特許第6758608号(P6758608)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6758608
(24)【登録日】2020年9月4日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】無アルカリガラス基板
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/087 20060101AFI20200910BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20200910BHJP
   C03B 5/027 20060101ALI20200910BHJP
   C03B 17/06 20060101ALI20200910BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20200910BHJP
【FI】
   C03C3/087
   C03C3/091
   C03B5/027
   C03B17/06
   G09F9/30 365
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-519153(P2017-519153)
(86)(22)【出願日】2016年5月11日
(86)【国際出願番号】JP2016064035
(87)【国際公開番号】WO2016185976
(87)【国際公開日】20161124
【審査請求日】2019年4月2日
(31)【優先権主張番号】特願2015-100754(P2015-100754)
(32)【優先日】2015年5月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 敦己
(72)【発明者】
【氏名】村田 哲哉
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/056645(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/129368(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/005679(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/00−3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、モル%で、SiO 60〜80%、Al 8〜25%、B 0〜3%未満、LiO+NaO+KO 0〜1%未満、MgO 0〜10%、CaO 1〜15%、SrO 0〜12%、BaO 〜12%、Fe 0.001〜1%未満、As 0〜0.05%未満、Sb 0〜0.05%未満を含有し、板厚が0.05〜0.7mmであり、歪点が700℃以上であり、且つβ−OH値が0.20/mm未満であることを特徴とする無アルカリガラス基板。
【請求項2】
ガラス組成として、モル%で、SiO 65〜78%、Al 8〜20%、B 0〜1%未満、LiO+NaO+KO 0〜0.5%未満、MgO 0〜8%、CaO 1〜8%、SrO 0〜8%、BaO 〜8%、As 0〜0.01%未満、Sb 0〜0.01%未満を含有し、板厚が0.1〜0.5mmであり、歪点が730℃以上であり、且つβ−OH値が0.15/mm未満であることを特徴とする請求項1に記載の無アルカリガラス基板。
【請求項3】
の含有量が0.1モル%未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無アルカリガラス基板。
【請求項4】
の含有量が0.1〜1モル%未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無アルカリガラス基板。
【請求項5】
ガラス組成として、更にSnOを0.001〜1モル%含むことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の無アルカリガラス基板。
【請求項6】
ガラス組成として、更にClを0.001〜1モル%、SOを0.0001〜1モル%含むことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の無アルカリガラス基板。
【請求項7】
液相温度が1300℃以下であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の無アルカリガラス基板。
【請求項8】
102.5dPa・sの粘度における温度が1750℃以下であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の無アルカリガラス基板。
【請求項9】
常温から5℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、500℃で1時間保持した後、5℃/分の降温速度で常温まで冷却した時の熱収縮値が20ppm以下になることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の無アルカリガラス基板。
【請求項10】
有機ELデバイスの基板に用いることを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の無アルカリガラス基板。
【請求項11】
ガラス組成として、モル%で、SiO 60〜80%、Al 8〜25%、B 0〜3%未満、LiO+NaO+KO 0〜1%未満、MgO 0〜10%、CaO 1〜15%、SrO 0〜12%、BaO 〜12%、Fe 0.001〜1%未満、As 0〜0.05%未満、Sb 0〜0.05%未満を含有し、歪点が700℃以上であり、且つβ−OH値が0.20/mm未満である無アルカリガラスが得られるように、調合されたガラスバッチに対してバーナーの燃焼炎による加熱を行わず、加熱電極による通電加熱を行うことにより、溶融ガラスを得る溶融工程と、
得られた溶融ガラスをオーバーフローダウンドロー法により板厚0.1〜0.7mmの平板形状に成形する成形工程と、を有することを特徴とする無アルカリガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無アルカリガラス基板に関し、特に液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板に好適な無アルカリガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ等の有機ELデバイスは、薄型で動画表示に優れると共に、消費電力も低いため、携帯電話のディスプレイ等の用途に使用されている。
【0003】
有機ELディスプレイの基板として、ガラス基板が広く使用されている。この用途のガラス基板には、アルカリ金属酸化物を実質的に含まないガラス、つまり無アルカリガラスが使用されている。無アルカリガラスを用いると、熱処理工程で成膜された半導体物質中にアルカリイオンが拡散する事態を防止することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この用途の無アルカリガラス基板には、例えば、以下の要求特性(1)と(2)が要求される。
(1)薄型のガラス基板の生産性を高めるために、成形時に失透し難いこと、つまり耐失透性が高いこと。
(2)p−Si・TFT、特に高温p−Si等の製造工程において、ガラス基板の熱収縮を低減するために、耐熱性が高いこと。
【0005】
ところが、上記要求特性(1)と(2)を両立させることは容易ではない。すなわち、無アルカリガラスの耐熱性を高めようとすると、耐失透性が低下し易くなり、逆に無アルカリガラスの耐失透性を高めようとすると、耐熱性が低下し易くなる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、耐失透性と耐熱性が高い無アルカリガラス基板を創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、種々の実験を繰り返した結果、ガラス組成を所定範囲に規制すると共に、ガラス中の水分量を低減することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の無アルカリガラス基板は、ガラス組成として、モル%で、SiO 60〜80%、Al 8〜25%、B 0〜3%未満、LiO+NaO+KO 0〜1%未満、MgO 0〜10%、CaO 1〜15%、SrO 0〜12%、BaO 0〜12%、As 0〜0.05%未満、Sb 0〜0.05%未満を含有し、板厚が0.05〜0.7mmであり、歪点が700℃以上であり、且つβ−OH値が0.20/mm未満であることを特徴とする。ここで、「LiO+NaO+KO」は、LiO、NaO及びKOの合量を指す。「歪点」は、ASTM C336に基づいて測定した値を指す。「β−OH値」は、FT−IRを用いて透過率を測定し、下記数式1により算出した値を指す。
【0008】
[数1]
β−OH値 = (1/X)log(T/T
X:板厚(mm)
:参照波長3846cm−1における透過率(%)
:水酸基吸収波長3600cm−1付近における最小透過率(%)
【0009】
本発明の無アルカリガラス基板は、ガラス組成中のBの含有量を3モル%未満、LiO+NaO+KOの含有量を1モル%未満、且つβ−OH値を0.20/mm未満に規制している。このようにすれば、歪点が顕著に上昇して、ガラス基板の耐熱性を大幅に高めることができる。結果として、p−Si・TFT、特に高温p−Si等の製造工程において、ガラス基板の熱収縮を大幅に低減することができる。
【0010】
更に、本発明の無アルカリガラス基板は、ガラス組成中にSiOを60〜80モル%、Alを8〜25モル%、且つCaOを1〜15モル%含む。このようにすれば、耐失透性を高めることができる。結果として、オーバーフローダウンドロー法等により、薄いガラス基板を成形し易くなる。
【0011】
第二に、本発明の無アルカリガラス基板は、ガラス組成として、モル%で、SiO 65〜78%、Al 8〜20%、B 0〜1%未満、LiO+NaO+KO 0〜0.5%未満、MgO 0〜8%、CaO 1〜8%、SrO 0〜8%、BaO 1〜8%、As 0〜0.01%未満、Sb 0〜0.01%未満を含有し、板厚が0.1〜0.5mmであり、歪点が730℃以上であり、且つβ−OH値が0.15/mm未満であることが好ましい。
【0012】
第三に、本発明の無アルカリガラス基板は、Bの含有量が0.1モル%未満であることが好ましい。
【0013】
第四に、本発明の無アルカリガラス基板は、Bの含有量が0.1〜1モル%未満であることが好ましい。
【0014】
第五に、本発明の無アルカリガラス基板は、ガラス組成として、更にSnOを0.001〜1モル%含むことが好ましい。
【0015】
第六に、本発明の無アルカリガラス基板は、ガラス組成として、更にClを0.001〜1モル%、SOを0.0001〜1モル%含むことが好ましい。
【0016】
第七に、本発明の無アルカリガラス基板は、液相温度が1300℃以下であることが好ましい。ここで、「液相温度」は、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持した後、白金ボートを取り出した時、ガラス中に失透(失透結晶)が認められた温度を指す。
【0017】
第八に、本発明の無アルカリガラス基板は、102.5dPa・sの粘度における温度が1750℃以下であることが好ましい。ここで、「102.5dPa・sの粘度における温度」は、白金球引き上げ法で測定可能である。
【0018】
第九に、本発明の無アルカリガラス基板は、常温から5℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、500℃で1時間保持した後、5℃/分の降温速度で常温まで冷却した時の熱収縮値が20ppm以下になることが好ましい。
【0019】
第十に、本発明の無アルカリガラス基板は、有機ELデバイスの基板に用いることが好ましい。
【0020】
第十一に、本発明の無アルカリガラス基板の製造方法は、ガラス組成として、モル%で、SiO 60〜80%、Al 8〜25%、B 0〜3%未満、LiO+NaO+KO 0〜1%未満、MgO 0〜10%、CaO 1〜15%、SrO 0〜12%、BaO 0〜12%、As 0〜0.05%未満、Sb 0〜0.05%未満を含有し、歪点が700℃以上であり、且つβ−OH値が0.20/mm未満である無アルカリガラスが得られるように、調合されたガラスバッチに対してバーナーの燃焼炎による加熱を行わず、加熱電極による通電加熱を行うことにより、溶融ガラスを得る溶融工程と、得られた溶融ガラスをオーバーフローダウンドロー法により板厚0.1〜0.7mmの平板形状に成形する成形工程と、を有することを特徴とする。ここで、「オーバーフローダウンドロー法」は、耐熱性の樋状構造物の両側から溶融ガラスを溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス基板を製造する方法である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の無アルカリガラス基板は、ガラス組成として、モル%で、SiO 60〜80%、Al 8〜25%、B 0〜3%未満、LiO+NaO+KO 0〜1%未満、MgO 0〜10%、CaO 1〜15%、SrO 0〜12%、BaO 0〜12%、As 0〜0.05%未満、Sb 0〜0.05%未満を含有する。上記のように各成分の含有量を限定した理由を以下に示す。なお、各成分の含有量の説明において、%表示はモル%を表す。
【0022】
SiOの好適な下限範囲は60%以上、65%以上、67%以上、69%以上、70%以上、71%以上、特に72%以上であり、好適な上限範囲は好ましくは80%以下、78%以下、76%以下、75%以下、74%以下、特に73%以下である。SiOの含有量が少な過ぎると、Alを含む失透結晶が発生し易くなると共に、歪点が低下し易くなる。一方、SiOの含有量が多過ぎると、高温粘度が高くなって、溶融性が低下し易くなり、またクリストバライト等の失透結晶が析出して、液相温度が高くなり易い。
【0023】
Alの好適な下限範囲は8%以上、9%以上、9.5%以上、10%以上、特に10.5%以上であり、好適な上限範囲は25%以下、20%以下、15%以下、14%以下、13%以下、12%以下、特に11.5%以下である。Alの含有量が少な過ぎると、歪点が低下し易くなり、またガラスが分相し易くなる。一方、Alの含有量が多過ぎると、ムライトやアノーサイト等の失透結晶が析出して、液相温度が高くなり易い。
【0024】
の含有量が多過ぎると、歪点が大幅に低下する。よって、Bの含有量は3%未満であり、好ましくは1.5%以下、1%以下、1%未満、0.7%以下、0.5%以下、特に0.1%未満である。一方、Bを少量導入すれば、耐クラック性が改善し、また溶融性、耐失透性が向上する。よって、Bを少量導入する場合、Bの含有量は、好ましくは0.01%以上、0.1%以上、0.2%以上、0.3%以上、特に0.4%以上である。
【0025】
LiO、NaO及びKOは、上記のように、半導体膜の特性を劣化させる成分である。よって、LiO、NaO及びKOの合量及び個別の含有量は、好ましくは1%未満、0.5%未満、0.2%未満、0.1%未満、0.1%未満、特に0.06%未満である。一方、LiO、NaO及びKOを少量導入すると、溶融ガラスの電気抵抗率が低下して、加熱電極による通電加熱でガラスを溶融し易くなる。よって、LiO、NaO及びKOの合量及び個別の含有量は、好ましくは0.01%以上、0.02%以上、0.03%以上、0.04%以上、特に0.05%以上である。
【0026】
MgOは、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分である。MgOの含有量は、好ましくは0〜10%、0〜8%、0〜5%、0〜4%、0.01〜3.5%、0.1〜3.2%、0.5〜3%、特に1〜2.7%である。MgOの含有量が多過ぎると、歪点が低下し易くなる。
【0027】
+MgOの含有量(BとMgOの合量)は、歪点を高める観点から、好ましくは6%以下、0.1〜5%、1〜4.5%、特に2〜4%である。なお、B+MgOの含有量が少な過ぎると、溶融性、耐クラック性、耐薬品性が低下し易くなる。
【0028】
モル比B/MgOは、好ましくは0.3以下、0.25以下、0.22以下、0.01〜0.2、0.05〜0.18、特に0.1〜0.17である。このようにすれば、耐失透性を適正な範囲に制御し易くなる。
【0029】
CaOは、歪点を低下させずに、高温粘性を下げて、溶融性を顕著に高める成分である。また、CaOは、アルカリ土類金属酸化物の中では、導入原料が比較的安価であるため、原料コストを低廉化する成分である。CaOの含有量は、好ましくは1〜15%、3〜10%、4〜9%、4.5〜8%、特に5〜7%である。CaOの含有量が少な過ぎると、上記効果を享受し難くなる。一方、CaOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎると共に、ガラス組成の成分バランスが崩れて、ガラスが失透し易くなる。
【0030】
SrOは、耐失透性を高める成分であり、また歪点を低下させずに、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分である。SrOの含有量は、好ましくは0〜12%、0〜8%、0.1〜6%、0.5〜5%、0.8〜4%、特に1〜3%である。SrOの含有量が少な過ぎると、分相を抑制する効果や耐失透性を高める効果を享受し難くなる。一方、SrOの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが崩れて、ストロンチウムシリケート系の失透結晶が析出し易くなる。
【0031】
BaOは、アルカリ土類金属酸化物の中では、耐失透性を顕著に高める成分である。BaOの含有量は、好ましくは0〜12%、0.1〜10%、1〜8%、2〜7%、3〜6%、3.5〜5.5%、特に4〜5%である。BaOの含有量が少な過ぎると、液相温度が高くなり、耐失透性が低下し易くなる。一方、BaOの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが崩れて、BaOを含む失透結晶が析出し易くなる。
【0032】
RO(MgO、CaO、SrO及びBaOの合量)は、好ましくは12〜18%、13〜17.5%、13.5〜17%、特に14〜16.8%である。ROの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下し易くなる。一方、ROの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが崩れて、耐失透性が低下し易くなる。
【0033】
モル比CaO/ROは、好ましくは0.8以下、0.7以下、0.1〜0.7、0.2〜0.65、0.3〜0.6、特に0.45〜0.55である。このようにすれば、耐失透性と溶融性を最適化し易くなる。
【0034】
モル比BaO/ROは、好ましくは0.5以下、0.4以下、0.1〜0.37以下、0.2〜0.35、0.24〜0.32、特に0.27〜0.3である。このようにすれば、溶融性を高めつつ、耐失透性を高め易くなる。
【0035】
As、Sbは、バーナーの燃焼炎による加熱を行わず、加熱電極による通電加熱でガラスを溶融する場合に、ガラスを着色させる成分であり、それらの含有量は、それぞれ0.05%未満、0.01%未満、特に0.005%未満が好ましい。
【0036】
上記成分以外にも、例えば、以下の成分をガラス組成中に添加してもよい。なお、上記成分以外の他成分の含有量は、本発明の効果を的確に享受する観点から、合量で10%以下、特に5%以下が好ましい。
【0037】
ZnOは、溶融性を高める成分であるが、ZnOを多量に含有させると、ガラスが失透し易くなり、また歪点が低下し易くなる。ZnOの含有量は0〜5%、0〜3%、0〜0.5%、特に0〜0.2%が好ましい。
【0038】
は、耐失透性を低下させずに、歪点を高める成分であるが、Pを多量に含有させると、ガラスが分相し易くなる。Pの含有量は0〜5%、0.05〜3%、0.1〜1.8%、特に0.5〜1.5%が好ましい。
【0039】
TiOは、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分であると共に、ソラリゼーションを抑制する成分であるが、TiOを多量に含有させると、ガラスが着色して、透過率が低下し易くなる。よって、TiOの含有量は0〜3%、0〜1%、0〜0.1%、特に0〜0.02%が好ましい。
【0040】
Feは、ガラスを着色させる成分である。よって、Feの含有量は、好ましくは1%未満、0.5%未満、0.2%未満、0.1%未満、0.1%未満、特に0.06%未満である。一方、Feを少量導入すると、溶融ガラスの電気抵抗率が低下して、加熱電極による通電加熱でガラスを溶融し易くなる。よって、Feの含有量は、好ましくは0.001%以上、0.004%以上、0.006%以上、0.008%以上、特に0.01%以上である。
【0041】
、Nb、Laには、歪点、ヤング率等を高める働きがある。しかし、これらの成分の含有量が多過ぎると、密度、原料コストが増加し易くなる。よって、Y、Nb、Laの含有量は、各々0〜3%、0〜1%、特に0〜0.1%が好ましい。
【0042】
Clは、乾燥剤として作用し、β−OH値を低下させる成分である。よって、Clを導入する場合、好適な下限含有量は0.001%以上、0.003%以上、特に0.005%以上である。しかし、Clの含有量が多過ぎると、歪点が低下し易くなる。よって、Clの好適な下限含有量は0.5%以下、特に0.1%以下である。なお、Clの導入原料として、塩化ストロンチウム等のアルカリ土類金属酸化物の塩化物、或いは塩化アルミニウム等を使用することができる。
【0043】
SOは、乾燥剤として作用し、β−OH値を低下させる成分である。よって、SOを導入する場合、好適な下限含有量は0.0001%以上、0.001%以上、特に0.002%以上である。しかし、SOの含有量が多過ぎると、リボイル泡が発生し易くなる。よって、SOの好適な下限含有量は0.05%以下、特に0.01%以下である。
【0044】
SnOは、高温域で良好な清澄作用を有する成分であると共に、歪点を高める成分であり、また高温粘性を低下させる成分である。SnOの含有量は0〜1%、0.001〜1%、0.05〜0.5%、特に0.1〜0.3%が好ましい。SnOの含有量が多過ぎると、SnOの失透結晶が析出し易くなる。なお、SnOの含有量が0.001%より少ないと、上記効果を享受し難くなる。
【0045】
ガラス特性を著しく損なわない限り、SnO以外の清澄剤を使用してもよい。具体的には、CeO、F、Cを合量で例えば1%まで添加してもよく、Al、Si等の金属粉末を合量で例えば1%まで添加してもよい。
【0046】
本発明の無アルカリガラス基板は、以下の特性を有することが好ましい。
【0047】
歪点は、好ましくは700℃以上、720℃以上、730℃以上、740℃以上、750℃以上、特に760℃以上である。このようにすれば、p−Si・TFTの製造工程において、ガラス基板の熱収縮を抑制することができる。
【0048】
液相温度は、好ましくは1300℃以下、1280℃以下、1260℃以下、1250℃以下、特に1240℃以下である。このようにすれば、成形時に失透結晶が発生して、生産性が低下する事態を防止し易くなる。更に、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形し易くなるため、ガラス基板の表面品位を高めることが可能になる。なお、液相温度は、耐失透性の指標であり、液相温度が低い程、耐失透性に優れる。
【0049】
液相温度における粘度は、好ましくは104.8ポアズ以上、105.0ポアズ以上、105.2ポアズ以上、特に105.3ポアズ以上である。このようにすれば、成形時に失透結晶が発生して、生産性が低下する事態を防止し易くなる。更に、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形し易くなるため、ガラス基板の表面品位を高めることが可能になる。なお、「液相温度における粘度」は、白金球引き上げ法で測定可能である。
【0050】
102.5ポアズにおける温度は、好ましくは1750℃以下、1720℃以下、1700℃以下、1690℃以下、特に1680℃以下である。102.5ポアズにおける温度が高くなると、溶融性、清澄性を確保し難くなり、ガラス基板の製造コストが高騰する。
【0051】
β−OH値を低下させると、ガラス組成を変えなくても、歪点を高めることができる。β−OH値は、好ましくは0.20/mm未満、0.18/mm以下、0.15/mm以下、0.13/mm以下、0.12/mm以下、0.11/mm以下、特に0.10/mm以下である。β−OH値が大き過ぎると、歪点が低下し易くなる。なお、β−OH値が小さ過ぎると、溶融性が低下し易くなる。よって、β−OH値は、好ましくは0.01/mm以上、特に0.05/mm以上である。
【0052】
β−OH値を低下させる方法として、以下の方法がある。(1)低水分量の原料を選択する。(2)ガラスバッチ中にCl、SO等の乾燥剤を添加する。(3)炉内雰囲気中の水分量を低下させる。(4)溶融ガラス中でNバブリングを行う。(5)小型溶融炉を採用する。(6)溶融ガラスの流量を多くする。(7)加熱電極による通電加熱を行う。
【0053】
その中でも、β−OH値を0.20/mm未満に規制するために、調合したガラスバッチをバーナーの燃焼炎による加熱を行わず、加熱電極による通電加熱を行うことにより溶融する方法が有効である。そして、その方法に加えて、ガラスバッチ中にCl、SO等の乾燥剤を添加すると、β−OH値を更に低下させることが可能になる。
【0054】
本発明の無アルカリガラス基板において、常温から5℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、500℃で1時間保持した後、5℃/分の降温速度で常温まで冷却した時の熱収縮値は、好ましくは20ppm以下、15ppm以下、12ppm以下、特に10ppm以下である。熱収縮値が大き過ぎると、有機ELディスプレイの歩留まりが低下し易くなる。なお、熱収縮値を低下させる方法として、β−OH値の低下により歪点を高める方法以外に、例えば、成形炉に連結される徐冷炉を長くして、ガラス基板の降温速度を低下させる方法、ガラス基板をオフラインで徐冷する方法も挙げられる。
【0055】
本発明の無アルカリガラス基板において、板厚は、好ましくは0.05〜0.7mm、0.1〜0.5mm、特に0.2〜0.4mmである。板厚が小さい程、ディスプレイの軽量化、薄型化を図り易くなる。なお、板厚が小さいと、成形速度(板引き速度)を高める必要性が高くなり、その場合、ガラス基板の熱収縮率が上昇し易くなるが、本発明では、β−OH値が高く、歪点が高いため、成形速度(板引き速度)が高くても、そのような事態を有効に抑制することができる。
【0056】
本発明の無アルカリガラス基板は、オーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。オーバーフローダウンドロー法では、ガラス基板の表面になるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形される。このため、未研磨で表面品位が良好なガラス基板を安価に製造することができる。また、オーバーフローダウンドロー法は、薄型、且つ大型のガラス基板を成形し易いという利点も有している。
【0057】
本発明の無アルカリガラス基板の製造方法は、ガラス組成として、モル%で、SiO 60〜80%、Al 8〜25%、B 0〜3%未満、LiO+NaO+KO 0〜1%未満、MgO 0〜10%、CaO 1〜15%、SrO 0〜12%、BaO 0〜12%、As 0〜0.05%未満、Sb 0〜0.05%未満を含有し、歪点が700℃以上であり、且つβ−OH値が0.20/mm未満である無アルカリガラスが得られるように、調合されたガラスバッチに対してバーナーの燃焼炎による加熱を行わず、加熱電極による通電加熱を行うことにより、溶融ガラスを得る溶融工程と、得られた溶融ガラスをオーバーフローダウンドロー法により板厚0.1〜0.7mmの平板形状に成形する成形工程と、を有することを特徴とする。ここで、本発明の無アルカリガラス基板の製造方法の技術的特徴の一部は、本発明の無アルカリガラス基板の説明欄に既に記載済みである。よって、その重複部分については、詳細な説明を省略する。
【0058】
無アルカリガラス基板の製造工程は、一般的に、溶融工程、清澄工程、供給工程、攪拌工程、成形工程を含む。溶融工程は、ガラス原料を調合したガラスバッチを溶融し、溶融ガラスを得る工程である。清澄工程は、溶融工程で得られた溶融ガラスを清澄剤等の働きによって清澄する工程である。供給工程は、各工程間に溶融ガラスを移送する工程である。攪拌工程は、溶融ガラスを攪拌し、均質化する工程である。成形工程は、溶融ガラスを平板形状に成形する工程である。なお、必要に応じて、上記以外の工程、例えば溶融ガラスを成形に適した状態に調節する状態調節工程を攪拌工程後に取り入れてもよい。
【0059】
従来の無アルカリガラスは、一般的に、バーナーの燃焼炎による加熱により溶融されていた。バーナーは、通常、溶融窯の上方に配置されており、燃料として化石燃料、具体的には重油等の液体燃料やLPG等の気体燃料等が使用されている。燃焼炎は、化石燃料と酸素ガスと混合することにより得ることができる。しかし、この方法では、溶融時に溶融ガラス中に多くの水分が混入するため、β−OH値が上昇し易くなる。よって、本発明の無アルカリガラス基板の製造方法は、バーナーの燃焼炎による加熱を行わず、加熱電極による通電加熱を行うことを特徴にしている。これにより、溶融時に溶融ガラス中に水分が混入し難くなるため、β−OH値を0.20/mm未満に規制し易くなる。更に、バーナーの燃焼炎による加熱を行わず、加熱電極による通電加熱を行うと、溶融ガラスを得るための質量当たりのエネルギー量が低下すると共に、溶融揮発物が少なくなるため、環境負荷を低減することができる。
【0060】
加熱電極による通電加熱は、溶融窯内の溶融ガラスに接触するように、溶融窯の底部又は側部に設けられた加熱電極に交流電圧を印加することにより行うことが好ましい。加熱電極に使用する材料は、耐熱性と溶融ガラスに対する耐食性を備えるものが好ましく、例えば、酸化錫、モリブデン、白金、ロジウム等が使用可能であるが、耐熱性の観点から、モリブデンが好ましい。
【0061】
無アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物を含まないため、電気抵抗率が高い。よって、加熱電極による通電加熱を無アルカリガラスに適用する場合、溶融ガラスだけでなく、溶融窯を構成する耐火物にも電流が流れて、溶融窯を構成する耐火物が早期に損傷する虞がある。これを防ぐため、炉内耐火物として、電気抵抗率が高いジルコニア系耐火物、特にジルコニア電鋳レンガを使用することが好ましく、また溶融ガラス中に電気抵抗率を低下させる成分(LiO、NaO、KO、Fe等)を少量導入することも好ましい。なお、ジルコニア系耐火物中のZrOの含有量は、好ましくは85質量%以上、特に90質量%以上である。
【実施例】
【0062】

以下、実施例に基づいて、本発明を説明する。但し、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0063】
表1、2は、本発明の実施例(試料No.1〜14、17〜22)と比較例(試料No.15、16)を示している。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
まず表中のガラス組成になるように、調合したガラスバッチをジルコニア電鋳レンガで構築された小型試験溶融炉に投入した後、バーナーの燃焼炎による加熱を行わず、加熱電極(Mo電極)による通電加熱を行うことにより、1600〜1650℃で溶融して、溶融ガラスを得た。なお、試料No.16については、酸素バーナーの燃焼炎による加熱と加熱電極による通電加熱を併用して溶融した。続いて、溶融ガラスをPt−Rh製容器を用いて清澄、攪拌した後、ジルコン成形体に供給し、オーバーフローダウンドロー法により表中に示す板厚の平板形状に成形した。得られたガラス基板について、β−OH値、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数CTE、歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Ts、104.0ポアズの粘度における温度、103.0ポアズの粘度における温度、102.5ポアズの粘度における温度、液相温度TL及び液相温度における粘度logηTLを評価した。
【0067】
β−OH値は、FT−IRを用いて上記数式1により算出した値である。
【0068】
30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数CTEは、ディラトメーターで測定した値である。
【0069】
歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Tsは、ASTM C336、ASTM C338の方法に基づいて測定した値である。
【0070】
104.0ポアズ、103.0ポアズ、102.5ポアズの粘度における温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0071】
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れた後、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値である。また、液相温度における粘度logηTLは、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0072】
以下のようにして、熱収縮値を測定した。まずガラス基板に対して、直線状のマーキングを平行に2カ所刻印した後、このマーキングに対して、垂直な方向に分割し、2つのガラス片を得た。次に、一方のガラス片について、常温から5℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、500℃で1時間保持した後、5℃/分の降温速度で常温まで冷却した。続いて、熱処理済みのガラス片と未熱処理のガラス片を分割面が整合するように並べて、接着テープで固定した後、両者のマーキングのずれ量△Lを測定した。最後に、△L/Lの値を測定し、これを熱収縮値とした。なお、Lは、熱処理前のガラス片の長さである。
【0073】
表1、2から明らかなように、試料No.1〜14、17〜22は、所望のガラス組成を有し、β−OH値が小さいため、歪点が高く、液相温度が低いため、耐失透性が高かった。一方、試料No.15は、Bの含有量が多いため、歪点が低かった。試料No.16は、試料No.6よりもβ−OH値が大きいため、試料No.6よりも歪点が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の無アルカリガラス基板は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板以外にも、電荷結合素子(CCD)、等倍近接型固体撮像素子(CIS)等のイメージセンサー用カバーガラス、太陽電池用ガラス基板及びカバーガラス、有機EL照明用ガラス基板等に好適である。