(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の回転式圧縮機および冷凍サイクル装置を、図面を参照して説明する。
始めに、冷凍サイクル装置について簡単に説明する。
図1は、本実施形態の冷凍サイクル装置1を示す概略構成図である。
図1に示すように、冷凍サイクル装置1は、回転式圧縮機2と、回転式圧縮機2に接続された放熱器3(例えば凝縮器)と、放熱器3に接続された膨張装置4(例えば膨張弁)と、膨張装置4と回転式圧縮機2との間に接続された吸熱器5(例えば蒸発器)とを備えている。
【0009】
回転式圧縮機2は、いわゆるロータリ式の圧縮機である。回転式圧縮機2は、例えば、内部に取り込まれる低圧の気体冷媒(作動流体)を圧縮して高温・高圧の気体冷媒にする。なお、回転式圧縮機2の具体的な構成については後述する。
【0010】
放熱器3は、回転式圧縮機2から送り込まれる高温・高圧の気体冷媒から熱を放熱させ、高温・高圧の気体冷媒を高圧の液体冷媒にする。
膨張装置4は、放熱器3から送り込まれる高圧の液体冷媒の圧力を下げ、高圧の液体冷媒を低温・低圧の液体冷媒にする。
吸熱器5は、膨張装置4から送り込まれる低温・低圧の液体冷媒を気化させ、低温・低圧の液体冷媒を低圧の気体冷媒にする。そして、吸熱器5において、低圧の液体冷媒が気化する際に周囲から気化熱を奪うことで周囲が冷却される。なお、吸熱器5を通過した低圧の気体冷媒は、上述した回転式圧縮機2の内部に取り込まれる。
【0011】
このように、本実施形態の冷凍サイクル装置1では、作動流体である冷媒が気体冷媒と液体冷媒との間で相変化しながら循環し、気体冷媒から液体冷媒に相変化する過程で放熱され、液体冷媒から気体冷媒に相変化する過程で吸熱される。そして、これらの放熱や吸熱を利用して暖房や冷房などが行われる。
【0012】
次に、上述した回転式圧縮機2の具体的な構成について説明する。
本実施形態の回転式圧縮機2は、圧縮機本体11と、アキュムレータ12とを備える。
アキュムレータ12は、いわゆる気液分離器である。アキュムレータ12は、上述した吸熱器5と圧縮機本体11との間に設けられている。アキュムレータ12は、吸込管21を通じて圧縮機本体11に接続されている。アキュムレータ12は、吸熱器5で気化された気体冷媒を、吸込管21を通じて圧縮機本体11に供給する。
【0013】
圧縮機本体11は、回転軸31と、回転軸31を回転させる電動機部32と、回転軸31の回転によって気体冷媒を圧縮する圧縮機構部33と、これら回転軸31、電動機部32および圧縮機構部33を収容した円筒状の密閉容器34とを備えている。
【0014】
回転軸31および密閉容器34は、回転軸31の軸心O(軸線)に対して同軸状に配置されている。なお、回転軸31の軸心Oとは、回転軸31の中心(回転中心)を意味する。電動機部32は、密閉容器34のなかで、軸心Oに沿う方向の一端側(
図1における上側)に配置されている。圧縮機構部33は、密閉容器34のなかで、軸心Oに沿う方向の他端側(
図1における下側)に配置されている。なお以下の説明では、軸心Oに沿う方向を回転軸31の軸方向Z、軸心Oに直交するとともに軸心Oから放射状に離れる方向を回転軸31の径方向R、軸心Oに対して一定の距離を保ちながら軸心Oの周りを回転する方向を回転軸31の周方向θ(
図2参照)と称する。
【0015】
回転軸31は、軸方向Zに沿って、電動機部32を貫通するとともに圧縮機構部33の内部に延びている。回転軸31には、第1偏心部41と、第2偏心部42とが軸方向Zに並べて設けられている。第1偏心部41は、回転軸31のなかで、圧縮機構部33の第1シリンダ51(後述)に対応する位置に設けられている。同様に、第2偏心部42は、回転軸31のなかで、圧縮機構部33の第2シリンダ52(後述)に対応する位置に設けられている。第1偏心部41および第2偏心部42の各々は、例えば軸方向Zに沿う円柱状である。第1偏心部41および第2偏心部42は、軸心Oに対して径方向Rに同一量ずつ偏心している。第1偏心部41および第2偏心部42は、軸方向Zから見た平面視で例えば同形同大に形成されるとともに、例えば周方向θに180°の位相差をもって配置されている。
【0016】
電動機部32は、例えば、いわゆるインナーロータ型のDCブラシレスモータである。具体的には、電動機部32は、固定子36と、回転子37とを備える。固定子36は、筒状に形成され、密閉容器34の内壁面に焼嵌めなどによって固定されている。回転子37は、固定子36の内側に配置されている。回転子37には、回転軸31の上部が連結されている。回転子37は、固定子36に設けられたコイルに電流が供給されることで、回転軸31を回転駆動する。
【0017】
次に、圧縮機構部33について説明する。
圧縮機構部33は、複数のシリンダ(第1シリンダ51および第2シリンダ52)と、仕切板53と、主軸受54と、副軸受55と、複数のローラ(第1ローラ56および第2ローラ57)とを備えている。
【0018】
第1シリンダ51および第2シリンダ52は、互いの間に距離を空けて軸方向Zに並べられている。第1シリンダ51および第2シリンダ52の各々は、軸方向Zに開口した筒状に形成されている。これにより、第1シリンダ51には、第1シリンダ室51aとなる内部空間が形成されている。第1シリンダ室51aには、回転軸31の第1偏心部41が配置される。同様に、第2シリンダ52には、第2シリンダ室52aとなる内部空間が形成されている。第2シリンダ室52aには、回転軸31の第2偏心部42が配置される。なお、第1シリンダ室51aおよび第2シリンダ室52aに対する気体冷媒の供給構造については、詳しく後述する。
【0019】
仕切板53は、軸方向Zで第1シリンダ51と第2シリンダ52との間に配置され、第1シリンダ51と第2シリンダ52との間に挟まれている。仕切板53は、軸方向Zで第1シリンダ室51aに面して、第1シリンダ室51aの一面を規定している。同様に、仕切板53は、軸方向Zで第2シリンダ室52aに面して、第2シリンダ室52aの一面を規定している。また、仕切板53には、軸方向Zに回転軸31が通される開口部が設けられている。
【0020】
主軸受54は、第1シリンダ51に対して仕切板53とは反対側に位置する。主軸受54は、仕切板53とは反対側から第1シリンダ室51aに面して、第1シリンダ室51aの別の一面を規定している。一方で、副軸受55は、第2シリンダ52に対して仕切板53とは反対側に位置する。副軸受55は、仕切板53とは反対側から第2シリンダ室52aに面して、第2シリンダ室52aの別の一面を規定している。上述した回転軸31は、第1シリンダ51、第2シリンダ52、および仕切板53を貫通するとともに、主軸受54と副軸受55とによって回転可能に支持されている。
【0021】
第1ローラ56および第2ローラ57の各々は、軸方向Zに沿う筒状に形成されている。第1ローラ56は、第1偏心部41に嵌められて、第1シリンダ室51aに配置される。同様に、第2ローラ57は、第2偏心部42に嵌められて、第2シリンダ室52aに配置される。これらローラ56,57の内周面と偏心部41,42の外周面との間には、偏心部41,42に対するローラ56,57の相対回転を許容する隙間が設けられている。すなわち、本願でいう「嵌められる」とは、2つの部材の間に相互の回転を許容する隙間が存在する場合も含む。第1ローラ56および第2ローラ57の各々は、回転軸31の回転に伴い、各ローラ56,57の外周面を各シリンダ51,52の内周面に摺接させながらシリンダ室51a,52a内で偏心回転する(
図2参照)。
【0022】
次に、シリンダ51,52の内部構成について説明する。
ここで、第1シリンダ51の内部構成と第2シリンダ52の内部構成は、偏心部41,42およびローラ56,57の位相差に応じて異なる部分、および後述する吸込通路71,72に関する部分以外は、互いに略同じである。このため、ここでは第1シリンダ51の内部構成を代表として説明する。
【0023】
図2は、
図1中に示された圧縮機構部33のF2−F2線に沿う断面図である。
図2に示すように、第1シリンダ51には、径方向Rの外側に向けて延びたベーン溝58が設けられている。ベーン溝58には、径方向Rに沿ってスライド移動可能なベーン59が挿入されている。ベーン59は、図示しない付勢手段によって径方向Rの内側に向けて付勢され、その先端部が第1シリンダ室51a内で第1ローラ56の外周面に当接している。これにより、ベーン59は、周方向θにおいて、第1シリンダ室51aの内部を吸込室61と圧縮室62とに仕切っている。ベーン59は、第1ローラ56の偏心回転に伴って第1シリンダ室51a内に進退する。このため、第1シリンダ室51a内で第1ローラ56が偏心回転すると、第1ローラ56の偏心回転およびそれに伴うベーン59の進退動作によって、第1シリンダ室51a内で気体冷媒を圧縮する圧縮動作が行われる。そして、第1シリンダ室51a内で圧縮された気体冷媒は、第1シリンダ51の吐出溝(不図示)などを通じて密閉容器34内に排出される。
【0024】
次に、第1シリンダ51および第2シリンダ52に対する気体冷媒(作動流体)の供給構造について説明する。
図1に示すように、本実施形態の回転式圧縮機2は、軸方向Zに並べられた2つのシリンダ51,52のうち一方のシリンダ51のみに吸込管21が接続されるとともに、吸込管21からシリンダ51に供給される気体冷媒の一部を他方のシリンダ52に導く分岐流路が圧縮機構部33の内部に設けられている。以下、この内容について詳しく述べる。
【0025】
本実施形態では、アキュムレータ12から気体冷媒が流れる吸込管21は、第1シリンダ51に接続されている。第1シリンダ51には、吸込管21と第1シリンダ室51aとを連通させる第1吸込通路71が径方向Rに設けられている。なお、本願でいう「径方向に設けられる」とは、例えば、径方向Rに沿って穴が開けられていることを意味する。このため、「径方向に設けられる」とは、「径方向に沿って設けられる」または「径方向に開口する」などと読み替えられてもよい。
【0026】
第1吸込通路71は、例えば、径方向Rに沿って第1シリンダ51に設けられた穴である。第1吸込通路71は、例えば、第1シリンダ51の外周面から、第1シリンダ室51aを規定する第1シリンダ51の内周面に貫通している。第1吸込通路71には、吸込管21から気体冷媒が直接供給される。第1吸込通路71は、吸込管21から供給された気体冷媒の一部を第1シリンダ室51aの吸込室61に導く。
【0027】
また、圧縮機構部33には、第1吸込通路71から分岐した第2吸込通路72が設けられている。第2吸込通路72は、第1シリンダ51、仕切板53、第2シリンダ52に亘って設けられ、第1吸込通路71と第2シリンダ室52aとを連通させる。第2吸込通路72は、第1吸込通路71を流れる気体冷媒の一部を第2シリンダ室52aに導く。
【0028】
次に、第2吸込通路72について詳しく説明する。
図3は、本実施形態の圧縮機構部33の一部を拡大して示す断面図である。
図3に示すように、第2吸込通路72は、例えば、第1シリンダ51に設けられた第1吸込孔81と、仕切板53に設けられた第2吸込孔82と、第2シリンダ52に設けられた冷媒流路83とにより形成されている。
【0029】
第1吸込孔81は、第1シリンダ51において、軸方向Zに設けられている。なお、本願でいう「軸方向に設けられる」とは、例えば、軸方向Zに沿って穴が開けられていることを意味する。このため、「軸方向に設けられる」とは、「軸方向に沿って設けられる」、または「軸方向に開口する」などと読み替えられてもよい。第1吸込孔81は、例えば、軸方向Zに開口した断面形状が円の丸穴である。第1吸込孔81は、第1吸込通路71から、仕切板53に面する第1シリンダ51の表面(例えば下面)に軸方向Zに貫通している。第1吸込孔81は、第1吸込通路71と仕切板53に設けられた第2吸込孔82とを連通させる。
【0030】
仕切板53に隣り合う第1吸込孔81の開口縁81aには、第1面取り部91が設けられている。第1面取り部91は、例えば開口縁81aの全周に亘って設けられている。これにより、開口縁81aは、軸方向Zに対して傾斜した傾斜部(拡径部)を有する。これにより、第1吸込孔81の断面積(開口面積)は、第1面取り部91で拡大されている。
【0031】
第2吸込孔82は、仕切板53において、軸方向Zに設けられている。第2吸込孔82は、例えば軸方向Zに沿って延び、軸方向Zに開口した断面形状が円の丸穴である。第2吸込孔82は、第1シリンダ51に面する仕切板53の表面(例えば上面)から、第2シリンダ52に面する仕切板53の表面(例えば下面)に軸方向Zに貫通している。第2吸込孔82は、第1シリンダ51の第1吸込孔81と第2シリンダ52の冷媒流路83とを連通させる。第2吸込孔82の内径は、例えば、第1吸込孔81の内径と略同じである。ただし、第2吸込孔82の内径は、第1吸込孔81の内径と比べて大きくてもよく、小さくてもよい。
【0032】
第1シリンダ51に隣り合う第2吸込孔82の開口縁82aには、第2面取り部92が設けられている。第2面取り部92は、例えば開口縁82aの全周に亘って設けられている。また、第2シリンダ52に面する第2吸込孔82の開口縁82bには、第3面取り部93が設けられている。第3面取り部93は、例えば開口縁82bの全周に亘って設けられている。これにより、開口縁82a,82bは、軸方向Zに対して傾斜した傾斜部(拡径部)を有する。これにより、第2吸込孔82の断面積(開口面積)は、第2面取り部92および第3面取り部93の各々で拡大されている。
【0033】
冷媒流路83は、例えば、第2シリンダ52に設けられた溝である。冷媒流路83は、例えば、仕切板53に面する第2シリンダ52の表面(例えば上面)から、第2シリンダ室52aを規定する第2シリンダ52の内周面に貫通している。冷媒流路83は、仕切板53の第2吸込孔82と第2シリンダ室52aとを連通させる。冷媒流路83は、例えば、軸方向Zに対して傾斜する方向に沿って設けられている。冷媒流路83は、軸方向Zに対して傾斜した傾斜面83aを有する。
【0034】
以上のような構成により、第1吸込通路71を流れる気体冷媒の一部は、第1シリンダ51に設けられた第1吸込孔81、仕切板53に設けられた第2吸込孔82、および第2シリンダ52に設けられた冷媒流路83を通り、第2シリンダ室52aの吸込室61に導かれる。
【0035】
次に、第2吸込孔82の配置位置について説明する。
図3に示すように、本実施形態では、第1吸込孔81と第2吸込孔82とは、回転軸31の径方向Rにおいて、互いにずれた位置に配置されている。本実施形態では、第1吸込孔81の中心81cは、第2吸込孔82の中心82cと比べて、径方向Rの外側に位置する。なお、第1吸込孔81の中心81cとは、例えば、回転軸31の径方向Rにおける第1吸込孔81の中心である。第2吸込孔82の中心82cとは、例えば、回転軸31の径方向Rにおける第2吸込孔82の中心である。
【0036】
また別の観点で見ると、第1吸込孔81は、面取り部91を除いて第1吸込孔81のなかで最も径方向Rの外側に位置した第1端部81e1と、面取り部91を除いて第1吸込孔81のなかで最も径方向Rの内側に位置した第1端部81e2とを有する。同様に、第2吸込孔82は、面取り部92,93を除いて第2吸込孔82のなかで最も径方向Rの外側に位置した第1端部82e1と、面取り部92,93を除いて第2吸込孔82のなかで最も径方向Rの内側に位置した第2端部82e2とを有する。そして、第1吸込孔81の第1端部81e1は、第2吸込孔82の第1端部82e1と比べて、径方向Rの外側に位置する。また、第1吸込孔81の第2端部81e2は、第2吸込孔82の第2端部82e2と比べて、径方向Rの外側に位置する。
【0037】
次に、第1吸込孔81および第2吸込孔82に関するいくつかの寸法関係を示す。まず前提として、L1,L2,L3,L4,L5,Rc,R1,R2,およびR3を定義する。
図3に示すように、L1は、回転軸31の軸心Oと、径方向Rにおける第1吸込孔81の中心81cとの間の径方向Rの距離である。L2は、回転軸31の軸心Oと、径方向Rにおける第2吸込孔82の中心82cとの間の径方向Rの距離である。L3は、第1シリンダ51と仕切板53との境界面B(接合面)と、軸方向Zにおける第1吸込通路71の中心71cとの間の軸方向Zの距離である。L4は、軸方向Zにおける仕切板53の厚さである。L5は、回転軸31の軸心Oと、径方向Rにおける冷媒流路83の中心83c(後述)との間の径方向Rの距離である。Rcは、第1シリンダ室51aの半径である。R1は、軸方向Zにおける第1吸込通路71の半径である。R2は、径方向Rにおける第1吸込孔81の半径である。R3は、径方向Rにおける第2吸込孔82の半径である。
【0038】
なお、回転軸31の軸心Oは、径方向Rにおける第1シリンダ室51aの中心、および径方向Rにおける第2シリンダ室52aの中心と略一致する。このため、「回転軸31の軸心O」は、「径方向Rにおける第1シリンダ室51aの中心(内径中心)」または「径方向Rにおける第2シリンダ室52aの中心(内径中心)」と読み替えられてもよい。また、冷媒流路83は、冷媒流路83のなかで最も径方向Rの外側に位置した第1端部83e1と、冷媒流路83のなかで最も径方向Rの内側に位置した第2端部83e2とを有する。「径方向Rにおける冷媒流路83の中心83c」とは、径方向Rにおいて第1端部83e1と第2端部83e2とから等距離に位置した点である。
【0039】
上記のように各種寸法が定義された場合、
C1=L1−R2−Rc、C2=L3−R1、およびC3=L1−L2、とすると、C1およびC2の各々は、C3以上となる。ここで、C1は、
図3に示すように、第1吸込孔81の内面と、第1シリンダ室51aを規定する第1シリンダ51の内周面との間の径方向Rの最小肉厚に相当する。C2は、第1吸込通路71と仕切板53との間の軸方向Zの最小肉厚に相当する。C3は、第1吸込孔81の中心81cと第2吸込孔82の中心82cとの径方向Rにおけるずれ量に相当する。
【0040】
また、上記のように各種寸法が定義された場合、
C2=L3−R1、およびC3=L1−L2、とすると、
C2/C3 < L4/R3となる。
【0041】
また、上記のように各種寸法が定義された場合、
L1>L2≧L5となる。すなわち、本実施形態では、第2吸込孔82の中心82cと、冷媒流路83の中心83cとは、径方向Rで略同じ位置にある。これに代えて、第2吸込孔82の中心82cは、冷媒流路83の中心83cと比べて、径方向Rの外側に位置してもよい。
【0042】
本実施形態では、第1シリンダ51と仕切板53との境界面Bにおける第2吸込通路72の断面は、第1吸込孔81と第2吸込孔82とが軸方向Zで重なり合う部分によって形成される紡錘形状となる。そして、この境界面Bにおける第2吸込通路72の断面(紡錘形状の断面)の断面積(開口面積)は、例えば、軸方向Zに沿う断面における第1吸込通路71の断面積(開口面積)よりも大きい。
【0043】
また別の観点から見ると、径方向Rに沿う断面における第1吸込孔81の断面積(開口面積)は、軸方向Zに沿う断面における第1吸込通路71の断面積(開口面積)よりも大きい。言い換えると、
図2に示すように、R2>R1となる。また、径方向Rに沿う断面における第2吸込孔82の断面積(開口面積)は、軸方向Zに沿う断面における第1吸込通路71の断面積(開口面積)よりも大きい。言い換えると、R3>R1となる。
【0044】
次に、本実施形態の回転式圧縮機2の作用について説明する。
回転式圧縮機2が駆動され、回転軸31が回転されると、第1ローラ56および第2ローラ57が第1シリンダ室51aおよび第2シリンダ室52a内で偏心回転する。これにより、第1シリンダ室51aおよび第2シリンダ室52a内の気体冷媒は、圧縮されて第1シリンダ51および第2シリンダ52の吐出溝などを通じて密閉容器34内に排出される。
【0045】
また、第1ローラ56および第2ローラ57の偏心回転により第1シリンダ室51aおよび第2シリンダ室52aの吸込室61の圧力が低くなると、吸込管21を通じてアキュムレータ12から気体冷媒が供給される。吸込管21から供給された気体冷媒の一部は、第1シリンダ51に設けられた第1吸込通路71を通じて第1シリンダ室51aに供給される。また、吸込管21を流れる気体冷媒の別の一部は、第1吸込通路71に入った後、第2吸込通路72に流入することで、第2シリンダ室52aに供給される。ここで、本実施形態では、第2吸込通路72の入口となる第1吸込孔81の中心81cが第2吸込孔82の中心82cに対して径方向Rの外側にずれて位置する。このため、第1吸込孔81と第2吸込孔82とを合わせて見た場合、第2吸込通路72は、第2シリンダ室52aに向かうように軸方向Zに対して傾斜した傾斜孔と類似した構成となる。このため、気体冷媒は、第1吸込通路71から第2シリンダ室52aに向けて軸方向Zに対して傾斜して流れることができる。これにより、第1吸込通路71内の気体冷媒は、比較的スムーズに第2シリンダ室52aに流入することができる。
【0046】
このような構成によれば、回転式圧縮機2の高性能化を図りつつ、製造性の向上を図ることができる。すなわち、例えば二酸化炭素などを作動流体として用いる回転式圧縮機は、作動流体が比較的高圧になるため、2つのシリンダのうち一方のシリンダに吸込管が接続されるとともに、気体冷媒を他方のシリンダに導く分岐流路が設けられることがある。
この場合、回転軸の軸方向に沿う吸込孔によって上記分離流路が形成されると、作動流体の吸込流路損失が大きく、回転式圧縮機の性能低下を招くことがある。そこで、軸方向に対して傾斜した傾斜孔によって上記分岐流路を形成することで、吸込流路損失を低減することが考えられる。しかしながら、傾斜孔が設けられた回転式圧縮機は、製造性が低く、製造コストの増大やバリの発生などによる品質低下を招く場合がある。
【0047】
そこで、本実施形態では、第1吸込孔81の中心81cは、第2吸込孔82の中心82cと比べて、径方向Rの外側に位置する。このような構成によれば、第1吸込孔81および第2吸込孔82が軸方向Zに設けられた吸込孔であっても、第1吸込通路71に対する第2吸込通路72の分岐角度を軸方向Zに対して傾斜させることができる。これにより、傾斜孔が設けられた場合と類似した構造を実現することができ、吸込流路損失の低減を図ることができる。また、第1吸込孔81および第2吸込孔82は、軸方向Zに設けられた吸込孔であるため、傾斜孔に比べて製造性が良好であり、またバリの発生などによる品質低下も抑制することができる。このため、高性能、高品質、低コストの回転式圧縮機2を提供することができる。
【0048】
本実施形態では、仕切板53に隣り合う第1吸込孔81の開口縁81aおよび第1シリンダ51に隣り合う第2吸込孔82の開口縁82aには、面取り部91,92が設けられている。これにより、第1吸込孔81と第2吸込孔82とがずれて配置される場合であっても、第1吸込孔81と第2吸込孔82との接続部分での流路断面積を大きく確保することができる。これにより、第1吸込孔81と第2吸込孔82とがずれて配置される場合に生じ得る吸込流路損失の低減を図ることができ、さらに高性能の圧縮機を提供することができる。なお、面取り部は、第1吸込孔81の開口縁81aおよび第2吸込孔82の開口縁82aのいずれか一方にだけ設けられた場合でも、吸込流路損失の低減を期待することができる。
【0049】
本実施形態では、第1シリンダ51と仕切板53との境界面Bにおける第2吸込通路72の断面積(軸方向Zで見た場合の断面積)は、軸方向Zに沿う断面における第1吸込通路71の断面積よりも大きい。このような構成によれば、第1吸込孔81と第2吸込孔82とがずれて配置される場合であっても、第2吸込通路72の最小断面積を第1吸込通路71の断面積以上にすることができる。これにより、吸込流路損失の低減をさらに図ることができる。
【0050】
本実施形態では、上記のように各種寸法が定義された場合、C1=L1−R2−Rc、C2=L3−R1、およびC3=L1−L2とすると、C1およびC2の各々がC3以上となる。このような構成によれば、C1およびC2の各々がC3以上となることで、第1シリンダ51において剛性が低下しやすい吸込通路部分において、必要な剛性を確保しやすくなる。これにより、第1シリンダ51の変形を抑制し、信頼性および品質がより高い回転式圧縮機2を提供することができる。
【0051】
本実施形態では、上記のように各種寸法が定義された場合、C2=L3−R1、およびC3=L1−L2とすると、C2/C3 < L4/R3となる。このような構成によれば、第2吸込通路72の分岐起点中心Pと境界面Bにおける第2吸込孔82の中心82cとを結ぶ仮想線Qを引く場合、径方向Rに沿う第1吸込通路71の中心線に対する仮想線Qの傾きを小さくすることができる。これにより、第1吸込通路71と第2吸込通路72の分岐部における吸込流路損失をさらに低減することができる。また、第1吸込孔81および第2吸込孔82は、軸方向Zに開口した断面形状が円の丸穴が加工性の点から望ましいが、断面形状は長円等であっても良い。
【0052】
さらに、本実施形態では、上述した回転式圧縮機2を備えているため、製造性の向上を図ることができる冷凍サイクル装置1を提供することができる。
【0053】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。本変形例は、第2シリンダ52の冷媒流路83が軸方向Zに沿う溝である点などで上記実施形態とは異なる。なお、以下に説明する以外の構成は、上記実施形態の構成と略同じである。このため、同一または類似の機能を有する構成には、同一の符号を付して、それらの説明は省略する。
【0054】
図4は、実施形態の変形例の回転式圧縮機2の圧縮機構部33の一部を拡大して示す。
図4に示すように、本変形例では、第2シリンダ52の冷媒流路83は、例えば、軸方向Zに沿って第2シリンダ52に設けられた溝である。冷媒流路83は、例えば、仕切板53に面する第2シリンダ52の表面(例えば上面)から、副軸受55に面する第2シリンダ52の反対側の表面(例えば下面)に貫通している。冷媒流路83の下流側端部は、副軸受55によって塞がれている。
【0055】
本変形例では、第2吸込孔82の中心82cは、冷媒流路83の中心83cと比べて、径方向Rの外側に位置する。言い換えると、上記実施形態のように各種寸法が定義された場合、L2>L5となる関係が満たされている。さらに言えば、本変形例では、L1>L2>L5の関係が満たされている。
【0056】
このような構成によれば、第1吸込孔81、第2吸込孔82、および冷媒流路83が軸方向Zに設けられた吸込孔や溝であっても、第1吸込通路71に対する第2吸込通路72の分岐角度を軸方向Zに対して傾斜させることができる。これにより、上記実施形態と同様に、回転式圧縮機2の高性能化を図りつつ、製造性の向上を図ることができる。
【0057】
本変形例では、冷媒流路83も軸方向Zに沿う溝である。このため、第1シリンダ51、仕切板53、および第2シリンダ52の全てが垂直方向の加工のみで形成することができる。このため、部品加工時の位置決め方法が容易になるとともに、加工精度の向上も期待することができる。
【0058】
(参考例)
ここで、上記実施形態および上記変形例に対する参考例ついて説明する。
本参考例では、上記変形例と同様に、第2吸込孔82の中心82cは、冷媒流路83の中心83cと比べて、径方向Rの外側に位置する。言い換えると、上記実施形態のように各種寸法が定義された場合、L2>L5となる関係が満たされている。なお、冷媒流路83は、上記変形例と同様に軸方向Zに沿って設けられた溝でもよく、上記実施形態と同様に軸方向Zに対して傾斜した溝でもよい。
【0059】
一方で、本参考例では、第1吸込孔81の中心81cと、第2吸込孔82の中心82cとは、径方向Rで略同じ位置にある。すなわち、本参考例では、L1=L2>L5の関係が満たされている。このような構成によっても、第1吸込孔81の中心81c、第2吸込孔82の中心82c、および冷媒流路83の中心83cの3つが径方向Rで略同じ位置にある場合に比べて、吸込流路損失を低減することができる。これにより、回転式圧縮機2の高性能化を図りつつ、製造性の向上を図ることができる。
【0060】
以上、ひとつの実施形態、変形例、および参考例の回転式圧縮機2について説明した。ただし、実施形態は、上記例に限定されない。例えば、上記実施形態では、第1吸込通路71が設けられた第1シリンダ51が上側に配置され、第2吸込通路72を通じて気体冷媒が供給される第2シリンダ52が下側に配置された例を取り上げた。ただし、回転式圧縮機2は、上記例に限定されず、第1吸込通路71が設けられた第1シリンダ51が下側に配置され、第2吸込通路72を通じて気体冷媒が供給される第2シリンダ52が上側に配置されてもよい。また、ブレードとローラとが一体となったスイングタイプや、シリンダが3つ以上のタイプの回転式圧縮機でも同様の効果を得ることができる。
【0061】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、第1シリンダは、回転軸の軸方向に設けられて第2吸込通路の一部を形成した第1吸込孔を有し、仕切板は、前記軸方向に設けられて前記第2吸込通路の別の一部を形成した第2吸込孔を有し、前記第1吸込孔の中心は、前記第2吸込孔の中心と比べて、前記回転軸の径方向の外側に位置する。このような構成によれば、製造性の向上を図ることができる。
【0062】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。