特許第6758644号(P6758644)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6758644
(24)【登録日】2020年9月4日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】切替式腹腔鏡手術用鉗子
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/29 20060101AFI20200910BHJP
【FI】
   A61B17/29
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-207038(P2016-207038)
(22)【出願日】2016年10月21日
(65)【公開番号】特開2018-64883(P2018-64883A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】黄 健
(72)【発明者】
【氏名】今本 治彦
(72)【発明者】
【氏名】大江 泰法
【審査官】 高松 大
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−137177(JP,A)
【文献】 特開平09−262239(JP,A)
【文献】 米国特許第05312391(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状本体内に突出可能に収納された複数の鉗子ユニットと、
前記筒状本体から突出させた前記鉗子ユニットの開閉を制御するハンドル部を有し、
前記鉗子ユニットは、
開閉する顎部と前記顎部を開閉させるリンク機構を有する鉗子部と、
一端が前記リンク機構に接続され、前記リンク機構を駆動するロッドと、
前記ロッドの他端に固定されたスリット連結部材と、
前記鉗子部および前記ロッドの一部を収納し、前記スリット連結部材側の内面にロードスプリング留めが設けられたシャフトと
記ロッドに貫設され、前記ロードスプリング留めと前記スリット連結部材の間を連結するロードスプリングを有し、
前記ハンドル部は、前記鉗子ユニットの各スリット連結部材のスリットにワイヤーピンを介して係合されたワイヤーに接続されていることを特徴とする切替式腹腔鏡手術用鉗子。
【請求項2】
前記シャフトには、前記筒状本体から突出する操作レバーが固定され、
前記筒状本体の内部にはスプリング留めが固定されており、
前記スプリング留めと前記操作レバーの間にシャフトスプリングが配置されていることを特徴とする請求項1に記載された切替式腹腔鏡手術用鉗子。
【請求項3】
前記筒状本体の前部には、前記顎部を強制的に閉じさせる鉗子押さえ板が配置されていることを特徴とする請求項1に記載された切替式腹腔鏡手術用鉗子。
【請求項4】
前記筒状本体と前記ハンドル部の間に配置され、
前記鉗子ユニット毎の前記ワイヤーを平行な一対のワイヤーロールの間を通してから1束に纏めるワイヤー切替部材を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一の請求項に記載された切替式腹腔鏡手術用鉗子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腹腔鏡手術で用いる鉗子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年治療のための手術においては、患者の負担を極力減らせる術式として内視鏡を用いた腹腔鏡手術が行われている。特に消化器官に対する手術においては多用されている。腹腔鏡手術は、腹部に数か所の孔を開け、トラカールという仮設ポートを設ける。このトラカールから腹腔内に内視鏡や手術器具を挿入し、手術を行う。
【0003】
トラカールは、直径数十mmの孔であるので、そこから内部に挿入できる器具も形状に制約を受ける。特許文献1には、このような腹腔鏡手術で用いられる典型的な鉗子が記載されている。基本的にこのタイプの鉗子は、細長いロッドを組み込んだシャフトの先に開閉する顎が設けられ、そのロッドをハンドルの握り開きによって制御する。形状は拳銃に似ている。
【0004】
トラカールは数か所に設けるだけなので、トラカールを通して腹腔内に持ち込める器具の量も制限を受ける。そこで、1つのトラカールから複数の鉗子を腹腔内に持ち込むための鉗子も提案されている。
【0005】
特許文献2では、2つの鉗子が1つのシャフトの先端に設けられているものが示されている。また特許文献3には、3つの鉗子を1つのシャフトの先に設けたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−164144号公報
【特許文献2】特表2014−512870号公報
【特許文献3】特表平08−502438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2や3に開示されているように、複数の鉗子を一度に腹腔内に持ち込めるというのは有用なアイデアである。手術の進行に従って、必要な鉗子の種類が変わる。したがって、手術の進行に応じて逐次鉗子を交換する必要がある。しかし、鉗子の交換は、鉗子の先端をトラカールから出し入れする機会が増え、手間がかかり、手術時間も長くなる原因になる。
【0008】
しかし、特許文献2や3のように、1つのシャフトから複数の鉗子が腹腔内に出ていると、狭い内視鏡の視野ではどのハンドルがどの鉗子を操作するものかわからなくなる。また、内視鏡の視野から外れた鉗子が不要な臓器に触ってしまうおそれもある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みて想到されたものであり、1のシャフトに複数の鉗子を備え、必要な鉗子をシャフトから突出させ、突出させた鉗子だけを1のハンドルで操作することができる切替式腹腔鏡手術用鉗子を提供するものである。
【0010】
より具体的に本発明に係る切替式腹腔鏡手術用鉗子(1)は、
筒状本体(10)内に突出可能に収納された複数の鉗子ユニット(30)と、
前記筒状本体(10)から突出させた前記鉗子ユニット(30)の開閉を制御するハンドル部(20)を有し、
前記鉗子ユニット(30)は、
開閉する顎部(32a)と前記顎部(32a)を開閉させるリンク機構(32b)を有する鉗子部(32)と、
一端が前記リンク機構(32b)に接続され、前記リンク機構(32b)を駆動するロッド(40)と、
前記ロッド(40)の他端(40b)に固定されたスリット連結部材(38)と、
前記鉗子部(32)および前記ロッド(40)の一部を収納し、前記スリット連結部材(38)側の内面にロードスプリング留め(36a)が設けられたシャフト(36)と
記ロッド(40)に貫設され、前記ロードスプリング留め(36a)と前記スリット連結部材(38)の間を連結するロードスプリング(42)を有し、
前記ハンドル部(20)は、前記鉗子ユニット(30)の各スリット連結部材(38)のスリット(38s)にワイヤーピン(50)を介して係合されたワイヤー(52)に接続されていることを特徴とする。なお、ロッド(40)は図1、2ではシャフト(36)の中で見えない。図5を参照のこと。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る切替式腹腔鏡手術用鉗子は、複数の鉗子ユニットをシャフト内に配置させているので、1つのトラカールから1度に複数の鉗子を腹腔内に持ち込むことができる。また、シャフトから突出させた鉗子ユニットだけを手元の1つのハンドルで操作するため、操作ミスがない。
【0012】
また、シャフトから突出させる鉗子を1つにしておけば、他の鉗子が触る必要のない臓器に触れることを回避でき、腹腔内を傷つけるリスクが非常に低くなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る切替式腹腔鏡手術用鉗子の外観と、カット断面を示す図である。
図2】切替式腹腔鏡手術用鉗子の本体を除いた状態を示す図である。
図3図2の拡大図であって、斜め後方からの斜視図と、斜め前方からの斜視図である。
図4】本体外部に設けられたストッパーを示す図である。
図5】切替式腹腔鏡手術用鉗子の鉗子ユニット部分の内部を示す構成図である。
図6】ワイヤ切替部材の内部構造を示す図である。
図7】切替式腹腔鏡手術用鉗子の動作(使い方)を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明に係る切替式腹腔鏡手術用鉗子について図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0015】
<全体構成>
図1に本発明に係る切替式腹腔鏡手術用鉗子1の外観図(図1(a))と、カット断面図(図1(b))を示す。なお、図1(a)においても、ハンドル部20は外装を除いてある。切替式腹腔鏡手術用鉗子1は、本体10とハンドル部20で構成されている。本体10は筒状をしている。本体10の中には、鉗子ユニット30が複数個収納されている。図1では鉗子ユニット30は2つ収納されている場合を示す。もちろん、収納される鉗子ユニット30は3つ以上あってもよい。
【0016】
以後の説明において、切替式腹腔鏡手術用鉗子1のハンドル部20側を「後方」と呼び、その反対側を「前方」と呼ぶ。また、2つある鉗子ユニット30は、上側の鉗子ユニット30を「(A側)鉗子ユニット30A」とし、下側の鉗子ユニット30を「(B側)鉗子ユニット30B」とする。また、それぞれの鉗子ユニット30およびそれらを構成する部材を区別する場合は、それぞれの部材の符号の後ろに「A」若しくは「B」を付けて区別し、特に区別しない場合は、単に符号だけを付す。
【0017】
それぞれの鉗子ユニット30は、鉗子部32の方向と軸方向を揃えて、さらに本体10の軸方向に揃えた状態で、本体10内に収納されている。なお、ここで軸とは、本体10およびシャフト36(後述する)の前後方向の中心線(回転中心)をいう。
【0018】
ハンドル部20には、親指孔21と下指孔22が設けられている。下指孔22は本体10に対して固定されており、親指孔21はハンドル部20に設けられた枢軸21aに枢支され、本体10に対して枢軸21aを中心に開閉動作が行える。また、下指孔22に隣接して、ラチェット23が配置されている。ラチェット23は親指孔21の動作をロックする。
【0019】
各鉗子ユニット30には、本体10から突出している操作レバー34が設けられている。操作レバー34は、鉗子ユニット30を本体10内で軸方向(前後方向)に移動させるためのものである。また、本体10の外面には、この操作レバー34の位置を固定するためのストッパー11が設けられている。
【0020】
この操作レバー34を本体10の先端方向(前方)に押し出すと、本体10先端から鉗子ユニット30の鉗子部32が突出する。
【0021】
図2には、本体10を除いた状態を示す。鉗子ユニット30の内部構成は、図5を使って後述する。鉗子ユニット30には、鉗子ユニット30の外装となるシャフト36に操作レバー34が取り付けてある。したがって、操作レバー34を前方に移動させると、鉗子ユニット30も軸方向(前後方)に移動する。図2では、下側の鉗子ユニット30Bが前方に押し出されている状態を示している。
【0022】
鉗子ユニット30のシャフト36内に配置されているロッド40(図2ではシャフト36の中で見えない。)には、スリット連結部材38が接続されている。スリット連結部材38は、長尺部材の縦方向にスリットを形成した部材である。長尺部材は例えば、円筒状、短冊状、立方体状といった形状が好適に利用できる。
【0023】
スリット連結部材38のスリット38sには、ワイヤーピン50が係止されている。ワイヤーピン50に取り付けられたワイヤー52はワイヤー切替部材54を介してハンドル部20の親指孔21に接続されている。
【0024】
ワイヤー切替部材54とハンドル部20は固定されている。また、ワイヤー切替部材54と本体10(図1参照)も固定されている。そして、親指孔21と下指孔22の閉じ開き動作によって、ワイヤー52はハンドル部20側(後方)に手繰り寄せられる、若しくは繰り出される。
【0025】
スプリング留め13は、本体10内部に固定されている。スプリング留め13は、鉗子ユニット30毎に、シャフト36が貫通する孔(図示せず)が形成された壁材である。スプリング留め13は、鉗子ユニット30の操作レバー34と先端の鉗子部32との間に配置される。スプリング留め13と操作レバー34の間には、鉗子ユニット30のシャフト36が貫設された状態でシャフトスプリング36sが配置されている。
【0026】
本体10の先頭部には、鉗子押さえ板12が配置されている。鉗子押さえ板12は、鉗子ユニット30が本体10内に収納された時に、鉗子ユニット30の顎部32aを強制的に閉じる。具体的には、鉗子ユニット30の鉗子部32が、顎部32aが閉じた状態で通過できる程度の貫通孔が形成された板である。鉗子押さえ板12は本体10に固定されている。
【0027】
図3には、図2の拡大図であって、斜め後方からの斜視図(図3(a))と、斜め前方からの斜視図(図3(b))を示す。操作レバー34はシャフト36に固定されている。シャフト36のハンドル部20側の端で、スリット連結部材38がロッド40(図5で説明する。)に固定されている。スリット連結部材38は、シャフト36とほぼ同径の細長い部材に、その長さ方向にスリット38sが形成されている。
【0028】
このスリット連結部材38には、ワイヤーピン50が挿貫された状態で、ワイヤーピン50にワイヤー52が連結されている。つまり、ワイヤーピン50はスリット連結部材38のスリット38s中でスリット38sに沿って移動可能に配置されている。
【0029】
図3では、上側の鉗子ユニット30A(図2参照)では、ワイヤーピン50Aがスリット連結部材38Aのスリット38sAの中ほどに位置している。一方、下側の鉗子ユニット30B(図2参照)では、ワイヤーピン50Bはスリット連結部材38Bのスリット38sBの後方端に係止する状態になっている。スリット連結部材38の後方端を「係止端38t」と呼ぶ。図3では図3(b)にだけ係止端38tAと係止端38tBを示した。
【0030】
スリット連結部材38とワイヤーピン50及びワイヤー52は、各鉗子ユニット30毎に設けられている。そして、各鉗子ユニット30からのワイヤー52はワイヤー切替部材54でまとめられる。ワイヤー切替部材54内では、全てのワイヤー52が1つにまとめられ、親指孔21(図1、2も参照)に連結されている(ワイヤー切替部材54の詳細も後述する)。
【0031】
図4は、本体10外部に設けられたストッパー11を示す。図4(a)は鉗子ユニット30A(図2参照)側であり、図4(b)は鉗子ユニット30B(図2参照)側を示す。今、鉗子ユニット30B側が前方に押し出された状態にあるとする。本体10には、スリット10sが設けられている。操作レバー34は、このスリット10sから本体10外側に突出し、スリット10sに沿って前後に移動可能に設置される。
【0032】
ストッパー11は、このスリット10sの部分の本体10の周囲に設けられている。また、ストッパー11にもスリット10sと重なる箇所にスリット11sが欠切されている。したがって、手動によって操作レバー34を、スリット10sおよびスリット10sとスリット11sの重なり部分で前後に移動させることができる。
【0033】
ストッパー11には、スリット11sに直角方向にスライド可能な止め片11aが設けられている。また、この止め片11aのスライドの範囲は、ストッパー11のスリット11sを塞ぐ位置までスライドすることができる。言い換えると、止め片11aは、ストッパー11内で、本体10の円周方向に移動することができ、スリット11sを完全に開く位置から、スリット11sを閉じる位置までスライド可能に設けられている。
【0034】
鉗子ユニット30が本体10内に収納されている場合は、図4(a)のように、操作レバー34Aは、止め片11aより後方に位置する。一方、図4(b)のように、鉗子ユニット30が本体10から突出されている場合は、操作レバー34Bは止め片11aより前方に位置する。そして、それぞれの場所において、止め片11aをスライドさせてスリット11sを塞ぐと、操作レバー34は、その位置から前後方向に移動しない。
【0035】
図5には、図1図2における、切替式腹腔鏡手術用鉗子1の鉗子ユニット30部分の内部構成をより見やすくした構成図である。図5(a)、図5(b)には、鉗子ユニット30単体を示し、図5(c)には、2個の鉗子ユニット30が本体10に収納されている状態を示す。
【0036】
図5(a)を参照して、鉗子ユニット30は、鉗子部32と、ロッド40と、シャフト36と、ロードスプリング42と、スリット連結部材38で構成されている。
【0037】
鉗子部32は、1対の顎部32aがリンク機構32bに連結されている。1対の顎部32aとリンク機構32bの構成は公知の構成であってよい。このリンク機構32bを駆動するのがロッド40である。ロッド40は、長尺の棒状部材であり、長さ方向に剛性を有する。言い換えると、一端を押して移動させれば、途中でたわむことなく、一端が押された長さだけ他端が移動する。
【0038】
ロッド40の一端40aにはリンク機構32bが連結される。一方、ロッド40の他端40bには、スリット連結部材38が結合されている。
【0039】
リンク機構32bは、ロッド40が押し込まれると顎部32aを開き、ロッド40が引き出されると、顎部32aが閉じるように構成されている。図5(a)は、ロッド40がシャフト36に対して引き出されている状態を示し、図5(b)はロッド40がシャフト36に対して押し込まれている状態を示している。
【0040】
ロッド40の他端40bには、スリット連結部材38が結合されているので、スリット連結部材38がシャフト36に対して押し込まれると顎部32aが開き、スリット連結部材38がシャフト36に対して引き出されると顎部32aが閉じると言ってよい。
【0041】
顎部32aの開閉に必要なロッド40の移動距離を開閉長さ40Lと呼ぶ。顎部32aとロッド40はリンク機構32bで連結されているので、ロッド40の押し込み、引き出しの操作で顎部32aは開閉する。また逆に、開いている顎部32aを強制的に閉じると、ロッド40は、開閉長さ40L分だけ後方に押し出される。
【0042】
リンク機構32bとロッド40はシャフト36でカバーされている。ただし、少なくとも顎部32aは、シャフト36の外側に配置されている。リンク機構32bはシャフト36に対して固定されている。
【0043】
また、スリット連結部材38側は、少なくともスリット連結部材38のスリット38sがシャフト36の外側になるように配置されている。スリット連結部材38は、シャフト36に対して固定されていない。図1〜3では、このシャフト36が見えており、ロッド40はシャフト36の中に入っていて見えない。シャフト36は筒状の部材である。作製が容易な円筒状に構成されるのが好適である。
【0044】
スリット連結部材38側のシャフト36の内面にはロードスプリング留め36aが設けられている。ロードスプリング42は、ロッド40に貫設されて、ロードスプリング留め36aとスリット連結部材38との間を連結する。そして、ロッド40がリンク機構32bを押し込んだ状態で、ロードスプリング42はまだ縮む方向に付勢されている。
【0045】
したがって、スリット連結部材38は、前後方向に力を与えなければ、シャフト36に向かって引きつけられている。結果、ロッド40はシャフト36に対してリンク機構32bを押し込み、顎部32aは開く状態に維持される。つまり、鉗子ユニット30は、ノーマルオープンの状態に設定されている。
【0046】
また、ロッド40はリンク機構32bを常に押し込んでいるので、スリット連結部材38をシャフト36に対して後方に引っ張ると、ロッド40は、リンク機構32bを引き出し、結果顎部32aは閉じる。スリット連結部材38の後方への引っ張りを解除すると、スリット連結部材38はシャフト36側に引き戻され、ロッド40がリンク機構32bを押し込む。結果、顎部32aは開く。
【0047】
つまり、スリット連結部材38に後方に向かう力を加えたり、解除したりすることで、ロッド40を、引き出したり、押し込んだりすることができる。結果、スリット連結部材38に後方に向かう力を加えたり、解除したりすることで、顎部32aを開閉することができる。
【0048】
本実施の形態では、このような構成の鉗子ユニット30が、2ユニット本体10に収納されている。本体10にはスプリング留め13が設けられている。シャフトスプリング36sは各鉗子ユニット30に貫設された状態で、スプリング留め13と操作レバー34との間に配置されている。
【0049】
図6には、ワイヤー切替部材54の内部構造を示す。ワイヤー切替部材54は、ワイヤー入口54a側とワイヤー出口54b側が形成されている。ワイヤー入口54a側は、スリット連結部材38側に配置され、ワイヤー出口54b側は、ハンドル部20側に配置される(図3参照)。
【0050】
ワイヤー入口54a側では、上側の鉗子ユニット30Aからのワイヤー52Aと下側の鉗子ユニット30Bからのワイヤー52Bが挿入される。内部には、それぞれのワイヤー毎に、平行に配置された回転可能なワイヤーロール55aA、55bA、55aB、55bBが配置されている。
【0051】
そして、各ワイヤー52は、互いのワイヤーロール55に抱き着かせてワイヤー出口54b側から引き出される。つまり、ワイヤー出口54b側では、鉗子ユニット30毎のワイヤー52が1つに纏められる。纏められたワイヤー52は、ハンドル部20の親指孔21に連結される。
【0052】
このように、ワイヤー52を、互いに平行な回転可能なワイヤーロール55の間を通すことで、ワイヤー52が前後に移動しても、ワイヤー52同士が絡まることを防止することができる。
【0053】
以上の構成を有する切替式腹腔鏡手術用鉗子1の動作について説明する。図7を参照する。切替式腹腔鏡手術用鉗子1は、本体10がトラカール(図示せず)を通じて、体内に挿入される。この時操作レバー34は、トラカールより体外側にある。
【0054】
術者は必要に応じてA側鉗子ユニット30A、若しくはB側鉗子ユニット30Bを選択する。術者は選択した側の鉗子ユニット30の操作レバー34を前方に押し出し、ストッパー11(図1参照)で固定する。この状態が図7(a)である。
【0055】
図7(a)では、2つの鉗子ユニット30のうち、下側の鉗子ユニット30Bが、選択された状態であるとする。この時、A側鉗子ユニット30Aは、鉗子押さえ板12で顎部32aAは閉じ状態に規制されている。ノーマルオープンの状態に調節されているロードスプリング42Aは開閉長さ40L(図5参照)分だけ伸びた状態になる。
【0056】
言い換えると、ロードスプリング42Aによって、スリット連結部材38Aをシャフト36A側に戻そうとする力が働いている。また、スリット連結部材38Aのスリット38sA内では、ワイヤーピン50Aはスリット38sAの係止端38tAから遠い点に位置している。
【0057】
図7(b)を参照する。この状態でハンドル部20の親指孔21を開くように操作するとワイヤー52Aはハンドル部20側に引っ張られる。しかし、ワイヤーピン50Aはスリット連結部材38Aのスリット38sAの係止端38tAにかかっていないので、スリット38sAの中をスライドするだけである。つまり、ロッド40Aは移動せず、顎部32aAも開閉動作をしない。
【0058】
一方、B側の鉗子ユニット30Bは、操作レバー34Bを前方に押し出されている。この鉗子ユニット30Bの押し出し動作によって、鉗子ユニット30Bの先端部である鉗子部32が本体10から突出し、鉗子押さえ板12からの規制が解除される。したがって、ロードスプリング42Bは、ノーマル状態に戻ることができ、シャフト36Bに対してロッド40Bを定位置まで引き戻す。結果、顎部32aBは開く。また、ワイヤーピン50Bはスリット連結部材38Bのスリット38sBの係止端38tBまで移動する。
【0059】
図7(b)を参照する。この状態でハンドル部20の親指孔21を開くと、ワイヤー52Bがハンドル部20側に引かれる。すると、B側鉗子ユニット30Bのワイヤーピン50Bは、スリット連結部材38Bをハンドル部20側に引き寄せる。スリット連結部材38Bに連結されたロッド40Bがハンドル部20側に移動する。結果、顎部32aBは閉じる。この時、ロードスプリング42Bは伸ばされて、スリット連結部材38Bを前方に戻そうとする付勢が働く。
【0060】
親指孔21を元に戻すと、ロードスプリング42Bの付勢にしたがって、スリット連結部材38Bが先端側に戻る。ロッド40Bも同時に戻る。結果、顎部32aBは開く。このようにして、親指孔21の開閉動作によって、顎部32aBが開閉する。
【0061】
一方、A側鉗子ユニット30Aは、本体10の収納位置にあるので、ハンドル部20の親指孔21の開閉によって、ワイヤーピン50Aが前後に移動しても、スリット連結部材38Aのスリット38sA中を移動するだけで、顎部32aAの開閉は行われない。
【0062】
鉗子ユニット30を入れ替える場合は、操作レバー34Bを操作して、B側鉗子ユニット30Bを本体10内に収納する。その後、操作レバー34Aを操作して、A側鉗子ユニット30Aを前方に押し出す。この押し出し動作によって、A側鉗子ユニット30Aはハンドル部20の開閉動作によって顎部32aAを開閉することができる。
【0063】
以上のように、本発明に係る切替式腹腔鏡手術用鉗子1は、操作レバー34で前方に押し出された(突出させられた)鉗子ユニット30だけがハンドル部20の親指孔21の開閉に反応し、顎部32aの開閉が行われる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る切替式腹腔鏡手術用鉗子は、内視鏡を用いた腹腔鏡手術に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 切替式腹腔鏡手術用鉗子
10 本体
10s スリット
11 ストッパー
11s スリット
11a 止め片
12 鉗子押さえ板
13 スプリング留め
20 ハンドル部
21 親指孔
22 下指孔
21a 枢軸
30 鉗子ユニット
32 鉗子部
32a 顎部
32b リンク機構
34 操作レバー
36 シャフト
38 スリット連結部材
38s スリット
40 ロッド
40a 一端
40b 他端
40L 開閉長さ
42 ロードスプリング
50 ワイヤーピン
52 ワイヤー
36s シャフトスプリング
36a ロードスプリング留め
38t 係止端
54 ワイヤー切替部材
54a ワイヤー入口
54b ワイヤー出口
55 ワイヤーロール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7