特許第6758985号(P6758985)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6758985
(24)【登録日】2020年9月4日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】加熱膨張ガスケット
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20200910BHJP
   E04B 1/684 20060101ALI20200910BHJP
【FI】
   E04B1/94 K
   E04B1/684 E
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-151231(P2016-151231)
(22)【出願日】2016年8月1日
(65)【公開番号】特開2018-21309(P2018-21309A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】390018717
【氏名又は名称】旭化成建材株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000107930
【氏名又は名称】セイキ販売株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 賢
(72)【発明者】
【氏名】白岩 史年
(72)【発明者】
【氏名】黒田 大司
(72)【発明者】
【氏名】大山 雄士
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−152658(JP,A)
【文献】 特開2008−184896(JP,A)
【文献】 実開平04−031906(JP,U)
【文献】 特開平09−302330(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0034389(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
E04B 1/684
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂と加熱膨張材料とを含み、溝に挿入される長尺状の加熱膨張ガスケットであり、
前記ガスケット中に長手方向に略平行に、前記加熱膨張材料の膨張開始温度以下の温度では溶融しない糸が配置されており、
前記加熱膨張材料の膨張開始温度が、前記合成樹脂の軟化温度よりも高いこと、を特徴とする加熱膨張ガスケット。
【請求項2】
押出成形により作製される、請求項1に記載の加熱膨張ガスケット。
【請求項3】
前記加熱膨張材料が熱膨張性黒鉛である、請求項1または2に記載の加熱膨張ガスケット。
【請求項4】
前記糸が綿糸である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の加熱膨張ガスケット。
【請求項5】
前記糸が撚糸である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の加熱膨張ガスケット。
【請求項6】
長尺板状の胴部と、前記胴部から外方に突出して前記溝の溝壁に対して密着する突出部とを備える、請求項1〜5のいずれか一項に記載の加熱膨張ガスケット。
【請求項7】
前記溝は、建築物の外装パネル間の目地である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の加熱膨張ガスケット。
【請求項8】
前記合成樹脂が、ポリ塩化ビニル系樹脂である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の加熱膨張ガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁パネル同士の突き合わせによって形成される目地に用いられ、加熱された際に膨張して隙間を埋める加熱膨張ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
建築材料の分野においては、従来から耐火性が重要な性能の一つである。例えば、軽量気泡コンクリートを用いた屋根や外壁においては、パネル間の目地部が耐火性能の弱点となっており、これを補うために、加熱された時に膨張することにより、炎や高温の空気がパネル間から裏面に回るのを防ぐための加熱膨張ガスケットを、パネル間に施工することがある。
ポリ塩化ビニル系樹脂は、樹脂の中では比較的難燃性が高く、また成形性も優れている。これを利用して、加熱時に膨張する材料として熱膨張性黒鉛を加えたものを成形し、ガスケットとして用いると、縦向きに配されるガスケットの場合、加熱時に特に上方のガスケットが溶融して流れ落ちてしまい、炎や高温の空気を確実に遮断することができなかった。
【0003】
溶融を防ぐための手段としては、ポリ塩化ビニル系樹脂に、熱膨張性黒鉛、無機充填剤およびリン化合物を添加することが提案されている(特許文献1)。
しかしながら、特許文献1に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物では耐火性能は良好であるが、無機充填剤等の添加剤を多量に使用しなければならず、またポリリン酸アンモニウム等のリン化合物が成形時に金属(たとえば金型)に粘着するため成形が困難であり、生産性に劣るという問題があった。また、リン化合物は原料であるリン鉱石の枯渇の懸念があり、高価であるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−95887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、資源枯渇の懸念があり高価であるリン化合物を用いなくとも、加熱時にガスケットが溶融して流れ落ちてしまうといった問題点を解決することができる加熱膨張ガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、加熱膨張ガスケット中に、ガスケットの長さ方向に対し略平行な方向に、加熱膨張材料の膨張開始温度以下で溶融しない糸を配置することにより、加熱時に溶融した樹脂の流れ落ちを防ぐことができることに想到し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明はつぎのとおりである。
[1]
合成樹脂と加熱膨張材料とを含み、溝に挿入される長尺状の加熱膨張ガスケットであり、
前記ガスケット中に長手方向に略平行に、前記加熱膨張材料の膨張開始温度以下の温度では溶融しない糸が配置されており、
前記加熱膨張材料の膨張開始温度が、前記合成樹脂の軟化温度よりも高いこと、を特徴とする加熱膨張ガスケット。
[2]
押出成形により作製される、[1]に記載の加熱膨張ガスケット。
[3]
前記加熱膨張材料が熱膨張性黒鉛である、[1]または[2]に記載の加熱膨張ガスケット。
[4]
前記糸が綿糸である、[1]〜[3]のいずれかに記載の加熱膨張ガスケット。
[5]
前記糸が撚糸である、[1]〜[4]のいずれかに記載の加熱膨張ガスケット。
[6]
長尺板状の胴部と、前記胴部から外方に突出して前記溝の溝壁に対して密着する突出部とを備える、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の加熱膨張ガスケット。
[7]
前記溝は、建築物の外装パネル間の目地である、[1]〜[6]のいずれかに記載の加熱膨張ガスケット。
[8]
前記合成樹脂が、ポリ塩化ビニル系樹脂である、[1]〜[7]のいずれかに記載の加熱膨張ガスケット。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、加熱膨張ガスケット中に、ガスケットの長さ方向に対し略平行な方向に、加熱膨張材料の膨張開始温度以下の温度では溶融しない糸を配置することにより、加熱され溶融した樹脂が糸にからみつくことで、リン化合物を用いなくとも、溶融した樹脂の流れ落ちを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態としてのガスケットの横断面図である。
図2図1のガスケットを用いた断熱気密外壁構造を示す平断面図である。
図3】耐火試験で用いた試験体パネルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るガスケットの実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態としての加熱膨張ガスケット(ガスケット)の横断面図である。
本発明の加熱膨張ガスケット3は、合成樹脂と加熱膨張材料とを含み、溝に挿入される長尺状の加熱膨張ガスケットであり、
前記ガスケット中に長手方向に略平行に、加熱膨張材料の膨張開始温度以下の温度では溶融しない糸24が配置されており、加熱膨張材料の膨張開始温度が、合成樹脂の軟化温度よりも高いこと、を特徴とする。
本発明で言う軟化温度とは、JIS K7206(プラスチック−熱可塑性プラスチック−ビカット軟化温度(VST)試験方法)に規定されるA50法で測定された温度のことである。
【0010】
ガスケット3は、外方から溝に挿入され、溝を閉塞するものである。溝としては例えば、後述するような、建築物の外装パネル間の目地が挙げられる。図1に示すように、ガスケット3は、長尺板状の胴部21と、この胴部21から外方に突出して溝の溝壁に対して密着する突出部22と、を備える。
【0011】
胴部21は、長尺な矩形板状の外形を有し、厚み方向B(挿入方向Aと直交する方向)に位置する両面(両側面)が溝壁に対向するように挿入される。胴部21の挿入方向Aの先端面23は、溝の延在方向に沿うように延在する長尺な矩形平面である。
【0012】
突出部22は、胴部21と一体で形成されていると共に、胴部21の厚み方向Bに位置する両側面それぞれから外方に突出するように形成された複数のリップである。突出部22は、ガスケット3が溝に挿入される際に、溝の溝壁に対して接触しながら変形して溝壁に対して密着すると共に、胴部21の位置を溝壁間の中央位置に安定的に維持する。
【0013】
なお、本実施形態の突出部22は、胴部21の両側面からひれ状に突出するリップであるが、突出部22の形状はこれに限られるものではなく、溝壁に対して接触することにより変形し、溝壁に対して密着するような構成であればよい。また、本実施形態の突出部22は、変形しやすくするために胴部21よりもやわらかい材料を用い一体で形成されているが、例えば、胴部21と同材料で突出部を形成するようにしてもよい。
【0014】
このような加熱膨張ガスケット3は、合成樹脂と、加熱膨張材料とを含んで構成される。
本発明で用いる合成樹脂としては、熱可塑性樹脂であれば問題なく使用できる。例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリアクリロニトリルスチレン系樹脂、ABS系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ナイロン6あるいはナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンスルファイド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリスルフォン系樹脂等を用いることができる。中でも、ポリ塩化ビニル系樹脂は難燃性があり比較的安価であるので好ましい。これらの樹脂は、単独でも、あるいは二種以上の樹脂の共重合体としてもよい。上記ポリ塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル単独の重合体、または、塩化ビニルを50重量%以上含有する塩化ビニルとそれ以外の樹脂との共重合体を用いることができる。
【0015】
本発明で用いる加熱膨張材料としては、加熱膨張材料の膨張開始温度が合成樹脂の軟化温度よりも高い、公知のものをそのまま使用することができ、例えば、メラミン等のメラミン系化合物、尿素、チオ尿素、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N−ジニトロソ−N,N−ジメチルテレフタルアミド等のN−ニトロソ化合物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボンアミド等のアゾ化合物、ベンゼンスルホニルヒドラジド、p−トルエンスルホニルヒドラジド、p,p−オキシ−ビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等のスルホンヒドラジド化合物、塩素化パラフィン、あるいはこれらの誘導体、熱膨張性黒鉛、ヒル石、真珠岩、黒曜石等が挙げられる。これらは、単独で使用しても良いし、二種以上併用しても良い。これらの中でも、取り扱い・入手の容易性から、メラミン等のメラミン系化合物、熱膨張性黒鉛が好ましく、熱膨張性黒鉛がより好ましい。また、加熱時の膨張倍率は、1gあたり100cc以上であることが好ましい。
熱膨張性黒鉛を用いる場合は、20〜200メッシュのものを用いることが好ましい。20メッシュよりも荒いとゴム系樹脂への混合性が悪化する傾向にあり、200メッシュ
よりも細かいと膨張倍率が少なくなる傾向にある。
【0016】
加熱膨張材料は、加熱時に膨張することにより、本実施形態のガスケット3の難燃性能を高めるとともに、ガスケット3が膨張することでパネル間の隙間をふさぎ、耐火性能を高めることが可能となる。
加熱時に膨張する熱膨張成分は、合成樹脂100重量部に対し、0.1重量部から10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.5重量部から5重量部であり、さらに好ましくは1重量部から3重量部である。0.1重量部よりも少ないと、本実施形態のガスケット3を加熱した際に、膨張が不十分なために、パネル間の隙間をふさぐことができず耐火性能を高めることができない。また、10重量部よりも多いと、本実施形態の成形時の流動性が悪化し、成形が困難になる傾向にある。
【0017】
これらの成分の他、本実施形態の効果を低減させない範囲内で必要に応じて、例えば、充填剤、難燃剤、炭化剤等の各種添加剤を本実施形態の加熱膨張ガスケット3に配合することもできる。
充填剤としては公知のものが使用でき、例えば、二酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、フライアッシュ、シリカフューム、タルク、粘土、クレー、カオリン、シラス、マイカ、パーライト、珪藻土、ガラス繊維、ガラスフレーク、珪砂、珪石粉、ワラストナイト、砂、樹脂粉末(例えばフェノール樹脂粉、エポキシ樹脂粉など)等が挙げられる。これらは、本実施形態のガスケット3が加熱され膨張された際に、骨材として残り、保形性を高める働きを補う。
【0018】
難燃剤としては公知のものが使用でき、例えば、テトラブロモビスフェノールA、デカブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモシクロドデカン、トリブロモフェノール、エチレンビステトラブロモフタルイミド、臭素化ポリスチレン、エチレンビスペンタブロモジフェニール等の臭素系難燃剤、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、塩素化脂環化合物、含塩素リン酸エステル等の塩素系難燃剤、赤リン、三塩化リン、五塩化リン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、亜リン酸アルミニウム等の無機リン系難燃剤、リン酸エステル等の有機リン系難燃剤、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸塩化合物、モリブデン化合物、スズ化合物、金属酸化物等の無機系難燃剤が挙げられる。これらは、加熱膨張ガスケット3の難燃性を高める役割を担う。
炭化剤としては公知のものが使用でき、例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の多価アルコール、デンプン、カゼイン等が挙げられる。これらは、加熱時に脱水することで炭化物を形成し、保形性を高める働きを補う。
さらに、本実施形態の加熱膨張ガスケット3には、公知の界面活性剤、架橋剤、製泡剤、触媒、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、顔料等の各種添加物も適宜含まれていてもよい。
【0019】
本発明の加熱膨張ガスケット3は、以上の原料を用いた配合物を溶融、混練して成形することにより作製される。
成形は、公知の方法が使用でき、例えば、押出成形、プレス成形、カレンダー成形などが使用できる。
【0020】
そして本発明の加熱膨張ガスケット3では、ガスケット3中に長手方向に略平行に、加熱膨張材料の膨張開始温度以下の温度では溶融しない糸24が配置されている。
加熱膨張ガスケット3中に、ガスケット3の長さ方向に対し略平行な方向に、加熱膨張材料の膨張開始温度以下で溶融しない糸24を配置する方法としては、成形と同時に糸を配置してもよい。押出成形であれば成形の際に長さ方向に糸24を入れていくのが容易であり、より好ましい。成形時に糸24を入れる部分(穴や溝)を作り成形後にそこに糸24を配置する方法でもよいし、あるいは、成形後に糸を入れる部分(穴や溝)を作りそこに糸24を配置する方法でもよい。糸24の方向は、ガスケット3の長さ方向におおよそ平行であればよく、例えば、おおよそ平行であれば、らせん状、あるいはジグザグ状に配置されていてもよい。
【0021】
糸24の材料は、加熱膨張材料の膨張開始温度以下で溶融しない糸であれば公知の材料を用いることができる。例えば、綿糸、ポリエステル樹脂糸、ポリアミド樹脂糸、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維などを用いることができる。綿糸は安価で入手しやすく、また加熱が進むと炭化して残留し、膨張後の加熱膨張ガスケット3の形状保持の役割も担うので好ましい。
糸24の太さは、直径0.2〜4mmが好ましく、より好ましくは直径0.5mm〜3mmである。直径0.2mm未満では加熱時に切れやすく、樹脂の流れ落ちを防ぐ効果が得られにくい。また、直径が4mmを超えると、ガスケット3全体に対する樹脂の割合が相対的に減ってしまうため、加熱時の膨張が少なくなりパネル間の隙間(目地)をふさぐことができなくなる可能性がある。
糸24の密度は、加熱膨張ガスケット3の長さ方向の断面1平方cmあたり0.3〜15本が好ましく、より好ましくは1平方cmあたり0.5〜5本である。0.3本未満であると加熱膨張ガスケット3を加熱し樹脂が溶融した際に、樹脂が流れ落ちてしまうのを防げない可能性がある。また、15本を超えると樹脂の割合が相対的に減ってしまうため加熱時の膨張が少なくなりパネル間の隙間をふさぐことができなくなる可能性がある。
糸24は、加熱され溶融した樹脂をからみつきやすくするため、単糸よりも撚糸が好ましい。
本実施形態の加熱膨張ガスケット3を加熱すると、樹脂は溶融するが、糸は形状を保っているため、これに樹脂がからみついていることで、たとえ縦のパネル間目地であっても樹脂が流れ落ちることがない。その後、加熱膨張材料が膨張を開始してパネル間の隙間をふさぐ。
【0022】
以下、本発明のガスケット3を適用した、建物(住宅)の断熱気密外壁構造1について、図2を参照しながら説明する。
【0023】
図2は、断熱気密外壁構造1を示す平断面図である。なお、図2は、建物の周囲を覆う断熱気密外壁構造1のうち、1本の柱100の周囲のみ示した平断面図である。
【0024】
断熱気密外壁構造1は、柱部材としての柱100の屋外側で、建物の周囲を囲むように連接される複数の複合パネルユニット2と、複数の複合パネルユニット2間の溝としての目地12に挿入されるガスケット3と、柱100の屋内側に設けられた内装材としての石膏ボード(図示略)と、を備える。
【0025】
複合パネルユニット2aは、外装パネル層4aと、この外装パネル層4aの内面側に位置するボード状断熱材層5aと、ボード状断熱材層5aの内面に貼り付けられたボード面材7aと、ボード面材7aの内面に形成された充填断熱材層8aと、外装パネル層4a及びボード状断熱材層5aの間に位置する通気胴縁9aと、が一体化されたパネル材である。なお、ここでは、建物の屋内側を「内面側」、屋外側を「外面側」と記載する。また、鉛直方向を「上下方向」、内外方向と直交する水平方向を「左右方向」と記載する。更に、「左側」及び「右側」は、外面側から見た場合の方向を示すものとする。
【0026】
外装パネル層4aは、内面側及び外面側から見た場合に四角形状の外形を有する外装パネル10を、上下方向及び左右方向に複数連接することにより形成された板状の層である。より具体的に、外装パネル10は、上下面同士が隣接するように上下方向に連接されており、左右の側面同士が隣接するように左右方向に連接されている。
【0027】
なお、外装パネル層4aにおいて、上下方向において隣接する2つの外装パネル10間は、上側に位置する外装パネル10の下面と、下側に位置する外装パネル10の上面とが当接するように隣接している。また、外装パネル層4aにおいて、左右方向において隣接する2つの外装パネル10間は、左側に位置する外装パネル10の右面と、右側に位置する外装パネル10の左面とが当接するように隣接している。外装パネル層4aにおいて、外装パネル10の上下方向及び左右方向における継ぎ目部分には、湿式のシーリング材等の目地処理材が充填される。
【0028】
ここで示す外装パネル層4aでは、外装パネル10として、軽量発泡コンクリート製のパネル(ALCパネル)を使用しているが、外装パネル10の材質はこれに限られるものではなく、例えば、木質系や金属系のサイディング等を用いることもできる。また、外装パネル層を構成する外装パネル10の枚数についても、建物の階高、柱間距離、デザイン等に応じて適宜決定することができる。更に、外装パネル10自体の寸法や外装パネル層4a全体の寸法についても、建物のデザイン等に応じて適宜決定することが可能であり、例えば、隣り合う柱間を塞ぐ幅として、半間(0.9m)〜2間(3.6m)の幅を有するものとすることができる。
【0029】
ボード状断熱材層5aは、内面側及び外面側から見た場合に四角形状の外形を有するボード状断熱材11を、上下方向及び左右方向に複数連接することにより形成された板状の層である。より具体的に、ボード状断熱材11は、上下面同士が隣接するように上下方向に連接されており、左右の側面同士が隣接するように左右方向に連接されている。そのため、ボード状断熱材層5a全体で見た場合も、内面側及び外面側から見た場合には四角形状の外形を有している。
【0030】
なお、複数のボード状断熱材11の上下面同士及び左右の側面同士の継ぎ目部分は、気密性を確保するために、当接するように隣接させることが好ましい。但し、継ぎ目部分を、所定間隔(例えば5mm)以下の間隙を隔てて隣接する構成としてもよい。なお、ボード状断熱材層5aにおいて、隣接するボード状断熱材11間の継ぎ目部分には、外面側又は内面側から、例えばアクリル系やブチルゴム系などの気密テープが、隣接するボード状断熱材11の両方に跨るように貼着されている。
【0031】
ここで示すボード状断熱材層5aでは、ボード状断熱材11として、フェノールフォーム製のソリッドなボード状断熱材を使用しているが、これに限られるものではなく、一定の外形を保持可能に成形されたソリッドな断熱材であればよく、例えば、押出発泡ポリスチレン(XPS)製、ビーズ法ポリスチレンフォーム(EPS)製などのソリッドなボード状断熱材を使用することも可能である。
【0032】
ここで、ボード状断熱材層5aの内面及び外面は、上述した外装パネル層4aと略等しい高さ寸法を有する一方で、その幅(左右方向長さ)は、上述した外装パネル層4aの幅よりも若干大きく構成されている。
【0033】
このような構成とすることにより、複合パネルユニット2aにおけるボード状断熱材層5aの右面と、複合パネルユニット2bにおけるボード状断熱材層5bの左面とを、当接させるように隣接、又は所定間隔以下の間隙を隔てて隣接させる場合に(図2参照)、複合パネルユニット2aにおける外装パネル層4aの右面と、複合パネルユニット2bにおける外装パネル層4bの左面との間に、上下方向に直線状に延在する目地12(溝)を形成することができる。更に、複合パネルユニット2aにおけるボード状断熱材層5aの右面と、複合パネルユニット2bにおけるボード状断熱材層5bの左面とが隣接する継ぎ目部分を、目地12の延在方向に沿って、溝底としての目地底に位置させることができる。なお、ここで示す目地12は10mm程度の幅である。また、外装パネル層4aの外面から目地底までの深さは、28mm以上(外装パネル10の厚さが12mm以上であり、通気胴縁9aの厚さ(通気層)が15mm以上)としている。
【0034】
より具体的に、ボード状断熱材層5aは、ボード状断熱材層5aの内面に貼り付けられているボード面材7a、及びボード状断熱材層5aの外面上に設けられた通気胴縁9aと共に、ビス91により、柱100に対して直接固定されている。また、外装パネル層4aは、外装パネル層4aの内面側に位置する通気胴縁9a及びボード状断熱材層5aに対して、ビス92により直接固定されることにより、間接的に柱100に対して固定されている。
【0035】
ボード面材7aは、複合パネルユニット2a全体の形状維持や、ボード状断熱材層5aの損傷を防止するために、ボード状断熱材層5aの内面全域に貼り付けられている。
【0036】
充填断熱材層8aは、ボード面材7aの内面上に積層された断熱材層である。充填断熱材層8aは、ボード状断熱材11と同様、ソリッドな断熱材で形成することができるが、ソリッドな断熱材に限られるものではなく、例えば、グラスウールやロックウールなどで形成された断熱材層とすることもできる。充填断熱材層8aは、ボード面材7aに対して接着剤や両面テープ等により固定されている。なお、壁内での結露を抑制するために、充填断熱材層8aの熱抵抗値を、ボード状断熱材層5aの熱抵抗値よりも小さくすることが好ましい。
【0037】
通気胴縁9aは、横断面が長方形であり、上下方向に長尺な長尺部材である。この通気胴縁9aは、外装パネル層4aとボード状断熱材層5aとの間で両者に挟み込まれている。また、通気胴縁9aは、左右方向に離隔して複数配置されている。これにより、左右方向に隣接する通気胴縁9aの間に通気層が形成される。なお、左右方向に隣接する通気胴縁9aの離隔距離は、例えば300mm程度とすることができ、外装パネル層4aは、各通気胴縁9aに対してビス92等により固定されている。
【0038】
なお、ここで示す複合パネルユニット2aは、外装パネル層4a、ボード状断熱材層5a、ボード面材7a、充填断熱材層8a及び通気胴縁9aを備える構成であるが、この構成に限られるものではなく、外装パネル層、ボード状断熱材層、及び取付下地材を少なくとも備える構成であればよく、例えば、上述したボード面材7a及び充填断熱材層8aを有さない複合パネルユニットとすることもできる。
【0039】
複合パネルユニット2bは、外装パネル層4bと、この外装パネル層4bの内面側に位置するボード状断熱材層5bと、ボード状断熱材層5bの内面に貼り付けられたボード面材7bと、ボード面材7bの内面に形成された充填断熱材層8bと、外装パネル層4b及びボード状断熱材層5bの間に位置する通気胴縁9bと、が一体化されたパネル材である。なお、複合パネルユニット2bの各部材の構成は、上述した複合パネルユニット2aの各構成と共通するため、ここでは説明を省略する。
【0040】
図2に示すように、断熱気密外壁構造1において、複合パネルユニット2a及び複合パネルユニット2bは、柱100の外面側で、外装パネル層4a及び4bの左右の側面間に目地12が形成されるように、更に、ボード状断熱材層5a及び5bの左右の側面同士が当接することにより隣接して、又は所定間隔以下の間隙を隔てて隣接して継ぎ目部分が形成されるように配置されている。
【0041】
換言すれば、複合パネルユニット2a及び複合パネルユニット2bが、図2のように連接された状態において、外装パネル層4aを構成する外装パネル10aと、外装パネル層4bを構成する外装パネル10bとは、両者の間に溝としての目地12が形成されるように互いに左右方向に離隔して配置されている。
【0042】
また、ボード状断熱材層5aを構成するボード状断熱材11aと、ボード状断熱材層5bを構成するボード状断熱材11bとは、上述した2つの外装パネル10a及び10bの内面側で、外装パネル10a及び10bの内面に沿うように配置されている。更に、ボード状断熱材11a及び11bは、互いの継ぎ目部分が、目地12(溝)の延在方向に沿って目地底(溝底)に位置するように配置されている。つまり、断熱気密外壁構造1を外面側から見た場合に、ボード状断熱材11a及び11bの継ぎ目部分、すなわち、ボード状断熱材11aの右側外縁部及びボード状断熱材11bの左側外縁部は、目地12内に位置するように延在している。なお、「2つのボード状断熱材の継ぎ目部分」とは、2つのボード状断熱部材の外縁部のうち、当接することにより隣接して、又は所定間隔以下の間隙を隔てて隣接して配置された両方の外縁部を意味する。
【0043】
ガスケット3は、上下方向に延在する溝としての目地12に挿入され、目地12の延在方向に亘って、目地12を閉塞する。
そして本発明では、加熱膨張ガスケット3中に、ガスケット3の長さ方向に対し略平行な方向に、加熱膨張材料の膨張開始温度以下で溶融しない糸24が配置されているので、加熱され溶融した樹脂が糸24にからみつくことで、リン化合物を用いなくとも、溶融した樹脂の流れ落ちを防ぐことができる。
そしてこのようなガスケット3を家屋に用いることで、例えば火災時などの加熱時において炎や高温の空気を遮断することができ、耐火性能を向上することができる。
【0044】
ここで、本実施形態のガスケット3は、目地処理材としての湿式シーリング材80が外面側に充填されるバックアップ材(バッカー)である。湿式シーリング材80は、ガスケット3の外面側に充填される。ガスケット3をバッカーとして、その外面側に湿式シーリング材80を充填する構成とすれば、湿式シーリング材80が外装パネル10の側面に隙間なく密着するため、目地12の気密性及び防水性を一層向上させることができると共に、建物の外観の意匠性をも向上させることができる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明の効果を確認するために行った実施例および比較例について説明する。
(実施例)
軟化温度85℃のポリ塩化ビニルに1重量%の熱膨張性黒鉛(膨張開始温度300℃)を混ぜ、押出成形により5×40mmの断面の成形体を得た。その後、幅40mmの面に、幅方向の片方の端から10mm、20mm、30mmの位置に幅2mm、深さ4mmの溝加工を3本施し、そこに太さ約2mmのタコ糸(綿糸の撚糸)を配置し、これをガスケットとした。
【0046】
(比較例)
軟化温度85℃のポリ塩化ビニルに1重量%の熱膨張性黒鉛(膨張開始温度300℃)を混ぜ、押出成形により5×40mmの断面の成形体を得て、これをそのままガスケットとした。
【0047】
図3に示すような試験体パネルを作製し、2つの目地にそれぞれ実施例、比較例のガスケットを挿入し、さらにその上からコーキングを充填した。コーキングは外装パネル(パワーボード)の面取りの底に合わせた高さとした。
実施例、比較例のガスケットについて、30分の耐火試験を行った。
試験体パネルを、壁用小型耐火炉に、ALC板側を加熱面として設置した。炉内温度がISO834の標準加熱温度曲線に沿うように、ガスバーナーで加熱した。
【0048】
その結果、実施例のガスケットでは30分の加熱経過時に煙が炉の外側に出ず、目地を十分にふさいでいることが確認された。一方、比較例のガスケットでは30分の加熱経過時に上方の目地から炉の外側に大量の煙が出ているのが確認され、ガスケットが溶融して流れ落ち、隙間が生じているのが確認された。
以上の結果より、加熱膨張ガスケット中に、ガスケットの長さ方向に対し略平行な方向に、加熱膨張材料の膨張開始温度以下で溶融しない糸を配置することで、溶融した樹脂の流れ落ちを防ぐことができることが確認された。
【0049】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明による加熱膨張ガスケットを用いることで、加熱され溶融した樹脂が糸にからみつくことで、溶融した樹脂の流れ落ちを防ぐことができるものとなり、建築物の外装パネル間の目地用ガスケットとして広く利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 :断熱気密外壁構造
2 :複合パネルユニット
2a,2b :複合パネルユニット
3 :ガスケット
4a,4b :外装パネル層
5a,5b :ボード状断熱材層
7a,7b :ボード面材
8a,8b :充填断熱材層
9a,9b :通気胴縁
10 :外装パネル
10a,10b :外装パネル
11 :ボード状断熱材
11a,11b :ボード状断熱材
12 :目地
21 :胴部
22 :突出部
23 :先端面
24 :糸
80 :湿式シーリング材
91,92 :ビス
100 :柱
図1
図2
図3