特許第6759402号(P6759402)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6759402FLT3変異を有する急性骨髄性白血病の治療用の医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6759402
(24)【登録日】2020年9月4日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】FLT3変異を有する急性骨髄性白血病の治療用の医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/10 20060101AFI20200910BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20200910BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20200910BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200910BHJP
   A61K 38/12 20060101ALN20200910BHJP
【FI】
   A61K38/10ZNA
   A61P35/02
   A61K31/7068
   A61P43/00 121
   A61P43/00 111
   !A61K38/12
【請求項の数】20
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2019-59920(P2019-59920)
(22)【出願日】2019年3月27日
(62)【分割の表示】特願2016-524577(P2016-524577)の分割
【原出願日】2014年10月30日
(65)【公開番号】特開2019-116497(P2019-116497A)
(43)【公開日】2019年7月18日
【審査請求日】2019年3月27日
(31)【優先権主張番号】61/897,921
(32)【優先日】2013年10月31日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/945,302
(32)【優先日】2014年2月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511304383
【氏名又は名称】バイオカイン セラピューティックス リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】515264805
【氏名又は名称】バイオラインアールエックス・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BioLineRx Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペレド アムノン
(72)【発明者】
【氏名】アブラハム マイケル
【審査官】 佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2006/0264378(US,A1)
【文献】 特許第6294459(JP,B2)
【文献】 ZENG ZHIHONG; SAMUDIO ISMAEL J; MUNSELL MARK; AN JING; HUANG ZIWEI; ESTEY ELIHU; ET AL,INHIBITION OF CXCR4 WITH THE NOVEL RCP168 PEPTIDE OVERCOMES STROMA-MEDIATED CHEMORESISTANCE 以下備考,MOLECULAR CANCER THERAPEUTICS,米国,AMERICAN ASSOCIATION OF CANCER RESEARCH,2006年12月 1日,VOL:5, NR:12,PAGE(S):3113 - 3121,IN CHRONIC AND ACUTE LEUKEMIAS,URL,http://dx.doi.org/10.1158/1535-7163
【文献】 KATIA BEIDER; MICHAL BEGIN; MICHAL ABRAHAM; HANNA WALD; IDO D WEISS; ORI WALD; ET AL,CXCR4 ANTAGONIST 4F-BENZOYL-TN14003 INHIBITS LEUKEMIA AND MULTIPLE MYELOMA TUMOR GROWTH,EXPERIMENTAL HEMATOLOGY,米国,ELSEVIER INC,2010年11月30日,VOL:39, NR:3,PAGE(S):282 - 292,URL,http://dx.doi.org/10.1016/j.exphem.2010.11.010
【文献】 Experimental Hematology, 2010, Vol.38, pp.180-190
【文献】 Blood, 2013.10.21, Vol.122, No.21, Abstract Number.3939,Meeting info:55th Annual Meeting of the American Society of Hematology
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58
A61K 31/33−33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)変異を有する急性骨髄性白血病(AML)の対象に投与するための薬剤であって、配列番号1のCXCR4拮抗性ペプチドを有効成分として含み、前記対象はシタラビンを投与されている、薬剤
【請求項2】
FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)変異を有するAMLの治療を必要とし、且つシタラビンを投与されている対象の治療のための医薬の製造における、配列番号1のCXCR4拮抗性ペプチドの有効成分としての使用。
【請求項3】
FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)変異を有するAMLの治療のための、配列番号1のCXCR4拮抗性ペプチド剤及びシタラビンを含む製品。
【請求項4】
前記CXCR4拮抗性ペプチド及び前記シタラビンが別個の容器に入っている、請求項3に記載の製品。
【請求項5】
前記FLT3変異がFLT3遺伝子内縦列重複(ITD)変異である、請求項1に記載の薬剤
【請求項6】
1日当たりの前記CXCR4拮抗性ペプチドの投与量が、前記対象のkg体重当たり0.1〜10mgとなるように、前記CXCR4拮抗性ペプチドを含む、請求項1の薬剤
【請求項7】
前記CXCR4拮抗性ペプチドが皮下投与用に処方されている、請求項1の薬剤
【請求項8】
前記CXCR4拮抗性ペプチドが静脈内投与用に処方されている、請求項1の薬剤
【請求項9】
前記対象に対して、シタラビンの投与と同時に前記CXCR4拮抗性ペプチドを投与するための、請求項1の薬剤
【請求項10】
前記対象に対して、シタラビンの投与と連続して前記CXCR4拮抗性ペプチドを投与するための、請求項1の薬剤
【請求項11】
AML細胞のアポトーシス誘導において、前記シタラビンが前記CXCR4拮抗性ペプチドとの相乗効果を示す、請求項1および5〜10のいずれか一項に記載の薬剤
【請求項12】
前記FLT3変異がFLT3遺伝子内縦列重複(ITD)変異である、請求項2の使用。
【請求項13】
1日当たりの前記CXCR4拮抗性ペプチドの投与量が、前記対象のkg体重当たり0.1〜10mgとなるように、前記CXCR4拮抗性ペプチドを含む、請求項2の使用。
【請求項14】
前記CXCR4拮抗性ペプチドが皮下投与用に処方されている、請求項2の使用。
【請求項15】
前記CXCR4拮抗性ペプチドが静脈内投与用に処方されている、請求項2の使用。
【請求項16】
前記対象に対して、シタラビンの投与と同時に前記CXCR4拮抗性ペプチドを投与する、請求項2の使用。
【請求項17】
前記対象に対して、シタラビンの投与と連続して前記CXCR4拮抗性ペプチドを投与する、請求項2の使用。
【請求項18】
AML細胞のアポトーシス誘導において、前記シタラビンが前記CXCR4拮抗性ペプチドとの相乗効果を示す、請求項2および12〜17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
前記FLT3変異がFLT3遺伝子内縦列重複(ITD)変異である、請求項3又は4に記載の製品。
【請求項20】
AML細胞のアポトーシス誘導において、前記シタラビンが前記CXCR4拮抗性ペプチドとの相乗効果を示す、請求項3、4および19のいずれか一項に記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急性骨髄性白血病(AML)の治療用の医薬組成物、当該医薬組成物の製造におけるCXCR4拮抗性ペプチドの使用、およびCXCR4拮抗性ペプチドを含む製品に関する。
【背景技術】
【0002】
AMLは、成熟細胞に分化する能力が低下した造血幹細胞及び前駆細胞(芽細胞)の制御のきかない増殖という特徴を有する、異質な一群の疾病である(Estey et al.,Lancet 368:1894−1907,2006)。多くのAML患者が伝統的な化学療法により完全な寛解(CR)を達成することができるが、AML患者の大多数はいずれ再発する。再発率は、FLT3(FMS様チロシンキナーゼ3)遺伝子内縦列重複(ITD)変異を有する患者で特に高い。FLT3−ITD変異は、AML患者の約1/4に見出される(Levis and Small,Leukemia 17:1738−1752,2003)。現在いくつかのFLT3阻害剤が臨床試験下にあるが、いずれも未だFLT3変異を有するAMLの治療に認可されていない(Fathi and Chen,Am.J.Blood Res.1:175−189,2011)。
【0003】
元々、抗HIV化合物として発見された、AMD3100と称されるビシクラム系薬剤は、CXCR4に特異的な拮抗的相互作用を示す。CXCR4受容体をAMD3100で遮断すると、造血前駆細胞の動態化が生じる。国際公開第2007/022523号は、骨髄性又は造血性の悪性腫瘍に罹患した患者における化学療法の有効性を向上させるためのAMD3100等のCXCR4作動薬の使用を開示している。
【0004】
T−140は、CXCR4に対する特異的な結合を介して、T細胞へのHIV−1(X4−HIV−1)の侵入を抑制する特異的なCXCR4拮抗薬として開発された、14残基合成ペプチドである(Tamamura et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.253(3):877−882,1998)。その後、ナノモルレベルでの阻害活性を有する特異的なCXCR4拮抗性ペプチドとして、T−140のペプチド類似体が開発された(Tamamura et al.(Org.Biomol.Chem.1:3663−3669,2003)、国際公開第2002/020561号、国際公開第2004/020462号、国際公開第2004/087068号、国際公開第00/09152号、米国特許第2002/0156034号及び国際公開第2004/024178号)。
【0005】
国際公開第2004/087068号は、ケモカイン受容体、特にCXCR4受容体の拮抗薬と、癌の治療、予防又は診断等におけるその使用とを開示している。当該公開公報では、CXCR4ペプチド拮抗薬の例としてT140、及びT140の誘導体が挙げられ、病態として乳房、脳、膵臓、卵巣、前立腺、腎臓などの癌及び非小細胞肺癌が挙げられている。
【0006】
国際公開第00/09152号は、例えば癌の治療における、CXCR4拮抗薬のさまざまな治療的使用を開示している。
【0007】
国際公開第2004/024178号は、アポトーシス誘導治療、及び/又は、患者における癌細胞の転移性拡散を予防するための、CXCR4受容体に対するリガンドとしてのケモカイン受容体拮抗薬の使用を開示している。
【0008】
米国特許出願公開第2002/0156034号は、例えば癌などにおける造血細胞の治療のためのCXCR4拮抗薬の使用を開示している。
【0009】
国際公開第2002/020561号は、T−140のペプチド類似体及び誘導体を開示している。当該公開公報にて特許請求されたペプチドは、高い抗HIVウイルス活性と、低い細胞毒性とを明らかに示す強力なCXCR4阻害剤であることが示されている。
【0010】
近年、CXCR4拮抗薬であるTN140とAMD3100との間の比較研究により、AMLに対する単剤療法として、TN140がAMD3100よりも有効であることが示唆された。TN140と、TN140よりも程度は低いがAMD3100は、ヒトCXCR4発現AML細胞の退縮を誘導し、NOD/Shi−scid/IL−2Rγnull(NOG)白血病開始細胞(LIC)を標的とすることが開示されている(Y.Zhang et al.,Cell Death and Disease,2012)。
【0011】
国際公開第2004/020462号は、4F−ベンゾイル−TN14003を含む、T−140の更なる新規なペプチド類似体及び誘導体を開示している。本公開公報では、更に、T−細胞白血病等の癌の治療にT−140類似体を使用した予防のため及び治療のための組成物、並びに当該組成物を使用した方法が開示されている。
【0012】
Beider et al.(Exp.Hematol.39:282−92,2011)では、4F−ベンゾイル−TN14003が、AMLなどの造血細胞起源の悪性細胞に対するCXCR4依存性選択的細胞毒性を示すことが報告されている。インビボでは、4F−ベンゾイル−TN14003の皮下注射によってヒトAML異種移植片の増殖が有意に低下した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、FLT3変異を有する急性骨髄性白血病の治療のための新規な、安全かつ有効な医薬組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の態様によれば、FLT3変異を有する急性骨髄性白血病の対象に投与するための治療用の医薬組成物が提供される。本医薬組成物は、配列番号1のCXCR4拮抗性ペプチドを有効成分として含み、対象はシタラビンを投与されているものである。
【0015】
本発明の態様によれば、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)変異を有するAMLの治療を必要とする対象の治療のために識別された医薬の製造における、CXCR4拮抗性ペプチドの使用が提供される。
【0016】
本発明の態様によれば、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)を有するAMLの治療のための、CXCR4拮抗性ペプチド及び化学療法薬を含むCXCR4拮抗性ペプチドが提供される。
【0017】
本発明の態様によれば、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)変異を有するAMLの治療のために識別された、CXCR4拮抗性ペプチド及び化学療法薬を含む製品が提供される。
【0018】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態における更なる特徴によれば、CXCR4拮抗性ペプチド及び化学療法薬は、別個の容器に入っている。
【0019】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態における更なる特徴によれば、FLT3変異は、FLT3遺伝子内縦列重複(ITD)変異である。
【0020】
記載される本発明の好ましい実施形態における尚更なる特徴によれば、CXCR4拮抗性ペプチドは、配列番号1に示す通りである。
【0021】
記載される本発明の好ましい実施形態における尚更なる特徴によれば、CXCR4拮抗性ペプチドは、1日当たり0.1〜10mg/kg体重の量で対象に投与される。
【0022】
記載される本発明の好ましい実施形態における尚更なる特徴によれば、CXCR4拮抗性ペプチドは、皮下に投与される。
【0023】
記載される本発明の好ましい実施形態における尚更なる特徴によれば、CXCR4拮抗性ペプチドは、静脈内に投与される。
【0024】
記載される本発明の好ましい実施形態における尚更なる特徴によれば、急性骨髄性白血病の治療方法は、対象に治療的有効量の化学療法薬を投与するステップを更に含む。
【0025】
記載される本発明の好ましい実施形態における尚更なる特徴によれば、化学療法薬は、シタラビン(ARA−C)である。
【0026】
記載される本発明の好ましい実施形態における尚更なる特徴によれば、化学療法薬は、キザルチニブ(AC220)である。
【0027】
尚更なる特徴によれば、AML細胞のアポトーシス誘導において、化学療法薬はCXCR4拮抗性ペプチドと相乗効果を示す。
【0028】
本発明は、急性骨髄性白血病の安全かつ有効な新規な治療方法によって、現在既知の構成の問題点に対する対処法を提供する。
【0029】
特に定義しない限り、本明細書で使用される技術及び/又は科学用語の全ては、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解するものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同様の又は等価な方法及び材料を本発明の実施形態の実践又は試験に使用することができるが、例示的な方法及び/又は材料を下記に記載する。矛盾する場合、そこに記載された定義も含めて、特許明細書が優先する。加えて、材料、方法、及び実施例は、単なる例示であり、必ずしも限定を意図するものではない。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態について、例示のために、添付の図面を参照して次に説明する。以下、特に図面を詳細に参照するにあたり、特定の項目は、例示のため、または本発明の実施形態の詳細な説明を目的とすることを強調する。この観点において、説明を図面と共に考慮することで、本発明の実施形態がどのように実践され得るかを当業者に明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】FLT3−ITDを有するヒト初代AML細胞の生存に対する、BL−8040(8μM)、ARA−C(50ng/ml)、又はそれらの組み合わせの効果を示す棒グラフである。図1Aは、死細胞の出現率を示す。図1Bは、生存細胞の数を示す。一つの星印()は、未処理対照に対する統計的有意差(p<0.05)を示す。一対の星印(**)は、BL−8040のみの場合に対する統計的有意差(p<0.01)を示す。
図2】FLT3−WTを有するヒト初代AML細胞の生存に対するBL−8040(8μM)、ARA−C(50ng/ml)、又はそれらの組み合わせの効果を示す棒グラフである。図2Aは、死細胞の出現率を示す。図2Bは、生存細胞数を示す。一つの星印()は、未処理対照に対する統計的有意差(p<0.05)を示す。
図3】FLT3−ITDを有するMV4−11ヒトAML細胞の生存に対するBL−8040(20μM)、ARA−C(50ng/ml)、又はそれらの組み合わせの効果を示す棒グラフである。図3Aは、死細胞の出現率を示す。図3Bは、生存細胞の数を示す。一つの星印()は、未処理対照に対する統計的有意差(p<0.05)を示す。一対の星印(**)は、ARA−Cのみの場合に対する統計的有意差(p<0.01)を示す。
図4】FLT3−WTを有するHL60ヒトAML細胞の生存に対するBL−8040(20μM)、ARA−C(50ng/ml)、又はそれらの組み合わせの効果を示す棒グラフである。図4Aは、死細胞の出現率を示す。図4Bは、生存細胞数を示す。一つの星印()は、未処理対照に対する統計的有意差(p<0.05)を示す。一対の星印(**)は、ARA−Cのみの場合に対する統計的有意差(p<0.01)を示す。
図5】FLT3−ITDを有するM4V−11ヒトAML細胞の生存に対するBL−8040(8μM)、AC220(0.5nM)、又はそれらの組み合わせの効果を示す棒グラフである。図5Aは、死細胞の出現率を示す。図5Bは、生存細胞数を示す。一つの星印()は、未処理対照に対する統計的有意差(p<0.05)を示す。一対の星印(**)は、AC220のみの場合に対する統計的有意差(p<0.01)示す。
図6】FLT3−WTを有するHL60ヒトAML細胞の生存に対するBL−8040(8μM)、AC220(0.5nM)、又はそれらの組み合わせの効果を示す棒グラフである。図6Aは、死細胞の出現率を示す。図6Bは、生存細胞数を示す。一つの星印()は、未処理対照に対する統計的有意差(p<0.05)を示す。
図7】FLT3−ITDを有するヒト初代AML細胞の生存に対するBL−8040(20μM)、AC220(50nM)、又はそれらの組み合わせの効果を示す棒グラフである。図7Aは、死細胞の出現率を示す。図7Bは、生存細胞数を示す。一つの星印()は、未処理対照に対する統計的有意差(p<0.05)を示す。一対の星印(**)は、AC220のみの場合に対する統計的有意差(p<0.05)を示す。
図8】FLT3−WTを有するヒト初代AML細胞の生存に対するBL−8040(20μM)、AC220(50nM)、又はそれらの組み合わせの効果を示す棒グラフである。図8Aは、死細胞の出現率を示す。図8Bは、生存細胞数を示す。一つの星印()は、未処理対照に対する統計的有意差(p<0.05)を示す。
図9】BL−8040、AC220又は両方で処理したNSGマウスの血液中のAML生細胞の百分率を示す棒グラフである。
図10】処理から7日後の、BL−8040、AC220又は両方で処理したNSGマウスの血液中の総白血球数を示す棒グラフである。
図11A】BL−8040、AC220又は両方で処理したNSGマウスの骨髄(BM)中のAML生細胞の百分率を示す棒グラフである。
図11B】BL−8040、AC220又は両方で処理したNSGマウスの骨髄(BM)中のAML生細胞数を示す棒グラフである。
図12A】BL−8040、AC220又は両方で処理したNSGマウスの脾臓中のAML生細胞数を示す棒グラフである。
図12B】BL−8040、AC220又は両方で処理したNSGマウスの脾臓中のAML生細胞の百分率を示す棒グラフである。
図13A】BL−8040、AC220又は両方で処理したNSGマウスの骨髄(BM)中のアポトーシスAML細胞数を示す棒グラフである。
図13B】BL−8040、AC220又は両方で処理したNSGマウスの骨髄(BM)中のアポトーシスAML細胞の百分率を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、FLT3変異を有する急性骨髄性白血病の治療におけるCXCR4拮抗性ペプチドの使用に関する。
【0033】
本発明の原理及び作用は、図面及び付随する説明を参照して、より深く理解することができる。
【0034】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明の用途は、下記記載、又は実施例による例示によって示される詳細に必ずしも限定されるものではないことを理解されたい。本発明は、他の実施形態、又は、様々な方法で実践若しくは実行することが可能である。また、本明細書で使用される表現及び専門用語は、説明を目的とし、限定として見なされるべきではないことを理解されたい。
【0035】
FLT3−ITD変異は、急性骨髄性白血病(AML)の患者の約1/4に見出され、特に予後が悪いと考えられている(Levis and Small,Leukemia 17:1738−1752,2003)。
【0036】
本発明の実施化に当たり、本発明者らは、驚くべきことに、CXCR4拮抗性ペプチドBL−8040(配列番号1)が、野生型AML細胞と比較して、FLT3−ITD変異を有するAML細胞に対して実質的により有毒であることを発見した(下記の実施例1を参照されたい)。
【0037】
本発明の態様によれば、急性骨髄性白血病(AML)の治療方法が提供される。本方法は、(i)FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)変異を有するAMLの対象を識別するステップと、(ii)対象に、治療的有効量のCXCR4拮抗性ペプチドを投与するステップとを含む。
【0038】
野生型FLT3配列は、配列番号73及び74に示した。
【0039】
FLT3変異を有するAMLの対象は、例えばMurphy et al.,J Mol.Diagn.5: 96-102,2003に記載されている方法など当技術分野にて既知の方法を用いて識別することができる。FLT3における変異は、Markovic et al.J.Biochem.Cell Biol.2005 37(6):1168−72;及びNakao et al.1996 Leukemia 10(12):1911−8にも記載されている。
【0040】
FLT3遺伝子における遺伝子内縦列重複は、典型的には、異常な(abbarent)RNA転写産物により特徴付けられる。このような異常なRNA転写産物は、エクソン11内の単純な内部重複、4bpの挿入を伴う内部重複(26bp)、又はエクソン11の3’部分からイントロン11にわたる136bp配列及びエクソン12の最初の16bp配列における、1bpの挿入を伴う重複に由来するものである(Nakao、前出参照)。他の異常も存在し得る。
【0041】
特定の実施形態によれば、FLT3変異は、タンパク質の活性化をもたらす。
【0042】
一実施形態において、FLT3変異は、FLT3遺伝子内縦列重複(ITD)変異である(Levis and Small,Leukemia 17:1738−1752,2003;Nakao前出)。
【0043】
別の実施形態によれば、FLT3変異は、835位のアスパラギン酸残基におけるミスセンス変異である。
【0044】
本明細書において「ペプチド」は、ネイティブなペプチド(分解生成物、合成的に合成されたペプチド、又は組み換えペプチドのいずれか)及びペプチド模倣薬(典型的には、合成的に合成されたペプチド)、並びにペプチド類似体であるペプトイド及びセミペプトイド、例えば、ペプチドの体内での安定性あるいは細胞浸透性を高めるような修飾を有するものを包含する。
【0045】
本発明のCXCR4拮抗性ペプチドは、4F−ベンゾイル−TN14003(配列番号1)類似体及び誘導体と称されることもある。また、下記に詳細する「T−140類似体」としても既知の、国際公開第2002/020561号及び国際公開第2004/020462号の特許出願に開示されているペプチドと構造的及び機能的に関連している。理論にとらわれるものではないが、本発明のペプチドは、骨髄性白血病細胞の増殖停止及び/又は死を誘導することが示唆される。
【0046】
本明細書において「CXCR4拮抗性ペプチド」は、そのペプチド拮抗薬が存在しない場合に比べてCXCR−4の活性化を少なくとも10%低下させるペプチドである。特定の実施形態によれば、ペプチド拮抗薬は、競合阻害剤である。特定の実施形態によれば、ペプチド拮抗薬は、非競合阻害剤である。
【0047】
本明細書において「ペプチド」は、ネイティブなペプチド(分解生成物、合成的に合成されたペプチド、又は組み換えペプチドのいずれか)及びペプチド模倣薬(典型的には、合成的に合成されたペプチド)、並びにペプチド類似体であるペプトイド及びセミペプトイド、例えば、ペプチドの体内での安定性あるいは細胞浸透性を高めるような修飾を有するものを包含する。
【0048】
特定の実施形態によれば、ペプチドは、100アミノ酸以下の長さを有する。特定の実施形態によれば、ペプチドは、5〜100アミノ酸の長さを有する。特定の実施形態によれば、ペプチドは、5〜50アミノ酸の長さを有する。特定の実施形態によれば、ペプチドは、5〜20アミノ酸の長さを有する。特定の実施形態によれば、ペプチドは、5〜15アミノ酸の長さを有する。特定の実施形態によれば、ペプチドは、10〜20アミノ酸の長さを有する。特定の実施形態によれば、ペプチドは、10〜15アミノ酸の長さを有する。
【0049】
特定の実施形態によれば、本発明のCXCR4拮抗性ペプチドは、例えば4F−ベンゾイル−TN14003(配列番号1)類似体及び誘導体であり、下記に詳細する「T−140類似体」としても既知の、国際公開第2002/020561号及び国際公開第2004/020462号の特許出願に開示されているペプチドと構造的及び機能的に関連している。
【0050】
様々な特定の実施形態において、T−140類似体又は誘導体は、以下の式(I)に示すアミノ酸配列、又はその塩を有する。
【化1】
【0051】
式中:
は、アルギニン、リシン、オルニチン、シトルリン、アラニン若しくはグルタミン酸残基、若しくはこれらのアミノ酸のN−α−置換誘導体である、又はAは不在であり;
は、Aが存在する場合、アルギニン若しくはグルタミン酸残基を表し、又、Aが不在の場合、Aは、アルギニン若しくはグルタミン酸残基、若しくはこれらのアミノ酸のN−α−置換誘導体を表し;
は、芳香族アミノ酸残基を表し;
、A及びAは、各々独立して、アルギニン、リシン、オルニチン、シトルリン、アラニン又はグルタミン酸残基を表し;
は、プロリン、グリシン、オルニチン、リシン、アラニン、シトルリン、アルギニン又はグルタミン酸残基を表し;
は、プロリン、グリシン、オルニチン、リシン、アラニン、シトルリン又はアルギニン残基を表し;
は、チロシン、フェニルアラニン、アラニン、ナフチルアラニン、シトルリン又はグルタミン酸残基を表し;
10は、シトルリン、グルタミン酸、アルギニン又はリシン残基を表し;
11は、アルギニン、グルタミン酸、リシン又はシトルリン残基を表し、C−末端カルボキシル基は、誘導体化されていてもよく;
4位又は13位のシステイン残基は、ジスルフィド結合を形成してもよく、アミノ酸は、L型又はD型のいずれであってもよい。
【0052】
式(I)による例示的なペプチドは、下記の表1に提示する配列番号1〜72の任意の1つに示されるアミノ酸配列を有するペプチドである。
【0053】
【表1-1】
【0054】
【表1-2】
【0055】
特定の実施形態によれば、配列番号1〜72の各々において、2つのシステイン残基は、ジスルフィド結合にて結合されている。
【0056】
別の実施形態において、類似体又は誘導体は、配列番号65(H−Arg−Arg−Nal−Cys−Tyr−Cit−Lys−DLys−Pro−Tyr−Arg−Cit−Cys−Arg−OH;TC14003)に示すアミノ酸配列を有する。
【0057】
別の実施形態において、本発明の組成物及び方法に使用されるペプチドは、本質的に配列番号1に示すアミノ酸配列からなる。別の実施形態では、本発明の組成物及び方法に使用されるペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、ペプチドは、配列番号1に対して少なくとも60%、少なくとも70%、又は少なくとも80%相同である。別の実施形態では、ペプチドは、配列番号1に対して少なくとも90%相同である。別の実施形態では、ペプチドは、配列番号1に対して少なくとも約95%相同である。上記可能な形態はそれぞれ本発明の別々の実施形態を表す。
【0058】
様々な別の実施形態において、ペプチドは、配列番号1〜72から選択され、上記可能な形態はそれぞれ本発明の別々の実施形態を表す。
【0059】
別の実施形態において、ペプチドは、配列番号1〜4、10、46、47、51〜56、65、66、68、70及び71の任意の1つに示すアミノ酸配列を有する。別の実施形態では、ペプチドは、配列番号4、10、46、47、68及び70の任意の1つに示すアミノ酸配列を有する。別の実施形態では、ペプチドは、配列番号1、2、51、65及び66の任意の1つに示すアミノ酸配列を有する。別の実施形態では、ペプチドは、配列番号53〜56の任意の1つに示すアミノ酸配列を有する。
【0060】
一実施形態において、ペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列を有する。別の実施形態では、ペプチドは、配列番号2に示すアミノ酸配列を有する。別の実施形態では、ペプチドは、配列番号51に示すアミノ酸配列を有する。別の実施形態では、ペプチドは、配列番号66に示すアミノ酸配列を有する。
【0061】
他のCXCR4ペプチド阻害剤(拮抗薬)としては、LY2510924(Lilly Oncologyによる)、CTCE−9908(Huang et al.2009 Journal of Surgical Research 155:231−236)、Fc131類似体、及び下記の引用文献(その各々は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に特定されているナノボディが挙げられるが、これらに限定されない:
【0062】
Tan NC,Yu P,Kwon Y−U,Kodadek T.High−throughput evaluation of relative cell permeability between peptoids and peptides.Bioorg Med Chem.2008;16:5853−61
Kwon Y−U,Kodadek T.Quantitative evaluation of the relative cell permeability of peptoids and peptides.J Am Chem Soc.2007;129:1508
Miller S,Simon R,Ng S,Zuckermann R,Kerr J,Moos W.Comparison of the proteolytic susceptibilities of homologous L−amino acid,D−amino acid,and N−substituted glycine peptide and peptoid oligomers.Drug Dev Res.1995;35:20−32
Yoshikawa Y,Kobayashi K,Oishi S,Fujii N,Furuya T.Molecular modeling study of cyclic pentapeptide CXCR4 antagonists:new insight into CXCR4−FC131 interactions.Bioorg Med Chem Lett.2012;22:2146−50
Jaahnichen S,Blanchetot C,Maussang D,Gonzalez−Pajuelo M,Chow KY,Bosch L,De Vrieze S,Serruys B,Ulrichts H,Vandevelde W.CXCR4 nanobodies(VHH−based single variable domains)potently inhibit chemotaxis and HIV−1 replication and mobilize stem cells.Proc Natl Acad Sci USA.2010;107:20565−70。
【0063】
本発明のCXCR4拮抗性ペプチドは、FLT3変異を有するAMLの対象の治療に使用される。
【0064】
本明細書において「治療する」は、病態(疾病、疾患又は状態、即ち、FLT3変異を有する急性骨髄性白血病)の発達を阻害、予防若しくは停止させ、及び/又は、病態の減少、寛解若しくは軽減を引き起こすことを指す。当業者は、様々な方法論及びアッセイを用いて病態の発達を評価できる。また同様に、様々な方法論及びアッセイを用いて病態の減少、寛解又は軽減を評価できることを理解するであろう。
【0065】
本明細書において「予防する」は、疾病の危険性を有し得るが、まだ疾病にかかったと診断されていない患者において、疾病、疾患又は状態の発生を防ぐことを指す。
【0066】
本明細書において「対象」は、病態を持つすべての年齢の哺乳動物、好ましくはヒトを含む。
【0067】
本発明のCXCR4拮抗性ペプチドは、単独で、又は1つ以上の化学療法薬と組み合わせて投与されてもよい。
【0068】
本明細書において「化学療法薬」は、癌の治療において、治療的有用性を有する任意の化学的薬剤を指す。本明細書で使用される化学療法薬は、化学的及び生物的薬剤の両方を包含する。これらの薬剤は、癌細胞が継続的な生存のために依存する細胞活動を阻害するよう機能する。化学療法薬のカテゴリーには、アルキル化剤/アルカロイド剤、代謝拮抗薬、ホルモン又はホルモン類似体、そのほか多くの抗悪性腫瘍薬が含まれる。これらの薬物の全部ではないが殆どは、癌細胞に対して直接有毒であり、免疫刺激を必要としない。好適な化学療法薬は、例えば、Harrison’s Principles of Internal medicine,14th editionのSlapak and Kufe,Principles of Cancer Therapy,Chapter 86;Abeloff,Clinical Oncology 2nd ed.,2000 ChrchillLivingstone,Inc.のPerry et al.,Chemotherapeutic,Ch 17;Baltzer L.and Berkery R.(eds):Oncology Pocket Guide to Chemotherapeutic,2nd ed.St. Louis,mosby−Year Book,1995;Fischer D.S.,Knobf M.F.,Durivage H.J.(eds):The Cancer Chemotherapeutic Handbook,4th ed.St. Louis,Mosby−Year Handbookに記載されている。
【0069】
いくつかの実施形態において、本発明の化学療法薬は、シタラビン(シトシンアラビノシド、Ara−C、サイトサール−U)、キザルチニブ(AC220)、ソラフェニブ(BAY 43−9006)、レスタウルチニブ(CEP−701)、ミドスタウリン(PKC412)、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、ダカルバジン、イホスファミド、ロムスチン、メクロレタミン、プロカルバジン、ペントスタチン(2’デオキシコホルマイシン)、エトポシド、テニポシド、トポテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、パクリタキセル、デキサメサゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、全トランスレチノイン酸、三酸化ヒ素、インターフェロン−α、リツキシマブ(リツキサン(登録商標))、ゲムツズマブ、オゾガマイシン、イマチニブメシル酸塩、サイトサール−U、メルファラン、ブスルファン(ミレラン(登録商標))、チオテパ、ブレオマイシン、白金(シスプラチン)、シクロホスファミド(シトキサン(登録商標))、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、5−アザシチジン、クラドリビン、フルダラビン、ヒドロキシ尿素、6−メルカプトプリン、メトトレキサート、6−チオグアニン、又はそれらの任意の組み合わせである。
【0070】
一実施形態において、化学療法薬は、シタラビン(ARA−C)である。
【0071】
別の実施形態において、化学療法薬は、キザルチニブ(AC220)である。
【0072】
興味深いことに、CXCR4ペプチド拮抗薬(例えば、配列番号1)と化学療法薬(例えば、AC220)との組み合わせは、AML細胞のアポトーシスの誘発において相乗作用を生じる。
【0073】
本発明のCXCR4拮抗性ペプチド及び化学療法薬は、対象に同時に又は連続して投与されてもよい。
【0074】
本発明のCXCR4拮抗性ペプチドは、活性成分としてそのまま、又は、好適な担体若しくは賦形剤と混合した医薬組成物として対象に投与されてもよい。
【0075】
本明細書において、「医薬組成物」は、生理学的に好適な担体及び賦形剤等の他の化学構成成分を有する、本明細書に記載される活性成分のうちの1つ以上の製剤を指す。医薬組成物の目的は、生物に対する化合物の投与を容易にすることである。
【0076】
本明細書において、「活性成分」は、生物学的効果を担うペプチドを指す。場合により、本明細書で下記に更に記載するように、化学療法薬、放射線剤等の複数の活性成分が処方中に含まれてもよい。
【0077】
以後「生理学的に許容され得る担体」及び「薬学的に許容され得る担体」は交換可能に使用され得るが、生物に対して有意な刺激作用を生じず、また投与される化合物の生物学的活性及び特性を抑制しない担体又は希釈剤を指す。
【0078】
本明細書において、「賦形剤」は、医薬組成物に添加されて、活性成分の投与を更に容易にする不活性物質を指す。賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々なタイプの糖及び澱粉、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、並びにポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
薬物の調製及び投与のための技術は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
“Remington’s Pharmaceutical Sciences”,Mack Publishing Co.,Easton,PAの最新版に見出すことができる(Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Gennaro,A.,Lippincott,Williams & Wilkins,Philadelphia,Pa.,20th ed,2000)。
【0080】
本発明の医薬組成物は、例えば、従来からの混合、溶解、顆粒化、糖衣錠形成、微粒子化、乳化、カプセル化、封入、又は凍結乾燥など、当技術分野にて周知のプロセスにより製造することができる。
【0081】
本発明による使用のための医薬組成物は、活性成分の薬学的に使用され得る製剤への加工を容易にする、賦形剤及び補助剤を含む生理学的に許容され得る担体を1種以上使用して、従来からの方法で処方してもよい。適切な処方は、選ばれる投与経路に依存する。
【0082】
一実施形態において、本発明のペプチド、又は該ペプチドを含む医薬組成物は、皮下に投与される。
【0083】
別の実施形態では、本発明のペプチド、又は該ペプチドを含む医薬組成物は、静脈内に投与される。
【0084】
注射の場合、医薬組成物の活性成分は、水溶液(例えば、WFI)、好ましくはハンクス液、リンゲル液、又は生理食塩緩衝液等の生理学的適合性を有する緩衝液として処方されてもよい。
【0085】
投与用として使われうる医薬組成物としては、水溶性の形態として活性製剤の水溶液が挙げられる。加えて、活性成分の懸濁液を、適切な油性の又は水性の注射懸濁液として調製してもよい。好適な親油性溶媒又はビヒクルとしては、ゴマ油等の脂肪油、又は、オレイン酸エチル、トリグリセリド、若しくはリポソーム等の合成脂肪酸エステルが挙げられる。水性の注射懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、又はデキストラン等の、懸濁液の粘度を増加させる物質を含んでもよい。場合により、懸濁液はまた、高濃度溶液を調製するために、好適な安定剤、又は活性成分の溶解度を増大させる成分を含んでもよい。
【0086】
あるいは活性成分は粉末形態にあってもよく、使用前に好適なビヒクル、例えば、無菌かつパイロジェンフリーの水性溶液を用いて再構成する。
【0087】
上記の代替となる実施形態は、当技術分野にて周知の、対象内での活性成分の徐放または活性持続時間の延長をもたらすデポー剤を含む。
【0088】
本発明における使用に好適な医薬組成物には、意図される目的を達成するのに有効な量の活性成分を含む組成物が含まれる。治療的有効量の決定は、通常の技術範囲で、特に本明細書によって提供される詳細な開示をもとに、当業者が十分に行うことができる。
【0089】
本発明の方法に使用される任意の製剤について、治療的有効量又は用量は、まずインビトロのアッセイおよび細胞培養アッセイから概算することができる。例えば、動物モデルにおいて所望の濃度又は力価を達成する、用量を処方してもよい。得られた情報からヒトにおいて有用な用量をより正確に決定することができる。
【0090】
本明細書に記載される活性成分の毒性及び治療有効性は、標準的な薬学的手順により、インビトロ、細胞培養物又は実験動物で決定してもよい(後の実施例、及びSekido et al.2002 Cancer Genet Cytogenet 137(1):33−42を参照)。これらのインビトロ、細胞培養アッセイ及び動物試験から得られたデータを、ヒトで使用される投与量の範囲を決定するのに使用することができる。投与量は、使用する剤形と、利用する経路とに応じて変化し得る。正確な製剤、投与経路及び投与量は、患者の状態を考慮して、個々の医師により選択されうる。(例えば、Fingl,et al.,1975,“The Pharmacological Basis of Therapeutics”,Ch.1 p.1参照)。
【0091】
いくつかの実施形態において、本発明のCXCR4拮抗性ペプチド、又は該ペプチドを含む医薬組成物の1日当たりの用量は、0.1〜10mg/kg体重、0.1〜2mg/kg体重、0.1〜1mg/kg体重、0.3〜10mg/kg体重、0.3〜2mg/kg体重、0.3〜1mg/kg体重、又は0.3〜0.9mg/kg体重の範囲内である。
【0092】
いくつかの実施形態において、本発明の化学療法薬、又は当該化学療法薬を含む医薬組成物の1日当たりの用量は、1〜10g/平方メートル体表面積、1.5〜5g/平方メートル体表面積、又は2〜4g/平方メートル体表面積の範囲内である。
【0093】
治療の継続時間及び頻度について、熟練した臨床医は、治療がいつ治療的利益を提供するかの決定や、投与量や投与頻度の増減、治療の中断、治療の再開、又はその他の治療計画の変更について決定するために、対象のモニタリングを行うことは、通常の手順である。投与スケジュールは、血球数(例えば、赤血球又は白血球レベル、ヘモグロビンレベル等)やペプチドに対する対象の感受性などの多数の臨床的因子に応じて変動し得る。所望の用量は、1回で投与されてもよく、又は、サブ用量、例えば、2〜4のサブ用量に分割され、例えば1日を通して適切な間隔で、若しくは他の適切なスケジュールで、ある期間にわたって投与されてもよい。そのようなサブ用量は、単位剤形で投与されてもよい。
【0094】
いくつかの実施形態において、本発明のCXCR4拮抗性ペプチドは、化学療法薬の投与に先立って、少なくとも1日間、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも1ヶ月間、又は少なくとも2ヶ月間、投与される。
【0095】
本明細書に記載される活性成分、即ちCXCR4拮抗性ペプチド及び化学療法薬は、包装されて製品とされてもよい。本発明の実施形態によれば、そのような製品は、少なくとも2つの別個の容器(例えば、3つ以下の容器)を含んでもよい。1つの容器がCXCR−4ペプチド拮抗薬(例えば、配列番号1に示すペプチド)を梱包したものであり、他の容器が化学療法薬(例えば、ara−C)を梱包したものである。製品は、ラベル、及び/又は、骨髄性白血病(例えば、AML)の治療のための説明書を含んでもよい。
【0096】
上記に代えて、または上記に加えて、CXCR4阻害剤(例えば、配列番号1)及び化学療法薬(シタラビン)を共処方して、上述したような医薬組成物に処方してもよい。
【0097】
それ故、本発明のいくつかの実施形態の組成物(CXCR4拮抗薬、化学療法、又はこれらの組み合わせ)及び/又は物品は、所望により、活性成分を含有する1つ以上の単位剤形を収容し得る、FDA認可キットのようなパックやディスペンサー装置内に入っていてもよい。パックは、例えば、ブリスターパックのような金属又はプラスチック箔を含んでもよい。パックやディスペンサー装置は、投与のための説明書が添えられてもよい。パックやディスペンサーはまた、医薬品の製造、使用又は販売を規制している行政機関により規定された形態の通知書を、容器に収容していてもよく、このような通知書は、組成物、又はヒトへの投与若しくは獣医学的投与の形態が、当機関により認可されていることの証明となる。そのような通知書は、例えば、処方薬に関して米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration)により認可されたラベル、又は、認可された製品説明書(insert)であり得る。適合する医薬担体中に処方された本発明の製剤を含む組成物を調製し、適切な容器(例えば、凍結乾燥バイアル)に収容し、上記で詳述した病状の治療用である旨のラベルを付すこともできる。
【0098】
本明細書において「約」は、±10%を指す。
【0099】
本明細書において「方法」は、所定の課題を達成するための様式、手段、技術及び手順を指し、これらに限定されるものではないが、化学分野、薬理学分野、生物学分野、生化学分野及び医療分野の事業従事者に既知の様式、手段、技術及び手順、あるいは当該既知の様式、手段、技術及び手順から容易に開発可能な様式、手段、技術及び手順を含むが、これらに限定されない、所定の課題を達成するための様式、手段、技術及び手順が挙げられる。
【0100】
明確さのために別個の実施形態の文脈にて記載される本発明の所定の特徴は、また、単一の実施形態において組み合わせて提供され得ることを理解されたい。逆に、簡潔さのために単一の実施形態の文脈にて記載される本発明の様々な特徴は、別々に又は任意の好適なサブコンビネーションで、又は適宜記載された本発明の任意の他の実施形態にも提供され得る。様々な実施形態の文脈にて記載される所定の特徴は、実施形態がそれらの要素なしでは動作不能でない限り、それらの実施形態の必須の特徴と考えられるべきではない。
【0101】
上述したように本明細書に記載され、特許請求の範囲に請求される本発明のさまざまな実施形態及び態様は、以下の実施例によって実験的に支持されるものである。
【0102】
実施例
ここで、上記の記載と共に本発明を限定することなく説明する以下の実施例に参照する。
【0103】
一般に、本明細書で使用する用語体系、及び本発明に利用される検査法は、分子技術、生化学的技術、微生物学的技術、及び組み換えDNA技術などを含む。それらの技術は、文献に詳細に説明されている。例えば、“Molecular Cloning:A laboratory Manual”Sambrook et al.,(1989);“Current Protocols in Molecular Biology”Volumes I−III Ausubel,R.M.,Ed.(1994);Ausubel et al.,“Current Protocols in Molecular Biology”,John Wiley and Sons,Baltimore,Maryland(1989);Perbal,“A Practical Guide to Molecular Cloning”,John Wiley & Sons,New York(1988);Watson et al.,“Recombinant DNA”,Scientific American Books,New York;Birren et al.(Eds.)“Genome Analysis:A Laboratory Manual Series”,Vols.1−4,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(1998);米国特許第4,666,828号;米国特許第4,683,202号;米国特許第4,801,531号;米国特許第5,192,659号及び米国特許第5,272,057号に示される方法論;“Cell Biology:A Laboratory Handbook”,Volumes I−III Cellis,J.E.,Ed.(1994);“Culture of Animal Cells − A Manual of Basic Technique”Freshney,Wiley−Liss,N.Y.(1994),3rd Edition;“Current Protocols in Immunology”Volumes I−III Coligan J.E.,Ed.(1994);Stites et al.(Eds.),“Basic and Clinical Immunology”(8th Edition),Appleton & Lange,Norwalk,CT(1994);Mishell and Shiigi(Eds.),“Selected Methods in Cellular Immunology”,W.H.Freeman and Co.,New York(1980)を参照されたい;また利用可能なイムノアッセイは、特許及び科学文献に広範囲に記載されており、例えば米国特許第3,791,932号;米国特許第3,839,153号;米国特許第3,850,752号;米国特許第3,850,578号;米国特許第3,853,987号;米国特許第3,867,517号;米国特許第3,879,262号;米国特許第3,901,654号;米国特許第3,935,074号;米国特許第3,984,533号;米国特許第3,996,345号;米国特許第4,034,074号;米国特許第4,098,876号;米国特許第4,879,219号;米国特許第5,011,771号及び米国特許第5,281,521号;“Oligonucleotide Synthesis”Gait,M.J.,Ed.(1984);“Nucleic Acid Hybridization”Hames,B.D.,and Higgins S.J.,Eds.(1985);“Transcription and Translation”Hames,B.D.,and Higgins S.J.,Eds.(1984);“Animal Cell Culture”Freshney,R.I.,Ed.(1986);“Immobilized Cells and Enzymes”IRL Press,(1986);“A Practical Guide to Molecular Cloning”Perbal,B.,(1984)及び“Methods in Enzymology”Vol.1−317,Academic Press;“PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications”,Academic Press,San Diego,CA(1990);Marshak et al.,“Strategies for Protein Purification and Characterization − A Laboratory Course Manual”CSHL Press(1996)を参照されたい。これらの全ては、本明細書に完全に示されるが如く参照により組み込まれる。他の一般的な参考文献も本文書全体に提供されている。これらに記載されている手順は、当技術分野にて周知であると考えられ、読者の利便性のために提供される。これらに含まれる情報の全ては、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例1】
【0104】
単独、又は、化学療法薬と組み合わせたCXCR4拮抗性ペプチドBL−8040のインビトロでのAML細胞の生存に対する効果
【0105】
材料及び方法
薬剤
BL−8040(4F−ベンゾイル−TN14003;配列番号1)を合成し、MSD N.V.により凍結乾燥した。
ARA−C(シタラビン)をHadassah cytotoxica pharmacy(イスラエル国)から購入した。
AC220(キザルチニブ)をSelleck chemicals(米国)から購入した。
【0106】
AML細胞
以下の細胞株を、ATCCから入手した:MV4−11(FLT3−ITD変異を有するヒトAML細胞)及びHL60(野生型FLT3(FLT3−WT)を有するヒトAML細胞)。
【0107】
FLT3−ITD変異を有するヒト初代AML細胞、及びFLT3−WTを有するヒト初代AML細胞は、Chaim Sheba医療センター(Chaim Sheba Medical Center)(イスラエル国、テルアビブ)の規則に従って同意を得た後にAML患者から入手した。Ficoll−Paque(Pharmacia Biotech、スウェーデン国、ウプサラ)を使用した密度勾配遠心分離により、血液サンプルから末梢血単核細胞(PBMC)を分離した。10% DMSOを添加した1%ウシ胎仔血清(FCS;Biological Industries,イスラエル国、キブツ ベイト ハメニク)中に細胞を懸濁した後、液体窒素中に保管した。毒性アッセイの開始に先だって、単離された細胞を解凍し、20% FCSを添加したロズウェルパーク記念研究所培地(RPMI 1640;Gibco BRL life technologies)中に再懸濁し、37℃で4時間インキュベートした。FLT3−ITD変異又は野生型FLT3(FLT3−WT)を有する単離細胞を、Levis and Small(Leukemia 17:1738−1752,2003)に記載された手順と実質的に同じ方法を使用することによって識別した。
【0108】
生存アッセイの手順
BL−8040(8μM又は20μM)、ARA−C(50ng/ml)及びAC220(0.5又は50nM)又はそれらの組み合わせを含むか含まない、1% FCS添加RPMI培地中に、96穴プレート内のウェル当たり2×10細胞/250μlの細胞を播種した。5% COを含む湿気のある雰囲気内にて37℃で、培養物を48時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞をヨウ化プロピジウム(PI;Sigma,米国、セントルイス;1:1000)で染色し、死細胞(%PI陽性)の出現率と、生存細胞(PI陰性)の密度とを、Beider and Begin(Exp Hematol 39:282−92,2011)に記載された手順を用いFACScaliburを使用して決定した。
【0109】
結果
野生型FLT3遺伝子を有するヒトAML細胞をBL−8040に暴露したことにより、死細胞の出現率(%死細胞)が増加し、生存細胞密度(生存細胞の数)が低下した。しかしながら、最も驚くべきことに、(野生型FLT3とは違って)FLT3−ITD変異を有する類似したAML細胞に対するBL−8040単独の効果は、実質的により強く、死細胞の百分率のレベルはより高く、生存細胞数のレベルはより低かった。BL−8040(即ち、配列番号1、FLT3−ITD変異を有するAML細胞に対してより効果的)の示すこの差別的な効果は、FLT3−ITD変異を有するAMLが標準的な化学療法に抵抗性であるという知見故に、予想に反するものであった。
【0110】
図1Aは、BL−8040(8μM)への暴露が、FLT3−ITDを有するヒト初代AML細胞の死細胞百分率を79.3%も増大させたことを示す。比較して、BL−8040は、野生型FLT3を有するヒト初代AML細胞の死細胞百分率を13.7%しか増大させなかった(図2A)。
【0111】
図1Bは、BL−8040(8μM)への暴露が、FLT3−ITDを有するヒト初代AML細胞の生存細胞数を28.8%低下させたことを示す。比較して、BL−8040は、野生型FLT3を有するヒト初代AML細胞の生存細胞数を16.1%しか低下させなかった(図2B)。
【0112】
図7Aは、BL−8040(20μM)への暴露が、FLT3−ITDを有するヒト初代AML細胞の死細胞百分率を116.6%も増大させたことを示す。比較して、BL−8040は、野生型FLT3を有するヒト初代AML細胞の死細胞百分率を56.3%しか増大させなかった(図8A)。
【0113】
図7Bは、BL−8040(20μM)がFLT3−ITDを有するヒト初代AML細胞の生存細胞数を50.0%低下させたことを示す。比較して、BL−8040は、野生型FLT3を有するヒト初代AML細胞の生存細胞数を34.4%しか低下させなかった(図8B)。
【0114】
BL−8040を化学療法薬(ARA−C又はAC220)と組み合わせた場合、AML細胞の生存に対する混合物の(死細胞の出現率と、残存する生存細胞の密度とにより決定される)組み合わせ効果は、野生型FLT3を有するAML細胞に対するよりも、FLT3−ITD変異を有するAML細胞に対するほうがかなり強かった。
【0115】
図1Aは、ARA−C(50ng/ml)と組み合わせたBL−8040(8μM)が、FLT3−ITDを有するヒト初代AML細胞の死細胞百分率を110.3%も増大させたことを示す。比較して、同一の組み合わせ処理は、野生型FLT3を有するヒト初代AML細胞の死細胞百分率を13.7%しか増大させなかった(図2A)。
【0116】
図1Bは、ARA−C(50ng/ml)と組み合わせたBL−8040(8μM)が、FLT3−ITDを有するヒト初代AML細胞の生存細胞数を44.4%低下させたことを示す。比較して、同一の組み合わせ処理は、野生型FLT3を有するヒト初代AML細胞の生存細胞数を3.3%しか低下させなかった(図2B)。
【0117】
図3Aは、ARA−C(50ng/ml)と組み合わせたBL−8040(20μM)が、FLT3−ITDを有するヒトMV4−11 AML細胞の死細胞百分率を143.7%も増大させたことを示す。比較して、同一の組み合わせ処理は、野生型FLT3を有するヒトHL−60 AML細胞の死細胞百分率を32.4%しか増大させなかった(図4A)。
【0118】
図3Bは、ARA−C(50ng/ml)と組み合わせたBL−8040(20μM)が、FLT3−ITDを有するヒトMV4−11 AML細胞の生存細胞数を73.8%低下させたことを示す。比較して、同一の組み合わせ処理は、野生型FLT3を有するヒトHL−60 AML細胞の生存細胞数を50.0%しか低下させなかった(図4B)。
【0119】
図5Aは、AC220(0.5μM)と組み合わせたBL−8040(20μM)が、FLT3−ITDを有するヒトMV4−11 AML細胞の死細胞百分率を218.2%も増大させたことを示す。比較して、同一の組み合わせ処理は、野生型FLT3を有するヒトHL−60 AML細胞の死細胞百分率を8.8%しか増大させなかった(図6A)。
【0120】
図5Bは、AC220(0.5μM)と組み合わせたBL−8040(20μM)が、FLT3−ITDを有するヒトMV4−11 AML細胞の生存細胞数を78.8%低下させたことを示す。比較して、同一の組み合わせ処理は、野生型FLT3を有するヒトHL−60 AML細胞の生存細胞数を51.4%しか低下させなかった(図6B)。
【0121】
図7Aは、AC220(50μM)と組み合わせたBL−8040(20μM)が、FLT3−ITDを有するヒトMV4−11 AML細胞の死細胞百分率を150.0%増大させたことを示す。比較して、同一の組み合わせ処理は、野生型FLT3を有するヒトHL−60 AML細胞の死細胞百分率を64.6%しか増大させなかった(図8A)。
【0122】
図7Bは、AC220(50μM)と組み合わせたBL−8040(20μM)が、FLT3−ITDを有するヒトMV4−11 AML細胞の生存細胞数を85.7%低下させたことを示す。比較して、同一の組み合わせ処理は、野生型FLT3を有するヒトHL−60 AML細胞の生存細胞数を34.8%しか低下させなかった(図8B)。
【0123】
これらの結果から、CXCR4拮抗性ペプチドBL−8040が、単独でも化学療法薬と組み合わせても、FLT3−ITD変異を有するAMLの治療に対して、非常に有利であることがわかる。
【実施例2】
【0124】
AML FLT3−ITDモデルにおいて、BL−8040はAML細胞のアポトーシスを誘発し、この効果はAC220の存在下で更に増大する。
【0125】
本発明者らは、FLT3変異を有するAML細胞の生存及びアポトーシスに対するBL−8040単独の場合、あるいはFLT3阻害剤AC220と組み合わせた場合の効果を試験した。
【0126】
方法:ヒトAML MV4−11細胞(FLT3−ITD)を使用した。細胞をBL−8040(20μM)、AC220(50nM)、又はそれらの組み合わせの存在下で、インビトロで48時間インキュベートした。生存細胞のレベル、及びアポトーシスの百分率をFACSにより評価した。
【0127】
インビボでの試験では、MV4−11細胞を移植したNOD SCID γ(NSG)マウスのAMLモデルを使用した。移植から3週間後には、マウスを7日間連続して毎日、BL−8040の皮下(SC)注射(400ug/マウス)、又はAC220(10mg/Kg)の経口投与、又はそれらの組み合わせで処理した。AML細胞の生存及びアポトーシスを、移植マウスの血液、BM及び脾臓について調べた。
【0128】
試験の概要を下記に記す。
マウス
対照 4匹
BL8040 5匹
AC220 5匹
BL8040+AC220 5匹
7〜9週齢の雌マウス
(−1)日目 2014/1/26:細胞注射の24時間前に、マウスに200rad照射した。
0日目 2014/1/27:マウスに総容積200μl PBS中の10×10のMV4−11細胞をIV注射した。
16日目 2014/2/12
血液中のhCD45細胞のレベルをFACSにより評価した:
50μlの血液を1mlのACKで溶解し、APC−抗ヒトCD45(1:40)と共にインキュベートした。
細胞を300μlのPBS中に再懸濁し、PI染色の後、FACSにより高速で30分間読み取った。
17日目 2014/2/13:マウスに対して、400μg/マウスのBKT140(400−500−110)のSC注射、又はAC220の経口投与、又はそれらの組み合わせを行った。
2014/2/13〜2014/2/19 7日間連続してBKT140やAC220で毎日処理を行った。
24日目 2014/2/20:マウスを屠殺し、各マウスから脾臓、血液及び4本の骨を採取した。
【0129】
結果:
インビトロにおいて、BL−8040によるAML細胞の処理は、直接的に細胞増殖を35%阻害し、細胞死を40%増大させた。AC220は60%の細胞に細胞死を誘発し、BL−8040とAC220との組み合わせは更に、これらの薬剤のアポトーシス効果を増大させ、細胞生存率を97%も低下させ、AML細胞の細胞死を93%も誘発することが見出された。
【0130】
インビボにおいて、BL−8040は、血液中のAML生芽細胞の百分率を、対照の13.5%から1.7%へと低下させることが見出された(図9)。BL−8040を含む又は含まないAC220による処理は、このレベルを0.1%に低下させる(図9)。興味深いことに、AC220処理後の総マウスWBCのレベルは、対照と比較して65%とかなり低下した(図10)。この正常なWBCの大幅な低下は、AC220をBL−8040と組み合わせた場合には起こらなかった。BM中のAML細胞の数を、対照マウスの12.6%と比較してBL−8040は2.6%まで低下させた一方、AC220は0.05%まで低下させた。AC220とBL−8040を組み合わせると、BM中のAML細胞は0.006%にまで低下し、3/5のマウスではBM中にAML細胞が全く存在しないことが見出された(図11A、B)。BL−8040がAML細胞のレベルを対照の21%から0.4%に低下させ、AC220がレベルを0.09%に低下させるなど、同様の効果が脾臓中でも観察された。AC220とBL−8040との組み合わせは、細胞レベルを0.02%にまで更に低下させた(図12A、B)。血液、BM及び脾臓中のAML細胞数の低下は、AML細胞アポトーシスの誘発を伴っていた(図13A、B)。
【0131】
結論:CXCR4拮抗薬BL−8040は、インビトロ及びインビボ両方においてAML細胞の細胞死を急速かつ効率的に誘発し、AC220との相乗作用を示すことが見出された。BL−8040とAC220の組み合わせは、AML細胞の微小残存病変を低減することが見出された。これらの結果から、BL−8040はBM中のAMLの固定(anchorage)だけでなくAMLの生存も標的とするため、FLT3陽性AML患者において潜在的な治療的利点を持ちうることがわかる。更に、これらの結果から、FLT3阻害剤AC220と組み合わせたBL−8040療法の合理性が提供されうる。
【0132】
本発明をその特定の実施形態と共に記載してきたが、多数の代替、改変及び変種が当業者に明らかとなることは明白である。従って、添付の特許請求の範囲の趣旨及び広い範囲内に含まれるそれらの代替、改変及び変種の全てを包含することが意図される。
【0133】
本明細書に言及した刊行物、特許及び特許出願の全ては、個々の刊行物、特許又は特許出願の各々が、具体的かつ個別に参照により本明細書に組み込まれる場合と同程度に、それらの全体が本明細書に組み込まれる。加えて、本明細書における任意の参考文献の引用又は特定は、それらの参考文献が本発明の先行技術として利用可能であると認めるものと解釈されるべきではない。各表題が使用される範囲において、それらは必ずしも限定するものと解釈してはならない。
【配列表フリーテキスト】
【0134】
配列番号1:合成ペプチド
配列番号2:合成ペプチド
配列番号3:合成ペプチド
配列番号4:合成ペプチド
配列番号5:合成ペプチド
配列番号6:合成ペプチド
配列番号7:合成ペプチド
配列番号8:合成ペプチド
配列番号9:合成ペプチド
配列番号10:合成ペプチド
配列番号11:合成ペプチド
配列番号12:合成ペプチド
配列番号13:合成ペプチド
配列番号14:合成ペプチド
配列番号15:合成ペプチド
配列番号16:合成ペプチド
配列番号17:合成ペプチド
配列番号18:合成ペプチド
配列番号19:合成ペプチド
配列番号20:合成ペプチド
配列番号21:合成ペプチド
配列番号22:合成ペプチド
配列番号23:合成ペプチド
配列番号24:合成ペプチド
配列番号25:合成ペプチド
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配列番号27:合成ペプチド
配列番号28:合成ペプチド
配列番号29:合成ペプチド
配列番号30:合成ペプチド
配列番号31:合成ペプチド
配列番号32:合成ペプチド
配列番号33:合成ペプチド
配列番号34:合成ペプチド
配列番号35:合成ペプチド
配列番号36:合成ペプチド
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配列番号38:合成ペプチド
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配列番号40:合成ペプチド
配列番号41:合成ペプチド
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配列番号43:合成ペプチド
配列番号44:合成ペプチド
配列番号45:合成ペプチド
配列番号46:合成ペプチド
配列番号47:合成ペプチド
配列番号48:合成ペプチド
配列番号49:合成ペプチド
配列番号50:合成ペプチド
配列番号51:合成ペプチド
配列番号52:合成ペプチド
配列番号53:合成ペプチド
配列番号54:合成ペプチド
配列番号55:合成ペプチド
配列番号56:合成ペプチド
配列番号57:合成ペプチド
配列番号58:合成ペプチド
配列番号59:合成ペプチド
配列番号60:合成ペプチド
配列番号61:合成ペプチド
配列番号62:合成ペプチド
配列番号63:合成ペプチド
配列番号64:合成ペプチド
配列番号65:合成ペプチド
配列番号66:合成ペプチド
配列番号67:合成ペプチド
配列番号68:合成ペプチド
配列番号69:合成ペプチド
配列番号70:合成ペプチド
配列番号71:合成ペプチド
配列番号72:合成ペプチド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]