(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
モリブデンと、ビスマスと、鉄とを含む触媒前駆体スラリーを、乾燥機入口温度100℃〜400℃、乾燥機出口温度100℃〜180℃で噴霧乾燥して乾燥粒子を得る工程を含む、
請求項4に記載の触媒の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プロピレンのアンモ酸化においては、アクリロニトリルと共にシアン化水素の生産性も上げることが求められており、アクリロニトリルの高い収率を維持しながらシアン化水素の収率も向上することが課題となっている。
【0007】
また、アクリロニトリル及びシアン化水素の製造においては、長時間、連続して反応を行うことにより触媒の性能が低下すること等がある。そのため、アクリロニトリル及びシアン化水素の生産を継続できるよう、反応を停止することなく、反応系内に触媒の追加が行われることがある。したがって、反応系内に触媒の追加をする場合にアクリロニトリル及びシアン化水素の生産性を維持するため、アンモ酸化の触媒としての性能を有し且つプロピレン反応活性(以下、触媒活性ともいう)の高い触媒が求められている。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、プロピレンのアンモ酸化においてアクリロニトリルの高い収率を維持しながらシアン化水素の収率も向上でき、プロピレン反応活性の高い触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の金属種を含み、還元率が特定の範囲である触媒は、プロピレンのアンモ酸化の生成物であるアクリロニトリルの高い収率を維持しながらシアン化水素の収率も向上させることができ、且つ触媒活性が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0010】
[1]
モリブデンと、ビスマスと、鉄とを含む触媒であって、
還元率が、0.20〜5.00%の範囲である、触媒。
[2]
前記還元率が、0.70〜4.30%の範囲である、[1]に記載の触媒。
[3]
下記式(1)で表される組成を有する複合金属酸化物を含む、[1]又は[2]に記載の触媒。
Mo
12Bi
aFe
bX
cY
dZ
eO
f (1)
(式(1)中、Xは、ニッケル、コバルト、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、バリウム及びタングステンからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、
Yは、セリウム、クロム、ランタン、ネオジム、イットリウム、プラセオジム、サマリウム、アルミニウム、ホウ素、ガリウム及びインジウムからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、
Zは、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、
a、b、c、d及びeは、それぞれ、0.1≦a≦2.0、0.1≦b≦2.8、0.1≦c≦10.0、0.1≦d≦3.0、及び0.01≦e≦2.0を満たし、
fは、存在する他の元素の原子価要求を満足させるのに必要な酸素の原子数である。)
[4]
モリブデンと、ビスマスと、鉄とを含む焼成物を、プロピレン、空気、及びアンモニアと接触させる接触工程を含み、
前記接触工程が、
アンモニア/プロピレンのモル比を2.50を超える状態(状態1)とする工程と、
アンモニア/プロピレンのモル比を2.50以下の状態(状態2)とする工程と、
を含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の触媒の製造方法。
[5]
前記状態1におけるアンモニア/空気のモル比が0.12を超え、
前記状態2におけるアンモニア/空気のモル比が0.12以下である、
[4]に記載の触媒の製造方法。
[6]
[1]〜[3]のいずれかに記載の触媒の存在下、プロピレンと、分子状酸素と、アンモニアと、を反応させる工程を含む、アクリロニトリルの製造方法。
[7]
流動床反応器により実施する、[6]に記載のアクリロニトリルの製造方法。
[8]
プロピレンに対するアンモニア及び空気のモル比(プロピレン/アンモニア/空気)が、1.0/(0.8〜2.5)/(7.0〜12.0)の範囲である、[6]又は[7]に記載のアクリロニトリルの製造方法。
[9]
反応を300〜500℃の温度範囲で実施する、[6]〜[8]のいずれかに記載のアクリロニトリルの製造方法。
【0011】
本発明の触媒によれば、プロピレンのアンモ酸化の生成物であるアクリロニトリルの高い収率を維持しながらシアン化水素の収率も向上でき、反応系内のプロピレン反応活性を高めることができる。したがって、本発明の触媒の存在下、プロピレンをアンモ酸化する工程を含む製造方法は、アクリロニトリル及びシアン化水素の生産性を高め、アクリロニトリル及びシアン化水素を効率よく供給することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。なお、本明細書において、「〜」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いる。例えば「1〜100」との数値範囲の表記は、その上限値「100」及び下限値「1」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0013】
本実施形態の触媒は、モリブデンと、ビスマスと、鉄とを含む。また、本実施形態の触媒の還元率は、0.20〜5.00%の範囲である。
本実施形態の触媒をプロピレンのアンモ酸化に用いることにより、生成物であるアクリロニトリルの高い収率を維持しながらシアン化水素の収率も向上できる。また、本実施形態の触媒は高い触媒活性を有するため、プロピレンのアンモ酸化反応系内に追加するときの触媒として用いると、長期運転により低下した反応器内触媒のプロピレン反応活性を上昇させることができる。
【0014】
本実施形態の触媒の還元率は、0.20〜5.00%であり、好ましくは0.70〜4.30%であり、より好ましくは1.00〜3.70%である。
還元率が0.20%以上5.00%以下であることにより、アクリロニトリルの高い収率を維持しながらシアン化水素の収率が向上し、且つ触媒活性が高くなる。
還元率を0.20〜5.00%にする方法としては、例えば、後述する実施例に記載したように、触媒の調製の工程において、アンモニア/プロピレンのモル比を制御する方法等が挙げられる。
【0015】
還元率は、具体的には実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0016】
本実施形態の触媒は、少なくともモリブデン(Mo)、ビスマス(Bi)、及び鉄(Fe)を含んでいれば特に制限されず、その他の元素を含んでいてもよい。
その他の元素としては、例えば、マグネシウム等やアルカリ金属等が挙げられる。
例えば、マグネシウムを含むことによって、結晶相を安定化させることができ、流動床反応に供した際の性能低下につながる結晶相のα化を抑える傾向にある。アルカリ金属を含むことによって、副生成物の生成を抑えたり、触媒の焼成温度を好ましい領域に保ったりする傾向にある。
【0017】
本実施形態の触媒は、式(1)で表される組成を有する複合金属酸化物を含むことが好ましい。
Mo
12Bi
aFe
bX
cY
dZ
eO
f (1)
(式(1)中、Xは、ニッケル、コバルト、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、バリウム及びタングステンからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、
Yは、セリウム、クロム、ランタン、ネオジム、イットリウム、プラセオジム、サマリウム、アルミニウム、ホウ素、ガリウム及びインジウムからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、
Zは、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、
a、b、c、d及びeは、それぞれ、0.1≦a≦2.0、0.1≦b≦2.8、0.1≦c≦10.0、0.1≦d≦3.0、及び0.01≦e≦2.0を満たし、
fは、存在する他の元素の原子価要求を満足させるのに必要な酸素の原子数である。)
【0018】
モリブデン12原子に対するビスマスの原子比aは、0.1≦a≦2.0、好ましくは0.2≦a≦1.8である。
aが0.1以上2.0以下であることにより、アクリロニトリル及びシアン化水素を製造する反応初期の収率が高くなり、反応の安定性も優れる傾向にある。
【0019】
モリブデン12原子に対する鉄の原子比bは、0.1≦b≦2.8、好ましくは0.2≦b≦2.6である。
モリブデン12原子に対する元素Xの原子比cは、0.1≦c≦10.0であり、好ましくは0.2≦c≦9.6である。元素Xは、ニッケル、コバルト、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、バリウム及びタングステンからなる群より選ばれる1種以上である。
モリブデン12原子に対する元素Yの原子比dは、0.1≦d≦3.0であり、好ましくは0.2≦d≦2.8である。元素Yは、セリウム、クロム、ランタン、ネオジム、イットリウム、プラセオジム、サマリウム、アルミニウム、ホウ素、ガリウム及びインジウムからなる群より選ばれる1種以上である。元素Yは、少なくともセリウムを含むことが好ましく、さらに、クロム、ランタン、ネオジム、イットリウム、プラセオジム、サマリウム、アルミニウム、ガリウム及びインジウムからなる群より選ばれる1種以上の元素を含んでいてもよい。
モリブデン12原子に対する元素Zの原子比eは、0.01≦e≦2.0であり、好ましくは0.03≦e≦1.8である。元素Zは、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる1種以上である。
また、モリブデン12原子に対する酸素の原子比fは、存在する他の元素の原子価要求を満足させるのに必要な酸素の原子数であればよい。
【0020】
本実施形態の触媒は、担体に担持されたものであってもよい。担体としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の酸化物が用いられるが、目的物の選択性の低下が小さく、形成した触媒粒子の耐摩耗性、粒子強度が良好となる観点から、シリカが好適である。すなわち、本実施形態の触媒の好ましい態様の一つは、さらにシリカを含む触媒である。
シリカ担体の量は、シリカ担体と複合金属酸化物との合計質量に対して20質量%〜80質量%、好ましくは30質量%〜70質量%、さらに好ましくは40質量%〜60質量%の範囲で用いられる。
【0021】
本実施形態の触媒の形状及び粒子の大きさとしては、特に制限はないが、流動床触媒として使用する場合、流動性の観点から、球状が好ましく、10〜180μmの粒子径を有することが好ましい。
【0022】
[触媒の製造方法]
本実施形態の触媒は、モリブデンと、ビスマスと、鉄とを含む焼成物を、プロピレン、空気、及びアンモニアと接触する工程を含み、前記工程が、下記状態1及び状態2とする工程を含む製造方法により製造される。
上記状態1は、アンモニア/プロピレンのモル比を2.50を超える状態とする工程である。また、上記状態2は、アンモニア/プロピレンのモル比を、2.50以下の状態とする工程である。
【0023】
上記状態1におけるアンモニア/プロピレンのモル比は、2.50を超える値であり、好ましくは5.00を超える値である。状態1におけるアンモニア/プロピレンのモル比を2.50を超える値とすることにより、プロピレンのアンモ酸化の生成物であるアクリロニトリルの高い収率を維持しながらシアン化水素の収率も向上でき、触媒活性が高い触媒を得られる傾向にある。上記状態1におけるアンモニア/プロピレンのモル比の上限値は、特に制限されないが、通常30.00以下の値であり、25.00以下の値であってもよく、20.00以下の値であってもよい。
【0024】
また、上記状態1におけるアンモニア/空気のモル比は、好ましくは0.12を超える値であり、より好ましくは0.21を超える値である。状態1におけるアンモニア/空気のモル比を0.12を超える値とすることにより、プロピレンのアンモ酸化の生成物であるアクリロニトリルの高い収率を維持しながらシアン化水素の収率も向上でき、触媒活性が高い触媒を得られる傾向にある。上記状態1におけるアンモニア/空気のモル比の上限値は、特に制限されないが、通常1.00以下の値であり、0.70以下の値であってもよく、0.50以下の値であってもよい。
【0025】
上記状態2におけるアンモニア/プロピレンのモル比は、2.50以下の値であり、好ましくは2.00以下の値である。状態2におけるアンモニア/プロピレンのモル比を2.50以下の値とすることにより、プロピレンのアンモ酸化の生成物であるアクリロニトリルの高い収率を維持しながらシアン化水素の収率も向上でき、触媒活性が高い触媒を得られる傾向にある。上記状態2におけるアンモニア/プロピレンのモル比の下限値は、特に制限されないが、通常0を超える値であり、0.1を超える値であってもよく、0.5を超える値であってもよい。
【0026】
上記状態2におけるアンモニア/空気のモル比は、好ましくは0.12以下の値であり、より好ましくは0.10以下の値である。状態2におけるアンモニア/空気のモル比を0.12以下の値とすることにより、プロピレンのアンモ酸化の生成物であるアクリロニトリルの高い収率を維持しながらシアン化水素の収率も向上でき、触媒活性が高い触媒を得られる傾向にある。上記状態2におけるアンモニア/空気のモル比の下限値は、特に制限されないが、通常0を超える値であり、0.01を超える値であってもよく、0.05を超える値であってもよい。
【0027】
上記モリブデンと、ビスマスと、鉄とを含む焼成物は、公知の方法、例えば、国際公開第2018/211858号に記載の製造方法を参考に製造することができる。具体的には、上記モリブデンと、ビスマスと、鉄とを含む焼成物は、特に制限されないが、例えば、モリブデン、ビスマス、鉄を含むスラリーを噴霧乾燥し、乾燥粒子を得る工程と、上記乾燥粒子を空気中で焼成する工程とを含む方法によって製造することができる。上記モリブデンと、ビスマスと、鉄とを含む焼成物は、モリブデンと、ビスマスと、鉄に加え、式(1)で表される組成に含まれる金属を含んでいてもよい。上記モリブデンと、ビスマスと、鉄とを含む焼成物は、式(1)で表される組成を有する複合金属酸化物であることが好ましい。
【0028】
モリブデン、ビスマス、鉄を含むスラリーは、触媒の原料と、溶媒とを混合することにより得られる。溶媒は水であることが好ましく、上記スラリーは水性スラリーであることが好ましい。本実施形態の触媒をシリカに担持する場合、シリカを含んだ水溶液に対してモリブデンを含んだ水溶液を混合撹拌し、その後、ビスマス及び他の金属を含んだ溶液を混合撹拌する調製法が好ましく用いられる。
シリカの原料としてはシリカゾルが好ましい。その他の金属成分が混合されていない原料の状態におけるシリカゾルの好ましい濃度は、10〜50質量%である。
【0029】
スラリーを調製するためのモリブデン、ビスマス、セリウム、鉄、ニッケル、コバルト、マグネシウム、亜鉛、カリウム、ルビジウム、及びセシウム等の、触媒を構成する各元素の原料は、水又は硝酸に可溶な塩であればよく、各金属のアンモニウム塩、硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。
モリブデンを含む原料としてはアンモニウム塩が好適に用いられ、ビスマス、セリウム、鉄、ニッケル、マグネシウム、亜鉛、カリウム、ルビジウム、及びセシウムを含む原料としては硝酸塩が好適に用いられる。
【0030】
モリブデン、ビスマス、鉄を含むスラリーは噴霧乾燥され、乾燥粒子が調製される。
噴霧乾燥では、上記スラリーを噴霧乾燥して球状の粒子が得られる。水性スラリーの噴霧は、工業的に通常用いられる遠心方式、二流体ノズル方式、高圧ノズル方式等の方法により行うことができ、遠心方式により行うことが好ましい。乾燥には加熱された空気を用いることが好ましく、乾燥のための熱源としてはスチーム、電気ヒーター等が挙げられる。乾燥機の入口温度は、好ましくは100℃〜400℃、より好ましくは150℃〜300℃である。乾燥機の出口温度は、好ましくは100℃〜180℃、より好ましくは120℃〜170℃である。
【0031】
上述のように得られた乾燥粒子は、空気中で焼成され焼成物が得られる。
焼成は、通常のトンネル型あるいはロータリー型のキルンを用いて行われる。焼成温度は、好ましくは500〜750℃、より好ましくは500〜680℃の範囲である。焼成時間は、焼成温度によって適宜調整すればよく、好ましくは1〜20時間の範囲である。
本実施形態の焼成物の大きさとしては、特に制限はないが、球状が好ましく、10〜180μmの粒子径を有することが好ましい。
【0032】
上述のように得られた焼成物は、プロピレン、アンモニア、及び空気と接触する状態に供され、接触には流動層反応器を好適に用いることができる。
流動層反応器としては、特に制限されず、好ましくは縦型円筒型であり、空気分散板、その上にプロピレン及びアンモニア供給用の原料ガス分散管、及び反応器出口等を備える反応器を好適に用いることができる。
【0033】
流動層反応器を用いたプロピレン、アンモニア、及び空気との接触は、具体的には以下のとおり行うことができる。
以下の工程A〜Bは、後述する状態1及び2となる前の処理工程であって、必要に応じて行われる。
工程A:まず、モリブデン、ビスマス、鉄を含む焼成物を流動層反応器に充填し、空気分散板から空気を流量500〜100000Nm
3/hr、原料ガス分散管から窒素を500〜10000Nm
3/hr供給し、反応器内の温度を350〜550℃にする。
工程B:次に、空気の流量を500〜100000Nm
3/hrの30〜70%程度に低下させ、原料ガス分散管からアンモニアを供給し流量を500〜10000Nm
3/hrとする。
【0034】
次に状態1として、原料ガス分散管からプロピレンを供給する。このとき、アンモニア/プロピレンのモル比が2.5を超え、アンモニア/空気のモル比が0.12を超える流量とする。
その後、状態2として、アンモニア/プロピレンのモル比が2.5以下であり、アンモニア/空気のモル比が0.12以下である流量とする。
続いて、窒素の供給を停止する。
これらの状態1及び2を経ることにより、本実施形態の触媒を得ることができる。
【0035】
状態1を継続する時間は、通常0.1〜5.0時間であり、好ましくは0.5〜3.0時間である。
状態2を継続する時間は、特に制限されず、適宜調整すればよく、通常0.1時間以上であり、好ましくは0.5時間以上である。状態2を継続する時間は、特に制限されず、適宜調整すればよい。また、状態2を経た後、そのままアクリロニトリル及びシアン化水素の製造を継続して行ってもよく、その時、アンモニア/プロピレンのモル比が2.5以下であり、アンモニア/空気のモル比が0.12以下である流量とすること、すなわち、状態2を継続してもよい。状態2は、上述のとおりアクリロニトリル及びシアン化水素の製造と継続的に行うことができるが、状態2の時間を、通常20時間以下としてもよく、10時間以下としてもよい。
状態1の反応器内温度は、通常350〜550℃であり、状態2の際の反応器内温度は、通常300〜500℃である。状態1及び2の反応器内圧力は、反応器トップにおいて通常0.01〜1.00MPaである。
【0036】
[アクリロニトリル及びシアン化水素の製造方法]
本実施形態のアクリロニトリルの製造方法は、本実施形態の触媒を用いるものである。すなわち、本実施形態のアクリロニトリルの製造方法は、本実施形態の触媒の存在下、プロピレンと、分子状酸素と、アンモニアと、を反応させる工程を含む。本実施形態の製造方法は、流動床アンモ酸化反応により行うことが好ましい。また、本実施形態のアクリロニトリルの製造は、上述した触媒の製造に用いた流動層反応器と同じ反応器にて行うことができる。
本実施形態の製造方法によって、アクリロニトリル及びシアン化水素を製造することができる。
本実施形態のアクリロニトリルの製造方法は、例えば、通常用いられる流動層反応器内で行われてもよい。原料のプロピレン及びアンモニアは、必ずしも高純度である必要はなく、工業グレードのものを使用することができる。また、分子状酸素源としては、通常空気を用いるのが好ましいが、酸素を空気と混合する等して酸素濃度を高めたガスを用いることもできる。
【0037】
本実施形態のアクリロニトリルの製造方法における分子状酸素源が空気である場合、原料ガスの組成(プロピレンに対するアンモニア及び空気のモル比;プロピレン/アンモニア/空気)は、好ましくは1/(0.8〜2.5)/(7.0〜12.0)の範囲であり、より好ましくは1/(0.9〜1.3)/(8.0〜11.0)の範囲である。
【0038】
本実施形態のアクリロニトリルの製造方法における反応温度は、好ましくは300〜500℃の範囲であり、より好ましくは400〜480℃の範囲である。反応圧力は、好ましくは常圧〜0.3MPaの範囲である。原料ガスと触媒との接触時間は、好ましくは0.5〜20(sec・g/cc)、より好ましくは1〜10(sec・g/cc)である。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。また、各種物性の評価方法は下記に示すとおりである。
【0040】
[還元率測定]
還元率の測定は、下記手法で行った。
まず、300mLのビーカーに、5mLの精製水と、各実施例、各比較例で製造した触媒のそれぞれを1.4g加え、硫酸水溶液(水体積:硫酸体積=1:1)を5mL加えた。
次に、0.005mol/L過マンガン酸カリウム水溶液を24mL加え、さらに硫酸水溶液(水体積:硫酸体積=1:1)を10mL加えた。さらに、全液量が150mLとなるまで精製水を加え、73℃の湯浴で1時間加熱し、その後ろ紙を用いて混合物をろ別して、ろ液を回収した。
上記ろ液に0.0125mol/Lシュウ酸ナトリウム溶液を15mL加えた後、73℃の湯浴で10分加熱し、硫酸水溶液(水体積:硫酸体積=1:1)を2mL加えた。
その後、ろ液を、0.005mol/L過マンガン酸カリウム溶液で滴定し、ろ液が茶褐色になった状態を終点として、過マンガン酸カリウム滴定量(mL)を記録した。
還元率は、過マンガン酸カリウムの添加量(24mL)、シュウ酸ナトリウムの添加量(15mL)、1電子あたりの酸素の物質量8、単位を合わせるための数値40に基づき、下記式により算出した。
【0041】
【数1】
【0042】
還元率を算出するための式中のAは、金属酸化物分子中の酸素物質量の割合である。また、下記式中のM
金属Ofは、各金属原子比に応じた金属酸化物の物質量であり、M
金属は、各金属の物質量である。
【0043】
【数2】
【0044】
[プロピレン転化率、アクリロニトリル収率、シアン化水素収率]
実施例及び比較例で得られた触媒を用いて、プロピレンのアンモ酸化反応によりアクリロニトリル及びシアン化水素を製造した。その際に使用する反応管としては、10メッシュの金網を1cm間隔で16枚内蔵した内径25mmのパイレックス(登録商標)ガラス管を使用した。
触媒量50cc、反応温度430℃、反応圧力0.17MPaに設定し、プロピレン/アンモニア/空気の混合ガスを全ガス流量として250〜450cc/sec(NTP換算)で供給して反応を実施した。その際、混合ガス中のプロピレンの含有量は9容積%とし、プロピレン/アンモニア/空気のモル比は1/(0.7〜2.5)/(8.0〜13.5)として、その範囲内で、下記式で定義される硫酸原単位が20±2kg/T−ANとなるようにアンモニア流量を、また、反応器出口ガスの酸素濃度が0.2±0.02容積%になるように空気流量を、適宜変更した。また、混合ガス全体の流速を変更することにより、下記式で定義される接触時間を変更し、下記式で定義されるプロピレン転化率が99.3±0.2%となるように設定した。
反応によって生成するアクリロニトリル収率及びシアン化水素の収率は、下記式のように定義される値とした。
【0045】
【数3】
【0046】
[触媒活性]
触媒活性は、触媒の活性の高さを表し、前述した方法によって求められたプロピレンの転化率から算出される反応速度によって表される。
実施例及び比較例で得られた各触媒を用いて、プロピレンのアンモ酸化反応によりアクリロニトリル及びシアン化水素を製造した。その際に使用する反応管としては、内径10mmのSUS316製反応管を使用した。
触媒量1cc、反応温度440℃、反応圧力は成行き圧とし、プロピレン/アンモニア/酸素/ヘリウムの混合ガスを全ガス流量として40cc/sec(NTP換算)で供給して反応を実施した。その際、混合ガス中のプロピレンの含有量は5.4容積%とし、プロピレン/アンモニア/酸素のモル比は1/1.2/1.89とし、ヘリウムは全ガス流量が40cc/sec(NTP換算)となる流量とした。混合ガスの流速から、前述した式で定義される接触時間、並びに、供給及び消費されたプロピレンの値より、前述した式で定義されるプロピレン転化率を算出した。
これらの接触時間、プロピレン転化率より、触媒活性は下記式で求められる。
触媒活性K(Hr
−1)=−3600/(接触時間)×ln((100−プロピレン転化率)/100)
(式中、lnは自然対数を表す。)
【0047】
[実施例1]
金属成分の組成がMo
12.00Bi
0.37Fe
1.42Co
4.47Ni
3.30Ce
0.91Rb
0.14で表される60質量%複合金属酸化物を40質量%のシリカからなる担体に担持した複合金属酸化物粒子、すなわち、焼成体を用い、プロピレン、アンモニア及び空気の接触処理を行った。なお、焼成体は、モリブデン、ビスマス、鉄、コバルト、ニッケル、セリウム、ルビジウムを含むスラリーを噴霧乾燥し、乾燥粒子を得て、上記乾燥粒子を空気中で焼成することにより調製した。
接触処理に用いた流動層反応器は、内径8m、長さ20mの縦型円筒型で、下から2mの位置に空気分散板、その上にプロピレン及びアンモニア供給用の原料ガス分散管を有しており、反応器下から5mの高さの断面に8個、6mの高さの断面に4個ある温度計12個の平均値を反応温度とし、管理を行った。
具体的には以下のとおりの操作を行った。
まず、上記焼成体を静止層高で2.7mとなる分だけ反応器に充填した。
充填後、上述した、工程A、工程Bを行った。
次に、状態1として、アンモニア/プロピレンのモル比(N/C)が15.00、アンモニア/空気のモル比(N/A)が0.20となるよう流量を調節した。
上記の状態1を0.6時間継続した後、状態2として、アンモニア/プロピレンのモル比(N/C)が1.20であり、アンモニア/空気のモル比(N/A)が0.10である流量とし、3.0時間経過させることにより、実施例1の触媒を得た。
このとき、実施例1の触媒の還元率は、0.65%であり、触媒活性は7.7であった。
また、この実施例1の触媒を用いて、アンモ酸化反応によりアクリロニトリル及びシアン化水素を製造した。反応器出口のガスを分析した結果、AN収率は84.1%、HCN収率は3.4%であった。
【0048】
[実施例2]
状態2におけるアンモニア/プロピレンのモル比を1.00となる流量としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例2の触媒を得た。
このとき、実施例2の触媒の還元率は、0.36%であり、触媒活性は7.6であった。
また、このとき反応器出口のガスを分析した結果、AN収率は84.2%、HCN収率は3.3%であった。
【0049】
[実施例3]
状態2におけるアンモニア/プロピレンのモル比を0.85となる流量としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例3の触媒を得た。
このとき、実施例3の触媒の還元率は、0.27%であり、触媒活性は7.4であった。
また、このとき反応器出口のガスを分析した結果、AN収率は84.2%、HCN収率は3.3%であった。
【0050】
[実施例4]
状態1におけるアンモニア/プロピレンのモル比を10.00となる流量としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例4の触媒を得た。
このとき、実施例4の触媒の還元率は、0.48%であり、触媒活性は7.6であった。
また、このとき反応器出口のガスを分析した結果、AN収率は84.1%、HCN収率は3.4%であった。
【0051】
[実施例5]
状態1におけるアンモニア/プロピレンのモル比を3.00となる流量としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例5の触媒を得た。
このとき、実施例5の触媒の還元率は、0.22%であり、触媒活性は7.5であった。
また、このとき反応器出口のガスを分析した結果、AN収率は84.2%、HCN収率は3.3%であった。
【0052】
[実施例6]
状態1におけるアンモニア/空気のモル比を0.10となる流量としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例6の触媒を得た。
このとき、実施例6の触媒の還元率は0.21%であり、触媒活性は7.4であった。
また、このとき反応器出口のガスを分析した結果、AN収率は84.2%、HCN収率は3.2%であった。
【0053】
[実施例7]
状態1におけるアンモニア/空気のモル比を0.22となる流量としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例7の触媒を得た。
このとき、実施例7の触媒の還元率は0.82%であり、触媒活性は8.0であった。
また、このとき反応器出口のガスを分析した結果、AN収率は84.1%、HCN収率は3.5%であった。
【0054】
[実施例8]
状態1におけるアンモニア/空気のモル比を0.24となる流量としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例8の触媒を得た。
このとき、実施例8の触媒の還元率は1.09%であり、触媒活性は7.9であった。
また、このとき反応器出口のガスを分析した結果、AN収率は83.8%、HCN収率は3.8%であった。
【0055】
[実施例9]
状態1におけるアンモニア/空気のモル比を0.27となる流量としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例9の触媒を得た。
このとき、実施例9の触媒の還元率は3.60%であり、触媒活性は8.0であった。
また、このとき反応器出口のガスを分析した結果、AN収率は83.4%、HCN収率は4.1%であった。
【0056】
[実施例10]
状態1におけるアンモニア/空気のモル比を0.30となる流量としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例10の触媒を得た。
このとき、実施例10の触媒の還元率は4.20%であり、触媒活性は7.8であった。
また、このとき反応器出口のガスを分析した結果、AN収率は83.2%、HCN収率は4.3%であった。
【0057】
[比較例1]
状態1におけるアンモニア/プロピレンのモル比を2.00となる流量、アンモニア/空気のモル比を0.10となる流量としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、比較例1の触媒を得た。
このとき、比較例1の触媒の還元率は、0.05%であり、触媒活性は6.8であった。
また、このとき反応器出口のガスを分析した結果、AN収率は84.2%、HCN収率は2.9%であった。
【0058】
[比較例2]
状態1におけるアンモニア/プロピレンのモル比を2.00となる流量としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、比較例2の触媒を得た。
このとき、比較例2の触媒の還元率は0.15%であり、触媒活性は7.0であった。
また、このとき反応器出口のガスを分析した結果、AN収率は84.2%、HCN収率は3.0%であった。
【0059】
[比較例3]
状態2におけるアンモニア/プロピレンのモル比を8.50となる流量としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、比較例3の触媒を得た。
このとき、比較例3の触媒の還元率は5.30%であり、触媒活性は6.3であった。
また、このとき反応器出口のガスを分析した結果、AN収率は82.3%、HCN収率は4.1%であった。
【0060】
[比較例4]
状態2におけるアンモニア/プロピレンのモル比が15.00となる流量としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、比較例4の触媒を得た。
このとき、比較例4の触媒の還元率は8.30%であり、触媒活性は5.1であった。
また、このとき反応器出口のガスを分析した結果、AN収率は71.0%、HCN収率は6.3%であった。
【0061】
【表1】
【0062】
本出願は、2018年 4月13日出願の日本特許出願(特願2018−077658号)に基づくものであり、それらの内容はここに参照として取り込まれる。