(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、具体的な実施形態について、農作物の生産方法を例に挙げて図を参照しつつ説明する。本明細書において、農作物は果物と野菜とを含む。
【0012】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について説明する。第1の実施形態の農作物の生産方法においては、プラズマ活性化水溶液を農作物の土壌に供給する。このプラズマ活性化水溶液は、乳酸ナトリウムを含有する水溶液にプラズマを照射したものである。そのため、まず、プラズマを照射するプラズマ照射装置について説明する。
【0013】
1.プラズマ活性化水溶液製造装置
1−1.プラズマ活性化水溶液製造装置の構成
本実施形態のプラズマ活性化水溶液製造装置PMは、
図1に示すように、プラズマ照射装置P1と、アームロボットM1とを有している。プラズマ照射装置P1は、プラズマを発生させるとともに、そのプラズマを溶液に向けて照射するためのものである。
【0014】
アームロボットM1は、
図1に示すように、プラズマ照射装置P1の位置をx軸、y軸、z軸方向のそれぞれの方向に移動させることができるようになっている。なお、説明の便宜上、プラズマを照射する向きを−z軸方向としている。これにより、溶液の液面と、プラズマ照射装置P1との間の距離を調整することができる。また、このプラズマ活性化水溶液製造装置PMは、予めプラズマ照射時間を設定することにより、その時間だけプラズマを照射することができるものである。
【0015】
プラズマ照射装置P1には、後述するように、3種類の方式(第1のプラズマ発生装置P10および第2のプラズマ発生装置P20および第3のプラズマ発生装置P30)がある。そして、いずれの方式を用いてもよい。なお、第3のプラズマ発生装置P30は、
図1に示すロボットアームM1等を有していない。
【0016】
1−2.第1のプラズマ発生装置
図2.Aはプラズマ発生装置P10の概略構成を示す断面図である。ここで、プラズマ発生装置P10は、プラズマを点状に噴出する第1のプラズマ発生装置である。
図2.Bは、
図2.Aのプラズマ発生装置P10の電極2a、2bの形状の詳細を示す図である。
【0017】
プラズマ発生装置P10は、筐体部10と、電極2a、2bと、電圧印加部3と、を有している。筐体部10は、アルミナ(Al
2 O
3 )を原料とする焼結体から成るものである。そして、筐体部10の形状は、筒形状である。筐体部10の内径は2mm以上3mm以下である。筐体部10の厚みは0.2mm以上0.3mm以下である。筐体部10の長さは10cm以上30cm以下である。筐体部10の両端には、ガス導入口10iと、ガス噴出口10oとが形成されている。ガス導入口10iは、プラズマを発生させるためのガスを導入するためのものである。ガス噴出口10oは、プラズマを筐体部10の外部に照射するための照射部である。なお、ガスの移動する向きは、図中の矢印の向きである。
【0018】
電極2a、2bは、対向して配置されている対向電極対である。電極2a、2bの対向面方向の長さは、筐体部10の内径より小さい。例えば1mm程度である。電極2a、2bには、
図2.Bに示すように、対向面のそれぞれに凹部(ホロー)Hが多数形成されている。そのため、電極2a、2bの対向面は、微細な凹凸形状となっている。なお、この凹部Hの深さは、0.5mm程度である。
【0019】
電極2aは、筐体部10の内部であってガス導入口10iの近傍に配置されている。電極2bは、筐体部10の内部であってガス噴出口10oの近傍に配置されている。そのため、プラズマ発生装置P10では、電極2aの対向面の反対側からガスを導入するとともに、電極2bの対向面の反対側にガスを噴出するようになっている。そして、電極2a、2b間の距離は、例えば24cmである。電極2a、2b間の距離は、これより小さい距離であってもよい。
【0020】
電圧印加部3は、電極2a、2b間に交流電圧を印加するためのものである。電圧印加部3は、商用交流電圧である、60Hz、100Vを用いて9kVに昇圧するとともに、電極2a、2b間に電圧を印加する。
【0021】
ガス導入口10iからアルゴンを導入するとともに、電圧印加部3により、電極2a、2b間に電圧を印加すると、筐体部10の内部にプラズマが発生する。
図2.Aの斜線で示すように、プラズマが発生する領域をプラズマ発生領域Pとする。プラズマ発生領域Pは、筐体部10に覆われている。
【0022】
1−3.第2のプラズマ発生装置
図3.Aはプラズマ発生装置P20の概略構成を示す断面図である。ここで、プラズマ発生装置P20は、プラズマを線状に噴出する第2のプラズマ発生装置である。
図3.Bは、
図3.Aのプラズマ発生装置P20のプラズマ領域Pの長手方向に垂直な断面における部分断面図である。
【0023】
プラズマ発生装置P20は、筐体部11と、電極2a、2bと、電圧印加部3と、を有している。筐体部11は、アルミナ(Al
2 O
3 )を原料とする焼結体から成るものである。筐体部11の両端には、ガス導入口11iと、多数のガス噴出口11oとが形成されている。ガス導入口11iは、
図3.Aの左右方向を長手方向とするスリット形状をしている。ガス導入口11iからプラズマ領域Pの直上までのスリット幅(
図3.Bの左右方向の幅)は、例えば1mmである。
【0024】
ガス噴出口11oは、プラズマを筐体部11の外部に照射するための照射部である。ガス噴出口11oは、円筒形状もしくはスリット形状である。円筒形状の場合のガス噴出口11oは、プラズマ領域の長手方向に沿って一直線状に形成されている。ガス噴出口11oの内径は1mm以上2mm以下の範囲内である。また、スリット形状の場合には、ガス噴出口11oのスリット幅を1mm以下とすることが好ましい。これにより、安定したプラズマが形成される。また、ガス導入口11iは、電極2aと電極2bとを結ぶ線と交差する向きにガスを導入するようになっている。
【0025】
電極2a、2bおよび電圧印加部3については、
図1に示したプラズマ発生装置P10と同じものである。そして、同様に、商用交流電圧を用いて、電極2a、2b間に電圧を印加する。これにより、プラズマを一直線状に噴出することができる。
【0026】
また、この一直線状にプラズマを噴出するプラズマ発生装置P20を
図3.Bの左右方向に列状に並べて配置すれば、プラズマをある長方形の領域にわたって平面的に噴出することができる。
【0027】
1−4.第3のプラズマ発生装置
図4は、第3のプラズマ発生装置P30の概略構成を示す概念図である。プラズマ発生装置P30は、収容している溶液にプラズマを照射するためのものである。
【0028】
図4に示すように、プラズマ発生装置P30は、第1電極110と、第2電極210と、第1の電位付与部120と、第2の電位付与部220と、第1のリード線130と、第2のリード線230と、ガス供給部140と、ガス管結合コネクター150と、ガス管160と、第1電極保護部材170と、第2電極保護部材240と、第1電極支持部材180と、密閉部材191と、結合部材192と、容器250と、封止部材260と、架台270と、を有している。
【0029】
1−4−1.電極の概略構成
第1電極110は、筒形状部110aを有している。そして、その筒形状部110aの内部にプラズマガスを供給することができるようになっている。つまり、第1電極110の内部は、ガス供給部140と連通している。第1電極110は、筒形状部110aから第2電極210に向けてガスを吹き出すようになっている。そして、第1電極110の先端部は、注射針形状をしている。つまり、第1電極110の先端部は、第1電極110の軸方向に垂直な方向に対して傾斜する傾斜面を有している。そして、第1電極110の先端部には、マイクロホローが形成されている。
【0030】
第2電極210は、第1電極110と対向する電極である。第2電極210は、棒状電極である。第2電極210は、円柱形状である。もしくは、多角柱形状であってもよい。もしくは、先端の尖った針形状であってもよい。ここで、第2電極210は、先端部211を有している。第2電極210の先端部211は、イリジウムを含有するイリジウム合金でできている。例えば、イリジウムと白金との合金である。または、イリジウムと白金とオスミウムとの合金である。イリジウム合金は、硬度が高く、耐熱性に優れている。そのため、イリジウム合金は、第2電極210の先端部211に好適である。また、イリジウムの代わりに、白金を用いてもよい。もしくは、パラジウムであってもよい。または、イリジウムと白金とパラジウムとのうちの少なくとも一種類以上を含む金属もしくは合金であるとよい。また、第2電極210の先端部211は金であってもよい。また、放電時には、第2電極210は、容器250に収容されている溶液に浸かっている。
【0031】
第1の電位付与部120は、第1電極110に周期的に変化する電位を付与するためのものである。第2の電位付与部220は、第2電極210に周期的に変化する電位を付与するためのものである。ここで、第1の電位付与部120と第2の電位付与部220とのうちのどちらか一方は、接地されていてもよい。第1のリード線130は、第1電極110と第1の電位付与部120とを電気的に接続するためのものである。第1のリード線130は、ニッケル合金もしくはステンレスであるとよい。第2のリード線230は、第2電極210と第2の電位付与部220とを電気的に接続するためのものである。第2のリード線230は、ニッケル合金もしくはステンレスであるとよい。これにより、第1電極110と第2電極210との間に高周波の電圧が印加されることとなる。つまり、第1の電位付与部120および第2の電位付与部220は、第1電極110と第2電極210との間に電圧を印加するための電圧印加部である。
【0032】
1−4−2.ガス供給経路
プラズマ発生装置P30は、前述したように、ガス供給部140と、ガス管結合コネクター150と、ガス管160と、を有している。そのため、ガス供給部140は、ガス管160およびガス管結合コネクター150を介して、第1電極110の筒形状部の内部にプラズマガスを供給する。ここで、ガス供給部160は、例えば、Arガスを供給する。もしくは、その他の希ガスを供給してもよい。もしくは、酸素ガス等その他のガスを微量に含んでいてもよい。そのため、プラズマガスは、第1電極110から溶液250に収容されている溶液に向けて吹き付けられることとなる。
【0033】
1−4−3.上部構造の構成
図5は、プラズマ発生装置P30の上部構造を示す図である。
図5に示すように、第1電極110は、先端部111を有している。先端部111は、
図4に示すように、第2電極210に対面する位置に配置されている。第1電極110の先端部111は、傾斜面111aを有している。傾斜面111aは、第1電極110の軸方向に垂直な面に対して傾斜している面である。また、先端部111には、マイクロホロー111bが形成されている。マイクロホロー111bは、長さ0.5mm以上1mm以下、幅0.3mm以上0.5mm以下の微小な凹部である。
【0034】
また、前述したように、プラズマ発生装置P30は、密閉部材191と、結合部材192と、を有している。密閉部材191は、
図4に示す容器250に取り付けられるとともに容器250の内部を密閉するためのものである。結合部材192は、第1電極110とガス管結合コネクター150とを、密閉部材191等を介して連結するための部材である。
【0035】
1−4−4.下部構造の構成
図6は、プラズマ発生装置P30の下部構造を示す図である。前述したように、プラズマ発生装置P30は、容器250と、封止部材260と、架台270と、を有している。容器250は、内部に溶液を収容することができるようになっている。ここで、溶液とは、水溶液や有機溶剤をも含むこととする。また、容器250は、第1電極110および第2電極210を内部に収容している。また、容器250は、目盛を有しているとよい。容器250の内部に収容されている溶液の量を計量するためである。
【0036】
封止部材260は、第2電極保護部材240と、容器250との間の隙間を塞ぐためのものである。封止部材260として、例えば、オーリングが挙げられる。容器250の密閉性を確保し、溶液が容器250の底部に漏れ出すのを防止するものであれば、これ以外の部材を適用してもよい。架台270は、容器250その他の各部材を支持するためのものである。
【0037】
2.プラズマ発生装置により発生されるプラズマ
2−1.第1のプラズマ発生装置および第2のプラズマ発生装置
プラズマ発生装置P10、P20により発生されるプラズマは、非平衡大気圧プラズマである。ここで、大気圧プラズマとは、0.5気圧以上2.0気圧以下の範囲内の圧力であるプラズマをいう。
【0038】
本実施の形態では、プラズマ発生ガスとして、主にArガスを用いる。プラズマ発生装置P10、P20により発生されるプラズマの内部では、もちろん、電子と、Arイオンとが生成されている。そして、Arイオンは、紫外線を発生させる。また、このプラズマは大気中に放出されているため、酸素ラジカルや窒素ラジカル等を発生させる。
【0039】
このプラズマのプラズマ密度は、1×10
14cm
-3以上1×10
17cm
-3以下の範囲内である。なお、誘電体バリア放電により発生されるプラズマにおけるプラズマ密度は、1×10
11cm
-3以上1×10
13cm
-3以下の程度である。したがって、プラズマ発生装置P10、P20により発生されるプラズマのプラズマ密度は、誘電体バリア放電により発生されるプラズマのプラズマ密度に比べて、3桁程度大きい。したがって、このプラズマの内部では、より多くのArイオンが生成する。そのため、ラジカルや、紫外線の発生量も多い。なお、このプラズマ密度は、プラズマ内部の電子密度にほぼ等しい。
【0040】
そして、このプラズマ発生時におけるプラズマ温度は、およそ1000K以上2500K以下の範囲内である。また、このプラズマにおける電子温度は、ガスの温度に比べて大きい。しかも、電子の密度が1×10
14cm
-3以上1×10
17cm
-3以下の範囲内の程度であるにもかかわらず、ガスの温度はおよそ1000K以上2500K以下の範囲内である。このプラズマの温度は、プラズマの発生しているプラズマ発生領域Pでの温度である。したがって、プラズマの条件や、ガス噴出口から水面までの距離を異なる条件とすることにより、液面の位置でのプラズマ温度を室温程度とすることができる。
【0041】
2−2.第3のプラズマ発生装置
図7は、プラズマ発生装置P30がプラズマを発生させている様子を模式的に示す図である。プラズマ発生装置P30により発生されるプラズマは、非平衡大気圧プラズマである。
【0042】
図7に示すように、ガス供給部140から供給されるプラズマガスは、第1電極110から矢印K1の向きに放出される。そして、第1電極110と第2電極210との間に高周波の電圧を印加すると、第1電極110と第2電極210との間にプラズマ発生領域PG1が形成される。
図7のプラズマ発生領域PG1は、概念的に描かれている。
【0043】
第1の電位付与部120および第2の電位付与部220が、第1電極110と第2電極210との間に電圧を印加する電圧印加時には、第2電極210は、液体の内部に配置されている。このように、第1電極110と第2電極210との間には、容器250に収容されている液体と大気とがある。そして、第1電極と第2電極とを結ぶ線が、液体の液面LL1と交差している。
【0044】
そのため、液体の液面LL1と第1電極110との間にプラズマが発生する。このとき、液体の液面LL1は、第1電極110から矢印K1の向きに放出されるプラズマガスの風圧を受けて、液体の側に向かって凹んでいる。そして、液体の内部では溶液が部分的に電気分解し、気化する。その気化したガスの内部でもプラズマが発生する。また、プラズマ発生領域PG1は、液体の液面LL1に接触している。
【0045】
以上により、大気もしくは水に由来するラジカルが発生する。そして、溶液にラジカルが照射されることとなる。これにより、ラジカルは、水分子もしくは溶液中の溶質と反応する。
【0046】
3.プラズマ活性化水溶液の製造方法
3−1.水溶液準備工程
まず、第1の水溶液を準備する。第1の水溶液とは、プラズマを照射する前の水溶液のことをいう。第1の水溶液は、L−乳酸ナトリウムと、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有する。
【0047】
3−2.プラズマ照射工程
次に、プラズマ活性化水溶液製造装置PMによりプラズマ発生領域に発生させた大気圧プラズマを第1の水溶液に照射する。プラズマを照射する際における液面とプラズマ噴出口との間の距離は、例えば、3mmである。また、この距離は、例えば、0.1cm以上3cm以下の範囲内で変えてもよい。プラズマ発生領域におけるプラズマ密度は、1×10
14cm
-3以上1×10
17cm
-3以下の範囲内である。そして、このプラズマにおけるプラズマ温度は、およそ1000K以上2500K以下の範囲内である。ただし、このプラズマ温度は、液面では、室温程度(300K程度)まで下げることもできる。これらのプラズマ条件を表1に示す。これらの条件は、あくまで一例である。
【0048】
[表1]
条件 数値範囲
液面−噴出口距離 0.1cm以上 3cm以下
プラズマ密度 1×10
14cm
-3以上 1×10
17cm
-3以下
プラズマ温度 1000K以上 2500K以下
【0049】
このように、第1の水溶液に大気圧プラズマを照射することにより、第1の水溶液を第2の水溶液にする。大気圧プラズマの照射により、第1の水溶液の成分とプラズマに由来するラジカル等とが反応すると考えられる。また、水溶液中に亜硝酸イオンや硝酸イオンが増加する。第1の水溶液の成分は、これらのイオン等とも反応すると考えられる。この第2の水溶液は、農作物に含まれるポリフェノール類を増加させるプラズマ活性化水溶液である。
【0050】
大気圧プラズマのプラズマ密度は、例えば、2×10
16cm
-3である。大気圧プラズマの照射時間は、例えば、30秒以上600秒以下である。大気圧プラズマを照射する際の第1の水溶液の体積は、例えば、10ml以上1000ml以下である。
【0051】
この場合には、第2の水溶液における単位体積当たりのプラズマ密度時間積は、6×10
14sec・cm
-3・ml
-1以上1.2×10
18sec・cm
-3・ml
-1以下である。ここで、単位体積当たりのプラズマ密度時間積とは、(プラズマ密度)×(照射時間)/(第1の水溶液の体積)である。つまり、単位体積当たりのプラズマ密度時間積は、単位体積当たりの第1の水溶液に照射されるプラズマ生成物の量である。
【0052】
4.プラズマ活性化水溶液の効果
本実施形態のプラズマ活性化水溶液は、L−乳酸ナトリウムを含有する水溶液にプラズマを照射したものである。より具体的には、L−乳酸ナトリウムと、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有する第1の水溶液に大気圧プラズマを照射したものである。このプラズマ活性化水溶液は、後述するように、農作物に含まれるポリフェノール類の量を増加させる。ポリフェノール類は、抗酸化物質の一種である。より具体的には、増加するポリフェノール類は、アントシアニンである。そのため、この農作物を食べた人はより健康になる。また、果物の果実等の発色もよい。
【0053】
5.プラズマ活性化水溶液を用いた農作物の生産方法
本実施形態の農作物の生産方法は、L−乳酸ナトリウムを含有する第1の水溶液を準備する水溶液準備工程と、第1の水溶液に大気圧プラズマを照射して第2の水溶液とするプラズマ照射工程と、農作物を生育する土壌に第2の水溶液を供給する水溶液供給工程と、を有する。
【0054】
5−1.水溶液準備工程
前述したように、水溶液準備工程では、L−乳酸ナトリウムと、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有する第1の水溶液を準備する。
【0055】
5−2.プラズマ照射工程
次に、プラズマ照射工程を実施する。前述したように、この工程では、第1の水溶液に大気圧プラズマを照射して第2の水溶液とする。
【0056】
5−3.水溶液供給工程
次に、水溶液供給工程を実施する。この工程では、第2の水溶液を農作物の土壌に供給する。このとき、全体の体積に対して第2の水溶液を5倍以上1000倍以下の濃度で添加する。土壌に供給する水溶液における単位体積当たりのプラズマ密度時間積は6×10
11sec・cm
-3・ml
-1以上2.4×10
17sec・cm
-3・ml
-1以下とする。この第2の水溶液の希釈率は、好ましくは、25倍以上500倍以下である。また、もちろん、農作物の土壌に肥料や水等を別途供給する。
【0057】
6.変形例
6−1.第3のプラズマ発生装置
プラズマ活性化水溶液を製造するにあたってプラズマ発生装置P30を用いてもよい。そのために、プラズマ発生装置P30によりプラズマ発生領域に発生させた大気圧プラズマを第1の水溶液に照射する。第1電極110を第1の水溶液の外に配置するとともに第2電極210を第1の水溶液の中に配置する。そして、第1電極110の筒形状部110aから第1の水溶液に向かってガスを照射する。そして、その状態で第1電極110と第2電極210との間に電圧を印加する。
【0058】
6−2.第3のプラズマ発生装置の第1電極
本実施形態のプラズマ発生装置P30では、第1電極110の筒形状部110aは、円筒形状である。しかし、円筒形状に限らない。筒形状であれば、多角形形状であってもよい。
【0059】
6−3.小型化したプラズマ発生装置
プラズマ発生装置P10、P20等をさらに小型化してもよい。十分に小型化することにより、ペン型のプラズマ発生装置を製造することができる。その場合であっても、プラズマ発生装置P10、P20と同等のプラズマ密度が得られる。
【0060】
6−4.冷凍工程
また、第2の水溶液を保存するために冷凍工程を実施してもよい。冷凍工程は、プラズマ照射工程の後であって水溶液供給工程の前に実施する。冷凍工程では、第2の水溶液を−196℃以上0℃以下の範囲内で冷凍する。具体的には、冷凍庫に保存する。冷凍庫として例えば、生物実験用冷蔵庫(例えば、日本フリーザー株式会社製のバイオフリーザーGS−5203KHC)を用いることができる。
【0061】
この冷凍庫で冷凍した第2の水溶液の保存温度は、−28℃以上−14℃以下の範囲内である。また、第2の水溶液の保存温度は、この範囲に限らない。通常の冷凍温度であればよい。例えば、−196℃以上0℃以下の範囲内である。好ましくは、−196℃以上−10°以下である。より好ましくは、−150℃以上−20℃以下である。さらに好ましくは、−80℃以上―30℃以下である。
【0062】
この冷凍工程をすることにより、プラズマ活性化水溶液を保存することができる。そのため、農作物の土壌に供給する前に冷凍状態のプラズマ活性化水溶液を解凍すればよい。
【0063】
6−5.プラズマ発生装置の数値
第1のプラズマ発生装置P10および第2のプラズマ発生装置P20の数値範囲は、例示である。そのため、本実施形態における数値範囲に限らず適用することができる。
【0064】
6−6.組み合わせ
第1の実施形態の変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0065】
7.本実施形態のまとめ
以上詳細に説明したように、本実施形態のプラズマ活性化水溶液は、L−乳酸ナトリウムを含む第1の水溶液にプラズマを照射したものである。このプラズマ活性化水溶液を農作物の土壌に供給すると、農作物のポリフェノール類は増加する。
【0066】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。第2の実施形態においては、第1の実施形態のプラズマ活性化水溶液を用いない。その代わりに、第2の実施形態においては、大気圧プラズマを農作物に直接照射する。大気圧プラズマ装置は、第1の実施形態と共通のものを用いることができる。そのため、第1の実施形態と異なる点について説明する。
【0067】
1.農作物の生産方法
1−1.プラズマ照射工程
このプラズマ照射工程においては、農作物の成長点を含む領域に大気圧プラズマを直接照射する。ここで、成長点とは、植物の茎の先端部付近に位置するとともに細胞分裂が活発に行われている箇所である。プラズマの照射口と農作物の成長点との間の距離は、例えば、0cm以上10cm以下である。また、プラズマの照射口は農作物の成長点を向いているとよい。
【0068】
プラズマ密度は、第1の実施形態と同様である。プラズマを照射する時間は例えば30秒以上600秒以下である。例えば、大気圧プラズマのプラズマ密度を2×10
16cm
-3とすると、大気圧プラズマのプラズマ密度と照射時間との積であるプラズマ密度時間積は、6×10
17sec・cm
-3以上1.2×10
19sec・cm
-3以下である。
【0069】
2.プラズマを農作物に直接照射する効果
農作物の成長点を含む領域に大気圧プラズマを照射することにより、後述するように、農作物に含まれるポリフェノール類の量が増加する。より具体的には、増加するポリフェノール類は、アントシアニンである。そのため、この農作物を食べた人はより健康になる。
【0070】
このように、農作物の成長点を含む領域に大気圧プラズマを直接照射することにより、窒素原子または酸素原子に由来する原子・分子、イオン、ラジカル等が農作物の成長点に供給される。その結果、農作物は、このような外的刺激に対して抗酸化作用を自発的に強化していると予測される。この結果、果物の果実にポリフェノール類といった抗酸化物質が多く生成されると考えられる。
【実施例】
【0071】
1.実験A
1−1.農作物(イチゴ)
本実験では、農作物としてイチゴを栽培した。イチゴの品種は紅ほっぺ(登録商標)である。ここでは、花芽形成されたイチゴの苗をビニールハウス内部に定植した。
【0072】
1−2.プラズマ活性化水溶液の製造
本実験のプラズマ活性化水溶液は、ラクテック(登録商標)と同じ成分の水溶液にプラズマを照射した溶液(PAL:Plasma Activated Lactec(Lactecは登録商標))である。ラクテック(登録商標)は、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、L−乳酸ナトリウムと、を含有する乳酸リンゲル液である。塩化ナトリウムの濃度は、6.0g/Lである。塩化カリウムの濃度は、0.3g/Lである。塩化カルシウム水和物の濃度は、0.2g/Lである。L−乳酸ナトリウムの濃度は、3.1g/Lである。
【0073】
プラズマ装置として、プラズマ発生装置P20を用いた。プラズマの照射時間は、1回あたり5分であった。ガスの種類としてアルゴンガスを用いた。プラズマ発生装置P20では、プラズマ発生領域と第1の水溶液との間の距離は、2mmであった。プラズマ発生装置P20におけるプラズマ密度は、2×10
16cm
-3であった。
【0074】
1−3.プラズマ活性化水溶液の供給
図8に示すように、定植したイチゴの土壌にプラズマ活性化水溶液(PAL)を供給した。定植されたイチゴの苗に配水用のパイプを配置し、そのパイプの貫通孔からプラズマ活性化水溶液を散水した。また、実験効果を比較するために、その他の水溶液を散布した。
【0075】
表2は、イチゴの苗のグループ分けを示す表である。表2に示すように、多数のイチゴの苗をグループ分けして、それぞれ別の供給物等を供給した。もちろん、いずれのグループに対しても水や肥料を同程度与えた。つまり、表2は、同じビニールハウスの内部で与えたもののうち、グループ毎に異なる供給物等について抜き出した表である。グループAには、通常の水および肥料の他には何も与えていない。グループCには、グループD−Gで与える水溶液の水量と同じ量の蒸留水を与えた。つまり、グループCの水量は、グループAの水量よりも多い。
【0076】
1−4.プラズマの直接照射
また、グループBにおいては、イチゴの苗にプラズマを直接照射した。その際には、イチゴの苗における成長点に向けてプラズマを照射した。イチゴの成長点とプラズマ照射装置の照射口との間の距離は、3cm程度である。そのため、プラズマは、イチゴの成長点を含む領域に照射されることとなる。なお、プラズマガスとしてヘリウムガスを用いた。
【0077】
図9は、イチゴにプラズマを直接照射する様子を示す図である。ここでイチゴの成長点は、イチゴの葉部が成長する茎部の頂点付近に点在する。
【0078】
なお、プラズマ活性化水溶液およびプラズマの直接照射については、1日に2回を1セットとし、1週間に3セットを実施した。つまり、1週間に6回プラズマを照射した。
【0079】
[表2]
グループ 供給物等 希釈率
グループA 追加無し(ctrl) −
グループB プラズマ直接照射 −
グループC 蒸留水 −
グループD ラクテック(登録商標) 100倍希釈
グループE プラズマ活性化水溶液 100倍希釈
グループF ラクテック(登録商標) 25倍希釈
グループG プラズマ活性化水溶液 25倍希釈
【0080】
1−5.実験結果
図10は、収穫済みのイチゴに含まれるアントシアニンの量を示すグラフである。
図10に示すように、グループAのアントシアニン含有量は16mg/100g程度であった。グループBのアントシアニン含有量は20mg/100g程度であった。グループCのアントシアニン含有量は16mg/100g程度であった。グループDのアントシアニン含有量は13mg/100g程度であった。グループEのアントシアニン含有量は18mg/100g程度であった。グループFのアントシアニン含有量は12mg/100g程度であった。グループGのアントシアニン含有量は19mg/100g程度であった。
【0081】
図10に示すように、誤差を考慮したとしても、プラズマを直接照射したグループBと、PALを供給したグループE、Gとは、プラズマの成分を供給していないその他のグループと比較してより多くのアントシアニンを含有している。
【0082】
グループAとグループBとを比較すると、プラズマを直接照射することによりグループBのアントシアニンの含有量は25%程度増加している。ここで、グループAとグループBとに与えた水および肥料の量は同程度である。
【0083】
グループEとグループDとを比較すると、PALを与えたグループEのアントシアニンの含有量は45%程度増加している。ラクテック(登録商標)を与えたグループDのアントシアニンの含有量は、蒸留水を与えたグループCと比較して18%程度減少している。つまり、ラクテック(登録商標)の成分自体は、アントシアニンの含有量を減少させる効果を担っている。しかし、プラズマを照射することにより活性化させたPALは、アントシアニンの含有量を増加させる効果を奏する。また、PALを与えたグループEのアントシアニンの含有量は、蒸留水を与えたグループCのアントシアニンの含有量よりも13%程度高かった。
【0084】
グループGとグループFとを比較すると、PALを与えたグループGのアントシアニンの含有量は55%程度増加している。ラクテック(登録商標)を与えたグループFのアントシアニンの含有量は、蒸留水を与えたグループCと比較して18%程度減少している。このように、ラクテック(登録商標)の希釈の度合いによらず、同様の傾向が得られた。また、PALを与えたグループGのアントシアニンの含有量は、蒸留水を与えたグループCのアントシアニンの含有量よりも19%程度高かった。
【0085】
1−6.考察
上記のように、イチゴの成長点を含む領域にプラズマを照射したグループBと、PALを供給したグループE、Gとにおいては、イチゴにプラズマ生成物に由来する物質が作用したと考えられる。例えば、活性酸素種(ROS)等がイチゴの成長点に作用することにより、イチゴの苗が活性酸素種に対抗するために抗酸化物質の一種であるアントシアニンを増加させたという考え方もできる。
【0086】
2.実験B
2−1.サンプルの作製
実験Aと同様にサンプルを作製して実験を行った。その際に表3に示すように9種類のサンプルを作製した。表3は、イチゴの苗のグループ分けを示す表である。表3は、表2と同様に、グループ毎に異なる供給物等を抜き出した表である。
【0087】
ここで、グループB1は、イチゴ苗栽培の前期および後期にプラズマを1回あたり30秒間直接照射したサンプルである。グループB2は、イチゴ苗栽培の前期および後期にプラズマを1回あたり120秒間直接照射したサンプルである。グループB3は、イチゴ苗栽培の後期に追加的に用意したサンプルである。そのため、グループB3は、イチゴ苗栽培の後期のデータのみをまとめたものである。
【0088】
なお、プラズマ活性化水溶液およびプラズマの直接照射については、1日に2回を1セットとし、1週間に3セットを実施した。つまり、1週間に6回プラズマを照射した。
【0089】
[表3]
グループ 供給物等 希釈率
グループA 追加無し(ctrl) −
グループB1 プラズマ直接照射(30秒) −
グループB2 プラズマ直接照射(120秒) −
グループB3 プラズマ直接照射(後期、120秒) −
グループC 蒸留水(DW) −
グループD ラクテック(登録商標) 100倍希釈
グループE プラズマ活性化水溶液 100倍希釈
グループF ラクテック(登録商標) 25倍希釈
グループG プラズマ活性化水溶液 25倍希釈
【0090】
2−2.実験結果2
図11は、イチゴの糖度を示すグラフである。
図11に示すように、グループA(照射無し)の糖度は11.6%程度であった。グループB1(30秒直接照射)の糖度は、12.3%程度であった。グループB2(120秒直接照射)の糖度は、11.8%程度であった。グループB3(栽培後期、120秒直接照射)の糖度は、12.3%程度であった。グループC(蒸留水)の糖度は、11.8%程度であった。グループD(100倍未照射)の糖度は、12.1%程度であった。グループE(100倍PAL)の糖度は、11.9%程度であった。グループF(25倍未照射)の糖度は、11.4%程度であった。グループG(25倍PAL)の糖度は、11.4%程度であった。
【0091】
図11に示すように、プラズマを直接照射するグループB1−B3の糖度は、プラズマを照射しないグループAの糖度より高い。蒸留水(グループC)に比べて、100倍希釈のグループD、Eの糖度はやや高く、25倍希釈のグループF、Gの糖度はやや低い傾向にある。また、全体として、グループAに比べて、プラズマを直接照射するか、PALを供給したイチゴの糖度は高い傾向にある。
【0092】
図12は、イチゴの酸度を示すグラフである。
図12に示すように、グループA(照射無し)の酸度は、0.69%程度であった。グループB1の酸度は、0.70%程度であった。グループB2の酸度は、0.66%程度であった。グループB3の酸度は、0.67%程度であった。グループCの酸度は、0.64%程度であった。グループDの酸度は、0.66%程度であった。グループEの酸度は、0.65%程度であった。グループFの酸度は、0.66%程度であった。グループGの酸度は、0.61%程度であった。
【0093】
図12に示すように、プラズマを直接照射するグループB1−B3の酸度は、プラズマを照射しないグループAの酸度より低い傾向にある。また、PALを供給したグループE、Gの酸度は、グループA、Cに比べて低い傾向にある。また、グループGの酸度が最も低かった。
【0094】
図13は、イチゴの糖酸比を示すグラフである。糖酸比は、糖度/酸度である。
図13に示すように、グループAの糖酸比は16.8程度であった。グループB1の糖酸比は17.6程度であった。グループB2の糖酸比は17.8程度であった。グループB3の糖酸比は18.7程度であった。グループCの糖酸比は18.5程度であった。グループDの糖酸比は18.4程度であった。グループEの糖酸比は18.4程度であった。グループFの糖酸比は17.5程度であった。グループGの糖酸比は18.7程度であった。
【0095】
図13に示すように、プラズマを照射しないグループAに比べて、プラズマを直接照射するグループB1−B3の糖酸比は十分に高い。PALを用いるグループE、Gの糖酸比は、グループAの糖酸比に比べて十分に高い。
【0096】
このように、プラズマを照射することにより、イチゴの糖酸比は上昇する。
【0097】
A.付記
第1の態様における農作物の生産方法は、L−乳酸ナトリウムを含有する第1の水溶液を準備する水溶液準備工程と、第1の水溶液に大気圧プラズマを照射して第2の水溶液とするプラズマ照射工程と、農作物を生育する土壌に第2の水溶液を供給する水溶液供給工程と、を有する。
【0098】
第2の態様における農作物の生産方法においては、水溶液供給工程では、第2の水溶液における単位体積当たりのプラズマ密度時間積を6×10
11sec・cm
-3・ml
-1以上2.4×10
17sec・cm
-3・ml
-1以下とする。
【0099】
第3の態様における農作物の生産方法は、第2の水溶液を冷凍する冷凍工程を有する。冷凍工程では、第2の水溶液を−196℃以上0℃以下の範囲内で冷凍する。
【0100】
第4の態様における農作物の生産方法においては、農作物の成長点を含む領域に大気圧プラズマを直接照射する。
【0101】
第5の態様における農作物の生産方法においては、大気圧プラズマのプラズマ密度と照射時間との積であるプラズマ密度時間積は、6×10
17sec・cm
-3以上1.2×10
19sec・cm
-3以下である。