特許第6758979号(P6758979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6758979-ポリ乳酸樹脂組成物 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6758979
(24)【登録日】2020年9月4日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】ポリ乳酸樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20200910BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20200910BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20200910BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20200910BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20200910BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20200910BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20200910BHJP
【FI】
   C08L67/04ZBP
   C08K3/36
   C08K5/20
   C08K5/10
   C08L33/14
   C08L63/00 A
   !C08L101/16
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-145149(P2016-145149)
(22)【出願日】2016年7月25日
(65)【公開番号】特開2017-36434(P2017-36434A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2019年6月4日
(31)【優先権主張番号】特願2015-156111(P2015-156111)
(32)【優先日】2015年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 健一
(72)【発明者】
【氏名】岸本 洋昭
(72)【発明者】
【氏名】大島 貴宏
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−044984(JP,A)
【文献】 特開2008−156616(JP,A)
【文献】 特開2007−130894(JP,A)
【文献】 特開2005−146200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/04
C08L 33/14
C08L 63/00
C08K 3/36
C08K 5/10−5/12
C08K 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリ乳酸樹脂、(B)離型剤、及び(C)エポキシ基を有するアクリル/スチレン共重合体を含有してなるポリ乳酸樹脂組成物であって、前記(B)離型剤の含有量が(A)ポリ乳酸樹脂100質量部に対して0.01質量部以上0.7質量部以下であり、前記(C)エポキシ基を有するアクリル/スチレン共重合体の含有量が(A)ポリ乳酸樹脂100質量部に対して0.1質量部以上0.9質量部以下である、ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項2】
(B)離型剤が、シリカ、脂肪酸アルキレンビスアミド化合物、及び脂肪族アルコールと脂肪酸とのエステル化合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上である、請求項1記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
脂肪酸アルキレンビスアミド化合物が、下記の一般式(1)で表される化合物である、請求項記載のポリ乳酸樹脂組成物。
−CONHRNHCO−R (1)
(式中、Rは炭素数1以上10以下のアルキレン基を示し、R及びRは炭素数5以上21以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、同一でも異なっていても良い)
【請求項4】
エステル化合物が、炭素数8以上22以下の脂肪族アルコールと炭素数8以上22以下の脂肪酸とのエステル化合物である、請求項記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、(D)可塑剤を含有してなる、請求項1〜いずれか記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、(E)有機結晶核剤を含有してなる、請求項1〜いずれか記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜いずれか記載のポリ乳酸樹脂組成物を含有してなる、相対結晶化度が80%以上のシート状成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂組成物に関する。更に詳しくは、日用品、化粧品、家電製品等のクリアケースやトレイ等の成形体に好適に使用し得るポリ乳酸樹脂組成物、及び該ポリ乳酸樹脂組成物からなるシート状成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、身の回りには様々なプラスチック製品が存在し、人々の生活に欠かせないものとなっている。その使用量が年々増加する一方で、プラスチックごみの量も増えている。プラスチックは、そのほとんどが化石燃料を原料に作られており、プラスチックごみを焼却処理することで大気中の二酸化炭素量を増加させてしまい、地球温暖化に影響を及ぼしているとされている。
【0003】
地球温暖化への影響を低減させる取り組みとして、植物由来の樹脂が注目されており、中でも生分解性を有するポリ乳酸樹脂が盛んに研究、開発されている。
【0004】
ポリ乳酸樹脂は、原料となるL−乳酸がトウモロコシ、芋等から抽出した糖分を用いて発酵法により生産されるため安価であること、原料が植物由来であるために二酸化炭素排出量が極めて少ないこと、また樹脂の特性として剛性が強く透明性が高いこと等の特徴により、現在その利用が期待されている。
【0005】
特許文献1には、シート成形時に用いるTダイ押出機の出口付近での樹脂溶融物の粒状凝固物(目ヤニ)の発生を抑制し、かつ、加熱ロールからの剥離性に優れるポリ乳酸系樹脂組成物として、ポリ乳酸樹脂、可塑剤、有機結晶核剤、及びエポキシ基を有するアクリル/スチレン共重合体を含有するポリ乳酸系樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−44984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のポリ乳酸樹脂組成物では、シートを成形する際、生産性を向上するため、複数の加熱ロールに順次接触させて段階的に結晶化させようとすると、第1のロールでのシートの温度が高いため、シートの巻き込みが発生しやすく、さらなる剥離性が必要であることが分かった。
【0008】
本発明は、シート成形時に接触させる加熱ロールからの剥離性に優れ、かつ、得られるシートの透明性に優れるポリ乳酸樹脂組成物、及び該ポリ乳酸樹脂組成物からなるシート状成形体に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、加熱ロールからの剥離性を向上させる方法として、離型剤とエポキシ基を有するアクリル/スチレン共重合体を併用することで、単独系では達成できない高い剥離性を発現することを見出した。
【0010】
即ち、本発明は、〔1〕〜〔2〕に関する。
〔1〕 (A)ポリ乳酸樹脂、(B)離型剤、及び(C)エポキシ基を有するアクリル/スチレン共重合体を含有してなるポリ乳酸樹脂組成物であって、前記(C)エポキシ基を有するアクリル/スチレン共重合体の含有量が(A)ポリ乳酸樹脂100質量部に対して0.1質量部以上0.9質量部以下である、ポリ乳酸樹脂組成物。
〔2〕 前記〔1〕記載のポリ乳酸樹脂組成物を含有してなる、相対結晶化度が80%以上のシート状成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、シート成形において、加熱ロールからの剥離性に優れることから、生産性や作業性に優れるという優れた効果を奏する。また、該ポリ乳酸樹脂組成物を成形したシート状成形体は、透明性に優れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、シート状成形体の調製時における剥離性を評価する際に用いたロールの基準を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
従来、樹脂組成物の剥離性を向上させる目的で、離型剤が用いられる。一方、ポリ乳酸樹脂は、透明性が高いという特徴から各種用途への適用が期待されるが、剥離性を向上しようと離型剤の含有量を増加させると透明性が著しく悪化することが分かった。そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、離型剤に特定量のエポキシ基を有するアクリル/スチレン共重合体を併用することで、剥離性を向上しながらも透明性も維持できることが分かった。このような効果が得られる理由としては、離型剤がシートの表面に凹凸を形成し、ロールからの剥離性を向上することに加え、エポキシ基を有するアクリル/スチレン共重合体が、エポキシ基がポリ乳酸樹脂の末端構造と反応することで、アクリル/スチレン共重合部分がポリ乳酸樹脂と良好な架橋構造を形成し、剥離時のシート弾性率を向上し、離型剤の剥離効果がより効果的に発揮されるからであると推定される。ただし、これらの推測は、本発明を限定するものではない。
【0014】
〔ポリ乳酸樹脂組成物〕
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、(A)ポリ乳酸樹脂、(B)離型剤、及び(C)エポキシ基を有するアクリル/スチレン共重合体を含有し、該(C)成分の含有量が特定量であることに特徴を有する。
【0015】
[(A)ポリ乳酸樹脂]
ポリ乳酸樹脂としては、市販されているポリ乳酸樹脂、例えば、Nature Works社製:Nature Works PLA/NW3001D、NW4032Dや、トヨタ自動車社製:エコプラスチックU'z S−09、S−12、S−17等の他、乳酸やラクチドから合成したポリ乳酸樹脂が挙げられる。ポリ乳酸樹脂組成物の強度や透明性の観点から、光学純度90%以上のポリ乳酸樹脂が好ましく、例えば、比較的分子量が高く、また光学純度の高いNature Works社製ポリ乳酸樹脂(NW4032D等)が好ましい。
【0016】
また、本発明において、ポリ乳酸樹脂として、ポリ乳酸樹脂組成物の強度や透明性の観点から、異なる異性体を主成分とする乳酸成分を用いて得られた2種類のポリ乳酸からなるステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を用いてもよい。
【0017】
また、本発明におけるポリ乳酸樹脂は、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂やポリプロピレン等の非生分解性樹脂がポリ乳酸樹脂とのブレンドによるポリマーアロイとして含有されていてもよい。なお、本明細書において「生分解性」とは、自然界において微生物によって低分子化合物に分解され得る性質のことであり、具体的には、JIS K6953(ISO14855)「制御された好気的コンポスト条件の好気的かつ究極的な生分解度及び崩壊度試験」に基づいた生分解性のことを意味する。
【0018】
ポリ乳酸樹脂の含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物中、剥離性、透明性、生分解性の観点から、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。また、成形性の観点から、98質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましい。
【0019】
[(B)離型剤]
本発明において用いられる離型剤としては、公知のものであればよいが、ポリ乳酸樹脂組成物中での分散性の観点から、以下の(i)、(ii)、及び(iii)からなる群から選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。
(i) シリカ
(ii) 脂肪酸アルキレンビスアミド化合物
(iii) 脂肪族アルコールと脂肪酸とのエステル化合物
【0020】
(i)のシリカとしては、公知のものを用いることができる。なお、本明細書において、シリカとは、二酸化ケイ素を主成分として含む無機粒子のことであり、シリカを好ましくは99質量%以上、より好ましくは99.5質量%以上含む無機材料からなる粒子のことである。
【0021】
シリカの平均粒子径としては、ポリ乳酸樹脂組成物中の分散性の観点から、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1.0μm以上が更に好ましく、1.5μm以上がより更に好ましい。また、透明性の観点から、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、30μm以下が更に好ましく、10μm以下がより更に好ましく、3.0μm以下がより更に好ましい。なお、シリカの形状は特に限定なく、繊維状、板状、粒状、粉末状等が例示される。本明細書において、シリカの平均粒子径は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0022】
また、本発明で用いられるシリカは、良好に分散させる観点から、公知技術に従って表面処理が行われたものであってもよい。
【0023】
(ii)の脂肪酸アルキレンビスアミド化合物としては、例えば、下記の一般式(1)で表される化合物を用いることができる。
−CONHRNHCO−R (1)
(式中、Rは炭素数1以上10以下のアルキレン基を示し、R及びRは炭素数5以上21以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、同一でも異なっていても良い)
【0024】
式(1)におけるRは炭素数1以上10以下のアルキレン基を示し、直鎖でも分岐鎖であってもよい。アルキレン基の炭素数は、剥離性の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは6以下である。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。これらのなかでも、ポリ乳酸樹脂組成物の剥離性向上の観点から、エチレン基、ヘキサメチレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0025】
式(1)におけるR及びRは炭素数5以上21以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、同一でも異なっていてもよい。また、前記アルキル基は置換基を持たないことが好ましい。アルキル基の炭素数は、剥離性の観点から、好ましくは5以上、より好ましくは9以上、更に好ましくは14以上であり、好ましくは21以下、より好ましくは19以下、更に好ましくは17以下である。具体的には、ヘプチル基、ノニル基、ウンデシル基、トリデシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ヘンイコシル基等が例示される。これらのなかでも、ポリ乳酸樹脂組成物の剥離性向上の観点から、ウンデシル基、トリデシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基が好ましく、ペンタデシル基、ヘプタデシル基がより好ましい。
【0026】
かかる式(1)で表される化合物の具体例としては、総炭素数6以上22以下の飽和脂肪酸と、炭素数1以上10以下のアルキレン基を有するジアミンとのジアミドが例示される。具体的には、脂肪酸エチレンビスアミド、脂肪酸プロピレンビスアミド、脂肪酸ブチレンビスアミド、脂肪酸ヘキサメチレンビスアミドが好ましく、パルミチン酸エチレンビスアミド、ステアリン酸エチレンビスアミドがより好ましい。これらの化合物は、市販品であっても公知の製造方法に従って合成したものを用いてもよい。
【0027】
(iii)の脂肪族アルコールと脂肪酸とのエステル化合物としては、ポリ乳酸樹脂組成物の剥離性向上の観点から、好ましくは8以上、より好ましくは12以上、更に好ましくは16以上であり、好ましくは22以下、より好ましくは20以下の炭素数を有する脂肪族アルコールと、好ましくは8以上、より好ましくは12以上、更に好ましくは16以上であり、好ましくは22以下、より好ましくは20以下の炭素数を有する脂肪酸とのエステル化合物を用いることができる。例えば、炭素数8以上22以下の脂肪族アルコールと炭素数8以上22以下の脂肪酸とのエステルが例示される。
【0028】
炭素数8以上22以下の脂肪族アルコールとしては、炭素数8以上22以下の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールが例示され、具体的には、2−エチルヘキサノール、n−オクタノール、イソノニルアルコール、デカノール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、イソトリデカノール、ヘキシルデカノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、オクチルドデカノールなどが挙げられる。
【0029】
炭素数8以上22以下の脂肪酸としては、炭素数8以上22以下の飽和又は不飽和の脂肪酸が例示され、具体的には、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリル酸、セチル酸、トリデカン酸、ヘキサデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が挙げられる。
【0030】
エステル化合物の具体例としては、炭素数8以上22以下の脂肪族アルコールと、炭素数8以上22以下の脂肪酸とのモノエステルが例示される。これらの化合物は、市販品であっても公知の製造方法に従って合成したものを用いてもよい。
【0031】
これら(i)、(ii)、及び(iii)の離型剤は、なかでも、(i)及び(ii)が好ましく、(i)がより好ましい。
【0032】
また、これら(i)、(ii)、及び(iii)の離型剤は、単独で又は組み合わせて用いることができる。組み合わせる場合は、同じ群内でも異なる群内のものでもよく、その量比は特に制限されない。また、本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲内で、前記(i)、(ii)、及び(iii)以外の他の離型剤を用いることができる。本発明で用いられる全離型剤における前記(i)、(ii)、及び(iii)の合計含有量は、剥離性と透明性の観点から、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましく、100質量%が更に好ましい。
【0033】
離型剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、剥離性の観点から、0.01質量部以上が好ましく、0.03質量部以上がより好ましく、0.07質量部以上が更に好ましい。また、透明性の観点から、0.7質量部以下が好ましく、0.5質量部以下がより好ましく、0.45質量部以下が更に好ましく、0.3質量部以下がより更に好ましい。
【0034】
また、ポリ乳酸樹脂組成物中の離型剤の含有量は、剥離性の観点から、0.02質量%以上が好ましく、0.04質量%以上がより好ましく、0.08質量%以上が更に好ましく、透明性の観点から、0.8質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下が更に好ましい。
【0035】
[(C)エポキシ基を有するアクリル/スチレン共重合体]
本発明では、剥離性向上の観点、得られるシートの透明性向上の観点から、エポキシ基を有するアクリル/スチレン共重合体を用いる。以降、エポキシ基を有するアクリル/スチレン共重合体のことを、単に、共重合体と記載することもある。かかる共重合体としては、具体的には、BASF社製「JONCRYL ADR4370S」(グリシジル基含有アクリル/スチレン系共重合体、重量平均分子量6700、エポキシ当量285g/mol)、「JONCRYL ADR4368CS」(グリシジル基含有アクリル/スチレン系共重合体、重量平均分子量6700、エポキシ当量285g/mol)、「JONCRYL ADR4368F」(グリシジル基含有アクリル/スチレン系共重合体、重量平均分子量6700、エポキシ当量285g/mol)、「JONCRYL ADR4300S」(グリシジル基含有アクリル/スチレン系共重合体、重量平均分子量5500、エポキシ当量445g/mol)、東亜合成社製「ARUFON UG4035」(グリシジル基含有アクリル/スチレン系共重合体、重量平均分子量11000、エポキシ当量556g/mol)、「ARUFON UG4040」(グリシジル基含有アクリル/スチレン系共重合体、重量平均分子量11000、エポキシ当量480g/mol)、「ARUFON UG4070」(グリシジル基含有アクリル/スチレン系共重合体、重量平均分子量9700、エポキシ当量714g/mol)が挙げられる。
【0036】
エポキシ基を有するアクリル/スチレン共重合体の重量平均分子量は、剥離性向上の観点から、4,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、6,000以上が更に好ましく、得られるシートの透明性向上の観点から、15,000以下が好ましく、12,000以下がより好ましく、8,000以下が更に好ましい。なお、本明細書において、エポキシ基を有するアクリル/スチレン共重合体の重量平均分子量は、公知の測定方法、例えば、GPC法に従って測定することができる。
【0037】
エポキシ基を有するアクリル/スチレン共重合体のエポキシ当量は、剥離性向上の観点から、50g/mol以上が好ましく、100g/mol以上がより好ましく、200g/mol以上が更に好ましく、剥離性向上及びシートの透明性向上の観点から、1,000g/mol以下が好ましく、800g/mol以下がより好ましく、600g/mol以下が更に好ましい。なお、本明細書において、エポキシ基を有するアクリル/スチレン共重合体のエポキシ当量は、公知の測定方法、例えば、電位差滴定法に従って測定することができる。
【0038】
該共重合体の含有量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上0.9質量部以下であるが、剥離性向上の観点から、0.15質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、透明性向上の観点から、0.85質量部以下が好ましく、0.5質量部以下がより好ましい。
【0039】
また、ポリ乳酸樹脂と前記共重合体の含有質量比(ポリ乳酸樹脂/共重合体)は、剥離性向上及びシートの透明性向上の観点から、80以上が好ましく、100以上がより好ましく、110以上が更に好ましく、140以上が更に好ましく、150以上が更に好ましく、165以上が更に好ましく、180以上が更に好ましく、また、1500以下が好ましく、1000以下がより好ましく、670以下が更に好ましく、500以下が更に好ましく、400以下が更に好ましく、300以下が更に好ましく、250以下が更に好ましい。
【0040】
離型剤と前記共重合体の含有質量比(離型剤/共重合体)は、剥離性向上及びシートの透明性向上の観点から、0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、0.2以上が更に好ましく、また、2以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.0以下が更に好ましい。
【0041】
[(D)可塑剤]
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、剥離性を向上する観点、シートの透明性及び結晶化度を向上させる観点から、前記成分以外に、更に、可塑剤を用いることができる。
【0042】
可塑剤としては、分子中に好ましくは2個以上、より好ましくは2個以上5個以下、更に好ましくは2個以上3個以下のエステル基を有するエステル化合物であって、該エステル化合物を構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2又は3のアルキレンオキサイドを平均で、好ましくは0.5モル以上8モル以下、より好ましくは1モル以上6モル以下、更に好ましくは1モル以上3モル以下付加したアルコールであるエステル化合物を含むことが好ましい。なかでも、分子中に好ましくは2個以上、より好ましくは2個以上5個以下、更に好ましくは2個以上3個以下のエステル基を有する多価アルコールエステル又は多価カルボン酸エステルであって、該エステル化合物を構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2又は3のアルキレンオキサイドを平均で、好ましくは0.5モル以上8モル以下、より好ましくは1モル以上6モル以下、更に好ましくは1モル以上3モル以下付加したアルコールであるエステル化合物を含むことがより好ましい。
【0043】
具体的には、例えば、特開2008−174718号公報及び特開2008−115372号公報に記載の可塑剤が挙げられる。なかでも、酢酸とグリセリンのエチレンオキサイド平均3モル以上6モル以下付加物(水酸基1個あたりエチレンオキサイドを1モル以上2モル以下付加)とのエステル、酢酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が4以上6以下のポリエチレングリコールとのエステル、コハク酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が2以上6以下のポリエチレングリコールモノメチルエーテル(水酸基1個あたりエチレンオキサイドを2モル以上6モル以下付加)とのエステル、アジピン酸とジエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とジエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステルが好適に用いられる。
【0044】
また、本発明では、剥離性を向上する観点、シートの透明性及び結晶化度を向上させる観点から、下記の一般式(2)で表されるエステル化合物(オリゴエステルともいう)も好適に用いられる。
O−CO−R−CO−〔(OR)O−CO−R−CO−〕OR (2)
(式中、Rは炭素数が1以上4以下のアルキル基、Rは炭素数が2以上4以下のアルキレン基、Rは炭素数が2又は3のアルキレン基であり、mは1以上6以下の数、nは1以上12以下の数を示し、但し、全てのRは同一でも異なっていてもよく、全てのRは同一でも異なっていてもよい)
【0045】
式(2)におけるRは、炭素数が好ましくは1以上4以下、より好ましくは1又は2のアルキル基を示し、1分子中に2個存在して、分子の両末端に存在する。Rは炭素数が1以上4以下であれば、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられ、なかでも、ポリ乳酸樹脂との相溶性を向上させ可塑剤のブリードアウトを抑制する観点から、メチル基が好ましい。
【0046】
式(2)におけるRは、炭素数が2以上4以下のアルキレン基を示し、直鎖のアルキレン基が好適例として挙げられる。具体的には、エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基が挙げられ、なかでも、ポリ乳酸樹脂との相溶性を向上させ可塑剤のブリードアウトを抑制する観点から、エチレン基、1,3−プロピレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。但し、全てのRは同一でも異なっていてもよい。
【0047】
式(2)におけるRは、炭素数が2又は3のアルキレン基を示し、ORはオキシアルキレン基を示す。具体的には、エチレン基、1,2−プロピレン基、1,3−プロピレン基が挙げられる。但し、全てのRは同一でも異なっていてもよい。
【0048】
mはオキシアルキレン基の平均の繰り返し数を示し、1以上6以下の数である。mが大きくなると、式(2)で表されるエステル化合物のエーテル基価が上がり、酸化されやすくなり安定性が低下する傾向がある。ポリ乳酸樹脂との相溶性を向上させる観点から、1以上4以下の数が好ましく、1以上3以下の数がより好ましい。
【0049】
nは平均重合度を示し、1以上12以下の数である。ポリ乳酸樹脂との相溶性を向上させ可塑剤のブリードアウトを抑制する観点から、1以上4以下の数が好ましい。
【0050】
かかる構造のうちでも、透明性の観点から、コハク酸、グルタル酸、及びアジピン酸から選ばれる少なくとも1つの二塩基酸と、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、及び1,3−プロパンンジオールから選ばれる少なくとも1つの2価アルコールのオリゴエステル〔式(2)中、n=1〜3〕が好ましい。
【0051】
式(2)で表される化合物は、市販品であっても公知の製造方法に従って合成したものを用いてもよく、例えば特開2012−62467号公報に開示されているような方法に従って製造することができる。
【0052】
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲内で、前記以外の他の可塑剤を用いることができる。本発明で用いられる全可塑剤における前記エステル化合物の含有量は、剥離性と透明性の観点から、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、95質量%以上が更により好ましく、100質量%が更により好ましい。なお、本明細書において、前記エステル化合物の含有量とは、複数の化合物を用いている場合は合計含有量を意味する。
【0053】
可塑剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、剥離性及びシートの結晶化度を向上させる観点から、5質量部以上が好ましく、6質量部以上がより好ましく、8質量部以上が更に好ましく、シートの透明性向上の観点から、15質量部以下が好ましく、12質量部以下がより好ましく、10質量部以下が更に好ましい。
【0054】
[(E)有機結晶核剤]
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、プレートアウトを抑制する観点、剥離性向上の観点、シートの透明性及び結晶化度を向上させる観点から、前記成分以外に、更に、有機結晶核剤を用いることができる。
【0055】
有機結晶核剤としては、透明性の観点から、以下の(a)〜(d)からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機結晶核剤を用いることが好ましい。
(a)イソインドリノン骨格を有する化合物、ジケトピロロピロール骨格を有する化合物、ベンズイミダゾロン骨格を有する化合物、インジゴ骨格を有する化合物、フタロシアニン骨格を有する化合物、及びポルフィリン骨格を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機化合物〔有機結晶核剤(a)という〕
(b)カルボヒドラジド類、ウラシル類、及びN−置換尿素類からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機化合物〔有機結晶核剤(b)という〕
(c)芳香族スルホン酸ジアルキルの金属塩、リン酸エステルの金属塩、フェニルホスホン酸の金属塩、ロジン酸類の金属塩、芳香族カルボン酸アミド、及びロジン酸アミドからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機化合物〔有機結晶核剤(c)という〕
(d)分子中に水酸基とアミド基を有する化合物及びヒドロキシ脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機化合物〔有機結晶核剤(d)という〕
【0056】
これらの中では、透明性向上の観点から、有機結晶核剤(c)、有機結晶核剤(d)が好ましく、有機結晶核剤(d)がより好ましい。
【0057】
有機結晶核剤(c)としては、上記の観点から、置換基を有しても良いフェニル基とホスホン基(−PO(OH)2)を有するフェニルホスホン酸の金属塩が好ましく、フェニルホスホン酸の具体例としては、無置換のフェニルホスホン酸、メチルフェニルホスホン酸、エチルフェニルホスホン酸、プロピルフェニルホスホン酸、ブチルフェニルホスホン酸、ジメトキシカルボニルフェニルホスホン酸、ジエトキシカルボニルフェニルホスホン酸等が挙げられ、無置換のフェニルホスホン酸が好ましい。
【0058】
有機結晶核剤(d)の分子中に水酸基とアミド基を有する化合物としては、水酸基を有する脂肪族アミドが好ましく、具体例としては、12−ヒドロキシステアリン酸モノエタノールアミド等のヒドロキシ脂肪酸モノアミド、メチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド等のヒドロキシ脂肪酸ビスアミド等が挙げられる。
【0059】
有機結晶核剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、シートの透明性及び結晶化度を向上させる観点、剥離性向上の観点から、0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.2質量部以上が更に好ましく、0.3質量部以上が更に好ましく、シートの透明性向上及び有機結晶核剤のブリードアウト抑制の観点から、2.0質量部以下が好ましく、1.5質量部以下がより好ましく、1.0質量部以下が更に好ましく、0.5質量部以下が更に好ましい。
【0060】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、前記以外の他の成分として、加水分解抑制剤、滑剤、無機結晶核剤、充填剤(無機充填剤、有機充填剤)、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、衝撃改良剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。また同様に、本発明の効果を阻害しない範囲内で他の高分子材料や他の樹脂組成物を含有することも可能である。これらの使用量は公知技術に従って適宜設定することができる。
【0061】
ポリ乳酸樹脂組成物は、前記成分(A)〜(C)を含有するものであれば特に限定なく調製することができ、例えば、ポリ乳酸樹脂、離型剤、及びエポキシ基を有するアクリル/スチレン共重合体、さらに必要により、可塑剤、有機結晶核剤等を含む他の添加剤を含有する原料を、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いて溶融混練して調製することができる。原料は、予めヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等を用いて均一に混合した後に、溶融混練に供することも可能である。なお、ポリ乳酸樹脂組成物を調製する際にポリ乳酸樹脂の可塑性を促進させるため、超臨界ガスを存在させて溶融混合させてもよい。溶融混練後は、公知の方法に従って、溶融混練物を乾燥させてもよい。
【0062】
溶融混練温度は、分解抑制及び透明性の観点から、好ましくは170℃以上であり、好ましくは280℃以下、より好ましくは270℃以下、更に好ましくは260℃以下である。溶融混練時間は、溶融混練温度、混練機の種類によって一概には決定できないが、15秒間以上900秒間以下が好ましい。
【0063】
〔シート状成形体〕
かくして得られた本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、熱成形性等の二次加工性に優れることから、例えば、本発明のポリ乳酸樹脂組成物を加熱した押出機に充填し、溶融させた後にTダイから押出し、シート状成形体を調製することができる。またその際に、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は剥離性に優れることから、押出されたシート状成形体を直ぐに冷却ロール、次いで加熱ロールに接触させることでシートの結晶性を調整し、その後、裁断して結晶性のシート状成形体を得ることもできる。なお、押出機に充填する際に、本発明のポリ乳酸樹脂組成物を構成する原料、例えば、ポリ乳酸樹脂、離型剤、及びエポキシ基を有するアクリル/スチレン共重合体、さらに必要により、各種添加剤を充填して溶融混練後、押出成形してもよい。ここで、成形体の結晶性は、後述の実施例に記載の方法により求められる相対結晶化度に基づいて評価するものであり、相対結晶化度が80%以上であれば結晶性が高いことを意味する。よって、本発明はまた、本発明のポリ乳酸樹脂組成物を含有してなる、相対結晶化度が80%以上のシート状成形体を提供する。
【0064】
押出機の温度は、透明性向上の観点から、好ましくは170℃以上、より好ましくは175℃以上であり、好ましくは240℃以下、より好ましくは220℃以下、更に好ましくは210℃以下の温度範囲内で適宜設定することができる。なお、本発明において、押出機の温度とは押出機の二軸混練部のシリンダー温度を意味する。また、押出機における滞留時間は、シートの厚さや幅、巻き取り速度に依存するため一概には規定できないが、熱による劣化を避ける観点から、30秒から数分程度が好ましい。
【0065】
冷却ロールの温度は、透明性向上と冷却ロールからの剥離性向上の観点から、40℃未満が好ましく、30℃以下がより好ましい。
【0066】
冷却ロールに接する時間としては、冷却ロールの設定温度や冷却ロールの個数、押出速度、シート巻取速度によって異なるため必ずしも規定されるものではないが、例えば透明性向上と冷却ロールからの剥離性向上の観点から、好ましくは1秒以上、より好ましくは3秒以上、更に好ましくは5秒以上であり、好ましくは60秒以下、より好ましくは50秒以下、更に好ましくは40秒以下である。
【0067】
加熱ロールの表面温度は、透明性向上と結晶化度向上の観点から、65℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、75℃以上が更に好ましく、100℃以下が好ましい。加熱ロールは複数用いてもよく、その場合の個々の加熱ロール表面温度は、前記範囲内であれば同じであっても異なっていてもよい。また、複数の加熱ロールに接触させる場合、接触している時間の合計は、5秒以上が好ましく、10秒以上がより好ましく、15秒以上が更に好ましく、例えば、最初の加熱ロールに接触している時間は、3〜8秒程度である。なお、冷却ロール及び加熱ロールの表面温度とは、ロール表面の実測した温度を意味し、接触式温度計を用いて測定することができる。
【0068】
得られたシート状成形体の厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは100μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは700μm以下である。
【0069】
また、得られたシート状成形体の相対結晶化度は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。
【0070】
本発明のシート状成形体は、透明性が良好で、耐熱性、耐衝撃性に優れることから、各種用途、例えば、日用品、化粧品、家電製品などの包装材として、ブリスターパックやクリアケース、トレイ、お弁当の蓋等の食品容器、工業部品の輸送や保護に用いる工業用トレイ等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。なお、この実施例は、単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。例中の部は、特記しない限り質量部である。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「常温」とは25℃を示す。
【0072】
〔シリカの平均粒子径〕
シリカの平均粒子径とは、体積中位粒径(D50)のことを意味し、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「マスターサイザー2000」(マルバーン社製)を用いて、測定用セルにアイソパーG(エクソンモービル社製)を加え、散乱強度が5〜15%になる濃度で、粒子屈折率1.58(虚数部0.1)、分散媒屈折率1.42の条件にて、体積中位粒径(D50)を測定する。
【0073】
可塑剤の製造例1((MeEOSA、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル化合物)
攪拌機、温度計、脱水管を備えた3Lフラスコに、無水コハク酸500g、トリエチレングリコールモノメチルエーテル2463g、パラトルエンスルホン酸一水酸化物9.5gを仕込み、空間部に窒素(500mL/分)を吹き込みながら、減圧下(4〜10.7kPa)、110℃で15時間反応させた。反応液の酸価は1.6mgKOH/gであった。反応液に吸着剤キョーワード500SH(協和化学工業社製)27gを添加して80℃、2.7kPaで45分間攪拌してろ過した後、液温115〜200℃、圧力0.03kPaでトリエチレングリコールモノメチルエーテルを留去し、80℃に冷却後、残液を減圧ろ過して、ろ液として、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル〔(MeEOSA〕を得た。得られたジエステルは、重量平均分子量410、粘度(23℃)27mPa・s、酸価0.2mgKOH/g、鹸化価274mgKOH/g、水酸基価1mgKOH/g以下、色相APHA200であった。なお、本可塑剤は、水酸基1個当たりエチレンオキサイドを3モル付加したアルコールとのエステル化合物である。
【0074】
可塑剤の製造例2(MeSA−1,3PD、コハク酸ジメチルと1,3−プロパンジオ−ルとのオリゴエステル化合物)
4ツロフラスコ(攪拌機、温度計、滴下漏斗、蒸留管、窒素吹き込み管付き)に1,3−プロパンジオール86.8g(1.14モル)及び触媒として28重量%ナトリウムメトキシド含有メタノール溶液2.2g(ナトリウムメトキシド0.011モル)を入れ、常圧、120℃で0.5時間攪拌しながらメタノールを留去した。その後、コハク酸ジメチル500g(3.42モル)を2時間かけて滴下し、常圧、120℃で、反応により生じるメタノールを留去した。次に、75℃に冷却し、圧力を2時間かけて常圧から6.7kPaまで徐々に下げてメタノールを留去した後、常圧にもどし、さらに、触媒として28重量%ナトリウムメトキシド含有メタノール溶液2.0g(ナトリウムメトキシド0.010モル)を添加し、100℃で、圧力を3時間かけて常圧から2.9kPaまで徐々に下げてメタノールを留出させた。その後、80℃に冷却してキョーワード600S(協和化学工業社製)6gを添加し、圧力4.0kPa、80℃で1時間攪拌した後、減圧ろ過を行った。ろ液を圧力4.5kPaで、温度を1時間かけて114℃から194℃に上げて残存コハク酸ジメチルを留去し、常温黄色の液体として〔MeSA−1,3PD〕を得た。なお、触媒の使用量は、ジカルボン酸エステル100モルに対して0.61モルであった。なお、本可塑剤は、式(2)で表されるエステル化合物(Rはメチル基、Rはエチレン基、Rはプロピレン基であり、mは1、nは1.5)である。
【0075】
可塑剤の製造例3((MeEOSA、コハク酸とテトラエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル化合物)
攪拌機、温度計、脱水管を備えた3Lフラスコに、無水コハク酸500g、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル3124g、パラトルエンスルホン酸一水酸化物9.5gを仕込み、空間部に窒素(500mL/分)を吹き込みながら、減圧下(4〜10.7kPa)、130℃で20時間反応させた。反応液の酸価は1.6mgKOH/gであった。反応液に吸着剤キョーワード500SH 27gを添加して80℃、2.7kPaで45分間攪拌してろ過した後、液温150〜250℃、圧力0.003kPaでテトラエチレングリコールモノメチルエーテルを留去し、80℃に冷却後、残液を減圧ろ過して、ろ液として、コハク酸とテトラエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル〔(MeEOSA〕を得た。得られたジエステルは、重量平均分子量499、粘度(23℃)35mPa・s、酸価0.2mgKOH/g、鹸化価225mgKOH/g、水酸基価1mgKOH/g以下、色相APHA230であった。なお、本可塑剤は、水酸基1個当たりエチレンオキサイドを4モル付加したアルコールとのエステル化合物である。
【0076】
可塑剤の製造例4((MeEOSA、コハク酸とヘキサエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル化合物)
攪拌機、温度計、脱水管を備えた3Lフラスコに、無水コハク酸500g、ヘキサエチレングリコールモノメチルエーテル4235g、パラトルエンスルホン酸一水酸化物9.5gを仕込み、空間部に窒素(500mL/分)を吹き込みながら、減圧下(4〜10.7kPa)、150℃で40時間反応させた。反応液の酸価は1.6mgKOH/gであった。反応液に吸着剤キョーワード500SH 27gを添加して80℃、2.7kPaで45分間攪拌してろ過した後、液温200〜280℃、圧力0.003kPaでヘキサエチレングリコールモノメチルエーテルを留去し、80℃に冷却後、残液を減圧ろ過して、ろ液として、コハク酸とヘキサエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル〔(MeEOSA〕を得た。得られたジエステルは、重量平均分子量674、粘度(23℃)42mPa・s、酸価0.2mgKOH/g、鹸化価166mgKOH/g、水酸基価1mgKOH/g以下、色相APHA280であった。なお、本可塑剤は、水酸基1個当たりエチレンオキサイドを6モル付加したアルコールとのエステル化合物である。
【0077】
実施例1〜19及び比較例1〜6
ポリ乳酸樹脂組成物の調製
ポリ乳酸樹脂組成物として、表1〜3に示す組成物原料を、二軸押出機(Perker社製、HK25D、シリンダー直径25.2mm、回転数100rpm、吐出量8kg/h)を使用して、溶融混練温度180〜250℃で溶融混練し、ストランドカットを行い、ポリ乳酸樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットは、110℃減圧下で2時間乾燥し、水分量を500ppm以下とした。
【0078】
シート状成形体の調製
得られたペレット又は混合物をT−ダイ押出機(プラスチック工学研究所社製、300mmT−ダイ)を用いて、下記の条件にてシート成形を行い、シート状成形体を得た。
<押出成形条件>
二軸混練部のシリンダー温度:180℃
Tダイ(出口)温度:180℃
押出し速度:2.2kg/h (第1加熱ロール接触時間が6秒となる速度)
冷却ロール表面温度:25℃
加熱ロール表面温度:90℃
シート厚み:200μm
【0079】
なお、表1〜3における原料は以下の通りである。
<ポリ乳酸樹脂>
4032D:Ingeo(登録商標)Biopolymer4032D(ポリ−L−乳酸、光学純度98.5%、融点160℃、重量平均分子量180000、NatureWorksLLC製)
2500HP:Ingeo(登録商標)Biopolymer2500HP(ポリ−L−乳酸、光学純度99.5%、融点172℃、重量平均分子量180000、NatureWorksLLC製)
<エポキシ基含有アクリル/スチレン共重合体>
Joncryl ADR4368CS:グリシジル基含有アクリル/スチレン系共重合体、Mw6700、エポキシ当量285g/mol、BASF社製
ARUFON UG4040:グリシジル基含有アクリル/スチレン系共重合体、Mw11000、エポキシ当量480g/mol、東亞合成社製
<離型剤>
サイリシア530:シリカ、平均粒子径2.7μm、シリカ含有量99.8質量%、富士シリシア化学社製
サイリシア420:シリカ、平均粒子径3.1μm、シリカ含有量99.8質量%、富士シリシア化学社製
サイリシア250N:シリカ、平均粒子径5.0μm、シリカ含有量99.8質量%、富士シリシア化学社製
KAO WAX EB−G:ステアリン酸エチレンビスアミド、花王社製
LOXIOL G32:ステアリルステアレート、エメリーオレオケミカルズ社製
<可塑剤>
DAIFATTY−101:アジピン酸と、ジエチレングリコールモノメチルエーテル/ベンジルアルコール=1/1との混合ジエステル、大八化学工業社製
(MeEOSA:前記可塑剤の製造例1で製造したジエステル化合物
MeSA−1,3PD:前記可塑剤の製造例2で製造したオリゴエステル化合物
(MeEOSA:前記可塑剤の製造例3で製造したジエステル化合物
(MeEOSA:前記可塑剤の製造例4で製造したジエステル化合物
<有機結晶核剤>
スリパックスH:エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、日本化成社製
<加水分解抑制剤>
BioAdmide 100:ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、ラインケミー社製
<衝撃改良剤>
メタブレン S−2006:三菱レイヨン社製
メタブレン W−600A:三菱レイヨン社製
【0080】
シート成形時の成形性及びシート状成形体の特性を、下記の試験例1〜3の方法に従って評価した。結果を表1〜3に示す。
【0081】
試験例1<剥離性>
押出機から押出されたシート状成形体を直ぐに冷却ロールに接触させた後、図1の9の位置からシートを接着させ、加熱ロール(回転数2.2rpm、ロール直径200mm)から剥離した位置を観察し、図1に示す位置と対比することで以下の評価基準により剥離性を評価した。剥離位置が4、5、又は6であれば成形性は良好であり、5又は6であることが好ましい。
【0082】
<剥離性の評価基準>
剥離位置1:ロールからシートが剥がれにくく、成型できない
剥離位置2:ロールからシートが剥がれにくく、作業性が著しく悪い
剥離位置3:ロールからシートが剥がれにくく、作業性が悪い
剥離位置4:ロールからシートが剥がれにくいが、作業可能
剥離位置5:ロールからシートがやや剥がれにくいが、作業性良好
剥離位置6:ロールからシートが剥がれやすく、作業性は非常に良好
剥離位置7:シートのロールへの巻きつきが悪く、作業性がやや悪い
剥離位置8:シートのロールへの巻きつきが悪く、作業性が悪い
剥離位置9:シートがロールに巻きつかず、成型できない
【0083】
試験例2<透明性>
成形後のシートから5cm×5cm×0.4mmのサンプルを作成し、JIS−K7105規定の積分球式光線透過率測定装置(HM−150 村上色彩技術研究所)を用い、ヘイズ値を測定した。数値が小さいほど透明性が良好であることを示す。
【0084】
試験例3<結晶性>
成形後のシートから7.5mg精秤し、アルミパンに封入後、示差走査熱量分析装置「DSC8500」(PerkinElmer社製)を用い、1stRUNとして、昇温速度15℃/分で25℃から200℃まで昇温し、200℃で1分間保持した後、降温速度−500℃/分で200℃から25℃まで降温し、20℃で1分間保持した後、さらに2ndRUNとして、昇温速度15℃/分で25℃から200℃まで昇温した後、1stRUNに観測されるポリ乳酸樹脂の冷結晶化エンタルピーの絶対値ΔHcc、2ndRUNに観測される結晶融解エンタルピーΔHmを求め、得られた値から、下記式により相対結晶化度(%)を求め、結晶性を評価した。相対結晶化度が80%未満であれば非晶状態、80%以上であれば結晶状態である。
相対結晶化度(%)={(ΔHm−ΔHcc)/ΔHm}×100
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
表1〜3より、実施例のポリ乳酸樹脂組成物は、剥離性及び透明性のいずれにも優れるものであることが分かる。また、実施例1、6、9の対比より、離型剤の種類が異なるものであっても特定の共重合体を併用することで、剥離性と透明性の両立が可能となることが分かる。一方、離型剤を含有するけれども共重合体を含有しない比較例4は、剥離性が良好であっても透明性が著しく劣るものであり、離型剤のみでは剥離性と透明性の両立が図れないことが示唆された。また、比較例6は、離型剤と共重合体を併用する系であるが、共重合体の含有量が多いためにシート成型が困難であり、共重合体を特定量含有させることが重要であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、食品容器、日用品や家電製品の包装材料、工業用部品のトレイ等、様々な用途に好適に使用することができ、また、シート成型時に加熱ロールからの剥離性に優れることから、ひいては、生産性や作業性に優れるという優れた効果を奏する。
図1