特許第6758751号(P6758751)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6758751
(24)【登録日】2020年9月4日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】酸化チタンスラグの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 34/12 20060101AFI20200910BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20200910BHJP
   C01G 23/047 20060101ALI20200910BHJP
   C22B 5/10 20060101ALI20200910BHJP
   C22B 7/00 20060101ALN20200910BHJP
【FI】
   C22B34/12 103
   C01G23/00 C
   C01G23/047
   C22B5/10
   !C22B7/00 H
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-63231(P2016-63231)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-179389(P2017-179389A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】500103236
【氏名又は名称】JFEマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(74)【代理人】
【識別番号】100119297
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 正男
(72)【発明者】
【氏名】杉森 博一
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 勝
【審査官】 菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/052801(WO,A1)
【文献】 特開昭50−121111(JP,A)
【文献】 特公昭34−008802(JP,B1)
【文献】 米国特許第02476453(US,A)
【文献】 米国特許第03996332(US,A)
【文献】 特開2004−131753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 34/12
C01G 23/00−23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸法又は塩素法による酸化チタンの製造工程において排出される酸化チタンスラッジを加熱して乾燥する工程と、
前記酸化チタンスラッジを溶解し、前記酸化チタンスラッジ中の酸化鉄を還元剤で還元して、鉄を含む溶融金属と酸化チタンを含むスラグとを生成させる工程と、
前記スラグを鋳込む工程と、
を備える酸化チタンスラグの製造方法。
【請求項2】
前記還元剤は、炭素であることを特徴とする請求項1に記載の酸化チタンスラグの製造方法。
【請求項3】
前記酸化チタンスラッジの製錬温度は、1500℃以上1800℃以下であることを特徴とする請求項2に記載の酸化チタンスラグの製造方法。
【請求項4】
前記酸化チタンスラッジのCr23、V25、P25、及びMnOを前記炭素で還元し、前記溶融金属に移行させることを特徴とする請求項2又は3に記載の酸化チタンスラグの製造方法。
【請求項5】
前記酸化チタンスラッジの製錬は、電気炉で行われることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の酸化チタンスラグの製造方法。
【請求項6】
前記酸化チタンスラッジを乾燥する工程と前記酸化チタンスラッジを溶解する工程との間に、前記酸化チタンスラッジを焙焼する工程を備えることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の酸化チタンスラグの製造方法。
【請求項7】
前記酸化チタンスラグのTiO2が30質量%以上、FeOが30質量%以下、CaOが5質量%以上であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の酸化チタンスラグの製造方法
【請求項8】
末X線回析による前記酸化チタンスラグの測定データにおいて、Ca(TiO3)の最大のピークが観察されることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の酸化チタンスラグの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン原料として使用可能な酸化チタンスラグの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、純白性と大きな遮蔽力を有しているので、塗料、化粧品、陶器等の用途に使用されている。酸化チタンは、イルメナイト鉱、ルチル鉱等のチタン原料から硫酸法又は塩素法によって製造される(例えば特許文献1参照)。硫酸法は、イルメナイト鉱(FeTiO3)を濃硫酸に溶かし、鉄分を硫酸鉄(FeSO4)として分離する濃硫酸溶解工程と、濃硫酸と反応して精製した硫酸チタン(TiSO4)を水で加水分解し、含水酸化チタン(TiO(OH)2)の沈殿物を得る加水分解工程と、含水酸化チタンを水洗・乾燥する洗浄工程と、含水酸化チタンを高温のロータリーキルンで焼成し、二酸化チタン(TiO2)を生成する焼成工程と、二酸化チタンを粉砕し、表面処理を行う粉砕・表面処理工程と、を備える。塩素法は、ルチル鉱(TiO2)を高温で塩素ガスと炭素に反応させ、四塩化チタン(TiCl4)を合成する塩素化工程と、炉から出てきたガスから四塩化チタン(TiCl4)を採り出し、高速で噴射しながら酸化することで、二酸化チタン(TiO2)の粒子を得る酸化工程と、を備える。
【0003】
硫酸法又は塩素法による酸化チタンの製造工程、特に洗浄工程において、酸化チタンを含む泥状の酸化チタンスラッジが多量に排出される。この酸化チタンスラッジは、廃硫酸を含むので、石灰(CaO)、炭酸カルシウム(CaCO3)等の中和剤で中和される。中和された酸化チタンスラッジは、産業廃棄物として廃棄物処分場に埋め立てられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08-131834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、酸化チタンスラッジには、未使用の酸化チタンが含まれる。未使用の酸化チタンを回収し、チタン原料として使用できれば、埋立て処分の量を減らすことができる。また現在、日本では、イルメナイト鉱、ルチル鉱は、そのほとんどが輸入されている。埋立て処分される酸化チタンスラッジをチタン原料として使用できれば、輸入するイルメナイト鉱、ルチル鉱の量を減らすことができる。
【0006】
そこで本発明は、酸化チタンの製造工程において排出される酸化チタンスラッジ等の酸化チタン含有原料からチタン原料として使用可能な酸化チタンスラグを製造する酸化チタンスラグの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、硫酸法又は塩素法による酸化チタンの製造工程において排出される酸化チタンスラッジを加熱して乾燥する工程と、前記酸化チタンスラッジを溶解し、前記酸化チタンスラッジ中の酸化鉄を還元剤で還元して、鉄を含む溶融金属と酸化チタンを含むスラグとを生成させる工程と、前記スラグを鋳込む工程と、を備える酸化チタンスラグの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様の酸化チタンスラグの製造方法によれば、酸化チタンスラッジの酸化鉄を還元剤で還元して溶融金属にすることで、スラグの酸化チタンの濃度を高めることができる。このため、チタン原料として利用可能な酸化チタンスラグが得られる。また、鉄分を含む金属を鉄屑として再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態の酸化チタンスラグの製造方法の工程図である。
図2】酸化物のエリンガム図である。
図3】粉末X線回析による本実施形態の酸化チタンスラグの測定データである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態の酸化チタンスラグの製造方法を詳細に説明する。ただし、本発明は種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明の範囲を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
【0015】
図1は、本実施形態の酸化チタンスラグの製造方法の工程図を示す。本実施形態の酸化チタン含有原料は、酸化チタンの製造工程において排出される酸化チタンスラッジ1である。酸化チタンスラッジ1には、チタンが酸化物(TiO2)又は酸化物(TiO(OH)2)で含まれる。酸化チタンスラッジ1は、ペレット(小さな球状または円筒状物)の形態で排出される。酸化チタンスラッジ1の成分の一例は、表1のとおりである。表1において、TiO2、Fe23、SO3、CaO、その他の質量%は水分を除いた値である。
【0016】
【表1】
【0017】
表1に示すように、酸化チタンスラッジ1のTiO2の濃度は、約20質量%である。Fe23の濃度は、TiO2よりも高く、約50質量%である。SO3は、酸化チタンの製造工程において使用される硫酸に起因する。CaOは、酸化チタンの製造工程において使用される中和剤に起因する。その他の成分は、Al23、Cr23、V25、P25、及びMnOである。
【0018】
図1に示すように、まずペレットの形態の酸化チタンスラッジ1を乾燥する(S1)。乾燥装置には、例えば酸化チタンスラッジ1を約100℃に加熱するロータリーバーナを用いることができる。ペレットの形態にしても、酸化チタンスラッジ1には約30質量%の水分が含まれる。水分が高い酸化チタンスラッジ1を電気炉に装入すると、水蒸気爆発を起こすおそれがある。このため、酸化チタンスラッジ1を乾燥して水分を除去する。
【0019】
次に、酸化チタンスラッジ1を焙焼する(S2)。焙焼によって、酸化チタンスラッジ1のSO3が昇華し、水分がさらに除去される。焙焼炉には、例えば約900℃に酸化チタンスラッジ1を加熱するロータリーキルンを用いることができる。なお、酸化チタンスラグに水分が含まれていても、チタン原料としては問題にはならない。このため、この焙焼工程を省略することもできる。焙焼後の酸化チタンスラッジ1の成分の一例は、表2のとおりである。
【0020】
【表2】
【0021】
次に、酸化チタンスラッジ1、還元剤としての炭素(コークス)、必要に応じて通電材としての鉄を電気炉に装入し、電気炉でこれらを溶解し、酸化チタンスラッジ1を製錬する(S3)。ここでは、酸化チタンスラッジ1のFe23が優先的に還元され、Feを含む溶融金属が生成される。酸化チタンスラッジ1のTiO2は還元されないで、酸化チタンを含むスラグが生成される。
【0022】
電気炉での酸化チタンスラッジ1の製錬温度は、1500℃以上1800℃以下に設定される。図2は、酸化物のエリンガム図を示す。図2において、下方にある物質は、その温度で上のほうにある酸化物よりも酸素との親和力が大きいので、その酸化物から酸素を奪って酸化し、酸化物が還元される。図2に示すように、還元剤としてコークスを用い、製錬温度を1500℃以上1800℃以下に設定することで、Fe23が優先的に還元され、TiO2が還元されにくいことがわかる。また、Fe23だけでなく、不純物として含まれるCr23、V25、P25、MnO、SiO2も還元され、Cr、V,P、Mnが溶融金属に移行する(なお、図2にはP25が図示されていないが、P25も還元される)。Cr23、V25、P25は、酸化チタンの白色度に悪影響を及ぼす。還元されないのは、CaO、Al23である。これらは、スラグに移行する。
【0023】
電気炉での製錬温度は1500℃以上1800℃以下が望ましい。製錬温度が1800℃を超えると、TiO2も還元されてしまい、製錬温度が1500℃未満では、MnO、SiO2が還元されないからである。なお、溶湯の温度は、放射温度計又は熱電対で測定することができる。
【0024】
還元剤としてコークスの替わりにアルミニウム又は珪素を使用することもできる。ただし、還元剤としてアルミニウムを使用すると、Fe23だけでなく、TiO2も還元されてしまう。アルミニウムの使用量を減らしてFe23だけを還元しようとしても、Fe23の還元によって生成したAl23がスラグに不純物として残る。還元剤として珪素を使用しても、Fe23の還元によって生成したSiO2がスラグに不純物として残る。
【0025】
図1に示すように、次に、電気炉のスラグを出湯し、鋳型に鋳込む。得られた酸化チタンスラグ2の成分の一例は、表3のとおりである。
【0026】
【表3】
【0027】
酸化チタンスラッジ1のFe23をコークスで還元して溶融金属にすることで、酸化チタンスラグ2のTiO2の濃度を高めることができる。このため、チタン原料として利用可能な酸化チタンスラグ2が得られる。また、還元剤としてコークスを使用すると、Fe23の還元によって生成するCOがガスになって、酸化チタンスラグ2から抜ける。還元剤としてコークスを使用すると、酸化チタンスラグ2のTiO2の濃度をより高めることができる。
【0028】
酸化チタンスラグ2は、酸化チタンの製造工程において使用される中和剤に起因するCaOが5質量%以上含まれるという特徴を持つ。CaOが存在するものの、酸化チタンスラグ2のFeOの濃度を30質量%以下に低減し、TiO2の濃度を30質量%以上に高めることで、酸化チタンスラグ2をチタン原料として使用することができる。表3に示すように、TiO2の濃度を50質量%まで高めれば、酸化チタンスラグ2のTiO2の濃度がイルメナイト鉱と同等になる。
【0029】
なお、表3のSiO2は、コークスに含まれるSiO2に由来する。また、表3には記載しないが、酸化チタンスラグ2にはFeOが微量含まれる。Fe23を1500℃以上で還元すると、鉄分は酸化チタンスラグ2にFe23の形態で存在することができなくて、FeOの形態で存在するようになる。このFeOは、酸化チタンスラグ2を硫酸法によって溶かすとき、触媒のような役割をし、酸化チタンスラグ2を硫酸に溶けやすくする。
【0030】
また、この酸化チタンスラグ2は、粉末X線回析による酸化チタンスラグ2の測定データにおいて、Ca(TiO3)のピークが観察されるという特徴を持つ。酸化チタンスラッジ1を溶融し、還元すれば、CaOがTiO2と結合し、Ca(TiO3)の結晶が出現するからである。
【0031】
図1に示すように、電気炉の溶融金属は、酸化チタンスラグ2の鋳型とは別の鋳型に鋳込まれる。鋳込まれた副生金属3の成分は殆どが鉄である。この副生金属3は鉄屑として使用される。
【実施例】
【0032】
酸化チタンの製造工程において排出されるペレット状の酸化チタンスラッジをバーナで乾燥し、表4に示す酸化チタンスラッジを得た。
【0033】
【表4】
【0034】
次に、乾燥後の酸化チタンスラッジ50kg、コークス9kg、通電材10kgを電気炉に装入した。電気炉にてこれらを溶解し、温度1650℃で製錬した。
【0035】
生成したスラグ及び溶融金属を別々の鋳型に鋳込んだ。酸化チタンスラグの質量は10.2kg、副生金属の質量は22.8kgであった。酸化チタンスラグ及び副生金属の成分をJISで定められた分析法に基づいて成分を測定した。測定結果を表5、表6に示す。
【0036】
【表5】
【0037】
【表6】
【0038】
表5に示すように、酸化チタンスラッジを溶融及び還元することで、TiO2の濃度が高い酸化チタンスラグが得られた。また、白色度に悪影響を及ぼすCr、V、Pの濃度も低減できた。副生金属の成分は殆どが鉄であった。
【0039】
酸化チタンスラグを粉末にし、粉末X線回析によって解析した。図3は、粉末X線回析による酸化チタンスラグの測定データを示す。図3の上段のグラフが酸化チタンスラグの測定データ、二段目より下のグラフが既知物質の回析パターンである。各グラフの横軸が回析角度(2θ)、縦軸が回析強度(cps)である。酸化チタンスラグの測定データを既知物質の回析パターンと比較したところ、酸化チタンスラグがCa(TiO3)、Mg(Ti25)、TiO2、CaAl24の結晶を備えることが同定された。測定データの最大のピークは、Ca(TiO3)の回析パターンのピークに一致する。酸化チタンスラグには、Ca(TiO3)の結晶の量が最も多いと推測される。
【0040】
なお、本発明は上記実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で様々な実施形態に変更可能である。
【0041】
例えば、上記実施形態では、酸化チタンスラッジを溶解及び還元する炉として電気炉を用いているが、シャフト炉を用いることもできる。
【符号の説明】
【0042】
1…酸化チタンスラッジ
2…酸化チタンスラグ(スラグ)
3…副生金属
図1
図2
図3