(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭素源を含む液体状の物質は、アルコール、ケトン、ケロシン、オクタンまたはガソリンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の不定比酸化チタン微粒子の製造方法。
前記熱プラズマ炎は、水素、ヘリウム及びアルゴンの少なくとも1つのガスに由来するものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の不定比酸化チタン微粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の不定比酸化チタン微粒子の製造方法を詳細に説明する。
本発明において、不定比酸化チタンとは、一般的には、不定比化合物であるようなチタン酸化物のことである。不定比化合物とは、定比組成からのずれ(不定比性)を示す化合物のことである。なお、不定比酸化チタンは、亜酸化チタンともいう。
【0013】
したがって、本発明では、不定比酸化チタン微粒子として、酸素が定比組成(TiO
2)から少ないTiO
x(1<x<2)粒子を挙げることができる。原料としては、二酸化チタン(TiO
2)の粉末を用いることができる。
ここで、二酸化チタン(TiO
2)は、耐食性に優れ、かつ絶縁性を有する。一方、不定比酸化チタン(TiO
x(1<x<2))は、耐食性に優れ、かつ導電性を有し、しかも可視光を吸収する。このように、本発明では、二酸化チタンとは性質の異なる不定比酸化チタンの微粒子が得られる。
【0014】
本発明では、二酸化チタンの粉末のみを用いており、不定比酸化チタン微粒子を構成するチタン以外の金属元素を用いないため、高い純度の不定比酸化チタン微粒子を得ることができる。
熱プラズマ炎を用いた熱プラズマ法では、一般的に、熱プラズマ炎に供給する原料粉末の粒径が100μm程度であっても、粒径が200nm未満のナノサイズの粒子が得られることが知られている。このため、本発明でも、原料粉末として100μm程度の粒径の二酸化チタンの粉末を用いても、粒径が200nm未満の不定比酸化チタン微粒子が得られる。なお、本発明の不定比酸化チタン微粒子は粒径が200nm未満であるが、不定比酸化チタン微粒子の粒径は5〜100nmであることがより好ましい。
このように、本発明では、原料である二酸化チタンの粉末について、原料としてナノサイズの粒子を用いなくても、ナノサイズの不定比酸化チタン微粒子が得られるため、扱いが難しいナノサイズの粒子を用いて生産性が低下することもない。
【0015】
原料である二酸化チタンの粉末の粒径は、1〜100μmであることが好ましい。二酸化チタンの粉末は、その粒径が1μm未満ではハンドリングが難しくなる。一方、二酸化チタンの粉末は、その粒径が100μmを超えると熱プラズマ処理の際に蒸発しない量が多くなる。
ここで、本発明において、粒径とは、比表面積測定から換算して求めた値である。
なお、不定比酸化チタン微粒子の粒子サイズをナノサイズ化することにより発現する特性としては、樹脂またはガラス等に分散させた場合に透過性が向上する。これ以外に、ナノサイズ化で発現する特性としては、熱伝導率の低下、および比表面積の増加等がある。
また、粒径が200nm未満の不定比酸化チタン微粒子の用途としては、例えば、熱線遮蔽材料、熱電素子、並びに触媒及び担持材が例示される。
【0016】
本発明では、二酸化チタンの粉末が炭素源を含む液体状の物質に分散され、さらに水を添加されたスラリーを液滴化させて酸素を含まない熱プラズマ炎中に供給した際に、熱プラズマ炎で液体状の物質から生成された炭素が、二酸化チタンの粉末に対して還元剤として働き、熱プラズマ炎により、二酸化チタンの粉末が一部還元され、不定比の酸化物となる。熱プラズマ炎には酸素が含まれていないために、生成された炭素は二酸化チタンの粉末の酸素と結合することにより、定比の酸化物である二酸化チタンから酸素が奪われて不定比の酸化物となる。このようにして、二酸化チタンの粉末から、不定比酸化チタン微粒子が生成されることになる。
【0017】
また、本発明において用いられる二酸化チタンの粉末は、主要な成分として二酸化チタンの粉末を含み、不定比酸化チタン微粒子を製造できれば、二酸化チタン以外の酸化チタンの粉末を含むものであっても良い。
ここで、本発明に用いられる熱プラズマ炎は、酸素を含まない熱プラズマ炎であるが、不定比酸化チタン微粒子の製造において、熱プラズマ炎で炭素源を含む液体状の物質から生成された炭素が、二酸化チタンを還元して不定比酸化チタン微粒子を製造できるだけの量が確保されるのであれば、熱プラズマ炎は酸素を含むものであってもよい。また、熱プラズマ炎は酸素を全く含まないものであることが好ましいのはもちろんである。ここで、熱プラズマ炎が酸素を含むとは、プラズマガスに酸素ガスや空気等の酸素を含むガスを一部または全部に用いた熱プラズマ炎のことであり、一方、熱プラズマ炎が酸素を含まないとは、プラズマガスに酸素ガスや空気等の酸素を含むガスを一部または全部に用いない熱プラズマ炎のことである。
以下に、本発明に係る不定比酸化チタン微粒子の製造方法について説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る不定比酸化チタン微粒子の製造方法を実施するための微粒子製造装置の全体構成を示す模式図である。
図2は、
図1中に示したプラズマトーチ付近の部分拡大図である。
図3は、
図1中に示したチャンバの天板、及びこの天板に備えられた2種類の気体射出口付近を拡大して示す断面図である。また、
図4は、サイクロンを拡大して示す断面図である。
【0019】
図1に示す微粒子製造装置10は、熱プラズマを発生させるプラズマトーチ12と、二酸化チタン(TiO
2)の粉末を、後述するように、スラリー状にしてプラズマトーチ12内へ供給する材料供給装置14と、不定比酸化チタン(TiOx(1<x<2))の微粒子(1次微粒子)15を生成させるための冷却槽としての機能を有するチャンバ16と、生成された1次微粒子15から任意に規定された粒径以上の粒径を有する粗大粒子を除去するサイクロン19と、サイクロン19により分級された所望の粒径を有する不定比酸化チタン(TiOx)微粒子(2次微粒子)18を回収する回収部20と、を有する。
【0020】
本実施形態においては、二酸化チタンの粉末(以下、二酸化チタン原料ともいう)を、炭素源を含む液体状の物質(以下、炭素含有分散媒、又は単に分散媒ともいう)に分散させて、更に水を加えてスラリー状にしたスラリーを用いて、微粒子製造装置10によりナノサイズの不定比酸化チタン微粒子が製造される。
【0021】
図2に示すプラズマトーチ12は、石英管12aと、その外側を取り巻く高周波発振用コイル12bとで構成されている。プラズマトーチ12の上部には、後述するように、スラリー26の供給管14aがその中央部に設けられており、プラズマガス供給口12cがその周辺部(同一円周上)に形成されている。
【0022】
プラズマガスは、プラズマガス供給源22からプラズマガス供給口12c(
図2参照)へ送り込まれる。
本実施形態においては、後述する熱プラズマ炎24中で、炭素含有分散媒を燃焼させることなく分解して炭素を発生させるために、プラズマガスには酸素を含まないものを用いることが好ましい。このプラズマガスとしては、例えば、水素ガス(H
2)、ヘリウムガス(He)、アルゴンガス(Ar)等が挙げられる。プラズマガスは、単体に限定されるものではなく、水素とアルゴン、ヘリウムとアルゴン、又は水素とヘリウムとアルゴンのように、これらプラズマガスを組み合わせて使用してもよい。
【0023】
プラズマガス供給源22には、例えば水素、及びアルゴンの2種類のプラズマガスが準備される。プラズマガス供給源22は、例えば水素、及びアルゴンを内部にそれぞれ貯蔵する高圧ガスボンベ22a、及び22bと、高圧ガスボンベ22a、及び22bをプラズマトーチ12に接続するガス配管22cとを有する。
プラズマガスは、プラズマガス供給源22も高圧ガスボンベ22a、及び22bから、ガス配管22c、及び
図2に示すリング状のプラズマガス供給口12cを介して、矢印Pで示されるようにプラズマトーチ12内に送り込まれる。そして、高周波発振用コイル12bに高周波電圧が印加されて、例えば、水素とアルゴンとの2種類のプラズマガスから酸素を含まない熱プラズマ炎24が発生する。
【0024】
水素、及びアルゴンの2種類のプラズマガスを用いる場合、熱プラズマ炎24のプラズマガスにおける水素、及びアルゴンの割合は、アルゴンの量に対して、水素の量を0〜20vol%とすることが好ましい。
なお、この場合、プラズマガスの供給量ついては、アルゴンは10〜300リットル/minとすることが好ましい。
また、プラズマガス供給源22から、プラズマガスとしてアルゴン、ヘリウム、及び水素を供給し、プラズマトーチ12内に熱プラズマ炎24を発生させる場合には、熱プラズマ炎24のプラズマガスにおける水素、ヘリウム、アルゴンの割合は、ヘリウム及びアルゴンの総量に対して、水素の量を0〜20vol%とすることが好ましい。
なお、この場合、プラズマガスの供給量ついては、アルゴンは10〜300リットル/minとし、ヘリウムは5〜30リットル/minとすることが好ましい。
また、本発明では、プラズマガスとしてヘリウム、及び水素の2種類を用いても良く、この場合には、ヘリウムの総量に対して水素の量を0〜20vol%とするのが良い。
【0025】
なお、石英管12aの外側は、同心円状に形成された管(図示されていない)で囲まれており、この管と石英管12aとの間に冷却水を循環させて石英管12aを水冷し、プラズマトーチ12内で発生した熱プラズマ炎24により石英管12aが高温になりすぎるのを防止している。
【0026】
図1に示すように、材料供給装置14は、プラズマトーチ12の上部に接続され、二酸化チタン原料を、炭素含有分散媒に混ぜ、更に水を加えて調製されたスラリー26を材料供給装置14からプラズマトーチ12内へ均一に供給する。
本発明においては、二酸化チタン原料を炭素含有分散媒に混ぜて得られたスラリーに水を加えて調整したスラリー26を用いることにより、二酸化チタン原料と炭素含有分散媒とのスラリーを用いる場合に比べて、製造される不定比酸化チタン微粒子の酸化還元の程度を変えることができ、製造された不定比酸化チタン微粒子のシート抵抗を低下させることができる。
更に、本発明においては、スラリー26を作製する際の水の量を調整することにより、添加される水の量に応じて、製造される不定比酸化チタン微粒子の酸化還元の程度を調整することができ、製造された不定比酸化チタン微粒子のシート抵抗を変化させることができる。
【0027】
材料供給装置14は、スラリー26を液滴化してプラズマトーチ12の内部に供給する供給管14aと、スラリー26を入れる容器14bと、容器14b中のスラリー26を攪拌する攪拌機14cと、供給管14aを介してスラリー26に高圧をかけてプラズマトーチ12内に供給するためのポンプ14dと、スラリー26をプラズマトーチ12内へ噴霧するための噴霧ガスを供給する噴霧ガス供給源(高圧ガスボンベ)14eと、容器14bを、ポンプ14dを介して供給管14aに接続するスラリー配管14fと、噴霧ガス供給源(高圧ガスボンベ)14eを供給管14a近傍においてスラリー配管14fに接続するガス配管14gと、を有する。
【0028】
ここで、容器14bに入れられるスラリー26は、以下のようにして作製される。
例えば、図示しない原料タンク等から所定量の二酸化チタン原料を、容器14b内に入れ、攪拌機14cで撹拌しながら、炭素含有分散媒を図示しないタンクなどから少しずつ所定量混入して、二酸化チタン原料と炭素含有分散媒とをスラリー化し、この二酸化チタン原料と炭素含有分散媒とからなるスラリーに、水(例えば、水道水、図示しないタンク内の貯留水)を少しずつ所定量加えて、所望の状態のスラリー26を作製する。
もしくは、所定量の炭素含有分散媒を図示しないタンク等から容器14b内に入れ、攪拌機14cで撹拌しながら、図示しない原料タンク等から二酸化チタン原料を少しずつ所定量混入して、二酸化チタン原料と炭素含有分散媒とをスラリー化し、この二酸化チタン原料と炭素含有分散媒とからなるスラリーに、水(例えば、水道水、図示しないタンク内の貯留水)を少しずつ所定量加えて、所望の状態のスラリー26を作製しても良い。
【0029】
ここで、材料供給装置14では、押し出し圧力がかけられた高圧噴霧ガスが、噴霧ガス供給源14eからスラリー26と共に、
図2中に矢印Gで示されるように供給管14aを介してプラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中へ供給される。供給管14aは、スラリー26をプラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中に噴霧し、液滴化するための二流体ノズル機構を有しており、これにより、スラリー26をプラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中に噴霧する、即ち、スラリー26を液滴化させることができる。噴霧ガスには、例えばアルゴン、ヘリウム、水素等が単独または適宜組み合わせて用いられる。
【0030】
このように、二流体ノズル機構は、スラリー26に高圧をかけ、気体である噴霧ガスによりスラリー26を液滴化して噴霧することができるので、スラリー26を液滴化させるための一つの方法として用いられる。例えば、二流体ノズル機構のノズルに内径1mmのものを用いた場合、供給圧力を0.2〜0.3MPaとして毎分20ミリリットルでスラリー26を流し、毎分10〜20リットルで噴霧ガスを噴霧すると、約5〜10μm程度のスラリー26の液滴が得られる。
【0031】
なお、本実施形態では、二流体ノズル機構を用いたが、一流体ノズル機構を用いてもよい。ここで、供給管14aにおいて、スラリー26を液滴化できれば、噴霧ガスは、必ずしも供給しなくてもよい。
さらに他の方法として、例えば回転している円板上にスラリーを一定速度で落下させて遠心力により液滴化する方法、スラリーの表面に高い電圧を印加して液滴化する方法等が考えられる。
【0032】
一方、
図1に示すように、チャンバ16がプラズマトーチ12の下方に隣接して設けられている。プラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中に噴霧されたスラリー26中の分散媒が熱プラズマ炎24によって燃焼することなく分解されて発生した炭素により、二酸化チタン原料が一部還元されて不定比酸化チタンとなり、その直後に、この不定比酸化チタンがチャンバ16内で急冷され、1次微粒子(不定比酸化チタン微粒子)15が生成される。このように、チャンバ16は、冷却槽としての機能を有する。
【0033】
また、本実施形態の微粒子製造装置10は、不定比酸化チタン微粒子15をより一層効率的に製造する方法の一つを実施するために、生成された不定比酸化チタン微粒子15を急冷するための気体供給装置28を備えている。以下、この気体供給装置28について説明する。
【0034】
図1、
図3に示す気体供給装置28は、熱プラズマ炎24の尾部(プラズマガス供給口12cと反対側の熱プラズマ炎24の端部、つまり、熱プラズマ炎24の終端部)に向かって、所定の角度で気体を射出する気体射出口28aと、チャンバ16の内壁(内側壁)16aに沿って上方から下方に向かって気体を射出する気体射出口28bと、チャンバ16内に供給される気体に押し出し圧力(例えば、高圧)をかけるコンプレッサ28cと、チャンバ16内に供給される上記気体の供給源(高圧ガスボンベ)28dと、それらを接続するガス配管28eと、を有する。なお、コンプレッサ28cは、ブロアでもよい。
【0035】
なお、気体射出口28aから射出する気体は、後に詳述するように、チャンバ16内で生成される1次微粒子15を急冷する作用以外にも、気体射出口28bから射出する気体とともに、サイクロン19における1次微粒子15の分級に寄与する等の付加的作用を有するものである。
上述のコンプレッサ28cと気体供給源28dとは、ガス配管28eを介してチャンバ16の天板17に接続されている。
また、
図3に示すように、気体射出口28aと気体射出口28bとは、チャンバ16の天板17に形成されている。
【0036】
ここで、天板17は、チャンバ16の天井を覆う板状部材であって、中央に熱プラズマ炎24を囲繞する貫通孔を備え、円錐台形状で上側の一部が円柱である内側部天板部品17aと、中央に円錐台形状の貫通孔を有する外側部天板部品17bと、内側部天板部品17aを内蔵する貫通孔を備え、この貫通孔に沿って内側部天板部品17aを垂直に移動させる移動機構を有する円環状の上部外側部天板部品17cを有する。
【0037】
天板17の外側部天板部品17b及び上部外側部天板部品17cには、ガス配管28eと連通し、ガス配管28eを介して送られる気体が通過するための通気路17dが設けられている。通気路17dは、チャンバ16の天板17の中央部分において内側部天板部品17aと外側部天板部品17bとの間に所定角度傾斜して形成され、プラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24の尾部に向かって所定の角度で気体を噴射するための気体射出口28aに連通すると共に、天板17の縁部において、即ち外側部天板部品17bの縁部に垂直下方に向かって形成され、チャンバ16の内壁16aに沿って気体を噴射するための気体射出口28bに連通する。
【0038】
ここで、内側部天板部品17aと上部外側部天板部品17cとが接する部分(内側部天板部品17aでは上部の円柱部分)にはネジが切ってあり、内側部天板部品17aが、回転することで垂直方向に位置を変えることができ、内側部天板部品17aは、外側部天板部品17bとの距離を調節できる。また、内側部天板部品17aの円錐台部分の勾配と、外側部天板部品17bが有する貫通孔の円錐台部分の勾配は同一であり、お互いが向き合う構造になっている。
【0039】
したがって、気体射出口28aとは、内側部天板部品17aと外側部天板部品17bとが形成した間隙、つまり、スリット幅が調節可能であって、天板17と同心である円周状に形成されたスリットである。ここで、気体射出口28aは、熱プラズマ炎24の尾部に向かって気体を射出することができる形状であればよく、上述のようなスリット形状に限定されるものではなく、例えば、円周上に多数の孔を配したものでもよい。
【0040】
ガス配管28eを介して送られる気体は、上部外側部天板部品17cの内部に設けられた通気路17dを通過し、上述した内側部天板部品17aと外側部天板部品17bとの間に形成されるスリットである気体射出口28aに送られる。気体射出口28aに送られた気体は、
図1及び
図3中の矢印Qで示される方向に、熱プラズマ炎の尾部(終端部)に向かって、前述のように、所定の供給量及び所定の角度で射出される。
【0041】
また、気体供給装置28の気体射出口28bは、天板17の外側部天板部品17b内に形成されたスリットであり、ガス配管28eを介して送られ、上部外側部天板部品17cの内部及び外側部天板部品17bに設けられた通気路17dを通過した気体をチャンバ16内に射出するためのもので、生成された1次微粒子15がチャンバ16の内壁16aに付着するのを防止すると共に、1次微粒子15を下流のサイクロン19で任意の分級点で分級できる流速を1次微粒子15に与えることができる量の気体を射出できることが好ましい。この気体射出口28bからは、チャンバ16の内壁16aに沿って上方から下方に向かって気体が射出される。
【0042】
上述したように、また、
図1、及び
図3に示すように、気体供給装置28の気体供給源28dから矢印Sに示されるようにガス配管28eを介して天板17内に供給された気体は、天板17の外側部天板部品17b及び上部外側部天板部品17cに設けられた通気路17dを介して気体射出口28a、及び28bからチャンバ16内に射出される。
【0043】
こうして、材料供給装置14からプラズマトーチ12内に射出されて液滴化されたスラリー26は、熱プラズマ炎24中で、後述するように、燃焼することなく二酸化チタン原料が一部還元されて不定比酸化チタンとなる。そして、この不定比酸化チタンは、上記気体射出口28aから射出される(矢印Q参照)気体によりチャンバ16内で急冷され、不定比酸化チタンからなる1次微粒子15が生成される。この際、気体射出口28bから射出される(矢印R参照)気体により、1次微粒子15がチャンバ16の内壁に付着することが防止される。
【0044】
図1に示すように、チャンバ16の側方下部には、生成された1次微粒子15を所望の粒径で分級するためのサイクロン19が設けられている。このサイクロン19は、
図4に示すように、チャンバ16から1次微粒子15を供給する入口管19aと、この入口管19aと接続され、サイクロン19の上部に位置する円筒形状の外筒19bと、この外筒19b下部から下側に向かって連続し、かつ、径が漸減する円錐台部19cと、この円錐台部19c下側に接続され、上述の所望の粒径以上の粒径を有する粗大粒子を回収する粗大粒子回収チャンバ19dと、後に詳述する回収部20に接続され、外筒19bに突設される内管19eとを備えている。
【0045】
入口管19aから、チャンバ16内にて生成された1次微粒子15を含んだ気流が、外筒19b内周壁に沿って吹き込まれ、これにより、この気流が
図4中に矢印Tで示すように外筒19bの内周壁から円錐台部19c方向に向かって流れることで、旋回する下降流が形成される。
【0046】
そして、上述の旋回する下降流は、円錐台部19c内周壁でさらに加速され、その後反転し、上昇流となって内管19eから系外に排出される。また、気流の一部は、粗大粒子回収チャンバ19dに流入する前に円錐台部19cで反転し、内管19eから系外に排出される。粒子には、旋回流により遠心力が与えられ、遠心力と抗力とのバランスにより、粗大粒子は壁方向に移動する。また、気流から分離した不定比酸化チタン微粒子は、円錐台部19c側面に沿って下降し、粗大粒子回収チャンバ19dで回収される。ここで、十分に遠心力が与えられない微粒子は、円錐台部19c内周壁での反転気流とともに、系外へ排出される。
【0047】
また、内管19eを通して、後に詳述する回収部20から負圧(吸引力)が生じるようになっている。そして、この負圧(吸引力)によって、上述の旋回する気流から分離した不定比酸化チタン微粒子が、
図4中の矢印Uで示すように吸引され、内管19eを通して回収部20に送られるようになっている。
【0048】
図1に示すように、サイクロン19内の気流の出口である内管19eの延長上には、所望のナノサイズの粒径を有する2次微粒子(不定比酸化チタン微粒子)18を回収する回収部20が設けられている。この回収部20は、回収室20aと、回収室20a内に設けられたフィルター20bと、回収室20a内下方に設けられた管20cを介して接続された真空ポンプ(図示せず)とを備えている。サイクロン19から送られた微粒子は、真空ポンプ(図示せず)で吸引されることにより、回収室20a内に引き込まれ、フィルター20bの表面で留まった状態にされて回収される。
【0049】
以下、上述のように構成される微粒子製造装置10の作用を述べつつ、この微粒子製造装置10を用いて、本発明の実施形態に係る不定比酸化チタン微粒子の製造方法について
図5を参照して説明する。
図5は、本発明の実施形態の不定比酸化チタン微粒子の製造方法を示すフローチャートである。
【0050】
ここで、本実施形態において、二酸化チタン原料(二酸化チタンの粉末)は、不定比酸化チタン微粒子の原料となるものであって、熱プラズマ炎中で容易に蒸発するように、その平均粒径が50μm以下であり、好ましくは平均粒径が10μm以下である。
【0051】
本実施形態において、炭素含有分散媒としては、例えば、アルコール、ケトン、ケロシン、オクタンまたはガソリンが挙げられる。
また、アルコールとしては、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールが挙げられる。
上述したように、炭素含有分散媒は、二酸化チタン原料を還元するものである。このため、炭素含有分散媒は、熱プラズマ炎24により分解されやすいことが好ましい。このことから、炭素含有分散媒は、低級アルコールが好ましい。
また、更に、水(H
2O)をスラリー26に加えている。この水は、炭素含有分散媒による二酸化チタン原料の不定比酸化チタン化を促進するものである。
【0052】
図5に示す本実施形態の不定比酸化チタン微粒子の製造方法では、まず、ステップS10において、二酸化チタン原料粉末を炭素含有分散媒中に分散させ、更に水を加えてスラリーを得る。このスラリーにおいては、二酸化チタン原料と分散媒との混合比、及び水の量は、特に限定されるものではなく、二酸化チタン原料から不定比酸化チタンを生成できればどのような混合比でも水の量でも良い。
ここで、二酸化チタン原料の量の好ましい範囲は、二酸化チタン原料と分散媒の総量に対して10〜65質量%であり、分散媒の量の好ましい範囲は、二酸化チタン原料と分散媒の総量に対して90〜35質量%であり、水の量の好ましい範囲は、二酸化チタン原料と分散媒の総量に対して5〜40質量%である。
【0053】
なお、本発明では、二酸化チタン原料と分散媒との混合比は、質量比で、例えば、50:50であることがより好ましい。また、本発明においては、スラリーを製造するのに最適な水の添加量を変えることで、各種の結晶相(TiOx(1<x<2)、例えばTi
2O
3、 Ti
3O
5、Ti
4O
7等)を制御するため、水の添加量は、各種の結晶相毎に予め実験等によって設定しておくことが好ましい。
分散媒及び水は、二酸化チタンを還元するものであるため、不定比酸化チタンが生成されるように、この二酸化チタン原料と分散媒との質量比、添加される水の量は、適宜変更してスラリーが調製される。
【0054】
さらに、スラリー26を調整する際に、界面活性剤、高分子、カップリング剤よりなる群より選ばれる1種または2種以上の混合物を添加してもよい。界面活性剤としては、例えば、ノニオン性界面活性剤であるソルビタン脂肪酸エステルが用いられる。高分子としては、例えば、ポリアクリル酸アンモニウムが用いられる。カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤等が用いられる。界面活性剤、高分子、カップリング剤よりなる群より選ばれる1種または2種以上の混合物をスラリー26に添加することにより、二酸化チタン原料が分散媒、水で凝集することをより効果的に防止して、スラリー26を安定化させることができる。
【0055】
上述のようにして調整されたスラリー26は、
図1に示す材料供給装置14の容器14b内に入れられ、攪拌機14cで攪拌される。これにより、分散媒中の二酸化チタン原料が沈澱することを防止し、分散媒中で二酸化チタン原料が分散された状態のスラリー26が維持される。なお、材料供給装置14に二酸化チタン原料と分散媒と水とを供給して連続的にスラリー26を調製してもよい。
【0056】
次に、ステップS12において、スラリー26を液滴化させて酸素を含まない熱プラズマ炎24中に供給する。
材料供給装置14の供給管14aの二流体ノズル機構を用いてスラリー26を液滴化させ、液滴化されたスラリー26が、プラズマトーチ12内に供給されることにより、プラズマトーチ12内に発生している熱プラズマ炎24中に供給されて、分散媒を燃焼させることなく炭素を生成する。
【0057】
なお、酸素を含まない熱プラズマ炎24は、液滴化されたスラリー26を蒸発させ、分散媒を燃焼させることなく分解、蒸発させて炭素を生成させる。このとき、水も水素と酸素に分解される。更には、熱プラズマ炎24は、その温度と生成された炭素により、二酸化チタン原料を還元し、更に水より発生した酸素により還元を制御して不定比酸化チタンにさせるものである。このため、熱プラズマ炎24の温度は、スラリーに含まれる二酸化チタン原料が炭素により還元される温度よりも高いことが必要である。
一方、熱プラズマ炎24の温度が高いほど、容易に二酸化チタン原料が還元されるので好ましいが、特に温度は限定されず、二酸化チタン原料が還元される温度に応じて適宜選択してよい。例えば、熱プラズマ炎24の温度を2000℃とすることもできるし、理論上は10000℃程度に達するものと考えられる。本発明では、熱プラズマ炎24の温度を、例えば4000〜10000℃とすることが好ましい。
【0058】
また、熱プラズマ炎24を発生するプラズマトーチ12内における圧力雰囲気は、大気圧以下であることが好ましい。ここで、大気圧以下の雰囲気については、特に限定されないが、例えば、5Torr〜750Torrとすることができる。
【0059】
こうして、酸素を含まない熱プラズマ炎24中でスラリー26が蒸発し、更にはメタノール等の分散媒が燃焼されることなく分解されて炭素が得られる。この炭素が、二酸化チタン原料に比して多く生成されるように、スラリー26における分散媒の量が調整されていることが好ましい。
【0060】
次に、ステップS14において、こうして熱プラズマ炎24で生成された炭素と二酸化チタンとを反応させて不定比酸化チタンを生成する。
熱プラズマ炎24において発生した炭素と二酸化チタン原料とが反応し、二酸化チタンが不定比酸化チタンに還元されて、更に水より発生した酸素により還元を制御して不定比酸化チタンにさせる。
次に、ステップS16において、ステップS14で生成された不定比酸化チタンを急冷して不定比酸化チタン微粒子(1次微粒子)15を生成する。
ステップS14において生成された不定比酸化チタンが、気体射出口28aを介して矢印Qで示される方向に射出される気体によって急冷されて、チャンバ16内で急冷されることにより、不定比酸化チタンからなる1次微粒子15が得られる。
【0061】
従って、上記気体射出口28aから射出される気体の量は、1次微粒子15が生成される過程において、不定比酸化チタン微粒子15を急冷するに十分な供給量であることが必要であるが、これとともに気体射出口28bから射出される気体の量、さらには、後述する熱プラズマ炎24中に供給する気体の量と合わせて、1次微粒子15を下流のサイクロン19で任意の分級点で分級できる流速が得られ、かつ、熱プラズマ炎24の安定を妨げない程度の量であることが好ましい。
【0062】
なお、上述の気体射出口28aから射出される気体の量と気体射出口28bから射出される気体の量とを合わせた射出量は、熱プラズマ炎24中に供給する気体の200%〜5000%とするのがよい。ここで、上述の熱プラズマ炎中に供給する気体とは、熱プラズマ炎を形成するプラズマガス、プラズマ流を形成するためのセントラルガス及び噴霧ガスを合わせたものである。
【0063】
また、熱プラズマ炎24の安定を妨げない限り、上述した射出される気体の供給方法や供給位置などは、特に限定されない。本実施形態の微粒子製造装置10では、天板17に円周状のスリットを形成して気体を射出しているが、熱プラズマ炎からサイクロンまでの経路上で、確実に気体を供給可能な方法や位置であれば、他の方法、位置でも構わない。
【0064】
最終的にチャンバ16内で生成された不定比酸化チタンからなる1次微粒子15は、サイクロン19の入口管19aから、気流と共に外筒19bの内周壁に沿って吹き込まれ、これにより、この気流が
図4中の矢印Tで示すような外筒19bの内周壁に沿って流れることにより、旋回流を形成して下降する。そして、この旋回流は円錐台部19c内周壁でさらに加速され、その後反転し、上昇流となって、内管19eから系外に排出される。また、気流の一部は、粗大粒子回収チャンバ19dに流入する前に円錐台部19c内周壁で反転し、内管19eから系外に排出される。
【0065】
不定比酸化チタンからなる1次微粒子15に旋回流により遠心力が与えられ、遠心力と抗力とのバランスにより、1次微粒子15のうち、粗大粒子は壁方向に移動する。また、1次微粒子15のうち、気流から分離された粒子は、円錐台部19c側面に沿って下降し、粗大粒子回収チャンバ19dで回収される。ここで、十分に遠心力が与えられない微粒子は、円錐台部19c内周壁での反転気流とともに、内管19eから、不定比酸化チタン微粒子(2次微粒子)18として系外へ排出される。このときのサイクロン19内への気流の流速は、好ましくは、10m/sec以上である。
【0066】
排出された不定比酸化チタン微粒子(2次微粒子)18は、回収部20からの負圧(吸引力)によって、
図4中の矢印Uで示すように吸引され、内管19eを通して回収部20に送られ、回収部20のフィルター20bで回収される。このときのサイクロン19内の内圧は、大気圧以下であることが好ましい。また、不定比酸化チタン微粒子(2次微粒子)18の粒径は、目的に応じてナノサイズレベルの任意の粒径が規定される。
このようにして、本実施形態においては、ナノサイズの不定比酸化チタン微粒子を得ることができる。
また、本発明の不定比酸化チタン微粒子の製造方法においては、使用するサイクロンの個数は、1つに限定されず、2つ以上でもよい。
【0067】
本実施形態の不定比酸化チタン微粒子の製造方法により製造される不定比酸化チタン微粒子は、その粒度分布幅が狭い、すなわち、均一な粒径を有し、1μm以上の粗大粒子の混入が殆どなく、具体的には、その比表面積値が10〜100m
2/gのナノサイズの不定比酸化チタン微粒子であることが好ましい。
【0068】
また、本実施形態においては、二酸化チタン原料粉末の還元に用いる炭素源に液体(炭素含有分散媒)を用い、それ以外は水であるため、二酸化チタン原料を熱プラズマ炎に対して容易に、均一に供給することができる。さらには、炭素源が液体であるため、グラファイト等の固体の炭素源に比して、容易に分解され、二酸化チタン原料を効率良く炭素と反応させることができる。これにより、二酸化チタン原料の不定比酸化チタンへの反応効率が高くなり、高い生産性で不定比酸化チタン微粒子を製造することができる。
【0069】
また、本実施形態の不定比酸化チタン微粒子の製造方法では、ガスを供給し、装置内の流速を任意に制御することで、装置内に設けたサイクロンで不定比酸化チタン微粒子を分級可能としている。本実施形態の不定比酸化チタン微粒子の製造方法では、反応条件を変えることなく、気体の流速、もしくはサイクロン内径を変えることで、任意の分級点で粗大粒子を分離できるため、粒径が微細かつ均一で、品質のよい高純度の不定比酸化チタン微粒子を高い生産性で製造することが可能になる。
【0070】
さらに、本実施形態の不定比酸化チタン微粒子の製造方法では、サイクロン内で旋回流を生じるため滞留時間が長くなり、サイクロン内で不定比酸化チタン微粒子が冷却されるので、これまで冷却機構として用いていたフィンや冷却路を設ける必要がなくなる。そのため、フィン内に堆積した微粒子除去のために装置の稼動を停止させる必要がなくなり、装置の稼動時間を長期化することが可能になる。さらに、サイクロン全体を水冷ジャケット構造とすることで、冷却効果をより一層高めることができる。
【0071】
上述した通り、本実施形態の不定比酸化チタン微粒子の製造方法を実施する微粒子製造装置10は、気相状態の不定比酸化チタンを含む混合物を急冷することを主たる目的とする気体供給装置28を備えることを特徴としている。
図示例の気体供給装置28においては、気体供給源28dからガス配管28e及び天板17の通気路17dを介して気体射出口28aに送られた気体は、熱プラズマ炎24中の気相状態の不定比酸化チタン含有混合物を急冷するために、上述したように、
図1及び
図3中の矢印Qで示される方向に、熱プラズマ炎の尾部(終端部)に向かって、所定の供給量及び所定の角度で射出される。
【0072】
ここで、上記所定の供給量について説明する。上述したように、気相状態の不定比酸化チタン含有混合物(以下、単に混合物という)を急冷するのに生成した量とは、例えば、気相状態の混合物を急冷するのに必要な空間を形成するチャンバ16内に供給する気体のチャンバ16内における平均流速(チャンバ内流速)を、0.001〜60m/secとすることが好ましく、0.5〜10m/secとすることがより好ましい。これは、熱プラズマ炎24中に噴霧され蒸発した気相状態の混合物を急冷し微粒子を生成させ、生成された微粒子同士の衝突による凝集を防止するのに十分な気体の供給量である。
【0073】
なお、この供給量は、気相状態の混合物を急冷して凝固させるのに十分な量であり、また、凝固し生成された直後の不定比酸化チタン微粒子同士が衝突することで凝集しないように気相状態の混合物を希釈するのに十分な量である必要があり、チャンバ16の形状や大きさによりその値を適宜定めるのがよい。
ただし、この供給量は、熱プラズマ炎の安定を妨げることのないように制御されることが好ましい。
【0074】
次に、
図6(a)、及び(b)を用いて、気体射出口28aがスリット形状の場合における、上記の所定の角度について説明する。
図6(a)に、チャンバ16の天板17の中心軸を通る垂直方向の断面図を、また、
図6(b)に、天板17を下方から見た図を示す。なお、
図6(b)には、
図6(a)に示した断面に対して垂直な方向が示されている。ここで、
図6(a)、及び(b)中に示す点Xは、通気路17dを介して気体供給源28d(
図1参照)から送られた気体が、気体射出口28aからチャンバ16内部へ射出される射出点である。実際は、気体射出口28aが円周状のスリットであるため、射出時の気体は帯状の気流を形成している。従って、点Xは仮想的な射出点である。
【0075】
図6(a)に示すように、通気路17dの開口部の図中上下方向の中心を原点として、垂直上方を0°、紙面で反時計周りに正の方向をとり、矢印Qで示される方向に気体射出口28aから射出される気体の角度を角度αで表す。この角度αは、上述した、熱プラズマ炎24の初部から尾部(終端部)への方向に対する角度である。
【0076】
また、
図6(b)に示すように、上述した仮想的な射出点Xを原点として、熱プラズマ炎24の中心に向かう方向が0°、紙面で反時計回りを正の方向として、熱プラズマ炎24の初部から尾部(終端部)への方向に対して垂直な面方向における、矢印Qで示される方向に気体射出口28aから射出される気体の角度を角度βで表す。この角度βは、上述した、熱プラズマ炎24の初部から尾部(終端部)への方向に対して直行する面内で、熱プラズマ炎24の中心部に対する角度である。
【0077】
上述した角度α(通常は垂直方向の角度)及び角度β(通常は水平方向の角度)を用いると、上述の所定の角度、すなわち、気体のチャンバ16内への供給方向は、チャンバ16内において、熱プラズマ炎24の尾部(終端部)に対して、角度αが90°<α<240°(より好ましくは100°<α<180°の範囲、最も好ましくはα=135°)、角度βが−90°<β<90°(より好ましくは−45°<β<45°の範囲、最も好ましくはβ=0°)であるのがよい。
【0078】
上述したように、熱プラズマ炎24に向かって所定の供給量及び所定の角度で射出された気体により、上述の気相状態の混合物が急冷され、微粒子15が生成される。上述の所定の角度でチャンバ16内部に射出された気体は、チャンバ16内部に発生する乱流等の影響により必ずしもその射出された角度で熱プラズマ炎24の尾部に到達するわけではないが、気相状態の混合物の冷却を効果的に行い、かつ熱プラズマ炎24を安定させて効率よく微粒子製造装置10を動作させるためには、上述の角度に決定するのが好ましい。なお、上述の角度は、装置の寸法、熱プラズマ炎の大きさ等の条件を考慮して、実験的に決定すればよい。
【0079】
生成直後の微粒子同士が衝突し、凝集体が形成されることで粒径の不均一が生じると、品質低下の要因となる。これに対し、本発明の不定比酸化チタン微粒子の製造方法においては、気体射出口28aを介して所定の角度及び供給量で熱プラズマ炎の尾部(終端部)に向かって矢印Qで示される方向に射出される気体が、微粒子15を希釈することで、微粒子同士が衝突し凝集することを防止する。つまり、気体射出口28aから射出された気体が、上述の気相状態の混合物を急冷し、さらに、生成された不定比酸化チタン微粒子の凝集を防止することで、不定比酸化チタン微粒子の粒子径の微細化、及び不定比酸化チタン微粒子の粒子径の均一化の両面に作用している。
【0080】
ところで、気体射出口28aから射出される気体は、熱プラズマ炎24の安定性に少なからず悪影響を与える。しかし、装置全体を連続的に運転するためには熱プラズマ炎を安定させる必要がある。このため、本実施形態の微粒子製造装置10における気体射出口28aは、円周状に形成されたスリットとなっており、そのスリット幅を調節することで気体の供給量を調節することができ、中心方向に均一な気体を射出することができるので、熱プラズマ炎を安定させるのに好ましい形状を有するといえる。また、この調節は、射出される気体の供給量を変えることでも行える。
【0081】
以上、本発明の不定比酸化チタン微粒子の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例】
【0082】
以下、本発明に係る不定比酸化チタン微粒子の製造方法の実施例について具体的に説明する。
(実施例1)
実施例1において、
図1に示す微粒子製造装置10を用いて、原料となる二酸化チタンの粉末と、炭素含有分散媒であるアルコールとの質量比(百分率)が、50%:50%となるように、二酸化チタンの粉末をアルコールに分散させてスラリー化し、更に、水を、二酸化チタンとアルコールとの総質量に対する水の質量比が78.4%:21.6%(アルコールと水の質量比(アルコール/水)が1.82)となるように添加して水分量が調整されたスラリー26を作製した。
また、原料として用いた二酸化チタンの粉末は、平均粒径が4μmであった。アルコールとして、エタノールを用い
た。
【0083】
本実施例では、
図1に示す微粒子製造装置10において、プラズマトーチ12の高周波発振用コイル12bには、約4MHz、約80kVAの高周波電圧を印加し、プラズマガス供給源22からは、プラズマガスとしてアルゴンガス(Ar)及び水素ガス(H
2)を供給し、プラズマトーチ12内に熱プラズマ炎24を発生させた。
熱プラズマ炎24のプラズマガスにおける水素ガス、及びアルゴンガスの割合は、アルゴンガスの量に対して、水素ガスの量を0〜20vol%として調整した。
なお、プラズマガスの供給量ついては、アルゴンガスは10〜300リットル/minとして調整した。
【0084】
本実施例で得られたスラリー26を、噴霧ガスであるアルゴンガスと共に液滴化した状態で、プラズマトーチ12内の酸素を含まない熱プラズマ炎24中に供給した。
この時、材料供給装置14の噴霧ガス供給源14eから、噴霧ガスとして、10リットル/minでアルゴンガスを供給した。
その後、熱プラズマ炎24中に液滴化されて供給されたスラリー26中のアルコールから燃焼することなく生成された炭素とスラリー26中の二酸化チタン原料とを反応させることによって一部還元して不定比酸化チタンを生成し、生成された不定比酸化チタンを、気体供給装置28から供給され、気体射出口28aから射出される気体によりチャンバ16内で急冷して、不定比酸化チタンからなる1次微粒子15を得た。
ここで、気体供給装置28によって、チャンバ16内に供給される気体としては、アルゴンガスを使用した。この時のチャンバ16内の流速は5m/secで、供給量は1m
3/minとした。
【0085】
こうして得られた不定比酸化チタンの1次微粒子15をサイクロン19内に導き、粗大粒子を除去し、比表面積値52.8m
2/gの粒径がそろったナノサイズの不定比酸化チタンの2次微粒子である不定比酸化チタン微粒子18を得た。
なお、サイクロン19内の圧力は50kPaとし、チャンバ16からサイクロン19への微粒子の供給速度は10m/sec(平均値)とした。
次に、得られた生成物である実施例1の不定比酸化チタン微粒子18についてX線回折(XRD)を用いて結晶構造を調べた。その結果を
図7に示す。なお、4種の不定比酸化チタンの各結晶相のリファレンスを
図8に示す。なお、
図8は、ICSD(無機結晶構造データベース)のPDF番号で特定される4種の不定比酸化チタンTi
4O
7、Ti
3O
5、Ti
2O
3、及びTiOの各結晶相の結晶構造解析結果のピーク位置を示す。
また、実施例1の不定比酸化チタン微粒子18を50MPa圧粉成形品に成形し、そのシート抵抗を計測した。その結果、シート抵抗は、0.258×10
5Ω/□であった。
【0086】
(実施例2)
実施例1と同様に、
図1に示す微粒子製造装置10を用い、二酸化チタンとアルコールとの総質量に対する水の質量比が80%:20%(アルコールと水の質量比(アルコール/水)が2.00)となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、水分量が調整された実施例2のスラリー26を作製した。
こうして得られた実施例2のスラリー26を、実施例1と同様にして、微粒子製造装置10のプラズマトーチ12内の酸素を含まない熱プラズマ炎24中に供給し、チャンバ16内で急冷して、不定比酸化チタンからなる1次微粒子15を得、こうして得られた不定比酸化チタンの1次微粒子15をサイクロン19内に導き、比表面積値53.9m
2/gの粒径がそろったナノサイズの不定比酸化チタンの2次微粒子である実施例2の不定比酸化チタン微粒子18を得た。
こうして得られた実施例2の不定比酸化チタン微粒子18について、実施例1と同様にして、X線回折(XRD)を用いて結晶構造を調べた。その結果を
図7に示す。また、実施例1と同様にして、実施例2の不定比酸化チタン微粒子18の50MPa圧粉成形品のシート抵抗を計測した結果、シート抵抗は、0.820×10
4Ω/□であった。
【0087】
(実施例3)
実施例1と同様に、
図1に示す微粒子製造装置10を用い、二酸化チタンとアルコールとの総質量に対する水の質量比が86.4%:13.6%(アルコールと水の質量比(アルコール/水)が3.17)となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、水分量が調整された実施例3のスラリー26を作製した。
こうして得られた実施例3のスラリー26から、実施例1と同様にして、微粒子製造装置10を用いて、比表面積値58.7m
2/gの粒径がそろったナノサイズの不定比酸化チタンの2次微粒子である実施例3の不定比酸化チタン微粒子18を得た。
こうして得られた実施例3の不定比酸化チタン微粒子18の結晶構造の測定結果を
図7に示す。また、実施例1と同様にして、実施例2の不定比酸化チタン微粒子18の50MPa圧粉成形品のシート抵抗を計測した結果、シート抵抗は、1.632×10
2Ω/□であった。
【0088】
(実施例4)
実施例1と同様に、
図1に示す微粒子製造装置10を用い、二酸化チタンとアルコールとの総質量に対する水の質量比が87%:13%(アルコールと水の質量比(アルコール/水)が3.33)となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、水分量が調整された実施例4のスラリー26を作製した。
こうして得られた実施例4のスラリー26から、実施例1と同様にして、微粒子製造装置10を用いて、比表面積値71.8m
2/gの粒径がそろったナノサイズの不定比酸化チタンの2次微粒子である実施例4の不定比酸化チタン微粒子18を得た。
こうして得られた実施例4の不定比酸化チタン微粒子18の結晶構造の測定結果を
図7に示す。
【0089】
実施例1〜4においては、炭化チタン(TiC)が殆ど生成されることなく生成された不定比酸化チタン(TiOx(1<x<2))微粒子が得られ、
図7に示すように、Ti
2O
3、Ti
3O
5、及びTi
4O
7等、更には、Ti
5O
9等との混相であり、その比表面積値は、52.8m
2/g〜71.8m
2/gであった。
また、水の添加量が少ない実施例3ではシート抵抗が高く、水の添加量が実施例3より多い実施例2ではシート抵抗が低くなり、水の添加量が最も多い実施例1ではシート抵抗が最も低いことが分かる。即ち、水の添加量を多くすれば、シート抵抗を低くすることができることが分かる。
【0090】
このことから、本発明の実施例においては、二酸化チタン原料をアルコールに混ぜて得られたスラリーに水を加えて調整したスラリーを用いることにより、製造される不定比酸化チタン微粒子の酸化還元の程度を変えることができ、製造された不定比酸化チタン微粒子のシート抵抗を低下させることができることが分かる。
また、本発明の実施例においては、スラリーを作製する際の水の量を調整することにより、添加される水の量に応じて、製造される不定比酸化チタン微粒子の酸化還元の程度を調整することができ、製造された不定比酸化チタン微粒子のシート抵抗を変化させることができることが分かる。
以上から、本発明の効果は明らかである。