(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[全固体LIB]
本発明の実施形態に係る全固体LIBは、正極と、負極と、正極および負極の間に介在するリチウムイオン伝導性の固体電解質層とを含む。負極は、負極集電体と、負極集電体の表面に堆積し、または拡散結合により結合するケイ素を含む負極活物質層と、を含む。負極活物質層は、ケイ素酸化物を含む表層を含み、表層は、酸素原子のケイ素原子に対する原子比:O/Si比が、1.00以上の領域である。固体電解質層は、硫化物を含む。
【0012】
全固体LIBにおいて、ケイ素を含む負極活物質層を用いることで、リチウムイオンの吸蔵量を高めることができる一方、電解液を用いる場合とは異なり、過度なSEIの形成が抑制される。よって、ケイ素の高いリチウムイオン吸蔵量を十分に利用でき、高いエネルギー密度を得ることができる。
【0013】
しかし、リチウムイオンの吸蔵量が多いと、負極活物質であるケイ素が大きく膨張収縮して、負極活物質層が大きく膨張収縮する。そのため、負極内や、負極と固体電解質層との間の界面において、イオン伝導パスが切断されて、抵抗が増加し、リチウムイオンの吸蔵自体も低下する。このようなイオン伝導パスの切断やリチウムイオンの吸蔵量の低下は、分厚いSEIが形成される電解液を用いるLIBには見られない、全固体LIBに特有の課題である。
【0014】
本発明では、全固体LIBにおいて、ケイ素を含む負極活物質層を用いるものの、負極活物質層が硬いケイ素酸化物を含む表層を含むことで、リチウムイオンの吸蔵および放出に伴う負極活物質層の膨張収縮が過度になることを抑制できる。そのため、負極内や、負極と固体電解質層との界面において、イオン伝導パスが切断されることを抑制できる。また、硬いケイ素酸化物を含む表層は、一般には、負極を作製する際に圧縮しても表面の凹凸が滑らかになり難いため、固体電解質層と負極との間の接触性が低くなり易い。一方、本発明では、硫化物を含む固体電解質層を採用することで、固体電解質層と負極との間のなじみが良くなり、両者間の接触性を高めることができる。よって、両者間の界面における抵抗の増加を抑制できる。これにより、本発明では、充放電を繰り返しても、負極内および負極と固体電解質層との界面におけるイオン伝導パスを維持することができ、その結果、優れたサイクル特性が得られる。
なお、表層は、ケイ素酸化物、特に、SiO
2を含んでいる。
【0015】
負極活物質層の厚みは、30μm以下であり、表層の厚みは、150nm以下であることが好ましい。この場合、負極活物質層の過度な膨張収縮を抑制しながらも、表層の厚みが小さいことで、高エネルギー密度をさらに確保し易い。
表層の厚みは、負極活物質層の深さ方向における光電子エネルギー分布をエッチングしながら測定し、このときのエッチング速度とエッチング時間から算出できる。
【0016】
負極活物質層中のケイ素含有量は、95質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であってもよい。負極活物質中のケイ素含有量がこのような範囲である場合、負極活物質層の膨張収縮が顕著になり易い。しかし、表層による負極活物質層の膨張収縮の抑制効果と、負極活物質層と固体電解質層との間の高い接触性とから、このように高いケイ素含有量を有する場合でも、多くのイオン伝導パスを確保することができる。
【0017】
負極活物質層に含まれる固体電解質の含有量は、1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であってもよく、固体電解質を実質的に含まない場合も好ましい。一般に、負極活物質層は、負極活物質と、固体電解質(リチウムイオン伝導性を示す無機固体電解質など)とを含む負極合剤で形成され、固体電解質を用いることにより、イオン伝導性を確保し易くなる。しかし、固体電解質の含有量が1質量%以下と少ないと、固体電解質によるイオン伝導性の確保が難しい。本発明では、このように負極活物質層の固体電解質の含有量が少ない場合でも、高いイオン伝導性を確保することができる。このように高いイオン伝導性が得られる理由は定かではないが、負極活物質層においては、堆積や拡散結合によりケイ素が密に充填されているため、空隙が少なく、ケイ素とリチウムとが合金化されることでイオン伝導性が発現するものと考えられる。よって、重量エネルギー密度および体積エネルギー密度が向上すると考えられる。
【0018】
固体電解質層に含まれる硫化物は、リチウムおよびリンを少なくとも含むことが好ましい。また、硫化物は、好ましくは、Li
2S−P
2S
5固溶体である。このような硫化物を用いると、固体電解質層と負極活物質層とのなじみがさらに良くなり、両者間の界面における高いイオン伝導性を確保し易くなる。
【0019】
(負極)
負極は、負極集電体と、負極集電体の表面に堆積し、または拡散結合により結合するケイ素を含む負極活物質層と、を含む。そして、負極活物質層は、ケイ素酸化物を含む表層を含む。
【0020】
負極活物質層は、負極活物質としてケイ素を含む。ケイ素は、リチウムイオンを可逆的に挿入および脱離(もしくは吸蔵および放出)可能な形態で負極活物質層に含まれていればよいが、ケイ素単体やケイ素合金として負極活物質層に含まれていることが好ましい。
【0021】
高エネルギー密度を確保する観点からは、ケイ素は、ケイ素単体として負極活物質層に含まれていることが好ましい。電解液を用いるLIBでは、ケイ素単体を負極活物質として用いると、電解液との副反応が著しく、分厚いSEIが形成されるため、ケイ素の高容量を有効利用できない上、十分なサイクル寿命が得られ難い。全固体LIBでは、このような不具合を回避することができる。
【0022】
負極活物質層の表層は、ケイ素酸化物を含んでおり、特に、SiO
2を含む。ケイ素酸化物としては、例えば、表層におけるO/Si比の平均的な値が、上述の範囲であるものなどが挙げられる。表層におけるO/Si比は、例えば、XPSにより測定される光電子エネルギーの分布から求めることができる。具体的には、光電子エネルギー分布から、各元素に固有の結合エネルギーを有する電子に基づくスペクトルのピーク面積を算出し、これらの比から、ケイ素原子および酸素原子の濃度比(すなわち、O/Si比)を求めることができる。O/Si比は、複数の箇所(例えば、10箇所)についての平均値としてもよい。
【0023】
高エネルギー密度を確保し易い観点からは、表層の厚みは、200nm以下であり、150nm以下または100nm以下であることが好ましい。表層の厚みは、例えば、5nm以上であり、負極活物質層の過度な膨張収縮を抑制し易い観点からは、例えば、10nm以上であることが好ましい。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。
【0024】
負極活物質層は、負極集電体の表面に堆積したケイ素を含む堆積膜であってもよく、拡散結合により負極集電体の表面に結合した、ケイ素を含む膜であってもよい。このような負極活物質層としては、例えば、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの気相法により形成される堆積膜、溶射法により形成される溶射膜などが挙げられる。
【0025】
負極活物質層は、負極活物質層の組成に応じて、負極集電体の表面に、負極活物質を堆積または拡散結合させることにより形成できる。負極活物質の堆積や拡散結合は、減圧下で行ってもよく、大気圧下で行ってもよい。また、不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、大気などの酸素含有ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0026】
負極活物質層は、例えば、負極活物質を堆積または溶射することにより負極活物質層を形成できる。負極活物質を堆積または溶射させる際の雰囲気は、不活性ガス雰囲気であってもよいが、大気などの酸素含有雰囲気であることが好ましい。酸素ガス含有雰囲気下で負極活物質の堆積や溶射を行う場合には、大気圧下で行うことが好ましい。また、表層を形成する際に、雰囲気中の酸素濃度を高めてもよい。このときの雰囲気中の酸素濃度は、O/Si比が上記の範囲となるように、適宜決定すればよい。なお、負極活物質の堆積や溶射の際に、プラズマを利用する場合には、酸素を含むプロセスガスを用いてもよいが、適度な厚みの表層を形成する観点からは、酸素を含まないプロセスガスを用いることが好ましい。
【0027】
また、溶射法により負極活物質層を形成する場合には、溶射する活物質粒子の粒径を調節することで、表層の厚みを調節することもできる。例えば、活物質粒子の粒径を大きくすると、酸化され難くなるため、表層の厚みを小さくすることができる。表層付近において、使用する活物質粒子の粒径を大きくすることで、表層の厚みを小さくしてもよい。
【0028】
負極活物質層は、負極集電体の表面に形成されていればよく、一方の表面に形成されていてもよく、双方の表面に形成されていてもよい。負極活物質層の過度な膨張収縮を抑制し易い観点からは、負極活物質層の厚みは、例えば、50μm以下であり、正極との容量のバランスを取り易い観点からは、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であってもよい。高エネルギー密度を確保し易い観点からは、負極活物質層の厚みは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であってもよい。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。負極活物質層の厚みは、例えば、5〜50μm、5〜30μm、5〜20μm、10〜30μm、または10〜20μmであってもよい。負極活物質層が負極集電体の両方の表面に形成されている場合、片方の負極活物質層の厚みの合計が上記の範囲となるようにすればよい。
【0029】
なお、負極は、必要に応じて、負極活物質に加え、全固体LIBで負極に使用される公知の成分を含んでもよい。
【0030】
負極集電体としては、全固体LIBの負極集電体として使用されるものであれば特に制限なく使用することができる。このような負極集電体の形態としては、例えば、金属箔、板状体、粉体の集合体などが挙げられ、負極集電体の材質を成膜したものを用いてもよい。金属箔は、電解箔、エッチド箔などであってもよい。
負極集電体は、負極活物質層を形成する際に、波打ったり、破れたりしない強度を有するものが望ましい。
【0031】
負極集電体の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、これらの合金などが挙げられる。
負極集電体の厚みは、例えば、5〜300μmの範囲から適宜選択できる。負極集電体の厚みは、10〜50μmであることが好ましい。
【0032】
(正極)
正極は、正極活物質を含んでいればよく、正極活物質に加え、全固体LIBで正極に使用される公知の成分を含んでもよい。正極におけるリチウムイオン伝導性を高める観点から、正極は、正極活物質とともに、リチウムイオン伝導性を示す無機固体電解質を含むことが好ましい。
【0033】
ここでは、全固体LIBにおいて、正極活物質として使用されるものを特に制限なく用いることができる。正極活物質としては、例えば、コバルト、ニッケル、および/またはマンガンなどを含むリチウム含有酸化物[例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、マンガン酸リチウム(スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4など)など)、LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2など]、Li過剰の複合酸化物(Li
2MnO
3−LiMO
2)などの酸化物の他、酸化物以外の化合物も挙げられる。酸化物以外の化合物としては、例えば、オリビン系化合物(LiMPO
4)、イオウ含有化合物(Li
2Sなど)などが挙げられる。なお、上記式中、Mは遷移金属を示す。正極活物質は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。高容量が得られ易い観点からは、Co、NiおよびMnからなる群より選択される少なくとも一種を含むリチウム含有酸化物が好ましい。リチウム含有酸化物は、さらにAlなどの典型金属元素を含んでもよい。
【0034】
正極活物質の平均粒子径は、例えば、3〜15μmであり、4〜11μmであることが好ましい。
なお、本明細書中、平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される体積基準の粒度分布におけるメディアン径(D
50)である。
【0035】
無機固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を示す限り、特に制限されず、全固体LIBで固体電解質層に使用されるような無機固体電解質が使用できる。無機固体電解質の結晶状態も特に制限されず、結晶性および非晶質のいずれであってもよい。無機固体電解質としては、硫化物(硫化物系無機固体電解質)が好ましい。硫化物としては、例えば、Li
2Sと、周期表第13族元素、第14族元素、および第15族元素からなる群より選択された少なくとも一種の元素を含む一種または二種以上の硫化物とを含むものが好ましい。周期表第13〜15族元素としては、特に限定されるものではないが、例えば、P、Si、Ge、As、Sb、Al等を挙げることができ、中でもP、Si、Geが好ましく、特にPが好ましい。硫化物の具体例としては、Li
2S−SiS
2、Li
2S−P
2S
5、Li
2S−GeS
2、Li
2S−B
2S
3、Li
2S−Ga
2S
3、Li
2S−Al
2S
3、Li
2S−GeS
2−P
2S
5、Li
2S−Al
2S
3−P
2S
5、Li
2S−P
2S
3、Li
2S−P
2S
3−P
2S
5、LiX−Li
2S−P
2S
5、LiX−Li
2S−SiS
2、LiX−Li
2S−B
2S
3(X:I、Br、またはCl)などが挙げられる。これらの固体電解質は、一種を単独で用いてもよく、必要に応じて、二種以上を併用してもよい。
【0036】
正極活物質と無機固体電解質との総量に占める無機固体電解質の割合は、特に制限されないが、正極の高いリチウムイオン伝導性を確保し易い観点からは、例えば、5〜40質量%である。
【0037】
正極は、正極集電体と、正極集電体に担持された正極活物質または正極合剤とを含んでもよい。正極合剤とは、正極活物質および無機固体電解質を含む混合物である。
正極集電体としては、全固体LIBの正極集電体として使用されるものであれば特に制限なく使用することができる。このような正極集電体の形態としては、負極集電体について例示したものから適宜選択できる。
【0038】
正極集電体の材質としては、アルミニウム、マグネシウム、ステンレス鋼、チタン、鉄、コバルト、亜鉛、スズ、またはこれらの合金などが例示される。
正極の厚みは、例えば、50〜200μmである。
正極は、例えば、正極活物質または正極合剤を圧縮することにより得ることができる。正極集電体の表面に、正極活物質や正極合剤の層を形成することにより正極を形成してもよい。
【0039】
(固体電解質層)
正極と負極との間に介在する固体電解質層は、リチウムイオン伝導性を示す無機固体電解質を含む。このような無機固体電解質としては、正極について例示した無機固体電解質が挙げられ、硫化物が好ましい。
【0040】
固体電解質層は、無機固体電解質を圧縮することにより形成できる。固体電解質層は、必要に応じて、全固体LIBの固体電解質層に用いられる公知の添加剤を含むことができる。
固体電解質層の厚みは、例えば、20〜200μmである。
【0041】
図1は、本実施形態に係る全固体LIBに含まれる電極群を概略的に示す縦断面図である。全固体LIBに含まれる電極群は、正極1と、負極2と、これらの間に介在する固体電解質層3とを備える。正極1は、正極集電体1aとこれに担持された正極合剤層(正極層)1bとを備える。負極2は、負極集電体2aとこれに担持された負極活物質層2bとを備える。正極1と負極2とは、正極合剤層1bと負極活物質層2bとが対向するように配置される。正極合剤層1bと負極活物質層2bとの間に、固体電解質層3が配置されている。固体電解質層3は、リチウムイオン伝導性の無機固体電解質を含む。
【0042】
図示例では、正極合剤層1bおよび負極活物質層2bはいずれも所定の厚みを有する正方形である。正極合剤層1bの周囲を囲むように、正極集電体1a上には環状の絶縁層4bが配されている。また、負極活物質層2bの周囲を囲むように、負極集電体2a上には環状の絶縁層4aが配されている。絶縁層4aおよび4bにより、正極集電体1aと負極集電体2aとの短絡が防止される。正極集電体1aは、正極合剤層1bよりもサイズが大きな正方形の金属箔である。そして、負極集電体2aは、負極活物質2bよりもサイズが大きな正方形の金属板である。固体電解質層3は、負極活物質層2bの上面および側面と、絶縁層4aの内周側の上面および側面を覆うように形成されている。
【0043】
全固体LIBは、電極群をセルケースに収容することにより作製できる。電極群の正極および負極には、それぞれリードの一端部が接続される。リードの他端部はセルケースの外部に露出した外部端子と電気的に接続される。
全固体LIBの形状は、
図1に示す例に限らず、丸型、円筒型、角型、薄層フラット型などの様々なタイプであってもよい。電極群は、複数の正極および/または複数の負極を含んでもよい。
図1には、正極合剤層や負極活物質層が正方形の場合を示したが、この場合に限らず、全固体LIBの構成部材の形状は適宜選択でき、例えば、長方形、ひし形、円形、楕円形などであってもよい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
実施例1
(1)全固体LIBの作製
下記の手順で
図1に示す全固体LIBを作製した。
(a)負極2の作製
負極集電体2aとしての縦40mm×横40mm×厚み0.3mmのステンレス鋼板の片面に、縦20mm×横20mmの開口部を有するマスクを配した。溶射前処理としてアルミナグリットを用いてブラストによるステンレス鋼板の粗面化処理を実施した。次いで、粗面化した表面に、大気プラズマ溶射法(APS)のアルゴン−水素混合プラズマガス条件にてSi粉末(平均粒子径D
50:20μm)を溶射した。これにより、厚みが約10μmの溶射膜である負極活物質層2bを形成した。そして、負極活物質層2bの周囲を囲むように、負極集電体2a上に環状の絶縁層4aを形成した。
【0046】
(b)固体電解質層3の作製
負極活物質層2bの上面および絶縁層4aの内周側の上面が露出するような縦26mm×横26mmのサイズの開口部を有するマスクを、負極2の負極活物質層2b側に配し、乾式成膜により固体電解質層3を形成した。具体的にはマスクの開口部を覆うように、リチウムイオン伝導性の固体電解質であるLi
2S(75mol%)−P
2S
5(25mol%)固溶体(組成:Li
3PS
4)を所定量堆積させ、厚み方向に加圧することにより固体電解質層3を形成した。このとき、固体電解質層3は、負極活物質層2bの上面および側面、ならびに絶縁層4aの内周側の上面および側面を覆うように形成した。固体電解質層3の厚みは70μmであった。
【0047】
(c)正極1の作製
正極活物質であるLiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2(平均粒子径D
50:6μm)と、リチウムイオン伝導性の固体電解質であるLi
2S(75mol%)−P
2S
5(25mol%)固溶体(組成:Li
3PS
4)を、7:3の質量比で混合することにより混合物を得た。
【0048】
固体電解質層3の中央部分が露出するような縦20mm×横20mmのサイズの開口部を有するマスクを固体電解質層3上に配し、乾式成膜により正極合剤層1bを形成した。具体的にはマスクの開口部を覆うように、上記の混合物を所定量堆積させ、厚み方向に加圧することにより正極合剤層1bを形成した。正極合剤層1bの厚みは85μmであった。
【0049】
正極合剤層1b上に、正極集電体1aとしての縦40mm×横40mm×厚み15μmのアルミニウム箔を積層し、厚み方向に加圧することにより電極群を形成した。なお、正極集電体1aの片面の周縁には、環状の絶縁層4bが形成されており、絶縁層4bが負極2と対向するように正極集電体1aを配した。絶縁層4bの開口部は、縦32mm×横32mmの正方形であった。
【0050】
(d)電池の組み立て
上記(c)で得られた電極群を、負極リードおよび正極リードを有するラミネートセルに挿入し、ラミネートセル内のガスを真空ポンプで吸引しながら、密封した。このとき、正極リードが正極集電体1aに、負極リードが負極集電体2aに、それぞれ電気的に接続するようにした。その後、ラミネートセルの有効面積(20mm×20mm=4cm
2)に対して10tf/cm
2(≒9.8×10
4N/cm
2)の圧力が加わるように、電極群の厚み方向に加圧した。このようにして正極規制の全固体LIBを作製した。
【0051】
(2)評価
上記(1)で得られた全固体LIBまたは負極を用いて、下記の評価を行った。
(a)表層の分析
上記(1)(a)で得られた負極の負極活物質層について、XPSの光電子エネルギー分布から、既述の手順でO/Si比を算出した。
また、XPSの光電子エネルギー分布から、既述の手順でO/Si比が1.00以上である領域(表層)の厚みを求めた。
【0052】
(b)初期放電容量および容量維持率
上記(1)で得られた全固体LIBを、25℃の恒温槽内に配置し、温度を維持しながら、600kgf/cm
2(≒5.9×10
3N/cm
2)の圧力が加わるように、電極群の厚み方向に加圧した。この状態で、0.1mA/cm
2の電流で3.9Vの充電終止電圧まで充電し、0.1mA/cm
2の電流で2.6Vの放電終止電圧まで放電し、このときの放電容量(初期放電容量)を求めた。
そして、上記の充電と放電とのサイクルを40回繰り返した後の放電容量を求め、初期放電容量を100%としたときの比率(容量維持率)(%)を算出した。
【0053】
実施例2〜3
負極活物質層の厚みを表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様に、負極および全固体LIBを作製し、評価を行った。
【0054】
実施例4〜5
表層の厚みを表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様に、負極および全固体LIBを作製し、評価を行った。
【0055】
比較例1
溶射により負極活物質層を形成する代わりに、ケイ素単体粉末(平均粒子径D
50:38μm)を乾式成膜することにより負極活物質層を形成した。具体的には、マスクの開口部を覆うように、ケイ素単体粉末を所定量堆積させ、厚み方向に加圧することにより負極活物質層を形成した。しかし、負極集電体と負極活物質層との間の界面の密着性が不十分で、電池を作製する過程で、負極活物質層が剥離してしまい、全固体LIBを作製できなかった。
【0056】
実施例6
負極集電体として、ステンレス鋼板に代えてCu板を用いるとともに、表層の厚みを表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして負極および全固体LIBを作製し、評価を行った。
実施例6の負極の負極活物質層について測定したXPSスペクトルを
図2に示す。
【0057】
実施例7
負極集電体として、ステンレス鋼板に代えてNi板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極および全固体LIBを作製し、評価を行った。
実施例7の負極の負極活物質層について測定したXPSスペクトルを
図3に示す。
【0058】
比較例2
リチウムイオン伝導性のLi
2O−Al
2O
3−SiO
2−P
2O
5−TiO
2−GeO
2系(酸化物系)固体電解質の粉状物を、負極活物質層2b上に配し、厚み方向に加圧することにより固体電解質層3の作製を試みた。これ以外は実施例5と同様に操作を行った。しかし、加圧しても、固体電解質粒子の粒界は消えず、粒子同士を密着させることができなかった。そのため、固体電解質層3自体が固まらず、また、固体電解質層3を負極活物質層2bに密着させることもできなかった。
実施例1〜7および比較例1〜2の結果を表1に示す。実施例1〜7はA1〜A7であり、比較例1〜2はB1〜B2である。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すように、実施例の全固体LIBでは、繰り返し充放電を行うことができ、40サイクル後の容量維持率も95%を超える高い値が得られた。これは、ケイ素酸化物を含む表層の存在により、充放電時のケイ素の膨張収縮が抑制され、イオン伝導パスの切断が抑制されたためと考えられる。
【0061】
このように、実施例では、イオン伝導パスを担う固体電解質の負極活物質層中の割合が少なく(固体電解質を負極活物質層が含まなく)ても、繰り返し充放電が可能である。また、実施例と同じ面積の場合、ケイ素の容量を4200mAh/gとし、負極活物質層におけるケイ素の密度が2.33g/cm
3と仮定して、負極活物質層の厚みが、例えば30μmである場合の負極容量を計算すると、約29.4mAh/cm
2となる。負極活物質として炭素材料を用いた負極合材でこの負極容量を得ようとすると、ケイ素の場合の約20倍の質量、約30倍の体積が必要となる。そのため、例えば、負極活物質の単位質量当たりのエネルギー密度は炭素材料を用いる場合と比べて、ケイ素を用いることで、約6倍に向上したということができ、高エネルギー密度が得られたと言える。
【0062】
それに対して、負極活物質層が負極集電体の表面に堆積または拡散結合したケイ素を含まない比較例1では、負極活物質層と負極集電体との界面における密着性が低いため、負極活物質層が負極集電体から剥離して、全固体LIBを組み立てることができなかった。また、酸化物系の固体電解質層を用いた比較例2では、固体電解質粒子同士の密着性が低いため、固体電解質層を形成できず、全固体LIBを組み立てることもできなかった。
【0063】
なお、
図2に示すように、これらの実施例では、ケイ素酸化物SiO
2のピークが、見られるのは負極活物質層の表面から厚みが100nm程度の範囲である。厚みが500nm以上になると、SiO
2のピークはほとんど見られず、Si単体のピークが顕著に大きくなることから、負極活物質層は主にSi単体から構成されていることが分かる。