸及び/またはヌクレオチド配列の修飾は、ヌクレオチド配列によってコードされるかまたはアミノ酸配列を含む結合分子の結合性に著しい影響を及ぼさないかまたは変更させない、すなわち、結合分子は、なおその標的部位を認識し、それに結合することができる。
【0031】
機能的変異体は、ヌクレオチド及びアミノ酸の置換、付加、及び欠失を含む保存的配列修飾を有し得る。これらの修飾は、当該技術分野において公知の標準的な技術、例えば、部位特異的突然変異誘発及びランダムPCR介在突然変異誘発によって導入することができ、天然及び非天然のヌクレオチド及びアミノ酸を含み得る。
【0032】
保存的アミノ酸置換には、アミノ酸残基が類似の構造的または化学的性質を有する別のアミノ酸残基と置き換えられるような置換が含まれる。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該技術分野において定義されている。これらのファミリーとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、及びヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電性極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、及びトリプトファン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、proリン、フェニルアラニン、及びメチオニン)、分岐側鎖を有するアミノ酸(例えば、スレオニン、バリン、及びイソロイシン)、及び芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、及びトリプトファン)が挙げられる。当業者には、上で記載されたものに加えて、アミノ酸残基ファミリーの他の分類法を使用することができることが理解されるであろう。さらに、変異体は、非保存的なアミノ酸置換を有し得、例えば、アミノ酸を、異なる構造的または化学的性質を有する別のアミノ酸残基で置換する。同様の軽微な変化はまた、アミノ酸の欠失及び/または挿入を含み得る。当該技術分野において周知のコンピュータプログラムを使用して、免疫学的活性を無効にすることなく、どのアミノ酸残基を置換、挿入、または欠失させることができるかの決定することができる。
【0033】
さらに、機能的変異体は、アミノ末端またはカルボキシル末端のいずれかまたは両方にアミノ酸配列の切断を含むことができる。本発明の機能的変異体は、親結合分子と比較して、同じまたは異なる、高いまたは低い結合親和性を有することができるが、proBDNFまたはその断片になお結合することができる。例えば、本発明の機能的変異体は、親結合分子と比較して、proBDNFまたはその断片に対する結合親和性が増加していてもよく、または減少していてもよい。本発明の範囲内にある機能的変異体は、本明細書に記載の親結合分子と、少なくとも約50%〜約99%、好ましくは少なくとも約60%〜約99%、より好ましくは少なくとも約70%〜約99%、さらにより好ましくは少なくとも約80%〜約99%、最も好ましくは少なくとも約90%〜約99%、特に少なくとも約95%〜約99%、特に少なくとも約97%〜約99%のアミノ酸配列相同性を有する。当業者に知られているGapまたはBestfitなどのコンピューターアルゴリズムは、比較し、同一または類似のアミノ酸残基を決定するために、アミノ酸配列を最適にアライメントするために使用することができる。機能的変異体は、エラープロ−ンPCR、オリゴヌクレオチド特異的な突然変異誘発、部位特異的な突然変異誘発、並びに重鎖及び/または軽鎖シャフリングを含むが、これらに限定されない、当該技術分野において知られている従来の分子生物学的方法を用いて、親結合分子またはその一部を改変することによって得ることができる。実施形態では、本発明の機能的変異体は、proBDNFに対する中和活性を有する。中和活性は、親結合分子のものと同じ、またはそれよりも高い、またはそれよりも低くてもよい。本明細書で使用する場合、「(ヒト)結合分子」という用語は、(ヒト)結合分子の機能的変異体も包含する。
【0034】
本発明の好ましい実施形態では、結合分子は、モノクローナル抗体である。本発明は、モノクローナル抗体の対応するアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体、及びモノクローナル抗体の可変領域鎖を含むモノクローナル抗体を提供する。また、本発明は、相補性決定領域(CDR)を含む軽鎖及び重鎖を含む任意の抗体、及びCDR領域が本発明のモノクローナル抗体のCDRに90%(好ましくは、95%を超える)を超える相同性を有する任意の抗体を提供する。
【0035】
モノクローナル抗体の抗原結合性は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる重鎖及び軽鎖可変領域に位置する3つの特異的領域に対して説明することができる。CDRは、可変領域を4つのフレームワーク領域(FR)に分離し、4つのFRのアミノ酸配列は、比較的保存的であり、結合反応に直接関与しない。これらのCDRは、FRによって形成されたβシートが空間構造内で互いに近接している環状構造を形成し、重鎖上のCDR、及び対応する軽鎖上のCDRが、抗体の抗原結合部位を構成する。同じ型の抗体のアミノ酸配列の比較を用いて、どのアミノ酸がFRまたはCDR領域を構成しているかを決定することができる。
【0036】
本発明で使用されるモノクローナル抗体または抗体断片は、完全ヒト、ヒト化、キメラまたはマウス由来のモノクローナル抗体または抗体断片であってもよい。本明細書で使用する場合、「ヒト化抗体」という用語は、ヒトによって産生された抗体、及び/または、当該技術分野において公知の本出願で開示されたヒト化抗体を調製するための技術で調製された抗体に対応するアミノ酸配列を有する抗体を指す。ヒト化抗体は、遺伝子クローニング及びDNA組み換え技術によってマウス(または他の非ヒト)由来のモノクローナル抗体から遺伝子操作される再発現抗体を主に指し、その抗体中で、ほとんどのアミノ酸配列がヒト配列に置換され、親ラットモノクローナル抗体の親和性及び特異性は実質的に保持されながら、非相同性が減少していることで、ヒト身体に応用しやすくなる。ヒト化抗体には、キメラ抗体、再構成抗体(CDRグラフト抗体とも知られる)、再表面化抗体、または完全ヒト化抗体が含まれる。ヒト化抗体は、当該技術分野において公知の種々の方法によっても産生することができ;例えば、ヒト化抗体は、ヒト抗体を発現するファージライブラリーから選択することができる。ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン部位をトランスジェニック動物、例えば、内因性免疫グロブリン遺伝子を部分的または完全に不活性化させたマウスに導入することによって調製することもできる。さらに、ヒト化抗体は、特定の抗原に対する抗体を産生するヒトBリンパ球を不死化することによって調製することもできる。
【0037】
本発明の好ましい実施形態では、proBDNFのプロドメインのアミノ酸19〜128を特異的に認識することができ、かつ、以下のアミノ酸配列:(a)配列番号1に示すようなCDR1領域、(b)配列番号2に示すようなCDR2領域、及び(c)配列番号3に示すようなCDR3領域を含む重鎖可変領域;及び/または以下のアミノ酸配列:(d)配列番号4に示すようなCDR1領域、(e)配列番号5に示すようなCDR2領域、及び(f)配列番号6に示すようなCDR3領域を含む軽鎖可変領域を含む、抗proBDNFモノクローナル抗体を提供する。
【0038】
本発明は、本発明の少なくとも1つの結合分子及びその機能的変異体をコードする核酸分子をさらに提供する。このような核酸分子は、クローニング用の、例えば、上述のような親和性成熟法で使用される中間体として使用することができる。好ましい実施形態では、核酸分子は、単離されるかまたは精製される。DNA分子の配列は、従来の技術またはハイブリドーマ技術によって得ることができる。これらの核酸分子の機能的変異体は、本発明の一部を構成する。機能的変異体は、標準遺伝コードを用いて直接翻訳され、親核酸分子から翻訳された配列と同じアミノ酸配列をもたらすことができる核酸配列である。関連配列が得られると、組み換え方法によってバッチで得ることができる。関連配列は、通常は、従来の方法によってベクターにクローニングされ、細胞に形質転換し、増殖した宿主細胞から単離された後に得ることができる。さらに、関連配列も人工合成方法によって合成することができる。
【0039】
本発明は、上述のような適切なDNA配列、及び適切なproモーターまたは対照配列を含むベクターをさらに提供する。ベクターを使用して、適当な宿主細胞を変換させて、タンパク質を発現させることができるようになる。ベクターは、真核性ベクターまたは原核性ベクターであってもよい。
【0040】
本発明は、所望の多機能性抗体ポリペプチドを発現するベクターを含む宿主細胞をさらに提供する。「宿主細胞」は、挿入されたポリヌクレオチドを含むベクターを受け入れることができ、かつ受け入れている単一細胞または細胞培養を含む。本発明の宿主細胞は、使用したベクターと互換性がある任意の原核性宿主細胞または真核性宿主細胞であってもよい。酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞、哺乳動物細胞などを含む真核性宿主細胞は、真核性細胞が標的タンパク質の複雑な後翻訳修飾(例えば、グリコシル化)を含むために好ましく、そのため、大規模培養でますます使用されている。一般に使用される宿主細胞株としては、サル腎細胞株(COS−7 ATCC CRL 1651)、ヒト胚性腎細胞株293及びそのサブクローン細胞株、ベビーハムスター腎細胞株(BHK、ATCC CCL10)、チャイニーズハムスター卵巣細胞株(CHO)などが挙げられる。好ましくは、本発明の真核性宿主細胞は、CHO細胞である。
【0041】
本発明によるproBDNFに特異的に結合する結合分子は、proBDNFに特異的に結合するポリクローナル抗体であってもよい。本発明で使用する場合、「ポリクローナル抗体」という用語は、抗原チャレンジの際に体内で免疫反応が引き起こされた後に、身体の血漿細胞によって合成され、分泌される、抗原に特異的に結合することが可能なグロブリンの群を指す。抗原は通常、複数の抗原決定基からなる。抗原決定基の1つが身体を刺激すると、1つのBリンパ球がこの抗原を受け入れ、モノクローナル抗体と呼ばれる抗体を産生する。複数の抗原決定基が身体を刺激すると、種々のモノクローナル抗体がそれに応じて産生され、これらの混合モノクローナル抗体が、ポリクローナル抗体を構成する。ポリクローナル抗体は、高い力価、高い特異性、強い親和性、良好な感度、便利なヒトの取り扱い、及び品質管理などの利点を提供する。さらに、ポリクローナル抗体は、比較的簡単かつより経済的に調製することができる。
【0042】
ポリクローナル抗体は、当該技術分野において周知の種々の方法によって調製することができる。proBDNFまたはその断片を動物(例えば、ヒツジ、ウサギ、マウス、ラットなど)に投与して、ポリクローナル抗体の産生を誘発することができる。同様に、proBDNFまたはその断片を発現する細胞を使用して、動物を免疫して、抗体を産生してもよい。ポリクローナル抗体は、リンパ節注入法、多部位皮下注入法、複数経路を組み合わせ注入法などの免疫方法によって調製することができる。本発明の具体例では、高い力価をもつポリクローナル抗体は、ヒツジを背面で多部位皮下注射を介してフロイントアジュバントと混合した抗原としてproBDNF断片(配列番号37)で免疫し;強化免疫を実施することによって、最終的に得られる。
【0043】
本発明によるproBDNFに特異的に結合する結合分子は、自己免疫疾患の軽減または治療効果を有する。自己免疫疾患としては、関節リウマチ、強直性脊椎炎、乾癬、全身性エリテマトーデス、混合性結合組織病、自己免疫糖尿病(I型糖尿病)、多発性硬化症、再生不良性貧血などが挙げられる。結合分子の使用には、神経学的障害を軽減すること;中枢神経系における炎症性サイトカイン浸潤を阻害すること;脊髄白質における髄鞘損失を緩和すること;またはIL−1、IL−6、IL−17、IFN−γ、またはTNF−αの発現減少することが挙げられる。
【0044】
本発明は、有効量の結合分子を含む医薬組成物をさらに提供する。組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含み得る。医薬組成物は、限定されないが、静脈内、腹腔注射などを含む従来の経路によって投与することができる。本発明の医薬組成物は、自己免疫疾患用の他の治療剤と併用してもよい。
【0045】
本発明で使用する場合、「薬学的に許容される」という用語は、結合分子自体及び組成物を動物またはヒトに適切に投与した場合に、悪影響、アレルギー効果、または他の副作用を生じないことを意味する。本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される担体」は、本発明の結合分子と両立すべきである、すなわち、一般的な組成物の効果を大きく減少させることなく結合分子と混合することができることである。
【0046】
本開示で記載されるように、「有効量」という用語は、病気の進行の軽減または疾患の治癒の臨床結果を含む有益かつ所望の結果をもたらすのに十分な量を指す。「有効量」は、1つ以上の投与によって達成され得る。具体的な投与量は、投与経路、患者の状態、及び他の要因によって決定すべきであり、それは、熟練した医師の技術の範囲内である。
【0047】
薬学的に許容される担体またはその成分として使用することができる材料のいくつかの具体的な例は、ラクトース、グルコース、及びスクロースなどの糖;トウモロコシデンプン、及びジャガイモデンプンなどのデンプン;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、及びメチルセルロースなどのセルロース及びその誘導体;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;ステアリン酸及びステアリン酸マグネシウムなどの固体潤滑剤;硫酸カルシウム;落花生油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、及びココアバターなどの植物油;proピレングリコール、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、及びポリエチレングリコールなどのポリオール;アルギン酸;Tween(登録商標)などの乳化剤;ラウリル硫酸ナトリウムなどの湿潤剤;着色剤;香味剤;錠剤化剤;安定化剤;抗酸化剤;防腐剤;パイロジェンフリー水;等張食塩液;リン酸緩衝溶液などである。
【0048】
本発明の組成物は、所望のように種々の剤形に製剤化することができ、患者の種類、年齢、体重及び一般的な疾患状態、投与モードなどの因子に基づいて医師によって決定される、患者に有益な投与量で投与することができる。投与モードは、例えば、注射または他の治療モードであってもよい。
【0049】
本発明の結合分子は、非分離形態または分離形態で使用してもよい。さらに、本発明の結合分子は、単体、または本発明の少なくとも1つの結合分子(または変異体またはその断片)を含む混合物で使用してもよい。言い換えると、結合分子は、組み合わせて、例えば、本発明の2つ以上の結合分子、変異体、またはそれらの断片を含む医薬組成物として使用してもよい。例えば、相補性活性をもつ結合分子を1つの治療レジメンで組み合わせて、所望の予防、軽減、または治療効果を達成することができる。あるいは、同じ活性をもつ結合分子を1つの治療レジメンで組み合わせて、所望の予防、軽減、または治療効果を達成することもできる。
【0050】
投与レジメンは、最適な所望の反応(例えば、治療反応)をもたらすために調整してもよい。適当な投与量は、例えば、0.1〜100mg/kg体重、好ましくは、0.5〜15mg/kg体重の範囲であってもよい。さらに、例えば、単回ボーラスを与えてもよく、または複数の分離用量を、時間をかけて与えてもよく、または投与量は、治療している症状の重症度に応じて、それに比例して減少または増加させてもよい。本発明の結合分子及び組成物は、滅菌しているのが好ましい。これらの分子及び組成物を滅菌する方法は、当該技術分野において周知である。
【0051】
本発明は、具体的な実施例を参照しながらさらに説明する。これらの実施例は、本発明の範囲を限定するのではなく、本発明を説明することのみを目的とすることを理解すべきである。具体的な条件について以下の実施例で説明しない実験方法は、一般的に、J.Sambrook,et al.(eds).,Molecular Cloning:a Laboratory Manual,Third Edition,Science Press,2002に記載のものなどの従来の条件に従って、または製造者によって推奨される条件に従って行われる。
【実施例】
【0052】
実施例1.ヒトproBDNF抗原の原核発現
1.1 pET22b−proBDNFベクターの構築及び同定
ヒト腫瘍細胞U87MGのcDNAを鋳型(RAYGENE Corporationから購入)とし、以下のようなプライマーでPCR増幅を行った。
PROBDNF−F:5’GCGAATTCCCCATGAAAGAAGCAAACATCC3’(配列番号:15);及び
PROBDNF−R:5’CCGCTCGAGTTATCTTCCCCTTTTAATGGTCAATG3’(配列番号:16)。
両末端にEcoRI/XhoI制限部位があるPRO BDNF遺伝子断片(703bp)を得、EcoRI及びXhoI(NEB Corporationから購入)で二重消化し、標的遺伝子断片proBDNFを得た。ベクタープラスミドpET22b(Novogen Corporationから購入)をEcoRI及びXhoIで二重消化し、アガロースゲル電気泳動後、ベクター断片を回収した。ベクター断片をT4リガーゼ(NEB Corporationから購入)によって上述の標的遺伝子断片proBDNFで連結した後、大腸菌TOP10(LIFE Corporationから購入)に形質転換した。アンピシリン耐性によるスクリーニング、EcoRI/XhoI消化による挿入を含む陽性クローンの同定、及びシークエンシングによる検証を通じて、正確なヒトproBDNF遺伝子配列を含む原核発現プラスミドpET22b−proBDNFが得られた。
【0053】
1.2 ヒトproBDNFタンパク質の発現と精製
pET22b−proBDNFプラスミドを発現宿主株BL21(DE3)(Novagen Corporationから購入)に形質転換し、アンピシリンを補充した培地を含むプレートに広く塗り、37℃にて逆さまで一晩培養した。誘導発現のために単クローンをピックアップした後、OD600が0.6〜0.8になるまで振とう培養した。最終濃度が1mMになるようにIPTGを入れ、30℃にて4時間誘導した後に細菌懸濁液を収集した。ペレットを遠心分離によって回収し、1/10体積の緩衝液A(50mM NaHPO、300mM NaCl、10mMイミダゾール、pH8.0)を添加して、再懸濁させた。PMSF(最終濃度1mM)を添加した。氷の上に置いて超音波(超音波3秒、間隔10秒、一組99回、計4組)で処理し、15分間遠心分離した(4℃、12,000g)後、上清を遠心分離によって収集した。Ni−NTAアガロース(QIAGEN Corporationから購入)親和性カラムクロマトグラフィーを行い、精製して標的発現タンパク質を得た後、PBS溶液で透析した。12%SDS−PAGEで透析後の精製タンパク質の純度を分析し、A280でタンパク質の含有量を検出した。少量のタンパク質をSDS PAGE上でランさせて、その分子量を検出した。図1に示すSDS−PAGE結果は、レーン1における精製して得られた標的バンドが、proBDNF分子の理論分子量(27.8kD)と実質的に同じである約30kDの分子量を有することを示している。
【0054】
実施例2.ヒトproBDNF前駆体ドメインの真核発現
2.1 ヒトproBDNF前駆体ドメイン発現ベクターV5F−前駆体ドメインの構築
上記で得られたプラスミドpET22b−proBDNFを鋳型とし、以下のプライマーでPCR増幅を行った。
BDNFproVF1(配列番号17):5’GCTGGCTAGCACCCATGAAAGAAGCAAACATCCGAG3’;及び
BDNFproVR1(配列番号18):5’CCGCTCGAGGTGGCGCCGGACCCTCATG3’。
両末端にNheI/XhoI制限部位があるヒトproBDNF前駆体ドメイン遺伝子断片を得た(350bp)。PCR断片をNheI及びXhoI(NEB Corporationから購入)で二重消化した。得られた前駆体ドメイン遺伝子断片を、NheI及びXhoI(NEB Corporationから購入)で二重消化したベクターV5F(RAYGENE Corporationから購入)と共に、T4 DNAリガーゼによって連結した後、宿主株TOP10(LIFE Corporationから購入)に形質転換した。陽性クローンを取ってPCR同定を行い、正確な挿入をシークエンシングによって検証した。その後、V5F−前駆体ドメインプラスミドの構築に成功した。
【0055】
2.2 ヒトproBDNF前駆体ドメインタンパク質の発現と精製
良好に生長したHEK293F細胞(HEK293F、LIFE Corporationから購入)を1×10細胞/mLの密度で培養三角フラスコに接種し、37℃、5%CO、120rpmで一晩培養した。上記手順から得られたV5F−前駆体ドメインプラスミドとリポソーム(293Fectin、LIFE Corporationから購入)をそれぞれDMEMで希釈して穏やかに混合し、室温で20分間インキュベートした。インキュベートしたDNA−リポソーム複合体をHEK293F細胞に添加し、37℃、5%CO、120rpmで72時間培養した。細胞培養液を収集し、4500gで15分間遠心分離した。細胞を除去し、上清を取った。1mlのFLAG抗体親和性充填剤(抗FLAGアガロース親和性ゲル、Sigma−Aldrich Corporationから購入)をカラムに充填し、FLAG親和性カラムを5〜10カラム体積の溶解緩衝液(50mM PB、0.3M NaCl、5%グリセロール)で平衡化した。遠心分離した細胞培養液の上清を1ml/分でFLAG親和性カラムを通過させ、通った液を収集して、4℃にて保存した。5〜10カラム体積の洗浄緩衝液1(50mM PB、pH7.8、0.3M NaCl、5%グリセロール)でカラムを洗浄し、洗浄液1を収集し、4℃にて保存した。4〜5カラム体積の洗浄緩衝液2(50mM PB、pH7.8、0.5M NaCl、5%グリセロール)でカラムを洗浄し、洗浄液2を収集し、4℃にて保存した。4〜5カラム体積の溶出緩衝液(50mMグリシン、HCl、pH3.0、0.3M NaCl、5%グリセロール)でカラムを溶出し、溶出液を収集した。中和緩衝液(1M Tris、HCl、pH8.0)の添加後、溶出液を透析溶液(50mM PB、pH7.8、0.3M NaCl、5%グリセロール)に対して4℃にて一晩透析し、保存した。少量の溶出液をSDS PAGE上でランさせた。図2に示すような電気泳動の結果は、レーン1の標的バンドが、ヒトproBDNF前駆体ドメインタンパク質の理論分子量(13kD)よりもわずかに大きい約20kDの分子量を有することを示している。理論に束縛されるものではないが、これは発現されたタンパク質の真核システムにおけるグリコシル化の程度に関係するかもしれない。
【0056】
実施例3.ラットproBDNF前駆体ドメイン融合タンパク質(ラットproBDNF前駆体ドメイン−Fc)の真核発現
3.1 ラットproBDNF前駆体ドメイン融合発現ベクターV5FC−ラット前駆体ドメイン−Fcの構築
ラットのcDNA(RAYGENE Corporationから購入)を鋳型とし、以下のプライマーでPCR増幅を行った。
RatproF1:5’GCTGGCTAGCGCGCCCATGAAAGAAGCAAAC3’(配列番号19);及び
RatproR1:5’CCGCTCGAGGCGCCGAACCCTCATAGACATG3’(配列番号20)。
両末端にNheI/BamHI制限部位があるラットproBDNF前駆体ドメイン遺伝子断片を得た(356bp)。PCR断片をNheI及びBamHI(NEB Corporationから購入)で二重消化した。得られた前駆体ドメイン遺伝子断片を、NheI及びBamHI(NEB Corporationから購入)で二重消化したFc融合発現ベクターV5FC(RAYGENE Corporationから購入)と共に、T4 DNAリガーゼによって連結し、宿主株TOP10(LIFE Corporationから購入)に形質転換した。陽性クローンを取ってPCR同定を行い、正確な挿入をシークエンシングによって検証した。その後、V5FC−ラット前駆体ドメインプラスミドの構築に成功した。
【0057】
3.2 ラットproBDNF前駆体ドメイン融合タンパク質の発現と精製
良好に生長したHEK293F細胞(HEK293F、LIFE Corporationから購入)を1×10細胞/mlの密度で培養三角フラスコに接種し、37℃、5%CO、120rpmで一晩培養した。上記手順から得られたV5FC−ラット前駆体ドメインプラスミドと、リポソーム(293Fectin、LIFE Corporationから購入)をそれぞれDMEMで希釈し、穏やかに混合し、室温で20分間インキュベートした。インキュベートしたDNA−リポソーム複合体をHEK293F細胞に添加し、37℃、5%CO、120rpmで72時間培養した。細胞培養液を収集し、4500gで15分間遠心分離した。細胞を除去し、上清を取った。1mlのタンパク質A親和性充填剤(プロテインAアガロース、RAYGENE Corporationから購入)をカラムに充填し、プロテインA親和性カラムを5〜10カラム体積の溶解緩衝液(50mM PB、0.3M NaCl、5%グリセロール)で平衡化した。遠心分離した細胞培養液の上清を1ml/分でプロテインA親和性カラムを通過させ、通った液を収集して、4℃にて保存した。5〜10カラム体積のPBS(20mM PB、pH7.8、0.15M NaCl)でカラムを洗浄し、洗浄液1を収集し、4℃にて保存した。4〜5カラム体積の溶出緩衝液(100mMグリシン、HCl、pH2.5)でカラムを溶出し、溶出液を回収した。10%体積の中和緩衝液(1M Tris、HCl、pH8.0)の添加後、溶出液を透析溶液(50mM PB、pH7.8、0.3M NaCl、5%グリセロール)に対して4℃にて一晩透析し、保存した。少量の溶出液をSDS PAGE上でランさせた。図3に示すような電気泳動の結果は、レーン1の標的バンドが、ラットproBDNF前駆体ドメイン融合タンパク質(ラットproBDNF前駆体ドメイン−Fc)の理論分子量と同程度の約44.3kD(矢印によって示す)の分子量を有することを示している。
【0058】
実施例4.抗ヒトproBDNF前駆体ドメインモノクローナル抗体の調製と同定
4.1 組み換えタンパク質による免疫
上述の実施例1で得られた1mlの精製ヒトproBDNFタンパク質(1.0mg/mL)を抗原として1mLの完全フロイントアジュバント(Sigma−Aldrich Corporationから購入)と十分に混合し、乳化した後、6〜8週齢のBALB/cマウスに対する皮下免疫に使用した。各マウスに100μgのヒトproBDNF抗原で免疫を行った。4週間後、ヒトproBDNF抗原と不完全フロイントアジュバントを乳化混合し、各マウスに50μgずつの腹腔注射によってマウスに免疫を行った。その後2週間ごとに、腹腔注射によって、50μgの抗原による強化免疫を行った。4回目の強化免疫の1週間後、上記実施例2で得られた精製されたヒトproBDNF前駆体ドメインタンパク質をコーティングしたプレートを用いて、ELISA法によってマウスの血清抗体価を測定した。マウスの血清抗体価が>10になるまで強化免疫を続けた。最後の強化免疫の3週間後、上記ヒトproBDNF前駆体ドメインタンパク質20μgで脾内免疫を行い、使用に備えた。
【0059】
4.2 ヒトproBDNFハイブリドーマ細胞株の構築
脾内強化免疫の4日間後、無菌の状況で脾臓をマウスから取り、100メッシュスクリーンを介した濾過によってリンパ球を分離し、骨髄腫細胞系SP2/0と融合し、ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジン(HAT)の選択性培養を3日間行った後、HT培地を添加し、1週間さらに培養した。抗原として本発明の上記実施例のヒトproBDNFでコーティングしたプレートを用いて、ELISAで陽性クローンをスクリーニングした。有限希釈法によってサブクローニングを3回行い、サブクローンを2カ月間継続して培養した。最後に、安定したハイブリドーマ細胞株が得られ、クローンを、2B11、2C7、5C10、4C3、6F3、2F3、8E1、及び1G7と名付けた。
【0060】
4.3 抗体の精製
上記のハイブリドーマ細胞クローンを、5×10細胞/マウスの量でそれぞれの群のマウスに腹腔に注射し、腹水を調製した。100mlの腹水を、2倍体積の0.06M、pH4.0の酢酸ナトリウム緩衝液で希釈し、ゆっくり4%オクタン酸を撹拌しながら滴下た。30分撹拌した後、混濁液を10,000gで30分間遠心分離した。沈殿物を捨て、上清を0.01M、pH7.4のリン酸緩衝液で一晩透析した。等体積の飽和硫酸アンモニウムを透析液にゆっくりと添加した後、2時間静置した。混濁液を10,000gで10分間遠心分離した。上清を捨て、沈殿物を0.01M PBS、pH7.4で溶解した。溶液を0.01M、pH7.4のPBSで透析し、その間に液を2回交換し、2回の液交換の時間の間隔は5時間未満であった。透析液を10,000gで10分間遠心分離した。沈殿物を捨て、上清を収集した。
【0061】
プロテインG親和性カラム(GE Corporationから購入)を室温に戻し、5カラム体積のPBS(0.01M PB、0.15M NaCl、pH7.4)で平衡化した。上記段落で回収した上清をカラムに充填した。5カラム体積のPBSでカラムを洗浄し、0.1M、pH2.3のグリシン塩酸塩溶液で溶出した。1/10体積のpH9.0の1Mリン酸水素二ナトリウム溶液を溶出液に添加し、中和した。溶液を0.01M、pH7.4のPBSで透析し、その間に液を2回交換し、2回の液交換の時間の間隔は5時間超であった。透析液を10,000gで10分間遠心分離し、上清を、0.22μmフィルターを介して濾過して、保管し、それぞれのクローンに対応する精製されたモノクローナル抗体を得た。
【0062】
4.4 ELISA法によるモノクローナル抗体結合領域の同定
実験群1:PBS(0.01M PB、0.15M NaCl、pH7.4)で、実施例1で得られた精製されたヒトproBDNFタンパク質を希釈した。各群は、8ウェルを含む、8つの対応する精製されたモノクローナル抗体をそれぞれに添加した。
実験群2:実施例2で得られた精製されたヒトproBDNF前駆体ドメインタンパク質をPBS(0.01M PB、0.15M NaCl、pH7.4)で希釈した。各群は、8ウェルを含む、8つの対応する精製されたモノクローナル抗体をそれぞれに添加した。
【0063】
実験群1及び2の希釈したタンパク質をそれぞれ50μl(50ng)の体積(質量)で、4℃にて一晩コーティングするのに使用した。その後、上清を捨て、各ウェルをPBSで2回洗浄した後、PBS中の5%粉乳で37℃にて2時間ブロックした。その後、実験群1及び2の8つのウェルにそれぞれ上記実施例3.3で得られた8つの精製されたモノクローナル抗体を50μl(1μg/ml)添加し、37℃にて1時間インキュベートした。0.5%Tween−20を含有するPBSTでプレートを3回洗浄した後、50μlのHRP標識ヤギ抗マウス二次抗体を添加し、37℃にて1時間インキュベートした。0.5%Tween−20を含有するPBSTでプレートを5回洗浄し、ABTS基質を添加して、15分間呈色させ、マイクロプレートリーダーで405nmにおける吸光度値を測定した。実験を2回繰り返し、2回の吸光度の測定値の平均値を取った。吸光度値が陰性対照ウェルの読み取り値の3倍以上よりも高い場合を陽性とした。
【0064】
図4に示すように、精製されたモノクローナル抗体2B11は、ヒトproBDNF及びヒトproBDNF前駆体ドメインの両方に結合し、抗体2B11が2つのタンパク質の共通セグメント、すなわち、ヒトproBDNF前駆体ドメイン領域に結合することを示唆している。
【0065】
4.5 モノクローナル抗体2B11の西洋ワサビペルオキシダーゼ標識
10mgの西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を1mlの水に溶解させ、1mlの0.5M NaIOを添加して、4℃にて30分間反応させた。1mlの0.16Mエチレングリコールを添加し、4℃にて30分間反応させた。10mgの2B11抗体を0.05M、pH9.5の炭酸緩衝液で透析した。酸化したHRPを2B11抗体とよく混合し、4℃にて一晩透析した。0.4mlの1mg/ml NaBHを添加し、4℃にて2時間撹拌した。低濃度のNaHPO溶液でpHを弱酸性に調整し、等体積のグリセロールを添加して、使用するまで保管した。
【0066】
4.6 ELISA法による、抗体2B11とproBDNFの結合の種属特異性の決定
実験群1:PBS(0.01M PB、0.15M NaCl、pH7.4)で実施例1で得られた精製されたヒトproBDNFタンパク質を希釈した。
実験群2:PBS(0.01M PB、0.15M NaCl、pH7.4)で原核発現のマウスproBDNF(Alomone Labs Corporationから購入)を希釈した。
実験群3:PBS(0.01M PB、0.15M NaCl、pH7.4)で実施例3で得られた真核発現のラットproBDNF前駆体ドメインを希釈した。
【0067】
実験群1、2及び3の希釈したタンパク質をそれぞれ50μl(50ng)の体積(質量)で4℃にて一晩コーティングするのに使用した。その後、上清を捨て、各ウェルをPBSで2回洗浄した後、PBS中の5%粉乳で37℃にて2時間ブロックした。上清を捨て、希釈した実施例4.5におけるHRP標識2B11抗体(1μg/ml)50μlを添加し、37℃にて1時間インキュベートした。上清を捨て、0.5%Tween−20を含有するPBSTで各ウェルを3回洗浄した。ABTS基質を添加して、15分間呈色させ、マイクロプレートリーダーで405nmにおける吸光度値を測定した。吸光度値が陰性対照ウェルの読み取り値の3倍以上よりも高い場合を陽性とした。
【0068】
図5に示すように、クローン2B11から分泌された抗体は、ヒトproBDNFタンパク質、本発明の実施例1で調製したマウスproBDNFタンパク質、及び実施例3で真核発現のラットproBDNF前駆体ドメインのいずれとも結合する。
【0069】
4.7 ELISA法によるクローン2B11の抗体サブタイプの決定
分類する抗体の数に基づいて、6つの実験群を設けた。希釈した原核発現のヒトproBDNF(50ng)タンパク質を50μlの体積で各群の各ウェルに添加し、4℃にて一晩コーティングするのに使用した。上清を捨て、各ウェルをPBS(0.01M PB、0.15M NaCl、pH7.4)で2回洗浄し、PBS中の5%粉乳で37℃にて2時間ブロックした。上清を捨て、クローン2B11由来の、精製され、希釈した上記抗体(1μg/ml)50μlを各ウェルに添加し、37℃にて1時間インキュベートした。上清を捨て、0.5%Tween−20を含有するPBSTで各ウェルを3回洗浄した。6つの対応する型の抗体(Sigma−Aldrich Corporationから購入):ヤギ抗マウスIgG1、ヤギ抗マウスIgG2a、ヤギ抗マウスIgG2b、ヤギ抗マウスIgG3、ヤギ抗マウスIgA、及びヤギ抗マウスIgMをそれぞれ実験群1〜6に添加し、37℃にて1時間インキュベートした。上清を捨て、0.5%Tween−20を含有するPBSTで各ウェルを3回洗浄した。50μlのHRP標識ロバ抗ヤギ二次抗体を添加して、37℃にて1時間インキュベートした。上清を捨て、0.5%Tween−20を含有するPBSTで各ウェルを5回洗浄した。ABTS基質を添加して、15分間呈色させ、マイクロプレートリーダーで405nmにおける吸光度値を測定した。吸光度値が陰性対照ウェルの読み取り値の3倍以上よりも高い場合を陽性とした。図6に示すように、クローン2B11は、IgG1型と同定された。
【0070】
実施例5.モノクローナル抗体2B11のシークエンシング
5’−RACE法で2B11の配列をクローニングし、シークエンシングによって決定した(具体的な手順はTakara 5’−full RACE Kitの説明書を参照されたい)。アルカリホスファターゼ(CIAP)で全RNAにおける露出した5’リン酸基に対して脱リン酸反応をさせた。全RNAの使用量は2μgで、反応後フェノール/クロロホルム抽出によって全RNAを回収した。タバコ酸性ピロホスファターゼ(TAP)でmRNAの5’キャップ構造を脱離させ、一つのリン酸基を残した。T4RNAリガーゼで5’RACE AdaptorをmRNAに連結し、反応後フェノール/クロロホルム抽出によって、産物を回収した。逆転写酵素で逆転写反応を行い、使用されたプライマーはキットで提供されたRandom 9 mersであった。
【0071】
逆転写産物を鋳型とし、高正確性酵素を用いて標的遺伝子をPCR増幅した。使用されたプライマーは以下の通りである:
5’:5’RACEアウタープライマー:CATGGCTACATGCTGACAGCCTA(配列番号21);
3’:重鎖:mIgG1−アウトプライマー:CCAGAGTTCCAGGTCACTGTCACT(配列番号22);
軽鎖:mκ−アウトプライマー:AGGTGCTGTCTTTGCTGTCCTG(配列番号23)
【0072】
上記増幅で得られたPCR産物を鋳型とし、ネステッドPCRを行った。使用されたプライマーは以下の通りである:
5’:5’RACEインナープライマー:CGCGGATCCACAGCCTACTGATGATCAGTC GATG(配列番号24);
3’:重鎖:mIgG1−インナープライマー:CCAGGGTCACCATGGAGTTAGTTT(配列番号25);
軽鎖:mκ−インナープライマー:GTTCAAGAAGCACACGACTGAGG(配列番号26)。
【0073】
上記増幅によって得られたPCR産物を精製し、TAクローン(pGEM−T Easy Vector Kit、Promega Corporationから購入。手順は当該キットの説明書を参照されたい)によって、それぞれTeasy−2B11VH及びTeasy−2B11VKベクターを得た。モノクローナル抗体2B11の重鎖及び軽鎖は、シークエンシングによって得られ、それぞれ配列番号9及び配列番号10で示した。重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の配列は、KabatManによって決定され、それぞれ配列番号7及び配列番号8で示した。重鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3の配列は、Kabat番号付けに従って決定され、それぞれ配列番号1〜3で示され、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、及びCDR3の配列は、決定され、それぞれ配列番号4〜6で示された。
【0074】
実施例6.キメラ抗体ベクターpH−CH2B11及びpK−CH2B11の構築及び結合活性の予備同定
6.1 ベクターpH−CH2B11の構築
本発明の実施例5で構築されたベクターTeasy−2B11VHを鋳型とし、以下のプライマーでPCR増幅を行った:
2BVHF:5’−ggctgttcacagcctttcctggtttcctgtctgaggtgaaggtggtggag−3’(配列番号27);
2BVHR:5’−cgatgggcccttggtggaggctgaggagacggtgactg−3’(配列番号28)。
2B11抗体の重鎖可変領域を得た。
【0075】
同時に、抗体ベクターpH−EGFRvIII(すなわち、pH−CH12、このベクターの構築方法はPCT/CN2009/074090の実施例7.1を参照されたい)を鋳型とし、PCR増幅を行った:
プライマーFcF:5’−gcctccaccaagggcccatcg gtcttccccctgg−3’(配列番号29);及び
プライマーPIHR:5’−cgcttttgagagggagtactcac−3’(配列番号30)。
ヒトIgG1の定常領域を得た。
【0076】
上記2つのPCR増幅の断片を回収した後、架橋し、さらに以下のプライマーでPCR増幅を行った:
Nhe:5’−cctagctagccaccatgagagtgctgattcttttgt ggctgttcacagcctttcct−3’(配列番号31);及び上記プライマーPIHR(配列番号30)。
産物のアガロースゲルを回収した後、NheI及びNotI(NEB Corporationから購入)で二重消化し、同様に二重消化されたベクターpHに連結し、キメラの2B11重鎖を含む発現プラスミドpH−CH2B11を得、PCR同定及びシークエンシングによって確認した。
【0077】
6.2 ベクターpK−CH2B11の構築
本発明の実施例5で構築されたベクターTeasy−2B11Vκを鋳型とし、以下のプライマーでPCR増幅を行った:
2BVκF:5’−cttgcattcttgttgctttggtttccaggtgcaagatgtgacatccagatgactc−3’(配列番号32);及び
2BVκR:5’−agccaccgtacg ttttatttccaactttg−3’(配列番号33)。
【0078】
モノクローナル抗体2B11の軽鎖可変領域を得、断片を回収した。以下のプライマーで上記PCR増幅断片を増幅した:
Eco:5’−gatcgatatccaccatggacatgatggtccttgctcagtttcttgcattcttgttg−3’(配列番号34)、及び2BVκR(配列番号31)。
増幅産物をアガロースゲル上で回収し、EcoRV及びBsiWI(NEB Corporationから購入)で二重消化し、同様に二重消化されたベクターpKに連結し、キメラの2B11軽鎖を含む発現プラスミドpK−CH2B11を得、PCR及びシークエンシングによって確認した。
【0079】
実施例7.キメラ抗体CH2B11の構築及び結合活性の同定
上記構築された発現ベクターpH−CH2B11及びpK−CH2B11を懸濁液中のCHO細胞に共形質転換して発現させ、培養上清を3日後に収集した。CHO細胞の培養上清に、発現されたキメラ抗体CH2B11が含まれた。
【0080】
培養上清を使用して、ELISA結合実験を行った。本発明の実施例1で調製したヒトproBDNFタンパク質の実験群1だけを含め、後でウェルに対応する8つのモノクローナル抗体のクローンではなく、本実施例における細胞上清の勾配希釈液を添加した以外は、実験方法は、本発明の実施例4.4の方法と実質的に同じであった。同様に、吸光度値が陰性対照ウェルの読み取り値の3倍以上よりも高い場合を陽性とした。
【0081】
実験結果を図7に示す。キメラ抗体CH2B1を分泌するCHO細胞の培養上清は、1:32希釈で、ヒトproBDNFと結合する活性を示した。すなわち、抗体の結合性は優れている。
【0082】
実施例8.モノクローナル抗体2B11は、関節リウマチのマウスモデルの臨床症状を緩和する。
関節リウマチ(RA)は、病因不明の全身性自己免疫疾患であり、主として中高年の女性に起こり、主に関節に関与する。通常、関節症状は再発する。発病の回数が増すにつれて、関節損傷がますます深刻になり、最終的には、種々の度合いの機能障害及び変形をもたらす。900万人を超える外来、及び250,000人を超える入院が毎年RAによって引き起こされる。RAに起因する労働定員の損失は、巨大は経済的損失と、家族に重い負担をもたらす。最も一般に使用されるRAマウスモデルは、コラゲナーゼ注射に起因する関節炎モデル(CAIAモデル)である。本実施例では、CAIAモデルを使用して、2B11のRAに対する治療効果を評価した。
【0083】
1.実験動物
18〜20gの重さの6〜8週齢の雌のSPFグレードのBalb/Cマウス(the Department of Laboratory Animals、Central South Universityにより提供)を本実験で使用した。給餌条件は、以下の通りであった:クリーングレード、5〜6匹のマウス/ケージ、水と飼料は自由摂取;マウスの食事は、給水に浸して柔らかくした後に与えた。実験動物は完全に無作為化した。
【0084】
実験は、4つの群に無作為化した:
(1)正常対照群:正常マウス、モデリング無し;
(2)CAIA群:自己免疫関節炎モデルを設けたが、PBSは対照治療として与えた;
(3)CAIA+2B11前処置群:モノクローナル抗体2B11を500μg/kgで1日1回、合計で1週間、モデリングの日からモデリング後の7日目まで腹腔内に注射した;
(4)CAIA+2B11処置群:モノクローナル抗体2B11は、モデリング後17日目に与えた。
【0085】
2.CAIAモデルの調製
CAIAモデルは、Modiquest Corporation、Netherlandsからの(7つの抗体複合体からなる)コラゲナーゼ抗体複合体を腹腔に注射することによって設けた(モデリングの0日目)。2.8mgの抗体複合体を200μlのPBS中に溶解させ、腹腔内に直接注射した。モデリングの3日目に、25μgのLPS(Sigma Corporation)を腹腔内に再び注射し、炎症反応を促進させた。正常対照群では、等体積のPBSをモデリングの0日目と3日目に与えた。前処置群では、モノクローナル抗体2B11(2B11前処置群)を、モデリングの7日目から1週間毎日500μg/kgで腹腔に注射した。処置群では、モノクローナル抗体2B11を、モデリング成功後の17日目から1週間500μg/kgで腹腔に注射した。
【0086】
3.観察指標
(1)動物の体重測定:動物の体重は、自己免疫関節炎のモデリング後(すなわち、多数の抗体複合体の腹腔注射後)に減少し得る。動物の体重測定は、薬剤の有効性を評価するための非常に重要な指標になっている。
(2)関節炎の重症度スコア:関節炎の程度は、関与する関節の数に基づいてスコアすることができ、これは、自己免疫関節炎に対する薬剤の治療効果を評価するための最も重要な指標である。
(3)関節腫脹の程度:ノギスによって足底の厚さを測定し、関節腫脹の程度を評価した。関節腫脹の程度もまた、関節炎のプロセス及び薬剤の有効性を評価するための重要な指標である。
【0087】
4.実験結果
(1)自己免疫関節炎をもつマウスの体重に対する2B11の効果を図8に示す。正常群と比較して、CAIA群のマウスの体重は、コラゲナーゼ抗体複合体の腹腔注射後に継続的に減少した。(*、p<0.05、対正常群;*、p<0.01、対正常群)。CAIA+2B11前処置群またはCAIA+2B11処置群のマウスの体重の減少の程度は、対照群のものよりも著しく低く、これは統計的に有意である(#、p<0.05、2B11群対対照群)(一元配置分散分析を、反復測定を用いて行い、Tukeyのポストホック検定は、ポストホック検定分析として使用した)。これは、2B11による前処置、及び疾患発症後の2B11の投与のいずれも、関節炎マウスの体重の減少の程度を著しく減少させ得ることを示唆している。
(2)自己免疫関節炎をもつマウスの関節炎の重症度に対する2B11の効果:モデリング後、腫れ及び他の症状が、マウスの小関節で発生し得る。共通の関節炎の重症度スコア方法(表1を参照)を使用して、自己免疫関節炎に対する2B11の予防(前処置群)及び治療(処置群)効果を評価した。
【0088】
【表1】
【0089】
図9に示すように、実験を通じて正常群のマウスの関節には腫れは起きなかったため、関節炎スコアは、0であった。CAIA群では、種々の小関節及び足首関節の腫れは、モデリングの7日目に起こり、関節炎スコアは、最大で4.8ポイントの最も高いピークに著しく増加した(モデリング後10日目)。CAIA+2B11前処置群及びCAIA+2B11処置群のいずれにおけるマウスの関節炎スコアは、対照群のものよりも著しく低いが、正常群よりはまだ高い(一元配置分散分析を、反復測定を用いて行い、テューキーのポストホック検定をポストホック検定分析として使用した)。これは、2B11が、前処置群または処置群であっても、自己免疫関節炎をもつマウスの症状を効果的に緩和し得ることを示唆している。
【0090】
(3)自己免疫関節炎をもつマウスの関節腫脹の程度に対する2B11の効果:異なる群の足底は、ノギスを使用して測定し、マウスの関節腫脹の程度を評価した。図10に示すように、対照群のマウスの足底の厚さは、正常群と比較して著しく増加し、CAIA+2B11前処置群及びCAIA+2B11処置群の足底の厚さは、対照群と比較して著しく減少した(*p<0.05、対正常群;*p<0.01、対正常群;#p<0.05、対実験群)。
【0091】
実施例9.モノクローナル抗体2B11は、実験的アレルギー性脳脊髄炎をもつマウスの臨床症状を緩和する。
実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)は、臨床多発性硬化症のマウスモデルであり、これは、特異的に感作されたCD4+T細胞によって主に媒介される自己免疫疾患であると見なされ、中枢神経系中の微小血管周りの単核細胞浸潤及び脱髄によって特徴付けられる。
【0092】
1.実験動物
18〜20gの重さの6〜8週齢の雌のSPFグレードのC57BL/6マウス(the Department of Laboratory Animals、Central South Universityにより提供)を本実験で使用した。給餌条件は、以下の通りであった:クリーングレード、5〜6匹のマウス/ケージ、水と飼料は自由摂取;3以上の麻痺レベルのマウスと瀕死のマウスは、実験中に単一のケージに収容した;マウスの食事は、給水に浸して柔らかくした後に与えた。実験動物は完全に無作為化した。
【0093】
2.EAEモデルの調製
マウスをセボフルランで麻酔した。完全に乳化したMOG35−55(3mg/ml)/IFA(H37RA、4mg/ml)を、マウスの上背部の左及び右側部、並びに尾の左の根元に150μl/マウスの用量で皮下に注射した。さらに、マウスに百日咳毒素PTX(0.5μg/100μl)を50μl/マウスの用量で腹腔内に注射し、48時間後に同じ用量のPTXを再び注射した。7日目に、MOG35−55(3mg/ml)/IFA(H37RA、2mg/ml)を、マウスの下背部の左及び右側部、並びに尾の左の根元に150μl/マウスの用量で皮下に注射した。
【0094】
3.動物及び投与の群分け
マウスを1群当たり10匹のマウスで3つの群に無作為化した:
(1)正常群(正常);
(2)モデル群(EAE+NSS):モデリング後8日目に、等体積の正常ヒツジ血清を0.2ml/マウスの用量で毎日7日間連続して腹腔内に注射した;
(3)モデル+抗proBDNF抗体処置群(EAE+抗proBDNF):モデリング後9日目に、EAEモデルマウスが疾患の初期ステージである場合、マウスは、抗proBDNFポリクローナル抗体を1日1回、7日間連続して腹腔注射の治療を受け始めた(2.5mg/kg、0.2ml/マウス/日)。
【0095】
4.観察指標
(1)EAEモデルの臨床スコアリング:モデリング後、臨床スコアリングを毎日行った。スコアリング基準は、以下の通りであった:0、臨床症状無し;0.5、尾の衰弱;1、尾の麻痺;2、協調運動の喪失;2.5、片側後肢の麻痺;3、両側後肢の麻痺;3.5、前肢の衰弱と共に両側後肢の麻痺;4、前肢の麻痺;5、瀕死または死亡。スコアは、マウスが死亡したことが判明した日に5と記録し、スコアは次の日からは記録しなかった。
【0096】
5.実験結果
図11に示すように、EAE群のマウスの臨床スコアリングは、モデリング後7日目からモデリング後32日目まで著しく増加し始めた。EAE+2B11前処置群のスコアは、モデリング後7日目から25日目の間の同じ時点でEAE群のものよりも著しく低かった。これは、疾患の発症前の2B11の投与が、EAEに起因する脊柱機能の損傷を予防し、減少させ得ることを示している。EAE+2B11処置群のスコアは、モデリング後17日目から29日目の期間中にEAE群のものよりも著しく低かった。これは、2B11の投与が疾患発症後であっても良好な治療効果を有することをさらに示している。
【0097】
実施例10.抗proBDNFポリクローナル抗体の調製
ポリクローナル抗体は、以下のアミノ酸配列を有するヒトproBDNF抗原を用いて調製した:
APMKEANIRGQGGLAYPGVRTHGTLESVNGPKAGSRGLTSLADTFEHVIEELLDEDQKVRPNEENNKDADLYTSRVMLSSQVPLEPPLLFLLEEYKNYLDAANMSMRVRR(配列番号37)。
調製は、具体的には以下の通りであった。
(1)ヒトproBDNF断片をPCRで増幅し(リバースプライマー:5’CTAGCGCCGAACCCTCATAGA−3’(配列番号35);フォワードプライマー:5’−TTAGCGCCGAACCCTCATAGA−3’(配列番号36))、ベクターpET100/D−TOPO(Invitrogen)の多数のクローニング部位にクローンした。プラスミドを大腸菌BL21に形質転換し、培養した。細菌コロニーを、100μg/mlアンピシリンを含有する1,000mlのLB中で、37℃、300rpmで振動しながら増殖させた。580nmで測定した培養のOD値が0.8に到達すると、IPTGを添加して、0.5mMの最終濃度にした。培養を30℃で一晩インキュベートした後、4℃にて11,000gで遠心分離した。細菌を20分後に収集した。0.3M塩化ナトリウム、10%グリセロール、0.005%Triton−X 100、10mMイミダゾール、1mM DTT、及び1mM PMSFを含有する50mMリン酸カリウム緩衝液40mlに細菌プラークを懸濁させた。リゾチームを溶液に添加して、0.2mg/mlの最終濃度にし、溶液を25分間氷上に載置し、細胞を溶解した。その後、溶液を50Wのパワーで10回(各30秒)超音波処理し、全反応プロセスを氷上で行った。溶液を4℃にて20分間11,000gで再び遠心分離した。得られた沈殿物を50mlの緩衝液I(0.2M塩化ナトリウム及び1%デオキシコール酸ナトリウムを補充した20mM Tris(pH8.0)からなる)に入れ、氷上で30分間よく混合した。得られた懸濁液を3,000gで10分間遠心分離し、遠心分離によって得られた沈殿物を50mlの氷冷緩衝液II(1mM EDTA及び0.25%デオキシコール酸ナトリウムを補充した10mM Tris(pH8.0)からなる)に入れた。得られた溶解物を3,000gで10分間再び遠心分離した。遠心分離によって得られた沈殿物を40mlの緩衝液IIで3回洗浄した後、40mlの8M尿素溶液中に溶解させた。タンパク質溶液を11,000gで4℃にて25分間遠心分離し、得られた上清をニッケルカラムに添加した。上清の全てを通過させると、8M尿素、5mMイミダゾール、及び0.5M塩化ナトリウムを含有する洗浄液でニッケルカラムを洗浄した。溶出液のOD値を測定し、OD値が洗浄液のもの近くに低下するまで洗浄を停止した。8M尿素、1mMイミダゾール、及び0.5M塩化ナトリウムを含有する溶出緩衝液をニッケルカラムに添加し、標的タンパク質を溶出した。収集したタンパク質をゲル電気泳動で分離した後、クーマシーブリリアントブルー染色を施した。0.75M L−アルギニン、5mM GSH(R)、0.5mM GSSH(O)、5mM EDTA、及び0.1M Tris(pH=9.5)からなる溶液を使用して、標的タンパク質を含有する溶出液のタンパク質を安定化し、溶出液のpH値を中和した。タンパク質溶液を2LのPBSで4℃にて4時間透析し、5LのPBSで4時間再び透析した後、10LのPBSで一晩再び透析した。
(2)0.4%グルタルアルデヒドを含有する2mlのPBSと、2mlの完全フロイントアジュバントとを、ステップ(1)で得られた0.5mgの脳由来神経栄養因子前駆体に連続して添加し、エマルションを形成した。エマルションを成体ヒツジの背面及び鼠径部の多数の注射部位に皮下注射した。次に、抗体力価が1/10,000に到達するまで、不完全フロイントアジュバント中の抗原の半分の用量を用いて、エマルションを2週間に1回注射した。
【0098】
実施例11.実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の初期ステージにおける抗proBDNFポリクローナル抗体の使用
1.実験動物
18〜20gの重さの6〜8週齢の雌のSPFグレードのC57BL/6マウス(the Department of Laboratory Animals、Central South Universityにより提供)を本実験で使用した。給餌条件は、以下の通りであった:クリーングレード、5〜6匹のマウス/ケージ、水と飼料は自由摂取;3以上の麻痺レベルのマウスと瀕死のマウスは、実験中に単一のケージに収容した、マウスの食事は、給水に浸して柔らかくした後に与えた。実験動物は完全に無作為化した。
【0099】
2.EAEモデルの調製
マウスをセボフルランで麻酔した。完全に乳化したMOG35−55(3mg/ml)/IFA(H37RA、4mg/ml)を、マウスの上背部の左及び右側部、並びに尾の左の根元に150μl/マウスの用量で皮下に注射した。さらに、マウスに百日咳毒素PTX(0.5μg/100μl)を50μl/マウスの用量で腹腔内に注射し、48時間後に同じ用量のPTXを再び注射した。7日目に、MOG35−55(3mg/ml)/IFA(H37RA、2mg/ml)を、マウスの下背部の左及び右側部、並びに尾の左の根元に150μl/マウスの用量で皮下に注射した。
【0100】
3.動物及び投与の群分け
30マウスを1群当たり10匹のマウスで3つの群に無作為化した:
(1)正常群(正常);
(2)モデル群(EAE+NSS):モデリング後8日目に、等体積の正常ヒツジ血清を0.2ml/マウスの用量で毎日7日間連続して腹腔内に注射した;
(3)モデル+抗proBDNF抗体処置群(EAE+抗proBDNF):モデリング後9日目に、EAEモデルマウスが疾患の初期ステージである場合、マウスは、抗proBDNFポリクローナル抗体を1日1回、7日間連続して腹腔注射の治療を受け始めた(2.5mg/kg、0.2ml/マウス/日)。
【0101】
4.実験後処理
(1)EAEモデルの臨床スコアリング:モデリング後、臨床スコアリングを毎日行った。スコアリング基準は、以下の通りである:0、臨床症状無し;0.5、尾の衰弱;1、尾の麻痺;2、協調運動の喪失;2.5、片側後肢の麻痺;3、両側後肢の麻痺;3.5、前肢の衰弱と共に両側後肢の麻痺;4、前肢の麻痺;5、瀕死または死亡。スコアは、マウスが死亡したことが判明した日に5と記録し、スコアは次の日からは記録しなかった。
(2)HE染色及び区分、並びに病理学スコアリング
モデリング後35日目のマウス(5匹マウス/群)を、灌流を通じて犠牲死させた。脊髄を除去し、脱水し、ヒアリン化し、ワックスに浸し、ワックスブロックにし、区分し、(4μm)、従来の方法に従ってHE染色した。炎症細胞の浸潤が観察された。
(3)LFB染色:区分を従来のLFB染色法に従って染色し、脱髄を観察した。
(4)脊髄疾患関連の遺伝子発現の検出:
モデリング後35日目のマウス(5匹マウス/群)の脊髄を、リアルタイムPCRによって、前炎症性サイトカインIL−1、IL−6、IL−17、IFN−γ、及びTNF−αの発現レベルを検出した。
【0102】
5.データの分析
グラフパッドプリズムソフトウェア5.0を使用して、分析した。p<0.05である場合、有意差と見なされる。
【0103】
6.結果
(1)モデルマウスの疾患の発症:抗proBDNF抗体で処置したEAEモデルマウスの神経学的障害は著しく減少し、治療後の臨床スコアリングは、約1で基本的に安定していた(図12)。
(2)病理切片及び病理学的損傷スコア:モデル群のマウスの炎症細胞が脊髄の実質に密に分散し、炎症細胞の浸潤が抗proBDNF抗体処置群で減少し、ごく少量の炎症細胞が浸潤したことが、光学顕微鏡法の結果により示された(図13)。脊髄白質の髄鞘がモデル群のマウスにおいて著しく欠乏し、脊髄白質のミエリン欠損領域が抗proBDNF抗体処置群のマウスで減少したことが、LFB染色により示された(図14)。
(3)脊髄における炎症性サイトカインの発現:リアルタイムPCRの結果を図15に示す。炎症性サイトカインIL−1、IL−6、IL−17、IFN−γ、及びTNF−αの発現は大きく増加したが、IL−1、IL−6、IL−17、IFN−γ、及びTNF−αの発現は、抗proBDNF抗体処置群で著しく減少したことが示されている。
【0104】
疾患の初期ステージでの抗proBDNFポリクローナル抗体の投与がモデルマウスの神経学的機能スコアを著しく改善し、モデルマウスにおける脊髄及び脱髄の炎症細胞浸潤、並びに炎症性メディエーターの放出を阻害し得ることが、結果により示された。
【0105】
実施例12.EAEのピークにおける抗proBDNFポリクローナル抗体の使用
1.実験動物
18〜20gの重さの6〜8週齢の雌のSPFグレードのC57BL/6マウス(the Department of Laboratory Animals、Central South Universityにより提供)を本実験で使用した。給餌条件は、以下の通りであった:クリーングレード、5〜6匹のマウス/ケージ、水と飼料は自由摂取;3以上の麻痺レベルのマウスと瀕死のマウスは、実験中に単一のケージに収容した、及びマウスの食事は、給水に浸して柔らかくした後に与えた。実験動物は完全に無作為化した。
【0106】
2.EAEモデルの調製
マウスをセボフルランで麻酔した。完全に乳化したMOG35−55(3mg/ml)/IFA(H37RA、4mg/ml)を、マウスの上背部の左及び右側部、並びに尾の左の根元に150μl/マウスの用量で皮下に注射した。さらに、マウスに百日咳毒素PTX(0.5μg/100μl)を50μl/マウスの用量で腹腔内に注射し、48時間後に同じ用量のPTXを再び注射した。7日目に、MOG35−55(3mg/ml)/IFA(H37RA、2mg/ml)を、マウスの下背部の左及び右側部、並びに尾の左の根元に150μl/マウスの用量で皮下に注射した。
【0107】
3.動物及び投与の群分け
30匹のマウスを1群当たり10匹のマウスで3つの群に無作為化した:
(1)正常群(正常);
(2)モデル群(EAE+NSS):モデリング後17日目、等体積の正常ヒツジ血清を0.2ml/マウスの用量で毎日7日間連続して腹腔内に注射した;
(3)モデル+抗proBDNF抗体処置群(EAE+抗proBDNF):モデリング後17日目、EAEモデルマウスが疾患のピークであった場合、マウスは、抗proBDNFポリクローナル抗体を1日1回、7日間連続して腹腔注射の治療を受け始めた(2.5mg/kg、0.2ml/マウス/日)。
【0108】
4.実験後処理
(1)EAEモデルの臨床スコアリング:モデリング後、臨床スコアリングを毎日行った。スコアリング基準は、以下の通りである:0、臨床症状無し;0.5、尾の衰弱;1、尾の麻痺;2、協調運動の喪失;2.5、片側後肢の麻痺;3、両側後肢の麻痺;3.5、前肢の衰弱と共に両側後肢の麻痺;4、前肢の麻痺;5、瀕死または死亡。スコアは、マウスが死亡したことが判明した日に5と記録し、スコアは次の日からは記録しなかった。
(2)HE染色及び区分、並びに病理学スコアリング
モデリング後35日目のマウス(5匹マウス/群)を、灌流を通じて犠牲死させた。脊髄を除去し、脱水し、ヒアリン化し、ワックスに浸し、ワックスブロックにし、区分し、(4μm)、従来の方法に従ってHE染色した。炎症細胞の浸潤が観察された。
(3)LFB染色:区分を従来のLFB染色法に従って染色し、脱髄を観察した。
(4)脊髄疾患関連の遺伝子発現の検出:
モデリング後35日目のマウス(5匹マウス/群)の脊髄を、リアルタイムPCRによって、前炎症性サイトカインIL−1、IL−6、IL−17、IFN−γ、及びTNF−αの発現レベルを検出した。
【0109】
5.データの分析
グラフパッドプリズムソフトウェア5.0を使用して、分析した。p<0.05である場合、有意差と見なされる。
【0110】
6.結果
(1)モデルマウスの疾患の発症:抗proBDNFポリクローナル抗体で処置したEAEモデルマウスの神経学的障害は著しく減少し、治療後の臨床スコアリングは、約1で基本的に安定していた(図16)。
(2)病理切片及び病理学的損傷スコア:モデル群のマウスの炎症細胞が脊髄の実質に密に分散し、炎症細胞の浸潤が抗proBDNF抗体処置群で減少し、ごく少量の炎症細胞が浸潤したことが、光学顕微鏡法の結果により示された(図17)。脊髄白質の髄鞘がモデル群のマウスにおいて著しく欠乏し、脊髄白質のミエリン欠損領域が抗proBDNF抗体処置群のマウスで減少したことが、LFB染色により示された(図18)。
(3)脊髄における炎症性サイトカインの発現:リアルタイムPCRの結果を図19に示す。炎症性サイトカインIL−1、IL−6、IL−17、IFN−γ、及びTNF−αの発現は大きく増加したが、IL−1、IL−6、IL−17、IFN−γ、及びTNF−αの発現は、抗proBDNF抗体処置群で著しく減少したことが示されている。
【0111】
疾患のピークでの抗proBDNF抗体の投与がモデルマウスの神経学的機能スコアを著しく改善し、モデルマウスにおける脊髄及び脱髄の炎症細胞浸潤、並びに炎症性メディエーターの放出を阻害し得ることが、結果により示された。
【0112】
本発明に示した全ての文献は、各文献が個々に参照により組み込まれたように、その全体を同程度まで参照により組み込む。さらに、本発明の上記説明を読んだ後、当業者は本発明に対して種々の変更や修正をすることができ、これらの等価な形態も本出願の添付の特許請求の範囲に含まれることを理解すべきである。
図1
図2
図3
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]