特許第6759506号(P6759506)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6759506ラミナリペンタオース生成ベータ−1,3−グルカナーゼで酵母細胞壁を処理する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6759506
(24)【登録日】2020年9月7日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】ラミナリペンタオース生成ベータ−1,3−グルカナーゼで酵母細胞壁を処理する方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/04 20060101AFI20200910BHJP
   A23K 20/163 20160101ALN20200910BHJP
   A23K 20/147 20160101ALN20200910BHJP
   C08B 37/00 20060101ALN20200910BHJP
   A61K 31/716 20060101ALN20200910BHJP
   A61K 36/064 20060101ALN20200910BHJP
   A61P 37/04 20060101ALN20200910BHJP
   C12N 9/24 20060101ALN20200910BHJP
   C12N 15/56 20060101ALN20200910BHJP
【FI】
   C12P19/04 AZNA
   !A23K20/163
   !A23K20/147
   !C08B37/00 C
   !A61K31/716
   !A61K36/064
   !A61P37/04
   !C12N9/24
   !C12N15/56
【請求項の数】6
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-556002(P2016-556002)
(86)(22)【出願日】2015年3月20日
(65)【公表番号】特表2017-511122(P2017-511122A)
(43)【公表日】2017年4月20日
(86)【国際出願番号】EP2015055986
(87)【国際公開番号】WO2015140318
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2018年1月30日
(31)【優先権主張番号】14161040.2
(32)【優先日】2014年3月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】DSM IP ASSETS B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ランクホルスト, ピーター, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】スペッチェンス, エレン
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−525648(JP,A)
【文献】 特開平09−262090(JP,A)
【文献】 特開平07−284397(JP,A)
【文献】 特開平02−243697(JP,A)
【文献】 特開2003−169607(JP,A)
【文献】 特表2009−519712(JP,A)
【文献】 特開2002−262779(JP,A)
【文献】 土井健二、外2名,「Arthrobacterグルカナーゼ-Iが酵母グルカンおよびパキマンに作用した際に生じるオリゴ糖の同定」,澱粉科学,1972年,Vol.19, No.4,pp.186-191,doi: 10.5458/jag1972.19.186
【文献】 DOI, K. et al.,"CLONING AND EXPRESSION IN ESCHERICHIA COLI OF THE GENE FOR AN ARTHROBACTER BETA-(1->3)-GLUCANASE.",JOURNAL OF BACTERIOLOGY,AMERICAN SOCIETY FOR MICROBIOLOGY,1986年12月,Vol.168, No.3,pp.1272-1276,URL,http://dx.doi.org/10.1128/jb.168.3.1272-1276.1986
【文献】 VRSANSKA, M. et al.,"ENZYMES OF THE YEAST LYTIC SYSTEM PRODUCED BY ARTHROBACTER GJM-1 BACTERIUM AND THEIR ROLE IN THE LYSIS OF YEAST CELL WALLS.",ZEITSCHRIFT FUER ALLGEMEINE MIKROBIOLOGIE,AKADEMIE VERLAG,1977年,Vol.17, No.6,pp.465-480
【文献】 VRSANSKA, M. et al.,"LYSIS OF INTACT YEAST CELLS AND ISOLATED CELL WALLS BY AN INDUCIBLE ENZYME SYSTEM OF ARTHROBACTER GJM-1.",ZEITSCHRIFT FUER ALLGEMEINE MIKROBIOLOGIE,AKADEMIE VERLAG,1977年,Vol.17, No.5,pp.391-402,URL,http://dx.doi.org/10.1002/jobm.3630170509
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00− 3/00
C12N 9/00− 9/99
C12N 15/00−15/90
C08B 37/00−37/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水で抽出する場合には不溶であり、DMSOで抽出する場合には部分的に可溶であるβ−1,3−グルカンを含む酵母細胞壁を含む組成物を処理する方法であって、前記組成物とラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼとを接触させること、および前記ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼを不活性化させることを含み、酵母細胞壁を含む組成物であり、前記β−1,3−グルカンのDMSOへの可溶性が改善されており、水に対するDMSOに可溶なβ−グルカンの比が2以上であり、前記ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼは、配列番号6で示すアミノ酸配列または配列番号6と90%以上同一であるアミノ酸配列を有するストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)A3に由来し、本発明の方法を4〜7のpHで行い、本発明の方法を40℃〜70℃の温度で行い、前記ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼを、ラミナリペンタオース等のグルコースオリゴマーが生成される前に不活性化させる、組成物を得る方法。
【請求項2】
前記不活性化させることが、前記組成物を、前記ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼを不活性化するのに十分な時間にわたり、70℃超の温度まで加熱することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
本発明の方法をのpHで行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
本発明の方法を50℃〜60℃の温度で行う、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物がスターター飼料組成物中の飼料成分として使用される、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物が動物の飼料要求率を改善するために使用される、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、β−1,3−グルカンを含む酵母細胞壁を含む組成物を処理する方法であって、前記組成物とラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼ(laminaripentaose−producing−β−1,3−glucanase)とを接触させることを含む方法に関する。
【0002】
[発明の背景]
β−グルカンは、サイズ、可溶性および分子構造が不均一である多糖のファミリである。β−グルカンはグルコースのポリマーであり、連結は1,3、1,4および1,6であることができる。β−グルカンポリマー中のグルコース鎖は、1つのタイプの連結(例えば1,3)または2つ以上の混合(例えば1,3−1,4もしくは1,3−1,6)を有する直鎖または分枝であることができる。β−グルカンの構造は物理的性質および化学的性質に高度に影響を及ぼす。
【0003】
グルコースで構成されている最も公知の多糖はデンプンおよびセルロースである。デンプンは、アミロース(α−1,4連結を有する直鎖の多糖である)およびアミロペクチン(α−1,4連結とα−1,6連結を有する分枝とを有する多糖である)で構成されている。セルロースは、β−1,4連結のみを有する直鎖のβ−グルカンである。
【0004】
その他の公知の多糖は、不溶性β−1,3グルカンであるパキマンおよびカードランである。パキマンは、ポリア・ココス(Poria cocos)(バシディオマイセテス(Basidiomycetes)種)の菌核に由来するβ−1,3−グルカンであり、カードランはアルカリゲネス・フェカリス・バール・ミキソゲネス(Alcaligenes faecalis var.myxogenes)10C3Kにより産生される。ラミナリンは褐藻類で発見された貯蔵グルカンであり、1,6連結を有する1,3−グルカンで構成された直鎖の多糖である。1,3対1,6の比は3:1である(Wikipedia−http://en.wikipedia.org/wiki/Laminarin)。
【0005】
β−グルカンカラスムギおよびオオムギは、β−グルカンの工業用供給に関して2種の主な穀類である。カラスムギβ−グルカンは水溶性であり、その健康への効果に関して広く研究されている。繊維はβ−1,3連結およびβ−1,4連結で作られている。オオムギグルカンは同じ連結を含み、水溶性でもある。
【0006】
酵母β−グルカンの構造は穀類β−グルカンとは異なり、そのため特性が異なる。1,3連結グルコース単位および1,4連結グルコース単位の鎖の代わりに、酵母β−グルカンは、1,3連結モノマーおよび1,6連結モノマーで構成されている。酵母グルカンは酵母細胞壁中で主に見られる。酵母細胞壁は、細胞の総乾燥重量の15〜30%を占める。
【0007】
酵母細胞壁の主成分は多糖、タンパク質および少しのキチンである。多糖を、β−グルカンと、マンノースモノマーで構成されているマンナンとに分けることができる。細胞壁の構造は層で構成されている。大まかには、細胞壁を3層に分けることができる(Klis,F.M.,Cell Wall Assembly in Yeast,Yeast 10,851−869,1994)。第1の層は細胞の表面であり、主にマンノタンパク質で構成されている。第1の層の下には表面と原形質膜との間の内層が存在しており、この内層は2層からなる。原形質膜に最も近い内層は、β−1,3−グルカンで形成された原線維層であり、内層および表面に連結する外層は、より無定形な層であり、ネットワークを形成するためにβ−1,6−グルカン鎖に富んでいる。これらの成分は様々な方法で架橋しており、より高い次元の複合体を形成する。これらの成分それぞれの間には共有結合が存在する。β−1,3−グルカンは螺旋で構成されており、β−グルカンの1本の鎖または3本の鎖のいずれかで形成されている。ネットワーク中には分枝点(β−1,6−連結)がほんのわずかに存在する。この螺旋により、低水溶性のグルカンの可溶性は更に低下する。繊維の不溶性に寄与する少量のキチンも存在している。
【0008】
天然に存在する様々な多糖を分解するために、多種多様な酵素が同定されている。これらのいわゆるグリコシダーゼまたはグリコシドヒドロラーゼ(EC 3.2.1.x)は、オリゴ中のおよび多糖中のグリコシド結合の加水分解を触媒する酵素の大きなグループを形成する。www.cazy.org上で、現在は131種のグリコシドヒドロラーゼファミリに分類される全ての糖質関連酵素(carbohydrate−active enzyme)の継続的に更新されているデータベースを見出すことができる。Cantarel BL,Coutinho PM,Rancurel C,Bernard T,Lombard V,Henrissat B(2009)The Carbohydrate−Active EnZymes database(CAZy):an expert resource for Glycogenomics.Nucleic Acids Res 37:D233−238[PMID:18838391]を参照されたい。
【0009】
酵母細胞および酵母細胞壁の酵素的分解が既に長期にわたり調べられている。細菌、抗酸菌、放線菌およびカビにより溶菌酵素が産生される。酵母細胞を溶解させるためにまたは形質転換させるために、およびプロトプラストを生成するために、いくつかの商業的に入手可能な酵素製品(混在した酵素活性を含むことが多い)が酵母遺伝子実験(yeast genetics)に広く使用されている。Amsbioの酵素製品Zymolyase(登録商標)(アルスロバクター・ルテウス(Arthrobacter luteus)の培養液から精製されている)は、必須の活性としてβ−1,3−グルカン−ラミナリペンタオヒドロラーゼを含む。NovozymesのGlucanex(登録商標)は、酵母プロトプラストを製造するために使用される別の製品であり、SigmaのLyticaseも同様である。3種の製品全てが、プロテアーゼ活性およびマンナナーゼ活性等のグルカナーゼに加えて、その他の活性を含む。より詳細には、これらの製品は、グルカンの内部加水分解だけでなく、グルカンがオリゴ糖およびグルコースへと完全に分解される外部加水分解も実施する。
【0010】
ラミナリペンタオース生成グルカナーゼ(LPHase)は、ラミナリン、パキマンまたはカードラン等の多糖から主生成物としてラミナリペンタオースを遊離させるβ−1,3−グルカナーゼである。Vrsanskaら(1977,Zeitschrift fuer Allgemeine Mikrobiologie,17(6),465−480)は、アルスロバクター(Arthrobacter)GJM−1由来のラミナリペンタオース生成グルカナーゼ(グルカナーゼI)が酵母溶解系の酵素の1種であることを示している。単離された酵母細胞とグルカナーゼIとのインキュベーションにより、酵母細胞壁が完全に可溶化されてラミナリペンタオースのみが形成される。
【0011】
日本国特許第6192589号明細書(1986−DIC株式会社)では、ストレプトマイセス・マテンシス(Streptomyces matensis)DIC−108のラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼ(LPHase)が開示されている。この酵素は、多糖であるカードラン、パキマンおよび/またはラミナリンからラミナリペンタオースを生成するプロセスで使用される。日本国特許第8173153号明細書では、ストレプトマイセス・マテンシス(Streptomyces matensis)DIC−108のグルカナーゼの生成が開示されている。日本国特許第9262090号明細書およびNakabayashiら(1998−J.Ferm.Bioeng.85(5),459−464)は、ストレプトマイセス・マテンシス(Streptomyces matensis)DIC−108のグルカナーゼをコードする遺伝子のクローニングおよび配列決定を開示している。著者らは、この遺伝子からアミノ酸配列も導き出した。ストレプトマイセス・マテンシス(Streptomyces matensis)DIC−108のLPHaseは独特な酵素であると思われる。なぜならば、この酵素は、アルスロバクター(Arthrobacter)種YCWD3由来のおよびエルスコビア・キサンチンオリチカ(Oerskovia xanthineolytica)由来の2種のその他のβ−1,3−グルカナーゼ(それぞれタンパク質レベルで互いに99%同一であった)とわずかに少しのアミノ酸配列類似性(約60%)を示すからである(Shen et al.(1991)J.Biol.Chem 266(2)pp.1058−1063およびこの文献で引用されている参考文献)。LPHaseの結晶構造が1.62Åの分解能で解明されており、LPHaseがグリコシドヒドロラーゼファミリ64に属することが判明した(Wu et al.J.Biol.Chem.284(39),.26708−26715“Structure,Mechanistic Action,and Essential Residues of a GH−64 Enzyme,Laminaripentaose−producingβ−1,3−Glucanase”)。近年の研究では、Shrestaらが、この酵素において触媒作用に必須のアミノ酸を決定した(Protein Engineering,Design&Selection vol.24 no.8 pp.617−625,2011−Characterization and identification of essential residues of the glycoside hydrolase family 64 laminaripentaose−producing−β−1,3−glucanase)。
【0012】
(食物繊維の一部としての)インタクトなβ−グルカンは、哺乳動物の免疫系の刺激等の興味深い健康特性を有しており、β−グルカンは、経口投与された場合には哺乳動物の酵素により消化されず、小腸で吸収され、先天免疫および適応免疫の両方を活性化して粘膜免疫および全身免疫を刺激する。β−グルカンの報告された最初の重要な機能は抗腫瘍活性であった。その後に報告された生物活性として、抗真菌活性、抗感染活性、放射線防護活性、コレステロール低下活性および食後グルコース代謝活性が挙げられる。
【0013】
水溶性のおよび粒状のβ−グルカンの生物活性の効力は議論の余地があるが、粒状のβ−グルカンは水溶性βグルカンと比べて強い免疫刺激活性を有することが近年報告されている。更に、グルコースおよびオリゴ糖を生じる酵素混合物またはラミナリペンタオースを生じるラミナリペンタオース生成グルカナーゼのどちからによる酵母細胞壁のグルカンの完全な分解は、健康特性の喪失という欠点を有する。
【0014】
本発明者らは、酵母細胞壁マトリクス中に存在したままのインタクトなβ−グルカンは、消化管中で消化された場合に哺乳動物に対して限定的な生物学的利用能を有するのみであることを発見した。従って、一方では酵母細胞壁中のβ−グルカンの生物学的利用能を高め、他方では免疫系の刺激等の健康特性を可能な限り保持することが長年にわたり切望されている。本発明は、酵母細胞壁中のβ−グルカンがラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼにより部分的にのみ分解され、そのため、一方ではβ−グルカンの生物学的利用能が高められ、他方では免疫系の刺激等の健康特性が保持される方法を提供する。
【0015】
[本発明の詳細な説明]
第1の態様では、本発明は、水で抽出する場合には不溶であり、DMSOで抽出する場合には部分的に可溶であるβ−1,3−グルカンを含む(またはβ−グルカンを含む)酵母細胞壁を含む組成物を処理する方法であって、前記組成物とラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼとを接触させること、およびラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼを不活性化させることを含み、酵母細胞壁を含む組成物であり、β−1,3−グルカン(またはβ−グルカン)のDMSOへの可溶性が改善されており、水に対するDMSOに可溶な総β−グルカンの比が2以上である、組成物を得る方法を提供する。
【0016】
本発明の方法の利点は、酵母細胞壁中に存在するβ−グルカンのDMSOへの可溶性を改善することにより生物学的利用能が改善され、その結果、本発明の方法に従って処理された酵母細胞壁を動物に給餌すると動物の健康状態が改善されることである。従って、驚くべきことに、水に対するDMSOに可溶なβ−グルカンの比と組み合わせたDMSOへの可溶性の程度は、酵母細胞壁中に存在するβ−グルカンの生物学的利用能の予測に役立つことが本発明者らにより示されている。
【0017】
ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼは、本明細書において、ラミナリン、パキマンまたはカードラン等の多糖から、および酵母細胞壁中に存在するグルカンから、主生成物としてラミナリペンタオースを遊離させるグルカナーゼと定義される。例としてNakabayashi et al.(1998)を参照されたい。ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼは、ラミナリナーゼ等のその他のβ−1,3−グルカナーゼとは異なる。なぜならば、このその他のβ−1,3−グルカナーゼは、生成物として様々なオリゴ糖を生成するからである。
【0018】
DMSOで抽出する場合に部分的に可溶であるとは、本文脈で使用される場合、酵母細胞壁中に存在する総β−グルカンの<15%がDMSOに可溶であると定義される。
【0019】
DMSOへの可溶性の改善とは、本文脈で使用される場合、酵母細胞壁中に存在する総β−グルカンの15%超がDMSOに可溶であると定義される。
【0020】
β−グルカンは、本文脈で使用される場合、β−グリコシド結合により連結されたD−グルコースモノマーの多糖と定義され、少なくとも10個のD−グルコースモノマーを含む。
【0021】
前記組成物とラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼとを接触させることとは、本文脈で使用される場合、好ましくは、前記組成物とラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼとを、酵母細胞壁を含む組成物であって、β−1,3−グルカン(またはβ−グルカン)のDMSOへの可溶性が改善されており、水に対するDMSOに可溶な総β−グルカンの比が2以上である、組成物を得るのに十分な期間にわたり接触させることまたはインキュベートすることである。
【0022】
好ましい実施形態では、本発明は、水で抽出する場合には不溶であり、DMSOで抽出する場合には部分的に可溶である(酵母細胞壁中に存在するβ−グルカンの<15%が可溶である)β−1,3−グルカンを含む酵母細胞壁を含む組成物を処理する方法であって、前記組成物とラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼとを接触させて、酵母細胞壁を含む組成物であり、β−1,3−グルカンのDMSOへの可溶性が改善されており(酵母細胞壁中に存在するβ−グルカンの15%超がDMSOに可溶であり)、水に対するDMSOに可溶なグルカンの比が2以上である、組成物を得ることを含む方法に関する。好ましくは、この方法の後に、ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼを不活性させてラミナリペンタオースの形成を回避することが続く。
【0023】
好ましくは、本方法は、前記組成物とラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼとを接触させること、およびラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼを不活性化させることを含み、酵母細胞壁を含む組成物であって、β−1,3−グルカンのDMSOへの可溶性が改善されており(酵母細胞壁中に存在するβ−グルカンの15%超がDMSOに可溶であり)、水に対するDMSOに可溶なβ−グルカンの比が2以上であり、ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼにより生成されるラミナリペンタオースの量が、この組成物中に存在する総グルコース単位の30%未満であり、より好ましくは20%未満であり、最も好ましくは10%(w/w)未満または7.5%(w/w)未満である、組成物を得る。
【0024】
本方法では、β−グルカンの加水分解の程度は、β−グルカンのDMSOへの可溶性が改善されているが、β−グルカンがラミナリペンタオース等の糖にまで分解されていないまたは実質的に分解されていない程度である。好ましくは、本方法では、本ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼを、ラミナリペンタオース等のグルコースオリゴマーが生成される前に不活性化させる。本発明者らは、β−グルカンの部分的加水分解により、免疫系の刺激等の有益な健康特性が増大することを発見した。
【0025】
好ましい実施形態では、ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼを不活性化させる本工程は、ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼを不活性化させるのに十分な時間にわたり、得られた本組成物を70℃超の温度まで加熱することを含む。より好ましくは、ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼを不活性化させるのに十分な時間にわたり、得られた組成物を80℃超の温度まで加熱し、より好ましくは85%超の温度まで加熱し、更により好ましくは90℃超または95℃超の温度まで加熱し、最も好ましくは100℃超の温度まで加熱する。
【0026】
好ましい実施形態では、本ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6および配列番号7からなる群から選択されるアミノ酸配列またはこれらの配列と60%以上同一のアミノ酸配列を含んでいる。
【0027】
好ましくは、本発明の方法により、酵母細胞壁を含む組成物であって、この酵母細胞壁中に存在するβ−グルカンの20%超または25%超がDMSOに可溶であり、この酵母細胞壁中に存在するβ−グルカンのより好ましくは30%超がDMSOに可溶であり、より好ましくは35%超がDMSOに可溶であり、より好ましくは40%超がDMSOに可溶であり、最も好ましくは45%超がDMSOに可溶である、組成物が得られる。
【0028】
同時に、水に対するDMSOに可溶なβ−グルカンの比は2以上であり、好ましくは3以上であり、4以上であり、5以上であり、10以上であり、50以上であり、100以上であり、500以上であり、1,000以上であり、5,000以上であり、10,000以上である。
【0029】
水に対するDMSOに可溶なβ−グルカンの比の代わりに、本発明を定義するために逆比を使用することもできる。DMSOに対する水に可溶なβ−グルカンの比は0.5以下であり、好ましくは1/3以下であり、0.25以下であり、0.2以下であり、0.1以下であり、0.02以下であり、0.01以下であり、0.001以下であり、0.0005以下である。DMSOに対する水に可溶なβ−グルカンの最も好ましい比は0付近である、または0である。
【0030】
好ましい実施形態では、ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼは、配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1と60%以上同一であり、好ましくは65%以上同一であり、好ましくは70%以上同一であり、好ましくは75%以上同一であり、好ましくは85%以上同一であり、好ましくは90%以上同一であり、好ましくは95%以上同一であるアミノ酸配列を含む。
【0031】
別の好ましい実施形態では、ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼは、配列番号2のアミノ酸配列、または配列番号2と60%以上同一であり、好ましくは65%以上同一であり、好ましくは70%以上同一であり、好ましくは75%以上同一であり、好ましくは85%以上同一であり、好ましくは90%以上同一であり、好ましくは95%以上同一であるアミノ酸配列を含む。
【0032】
別の好ましい実施形態では、ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼは、配列番号3のアミノ酸配列、または配列番号3と60%以上同一であり、好ましくは65%以上同一であり、好ましくは70%以上同一であり、好ましくは75%以上同一であり、好ましくは85%以上同一であり、好ましくは90%以上同一であり、好ましくは95%以上同一であるアミノ酸配列を含む。
【0033】
別の好ましい実施形態では、ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼは、配列番号4のアミノ酸配列、または配列番号4と60%以上同一であり、好ましくは65%以上同一であり、好ましくは70%以上同一であり、好ましくは75%以上同一であり、好ましくは85%以上同一であり、好ましくは90%以上同一であり、好ましくは95%以上同一であるアミノ酸配列を含む。
【0034】
別の好ましい実施形態では、ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼは、配列番号5のアミノ酸配列、または配列番号5と60%以上同一であり、好ましくは65%以上同一であり、好ましくは70%以上同一であり、好ましくは75%以上同一であり、好ましくは85%以上同一であり、好ましくは90%以上同一であり、好ましくは95%以上同一であるアミノ酸配列を含む。
【0035】
別の好ましい実施形態では、ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5からなる群のアミノ酸配列の内の2種以上またはこれらの配列と60%以上同一のアミノ酸配列を含む。好ましい実施形態は、下記のアミノ酸配列の組み合わせを含むβ−1,3−グルカナーゼである:配列番号1+2、配列番号1+3、配列番号1+4、配列番号1+5、配列番号2+3、配列番号2+4、配列番号2+5、配列番号3+4、配列番号3+5、配列番号4+5、配列番号1+2+3、配列番号1+2+4、配列番号1+2+5、配列番号1+3+4、配列番号1+3+5、配列番号2+3+4、配列番号2+3+5、配列番号3+4+5、配列番号1+2+3+4、配列番号2+3+4+5、配列番号1+2+3+4+5。
【0036】
別の好ましい実施形態は、配列番号6もしくは図2に示すアミノ酸配列または配列番号6もしくは図2と60%以上同一であり、好ましくは65%以上同一であり、好ましくは70%以上同一であり、好ましくは75%以上同一であり、好ましくは85%以上同一であり、好ましくは90%以上同一であり、好ましくは95%以上同一であるアミノ酸配列を有する、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)A3由来のラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼである。
【0037】
更に好ましい実施形態は、配列番号7もしくは図3に示すアミノ酸配列または配列番号7もしくは図3と60%以上同一であり、好ましくは65%以上同一であり、好ましくは70%以上同一であり、好ましくは75%以上同一であり、好ましくは85%以上同一であり、好ましくは90%以上同一であり、好ましくは95%以上同一であるアミノ酸配列を有する、ストレプトマイセス・マテンシス(Streptomyces matensis)DIC−108由来のラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼである。
【0038】
整列させた2つの配列の間の同一性は、アラインメント中のギャップの総数の減算後に、アラインメントの全長で除算した、両方の配列中で同一のアミノ酸を示すアラインメント中の対応する位置の数として定義される。本明細書で定義される同一性を、NOBRIEFオプションを使用することによりコンピュータプログラムNEEDLEから得ることができ、この同一性は、プログラムのアウトプット中において「最長同一性」と呼ばれる。本発明の目的のために、2つの配列(アミノ酸またはヌクレオチド)の間の同一性(相同性)のレベルを、NEEDLE(EMBOSSパッケージ(バージョン2.8.0以上)からのNEEDLEプログラム、EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite(2000)Rice,P.Longden.l.and BleasbyA Trends in Genetics 16,(6)pp276−277、http://emboss.bioinformatics.nl/)を使用して実行され得る「最長同一性」の定義に従って算出する。
【0039】
好ましくは、本発明の方法を、本明細書で先に定義されたラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼが本発明の方法を触媒することができるおよび上記で定義されたグルカンを処理することができるpHおよび温度で実行する。このpHは好ましくは2以上であり、より好ましくは3以上であり、より好ましくは4以上であり、最も好ましくは5以上であり、同時に、このpHは好ましくは9以下であり、好ましくは8以下であり、好ましくは7であり、最も好ましくは6以下である。好ましいpHの範囲は2〜9であり、より好ましくは3〜8であり、より好ましくは4〜7であり、最も好ましくは5〜6である。
【0040】
本組成物とラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼとの接触中の温度は、好ましくは20℃以上であり、より好ましくは30℃以上であり、より好ましくは40℃以上であり、最も好ましくは50℃以上であり、同時に、温度は好ましくは90℃以下であり、より好ましくは80℃以下であり、より好ましくは70℃以下であり、最も好ましくは60℃以下である。好ましい温度の範囲は20℃〜90℃であり、より好ましくは30℃〜80℃であり、より好ましくは40℃〜70℃であり、最も好ましくは50℃〜60℃である。
【0041】
酵素触媒反応に最適なpHおよび温度、従って本発明の方法にも最適なpHおよび温度は、使用されるラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼの種類によって決まることが当分野で一般的に知られている。反応時間は当業者により容易に決定され得、酵素細胞壁調製物、使用されるラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼの種類および投与量、pHおよび温度、ならびにDMSOへの所望の可溶化を得るためのβ−1,3−グルカンの所望の処理によって決まるだろう。当業者は、酵母細胞調製物に関して、酵母細胞壁中のグルカンのDMSOへの可溶性が最大化されるが、pH6〜7の水への酵母細胞壁中のグルカンの水溶性が最小化されるようなプロセス条件を、過度な負担なしに確実に決定することができる。
【0042】
第2の態様では、本発明は、水で抽出する場合には不溶であり、DMSOで抽出する場合には部分的に可溶である(酵母細胞壁中に存在するグルカンの<15%が可溶である)β−1,3−グルカンを含む酵母細胞壁を含む組成物を処理する方法であって、1〜5の範囲のpHで前記組成物をインキュベートして、酵母細胞壁を含む組成物であり、β−1,3−グルカンのDMSOへの可溶性が改善されており(酵母細胞壁中に存在するグルカンの15%超がDMSOに可溶であり)、水に対するDMSOに可溶なグルカンの比が2以上である、組成物を得ることを含む方法を提供する。好ましくは、本発明の第2の態様の方法を1〜4の範囲のpHで行い、より好ましくは1〜3の範囲のpHで行い、最も好ましくは2〜3の範囲のpHで行う。
【0043】
温度は好ましくは40℃以上であり、より好ましくは50℃以上であり、より好ましくは60℃以上であり、より好ましくは70℃であり、最も好ましくは80℃以上であり、同時に、温度は好ましくは125℃以下であり、より好ましくは120℃以下であり、より好ましくは115℃以下であり、より好ましくは110℃以下であり、より好ましくは105℃であり、最も好ましくは100℃以下である。好ましい温度範囲は40〜125℃であり、より好ましくは50〜120℃であり、より好ましくは60〜115℃であり、より好ましくは70〜110℃であり、最も好ましくは80〜100℃である。
【0044】
反応時間は当業者により容易に決定され得、酵素細胞壁調製物、pHおよび温度、ならびにDMSOへの所望の可溶化を得るためのβ−1,3−グルカンの所望の処理によって決まるだろう。当業者は、酵母細胞調製物に関して、酵母細胞壁中のグルカンのDMSOへの可溶性が最大化されるが、水への酵母細胞壁中のグルカンの水溶性が最小化されるようなプロセス条件を、過度な負担なしに確実に決定することができる。
【0045】
好ましい実施形態では、1〜5のpHでのまたは好ましくは1〜3もしくは2〜3のpHでのインキュベーション中の温度を、水に対するDMSOに可溶なβ−グルカンの比が2以上であることが達成された際に、50℃未満の温度まで、好ましくは40℃未満の温度まで、より好ましくは30℃未満の温度まで、更により好ましくは25℃未満または20℃未満の温度まで、最も好ましくは10℃未満の温度まで低下させる。この酸性インキュベーションを適宜に停止させる利点は、β−グルカンがその生物学的に有益な特性を保持することであり、なぜならば、β−グルカンが完全に加水分解されないからである。
【0046】
本発明の第1の態様および第2の態様の方法で使用される酵母細胞壁を含む組成物は、あらゆる起源であることができる。酵母細胞壁は様々な供給業者から商業的に入手可能であり、特にサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)から商業的に入手可能である。酵母細胞壁は、工業規模で生成される市販の酵母抽出物の側流であってもよい。酵母細胞壁が由来する酵母は、あらゆる適切な酵母であることができる。適切な酵母は、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、カンジダ(Candida)属からの酵母等の全ての食品グレードの酵母(Bekatorou et al 2006,Food Technol.Biotechnol.44(3),407−415を参照されたい)である。酵母抽出物の生成にはサッカロマイセス(Saccharomyces)が使用されることが多く、特にサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)が使用されることが多い。
【0047】
第3の態様では、本発明は、β−グルカンの15%超がDMSOに可溶であり、水への可溶に対するDMSOに可溶なβ−グルカンの比が2以上であることを特徴とする、β−1,3−グルカンを含む酵母細胞壁を含む組成物を提供する。好ましくは、この組成物を本発明の第1の態様または第2の態様の方法により得ることができる。好ましくは、本発明は、β−1,3−グルカンを含む酵母細胞壁を含む組成物であって、酵母細胞壁中に存在するβ−グルカンの25%超がDMSOに可溶であり、酵母細胞壁中に存在するβ−グルカンのより好ましくは30%超がDMSOに可溶であり、より好ましくは35%超がDMSOに可溶であり、より好ましくは40%超がDMSOに可溶であり、最も好ましくは45%超がDMSOに可溶である、組成物を提供する。同時に、水に対するDMSOに可溶なβ−グルカンの比は2以上であり、好ましくは3以上であり、4以上であり、5以上であり、10以上であり、50以上であり、100以上であり、500以上であり、1,000以上であり、5,000以上であり、10,000以上である。水に対するDMSOに可溶なβ−グルカンの比の代わりに、本発明を定義するために逆比を使用することもできる。DMSOに対する水に可溶なβグルカンの比は0.5以下であり、好ましくは1/3以下であり、0.25以下であり、0.2以下であり、0.1以下であり、0.02以下であり、0.01以下であり、0.001以下であり、0.0005以下である。DMSOに対する水に可溶なグルカンの最も好ましい比は0付近である、または0である。
【0048】
好ましくは、本組成物は、この組成物中に存在する総グルコース単位の30%(w/w)未満のラミナリペンタオースを含み、より好ましくは20%(w/w)未満のラミナリペンタオースを含み、最も好ましくは10%(w/w)未満または7.5%(w/w)未満のラミナリペンタオースを含む。より好ましくは、本組成物はラミナリペンタオースを含まない、または、実質的な量のラミナリペンタオースを含まない。ラミナリペンタオースが存在しない場合に有利である。なぜならば、部分的に分解されたβ−グルカンの量がより高くなり、そのため、生物学的に有益な効果が増大するからである。
【0049】
更に、本発明は、本組成物を含むスターター飼料(starter feed)であって、10〜30%(w/w)のタンパク質を更に含むスターター飼料に関する。スターター飼料は有益であり、なぜならば、ヒヨコのような成長中の動物に適切な栄養素を供給するからである。通常、スターター飼料を0〜10週齢の動物に給餌する。好ましくは、そのようなスターター飼料は、DMSOに可溶なβ−グルカンを含む本発明の組成物、10〜20%(w/w)のタンパク質、30〜40%(w/w)のデンプン、カルシウムおよび/またはリン光体を含む。スターター飼料中の本発明の組成物中に存在するβ−グルカンの量は、好ましくはスターター飼料1kg当たり1〜500mgの範囲内であり、より好ましくはスターター飼料1kg当たり1〜200mgの範囲内であり、最も好ましくはスターター飼料1kg当たり1〜50mgの範囲内である。本発明者らは、本発明のスターター飼料を使用することにより、飼料要求率(feed conversion ratio)が改善されることおよび死亡率が低下することを発見した。
【0050】
本β−グルカンの有益な生物学的健康特性を前提として、第4の態様によれば、本発明は、本発明の第2の態様の本組成物または本スターター飼料の使用に関し、好ましくは、飼料または飼料成分としての本発明の第1の態様または第3の態様の方法により得られる本組成物または本スターター飼料の使用に関する。
【0051】
好ましい実施形態では、本発明は、動物の飼料要求率を改善するための、好ましくは家畜の飼料要求率を改善するための、より好ましくはブタまたはブロイラー鶏(broiler chicken)等のニワトリの飼料要求率を改善するための、本組成物の使用または本スターター飼料の使用に関する。本発明者らは、DMSOへの可溶性が増加しているグルカンは、飼料要求率を下げてブロイラー鶏の成長に有益な効果をもたらすことを発見した。更に、本発明者らは、DMSOへの可溶性が増加しているグルカンを含む本組成物を給餌することにより、ブロイラー鶏の死亡率が低下することを発見した。従って、好ましい実施形態では、本発明は、ブロイラー鶏の死亡率を低下させるための、より好ましくは生後最初の35日間の成長の間のブロイラー鶏の死亡率を低下させるための、本組成物の使用に関する。
【0052】
別の態様によれば、本発明は、薬剤として使用するための、β−1,3−グルカンを含む酵母細胞壁を含む本組成物であって、β−1,3−グルカンの15%超がDMSOに可溶であり、水への可溶に対するDMSOに可溶なβ−1,3−グルカンの比が2以上であることを特徴とする本組成物に関する。
【0053】
好ましい実施形態では、本発明は、動物の成長を刺激するためのおよび/または動物の免疫系を刺激するための、β−1,3−グルカンを含む酵母細胞壁を含む本組成物であって、β−1,3−グルカンの15%超がDMSOに可溶であり、水への可溶に対するDMSOに可溶なβ−1,3−グルカンの比が2以上であることを特徴とする本組成物に関する。好ましい動物は、ブタまたはブロイラー鶏等のニワトリである。好ましくは、本発明は、ブタにおけるIL−6およびIL−10の分泌を増加させるためのまたは誘発するための本組成物に関する。好ましくは、本発明は、IgMおよびIgGの分泌を増加させるためのまたは誘発するための本組成物に関し、好ましくは、ニワトリにおけるIgMおよび/またはIgGの分泌を増加させるためのまたは誘発するための本組成物に関する。
【0054】
更に好ましい実施形態では、本発明は、動物の成長を刺激するためのおよび/または動物の免疫系を刺激するための本組成物であって、生後最長で15週または生後最長で10週の期間にわたり、より好ましくは生後最長で5週の期間にわたり、より好ましくは生後最長で3週または生後最長で2週の期間にわたり動物に給餌される本組成物に関する。
【0055】
より好ましくは、動物の成長を刺激するためのおよび/または動物の免疫系を刺激するための本組成物は、スターター飼料1kg当たりβ−グルカン1〜500mgの量で、より好ましくはスターター飼料1kg当たりβ−グルカン1〜200mgの量で、最も好ましくはスターター飼料1kg当たりβ−グルカン1〜50mgの量でスターター飼料に添加される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1図1Aは上方のパネルであり、DOでのNMRスペクトルを示す。t=末端単位(terminal unit)、1,3=β−1,3−グルカン、1,6=β−1,6−グルカン。更なる説明に関しては、水に可溶なグルカンでの材料および方法を参照されたい。図1Bは下方のパネルであり、DMSOでのNMRスペクトルを示す。t=末端単位、1,3=β−1,3−グルカン、1,6=β−1,6−グルカン、b=分枝単位。更なる説明に関して、DMSOに可溶なグルカンでの材料および方法を参照されたい。
図2図2は、配列番号6、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)A3由来のラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼを示す。
図3図3は、配列番号7、ストレプトマイセス・マテンシス(Streptomyces matensis)DIC−108由来のラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼを示す。
図4図4は、実施例2の未処理酵素細胞壁由来のβ−グルカン20μg/mlまたは200μg/mlによる刺激後のIL6の生成(未処理)、実施例2、インキュベーション2のpH3で酸処理した酵母細胞壁由来のβ−グルカン20μg/mlまたは200μg/mlによる刺激後のIL6の生成(酸)、および陰性コントロール20μg/mlまたは200μg/mlよる刺激後のIL6の生成(negコントロール)を示すグラフである。20μg/ml(ブタ1)で酸処理した酵母細胞壁で得た最大応答に基づいて、応答を相対的に算出する。
図5図5は、実施例2の未処理酵素細胞壁由来のβ−グルカン20μg/mlまたは200μg/mlによる刺激後のIL10の生成(未処理)、実施例2、インキュベーション2のpH3で酸処理した酵母細胞壁由来のβ−グルカン20μg/mlまたは200μg/mlによる刺激後のIL10の生成(酸)、および陰性コントロール20μg/mlまたは200μg/mlによる刺激後のIL10の生成(negコントロール)を示すグラフである。20μg/ml(ブタ1)で酸処理した酵母細胞壁で得た最大応答に基づいて、応答を相対的に算出する。
図6図6は、4種の異なる投与量の陰性コントロール(negコントロール)、酸処理した細胞壁(酸)、酵素処理した細胞壁(酵素)および小麦酵母(wheat yeast)濃縮物(WYC)に関して、酸処理した酵母細胞壁を200μg/mlの投与量で添加した後に測定した最大値に対するブタ(ブタ1)から単離した好中球の相対的ROS生成を相対的に示す。
図7図7は、4種の異なる投与量の陰性コントロール(negコントロール)、酸処理した細胞壁(酸)、酵素処理した細胞壁(酵素)および小麦酵母濃縮物(WYC)に関して、酸処理した酵母細胞壁を200μg/mlの投与量で添加した後に測定した最大値に対するブタ(ブタ2)から単離した好中球の相対的ROS生成を相対的に示す。
図8図8は、4種の異なる投与量の陰性コントロール(negコントロール)、酸処理した細胞壁(酸)、酵素処理した細胞壁(酵素)および小麦酵母濃縮物(WYC)に関して、酸処理した酵母細胞壁を12.5μg/mlの投与量で添加した後に測定した最大値に対するブタ(ブタ1)から単離した好中球の相対的ROS生成を相対的に表す。
図9図9は、4種の異なる投与量の陰性コントロール(negコントロール)、酸処理した細胞壁(酸)、酵素処理した細胞壁(酵素)および小麦酵母濃縮物(WYC)に関して、酸処理した酵母細胞壁を200μg/mlの投与量で添加した後に測定した最大値に対するブタ(ブタ2)から単離した好中球の相対的ROS生成を相対的に表す。
【0057】
[材料および方法]
[デナザイム(Denazyme)Gel−L1]
デナザイムGel−L1ロットNo.T2をナガセケムテックス株式会社(日本、京都)から得た。メーカーの技術データシートによれば、デナザイムGel−L1は、ストレプトマイセス(Streptomyces)属の深部発酵により産生された精製済液状グルカナーゼ調製物である。下記に記載のラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼの酵素アッセイによれば、デナザイムGel−L1ロットNo.T2の活性は約1300ユニット/mlである。
【0058】
[ラミナリナーゼ]
ラミナリナーゼをSigma−Aldrichから購入した(L9259)。この粉末を溶解させて約1300ユニット/mlの溶液にした。
【0059】
[ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼ活性に関する酵素アッセイ]
カードラン溶液−カードランを1M酢酸ナトリウム緩衝液pH5に溶解させ、磁気撹拌子を使用して連続的に撹拌しつつ、室温(約20℃)で1時間にわたりインキュベートし、続いて60℃で15分にわたりインキュベートして、0.5%wt/volのカードラン(Sigma C7821、ロット042M4040V)の溶液100mlを作った。この懸濁液を更に均質化するために、IKA T−25 ultra−turrax type S25−25F(歯固定子(teeth stator)12、ローター8)により9500rpmで60秒にわたり懸濁液を処理した。
【0060】
Hoffman試薬−1l容量フラスコ中の約900mlの水にヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム(分析試薬)1.17gを溶解させ、続いて無水炭酸ナトリウム(分析試薬)19.5gを溶解させる。水で体積を調整して混合する。調製したばかりの溶液を常に使用する。
【0061】
酵素アッセイ−カードラン溶液2mlを、(100mM酢酸ナトリウム緩衝液pH5で)希釈した酵素溶液1mlを添加した後に水浴中にて37℃で加熱した。この混合物を、1M NaOH 2mlを添加し、続いてHoffman試薬4mlを添加して反応を停止させた後に30分にわたりインキュベートした。この混合物を、沸騰している水浴中で15分にわたりインキュベートした。室温まで冷却した後、不溶なカードランを遠心分離で除去し、上清の光学密度を420nmで測定した。対応する試料の吸収を補正するためにブランク試料を使用する。試料に関して上記に記載したのと同じ方法でブランク試料を測定するが、但し、最初に停止試薬を添加し、次いで試料を添加する。酵素試料に関して上記に記載したのと同じ方法でアッセイ混合物中における還元糖の濃度を測定するために、0.3〜1.4mMグルコースの希釈による較正曲線を作成した。較正線用のブランクとして、希釈したグルコース溶液の代わりに水を使用した。
【0062】
アッセイ混合物に添加する酵素溶液は、酵素アッセイの線形範囲内であるために約0.25〜約0.5ユニット/mlでなければならない。
【0063】
ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼの1ユニットは本明細書において、上記に記載のアッセイの条件(0.5%カードラン、pH=5、37℃)で1分当たり1μモルのグルコースに等価な量の還元糖を遊離させるのに必要な酵素の量として定義される。
【0064】
[Saeman加水分解]
改変Saeman加水分解(J.F.Saeman,W.E.Moore,R.L.Mitchell,M.A.Millett(1954)Tappi,37(8),336−343)に従って細胞壁を加水分解した。単離されている酵母細胞壁約12mgを正確に秤量し、この試料に72%(w/w)のDSO 0.300mlを添加した。この試料を冷蔵庫中で4℃にて48時間にわたり保存した(一次加水分解)。次に、DO 1.700mlを添加し、マレイン酸のDOストック溶液1.000mlを添加した。十分に混合した後、溶液0.500mlをピペットで量り取り、DO 0.500mlを添加した。不溶性物質を遠心分離で除去し、透明な上清をNMR管に移した。このNMR管を、100分にわたり沸騰水中に置いた(二次加水分解)。
【0065】
NMRスペクトルを、5mmのクライオプローブを備えたBruker AvanceIII 600MHz NMR分光器で記録した。試料温度は280Kであった。捕捉時間は2秒であり、30秒のパルス間遅延を選択した。16回のスキャンを平均化し、スペクトルを注意深く同調させてベースラインを調整した。マレイン酸のシグナル(6.5ppm)、α−グルコースおよびβ−グルコースのシグナル(5.22ppmおよび4.62ppm)、ならびにα−マンノースおよびβ−マンノースのシグナル(5.18ppmおよび4.90ppm)を積分し、定量NMR(qNMR)に従ってマンナンおよびグルカンの量を算出した。下記方程式1を参照されたい。
【数1】
【0066】
単量体グルコースの分解に関する補正係数(0.984)および単量体マンノースの分解に関する補正係数(0.966)を使用した。
【0067】
[DMSOに可溶なグルカン]
約100mgの試料を(0.01mgまで)正確に秤量した。正確に秤量した量のマレイン酸を含むDMSO−d6のストック溶液を調製し、この溶液1.000mlを細胞壁に添加した。懸濁液を、30分にわたり50℃にて水浴中に置いた。不溶性物質を遠心分離で除去した。透明な上清にDO 50μlを添加してOHプロトンを確実に変換させ、NMRスペクトルを、5mmのクライオプローブを備えたBruker AvanceIII 600MHz分光器で記録した。試料温度は320Kであった。捕捉時間は1.7秒であり、10秒のパルス間遅延を選択した。32回のスキャンを平均化し、注意深く同調させてベースラインを調整した後、4.57ppmでのβ−(1,3)グルカンのシグナルを積分し、4.31ppmでのβ−(1,6)グルカンのシグナルを積分し、5.02ppmおよび4.44ppmでの末端残基のシグナルを積分し、4.50ppmおよび4.42ppmでの分枝単位のシグナル(図1Bを参照されたい)を積分し、6.1ppmでのマレイン酸のシグナルを積分した。標準的なqNMR法(方程式1)を適用することにより、遊離したグルカンの量(全てのタイプの合計)を、積分比、既知の分子量および試料重量から算出した。
【0068】
DMSOに可溶なグルカンを乾燥物(w/w%on dm)で報告する。DMSOに可溶なグルカンの相対量を総グルカンの%として定義し、下記方程式2に従って算出する。
【数2】
【0069】
[水に可溶なグルカン]
全ての試料(15mg)を、0.5mlのDOと10.91mg/mlのリンゴ酸を含む0.5mlのDOとに溶解させ、その後、200μlの1Mリン酸緩衝液pH8.5を添加してpHを調整した。例えば酵母細胞のバッチの場合、pHを6〜7の範囲にする。
【0070】
試料を10分にわたり遠心分離し、上清を分析した。スペクトルを280Kで記録した。NMRスペクトルを、5mmのクライオプローブを備えたBruker AvanceIII 600MHz分光器で記録した。試料温度は280Kであった。捕捉時間は2秒であり、30秒のパルス間遅延を選択した。16回のスキャンを平均化した。注意深く同調させてベースラインを補正した後、6.1ppmでのマレイン酸のシグナルを積分した。グルカンの量を、4.82〜4.70ppmでのβ(1,3)グルカンのシグナル面積、5.23ppmおよび4.67ppmでの末端残基のシグナル面積、ならびに4.58〜4.51ppmでのβ(1,6)グルカンのシグナル面積から評価した。図1Aに示す全ての積分値を加算して、水に可溶なグルカンの合計を得た。標準的なqNMR法(方程式1)を適用することにより、水に可溶なグルカンの量を、積分比、既知の分子量および試料重量から算出した。
【0071】
水に可溶なグルカンを乾燥物(w/w%on dm)で報告する。水に可溶なグルカンの相対量を総グルカンの%として定義し、下記方程式3に従って算出する。
【数3】
【0072】
[in−vitroアッセイ]
[好中球または単球による活性酸素種(ROS)の産生]
未処理の酵母細胞壁由来のβ−グルカン、酸処理した酵母細胞壁由来のβ−グルカン、酵素処理した酵母細胞壁由来のβ−グルカンおよび小麦酵母濃縮物(市販の参照物)由来のβ−グルカンの、活性酸素種(ROS)を産生することが可能な2匹のブタから単離した好中球および単球に対する免疫調節効果を試験した。試料の様々な濃度での細胞培地への添加後の活性酸素種(ROS)の産生は、病原体に対する非特異的な防御の指標である。Donne et al.,2005,Vet.Microbiol.107,205−214に記載されているような化学発光アッセイを使用してROSの量を測定した。Hanks平衡塩溶液(HBSS)を陰性コントロールとして使用した。活性酸素種の産生を試験するために、細胞をホルボール12−ミリスタート13−アセタート(PMA)で刺激した。マイクロタイタープレートの分離壁のプラスチック表面上に好中球または単球を塗布した。CO雰囲気中での37℃における2時間にわたるインキュベーション後、上清を除去してルミノールを添加した。5分後にバックグラウンド測定を行い、β−グルカンを様々な濃度で添加し、陰性コントロールも添加した。120分にわたりROSの産生を測定した。ROSの産生を、100%で表される最大値に対する相対的な応答値で表した。
【0073】
[炎症性(インターロイキン(IL)−6)サイトカインおよび抗炎症性(IL−10)サイトカインの産生]
2匹のブタ由来の単離された末梢血単核細胞(PBMS)(マクロファージ、単球、B細胞およびT細胞)を、未処理の酵母細胞壁由来のβ−グルカンまたは酸処理した酵母細胞壁由来のβ−グルカンを含む培地中でインキュベートした。2種の異なる濃度のβ−グルカン(20μg/mlおよび200g/ml)の細胞に対する効果を、IL−6発現およびIL−10発現の測定により分析する。商業的に入手可能なELISAキット(R&D Systems Inc.、米国、ミネソタ州、ミネアポリス(Minneapolis))を使用し、メーカーが推薦するプロトコルに従ってIL−6およびIL−10の濃度を測定した。
【0074】
[ブロイラー鶏によるin−vivo研究]
いくつかの群のブロイラー鶏によるin−vivo研究を実施して、ブロイラー鶏の平均鶏重量(方程式4)、飼料要求率1500g(方程式5)、免疫応答(Elisa)および死亡率(方程式6)を測定した。この試験中、鶏に、標準的なスターター飼料(コントロール)とβ−グルカンを含む標準的なスターター飼料(化学組成 表1)とを給餌した。β−グルカンを含むスターター飼料を、飼料1kg当たりβ−グルカン50mgを添加したコントロールスターター飼料で構成した。このβ−グルカンは、標準的な小麦酵母濃縮物由来のβ−グルカン(25mg)および酸処理した酵母細胞壁由来のβ−グルカン(25mg)の組み合わせに由来した。β−グルカンを含むスターター飼料は、給餌試験の開始期間(最初の10日)中のみであった。給餌試験を35日にわたり継続した。
【0075】
給餌試験の終了時(35日後)、ブロイラー鶏の重量は増加しており、摂取された飼料を測定して飼料要求率1500gを算出した(方程式5)。給餌試験の開始時に生存しているブロイラー鶏と給餌試験の終了時に生存しているブロイラー鶏との差異に基づいて、死亡率を算出した(方程式6)。血液サンプルを採取し、血清をELISAにより天然免疫系の応答(IgMおよびIgGの濃度)に関して分析した。
【0076】
下記方程式4による平均鶏重量。
【数4】
【0077】
飼料要求率1500g(FCR1500g)を、1500gを超える鶏重量の25g毎に定義し(飼料要求率を0.01で約分する)、下記方程式5により算出する。
【数5】
【0078】
下記方程式6による死亡率。
【数6】
【0079】
[ブロイラー鶏用の標準的なスターター飼料組成物]
in−vivo給餌試験の最初の10日にわたり投与したブロイラー鶏用の標準的なスターター飼料(コントロール)およびβ−グルカンを含むスターター飼料の化学組成を下記表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
[ELISAアッセイ]
全ての血漿サンプルを、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)により、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に対する抗体に関して同日に分析した。
【0082】
マイクロタイタープレート(96ウェル)に、大気温度で1,5時間にわたりまたは冷蔵温度で一晩中、0.1M炭酸ナトリウム緩衝液pH9.6中に4μg/mlの濃度でKLHを塗布した。マイクロタイタープレートを過剰な水で洗浄して乾燥させた。血漿サンプルの適切な希釈液を、0.5%のウマ血清および0.05%のTween−20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)緩衝液で調製した。例:希釈1/40、1/160、1/640等。調製した希釈液100μlをウェル(n=10またはn=20)中にピペットで移し、各プレートに既知の標準物質も添加した。大気温度で1.5時間にわたりマイクロタイタープレートをインキュベートする。プレートを過剰な水で洗浄し、プレートを乾燥させる。希釈液でコンジュゲート(ニワトリIgG−Fc HRPまたはニワトリIgM HRP)を1/40,000または1/20,000に希釈し、このコンジュゲート100μlを各ウェル中にピペットで移す。大気温度で1.5時間にわたりマイクロタイタープレートをインキュベートする。このプレートを過剰な水で洗浄して未結合のHRP標識抗体を除去し、乾燥させる。最後に、テトラメチルベンジジン(tetramethylbenzidin)(TMB)を含む発色基質100μlを各ウェルに添加し、10分にわたりインキュベートする。各ウェルに1.25M硫酸溶液50μlを添加して反応を停止させる。プレートを、450nmの波長でElisa Readerにより測定した。各サンプルの様々な希釈液の測定値に基づいてデータを解釈した。
【0083】
[実施例]
[実施例1]
[デナザイムGel−L1中に存在するラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼのアミノ酸配列。]
[1.1 デナザイムGel−L1中に存在するラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼのトリプシンによる消化。]
デナザイムGeL−L1を20%TCA(トリクロロ酢酸)で1:1に希釈して、デナザイムGeL−L1中に存在するタンパク質をTCAで沈殿させた。この混合物を4℃で30分にわたりインキュベートし、遠心分離によりタンパク質を回収した。タンパク質のペレットを氷冷アセトンで洗浄し、遠心分離により再回収し、少量の50mM水酸化ナトリウムに溶解させた。タンパク質溶液を100mM炭酸水素ナトリウムで10倍に希釈した。ジチオスレイトールを5mMの最終濃度まで添加し、25℃で30分にわたりインキュベートすることにより、ジスルフィド架橋を還元させた。ヨードアセトアミドを5.5mMの最終濃度まで添加し、暗所にて25℃で30分にわたりインキュベートすることにより、システインをアルキル化した。この試料を露光させてアルキル化をクエンチした後、トリプシンで消化した。この基質にトリプシンを1:100のモル比で添加し、一晩37℃でインキュベートすることにより消化を実施した。
【0084】
[1.2 LC−MS/MS分析およびタンパク質同定]
タンパク質消化物をLC−MS/MSで分析し、得たデータをNitsche et al.BMC Genomics 2012,13:380に記載されているようなUniprotデータベースで検索した。得たMSおよびMS/MSのデータをUniprotデータベースとマッチングさせたところ、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)A3のラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼのアミノ酸配列(NCBI genbank受託番号CAC_16439)が最もヒットした。
【0085】
20種のペプチドの分子量、NCBI genbankから推定される、これらペプチドのアミノ酸配列(1文字表記)、およびストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)A3のラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼのアミノ酸配列中における、これらペプチドのアミノ酸の位置を表2にまとめる。これら20種のペプチドは重複を示す。これら20種のペプチドから、合計で5種の固有のペプチドを構成することができる(表3を参照されたい)。これら5種の固有のペプチドはそれぞれ、配列番号1〜5として配列表に含まれている。
【0086】
表4は、NCBI genbank(受託番号CAC_16439)から入手したストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)A3のラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼのアミノ酸配列を示す。アミノ酸配列の下線が引かれた部分は、ストレプトマイセス・マテンシス(Streptomyces matensis)DIC−108の対応するラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼに関してNakabayashi et al.(1998)で開示されたシグナル配列(33個のアミノ酸)を表す(J.Ferm.Bioeng.85(5),459−464“Structure of the Gene Encoding Laminaripentaose−Producing beta−1,3−glucanase(LPHase)of Streptomyces matensis DIC−108)。強調されているペプチド(灰色の背景)は、デナザイムGEL−L1から単離されたラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼ中に存在する5種の固有のペプチドである。これら5種のペプチドと、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)A3のベータ1,3−グルカナーゼのアミノ酸配列との完全な一致に基づいて、デナザイムGEL−L1から単離されたラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼはストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)A3のベータ1,3−グルカナーゼと同じアミノ酸配列を有すると推測され得る。
【0087】
表2:デナザイム−L1のトリプシン消化物から得たペプチド
・左側の列「質量」はペプチドの分子量をダルトンで示す。
・中央の列「ペプチド」は、NCBI genbankから推定したマッチングペプチドのアミノ酸配列を示す。
・右側の列は、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)A3のベータ−1,3−グルカナーゼの配列における、2番目の列のペプチドが存在するアミノ酸の位置を示す。
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
[表4−ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)A3のラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼのアミノ酸配列]
強調されているペプチドは、上記表3からの5種の固有のペプチド配列を示す。
【0092】
【表5】
【0093】
下線が引かれた部分は、ストレプトマイセス・マテンシス(Streptomyces matensis)DIC−108の対応するβ−1,3−グルカナーゼによる研究(Nakanayashi et al.(1998),J.Fermentation and Bioengineering 85(5),459−464)に基づく推定上のシグナル配列である。従って、成熟酵素のアミノ酸配列は34位でのAlaで始まるだろう。強調されているアミノ酸は、表3に示す5種のペプチドを表す。
【0094】
【表6】
【0095】
ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)A3のラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼと、ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼストレプトマイセス・マテンシス(Streptomyces matensis)DIC−10とのアラインメントから、これらの配列は401個の残基の長さに基づいて76.3%同一であることが明らかである。ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)A3のラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼのアミノ酸配列には、3箇所のギャップが導入されていた。
【0096】
[実施例2]
[酸およびアルカリによる酵母細胞壁グルカンの可溶化]
単離されている酵母細胞壁は様々な供給業者から商業的に入手可能である。本実施例の場合、単離されている酵母細胞壁を酵母抽出物の副産物として得た。この酵母細胞壁は、乾燥物基準で31.7%のグルカンを含んでいた。
【0097】
この酵母細胞壁を、95℃および下記表に示すpH値で16時間にわたりインキュベートした。インキュベーション後、試料を100℃で15分にわたり加熱し、凍結乾燥後、酵母細胞壁を、材料および方法に記載したようにDOまたはDMSOに溶解させた。
【0098】
【表7】
【0099】
表6の結果は、5.5のpHまたは10もしくは12のアルカリ性pHでは酵母細胞壁β−グルカンが水溶化され得ないことを示す。より酸性条件下での可溶化により、グルカンがわずかに可溶化され、酵母細胞壁中の総グルカンの2.8〜5.3%を可溶化することができた。
【0100】
未処理の酵母細胞壁では、総β−グルカンの13.2%がDMSOに可溶であった。酸性条件下での可溶化により、DMSOに可溶なβ−グルカンの量が大幅に増加した(21%および30%)。pH5.5およびpH10.0では、DMSOに可溶なβ−グルカンの割合は変化しなかった、またはわずかに低下した。pH12でのアルカリ条件下における可溶化では、β−グルカンは可溶化しなかった。
【0101】
[実施例3]
[ラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼを使用する酵母細胞壁グルカンの可溶化]
単離されている酵母細胞壁を、55℃およびpH=5.5で16時間にわたり、示した量のデナザイムGEL−L1と共にまたはデナザイムGEL−L1なしでインキュベートした(wt%dmは、酵母細胞壁乾燥物基準での酵素溶液の「重量パーセント」を意味しており、例えば0.01wt%dmは、酵母細胞壁の1グラム乾燥重量当たりデナザイム溶液0.1mgと等しい)。インキュベーション後、試料を100℃で15分にわたり加熱し、凍結乾燥後、酵母細胞壁を、材料および方法に記載したようにDOまたはDMSOに溶解させた。50℃での30分にわたるインキュベーション後、試料を10分にわたり遠心分離し、上清を、材料および方法に記載したようにNMRで分析した。
【0102】
【表8】
【0103】
表7の結果は、酵母細胞壁とラミナリペンタオース生成β−1,3−グルカナーゼ(デナザイムGEL−L1)とのインキュベーションにより、DSMOへのβ−グルカンの可溶性の割合が大幅に増加するが水への可溶性は酵素濃度が最高の場合にのみ増加することを示す。
【0104】
[比較例4]
[ラミナリナーゼを使用する酵母細胞壁グルカンの可溶化]
単離されている酵母細胞壁を、55℃でおよびpH=5.3で16時間にわたり、示した量のラミナリナーゼと共にまたはラミナリナーゼなしでインキュベートした(wt%dmは、酵母細胞壁乾燥物基準での酵素溶液の「重量パーセント」を意味しており、例えば0.01wt%dmは、酵母細胞壁の1グラム乾燥重量当たりラミナリナーゼ溶液0.1mgと等しい)。インキュベーション後、試料を100℃で15分にわたり加熱し、凍結乾燥後、酵母細胞壁を、材料および方法に記載したようにDOまたはDMSOに溶解させた。
【0105】
50℃での30分にわたるインキュベーション後、試料を10分にわたり遠心分離し、上清を、材料および方法に記載したようにNMRで分析した。酵母細胞壁は37%のグルカンを含んでいた。
【0106】
【表9】
【0107】
表8の結果は、ラミナリナーゼは酵母細胞壁中に存在するグルカンを可溶化することができないことを明瞭に示す。
【0108】
[実施例5]
[IL−6およびIL−10の分泌に関するin vitroでの研究]
2匹のブタ由来の単離されている末梢血単核細胞(PMBC)(マクロファージ、単球、B細胞およびT細胞)を、実施例2から得た未処理の酵母細胞壁由来のまたは酸処理した酵母細胞壁由来のβ−グルカンを含む培地中でインキュベートした。IL−6は、免疫応答の開示時に放出される炎症性サイトカインであり、IL−10は抗炎症性サイトカインである。
【0109】
図4および図5は、実施例2(コントロール)の未処理酵母細胞壁由来のβ−グルカンと比較して、実施例2、インキュベーション2のpH3での酸処理した酵母細胞壁由来のβ−グルカンの添加後には、IL6およびIL10の分泌への刺激効果が存在していることを示す。
【0110】
[実施例6]
[活性酸素種の産生に関するin vitroでの研究]
実施例2の酸処理した酵母細胞壁由来のβ−グルカン、実施例3、インキュベーション番号7の酵素処理した酵母細胞壁由来のβ−グルカン、および市販の小麦酵母濃縮物(市販参照物)由来のβ−グルカンの免疫調節効果を、活性酸素種(ROS)の産生が可能な2匹のブタから単離された好中球および単球で試験した。試料の様々な濃度での細胞培地への添加後の活性酸素種(ROS)産生は、病原体に対する非特異的な防御の指標である。Hanks平衡塩溶液(HBSS)を陰性コントロールとして使用した。
【0111】
図6および図7のデータは、投与した全てのβ−グルカン含有試料に関して用量応答が確認されたことを明瞭に示す。実施例2の酸処理した酵母細胞壁、実施例3、インキュベーション番号7の酵素処理した酵母細胞壁、および市販の小麦酵母濃縮物(市販参照物)は、50μg/mlおよび200μg/mlのβ−グルカン濃度で、好中球によるROS産生を誘発した。
【0112】
実施例2の酸処理した酵母細胞壁、および実施例3、インキュベーション番号7の酵素処理した酵母細胞壁は、市販の小麦酵母濃縮物(市販参照物)と比較してO−ラジカルの産生への刺激効果の改善を示した。
【0113】
図8および図9は、市販の小麦酵母濃縮物中に存在するβ−グルカンが、試験した濃度では、単球によるROS産生を誘発しなかったことを明瞭に示す。実施例2の酸処理した酵母細胞壁中に存在するβ−グルカン、および実施例3、インキュベーション番号7の酵素処理した酵母細胞壁中に存在するβ−グルカンは、O−ラジカル産生の誘発を示した。しかしながら、用量応答効果は両方のブタで異なっていた。
【0114】
[実施例7]
[ブロイラー鶏に関するin vivoでの研究]
3000羽のブロイラー鶏からなるいくつかの群によるin−vivoでの研究中に、β−グルカンが添加されていない標準的なスターター飼料(コントロール)または飼料1kg当たりβ−グルカン50mgを含む標準的なスターター飼料(試験)のブロイラー鶏への給餌後、下記のパラメーターを測定した。このβ−グルカン50mgは、標準的な小麦酵母濃縮由来のβ−グルカン(25mg)と酸処理した酵母細胞壁由来のβ−グルカン(25mg)との組み合わせに由来した。給餌試験の開始時には(即ち最初の10日にわたり)、β−グルカン50mgを含むスターター飼料のみを給餌した。両方の群(コントロールおおび試験)に関して、標準的なスターター飼料による給餌試験を35日にわたり継続した。給餌試験の終了時に、下記のパラメーター:摂取された飼料の合計(kg)、給餌試験の終了時での肉の合計(kg)、鶏1羽当たりの平均重量(g)、飼料要求率1500gを測定し、血液サンプルを採取して、血清をELISAにより天然免疫系応答(IgMおよびIgGの濃度)に関して分析した。
【0115】
【表10】
【0116】
表9の結果は、酸処理した酵母細胞壁に部分的に由来するβ−グルカンを含む標準的なスターター飼料を給餌したブロイラー鶏は、35日の給餌試験後に、平均鶏重量の改善、飼料要求率1500g(FCR1500g)の改善、ならびにIgMおよびIgGの両方に関する免疫応答の増加を示すことを明瞭に示す。
【0117】
[実施例8]
[ブロイラー鶏に関するin vivoでの研究]
試験の最初の10日にわたり、添加したβ−グルカンを含む標準的なスターター飼料を給餌した、約34000羽のブロイラー鶏からなるいくつかの群によるin−vivoでの研究。35000羽のブロイラー鶏からなるコントロール群に、標準的なスターター飼料のみを給餌した。添加されたβ−グルカンを含む標準的なスターター飼料は、標準的な小麦酵母濃縮物由来のβ−グルカン(25mg)と酸処理した酵母細胞壁由来のβ−グルカン(25mg)との組み合わせに由来するβ−グルカンを飼料1kg当たり50mg含んでいた。鶏給餌試験の終了時(35日後)に、下記のパラメーター:摂取された飼料の合計(kg)、給餌試験の終了時の肉の合計(kg)、鶏1羽当たりの平均重量(g)、飼料要求率1500gを測定し、ブロイラー鶏の死亡率を記録した。
【0118】
【表11】
【0119】
表10の結果は、酸処理した酵母細胞壁に部分的に由来するβ−グルカン50mgを含む標準的なスターター飼料を給餌したブロイラー鶏では、平均重量が改善され、飼料要求率1500gが改善され、最終的には死亡率が明瞭に低下することを明瞭に示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]