【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のエアゾール殺虫剤は、室内に拡散する薬剤の粒子径を調整することによって薬剤が気中に残存する時間を長くし、薬剤の持続時間を長時間にすることが試みられている。しかし、処理開始から12時間以上での薬剤粒子の気中残存率は0.5%以上であり、気中残存率の維持を目的とする特許文献1のエアゾール殺虫剤では、持続時間に限度がある。特許文献2においても、薬剤粒子の気中残存率は特許文献1と同様であり、長期の持続時間を期待できるエアゾール殺虫剤ではない。
【0008】
ここで、防除対象である蚊類(通常の蚊であるアカイエカ、ヒトスジシマカ等のみならず、カ亜目に属するユスリカ類やチョウバエ類等も含むものとする。)のうち、特に、アカイエカやヒトスジシマカは、吸血するだけでなく感染症を媒介する蚊であるため、これらの蚊から身を守ることが必要であり、従来に増して効果的な駆除方法の確立が求められている。蚊類は、昼夜を問わず屋内に侵入する飛翔害虫であるため、一日中、つまり、効果を奏する持続時間が24時間であるような殺虫剤が理想的である。
【0009】
ところが、上記のとおり、特許文献1、及び特許文献2に開示されてあるエアゾール殺虫剤では、12時間程度しか効果が持続しない。また、特許文献1、及び特許文献2は、薬剤の粒子径を調整することにより、気中に積極的に薬剤を残存させるものであるが、薬剤粒子が気中に残存しているということは、処理空間内にいる人やペットが当該薬剤を吸入する環境に長時間置かれるということである。そのため、人体やペットへの影響という点においても、好ましいエアゾール殺虫剤とは言い難い。
【0010】
特許文献3の駆除方法においても、安定した効果を長時間に亘って維持できるかどうか不明である。空気中に噴射された薬剤粒子は、(A)空気中に浮遊し残存する、(B)床や壁に付着する、(C)(B)の後に再び揮散する、もしくは(D)光等により分解し消失する、の何れかの挙動を辿ると考えられる。これらに照らしてみた場合、特許文献3の駆除方法は、(C)のタイプに該当する。しかしながら、室内の構造物等に付着した薬剤が再び空気中に揮散する場合、温度や風量等の影響を受け易いため、特許文献3の駆除方法では、飛翔害虫の駆除に対して安定した効果を得られるとは限らない。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、飛翔害虫の中でも、特に、蚊類に対して優れた防除効果を長時間に亘って発揮することができ、しかも、人体やペットへの影響を低減した蚊類防除用エアゾール、及び当該蚊類防除用エアゾールを用いた蚊類防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明に係る蚊類防除用エアゾールの特徴構成は、
害虫防除成分と有機溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器と、
前記定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、
を備えた蚊類防除用エアゾールであって、
前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1〜0.4mLとなり、且つ噴射距離20cmにおける噴射力が25℃において0.3〜10.0g・fとなるように調整され、
前記エアゾール原液は、前記噴射口から、処理空間内の露出部に付着する付着性粒子、及び処理空間に浮遊する浮遊性粒子として噴射されることにある。
【0013】
「発明が解決しようとする課題」にて述べたとおり、従来のエアゾール殺虫剤は、処理空間に積極的に薬剤粒子を拡散させ、気中に残存する時間をできるだけ長期化させる方向で開発が進められていた。しかし、処理空間に浮遊している薬剤粒子の滞留時間が長時間になると、処理空間内に人やペットが立ち入った場合、薬剤粒子を吸入する可能性があるため、健康への影響が懸念される。
ところで、本発明者らの研究により、蚊を代表とする蚊類(以下、本発明においては、単に「蚊類」と称する。)は飛んでいる時間よりも、壁面等に止まっている時間の方が長いことが判明した。即ち、屋内に侵入してきた蚊類の大半は壁面等に止まり、人を吸血する機会を窺っているということになる。このため、従来のように、処理空間内の薬剤粒子が浮遊する時間を長期化させる手法は、飛翔中の蚊類の防除に対しては一定の効果を奏することができるが、壁面等に止まっている蚊類に対しては薬剤の効果を充分に及ぼすことができず、結果的に、蚊類の防除が不完全となり得る。本発明者らは、上記の研究結果から、壁面等に止まっている蚊類に対する防除の効果を高めることが、人やペットが薬剤を吸入することを抑制しつつ、屋内に侵入してくる蚊類全体の防除の向上に繋がると考えた。
そこで、本発明に係る蚊類防除用エアゾールでは、処理空間に噴射されたエアゾール原液が、処理空間内の露出部(例えば、処理空間内に存在する床面や壁面、家具等の構造物の表面等)に付着する付着性粒子、及び処理空間に浮遊する浮遊性粒子の2種類の粒子として形成されるものとした。つまり、処理空間に噴射された2種類のエアゾール原液の粒子に役割分担させることで、処理空間の最適な箇所で防虫効果が効率よく発揮できるようにした。このため、露出部に止まっている蚊類、及び処理空間を飛んでいる蚊類の両方の蚊類を効果的にノックダウン又は死滅させることができ、蚊類全体の防除効果を向上させることができる。また、処理空間に噴射されたエアゾール原液は、付着性粒子、及び浮遊性粒子の何れかに形成されている。これにより、浮遊性粒子が処理空間全体に満遍なく拡散しても、エアゾール原液の全てが浮遊性粒子となって処理空間に拡散されるわけではないため、処理空間中のエアゾール原液の濃度は付着性粒子の分だけ低減される。そのため、処理空間内にいる人やペットがエアゾール原液の粒子を吸入する量は極微量となり、人体やペットにとってより安全な蚊類防除用エアゾールとなる。
また、本発明に係る蚊類防除用エアゾールは、噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1〜0.4mLとなり、且つ噴射距離20cmにおける噴射力が25℃において0.3〜10.0g・fとなるように調整されている。このように噴射容量、及び噴射力を調整することで、噴射されたエアゾール原液を付着性粒子、及び浮遊性粒子として形成することができ、蚊類に対し優れた防除効果を奏することができる。
【0014】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記付着性粒子は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が20〜80μmであることが好ましい。
【0015】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、付着性粒子を上記の最適な範囲に調整することによって、露出部に止まっている蚊類を付着性粒子の害虫防除成分によって確実にノックダウン又は死滅させることができる。
【0016】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記浮遊性粒子は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が20μm未満であることが好ましい。
【0017】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、浮遊性粒子を上記の最適な範囲に調整することによって、処理空間を飛んでいる蚊類を浮遊性粒子の害虫防除成分によってノックダウン又は死滅させることができる。
【0018】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記耐圧容器に封入される前記エアゾール原液(a)と前記噴射剤(b)との容量比率(a/b)は、10/90〜50/50であることが好ましい。
【0019】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、エアゾール原液(a)と噴射剤(b)との容量比率(a/b)が上記の範囲である場合、噴射されるエアゾール原液より形成される付着性粒子と浮遊性粒子とのバランスが最適となる。これにより、付着性粒子は確実に処理空間内の露出部に到達することができ、また、浮遊性粒子は人体やペットに影響を与えない程度の量で処理空間を浮遊することができる。このように、付着性粒子、及び浮遊性粒子が夫々最適な状態で存在し、夫々の役割を分担して害虫防除成分の効果を最大限発揮することができる。
【0020】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の2時間経過後の気中残存率は、0.05〜5%であることが好ましい。
【0021】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、害虫防除成分の2時間経過後の気中(処理空間内)残存率は、0.05〜5%であるように調整されている。このような範囲であれば、浮遊性粒子の害虫防除成分を処理空間に効果的に揮散させることができる。また、2時間経過以降も浮遊性粒子が気中に残存することとなるが、低い濃度を維持した状態で浮遊性粒子は存在する。そのため、処理空間を飛んでいる蚊類をノックダウン又は死滅させる効果を有しながら、人体やペットに影響を及ぼす虞が格段に低減され、安全に使用することができる。
【0022】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記有機溶剤は、高級脂肪酸エステル、及びアルコール類からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、有機溶剤は、高級脂肪酸エステル、及びアルコール類からなる群から選択される少なくとも1種である。このような有機溶剤を使用することで、各成分の効果を効率良く発揮させることができる。また、エアゾール原液を噴射した場合、付着性粒子、及び浮遊性粒子をバランスよく形成することができ、蚊類に対する防除効果が安定したものとなる。
【0024】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記害虫防除成分は、30℃における蒸気圧が2×10
−4〜1×10
−2mmHgであることが好ましい。
【0025】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、害虫防除成分は、30℃における蒸気圧が2×10
−4〜1×10
−2mmHgである成分を採用している。このような害虫防除成分であれば、エアゾール原液を噴射した場合、付着性粒子、及び浮遊性粒子をバランスよく形成することができ、夫々が最適な状態で存在し、夫々の役割を分担して害虫防除成分の効果を奏することができる。また、害虫防除成分以外の各成分や、上記の有機溶剤、及び噴射剤と調製した場合、効果的な蚊類防除用エアゾールを実現することができる。
【0026】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の効果持続時間は、33m
3以下の空間に対して20時間以上であることが好ましい。
【0027】
特許文献1、及び特許文献2に開示されているエアゾール殺虫剤による蚊類の駆除方法において、薬剤の持続時間は12時間とされていた。しかし、本発明に係る蚊類防除用エアゾールであれば、エアゾール原液を処理空間にたった1回噴射するだけで、33m
3以下の空間に対して20時間以上、即ち、略1日中害虫防除効果を持続させることができる。
【0028】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記噴射口は、0.2〜1.0mmの噴口径を有することが好ましい。
【0029】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、上記の最適な範囲に噴口径が設定されているため、エアゾール原液の粒子径、及び噴射力を適切に調整することができ、付着性粒子、及び浮遊性粒子をバランスよく形成することができる。その結果、夫々の粒子が処理空間において最適な状態で存在し、夫々の役割を分担して害虫防除成分の効果を奏することができる。
【0030】
上記課題を解決するための本発明に係る蚊類防除方法の特徴構成は、
前記の何れか一つに記載の蚊類防除用エアゾールを用いて前記エアゾール原液を処理空間に噴射して蚊類をノックダウン又は死滅させることにある。
【0031】
本構成の蚊類防除方法は、本発明の蚊類防除用エアゾールを用いて実行されるため、上述した蚊類防除用エアゾールと同様の優れた蚊類防除効果を奏することができる。
【0032】
本発明に係る蚊類防除方法において、
前記エアゾール原液の処理空間への噴射を24時間毎に1回実行することが好ましい。
【0033】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールは、上記のとおり、害虫防除成分の持続時間が20時間以上であり、略1日である。このため、この蚊類防除用エアゾールを用いて、エアゾール原液の処理空間への噴射を24時間毎に1回実行することができる。このような蚊類防除方法を実行すれば、毎日1回決まった時刻に噴射するだけで生活時間帯に亘って害虫防除効果を持続させることができる。