特許第6759084号(P6759084)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6759084チタン酸バリウム微粒子とその分散体およびチタン酸バリウム微粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6759084
(24)【登録日】2020年9月4日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】チタン酸バリウム微粒子とその分散体およびチタン酸バリウム微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20200910BHJP
   H01G 4/12 20060101ALI20200910BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20200910BHJP
【FI】
   C01G23/00 B
   C01G23/00 C
   H01G4/12
   H01G4/30
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-234488(P2016-234488)
(22)【出願日】2016年12月1日
(65)【公開番号】特開2018-90438(P2018-90438A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100142239
【弁理士】
【氏名又は名称】福富 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慶三
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 浩之
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−067518(JP,A)
【文献】 特開2014−144899(JP,A)
【文献】 特開2012−155346(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102452684(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0202036(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00−23/08
H01G 4/12
H01G 4/30
H01G 4/00−4/10
H01G 4/14−4/22
H01G 4/32−4/40
H01G 13/00−13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムを主体とするコア粒子と、前記コア粒子の表面の少なくとも一部に備えられたポリビニル系高分子化合物を含む被覆部と、を備え、
前記被覆部の割合は6質量%以上10質量%以下であり、
動的光散乱法に基づく平均粒子径が20nm以上250nm以下であって、
FTIR分析により得られるスペクトルにおいて、波数1450cm-1近傍の吸収ピークの強度I1450と、波数1550cm-1近傍の吸収ピークの強度I1550と、の強度比(I1450/I1550)が8より大きい、
チタン酸バリウム微粒子。
【請求項2】
前記被覆部は、ポリビニルピロリドン由来の分解生成物を含む、請求項1に記載のチタン酸バリウム微粒子。
【請求項3】
FTIR分析により得られるスペクトルにおいて、波数1450cm-1近傍の吸収ピークの強度I1450と、波数1650cm-1近傍の吸収ピークの強度I1650と、の強度比(I1450/I1650)が2以上7以下である、請求項1または2に記載のチタン酸バリウム微粒子。
【請求項4】
電子顕微鏡観察に基づく平均粒子径が10nm以上200nm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のチタン酸バリウム微粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のチタン酸バリウム微粒子が、分散媒に分散されている、チタン酸バリウム微粒子分散体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のチタン酸バリウム微粒子の製造方法であって、
前記チタン酸バリウムを主体とする前記コア粒子と、前記コア粒子の表面の少なくとも一部に備えられたポリビニル系高分子化合物を含む有機物膜と、を備えるナノ微粒子を用意すること、
前記ナノ微粒子に水熱処理を施すことで前記有機物膜の量を低減させて前記チタン酸バリウム微粒子を得ること、
を含む、チタン酸バリウム微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸バリウム微粒子と、該チタン酸バリウム微粒子を含有する分散体およびチタン酸バリウム微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウム(BaTiO)は、室温で正方晶のペロブスカイト型結晶構造を有する人工鉱物であって、高い比誘電率を示すことから電子材料等として様々な技術分野において利用されている。このチタン酸バリウムにより誘電体物品を作製する場合、一般には、チタン酸バリウムの微粒子を分散媒に分散させたスラリー(分散体)を調製し、このスラリーから目的の物品を製造することが行われている。そして電子部品等の小型化および高品質化が進むに伴い、チタン酸バリウム微粒子についても、粒子径がなるべく小さく、分散性の良好な粒子が必要とされている。また、チタン酸バリウムを光学用途に使用する場合は、例えば、誘電体物品を作製する場合に比べて、個々の粒子のより高い均質性が求められる。ナノメートルオーダーのチタン酸バリウム微粒子を製造する従来技術として、例えば、特許文献1〜4が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5604735号公報
【特許文献2】特開2010−064938号公報
【特許文献3】特開2014−144899号公報
【特許文献4】特許第5112979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、水熱合成法によりチタン酸バリウム微粒子を製造している。水熱合成法等の液相法により得られるチタン酸バリウム微粒子は、比較的高い結晶性を有するものの、粒径が微細になればなるほど凝集性が顕著に高くなる。そのため、チタン酸バリウム微粒子を粉末とした後に分散媒に分散させてスラリーを調製することは極めて困難であるという問題があった。
また、特許文献2では、ゾルゲル法によりチタン酸バリウム微粒子を製造している。ゾルゲル法によると、結晶性の高いチタン酸バリウム微粒子を得ることが難しい。また、得られたチタン酸バリウム微粒子に結晶性を高めるための熱処理を施すと、粒成長が避けられず、微細な粉体を得られないという問題があった。また、ゾルゲル法は、製造工程が煩雑であり、製造条件の制御も比較的困難であることから、製造コストが高くなるという欠点もあった。
【0005】
一方で、有機化合物の存在下、比較的低温でチタン酸バリウム微粒子を製造し、該微粒子の表面を有機化合物でコーティングすることで、粉末化したあとの分散媒への再分散性を高めることも提案されている(例えば特許文献3および4)。
特許文献3で得られるチタン酸バリウム微粒子は、比較的分散性の良好なチタン酸バリウム微粒子からなる粉体が得られるものの、有機化合物コーティング量の微細な調整が困難であった。その結果、有機化合物コーティングが比較的過剰となり、粉末とすると有機化合物コーティングが架橋したり、コーティング量の少ない粒子が凝集したりして、凝集体が形成されることがあった。そのため、その後に調製したスラリーにおいても凝集体の存在が認められ、用途によってはより一層均一性の高いスラリーを調製できることが求められている。
【0006】
また、特許文献4では、チタン源およびバリウム源と共にオレイン酸ナトリウム等の有機化合物を用い、300℃以上の温度で水熱処理することで、凝集が抑えられて分散性に優れたチタン酸バリウムを製造している。しかしながら、この特許文献4では、実際には100nmを超えるチタン酸バリウム微粒子しか製造することができないという欠点があった。また、有機化合物コーティング量が比較的多く、不純物の含有量を低く抑える必要のある用途では使用できないという問題があった。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、微細な粉末でありながら分散媒への分散性が良好なチタン酸バリウム微粒子を提供することを目的とする。また、他の観点から、本発明は、かかるチタン酸バリウム微粒子が分散された分散体や、チタン酸バリウム微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、これまでに、ナノメートルオーダーで微細であって、均質かつ粒子間の付着力や凝集力が抑制されたチタン酸バリウム微粒子について提案している(特許文献3参照)。このチタン酸バリウム微粒子は、加熱還流法によりチタン酸バリウムを作製するとともに、ポリビニル系高分子化合物からなる被膜で被覆することで、チタン酸バリウム微粒子の凝集を抑えつつ、均質かつ等方的にチタン酸バリウム微粒子を作製するようにしたものである。しかしながら、このチタン酸バリウム微粒子は、上述のとおり、被膜で覆われることで粒子作製時の分散性は良好なものの、一旦粉末とした後や保存後の粒子の分散性(以下、再分散性という。)については低いという改善すべき点があった。
これらの点を満足すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明者らは、上記のようにして得られたチタン酸バリウム微粒子を水熱処理することにより、被膜量を高精度に調整できることを見出した。また、かかる被膜量の調整により、チタン酸バリウム微粒子の再分散性が極めて良好になることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子は、チタン酸バリウムを主体とするコア粒子と、上記コア粒子の表面の少なくとも一部に備えられたポリビニル系化合物を含む被覆部と、を備える。そして、このチタン酸バリウム微粒子について、被覆部の割合は6質量%以上10質量%以下であり、動的光散乱法に基づく平均粒子径が20nm以上250nm以下であって、FTIR分析により得られるスペクトルにおいて、波数1450cm-1近傍の吸収ピークの強度I1450と、波数1550cm-1近傍の吸収ピークの強度I1550と、の強度比(I1450/I1550)が8より大きいことを特徴としている。
【0010】
このような構成によると、平均粒子径が微細ながらも結晶性の良好なチタン酸バリウムからなるコア粒子を備えるチタン酸バリウム微粒子が提供される。またこの微粒子は、コア部の表面に備える被覆部の量と、その被覆部についてのFTIRスペクトルにおいて、ポリビニル系高分子化合物のC=O結合が分解されたときに増大するCH基に由来する波数1450cm-1近傍の吸収ピークと、例えばNH結合に由来する波数1550cm-1近傍の吸収ピークと、の強度比とが、所定の値となるよう制御されている。これにより、分散媒への再分散性が良好なチタン酸バリウム微粒子が実現される。
【0011】
ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子の好ましい一態様において、上記被覆部は、ポリビニルピロリドン由来の分解生成物を含む。このような構成によると、チタン酸バリウムからなるコア粒子の凝集を好適に抑制することができて好ましい。
【0012】
ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子の好ましい一態様において、上記FTIR分析により得られるスペクトルにおいて、波数1450cm-1近傍の吸収ピークの強度I1450と、波数1650cm-1近傍の吸収ピークの強度I1650と、の強度比(I1450/I1650)が2以上7以下である。1650cm-1近傍のピークはポリビニル系高分子化合物のC=O結合に由来するため、このような構成によると、ポリビニル系高分子化合物の分解の度合いからチタン酸バリウム微粒子の被覆部の状態をより直接的かつ適切に評価することができる。
【0013】
ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子の好ましい一態様において、電子顕微鏡観察に基づく平均粒子径が10nm以上200nm以下である。このような構成によると、例えば、電子部品や光学部品の製造用途に適したチタン酸バリウム微粒子が提供される。
【0014】
以上のとおり、ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子は、ナノメートルオーダーの粉末状態でありながら、分散媒への再分散性が良好なものとして実現されている。そこで他の側面において、ここに開示される技術は、このチタン酸バリウム微粒子の特長を活かして、上記のチタン酸バリウム微粒子が分散媒に分散されている分散体をも提供する。この分散媒は、水、エタノール、テルピネオール、2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノールおよびエチレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種を含むものとすることができる。これにより、例えば、積層セラミックコンデンサ(MLCC)等の誘電体デバイスや、温度センサ、発熱体等の半導体素子等の作製に好適な分散体が提供される。また、チタン酸バリウム微粒子を高屈折材料として用いる反射防止膜や集光材などの光学部品の作製にも好適に使用できる分散体が提供される。
【0015】
さらに、ここに開示される技術は、上記のチタン酸バリウム微粒子の製造方法をも提供する。この製造方法は、チタン酸バリウムを主体とする上記コア粒子と、上記コア粒子の表面の少なくとも一部に備えられたポリビニル系高分子化合物を含む有機物膜と、を備えるナノ微粒子を用意すること、上記ナノ微粒子に水熱処理を施すことで上記有機物膜の量を低減させて上記チタン酸バリウム微粒子を得ること、を含む。このような構成により、ナノ微粒子が備える有機物膜の量を適切に制御して、より一層分散性に優れたチタン酸バリウム微粒子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】公知のナノ微粒子の製造方法の概略を示すフロー図である。
図1B】一実施形態に係るチタン酸バリウム微粒子の製造方法の概略を示すフロー図である。
図2】ポリビニルピロリドンのFTIRスペクトルを例示した図である。
図3】各例のチタン酸バリウム微粒子とPVPのFTIR−ATRスペクトル(2000〜1000cm−1)を例示した図である。
図4】(a)(b)は、各例のチタン酸バリウム微粒子とPVPのFTIR−ATRスペクトル(4000〜2500cm−1)を例示した図である。
図5】実施例1、比較例1、3、5のチタン酸バリウム微粒子の熱重量分析結果を示すグラフである。
図6】一実施形態に係るチタン酸バリウム微粒子を用いて形成される積層セラミックコンデンサの構成を模式的に説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、チタン酸バリウム微粒子の性状および分散媒の形態等)以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、原料等の入手・調製方法、チタン酸バリウム微粒子および分散媒からの誘電体素子の製造に関する一般的事項等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において範囲を示す「A〜B」との表記は、A以上B以下を意味する。また、本明細書において、分散体とは、分散質たるチタン酸バリウム微粒子が任意の分散媒に分散された状態のものであって、ペースト、スラリー、インク、サスペンション等とよばれるものを包含する。
【0018】
ここで開示されるチタン酸バリウム微粒子は、実質的にチタン酸バリウムからなるコア粒子と、このコア粒子の表面の少なくとも一部に備えられたポリビニル系高分子化合物を含む被覆部とを含む。
チタン酸バリウム微粒子の主体部分は、コア粒子により構成されている。コア粒子は、実質的にチタン酸バリウムからなる。ここで、「実質的に」とは、不可避的な不純物や微量の他の成分(例えば被覆部に含まれる成分)等の混入を許容することを意味し、チタン酸バリウムの含有量がおおむねチタン酸バリウムからなると判断できれば特に限定されない。典型的には、コア粒子の95質量%以上(好ましくは98質量%以上、例えば99質量%以上)がチタン酸バリウムであることをいう。
【0019】
また、チタン酸バリウムは、一般式:BaTiO;で示される組成を有するペロブスカイト型構造の金属複合酸化物である。このチタン酸バリウムは、本発明の目的を損ねない限りにおいて、バリウム(Ba)とチタン(Ti)との元素比Ba/Tiが0.9以上(好ましくは0.95以上)および1.1以下(好ましくは1.05以下)程度に変化されていてもよい。しかしながら、安定な結晶構造を維持するとの観点において、Ba/Tiは「1」もしくは「1」に近いことが好ましい。また、バリウムおよびチタンの各1原子あたりと結合する酸素の数は「3」からずれていても良い。
【0020】
さらに、前記一般式中のBaサイトおよびTiサイトは、他の元素で置換されていても良い。かかる置換元素は、チタン酸バリウム微粒子の用途等に応じて適宜決定することができ、例えば、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類金属元素や、ランタン(La)、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Er)、ジスプロシウム(Dy)等のランタノイド元素、イットリア(Y)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)等の遷移金属元素、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、プラチナ(Pt)等の貴金属元素、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)等の典型金属元素、セレン(Se)、ゲルマニウム(Ge)、テルル(Te)、アンチモン(Sb)等の元素であってよい。これらの置換元素は、典型的には、ドーパントとして機能し得る。置換元素の割合は特に制限されないものの、例えば、0.002原子%以上0.05原子%以下程度とすることができる。
【0021】
コア粒子の平均粒子径は、チタン酸バリウム微粒子の平均粒子径に概ね一致する。かかる平均粒子径は、厳密には制限されないものの、ハンドリング等の観点から、典型的には約10nm以上、好ましくは30nm以上、例えば40nm以上であり得る。また、平均粒子径は、例えば、500nm以下程度の大きさのものであれば粒子径を制御して作製可能であるが、より粒子径が微細なものが求められているとの観点から、約200nm以下であってよく、好ましくは150nm以下、例えば120nm以下であり得る。ただし、チタン酸バリウム微粒子の平均粒子径は製造方法により調整し得ることから、例えば上記の好適範囲から外れていてもよく、目的の用途等に応じて所望の大きさとすることができる。なお、平均粒子径は、例えば、コーディングを形成する有機物の添加量、溶媒の組成、製造工程における原料混合液の温度やpH等を制御することで調整することができる。
【0022】
また、ここでいうチタン酸バリウム微粒子の粉体についての「平均粒子径」とは、電子顕微鏡等の観察手段により観察される複数(例えば2以上)の観察視野あるいは観察像内で選定された100個以上の粒子の円相当径の算術平均値として定義される。本明細書においては、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)による観察により特定される平均粒子径を採用している。以下、SEM平均粒子径などともいう。そしてかかる平均粒子径は、後述の分散体におけるチタン酸バリウム微粒子のDLS法による平均粒子径とは明確に区別される。なお、このことからもわかるように、チタン酸バリウム微粒子は、典型的には、複数の粒子の集合体として粉末の形態で提供される。
【0023】
以上のコア粒子は、略球形の表面の少なくとも一部にポリビニル系高分子化合物を含む被覆部を備えている。被覆部は、後述の特性を有するものが、コア粒子の一部に付着していてもよいし、全体を被覆していてもよい。かかる被覆部は、コア粒子の粒子間の付着力や凝集力を好適に抑制し得るとの観点から、ポリビニル系高分子化合物を主体とすることが好ましい。ポリビニル系高分子化合物は、ビニル基(−CH=CH−)を有するモノマーの単独重合体、或いはビニル基(−CH=CH−)を有するモノマーを含む2種以上のモノマーの共重合体、それらの変性物、修飾物等を主体とする。なお、ここで「主体とする」とは、被覆部の全質量の50質量%以上がポリビニル系高分子化合物であることをいい、70質量%以上(好ましくは80質量%以上)がポリビニル系高分子化合物である。
【0024】
ビニル基を有するモノマーとしては、N−ビニル−2−ピロリドン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ジビニルベンゼン、スチレン、α―メチルスチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、フッ化ビニリデン等が例示される。具体的なポリビニル系高分子化合物としては、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリロニトリル、N−ビニル−ε−カプロラクタム等のN−ビニル環状ラクタム単位を有するポリマー、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン等が例示され、なかでもポリビニルピロリドンが好適例としてあげられる。これらは、被覆部によるコア粒子の過剰な被覆が好ましくないことから、典型的には、少なくともその一部が分解されて被覆量が概ね均一化され得る。その結果、この被覆部は、ポリビニル系高分子化合物が分解された分解生成物に相当する化学構造を含み得る。ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子においては、その構造をより明確に特定するために、被覆部は、分解されることによりN−H結合が形成され得るポリビニル系高分子化合物を含んでいることが好ましい。例えば、被覆部は、少なくともポリビニル系高分子化合物の分解生成物を含むことが好ましい態様であり得る。
【0025】
発明者らの検討によると、コア粒子が被覆部を備えていない場合やその被覆量が十分でない場合は、サイズ効果によりコア粒子の凝集が避けられない。一方で、コア粒子が過剰な量の被覆部により覆われている場合や、コア粒子の表面を覆う被覆部の量にムラ等がある場合は、チタン酸バリウム微粒子同士が被覆部により架橋されて凝集塊を形成してしまう事態が起こり得た。特に還流法により製造されるチタン酸バリウム微粒子では、被覆量の制御を精密には行い難く、一見して均質なチタン酸バリウム微粒子であっても複数の粒子の結合が見られる場合があった。このような場合、粉末状のチタン酸バリウム微粒子を分散媒に再分散させようとしても、チタン酸バリウム微粒子は単分散状態で分散媒中に均一に分散することは難しい。これに対し、チタン酸バリウム微粒子の表面の被覆部に適切な処理を行い、被覆部の一部を分解除去して被覆量を調整したり、被覆部のムラを低減させたりすることにより、チタン酸バリウム微粒子同士の架橋が顕著に抑制されて、分散媒への再分散性が著しく高められ得ることが判明した。詳細は不明であるものの、被覆部を構成するポリビニル系高分子化合物の化学構造を分解により乱れさせることで、被覆部同士の架橋が好適に抑制されるものと考えられる。ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子は、かかる知見に基づき完成されたものである。
【0026】
このような被覆部は、すくなくとも被覆部を構成する有機化合物の化学構造中に、ポリビニル系高分子化合物とその分解生成物に相当する構造が含まれているかどうかを調べることで確認することができる。かかる有機物の化学構造の特定方法は様々であるが、本明細書においては、比較的高精度な分析が可能で汎用されている手法として、フーリエ変換赤外分光分析(Fourier Transform Infrared Spectroscopy:FTIR)による定性分析を採用している。また、測定対象たる有機物はコア粒子の表面にのみ存在していることから、かかる分析は、試料表面で全反射する光を測定することにより試料表面の吸収スペクトルを得る、全反射(Attenuated Total Reflection:ATR)測定法により実施することが好ましい。
【0027】
一例として、ポリビニル系高分子化合物の好適例であるPVPは、一般式:(CNO);で示される組成を有し、次式に示されるように、5員環ラクタム構造およびビニル基を有するN−ビニル−2−ピロリドン(CHCHNCCO)が重合した構造の高分子化合物である。
【0028】
【化1】
【0029】
そしてポリビニル系高分子化合物は、例えば図2のPVPのFTIR吸収スペクトルに示すように、分子構造に由来して下記の所定の波数に下記のように帰属される吸収バンドが観察される。例えば、ポリビニル系高分子化合物の直鎖骨格に由来して、2980cm−1、2916cm−1、2882cm−1付近に吸収ピークが観測される。また、PVPの5員環構造に由来して、2949cm−1および2916cm−1付近に吸収ピークが観測される。
波数2980cm−1付近:直鎖CH逆対象伸縮振動
波数2916cm−1付近:直鎖CH対象伸縮振動
波数2882cm−1付近:直鎖CH伸縮振動
波数2949cm−1付近:環状CH逆対象伸縮振動
波数2916cm−1付近:環状CH対象伸縮振動
【0030】
そしてまた、PVPの分解生成物は、例えば、PVPの5員環ラクタム構造が開環したり、C=O結合やC−C骨格が分解されたりすることに起因して、CH基を備え得る。また、PVPの分解生成物は、窒素(N)と炭素(C)との結合が決裂されたことに起因して、NH結合を備え得る。したがって、FTIR分析により得られるスペクトルにおいて、これらCH基やNH結合に起因するスペクトルが確認されることで、PVPの分解生成物に相当する化学構造があると確認することができる。また、併せて、PVPに起因するC=O結合やC−N結合に起因するスペクトルが確認されることで、PVPの一部が分解されて分解生成物が形成されていると判断することができる。
【0031】
かかる観点から、ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子は、例えば、ATR法によるFTIRスペクトル(以下、FTIR−ATRスペクトルという。)において、波数1450cm-1近傍にCH基に由来する吸収ピークを有し、波数1550cm-1近傍にNH結合に由来する吸収ピークを有し、かつ、1650cm-1近傍にC=O結合に由来する吸収ピークを有している。
そして、ポリビニル系高分子化合物が十分に分解されていることが好ましいことから、1450cm-1近傍の吸収ピークの強度I1450と、1650cm-1近傍の吸収ピークの強度I1650との比(I1450/I1650)が、1よりも大きければ特に制限されないが、かかる比は2以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましく、2.9以上であることがさらに好ましく、3以上であることが特に好ましい。ポリビニル系高分子化合物の分解が進むにつれてCH基は大きく増大することから、これらのピーク強度比(I1450/I1650)の上限は特に制限されないが、チタン酸バリウム微粒子の合成時の分散性が確保され得るとの観点から、ポリビニル系高分子化合物がある程度存在していることも好ましい態様であり得る。したがって、ピーク強度比(I1450/I1650)は、例えば10以下とすることができ、7以下がより好ましく、5以下とすることができる。
【0032】
また同様に、1450cm-1近傍の吸収ピークの強度I1450と、1550cm-1近傍の吸収ピークの強度I1550との比(I1450/I1550)は厳密には制限されないが、PVPは一部を残して十分に分解されていることが好ましい。このことから、CH基とNH結合との比(I1450/I1550)は、8以上(8超過)であることが好ましく、8.05以上であることがより好ましい。また、ピーク強度比(I1450/I1550)の上限は特に制限されないが、例えば11以下、より好ましくは10以下とすることができる。
【0033】
なお、ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子において、上記のポリビニル系高分子化合物を含む被覆部は、例えばSEM等の電子顕微鏡観察によっては明瞭に確認できないことが殆どである。この点において、本発明者らの先行技術(特許文献3)に開示されるチタン酸バリウムナノ微粒子とは確実に区別され得る。そしてこの被覆部は、例えば、熱重量分析による重量減少率(%)からその付着量を確認することができる。すなわち、チタン酸バリウム微粒子に付着している被覆部の含有量は、極少量でも備えられていることで再分散性の向上が期待できるが、良好な再分散性を確保するためには6質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることが特に好ましい。また、被覆部の過剰な付着は、たとえその化学構造が分解されているとしてもチタン酸バリウム微粒子の架橋を招きやすいために好ましくない。したがって、被覆部の含有量は、10質量%以下(例えば10質量%未満)とすることができ、9.5質量%以下であることがより好ましく、9質量%以下であることが特に好ましい。
【0034】
このようなチタン酸バリウム微粒子は、上記のとおり、被覆部に、ポリビニル系高分子化合物の分解生成物に相当する化学構造を有している。また、被覆部が部分的に分解されることにより、被覆部の量が所定の範囲に調整されているとともに、互いの架橋が抑制されている。これにより、粉末の状態から、分散媒に分散させたときの分散性が著しく高められている。このような分散性は、例えば、分散媒中のチタン酸バリウム微粒子の凝集状態を評価する指標として、動的光散乱(Dynamic light scattering:DLS)法に基づく平均粒子径を用いることにより評価することができる。DLS法では、液体中に分散した大きさが主にサブミクロンからナノメートル領域にある粒子の平均径を推定したり、粒子径分布の広がりを測定したりすることができる。したがって、チタン酸バリウム微粒子を分散媒に分散させた分散体におけるチタン酸バリウム微粒子のDLS法に基づく平均粒子径が、上記の粉末状態における電子顕微鏡観察に基づく平均粒子径と同じかより近い程、チタン酸バリウム微粒子の凝集が抑制されているとして、分散性がよいと判断することができる。
DLS法に基づく平均粒子径は、JIS Z 8828:2013に準じて測定することができる。
【0035】
以下に、ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子の好適な製造方法を示すことで、かかるチタン酸バリウム微粒子の特徴についてさらに詳しく説明する。しかしながら、ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子の製造方法は下記の態様に限定されるものではない。
【0036】
ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子は、その製造方法は特に限定されないが、例えば、特許文献3に記載の加熱還流法により製造したチタン酸バリウム微粒子(以下、水熱処理前のチタン酸バリウム微粒子については「ナノ微粒子」という。)を出発材料として用い、このナノ微粒子を水熱処理して被覆部の形態および量を調整することで好適に得ることができる。
【0037】
ナノ微粒子の製造方法は、本発明の本質ではないためその説明を簡略化するが、図1Aに示したとおり、本質的には以下の工程を含んでいる。かかる加熱還流法によるナノ微粒子の製造の詳細については、特許文献3の開示を参照することができる。
(S10)チタン源、バリウム源およびポリビニル系高分子化合物を溶媒中で混合して、原料混合液を調製すること(混合工程)
(S20)原料混合液を所定の温度で加熱還流し、前駆体を析出させること(加熱還流工程)
(S30)加熱還流後の原料混合液を所定の冷却速度で冷却し、ナノ微粒子を得ること(冷却工程)
(S40)析出したナノ微粒子を回収すること(回収工程)
【0038】
<S10;混合工程>
先ず、原料として少なくともチタン(Ti)源とバリウム(Ba)源とポリビニル系分子化合物とを用意し、これらの原料を所定の溶媒中で混合して原料混合液を調製する。混合溶液に含まれる金属元素(Ti元素とBa元素)の量比は、目的物たるナノ微粒子の特性に応じて適宜調整することができる。原料混合液を調製する際は、全ての原料を一度に溶媒中に投入してもよく、逐次的にこれらの材料を溶媒中に投入してもよい。図1Aに示すフロー図では、先ずTi源とBa源とを溶媒中に添加して均一に分散させ、その後にポリビニル系高分子化合物を混合する例を示している。
【0039】
チタン源やバリウム源としては、各金属の塩(すなわちTi塩やBa塩)を好ましく使用することができる。これら金属塩におけるアニオンは、それぞれ該金属塩が使用する溶媒に可溶性となるよう適宜選択することができ、例えば、塩化物イオン、炭酸イオン、水酸化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン等であり得る。これら金属塩のアニオンは、同じであってもよく、互いに異なってもよい。図1Aに示すフロー図には、各金属の塩化物塩(すなわち塩化チタンと塩化バリウム)を用いる例を示している。原料混合液の濃度は、例えば、金属元素(ここではTiとBa)の合計を0.2mol/L〜2.2mol/L程度とすることができる。なお、上述のように、チタン酸バリウムのBaサイトおよびTiサイトを他の元素で置換させる場合には、当該他の元素の金属塩を、化学量論に基づき所望の割合で添加することができる。
【0040】
ポリビニル系高分子化合物としては、既に上述したものの中から1種または2種以上を特に限定することなく用いることができる。図1Aに示すフロー図には、ポリビニルピロリドン(PVP)を用いる例を示している。特に発明を限定するものではないが、かかる高分子化合物は、後述する加熱還流工程において、キレート化剤として働き得る。すなわち、該高分子化合物が析出した前駆体の表面に配位結合し得、これによって前駆体の成長が抑制されるため、微小な(ナノメートルサイズの)粒子を好適に得ることができる。加えて、得られた微粒子は表面が高分子化合物で薄く被覆されていることから、従来に比べ粒子間の付着力や凝集力が低減されたものであり得る。このため、例えば粉末状態で保管した場合であっても、凝集が生じ難いという効果を奏する。
【0041】
ポリビニル系高分子化合物の添加量はキレート形成に必要な化学量論量以上であればよく、原料混合液全体に占める高分子化合物の割合は、5質量%〜50質量%とすることが好ましい。換言すれば、金属元素(TiおよびBa)に対する高分子化合物のモル比は、通常0.01倍以上とすることができ、例えば0.01倍〜1倍とすることが好ましく、0.015倍〜0.5倍とすることがより好ましい。
【0042】
原料を分散させる溶媒(分散媒体)は、使用する原料化合物(すなわち、チタン源やバリウム源とポリビニル系高分子化合物)を均一に分散または溶解し得るものであれば特に限定なく使用することができる。かかる溶媒は、水または水を主体とする混合溶媒を用いることができる。混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)の1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。有機溶媒としては、例えば酸化によってアルデヒドを生成し得る官能基(例えばヒドロキシル基、カルボニル基、エーテル基)を含み、且つ沸点が比較的高い溶媒を好ましく使用し得る。特に好ましい溶媒として、エチレングリコール(沸点196℃)等の、ヒドロキシル基を含み、且つ沸点が100℃以上の有機溶媒が例示される。
【0043】
<S20;加熱還流工程>
次に、上記調製した原料混合液を所定の温度で加熱還流し、これによって原料混合液中に前駆体を析出させる。図1Aに示すフロー図では、加熱還流工程(S20)は、温度調整工程(S22)とpH調整工程(S24)と、を包含する。
温度調整工程(S22)では、原料混合液の温度を所定の範囲に調整する。還流温度の下限は、用いる溶媒の種類や製造するナノ微粒子の性状(例えば粒子径や粒子形状)等によっても異なり得るため特に限定されない。しかしながら、あまりに低い場合は還元速度が遅くなり、所定の方向のみが成長した形状(例えば平板形状)の前駆体が析出し得るために好ましくない。したがって、均質な球状のナノ微粒子を得るためには、温度環境を50℃以上とすることが好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上が特に好ましい。また、還流温度の上限は使用する溶媒の沸点に依存するが、例えば、比較的均質な被覆部を形成するとの目的からは、100℃以下とすることが好ましく、95℃以下がより好ましく、90℃以下が特に好ましい。
【0044】
反応混合液を上記温度範囲とすることで、還元反応を促進し得、比較的短時間で所望の前駆体を得ることができる。また、このとき、前駆体の表面にはポリビニル系高分子化合物が配位しているため、これによって前駆体の成長が適度に抑制され、微小な粉末状の前駆体を好適に得ることができる。なお、後述する実施例に示すように、上記温度の範囲においては還流温度とナノ微粒子の平均粒子径とが概ね相関関係にあり、還流温度が高くなるほど平均粒子径は大きくなる傾向にある。これは、還流温度を高く設定することで、溶媒の還元能力が高くなり、実質的にチタン酸バリウムからなるコア部の厚みが増すためである。
【0045】
加熱還流工程(S20)で析出する前駆体のサイズ(平均粒子径)は、pHに依存し得る。このため、図1Aのフロー図に示すように、温度調整工程(S22)後にpH調整工程(S24)を包含することが好ましい。pHの調整は、例えばpH調整用として一般的に用いられるアルカリ性溶液(例えば、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液など)を原料混合液中に添加することで行い得る。原料混合液の初期pHは、およそ10〜14(典型的には11〜12、例えば11.5前後)に調整する。そして、この初期pHを維持しつつ(すなわち、必要に応じて上記原料混合液中にアルカリ性水溶液を逐次的に供給しながら)加熱還流を行うことが好ましい。なお、本明細書中におけるpHの値は、液温25℃を基準とするpH値をいう。
【0046】
加熱還流の時間(すなわち前駆体の析出を継続する時間)は、目的とするナノ微粒子の性状(典型的には粒子径)に応じて適宜設定することができる。通常は、10分間〜120分間(好ましくは30分間〜90分間)程度とすることができる。傾向としては、より粒子径の大きなナノ微粒子を得るためには、より保持時間を長くするとよい。
【0047】
<S30;冷却工程>
そして、加熱還流後の(例えば50℃〜100℃の)原料混合液を、所定の冷却速度で冷却する。冷却速度とナノ微粒子の平均粒子径とは概ね相関関係があり、冷却速度が速くなるほど平均粒子径は小さくなる傾向にある。これは、急冷することで粒子の成長が抑制されるためである。そこで、前駆体を含む原料混合液の冷却は、通常0.2℃/s〜8℃/s程度の速度で急冷することが適当であり、概ね0.5℃/s〜2℃/s(多少の誤差は許容される)の平均冷却速度で行うことが好ましい。上記冷却速度の範囲とすることにより、略球状で且つ粒子径の揃ったナノ微粒子を好適に得ることができる。また、結晶性の良好なナノ微粒子を得ることができる。
【0048】
<S40;回収工程>
さらに、典型的には、上記冷却後の原料混合液から溶媒を除去し、析出したナノ微粒子を回収する。かかる方法は特に限定されないが、例えば遠心分離機でナノ微粒子を沈殿させ、上澄み液(溶媒)を除去してから乾燥させるとよい。あるいは、濾過によって溶媒から分離し、洗浄し、乾燥させてもよい。これによって、未反応の原料や副反応生成物等を好適に除去し得、純度の高いナノ微粒子を用意することができる。
【0049】
このようにしてナノ微粒子を用意した後は、図1Bのフロー図に示すように、以下の工程に沿って、ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子を製造することができる。
(S50)用意したナノ微粒子を分散媒中に分散させて、反応溶液を調製すること(溶液調製工程)
(S60)原料混合液を所定の温度で水熱処理すること(水熱処理工程)
(S70)被覆部の少なくとも一部を分解除去されたチタン酸バリウム微粒子を回収すること(回収工程)
【0050】
<S50;溶液調製工程>
用意したナノ微粒子を水熱処理に供するために、ナノ微粒子を分散媒中に分散させて反応溶液を調製する。分散媒としては、少なくとも水を含む水系分散媒を用いることができる。また、水系分散媒は、水であってもよく、その他、水のほかに水と均一に混合し得る低級アルコールを含む混合溶液であってもよい。水としては、イオン交換水、純水、蒸留水等を使用することができる。アルコールとしては、炭素数が1〜4の低級アルコールを好ましく用いることができる。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール等が挙げられる。
【0051】
水とアルコールとの混合溶液を用いる場合、両者の混合割合は特に制限されない。アルコールは、水熱反応の進行をやや緩和させる働きがある。したがって、用いるナノ微粒子の性状に合わせてアルコールの割合を変化させることができる。しかしながら、過剰なアルコールの含有は、水熱反応を阻害するために好ましくない。したがって、混合溶媒におけるアルコールの割合は、例えば70質量%以下とするのが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。
【0052】
反応溶液全体に対するナノ微粒子の割合は特に制限されないが、精度よく被覆部の分解量を調整するとの観点から、例えば、20質量%以下とすることができ、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がより好ましい。効率よく被覆部を分解するとの観点から、例えば、0.5質量%以上とすることができ、1.0質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上がより好ましい。
【0053】
<S60;水熱処理工程>
ついで、上記のように調製した反応溶液に対して、水熱処理を施す。水熱処理は、例えば、水溶液に対して、150℃以上240℃以下の温度範囲かつ1気圧を超える圧力条件での加熱処理を行うことを特徴としている。かかる水熱処理は、例えば、オートクレーブ等の高温高圧環境を形成し得る装置等を利用して実施しても良い。
【0054】
反応温度は、被覆部の分解を効率的に促進するとの観点から、150℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましく、170℃以上が特に好ましい。その一方で、反応温度が高すぎると、被覆部を構成するポリビニル系高分子化合物の全体を分解してしまい、精密な分解除去が困難となるために好ましくない。かかる観点から、水熱合成の上限温度は240℃以下が好ましく、235℃以下がより好ましい。
【0055】
また、反応時の圧力は、大気圧よりも高い圧力条件(典型的には1気圧超過、好ましくは2気圧以上)とすることが肝要である。このような反応環境は、例えば、上記原料混合液を密閉容器に入れるなどし、圧力調整が可能な環境で加熱することで実現することができる。反応時の圧力の上限は厳密には規定されないが、例えば、45気圧以下程度、好ましくは35気圧以下程度、例えば4〜30気圧程度とすることができる。例えば、原料混合液を密閉容器に容積の1/3程度収容して加熱することを、おおよその目安とすることができる。
【0056】
水熱処理の時間は特に制限されず、ナノ微粒子における被覆部の量等に応じて適宜制御することができる。概ね、水熱処理の時間が長くなるほど、被覆部の分解量が多くなり、水熱処理の時間が短くなるほど、被覆部の分解量が少なくなる。水熱処理の時間のおおよその目安は、例えば、30分以上とすることができ、1時間以上がより好ましく、例えば2時間以上とすることもできる。しかしながら、ナノ微粒子における被覆部の量はナノ微粒子の用意の際にある程度制御しておくことがより好ましいことから、水熱処理の時間は、例えば、12時間以下、好ましくは6時間以下、例えば3時間以下に抑えることが好ましい。これにより、ナノ微粒子における被覆部を適度に分解除去することができる。
【0057】
なお、ナノ微粒子における被覆部の分解の様子は、上記のとおり、被覆部の割合は6質量%以上10質量%以下であり、FTIR分析により得られるスペクトルにおいて、波数1450cm-1近傍の吸収ピークの強度I1450と、波数1550cm-1近傍の吸収ピークの強度I1550と、の強度比(I1450/I1550)が8より大きくなることを目安に実施することができる。
【0058】
<S70;回収工程>
次いで、上記の反応溶液から溶媒を除去し、被覆部の少なくとも一部が分解されたチタン酸バリウム微粒子を回収する。回収方法は特に限定されないが、上述のように、例えば遠心分離機でナノ微粒子を沈殿させて上澄み液(溶媒)を除去したり、ろ過によって溶媒から分離したりしたのち、洗浄して乾燥させるとよい。このとき洗浄は、使用した溶媒と同種の溶媒を用いるとよい。乾燥手法としては、例えば、熱風乾燥装置、低湿風乾燥装置、真空乾燥装置、各種赤外線乾燥装置、電磁誘導乾燥装置、マイクロ波乾燥装置、ドライエアー等や、送風、減圧、加熱等の乾燥促進手段を単独または組み合わせて用いることができる。乾燥の条件(例えば乾燥手法や所要時間)は、溶媒の種類や溶媒量によって適宜決定することができる。これによって、未反応の原料や副反応生成物等を好適に除去し、純度の高いチタン酸バリウム微粒子を得ることができる。また、動的光散乱法に基づく平均粒子径が20nm以上250nm以下であって、再分散性に優れたチタン酸バリウム微粒子を得ることができる。
【0059】
このようにして得られるチタン酸バリウム微粒子の粉体(微粒子群)は、チタン酸バリウムコア粒子の表面に、少なくともポリビニル系高分子化合物の分解生成物に由来する有機物を備えている。このため、例えば粉末状態で保管した場合であっても、凝集が生じ難い。また、詳細は定かではないが、ポリビニル系高分子化合物の少なくとも一部が分解され、またその量および形態が制御されていることから、この粉末を再度分散媒に分散させた場合に、分散媒中でチタン酸バリウム微粒子が極めて分散性良く分散するという格別の効果を奏する。このことは、これまでに知られていない新しい知見であり得る。
【0060】
以上のことから解るように、ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子は、一旦粉末状態とした後でも、分散媒に対する分散性に優れたものとして提供される。したがって、ここに開示する技術は、このチタン酸バリウム微粒子を分散媒に分散させてなる分散体をも提供する。かかる分散体における分散媒は特に制限されない。例えば、イオン交換水、蒸留水、純水等の水、エタノール、2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、テルピネオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トルエン、キシレン、ミネラルスピリット、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール等の有機溶媒等であってよい。
【0061】
なお、上記分散体には、必要に応じてバインダや各種添加剤(例えば、界面活性剤、消泡剤、可塑剤、増粘剤、酸化防止剤、分散剤、重合禁止材等)を適宜添加することができる。バインダとしては、目的の誘電体デバイスの製造時の脱バインダ処理(典型的には酸化雰囲気中での20℃〜500℃の加熱処理)によって蒸発除去(脱脂)することができるものを好ましく用いることができる。具体的には、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリブチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルブラチール等を用いることができる。
上記ペースト状組成物全体におけるナノ微粒子の割合は特に制限されないが、例えば30質量%〜70質量%(好適には40質量%〜60質量%)とすることができる。
【0062】
この分散体は、上述のように、例えば、分散質であるチタン酸バリウム微粒子のDLC法に基づく粒度分布のCV値が50%以下のものとして提供され得る。そのため、ナノメートルオーダーの微細なチタン酸バリウム微粒子が高度に分散した分散体であり得る。したがって、このような分散体を用いることで、例えば、チタン酸バリウムからなるより薄くより均質な誘電体層を安定して形成することが可能とされる。したがって、この分散体は、例えば、図6に示すような積層セラミックコンデンサの製造に好適に使用することができる。
【0063】
図6は、積層セラミックコンデンサ1を模式的に示した断面図である。積層セラミックコンデンサ1は、上記チタン酸バリウム微粒子を用いて形成された誘電体層(セラミック層)12と、この誘電体層12上に形成された内部電極層22とが交互に積層されなる電子部品本体10と、該電子部品本体10の外側に設けられた外部電極20とを備えている。この積層セラミックコンデンサ1は、典型的には、以下の手順で製造することができる。すなわち、まず、チタン酸バリウム微粒子を含む分散体をキャリアシート状に供給(塗布、成形等であり得る。)し、誘電体材料からなるグリーンシートを形成する。そしてこのグリーンシート上に内部電極形成用の電極ペーストを所定の電極パターンで供給(印刷、転写を含む)する。このような電極パターン付きグリーンシートを複数枚(例えば100枚以上)作製し、これらを積層、圧着することによって未焼成の積層チップを作製する。次いで、かかる積層チップを乾燥させ、所定の加熱条件(最高焼成温度が概ね1000℃〜1400℃)で所定時間(最高焼成温度を維持する時間としては、例えば、10分〜2時間程度)焼成する。これによって、グリーンシートが焼成されて誘電体層12が形成され、電極ペーストが焼成されて内部電極層22が形成される。そして、複数の誘電体層12の間に内部電極層22が挟まれた形態の積層セラミックコンデンサ1の電子部品本体10が作製される。その後、この電子部品本体10の所望の箇所に、外部電極形成用のペースト状組成物を塗布し、焼成することによって、外部電極20を形成する。このようにして、積層セラミックコンデンサ1を製造することができる。なお、上述した積層セラミックコンデンサ1の構築プロセスは、特に本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明を省略している。
【0064】
ここで誘電体層12の形成に用いたチタン酸バリウム微粒子(およびコア粒子)はナノメートルオーダーで微細であり、高誘電体材料として好ましい性状を有している。また、チタン酸バリウム微粒子を分散媒に分散させた分散体(スラリーであり得る。)におけるチタン酸バリウム微粒子の分散性は極めて良好であり得る。したがって、誘電体材料からなるグリーンシートおよびその焼成物である誘電体層12は、薄く緻密で均質なものとして作製することができる。これにより、誘電体層12の薄層化、延いては積層セラミックコンデンサ1の小型化と高品質化とを実現することができる。
【0065】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0066】
(比較例1)
まず、Ti源としての塩化チタン(TiCl)と、Ba源としての塩化バリウム(BaCl)とを、Ti元素:Ba元素=1:2のモル比となるように秤量した。また、Ti源およびBa源から理論的に得られるチタン酸バリウム(BaTiO)に対して2.1倍の質量割合となるようにポリビニルピロリドン(PVP)を秤量した。そして、これらの塩化チタン、塩化バリウムおよびPVPを、溶媒としての水に添加して撹拌し、原料溶液を調製した(S10)。次いで、この原料溶液にアルカリ水溶液を加えて、原料溶液のpHを10〜14のアルカリ性に調整した。そしてこの原料溶液を還流装置に入れ、80℃の還流温度で約1時間還流させることで、前駆体を析出させた(S20)。このようにして得られた混合液を室温(25℃)にまで冷却し(S30)、前駆体を濾過して回収し、さらにイオン交換水で洗浄したのち、65℃で真空乾燥することで、粉末状のナノ微粒子を得た。このナノ微粒子を、比較例1のサンプルとした。
【0067】
(実施例1〜2、比較例2〜3)
次いで、上記で得られたナノ微粒子(比較例1のサンプル)を、下記表1に示す分散媒に添加して液体試料を用意したのち、この液体試料をオートクレーブ用反応容器に入れ、オートクレーブにて表1に示す処理条件で水熱処理を施すことにより、チタン酸バリウム微粒子を得た。得られたチタン酸バリウム微粒子は、ろ過して回収したのち、イオン交換水で洗浄し、65℃で真空乾燥して粉末状とすることで、各例のサンプルとした。なお、実施例1における水とエタノールとの混合比は、体積比で、水:エタノールとして50:50とした。
【0068】
(比較例4)
比較例1において、Ti源およびBa源をTi元素:Ba元素=1:1となるモル比とし、PVPをチタン酸バリウムに対して8.6倍の質量割合となるようにし、その他の条件は比較例1と同様にして、粉末状のナノ微粒子を得た。このナノ微粒子を、比較例4のサンプルとした。
【0069】
(実施例3)
次いで、このナノ微粒子(比較例4のサンプル)を、下記表1に示す分散媒に添加して液体試料を用意したのち、この液体試料をオートクレーブ用反応容器に入れ、オートクレーブにて表1に示す処理条件で水熱処理を施すことにより、チタン酸バリウム微粒子を得た。得られたチタン酸バリウム微粒子は、ろ過して回収したのち、イオン交換水で洗浄し、65℃で真空乾燥して粉末状とすることで、実施例3のサンプルとした。
【0070】
(比較例5)
市販のチタン酸バリウム微粒子(シグマアルドリッチ社製、チタン(IV)酸バリウム、粒子径;<100nm(BET))を用意して、比較例5のサンプルとした。なお、このチタン酸バリウム微粒子は有機物によるコーティングを備えていない。
【0071】
[SEMによる平均粒子径]
得られた各例のサンプルについて、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、JSM−6490LA)にて観察し、100個以上の粒子について測定した円相当径の算術平均から、平均粒子径を算出した。その結果を表1の「平均粒子径」の「SEM」の欄に示した。
【0072】
[DLSによる平均粒子径]
得られた各例のサンプルについて、動的光散乱法(DLS法)により平均粒子径を測定した。すなわち、チタン酸バリウム微粒子の粉末を蒸留水に分散させた分散体の状態で、チタン酸バリウム微粒子の平均粒子径を求めた。粒度分布はダイナミック光散乱光度計(大塚電子(株)製、DLS7000)を用いて測定し、キュムラント解析法により平均粒子径を算出した。測定に際しては、分散体の23℃における粘度をレオメータにより測定し、この値を溶媒の粘度として用いた。測定は各サンプルについて、5バッチのそれぞれで行い(5回)、その平均値を表1の「平均粒子径(DLS)」の欄に示した。なお、分散媒である水の粘度および屈折率としては、粘度:0.8902、屈折率:1.3313を用いた。
【0073】
[FTIR測定]
得られたチタン酸バリウム微粒子について、FTIR測定を行うことにより、表面に付着した有機物の構造推定(定性分析)を行った。測定には、フーリエ変換近赤外分光分析装置(PerkinElmer社製,Frontier IR)を用い、ATR法にて波数4000〜2500cm−1および2000〜1000cm-1の範囲にて実施した。FTIR測定における測定分解能は4cm−1、スキャンスピードは0.2cm−1/S、積算回数は4回とした。
図3および図4に、各例のサンプルとPVP(単体)についての測定スペクトルを示した。FTIRスペクトルにおける1450cm-1近傍のスペクトルは−CH基に由来し、1550cm-1近傍のスペクトルはNH結合に由来し、1650cm-1近傍のスペクトルはC=O結合に由来する。各スペクトルにおける1450cm-1近傍の吸収ピークの強度I1450と、1650cm-1近傍の吸収ピークの強度I1650とのピーク強度比(I1450/I1650)を算出し、表1の「FTIRピーク比 I1450/I1650」の欄に示した。また、各スペクトルにおける1450cm-1近傍の吸収ピークの強度I1450と、1550cm-1近傍の吸収ピークの強度I1550とのピーク強度比(I1450/I1550)を算出し、表1の「FTIRピーク比 I1450/I1550」の欄に示した。なお、ピーク強度比の算出において、両波数のピーク強度は、1800cm-1と1100cm-1の測定ポイントを繋いだベースラインからの高さとした。
【0074】
[有機物量の測定]
各例のサンプルについて、熱重量分析を行うことで、チタン酸バリウム微粒子の表面に付着している有機物量を測定した。測定には、示差熱天秤((株)リガク製,TG―DTA)を用いて、室温(25℃)から800℃までの範囲で計測を行った。得られた重量減少率を、表1の「重量減少量」の欄に示した。また、参考のために、実施例1、比較例1、3、5についてのTG曲線を図5に示した。
【0075】
【表1】
【0076】
[評価]
まず、図4(a)(b)の4000〜2500cm−1のFTIR−ATRスペクトルから、チタン酸バリウムのみからなる比較例5を除く他の例のスペクトルには、ポリビニル系高分子化合物(ここではPVP)の化学構造に由来する吸収スペクトルが観測され、チタン酸バリウムからなるコア粒子の表面に、ポリビニル系高分子化合物の被覆部が備えられていることが確認できた。
【0077】
比較例1のサンプルは、加熱還流法により作製したナノ微粒子であり、表面がPVP被膜部により覆われたチタン酸バリウム微粒子である。比較例1のサンプルは、SEMによる平均粒子径が65nmと小さく、また、粒子径の揃ったチタン酸バリウム微粒子が得られていることが確認された。なお、SEM観察において、チタン酸バリウムからなるコア粒子の表面がPVPにより被覆されていることが確認できた。さらに、複数のチタン酸バリウム微粒子が結合しており、PVPにより架橋されて二次粒子を形成していることも確認された。比較例1のサンプルの熱重量減少率は12%であり、比較的多量のPVPがコア粒子の表面を覆っていることが確認された。比較例1のサンプルのI1450/I1650とI1450/I1550はいずれも1.51、4.55と比較的小さいことから、1650cm-1近傍のPVPに特徴的なC=O結合に由来するピークが比較的大きく、C=O結合の分解により形成されるCH基に由来する1450cm-1近傍のピークと、NH結合に由来する1550cm-1近傍のピークとが比較的小さいことがわかる。すなわち、比較例1のサンプルにおいて、PVPはほぼ分解されずにコア粒子の表面に残存していることが確認された。このような比較例1のサンプルのDLSによる平均粒子径は260nmと粗大化し、分散媒中でいくつかの粒子が凝集を形成してしまい、再分散性は改善の余地があることが確認された。
【0078】
これに対し、実施例1は、比較例1のサンプルを水熱処理してチタン酸バリウム微粒子を得た例である。実施例1の水熱処理は、水とアルコールとの混合溶液からなる分散媒中で実施された。実施例1のサンプルのFTIRスペクトルは、1650cm-1近傍のピークが大幅に小さくなり、代わりにCH基に由来する1450cm-1近傍のピークとNH結合に由来する1550cm-1近傍のピークが強くなり、その結果、I1450/I1650およびI1450/I1550の値がいずれも比較例1に比べて2.92(約1.9倍)、9.60(約2.1倍)と増大することがわかった。また、熱重量減少率は8%であり、比較例1に比べて被覆部のPVP量が減少していることも確認された。これらの結果から、実施例1のサンプルでは、水熱処理により被覆部の一部のPVPが分解されて、PVPの分解生成物が存在していることがわかる。そして、このような実施例1のサンプルのDLSによる平均粒子径は210nmと比較的小さく、チタン酸バリウム微粒子の再分散性は比較例1より改善されていることがわかった。このことから、ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子は、チタン酸バリウムからなるコア粒子の表面に備えられたPVP被覆部の一部が分解、除去されることにより、過剰なPVPが除去されたり、被覆ムラが解消されたりして、良好な再分散性を示すことが確認された。
【0079】
実施例2は、水熱処理における分散媒を水のみとした例である。実施例2では、実施例1と比べて、I1450/I1650が大きく、I1450/I1550が小さくなり、熱重量減少量が9%と若干増大している。すなわち、実施例1に比べて水熱処理による被覆部のPVPの分解がマイルドに進行している様子が見て取れる。しかしながら、比較例1に比べると、I1450/I1650は3.35で約2.2倍、I1450/I1550が8.08で約1.8倍と、PVPの分解が十分に進行していることが確認できる。その結果、実施例2のチタン酸バリウム微粒子のDLSによる平均粒子径は250nmと若干増大し、チタン酸バリウム微粒子の再分散性は良好ではあるものの、実施例1よりは若干低下したことがわかった。このことから、ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子は、水熱処理に用いる分散媒によりPVP被覆部の分解状況が変化されることがわかった。分散媒は、水を含んでいればよいが、実施例1のように水と共にアルコールを含んでいることによりPVPの分解が促進され得ることがわかった。
【0080】
比較例2は、水熱処理における分散媒をアルコールのみとした例である。比較例2では、実施例1と比べて、I1450/I1650、I1450/I1550および熱重量減少量が比較例1とほぼ同じであり、水熱処理を行っても被覆部のPVPの分解が殆ど進行していないことがわかった。比較例1に比べると、I1450/I1650は1.52で約1.0倍、I1450/I1550が4.10で約0.9倍と、PVPの分解がさほど進行していないことが確認できた。その結果、比較例2のチタン酸バリウム微粒子のDLSによる平均粒子径は390nmと大きく増大し、チタン酸バリウム微粒子が大きな凝集を形成し、再分散性が比較例1よりも低下したことが確認された。水熱処理により再分散性が悪化することの理由は明確ではないが、分散媒をアルコールのみとした水熱処理により、被覆部のPVPは分解されないが、被覆部のムラが増大されたことが予想される。このことから、水熱処理における分散媒は水を含むことが必要であり、水熱処理を適切に行うことでチタン酸バリウム微粒子の再分散性が向上されることが確認できた。
【0081】
比較例3は、実施例1と比べて、水熱処理の時間を24時間にまで延長したものである。比較例3のサンプルは、実施例1と比べて、I1450/I1650およびI1450/I1550が著しく大きくなり、熱重量減少量が5%と減少している。比較例1に比べると、I1450/I1650は14.98で約9.9倍、I1450/I1550が11.30で約2.5倍と大きいことが確認できた。すなわち、比較例3では、実施例1に比べて水熱処理による被覆部のPVPの分解が大きく進行している様子が見て取れる。その結果、比較例3のチタン酸バリウム微粒子のDLSによる平均粒子径は、チタン酸バリウム微粒子の凝集がひどく、測定不可能となった。このことから、ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子は、水熱処理によりPVPの分解除去が過剰に行われても、再分散性を却って低下させるために好ましくないことがわかった。また、水熱処理によるPVPの分解の程度は、水熱処理時間により調整可能であることも確認できた。
【0082】
比較例4は、比較例1と同様に加熱還流により作製したナノ粒子であり、調合の違いによりSEM平均粒子径が109nmと大きくなっている。しかしながら、この比較例4では、比較例1と比べて、熱重量減少量は略同じであるが、I1450/I1650およびI1450/I1550が若干低下する結果であった。すなわち、PVPの被覆が若干少ないことが理解される。このような比較例4のチタン酸バリウム微粒子のDLSによる平均粒子径は216nmと比較例1に比べて小さいが、十分に低減されているとは言えない。このことから、還流時の条件によりPVPの被覆量やその形態は若干変化するものの、再分散性を好適にするには十分でないことが確認できた。
【0083】
実施例3は、比較例4における水熱処理時の分散媒として蒸留水のみを用いた例である。つまり、実施例2と比較してSEM平均粒子径が109nmと大きく、分散性の良いもので水熱処理を実施した例である。この実施例3では、実施例2と比べて、I1450/I1650およびI1450/I1550ならびに熱重量減少量に大きな差異はない。そして比較例4に比べると、I1450/I1650は3.40で約2.6倍、I1450/I1550が8.10で約1.8倍と、PVPの分解が十分に進行していることが確認できる。このような実施例3のチタン酸バリウム微粒子のDLSによる平均粒子径は200nmと小さくなり、チタン酸バリウム微粒子の再分散性は比較例4よりもさらに改善されていることがわかった。このことから、ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子は、チタン酸バリウムからなるコア粒子の表面に備えられたPVP被覆部の一部が分解、除去されることにより、過剰なPVPが除去されたり、被覆ムラが解消されたりして、良好な再分散性を示すことが確認された。
【0084】
比較例5は、市販のチタン酸バリウム微粒子であり、SEM平均粒子径は100nmと比較例4に近い大きさであるものの、PVP等の有機物による表面処理は為されていない。その結果、水に対する再分散性が極めて悪く、チタン酸バリウム微粒子が激しく凝集し、DLSによる平均粒子径の測定は不可能であった。このことからも、ナノメートルサイズのチタン酸バリウム微粒子の分散媒への再分散を行うには、チタン酸バリウム微粒子に対して何らかの表面処理を行うことが必要であることがわかる。
【0085】
そこで、各例のチタン酸バリウム微粒子に係るFTIR−ATRスペクトルを再確認すると、図3に示されるように、比較例1、2、4およびPVPのスペクトルの比較から、これらは1650cm-1近傍のPVPに特徴的なC=O結合に由来するピークが大きいことがわかる。これに対し、実施例1〜3では1650cm-1近傍のピークが低くなっており、比較例3や5ではこのピークはほぼ見られないことが確認できる。これに対し、CH基に由来する1450cm-1近傍のピークは、実施例1〜3では比較例1、2、4およびPVPよりも大きくなっている。比較例3は、1450cm-1近傍のピークは明瞭に確認できるものの、1650cm-1近傍のピークはほぼ確認できないことがわかった。これらは、PVPの分解の程度に一致しており、これらのピークによりコア粒子の表面の有機物の分解の程度がよく確認できることがわかる。以上のことから、ここに開示されるチタン酸バリウム微粒子は、チタン酸バリウムからなるコア粒子の表面に、PVPが分解されてなる分解生成物が存在していること、また、PVPに由来する被覆部の量および状態を適切に制御することにより、良好な再分散性を備え得ることが確認できた。
【0086】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6