特許第6759519号(P6759519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6759519イオン検出器、飛行時間型質量分析器及びイオン検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6759519
(24)【登録日】2020年9月7日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】イオン検出器、飛行時間型質量分析器及びイオン検出方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/06 20060101AFI20200910BHJP
   H01J 49/40 20060101ALI20200910BHJP
【FI】
   H01J49/06
   H01J49/40
【請求項の数】17
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-154351(P2017-154351)
(22)【出願日】2017年8月9日
(62)【分割の表示】特願2014-208261(P2014-208261)の分割
【原出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2017-199698(P2017-199698A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2017年8月9日
【審判番号】不服2019-15059(P2019-15059/J1)
【審判請求日】2019年11月8日
(31)【優先権主張番号】1116845.7
(32)【優先日】2011年9月30日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】504142097
【氏名又は名称】マイクロマス ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】ホイズ, ジョン ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】ギルバート, アンソニー ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】須山 本比呂
【合議体】
【審判長】 井上 博之
【審判官】 松川 直樹
【審判官】 山村 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−351887(JP,A)
【文献】 特開2005−302622(JP,A)
【文献】 特開2005−134374(JP,A)
【文献】 特開2000−231901(JP,A)
【文献】 COTTRELL J S et al.,CHARACTERISTICS OF A MULTICHANNEL ELECTROOPTICAL DETECTI ON SYSTEM AND ITS APPLICATION TO THE ANALYSIS OF LARGE MOLECULES BY FAST ATOM BOMBARDMENT MASS SPECTROMETRY,ANALYTICAL CHEMISTRY,1987年8月1日,vol.59,no.15,pages1990−199
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J49/00-49/48
G01N27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行時間型質量分析計用のイオン検出器であって、
イオンを受け、電子を出力する第1の装置と、
前記電子を受け、光子を出力する変換器と、
各フォトダイオードは出力を有し、前記変換器から出力された前記光子を検出するフォトダイオードアレイと、
時間デジタル変換器アレイであり、各フォトダイオードからの前記出力が、別々の時間デジタル変換器に接続されている、時間デジタル変換器アレイと、
前記フォトダイオードからの各出力に接続された別々のディスクリミネータと、
前記変換器と前記フォトダイオードアレイとの間に配置されたファイバーオプティックプレート、レンズまたは光子ガイドであり、該ファイバーオプティックプレート、レンズまたは光子ガイドは前記光子を前記フォトダイオードアレイに向けて伝送または誘導し、各イオンの衝突の空間的情報を保持するように配置されているファイバーオプティックプレート、レンズまたは光子ガイドと、
を備えており、
前記第1の装置及び前記変換器が真空チャンバ内に配置されており、前記ファイバーオプティックプレート、レンズまたは光子ガイドは、前記変換器から前記真空チャンバを抜けて前記真空チャンバの外側に配置されている前記フォトダイオードアレイに光子の出力を伝送または誘導するために使用される、イオン検出器。
【請求項2】
前記第1の装置が、シングルマイクロチャネルプレートである、請求項1に記載のイオン検出器。
【請求項3】
前記第1の装置が、2段マイクロチャネルプレートである、請求項1に記載のイオン検出器。
【請求項4】
前記第1の装置から放出された電子を加速する装置をさらに含み、前記電子が、1keV未満、1〜2keV、2〜3keV、3〜4keV、4〜5keV、5〜6keV、6〜7keV、7〜8keV、8〜9keV、9〜10keVまたは10keV超の運動エネルギーを持つようにした、請求項1〜3のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項5】
前記フォトダイオードアレイが、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900または2000個のフォトダイオードを含む請求項1〜4のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項6】
前記フォトダイオードが、シリコンフォトダイオードを含む請求項1〜5のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項7】
前記フォトダイオードが、電子正孔対を生成する請求項1〜6のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項8】
前記ディスクリミネータまたは前記ディスクリミネータの少なくとも一部が、コンスタントフラクションディスクリミネータ(「CFD」)を含む請求項1〜7のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項9】
前記ディスクリミネータまたは前記ディスクリミネータの少なくとも一部が、リーディングエッジまたはゼロクロッシングディスクリミネータを含む請求項1〜7のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項10】
前記時間デジタル変換器アレイおよび前記ディスクリミネータが、特定用途向け集積回路(「ASIC」)に設けられる請求項1〜9のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項11】
前記特定用途向け集積回路が、実質的に、接地またはゼロ電位に維持される請求項10に記載のイオン検出器。
【請求項12】
前記変換器が、シンチレータを含む請求項1〜11のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項13】
前記変換器が、前記第1の装置と前記フォトダイオードアレイとの間に配置される請求項1〜12のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項14】
前記電子を前記変換器に向ける磁場および/または電場を提供する装置をさらに含む請求項1〜13のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項15】
前記イオン検出器が、毎秒、10以上、10以上、または10以上のイベントを処理する請求項1〜14のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載のイオン検出器を含む飛行時間型質量分析器。
【請求項17】
飛行時間型質量分析計からのイオンを検出する方法であって、
第1の装置を用いてイオンを受け、電子を出力するステップ、
変換器を用いて前記電子を受け、光子を出力するステップ、
各フォトダイオードが出力を備えるフォトダイオードアレイを使って、前記変換器から出力された前記光子を検出するステップ、
各フォトダイオードからの前記出力を別々のディスクリミネータおよび時間デジタル変換器に送るステップ、および
各イオンの衝突の空間的情報を保持するために、前記変換器と前記フォトダイオードアレイとの間に配置されたファイバーオプティックプレート、レンズまたは光子ガイドにより、前記変換器から前記フォトダイオードアレイへの前記光子の出力を伝送または誘導するステップ
を含み、
前記第1の装置及び前記変換器が真空チャンバ内に配置されており、前記ファイバーオプティックプレート、レンズまたは光子ガイドは、前記変換器から前記真空チャンバを抜けて前記真空チャンバの外側に配置されている前記フォトダイオードアレイに光子の出力を伝送または誘導するために使用される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行時間型質量分析計用のイオン検出器、飛行時間型質量分析器、質量分析計、イオン検出法、および質量分析法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2011年9月30日に出願の英国特許第1116845.7号の優先権、および利益を主張する。この出願の全ての内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
1ビット時間デジタル変換器(「TDC」)に接続されたイオン検出器を含む飛行時間型質量分析計は、よく知られている。イオン検出器に到着するイオンから得られる一定の検出基準を満たす信号は、トリガイベントに対する特定の到着時間に対応付けられる1つの2進値として記録される。
【0004】
イオンの到着イベントの記録のトリガーとして一定の振幅閾値を使うことは既知である。続いて起こるトリガイベントに対するイオンの到着記録は、その後、さらなる処理のために、スペクトルとして提示されるイベントヒストグラムに追加される。TDCは、複数のイオンが極めて時間的に接近して到着する可能性が比較的低い場合には、弱い信号の効率的な検出を可能とする。しかし、一旦、イオンイベントが記録されると、そのイベント後、さらなるイベントが記録できないかなりの時間間隔(「不感時間」)が存在する。
【0005】
1ビットTDC検出器を備えたイオン検出器の既知の欠点は、単一のイオンが到着するのか、複数のイオンが到着するのかに関係なく、結果として起こる信号は閾値と1回交差するのみなので、単一イオンの到着からの信号と、複数のイオンの同時到着からの信号の間の区別ができないという点にある。結果として、これら両方の状況から、1つのイベントのみが記録される。
【0006】
高信号強度では、不感時間の影響の問題と併せて、単一イオン到着イベントと複数イオン到着イベントを識別できない問題は、一部のイオン到着イベントが記録されない、または実際のイオンの数が誤って記録されるという結果を生ずる。この結果は、信号強度の誤った表示、およびさらには、誤った到着時間の測定につながる。これらの作用は、検出器系のダイナミックレンジに事実上の制限を加える。
【0007】
ごく最近の市販の飛行時間型質量分析計は、TDC検出器系の使用を止めてしまい、代わりに、アナログディジタル変換器(「ADC」)ベースの検出器系を使用している。
【0008】
ADCは、トリガイベントに対するイオン検出器からの信号出力をデジタル化することにより機能する。引き続くトリガイベントからのデジタル化信号は、合計または平均化されて、さらなる処理用のスペクトルを生成できる。最先端の信号アベレージャは、検出器電子機器回路の出力を、8、10、または12ビット強度分解能を有する4または6GHzでデジタル化できる。
【0009】
ADC検出器を使うことにより、好都合にも、検出器が歪みを受けることなく、比較的高い信号強度の複数イオンの到着の記録が可能となる。
【0010】
現在の最先端のADC検出器系は、早期のTDC検出器系に比べ、いくつかの利点があるが、ADC検出器系は、通常、低強度信号の検出が、使用するデジタイザーの電子機器回路、検出器および増幅器からの電子ノイズにより制限されるという問題を抱えている。この影響により、ADC検出系のダイナミックレンジが制限を受ける。TDC検出器と比較して、従来のADC検出器の別の欠点は、単一イオンにより生成される信号のアナログ幅が最終スペクトルの特定の質量対電荷比値に対するイオン到着エンベロープの幅に追加されることである。
【0011】
高レベルの別の化学種の存在下の、またはその化学種に極めて近い低レベル化学種を検出する質量分析計の能力は、アバンダンス感度として知られている。アバンダンス感度は、ある質量mで記録された最大イオン電流の、隣接質量(m+1)で記録された同じ化学種からのイオン電流に対する比率としても定義できる。
【0012】
シングルチャネルADC系は、高周波数検出器のインピーダンスのミスマッチが原因で、大きなイオン信号の後で発振(ringing)が生ずるために、アバンダンス感度が制限される。発振のレベルと持続期間により、大きなピークの後に到着する低レベル信号が不明瞭になり、低レベルイオン信号が未検出になる可能性がある。
【0013】
図1Aは、λ=10のイオン信号を示す(λは、イオンの数/プッシュ/ピークに対応する)。図1Bは、典型的な例で、強力なイオンビームの到着後のADC検出器系で観察されるアーチファクトを示す。アーチファクトは、信号の時間遅延像である。図1Cは、どのようにして、λ=1で設定された閾値により、真の小さい信号と、λ=10の大きな信号のアーチファクトを識別できるかを示す。図1Dは、現在の最先端のADC検出器系に伴う問題を図示したものである。閾値は、λ=1に設定され、真の小さい信号と、λ=10の大きな信号のアーチファクトの識別に効果的である。しかし、閾値は、λ=20の非常に大きな信号のアーチファクトを識別できない。
【0014】
従って、当業者なら容易に理解できるように、ADCイオン検出器を採用している現在の市販の飛行時間型質量分析計は、アバンダンス感度が制約を受けるという問題を抱えている。従って、市販の飛行時間型質量分析器のアバンダンス感度を改善する方法に関する検討を行った。
【0015】
飛行時間型質量分析器のアバンダンス感度を改善する1つの試みは、TDCベースの検出器系の使用に戻すことである。既知の配置では、2段またはシェブロン型マイクロチャンネルプレート(「MCP」)イオン検出器を使って、イオンを検出し、イオンを電子に変換できる。その後、電子は、複数の金属アノードを使って検出され、それぞれのアノードは、別々のTDCに接続されている。複数アノードの使用は、ほぼ同じ時間に到着する複数のイオンが、異なるアノードにより検出されると考えられるために、不感時間の影響の問題、および、ほぼ同じ時間に到着する複数のイオンと単一イオン到着イベントの間の識別ができない問題を低減する。
【0016】
TDCおよび複数アノードを効率的に使った既知の手法は、イオン信号を多数チャネルに分割する複数ピクセル検出スキームを含む。複数の検出チャネルが提供するダイナミックレンジの増加を活用するためには、究極的には、一個のイオンの衝突が検出器のただ1個のピクセルを照射する必要があるということが重要である。2段またはシェブロン型MCP配置が使われるが、その理由は、出力電子雲が単一のピクセルまたはアノードのみを照射するように、これらの配置が信号のフレアリングも殆ど無い状態で元のイオンの衝突の空間的情報を保持しているということにある。さらに、シェブロン配置では、2段またはシェブロン型MCPにより、後でTDC系の閾値をトリガーとして使用できる場合の単純な増幅に適用できるだけの十分なゲインが得られる。信号の多数チャネルへの分割により、各アノードが低い平均イオン数を受け入れることができ、高レベル信号からの干渉を受けることなく低レベル信号を検出でき、その結果、アバンダンス感度特性を確実に改善できる。
【0017】
しかし、2段MCP、複数アノードおよび複数TDCを含む検出器配置の使用による特定の利点にもかかわらず、このような配置が、比較的低いか、または中等度のイオン強度のイオン信号の検出にのみ有効である事は依然として変わらない。
【0018】
当業者なら理解するように、ますます高輝度なイオン源が開発されつつあり、最先端および将来のイオン検出器は、高イオン電流で動作できる必要がある。しかし、既知の複数のアノードおよび複数TDCイオン検出器配置は、検出電子機器回路が高イオン電流(すなわち、10イベント/秒を越える)で機能するのに十分なゲインを提供できない。加えて、既知の検出器の配置は、また、イオン検出器のパフォーマンスを低下させる金属アノード間のクロストークの問題も抱えている。
【0019】
また、ADCベースイオン検出器系は、非常に輝度の高い、すなわち、10イベント/秒を越えるイオン源を使って作動させることができない。さらに、ADC検出器系は、前に考察のように、大きなイオン信号の後での発振の影響によるアバンダンス感度の制限の問題がある。
【0020】
従って、例えば、10イベント/秒を処理可能で、ADCおよびTDC検出器系の両方に既知の固有の問題を持たない飛行時間型質量分析計用に改善された検出器系を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0021】
本発明の一態様では、飛行時間型質量分析計用イオン検出器が提供され、この検出器は、
イオンを受け電子を出力するように配置され、適合された第1の装置;
電子または光子を検出するように配置され、適合されたフォトダイオードアレイであって、それぞれが出力を有するフォトダイオードアレイ;および
各フォトダイオードからの出力が別々の時間デジタル変換器に接続される時間デジタル変換器アレイ、
を含む。
【0022】
第1の装置は、シングルまたは2段マイクロチャネルプレートを含むのが好ましい。
【0023】
イオン検出器は、好ましくは、第1の装置から放出された電子が加速されるように配置され、適合された装置をさらに含み、電子がフォトダイオードアレイに衝突時に、1keV未満、1〜2keV、2〜3keV、3〜4keV、4〜5keV、5〜6keV、6〜7keV、7〜8keV、8〜9keV、9〜10keVまたは10keV超の運動エネルギーを持つのが好ましい。
【0024】
フォトダイオードアレイは、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900または2000個のフォトダイオードを持つのが好ましい。
【0025】
フォトダイオードは、シリコンフォトダイオードを含むのが好ましい。
【0026】
フォトダイオードは、直接電子を検出するように配置され、適合されるのが好ましい。
【0027】
フォトダイオードは、電子正孔対を生成するように配置され、適合されるのが好ましい。
【0028】
時間デジタル変換器アレイは、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900または2000個の時間デジタル変換器を含むのが好ましい。
【0029】
イオン検出器は、フォトダイオードからのそれぞれの出力に接続された別のディスクリミネータをさらに含むのが好ましい。
【0030】
ディスクリミネータまたは少なくとも一部のディスクリミネータは、コンスタントフラクションディスクリミネータ(「CFD」)を含むのが好ましい。
【0031】
ディスクリミネータまたは少なくとも一部のディスクリミネータは、代わりにリーディングエッジ(leading edge)またはゼロクロッシング(zero crossing)ディスクリミネータを含んでもよい。
【0032】
イオン検出器は、電子をフォトダイオードアレイに向かわせる磁場および/または電場を提供するように配置され、適合された第2の装置をさらに含むのが好ましい。
【0033】
時間デジタル変換器アレイおよび任意選択で、複数のディスクリミネータは、特定用途向け集積回路(「ASIC」)で提供されるのが好ましい。
【0034】
イオン検出器は、フィールドプログラマブルゲートアレー(「FPGA」)および任意選択で、特定用途向け集積回路とフィールドプログラマブルゲートアレーの間に配列された光ファイバデータリンクを含むのが好ましい。
【0035】
フィールドプログラマブルゲートアレーは、接地またはゼロ電位で実質的に維持されるのが好ましい。
【0036】
イオン検出器は、イオンを受け、光子を出力するように配置され、適合された変換器をさらに含むのが好ましい。
【0037】
変換器は、シンチレータを含むのが好ましい。
【0038】
変換器は、第1の装置およびフォトダイオードアレイの間に配置されるのが好ましい。
【0039】
フォトダイオードアレイは、変換器から出力された光子、またはその他の光子を検出するように配置され、適合されるのが好ましい。
【0040】
イオン検出器は、電子を変換器に向ける磁場および/または電場を提供するように配置され、適合された第3の装置をさらに含むのが好ましい。
【0041】
イオン検出器は、変換器とフォトダイオードアレイの間に配置されたファイバーオプティックプレート、レンズまたは光子ガイドをさらに含み、ファイバーオプティックプレート、レンズまたは光子ガイドが、その光子または他の光子をフォトダイオードアレイに向けて伝送または誘導するのが好ましい。
【0042】
特定用途向け集積回路は、実質的に、設置またはゼロ電位を維持するのが好ましい。
【0043】
イオン検出器は、毎秒、10以上、10以上、または10以上のイベントを処理するように配置され、適合されるのが好ましい。
【0044】
本発明の一態様では、上述のイオン検出器を含む飛行時間型質量分析器が提供される。
【0045】
本発明の一態様では、上述のイオン検出器または上述の飛行時間型質量分析器を含む質量分析計が提供される。
【0046】
本発明の一態様では、飛行時間型質量分析計からのイオンを検出する方法が提供され、この方法は、
イオンを受け、電子を出力すること、
各フォトダイオードが出力を有するフォトダイオードアレイを使って電子または光子を検出すること、および
出力を各フォトダイオードから別の時間デジタル変換器に送ること、
を含む。
【0047】
本発明の一態様では、上述の方法を含む質量分析方法が提供される。
【0048】
好ましい実施形態によるイオン検出器は、好ましいイオン検出器が、10イオン到着イベント/秒を処理できるのが好ましいという点で、特に、最先端かつ次世代高輝度イオン源での操作に適している。これは、現在の最先端検出器系に対し、2桁の増加を意味する。
【0049】
さらに、本発明の好ましい実施形態によるイオン検出器は、最先端ADCイオン検出器に比べて大きく改善されたアバンダンス感度を持ち、複数アノードTDCイオン検出器で未解決のクロストークの問題がないという点で、特に好都合である。
【0050】
従って、好ましい実施形態によるイオン検出器は、当技術分野での顕著な進歩を象徴するものである。
【0051】
本発明の好ましい実施形態では、シングルMCPプレートは、フォトダイオードアレイと組み合わせて使われるのが好ましい。フォトダイオードアレイを使って、MCPから放出される電子を直接検出するのが好ましい。しかし、MCPから放出された電子が、光子に変換され、その後、光子がフォトダイオードアレイにより検出されることが可能な、他の実施形態も意図されている。
【0052】
シングルMCPプレートおよびフォトダイオードアレイを組み合わせて、10の全ゲインを得るのが好ましい。一実施形態では、フォトダイオードアレイは、例えば、それぞれが、好ましくは、別々のTDCに接続されている1000個以上のフォトダイオードを含んでもよい。全体の検出器系で、10イオン到着イベント/秒を検出できるのが好ましい。
【0053】
それぞれのイオンの衝突によりMCP出力から発生する電子雲は、フォトダイオードアレイの一部である個別フォトダイオードの表面に向けて加速されるのが好ましい。電子は、ほぼ1000倍以上に信号を増幅するのに十分なエネルギーであるのが好ましい。信号は、さらに増幅され、タイムスタンプされるのが好ましい。
【0054】
好ましい実施形態は、従来のイオン検出器に比べ、ダイナミックレンジとアバンダンス感度特性の改善を可能とする。
【0055】
一実施形態では、質量分析計は、
(a):(i)エレクトロスプレーイオン化(「ESI」)イオン源;(ii)大気圧光イオン化(「APPI」)イオン源;(iii)大気圧化学イオン化(「APCI」)イオン源;(iv)マトリックス支援レーザー脱離イオン化(「MALDI」)イオン源;(v)レーザー脱離イオン化(「LDI」)イオン源;(vi)大気圧イオン化(「API」)イオン源;(vii)ポーラスシリコンを用いたレーザー脱離イオン化(desorption ionization on silicon)(「DIOS」)イオン源;(viii)電子衝撃(「EI」)イオン源;(ix)化学イオン化(「CI」)イオン源;(x)フィールドイオン化(「FI」)イオン源;(xi)電界脱離(「FD」)イオン源;(xii)誘導結合プラズマ(「ICP」)イオン源;(xiii)急速原子衝撃(「FAB」)イオン源;(xiv)液体二次イオン質量分析(「LSIMS」)イオン源;(xv)脱離エレクトロスプレーイオン化(「DESI」)イオン源;(xvi)ニッケル−63放射性イオン源;(xvii)大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化イオン源;(xviii)熱スプレーイオン源;(xix)大気サンプリンググロー放電イオン化(「ASGDI」)イオン源;(xx)グロー放電(「GD」)イオン源;および(xxi)インパクタープレーイオン源、からなる群より選択されるイオン源;および/または
(b)1つまたは複数の連続またはパルスイオン源;および/または
(c)1つまたは複数のイオンガイド;および/または
(d)1つまたは複数のイオン移動度分離装置、および/または1つまたは複数の電界非対称イオン移動度分光装置;および/または
(e)1つまたは複数のイオントラップ、または1つまたは複数のイオントラッピング領域;および/または
(f):(i)衝突誘導解離(「CID」)フラグメンテーション装置;(ii)表面誘起解離(「SID」)フラグメンテーション装置;(iii)電子移動解離(「ETD」)フラグメンテーション装置;(iv)電子捕獲解離(「ECD」)フラグメンテーション装置;(v)電子衝突または衝撃解離フラグメンテーション装置;(vi)光誘起解離(「PID」)フラグメンテーション装置;(vii)レーザー誘起解離フラグメンテーション装置;(viii)赤外線照射誘発解離装置;(ix)紫外線照射誘発解離装置;(x)ノズル−スキマーインターフェースフラグメンテーション装置;(xi)インソースフラグメンテーション装置;(xii)インソース衝突誘起解離フラグメンテーション装置;(xiii)熱または温度源フラグメンテーション装置;(xiv)電場誘起フラグメンテーション装置;(xv)磁場誘起フラグメンテーション装置;(xvi)酵素消化または酵素分解フラグメンテーション装置;(xvii)イオン−イオン反応フラグメンテーション装置;(xviii)イオン−分子反応フラグメンテーション装置;(xix)イオン−原子反応フラグメンテーション装置;(xx)イオン−準安定性イオン反応フラグメンテーション装置;(xxi)イオン−準安定性分子反応フラグメンテーション装置;(xxii)イオン−準安定性原子反応フラグメンテーション装置;(xxiii)イオンを反応させて付加または生成イオンを形成させるためのイオン−イオン反応装置;(xxiv)イオンを反応させて付加または生成イオンを形成させるためのイオン−分子反応装置;(xxv)イオンを反応させて付加または生成イオンを形成させるためのイオン−原子反応装置;(xxvi)イオンを反応させて付加または生成イオンを形成させるためのイオン−準安定性イオン反応装置;(xxvii)イオンを反応させて付加または生成イオンを形成させるためのイオン−準安定性分子反応装置;(xxviii)イオンを反応させて付加または生成イオンを形成させるためのイオン−準安定性原子反応装置;および(xxix)電子イオン化解離(「EID」)フラグメンテーション装置、からなる群より選択される1つまたは複数の衝突、フラグメンテーションまたは反応セル;および/または
(g)1つまたは複数のエネルギー分析器または静電エネルギー分析器;および/または
(h):(i)四重極質量フィルター;(ii)2Dまたは線形四重極イオントラップ;(iii)ポールまたは3D四重極イオントラップ;(iv)ペニングイオントラップ;(v)イオントラップ;(vi)磁気セクタ質量フィルター;(vii)飛行時間型質量フィルター;および(viii)ウィーンフィルタ、からなる群より選択される1つまたは複数の質量フィルター;および/または
(i)装置またはイオンをプッシュするためのイオンゲート;および/または
(j)実質的に、連続イオンビームをパルス化イオンビームに変換する装置、
をさらに含んでもよい。
【0056】
質量分析計は、使用時にイオンが伝送される開口部をそれぞれ有する複数の電極を含む積層リングイオンガイドをさらに含んでもよい。この積層リングイオンガイドでは、イオン通路の長さに沿って電極の間隔が大きくなり、イオンガイドの上流部の電極の開口部が第1の直径を有し、イオンガイドの下流部の電極の開口部が第1の直径より小さい第2の直径を有し、さらに、使用時に逆位相のACまたはRF電圧が後行電極に印加される。
【0057】
付随する図に対する言及と併せて、例示の目的のみで提示される他の配置を含む種々の本発明の実施形態が、例としてのみの意図で、以降で記載される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1A】10イオン/プッシュ/ピークに対応するイオン信号を示す。
図1B】ADC検出器系において、強いイオンビームの到着後に観察されるアーチファクトの典型的な例である。
図1C】λ=1で設定された閾値により、真の小さい信号とλ=10の大きな信号のアーチファクトをどのようにして識別できるかを示す図である。
図1D】λ=1で設定された閾値は、真の小さい信号とλ=10の大きな信号のアーチファクトの識別には有効であるが、λ=20の非常に大きい信号のアーチファクトの識別はできないことを示す図である。
図2】本発明の一実施形態による飛行時間型質量分析計用のフォトダイオードアレイ検出系を示す図である。
図3】シングルおよびシェブロンMCP配置に対するパルス高分布の図である。
図4A】単純閾値トリガーにより、どのようにしてタイムウォークが生じうるかを示す図である。
図4B】コンスタントフラクションディスクリミネータ(「CFD」)によるトリガーにより、どのようにしてタイムウォークを大きく減らすことができるかを示す図である。
図5】本発明の一実施形態によるシリコンフォトダイオード(「Si−PD」)を使った直接電子検出の概念を示す図である。
図6】本発明の一実施形態による、フォトダイオードアレイを使った直接電子検出を採用した場合の陰イオン検出のための多重チャネルスキームを示す図である。
図7】本発明の別の実施形態による、シンチレータおよびフォトダイオードアレイに光子を向ける光ガイドを採用した場合の陰イオン検出のための多重チャネルスキームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
好ましい実施形態の詳細な説明
既知のイオン検出器は、シェブロン配置の2つのマイクロチャネルプレート(「MCP」)および金属アノード検出器を含む。2つのMCPにより、デジタル化の前に、10以上のクーロン利得が得られる。このような配置は、飛行時間型質量分析計のイオン検出器中の信号を、約10イベント/秒の入射イオン率まで増幅するのに効果的である。しかし、入射イオン率が約10イベント/秒を越えて増加する場合には、そのゲインを維持するのに必要なストリップ電流をもはや持続できないために、2段MCP配置が非直線になる。
【0060】
図2は、本発明の好ましい実施形態によるイオン検出器を示す。イオン検出器は、シングルMCP検出器1を含むのが好ましい。イオン2は、シングルMCP検出器1の全面に衝突し、次々に生成される電子3がMCP検出器1の背面から放出される。電子3は、シリコンフォトダイオードアレイ4に向けられる。フォトダイオードアレイ中の各フォトダイオード4は、ディスクリミネータおよび別々のTDCに接続されるのが好ましい。ディスクリミネータおよびTDCのアレイは、特定用途向け集積回路(「ASIC」)5で提供されるのが好ましい。
【0061】
一実施形態では、フォトダイオードアレイは、1000個以上のフォトダイオード4を含むことができる。従って、ASIC5は、それぞれ個別TDCに接続された対応する1000個以上のディスクリミネータアレイを含むのが好ましい(すなわち、ASIC5は、1000個以上のディスクリミネータおよび1000個以上のTDCを含むのが好ましい)。
【0062】
好ましい実施形態では、ディスクリミネータは、コンスタントフラクションディスクリミネータ(「CFD」)を含む。しかし、あまり好ましくない実施形態では、1つまたは複数のディスクリミネータは、リーディングエッジディスクリミネータまたはゼロクロッシングディスクリミネータなどの別のタイプのディスクリミネータを含んでもよい。
【0063】
次に、ASIC5からの出力は、プロセッサ6により処理されるのが好ましい。
【0064】
本発明の一実施形態では、特定用途向け集積回路(「ASIC」)5が、飛行時間型質量分析計の検出器系に使用されるのが好ましい。ASIC5は、約1000個の入力チャネルを含み、それぞれのチャネルが、ASIC5に組み込まれた専用の増幅器、信号処理素子およびTDCを備えるのが好ましい。このような検出器は、下流プロセッサ6に10イベント/秒を送出できるのが好ましい。
【0065】
可能な最大の質量分解能を実現するために、飛行時間型質量分析計は、タイミングの非常に高い正確さが必要となる。現代の飛行時間型質量分析計は、100,000(FWHM)以上の分解能を達成でき、100ピコ秒より優れたタイミングの正確さが必要である。
【0066】
マイクロチャネルプレート(MCP)は、理想的には、その高ゲイン(典型的な例では、1000/プレート)および高速立ち上がり時間(典型的な例では、数100ピコ秒台)のために、イオンを電子に変換するのに適しており、従って、飛行時間検出に特に適している。
【0067】
既知の2段またはシェブロン型配置では、2段MCPが採用されて、デジタル化の前に10以上のクーロン利得が得られる。このような配置は、約10イベント/秒の入射イオン率まで信号が効率的に増幅される。しかし、より高いイオンの到着率では、ゲインを維持するのに必要なストリップ電流をそれ以上持続できないために、2段またはシェブロン型MCP配置は、非直線になる。
【0068】
10イベント/秒未満の低または中程度の計数率の場合は、次に来るイオンの衝突までの間にプレートに十分な電流が供給され、チャネルが再充電されるが、より高い計数率では、不十分な電流を利用して電荷を補充することになり、シェブロンの全ゲインが急低下し始める。これは、MCPチャネルの高抵抗により、典型的な約1kV/プレートの供給電圧で利用できる電流が制限されるという理由による。
【0069】
好ましい実施形態によるイオン検出器は、シングルMCP1を、フォトダイオードアレイ4と組み合わせて含み、別のイオン/電子変換器であるのが好ましい。好都合なことに、好ましいイオン検出器は、10イベント/秒の非常に高い入射イオン率で、10を越えるクーロン利得を持続できる。
【0070】
本発明の実施形態に従って使用されるのが好ましいシングルMCP1は、直径数ミクロン(典型的な例では、3〜12μm)のハニカム型配列の円形穴を備えた直径5〜150mmの円形プレートを含んでもよい。穴は、プレートの軸に対し数度の角度であり、また、約0.5mm厚さであるのが好ましい。1000Vの電圧差がチャネルの長さに沿って維持され、それぞれがゲイン約1000の顕微鏡電子増倍管のように作用するのが好ましい。
【0071】
あまり好ましくない実施形態では、より多くのゲインが必要な場合、このようなMCPプレート2個を、シェブロン配置で設定された穴の方向に直列に配置することができる。この方向は、イオンフィードバックとして当業者によく知られた検出器ゲインを低下させる現象を防ぎ、それぞれのチャネルで10を越えるゲインを可能とする。
【0072】
MCPの電気抵抗の性質により、イオンが特定のチャネルの内側に衝突後、電子倍増プロセスの間に使われて減少した電荷を補充するために有限の時間を要する。増幅プロセスの特徴は、電子電流がチャネルの長さに沿って次第に大きくなることであるという理由から、この電荷減耗は、2個のシェブロン配置プレートの内の2個目で最大となる。
【0073】
あまり好ましくない実施形態では、2個のMCPを使用可能であるが、好ましい実施形態の利点は、イオン検出器は、シングルMCP1を使って実装でき、また実装されるのが好ましいという点である。
【0074】
シングルチャネルMCPでは、出力でゲインの分布(パルス高)が観察される。このパルス高分布(「PHD」)は、Furry分布(これは、指数分布の離散型相似形である)に従う。
【0075】
シェブロンまたは2段MCP配置の場合、2番目のプレートのチャネルは、最も高い電子密度を有し、従って、殆どの電荷を供給する。電荷密度が非常に高いので、チャネルのゲイン飽和を生ずる空間電荷効果により電荷密度が制限される。これは、比較的狭い出力パルス高分布を生ずるという利点がある。
【0076】
シングルとシェブロンMCPの両方の典型的なPHDを図3に示す。単純な閾値法を使って、TDCをトリガーする場合は、PHDが狭くなるほど、生じたイオンの到着時間測定での変動またはジッターが少なくなることは理解されよう。パルス高の変動に起因する測定時間の変動は、タイムウォークとして知られている。
【0077】
好ましい実施形態によるフォトダイオードアレイ中の各ピクセルまたはフォトダイオードは、約1000のゲインであるのが好ましい。結果として、好ましい実施形態によるフォトダイオードアレイ4は、2段MCPまたはシェブロン配置の2番目のプレートに類似の増幅レベル、すなわち、全体ゲインが約10であるのが好ましい。
【0078】
本発明の特に有利な特徴は、ゲイン1000の条件下でフォトダイオードアレイ中のフォトダイオード4が、空間電荷飽和に達しない(シェブロンまたは2段MCP配置とは対照的に)という点である。
【0079】
本発明の実施形態によるシングルMCP−フォトダイオードアレイ配置のPHDは、シングルMCPに関し上述し、図3に示すFurry分布に従う。Furry分布は、単純エッジ検出閾値トリガーを有する測定イオン到着時間のさらに大きな変動(いわゆる、タイムウォーク)を示す。この変動は、ディスクリミネータ回路を使って最小化されるのが好ましい。好ましい実施形態では、コンスタントフラクションディスクリミネータ(「CFD」)を使ってタイムウォークを最小化するのが好ましい。
【0080】
図4Aおよび4Bを参照しながらCFD装置の作動原理を簡単に説明する。図4Aは、単純閾値トリガーレベルVthを使って、どのようにしてタイムウォークを生じうるかを示す。対照的に、図4Bは、コンスタントフラクションディスクリミネータ(「CFD」)を使って、どのようにしてタイムウォークの影響を大きく減らすことができるかを示す。
【0081】
好ましい実施形態では、全てのチャネルのフロントエンドディスクリミネータを、ASIC5中に組み込み、検出器がシングルMCPのみの使用による制限を克服して、イオンを電子に変換するのが好ましい。全てのチャネルのディスクリミネータは、コンスタントフラクションディスクリミネータを含むのが好ましい。
【0082】
通常、フォトダイオードは、MCP1からの出力などの電子信号よりも光信号を増幅するように設計されている。しかし、MCP1によりフォトダイオードアレイ4に放出された電子雲の直接検出法を使って、信号を増幅できる。直接検出は、入射電子3の運動エネルギーが十分に大きい場合に、フォトダイオード4中での電子正孔対の生成により機能する。
【0083】
図5は、シリコンフォトダイオード4を使った電子3の直接検出の概念、および対応するゲイン特性を示す。
【0084】
後で約1000の増幅レベルを得るために、電子3が約8keVに加速され、十分な電子正孔対がシリコンフォトダイオード4中に生成されうるのが望ましい。好ましい実施形態では、MCP1から放出される電子3は、8keV以上に加速されるのが好ましい。
【0085】
別の実施形態では、シングルMCP1から放出される出力電子雲は、高速シンチレーション素子を使って光または光子に変換できる。高速シンチレーション素子は、MCP1から放出される電子3を光子に変換するのが好ましい。その後、光子は、フォトダイオードアレイ4により直接検出できる。
【0086】
レンズまたはファイバーオプティックプレートを使って、MCP1からのピクセル化情報を保持でき、イオンの衝突毎に、フォトダイオードアレイ中のシングルフォトダイオードを照射できる。
【0087】
以降で、図6および7を参照しながら、2つの特に好ましい実施形態に関し記載する。
【0088】
第1の好ましい実施形態では、飛行時間型質量分析計の飛行領域を移動した後でイオン検出器に到着するイオン2は、図6に示すように、2次電子3を生成するシングルMCP1に衝突するように配列されるのが好ましい。MCP1の両端間に印加される電圧は、約1000のクーロン利得を生成する約1kVであるのが好ましい。
【0089】
1個のイオンが、MCP1の1個のチャネルの表面に衝突できるのみであるので、増幅された電子雲は、チャネル直径それ自体のオーダーの空間分布(典型的な例では、2〜12μm)を有するMCP1のただ1つのチャネルから出てくるのが好ましい。従って、初期イオン衝突の空間座標は、保存され、出力電子雲3は、MCP1からフォトダイオードアレイ4の方向に移動するときに、1個のピクセルサイズを越えて広がらせないのが好ましい。これは、フォトダイオードアレイ4をMCP1の極めて近くに配置するにより、および/または、磁場Bを図6に示す方向に適用し、電子3を平行にすることにより実現できる。
【0090】
MCP1の出力側およびフォトダイオードアレイ4の間の電位差は、この段階で必要な1000のゲインを与える十分な電子正孔対を生成するのに充分である約8keVであるのが好ましい。全体ゲインは、1000ピクセルのそれぞれで10であるのが好ましく、この信号の大きさが、ASIC5でさらに処理するのに十分な大きさであるのが好ましい。ASIC5は、各フォトダイオード4からの出力用のCFD回路と、それに続くTDCを含むのが好ましい。あるいは、フォトダイオードアレイ4からの信号出力は、ディスクリミネータ回路をパススルーしてはいけないが、タイミングの正確さがあまり必要とされない場合には、TDCに直接入力してもよい。
【0091】
ASIC5からのデータ流は、光ファイバデータリンク7に伝送でき、このデータリンクは、この装置の操作に必要な高電圧から検出器系を減結合すること、およびデジタルデータを下流の、好ましくは接地電位で維持されているフィールドプログラマブルゲートアレー(「FPGA」)8に送ること、の2つの目的を果たすのが好ましい。検出器の操作に必要な電圧のさらに詳しい説明は、2つ目の好ましい実施形態に関連して下記で示される。
【0092】
通常、質量分析計は、正および負荷電イオンの両方を分析する必要がある。直交加速型飛行時間質量分析器でこれを実現するために、検出系の第1の部品の前面を高電圧(典型的な例では、正イオンに対しては−10kV、負イオンに対しては+10kV)に上げる必要がある。検出系の第1の部品が、好ましい実施形態でのMCP1などの電子増倍管の場合、その裏面は、増幅している電子を引き寄せるために、その前面より約1kVだけ高い正電圧である必要がある。第1の好ましい実施形態の場合、検出器のこの段階で必要な1000のクーロン利得を得る電子正孔対を生成するためには、MCP1の裏面とフォトダイオードアレイ4の間には、さらに高い8kVが必要である。負イオンの操作では、これは、図6に示すように、接地電位に対し全体で19kVになる。フォトダイオードアレイ4およびダメージを受けやすいASIC5の、このような高い電圧へのフローティングに対しては、注意深く設計して、電気アークおよび放電を防ぐ必要がある。そうしなければ、部品の損傷を起こすことになる。ASIC5からの信号は、FPGA8または類似の装置による信号処理の前に、光ファイバデータリンク7により接地して減結合するのが好ましい。
【0093】
2つ目の好ましい実施形態では、光学的に減結合されるステップが、図7に示すように、ダメージを受けやすいフォトダイオードアレイ4およびASIC5の電子部品の前に実施され、それにより、フォトダイオードアレイ4およびASIC5が接地電位で操作されるのを可能とする。
【0094】
2つ目の好ましい実施形態では、MCP1の出力から放出された電子雲3は、シンチレータ9へ加速されるのが好ましく、このシンチレータは、光子を放出し、最終的にフォトダイオードアレイ4に誘導され、ごく通常の方式で増幅されるのが好ましい。
【0095】
レンズまたはファイバーオプティックプレート10を、任意選択で使って、初期のイオンの衝突の空間情報を保持してもよい。シンチレータ9は、全検出器系の立上り時間または帯域幅の全体的低下を避けるために、可能な限り高速なのが好ましい。
【0096】
光子11は、レンズまたはファイバーオプティックプレート10の背面から放出されるのが好ましく、また、光子11は、フォトダイオードアレイ4により直接に検出されるのが好ましい。フォトダイオードアレイ4は、好ましくはコンスタントフラクションディスクリミネータアレイおよびTDCアレイを含むASIC5に接続されるのが好ましい。
【0097】
好ましい実施形態に基づいて本発明を説明してきたが、当業者なら、付随する請求項で言及される本発明の範囲を逸脱することなく、形式および詳細における種々の変更をなし得ることを理解するであろう。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7