(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
成形型内の減圧されるキャビティに、前記キャビティの内外の圧力差により樹脂を注入することで、前記キャビティ内に配置されている繊維基材を前記樹脂に含浸させる成形法による長尺な繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、
前記樹脂を前記キャビティ内に注入する注入部から離れている前記キャビティ内の吸引部に連通する吸引媒体が、前記繊維基材の端部と前記成形型との間に位置し、前記吸引媒体と前記繊維基材の前記端部との間に、前記樹脂の通過を阻害し、かつ通気が確保されている樹脂バリア通気媒体が位置するように、前記吸引媒体、前記樹脂バリア通気媒体、および前記繊維基材を前記キャビティ内に配置する資材配置ステップと、
前記吸引部から吸引することにより前記キャビティ内を減圧しつつ、前記注入部から前記樹脂を注入することにより前記繊維基材に前記樹脂を含浸させる含浸ステップと、
前記繊維基材に含浸された前記樹脂を硬化させる硬化ステップと、
前記繊維基材と前記樹脂とが一体化されてなる繊維強化樹脂を離型する離型ステップと、を含み、
前記資材配置ステップでは、
前記繊維基材と前記成形型との間の、前記繊維基材の前記端部およびその近傍のみに、前記繊維基材の長さ方向の全体に亘り前記吸引媒体が配置され、
前記吸引媒体と前記繊維基材の間の、前記繊維基材の前記端部およびその近傍のみに、前記長さ方向の全体に亘り前記樹脂バリア通気媒体が配置され、
前記吸引媒体と前記繊維基材との間の全域に亘り前記樹脂バリア通気媒体が介在している、
ことを特徴とする繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているように平板状の部材を成形する場合は、注入された樹脂が平面上を拡がるため、注入箇所から離れた繊維基材の端部にも樹脂が到達し易い。しかし、屈曲している部材等、部材の形状によっては、注入箇所から離れている繊維基材の端部にまで樹脂が流れ難い。そうすると、部材の端部に、樹脂が含浸されていない未含浸領域が出来るおそれがある。
【0006】
本発明は、未含浸のリスクを低減することができる繊維強化樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、未含浸のリスクを低減できる方法について、
図8に示す例を含め、鋭意検討した。
図8(a)は、断面C字状の部材を成形する例を示している。この部材は、紙面に直交する方向に延びている長尺の部材である。
この例では、成形型41の凹部内に繊維基材42が断面C字状に配置され、さらに、繊維基材42を成形型41に押さえるプレート431,431およびプレート432,432が配置されている。
この繊維基材42が全体に亘り樹脂に含浸されるように、繊維基材42の幅方向中心部に、樹脂を注入する注入チャンネルを長手方向に沿って設置する。そして、繊維基材42の幅方向両端部42A,42Aから吸引する。端部42Aの裏側には、図示しない吸引部に連通する吸引媒体46を配置している。
【0008】
図8(a)に示す例によれば、繊維基材42の端部42A,42Aからの吸引による減圧下、注入チャンネル44の一端側から注入チャンネル44内に液状の樹脂が供給されると、樹脂は、注入チャンネル44を繊維基材42の長さ方向に流れつつ、注入チャンネル44から減圧空間へと注入される。さらに、樹脂は、メディア45によって
図8(b)に示すように分散されながら、繊維基材42の厚み方向にも流れる。実線の矢印は、注入チャンネル44から注入される樹脂の流れを模式的に示している。
ここで、
図8(b)に破線の矢印で示すように、端部42Aに配置されている吸引媒体46に樹脂が入ると、繊維基材42よりも樹脂の流動抵抗が小さい吸引媒体46を伝って繊維基材42の長さ方向に樹脂が容易に流れてしまう。樹脂が繊維基材42の端部42Aの任意の部位Pに含浸されるのに先立ち、部位Pに向かう樹脂の進行方向前方に位置する吸引媒体46の部位P´に樹脂が存在していると、実線で示す樹脂の流れが阻害されてしまう。この場合には、端部42Aの部位Pに樹脂が含浸されないおそれがある。吸引媒体46を流れる樹脂(破線矢印で示す)は、吸引媒体46に拡がり、実線で示す繊維基材42を流れる樹脂に対して逆向きの流れを生じさせるおそれもある。
【0009】
吸引媒体46に樹脂が入ることに起因する未含浸のリスクを抑えるため、吸引媒体46に入った樹脂を即座に吸引して除去している。そのために、
図8(a)に示すように、吸引媒体46に入った樹脂を吸引するための樹脂吸引チャンネル47を吸引媒体46上に設置している。樹脂吸引チャンネル47は、チューブにより真空ポンプに接続される。吸引媒体46内の樹脂が、気体と共に、樹脂吸引チャンネル47を通じて吸引される。この樹脂吸引チャンネル47を通じて樹脂を確実に吸引するため、能力の高い真空ポンプが使用される。樹脂吸引チャンネル47は、繊維基材42の内周側から端部42Aを迂回して外周側に樹脂が流入するのを防ぐため(ショートパス防止)、フィルム48により覆われる。
さらに、吸引媒体46の長さ方向の全体に亘り樹脂を確実に吸引するため、吸引媒体46の長さ方向に所定間隔をおいて複数の箇所から吸引する必要がある。そのため、長さに応じた数だけの吸引系統(樹脂吸引チャンネルやチューブ、ポンプ)が必要となり、吸引系統が非常に複雑な構成となる。
【0010】
そこで、本発明の発明者は、吸引媒体に樹脂が入ることに起因する未含浸リスクを低減することができる方法として、以下に示す方法を想到した。
【0011】
本発明は、成形型内の減圧されるキャビティに、キャビティの内外の圧力差により樹脂を注入することで、キャビティ内に配置されている繊維基材を樹脂に含浸させる成形法による
長尺な繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、樹脂をキャビティ内に注入する注入部から離れているキャビティ内の吸引部に連通する吸引媒体が、繊維基材の端部と成形型との間に位置し、吸引媒体と繊維基材の端部との間に、樹脂の通過を阻害し、かつ通気が確保されている樹脂バリア通気媒体が位置するように、吸引媒体、樹脂バリア通気媒体、および繊維基材をキャビティ内に配置する資材配置ステップと、吸引部から吸引することによりキャビティ内を減圧しつつ、注入部から樹脂を注入することにより繊維基材に樹脂を含浸させる含浸ステップと、繊維基材に含浸された樹脂を硬化させる硬化ステップと、繊維基材と樹脂とが一体化されてなる繊維強化樹脂を離型する離型ステップと、を含み、資材配置ステップでは、繊維基材と成形型との間の、繊維基材の端部およびその近傍のみに、
繊維基材の長さ方向の全体に亘り吸引媒体が配置され、吸引媒体と繊維基材の間の、繊維基材の端部およびその近傍のみに、
長さ方向の全体に亘り樹脂バリア通気媒体が配置され
、吸引媒体と繊維基材との間の全域に亘り樹脂バリア通気媒体が介在していることを特徴とする。
【0012】
長尺な繊維強化樹脂成形品を製造する場合に、本発明の資材配置ステップでは、繊維基材の長さ方向の全体に亘り吸引媒体および樹脂バリア通気媒体を配置し、吸引媒体の長さ方向における1箇所または2箇所にのみ吸引部が位置することが好ましい。
【0013】
屈曲した断面形状を有する長尺な成形品を製造する場合に、本発明の資材配置ステップでは、屈曲した断面形状に配置される繊維基材の端部に、吸引媒体および樹脂バリア通気媒体を配置することが好ましい。
【0014】
また、断面略C字状の長尺な成形品を製造する場合に、本発明の資材配置ステップでは、断面略C字状に配置される繊維基材の幅方向における繊維基材の両側の端部にそれぞれ、吸引媒体および樹脂バリア通気媒体を配置することが好ましい。
さらに、資材配置ステップでは、幅方向における繊維基材の中央部に、注入部としての注入チャンネルを配置することが好ましい。
【0015】
またさらに、資材配置ステップでは、断面略C字状に配置される繊維基材の内周側に注入チャンネルを、繊維基材の端部の外周側に吸引媒体をそれぞれ配置することが好ましい。
【0016】
本発明の繊維強化樹脂成形品の製造方法において、含浸ステップでは、吸引媒体が内包されている樹脂バリア通気媒体と成形型との間の空間から吸引部を用いて吸引することが好ましい。
【0017】
本発明の繊維強化樹脂成形品の製造方法において、資材配置ステップでは、樹脂バリア通気媒体の端部と成形型との間の隙間を封止することが好ましい。
【0018】
本発明の繊維強化樹脂成形品の製造方法により、航空機の部材に用いられる成形品を製造することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、樹脂バリア通気媒体により吸引媒体が覆われているため、吸引媒体を樹脂が先回りすることに起因する未含浸リスクを低減できる。
その上、樹脂バリア通気媒体により吸引媒体に樹脂が入ることが阻害されていることで、吸引に必要なポンプの低能力化および吸引系統の簡素化を実現できるため、コストダウンできる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態では、VaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding;真空補助樹脂注入成形)法を用いて、繊維強化樹脂からなる成形品(
図1)を得る。
【0022】
図1に示す成形品1は、略C字状の横断面を有する長尺状の部材であり、全体としてチャンネル状に形成される。
成形品1は、ウェブ10と、ウェブ10に対して同じ向きに屈曲した一対のフランジ11,12とから一体に構成されている。
以下では、一方のフランジ11の端部と他方のフランジ12の端部とを結ぶ方向のことを幅方向D1と称する。
成形品1は、例えば、航空機の尾翼の構造部材として用いることができる。尾翼の構造部材である桁(spar)として用いられる成形品1は、長さ方向の一端側から他端側に向かうにつれて次第にウェブ10の幅が拡大するように形成されている。
【0023】
成形品1を構成する繊維強化樹脂(Fiber-Reinforced Plastics)は、強化繊維からなる繊維基材を樹脂に含浸し、樹脂を硬化させることで繊維基材と樹脂とが一体化されたものである。
繊維基材は、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維等の強化繊維から形成されている。強化繊維からなる単一のシート(織物等)から、あるいは強化繊維からなるシートを積層することで繊維基材を構成することができる。
繊維基材を含浸させる樹脂(マトリクス樹脂)としては、エポキシ、ポリイミド、ポリウレタン、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂を用いることができる。あるいは、ナイロン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)、PES(ポリエーテルサルホン樹脂)等の熱可塑性樹脂を用いることもできる。
【0024】
図2は、成形品1の製造に用いられる成形装置の構成を示している。この
図2を参照し、成形装置を構成する成形型20や種々の資材について説明する。
成形品1の成形には、繊維基材101が配置される成形型20と、繊維基材101を成形型20の表面に押さえるプレート21,23,24と、バッグ用フィルム31とが用いられる。
成形型20に形成された溝の底部20Aと、底部20Aの幅方向D1両側から立ち上がる壁部20B,20Cにそれぞれ沿うように、繊維基材101が断面略C字状に配置される。
繊維基材101は、例えば数十層以上の積層されたプライから構成されている。繊維基材101は、平坦な状態のものを壁部20B,20Cの基端でそれぞれ折り曲げて成形型20に配置することができる。あるいは、予め断面略C字状に形状が賦与された繊維基材101を成形型20に配置することができる。
【0025】
プレート21,23,24は、繊維基材101を成形型20に押さえる。
プレート21は、繊維基材101の底部20Aに配置された部分に対応している。底部20Aの幅方向D1の中央部に、プレート21の中央に位置するスリット状の間隙212が存在している。間隙212は、
図2の紙面に直交する方向に連続している。
プレート23は、繊維基材101の壁部20Bに配置された部分に対応し、プレート24は、繊維基材101の壁部20Cに配置された部分に対応している。
繊維基材101、成形型20、およびプレート21,23,24は、底部20Aの幅方向D1の中心部に対して左右対称に構成されている。但し、成形品1の形状によってはこの限りではなく、プレート21,23,24が中心部に対して非対称に構成されることも許容される。
【0026】
成形品1の製造に用いられる資材として、バッグ用フィルム31と、シーラント32と、注入チャンネル33と、樹脂を分散あるいは拡散させるメディア34(またはブリーザー)と、ピールプライ35と、吸引媒体36と、樹脂バリア通気媒体37とをそれぞれ説明する。この他にも適宜な資材を成形品1の製造に用いることができる。
【0027】
バッグ用フィルム31は、成形型20との間に減圧されるキャビティCを形成する。バッグ用フィルム31は、成形型20と共に、繊維強化樹脂を成形する型として機能する。
バッグ用フィルム31は、
図2および
図3に示すように、繊維基材101およびプレート21,23,24の全体と、繊維基材101の周囲に位置する成形型20の所定範囲を覆っている。環状に配置されたシーラント32により、バッグ用フィルムの外周縁部と成形型20の表面との間が封止されることで、キャビティC内の気密が確保される。
【0028】
C字状の注入チャンネル33は、樹脂の注入経路である。
図2および
図3に示すように、注入チャンネル33は、プレート21の間の間隙212に沿って、逆さU字の向きでプレート21上に設置されている。注入チャンネル33は、繊維基材101の幅方向D1と直交する方向の全体に亘り延びていることが好ましい。
注入チャンネル33の入口端部331は、チューブや配管、バルブ等を含む注入路151によって液状の樹脂の供給源15に接続されている。注入チャンネル33の出口端部332は、入口端部331から出口端部332へと向かう樹脂の流れを作るため、真空ポンプ16により吸引されることが好ましい。なお、真空ポンプ16は省略することができる。
注入チャンネル33の内側は、間隙212と、バッグ用フィルム31に幅方向D1と直交する方向に沿って形成されたスリット311とを介してキャビティC内に連通している。
【0029】
メディア34は、
図2に示すように、バッグ用フィルム31の内側で、繊維基材101の内周部に沿って配置されている。メディア34は、注入チャンネル33からキャビティC内へと注入された樹脂の経路となって樹脂を分散させる。メディア34は、底部20Aに配置された繊維基材101の部分と、壁部20B,20Cに配置された繊維基材101の部分とにそれぞれ対応している。
メディア34は、繊維基材101と比べて樹脂の流動に与える抵抗が非常に小さいメッシュ状の部材や織物、不織布等である。そのため、キャビティC内に注入された樹脂がメディア34を面内方向に容易に流れる。樹脂は、メディア34により繊維基材101の面内方向に分散されつつ、キャビティC内の減圧に伴って加圧されることで繊維基材101に含浸される。
【0030】
メディア34と繊維基材101との間には、繊維基材101からの剥離が容易なピールプライ35(
図2)を介在させることが好ましい。ピールプライ35は、樹脂の通過を許容する。そのため、メディア34を流れる樹脂がピールプライ35を通り繊維基材101に含浸される。
メディア34を成形品1に残存させる場合は、ピールプライ35を省略することができる。
【0031】
長尺で断面略C字状の成形品1を得るため、キャビティC内に注入された樹脂を繊維基材101の長さ方向にも幅方向D1にも流動させて繊維基材101の全体に行き渡らせる必要がある。特に、ウェブ10に対して屈曲しているフランジ11,12の端部に対応する繊維基材101の端部101A,101Bにまで樹脂を含浸させることが難しい。
そこで、樹脂の流れの主幹線として長さ方向に沿った注入チャンネル33を繊維基材101の内周側で幅方向D1の中心部に設ける。そして、その中心部から幅方向D1に離れた、繊維基材101の幅方向D1の両端部101A,101Bにおける外周側で真空ポンプ17A,17B(
図3)により吸引(脱気)する。これにより、主幹線(33)を長さ方向に流れつつ、繊維基材101の内周側から端部101A,101Bの外周側へと向かう樹脂の流れを作り出すことが好ましい。
【0032】
ここで、注入された樹脂を端部101A,101Bまで導き、端部101A,101Bの裏側の部分(外周部)まで含浸させるために、
図2に示すように、吸引媒体36を端部101A,101Bの裏側にそれぞれ配置する。繊維基材101の長さ方向の全体に亘って端部101A,101Bに確実に樹脂を含浸させるため、吸引媒体36を繊維基材101の長さ方向の全体に亘り配置することが好ましい。
【0033】
吸引媒体36は、
図4に示すように、端部101Aの裏面と、成形型20の壁部20Bとの間に配置されるとともに、真空ポンプ17A(
図3)に接続される吸引ノズル171Aに連通している。
成形型20の壁部20C(
図2)と、端部101Bとの間にも、同様に吸引媒体36が配置されている。吸引媒体36は、真空ポンプ17B(
図3)に接続される吸引ノズル171Bに連通している。
ここで、キャビティC内に位置する吸引ノズル171A,171Bの開口は、吸引媒体36と連通する吸引部として機能する。これは、吸引部のあくまで一例である。キャビティC内を外部から吸引可能な吸引口として機能する限り、例えば、樹脂バリア通気媒体37とバッグ用フィルム31に設けられた適宜なバルブや開口部等をも、吸引部として用いることができる。
【0034】
吸引媒体36は、端部101A,101Bの裏側を吸引するために必要な気体の経路を確保する。
吸引媒体36は、メディア34と同様に、メッシュ状の部材や織物、不織布等であり、樹脂の流動に与える抵抗が繊維基材101と比べると非常に小さい。そのため、吸引媒体36に入った樹脂は流れ易い。
【0035】
本実施形態は、注入された樹脂を含浸させるのが難しい端部101A,101Bと成形型20との間に、吸引媒体36と樹脂バリア通気媒体37とを配置することを主要な特徴としている。
樹脂バリア通気媒体37(
図2、
図4)は、端部101Aと吸引媒体36との間、端部101Bと吸引媒体36との間にそれぞれ配置されている。
樹脂バリア通気媒体37は、樹脂の通過を阻害し、かつ、吸引ノズル171A,171Bから吸引媒体36を通じて吸引するために必要な通気性が確保されている。樹脂バリア通気媒体37として、液状の樹脂の分子よりも小さく、キャビティC内の空気や樹脂から揮発したガスの分子よりも大きい開口を有する膜を用いることができる。樹脂バリア通気媒体37には、そういった膜と、膜の支持層や保護層とが積層されたものを用いることが好ましい。
【0036】
吸引媒体36および樹脂バリア通気媒体37は、壁部20Bに段差20Fが形成されていれば段差20Fの内側に配置することができる。あるいは、吸引媒体36および樹脂バリア通気媒体37は、平坦な壁部20Cに沿って配置することもできる。
【0037】
樹脂バリア通気媒体37としては、微多孔質のシートや樹脂フィルム、紙や布などに微多孔膜をコーティングした基材等、気体は通すが、樹脂を通さないものであれば、どのようなものでも使用することができる。また、樹脂バリア通気媒体37としては、表面の平滑性があるものの方が、成形品の表面品位を良いものにすることができる。また、樹脂バリア通気媒体37には、離型性があることが望ましいが、場合によっては樹脂バリア通気媒体37を成形品1と一体化させることも可能である。
【0038】
樹脂バリア通気媒体37は、厚み方向への気体の通過が可能である。しかし、樹脂バリア通気媒体37は、吸引媒体36よりも組成が密であることから、仮に、吸引媒体36が存在しないとすると、樹脂バリア通気媒体37が成形型20の表面に密着する。そうすると、樹脂バリア通気媒体37の通気性は発揮されず、端部101A,101Bの裏側と吸引ノズル171A,171Bとの間の通気が確保できないので、端部101A,101Bの裏側からの吸引ができない。
吸引媒体36は、樹脂バリア通気媒体37よりも組成が粗いことから、成形型20に接触していても密着はせず、端部101A,101Bから吸引ノズル171A,171Bへの通気を確保する。
【0039】
つまり、樹脂バリア通気媒体37単体ではなく、成形型20に配置された吸引媒体36に、樹脂バリア通気媒体37を積層することにより、端部101A,101Bの裏側から吸引媒体36を通じて吸引するために必要な通気を確保できる。また、吸引媒体36に、樹脂バリア通気媒体37を積層することにより、注入された樹脂が吸引媒体36に入るのを樹脂バリア通気媒体37により防ぐことができる。
図8(b)を参照して説明したように、吸引媒体36の樹脂流動抵抗は小さい。そのため、吸引媒体36の一部にでも樹脂が入ると、繊維基材101の端部101A,101Bの任意の部位(例えば、P)に樹脂が到達するのに先立ち、部位Pに向かう樹脂の進行方向前方に位置する吸引媒体36の部位P´に樹脂が回り込む可能性がある。このように樹脂が先回りすることで、部位Pへの樹脂の含浸が妨げられて未含浸領域Uが出来るのを避けるため、樹脂バリア通気媒体37により、吸引媒体36を全面的に覆っている。
【0040】
樹脂バリア通気媒体37により吸引媒体36への樹脂の流入が阻害されている。そのため、吸引媒体36を通じて吸引ノズル171A,171Bから吸引する真空ポンプ17A,17Bに要求される吸引能力が、繊維基材101から樹脂バリア通気媒体37を介さずに吸引媒体36へと樹脂がそのまま入る場合に比べて低い。そのため、吸引媒体36を通じて吸引するために必要な構造が
図8(a)に示す参考例と比べて簡素化されている。
なお、樹脂バリア通気媒体37は、
図4(b)に示すようにチューブ状の構造であってもよい。また、
図4(c)に示すように、チューブ状の構造の樹脂バリア通気媒体37の端部をヒートシームで加工してもよい。
【0041】
以下、吸引媒体36を通じた吸引に関する構成について説明する。
吸引媒体36は、
図4に示すように、成形型20の壁部20Bから、吸引ノズル171Aが設置される成形型20の土手20Dに沿って延在している。土手20Dに配置された吸引媒体36の領域361上の所定の箇所に、
図3に示すように、吸引ノズル171Aが配置されている。
【0042】
吸引媒体36と同様に、樹脂バリア通気媒体37も、成形型20の壁部20Bから、吸引ノズル171Aが設置される成形型20の土手20Dに沿って延在している。土手20Dに配置された樹脂バリア通気媒体37の領域371は、吸引ノズル171Aの上に配置されている。つまり、樹脂バリア通気媒体37と吸引媒体36との間に吸引ノズル171Aが挟まれている。
樹脂バリア通気媒体37により樹脂の流入が防止されているので、吸引ノズル171Aを通じて真空ポンプ17Aにより気体のみを吸引することができる。樹脂バリア通気媒体37の端部を長さ方向に沿って固定するテープ38(
図4)等によって、成形型20と樹脂バリア通気媒体37の端部との間の隙間は封止されている。そうすると、吸引媒体36が内包されている樹脂バリア通気媒体37と成形型20との間の細長い空間から、吸引ノズル171Aにより効率よく吸引することができる。
なお、吸引ノズル171Aは必ずしも吸引媒体36の上に配置する必要はなく、吸引媒体36の下に配置することもできる。吸引ノズル171Aと吸引媒体36とが連通しており、吸引媒体36を通じて吸引ノズル171Aから吸引できる限り、吸引ノズル171Aの位置は問わない。
【0043】
成形型20の壁部20C(
図2)に配置される吸引媒体36および樹脂バリア通気媒体37も、同様に、成形型20の土手20E(
図2)に沿って延在している。土手20E上に、吸引媒体36、吸引ノズル171B、および樹脂バリア通気媒体37が配置されている。
【0044】
本実施形態では、吸引ノズル171A,171Bに個別にポンプが用意されている。
図3に示すように、吸引ノズル171Aに真空ポンプ17Aが接続され、吸引ノズル171Bに真空ポンプ17Bが接続されている。なお、吸引ノズル171Aと吸引ノズル171Bとが同じポンプに接続されていてもよい。
吸引ノズル171Aは、吸引媒体36の長さ方向における一箇所に配置されている。吸引ノズル171Bも同様である。
吸引ノズル171A,171Bは、吸引媒体36の長さ方向の端部に配置されていてもよい。吸引ノズル171A,171Bを吸引媒体36の長さ方向の一端部に配置する場合は、ノズルの吸引口を他端部に向けるとよい。
【0045】
図4(本実施形態)では、樹脂を吸引する場合に用いるポンプと比べて吸引能力の低いポンプ17A,17Bにより吸引媒体36を通じて気体のみを吸引すれば足りる。そのため、
図8(a)に示す樹脂吸引チャンネル47やショートパス防止用のフィルム48が必要なく、長さ方向において複数の吸引系統に分割する必要もない。
したがって、本実施形態によれば、
図8に示す参考例とは違って、系統毎の樹脂吸引チャンネル47やチューブにより吸引系統が複雑となることなく、吸引系統を簡素な構造にすることができる。本実施形態によれば、ポンプ17A,17Bの必要能力が低いことによるコストダウンに加えて、吸引に必要な資材構造の簡素化によっても大幅にコストダウンできる。
【0046】
なお、予備的に、吸引媒体36の長さ方向における数カ所に吸引ノズル171Aを配置することも許容される。これら複数の吸引ノズル171Aを同じポンプ17Aに接続することができる。同様に、吸引ノズル171Bも、予備的に、吸引媒体36の長さ方向における数カ所に配置することが許容される。
【0047】
以下、成形品1を得る製造方法の手順の一例(
図5)について説明する。
まず、製造に用いる資材を成形型20に配置する(資材配置ステップS1)。以下では、各資材を配置する手順の一例を説明する。各資材を配置する順序は特に問わない。
ここでは、成形型20の壁部20Bと土手20D(
図2)に沿って吸引媒体36を設置し、その上に樹脂バリア通気媒体37を重ねる(ステップS11)。その状態で樹脂バリア通気媒体37の下端をテープ38等で壁部20Bに固定する。
【0048】
次に、繊維基材101を成形型20の内側に断面略C字状に配置し、繊維基材101の内周部にピールプライ35およびメディア34を積層する(ステップS12)。なお、先に繊維基材101を成形型20に配置した後、繊維基材101と成形型20の壁部20B,20Cとの間に吸引媒体36および樹脂バリア通気媒体37を挿入することもできる。なお、ステップS11とステップS12の順番は入れ替えてもよい。
【0049】
さらに、吸引ノズル171A,171Bや真空ポンプ17A,17B等の吸引系統を設置する(ステップS13)。土手20D上に配置されている吸引媒体36と樹脂バリア通気媒体37との間に吸引ノズル171A(
図3)を配置したならば、テープ38等で樹脂バリア通気媒体37を土手20Dに固定する。同様に、土手20E上に配置されている吸引媒体36と樹脂バリア通気媒体37との間にも吸引ノズル171B(
図3)を配置する。吸引系統の構造が簡素であるため、吸引系統を容易に設置できる。
【0050】
続いて、バッグ用フィルム31の上からプレート21,23,24により繊維基材101を成形型20に押さえる(ステップS14)。
そして、バッグ用フィルム31(
図2、
図3)により繊維基材101およびプレート21,23,24と、吸引媒体36および樹脂バリア通気媒体37との全体を覆い、バッグ用フィルム31の外周部と成形型20との間の隙間をシーラント32により密封する(ステップS15)。このバッグ用フィルム31と成形型20との間に、減圧されるキャビティCが形成される。キャビティC内に、繊維基材101、プレート21,23,24、吸引媒体36および樹脂バリア通気媒体37が配置されることとなる。
【0051】
次いで、プレート21の間の間隙212に沿って注入チャンネル33を配置し、チューブや配管(注入路151)により注入チャンネル33を樹脂供給源15に接続する。
【0052】
以上により、資材の配置を完了したならば、真空ポンプ17A,17Bを作動させて吸引を開始する。そして、キャビティC内が所定の真空度にまで減圧されたならば、樹脂の注入を開始して繊維基材101に樹脂を含浸させる(含浸ステップS2)。注入路151に設けられている図示しないバルブを開くことにより、樹脂供給源15から注入チャンネル33に樹脂を供給することができる。樹脂は、注入チャンネル33を流れながら、大気に対して減圧されたキャビティC内へと注入チャンネル33から注入される。
ポンプ17A,17Bによる吸引は、含浸ステップS2と、次の硬化ステップS3を通じて行うことが好ましい。
マトリクス樹脂として熱可塑性樹脂が用いられる場合は、含浸ステップS2は加熱雰囲気下で行う。
【0053】
図6は、キャビティC内における樹脂の流動の様子を矢印で模式的に示している。樹脂は、注入チャンネル33を長さ方向に流れつつ、キャビティC内に入り、メディア34(
図2)により幅方向D1にも拡がりながら、吸引媒体36が位置する端部101A,101Bに向けて流れる過程で、繊維基材101に含浸される。
ここで、樹脂バリア通気媒体37により吸引媒体36に樹脂が入ることが阻害されている。そのため、端部101A,101Bが樹脂に含浸される速度よりも速く吸引媒体36を長さ方向に樹脂が流れる先回りの現象が生じない。
したがって、端部101A,101Bに未含浸領域を残すことなく、繊維基材101の全体に亘り樹脂を均一に含浸させることができる(以上、含浸ステップS2)。
【0054】
次に、繊維基材101に含浸された樹脂を硬化させる(硬化ステップS3)。マトリクス樹脂として熱硬化性樹脂が用いられている場合は、樹脂に含浸された繊維基材101を加熱することで樹脂を硬化させる。マトリクス樹脂として熱可塑性樹脂が用いられている場合は、常温で樹脂が硬化するのを待つことができる。
加熱方法としては、例えば、樹脂に含浸された繊維基材101を成形型20に配置された状態のままオーブンに入れて、加熱する。あるいは、ヒーターマットやドライヤー等を用いて加熱することにより、樹脂を硬化させることも可能である。
硬化する間にも、ポンプ17A,17Bを作動させることにより、硬化する間に樹脂から揮発したガスを吸引できる。これにより、ボイドの発生を防止できる。また、繊維基材101が十分に加圧されることで緻密化される。
【0055】
樹脂が硬化することで、樹脂と繊維基材101とが一体化した繊維強化樹脂が成形される。最後に、成形型20から離型することにより、繊維強化樹脂からなる成形品を得ることができる(離型ステップS4)。
【0056】
以上で説明した本実施形態の製造方法によれば、吸引媒体36を覆う樹脂バリア通気媒体37を用いることにより、吸引媒体36を通じた樹脂の先回りに起因する未含浸のリスクを低減することができる。
しかも、樹脂バリア通気媒体37により吸引媒体36への樹脂の流入が阻害されていることで、吸引媒体36に入った樹脂を除去するための複雑な構成が不要となる。これにより、大幅なコストダウンを実現できる。
【0057】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択することや、他の構成に適宜変更することが可能である。
上記実施形態では、断面略C字状に配置された繊維基材101の内周側に注入チャンネル33が配置され、繊維基材101の外周部に吸引媒体36が配置されているが、これとは逆に構成することもできる。例えば、
図7に示すように、断面矩形状で上向きに凸となる成形型20に対して、下から順に、繊維基材101、ピールプライ35、メディア34、プレート21を積層して配置する。このとき、プレート21の中央部に注入チャンネル33を配置し、それらの外側から全体をバッグ用フィルム31で被覆する。また、バッグ用フィルム31の外周縁部と成形型20の間はシーラント32で封止する。また、繊維基材101の端部の内周側にそれぞれ吸引媒体36および樹脂バリア通気媒体37を配置する。吸引媒体36および樹脂バリア通気媒体37の端部は長さ方向に沿ってテープ38で固定される。なお、図中上側の吸引媒体36の端部も長さ方向に沿ってテープ38でカバーしてもよい。
そして、成形型20の内周側から吸引媒体36および樹脂バリア通気媒体37を介して繊維基材101の端部から吸引しつつ、繊維基材101の上面中央部に位置する注入チャンネル33(溝)から樹脂を注入する。これにより、注入樹脂を繊維基材101の端部に十分に含浸させることができる。
【0058】
本発明により製造される成形品の形状は、断面略C字状には限定されず、平板状や断面L字状、その他の種々形状の成形品に本発明を適用することができる。本発明は、特に、断面L字状、断面略C字状等、屈曲した形状の成形品の製造に有利である。そういった形状の場合、注入部が設定される平坦な部分に対して屈曲した部分へと樹脂が流れ難いためである。樹脂が到達し難い屈曲部の端部に、吸引媒体36および樹脂バリア通気媒体37を配置すればよい。
本発明は、成形品の形状を問わず、例えば、屈曲した部分の端部等、含浸が困難であるため吸引媒体36を配置して吸引部から吸引している構成において、吸引媒体36に樹脂が入る先回りに起因する未含浸のリスクがある場合に、その未含浸リスクを低減するために適用することができる。